説明

保護シート

【課題】電気部品を保護し、導電性、耐薬品性、透明性に優れた保護シートを提供する。
【解決手段】基材層と粘着層からなる保護シートであって、基材層を構成する基材樹脂は、エポキシ樹脂と硬化剤の複合体であり、エポキシ樹脂はトリアジン骨格を有し、硬化剤は分子内にエーテル結合もしくはエステル結合を含んだものである。粘着層を構成する粘着樹脂は、シリコーンとビスフェノールA型エポキシ樹脂の共重合体と、エーテル結合もしくはエステル結合を分子内に含む硬化剤の複合体である。シリコーンは粘着樹脂の35〜65質量%である。ビスフェノールA型エポキシ樹脂は粘着樹脂の末端部に配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性、接着性、耐薬品性に優れ、透明性をもち、かつ加熱後も前記特性を保持する電気部品用保護シートである。
【背景技術】
【0002】
電子機器の製造工程中では、電子部品にさまざまな保護シートが貼り付けられ、製造時の傷、薬品から電子部品の表面を保護するために用いられている。
【0003】
保護シートは、一般に、シート状の基材層と粘着剤で形成される粘着層で形成されている。基材としては、ポリプロピレン、ポリエチレン等の汎用の熱可塑性樹脂が用いられている(特許文献1及び2参照)。しかしながら、これら汎用の熱可塑性樹脂では、120℃程度しか耐熱性がないため、高温で使用することができないという制限があった。一方、高温でも使用可能なポリイミド系熱硬化性樹脂を用いた保護シートでは、非常に高価なため、限られた用途にしか使用することができない問題があった。
【特許文献1】特開2004−287199号
【特許文献2】特開2007−012354号
【0004】
保護シートに高い導電性を付与したい場合、一般に導電性フィラーと呼ばれる無機物質を数十質量部程度添加する必要があるが、この場合、保護シートの透明性は著しく低くなる。
【0005】
保護シートを電子部品に用い、製造工程中でさまざまな薬品による処理を行う際、N−メチル−2−ピロリドンなどの強力な薬品を使用するとフィルムの劣化や、剥離などがおこり、次工程に移る際、保護シートを張り替える必要がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたものであり、電気部品を保護し、導電性、耐薬品性に優れ、かつ150℃での使用環境化でも前記物性を維持し、かつ透明性を付与した保護シートを提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の発明は、基材層と粘着層からなる保護シートであって、基材層を構成する基材樹脂は、エポキシ樹脂と硬化剤の複合体であり、エポキシ樹脂はトリアジン骨格を有し、硬化剤はエーテル結合もしくはエステル結合を分子内に含んだものであり、粘着層を構成する粘着樹脂は、シリコーンとビスフェノールA型エポキシ樹脂の共重合体と、エーテル結合もしくはエステル結合を分子内に含む硬化剤の複合体であり、シリコーンは粘着樹脂の35〜65質量%であり、ビスフェノールA型エポキシ樹脂は粘着樹脂の末端部に配置されたことを特徴とする保護シートである。
【0008】
請求項2に記載の発明は、基材樹脂には炭素繊維が含有され、炭素繊維の炭素繊維長が100μm以下、かつ、「炭素繊維長/炭素繊維の直径」の値が100以上であることを特徴とする請求項1記載の保護シートである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の保護シートは耐熱性に優れ、加熱後も導電性、接着性、耐薬品性の低下が少ないため、使用の制限がなくなり、作業性がよく、かつしっかりと電子部品を保護できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明する。
【0011】
基材層を構成する基材樹脂は、エポキシ樹脂と硬化剤の複合体であり、エポキシ樹脂はトリアジン骨格を有し、硬化剤はエーテル結合もしくはエステル結合を分子内に含んだものである。ここに記載したエポキシ樹脂がないと特定の溶剤に浸漬した際に大きく膨潤し、工程中でシートが剥離してしまうという問題が発生する。
【0012】
粘着層を構成する粘着樹脂は、シリコーンとビスフェノールA型エポキシ樹脂の共重合体と、エーテル結合もしくはエステル結合を分子内に含む硬化剤の複合体であり、シリコーンは粘着樹脂の35〜65質量%であり、ビスフェノールA型エポキシ樹脂は粘着樹脂の末端部に配置されたものである。ここに記載したエポキシ樹脂がないと室温での電子部品に対する接着性を発現することができず、また加熱後にその接着性を維持できないという問題が発生する。
