説明

作業機

【課題】効率よくDPFの再生を行うことができると共にDPFに堆積した粒子状物質の堆積量の増加を抑制することができるようにする。
【解決手段】エンジン9が作動していて乗車確認手段52で乗車が確認された状態では、フィルタ再生手段50によって粒子状物質を燃焼させて除去する再生動作を行うことを許可する再生許可手段51と、エンジン9が作動していて乗車確認手段52で乗車が確認できない状態では、エンジン9を停止させてフィルタに堆積した粒子状物質の堆積量の増加を抑制する堆積抑制手段54とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディーゼルパーティキュレートフィルタ(DPF)を備えたバックホー、ホイルローダ、及びトラクタ等の作業機に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の環境問題を改善及び解決するために、ディーゼルエンジンなどに対する排出ガス規制が強化されている。建設機械や農業機械などの作業機においても、このような排出ガス規制に対処するために排出ガスに含まれる粒子状物質(パーティキュレート)を低減させる技術が様々に開発されている。
一般的にディーゼルエンジンには、排出ガスに含まれる粒子状物質を捕集する排出ガス浄化装置が設けられている。排出ガス浄化装置は、排出ガスを内部に設けたディーゼルパーティキュレートフィルタ(DPF)に通過させて粒子状物質を捕集する。この捕集された粒子状物質は排出ガス浄化装置のDPFに徐々に堆積するので、DPFが目詰まりを起こして排気系の空気抵抗が大きくならないように、粒子状物質を適宜除去してDPFを再生しなくてはならない。
【0003】
このようなDPFの再生に関する技術として特許文献1や特許文献2に示すものがある。
特許文献1は、コモンレール式のディーゼルエンジンにおいて、DPFの再生処理時に吸気スロットルの絞り(吸排気弁の絞り)やポスト噴射を行って再生が完了したらエンジンを自動的に停止させる技術である。
【0004】
特許文献2は、建設機械の稼働中にエンジンの動作状態に基づきDPFの目詰まりを判断して、DPFの目詰まり時にエンジンを停止させずにDPFの再生を行う技術である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−127253号公報
【特許文献2】特開2010−270611号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1及び特許文献2も、エンジンを作動させてDPFの再生を行うものであるが、これらの技術は、DPFの再生処理(再生動作)でDPFの堆積量(PM堆積量)を低減することのみに着目した技術である。つまり、これらの技術では、DPFの再生動作によってPM堆積量の低減を行う処理は積極的に行っているものの、もともと、PM堆積量が増加しないように処理することは考えられていないのが実情である。
【0007】
そこで、本発明は、効率よくDPFなどのフィルタの再生を行って堆積量(PM堆積量)の減少を行うと共に、さらに、DPFに堆積した粒子状物質の堆積量(PM堆積量)の増加も抑制することができる作業機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために、本発明は、次の手段を講じた。
即ち、本発明における課題解決のための技術的手段は、ディーゼルエンジンから排出された排出ガスに含まれる粒子状物質を捕集するフィルタを備えた排出ガス浄化装置と、前記排出ガス浄化装置のフィルタに堆積した粒子状物質を燃焼させて除去するフィルタ再生手段と、乗車を確認する乗車確認手段とを備えた作業機であって、前記エンジンが作動していて前記乗車確認手段で前記乗車が確認された状態では、前記フィルタ再生手段によって前記粒子状物質を燃焼させて除去する再生動作を行うことを許可する再生許可手段と、前記エンジンが作動していて前記乗車確認手段で乗車が確認できない状態では、エンジンを停止させて前記フィルタに堆積した粒子状物質の堆積量の増加を抑制する堆積抑制手段とを備えていることを特徴とする。
【0009】
前記堆積抑制手段は、エンジンが作動していて前記乗車が確認されない状態が所定時間
続くと、エンジンを停止させることが好ましい。
前記堆積抑制手段は、エンジンが作動していて前記乗車が確認されない状態で前記堆積量が増加傾向にあると、エンジンを停止させることが好ましい。
前記フィルタ再生手段は、前記フィルタに堆積した粒子状物質の堆積量が所定値以上となったときに、前記再生動作を自動的に行う自動再生モードを有していることが好ましい。
【0010】
前記フィルタ再生手段は、前記自動再生モードを実行している段階で、さらに、前記堆積量が自動再生モード前よりも増加傾向にあるときに、前記ディーゼルエンジンに対して出力を制限する出力制限モードを備えていることが好ましい。
