説明

作業車両の油圧システムおよび油圧システムの制御方法

【課題】燃費を向上させることができる作業車両の油圧システムを提供する。
【解決手段】油圧システムでは、合分流切換弁は、分流状態と合流状態とに切り換えられる。分流状態では、第1油圧ポンプから吐出された作動油が、油圧クラッチを含む高圧回路に供給され、且つ、第2油圧ポンプから吐出された作動油が低圧回路に供給される。合流状態では、第1油圧ポンプから吐出された作動油と第2油圧ポンプから吐出された作動油とが高圧回路に供給される。フィル完了検知部は、油圧クラッチへの作動油のフィル完了を検知する。制御部は、油圧クラッチへの作動油の供給開始からフィル完了が検知されるまでは合分流切換弁を合流状態にする。そして、制御部は、フィル完了が検知された後は合分流切換弁を分流状態にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は作業車両の油圧システムおよび油圧システムの制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1や特許文献2に示されるように2つの油圧ポンプの合流と分流とを切り換えることにより、動力のロスを減らすことができる油圧システムが考案されている。この油圧システムは、小容量高圧ポンプと、高容量低圧ポンプと、クラッチ回路と、潤滑回路とを備えている。クラッチ回路は、トランスミッションのクラッチを切り換えるための作動油を供給する。潤滑回路は、トランスミッションを潤滑するための作動油を供給する。また、クラッチ回路と潤滑回路との間には優先弁が設けられている。そして、クラッチ作動時には優先弁が作動することによって、高容量低圧ポンプからの作動油が小容量高圧ポンプからの作動油と合流してクラッチ回路に供給される。また、クラッチ作動が完了すると、優先弁が切り換えられて、高容量低圧ポンプからの作動油はクラッチ回路に供給され、小容量高圧ポンプからの作動油は潤滑回路に供給される。
【特許文献1】実開平5−27423号公報
【特許文献2】特開2007−177868号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
クラッチに作動油が供給される場合、クラッチへの作動油の充填(以下、「フィル」と呼ぶ)を早期に完了させるために、比較的大流量で作動油の供給が開始される。次に、フィル完了の前に作動油の流量が低減され、フィル完了後にはクラッチ圧が所望の態様で増大するようにモジュレーションが行われる。そして、クラッチ圧が所定の設定圧に達すると、クラッチ作動が完了する。
【0004】
ここで、上記の従来技術では、クラッチへの作動油の供給開始からクラッチ作動の完了まで、常に、高容量低圧ポンプからの作動油が小容量高圧ポンプからの作動油と合流してクラッチ回路に供給されている。従って、上記従来の技術では、クラッチ圧が所定の設定圧に達するまでは高容量低圧ポンプからの作動油と小容量高圧ポンプからの作動油とが合流してクラッチ回路に供給される。従って、高容量低圧ポンプとしては、所定の設定圧を吐出し得るものを選ぶ必要がある。確かに、クラッチへの作動油の供給が開始されてからフィル完了までは、フィルを早期に完了させるために、大流量の作動油が必要である。しかし、フィル完了からクラッチ作動の完了までは、クラッチに供給される作動油は十分に高圧であることは必要であるが、必ずしも大流量である必要はない。上記の従来技術では、クラッチへの作動油の供給開始からクラッチ作動の完了まで常に大流量の作動油が供給されるため、作動油の無駄な供給が生じることになる。このため、動力のロスが発生することになる。
【0005】
本発明は、動力のロスを低減することができ、高容量低圧ポンプとしてより低圧のものを用いることができる作業車両の油圧システムおよび油圧システムの制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1発明に係る作業車両の油圧システムは、エンジンと、第1油圧ポンプおよび第2油圧ポンプと、高圧回路と、低圧回路と、合分流切換弁と、フィル完了検知部と、制御部とを備える。第1油圧ポンプおよび第2油圧ポンプは、エンジンによって駆動され、作動油を吐出する。高圧回路は、油圧クラッチを含む油圧回路である。低圧回路は、高圧回路よりも低圧の作動油が供給される油圧回路である。