説明

偏波コントローラおよび偏波モード分散補償器

【課題】偏波モード分散を精度よく補償する光デバイスおよび方法を提供する。
【解決手段】偏波コントローラ1は、入力光の一部の波長成分が第1の偏波状態になるように前記入力光の偏波状態を制御する。分光器2は、偏波コントローラ1から出力される光を複数の波長成分に分光する。偏波コントローラ3は、液晶変調素子を用いて複数の波長成分をそれぞれ第2の偏波状態に制御する。位相整形部4は、偏波コントローラ3により偏波状態が制御された各波長成分の位相をそれぞれ制御する。合波器5は、位相整形部4から出力される複数の波長成分を合波する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏波コントローラおよび偏波モード分散補償器に係わり、例えば、光ファイバ通信システムにおいて使用可能である。
【背景技術】
【0002】
近年、光通信技術の高速化が進みつつあり、10Gbit/sシステムから40Gbit/sシステムへの移行が行われている。このため、今後は、40Gbit/sを越える通信システムで使用される光デバイスの開発が重要となってくる。
【0003】
光通信において伝送レートの高速化が進むと、偏波モード分散(PMD:Polarization Mode Dispersion)による信号波形の劣化が問題となる。偏波モード分散とは、光ファイバ中でコアの楕円化や内部応力に起因する複屈折要因により、光ファイバ中の互いに直交する2つのモード間に遅延(DGD:Differential Group Delay)が発生する現象である。なお、光ファイバの偏波モード分散は、一般に、距離の平方根に比例する。また、偏波モード分散の許容値は、ビットレートに反比例する。このため、長距離高速伝送では、偏波モード分散を補償する機能が要求される。
【0004】
偏波モード分散を補償する1つの構成として、偏波コントローラおよびDGD補償器を備えるPMD補償器が提案されている。しかし、この構成では、1次の偏波モード分散は補償されるが、2次以上の偏波モード分散を補償できない。(例えば、特許文献1)
偏波モード分散を補償する他の構成として、第1の偏波コントローラおよび群遅延時間差付与部を含む補償部、第2の偏波コントローラ、制御部を備える偏波モード分散補償装置が提案されている。群遅延時間差付与部は、第1の偏波コントローラの出力光に群遅延時間差を付与する。第2の偏波コントローラは、補償部の出力光の偏光状態を直線偏光に変換する。制御部は、第2の偏波コントローラから出力される直線偏光に直交する偏光の強度を最小化するように、補償部および第2の偏波コントローラを制御する。しかし、この構成でも、2次の偏波モード分散を完全には補償できない。(例えば、特許文献2)
偏波モード分散を補償するさらに他の構成として、分光器および液晶変調素子を備えるPMD補償器が提案されている。液晶偏光素子は、各周波数成分に対して独立して偏波を制御するので、1次の偏波モード分散および高次の偏波モード分散が適切に制御される。しかし、一般に、液晶変調素子の応答速度は遅いので、伝送路の偏波状態の変動が速い場合には、偏波モード分散を十分に補償できない。(例えば、非特許文献1)
なお、関連する技術として、特許文献3、4、および非特許文献2、3が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−260370号
【特許文献2】国際公開WO2004/013992号
【特許文献3】特表2005−502265号
【特許文献4】国際公開WO2004/029699号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】H.Miao et.al, “All-Order PMD Compensation via VIPA Based Pulse Shaper”, OFC2008 OThG2 2008.
【非特許文献2】H.Miao et.al, “Feed-Forward Polarization-Mode Dispersion Compensation With Four Fixed Differential Group Delay Elements”, IEEE Photonics Technology Letters vol.16, No.4, April 2004, pp1056-1058
【非特許文献3】C.Xie et.al, “Dynamic Performance and Speed Requirement of Polarization Mode Dispersion Compensators”, Journal of Lightwave Technology, vol.24, No.11, November 2006, pp3968-3974
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のように、従来技術では、偏波状態が高速に変化する場合には、高次の偏波モード分散を十分に補償できなかった。
本発明の課題は、伝送路の偏波モード分散を精度よく補償する光デバイスおよび方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の1つの態様の偏波コントローラは、入力光の一部の波長成分が第1の偏波状態になるように前記入力光の偏波状態を制御する第1の偏波コントローラと、前記第1の偏波コントローラから出力される光を複数の波長成分に分光する分光器と、液晶変調素子を用いて前記複数の波長成分をそれぞれ第2の偏波状態に制御する第2の偏波コントローラと、前記第2の偏波コントローラから出力される複数の波長成分を合波する合波器、を有する。
【0009】
本発明の1つの態様の偏波モード分散補償器は、入力光の一部の波長成分が第1の偏波状態になるように前記入力光の偏波状態を制御する第1の偏波コントローラと、前記第1の偏波コントローラから出力される光を複数の波長成分に分光する分光器と、液晶変調素子を用いて前記複数の波長成分をそれぞれ第2の偏波状態に制御する第2の偏波コントローラと、前記第2の偏波コントローラにより偏波状態が制御された各波長成分の位相をそれぞれ制御する位相制御部と、前記位相制御部から出力される複数の波長成分を合波する合波器、を有する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の1つの態様によれば、伝送路の偏波モード分散を精度よく補償することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】第1の実施形態の偏波モード分散補償器の構成を示す図である。
【図2】1次および2次の偏波モード分散を示す図である。