前記フィルタ再生手段は、前記再生動作の補足として前記ディーゼルエンジンの回転数を上げることを報知する再生動作補足モードを備えていることが好ましい。
【0011】
前記堆積抑制手段にてエンジンの停止させた後にエンジンの再作動ができるように構成されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
請求項1によれば、効率よくDPFなどのフィルタの再生を行って堆積量(PM堆積量)の減少を行うと共に、さらに、DPFに堆積した粒子状物質の堆積量(PM堆積量)の増加も抑制することができる。
請求項2によれば、例えば、作業者が休憩のためや一時的に作業を中断するためにエンジンを掛けたまま長時間降車(乗車が確認できない状態)している場合におけるPM堆積量の増加を抑制(防止)することができる。
【0013】
請求項3によれば、例えば、作業者が降車中であってPM堆積量が増加傾向にあるときのみエンジンを停止してPM堆積量の増加を抑制することができる。
請求項4によれば、粒子状物質を自動的に燃焼させてPM堆積量を減少させることができる。
請求項5によれば、多大なPM堆積量の増加を抑制することができる。
【0014】
請求項6によれば、作業者にエンジンの回転数の上昇を促すことによって、手動でエンジン回転数を上昇させることにより排気温度が上がるため、DPFの再生を促進することができる。
請求項7によれば、強制的にエンジンを停止したとしても、再びエンジンを始動することができ、一時的に作業を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】第1実施形態における排出ガス浄化装置の構成を示す図である。
【図2】PM堆積量の推移(変化)を示す図である。
【図3】第2実施形態における排出ガス浄化装置の構成を示す図である。
【図4】バックホーの全体側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、図面を参照しながら、本発明の各実施形態を説明する。
[第1実施形態]
本発明の作業機は、ディーゼルパーティキュレートフィルタ(DPF)を備えると共に、このDPFに堆積した粒子状物質を燃焼させて除去する手段を備えたものである。このような作業機としては、バックホーやコンパクトトラックローダ(CTL)などの建設機械、及びトラクタなどの農業機械であるが、下記に示すように、作業機としてバックホーを例にとり説明する。
【0017】
図4は、バックホー1の全体構成を示す側面図で、図4に示すように、バックホー1は、下部の走行装置2と、上部の旋回体3とを備えている。
走行装置2は、ゴム製覆帯を有する左右一対の走行体4を備えたクローラ式走行装置である。また、走行装置2の前部にはドーザ5が設けられている。
旋回体3は、走行装置2上に旋回ベアリング6を介して上下方向の旋回軸回りに左右旋回自在に支持された旋回台7と、旋回台7の前部に備えられた作業装置8(掘削装置)とを有している。旋回台7上には、ディーゼルエンジン9、ラジエータ、運転席10、燃料
タンク、作動油タンク、作動油タンクからの作動油を制御する制御弁等が設けられている。運転席10の周囲には、バックホー1に関する様々な情報を表示する表示装置11が設けられている。運転席10は、旋回台7上に設けられたキャビン12により囲まれている。
【0018】
作業装置8は、旋回台7の前部に設けられた支持ブラケット13に左右揺動自在に支持されたスイングブラケット14と、上下揺動自在となるように基部側がスイングブラケット14に支持されたブーム15とを備えている。ブーム15の先端側には、前後揺動自在となるようにアーム16が支持されており、アーム16の先端側に、スクイ・ダンプ動作が可能となるようにバケット17が設けられている。
【0019】
スイングブラケット14は、旋回台12内に備えられたスイングシリンダの伸縮によって揺動される。ブーム15は、ブーム15とスイングブラケット14との間に介装されたブームシリンダ18の伸縮によって揺動される。アーム16は、アーム16とブーム15との間に介装されたアームシリンダ19の伸縮によって揺動される。バケット17は、バケット17とアーム16との間に介装されたバケットシリンダ20の伸縮によってスクイ・ダンプ動作される。
【0020】
スイングシリンダ、ブームシリンダ18、アームシリンダ19、及びバケットシリンダ20の各シリンダは、制御弁によって流量が制御された作動油によって伸縮動作するように構成されている。
図1は、ディーゼルエンジン及びディーゼルエンジンの排気系の構造を示したものである。ディーゼルエンジンの排気系について説明する。なお、ディーゼルエンジン9は、複数のシリンダ(気筒)を有する多気筒エンジンである場合が多いが、図1では、そのうちの1つのシリンダ34だけの構成を示し説明する。