【0013】
硬化剤の添加量は、少ないとエポキシ樹脂硬化が発揮されない傾向にあり、多いと反応しない硬化剤が系内に残ってしまう傾向にある。そのため、粘着層のエポキシ樹脂100質量部に対する硬化剤の添加量の下限は、好ましくは3質量部以上、より好ましくは6質量部以上であり、上限は好ましくは40質量部以下、より好ましくは26質量部以下である。基材層の硬化剤の添加量の下限は、好ましくは40質量部以上、より好ましくは50質量部以上であり、上限は好ましくは220質量部以下、より好ましくは120質量部以下である。
【0014】
基材樹脂には炭素繊維が含有され、炭素繊維の炭素繊維長が100μm以下、かつ、「炭素繊維長/炭素繊維の直径」の値が100以上であることが好ましく、このように炭素繊維長と炭素繊維の直径の比が大きいフィラーを添加することで、フィラー同士の接触がおおくなり、導電性をえるための分散が容易となる。添加量は好ましくは0.05質量%以上5質量%以下、より好ましくは0.5質量%以上1質量%以下であり、フィラーの添加量が少ないと表面抵抗率が大きくなる傾向にあって、場合によっては必要な導電性が得られなくなる。導電性フィラーの添加量が多いと粘度の増加によって基材層の形成、言い換えれば、シート状に形成することができなくなるという問題や、シートの透明性が著しく低下するなどの問題が発生する。
【0015】
保護シートの耐薬品性を評価する際の溶剤として、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、N−メチル−2−ピロリドン、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテルジエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジメチルスルホキシド、モノエタノールアミン、テトラメチルアンモニウムハイドロキサイドと水の混合溶媒、テトラメチルアンモニウムハイドロキサイドと水及びジメチルスルホキシドの混合溶媒から選ばれるいずれか一種以上が用いられる。
【0016】
導電性シートを形成する組成物に、補強材としてガラスクロスやアラミド繊維や無機フィラーを添加することにより、シート強度を向上することができる。
【実施例】
【0017】
(実施例1)
〈基材層の樹脂組成物の作製〉
トリアジン骨格を含むエポキシ樹脂(日産化学工業社製TEPIC−PAS 26)と前記エポキシ樹脂100質量部に対して酸無水物系硬化剤 (新日本理化社製TH)を120質量部添加し、硬化促進剤としてイミダゾール系化合物(四国化成社製キュアゾール2E4MZ(登録商標))を0.5質量部用いた。炭素繊維フィラー(昭和電工社製VGCF−S)を基材樹脂100質量部に対して0.5質量部添加し、この配合部材に添加剤としてカップリング剤(信越化学工業社製KBM403)を1質量部添加し、これらによって基材層の樹脂組成物を作製した。
【0018】
〈基材層の作製〉
この基材層の樹脂組成物を、厚さ0.05mmのPET(ポリエチレンテレフタレート)製のフィルム上に、硬化後の厚さが0.03mmになるように塗布し、130℃90分加熱乾燥させ、これにより基材層を作製した。
【0019】
〈粘着層の樹脂組成物の作製〉
シリコーンとビスフェノールA型エポキシ樹脂の共重合体であるエポキシ樹脂(nano resins社製albiflex348(登録商標))と前記エポキシ樹脂100質量部に対してアミン系硬化剤(三井ファインケミカル社製ジェファーミンT403(登録商標))を6質量部添加し、これらにより粘着層の樹脂組成物を作製した。
【0020】
〈粘着層の形成・電子部品用保護シートの作製〉
作製された基材層の樹脂面上に、粘着層の樹脂組成物を0.06mmになるように塗布し、130℃120分加熱乾燥し、これにより電子部品用保護シートを作製した。
【0021】
この保護シートについて、以下に示す方法で(1)表面抵抗率(2)耐薬品性・膨潤度(3)光透過率を測定、評価した。
【0022】
(1)表面抵抗率
保護シートの表面抵抗率は、基材層に対してアジデントテクノロジー社製のR8340Aを使用し、JIS K 6911、5.13に準拠し、表面抵抗率を測定した。この結果を表1に示す。
【0023】
【表1】