【図3】偏波状態を制御する方法を説明する図(その1)である。
【図4】偏波状態を制御する方法を説明する図(その2)である。
【図5】光信号のスペクトルを示す図である。
【図6】偏波コントローラによる偏波変換を模式的に示す図である。
【図7】マトリックス位相変調素子の構成を示す図である。
【図8】マトリックス位相変調素子の液晶の方位を示す図である。
【図9】偏波モニタ部の実施例である。
【図10】第1の実施形態の偏波モード分散補償器の変形例を示す図である。
【図11】偏波モニタ部の他の構成を示す図である。
【図12】第1の実施形態の偏波モード分散補償器の制御系を説明する図である。
【図13】第1の実施形態の偏波モード分散補償器の制御方法を示すフローチャートである。
【図14】第1の実施形態の偏波モード分散補償器の他の制御系を示す図である。
【図15】第2の実施形態の偏波モード分散補償器の構成を示す図である。
【図16】偏波モニタ部の実施例である。
【図17】偏波モード分散を受けた光の偏波状態のポアンカレ球表示である。
【図18】第2の実施形態の偏波モード分散補償器の制御系を説明する図である。
【図19】シミュレーションモデルを示す図である。
【図20】偏波状態の変化角度の分布を示す図である。
【図21】偏波状態についてのシミュレーション結果を示す図である。
【図22】実施形態の偏波コントローラの構成を示す図である。
【図23】実施形態の偏波コントローラの適用例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1は、第1の実施形態の偏波モード分散補償器の構成を示す図である。第1の実施形態の偏波モード分散補償器100は、例えば、光通信システムの光中継局または光受信局に設けられ、光信号を伝送する光ファイバ伝送路に接続される。この場合、偏波モード分散補償器100には、光ファイバ伝送路で劣化した光信号が入力される。
【0013】
偏波モード分散補償器100は、偏波コントローラ(EO−PC)1、分光器2、偏波コントローラ(LCM)3、位相整形部4、合波器5を備える。偏波コントローラ1は、入力光の偏波状態を制御する。分光器2は、偏波コントローラ1から出力される光を複数の波長成分に分光する。偏波コントローラ3は、液晶変調素子を用いて複数の波長成分の偏波状態をそれぞれ制御する。位相整形部4は、偏波コントローラ3により偏波状態が制御された各波長成分の位相をそれぞれ制御する。そして、合波器5は、偏波状態および位相が制御された複数の波長成分を合波する。
【0014】
上記構成において、偏波コントローラ1は、入力光の一部の波長成分が第1の偏波状態になるように、入力光の偏光状態を制御する。このとき、入力光の各波長成分の偏波状態は一括して制御される。また、偏波コントローラ3は、分光器2により得られる複数の波長成分をそれぞれ第2の偏光状態に制御する。すなわち、光信号の各波長成分の偏波状態が互いに同じになる。そして、位相整形部4は、偏波モード分散を補償するように、各波長成分の位相を制御する。このとき、各波長成分の偏波状態は揃っているので、偏波モード分散は精度良く補償される。
【0015】
なお、上記構成の偏波モード分散補償器100は、位相整形部4を取り除くと、偏波コントローラとして動作する。この場合、合波器5は、偏波コントローラ3から出力される複数の波長成分を合波する。
【0016】
偏波モード分散補償器100は、複数の波長成分の偏波状態をモニタする偏波モニタ部11をさらに備えるようにしてもよい。偏波モニタ部11は、DSP等のプロセッサユニットを備えており、例えば、各波長成分のストークスパラメータをそれぞれ計算する。この場合、分光器2と偏波コントローラ3との間に光スプリッタ12が設けられる。光スプリッタ12は、分光器2により得られる複数の波長成分をそれぞれ分岐して偏波モニタ部11に導く。なお、偏波モニタ部11は、偏波コントローラ1と分光器2との間の光パスからタップされる光信号、または合波器4の出力側の光パスからタップされる光信号の偏波状態をモニタしてもよい。そして、偏波コントローラ1、3は、偏波モニタ部11によるモニタ結果に応じて偏波状態を制御する。
【0017】
次に、上記構成の偏波モード分散補償器100による偏波モード分散の補償について説明する。ここでは、まず、偏波コントローラ1が存在しないものとする。なお、光ファイバ伝送路を介して伝送される光信号は、周波数空間で考えると、偏波モード状態の乱れおよび位相の乱れに起因して劣化する。よって、偏波モード分散により劣化した光信号は、下式で表されるものとする。
out(ω)=Ein(ω){a(ω)x+b(ω)y}
「Ein(ω)」は、偏波モード分散による劣化を受ける前の光電界を表す。「Eout(ω)」は、偏波モード分散による劣化した光電界を表す。「x」および「y」は、それぞれ、X偏光およびY偏光を表す。「a(ω)」および「b(ω)」は、それぞれX偏光成分およびY偏光成分の強度と位相の情報を含んでいる。
【0018】
偏波コントローラ3は、劣化した光信号の各波長成分(すなわち、各周波数成分)に対して偏波制御を行う。このとき、偏波コントローラ3は、各周波数成分の偏波状態が互いに同じになるように偏波制御を行う。ここで、各周波数成分の偏波状態をX方向に揃えるものとする。そうすると、偏波コントローラ3から出力される光信号Eout2(ω)は、下式で表される。
out2(ω)=Ein(ω)exp(−jψ(ω))x
【0019】
このように、偏波コントローラ3から出力される光信号は、周波数ごとに位相が異なる項「ψ(ω)」を含むので、波形劣化は残っている。したがって、位相整形部4は、周波数に依存する位相差を補償する。すなわち、位相整形部4は、各周波数成分の位相を互いに同じに制御する。この結果、位相整形部4から出力される光信号Eout3(ω)は、下式で表される。
out3(ω)=Ein(ω)x
【0020】
ここで、位相整形部4により調整される位相「ψ(ω)」は、1次および高次の偏波モード分散と相関を持ち、近似的に下式で表される。τ1 およびτ2 は、それぞれ1次および2次の偏波モード分散の絶対値である。なお、1次および2次の偏波モード分散は、図2に示す通りである。
ψ(ω)=τ1 ω+0.5 τ2 ω2 +・・・
【0021】
このように、実施形態の偏波モード分散補償器100においては、液晶変調素子を備える偏波コントローラ3により各周波数成分の偏波状態が揃えられた後、位相整形部4により各周波数成分の位相が揃えられる。ここで、1次および高次の偏波モード分散は、位相整形部4により制御される位相と相関を持っている。したがって、実施形態の構成によれば、1次および高次の偏波モード分散が完全に補償される。
【0022】
