説明

光コネクタの製法

【課題】光導波路のフェルールへの固定を簡単かつ短時間で行うことができる、低コストな光コネクタの製法を提供する。
【解決手段】本発明の光コネクタの製法は、樹脂製の光接続用フェルール(1)の光導波路用嵌合溝1aの中に、透明性の光導波路10の端部10aを嵌め入れる工程と、この嵌合溝1aの上方から、上記透明性の光導波路10に向かって所定波長のレーザー光Lを下向きに照射し、この嵌合溝1aの底面にレーザー光を到達させ、上記光導波路10の端部10aをフェルール(1)に融着固定する工程とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PMTフェルール等、光導波路の先端部に光接続用のフェルールを一体に取り付けた光コネクタの製法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の集積化や大規模化により、機器内のボード間やボード上のチップ間等を接続するのに多用されている電気配線の発熱やその消費電力が問題となってきている。そこで、これらの電気配線を、軽量,低発熱でフレキシブルな高分子光導波路に置き換える光配線(光インターコネクション)技術が開発されている(特許文献1,2を参照)。
【0003】
この光配線において各ボード間等の連結に用いられる光コネクタ(光導波路コネクタ)は、帯状の光導波路と、この光導波路の長手方向端部(終端)に取り付けられた、フェルールと呼ばれる所定形状の接続用端子とから構成されている。また、この光コネクタは、対向して載置されたフェルール間のガイドピンによる位置決め機能を用いて、光ファイバと光導波路との間、または、光導波路と光導波路との間を連結(光接続)し、各ボード間の信号等を伝達する。なお、この光コネクタ(PMTフェルール)は、形状や寸法,試験法のJIS等による標準化が進行しており、光コネクタ間の調芯連結様式も統一されているため、他のコネクタとの接続を容易に行うことができるようになっている(例えば、非特許文献1等を参照。)。
【0004】
このような光コネクタを組み立てる場合、例えば、光導波路の端部に、汎用的なPMTフェルール等を取り付ける際は、PMTフェルール本体の上面に形成された光導波路嵌合用の溝(通溝)に、光導波路の端部を嵌め入れ、この光導波路の端部(端面)がフェルール本体の先端面から露出する(面一となる)ように、上記光導波路を溝の中で位置決めした後、この端部が紫外線硬化接着剤等の固定剤で固定される。そして、上記フェルール本体の溝の上部をカバーするPMT蓋と、光導波路を保護するためのPMTブーツ等が、上記と同様の接着剤等を用いて取り付けられ、光コネクタが完成する(特許文献3を参照)。
【0005】
なお、上記のようにして作成された光コネクタは、上記使用した接着剤等の余分のものが、その先端面(光接続面)に「ばり」として突出したり、この先端面に露出する光導波路の端面に上記接着剤等が付着したりして、そのままでは使用に供することができない場合が多い。そのため、通常、光導波路の固定完了後には、上記光コネクタの先端面(光接続面)を磨いて直角とする、研磨工程が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−186187号公報
【特許文献2】特開2000−2820号公報
【特許文献3】特開2009−282168号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】JPCA規格「PMT光コネクタの詳細規格」JPCA-PE03-01-07S-(2006) 社団法人日本電子回路工業会 平成18年5月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記のように、光導波路の固定に接着剤等の固定剤を用いる、従来の光コネクタの製法は、この固定剤にかかる材料費と、固定作業にかかる手間(工数)が発生する上、光導波路固定後の研磨工程を行わねばならず、コストが嵩むという問題がある。そのため、これらの改善が望まれている。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、光導波路のフェルールへの固定を簡単かつ短時間で行うことができる、低コストな光コネクタの製法の提供をその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するため、本発明の光コネクタの製法は、樹脂製の光接続用フェルールの所定位置に形成された光導波路用嵌合溝の中に、コアとその上下に設けられたクラッド層とからなる透明性の光導波路の端部を嵌め入れる工程と、上記光導波路用嵌合溝の上方から、上記透明性の光導波路に向かって所定波長のレーザー光を下向きに照射し、この嵌合溝の底面にレーザー光を到達させ、上記光導波路を光接続用フェルールに融着固定する工程とを備える光コネクタの製法を要旨とする。
【0011】
すなわち、本発明者らは、前記接着剤等を使用せずに光導波路を樹脂製の光接続用フェルールに固定する方法について研究を重ねた。その結果、光導波路を構成する材料に吸収されない波長領域(近赤外領域)のレーザー光を利用して、光導波路とそれに対面するフェルールとの界面部分を加熱融着させれば、光導波路の寸法精度や性能に悪影響を及ぼすことなく、この光導波路を素早く簡単に固定できることを見出し、本発明に到達した。
【0012】
