説明

元素分析装置及び方法

【課題】試料の元素分析機構を、試料を観察する顕微鏡機構に搭載してなる複合的な元素分析装置において、試料を顕微鏡機構及び元素分析機構の双方に最適な位置及び角度に容易且つ性格に調整し、顕微鏡像と元素分析機構の3次元情報とを正確に対応させて、3次元再構築時のスケールや検出効率の不足を容易に補正し、高精度な元素分析を行う。
【解決手段】試料11が設置される試料ホルダ31にX軸方向、Y軸方向及びZ軸方向への各平行移動と、X軸回り及びY軸回りの各回転移動とを行う機能(第1の移動部35)を付加することに加えて、試料11から離脱した元素を検出する位置敏感型検出器3に、電子顕微鏡機構における光軸と一致するZ軸回りの回転移動を行う機能(第2の移動部26)を付加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3次元構造物である試料に電界を印加し、電界による試料からの元素の離脱現象を利用して、離脱した元素の位置及び飛行時間を測定する元素分析装置、及びこれを用いた元素分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電界イオン顕微鏡(Field Ion Microscope:FIM)は、鏡体内にヘリウムやネオン等の不活性ガスを導入し、先端が長さ100nm程度の針状に加工された試料に高電界を印加することにより、不活性ガスが試料表面でイオン化され、この不活性ガスイオンをマイクロチャンネルプレートと蛍光板により検出することで、針状試料の表面を観察できる装置である。
【0003】
アトムプローブ装置(Atom Probe)は、FIMに飛行時間型の質量分析器を取り付けたものであり、針状の試料に高電界を印加して原子を電界蒸発させることにより、試料を構成する元素を同定することができる局所分析装置である。最近では、質量分析器として位置敏感型質量分析器を用いることにより、原子の質量と共に位置を特定できる3次元アトムプローブ装置(Three Dimensional Atom Probe:以下、3DAPと略称する。)が開発されている。
【0004】
3DAPにより元素分析を行うには、針状の試料から原子が電界蒸発する程度の高電界を、当該試料と引き出し電極との間に印加し、試料表面から原子を一層ずつ蒸発させる。試料から離脱した原子(イオン)の位置及び飛行時間を、位置敏感型検出器及びタイマーにより測定する。これにより、試料に印加された電界及び原子の飛行時間から、離脱した元素の種類が同定される。これを連続的に実行して測定データを蓄積することにより、試料最表面の構成元素を原子レベルの分解能で2次元にマッピングすることができる。この2次元マッピングを深さ方向に座標を与えて3次元に再構築することにより、試料の組成及び構造を3次元的に観察することができる。
【0005】
3DAPによる元素分析を行うための試料作製時には、透過型電子顕微鏡等の電子顕微鏡を用いて試料の予備観察がなされる。このような予備観察は、3DAPによる元素分析前や元素分析途中に試料の状態を確認するためにも行われ、3次元再構築時のスケールの補正や、検出効率の不足を補填するために利用される。予備観察を行うには、透過型電子顕微鏡への試料の取り付け作業及び取り外し作業を伴うが、特に3DAPによる元素分析途中に行う試料の取り付け作業及び取り外し作業は、高精度な元素分析の障害となる。このため、これらの作業を不要とする元素分析装置が、本発明と同一の出願人により提案されている(特願2006−77482)。
【0006】
特願2006−77482は、本件出願時において未公開であり、文献公知発明ではないが、本発明の基礎をなすものである。特願2006−77482では、3次元構造物である試料に電界を印加し、電界による試料からの元素の離脱現象を利用して、離脱した元素の位置及び飛行時間を測定する元素分析機構を、試料を観察する電子顕微鏡機構に搭載してなる複合的な元素分析装置が提案されている。この構成により、電子顕微鏡への試料の取り付け作業及び取り外し作業を要することなく、試料の予備観察及び元素分析を行うことが可能となる。
【0007】
一方、非特許文献1には、透過型電子顕微鏡内で試料を360度回転させることが可能な試料ホルダが開示されている。解析箇所を含む10μm角程度の微小試料を摘出して固定し、柱状に作製された試料を様々な角度から観察することにより、2次元の透過電子顕微鏡像から立体的な形状評価を行うことが可能であることが記載されている。
【0008】
【非特許文献1】FIBマイクロサンプリング|DRAMの観察例"、[online]、株式会社日立ハイテクノロジーズ、[平成19年3月12日検索]、インターネット<URL: http://www.hitachi-hitec.com/em/fib/fibmicro.html>
