説明

作業車

【課題】 作業車において、操作制御が適切なタイミングで行われるように構成する。
【解決手段】 車輪の回転数に基づいて機体の走行距離を検出する走行距離検出手段と、操向操作自在な車輪の操向角度を検出する操向角度検出手段とを備える。走行距離検出手段で検出された機体の走行距離と、操向角度検出手段で検出された車輪の操向角度とに基づいて、操作制御を行う操作制御手段を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業車において旋回時等に行われる操作制御に関する。
【背景技術】
【0002】
作業車の一例である乗用型田植機では、例えば特許文献1に開示されているように、旋回時等に操作制御を行う操作制御手段を備えたものがある。
特許文献1では、機体が畦際に達して前輪が操向操作されると、畦際での旋回が開始されたと判断されて(特許文献1の段落番号[0038])、距離センサー(特許文献1の図3の27)により機体の走行距離の検出(積算)が開始され、苗植付装置が自動又は手動により上昇駆動される(特許文献1の段落番号[0039])。
【0003】
次に畦際での旋回の後半に入り、機体の走行距離が設定距離に達すると、畦際での旋回が終了したと判断されて(特許文献1の段落番号[0042])、苗植付装置が自動的に下降駆動される(特許文献1の段落番号[0044])。これにより、運転者が畦際での旋回時に行う操作が少なくなって(昇降レバーによる苗植付装置の下降操作が不要になって)、操作性が良いものとなる。
この場合、特許文献1では、車輪に動力を伝達する伝動軸(特許文献1の図1及び図2の34)の回転数を、距離センサー(特許文献1の図3の27)により検出するように構成されており、車輪の回転数に基づいて機体の走行距離を検出(積算)している。
【0004】
【特許文献1】特開2002−233220号公報
【特許文献2】特開2001−86816号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前輪を旋回開始から旋回終了まで同じ旋回方向の操向角度に維持して、一つの半円を描くように旋回する状態である場合、機体の走行距離がそのまま旋回の進行となるので、特許文献1のように、機体の走行距離が設定距離に達すると畦際での旋回が終了したと判断して、苗植付装置が下降駆動されても問題はない。
【0006】
しかしながら、作業車の一例である乗用型田植機では、畦際での旋回において、前輪を旋回開始から旋回終了まで同じ旋回方向の操向角度に維持して、一つの半円を描くように旋回する状態ばかりではなく、例えば特許文献2に開示されているように、8条植型式のような横幅の大きな苗植付装置を備えた乗用型田植機では、畦際での旋回において前半の旋回(特許文献2の図8のL1)を行った後、少し直進走行(特許文献2の図8のL2)を行い、後半の旋回(特許文献2の図8のL3)を行う場合がある。
【0007】
これにより、特許文献2の図8に示すように、前半の旋回、直進走行及び後半の旋回を行う場合、特許文献1のように機体の走行距離の検出(積算)を行うだけであると、前半及び後半の旋回の間の直進走行でも機体の走行距離の検出(積算)が行われるので、前半及び後半の旋回の間の直進走行が長くなると、まだ旋回が終了していないのに、前半及び後半の旋回の間の直進走行において、機体の走行距離が設定距離に達し、畦際での旋回が終了したと判断されて、苗植付装置が下降駆動されてしまう可能性がある。
本発明は、作業車において、操作制御が適切なタイミングで行われるように構成することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
[I]
(構成)
本発明の第1特徴は、作業車において次のように構成することにある。
車輪の回転数に基づいて機体の走行距離を検出する走行距離検出手段と、操向操作自在な車輪の操向角度を検出する操向角度検出手段とを備える。走行距離検出手段で検出された機体の走行距離と、操向角度検出手段で検出された車輪の操向角度とに基づいて、操作制御を行う操作制御手段を備える。
【0009】
(作用)
本発明の第1特徴によると、機体の走行距離だけに基づいて操作制御が行われるのではなく、機体の走行距離と車輪の操向角度とに基づいて操作制御が行われる。
この場合、例えば車輪が旋回方向に操向操作された状態で、機体の走行距離が検出(積算)されると、機体の走行距離の分だけ機体の旋回角度は大きくなったと判断できる(旋回が進行したと判断できる)。逆に例えば車輪が直進位置に操向操作された状態で、機体の走行距離が検出(積算)されても、機体は直進しただけで機体の旋回角度は変化していないと判断できる(旋回が進行しなかったと判断できる)。
【0010】
これにより、前述の[発明が解決しようとする課題]に記載のように、前半の旋回、直進走行及び後半の旋回を行っても、旋回中に機体の旋回角度が大きくなっているのか変化していないのかを認識することができ(前半及び後半の旋回の間の直進走行では、機体の旋回角度が変化していないことを認識することができ)、旋回が終了したか否かを適切に認識することができるようになって、操作制御が適切なタイミングで行われるようにすることができる。
【0011】
(発明の効果)
本発明の第1特徴によると、作業車において、機体の走行距離に加えて車輪の操向角度を考慮することにより、操作制御が適切なタイミングで行われるようになって、操作制御の精度を高めることができた。
【0012】
[II]
(構成)
本発明の第2特徴は、本発明の第1特徴の作業車において次のように構成することにある。
機体に支持された作業装置を昇降駆動する昇降機構を備える。走行距離検出手段で検出された機体の走行距離と、操向角度検出手段で検出された車輪の操向角度とに基づいて、上昇側に作動した昇降機構を下降側に作動させて作業装置を下降させる自動下降手段を備えて、自動下降手段を操作制御手段とする。
【0013】
(作用)
本発明の第2特徴によると、本発明の第1特徴と同様に前項[I]に記載の「作用」を備えており、これに加えて以下のような「作用」を備えている。
本発明の第2特徴によると、前項[I]に記載の操作制御手段の一つとして、自動下降手段(例えば、旋回開始からの機体の走行距離が設定距離に達すると、上昇側に作動した昇降機構を下降側に作動させて作業装置を下降させる)を採用している。
【0014】