合分流切換弁は、分流状態と合流状態とに切り換えられる。分流状態では、第1油圧ポンプから吐出された作動油が高圧回路に供給され、且つ、第2油圧ポンプから吐出された作動油が低圧回路に供給される。合流状態では、第1油圧ポンプから吐出された作動油と第2油圧ポンプから吐出された作動油とが高圧回路に供給される。フィル完了検知部は、油圧クラッチへの作動油のフィル完了を検知する。制御部は、油圧クラッチへの作動油の供給開始からフィル完了が検知されるまでは合分流切換弁を合流状態にする。そして、制御部は、フィル完了が検知された後は合分流切換弁を分流状態にする。
【0007】
この油圧システムでは、油圧クラッチへの作動油の供給開始からフィル完了が検知されるまでは合分流切換弁が合流状態に保持される。これにより、第1油圧ポンプと第2油圧ポンプとから吐出された大流量の作動油が高圧回路に供給される。そして、フィル完了が検知されると合分流切換弁が分流状態に切り換えられる。これにより、第2油圧ポンプからの作動油は低圧回路に供給されると共に、第1油圧ポンプからの作動油は高圧回路に供給される。このため、油圧クラッチに供給される作動油の流量が抑えられ、作動油の無駄な供給を抑えることができる。その結果、エンジンの燃費を向上させることができる。
【0008】
第2発明に係る作業車両の油圧システムの制御方法は、エンジンと、第1油圧ポンプおよび第2油圧ポンプと、高圧回路と、低圧回路と、合分流切換弁と、フィル完了検知部とを備える油圧システムの制御方法である。第1油圧ポンプおよび第2油圧ポンプは、エンジンによって駆動され、作動油を吐出する。高圧回路は、油圧クラッチを含む油圧回路である。低圧回路は、高圧回路よりも低圧の作動油が供給される油圧回路である。合分流切換弁は、分流状態と合流状態とに切り換えられる。分流状態では、第1油圧ポンプから吐出された作動油が高圧回路に供給され、且つ、第2油圧ポンプから吐出された作動油が低圧回路に供給される。合流状態では、第1油圧ポンプから吐出された作動油と第2油圧ポンプから吐出された作動油とが高圧回路に供給される。フィル完了検知部は、油圧クラッチへの作動油のフィル完了を検知する。そして、この油圧システムの制御方法は、合分流切換弁を合流状態として油圧クラッチへの作動油の供給を開始するステップと、フィル検知部によってフィル完了が検知された後は合分流切換弁を分流状態にするステップと、を備える。
【0009】
この制御方法では、油圧クラッチへの作動油の供給開始からフィル完了が検知されるまでは合分流切換弁が合流状態に保持される。これにより、第1油圧ポンプと第2油圧ポンプとから吐出された大流量の作動油が高圧回路に供給される。そして、フィル完了が検知されると合分流切換弁が分流状態に切り換えられる。これにより、第2油圧ポンプからの作動油は低圧回路に供給されると共に、第1油圧ポンプからの作動油は高圧回路に供給される。このため、油圧クラッチに供給される作動油の流量が抑えられ、作動油の無駄な供給を抑えることができる。その結果、エンジンの燃費を向上させることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、油圧クラッチへの作動油の無駄な供給を抑えることができ、動力のロスを低減させることができるとともに、高容量低圧ポンプとして低圧のものを用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
〔油圧システムの構成〕
本発明の一実施形態に係る油圧システムを図1に示す。この油圧システムは、例えばブルドーザやダンプトラックなどの作業車両に搭載されるものであり、エンジン2と、第1油圧ポンプ3および第2油圧ポンプ4と、クラッチ回路5と、潤滑回路6と、合分流切換回路7と、リリーフ弁8と、コントローラ9とを備えている。
【0012】
エンジン2は、例えば、ディーゼル式のエンジンであり、図示しない燃料噴射装置からの燃料の噴射量が制御されることにより、出力トルクと回転数とが制御される。なお、エンジン2の回転数は、エンジン回転数センサ12により検出され、コントローラ9に検出信号として送られる。
【0013】