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特願2006−77482の複合的な元素分析装置により、試料の取り付け作業及び取り外し作業を要することなく、電子顕微鏡による試料の観察と3DAPによる元素分析とを行うことが可能となる。
3DAPによる元素分析前や分析途中において撮影した2次元情報である電子顕微鏡像から、試料の状態を正確に把握するためには、電子顕微鏡像と3DAPの3次元情報とを正確に対応させなければならない。特願2006−77482で示すように、電子顕微鏡内に3DAPの機能が完全に固定されている場合、電子顕微鏡機構及び3DAP機構の双方に最適な位置(X軸、Y軸及びZ軸の3軸方向)及び角度(X軸、Y軸及びZ軸の3軸回り)を全て試料ホルダで調整する必要がある。従来技術でも、5つの自由度を持つ2軸傾斜型の試料ホルダを備えることは可能である。しかしながら、電子顕微鏡内では、試料回りの空間が制限されているため、位置(3軸方向)及び角度(3軸回り)の6つの自由度を持つ試料ホルダを設けることは困難であり、特願2006−77482の複合的な元素分析装置内において、試料を電子顕微鏡機構及び3DAP機構の双方に最適な位置及び角度に調整することは不可能である。
【0010】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、試料の元素分析機構を、試料を観察する顕微鏡機構に搭載してなる複合的な元素分析装置において、試料を顕微鏡機構及び元素分析機構の双方に最適な位置及び角度に容易且つ正確に調整し、顕微鏡像と元素分析機構の3次元情報とを正確に対応させて、3次元再構築時のスケールや検出効率の不足を容易に補正し、高精度な元素分析を行うことを可能とする元素分析装置及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の元素分析装置は、試料が設置される試料設置部と、前記試料設置部に設置された前記試料に電界を印加するための電源と、前記試料と対向するように設置されており、前記試料から離脱した元素を検出する元素検出部とを有する元素分析機構と、前記試料設置部に設置された前記試料を観察する顕微鏡機構とを備え、前記試料設置部の、X軸方向、Y軸方向及びZ軸方向への各平行移動と、X軸回り及びY軸回りの各回転移動とを行う第1の移動部と、前記元素検出部の、前記顕微鏡機構における光軸と一致するZ軸回りの回転移動を行う第2の移動部とを含む。
【0012】
本発明の元素分析方法は、試料設置部に設置された試料に電界を印加し、前記試料から離脱した元素を元素検出部により検出する元素検出機構と、前記試料設置部に設置された前記試料を観察する顕微鏡機構とを備えてなる元素分析装置を用いた元素分析方法であって、前記顕微鏡機構による走査透過型電子顕微鏡(又は走査電子顕微鏡)による観察に基づいて、前記試料が光軸と一致するZ軸に垂直な面内に位置するように調節された状態において、前記試料と前記元素検出部との変位角度を算出するステップと、算出された前記変位角度だけ前記元素検出部を回転移動させ、前記元素検出部の方向を前記試料の方向と一致させるステップとを含む。
【0013】
本発明のプログラムは、試料設置部に設置された試料に電界を印加し、前記試料から離脱した元素を元素検出部により検出する元素検出機構と、前記元素検出機構が搭載されており、前記試料設置部に設置された前記試料を観察する顕微鏡機構とを備えてなる元素分析装置を用いた元素分析を行うに際して、前記顕微鏡機構による観察に基づいて、前記試料が光軸と一致するZ軸に垂直な面内に位置するように調節された状態において、前記試料と前記元素検出部との変位角度を算出するステップと、算出された前記変位角度だけ前記元素検出部を回転移動させ、前記元素検出部の方向を前記試料の方向と一致させるステップとをコンピュータに実行させるためのものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、試料の元素分析機構を、試料を観察する顕微鏡機構に搭載してなる複合的な元素分析装置において、試料を顕微鏡機構及び元素分析機構の双方に最適な位置及び角度に容易且つ正確に調整し、顕微鏡像と元素分析機構の3次元情報とを正確に対応させて、3次元再構築時のスケールや検出効率の不足を容易に補正し、高精度な元素分析を行うことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
−本発明の基本骨子−