本発明の第2特徴によれば、自動又は手動により作業装置が昇降機構により上昇して旋回を開始した場合、機体の走行距離と車輪の操向角度とに基づいて、上昇側に作動した昇降機構が下降側に作動して作業装置が下降する。
この場合、前述の[発明が解決しようとする課題]に記載のように、前半の旋回、直進走行及び後半の旋回を行っても、旋回中に機体の旋回角度が大きくなっているのか変化していないのかを認識することができ(前半及び後半の旋回の間の直進走行では、機体の旋回角度が変化していないことを認識することができ)、旋回が終了したか否かを適切に認識することができるようになって、上昇側に作動した昇降機構が適切なタイミングで下降側に作動して作業装置が下降するようにすることができる。
【0015】
(発明の効果)
本発明の第2特徴によると、本発明の第1特徴と同様に前項[I]に記載の「発明の効果」を備えており、これに加えて以下のような「発明の効果」を備えている。
本発明の第2特徴によると、操作制御手段の一つとして自動下降手段を採用した場合、機体の走行距離に加えて車輪の操向角度を考慮することにより、上昇側に作動した昇降機構が適切なタイミングで下降側に作動して作業装置が下降するように構成することができて、自動下降手段の精度を高めることができた。
【0016】
[III]
(構成)
本発明の第3特徴は、本発明の第1又は第2特徴において次のように構成することにある。
機体に支持された作業装置に動力を伝動及び遮断自在な作業クラッチを備える。走行距離検出手段で検出された機体の走行距離と、操向角度検出手段で検出された車輪の操向角度とに基づいて、遮断状態に操作された作業クラッチを伝動状態に操作する作業クラッチ操作手段を備えて、作業クラッチ操作手段を操作制御手段とする。
【0017】
(作用)
本発明の第3特徴によると、本発明の第1又は第2特徴と同様に前項[I][II]に記載の「作用」を備えており、これに加えて以下のような「作用」を備えている。
本発明の第3特徴によると、前項[I]に記載の操作制御手段の一つとして、作業クラッチ操作手段(例えば、旋回開始からの機体の走行距離が設定距離に達すると、遮断状態に操作された作業クラッチを伝動状態に操作する)を採用している。
【0018】
本発明の第3特徴によれば、自動又は手動により作業クラッチが遮断状態に操作されて旋回を開始した場合、機体の走行距離と車輪の操向角度とに基づいて、遮断状態に操作された作業クラッチが伝動状態に操作される。
この場合、前述の[発明が解決しようとする課題]に記載のように、前半の旋回、直進走行及び後半の旋回を行っても、旋回中に機体の旋回角度が大きくなっているのか変化していないのかを認識することができ(前半及び後半の旋回の間の直進走行では、機体の旋回角度が変化していないことを認識することができ)、旋回が終了したか否かを適切に認識することができるようになって、遮断状態に操作された作業クラッチが適切なタイミングで伝動状態に操作することができる。
【0019】
(発明の効果)
本発明の第3特徴によると、本発明の第1又は第2特徴と同様に前項[I][II]に記載の「発明の効果」を備えており、これに加えて以下のような「発明の効果」を備えている。
本発明の第3特徴によると、操作制御手段の一つとして作業クラッチ操作手段を採用した場合、機体の走行距離に加えて車輪の操向角度を考慮することにより、遮断状態に操作された作業クラッチが適切なタイミングで伝動状態に操作されるように構成することができて、作業クラッチ操作手段の精度を高めることができた。
【0020】
[IV]
(構成)
本発明の第4特徴は、本発明の第1〜第3特徴の作業車のうちのいずれか一つにおいて次のように構成することにある。
右の車輪に動力を伝動及び遮断自在な右のサイドクラッチと、左の車輪に動力を伝動及び遮断自在な左のサイドクラッチとを備える。旋回開始に伴って、旋回外側のサイドクラッチが伝動状態に維持され、旋回中心側のサイドクラッチが遮断状態に操作されるように構成する。旋回中心側の車輪の回転数に基づいて機体の走行距離を検出するように、走行距離検出手段を構成する。
【0021】
(作用)
本発明の第4特徴によると、本発明の第1〜第3特徴のうちのいずれか一つと同様に前項[I]〜[III]に記載の「作用」を備えており、これに加えて以下のような「作用」を備えている。
作業車では、右の車輪に動力を伝動及び遮断自在な右のサイドクラッチと、左の車輪に動力を伝動及び遮断自在な左のサイドクラッチとを備えて、旋回開始に伴って、旋回外側のサイドクラッチが伝動状態に維持され、旋回中心側のサイドクラッチが遮断状態に操作されるように構成したものがある(特許文献1参照)。これにより、旋回時において、旋回中心側の車輪に動力が伝達されず、旋回中心側の車輪が自由回転する状態となって、旋回に伴い作業地に従って旋回中心側の車輪が回転する状態となり、旋回中心側の車輪によって作業地が荒らされることが少なくなる。
【0022】
この場合、車輪に動力が伝達されて車輪が回転駆動されようとする際に、車輪の駆動力と作業地の摩擦係数との関係によって、車輪にスリップが発生したり発生しなかったりすると考えられる。逆に、車輪に動力が伝達されず車輪が自由回転する状態であれば、車輪を回転させるのは作業地の摩擦係数に基づく作業地からの抵抗であるので、車輪にスリップは殆ど発生しないと考えられる。これにより、前述の作業車において、旋回中心側(サイドクラッチの遮断状態側)の車輪は、旋回に伴い殆どスリップを発生させずに作業地に従って回転すると考えられる。
【0023】
本発明の第4特徴によると、旋回中心側の車輪の回転数に基づいて機体の走行距離を検出(積算)するように、走行距離検出手段を構成しているので、スリップを発生させることが少ない旋回中心側(サイドクラッチの遮断状態側)の車輪により、機体の走行距離を検出(積算)することによって、スリップの発生を避けながら(スリップの影響を避けながら)、機体の走行距離の検出(積算)を精度良く行うことができる。
【0024】
(発明の効果)
本発明の第4特徴によると、本発明の第1〜第3特徴のうちのいずれか一つと同様に前項[I]〜[III]に記載の「発明の効果」を備えており、これに加えて以下のような「発明の効果」を備えている。
本発明の第4特徴によると、スリップを発生させることが少ない旋回中心側(サイドクラッチの遮断状態側)の車輪により、機体の走行距離を精度よく検出(積算)することができるようになって、操作制御の精度を高めることができた。