【0021】
図1に示すように、ディーゼルエンジン9のシリンダ34の上部には、当該シリンダ34内に空気を導入するための開口である吸気ポート35が形成されると共に、燃焼後のガス(燃焼ガス)をシリンダ34から排出するための開口である排気ポート36が形成されている。さらにシリンダ34の上部には、吸気ポート34を開閉するための吸気バルブ37と、排気ポート36を開閉するための排気バルブ38とが設けられている。
【0022】
吸気ポート35には、シリンダ34内に導入される空気の流路となる管状の吸気マニホールド39が接続されている。また、排気ポート36には、シリンダ34から排出される燃焼ガスの流路となる管状の排気マニホールド30が接続されている。排気マニホールド30の端部には排気音を低減するためのサイレンサ40が設けられていて、燃焼ガスはサイレンサ40を通過して環境中に排出される。
【0023】
排気マニホールド30において、排気ポート36とサイレンサ40との間には排出ガス浄化装置31が設けられている。排出ガス浄化装置31は、通過する排出ガスに含まれる粒子状物質(PM)を捕集して浄化するものである。つまり、シリンダ34から排気ポート36を経て排出された燃焼ガスは、排出ガスとなって排気マニホールド30を通り、排出ガス浄化装置31で浄化されてサイレンサ40に至る。
【0024】
この排出ガス浄化装置31は、内部にディーゼルパーティキュレートフィルタ(DPF)41を有している。DPF41は、排出ガスに含まれる粒子状物質(PM)を捕集するためのフィルタであり、例えば、セラミック製で断面がハニカム構造となるように形成されている。つまり、DPF41の一端から他端にわたる長手方向に沿って、例えば六角柱のストロー状の多角形貫通孔が多数隣接しており、各貫通孔内には、DPF41の長手方向に沿って所定間隔で多孔質の隔壁が設けられている。このようなハニカム構造を有するDPF41は、貫通孔内に形成された隔壁のDPF41の長手方向における位置が、隣り合う貫通孔に形成された隔壁の位置とは異なるように構成されている。
【0025】
DPF41の一端側から進入した排出ガスは、貫通孔内に形成された多孔質の隔壁を通過しつつDPF41の他端側へ向かって流れる。排出ガスに含まれる粒子状物質は、多孔質の隔壁に付着したり、貫通孔の内壁に付着したりすることでDPF41に捕集されて堆積する。つまり、DPF41は、堆積した粒子状物質の量が多くなると目詰まりを起こす構造を有しているので、粒子状物質の堆積量が多くなり過ぎないように適宜クリーニング
をしなくてはならない。
【0026】
本実施形態では、このDPF41のクリーニングを「DPFの再生」といい、そのための動作を「DPFの再生動作」という。DPF41の再生では、DPF41の温度を所定温度以上に上昇させることで堆積した粒子状物質を燃焼させてガス化し、排出ガスとともに環境中に排出する。
排出ガス浄化装置31は、このDPF41の他に、図示はしないが、粒子状物質中の燃料及び燃焼ガス中の窒素酸化物を酸化するための酸化触媒などを有している。
【0027】
排出ガス浄化装置31の入側には、排出ガス浄化装置31の入口付近の排気圧力を検出する入側圧力センサ42が設けられ、出側には出口付近の排気圧力を検出する出側圧力センサ43が設けられている。入側圧力センサ及び出側圧力センサは、例えば圧電素子などで構成される一般的な圧力センサである。入側圧力センサ及び出側圧力センサは、次に説明する差圧センサに接続されている。
【0028】
差圧センサ44は、入側圧力センサが検出した排気圧力と、出側圧力センサが検出した排気圧力とから、排出ガス浄化装置31の入側と出側での排気圧力の差、つまり差圧を検出する。一般に、DPF41に粒子状物質の堆積がなく目詰まりがない場合、DPF41による圧力損失は小さいので、入側圧力センサと出側圧力センサが検出した排気圧力との差はわずかであり、差圧センサが検出する差圧も小さな値となる。しかし、DPF41に粒子状物質が堆積し目詰まりの程度が大きくなってくると、DPF41による圧力損失が大きくなるので差圧センサが検出する差圧も大きくなる。この差圧の大きさは、DPF41の目詰まりの程度に対応するので、差圧の大きさを、DPF41の目詰まりの程度、すなわちDPF41における粒子状物質の堆積量に換算することができる。
【0029】
図1に示すように、ディーゼルエンジン9と排出ガス浄化装置31とをつなぐ排気マニホールド30には、ディーゼルエンジン9から排出されて排出ガス浄化装置31へ向かう燃焼ガスの温度(排気温度)を検出する排気温度センサ45が設けられている。排気温度センサは、例えばサーミスタなどから構成されている。