本発明では、試料が設置される試料設置部にX軸方向、Y軸方向及びZ軸方向への各平行移動と、X軸回り及びY軸回りの各回転移動とを行う機能(第1の移動部)を付加することに加えて、試料から離脱した元素を検出する元素検出部に、顕微鏡機構における光軸と一致するZ軸回りの回転移動を行う機能(第2の移動部)を付加する。この構成により、第1の移動部により、試料(試料設置部)を顕微鏡機構の光軸に垂直な面内に位置するように調節することができるとともに、第2の移動部により、試料(試料設置部)とは独立に、光軸に垂直な面内において元素検出部を回転移動させ、元素検出部の方向(例えば、元素検出部の中心を基準とした法線方向)を試料の方向(例えば、試料の針状先端を基準とした長手方向)と一致させることができる。これにより、試料を顕微鏡機構及び元素分析機構の双方に最適な位置及び角度に容易且つ正確に調整し、顕微鏡像と元素分析機構の3次元情報とを正確に対応させて、3次元再構築時のスケールや検出効率の不足を容易に補正し、高精度な元素分析を行うことが可能となる。
【0016】
更に、Z軸方向に垂直な面内において、試料と元素検出部との変位角度を算出する角度算出部と、角度算出部により算出された変位角度だけ元素検出部を回転移動させ、元素検出部の方向を試料の方向と一致させるように第2の移動部を駆動する移動制御部とを設ける。この構成により、第2の移動部による光軸に垂直な面内における位置調節を自動的に行うことができ、極めて容易且つ迅速に高精度な元素分析を行うことが可能となる。
【0017】
−本発明を適用した好適な実施形態−
以下、本発明を適用した好適な実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0018】
(元素分析装置の構成)
先ず、本実施形態による元素分析装置の構成について説明する。
図1は、本発明が採用する3DAP機構の基本構成を示す模式図である。
【0019】
この3DAP機構は、内部に針状の試料11が配置されるチャンバー1と、試料11に電界を印加するための電源2と、チャンバー1内で試料11と対向するように設置されており、試料から離脱した元素を検出する元素検出手段である位置敏感型検出器3と、チャンバー1内において試料11との間で高い直流バイアス電圧が印加され、試料11から離脱した原子(イオン)を位置敏感型検出器3へ送出する引き出し電極4と、チャンバー1内に所定のガスを所定の流量導入するためのガス導入機構5と、チャンバー1内を所望の真空状態とするための真空ポンプ等を含む排気機構6と、電源2及び位置敏感型検出器3と接続されたタイマー7とを備えて構成されている。
【0020】
電源2は、試料11と引き出し電極4との間に直流バイアス電圧を印加する高圧電源部2aと、高圧電源部2aにより直流バイアス電圧を印加した状態で、試料11にパルス電圧を印加するパルスジェネレータ2bとを備えて構成されている。
この電源2は、当該元素測定装置の作動時には、高圧電源部2aを用いて試料11と引き出し電極4との間に高い直流バイアス電圧を与えておき、タイマー7の起動によりパルスジェネレータ2bを用いて試料11に元素の電界蒸発を惹起する程度のパルス電圧を印加する。1回のパルス電圧の印加により1原子の電界蒸発を生ぜしめるのが理想的であるが、1回のパルス電圧の印加により同時に複数の原子が電界蒸発するという不測の事態を避ける趣旨から、ここでは10回から100回のパルス電圧の印加により1原子の電界蒸発が生じるようにパルス電圧を調節する。なお、パルス電圧の代わりにレーザで電界蒸発を誘起するようにしても良い。
【0021】
位置敏感型検出器3は、平面状の元素検知面を備えており、試料11から電界蒸発した原子(イオン)の位置座標((x1,y1)〜(xn,yn))を2次元マップとして表示する機能を有している。電界蒸発現象を利用して試料11の表面から1原子ずつ、1原子層毎に電界蒸発させてゆくことにより、2次元マップを試料11の深さ方向に拡張させることができる。この2次元マップのデータを不図示のコンピュータに蓄積して所定の計算処理を行うことにより、試料11の原子分布を3次元的に再構成することができる。
【0022】
引き出し電極4は、空洞の円環形状の電極であり、試料11と位置敏感型検出器3との間で試料11の近傍に配置されており、電源2により試料11との間に直流バイアス電圧が印加される。電源2により直流バイアス電圧に重畳してパルス電圧が試料11に印加されると、電界蒸発した原子(イオン)は引き出し電極4の空洞部分を通過して位置敏感型検出器3へ向かって飛行する。
【0023】
タイマー7は、電源2の試料11へ印加するパルス電圧を起動する機能を有している。タイマー7は更に、パルス電圧の印加により試料11の先端から元素離脱が生じたときから原子(イオン)が位置敏感型検出器3に到達するまでの時間、即ち原子(イオン)の飛行時間を測定する機能も有している。
