説明

体内組織の冷却

血液を冷却するためのカテーテル(10)は、部材の一部分を通り長手方向に延びる管腔を有する管状の軸部(12)を含む。その管腔は、血液が、体管から管腔中にそれを通って入り、また管腔から出る入口ポート(18)及び出口ポート(20)を有する。膨張可能なバルーン(14)が、管腔の入口ポートと出口ポートとの間に配置され、それは、膨張したとき体管を閉塞して正常な血流を阻止する。血液が管腔を通って流れるとき、冷却要素が血液を冷却する。冷却要素は、ジュール−トムソン・オリフィスを用いて液体を気体に相変化させることにより血液を冷却する室を含むことができる。冷却要素はまた、熱電冷却装置を含むこともできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、体内の標的組織部位を冷却することに関する。
【背景技術】
【0002】
重症の場合には急性心筋梗塞症(AMI)となる心筋虚血は、冠状動脈疾患に起因して、心筋層への血液循環が不十分である場合に生ずる可能性がある。血流への障害物を除去した後の心臓への血液の早期の再灌流によって心筋層に対する損傷を劇的に低減することを証拠が示唆している。しかし、心臓への血流を回復させると再灌流障害を生ずるおそれがある。再灌流障害は、血流が不十分な期間に心筋層に対して老廃物が堆積されること、また正常な血流が回復したとき、これらの老廃物と血液中の酸素が反応することによるものと考えられる。再灌流に先立って、心筋組織を冷却することにより心筋層への再灌流障害を低減することが可能である。摂氏28度と36度との間の温度による心筋組織への軽度の冷却は、化学反応速度を低減し、また組織活性とそれに関連する代謝性要求を低減する可能性が高く、保護作用を提供する。
【0003】
心筋組織を冷却するための一方法は、患者の心臓の上に氷パックを置くことである。他の方法は、心腔を穿刺し、標的の心筋組織の近くの心腔空間中に挿入した容器に冷却された流体を供給することを含む。心筋組織の冷却はまた、冷却された溶液を標的組織に灌流させることによっても達成することができる。カテーテルの遠位先端に配置された熱伝達要素を有するカテーテルを、心臓に流入しまた心臓を通って流れる血液を冷却するために血管中に挿入することもできる。患者の冠状静脈洞中に配置したカテーテルを通して心臓に冷却血液を供給することにより、心筋組織を冷却することもまた可能である。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、体内の標的組織部位を冷却する装置及び方法を特徴とする。一態様では、本発明は、部材の一部分を通り長手方向に延びる管腔を有する細長い部材を含むカテーテルを特徴とする。管腔は、血液が体管から管腔中にそれを通って入る入口ポートと、血液が管腔からそれを通って出る出口ポートとを有する。膨張可能なバルーンが管腔の入口ポートと出口ポートとの間に配置されており、それが体管内に配置されて膨張したとき、バルーンは体管を閉塞して正常な血流を阻止する。冷却要素が、管腔内を血液が流れるときそれを冷却する。
【0005】
諸実施形態では、カテーテルが冠状動脈などの体管中にあるとき、入口及び出口ポートが共に体管内にあるように、管腔の入口及び出口ポートを配置することができる。膨張可能なバルーンの膨張した外径は、約5ミリメートル以下とすることができる。管腔はまた、正常な血圧で、管腔を通って毎分20ミリリットルの血流を供給するように構成することができ、また2.54cm(1インチ)の約1000分の45未満の直径を有することができる。
【0006】
他の諸実施形態では、冷却要素は、カテーテルの遠位部分に配置することができる。冷却要素は、ジュール−トムソン(Joule−Thompson)・オリフィスを用いて液体を気体に相変化させることにより血液を冷却する室を含むことができる。膨張可能なバルーンはまた、膨張室を含むことができ、バルーンの膨張室はまた、ジュール−トムソン・オリフィスを用いて血液を冷却する室として働くことができる。他の諸実施形態では、冷却要素は熱電冷却装置を含み、それは、複数の熱電半導体を含むことができる。
【0007】
