説明

作業車両の安全フレーム

【課題】門型状のロールバーを機体後方側へ倒伏自在に支持する農業用トラクタ等の安全フレームにおいて、前記ロールバーの基部を機体側に設けたホルダに嵌装した状態で倒伏自在に支持するにあたり、このロールバーの基部とホルダの接触面圧を低減させて、螺設手段による適正な締め付けトルクで締結できるようにする。
【解決手段】ロールバー11の基部11a,11aとホルダ12L,12Rの接当部S,Sに接触面を増大させる円形の摩擦板23,23を介在させて、ロールバー11の基部11a,11aとホルダ12L,12Rをボルト20とナット21を用いて締結した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業車両に設ける安全フレームに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、農業用トラクタ等の作業車両においては、機体転倒時における作業者の安全を確保するために座席の後に門型状の安全フレームを立設している。また、車庫等へ作業車両を格納する際に安全フレームが天井にぶつかる等の不具合が起こることを防止すべく、当該安全フレームを機体後方側へ回動(倒伏)できるように構成したものが知られている(例えば特許文献1参照)。
【特許文献1】実開平5−76984号公報(第7−9頁、図4−図6)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
そして、この安全フレームの上部フレーム(ロールバー)の両側下部には、該上部フレームを回動可能になすための支持パイプが溶接されており、この支持パイプを座席後方の下部フレームに固設した平面視でU字状の断面形状を有するホルダに内嵌させた状態で、該ホルダの外側から前記支持パイプ中を貫通するボルトにワッシャを介してナットを螺装することによって、上部フレームをホルダに締結せしめている。
したがって、前述した安全フレームでは、パイプの両端面とホルダの少ない接触面の摩擦力によって上部フレームを保持しようとしているため、前記ボルトとナットによる締め付けトルクを高めることによって、上部フレームを機体後方側へ回動させる際の当該上部フレームの自重による不用意な下方回動を防いでいる。
しかし、このものでは上部フレームの回動操作によるパイプの両端面とホルダの接触面における磨耗が早く進行することから、上述したボルトとナットによる締め付けトルクの調整を頻繁に行わなければならず、また、これを怠ると上部フレームをスムーズに回動させることができなかった。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、上記課題を解決することを目的としたものであって、門型状のロールバーを機体後方側へ倒伏自在に支持する作業車両の安全フレームにおいて、前記ロールバーを機体側に設けたホルダに倒伏自在に支持するにあたり、ロールバーの基部とホルダの接当部に接触面を増大させる摩擦板を介在させて、ロールバーの基部とホルダをボルトとナットを用いて締結したことを第1の特徴としている。
そして、前記摩擦板を円形として、その中心部にボルトの挿通孔を形成したことを第2の特徴としている。
【発明の効果】
【0005】
請求項1の発明によれば、ロールバーを機体側に設けたホルダに倒伏自在に支持するにあたり、ロールバーの基部とホルダの接当部に接触面を増大させる摩擦板を介在させて、ロールバーの基部とホルダをボルトとナットを用いて締結したことによって、前記ロールバーの支持部において、摩擦板とロールバーの基部および/またはホルダとの間に形成される接触面を、従来の安全フレームの支持部におけるパイプの両端面とホルダとの間に形成される接触面よりも極めて大きくすることができる。したがって、前記ボルトとナットによる締め付けトルクを必要に以上に高めることなく、広い接触面の摩擦力によりロールバーを安定して保持することができると共に、ロールバーをスムーズに回動させることができるようになる。また、前記接触面の早期の磨耗が起こり難くなり、ボルトとナットによる適正な締め付けトルクの調整を頻繁に行わなくて済むと共に、その微調整も容易に行えるようになる。
そして、請求項2の発明によれば、前記摩擦板を円形として、その中心部にボルトの挿通孔を形成したことによって、摩擦板の接触する当該接触面近傍のロールバーの基部、あるいはホルダの底面に摩擦板による不要な接触傷が生じることがなく、この接触傷による錆の発生を防止すると共に、接触傷を露呈させることもなく美観を良好に維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1は、作業車両の一例である農業用トラクタ1の側面図であって、農業用トラクタ1は、左右の前輪2,2及び後輪3,3を有する機体4にエンジン5をボンネット6で覆った状態で搭載すると共に、その後方にステアリングホイール7及び座席8等からなる操縦部9を設け、更に座席8の後方位置に、機体4から上方に突出する正面視で門型状の安全フレーム10を立設している。
【0007】