ただし、偏波コントローラ3は、液晶変調素子を利用するので、応答速度が遅い。このため、伝送路の偏波変動が高速である場合には、偏波コントローラ3の液晶変調素子は偏波変動に追従できず、各周波数成分の偏波状態を揃えることはできない。
【0023】
ところで、伝送路の偏波状態の変動は高速であるが、偏波状態の波長依存性はゆっくりと変化する。すなわち、十分に短い時間内では、伝送路の偏波状態の波長依存性は実質的に変化しない。実施形態の偏波モード分散補償器100は、この特性を利用して偏波状態を制御する。
【0024】
図3および図4は、偏波モード分散補償器100において偏波状態を制御する方法を説明する図である。ここでは、偏波モード分散補償器100に入力する光信号は、図5に示すように、所定の周波数幅を持っているものとする。この光信号は、例えば、WDM信号の1つのチャネルに相当する。そして、分光器2は、この光信号を複数の波長成分に分光する。以下では、説明を簡単にするために、3つの波長成分λc 、λ1 、λ2 について説明する。なお、λc は、光信号の中心波長である。λ1 はλc よりも短く、λ2 はλc よりも長い。
【0025】
なお、図3および図4において、各矢印は、それぞれ対応する波長成分のポアンカレ空間における偏波状態を示している。すなわち、偏波状態が異なると、矢印の方位が異なることになる。
【0026】
伝送路の偏波モード分散は、波長に依存する。このため、入力光信号の各波長成分の偏波状態は、互いに異なっている。図3に示す例では、時刻t1 における各波長成分の偏波状態は以下の通りである。
波長成分λc :0°
波長成分λ1 :λc に対してαだけシフト
波長成分λ2 :λc に対して−βだけシフト
【0027】
また、伝送路の偏波状態は、時々刻々と変動する。図3に示す例では、時刻t2 における各波長成分の偏波状態は以下の通りである。
波長成分λc :90°
波長成分λ1 :λc に対してαだけシフト
波長成分λ2 :λc に対して−βだけシフト
さらに、時刻t3 、t4 、...においても偏波状態は変化していく。
【0028】
しかし、十分に短い時間では、伝送路の偏波状態の波長依存性は実質的に変化しない。すなわち、図3においてΔtが十分に短い(例えば、1m秒よりも短い)ものとすると、波長間での偏波状態の差分は変化しない。この実施例では、時刻t1 〜t4 において、波長成分λc 、λ1 間の偏波状態の差分はαのままであり、波長成分λc 、λ2 間の偏波状態の差分はβのままである。
【0029】
偏波コントローラ1は、入力光信号の偏波状態を一括して制御する。このとき、偏波コントローラ1は、例えば、波長λcの偏波状態が「0°」になるように、光信号の偏波状態を一括して制御する。そうすると、時刻t1 〜t4 において、偏波コントローラ1から出力される光信号の偏波状態は、一定である。すなわち、時刻t1 〜t4 における各波長成分の偏波状態は以下の通りである。
波長成分λc :0°
波長成分λ1 :α
波長成分λ2 :−β
【0030】
なお、偏波コントローラ1は、例えば、電気光学効果を利用する導波路型の偏波コントローラであり、応答速度は極めて速い。したがって、図3に示す時刻t1 〜t4 において伝送路の偏波状態が変化しても、その変化分を補償することができる。すなわち、偏波コントローラ1は、光信号の偏波を一定の状態に制御することができる。
【0031】
偏波コントローラ1により偏光状態が制御された光信号は、分光器2により複数の波長成分に分光され、偏波コントローラ3に導かれる。そして、偏波コントローラ3は、波長成分ごとに偏波状態を制御する。
【0032】
偏波コントローラ3は、波長成分λc 、λ1 、λ2 の偏波状態を揃える。図3に示す実施例では、偏波コントローラ3は、波長成分λc、λ1、λ2の偏波状態を「0°」に制御する。この場合、偏波コントローラ3は、各波長成分に対して下記の制御を行う。
波長成分λc :0
波長成分λ1 :−α
波長成分λ2 :+β
【0033】
偏波コントローラ3は、上述したように、液晶変調素子を利用するので、応答速度が遅い。しかし、実施形態の偏波モード分散補償器100においては、液晶変調素子の応答時間に比べて十分に短い時間では、光信号の各波長成分の偏波は、偏波コントローラ1により一定の状態に制御されている。したがって、偏波コントローラ3は、この短い時間内においては、各波長成分に対して一定の制御を行えばよいことになる。
【0034】
図4に示す例では、時刻t2 から時刻tn までの期間に、偏波状態の波長依存特性が変化している。例えば、時刻tnにおける各波長成分の偏波状態は、以下の通りである。なお、時刻t2 から時刻tn までの期間は、液晶変調素子の応答時間と比べて十分に長いものとする。
波長成分λc :0°
波長成分λ1 :λc に対してα2 だけシフト
波長成分λ2 :λc に対して−β2 だけシフト
すなわち、この実施例では、期間t1 〜tn において、波長λc 、λ1 間の偏波状態の差分は「α」から「α2 」へゆっくりと変化し、波長λc 、λ2 間の偏波状態の差分は「β」から「β2 」へゆっくりと変化している。
【0035】
偏波コントローラ1は、上述の説明と同様に、波長λc の偏波状態が「0°」になるように、光信号の偏波状態を一括して制御する。そして、偏波コントローラ3は、各波長成分の偏波状態を揃える。すなわち、偏波コントローラ3は、時刻tn において各波長成分に対して下記の制御を行う。
波長成分λc :0
波長成分λ1 :−α2
波長成分λ2 :+β2
【0036】
このように、時刻tn における偏波コントローラ3の偏波制御は、時刻t1 における偏波制御とは異なっている。ところが、期間t1 〜tn は、液晶変調素子の応答時間と比べて十分に長い。このため、偏波コントローラ3は、期間t1 〜tn において、液晶変調素子の状態を「波長成分λc :0、波長成分λ1 :−α、波長成分λ2 :+β」から「波長成分λc :0、波長成分λ1 :−α2 、波長成分λ2 :+β2 」に徐々に変えていくことができる。したがって、実施形態の偏波モード分散補償器100においては、伝送路の偏波状態の波長依存性が変動しても、各波長成分の偏波状態を揃えることができる。
【0037】
図6は、偏波コントローラ1、3による偏波変換を模式的に示す図である。偏波コントローラ(EO−PC)1は、波長一括で偏波を制御するので、各波長間の相関は維持される。したがって、偏波コントローラ(EO−PC)1を用いて偏波制御を行えば、入力光信号の偏波状態を、伝送路が変動する前の状態に戻すことができる。このため、波長間の相関関係を調整する偏波コントローラ(LCM)3は、低速制御で良い。
【0038】
次に、偏波モード分散補償器100が備える各要素について説明する。
