説明

低温酸化触媒とその製造方法およびその触媒を用いた酸化方法

【課題】 従来品よりも優れた低温酸化活性を有する担持白金触媒とその製造方法を提供する。
【解決手段】 酸化物担持白金触媒であって、特に助触媒成分として遷移金属を含有する酸化物担体上に白金超微粒子を分散させた後、水を添加し300℃以下で水素処理することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低温における高い酸化活性を有する触媒とその製造方法およびその触媒を用いた酸化方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
100℃以下の低温で有効な酸化触媒はいくつかの局面で切望されている。
【0003】
暖房や湯沸かし器の不完全燃焼による一酸化炭素(以下、「CO」という)中毒により、今なお人命にかかわる被害の報告がある。室温環境における、CO酸化触媒や高感度のCOセンサーが実現できれば、このような被害は未然に防止することができる。
【0004】
また、野菜や果物などの農作物は、熟成や腐敗を低減するため、生産・加工場および家庭においても冷蔵される。これら作物は、熟成の過程でエチレンガスを放出し、それが周りの野菜や果実等の熟成を一層進めることが知られている。従って、発生したエチレンガスを簡便且つ有効に分解できるプロセスが望まれており、酸化触媒によるエチレン分解は、その有力な候補のひとつであるが、冷蔵庫内の低温環境で有効に動作する酸化触媒はまだ存在しない。
【0005】
加えて、自動車排ガスの浄化においては、低温状態でのエンジン始動(コールドスタート)時の触媒分解効率の向上が望まれている。この要求は、今後自動車の主流となると予想されるハイブリッド車において、より高まることは明白である。なぜならハイブリッド車は、従来の自動車に比較して、エンジンの休止状態の割合が高く、排気ガスの低温化が顕著となるからである。このことから、従来と比較してより低温で働く触媒、特に、COやハイドロカーボン(以下、HCという)を酸化できる触媒が求められる。
【0006】
一方、今後、普及が期待される家庭用燃料電池システムでは、燃料として改質された水素ガスを用いるが、ここには微量のCOが含まれる。CO分子は電極触媒として用いられる白金を被毒するため、除去しなければならない。この目的のため、水素中のCOを選択的に酸化する触媒(PROX触媒)が用いられる。現状、PROX触媒は典型的には150℃程度の温度で使用されているが、このような温度下では、メタン化反応が起きる可能性があり、かつまた、燃料電池自体の動作温度は80℃付近であるので、これに近い温度で運転できるよう、低温下でのCO酸化活性の高い触媒が求められている。
【0007】
低温で高活性な酸化触媒としては、チタニアや酸化鉄等の酸化物担体上にナノサイズの金を分散させた、担持金触媒が提案されている(特許文献1)。この触媒は、0℃以下の低温においても活性を示す希有な触媒であるが、炭酸根が蓄積しやすいほか、活性点が金であるため、わずかな高温に晒されただけでも焼結を起し易いという問題がある。一方、白金を活性点とした触媒としては、アルミナ担持白金触媒に水等の溶媒を添加し、500℃程度で処理することで白金を再分散させて低温活性を上げる方法が知られているが、室温付近で高いCO酸化活性を得るために5wt%もの白金担持量を要している(特許文献2)。また、白金/アルミナに鉄を添加することで、CO酸化活性が向上することが報告されているが、反応温度は200℃と高温である(特許文献3)。ビスマス(Bi)、セリウム(Ce)、ジルコニウム(Zr)の複合酸化物に白金等の貴金属を担持した触媒、あるいはそれらをさらにアルミナに分散させた触媒も開発されているが、構成要素が多いために調製には繁雑な操作が要求されるうえ、十分な性能を得るためには、やはり、多量の白金を必要とする(特許文献4)。さらには、FSM-16等のメソポーラスシリカに担持した白金触媒が、低温で高いCO酸化活性を有することが明らかになってきた(非特許文献1)。しかしながら、FSM-16やMCM-41などのメソポーラスシリカは、それ自体を作製するために、テンプレートとなる有機物を大量に使用し、最終的にそれらを燃焼除去することが必要なため、環境負荷が大きく、また、製造コストも高い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平05-057192号公報
