説明

作業機械のエンジン制御装置

【課題】燃費の改善を十分に図ると共に、スタンバイ状態から直ちに作業に入り得るようにし、作業効率を高め得る作業機械のエンジン制御装置を提供する。
【解決手段】作業機械は、エンジン1により駆動されるアクチュエータ4,5と、アクチュエータの作動を操作するために運転室内に設けた操作部材8a,9aとを備える。エンジン制御装置は、操作部材の操作の有無を検出する操作状態検出手段11と、操作部材に対しオペレータの身体の一部が接触又は近接していることを検出する接触・近接検出手段15と、両検出手段の信号を受ける制御手段13とを備える。制御手段13は、操作部材の操作がなくかつ操作部材に対しオペレータの身体の一部が接触又は近接していないとき運転中のエンジンを停止する制御を行い、操作部材の操作がないが操作部材に対しオペレータの身体の一部が接触又は近接しているとき運転中のエンジンを運転状態のまま継続する制御を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動式クレーンやショベルなどの作業機械のエンジン制御装置に関し、特に、アイドル運転時にエンジンを自動的に停止するいわゆるアイドルストップ制御に係わるものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の作業機械のエンジン制御装置として、例えば特許文献1に記載されているように、運転室(キャブ又はキャビンともいう)の乗降口を開閉するゲートバーと、このゲートバーの開閉に応じてゲート開信号又はゲート閉信号を出力する位置検出手段(ゲートロックスイッチ)と、この位置検出手段よりゲート開信号が出力されたときエンジンを停止し、ゲート閉信号が出力されたときエンジンを始動するエンジン作動・停止手段とを備えたものが知られている。
【0003】
また、特許文献2に記載されているように、作業機械の操作部材であるコントロールレバーを操作したことを検知するセンサ又はスイッチと、このセンサ又はスイッチからの信号に基づいて、コントロールレバーの操作されていない状態が所定時間超えたとき運転中のエンジンを自動的に停止する制御手段とを備えたものも知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−41069号公報
【特許文献2】特開2003−65097号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、上記従来のもののうち、前者のものは、オペレータの運転室への乗降をゲートバーの開閉によって検知するものであるが、荷物の吊り上げ及び吊り下げ作業を行う移動式クレーンなどの場合、オペレータが運転室に乗り込んだ後作業の合間に待ち時間が生じたときでも安全性の観点からオペレータが運転室から降りることはなく、運転室内で着座して操作を行わずに待機している状態が長時間に及ぶことがある。このような場合、アイドルストップは作動せず、エンジンはアイドル運転状態のままであるため、アイドルストップ制御による燃費の改善を十分に図ることができないという問題がある。
【0006】
また、後者のものでは、コントロールレバーの操作されていない状態つまり非操作状態が所定時間超えたときには一律にエンジンを停止する制御を行っているが、非操作状態には、例えば作業指揮者からの合図があれば運転室内のオペレータが直ちに作業に入れるよう操作レバーに手をかけて準備しているスタンバイ状態と、しばらく作業がなく、オペレータが操作レバーから手を離して運転室内で待機している休止状態とがある。スタンバイ状態でエンジンが自動的に停止した場合、オペレータは作業指導者からの合図を受けてもスタンバイ状態から直ちに作業に入ることはできず、エンジンを再始動させ、作業機械が作業可能な状態になるまで待機しなければならなくなるという問題がある。
【0007】
本発明はかかる諸点に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、非操作状態の中でスタンバイ状態と休止状態とを判別し、休止状態のときにのみ運転中のエンジンを停止する制御を行うことにより、燃費の改善を十分に図るとともに、スタンバイ状態から直ちに作業に入り得るようにし、作業効率を高め得る作業機械のエンジン制御装置を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するため、請求項1に係る発明は、エンジンにより駆動されるアクチュエータと、このアクチュエータの作動をオペレータが操作するために運転室内に設けられた操作部材とを備えた作業機械のエンジン制御装置として、上記操作部材の操作の有無を検出する操作状態検出手段と、上記操作部材に対しオペレータの身体の一部が接触又は近接していることを検出する接触・近接検出手段と、上記両検出手段からの信号を受ける制御手段とを備える。そして、上記制御手段において、操作部材の操作がなくかつ操作部材に対しオペレータの身体の一部が接触又は近接していないときには運転中のエンジンを停止する制御を行い、操作部材の操作がないが操作部材に対しオペレータの身体の一部が接触又は近接しているときには運転中のエンジンを運転状態のまま継続する制御を行うように設ける構成にする。