【0024】
(2)耐薬品性・膨潤度
幅20mm、長さ50mmの帯状に切り出した保護シートの粘着層面をソーダガラスに室温で貼り付けしたのち、30℃の各種溶剤中に10分間浸漬し、耐薬品性は浸漬中の剥離の有無で評価し、膨潤度は浸漬前後のシート重量を測定し、下式より評価した。この結果を表2に示す。
【0025】
【数1】



【0026】
【表2】



【0027】
(3)光透過率
保護シートの透過率は、島津製作所社製のUV−2400を使用し、波長400nm〜700nmにおける光透過率を測定した。この結果を表3に示す。
【0028】
【表3】



【0029】
(実施例2)
基材層の樹脂を、トリアジン骨格を含むエポキシ樹脂(日産化学工業社製TEPIC−PAS 26(登録商標))と前記エポキシ樹脂100質量部に対してアミン系硬化剤(三井ファインケミカル社製 ジェファーミンT403(登録商標))を50質量部用いる他は実施例1と同様に試験した。結果を表1、表2、表3に示す。
【0030】
(実施例3)
粘着層の樹脂を、シリコーンとビスフェノールA型エポキシ樹脂の共重合体であるエポキシ樹脂(nano resins社製albiflex348(登録商標))と前記エポキシ樹脂100質量部に対して酸無水物系硬化剤(新日本理化社製 リカシッドHF−80(登録商標))を26質量部用いるほかは実施例1と同様に試験した。結果を表1、表2、表3に示す。
【0031】
(比較例1)
シリコーンとビスフェノールA型エポキシ樹脂の共重合体であるエポキシ樹脂(nano resins社製albiflex348(登録商標))と前記エポキシ樹脂100質量部に対してアミン系硬化剤(三井ファインケミカル社製ジェファーミンT403(登録商標))を6質量部添加した。炭素繊維フィラー(昭和電工社製VGCF−S)を樹脂100質量部に対して0.5質量部添加し、この配合部材に添加剤としてカップリング剤(信越化学工業社製 KBM403)を1質量部添加し、これらによって単層からなる保護シートの樹脂組成物を作製した。
この樹脂組成物を、厚さ0.05mmのPET製のフィルム上に、硬化後の厚さが0.10mmになるように塗布し、130℃90分加熱乾燥させ、これにより単層からなる保護シートを作製した。このほかは実施例1と同様に試験した。結果を表1、表2、表3に示す。
【0032】
(比較例2)
基材層の樹脂を、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン社製ep828)と前記エポキシ樹脂100質量部に対してアミン系硬化剤(三井ファインケミカル社製ジェファーミンD400(登録商標))を50質量部用いるほかは実施例1と同様に試験した。結果を表1、表2、表3に示す。
【0033】
(比較例3)
基材層の樹脂を、トリアジン骨格を含むエポキシ樹脂(日産化学工業社製TEPIC−PAS 26)と前記エポキシ樹脂100質量部に対してノボラック型アルキルフェノール樹脂(大日本インキ化学工業社製フェノライトVH−4150)を73質量部用い、硬化促進剤としてイミダゾール系化合物(四国化成社製キュアゾール2E4MZ(登録商標))を1質量部用いる他は実施例1と同様に試験した。結果を表1、表2、表3に示す。
【0034】
(比較例4)
粘着層の樹脂を、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン社製 ep828)と前記エポキシ樹脂100質量部に対してアミン系硬化剤(三井ファインケミカル社製ジェファーミンT403(登録商標))を40質量部用いるほかは実施例1と同様に試験した。結果を表1、表2、表3に示す。
【0035】
(比較例5)
粘着層の樹脂を、シリコーンとビスフェノールA型エポキシ樹脂の共重合体であるエポキシ樹脂(nano resins社製albiflex348(登録商標))と前記エポキシ樹脂100質量部に対してノボラック型フェノール樹脂(大日本インキ化学工業社製フェノライト TD−2131(登録商標))を8質量部用い、硬化促進剤としてイミダゾール系化合物(四国化成社製キュアゾール2E4MZ(登録商標))を1質量部用いるほかは実施例1と同様に試験した。結果を表1、表2、表3に示す。
【0036】
(比較例6)
基材層に添加するフィラーとして、導電性酸化チタン(石原産業社製FT−4000)を基材樹脂100質量部に対して43質量部用いるほかは実施例1と同様に試験した。結果を表1、表2、表3に示す。
【0037】
(比較例7)
基材層に添加するフィラーとして、カーボンブラック(電気化学工業社製アセチレンブラック)を基材樹脂100質量部に対して0.5質量部用いるほかは実施例1と同様に試験した。結果を表1、表2、表3に示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材層と粘着層からなる保護シートであって、基材層を構成する基材樹脂は、エポキシ樹脂と硬化剤の複合体であり、エポキシ樹脂はトリアジン骨格を有し、硬化剤は分子内にエーテル結合もしくはエステル結合を含んだものであり、粘着層を構成する粘着樹脂は、シリコーンとビスフェノールA型エポキシ樹脂の共重合体と、エーテル結合もしくはエステル結合を分子内に含む硬化剤の複合体であり、シリコーンは粘着樹脂の35〜65質量%であり、ビスフェノールA型エポキシ樹脂は粘着樹脂の末端部に配置されたことを特徴とする保護シート。
【請求項2】
基材樹脂には炭素繊維が含有され、炭素繊維の炭素繊維長が100μm以下、かつ、「炭素繊維長/炭素繊維の直径」の値が100以上であることを特徴とする請求項1記載の保護シート。

【公開番号】特開2010−52196(P2010−52196A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−217523(P2008−217523)
【出願日】平成20年8月27日(2008.8.27)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【Fターム(参考)】