他の態様では、本発明は、体内の標的組織部位に冷却された血液を供給するためのカテーテルを特徴とする。そのカテーテルは、部材の一部分を通り長手方向に延びる管腔を有する細長い部材を含む。管腔は、血液が体管から管腔中にそれを通って入る入口ポートと、血液が管腔からそれを通って出る出口ポートとを有する。室は、管腔の入口ポートと出口ポートとの間でカテーテルの遠位部分に配置されており、したがって、ジュール−トムソン・オリフィスを用いて液体を気体に相変化させることにより、血液が管腔を通って流れるとき、室はその血液を冷却することができる。
【0008】
諸実施形態では、冠状動脈などの体管中にカテーテルがあるとき、入口及び出口ポートが共に体管内にあるように、管腔の入口及び出口ポートを配置することができる。いくつかの実施形態では、室はまた膨張して体管を閉塞し、標的組織部位への正常な血流を阻止することができる。室は、約5ミリメートル以下の膨張した外径に拡張することができる。
【0009】
他の態様では、本発明は、体内の標的組織部位に冷却された血液を供給する方法を特徴とする。膨張可能なバルーンをカテーテルの遠位端の近くに有するカテーテルが体管中に導入される。バルーンは、膨張して体管を通る標的組織部位への正常な血流を制限する。血液は、バルーンに対して近位の入口ポートから、バルーンに対して遠位の出口ポートへとバルーンカテーテル中の管腔を通って流れることができ、血液は管腔を通って流れるとき冷却される。
【0010】
諸実施形態では、カテーテルは、管腔の入口及び出口ポートもまた体管内にあるように、体管中に、例えば、冠状動脈中に配置することができる。本方法はまた、経皮経管冠動脈形成術中で実施することもできる。
【0011】
本発明の1つまたは複数の実施形態の細部は、添付の図面及び以下の説明で述べる。本発明の他の特徴、目的、及び利点は、その説明及び図面から、また特許請求の範囲から明らかとなろう。
【0012】
様々な図面における同様の参照記号は同様の要素を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1を参照すると、カテーテル10は、細長い管状の軸部12と、カテーテルの遠位部分16に膨張可能なバルーン14とを含む。カテーテル10は、組織部位への酸素と結合(酸素化)された血液の流れを低減し、または完全に妨害した冠状動脈など、体管中の障害を修復するために使用することができる。カテーテル10はまた、酸素が欠乏した、または虚血性の組織部位に、冷却した血液を供給するために使用することもできる。灌流管腔(図1に示さず)が、カテーテルの遠位端16で、軸部12を通り長手方向に延びる。血流を閉塞するために、バルーン14を体管中で膨張させると、血液は、矢印Aで示すように、バルーン14に対して近位のカテーテル軸部12の入口ポート18を介して灌流管腔に強制的に入る。カテーテルの遠位部分16中に配置される冷却要素(図1に示さず)は、血液が灌流管腔を通って流れるときそれを冷却し、冷却された血液が、矢印Bで示すように、出口ポート20を介してバルーン14に対して遠位の管腔から出る。
【0014】
虚血性組織部位に冷却した血液を送達することは、組織部位が酸素を欠乏している時間を延長することなく、その部位への血液の再灌流に関連する障害を低減する。冷却過程中、組織部位に供給される血液は、酸素と結合されているので、所望する時間の間、冷却を行うことができる。さらに、カテーテル10により供給される酸素と結合された血液は体内で冷却されており、血球を損傷する可能性のある体外に移され冷却されることはない。さらに、組織部位に血液を供給することは、手技中にカテーテル10の位置を損なう可能性のある、血管中に流体を注入するためのカテーテルの案内ワイヤ(図1に示さず)の除去を必要としない。
【0015】
アダプタ22が、カテーテルの近位端24で、軸部12に取り付けられる。アダプタは、軸部12の内側の管腔(図1に示さず)へのアクセスを提供する近位端24における長手方向開口部32を含む。この内部の管腔は、軸部12の長さ全体を通り、カテーテルの遠位端34における他方の長手方向開口部へと延びる。案内ワイヤ(図示せず)を、この内部管腔を通って挿入することができ、医師が、カテーテルを体管を通して標的組織部位の近くで操作することができる。カテーテル10が配置された後、案内ワイヤを取り外すことができ、標的組織部位に流体を供給するために管腔をまた使用することができる。