【0009】
この構成では、オペレータが運転室内に居て操作部材を操作していない非操作状態のうち、例えば作業指揮者からの合図があればオペレータが直ちに作業に入れるよう操作レバーや操作ペダルなどの操作部材に手又は足をかけて準備しているスタンバイ状態のときには、操作状態検出手段からの信号と共に、接触・近接検出手段からの信号を受ける制御手段において、スタンバイ状態を判別した上で運転中のエンジンを運転状態のまま維持する制御が行われるため、オペレータはスタンバイ状態から直ちに作業を行うことができる。
【0010】
一方、作業がしばらくなく、オペレータが操作部材から手又は足を離し運転室内で待機している休止状態のときには、上記制御手段において、休止状態を判別した上で運転中のエンジンを停止する制御が行われるため、休止状態でのアイドルストップを確実に実現することができ、燃費の改善を十分に図ることができる。
【0011】
請求項2に係る発明は、請求項1記載の作業機械のエンジン制御装置において、上記制御手段による休止状態でのアイドルストップ制御の好ましい制御方式を提供するものである。すなわち、上記制御手段は、操作部材の操作がなくかつ操作部材に対しオペレータの身体の一部が接触又は近接しなくなった直後は運転中のエンジンを運転状態のまま継続し、オペレータの身体の一部が接触又は近接しなくなった状態が所定時間経過した後、運転中のエンジンを停止する制御を行うように設ける構成にする。この構成では、オペレータが操作部材から手又は足を離し休止状態に入ったときには、その直後にエンジンストップがかからず、オペレータの手又は足が離れた状態がしばらく続いた時点でエンジンストップがかかるため、休止状態の拙速な判別によるエンジンストップの誤作動を防止することができる。
【0012】
請求項3に係る発明は、請求項1又は2記載の作業機械のエンジン制御装置において、上記操作状態検出手段に、操作部材の操作の有無だけでなく操作量をも検出するものを用いるとともに、上記制御手段を、エンジンの停止後に操作部材に対しオペレータの身体の一部が接触又は近接しかつ操作部材の操作量が所定値より小さいときエンジンを再始動する制御を行うように設ける構成にする。この構成では、エンジンの停止後でオペレータが操作部材に手又は足をかけたとき、そのことを接触・近接検出手段により検出し、この検出手段の信号を受ける制御手段において、エンジンを再始動する制御が行われるため、オペレータが操作部材に手又は足をかけた後、オペレータが安全確認のために作業機械の周囲を見渡し、操作部材を操作して作業を行うときにエンジン始動が遅れることはなく、作業再開を円滑に行うことができる。しかも、エンジンの再始動は、操作部材の操作量が所定値より小さい非操作状態ないし中立状態のときに行われるため、エンジンの再始動時に操作部材が操作位置に操作されている場合の如くエンジンの再始動と同時に作業機械が急に動き出すのを防止することができる。
【0013】
請求項4に係る発明は、請求項3記載の作業機械のエンジン制御装置において、上記アクチュエータに、その作動をロックするロック手段を有するものを用いるとともに、上記制御手段を、運転中のエンジンを停止するとき、アクチュエータの作動をロック手段によりロックし、その後エンジンを再始動するとき、ロック手段によるアクチュエータの作動ロックを解除する制御を行うように設ける構成にする。この構成では、エンジンの停止及び再始動に伴って、アクチュエータのロック手段による作動ロックとその解除との切換が制御手段の制御によって行われるため、エンジン停止時に例えば強風などでアクチュエータないし作業機械が動作するのを防止することができ、その上、エンジン再始動時でのアクチュエータの作動ないし作業機械の動作に支障を来すこともない。
【0014】