上述のような差圧センサが検出した差圧や排気温度センサが検出した排気温度は、制御部46へ送られ、この制御部46によってDPFの再生をするための制御を行う。なお、DPFの再生の制御については後述する。
【0030】
制御部46は、DPFの再生のための制御の他、バックホー1の全体を制御するものである。この制御部46は、複数の制御装置(ECU)から構成されたもので、例えば、ディーゼルエンジン9を制御するエンジンECU32と、バックホー1全体の動作を制御するメインECU33とを有している。これらエンジンECU32及びメインECU33は、例えば、CPU等から構成されている。
【0031】
エンジンECU32は、ディーゼルエンジン9や動力伝達系の各所に設置したセンサから情報を得て、ディーゼルエンジン9の状態に応じた最適な燃料噴射量や噴射時期、点火時期、アイドル回転数などを演算してディーゼルエンジン9等に制御指令を出すものである。当然の如く、ディーゼルエンジン9において、運転席10の周囲に設けたアクセルレバーを操作することによって(アクセル操作を行うことによって)、エンジン回転数を上昇させることができる。
【0032】
エンジンECU32に情報を提供するセンサとしては、アクセル開度を検出するアクセル開度センサ、排出ガス浄化装置31の差圧を検出する差圧センサ44、排気温度を検出する排気温度センサ45、吸入空気量を検出するためのエアフロメータ、エンジン回転数を検出するためのクランクポジションセンサ、冷却水の水温を検出するための水温センサ、バルブの開度を検出するためのスロットルポジションセンサなどがある。これら以外にも、クランク位置を検出するためのカムポジションセンサ、吸入空気中の酸素濃度を検出する酸素濃度センサなどがある。
【0033】
メインECU33は、エンジンECU32と連携しながらバックホー1に備えられた各種装置(走行装置、作業装置など)を制御するものである。例えば、メインECU33では、スイングシリンダ、ブームシリンダ18、アームシリンダ19及びバケットシリンダ20などの各シリンダに所定の作動油を供給する流量制御を行う。
この流量制御は、運転席10の周囲に設けられた操作部材(操作レバー)47の操作量に基づいて行うもので、詳しくは、操作レバー47を中立位置より一方(左側)に揺動させて左側の操作量を入力すると、操作したアクチュエータ(スイングシリンダ、ブームシリンダ18、アームシリンダ19及びバケットシリンダ20)に対応する電磁比例弁のソレノイドに所定値の電流(作動信号)を出力する。そうすると、電磁比例弁は電流値に応じて開き、操作したアクチュエータに対応する制御弁のパイロット圧が制御され、アクチュエータが一方に動作する。操作レバー4733を中立位置より上記とは反対側に揺動させて右側の操作量を入力すると、左側に揺動したときとは反対側にアクチュエータを動作させる。このように、操作レバー47を操作することによって、バックホー1を作動させることができる。
【0034】
このように、エンジンECU32によってディーゼルエンジン9を制御すると共に、メインECU33によって作業装置などの各種装置を制御することにより、バックホー1を動作させることができる。なお、エンジンECU32やメインECU33による制御は、上述したものに限定されないのは当然のことである。
さて、上述したように、制御部46はDPFの再生を行うための制御も行う。以下、DPFの再生について詳しく説明する。
【0035】
制御部46には、排出ガス浄化装置31のDPF41の再生を行うフィルタ再生手段50が設けられている。具体的には、制御部46を構成するメインECU33にフィルタ再生手段50が具備され、このフィルタ再生手段50は、メインECU33に格納されたプログラム等により構成されている。
フィルタ再生手段50は、DPF41に堆積する粒子状物質の堆積量(PM堆積量という)が所定量以上(閾値以上)になると、フィルタに堆積した粒子状物質を燃焼させて除去するために、ディーゼルエンジン9や排出ガス浄化装置31を制御し、堆積量を減少させるための処理(再生動作)を自動的に行う。つまり、図2に示すように、フィルタ再生手段50は、PM堆積量が予め定められた閾値以上になると、自動再生モードが起動して、DPFの再生の制御を開始する。
【0036】
この自動再生モードでは、ディーゼルエンジン9の吸気スロットルを絞ることによって排気温度を上昇させて粒子状物質を燃焼させるという「吸気スロットルの絞り」を行ったり、燃焼後のガスに燃料を噴射することによって排気温度を上昇させて粒子状物質を燃焼させるという「ポスト噴射」を行う。
また、フィルタ再生手段50では、自動再生モードを実行している段階で、さらに、PM堆積量が徐々に増加するなどの増加傾向にあるときは、ディーゼルエンジン9の出力を制限する出力制限モードを起動することとなっている。
【0037】