第1油圧ポンプ3および第2油圧ポンプ4は、エンジン2によって駆動され、作動油を吐出する。第1油圧ポンプ3および第2油圧ポンプ4は、エンジン2の回転数に応じて作動油の吐出量を変化させる固定容量型の油圧ポンプである。第1油圧ポンプ3の吐出容量は第2油圧ポンプ4の吐出容量よりも小さい。また、第1油圧ポンプ3は第2油圧ポンプ4に比べ、より高圧の圧油を吐出することができる。
【0014】
クラッチ回路5は、トランスミッション(図示せず)のクラッチ13を含む回路であり、例えば、特開2001−343032に示されている回路を用いることができる。クラッチ回路5は、作動油を所望の圧力に制御してクラッチ13に供給することができる。また、クラッチ回路5は、クラッチ13から油を回収してタンク14に排出することができる。なお、この油圧システムでは、前進、後進、および、複数の速度段に対応して複数のクラッチ回路が設けられているが、図1では、1つのクラッチ回路5のみを図示している。クラッチ回路5は、クラッチ13と、圧力制御弁15と、電磁制御弁16とを備える。
【0015】
圧力制御弁15は、クラッチ13に供給される油圧(以下「クラッチ圧」と呼ぶ)を制御するための装置である。圧力制御弁15は、入力流路11と出力流路17とドレン流路18とに接続されている。入力流路11は後述する第1流路19に接続されている。出力流路17はクラッチ13に接続されている。ドレン流路18はタンク14に接続されている。圧力制御弁15は、後述する電磁比例弁16に接続するパイロット流路21のパイロット圧の大きさに応じて入力流路11の油圧を調整して出力流路17へと導く。すなわち、圧力制御弁15は、入力されるパイロット圧に応じてクラッチ圧を変化させる。なお、圧力制御弁15にパイロット圧が供給されていない状態では、圧力制御弁15は、出力流路17とドレン流路18とを接続する。これにより、クラッチ13から作動油が排出されタンク14に回収される。なお、圧力制御弁15のパイロットポートにはパイロット流路21が接続されている。
【0016】
電磁制御弁16は、圧力制御弁15に入力されるパイロット圧を制御するための装置である。電磁制御弁16は、絞り34を介して入力流路11に接続されている。電磁制御弁16と絞り34との間には、上述したパイロット流路21が接続されている。また、電磁制御弁16は、ドレン流路33を介してタンク14に接続されている。電磁制御弁16は、入力流路11とドレン流路33とを接続する接続状態と、入力流路11とドレン流路33とを遮断する遮断状態との間で切り換え可能である。電磁制御弁16は、コントローラ9から入力される指令電流の大きさに応じて、接続状態と遮断状態との間で切り換えられる。これにより、電磁制御弁16は、指令電流に応じて、パイロット流路21に供給されるパイロット圧を制御することができる。
【0017】
また、クラッチ回路5には、圧力スイッチ22が設けられている。圧力スイッチ22は、クラッチ圧が所定の設定圧に達したときに、検知信号をコントローラ9に出力する。設定圧としては、クラッチ13への作動油のフィル完了時の圧力(フィル圧)に相当する値が設定されている。従って、圧力スイッチ22は、フィル完了を検知して、コントローラ9に検知信号を出力する。
【0018】
潤滑回路6は、トルクコンバータ23を含み、トルクコンバータ23を駆動するための作動油をトルクコンバータ23に供給する。
【0019】
合分流切換回路7は、合分流切換弁24と電磁切換弁25とを有する。
【0020】
合分流切換弁24は、合流状態と分流状態とに切換可能な弁である。合分流切換弁24は、合流状態では、第1流路19と第2流路26とを接続する。第1流路19は、第1油圧ポンプ3とクラッチ回路5の入力流路11とを接続する流路である。第2流路26は、第2油圧ポンプ4と接続された流路である。このため、合分流切換弁24が合流状態である場合には、第1油圧ポンプ3から吐出された作動油と第2油圧ポンプ4から吐出された作動油とが合流してクラッチ回路5に供給される。また、合分流切換弁24は、分流状態では、第2流路26と第3流路27とを接続する。第3流路27は、トルクコンバータ23を介して潤滑回路6に接続された流路である。このため、合分流切換弁24が分流状態である場合には、第1油圧ポンプ3から吐出された作動油は第1流路19へ流れ、且つ、第2油圧ポンプ4から吐出された作動油は第2流路26を介して第3流路27へ流れる。すなわち、第1油圧ポンプ3から吐出された作動油はクラッチ回路5に供給され、第2油圧ポンプ4から吐出された作動油は潤滑回路6に供給される。