請求項5に係る発明は、請求項1ないし請求項4のいずれか一つに記載の作業機械のエンジン制御装置において、作業機械は、エンジンにより駆動される発電機と、この発電機で発生した電力を蓄電する蓄電装置と、上記発電機及び蓄電装置から電力の供給を受けるライトやエアコン圧縮機駆動用電動機などの電気機器とを更に備えたものである場合、上記制御手段を、操作部材の操作がなくかつ操作部材に対しオペレータの身体の一部が接触又は近接していないときでも、上記蓄電装置の蓄電量が所定値以下である場合、又は上記電気機器が使用されている場合には運転中のエンジンを運転状態のまま継続する制御を行うように設ける構成にする。この構成では、オペレータの休止状態が判明したときでも作業機械に装備した蓄電装置の蓄電量が少ない場合、又は電気機器が使用されている場合には、制御手段において、運転中のエンジンを停止することなく、運転状態のまま継続する制御が行われるため、蓄電装置の蓄電切れや電気機器の電力不足による使用中断が発生するのを防止することができる。
【0015】
請求項6に係る発明は、請求項1ないし請求項5のいずれか一つに記載のエンジン制御装置において、作業機械は、荷物の吊り上げ及び吊り下げ作業を行う移動式クレーンである場合、上記制御手段を、操作部材の操作がなくかつ操作部材に対しオペレータの身体の一部が接触又は近接していないときでも、吊り荷がある場合には運転中のエンジンを運転状態のまま継続する制御を行うように設ける構成にする。この構成では、オペレータの休止状態が判明したときでも移動式クレーンで吊り荷がある場合には、制御手段において、運転中のエンジンを停止することなく、運転状態のまま継続する制御が行われるため、エンジン停止により吊り荷の保持が機能しなくなり吊り荷が落下するのを防止することができる。
【発明の効果】
【0016】
以上のように、本発明による作業機械のエンジン制御装置によれば、オペレータの非操作状態の中のスタンバイ状態と休止状態とを判別し、休止状態のときにのみ運転中のエンジンを停止する制御が行われるため、休止状態でのアイドルストップの実現により燃費の改善を十分に図ることができるとともに、オペレータがスタンバイ状態から直ちに作業に入ることができ、作業効率の向上を図ることができる。
【0017】
特に、請求項2に係る発明では、オペレータが操作部材から手又は足を離し休止状態に入ったときには、その直後にエンジンストップがかからず、オペレータの手又は足が離れた状態がしばらく続いた時点でエンジンストップがかかるため、休止状態の拙速な判別によるエンジンストップの誤作動を防止することができ、作動の信頼性を高めることができる。
【0018】
請求項3に係る発明では、エンジンの停止後でオペレータが操作部材に手又は足をかけたとき、エンジンを再始動する制御が行われるため、オペレータが操作部材に手又は足をかけた後、オペレータが安全確認のために作業機械の周囲を見渡し、操作部材を操作して作業を行うときにエンジン始動が遅れることはなく、作業再開を円滑に行うことができる。しかも、エンジンの再始動は、操作部材の操作量が所定値より小さい非操作状態ないし中立状態のときに行われるため、エンジンの再始動時に操作部材が操作位置に操作されている場合の如くエンジンの再始動と同時に作業機械が急に動き出すのを防止することができ、安全性の向上を図ることができるという効果をも奏する。
【0019】
請求項4に係る発明では、エンジンの停止及び再始動に伴って、アクチュエータのロック手段による作動ロックとその解除との切換が自動的に行われるため、エンジン停止時に強風などでアクチュエータないし作業機械が動作するのを防止することができ、安全性の向上を一層図ることができる。その上、エンジン再始動時でのアクチュエータの作動ないし作業機械の動作に支障を来すことはないので、実施化を図る上で有効なものである。
【0020】
請求項5に係る発明では、オペレータの休止状態が判明したときでも作業機械に装備した蓄電装置の蓄電量が少ない場合、又は電気機器が使用されている場合には、運転中のエンジンを停止することなく運転状態のまま継続する制御が行われるため、蓄電装置の蓄電切れや電気機器の電力不足による使用中断が発生するのを防止することができ、実用性に優れた効果を奏するものである。
【0021】
さらに、請求項6に係る発明では、オペレータの休止状態が判明したときでも移動式クレーンで吊り荷がある場合には、運転中のエンジンを停止することなく運転状態のまま継続する制御が行われるため、エンジン停止により吊り荷の保持が機能しなくなり吊り荷が落下するのを防止することができ、安全性の向上をより一層図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1は本発明の実施形態に係る移動式クレーンのブロック構成図である。
【図2】図2はコントローラの制御内容を示すフローチャート図である。
【図3】図3は同じくフローチャート図である。
【図4】従来例の場合における操作レバーの操作とエンジン回転数などの変化との関係を示す特性図である。
【図5】本発明の実施形態の場合における図4相当図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を実施するための形態である実施形態を図面に基づいて説明する。