本発明の第4特徴によると、既存の構造である右及び左のサイドクラッチを有効に利用することにより、機体の走行距離を精度よく検出(積算)することができるので、走行距離検出手段の構成の簡素化と言う面で有利なものとなった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
[1]
図1に示すように、右及び左の前輪1(車輪に相当)、右及び左の後輪2(車輪に相当)で支持された機体の後部に、リンク機構3が昇降自在に支持されて、リンク機構3を昇降駆動する単動型の油圧シリンダ4(昇降機構に相当)が備えられており、リンク機構3の後部に苗植付装置5(作業装置に相当)が支持されて、作業車の一例である乗用型田植機が構成されている。水田は一般に下方の硬い耕盤G1の上に泥や水の層が形成されて、泥や水の層の最上面が田面G2となっており、右及び左の前輪1、右及び左の後輪2は耕盤G1に接地して走行する。
【0026】
図1に示すように、苗植付装置5は、4個の植付伝動ケース6、植付伝動ケース6の後部の左右に回転駆動自在に支持された回転ケース7、回転ケース7の両端に備えられた一対の植付アーム8、複数の接地フロート9、苗のせ台10等を備えて、8条植型式に構成されている。運転座席13の後側に、肥料を貯留するホッパー14及び2条単位の4個の繰り出し部15(作業装置に相当)が備えられて、運転座席13の下側にブロア16が備えられている。接地フロート9に作溝器17が備えられて、繰り出し部15と作溝器17とに亘ってホース18が接続されている。
【0027】
図1及び図6に示すように、右及び左のマーカー19が苗植付装置5の右及び左側部に備えられており、田面G2に接地して指標を形成する作用姿勢(図1参照)、及び田面G2から上方に離れた格納姿勢(図6参照)に変更自在に構成されている。右及び左のマーカー19は上下に揺動自在に苗植付装置5に支持されたアーム部19aと、アーム部19aの先端部に自由回転自在に支持された回転体19bとを備えて構成されており、右及び左のマーカー19を作用姿勢及び格納姿勢に操作する電動モータ21が備えられて、制御装置23により電動モータ21が操作される。
【0028】
[2]
次に、右及び左の前輪1、右及び左の後輪2への伝動系について説明する。
図1及び図2に示すように、エンジン31の動力が伝動ベルト32を介して静油圧式無段変速装置33及びミッションケース34に伝達され、ミッションケース34の内部の副変速装置(図示せず)から前車軸ケース35を介して、右及び左の前輪1に伝達される。副変速装置の動力が伝動軸36、後車軸ケース37の入力軸38、入力軸38に固定されたベベルギヤ38a、ベベルギヤ38aに咬合するベベルギヤ39a、ベベルギヤ39aが固定された伝動軸39、右及び左のサイドクラッチ40を介して、右及び左の後輪2に伝達される。静油圧式無段変速装置33は中立位置Nから前進側F及び後進側Rに無段階に変速自在に構成されており、操縦ハンドル20の左横側に備えられた変速レバー45により静油圧式無段変速装置33を操作する。
【0029】
図2及び図3に示すように、ミッションケース34の下部の縦軸芯P2周りに、平面視台形状の操向部材41が揺動自在に支持され、操縦ハンドル20により操向部材41が揺動操作されるように構成されており、操向部材41と右及び左の前輪1とに亘ってタイロッド42が接続されている。これにより、操縦ハンドル20を操作することによって、右及び左の前輪1を直進位置A1から、右及び左の操向限度A3に亘って操向操作することができる。
【0030】
図4に示すように、右及び左のサイドクラッチ40は、伝動軸39に相対回転自在に外嵌されたクラッチケース40a、伝動軸39にスプライン構造により一体回転及びスライド自在に外嵌された操作部材40b、クラッチケース40aと操作部材40bとの間に配置された複数の摩擦板40c、摩擦板40cの押圧側(伝動状態側)に操作部材40bを付勢するバネ40d等を備えて構成されており、バネ40dにより右及び左のサイドクラッチ40が伝動状態に付勢されている。
【0031】
図2及び図4に示すように、右及び左のサイドクラッチ40の操作部材40bをスライド操作する右及び左の操作軸43が、後車軸ケース37に下向きに支持されて、操向部材41と右及び左の操作軸43とに亘り、前車軸ケース35の下側を通って右及び左の操作ロッド44が接続されている。右及び左の操作ロッド44において右及び左の操作軸43との接続部分に、融通としての長孔44aが備えられている。
【0032】
図2及び図4に示すように、右及び左の前輪1が直進位置A1、右及び左の設定角度A2の範囲で操向操作されていると、右及び左の操作ロッド44の長孔44aの融通によって、右及び左のサイドクラッチ40は伝動状態に操作されている。これにより、右及び左の前輪1、右及び左の後輪2(右及び左のサイドクラッチ40の伝動状態)に動力が伝達された状態で、機体は前進(後進)する。
【0033】
図2及び図4に示すように、右及び左の前輪1が右の設定角度A2を越えて右の操向限度A3側に操向操作されると、右の操作ロッド44の長孔44aの範囲を越えて右の操作ロッド44が引き操作されることになり、右の操作軸43により右のサイドクラッチ40の操作部材40bがスライド操作されて、右のサイドクラッチ40が遮断状態に操作される。これにより、右及び左の前輪1、左の後輪2(旋回外側)(左のサイドクラッチ40の伝動状態)に動力が伝達され、右の後輪2(旋回中心側)(右のサイドクラッチ40の遮断状態)が自由回転する状態で、機体は右に旋回する。
【0034】
図2及び図4に示すように、右及び左の前輪1が左の設定角度A2を越えて左の操向限度A3側に操向操作されると、左の操作ロッド44の長孔44aの範囲を越えて左の操作ロッド44が引き操作されることになり、左の操作軸43により左のサイドクラッチ40の操作部材40bが図4の紙面左方にスライド操作されて、左のサイドクラッチ40が遮断状態に操作される。これにより、右及び左の前輪1、右の後輪2(旋回外側)(右のサイドクラッチ40の伝動状態)に動力が伝達され、左の後輪2(旋回中心側)(左のサイドクラッチ40の遮断状態)が自由回転する状態で、機体は左に旋回する。
【0035】
[3]
次に、苗植付装置5及び繰り出し部15への伝動系について説明する。