なお、第2流路26は、逆止弁31を介して第1流路19と接続されている。逆止弁31は、第2流路26から第1流路19へ向かう作動油の流れを許容するが、第1流路19から第2流路26へ向けては作動油が流れないように構成されている。合分流切換弁24は、パイロット流路28を介して作動油が供給されてパイロット圧を印可されることにより合流状態から分流状態へと切り換えられる。また、合分流切換弁24は、パイロット圧が印可されていない状態では、バネの付勢力により合流状態に維持される。なお、パイロット流路28は、合分流切換弁24のパイロットポートと、電磁切換弁25とに接続されている。また、パイロット流路28は、絞り32を介して第1流路19に接続されている。
【0021】
電磁切換弁25は、ドレン流路18とパイロット流路28とに接続されている。電磁切換弁25が開状態である場合には、ドレン流路18とパイロット流路28とが接続される。この場合、パイロット流路28はドレン流路18を介してタンク14に接続される。このため、パイロット流路28には油圧が立たず、合分流切換弁24にはパイロット圧が印加されない。電磁切換弁25が閉状態である場合には、パイロット流路28とドレン流路18との間は遮断される。この場合、パイロット流路28には所定のパイロット圧が発生し、合分流切換弁24にパイロット圧が印加される。
【0022】
なお、パイロット流路28には、圧力スイッチ29が設けられている。圧力スイッチ29は、パイロット圧が所定の設定圧に達した場合に検知信号をコントローラ9に出力する。この設定圧は、合分流切換弁24がバネの付勢力に抗して分流状態に切り換えられる場合のパイロット圧に相当している。従って、圧力スイッチ29は、合分流切換弁24の切換状態を検知して、検知信号としてコントローラ9に出力する。
【0023】
リリーフ弁8は、第1流路19と第3流路27とに接続されている。リリーフ弁8は、第1流路19を流れる作動油が所定のリリーフ圧以下の場合には第1流路19と潤滑回路6との間を遮断する。また、リリーフ弁8は、第1流路19を流れる作動油がリリーフ圧よりも高い場合には、第1流路19と潤滑回路6との間を開いて、第1流路19の作動油を潤滑回路6へ流す。これにより、リリーフ弁8は、第1流路19を流れる作動油の圧力を所定の高圧力に補償した上で潤滑回路6にも作動油を供給する役割を果たす。これにより、クラッチ回路5には比較的高圧の作動油が供給され、潤滑回路6には比較的低圧の作動油が供給される。
【0024】
コントローラ9は、CPUなどの演算装置やRAMやROMなどの記憶装置によって構成されている。コントローラ9は、電磁制御弁16および電磁切換弁25に指令電流を送ることにより、電磁制御弁16および電磁切換弁25を制御する。
【0025】
コントローラ9は、電磁制御弁16を制御することにより、パイロット流路21に供給されるパイロット圧を制御することができ、その結果、圧力制御弁15に供給されるパイロット圧を制御することができる。これにより、コントローラ9は、圧力制御弁15を制御することができる。
【0026】
また、コントローラ9は、電磁切換弁25を制御することにより、パイロット流路28に供給されるパイロット圧を制御することができ、その結果、合分流切換弁24に供給されるパイロット圧を制御することができる。これにより、コントローラ9は、合分流切換弁24の合流状態と分流状態との切換を制御することができる。
【0027】
〔クラッチ13の切換時の制御〕
以下、コントローラ9によって実行されるクラッチ13の切換時の制御について図2および図3に基づいて説明する。図2は、クラッチ13の切換時の制御内容を示すフローチャートである。図3(a)は、クラッチ13の切換時の電磁制御弁16への指令電流の変化を示すタイミングチャートである。図3(b)は、クラッチ13の切換時のクラッチ圧の変化を示すタイミングチャートである。図3(c)は、クラッチ13の切換時の合分流切換弁24の切換を示すタイミングチャートである。
【0028】
まず、ステップS1において、変速指令が発生したか否かが判定される。変速指令は、
車速やエンジン回転数に応じてコントローラ9がトランスミッションの速度段の切換を決定した場合や、オペレータが図示しない変速操作部材を操作して手動で変速を指示した場合に発生する。変速指令が発生すると、ステップS2に進む。