【0024】
図1は本発明の一実施形態に係るエンジン制御装置を備えた作業機械としての移動式クレーンのブロック構成を示し、1は移動式クレーンに搭載された駆動源としてのエンジン、2はこのエンジン1により駆動される油圧ポンプであり、この油圧ポンプ2から吐出される作動油は、コントロール弁3を通して油圧シリンダ4及び油圧モータ5に供給されるようになっている。
【0025】
上記油圧シリンダ4及び油圧モータ5は、共に油圧アクチュエータとして、移動式クレーンの伸縮ブームやウインチなどを駆動するものであり、実際の移動式クレーンではそれぞれ複数ずつ装備されるが、図では簡略化のために1つずつ表している。また、上記コントロール弁3は、油圧ポンプ2から油圧シリンダ4及び油圧モータ5への作動油の供給流量や圧力を制御するものであり、このコントロール弁3には、それぞれパイロットライン6,7を介して複数(図では2つ)の操作装置8,9が接続されている。
【0026】
上記各操作装置8,9は、移動式クレーンの運転室内に設けられ、オペレータが油圧シリンダ4又は油圧モータ5を用いて伸縮ブームやウインチなどの作動を操作する操作部材としての操作レバー8a,9aと、この操作レバー8a,9aの操作量に応じてパイロットライン6,7にパイロット圧を発生させるリモコン弁8b,9bとを有している。
【0027】
上記各パイロットライン6,7には、そのパイロット圧から操作レバー8a,9aの操作の有無及び操作量を検出する操作状態検出手段としてのパイロット圧センサ11が設けられているとともに、このパイロット圧センサ11よりもコントロール弁3側に比例弁12が設けられている。パイロット圧センサ11の信号は、エンジン1の制御手段としてのコントローラ13に入力するようになっている。また、比例弁12は、油圧シリンダ4及び油圧モータ5の作動をロックするロック手段としての機能を有するものであり、コントローラ13からの指令により作動ロック状態とする場合には、パイロットライン6,7をタンクに連通することでパイロット圧を零にし、操作装置8,9の操作レバー8a,9aを操作しても油圧シリンダ4及び油圧モータ5の作動をロックし、作動ロックを解除する場合にはパイロットライン6,7を、対応する操作装置8,9のリモコン弁8b,9bに連通させ、操作レバー8a,9aの操作量に応じて油圧シリンダ4又は油圧モータ5が作動する状態にする。
【0028】
上記油圧モータ5の出力軸には、上記比例弁12によるロック機能とは別に、油圧モータ5の作動をロックするロック手段としてのブレーキ装置14が設けられている。このブレーキ装置14は、機械的な構成のもので、コントローラ13の指令に基づいて作動するようになっている。また、上記各操作レバー8a,9aの先端側の握り部には、それぞれオペレータの手が操作レバー8a,9aの握り部に接触していることを検出する接触検出手段としての接触センサ15が設けられており、この接触センサ15の信号も、上記コントローラ13に入力するようになっている。
【0029】
さらに、21はエンジン1の回転数を制御するガバナ、22はエンジン1を始動するためのスタータであり、ガバナ21及びスタータ22は、コントローラ13により制御される。23はエンジン1により駆動される発電機、24はこの発電機23で発生した電力を蓄電するバッテリなどの蓄電装置、25は発電機23及び蓄電装置24から電力の供給を受ける電気機器としてのエアコン圧縮機駆動用の電動機であり、この電動機25の動作状態及び蓄電装置24の蓄電量は、共にコントローラ13に検出信号として出力される。また、26は移動式クレーンに装備されたモーメントリミッターであって、このモーメントリミッター26は、吊り荷の負荷(重量)を計測するロードセル27からの信号を受け、吊り荷の有無を検出信号としてコントローラ13に出力するものである。
【0030】
次に、上記コントローラ13によるエンジン1の制御を、図2及び図3に示すフローチャートに従って説明する。
【0031】
図2において、先ず、スタートした後、ステップS1でエンジンキーの操作位置又はエンジン1の回転数などからエンジン1が運転中であるか否かを判定する。この判定がYESのエンジン運転中のときには、更に、ステップS2でパイロット圧センサ11の信号に基づいていずれかの操作装置8,9の操作レバー8a,9aがオペレータによって操作されているか否かを判定するとともに、ステップS3で接触センサ15から接触信号があるか、つまりオペレータの手がいずれかの操作装置8,9の操作レバー8a,9aに接触しているか否かを判定する。ここで、エンジン運転中にオペレータが操作レバー8a,9aを操作していないが、操作レバー8a,9aにオペレータの手が接触している状態は、例えば作業指揮者からの合図があれば運転室内のオペレータが直ちに作業に入れるよう操作レバー8a,9aに手をかけて準備しているスタンバイ状態であり、また、エンジン運転中にオペレータが操作レバー8a,9aを操作していないだけでなく、操作レバー8a,9aにオペレータの手が接触していない状態は、しばらく作業がなく、オペレータが操作レバー8a,9aから手を離して運転室内で待機している休止状態である。