偏波コントローラ1は、例えば、LN(LiNbO3)基板を利用して形成される導波路型偏波コントローラである。なお、LN導波路型偏波コントローラの応答速度は、100ns 程度であり、伝送路の偏波状態の変動に追従することができる。LN導波路型偏波コントローラは、特に限定されるものではないが、例えば、電圧駆動で光学軸が調整される1/4 波長板、1/2 波長板、1/4 波長板を縦続接続することにより実現される。この場合、各波長板に印加される駆動電圧を調整することにより、所望の偏波状態が得られる。なお、上記構成の偏波コントローラは、例えば、下記の文献に記載されている。
文献:土居正治他、「PMDC用8chLiNbO3導波路型偏波制御器&可変DGD光回路」2008年電気情報通信学会総合大会 C-3-58 2008
【0039】
偏波コントローラ1は、LN導波路型偏波コントローラに限定されるものではなく、例えば、応答速度が1ms以下であり、且つ、所定のスペクトル幅の光信号の偏波状態を一括して制御できる高速偏波コントローラを使用することができる。すなわち、例えば、偏波コントローラ1は、電気光学効果を有する結晶(PLZT等)を用いるバルク型電気光学偏波コントローラにより実現されてもよい。また、偏波コントローラ1は、磁気光学効果を利用する構成(例えば、ファラデー回転子)で実現されてもよい。
【0040】
分光器2は、入力光を複数の波長成分に分光する。分光器2は、特に限定されるものではないが、例えば、回折格子あるいはVIPA(Virtually Imaged Phased-Array)を利用して実現される。
【0041】
偏波コントローラ3は、液晶変調素子を備える面型の偏波コントローラである。また、偏波コントローラ3は、例えば、ネマチック液晶を使用するマトリックス位相変調素子を2層以上集積することにより実現される。この場合、例えば、2層の液晶の方位をそれぞれ「0°」「90°」に設定すれば、ポアンカレ球(Poincare sphere)上のすべての偏波状態を得ることができる。また、偏波制御において無限追従を実現するためには、3層または4層の液晶変調素子を使用する構成が望ましい。位相整形部4は、ネマチック液晶を使用するマトリックス位相変調素子を1層または複数層使用することによって実現される。
【0042】
図7は、偏波コントローラ3または位相整形部4を実現するマトリックス位相変調素子の構成を示す図である。ここでは、1層分のマトリックス位相変調素子が描かれている。
マトリックス位相変調素子は、1組のガラス基板の間に、入力側電極、液晶セル、出力側電極を設けることにより形成される。ここで、液晶セルは、入力側電極と出力側電極との間に設けられる。また、入力側電極および出力側電極は、いずれも透明電極である。
【0043】
マトリックス位相変調素子は、複数の液晶セルを備える。ここで、光信号が分光器2により波長成分λ1〜λnに分光される場合、マトリックス位相変調素子は、波長成分λ1〜λnに対応する液晶セルC1〜Cnを備える。また、複数の液晶セルは、周波数分離方向に並べられている。なお、周波数分離方向とは、分光により周波数空間に分かれた光が分布する方向を表す。そして、各波長成分λ1〜λnは、それぞれ対応する液晶セルC1〜Cnに導かれる。
【0044】
各液晶セルに対してそれぞれ入力側電極(電極ピクセル)が設けられる。一方、出力側電極は、複数の液晶セルにより共用される。そして、電極ピクセルに印加する駆動電圧を制御することにより、対応する液晶セルの方位を調整することができる。ここで、各電極ピクセルに印加する駆動電圧は、互いに独立して制御することができる。したがって、各液晶セルは、電極ピクセルの駆動電圧を利用して、光の位相を互いに独立して調整することができる。すなわち、各電極ピクセルは、独立した位相調整器(retardation plate)として働く。なお、液晶セルは、一般に、電圧を調整することにより2πよりも大きな位相を調整することができる。
【0045】
図8は、マトリックス位相変調素子の液晶の方位を示す図である。液晶は、長軸方向の分子であり、配向している方向(矢印が示す方向)に複屈折率を持つ。図8に示す実施例では、駆動電圧がゼロであるときに、第1層の変調素子の各液晶セルの配向は「0°」であり、第2層の変調素子の各液晶セルの配向は「45°」である。そして、第1層および第2層の各液晶セルの配向は、駆動電圧を大きくするにつれて、図8の紙面に対して垂直な方向に傾いてゆく。すなわち、第1層の液晶セルは0°の位相調整器として働き、第2層の液晶セルが45°の位相調整器として働く。
【0046】
偏波コントローラ2は、2層以上のマトリックス位相変調素子を備え、各波長成分が通過する各層の液晶セルの駆動電圧を適切に制御することにより、各波長成分の偏波を所望の状態に調整することができる。また、位相整形部4は、1層以上のマトリックス位相変調素子を備え、各波長成分が通過する各層の液晶セルの駆動電圧を適切に制御することにより、各波長成分の位相を所望の状態に調整することができる。
【0047】
図9は、偏波モニタ部11の実施例を示す。偏波モニタ部11には、光スプリッタ12により分岐された波長成分λ1 〜λn が入力される。そして、偏波モニタ部11は、各波長成分の偏波状態をそれぞれモニタする。
【0048】
偏波モニタ部11は、集積偏光板アレイ21、PDアレイ22、A/D変換器23、プロセッサ24を備える。集積偏光板アレイ21は、波長成分λ1〜λnがそれぞれ入力される複数の集積偏光板を備える。各集積偏光板は、特に限定されるものではないが、例えば、4つの偏光子(0°、45°、90°、45°)を備え、一方の45°偏光子の入力側に1/4波長板が設けられる。この構成により、各波長成分λ1〜λnについて、4偏波強度観測を行うことができる。なお、集積偏光板については、例えば、下記の文献に記載されている。
文献:橋本直樹他、「小型・高精度フォトニック結晶偏波モニタ」2005年電気情報通信学会総合大会C-3-112 2005
【0049】
PDアレイ22は、集積偏光板アレイ21の出力側に設けられ、波長成分λ1 〜λn を電気信号に変換するための複数の受光素子を備えている。受光素子は、例えば、フォトダイオードである。A/D変換器23は、PDアレイ22から出力される電気信号をデジタルデータに変換する。このデジタルデータは、各波長成分λ1〜λnの4偏波(例えば、0°、45°、90°、円偏光)を表す。
【0050】
プロセッサ24は、A/D変換器23により得られるデジタルデータに基づいて、各波長成分λ1〜λnについてストークスパラメータを計算する。ストークスパラメータは、光信号の偏波状態を表す。すなわち、プロセッサ24は、ストークスパラメータを利用して、各波長成分λ1 〜λn の偏波状態を検出する。
【0051】