図2に示すように、自動再生モードを開始後、所定時間内でのPM堆積量が増加しているとき(PM堆積量の推移線が右肩上がりとなっているとき)は、出力制限モードが働く。
例えば、自動再生モードの開始後、10秒毎にPM堆積量を算出し、算出した10秒毎のPM堆積量が連続的に増加している場合、自動再生モードの開始時のPM堆積量と60秒後のPM堆積量とを比較して60秒後のPM堆積量が大きい場合、PM堆積量を数秒毎にプロットして推移線を作成し、その推移線の傾きがプラス(PM堆積量の推移線が右肩上がり)になっている場合などは、PM堆積量が増加傾向であるとされ、出力制限モードが働く。
【0038】
出力制限モードが働くと、出力制限モードによってディーゼルエンジン9の最大出力を所定値以下(例えば、規定最大出力の50%以下)に制限する馬力制限をエンジンECU32に指示する。この出力制限モードでは、自動再生モードによってPM堆積量の低減を継続しつつ、エンジン9によるPM堆積量の増加をできるだけ抑えている。即ち、出力制限モードでは、再生動作によってPM堆積量を低減させる(燃焼によって減らす)と共にエンジン9の作動を抑制すること(排出ガスの量を抑える)によってPM堆積量の増加を抑えることにより、全体のPM堆積量の増加を抑制することとしている。
【0039】
このように、フィルタ再生手段50によってDPFの再生動作を行うことにより、DF
PのPM堆積量を減少させることができるものとなっているが、本発明では、フィルタ再生手段50によるDPFの再生動作を許可するための再生許可手段51が具備されている。
この再生許可手段51は、作業者がバックホー(作業機)1に乗っている状態、即ち、作業者の乗車が確認された状態にてフィルタ再生手段50による再生動作を許可するもので、例えば、フィルタ再生手段50と同じくメインECU33に格納されたプログラム等により構成されている。
【0040】
詳しく説明すると、まず、バックホー1には、作業者がバックホー1に乗車しているか否かを確認するための乗車確認手段52が具備されている。
この乗車確認手段52は、運転席10の側方に揺動自在に支持されたレバーを有していて、レバー52を横倒しにして乗車口を遮断したときは作業者は乗車している(乗車状態)とされ、レバー52を起こして(起立させて)乗車口を非遮断としたときは作業者は乗車していない(降車状態)とされている。乗車確認手段52において作業者が乗車状態であるか降車状態であるかの信号、即ち、レバー52が横倒しであるかレバー52が起きているかの信号はメインECU33に入力される。
【0041】
ここで、再生許可手段51は、エンジン9が作動していて乗車状態であるときは、フィルタ再生手段50による自動再生を行うことを許可することとしている。
さらに詳しくは、まず、レバー52を起こした状態で作業者が運転席10に乗車し、その後、レバー52を横倒しにすると共にエンジン9を始動したとき、再生許可手段51はフィルタ再生手段50による再生動作を許可状態にする。フィルタ再生手段50は、許可状態となっているときに、PM堆積量が閾値を超えると、自動再生モードや出力制限モードを起動し、「吸気スロットルの絞り」や「ポスト噴射」を行うことによりDPFの再生を行う。したがって、作業者がバックボー1に乗車後、作業者が操作レバー47を動かして作業を行っているときなどは、DPFの再生を自動的に行うことができる。
【0042】
ここで、作業者は、操作レバー47の操作を一時的に止めてバックホー1から降車し、再び、バックホー1に乗車して操作を再開する場合もある。そのため、本発明では、再生許可手段51による許可状態は、仮に作業者が一時的に降車したとしても、直ちに許可状態は解除されないようになっており、乗車→降車→乗車を繰り返し行いながら作業を行うような場合でも、許可状態は保持されるようになっている。例えば、エンジン9を始動後、エンジン9を停止させるまでは、作業者が乗車や降車を繰り返したとしても許可状態は保持され、再生許可手段51による許可状態は、エンジン9を停止させると自動的に解除される。
【0043】
このように、本発明のバックホー1では、フィルタ再生手段50によるDPFの再生を行うことができるようになっているが、DPFの再生を行う動作とは別に、DPFに堆積した粒子状物質の堆積量の増加を抑制するための堆積抑制手段54が具備されている。この堆積抑制手段54は、フィルタ再生手段50と同じくメインECU33に格納されたプログラム等により構成されている。
【0044】
堆積抑制手段54は、エンジン9を強制的に停止させることによって、DPFに堆積した粒子状物質の堆積量の増加を抑制するものである。この堆積抑制手段54によるエンジン停止のパターンは複数あるため、順に説明する。なお、バックホー1に備えた堆積抑制手段54は、下記に示すパターンのいずれか1つを行うものであればよい。