【0032】
そして、上記ステップS2の判定がYESの操作状態のとき、及びステップS2の判定がNOの非操作状態でかつステップS3の判定がYESの接触信号があるスタンバイ状態のときには、ステップS4で運転中のエンジン1を運転状態のまま継続し、リターンする。
【0033】
また、上記ステップS2の判定がNOの非操作状態でかつステップS3の判定がNOの接触信号がない休止状態のときには、更に、ステップS5で接触信号がない状態の時間が所定時間以上続いたか否かを、ステップS6で蓄電装置24の蓄電量信号に基づいてその蓄電量が所定値1以上であるか否かを、ステップS7で電気機器としての電動機25の使用信号に基づいて電動機25が使用中であるか否かを、ステップS8でモーメントリミッター26の吊り荷信号に基づいて吊り荷があるか否かをそれぞれ判定する。そして、ステップS5の判定がNOのとき、ステップS6の判定がNOのとき、ステップS7の判定がYESのとき、及びステップS8の判定がYESのときには、ステップS4へ移行してエンジン運転を継続する一方、ステップS5の判定及びステップS6の判定が共にYESでかつステップS7の判定及びステップS8の判定が共にNOのときには、ステップS9でガバナ21を介して運転中のエンジン1を停止するとともに、比例弁12によりパイロットライン6,7をタンクに連通することでパイロット圧を零にし、またブレーキ装置14を作動させることにより、油圧アクチュエータとしての油圧シリンダ4及び油圧モータ5の作動をロックし、リターンする。
【0034】
一方、上記ステップS1の判定がNOのエンジン停止中のときには、図3において、ステップS10で接触センサ15から接触信号があるか、つかりオペレータの手がいずれかの操作装置8,9の操作レバー8a,9aに接触しているか否かを判定する。この判定がYESのときには、ステップS11で更にパイロット圧センサ11の信号に基づいてその操作レバー8a,9aの操作量が所定値以下であるか否かを判定し、その判定がYESのときには、ステップS12でスタータ22によりエンジン1を再始動するとともに、比例弁12によりパイロットライン6,7を操作装置8,9のリモコン弁8b,9bに連通させ、またブレーキ装置14を非作動にすることにより、油圧シリンダ4及び油圧モータ5の作動ロックを解除し、リターンする。
【0035】
上記ステップS10の判定がNOのときには、ステップS13で蓄電装置24の蓄電量信号に基づいてその蓄電量が所定値2以下であるか否かを、ステップS14で電気機器としての電動機25の使用信号に基づいて電動機25が使用中であるか否かをそれぞれ判定する。尚、所定値2は、ステップS6の所定値1と同じ値又は異なる値のいずれに設定しても良い。
【0036】
そして、上記ステップS13の判定がYESのとき、あるいはステップS14の判定がYESのときには、ステップS11へ移行する。一方、ステップS13の判定及びステップS14の判定が共にNOのとき、あるいはステップS11の判定がNOときには、ステップS15で停止中のエンジン1を停止状態のまま継続し、リターンする。
【0037】
従って、上記実施形態においては、オペレータが運転室内に居ていずれの操作装置8,9の操作レバー8a,9aをも操作していない非操作状態のうち、例えば作業指揮者からの合図があればオペレータが直ちに作業に入れるようにいずれかの操作装置8,9の操作レバー8a,9aに手をかけて準備しているスタンバイ状態のときには、コントローラ13において、接触センサ15の信号に基づいてスタンバイ状態を判別した上で運転中のエンジン1を運転状態のまま維持する制御が行われる(ステップS4)ため、オペレータはスタンバイ状態から直ちに作業を行うことができ、その分作業効率を高めることができる。
【0038】
一方、作業がしばらくなく、オペレータがいずれの操作装置8,9の操作レバー8a,9aからも手を離し運転室内で待機している休止状態のときには、コントローラ13において、休止状態を判別した上で運転中のエンジン1を停止する制御が行われる(ステップS9)ため、休止状態でのアイドルストップを確実に実現することができ、燃費の改善を十分に図ることができる。
【0039】