【0016】
アダプタ22はまた、ポート26、28、及び30を含む。ポート26、28、及び30は、カテーテル軸部12を通りカテーテルの遠位部分16まで長手方向に延びる管腔、または温度センサなど内部装置を接続するためのワイヤへのアクセスを提供することができる。アダプタ中のポート数、及びポートの使用法は、灌流管腔を通って流れる血液を冷却するために使用される冷却要素のタイプに依存しており、それを後に詳細に説明する。
【0017】
図1の例では、カテーテル10は、摂氏25度から36度の範囲の灌流管腔を通って流れる血液を冷却することができる。冷却量は、灌流管腔を通る血液の体積流量、灌流管腔の長さ及び内径、及び冷却要素の冷却能力など、いくつかの因子に依存する。例えば、灌流管腔の長さが約20ミリメートルであり、灌流管腔の内径が約2.54cm(1インチ)の約1000分の40である実装形態では、灌流管腔を通る血液の体積流量は、約24ml/分である。この例でさらに、冷却要素の温度が摂氏約マイナス10度であり、灌流管腔を通って流れる血液は、摂氏約37度の正常な体温から摂氏約29度に冷却することができる。血液の冷却は、1つまたは複数のこれらの変数を変えることにより変化させることができる。例えば、灌流管腔を通る血液の体積流量を12ml/分に低減することにより、他のすべてのものを一定に保った場合、血液を25度に冷却することができる。
【0018】
灌流管腔を通る血液の体積流量は、灌流管腔のサイズ、入口ポート18及び出口ポート20のサイズと形状、及び、当然であるが、入口ポート18における血圧により決定される。図1における実装形態では、入口ポート18は、約4.5と1.5ミリメートルの軸を有する実質的に楕円形状を有する。他の実装形態では、入口ポート18は他の形状で構成することができ、またポート18の表面積を増減することができる。さらに、さらなる血流を灌流管腔中に流入させることができるように、追加の入口ポートをカテーテル10に加えることができる。図1のカテーテルは、2.54cm(1インチ)の約100分の5、及び100分の2の軸を有する2つの楕円形状の出口ポート20を有する。入口ポート18と同様に、出口ポート20は他の形状で構成することも可能であり、また出口ポート20の組み合わせた表面積を所望に応じて増減することができる。さらに、カテーテル軸部12に対して、追加の出口ポートを加えることができ、または、代替的に、軸部12が1つの出口ポートを有するだけとすることもできる。血液の冷却を高めるために灌流管腔を通る血液流量を低減させる例では、バルーンに対して遠位の組織を酸素と結合するために、バルーン14の膨張/収縮を繰り返すことが必要となり得る。しかし、再灌流障害を阻止するために、組織部位がまず冷却されるまでは、バルーン14を収縮させて酸素と結合された体温の血液を組織部位に送るべきではない。
【0019】
カテーテル10は、灌流管腔の長さ、所望の冷却量、所望のカテーテル遠位部分16のサイズ、及び特有の用途に必要なカテーテルの遠位部分16の可撓性などの因子に応じて、様々な異なる冷却要素もしくは機構を用いて、灌流管腔を通して流れる血液を冷却することができる。冷却要素は、例えば、灌流管腔に隣接して配置され、またカテーテル中の1つまたは複数の管腔によりアクセス可能な室とすることができる。この例では、冷却流体を室に供給し、次に、それが灌流管腔を通って流れる血液を冷却することができる。
【0020】
他の実施形態では、灌流管腔を通って流れる血液をジュール−トムソン効果(Joule−Thomson effect)と呼ばれる物理過程を用いて冷却するために、室を使用することができる。この過程を使用するために、高圧の流体が室中に導かれて、管腔の遠位端に位置するオリフィスを横断して液体から気体へと相変化させることができる。流体が相変化すると、熱の形のエネルギが周囲領域から奪われて、室と、灌流管腔を通って流れる血液とを冷却する。血液を冷却するためにジュール−トムソン効果を用いるカテーテルの一例を図2及び図3に示す。
