説明

信号処理回路

【課題】高精細な撮像装置においては、画像の輪郭成分を強調しつつ、肌色領域において人物の顔のしわなどを除去する事が望まれる。
【解決手段】肌色検出回路40では人物の顔など画像の肌色領域を検出する。高域平滑回路20においては、顔のしわなどに相当する小振幅の高域信号成分を抽出し、乗算器203にて肌色領域のみゲインを乗算して入力信号から減算する。次に、輪郭強調回路30では、微小なノイズを除去した、画像の輪郭信号を生成して、乗算器303にて肌色領域以外にてゲインを乗算して加算する。肌色部分ではしわなど微小成分のみ除去して必要な輪郭信号を残し、肌色部以外ではノイズを強調することなく輪郭だけ強調できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、映像信号の輪郭を調整する信号処理回路に関し、特に人物の肌色など特定の色領域をぼかす目的で使用され、例えばビデオカメラ装置において使用される信号処理回路に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ビデオカメラ等においては、光学系や撮像デバイス等の空間周波数の高域成分に対する特性の不十分さを補うために、輪郭を強調する信号処理が行われている。画像の輪郭成分は、映像信号を水平、垂直方向に微分処理することにより抽出することができ、その輪郭信号を元の映像信号に加算する事により、解像度感を高めて鮮鋭度を改善することができる。
【0003】
ところが、人物の顔などでは、この輪郭強調によりしわなどが目立つので、輪郭強調の度合いを弱める事が望まれる。これは、いわゆるスキントーン・ディティール処理と呼ばれるもので、肌色など特定の色相範囲の映像信号では輪郭強調量を減少し、ソフトな画像にするものである。
【0004】
なお、最近のHDTV化に伴う映像機器の性能向上により、映像の解像度が高くなってきており、より細かい輪郭が目立ちやすくなっている。そのため、輪郭強調量をゼロにしても効果が十分ではない場合もあり、肌色部ではより画像をぼかす処理が必要になってきている。
【0005】
このような、特定の色相に対して画像をぼかす従来の処理として、例えば特許文献1に示す方法が提案されており、その構成を図6に示す。図6において、入力信号901は輪郭生成回路902、色相検出回路903及び加算器913に入力されている。輪郭生成回路902の出力信号907は輪郭用乗算器908及びソフトフォーカス用乗算器909に入力され、両乗算器908及び909にて夫々輪郭用乗数904、ソフトフォーカス用乗数905と乗算される。
【0006】
色相検出回路903では、入力信号901を色相基準値906を基に、例えば基準値内ならばハイレベル(以下、“Hi”)を出力し基準値外ならばローレベル(以下“Lo”)を出力するような動作をし、その先の切換器911に対して制御を行う。上記例の場合はHiの場合にはソフトフォーカス加算信号915を、Loの場合には輪郭加算信号916を選択する。切換器911の出力である加算信号912と入力信号901を加算して、ソフトフォーカス処理を行い、出力信号914を出力する。
【0007】
ここで、輪郭加算信号915は輪郭信号907に対して正のゲインを乗算したものであり、輪郭成分そのものである。ところが、ソフトフォーカス用乗数905は、零より小なる値であり、絶対値が1より小さいのが一般的である。つまり、輪郭信号907に負のゲインを乗じることによって、輪郭を打ち消すような信号916を生成するのである。
【0008】
すなわち、このような従来の構成にて処理を行えばある色相以外の部分では輪郭成分を強調する動作を行い、ある特定の色相部分では輪郭成分を弱める、つまりソフトフォーカス処理効果を得ることができる。
【特許文献1】特開平11−4452号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら上記特許文献1のような従来の技術は、肌色をぼかす最適な方法とはいえない。
【0010】
例えば、輪郭強調において通常使用される処理として、コアリングという手法がある。これは、対象となる映像信号から高周波成分を抽出した後に、小振幅な信号を削除してから輪郭信号とするものである。その結果、小振幅である大部分のノイズ成分は除去されて、画像の輪郭である大振幅の信号だけが元の信号に加算される。
【0011】
ところが、この輪郭信号を元の信号から減算してソフトフォーカス効果を狙う時に、コアリングのために小振幅成分は含まれていないので、輪郭だけ弱められて、小さいしわやノイズは何の効果も受けず、残る可能性が高い。
【0012】
また、顔の輪郭など肌色の境界部においては、輪郭信号の加算領域と減算領域が隣接するので、少しの画像の揺れが輪郭の大小につながり、ギザギザした輪郭と成りうる。
【0013】
本発明は、上述の従来の課題を解決するもので、画像の輪郭強調を行いつつも、例えば人物の顔など肌色領域において、しわ等が目立たないような画像を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明に記載の発明は、入力映像信号の高域信号成分を抑圧する高域平滑手段と、前記高域平滑手段の出力信号の輪郭部分を強調する輪郭強調手段と、前記入力映像信号が所定の色相範囲内かどうかを検出する色相検出手段とを含み、前記高域平滑手段は所定の色相範囲内において高域信号成分を抑圧し、前記輪郭強調手段は所定の色相範囲外において輪郭部分を強調することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