その上、上記コントローラ13の制御においては、オペレータがいずれの操作装置8,9の操作レバー8a,9aからも手を離し休止状態に入ったときには、その直後にエンジン1停止がかからず、オペレータの手が離れた状態がしばらく続いた時点でエンジン1停止がかかる(ステップS5,S9)ため、休止状態の拙速な判別によるエンジン1停止の誤作動を防止することができ、作動の信頼性を高めることができる。
【0040】
さらに、上記コントローラ13の制御においては、オペレータの休止状態が判明したときでも移動式クレーンに装備した蓄電装置24の蓄電量が少ない場合、又は電気機器としての電動機25が使用されている場合には、運転中のエンジン1を停止することなく、運転状態のまま継続する制御が行われる(ステップS6,S7,S4)ため、蓄電装置24の蓄電切れや電動機25の電力不足による使用中断が発生するのを防止することができる。また、オペレータの休止状態が判明したときでも移動式クレーンに吊り荷がある場合には、運転中のエンジン1を停止することなく、運転状態のまま継続する制御が行われる(ステップS8,S4)ため、エンジン1停止により吊り荷の保持が機能しなくなり吊り荷が落下するのを防止することができ、安全性を高めることができる。
【0041】
加えて、エンジン1の停止後でオペレータがいずれかの操作装置8,9の操作レバー8a,9aに手をかけたときには、そのことを接触センサ15により早期に検出し、この接触センサ15の検出信号を受けるコントローラ13において、エンジン1を再始動する制御が行われる(ステップS10,S12)ため、オペレータがいずれかの操作装置8,9の操作レバー8a,9aに手をかけた後、オペレータが安全確認のために移動式クレーンの周囲を見渡し、操作レバー8a,9aを操作して作業を行うときにエンジン始動が遅れることはなく、作業再開を円滑に行うことができる。
【0042】
しかも、上記エンジン1の再始動は、操作レバー8a,9aの操作量が所定値より小さい非操作状態ないし中立状態のときに行われるため、エンジン1の再始動時に操作レバー8a,9aが操作位置に操作されている場合の如くエンジン1の再始動と同時に移動式クレーンの伸縮ブームやウインチなどが急に動き出すのを防止することができ、安全性の向上を一層図ることができる。
【0043】
また、エンジン1の停止及び再始動に伴って、油圧アクチュエータとしての油圧シリンダ4及び油圧モータ5のロック手段である比例弁12及びブレーキ装置14による作動ロックとその解除との切換がコントローラ13の制御によって行われる(ステップS9.SS12)ため、エンジン1の停止時に例えば強風などで油圧アクチュエータ4,5ないし移動式クレーンの伸縮ブームやウインチなどが動作するのを防止することができる。その上、エンジン1の再始動時での油圧アクチュエータ4,5の作動ないし移動式クレーンの動作に支障を来すこともなく、実施化を有効に図ることができる。
【0044】
さらに、上記コントローラ13の制御においては、エンジン1の停止後に接触センサ15から接触信号がないときでも蓄電装置24の蓄電量が少ない場合、又は電気機器としての電動機25が使用されている場合には、接触センサ15から接触信号があるときと同様にエンジン1を再始動する制御が行われる(ステップS13,S14,S12)ため、上述したエンジン運転中の休止状態のときと同じく蓄電装置の蓄電切れや電気機器の電力不足による使用中断が発生するのを防止することができ、作動の信頼性をより高めることができる。
【0045】
次に、上記実施形態の効果を、図4及び図5を参照しながら、従来のアイドルストップ制御(以下、従来例という)と比較して更に説明する。
【0046】
図4は従来例の場合における操作レバーの操作とエンジン回転数などの変化との関係を示すものである。図4において、例えば運転状態から時間t1でオペレータが操作レバーを中立に戻した場合に作業の段取りなどにより一時的に非操作状態となるが、オペレータは、操作レバーに手をかけた状態で待機し、作業指揮者からの合図があれば直ちに次の操作を行い得るように準備しているスタンバイ状態にある。
【0047】
このようなスタンバイ状態の場合、従来例では、運転状態から時間t1で操作レバーを中立に戻すと所定時間経過後t2の時点でエンジンが停止する。このため、オペレータは、作業指揮者からの合図があってもスタンバイ状態から直ちに次の作業を行うことができず、エンジンを再始動しアクチュエータないし作業機械が作業可能な状態になるまで待機する必要がある。また、スタンバイ状態では比較的短い時間で次の作業が行われるため、従来例のようにスタンバイ状態でエンジンをその都度停止させると、エンジン停止とエンジン始動とを頻繁に繰り返すことになり、バッテリなどの蓄電装置の寿命低下やエンジン再始動時の不完全燃焼による環境悪化などの問題を生じる虞がある。