第1パターンにおける堆積抑制手段54は、エンジン9が作動している状態で且つ作業者の降車状態が、所定時間(例えば、60秒)続くとエンジン9を停止させる。詳しくは、堆積抑制手段54は、メインECU33に入力されているエンジン回転数が零よりも大きく乗車確認手段52による作業者の乗車が無しとする信号がメインECU33に入力されている状態(エンジン作動降車状態)が、60秒以上連続して続くと、エンジン停止の信号をエンジンECUに出力し、エンジン9を強制停止させる。なお、堆積抑制手段54によってエンジン停止を判断するための降車状態の時間長さ(前記所定時間)は、バックホー1の作業性やエンジン9の作動放置状態でのPM堆積量の増加具合などによって設定されるもので、当然の如く上述したように60秒に限定されない。例えば、前記所定時
間を300秒にしてもよい。また、降車状態の時間長さは、表示装置11を操作することによって任意に設定できるようにしてもよい。
【0045】
第2パターンにおける堆積抑制手段54は、エンジン9が作動している状態で且つ作業者が降車状態であるとき、PM堆積量が増加傾向にあると、エンジン9を停止させる。詳しくは、堆積抑制手段54は、エンジン作動降車状態であるときにPM堆積量の推移を監視する。そして、堆積抑制手段54は、図2に示したと同じように、エンジン9を始動後にPM堆積量の推移線が右肩上がりとなっていると、エンジン停止の信号をエンジンECUに出力し、エンジンを強制停止させる。
【0046】
このように、フィルタ再生手段50とは別に、堆積抑制手段54を設けることによって不用意にPM堆積量が増加することを防止することができる。
例えば、バックホー1を暖気(暖気運転)するために作業者がバックホー1に乗車してエンジン9を掛けた後、バックホー1から降車し、作業者はしばらく休憩することがある。作業者がバックホー1の暖気をしていることを忘れ、アイドリングの回転数でエンジン9を回転し続けると、PM堆積量が次第に増加してしまう虞がある。
【0047】
第1パターンの堆積抑制手段54ではエンジン作動降車状態が60秒続くと、自動的にエンジン9を停止させるため、作業者が暖気をしていることを忘れることによってPM堆積量が増加してしまうのを早い段階から防止することができる。
また、第2パターンの堆積抑制手段54ではエンジン作動降車状態であってPM堆積量が増加傾向にあるときに自動的にエンジン9を停止させているため、作業者が暖気をしていることを忘れることによってPM堆積量が増加してしまうのを防止することができる。特に、パターン2の堆積抑制手段54では、実際にPM堆積量が増加している状況下であるときにエンジン9を停止しているため、できるかぎり、暖気の時間を確保することができる。
【0048】
また、上述したように、作業者が乗車して作業を行った後、一旦、作業者がエンジン9を掛けたまま降車し、再び乗車することがある。作業者がエンジン9を掛けたまま降車して再び乗車するまでの時間が長く、これによって、PM堆積量が増加する場合がある。このような場合でも、堆積抑制手段54によって、エンジン9を停止するようにしているため、作業者の降車後のPM堆積量の増加を防止することができる。
【0049】
なお、上述したように、バックホー1の暖気による降車時や作業中における一時的な降車時において、エンジン9が作動し続けていてPM堆積量が増加していると考えられる状況下では、堆積抑制手段54にてエンジン9の停止を行うようになっているが、当該堆積抑制手段54によるエンジン停止後、再び作業者が乗車してエンジン9を掛けると、エンジン9は堆積抑制手段54によるエンジン9の停止に関係なく優先して再始動するようになっている。エンジン9の再始動後であっても、堆積抑制手段54によってエンジン9を停止させる条件が再び揃うとエンジン9は停止する。
【0050】
さて、上述した実施形態では、フィルタ再生手段50が自動再生モードと出力制限モードとを備えていたが、フィルタ再生手段50は、自動再生モードや出力制限モードの他に再生動作補足モードを備えていてもよい。
再生動作補足モードとは、吸気スロットルの絞りやポスト噴射を行って再生動作を行うに際し、これらの動作とは別に、エンジン9の回転を上げることによって排気温度の上昇を促すものである。
【0051】
詳しくは、フィルタ再生手段50による再生動作が許可され、フィルタ再生手段50によって自動再生モードが起動しているときに、再生動作補足モードも起動する。そうすると、再生動作補足モードの起動によって表示装置11にエンジン9の回転数を上げることを報知する報知画面が表示される。作業者は乗車すると、エンジン9を上昇させることを促す報知画面を見ることができ、例えば、エンジン回転数を上昇させるアクセルレバーを操作することによって、作業者自ら手動によってエンジン回転数を上昇させることができる。エンジン回転数が上昇すると、排気温度は上昇することになるため、自動再生モードによるDPFの再生が促進される。