【0021】
他の実装形態では、冷却要素を熱電冷却装置(TEC)(図4に示す)とすることができ、それは、ペルチエ効果と呼ばれる過程を用いて灌流管腔を通って流れる血液を冷却する。この例では、TECは、入口ポート18と出口ポート20との間に、灌流管腔を通って流れる血液と熱接触して配置されており、それを後で論ずるものとする。現在利用可能なTECは、同様なサイズ及び冷却表面積のジュール−トムソン冷却要素の冷却能力を有していない。その結果、現在のTECは、灌流管腔の長さが20ミリメートルで、内径が2.54cm(1インチ)の1000分の40であり、かつその灌流管腔を通って流れる血液の体積流量が24ml/分である場合の前の例におけるように、血液を摂氏29度まで冷却することができない可能性がある。したがって、同じ冷却量を達成するために、TECは、血液の体積流量を低減させる、または灌流管腔の長さを増加させる用途においてのみ現在使用することができる。TECの冷却能力は増加し続けているので、将来、より多くの用途に適するようになる可能性がある。
【0022】
図2は、カテーテルの灌流管腔136を通って血液が流れるとき、血液を冷却するためにジュール−トムソン効果を用いるカテーテルの遠位部分116の、長手方向平面における側面断面図である。カテーテルの遠位部分116は、灌流管腔136の入口ポート118と出口ポート120との間で軸部112の上に、また軸部の円周全体周りに配置された膨張可能なバルーン114を含む。溶接(図示せず)により、軸部112に対してバルーン114の長手方向端部142を固定かつ密封し、それにより、軸部112とバルーン114との間で密封された室140が形成される。注入管腔144は、アダプタのポート(例えば、図1のポート26)から、軸部112を通り、密封された室140へと延びる。CO2、N2O、N2、またはHeなどの高圧の流体が、密封された室140中に導かれ、ジュール−トムソン・オリフィス146を横断して気体へと膨張する。
【0023】
相変化は、図2のカテーテルで2つの機能を実施する。室140の温度を低下させることに加えて、気体への相変化はまた、バルーン114を膨張させ、それにより、必要な場合、体管中の障害を修復することができ、また体管を通る正常な血液を妨害し、強制的に血液を灌流管腔136中を通るようにする。密封された室140からアダプタポート(例えば、図1に示すポート28)へと長手方向に延びる排出管腔(図3に示す)は、室140中の所望の圧力を維持するように、またバルーン114を所望のレベルに膨張させるように、密封された室140から過剰な気体を取り除く。
【0024】
図2の例では、温度センサ150が、室140の内側に配置され、室140の温度を監視する。この例では、温度センサ150は、熱電対である。熱電対は、互いに絶縁された異種材料の2本の導電性ワイヤ154からなる。ワイヤ154は、アダプタのポート、例えば、図1に示すアダプタ22のポート30から、カテーテル軸部112を通り室140中へと長手方向に延びる。導電性ワイヤ154は共に結合されて接合部152を形成し、それが室140の内側で気体と熱接触する。2つの異種導体がこのように結合されると、接合部152の両端で起電力(emf)が誘起されるが、その大きさは、接合部の温度に応じて変化する。誘起されたemfは、導電性ワイヤ154の近位端で測定することができ、したがって、室140の温度を測定することができる。他の実装形態では、温度センサ150は、サーミスタまたは他の適切な温度検出機構とすることができる。温度センサ150はまた、室の温度を測定するために、軸部112中の様々な位置に配置することができる。他の実装形態では、例えば、出口ポート120を出る血液の温度を測定するために、追加の温度センサをカテーテルに加えることができる。
【0025】