なお、上述の実施例では、分光器2から出力される波長成分λ1 〜λn が光スプリッタ12により分岐されて偏波モニタ部11に導かれているが、図10に示すように、分光器2の入力側で分岐される光信号を偏波モニタ部に導くようにしてもよい。この場合、光スプリッタ13は、偏波コントローラ1と分光器2との間に設けられ、偏波コントローラ1により偏波が制御された光信号を分岐して偏波モニタ部11に導く。
【0052】
この場合、偏波モニタ部11は、分光器2と同等の分光器を備えるようにしてもよい。すなわち、光スプリッタ13により分岐された光信号は、偏波モニタ部11の内部で波長成分λ1 〜λn に分光される。なお、一般に、分光器により得られる光波は、ビームが広がる。よって、偏波モニタ部11の内部に分光器を備える構成では、ビームの広がりが抑制されるので、各波長成分の偏波状態をより精度よくモニタすることができる。
【0053】
図10に示す構成において使用される偏波モニタ部11は、分光器を備える場合には、図9に示す構成と同様に、集積偏光板アレイ21、PDアレイ22、A/D変換器23、プロセッサ24を備える。この場合、偏波モニタ部の動作は、基本的に、図9を参照しながら説明した通りである。
【0054】
図11は、図10に示す構成において使用される偏波モニタ部11の他の実施例を示す図である。図11(a)に示す構成では、偏波モニタ部11は、チューナブルフィルタ25、集積偏光板26、PD素子27を備える。チューナブルフィルタ25は、時間分割多重方式で、波長成分λ1 〜λn を順番に抽出する。チューナブルフィルタ25は、高速動作が可能であり、数GHzの狭帯域であることが好ましい。よって、チューナブルフィルタ25は、例えば、EO結晶で作成されたエタロン型フィルタなどで実現される。集積偏光板26は、チューナブルフィルタ25により抽出される波長成分について上述した4偏波を生成する。そして、PD素子27は、集積偏光板26により得られる4偏波を電気信号に変換する。なお、プロセッサ24は、上述したように、波長成分ごとにストークスパラメータを計算する。この構成によれば、分光器が不要であり、また、受光回路はアレイ素子を備えていないので、受光回路のコストが削減される。
【0055】
図11(b)に示す構成では、偏波モニタ部11は、回転波長板28、偏波ビームスプリッタ(PBS)29、分光器30、PDアレイ22を備える。回転波長板28は、例えば、強誘電性液晶で構成された方位切替えが可能な1/4 波長板を2つ組み合わせることにより実現される。なお、回転波長板28は、μ秒オーダでの高速応答が可能であることが好ましい。そして、回転波長板28の回転角を制御することにより、上述した4偏波が順番に生成される。なお、プロセッサ24は、上述したように、波長成分ごとにストークスパラメータを計算する。この構成によれば、集積偏光板または集積偏光板アレイを設けることなく、各波長成分の偏波状態をモニタできる。
【0056】
図12は、第1の実施形態の偏波モード分散補償器の制御系を説明する図である。ここでは、分光器2の出力光が分岐されて偏波モニタ部11に導かれるものとする。また、図12では、分光器2から合波器5へ至る光パスが1本の線で描かれているが、実際には、空間的に分離された波長成分λ1 〜λn が自由空間伝送される。
【0057】
偏波モニタ部11は、上述したように、波長成分λ1 〜λn の偏波状態を検出する。すなわち、偏波モニタ部11は、所定の周期で波長成分λ1 〜λn のストークスパラメータを計算する。このとき、ストークスパラメータを計算する周期は、1m秒以下であることが好ましい。そして、偏波モニタ部11は、計算したストークスパラメータに基づいて、偏波コントローラ1、3を制御する。
【0058】
偏波コントローラ1は、入力光信号のスペクトルに含まれるある波長成分(例えば、中心波長λc )の偏波が予め決められた第1の目標偏波状態になるように、その光信号の偏光状態を一括して制御する。すなわち、偏波モニタ部11は、光信号の中心波長のストークスパラメータが第1の目標偏波状態を表すように、偏波コントローラ1を制御する。このとき、偏波モニタ部11は、例えば、ディザリング法を利用して、偏波コントローラ1に与える駆動電圧をフィードバック制御する。
【0059】
偏波コントローラ3は、各波長成分λ1 〜λn の偏波を、同じ偏波状態に制御する。すなわち、偏波モニタ部11は、光信号の各波長成分λ1〜λnのストークスパラメータがいずれも第2の目標偏波状態を表すように、偏波コントローラ3の各マトリックス位相変調素子を制御する。このとき、偏波モニタ部11は、例えば、偏波コントローラ3の各液晶変調素子に印加する電圧をフィードフォワードで制御する。なお、第1および第2の目標偏波状態は、互いに同じであってもよいし、互いに異なっていてもよい。
【0060】
補償制御部31は、特に図示しないが、受光素子、A/D変換器、プロセッサを備えている。受光素子は、例えばフォトダイオードであり、合波器5から出力される光信号を電気信号に変換する。A/D変換器は、受光素子の出力信号をデジタルデータに変換する。このデジタルデータは、偏波モード分散補償器100の出力信号を表す。そして、プロセッサは、このデジタルデータを利用して、周波数依存性が補償されるように、位相整形部4を制御する。このとき、補償制御部31は、例えば、位相整形部4の各液晶変調素子に印加する電圧をフィードバック制御する。なお、補償制御部31が使用するプロセッサの機能は、上述したプロセッサ24により提供されてもよい。
【0061】
位相整形部4は、補償制御部31の制御に従って、各波長成分の位相を調整する。ここで、位相の周波数依存性は、伝送路の偏波モード分散に依存する。したがって、補償制御部31は、例えば、GS(Gerchberg-Saxton)アルゴリズムを利用して、偏波モード分散補償器100の出力信号の時間波形をモニタし、その時間波形が最適化(例えば、パルス幅を狭くする)されるように、位相整形部4を制御する。なお、補償制御部31は、自己相関干渉計(オートコリレータ)を利用して時間波形をモニタするようにしてもよい。また、補償制御部31は、FROG(Frequency-Resolved Optical Gating)と呼ばれる周波数空間での干渉計を用いて時間波形をモニタしてもよい。
【0062】
なお、位相をモニタおよび制御する手順は、例えば、下記の文献に記載されている短パルスレーザモニタ技術を利用することができる。
文献:M.Akbulut et.al, “Broadband All-Order Polarization Mode Dispersion Compensation Using Liquid-Crystal Modulator Array”, Journal of Lightwave Technology, vol.24, No.1, pp251-261, 2006.