図1及び図6に示すように、ミッションケース34において、副変速装置の直前から分岐した動力が、植付クラッチ26(作業クラッチに相当)、及びPTO軸25を介して苗植付装置5に伝達されて、副変速装置の直前から分岐した動力が、施肥クラッチ27(作業クラッチに相当)、及び駆動ロッド30介して繰り出し部15に伝達されており、植付及び施肥クラッチ26,27を伝動及び遮断状態に操作する電動モータ28が備えられている。
【0036】
図1及び図6に示すように、植付クラッチ26が伝動状態に操作されると、苗のせ台10が左右に往復横送り駆動されるのに伴って、回転ケース7が図1の紙面反時計方向に回転駆動され、苗のせ台10の下部から植付アーム8が交互に苗を取り出して田面G2に植え付ける。植付クラッチ26が遮断状態に操作されると、苗のせ台10の往復横送り駆動及び回転ケース7の回転駆動が停止する。
【0037】
図1及び図6に示すように、施肥クラッチ27が伝動状態に操作されると、ホッパー14から肥料が所定量ずつ繰り出し部15によって繰り出され、ブロア16の送風により肥料がホース18を通って作溝器17に供給されるのであり、作溝器17を介して肥料が田面G2に供給される。施肥クラッチ27が遮断状態に操作されると、繰り出し部15が停止して、田面G2への肥料の供給が停止する。
【0038】
[4]
次に、苗植付装置5の自動昇降制御について説明する。
図6に示すように、苗植付装置5の横軸芯P1周りに中央の接地フロート9の後部が上下に揺動自在に支持されて、苗植付装置5に対する中央の接地フロート9の高さを検出するポテンショメータ22が備えられており、ポテンショメータ22の検出値が制御装置23に入力されている。機体の進行に伴って中央の接地フロート9が田面G2に接地追従するのであり、ポテンショメータ22の検出値により苗植付装置5に対する中央の接地フロート9の高さを検出することによって、田面G2(中央の接地フロート9)から苗植付装置5までの高さを検出することができる。
【0039】
図6に示すように、油圧シリンダ4に作動油を給排操作する制御弁24が備えられており、制御装置23により制御弁24が操作される。制御弁24により油圧シリンダ4に作動油が供給されると、油圧シリンダ4が収縮作動して苗植付装置5が上昇し、制御弁24により油圧シリンダ4から作動油が排出されると、油圧シリンダ4が伸長作動して苗植付装置5が下降する。
【0040】
図6に示すように、苗植付装置5に対する中央の接地フロート9の高さ(田面G2(中央の接地フロート9)から苗植付装置5までの高さ)に基づいて、苗植付装置5が田面G2から設定高さに維持されるように(ポテンショメータ22の検出値(ポテンショメータ22と中央の接地フロート9との上下間隔)が設定値に維持されるように)、制御装置23により制御弁24が操作され、油圧シリンダ4が伸縮作動して、苗植付装置5が自動的に昇降する(以上、自動昇降制御)。
【0041】
[5]
次に、昇降レバー11について説明する。
図1及び図6に示すように、運転座席13の右横側に昇降レバー11が備えられ、昇降レバー11は自動位置、上昇位置、中立位置、下降位置及び植付位置に操作自在に構成されており、昇降レバー11の操作位置が制御装置23に入力されている。機体に対するリンク機構3の上下角度を検出するポテンショメータ29が備えられており、ポテンショメータ29の検出値が制御装置23に入力されている。
【0042】
図6に示すように、昇降レバー11を上昇位置、中立位置、下降位置及び植付位置に操作した場合(昇降レバー11を自動位置に操作していない場合)、後述の[6]に記載の操作レバー12の第1及び第2上昇位置U1,U2の機能、第1及び第2下降位置D1,D2の機能は作動せず、操作レバー12の右及び左マーカー位置R,Lの機能だけが作動する。
【0043】
図6に示すように、昇降レバー11を上昇位置に操作すると、自動昇降制御が停止し、電動モータ28により植付及び施肥クラッチ26,27が遮断状態に操作され、電動モータ21により右及び左のマーカー19が格納姿勢に操作されて、制御装置23により制御弁24が供給位置に操作され、油圧シリンダ4が収縮作動して苗植付装置5が上昇する。昇降レバー11を上昇位置に操作した状態で、苗植付装置5が上限位置に達したことがポテンショメータ29により検出されると、制御装置23により制御弁24が中立位置に操作されて、油圧シリンダ4が自動的に停止する。
【0044】
図6に示すように、昇降レバー11を下降位置に操作すると、自動昇降制御が停止し、電動モータ28により植付及び施肥クラッチ26,27が遮断状態に操作され、電動モータ21により右及び左のマーカー19が格納姿勢に操作された状態で、制御装置23により制御弁24が排出位置に操作され、油圧シリンダ4が伸長作動して苗植付装置5が下降するのであり、中央の接地フロート9が田面G2に接地すると自動昇降制御が作動して、苗植付装置5が田面G2に接地して停止した状態となる。
【0045】
図6に示すように、昇降レバー11を中立位置に操作すると、自動昇降制御が停止し、電動モータ28により植付及び施肥クラッチ26,27が遮断状態に操作され、電動モータ21により右及び左のマーカー19が格納姿勢に操作された状態で、制御装置23により制御弁24が中立位置に操作されて、油圧シリンダ4が停止する。このように、昇降レバー11を上昇位置、中立位置及び下降位置に操作することにより、苗植付装置5を任意の高さに上昇及び下降させて停止させることができる。
【0046】
図6に示すように、昇降レバー11を植付位置に操作すると、電動モータ21により右及び左のマーカー19が格納姿勢に操作された状態で、自動昇降制御が作動し、電動モータ28により植付及び施肥クラッチ26,27が伝動状態に操作される。これによって、苗のせ台10が左右に往復横送り駆動されるのに伴って回転ケース7が回転駆動され、苗のせ台10の下部から植付アーム8が交互に苗を取り出して田面G2に植え付けるのであり、ホッパー14から肥料が所定量ずつ繰り出し部15によって繰り出され、ブロア16の送風により肥料がホース18を通って作溝器17に供給され、作溝器17を介して田面G2に供給される。
【0047】
[6]
次に、操作レバー12について説明する。
図1及び図6に示すように、操縦ハンドル20の下側の右横側に操作レバー12が備えられ、操作レバー12が右の横外方に延出されている。操作レバー12は中立位置Nから上方の第1上昇位置U1、第2上昇位置U2,下方の第1下降位置D1、第2下降位置D2、後方の右マーカー位置R及び前方の左マーカー位置Lの十字方向に操作自在に構成されて、中立位置Nに付勢されており、操作レバー12の操作位置が制御装置23に入力されている。