【特許文献2】特開2006-68670号公報
【特許文献3】特開2003-164764号公報
【特許文献4】特開2007-229559号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】A. Fukuoka et al., J. Am. Chem. Soc. 129, 10120 (2007).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記事情に鑑み、低温での活性が極めて高い酸化触媒、その酸化触媒を簡便な方法で作製できる酸化触媒調製法、およびその酸化触媒を用いた酸化方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、このような技術的課題を解決するため鋭意研究を重ねた結果、酸化物担体上に白金を分散させた後、水で湿潤させ、水素気流中100〜300℃、好適には150〜250℃という低温で熱処理することにより調製した触媒、特に、調製の過程で微量の遷移金属を導入した触媒が極めて高い低温酸化活性を示すことを発見した。
【0012】
すなわち、本発明の酸化触媒調製法は、酸化物担体上の白金分散物を、水で湿潤させ、水素気流中100〜300℃の温度下で熱処理することを特徴とする。
【0013】
この酸化触媒調製法において、熱処理の温度範囲が、150〜250℃であることが好ましい。
【0014】
この酸化触媒調製法において、酸化物担体が、アルミナ、ジルコニア、シリカおよびチタニアからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属酸化物であることが好ましい。
【0015】
この酸化触媒調製法において、酸化物担体上の白金分散物が、白金前駆体と酸化物担体を分散媒中で混合する工程、混合物を乾燥させる工程、乾燥された結果物を酸化雰囲気で焼成する工程、焼成された結果物を還元雰囲気で還元する工程、を順次おこなって作製されることが好ましい。
【0016】
この酸化触媒調製法において、乾燥された結果物の焼成は、100〜400℃でおこなうことが好ましい。
【0017】
この酸化触媒調製法において、焼成された結果物の還元は、100〜400℃でおこなうことが好ましい。
【0018】
この酸化触媒調製法において、酸化物担体が、助触媒成分を含有するものであることが好ましい。
【0019】
この酸化触媒調製法において、混合物は、さらに助触媒成分が添加されているものであることが好ましい。
【0020】
この酸化触媒調製法において、助触媒成分が、遷移金属であることが好ましい。
【0021】
本発明の酸化触媒は、上記いずれかの方法により調製したものであることを特徴とする。
【0022】
本発明の酸化方法は、上記いずれかの方法により調製した酸化触媒の存在下で、炭化水素、又は一酸化炭素を酸化反応させることを特徴とする。
【0023】
本発明の酸化方法は、上記いずれかの方法により調製した酸化触媒の存在下で、一酸化炭素含有水素の一酸化炭素を選択的に酸化させることを特徴とする。
【0024】
本発明の燃料電池用一酸化炭素濃度低減装置は、上記いずれかの方法により調製した酸化触媒を用いている。
【0025】
本発明の一酸化炭素センサーは、上記いずれかの方法により調製した酸化触媒を用いている。
【0026】
本発明の内燃機関排ガス浄化装置は、上記いずれかの方法により調製した酸化触媒を用いている。
【0027】
本発明のエチレン分解製品は、上記いずれかの方法により調製した酸化触媒を用いている。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、低温での活性が極めて高い酸化触媒が簡便な方法で得られ、それを用いて暖房器具などの不完全燃焼ガスや自動車のコールドスタート時の排ガス浄化、水素ガス中のCO選択酸化等に効果的なガス処理システムを構築することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】実施例1における、ジニトロジアミン白金含浸後、焼成後、および還元後の赤外吸収スペクトル。