【0029】
ステップS2では、合分流切換弁24が合流状態であるのか否かが判定される。合分流切換弁24が合流状態である場合にはステップS4に進む。合分流切換弁24が合流状態ではない場合、すなわち、分流状態である場合には、ステップS3に進む。
【0030】
ステップS3では、合分流切換弁24が合流状態に切り換えられる。ここでは、コントローラ9からの指令信号により電磁切換弁25が開状態に切り換えられる。これにより、図3(c)の時点t1に示すように、合分流切換弁24が、分流状態から合流状態に切り換えられる。
【0031】
ステップS4では、トリガ指令が出力される。ここでは、図3(a)の時点t1に示すように、コントローラ9から電磁制御弁16に所定のトリガ指令値I1の指令電流が出力される。このトリガ指令は、時点t1から時点t2まで維持される。これにより、時点t1から時点t2までの間には、比較的大流量の作動油がクラッチ13に供給され、図3(b)に示すようにクラッチ圧がやや増大する。ただし、この時点ではクラッチ13の油室がまだ充満されていないため、クラッチ圧は後述するクラッチ設定圧P3より低くなる。
【0032】
ステップS5では、指令電流が低減される。ここでは、トリガ指令の出力開始から所定時間が経過した時点t2において、指令電流が所定の設定電流値I2に低減される。そして、ステップS6においてフィル完了が検知されるまで、指令電流が設定電流値I2に維持される。これにより、クラッチ13に供給される作動油の流量が絞られ、図3(b)に示すように、クラッチ圧は時点t1から時点t2までの間よりも小さくなる。。
【0033】
ステップS6では、フィル完了が検知されたか否かが判定される。ここでは、油圧スイッチ22の検知信号に基づいてフィルが完了したか否かが判定される。図3(b)の時点t3に示すように、クラッチ圧が所定のフィル圧P2に達した場合に、圧力スイッチ22から検知信号が出力され、フィル完了が検知される。フィル完了が検知された場合には、ステップS7に進む。
【0034】
ステップS7では、合分流切換弁24が分流状態に切り換えられる。ここでは、コントローラ9からの指令信号により、電磁切換弁25が閉状態に切り換えられる。これにより、パイロット流路28を介して所定のパイロット圧が合分流切換弁24に印加され、図3(c)の時点t3に示すように、合分流切換弁24が、合流状態から分流状態に切り換えられる。
【0035】
ステップS8では、モジュレーションが開始される。ここでは、クラッチ圧がフィル圧P2から所定のクラッチ設定圧P3に達するまで、所定の態様で増大するように圧力制御弁15が制御される。具体的には、図3(a)の時点t3から時点t4に示すように、指令電流が設定電流値I2からI3まで徐々に増大される。そして、時点t4において、クラッチ圧がクラッチ設定圧P3に達して、クラッチ13の切り替えが完了する。
【0036】
〔特徴〕
この油圧システムでは、変速指令が発生したときに、第1油圧ポンプ3からの作動油と第2油圧ポンプ4からの作動油とを合流させることにより、大流量の作動油がクラッチ回路5に供給される。これにより、早期にフィルを完了させることができ、クラッチ13の切換のレスポンスを向上させることができる。そして、フィル完了が検知されると、第1油圧ポンプ3からの作動油と第2油圧ポンプ4からの作動油とが分流されて、第1油圧ポンプ3からの作動油のみがクラッチ回路5に供給される。フィル完了後は、クラッチ13に作動油が充填された状態となっているため、作動油の流量が低下してもクラッチ13の切換のレスポンスが低下する恐れは少ない。このため、従来の油圧システムと比べて、無駄な作動油の供給を抑えることができる。その結果、エンジンの燃費を向上させることができる。
【0037】
また、この油圧システムでは、フィル完了が検知されてクラッチ圧をクラッチ設定圧P3に向けて徐々に増加させる時点においては、分流状態とされ、第2ポンプ4に接続する第2流路26はクラッチ回路5の入力流路11とは分離される。このため、第2油圧ポンプ4としてより低圧のものを使用することができる。
【0038】
〔他の実施形態〕
(a)上記の実施形態では、油圧クラッチとしてトランスミッションの変速用クラッチが例示されているが、トルクコンバータ23のロックアップクラッチに本発明が用いられてもよい。