【0024】
図2は、図1の基本構成を有する3DAP機構が透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscopy:TEM)に搭載されてなる、本実施形態による元素分析装置の概略構成を示す模式図である。図3は、図2の元素分析装置に搭載された3DAP機構の部分を拡大して示す模式図であり、図2の光軸に垂直な面内の様子を表す。
【0025】
この元素分析装置は、図2に示すように、電子顕微鏡機構に3DAP機構が搭載された形に構成されている。電子顕微鏡機構は、最上部に設けられた電子銃21と、電子銃21から照射された電子線を照射方向(光軸方向)に加速するための加速管22と、電子線の収束レンズ23と、図1の基本構成を有する3DAP機構が搭載されてなる、電子顕微鏡機構による解析対象であり、且つ3DAP機構による分析対象となる試料11が設置される試料室24と、対物レンズ25と、中間レンズ26と、投影レンズ27と、試料11を透過した電子線を検出し走査透過電子顕微鏡像(STEM像)を得るためのSTEM検出器28と、透過電子顕微鏡像(TEM像)を観察するためのCCDカメラ29とを備えて構成されている。
【0026】
試料室24は、チャンバー1及び排気機構6の機能を兼備しており、図3に示すように、針状の試料11が載置固定される試料設置部31aを有する試料ホルダ31と、引き出し電極4が設置されてなる引き出し電極ホルダ32とを備えている。更に、試料ホルダ31及び引き出し電極ホルダ32に接続された電源2と、引き出し電極4を介して試料11と対向するように設けられた位置敏感型検出器3と、位置敏感型検出器3を支持する検出器支持部33と、タイマー7とを備えて構成されている。
【0027】
試料ホルダ31は、ホルダステージ34により支持されており、試料設置部31aについて、X軸方向、Y軸方向及びZ軸方向への各平行移動と、X軸回り及びY軸回りの各回転移動とを自在に行うことができる第1の移動部35を備えている。ここで、「X軸回り」は試料設置部31aにおける試料11の長手方向の軸PXを回転軸とした場合に、「Y軸回り」は試料ホルダ31の長手方向の軸PYを回転軸とした場合に相当する。第1の移動部35では、例えばX軸回りに360°、Y軸回りに±5°〜10°に回転自在とされている。
【0028】
この第1の移動部35を用いることにより、試料設置部31aを電子顕微鏡機構の光軸に垂直な面内の最適な高さに位置するように調節することができる。なお、図示の例では第1の移動部35を模式的に示すが、第1の移動部35としては、上記の平行移動及び回転移動を行うための例えばガイド機構やベアリング等の軸受け機構等が設けられている。
【0029】
検出器支持部33は、位置敏感型検出器3について、電子顕微鏡機構における光軸PZと一致するZ軸回りの回転移動を自在に行うことができる第2の移動部36を備えている。なお、図示の例では第2の移動部36を模式的に示すが、第2の移動部36としては、上記の回転移動を行うための例えばレール機構等が設けられている。第2の移動部36により、試料11(試料設置部31a)とは独立に、光軸PZに垂直な面内において位置敏感型検出器3を回転移動させ、位置敏感型検出器3の方向(例えば、位置敏感型検出器3の中心を基準とした法線方向)を試料11の方向(例えば、試料11の針状先端を基準とした長手方向)と一致させることができる。
第2の移動部36は、例えば検出器支持部33に内蔵されたステッピングモータを有しており、位置敏感型検出器3が、光軸PZを中心とする円弧状のレール上を例えば最大14cm(原子(イオン)の飛行距離(試料11から位置敏感型検出器3までの距離)を40cmとした場合の値)移動することにより、光軸PZに垂直な面内で±10°の範囲で回転できるように設置されている。
【0030】
更に、検出器支持部33には、光軸方向に垂直な面内において、試料11と位置敏感型検出器3との変位角度を算出する角度算出部37と、角度算出部37により算出された変位角度だけ位置敏感型検出器3を回転移動させ、位置敏感型検出器の方向を試料11の方向と一致させるように第2の移動部36を駆動する制御部38とが設けられている。制御部38は、後述の同期回路42の駆動、及び3DAP機構における電源2、ガス導入機構5、排気機構6、タイマー7等の動作も制御する。なお図3では、電源2、ガス導入機構5、排気機構6、タイマー7の図示を省略する。
【0031】
角度算出部37は、例えばSTEM像における位置敏感型検出器3の基本位置(0度)(STEM像の走査方向と基本位置との位置関係は、予め測定してあるものとする。)の方向を基準として、当該方向と、試料11の方向との角度ズレ量を変位角度として計測するものであり、例えば、電子顕微鏡機構の制御コンピュータ内にプログラムとして構成されている。