管腔148は、カテーテルの近位端における開口部(例えば、図1に示す長手方向開口部32)から、カテーテルを通りカテーテルの遠位端134における開口部へと長手方向に延びる。案内ワイヤ(図示せず)をこの管腔148を通り長手方向に延ばすことができ、医師が、カテーテルの遠位部分116を、体管を通して標的組織部位まで案内することができる。カテーテルが体内に配置された後、管腔148はまた、所望の場合、標的組織部位に流体を供給するために使用することもできる。例えば、冷却血液または代用血液を、標的組織部位に供給することも可能である。抗酸化剤または酸化窒素、リドカイン、ニトログリセリン、インスリンなど他の血管作用物質を含む冷却塩類液または食塩水もまた、管腔148を介して供給することができる。
【0026】
図2の例では、バルーン114の壁は、約0.0018cm(0.0007インチ)のバルーンカテーテル用の典型的な膨張バルーンより厚く、例えば、0.0038cm(0.0015インチ)の厚さを有する。バルーン壁の増加させた厚さにより、バルーン114の外側表面と接触する体液及び体組織が隔離される。その隔離により、カテーテルの組織的な冷却効果を制限し、灌流管腔136を通って流れる血液の目標とする冷却効率を改善することができる。他の実装形態では、バルーンの厚さを必要に応じて増減することができる。代替的には、追加の外側層をバルーン114に加えることもできる。追加の外側層は、例えば、ポリエステルなどのポリマーで構成することができる。いくつかの実装形態では、流体またはポリマー材料を、さらなる隔離を提供するためにバルーン114と追加の外側層との間に配置することができる。
【0027】
図3は、バルーン114から近位的に見た、図2の線3−3におけるカテーテルの遠位部分116の横断面を示す。図3の横断面は、灌流管腔136の相対的なサイズと位置、案内ワイヤと標的組織部位への流体注入用の管腔148、注入管腔144と排出管腔156、及び導電性ワイヤ154を示す。バルーンの長手方向端部分142は、軸部の外側表面158に取り付けた状態で示されている。
【0028】
灌流管腔136は、2.54cm(1インチ)の約1000分の39から42の直径を有することができ、またその用途に応じて変えることができる。灌流管腔136の直径は、管腔を通る血液の流量を増加させるために大きくすることができ、あるいは、血液の流量を低減するために直径を減少させることもできる。管腔148は、2.54cm(1インチ)の約1000分の15から20の直径を有することができ、用途に応じて、また医師が手技を実施するために使用することを望む案内ワイヤのタイプに応じて増減することができる。
【0029】
図3の例における注入管腔144及び排出管腔156は、横断面で集合的に半円を形成しており、注入管腔144及び排出管腔156がそれぞれ、面積の約半分を構成している。他の実装形態では、注入管腔144及び排出管腔156は、円形断面を有し、あるいは他の適切な形状を構成することができる。
【0030】
図4は、ペルチエ効果として知られる熱エネルギ過程を用いて標的組織部位に送達するために、灌流管腔を通って血液が流れるとき、冷却血液に対して使用できるTEC200の斜視図である。TEC200は、第1及び第2のモジュール202、204を含み、一緒に配置したとき、血液がそれを通って流れることのできる管腔206を有する円筒を形成する。TEC200は、灌流管腔の外壁に配置することができ、したがって、血液はTEC200の管腔206を通って流れ、灌流管腔を介して流れるときそれは冷却される。
【0031】
円筒形状の構造を形成するために、第1と第2のモジュール202、204は共に、半円筒の形状をしており、その円筒は、長手方向に、2つの等しいサイズのセクションに分割されている。第1と第2のモジュール202、204の長手方向の縁部は、小さな間隙208a及び208bで分離されている。
【0032】
TEC200の第1のモジュール202は、第1のモジュールの近位端214で、ワイヤ210及び212に接続され、また第1のモジュールの遠位端220で、ワイヤ216及び218に接続されている。この実装形態では、ワイヤ210及び212が、カテーテルの軸部を通りカテーテルの近位端の方向に長手方向に延びており、したがって、後に説明するように、TECの温度を制御することができる。カテーテルが追加のTEC200を含む場合、ワイヤ210及び212は、他のTECの第1のモジュールに接続することができる。TEC200が、カテーテル軸部中で最も近位のTECである場合、ワイヤ210及び212は、アダプタ中のポート、例えば、図1に示すポート30を介して患者の外側にアクセスするために、軸部を通りカテーテルの近位端へと長手方向に延びる。ワイヤ216及び218は、カテーテル軸部を通りカテーテルの遠位端の方向へ長手方向に延びており、またTEC200に対して遠位に位置する他のTECの第1のモジュールに接続することができる。