【0048】
図6に示すように、昇降レバー11を自動位置に操作した状態で、以下のように操作レバー12の機能が作動する。
操作レバー12を第2上昇位置U2に操作すると(第2上昇位置U2に操作して中立位置Nに操作すると)、電動モータ28により植付及び施肥クラッチ26,27が遮断状態に操作されて、自動昇降制御が停止し、電動モータ21により右及び左のマーカー19が格納姿勢に操作されて、制御装置23により制御弁24が供給位置に操作され、油圧シリンダ4が収縮作動して苗植付装置5が上昇する。苗植付装置5が上限位置に達したことがポテンショメータ29により検出されると、制御装置23により制御弁24が中立位置に操作されて、油圧シリンダ4が自動的に停止する。
【0049】
図6に示すように、操作レバー12を第2下降位置D2に操作すると(第2下降位置D2に操作して中立位置Nに操作すると)、制御装置23により制御弁24が排出位置に操作され、油圧シリンダ4が伸長作動して苗植付装置5が下降するのであり、中央の接地フロート9が田面G2に接地すると、自動昇降制御が作動して、苗植付装置5が田面G2に接地して停止した状態となる。操作レバー12を第2下降位置D2に操作した後(第2下降位置D2に操作して中立位置Nに操作した後)、操作レバー12を再び第2下降位置D2に操作すると、自動昇降制御が作動した状態で、電動モータ28により植付及び施肥クラッチ26,27が伝動状態に操作される。
【0050】
例えば自動昇降制御が停止し、電動モータ28により植付及び施肥クラッチ26,27が遮断状態に操作され、電動モータ21により右及び左のマーカー19が格納姿勢に操作された状態において、図6に示すように、操作レバー12を第1上昇位置U1に操作すると、制御装置23により制御弁24が供給位置に操作され、油圧シリンダ4が収縮作動して、苗植付装置5が上昇する。操作レバー12を中立位置Nに操作すると、制御装置23により制御弁24が中立位置に操作されて、苗植付装置5の上昇が停止する。
【0051】
例えば自動昇降制御が停止し、電動モータ28により植付及び施肥クラッチ26,27が遮断状態に操作され、電動モータ21により右及び左のマーカー19が格納姿勢に操作された状態において、図6に示すように、操作レバー12を第1下降位置D1に操作すると、制御装置23により制御弁24が排出位置に操作され、油圧シリンダ4が伸長作動して、苗植付装置5が下降する。操作レバー12を中立位置Nに操作すると、制御装置23により制御弁24が中立位置に操作されて、苗植付装置5の下降が停止する。
このように操作レバー12を第1上昇及び第1下降位置U1,D1に操作している間だけ、苗植付装置5を上昇及び下降させることができるのであり、苗植付装置5を任意の高さに上昇及び下降させることができる。
【0052】
図6に示すように、操作レバー12を右マーカー位置Rに操作すると(右マーカー位置Rに操作して中立位置Nに操作すると)、電動モータ21により右のマーカー19が作用姿勢に操作される。操作レバー12を左マーカー位置Lに操作すると(左マーカー位置Lに操作して中立位置Nに操作すると)、電動モータ21により左のマーカー19が作用姿勢に操作される。
【0053】
[7]
次に、畦際での旋回時の操作制御に関する構造について説明する。
図6に示すように、変速レバー45の操作位置が制御装置23に入力されている。図2及び図3に示すように、ミッションケース34の右の横側面に、ブラケット46が固定され、ブラケット46にポテンショメータ47(操向角度検出手段に相当)が固定されて、ポテンショメータ47から検出アーム47aが下向きに延出されており、操向部材41とポテンショメータ47の検出アーム47aとに亘って、連係ロッド48が前車軸ケース35の下側を通って接続されている。ポテンショメータ47により操向部材41を介して、右及び左の前輪1の操向角度(直進位置A1と右及び左の操向限度A3の範囲)を検出することができるのであり、ポテンショメータ47の検出値が制御装置23に入力されている。
【0054】
図2,4,5に示すように、外周部に小さな凹凸が多数形成されたリング部材49が、右及び左のサイドクラッチ40のクラッチケース40aに外嵌されており、近接センサー型式の右及び左の回転数センサー50が、リング部材49に対向するように後車軸ケース37の上部に固定され、右及び左の回転数センサー50の検出値が制御装置23に入力されている。これにより、リング部材49の各々の凹凸に対応するように右及び左の回転数センサー50からパルスが発信されるのであり、右及び左の回転数センサー50のパルスによって、右及び左の後輪2の回転数を検出することができる。
【0055】
この場合、図4及び図5に示すように、右及び左の回転数センサー50により、右及び左のサイドクラッチ40のクラッチケース40a、リング部材49を介して、右及び左の後輪2の回転数を検出しているので、右及び左のサイドクラッチ40が伝動状態に操作されていても遮断状態に操作されていても、右及び左の回転数センサー50によって、右及び左の後輪2の回転数を検出することができる。
【0056】
図6に示すように、右及び左の回転数センサー50のパルスの第1積算値C1を検出(積算)して機体の走行距離とする走行距離検出手段51、耕盤G1に対する右及び左の後輪2のスリップ率を検出するスリップ率検出手段52、自動下降手段53(操作制御手段)、作業クラッチ操作手段54(操作制御手段)、右及び左の回転数センサー50のパルスの第2積算値C2を検出(積算)し、ポテンショメータ47の検出値(右及び左の前輪1の操向角度)に基づいて、機体の旋回角度F1を検出する旋回角度検出手段55が、制御装置23に備えられている。
【0057】
[8]
次に、畦際での旋回時の操作制御の前半(後進行程L1及び前半の前進行程L2)、について、図7,8,9に基づいて説明する。
8条植型式の苗植付装置5を備えた乗用型田植機では、畦際において、図9に示すように、後進行程L1、前半の前進行程L2、前半の旋回行程L3、直進行程L4、後半の旋回行程L5、後半の前進行程L6を行って、1回の植付行程L01から次の植付行程L02に入る場合がある。
【0058】
1回の植付行程L01が終了する場合、運転者は植え付けを行いながら(苗植付装置5の下降状態、植付及び施肥クラッチ26,27の伝動状態、右及び左のサイドクラッチ40の伝動状態)、機体を畦Bに向って前進させて、機体の前端が畦Bに到達すると(ステップS1)、変速レバー45を中立位置Nに操作して、機体を停止させる(ステップS2)(植付行程L01)。