【0032】
引き出し電極ホルダ32は、ホルダステージ39により支持されており、引き出し電極4について、電子顕微鏡機構における光軸PZと一致するZ軸回りの回転移動を自在に行うことができる第3の移動部41を備えている。
第3の移動部41は更に、引き出し電極ホルダ32の引き出し電極4をX軸方向、Y軸方向及びZ軸方向へ平行移動(XE方向,YE方向,ZE方向とする。)させる機構を有している。この機構は、引き出し電極4の位置を試料11及び位置敏感型検出器3に対して微調整するものである。なお、図示の例では第3の移動部41を模式的に示すが、第3の移動部41としては、上記の平行移動及び回転移動を行うための例えばガイド機構やベアリング等の軸受け機構等が設けられている
【0033】
更に、第2の移動部36と第3の移動部41とに接続する同期回路42が、例えば引き出し電極ホルダ32に設けられている。
同期回路42は、位置敏感型検出器3の光軸回りの回転移動と、引き出し電極4の光軸回りの回転移動とを同期させるものである。この同期回路42を用いることにより、移動制御部38の駆動で、角度算出部37により算出された変位角度だけ位置敏感型検出器3と共に引き出し電極4を同時に回転移動させ、位置敏感型検出器3の方向及び引き出し電極4の方向(例えば、引き出し電極4の円環形状の中心を基準とした法線方向)を試料11の方向と一致させることができる。
【0034】
制御部38は、引き出し電極4を回転させる際に、同期回路42により、引き出し電極4の回転角が位置敏感型検出器3の回転角と一致するように第2の移動部36のステッピングモータへパルス電流を出力し、これにより検出器支持部33及び位置敏感型検出器が不図示のレール上を移動する。
【0035】
(元素分析方法)
以下、上述した元素分析装置を用いた元素分析方法について説明する。
図4は、本実施形態による元素分析方法をステップ順に示すフロー図である。
【0036】
試料ホルダ31の試料設置部31aに固定されて試料室24に挿入された直後における針状の試料11は、試料11の作製時や試料設置部31aへの取り付け時生じるバラツキにより、電子顕微鏡機構及び3DAP機構の何れに対しても適切な位置関係にはない。そこで、第1の移動部35を用いて、試料ホルダ31のX軸方向、Y軸方向及びZ軸方向への各平行移動と、X軸回り及びY軸回りの各回転移動とを実行し、電子顕微鏡機構により試料11の解析領域の構造が明瞭に観察されるだけでなく、試料11の傾きが電子線の照射方向に垂直な面内に位置するように、試料11の位置及び角度を調整する。
【0037】
詳細には、先ず、試料11を試料ホルダ31設置し、電子顕微鏡機構により試料11の状態を観察する(ステップS1)。
続いて、電子顕微鏡機構により試料11の解析領域の構造が明瞭に観察されているか否かを確認する(ステップS2)。このステップS2において、試料11の解析領域の構造が明瞭に観察された場合には、ステップS4へ進む。一方、明瞭には観察されなかった場合には、第1の移動部35を用いて、試料11の解析領域の構造が明瞭となるように、試料ホルダ31のX軸方向、Y軸方向及びZ軸方向への各平行移動と、X軸回り及びY軸回りの各回転移動とを実行する(ステップS3)。その後、再びステップS1を実行する。
【0038】
ステップS4では、試料11の傾きが電子線の照射方向に垂直な面内に位置するか否かを確認する。このステップS4において、試料11の傾きが電子線の照射方向に垂直な面内に位置するものと確認された場合には、ステップS5へ進む。一方、垂直な面内に位置するものとは確認されなかった場合には、ステップS3へ進み、試料11の傾きが電子線の照射方向に垂直な面内に位置するように、試料ホルダ31のX軸方向、Y軸方向及びZ軸方向への各平行移動と、X軸回り及びY軸回りの各回転移動とを実行する。
【0039】
ステップS5で電子顕微鏡機構による試料11のSTEM(走査透過電子顕微鏡)観察を経た後、当該観察に基づいて、試料11が電子顕微鏡機構における光軸PZと一致するZ軸に垂直な面内に位置するように調節された状態において、角度算出部37は、試料11の方向と位置敏感型検出器3の方向との間における変位角度を算出する(ステップS6)。
【0040】
続いて、制御部38は、第2の移動部36及び同期回路42を駆動して、ステップS5で算出された変位角度だけ位置敏感型検出器3及び引き出し電極4を同時に光軸回りに回転移動させ、位置敏感型検出器3及び引き出し電極4の方向を試料11の方向と一致させる(ステップS7)。このステップS7により、試料11は、電子顕微鏡機構(の光学系)及び3DAP機構の双方に最適な位置及び角度に容易且つ正確に調整される。