以上のように本発明によれば、画像の輪郭強調を行いつつも、例えば人物の顔など肌色領域において、しわなど目立たないような画像を得ることができる、という優れた効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。
【0017】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1における信号処理回路の構成を示すブロック図である。
【0018】
図1において、入力端子10に入力された撮像装置等からの映像信号は、高域平滑回路20および肌色検出回路40へと入力される。肌色検出回路40では、色相判定回路401において、図示しないマイクロコントローラ等により所定の色相範囲を指定されており、入力された映像信号がその色相範囲に入っているかどうかを判定して、その判定結果を出力する。すなわち、色相範囲内であれば1を、範囲の外であれば0を出力するものとし、制御信号SK1として高域平滑回路20へ入力される。また、色相判定回路401の出力は、減算器402へと入力され、「1」から減算され、減算器402の出力は制御信号SK2として輪郭強調回路30へ入力される。
【0019】
高域平滑回路20においては、まずフィルタ回路201において、入力信号における高周波成分のみを抽出し、さらにクリップ回路202においてその絶対値を制限する。フィルタ回路201はハイパスフィルタあるいはバンドパスフィルタであり、抑圧したい顔のしわなどに相当する高周波成分を取り出す。また、クリップ回路202は、図2に示すような入出力特性を持ち、フィルタ回路201の出力信号にて振幅制限を行う。
【0020】
クリップ回路202の出力である画像の高域信号には、乗算器203において、肌色検出回路40の出力信号SK1が乗算される。ここで、SK1は肌色部分だけ1であり、そのほかの色相では0であるので、肌色領域だけを取り出した信号が減算器204へ入力される。乗算器203の出力は減算器204において、入力信号から減算され、画像の肌色領域だけ高域信号が除去された出力信号となる。この出力信号は、輪郭強調回路30に送られる。
【0021】
輪郭強調回路30においては、まずフィルタ回路301において、入力信号から画像の輪郭部だけを取り出し、さらにコアリング回路302により小振幅成分は除去される。フィルタ回路301はハイパスフィルタあるいはバンドパスフィルタであり、強調したい輪郭成分に相当する高周波成分を取り出す。また、コアリング回路は、図3に示すような入出力特性を持ち、フィルタ回路301の出力信号に対して、ノイズ成分などの小振幅の信号は除去する。
【0022】
コアリング回路302の出力である輪郭信号は、乗算器303において、肌色検出回路40の出力信号SK2が乗算される。ここで、SK2は肌色部分だけ0であり、そのほかの色相では1であるので、肌色領域以外の輪郭信号が加算器304へ入力される。乗算器303の出力は加算器304において、入力信号に加算され、画像の肌色以外の領域だけ輪郭信号が付加された出力信号となり、出力端子50より出力される。
【0023】
なお、以上のように肌色領域とそれ以外の部分においては信号処理の内容が異なり、肌色領域の境界線が画像の高周波特性の変わり目となる。そのため、被写体である人物の微妙な動きや撮影するカメラの微小なぶれ、あるいはノイズの影響によって、この肌色領域の境界線が動くと、それに伴い輪郭信号の強弱が起こり、不自然な画となる事がある。
【0024】
この現象を緩和する一つの方法として、例えば図4に示すような構成の肌色検出回路40を使用する方法がある。図4に示す肌色検出回路40が、図1に示した肌色検出回路40と異なる点は、色相判定回路401の出力に2次元ローパスフィルタ403が接続されている事である。なお、2次元ローパスフィルタ403としては、図4に示したような垂直ローパスフィルタ404と水平ローパスフィルタ405とを縦列に接続することで構成することができる。
【0025】
すなわち、色相判定回路401の「1」か「0」の出力が、2次元ローパスフィルタ403により平滑化され、その変化部において中間の値を持つ。その結果、乗算器203に供給される制御信号SK1に傾斜を持つ事となり、前述の微妙な動きに対して、その不自然感を抑制するものである。
【0026】
以上のように本実施の形態によれば、肌色部分ではしわなど微小成分のみ除去して必要な輪郭信号を残し、肌色部以外ではノイズを強調することなく輪郭だけ強調できる。また、被写体やカメラの動き、ノイズの影響によって生じる、肌色領域の境界における画像の不自然さを抑えることができる。
【0027】
(実施の形態2)
図5は本発明の実施の形態2における信号処理回路の構成を示すブロック図である。
【0028】
図5に示す信号処理回路の構成において、10は入力端子、40は肌色検出回路、21は平滑信号生成回路、31は輪郭信号生成回路、204は減算器、304は加算器、50は出力端子である。また、平滑信号生成回路21において、201はフィルタ回路、202はクリップ回路、203は乗算器である。さらに、輪郭信号生成回路31において、301はフィルタ回路、302はコアリング回路、303は乗算器である。
【0029】
以上のように構成された本実施の形態による信号処理回路の動作について、以下に図5を適宜参照し説明する。
【0030】
ここで肌色検出回路40は、実施の形態1と同様の構成と動作であり、その詳細な説明を省略するが、制御信号SK1を平滑信号生成回路21に、制御信号SK2を輪郭信号生成回路31へと出力する。