【図2】実施例1における、焼成後試料のPtL3吸収端近傍におけるEXAFSから得た、Pt周りの動径分布。
【図3】実施例1における、還元後試料のHAADF−STEM像。
【図4】実施例1における、水の添加および水素処理後試料のHAADF-STEM像。
【図5】CO転化率の水添加後の水素処理温度依存を示すグラフ。
【図6】CO転化率の還元温度依存を示すグラフ。
【図7】CO転化率の焼成温度依存を示すグラフ。
【図8】実施例2、4、11、および比較例2、3のCO転化率の温度依存を示すグラフ。
【図9】実施例12の水素中におけるCO転化率、O2転化率、CO酸化選択性の温度依存を示すグラフ。
【図10】比較例4の水素中におけるCO転化率、O2転化率、CO酸化選択性の温度依存を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明の触媒調製方法は、一般的な調製法である含浸・焼成法を前提とし、これから出発したものである。従来の方法では、例えば粉末状の触媒を得る場合には、白金源(白金前駆体)となる塩化白金酸やジニトロジアミン白金などの溶液に、担体となるアルミナ等の酸化物粉末を投入し、吸着あるいは溶媒を蒸発させることにより、白金イオンあるいは白金錯体を担体上に分散させる。その後、得られた粉末を高温(典型的には500〜700℃)で焼成した後、必要に応じて還元(典型的には含H2気流中、400〜500℃)する。この操作により、酸化物担体上に典型的には1〜10nmサイズの白金ナノ粒子を分散させることが出来、触媒として供される。白金源を水溶液に分散させるために界面活性剤を用いる場合、ガス気流ではなく、水素化ホウ素ナトリウム等の還元剤を用いて還元する場合もある。
【0031】
本発明においては焼成および還元操作を例えば100〜400℃の温度で施した後、得られた試料を水で湿潤状態とし、水素気流中100〜300℃、好適には150〜250℃の温度で熱処理を施すことを特徴としている。また、担体である酸化物に遷移金属を含有させることにより、より効果的に酸化活性を増大させることができる。
【0032】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
【0033】
本発明の酸化触媒調製法は、酸化物担体上の白金分散物を、水で湿潤させ、水素気流中で熱処理することを特徴としている。
【0034】
白金は、例えば超微粒子として酸化物担体上に分散、担持されており、その大きさは特に限定されるものではないが、酸化反応の酸化活性等の観点から、粒子径が20nm以下、なかでも0.1〜10nm、特に0.1〜2nmが好ましい範囲として考慮される。
【0035】
白金を担持させる酸化物担体は、従来触媒担体として用いられている無機酸化物であればよい。具体例としては、アルミニウム、ジルコニウム、ケイ素、チタン、スズ、バリウム、亜鉛などの金属の酸化物あるいはこれらの金属の複合酸化物などが挙げられる。なかでも入手のしやすさ、コスト、酸化反応の酸化活性等を考慮すると、アルミナ(Al2O3)、ジルコニア(ZrO2)、シリカ(SiO2)、チタニア(TiO2)が好適である。
【0036】
酸化物担体には、酸化反応の酸化活性を向上させるために、助触媒成分が含有されていてもよい。助触媒成分としては、鉄、ルテニウム、セリウム、コバルト、銅、ニッケル、マンガンなどの遷移金属が好ましく、なかでも鉄、ルテニウム、セリウムが好ましい。なお、酸化物担体に助触媒成分を含有させるかわりに、後述する白金前駆体と酸化物担体と溶媒との混合物に助触媒成分を添加することもできる。
【0037】
酸化物担体の形状、大きさ等については、白金を担持可能な形状および大きさであれば特に制限されるものではなく、例えば、粉体、造粒物、成形物など各種形状のものを用いることができる。酸化物担体の形態についても緻密体、多孔質体など任意の形態であってよい。酸化物担体が多孔質体の場合、重量あたりの白金超微粒子の担持量を多くすることができる。