【0041】
続いて、3DAP機構をFIMとして用い、試料11の観察を実行する(ステップS8)。
続いて、ステップS8に基づき、制御部38は、ガス導入機構5を作動させて、試料室24内にArやHe等の不活性ガスを導入し、FIM像の強度が最大であるか否かを確認する(ステップS9)。FIM像の強度が最大である場合、例えば図1を用いて上述したように、制御部38は、電源2、タイマー7、排気機構6等を作動させて、3DAP機構による試料11の元素分析を実行する(ステップS11)。ステップS11では、制御部38は、電源2、ガス導入機構5、排気機構6、タイマー7等を上述したように適宜作動させて、電子顕微鏡機構による構造解析(測長)データに基づいた3DAP機構による試料11の元素分析結果を組成し、最終的な解析データとして適宜出力する。
【0042】
一方、FIM像の強度が最大ではない場合、第3の移動部41を用いて、FIM像の強度が最大となるように、引き出し電極ホルダ32の引き出し電極4をXE方向、YE方向及びZE方向へ適宜平行移動させる微調節を実行する(ステップS10)。その後、再びステップS8を実行する。
【0043】
以上説明したように、本実施形態によれば、試料11の3DAP機構を、試料11を観察する電子顕微鏡機構に搭載してなる複合的な元素分析装置において、試料11を電子顕微鏡機構及び3DAP機構の双方に最適な位置及び角度に容易且つ正確に調整し、電子顕微鏡像と3DAP機構の3次元情報とを正確に対応させて、3次元再構築時のスケールや検出効率の不足を容易に補正し、高精度な元素分析を行うことが可能となる。
【0044】
(本発明を適用した他の実施形態)
上述した本実施形態による元素分析装置を構成する各構成要素のうち、図3に示した角度算出部37及び制御部38等の機能は、電子顕微鏡機構の制御を行なうコンピュータのRAMやROMなどに記憶されたプログラムが動作することによって実現できる。同様に、図4に示した元素分析方法の各ステップのうち、ステップS6及びS7等は、コンピュータのRAMやROMなどに記憶されたプログラムが動作することによって実現できる。このプログラム及び当該プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記憶媒体は本発明に含まれる。
【0045】
具体的に、前記プログラムは、例えばCD−ROMのような記録媒体に記録し、或いは各種伝送媒体を介し、コンピュータに提供される。前記プログラムを記録する記録媒体としては、CD−ROM以外に、フレキシブルディスク、ハードディスク、磁気テープ、光磁気ディスク、不揮発性メモリカード等を用いることができる。他方、前記プログラムの伝送媒体としては、プログラム情報を搬送波として伝搬させて供給するためのコンピュータネットワークシステムにおける通信媒体を用いることができる。ここで、コンピュータネットワークとは、LAN、インターネットの等のWAN、無線通信ネットワーク等であり、通信媒体とは、光ファイバ等の有線回線や無線回線等である。
【0046】
また、本発明に含まれるプログラムとしては、供給されたプログラムをコンピュータが実行することにより上述の実施形態の機能が実現されるようなもののみではない。例えば、そのプログラムがコンピュータにおいて稼働しているOS(オペレーティングシステム)或いは他のアプリケーションソフト等と共同して上述の実施形態の機能が実現される場合にも、かかるプログラムは本発明に含まれる。また、供給されたプログラムの処理の全て或いは一部がコンピュータの機能拡張ボードや機能拡張ユニットにより行われて上述の実施形態の機能が実現される場合にも、かかるプログラムは本発明に含まれる。
【0047】
例えば、図5は、パーソナルユーザ端末装置の内部構成を示す模式図である。この図5において、1200はCPU1201を備えたパーソナルコンピュータ(PC)である。PC1200は、ROM1202またはハードディスク(HD)1211に記憶された、又はフレキシブルディスクドライブ(FD)1212より供給されるデバイス制御ソフトウェアを実行する。このPC1200は、システムバス1204に接続される各デバイスを総括的に制御する。
【0048】
PC1200のCPU1201、ROM1202またはハードディスク(HD)1211に記憶されたプログラムにより、本実施形態の図3における角度算出部37及び制御部38等の機能や、図4におけるステップS6及びS7の手順等が実現される。
【0049】
1203はRAMであり、CPU1201の主メモリ、ワークエリア等として機能する。1205はキーボードコントローラ(KBC)であり、キーボード(KB)1209や不図示のデバイス等からの指示入力を制御する。