【0033】
第2のモジュール204は、同様に、第2のモジュールの近位端214でワイヤ222及び224に接続され、また第2のモジュールの遠位端220でワイヤ226及び228に接続される。ワイヤ222、224、226、及び228は、軸部を通り長手方向に延びており、また第1のモジュール202に関して述べたのと同様に、カテーテル中の様々なTECの第2のモジュールに接続される。
【0034】
第1及び第2のモジュール202及び204は、例えば、一連の熱電冷却要素を含むことができる。要素は、例えば、電気的な絶縁体内にパッケージされ、直列に接続されたn型半導体及びp型半導体を含むことができる。他の実装形態では、半導体を他の適切な材料と置き換えることができる。半導体は、熱電冷却要素の2つの側部のセラミック基板に取り付けられたヒートシンクから導体を電気的に絶縁するセラミック基板の間に通常配置される。熱電冷却要素は、一方のヒートシンクが、モジュール202及び204の内部表面(すなわち、管腔206を形成する表面)に隣接するように配置される。もう一方のヒートシンクは、モジュール202及び204の外部表面230に隣接して配置される。
【0035】
TEC200の冷却効果を利用するために、ワイヤ210、212、222、及び224を介してDC電圧を要素に印加することができ、それにより、半導体対に電流を流すことができる。電流は、管腔206を形成する表面上のヒートシンクから、モジュールの外部表面230の近くのヒートシンクへと熱を導く。この過程を通して、管腔206を形成する内部表面が冷却され、また同時に、外部表面230が加熱される。管腔206を形成する内部表面を冷却することにより、カテーテルの灌流管腔を通って流れる血液もまた冷却することができる。
【0036】
TEC200が冷却のために使用される実装形態では、図2及び図3に示す注入及び排出管腔を共に用いることが不要になる可能性がある。カテーテルの遠位端でバルーンを膨張及び収縮させるためには、単一の管腔で十分であり得る。図2の注入管腔のように、バルーンの膨張管腔は、バルーンによって形成される密封された室からカテーテルのアダプタにおけるポートへと長手方向に延びることができる。
【0037】
図5は、横断面で示した、冠状動脈中に配置された図1の灌流カテーテルの遠位部分16の側面図であり、また心臓中の標的組織部位302を冷却する方法を示す。図5の例では、灌流カテーテル10の遠位部分16が、損傷または障害物を含み、かつ経皮経管冠動脈形成術で治療されている心臓の冠状動脈300中に大動脈304を介して配置されている。カテーテルの遠位部分16が動脈300中に配置された後、バルーン14が膨張して、標的組織部位302への正常な血流を阻止し、またいくつかの実装形態では、動脈300の閉塞を開放する。矢印Aで示すように、入口ポート18を介して灌流管腔に入る血液は、カテーテルの遠位部分16における冷却要素により冷却される。次いで、血液は、矢印Bで示すように、出口ポート20を介して灌流管腔を出て、灌流障害を低減するために組織部位302に供給される。
【0038】
図1のカテーテルはまた、体の他の領域における組織部位を冷却するために使用することができる。本カテーテルは、例えば、脳、腎臓、及び脚で使用することができる。
図6は、前に述べたカテーテル(その一部分だけが図6に示されている)、及びそのカテーテルに取り付けられる様々な外部機器を含むシステムを示す。この例では、カテーテルは、制御装置404、流体ポンプ406、排出バルブ408、及び温度監視装置410を含む制御システム402に取り付けられる。制御装置404は、温度監視装置410から情報を受け取り、その情報を用いて、流体ポンプ406の動作を制御し、また標的組織部位に送達される血液の温度を制御する。制御装置404はまた、バルーンの膨張/収縮を規定するカテーテルのバルーン(図6に図示せず)中の圧力を監視し、さらに、冷却のために、バルーンの室中へと連続的に気体を膨張させることができる。