GSアルゴリズムについては、例えば、下記の文献に記載されている。
文献:A. Rundquist et al., “Pulse Shaping with the Gerchberg-Saxton algorithm”, J. Opt. Soc. Am. B/Vol.19, No.10, pp2468-2478, October 2002,
FROG法については、例えば、下記の文献に記載されている。
文献:H.Miao et al., “Broadband All-Order Polarization Mode Dispersion Compensation”, OFC2007, OTuN2 2007
【0063】
図13は、第1の実施形態の偏波モード分散補償器の制御方法を示すフローチャートである。このフローチャートの処理は、偏波モニタ部11および補償制御部31が備えるプロセッサにより実行される。
【0064】
ステップS1〜S2は、伝送路の偏波状態の変動に十分に追従できる周期(ここでは、1m秒よりも短い周期)で繰り返し実行される。偏波モニタ部11は、この実施例では、光信号の中心波長λcのストークスパラメータをモニタする。そして、偏波モニタ11部は、そのストークスパラメータが目標偏波状態を表すように、偏波コントローラ1を調整する。
【0065】
ステップS11〜S14は、液晶変調素子の応答速度よりも遅い周期(例えば、1〜100m秒)で繰り返し実行される。ここでは、例えば、10m秒の周期で実行されるものとする。ステップS11において、偏波モニタ部11は、光信号の各波長成分λ1 〜λn の偏波状態をモニタする。なお、ステップS2において各波長成分λ1 〜λn のストークスパラメータが計算される場合には、ステップS11においてその計算結果を利用するようにしてもよい。そして、ステップS12において、偏波モニタ部11は、波長成分λ1 〜λn の偏波状態が互いに同じになるように、偏波コントローラ3の各液晶変調素子を制御する。
【0066】
ステップS13において、補償制御部31は、偏波モード分散補償器から出力される光信号の時間波形をモニタする。そして、補償制御部31は、その時間波形が最適化されるように、位相整形部4の各液晶変調素子を制御する。なお、ステップS11〜S12の実行周期と、ステップS13〜S14の実行周期は、互いに同じであってもよいし、互いに異なっていてもよい。
【0067】
上記制御方法において、偏波モニタ部11は、偏波コントローラ1の制御周期で中心波長λc のみの偏波状態を検出し、偏波コントローラ3の制御周期で全波長成分λ1 〜λn の偏波状態を検出するようにしてもよい。この場合、偏波状態を検出するための演算(この実施例では、ストークスパラメータを算出する演算)を少なくすることができる。あるいは、偏波モニタ部11は、偏波コントローラ1の制御周期で全波長成分λ1 〜λn の偏波状態を検出してもよい。この場合、中心波長λc についての検出結果が偏波コントローラ1を制御するために使用される。
【0068】
図14は、第1の実施形態の偏波モード分散補償器の他の制御系を示す図である。この制御系は、例えば、伝送路の偏波モード分散が一様に分布している場合に使用される。伝送路の偏波モード分散が一様に分布しているときは、各波長成分の偏波状態(すなわち、ストークスパラメータ)から各波長成分の偏波モード分散を計算し、その計算結果に応じて位相差を補償することができる。したがって、この構成においては、偏波モニタ部11が、各波長成分のストークスパラメータに基づいて、位相整形部4の各液晶変調素子を制御する。
【0069】
図15は、第2の実施形態の偏波モード分散補償器の構成を示す図である。第2の実施形態の偏波モード分散補償器200は、光スプリッタ51および偏波モニタ部52を備える。光スプリッタ51は、合波後の光信号の一部を分岐して偏波モニタ部52に導く。そして、偏波モニタ部52は、合波後の光信号の偏波状態をモニタする。なお、偏波モニタ部52は、偏波コントローラ1と分光器2との間の光パスから分岐した光信号の偏波状態をモニタするようにしてもよい。
【0070】
伝送路の偏波変動が高速な場合は、偏波コントローラ1の調整速度は数100μ秒程度が要求されることがある。他方、偏波コントローラ1は、光信号の1つの波長成分(例えば、中心波長)の偏波状態に基づいて制御される。そして、第2の実施形態では、より簡易な構成で偏波状態が検出される。
【0071】
偏波モニタ部52は、例えば図16(a)に示すように、光パワーメータ52aにより実現される。この場合、光スプリッタ51は、偏波ビームスプリッタ(PBS)である。ここで、例えば、偏波モード分散補償器の出力光が45°の直線偏光に制御される場合には、偏波ビームスプリッタ51は、45°偏光成分を透過し、他の偏光成分を光パワーメータ52aに導く。この場合、光パワーメータ52aで検出される光パワーが最小になるようにフィードバックすれば、偏波コントローラ1は最適点に制御される。
【0072】
偏波モニタ部52は、図16(b)に示すように、DOP(Degree Of Polarization)モニタ52bにより実現されてもよい。この場合、光スプリッタ51は、出力光の一部を分岐してDOPモニタ52bに導く。そして、DOPモニタ52bによるモニタ結果からストークスパラメータを算出することができる。このとき、算出したストークスパラメータが目標偏波状態になるように、偏波コントローラ1が制御される。あるいは、DOP値が最大になるようにフィードバック制御を行うようにしてもよい。なお、単一周波数DOPモニタとして、10μ秒程度の高速動作が可能な構成が知られている。
【0073】
光スプリッタ51とDOPモニタ52bとの間に、図16(c)に示すように、バンドパスフィルタ53を備えるようにしてもよい。この場合、バンドパスフィルタ53は、光信号の中心波長λcを抽出する。この構成によれば、光信号の中心波長λcの偏波状態を精度よく検出できる。
【0074】