【0050】
1206はCRTコントローラ(CRTC)であり、CRTディスプレイ(CRT)1210の表示を制御する。1207はディスクコントローラ(DKC)である。DKC1207は、ブートプログラム、複数のアプリケーション、編集ファイル、ユーザファイルそしてネットワーク管理プログラム等を記憶するハードディスク(HD)1211、及びフレキシブルディスク(FD)1212とのアクセスを制御する。ここで、ブートプログラムとは、起動プログラム:パソコンのハードやソフトの実行(動作)を開始するプログラムである。
【0051】
1208はネットワーク・インターフェースカード(NIC)で、LAN1220を介して、ネットワークプリンタ、他のネットワーク機器、あるいは他のPCと双方向のデータのやり取りを行う。
【0052】
以下、本発明の諸態様を付記としてまとめて記載する。
【0053】
(付記1)試料が設置される試料設置部と、
前記試料設置部に設置された前記試料に電界を印加するための電源と、
前記試料と対向するように設置されており、前記試料から離脱した元素を検出する元素検出部と
を有する元素分析機構と、
前記試料設置部に設置された前記試料を観察する顕微鏡機構と
を備え、
前記試料設置部の、X軸方向、Y軸方向及びZ軸方向への各平行移動と、X軸回り及びY軸回りの各回転移動とを行う第1の移動部と、
前記元素検出部の、前記顕微鏡機構における光軸と一致するZ軸回りの回転移動を行う第2の移動部と
を含むことを特徴とする元素分析装置。
【0054】
(付記2)Z軸方向に垂直な面内において、前記試料と前記元素検出部との変位角度を算出する角度算出部と、
前記角度算出部により算出された前記変位角度だけ前記元素検出部を回転移動させ、前記元素検出部の方向を前記試料の方向と一致させるように前記第2の移動部を駆動する移動制御部と
を更に含むことを特徴とする付記1に記載の元素分析装置。
【0055】
(付記3)前記元素分析機構は、前記試料設置部と前記元素検出部との間に設けられ、電圧印加により前記試料から離脱した元素を前記元素検出部へ送出する引き出し電極を更に有しており、
前記引き出し電極の、X軸方向、Y軸方向及びZ軸方向への平行移動と、前記光軸と一致するZ軸回りの回転移動を行う第3の移動部を更に含むことを特徴とする付記1又は2に記載の元素分析装置。
【0056】
(付記4)前記第2の移動部及び前記第3の移動部に接続されており、前記第2の移動部及び前記第3の移動部による前記元素検出部のZ軸回りの回転移動と前記引き出し電極のZ軸回りの回転移動とを同期させる回転同期部を更に含むことを特徴とする付記3に記載の元素分析装置。
【0057】
(付記5)前記顕微鏡機構は、透過型電子顕微鏡装置であることを特徴とする付記1〜4のいずれか1項に記載の元素分析装置。
【0058】
(付記6)試料設置部に設置された試料に電界を印加し、前記試料から離脱した元素を元素検出部により検出する元素検出機構と、前記試料設置部に設置された前記試料を観察する顕微鏡機構とを備えてなる元素分析装置を用いた元素分析方法であって、
前記顕微鏡機構による観察に基づいて、前記試料が光軸と一致するZ軸に垂直な面内に位置するように調節された状態において、前記試料と前記元素検出部との変位角度を算出するステップと、
算出された前記変位角度だけ前記元素検出部を回転移動させ、前記元素検出部の方向を前記試料の方向と一致させるステップと
を含むことを特徴とする元素分析方法。
【0059】
(付記7)前記顕微鏡機構は、電子顕微鏡装置であることを特徴とする付記6に記載の元素分析方法。
【0060】
(付記8)試料設置部に設置された試料に電界を印加し、前記試料から離脱した元素を元素検出部により検出する元素検出機構と、前記元素検出機構が搭載されており、前記試料設置部に設置された前記試料を観察する顕微鏡機構とを備えてなる元素分析装置を用いた元素分析を行うに際して、
前記顕微鏡機構による観察に基づいて、前記試料が光軸と一致するZ軸に垂直な面内に位置するように調節された状態において、前記試料と前記元素検出部との変位角度を算出するステップと、
算出された前記変位角度だけ前記元素検出部を回転移動させ、前記元素検出部の方向を前記試料の方向と一致させるステップと
をコンピュータに実行させるためのプログラム。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明が採用する3DAP機構の基本構成を示す模式図である。
【図2】図1の基本構成を有する3DAP機構がTEMに搭載されてなる、本実施形態による元素分析装置の概略構成を示す模式図である。
【図3】図2の元素分析装置に搭載された3DAP機構の部分を拡大して示す模式図である。