【0031】
ここで、平滑信号生成回路21では、まずフィルタ回路201とクリップ回路202において、入力端子10に入力された映像信号から、顔など肌色部にて抑圧したい「しわ」などに相当する高周波成分を取り出す。そして、乗算器203において、肌色検出回路40から入力された制御信号SK1が乗算され、高周波成分のうち肌色領域だけを取り出した信号が減算器204へ入力される。
【0032】
また、輪郭信号生成回路31では、フィルタ回路301とコアリング回路302において、入力端子10に入力された映像信号から、強調すべき輪郭信号が生成される。そして、乗算器303において、肌色検出回路40から入力された制御信号SK2が乗算され、肌色領域以外の輪郭信号が加算器304へ入力される。
【0033】
そこで、入力端子10へ入力された映像信号に対して、減算器204において平滑信号生成回路21の出力信号が減算され、さらに加算器304において輪郭信号生成回路31の出力信号が加算される。
【0034】
以上のように本実施の形態においても、実施の形態1と同様に、肌色部分ではしわなど微小成分のみ除去して必要な輪郭信号を残し、肌色部以外ではノイズを強調することなく輪郭だけ強調できる。
【0035】
なお、図5に示した信号処理回路においては、フィルタ回路201、301を独立した構成としたが、その一部を共有することにより、回路規模の削減が可能となる。たとえば、2次元フィルタ回路における垂直フィルタ回路は1水平期間遅延回路が必要となるが、この回路をフィルタ回路201、301において共有する事によって、大きな回路規模の削減が可能となる。
【0036】
また、図5における肌色検出回路40として、図4の構成を使用してもよい。この場合、実施の形態1と同様に、被写体やカメラの動き、ノイズの影響によって生じる、肌色領域の境界における画像の不自然さを抑えることができる。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明にかかる信号処理回路は、人物の顔などにおいて、しわ等が目立たないような美しい画像を得る信号処理回路として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の実施の形態1における信号処理回路の構成を示すブロック図
【図2】本発明の実施の形態1におけるクリップ回路の動作を示す図
【図3】本発明の実施の形態1におけるコアリング回路の動作を示す図
【図4】本発明の実施の形態1における肌色検出回路の構成を示すブロック図
【図5】本発明の実施の形態2における信号処理回路の構成を示すブロック図
【図6】従来の実施の形態における信号処理回路の構成を示すブロック図
【符号の説明】
【0039】
10 入力端子
20 高域平滑回路
21 平滑信号生成回路
30 輪郭強調回路
31 輪郭信号生成回路
40 肌色検出回路
50 出力端子
201、301 フィルタ回路
202 クリップ回路
203、303 乗算器
204 減算器
302 コアリング回路
304 加算器
401 色相判定回路
402 減算器
403 2次元ローパスフィルタ
404 垂直ローパスフィルタ
405 水平ローパスフィルタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力映像信号の高域信号成分を抑圧する高域平滑手段と、
前記高域平滑手段の出力信号の輪郭部分を強調する輪郭強調手段と、
前記入力映像信号が所定の色相範囲内かどうかを検出する色相検出手段とを含み、
前記高域平滑手段は所定の色相範囲内において高域信号成分を抑圧し、
前記輪郭強調手段は所定の色相範囲外において輪郭部分を強調する
ことを特徴とする信号処理回路。
【請求項2】
入力映像信号から高域信号成分を生成する平滑信号生成手段と、
前記入力映像信号から輪郭部分を生成する輪郭信号生成手段と、
前記入力映像信号が所定の色相範囲内かどうかを検出する色相検出手段とを含み、
前記平滑信号生成手段は所定の色相範囲内において平滑信号を生成し、
前記輪郭信号生成手段は所定の色相範囲外において輪郭信号を生成し、
前記入力映像信号から前記平滑信号を減算し、
さらに前記輪郭信号を加算する
ことを特徴とする信号処理回路。
【請求項3】
前記高域平滑手段は抑圧する高域信号成分の振幅に制限をかけ、
前記輪郭強調手段は一定の振幅に満たない輪郭信号を強調しない
ことを特徴とする請求項1または請求項2記載の信号処理回路。
【請求項4】
前記色相検出手段は、
前記入力映像信号が所定の色相範囲内かどうかを判定する判定手段と
前記判定手段の出力を平滑化するフィルタ手段を備える
ことを特徴とする請求項1または請求項2記載の信号処理回路。
【請求項5】
前記高域平滑手段は、
高域信号抽出手段と乗算手段と減算手段からなり、
高域信号抽出手段は入力映像信号の高域成分を抽出し、
乗算手段は前記高域信号抽出手段と前記色相検出手段の出力制御信号を乗算し、
減算手段は入力映像信号から前記乗算手段の出力を減算する
ことを特徴とする請求項1記載の信号処理回路。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−182423(P2009−182423A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−17772(P2008−17772)
【出願日】平成20年1月29日(2008.1.29)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】