【0038】
白金の担持量については、反応形態、酸化物担体の比表面積、形状等に応じて適宜設定される。例えば、白金と酸化物担体の合計量を100wt%として、白金量を0.1〜10wt%、好ましくは0.1〜5wt%、より好ましくは0.1〜3wt%の範囲に設定される。白金の担持量がかかる範囲内の場合、炭化水素や一酸化炭素の酸化反応において低温領域で優れた酸化活性を得ることができる。
【0039】
白金を酸化物担体に担持させる方法は特に制限はなく、含浸法、析出沈殿法等の公知の調製法を適宜適用できる。
【0040】
例えば、含浸法によって白金を酸化物担体に担持させる場合、まず、白金の担持量が所定の量になるように濃度および液量を調整した白金前駆体である各種の白金の金属酸、金属塩、金属錯体を準備する。次に、この白金前駆体、酸化物担体、水等の溶媒、さらに必要に応じて界面活性剤や助触媒成分を容器に投入して撹拌、混合する。次に、加熱等によって溶媒を除去してこの混合物を乾燥させる。このとき、酸化物担体上には白金イオンや白金錯体が分散した状態となっている。次に、乾燥した混合物を酸化雰囲気で焼成し、次いで還元処理する。尚、プロセスを簡略化するために、酸化雰囲気での焼成を行わずに、混合物を還元処理する場合も想定される。
【0041】
白金前駆体である白金の金属酸、金属塩、金属錯体の具体例としては、塩化白金酸、ジニトロジアミン白金、塩化白金、塩化白金酸ナトリウム、塩化白金酸カリウム、塩化白金酸アンモニウム等が挙げられる。
【0042】
酸化雰囲気としては、例えば、空気、酸素ガス、酸素ガス含有アルゴンガス、酸素ガス含有窒素ガス等が挙げられる。酸化雰囲気での焼成は、例えば、100〜400℃、好ましくは100〜300℃の温度でおこなうことがよい。この焼成温度は、従来、担持白金触媒を含浸法によって調製したときの典型的な焼成温度500〜700℃よりも低く、製造コストを抑えることができる。
【0043】
還元処理は、例えば、還元雰囲気中、100〜400℃、好ましくは150〜250℃の温度に加熱しておこなうことができる。この還元温度は、従来、担持白金触媒を含浸法によって調製したときの典型的な還元温度400〜500℃と比べて比較的低く、製造コストを抑えることができる。還元雰囲気としては、例えば、水素ガス、水素ガス含有アルゴンガス、水素ガス含有窒素ガス等が挙げられる。
【0044】
還元処理の別の方法として、還元剤を含む水溶液を調製し、室温〜100℃程度に加温した後、混合物をこの水溶液に添加しておこなう方法がある。還元剤としては、水素化ホウ素ナトリウム、ヨウ化水素、水素化アルミニウムリチウム、ヒドラジン等が挙げられる。
【0045】
以上の方法により、酸化物担体上に白金が分散、担持される。
【0046】
このように酸化物担体上の白金分散物を、上記したように水で湿潤させ、水素気流中で熱処理を施す。例えば、酸化物担体上の白金分散物に水を添加し水素気流を流通させ熱処理を施すなど水素気流中に水蒸気を共存させた状態で熱処理をおこなう。なお、この水素気流中での熱処理を以下、水素処理ともいう。
【0047】
熱処理の温度は100〜300℃、好ましくは150〜250℃、より好ましくは200〜250℃であることが望ましい。この温度範囲で熱処理を施した触媒は、炭化水素や一酸化炭素の酸化反応において低温領域で優れた酸化活性を示す。またこの水素処理は比較的低温雰囲気下での熱処理であるため、低コストで触媒を作製することができる。
【0048】
以上のように水の添加および水素処理という簡便な方法で得られた触媒は、酸化物担体上に白金超微粒子が分散、担持されており、炭化水素や一酸化炭素の酸化反応の酸化触媒として、低温領域において高い触媒活性を示すとともに一酸化炭素の酸化反応について高い酸化選択性を示す。ここで低温領域とは、例えば、100℃以下の温度範囲である。50℃以下、25℃以下の温度領域においても酸化反応の触媒活性が高く、一酸化炭素の酸化選択性も高い。下限は特に制限されるものではないが、例えば-40℃とすることができる。もちろん、このような低温領域だけでなくこれよりも高い温度領域においても酸化反応の触媒活性および一酸化炭素の酸化選択性は高い。