ただし、光信号のスペクトルは、通常、例えば図5に示すように、中心波長で強度が最大になる。このため、図16(b)に示すように、バンドパスフィルタを備えない構成であっても、実質的に、光信号の中心波長付近の偏波状態が検出される。
【0075】
図17は、偏波モード分散を受けた光の偏波状態を表すシミュレーション結果を示している。偏波状態は、ポアンカレ球上に表されている。このシミュレーションにおいては、入力信号の周波数スペクトル幅は80GHzであり、伝送路の平均DGDは6psである。また、○印は、各周波数成分(波長成分)の偏波状態を表している。
【0076】
変調スペクトル内の各周波数の偏波状態は、偏波モード分散を受けた後も完全にランダムではなく、周波数間で相関がある。すなわち、出力光の偏波状態は、周波数に対して順番に分布し、隣り合う周波数成分は近い偏波状態を持つ。
【0077】
図18は、第2の実施形態の偏波モード分散補償器の制御系を説明する図である。第2の実施形態では、合波後の光信号または分光前の光信号の偏波状態に基づいて、偏波コントローラ1が制御される。ただし、制御手順は、基本的に、図13に示すフローチャートに従う。
【0078】
<実施形態の構成による効果>
図19は、シミュレーションモデルを示す図である。シミュレーションモデルでは、伝送路の偏波モード分散は、複数の回転する複屈折率エレメントi(i=1〜N)によりエミュレートされる。複屈折率エレメントiの方位は「ベクトルvi 」、DGDは「τi 」である。そして、各複屈折率エレメントがそれぞれ時間領域でランダムに微小角度回転するものとする。
【0079】
図20は、偏波状態の変化角度の分布を示す図である。このシミュレーション結果は、図19に示すモデルにおいて、各複屈折率エレメントのDGDが0.5 psであり、Nが100である場合に得られたものである。図20に示すグラフは、所定時間経過後における偏波状態(SOP:State Of Polarization)の変化角度の発生頻度を表している。このシミュレーションによれば、偏波状態が2°程度変化する確率が高くなっている。ここで、上述した非特許文献3には、偏波状態の変動が速い伝送路で1m秒の間に2〜3°のSOPの変化が起こり、1m秒以内に偏波制御を行う必要があることが記載されている。すなわち、図20に示すシミュレーションは、SOP変動が速い伝送路における1m秒後の状態を示していると考えることができる。したがって、以下では、この状態を基準にして実施形態の構成の効果を見積もる。
【0080】
図21は、偏波状態についてのシミュレーション結果を示す図である。ここでは、偏波モード分散補償器に入力される光信号、および偏波コントローラ1、3により偏波が制御された光信号の偏波状態がポアンカレ球上に表されている。ここで、入力光信号においては、伝送路の偏波モード分散により各波長成分の偏波状態は互いに大きく異なっている。なお、偏波コントローラ1は、1m秒よりも短い周期で入力光信号の偏波状態を制御し、偏波コントローラ3は、3m秒周期で各波長成分の偏波状態を制御するものとする。
【0081】
ここで、偏波モード分散補償器が偏波コントローラ1を備えないものとする。そうすると、波長成分λ1 〜λn の偏波状態の変動幅は約5.5 °となる(特性A)。一方、実施形態の偏波モード分散補償器によれば、波長成分λ1〜λnの偏波状態の変動幅は約0.8 °度となる(特性B)。
【0082】
このように、実施形態の偏波モード分散補償器によれば、波長に依存する偏波状態の変動幅を小さくできるので、1次および高次の偏波モード分散を十分に補償することができる。
【0083】
<偏波コントローラ>
図22は、実施形態の偏波コントローラの構成を示す図である。実施形態の偏波コントローラ300は、偏波コントローラ1、分光器2、偏波コントローラ3、合波器5、偏波モニタ部11、光スプリッタ12を備える。これらの回路要素1〜3、5、11、12の構成および動作は、基本的に、図1、図3、図4等を参照しながら説明した通りである。ここで、偏波コントローラ300は、位相整形部4を備えていない。すなわち、偏波コントローラ300は、波長成分λ1〜λnの偏波状態を揃えた後にそれらを合波して出力する。
【0084】
図23は、実施形態の偏波コントローラ300の適用例を示す図である。この実施例では、偏波コントローラ300は、OSNR(Optical Signal-to-Noise Ratio)モニタ回路として使用される。OSNRモニタ回路は、偏波コントローラ300、偏波ビームスプリッタ(PBS)301、光パワーメータ302a、302bを備える。
【0085】
偏波コントローラ300は、例えば、各波長成分の偏波を45°に揃えた後に合波して出力する。この場合、偏波ビームスプリッタ301は、45°偏光を光パワーメータ302aに導き、他の光成分を光パワーメータ302bに導く。そうすると、光パワーメータ302aは「S+N/2」を検出し、光パワーメータ302bは「N/2」を検出する。ここで、「S」は信号光のパワーを表し、「N」はノイズ成分のパワーを表す。したがって、光パワーメータ302a、302bを利用してOSNRを計算することができる。
【0086】
伝送路の偏波が偏波モード分散などにより変調スペクトル内の波長成分において異なる偏波状態を有するときは、偏光子だけではノイズ成分を完全には分離できない。この問題は、例えば、数GHz程度の狭い帯域を持つバンドパスフィルタを利用すれな解決可能である。しかし、このようなフィルタは高価である。
【0087】
これに対して、実施形態の偏波コントローラを備えるOSNRモニタにおいては、光信号の各波長成分の偏光は精度よく揃っているので、完全にランダムな偏光であるノイズ成分を分離することができる。したがって、上記構成のOSNRモニタを使用すれば、実際の伝送路のように光信号の各波長成分が高速に偏波変動する場合であっても、OSNRを精度よく測定することができる。
【0088】