【0048】
さらに、従来例では、エンジン停止状態において、操作レバーが操作されるとエンジンを再始動させるが、スタータによるエンジン始動の場合、直ちにはエンジンが始動しないため、図4に示すように、時間t3,t7において操作レバーの入力が与えられてから、実際にエンジンが始動するのは時間t4,t8になる。このため、時間t3,t7から時間t4,t8までのタイムラグΔtが生じることになり、これにより、作業を円滑に行うことができないという問題もある。また、時間t4,t8になると操作レバーの操作量がL1となり、操作レバーがかなり操作された状態でエンジンが始動するため、エンジン始動と共に作業機械が急に動き出し、作業上の危険を伴うという問題もある。
【0049】
これに対し、上記実施形態の場合、図5に示すように、スタンバイ状態ではエンジン1は停止しないため、オペレータはスタンバイ状態から直ちに次の作業を行うことができ、作業効率を高めることができる。また、スタンバイ状態から短時間で次の作業に入る場合でも、従来例の如くエンジン停止とエンジン始動とを繰り返すことはないので、蓄電装置24の寿命低下やエンジン再始動時の不完全燃焼による環境悪化などの問題を未然に解消することができる。
【0050】
その上、エンジン停止状態からオペレータが作業を開始する場合には、オペレータは、先ず準備として操作レバー8a,9aに手を添える。上記実施形態の場合、接触センサ15によりこの状態を検出してエンジン1を始動させるため、図5において、時間t15でスタータ22が作動し、若干遅れた時間t16にはエンジン1が始動する。このため、オペレータが実際に操作レバー8a,9aを操作する時点では概ねエンジン1の始動が完了しており、移動式クレーンのアクチュエータである油圧シリンダ4及び油圧モータ5はオペレータの操作により直ちに作動する。それ故、従来例の如く操作レバー8a,9aの入力からエンジン1が始動するまでのタイムラグΔtにより、作業を円滑に行うことができないという問題を解消することができ、また、従来例の如く操作レバー8a,9aがかなり操作された状態でエンジン1が始動することにより移動式クレーンが急に動き出すという安全上の問題も解消することができる。
【0051】
尚、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その他種々の形態を包含するものである。例えば上記実施形態では、エンジン運転中での非操作状態をスタンバイ状態と休止状態とに判別するために、運転室内に設けられる複数の操作レバー8a,9aの全てに接触センサ15を設ける構成にしたが、本発明は、操作レバー8a,9aとは別に、運転室内に設けられる複数の操作ペダル又はその他の操作部材に、接触センサ、又はオペレータの手や足が近接したことを検知する近接センサを設けるようにしてもよい。また、センサなどの接触・近接検出手段は、運転室内の複数の操作部材の全てに必ずしも設ける必要はなく、オペレータがスタンバイ状態に接触又は近接する操作部材のみに設けてもよいのは勿論である。
【0052】
また、上記実施形態では、作業機械としての移動式クレーンに適用した場合について述べたが、本発明は、移動式クレーンに限らず、ショベルやその他の作業機械ないし建設機械にも同様に適用することができる。その場合、エンジンにより駆動させるアクチュエータとしては、実施形態の如く油圧アクチュエータである油圧シリンダ4及び油圧モータ5に限らず、電動機などを用いた場合でも良い。
【0053】
さらに、上記実施形態では、操作装置8,9を、運転室内に設けられた操作部材としての操作レバー8a,9aと、この操作レバー8a,9aの操作量に応じてパイロットライン6,7にパイロット圧を発生させるリモコン弁8b,9bとによって構成したが、本発明は、この場合に限らず、例えばリモコン弁8b,9bの代わりに、操作レバー8a,9aの操作量を電気信号に変換してコントローラ13に取り込み、コントローラ13からの指令によりコントロール弁3を制御するいわゆる電気レバーの方式を用いてなる場合、あるいは操作レバー8a,9aとコントロール弁3とをリンクなどで連結し、操作レバー8a,9aの操作量をメカ的にコントロール弁3に伝達する方式を用いてなる場合などに適用することができる。このような場合、本発明にいう操作状態検出手段は、操作レバー8a,9aの操作量を電気信号に変換してコントローラ13に取り込むための変換器、あるいは操作量伝達機構の部材の変位量を検出するセンサなどが該当することになる。
【0054】