【0059】
運転者は、昇降レバー11又は操作レバー12により苗植付装置5を停止させて上昇させ(植付及び施肥クラッチ26,27の遮断状態、苗植付装置5の上昇状態)(ステップS3,S4)(植付及び施肥クラッチ26,27の遮断位置E1)、変速レバー45を後進側Rに操作して、機体を後進させ(ステップS5)、所望の走行距離だけ機体が後進すると、変速レバー45を中立位置Nに操作して、機体を停止させる(ステップS6)(後進行程L1)。
【0060】
運転者は、変速レバー45を前進側Fに操作して、機体を前進させるのであり(ステップS7)、所望の走行距離だけ機体が前進すると、操縦ハンドル20を操作して右及び左の前輪1を旋回方向に操向操作するのであり、右及び左の前輪1が右(左)の設定角度A2を越えて右(左)の操向限度A3側に操向操作されると、前項[2]に記載のように、旋回外側のサイドクラッチ40が伝動状態に維持された状態で、旋回中心側のサイドクラッチ40が遮断状態に操作される。ポテンショメータ47により、右及び左の前輪1が右(左)の設定角度A2を越えて右(左)の操向限度A3側に操向操作されたことが検出される(ステップS8)(前半の前進行程L2)。
【0061】
この場合、運転者が変速レバー45を後進側Rに操作してから(ステップS5)、右及び左の回転数センサー50のパルス(右及び左の後輪2の回転数)の平均値が、制御装置23においてパルスの第1積算値C1(機体の走行距離)として検出(積算)され始めており、ポテンショメータ47により、右及び左の前輪1が右(左)の設定角度A2に達したことが検出されるまで(ステップS5〜S8)、右及び左の回転数センサー50のパルス(右及び左の後輪2の回転数)の平均値が、制御装置23においてパルスの第1積算値C1(機体の走行距離)として検出(積算)される(ステップS101)(走行距離検出手段51)。
【0062】
制御装置23において、パルスの第1積算値C1(機体の走行距離)のうち、後進行程L1でのパルスの第1積算値C1(機体の走行距離)と、前半の前進行程L2でのパルスの第1積算値C1(機体の走行距離)との差を見ることにより、旋回中心側のサイドクラッチ40の遮断位置E2を検出することができるのであり、植付及び施肥クラッチ26,27の遮断位置E1と、旋回中心側のサイドクラッチ40の遮断位置E2との位置関係を検出することができる(ステップS9)。
【0063】
右及び左のサイドクラッチ40が伝動状態であれば、右及び左の後輪2の回転数に差は発生しないのであるが、後進行程L1において、右又は左のサイドクラッチ40が遮断状態に操作されるまで、操縦ハンドル20が操作される可能性があることを想定して、右及び左の回転数センサー50のパルス(右及び左の後輪2の回転数)の平均値を、制御装置23においてパルスの第1積算値C1(機体の走行距離)として検出(積算)している(ステップS101)。
【0064】
[9]
次に、畦際での旋回時の操作制御の中半(前半の旋回行程L3、直進行程L4及び後半の旋回行程L5)について、図7,8,9に基づいて説明する。
制御装置23において、植付及び施肥クラッチ26,27の遮断位置E1と、旋回中心側のサイドクラッチ40の遮断位置E2との位置関係が検出されると(ステップS9)、畦際での旋回が開始されたと判断されて(前半の旋回行程L3に入ったと判断されて)、第1設定値CA1及び第2設定値CA2が設定される(ステップS10)。
【0065】
制御装置23において、植付及び施肥クラッチ26,27の遮断位置E1と、旋回中心側のサイドクラッチ40の遮断位置E2との位置関係を検出することにより(ステップS9)、旋回中心側のサイドクラッチ40の遮断位置E2から、どれだけのパルスが発信された後(どれだけの機体の走行距離に達した後)、植付及び施肥クラッチ26,27を伝動状態に操作すると、植付及び施肥クラッチ26,27の遮断位置E1と植付及び施肥クラッチ26,27の伝動位置E5とが一致するのかが検出されて、この検出値が第1設定値CA1として設定される(ステップS10)。
【0066】
制御装置23において、植付及び施肥クラッチ26,27の遮断位置E1と、旋回中心側のサイドクラッチ40の遮断位置E2との位置関係を検出することにより(ステップS9)、旋回中心側のサイドクラッチ40の遮断位置E2から、どれだけのパルスが発信された後(どれだけの機体の走行距離に達した後)、苗植付装置5を下降させると、畦Bに接触させずに適切なタイミングで苗植付装置5を下降させることができるのかが検出されて、この検出値が第2設定値CA2として設定される(ステップS10)。
【0067】
運転者は、操縦ハンドル20を操作することにより、機体を走行させる(前半の旋回行程L3、直進行程L4及び後半の旋回行程L5)。
制御装置23において、旋回中心側のサイドクラッチ40の遮断位置E2から、旋回中心側の回転数センサー50のパルス(旋回中心側の後輪2の回転数)が、制御装置23においてパルスの第1積算値C1(機体の走行距離)として検出(積算)され、後進行程L1及び前半の前進行程L2でのパルスの第1積算値C1(機体の走行距離)に加算される(ステップS102)(走行距離検出手段51)。
制御装置23において、旋回中心側のサイドクラッチ40の遮断位置E2から、新たに旋回外側の回転数センサー50のパルス(旋回外側の後輪2の回転数)が、制御装置23においてパルスの第2積算値C2として検出(積算)される(ステップS103)。
【0068】
制御装置23において、パルスの第2積算値C2とポテンショメータ47の検出値(右及び左の前輪1の操向角度)とに基づいて、機体の旋回角度F1が検出(積算)される(ステップS104)(旋回角度検出手段55)。
この場合、旋回中心側のサイドクラッチ40の遮断位置E2での機体の向きに対して、現在の機体の向きがどれだけ変化したのかが、パルスの第2積算値C2とポテンショメータ47の検出値(右及び左の前輪1の操向角度)とに基づいて検出され、この検出値が機体の旋回角度F1として検出(積算)される。機体の旋回角度F1が90度であれば、機体の向きが真横に向いた状態であり、機体の旋回角度F1が180度であれば、機体の向きが反対に向いた状態である。右及び左の前輪1が旋回方向に操向操作された状態で、パルスの第2積算値C2が大きくなると(積算されると)、パルスの第2積算値C2の増加分だけ機体の旋回角度F1は大きくなったと検出される。逆に右及び左の前輪1が直進位置A1に操向操作された状態で、パルスの第2積算値C2が大きくなっても(積算されても)、機体は直進しただけで機体の旋回角度F1は変化していないと検出される。