【0039】
カテーテルの近位端400は、ポート416、418、及び420を有するアダプタ414を有する。ポート416は、カテーテルを通りカテーテルの遠位部分におけるバルーンの室へと長手方向に延びる注入管腔へのアクセスを提供する。流体ポンプ406は、ポート416を介して注入管腔に接続される。制御装置404は、流体ポンプ406の動作を制御し、したがって、バルーンの室に供給される過冷却された流体の量及び速度を制御する。密封された室に供給される過冷却された流体412は、CO2、N2O、N2、He、または他の適切な流体とすることができる。
【0040】
ポート418は、バルーンの室からカテーテルを通り長手方向に延びる排出管腔へのアクセスを提供する。排出バルブ408は、ポート418を介して排出管腔に接続されている。制御装置404は、排出バルブ408によるバルーンの室からの気体の除去を制御し、監視する。ポート420は、密封された室の温度を検出する温度センサへのアクセスを提供する。例えば、温度センサが(図2に示す)熱電対である場合の実装形態では、ポート420は、カテーテルの遠位部分における熱電対の接合部から延びる導電性ワイヤへのアクセスを提供する。
【0041】
他の実装形態では、追加の外部装置を制御システム402に加えることができ、また、代替的には、いくつかの装置を除外することもできる。さらに、制御システム402は、灌流管腔を通って流れる血液を冷却するためにTECを使用するカテーテルの冷却を制御するように変更することができる。このような実装形態では、流体ポンプ406は、膨張媒体を導入しまた除去するために使用でき、したがって、カテーテルのバルーンを膨張/収縮させることができる。排出バルブは、TECの冷却量を制御するDC電圧源と置き換えることができる。温度監視装置は、カテーテルの灌流管腔を出る流体の温度を測定する温度センサを監視するために使用することができる。
【0042】
本発明のいくつかの実施形態を説明してきた。しかし、本発明の趣旨及び範囲を逸脱することなく様々な変更を行えることが理解されよう。したがって、他の諸実施形態も添付の特許請求の範囲に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明によるカテーテルの斜視図である。
【図2】図1に示すタイプのカテーテルの一実施形態の遠位部分の長手方向平面における側面断面図である。
【図3】図2に示す線3−3に沿ったカテーテルの横断面図である。
【図4】本発明によるカテーテルで使用することのできる熱電冷却装置の斜視図である。
【図5】横断面で示した、冠状動脈中に配置された図1のカテーテルの遠位部分の側面図であり、心臓中の標的組織部位を冷却する方法を示す図である。
【図6】標的組織部位を冷却するために使用されるカテーテルの近位端の側面図と、ブロック図で示された、カテーテルの近位端に接続される制御システムの図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細長い部材であって、当該部材の一部分を通り長手方向に延びる管腔を有し、当該管腔は、入口ポート及び出口ポートを有し、前記入口ポートを通って血液が体管から前記管腔中に入り、また前記出口ポートを通って血液が前記管腔から出る、細長い部材と、
前記管腔の前記入口ポート及び前記出口ポートの間に配置される膨張可能なバルーンと、
前記管腔を通って血液が流れるときに、血液を冷却する冷却要素とを備える、カテーテル。
【請求項2】
前記管腔の前記入口ポート及び前記出口ポートが、前記カテーテルが前記体管中にあるときに、共に前記体管内にあるように配置される、請求項1に記載のカテーテル。
【請求項3】
前記体管が冠状動脈である、請求項2に記載のカテーテル。
【請求項4】
前記膨張可能なバルーンが、膨張したときに約5ミリメートル以下の外径を有する、請求項1に記載のカテーテル。
【請求項5】
前記管腔が、正常な血圧で、前記管腔を通って毎分20ミリリットルの血流を供給するように構成される、請求項1に記載のカテーテル。