【0052】
再生動作補足モードでは、エンジン回転数の上昇は自動ではなく、作業者によるアクセ
ルレバーの操作によって手動で行うこととしている。作業者は、DPFの再生に対する補足動作(エンジン回転数の上昇)を行いたいときに自由に実行することができ、DPFの再生によって操作が邪魔されるなどの煩わしさを軽減することができる。
例えば、作業者はDPFの再生に対する補足動作(エンジン回転数の上昇)を行うにあたって、まず、操作レバー47による操作を行っているときはそのまま操作レバー47による操作を続け、操作レバー47による操作がひとだんらくした後に、アクセルレバーを操作してエンジン回転数の上昇をさせることができ、作業者にとっては、操作レバー47の操作がDPFの再生によって邪魔されることがないため、操作性を低下させることなく、DPFの再生の促進をすることができる。
[第2実施形態]
第1実施形態ではフィルタ再生手段50は、PM堆積量が閾値以上になると自動再生モードとなって自動的に再生動作となるが、第2実施形態のフィルタ再生手段50は自動ではなく手動で再生動作させるものである。なお、第1実施形態と構成が同じ部分は説明を省略する。
【0053】
図3は、第2実施形態における排出ガス浄化装置の構成を示したものである。図3に示すように、メインECU33には、フィルタ再生手段50による再生動作を指示するための再生スイッチ55が接続されている。この再生スイッチ55は、例えば、押しボタン式であってフィルタ再生手段50による再生動作を行う必要があるときはLED等から構成されたバックライトが点灯又は点滅するようになっており、再生スイッチ55を押すと、フィルタ再生手段50に再生動作を指示を行うようになっている。
【0054】
この実施形態では、再生許可手段51は、乗車確認手段52によって乗車が確認され(乗車状態)ると、フィルタ再生手段50による再生動作を許可状態にする。そして、フィルタ再生手段50は、許可状態になっていてPM堆積量が閾値以上になり再生動作が必要になると、再生スイッチ55に対してバックライトを点灯又は点滅させ、再生スイッチ55を押すことを促す。
【0055】
作業者が再生スイッチ55が点滅又は点灯したのに気付き、再生スイッチ55を押すとフィルタ再生手段50は、当該再生スイッチ55の手動操作による指示によりDPFの再生の制御を開始する(吸気スロットルの絞りやポスト噴射を開始する)。なお、再生スイッチ55が点灯又は点滅してないとき、即ち、フィルタ再生手段50による再生動作の必要性がないときに、再生スイッチ55を押したとしてもフィルタ再生手段50による再生動作は行わないようになっている。
【0056】
このように、作業者が再生スイッチ55を押すことによってフィルタ再生手段50による再生動作を行うことができる。このような場合でも、バックホー1の暖気中などで作業者が長時間降車している状態では、堆積抑制手段54によってエンジン9を停止するため、PM堆積量が増加することを抑制することができる。
なお、堆積抑制手段54が動作する条件として、作業者が降車状態でエンジン9が作動し且つフィルタ再生手段50によって再生動作が行われている再生時の場合(再生パターン)と、作業者が降車状態で且つフィルタ再生手段50によって再生動作が行われていない未再生の場合(未再生パターン)とが考えられるが、堆積抑制手段54は、再生パターンであっても未再生パターンであっても、降車状態でエンジン9が作動しているときはPM堆積量の増加を抑制するためにエンジン9を停止させてもよい。また、次のようにエンジン9の停止に条件を加えてもよい。
【0057】
例えば、未再生パターンのときは、所定時間が経過したり、PM堆積量が増加傾向になったときに堆積抑制手段54によってエンジン9を停止し、一方、再生パターンのときは、再生動作が終了した後にエンジン9を停止したり、再生動作中であってもPM堆積量が増加傾向にあるときにエンジン9を停止するようにしてもよい。
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0058】
自動再生において、「吸気スロットルの絞り」を行うか、「ポスト噴射」を行うかは、適宜設定してよく、上述したものに限定されない。例えば、初めは吸気スロットルの絞りを行い、その後にポスト噴射を行ってもよいし、或いは、ポスト噴射のみを行っても良い。
上述した実施形態では、乗車確認手段52を、運転席10の周囲に設けたレバーで構成して、このレバー52によって作業者の乗車状態や降車状態を確認するためのものとしているが、下記に示すレバーロック構造で使用するレバーを、上述した乗車確認手段として兼用化してもよい。
【0059】