【0069】
制御装置23において、前半及び後半の旋回行程L3,L5での耕盤G1に対する右及び左の後輪2のスリップ率が検出される(ステップS105)(スリップ率検出手段52)。
この場合、旋回外側(サイドクラッチ40の伝動状態)の後輪2の駆動力と、耕盤G1の摩擦係数との関係によって、旋回外側(サイドクラッチ40の伝動状態)の後輪2にスリップが発生したり発生しなかったりすると考えられる。旋回中心側(サイドクラッチ40の遮断状態)の後輪2に動力が伝達されず、旋回中心側(サイドクラッチ40の遮断状態)の後輪2が自由回転する状態であれば、旋回中心側(サイドクラッチ40の遮断状態)の後輪2を回転させるのは、耕盤G1の摩擦係数に基づく耕盤G1からの抵抗であるので、旋回中心側(サイドクラッチ40の遮断状態)の後輪2にスリップは殆ど発生しないと考えられる。
【0070】
これにより、前半及び後半の旋回行程L3,L5での旋回中心側(サイドクラッチ40の遮断状態)の後輪2は、機体の走行に伴い殆どスリップを発生させずに耕盤G1に従って回転すると考えられるので、制御装置23において、旋回中心側(サイドクラッチ40の遮断状態)の回転数センサー50のパルス(回転数)と、旋回外側(サイドクラッチ40の伝動状態)の回転数センサー50のパルス(回転数)との比に基づいて、耕盤G1に対する右及び左の後輪2のスリップ率が検出される。
【0071】
例えば旋回中心側(サイドクラッチ40の遮断状態)の回転数センサー50のパルス(回転数)に対して、旋回外側(サイドクラッチ40の伝動状態)の回転数センサー50のパルス(回転数)が、旋回外側及び旋回中心側の後輪2の内外輪差を考慮した所定のパルス数(回転数)の範囲であれば、旋回外側(サイドクラッチ40の伝動状態)の後輪2にスリップは発生していないと判断できる。
逆に旋回中心側(サイドクラッチ40の遮断状態)の回転数センサー50のパルス(回転数)に対して、旋回外側(サイドクラッチ40の伝動状態)の回転数センサー50のパルス(回転数)が、前述の所定のパルス数(回転数)を越えていれば、旋回外側(サイドクラッチ40の伝動状態)の回転数センサー50のパルス(回転数)と、旋回中心側(サイドクラッチ40の遮断状態)の回転数センサー50のパルス(回転数)との比に基づいて、耕盤G1に対する右及び左の後輪2のスリップ率が検出される。
【0072】
[10]
次に、畦際での旋回時の操作制御の後半(後半の旋回行程L5及び後半の前進行程L6)について、図7,8,9に基づいて説明する。
運転者が操縦ハンドル20を操作して機体を走行させて、パルスの第2積算値C2が第2設定値CA2に達すると(ステップS11)(例えば後半の旋回行程L5の途中等)、制御装置23において、検出(積算)された機体の旋回角度F1がスリップ率に基づいて補正される(ステップS12)。例えばスリップ率が大きいと、パルスの第2積算値C2が大きいのに、機体の旋回角度F1はあまり変化していないと判断できるので、検出(積算)された機体の旋回角度F1からスリップ率に基づく補正値が差し引かれる。
【0073】
これにより、パルスの第2積算値C2が第2設定値CA2に達し(ステップS11)、且つ、補正後の機体の旋回角度F1が第1設定角度FA1(例えば150度)に達していると(ステップS13)、畦際での旋回が通常どおりに行われていると判断されて、上昇状態の苗植付装置5が植付及び施肥クラッチ26,27の遮断状態を維持して自動的に下降する(ステップS14)(自動下降手段53)。
【0074】
機体が後半の旋回行程L5の終端位置E4に達して、運転者が操縦ハンドル20を操作し、右及び左の前輪1を直進位置A1側に操向操作するのであり、右及び左の前輪1が右(左)の設定角度A2を越えて直進位置A1側に操向操作されると、前項[2]に記載のように、旋回外側のサイドクラッチ40が伝動状態に維持された状態で、旋回中心側のサイドクラッチ40が伝動状態に操作される。ポテンショメータ47により、右及び左の前輪1が右(左)の設定角度A2を越えて直進位置A1側に操向操作されたことが検出される(ステップS15)(後半の前進行程L5)。
【0075】
制御装置23において、ポテンショメータ47により、右及び左の前輪1が右(左)の設定角度A2を越えて直進位置A1側に操向操作されことが検出されると(ステップS15)、畦際での旋回が終了したと判断される(後半の前進行程L6に入ったと判断される)。これにより後半の前進行程L6において、旋回中心側の回転数センサー50のパルス(旋回中心側の後輪2の回転数)がスリップ率に基づいて補正されながら(ステップS16)、補正後の値が、後進行程L1から後半の旋回行程L5までのパルスの第1積算値C1(機体の走行距離)に加算されて、パルスの第1積算値C1(機体の走行距離)とされる(ステップS106)(走行距離検出手段51)。
【0076】
この場合、例えばスリップ率が大きいと、パルスの第1積算値C1が大きいのに、機体はあまり進行していないと判断できるので、検出(積算)されたパルスの第1積算値C1からスリップ率に基づく補正値が差し引かれて、加算される(又は検出(積算)されたパルスの第1積算値C1にスリップ率が乗ざれて、加算される)。
【0077】
パルスの第1積算値C1が第1設定値CA1に達すると(ステップS17)、制御装置23において、検出(積算)された機体の旋回角度F1がスリップ率に基づいて補正される(ステップS18)(ステップS104)。例えばスリップ率が大きいと、パルスの第2積算値C2が大きいのに、機体の旋回角度F1はあまり変化していないと判断できるので、検出(積算)された機体の旋回角度F1からスリップ率に基づく補正値が差し引かれる。
【0078】
これにより、パルスの第1積算値C1が第1設定値CA1に達し(ステップS17)、且つ、補正後の機体の旋回角度F1が第2設定角度FA2(例えば180度)に達していると(ステップS19)、畦際での旋回が通常どおりに行われていると判断され、苗植付装置5が植付及び施肥クラッチ26,27の遮断位置E1の横隣の位置E5に達したと判断されて、植付及び施肥クラッチ26,27が伝動状態に操作される(作業クラッチ操作手段54)(ステップS20)。従って、この後に次の植付行程L02に入る。
【0079】