【0049】
上記の方法で得られた触媒を用いて炭化水素や一酸化炭素を酸化するには、炭化水素ガスや一酸化炭素ガスを酸素の共存下で触媒に接触させればよい。触媒と炭化水素ガスや一酸化炭素ガスとの接触は、固定床もしくは流動床の流通式反応装置によりおこなうことができる。
【0050】
本発明では、一酸化炭素を含む水素ガスを酸素の共存下で上記触媒に接触させることにより低温領域で一酸化炭素を選択的に酸化することができる。水素ガス中に含まれる微量の一酸化炭素、例えば、0.4〜2モル%程度の一酸化炭素を酸化することができる。
【0051】
このため、燃料電池システムの燃料として用いられる改質された水素ガス(微量の一酸化炭素を含む)中の一酸化炭素を低温領域で効果的に酸化し、前記水素ガスから一酸化炭素を除去することができる。したがって、上記触媒を用いて燃料電池用一酸化炭素濃度低減装置として利用することができる。また、暖房や湯沸かし器の不完全燃焼による一酸化炭素を検知する一酸化炭素センサーとして上記触媒を利用することもできる。さらに、上記触媒を用いて炭化水素や一酸化炭素を低温領域で酸化できるので、自動車等の内燃機関排ガス浄化装置として上記触媒を利用することができる。さらにまた、冷蔵庫内の低温環境で有効に作動し、庫内の農作物から発生したエチレンガスを分解するエチレン分解製品として上記触媒を利用することができる。
【0052】
以下に実施例を示し、さらに詳しく説明するが、本発明は以下の例によって限定されるものではない。
[実施例1]
【0053】
<白金源の含浸>
白金量50g/Lのジニトロジアミン白金硝酸溶液1.053mLを20mLのサンプル瓶に計り取り、3mLのイオン交換水を加えた。ここにアルミナ(触媒学会参照触媒JRC-ALO-2)1gを加え、室温でロータリーミキサーを用いて30分間撹拌した。白金仕込み量は5wt%である。内容物を蒸発皿に移し、湯煎により水分を徐々に蒸発させた。
<焼成および還元>
得られた粉末をアルミナ角皿に移し、環状炉を用いて、300mL/minの空気気流中、200℃で2時間焼成した。この粉末を100mg計り取り、ガラス管に詰め、50mL/minのH2/Ar(1:1)の混合ガス気流中、200℃で2時間還元処理を施した。図1にこれまでの各段階で取得した赤外(IR)透過スペクトルを示す。ジニトロジアミン白金含浸後は1380cm-1付近にアルミナ表面に吸着したNO3-イオンに由来するピークの他、1380cm-1および1480cm-1付近にショルダーが観測され、これらはそれぞれPtに配位したNH3およびNO2によるものと考えられる。焼成後はNH3およびNO2由来のショルダーは消失する。図2は焼成後試料のPtL3吸収端近傍におけるEXAFS(Extend X-ray Absorption Fine Structure)から得た、Pt周りの動径分布である。比較のために記したPtO2における動径分布と同様のパターンを示しながら、第2シェルに由来するピークが小さいことから、この時点で、Ptは酸化白金ナノ粒子として存在すると考えられる。還元後の試料のIRスペクトルからは、この時点でアルミナ表面のNO3-が脱離することが分かる。図3に還元後試料のHAADF-STEM(High Angle Annular Dark Field-Scanning Transmission Electron Microscope)像を示す。粒子径がサブナノ(0.1nm)から2nmまでの白金粒子が分散していることが分かる。
<水の添加および水素処理>
ガラス管中の試料に0.1mLの水を加えて湿潤状態とした。この後、33.3mL/minのH2ガスを流通させ、200℃で30分処理した。図4にこの試料のHAADF-STEM像を示す。図3の結果同様、粒子径がサブナノ(0.1nm)から2nmまでのPt粒子が分散していることが分かる。
<CO酸化活性評価>
上記試料を固定床流通式触媒活性評価装置にて、CO 1%、O2 0.5%、N2 98.5%の混合ガス33.3mL/minを流して、CO酸化活性を種々の温度において評価した。定常状態の反応性を評価するため、室温で2時間上記混合ガスを流通させた後、室温(28℃)でCO転換率を計測したところ、32%であった。