【0039】
(b)上記の実施形態では、低圧回路として潤滑回路6が例示されているが、クラッチ回路5よりも低圧の作動油が供給される他の回路が用いられてもよい。
【0040】
(c)上記の実施形態では、クラッチ回路として、パイロット流路21のパイロット圧により圧力制御弁15を制御するパイロットオペレート型のものを例示したが、特許第2745128号や実用新案登録第2606138号に示すような、比例ソレノイド弁により直接圧力クラッチ圧の制御を行う回路に適用しても良い。
【0041】
(d)上記の実施形態では、クラッチ回路のフィル完了検知部として油圧スイッチ22が例示されているが、油圧センサなどの他の検知手段が用いられてもよい。また、クラッチ13の入力側回転数と出力側回転数とを検知するセンサが用いられ、入力側回転数と出力側回転数との比に基づいてフィル完了が検知されてもよい。また、特開2003−83428や特許第2745128号に示すように、流量検出弁によりフィル完了が検知されても良い。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明は、燃費を向上させることができる効果を有し、作業車両の油圧システムとして有用である。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】油圧システムの構成を示す油圧回路図。
【図2】油圧システムにおける制御内容を示すフローチャート。
【図3】クラッチの切換時の指令電流、クラッチ圧、および、合分流切換弁の状態の変化を示すタイミングチャート。
【符号の説明】
【0044】
2 エンジン
3 第1油圧ポンプ
4 第2油圧ポンプ
5 クラッチ回路(高圧回路)
6 潤滑回路(低圧回路)
9 コントローラ(制御部)
22 油圧スイッチ(フィル完了検知部)
24 合分流切換弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、
前記エンジンによって駆動され、作動油を吐出する第1油圧ポンプ及び第2油圧ポンプと、
油圧クラッチを含む高圧回路と、
前記高圧回路よりも低圧の作動油が供給される低圧回路と、
前記第1油圧ポンプから吐出された作動油が前記高圧回路に供給され、且つ、前記第2油圧ポンプから吐出された作動油が前記低圧回路に供給される分流状態と、前記第1油圧ポンプから吐出された作動油と前記第2油圧ポンプから吐出された作動油とが前記高圧回路に供給される合流状態とに切り換えられる合分流切換弁と、
前記油圧クラッチへの作動油のフィル完了を検知するフィル完了検知部と、
前記油圧クラッチへの作動油の供給開始からフィル完了が検知されるまでは前記合分流切換弁を前記合流状態とし、フィル完了が検知された後は前記合分流切換弁を分流状態にする制御部と、
を備える作業車両の油圧システム。
【請求項2】
エンジンと、前記エンジンによって駆動され、作動油を吐出する第1油圧ポンプ及び第2油圧ポンプと、油圧クラッチを含む高圧回路と、前記高圧回路よりも低圧の作動油が供給される低圧回路と、前記第1油圧ポンプから吐出された作動油が前記高圧回路に供給され、且つ、前記第2油圧ポンプから吐出された作動油が前記低圧回路に供給される分流状態と、前記第1油圧ポンプから吐出された作動油と前記第2油圧ポンプから吐出された作動油とが前記高圧回路に供給される合流状態とに切り換えられる合分流切換弁と、前記油圧クラッチへの作動油のフィル完了を検知するフィル完了検知部と、を備える作業車両の油圧システムの制御方法であって
前記合分流切換弁を合流状態として前記油圧クラッチへの作動油の供給を開始するステップと、
前記フィル検知部によってフィル完了が検知された後は前記合分流切換弁を分流状態にするステップと、
を備える作業車両の油圧システムの制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−138924(P2010−138924A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−312967(P2008−312967)
【出願日】平成20年12月9日(2008.12.9)
【出願人】(000001236)株式会社小松製作所 (1,686)
【Fターム(参考)】