そして、安全フレーム10は、図2及び図3に示すように、角パイプ材を逆U字状に屈曲成形したロールバー11からなり、その下端の基部11a、11aを機体4に設けた左右一対のホルダ12L,12Rに支持させている。このホルダ12L,12Rは、左右のリヤアクスルケース13L,13Rに螺設した取付ブラケット14L,14Rと、油圧ハウジングケース15に螺設した取付ブラケット16に、カラー17及び防振ゴム18,18を介して支持した下部フレーム19の上部に一体形成されている。
【0008】
更に詳しくは、上述したホルダ12L,12Rは、図4に示すように、平面視でコの字状の断面形状を有し、このホルダ12L,12Rに、平面視でコの字状の断面形状に形成したプレートからなるロールバー11の基部11aを外嵌させた状態で、当該ロールバー11を支点ボルト20とナット21、及びリンチピン22を用いて取付けることができるようになっている。
【0009】
そして、ロールバー11の基部11a,11aをホルダ12L,12Rに外嵌させた状態で支持するにあたり、ロールバー11の基部11a,11とホルダ12L,12Rの接当部S,Sに、後述する支点ボルト20の挿通孔23a,23aを備える左右一対の円形の摩擦板23,23を同軸に介在させた状態で、当該ロールバー11の基部11a,11aとホルダ12L,12Rとを、支点ボルト20とナット21を用いて締結することによって、ロールバー11の回動支点を構成している。
【0010】
尚、本実施例では、摩擦板23,23をホルダ12L,12Rの外側面側に溶接固定してあるが、該摩擦板23,23をロールバー11の基部11a,11aの内側面側に溶接固定するか、あるいは溶接固定することなく前記接当部にS,Sに介装するだけでもよい。また、ロールバー11の基部11a,11aを逆に特許文献1と同様にホルダ12L,12Rに内嵌させた状態で支持することも可能である。
【0011】
また、ホルダ12L,12Rの後側には、図4及び図5に示すように、支点ボルト20の挿通孔H1,H1を左右同軸に設けると共に、支点ボルト20を回動支点として、機体後方側への安全フレーム10の倒伏角度を調節するための三つの位置決め孔H2,H3,H4を設けている。一方、ロールバー11の基部11a,11aの後側には、支点ボルト20の挿通孔H5,H5を左右同軸に設けている。更にロールバー11の基部11a,11aの前側には、その外側面側にリンチピン22を挿通した状態で、該リンチピン22のリング22aを係止可能なスリットS1を備えるボス24を固設すると共に、該ボス24と対向する内側面側には、リンチピン22の先端が係止する前記ボス24と同軸の係止孔H6を設けてあり、それによって、位置決め孔H2,H3,H4の何れかにリンチピン22を選択的に係止させることができるようになっている。尚、前記リンチピン22は、圧縮スプリング25を介して常時位置決め孔H2,H3,H4への係止方向に付勢されている。
【0012】
そして、上述した三つの位置決め孔H2,H3,H4うち、下側の位置決め孔H2にリンチピン22を係止させた時は、安全フレーム10は図3に実線で示す起立姿勢Bとなり、上下中間の位置決め孔H3にリンチピン22を係止させた時は、安全フレーム10は2点鎖線で示す中間倒伏姿勢Cとなり、更に上側の位置決め孔H4にリンチピン22を係止させた時は、前記起立姿勢Bから約90度傾倒した最大倒伏姿勢Dとなる。
【0013】
即ち、リンチピン22を三つの位置決め孔H1,H2,H3から抜き差し操作することにより、支点ボルト20を回動支点として安全フレーム10を上下に回動させ、その倒伏姿勢を容易に変更できるように構成してあり、車庫等へ農業用トラクタ1を格納する時は、安全フレーム10を中間倒伏姿勢Cまたは最大倒伏姿勢Dの如く低く折畳んで機体上方の格納スペースを広げ、また作業走行時は、安全フレーム10を起立姿勢Bの如く起立させて機体転倒時におけるオペレータの安全性を確保している。
【0014】
以上説明したように、本発明では、安全フレーム10を構成するロールバー11の基部11a,11aを機体側に設けたホルダ12L,12Rに嵌装した状態で倒伏(回動)自在に支持するにあたり、ロールバー11の基部11a,11aとホルダ12L,12Rの接当部S,Sに接触面を増大させる摩擦板23,23を介在させて、ロールバー11の基部11a,11aとホルダ12L,12Rを支点ボルト20とナット21を用いて締結したことによって、前記ロールバー11の支持部において、摩擦板23,23とロールバー11の基部11a,11aおよび/またはホルダ12L,12Rとの間に形成される接触面を、従来の安全フレームの支持部におけるパイプの両端面とホルダとの間に形成される接触面よりも極めて大きくすることができる。
【0015】
したがって、前記支点ボルト20とナット21による締め付けトルクを必要に以上に高めることなく、広い接触面の摩擦力によりロールバー11を安定して保持することができると共に、ロールバー11をスムーズに回動させることができるようになる。また、前記接触面の早期の磨耗が起こり難くなり、支点ボルト20とナット21による適正な締め付けトルクの調整を頻繁に行わなくて済むと共に、その微調整も容易に行えるようになる。