バックホー1などの作業機の場合、作業者がバックホー1に乗車していないときに操作レバー47が動くと、不用意にアクチュエータが動作してしまうため、これを防止するためにレバーロック構造というものが具備されている。このレバーロック構造では、上述したレバー52と同様に揺動させることによって乗車を確認するレバーロック用レバーが設けられ、レバーロック用レバーが横倒しになっていて乗車中であるときはアクチュエータへの作動油の供給を許し、レバーロック用レバーが起立していて降車中であるときはアクチュエータへの作動油の供給を許可するものである。このレバーロック機構に用いられるレバーロック用レバーを、上述した乗車確認手段として用いてもよい。
【0060】
また、運転席の座部の部分や背もたれ部分に圧力センサを設け、この圧力センサを乗車確認手段としてもよい。この場合、圧力センサが働いて圧力を検知しているときは乗車状態となり、圧力センサが圧力を検知していないときは降車状態となる。この他、乗車確認手段は、レバーやセンサ以外に、カメラによって乗車を確認するものであってもよい。
【符号の説明】
【0061】
1 バックホー
2 走行装置
3 旋回体
4 走行体
5 ドーザ
6 旋回ベアリング
7 旋回台
8 作業装置
9 ディーゼルエンジン
10 運転席10
11 表示装置
12 キャビン
13 支持ブラケット
14 スイングブラケット
15 ブーム
16 アーム
17 バケット
18 ブームシリンダ
19 アームシリンダ
20 バケットシリンダ
30 排気マニホールド
31 排出ガス浄化装置
32 エンジンECU
33 メインECU
34 シリンダ
35 吸気ポート
36 排気ポート
37 吸気バルブ
38 排気バルブ
39 吸気マニホールド
40 サイレンサ
41 DPF
42 入側圧力センサ
43 出側圧力センサ
44 差圧センサ
45 排気温度センサ
46 制御部
47 操作レバー
50 フィルタ再生手段
51 再生許可手段
52 乗車確認手段
54 堆積抑制手段
55 再生スイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディーゼルエンジンから排出された排出ガスに含まれる粒子状物質を捕集するフィルタを備えた排出ガス浄化装置と、前記排出ガス浄化装置のフィルタに堆積した粒子状物質を燃焼させて除去するフィルタ再生手段と、乗車を確認する乗車確認手段とを備えた作業機であって、
前記エンジンが作動していて前記乗車確認手段で前記乗車が確認された状態では、前記フィルタ再生手段によって前記粒子状物質を燃焼させて除去する再生動作を行うことを許可する再生許可手段と、
前記エンジンが作動していて前記乗車確認手段で乗車が確認できない状態では、エンジンを停止させて前記フィルタに堆積した粒子状物質の堆積量の増加を抑制する堆積抑制手段とを備えていることを特徴とする作業機。
【請求項2】
前記堆積抑制手段は、エンジンが作動していて前記乗車が確認されない状態が所定時間続くと、エンジンを停止させることを特徴とする請求項1に記載の作業機。
【請求項3】
前記堆積抑制手段は、エンジンが作動していて前記乗車が確認されない状態で前記堆積量が増加傾向にあると、エンジンを停止させることを特徴とする請求項1に記載の作業機。
【請求項4】
前記フィルタ再生手段は、前記フィルタに堆積した粒子状物質の堆積量が所定値以上となったときに、前記再生動作を自動的に行う自動再生モードを有していることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の作業機。
【請求項5】
前記フィルタ再生手段は、前記自動再生モードを実行している段階で、さらに、前記堆積量が自動再生モード前よりも増加傾向にあるときに、前記ディーゼルエンジンに対して出力を制限する出力制限モードを備えていることを特徴とする請求項4に記載の作業機。
【請求項6】
前記フィルタ再生手段は、前記再生動作の補足として前記ディーゼルエンジンの回転数を上げることを報知する再生動作補足モードを備えていることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の作業機。
【請求項7】
前記堆積抑制手段にてエンジンの停止させた後にエンジンの再作動ができるように構成されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の作業機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−72318(P2013−72318A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−210777(P2011−210777)
【出願日】平成23年9月27日(2011.9.27)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【Fターム(参考)】