加えて、上記実施形態では、エンジン1の再始動と同時に、比例弁12及びブレーキ装置14により油圧シリンダ4及び油圧モータ5の作動ロックを解除するように制御を行っている(図3のステップS12)が、この作動ロックを解除するに当たっては、コントローラ13からエンジン再始動指令を出力した後、スタータ22によりエンジン1が再始動し、この再始動が完了した段階で全ての操作レバー8a,9aの操作量が所定値以下である場合にロック解除を行うことが好ましい。この場合には、エンジン1の再始動指令後スタータ22によりエンジン1が再始動するまでにタイムラグがあることに起因して、エンジン1の再始動と同時に油圧シリンダ4などが急に動き出すのをより確実に防止することができる。また、エンジン1の停止時及び再始動時にオペレータに音声やモニター表示により案内を行っても良いのは勿論である。
【符号の説明】
【0055】
1 エンジン
4 油圧シリンダ(アクチュエータ)
5 油圧モータ(アクチュエータ)
8,9 操作装置
8a,9a 操作レバー(操作部材)
11 パイロット圧センサ(操作状態検出手段)
12 比例弁(ロック手段)
13 コントローラ(制御手段)
14 ブレーキ装置(ロック手段)
15 接触センサ(接触検出手段)
23 発電機
24 蓄電装置
25 電動機(電気機器)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンにより駆動されるアクチュエータと、このアクチュエータの作動をオペレータが操作するために運転室内に設けられた操作部材とを備えた作業機械において、
上記操作部材の操作の有無を検出する操作状態検出手段と、上記操作部材に対しオペレータの身体の一部が接触又は近接していることを検出する接触・近接検出手段と、上記両検出手段からの信号を受ける制御手段とを備えており、
上記制御手段は、操作部材の操作がなくかつ操作部材に対しオペレータの身体の一部が接触又は近接していないときには運転中のエンジンを停止する制御を行い、操作部材の操作がないが操作部材に対しオペレータの身体の一部が接触又は近接しているときには運転中のエンジンを運転状態のまま継続する制御を行うように設けられていることを特徴とする作業機械のエンジン制御装置。
【請求項2】
上記制御手段は、操作部材の操作がなくかつ操作部材に対しオペレータの身体の一部が接触又は近接しなくなった直後は運転中のエンジンを運転状態のまま継続し、オペレータの身体の一部が接触又は近接しなくなった状態が所定時間経過した後、運転中のエンジンを停止する制御を行うように設けられている請求項1記載の作業機械のエンジン制御装置。
【請求項3】
上記操作状態検出手段は、操作部材の操作の有無だけでなく操作量をも検出するものであり、上記制御手段は、エンジンの停止後に操作部材に対しオペレータの身体の一部が接触又は近接しかつ操作部材の操作量が所定値より小さいときエンジンを再始動する制御を行うように設けられている請求項1又は2記載の作業機械のエンジン制御装置。
【請求項4】
上記アクチュエータは、その作動をロックするロック手段を有するものであり、上記制御手段は、運転中のエンジンを停止するとき、アクチュエータの作動をロック手段によりロックし、その後エンジンを再始動するとき、ロック手段によるアクチュエータの作動ロックを解除する制御を行うように設けられている請求項3記載の作業機械のエンジン制御装置。
【請求項5】
作業機械は、エンジンにより駆動される発電機と、この発電機で発生した電力を蓄電する蓄電装置と、上記発電機及び蓄電装置から電力の供給を受ける電気機器とを更に備えたものであり、上記制御手段は、操作部材の操作がなくかつ操作部材に対しオペレータの身体の一部が接触又は近接していないときでも、上記蓄電装置の蓄電量が所定値以下である場合、又は上記電気機器が使用されている場合には運転中のエンジンを運転状態のまま継続する制御を行うように設けられている請求項1ないし請求項4のいずれか一つに記載の作業機械のエンジン制御装置。
【請求項6】
作業機械は、荷物の吊り上げ及び吊り下げ作業を行う移動式クレーンであり、上記制御手段は、操作部材の操作がなくかつ操作部材に対しオペレータの身体の一部が接触又は近接していないときでも、吊り荷がある場合には運転中のエンジンを運転状態のまま継続する制御を行うように設けられている請求項1ないし請求項5のいずれか一つに記載のエンジン制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−208568(P2011−208568A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−76691(P2010−76691)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(304020362)コベルコクレーン株式会社 (296)
【Fターム(参考)】