【図4】本実施形態による元素分析方法をステップ順に示すフロー図である。
【図5】パーソナルユーザ端末装置の内部構成を示す模式図である。
【符号の説明】
【0062】
1 チャンバー
2 電源
2a 高圧電源部
2b パルスジェネレータ
3 位置敏感型検出器
4 引き出し電極
5 排気機構
6 タイマー
11 試料
21 電子銃
22 加速管
23 収束レンズ
24 試料室
25 対物レンズ
26 中間レンズ
27 投影レンズ
28 STEM検出器
29 CCDカメラ
31 試料ホルダ
31a 試料設置部
32 引き出し電極ホルダ
33 検出器支持部
34 ホルダステージ
35 第1の移動部
36 第2の移動部
37 角度算出部
38 制御部
41 第3の移動部
42 同期回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料が設置される試料設置部と、
前記試料設置部に設置された前記試料に電界を印加するための電源と、
前記試料と対向するように設置されており、前記試料から離脱した元素を検出する元素検出部と
を有する元素分析機構と、
前記試料設置部に設置された前記試料を観察する顕微鏡機構と
を備え、
前記試料設置部の、X軸方向、Y軸方向及びZ軸方向への各平行移動と、X軸回り及びY軸回りの各回転移動とを行う第1の移動部と、
前記元素検出部の、前記顕微鏡機構における光軸と一致するZ軸回りの回転移動を行う第2の移動部と
を含むことを特徴とする元素分析装置。
【請求項2】
Z軸方向に垂直な面内において、前記試料と前記元素検出部との変位角度を算出する角度算出部と、
前記角度算出部により算出された前記変位角度だけ前記元素検出部を回転移動させ、前記元素検出部の方向を前記試料の方向と一致させるように前記第2の移動部を駆動する移動制御部と
を更に含むことを特徴とする請求項1に記載の元素分析装置。
【請求項3】
前記元素分析機構は、前記試料設置部と前記元素検出部との間に設けられ、電圧印加により前記試料から離脱した元素を前記元素検出部へ送出する引き出し電極を更に有しており、
前記引き出し電極の、X軸方向、Y軸方向及びZ軸方向への平行移動と、前記光軸と一致するZ軸回りの回転移動を行う第3の移動部を更に含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の元素分析装置。
【請求項4】
前記第2の移動部及び前記第3の移動部に接続されており、前記第2の移動部及び前記第3の移動部による前記元素検出部のZ軸回りの回転移動と前記引き出し電極のZ軸回りの回転移動とを同期させる回転同期部を更に含むことを特徴とする請求項3に記載の元素分析装置。
【請求項5】
前記顕微鏡機構は、電子顕微鏡装置であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の元素分析装置。
【請求項6】
試料設置部に設置された試料に電界を印加し、前記試料から離脱した元素を元素検出部により検出する元素検出機構と、前記試料設置部に設置された前記試料を観察する顕微鏡機構とを備えてなる元素分析装置を用いた元素分析方法であって、
前記顕微鏡機構による観察に基づいて、前記試料が光軸と一致するZ軸に垂直な面内に位置するように調節された状態において、前記試料と前記元素検出部との変位角度を算出するステップと、
算出された前記変位角度だけ前記元素検出部を回転移動させ、前記元素検出部の方向を前記試料の方向と一致させるステップと
を含むことを特徴とする元素分析方法。
【請求項7】
試料設置部に設置された試料に電界を印加し、前記試料から離脱した元素を元素検出部により検出する元素検出機構と、前記元素検出機構が搭載されており、前記試料設置部に設置された前記試料を観察する顕微鏡機構とを備えてなる元素分析装置を用いた元素分析を行うに際して、
前記顕微鏡機構による観察に基づいて、前記試料が光軸と一致するZ軸に垂直な面内に位置するように調節された状態において、前記試料と前記元素検出部との変位角度を算出するステップと、
算出された前記変位角度だけ前記元素検出部を回転移動させ、前記元素検出部の方向を前記試料の方向と一致させるステップと
をコンピュータに実行させるためのプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−41997(P2009−41997A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−205777(P2007−205777)
【出願日】平成19年8月7日(2007.8.7)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】