また、実施形態の偏波コントローラ300は、例えば、偏波多重伝送システムにおいて偏波多重信号を分離する受信機にも適用可能である。この場合、偏波多重信号を精度よく分離することができ、ビットエラー率を改善することができる。
【符号の説明】
【0089】
1 偏波コントローラ(EO−PC)
2 分光器
3 偏波コントローラ(LCM)
4 位相整形部
5 合波器
11 モニタ部
12、13 光スプリッタ
21 集積偏光板アレイ
22 PDアレイ
24 プロセッサ
25 チューナブルフィルタ
26 集積偏光板
27 PD素子
28 回転波長板
29 偏波ビームスプリッタ
30 分光器
31 補償制御部
52 偏波モニタ部
52a 光パワーモニタ
52b DOPモニタ
100、200 偏波モード分散補償器
300 偏波コントローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力光の一部の波長成分が第1の偏波状態になるように前記入力光の偏波状態を制御する第1の偏波コントローラと、
前記第1の偏波コントローラから出力される光を複数の波長成分に分光する分光器と、
液晶変調素子を用いて前記複数の波長成分をそれぞれ第2の偏波状態に制御する第2の偏波コントローラと、
前記第2の偏波コントローラから出力される複数の波長成分を合波する合波器、
を有する偏波コントローラ。
【請求項2】
請求項1に記載の偏波コントローラであって、
前記第1の偏波コントローラは、電気光学効果を利用して前記入力信号の波長成分の偏波状態を一括して制御する
ことを特徴とする偏波コントローラ。
【請求項3】
請求項1または2に記載の偏波コントローラであって、
前記複数の波長成分のストークスパラメータをモニタするモニタ部をさらに備え、
前記第1の偏波コントローラは、前記複数の波長成分の中の1つのストークスパラメータに基づいて、前記入力光の偏波状態を制御し、
前記第2の偏波コントローラは、前記複数の波長成分の各ストークスパラメータに基づいて、前記複数の波長成分の偏波状態をそれぞれ制御する
ことを特徴とする偏波コントローラ。
【請求項4】
請求項3に記載の偏波コントローラであって、
前記第1の偏波コントローラは、前記入力光の中心波長のストークスパラメータに基づいて、前記入力光の偏波状態を制御する
ことを特徴とする偏波コントローラ。
【請求項5】
請求項3に記載の偏波コントローラであって、
前記分光器と前記第2の偏波コントローラとの間に設けられ、前記複数の周波数成分を前記モニタ部に導く光スプリッタをさらに備える
ことを特徴とする偏波コントローラ。
【請求項6】
請求項3に記載の偏波コントローラであって、
前記分光器の入力側に設けられ、前記入力光を前記モニタ部に導く光スプリッタをさらに備える
ことを特徴とする偏波コントローラ。
【請求項7】
請求項1または2に記載の偏波コントローラであって、
前記複数の波長成分のストークスパラメータをモニタする第1のモニタ部と、
前記分光器の入力側または前記合波器の出力側に設けられる光スプリッタと、
前記光スプリッタにより分岐された光の偏波状態をモニタする第2のモニタ部、をさらに備え、
前記第1の偏波コントローラは、前記第2のモニタ部により検出された偏波状態に基づいて、前記入力光の偏波状態を制御し、
前記第2の偏波コントローラは、前記第1のモニタ部により得られる前記複数の波長成分の各ストークスパラメータに基づいて、前記複数の波長成分の偏波状態をそれぞれ制御する
ことを特徴とする偏波コントローラ。
【請求項8】
入力光の一部の波長成分が第1の偏波状態になるように前記入力光の偏波状態を制御する第1の偏波コントローラと、
前記第1の偏波コントローラから出力される光を複数の波長成分に分光する分光器と、
液晶変調素子を用いて前記複数の波長成分をそれぞれ第2の偏波状態に制御する第2の偏波コントローラと、
前記第2の偏波コントローラにより偏波状態が制御された各波長成分の位相をそれぞれ制御する位相制御部と、
前記位相制御部から出力される複数の波長成分を合波する合波器、
を有する偏波モード分散補償器。
【請求項9】
第1の偏波コントローラで、入力光の一部の波長成分が第1の偏波状態になるように、前記入力光の偏波状態を制御し、
前記第1の偏波コントローラから出力される光を複数の波長成分に分光し、
液晶変調素子を備える第2の偏波コントローラで、前記複数の波長成分をそれぞれ第2の偏波状態に制御し、
前記第2の偏波コントローラから出力される複数の波長成分を合波する
ことを特徴とする偏波制御方法。
【請求項10】
請求項9に記載の方法であって、
前記第1の偏波コントローラは、第1の周期で前記入力光の偏波状態を制御し、
前記第2の偏波コントローラは、前記第1の周期よりも長い第2の周期で前記複数の波長成分の偏波状態を制御する
ことを特徴とする偏波制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図22】
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【図23】
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【図5】
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【図17】
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【図21】
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【公開番号】特開2010−273039(P2010−273039A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−122289(P2009−122289)
【出願日】平成21年5月20日(2009.5.20)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】