そして、摩擦板23,23を円形として、その中心部にボルトの挿通孔23a,23aを形成したことによって、摩擦板23,23の接触する当該接触面近傍のロールバー11の基部11a,11a、あるいはホルダ12L,12Rの底面に摩擦板23,23による不要な接触傷が生じることがなく、この接触傷による錆の発生を防止すると共に、接触傷を露呈させることもなく美観を良好に維持することができる。
【0016】
ところで、農業用トラクタ1の操縦部9の床面を形成するステップ26の左右一側には、図6に示すように、支軸27を回動支点として踏み込み操作される図示しないHST(静油圧式変速装置)の変速ペダル28,28´が設けてある。そして、図中符号29は、HSTのトラニオン軸であり、このトラニオン軸29の軸端には、トラニオンアーム330の基部を固定している。また、トラニオンアーム30の先端側には、ピン31が突設してあり、該ピン31に連結杆32の一端を枢支すると共に、この連結杆32の他端は、変速ペダル28,28´の略Y字型のペダルアーム33の下端に突設したピン34に枢支している。
【0017】
更に、前記ピン34の先端には、オイルダンパー35のピストンロッド側を連結すると共に、該オイルダンパー35のシリンダ側を中間伝動ケース36に回動可能に支持してあり、このオイルダンパー35によって、変速ペダル28,28´の踏み込み操作を解除した時の急激なHSTの中立位置復帰を防止している。
【0018】
また、下方に向くトラニオンアーム30の先端には、凹部30aが形成してあり、この凹部30aには、軸37を中心として揺動自在な略L字形のニュートラルアーム38a,38bのち、一方のアーム38aの先端に枢支したローラ39が当接している。また、他方のニュートラルアーム38bの先端には、トラニオンアーム30の凹部30aへの復帰付勢力を付与する戻しスプリング40がアジャスターボルト41を介して中間伝動ケース36に連結してあり、この戻しスプリング40の付勢力によりトラニオンアーム30は常時ニュートラル位置となるように付勢されている。
【0019】
そして、ニュートラルアーム38aの先端に枢支したローラ39は、軸37を中心として偏心調整可能な調整部としての支軸42を備えており、この支軸42によってトラニオンアーム30の凹部30aへの当該ローラ39の当接状態、即ちHSTの中立位置を調整できるように構成している。しかし、前記調整部近傍には、農業用トラクタ1の走行に伴って後輪3が持ち回る泥土が付着し易いことから、後輪3を覆うフェンダー42の下端をステップ26の下方まで延出して当該調整部に泥土が直接付着しないように保護している。尚、小型の農業用トラクタの場合は、前記調整部とフェンダー43とが必然的に近接
して整備作業を行うための空間が狭くなるので、該フェンダー43に、図6に示すような丸孔Hを設け、この丸孔Hを利用してHSTの中立位置を調整する作業の容易化を図ってもよく、この場合、丸孔Hから調整部に向けて泥土が飛び散ることは、後輪3の回転方向が相違しているので起こり難い。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】農業用トラクタの側面図。
【図2】安全フレームの支持構成を示す要部背面図。
【図3】安全フレームの支持構成を示す要部側面図。
【図4】図3におけるAA断面図。
【図5】ブラケットの形状を示す斜視図。
【図6】HSTの変速ペダルの周辺を示す要部側面図。
【符号の説明】
【0021】
11 ロールバー
11a ロールバーの基部
12L ホルダ(左側)
12R ホルダ(右側)
20 ボルト
21 ナット
23 摩擦板
23a ボルトの挿通孔
S 接当部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
門型状のロールバー(11)を機体後方側へ倒伏自在に支持する作業車両の安全フレームにおいて、前記ロールバー(11)を機体側に設けたホルダ(12L,12R)に倒伏自在に支持するにあたり、ロールバー(11)の基部(11a,11a)とホルダ(12L,12R)の接当部(S,S)に接触面を増大させる摩擦板(23,23)を介在させて、ロールバー(11)の基部(11a,11a)とホルダ(12L,12R)をボルト(20)とナット(21)を用いて締結したことを特徴とする作業車両の安全フレーム。
【請求項2】
前記摩擦板(23,23)を円形として、その中心部にボルト(20)の挿通孔(23a)を形成したことを特徴とする請求項1に記載の作業車両の安全フレーム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−105499(P2008−105499A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−288728(P2006−288728)
【出願日】平成18年10月24日(2006.10.24)
【出願人】(000001878)三菱農機株式会社 (1,502)
【Fターム(参考)】