[比較例1]
【0054】
比較例1として、実施例1に示した手順のうち<水の添加および水素処理>において、水を加えずに同様の調製および測定を行った結果、室温(28℃)において、CO転換率は0%であった。
[実施例2]
【0055】
鉄を0.7wt%含有するアルミナ担体(触媒学会参照触媒JRC-ALO-5)を用いて、実施例1の手順で触媒を調製し、CO酸化活性を評価したところ、室温(28℃)でCO転換率100%を示した。
[実施例3〜6]
【0056】
水添加後の水素処理の適正温度を評価するため、実施例1の方法を用いて、150(実施例3)、200(実施例4)、250(実施例5)、300(実施例6)℃で水素処理し、室温でのCO転換率を評価した。焼成および還元温度は200℃とした。担体にはJRC-ALO-5を用い、白金仕込み量は0.25wt%(白金量50g/Lのジニトロジアミン白金水溶液0.0501mL)とした。結果を図5に示す。200〜250℃の処理温度において、高いCO転換率を示した。
[実施例7〜8]
【0057】
還元時の適正温度を評価するため、実施例1の方法を用いて、150(実施例7)、200(実施例4)250(実施例8)℃で還元し、室温でのCO転換率を評価した。焼成および水素処理温度は200℃とした。担体にはJRC-ALO-5を用い、白金仕込み量は0.25wt%(白金量50g/Lのジニトロジアミン白金水溶液0.0501mL)とした。結果を図6に示す。200℃の還元温度において、高いCO転換率を示した。
[実施例9〜10]
【0058】
焼成時の適正温度を評価するため、実施例1の方法を用いて、100(実施例9)、200(実施例4)、300(実施例10)℃で焼成し、室温でのCO転換率を評価した。還元および水素処理温度は200℃とした。担体にはJRC-ALO-5を用い、白金仕込み量は0.25wt%(白金量50g/Lのジニトロジアミン白金水溶液0.0501mL)とした。結果を図7に示す。200℃の焼成温度において、高いCO転換率を示した。
[実施例11]
【0059】
実施例1の方法を用いて、白金担持量5(実施例2)、1(実施例11)、0.25(実施例4)wt%の触媒を調製し、50〜-40℃の間でCO酸化活性を評価したところ、5および1wt%ではこの温度範囲で、CO転換率100%を示した(図8)。
[比較例2]
【0060】
低温でのCO酸化活性の高い触媒の比較例として、金1.5wt%/チタニア(World Gold Coucil Au-Ti #02-6)触媒のCO酸化活性を実施例1と同様の方法で評価した。反応試験の前処理として、33.3mL/minの乾燥空気気流中、200℃で30分間加熱した。結果を図8に示す。10℃付近で50%転換率が得られたが、今回調製した1wt%の白金触媒には及ばなかった。
[比較例3]
【0061】
市販の白金5wt%/アルミナ触媒を実施例1におけるCO酸化活性評価と同様の方法で評価した結果を示す(図8)。反応試験の前処理として、33.3mL/minの水素気流中、200℃で30分間加熱した。転換率は17%以下の低い値を示した。
【0062】
以上、実施例1〜11、比較例1〜3で調製した試料を用いた室温(28℃)におけるCO転換率(%)を表1に示す。
【0063】
【表1】

[実施例12]
【0064】
白金源として塩化白金酸水溶液を用い、実施例1の方法で触媒を作製した。白金担持量は3wt%とした。この触媒のPROX触媒性能を評価するため、固定床流通式触媒活性評価装置にて、CO 1%、O2 0.5%、H2 98.5%の混合ガス33.3mL/minを流して、反応活性(CO、O2の転換率)およびCO酸化選択性を種々の温度において評価した。ただし、COおよびO2の転換率(%)は、触媒層通過前の混合ガスのCOおよびO2の濃度を[CO]0、[O2]0、通過後の処理ガスのCOおよびO2の濃度を[CO]、[O2]とした時、それぞれ、{1-([CO]/ [CO]0)}*100、および、{1-([O2]/ [O2]0)}*100で表される。また、CO酸化選択性は、消費されたO2のうちの何割がCOの酸化に使われたかを示す量であり、1/2×([CO]0-[CO])/([O2]0-[O2])で定義される。また、定常状態の反応性を評価するため、室温で2時間、上記混合ガスを流通させた後、温度を変化させて触媒反応を評価した。図9に結果を示す。室温から100℃の温度領域において、反応率およびCO酸化選択性ともに高い値を示した。