【請求項6】
前記管腔が、2.54cm(1インチ)の約1000分の45未満の直径を有する、請求項5に記載のカテーテル。
【請求項7】
前記冷却要素が、前記カテーテルの遠位部分に配置される、請求項1に記載のカテーテル。
【請求項8】
前記冷却要素がさらに、ジュール−トムソン・オリフィスを用いて液体を気体に相変化させることにより血液を冷却する室を備える、請求項1に記載のカテーテル。
【請求項9】
前記膨張可能なバルーンが、膨張室を備えており、また前記バルーンの膨張室が、ジュール−トムソン・オリフィスを用いて血液を冷却する室として働く、請求項8に記載のカテーテル。
【請求項10】
前記冷却要素が熱電冷却装置を備える、請求項1に記載のカテーテル。
【請求項11】
前記熱電冷却装置が複数の熱電半導体を備える、請求項10に記載のカテーテル。
【請求項12】
体内の標的組織部位に冷却された血液を供給する方法において、
カテーテルを体管中に導入する工程であって、前記カテーテルは、膨張可能なバルーンを前記カテーテルの遠位端の近くに有する、カテーテルを体管中に導入する工程と、
前記体管を通る標的組織部位に対する正常な血流を制限するために、前記バルーンを膨張させる工程と、
前記バルーンに近位の入口ポートから、前記バルーンに遠位の出口ポートへと、前記バルーンのカテーテル中で、管腔を通して血液の流れを可能にする工程と、
前記管腔を通って血液が流れるときに、血液を冷却する工程とを含む、方法。
【請求項13】
前記管腔の前記入口ポート及び前記出口ポートもまた前記体管内にあるように、前記カテーテルが前記体管中に配置される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記体管が冠状動脈である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記方法が、経皮経管冠動脈形成術中で実施される、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
体内の標的組織部位に冷却された血液を供給するためのカテーテルにおいて、
細長い部材であって、当該部材の一部分を通り長手方向に延びる管腔を有し、前記管腔は、入口ポート及び出口ポートを有し、前記管腔中に前記入口ポートを通って体管からの血液が入り、前記出口ポートを通って血液が前記管腔から出る、細長い部材と、
前記管腔の前記入口ポート及び前記出口ポートの間で、前記カテーテルの遠位部分に配置される室であって、当該室は、液体を気体に相変化させるべくジュール−トムソン・オリフィスを用いて、血液が前記管腔を通って流れるときに、血液を冷却することができる、室とを備える、カテーテル。
【請求項17】
前記管腔の前記入口ポート及び前記出口ポートが、前記カテーテルが前記体管中にあるときに、共に前記体管内にあるように配置される、請求項16に記載のカテーテル。
【請求項18】
前記体管が冠状動脈である、請求項17に記載のカテーテル。
【請求項19】
前記室が膨張して体管を閉塞し、前記標的組織部位への正常な血流を阻止する、請求項16に記載のカテーテル。
【請求項20】
前記室の前記膨張した外径が約5ミリメートル以下である、請求項19に記載のカテーテル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2008−508072(P2008−508072A)
【公表日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−524830(P2007−524830)
【出願日】平成17年7月20日(2005.7.20)
【国際出願番号】PCT/US2005/025774
【国際公開番号】WO2006/020327
【国際公開日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【出願人】(500238446)ボストン サイエンティフィック リミテッド (53)
【氏名又は名称原語表記】Boston Scientific Limited
【Fターム(参考)】