ステップS13において、補正後の機体の旋回角度F1が第1設定角度FA1(例えば150度)に達していなければ、畦際での旋回が通常どおりに行われていないと判断されて、これ以後のステップS14〜S20の操作が行われない。これにより、この後は運転者が昇降レバー11又は操作レバー12を操作して、苗植付装置5の下降、植付及び施肥クラッチ26,27の伝動状態への操作を行う。
【0080】
ステップS19において、補正後の機体の旋回角度F1が第2設定角度FA2(例えば180度)に達していなければ、畦際での旋回が通常どおりに行われていないと判断されて、これ以後のステップS20の操作が行われない。これにより、この後は運転者が昇降レバー11又は操作レバー12を操作して、植付及び施肥クラッチ26,27の伝動状態への操作を行う。
【0081】
[発明の実施の第1別形態]
前述の[発明を実施するための最良の形態]の旋回角度検出手段55(ステップS104)において、パルスの第2積算値C2とポテンショメータ47の検出値(右及び左の前輪1の操向角度)とに基づいて、機体の旋回角度F1を検出(積算)するのではなく、パルスの第1積算値C1とポテンショメータ47の検出値(右及び左の前輪1の操向角度)とに基づいて、機体の旋回角度F1を検出(積算)するように構成してもよい。
【0082】
[発明の実施の第2別形態]
前述の[発明を実施するための最良の形態][発明の実施の第1別形態]のスリップ率検出手段52(ステップS105)において、以下のように構成してもよい。
(1)
図6に示す右及び左のマーカー19のアーム部19aに回転体19bの回転数を検出する回転数センサー(図示せず)を備えて、右及び左の後輪2の回転数センサー50のパルス(回転数)と、右及び左のマーカー19の回転数センサーの回転数とを比較することによって、耕盤G1に対する右及び左の後輪2のスリップ率を検出するように構成する。これにより、右又は左のマーカー19を作用姿勢に操作する植付行程L01,L02において、耕盤G1に対する右及び左の後輪2のスリップ率を検出することができる。
【0083】
(2)
図9に示す植付行程L01,L02において、GPSにより実際の機体の走行距離を検出し、右及び左の後輪2の回転数センサー50のパルス(回転数)と比較することによって、耕盤G1に対する右及び左の後輪2のスリップ率を検出するように構成する。
(3)
前項(1)(2)及び[発明を実施するための最良の形態][発明の実施の第1別形態]において、回転数センサー50を右及び左の前輪1に備える。
【0084】
[発明の実施の第3別形態]
前述の[発明を実施するための最良の形態][発明の実施の第1別形態][発明の実施の第2別形態]において、操作制御手段として、畦際での旋回が終了すると自動的に右又は左のマーカー19が作用姿勢に操作されるマーカー制御手段を設定したり、畦際での旋回時に機体の走行速度を自動的に減速し再び元の速度に戻す自動減速手段を設定してもよい。
本発明は、機体の後部にロータリ耕耘装置(作業装置に相当)を昇降駆動自在に連結可能に構成された農用トラクタや、機体の前部に刈取部(作業装置に相当)を昇降駆動自在に支持したコンバイン等の作業車にも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】乗用型田植機の全体側面図
【図2】右及び左の前輪の操向操作系、右及び左の前輪、右及び左の後輪への伝動系を示す平面図
【図3】操向部材及びポテンショメータの付近の側面図
【図4】左のサイドクラッチの付近の横断平面図
【図5】左のサイドクラッチの付近の縦断側面図
【図6】走行距離検出手段、スリップ率検出手段、自動下降手段、作業クラッチ操作手段、旋回角度検出手段の制御系を示す図
【図7】畦際での旋回時の操作制御の流れを示す図
【図8】畦際での旋回時の操作制御の流れを示す図
【図9】畦際での旋回時の状態を示す平面図
【符号の説明】
【0086】
1,2 車輪
4 昇降機構
5,15 作業装置
26,27 作業クラッチ
40 サイドクラッチ
47 操向角度検出手段
51 走行距離検出手段
53 自動下降手段、操作制御手段
54 作業クラッチ操作手段、操作制御手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪の回転数に基づいて機体の走行距離を検出する走行距離検出手段と、操向操作自在な車輪の操向角度を検出する操向角度検出手段とを備えると共に、
前記走行距離検出手段で検出された機体の走行距離と、前記操向角度検出手段で検出された車輪の操向角度とに基づいて、操作制御を行う操作制御手段を備えてある作業車。
【請求項2】
機体に支持された作業装置を昇降駆動する昇降機構を備え、
前記走行距離検出手段で検出された機体の走行距離と、前記操向角度検出手段で検出された車輪の操向角度とに基づいて、前記上昇側に作動した昇降機構を下降側に作動させて作業装置を下降させる自動下降手段を備えて、
前記自動下降手段を操作制御手段としてある請求項1に記載の作業車。
【請求項3】
機体に支持された作業装置に動力を伝動及び遮断自在な作業クラッチを備え、
前記走行距離検出手段で検出された機体の走行距離と、前記操向角度検出手段で検出された車輪の操向角度とに基づいて、前記遮断状態に操作された作業クラッチを伝動状態に操作する作業クラッチ操作手段を備えて、
前記作業クラッチ操作手段を操作制御手段としてある請求項1又は2に記載の作業車。
【請求項4】
右の車輪に動力を伝動及び遮断自在な右のサイドクラッチと、左の車輪に動力を伝動及び遮断自在な左のサイドクラッチとを備え、
旋回開始に伴って、前記旋回外側のサイドクラッチが伝動状態に維持され、前記旋回中心側のサイドクラッチが遮断状態に操作されるように構成すると共に、
旋回中心側の車輪の回転数に基づいて機体の走行距離を検出するように、前記走行距離検出手段を構成してある請求項1〜3のうちのいずれか一つに記載の作業車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−228586(P2008−228586A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−69188(P2007−69188)
【出願日】平成19年3月16日(2007.3.16)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【Fターム(参考)】