[比較例4]
【0065】
市販の白金5wt%/アルミナ触媒(比較例3の試料)を実施例12と同様の手順で評価した結果を示す(図10)。50℃以下では、CO酸化選択性は高いものの、活性は低い。また、100℃では高い活性を示すが、CO酸化選択性は40%程度と低い値となった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物担体上の白金分散物を、水で湿潤させ、水素気流中100〜300℃の温度下で熱処理することを特徴とする酸化触媒調製法。
【請求項2】
前記熱処理の温度範囲が、150〜250℃であることを特徴とする請求項1に記載の酸化触媒調製法。
【請求項3】
前記酸化物担体が、アルミナ、ジルコニア、シリカおよびチタニアからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属酸化物であることを特徴とする請求項1又は2に記載の酸化触媒調製法。
【請求項4】
前記酸化物担体上の白金分散物が、
白金前駆体と酸化物担体を分散媒中で混合する工程、
前記混合物を乾燥させる工程、
乾燥された結果物を酸化雰囲気で焼成する工程、
焼成された結果物を還元雰囲気で還元する工程、
を順次おこなって作製されることを特徴とする酸化触媒調製法。
【請求項5】
前記乾燥された結果物の焼成は、100〜400℃でおこなうことを特徴とする請求項4に記載の酸化触媒調製法。
【請求項6】
前記焼成された結果物の還元は、100〜400℃でおこなうことを特徴とする請求項4に記載の酸化触媒調製法。
【請求項7】
前記酸化物担体が、助触媒成分を含有するものであることを特徴とする請求項4から6のいずれか一項に記載の酸化触媒調製法。
【請求項8】
前記混合物は、さらに助触媒成分が添加されているものであることを特徴とする請求項4から6のいずれか一項に記載の酸化触媒調製法。
【請求項9】
前記助触媒成分が、遷移金属であることを特徴とする請求項7又は8に記載の酸化触媒調製法。
【請求項10】
請求項1〜9に記載のいずれかの方法により調製した酸化触媒。
【請求項11】
請求項1〜9に記載のいずれかの方法により調製した酸化触媒の存在下で、炭化水素、又は一酸化炭素を酸化反応させることを特徴とする炭化水素又は一酸化炭素の酸化方法。
【請求項12】
請求項1〜9に記載のいずれかの方法により調製した酸化触媒の存在下で、一酸化炭素含有水素の一酸化炭素を選択的に酸化させることを特徴とする一酸化炭素の酸化方法。
【請求項13】
請求項1〜9に記載のいずれかの方法により調製した酸化触媒を用いた、燃料電池用一酸化炭素濃度低減装置。
【請求項14】
請求項1〜9に記載のいずれかの方法により調製した酸化触媒を用いた、一酸化炭素センサー。
【請求項15】
請求項1〜9に記載のいずれかの方法により調製した酸化触媒を用いた、内燃機関排ガス浄化装置。
【請求項16】
請求項1〜9に記載のいずれかの方法により調製した酸化触媒を用いた、エチレン分解製品。

【図1】
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【図2】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図3】
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【図4】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−55826(P2012−55826A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−201168(P2010−201168)
【出願日】平成22年9月8日(2010.9.8)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】