なお、本発明における「透明性」または「透明な」との記載は、完全な透明および磨り硝子状の半透明の状態等を含む概念であり、具体的には、レーザー光の波長対して90%以上の透過率を有することを「透明」と言う。
【発明の効果】
【0013】
以上のように、本発明の光コネクタの製法は、樹脂製の光接続用フェルールの光導波路用嵌合溝の中に、透明な光導波路の端部を嵌め入れた状態で、この嵌合溝の上方(開口側)から上記光導波路を透過するように、上記嵌合溝の底面に対して所定波長のレーザー光を照射することにより、レーザー光の吸収による発熱を利用して、上記光導波路を簡単に素早く、フェルールの嵌合溝に融着固定することができる。
【0014】
また、この光コネクタの製法は、上記レーザー光が、光導波路に吸収されることなく透過するため、この光導波路の寸法精度や性能等に、影響を及ぼすことがない。さらに、光導波路に直接熱がかからないので、固定作業中に、その位置(位置決めされた位置)がずれることがなく、また、接着剤等を使用しないため、その硬化時の収縮等に起因する位置ずれも発生しない。これにより、本発明の光コネクタの製法は、光導波路の端部を、上記フェルールの嵌合溝内の所定位置に、正確にかつ精度良く固定することができる。
【0015】
しかも、固定用の接着剤等を、仮止め程度の最少量しか使用する必要がないため、接着剤等に由来するフェルール先端面のばりや汚れも発生することがない。したがって、本発明の光コネクタの製法は、上記固定剤分のコストを低減できるとともに、光導波路固定後の研磨工程を省略することができるという利点を有する。
【0016】
そして、本発明の光コネクタの製法において、上記光導波路の固定に用いるレーザー光が、特に光導波路に吸収されにくい波長800〜2000nmの近赤外レーザー光である場合には、この光導波路の寸法精度や性能等への影響を、より低減できるとともに、上記樹脂製の光接続用フェルールの嵌合溝の底面(光導波路との界面)を、選択的かつ効率的に加熱することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第1実施形態における光コネクタの組み立て方法を示す分解斜視図である。
【図2】(a)〜(c)は、本発明の第1実施形態における光コネクタの製法を示す模式的断面図である。
【図3】本発明の光コネクタを用いた光電気混載モジュールの構造を示す模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
つぎに、本発明の実施の形態を、図面にもとづいて詳しく説明する。
【0019】
本発明の第1実施形態における光コネクタは、図1に示すように、フィルム状の透明性ポリマー光導波路10の端部10aに、フェルール本体1と、蓋2と、ブーツ3とからなるPMTフェルール(符号P)を取り付けて構成したものである。そして、この光コネクタにおける上記ポリマー光導波路10のフェルール本体1への固定は、図2(a)のように、フェルール本体1の上面に形成された光導波路用の嵌合溝(通溝)1aの中に、上記ポリマー光導波路10の端部10aを嵌め入れ、所定位置に位置決めされた状態〔図2(b)参照〕で、上記嵌合溝1aの開口側上方から所定波長のレーザー光を照射して嵌合溝1aの底面に到達させ〔図2(c)参照〕、この嵌合溝1aの底面を熔解させて、上記光導波路10の端部10aを上記フェルール本体1に固着させることにより行われる。これが本発明の光コネクタの製法の特徴である。
【0020】
上記光コネクタの製法について、より詳しく説明する。図2(a)〜(c)は、本発明の第1実施形態における光コネクタの製法を示す模式的断面図である。なお、図中のフェルール本体1および光導波路10の断面は、図1におけるX−X断面に相当する。
【0021】
本実施形態における光コネクタの製法は、透明性(光透過性)のポリマー光導波路10を準備する工程と、光導波路用の嵌合溝1aを有する不透明性(光不透過性)のフェルール本体1(PMTフェルールP)を準備する工程と、フェルール本体1の光導波路用嵌合溝1aの中に、上記ポリマー光導波路10の端部10aを嵌め入れる工程〔工程A:図2(a)参照〕と、このポリマー光導波路10の端部10aの位置を調整して位置決めし、その状態で上記端部10aを仮固定する工程〔工程B:図2(b)参照〕と、上記光導波路用嵌合溝1aの上方から、光導波路10を透過して嵌合溝1aの底面にレーザー光Lを照射し、上記光導波路10の端部10aを嵌合溝1aの底面に本固定する工程〔工程C:図2(c)参照〕と、を備える。
【0022】
上記「ポリマー光導波路10を準備する工程」は、図2(a)〜図2(c)に示すような、長手方向(紙面表裏方向)に延びる複数本(本例では12本)のコア11と、これらを挟持するように上下に設けられたアンダークラッド層12およびオーバークラッド層13とからり、透明な樹脂で形成されたフィルム状フレキシブル光導波路10を用意するものである。
【0023】
上記透明なポリマー光導波路10は、例えばエポキシ樹脂等の紫外線硬化樹脂を用いて、フォトリソグラフィ等によりそのコア11をパターニングする方法によって形成することができる。また、上記ポリマー光導波路10は、コア11に入射した光信号をその長手方向に伝達できるように、このコア11の屈折率(光屈折率)が、上記アンダークラッド層12およびオーバークラッド層13の屈折率より高くなるように設計されている。
【0024】
なお、上記ポリマー光導波路10の標準的な寸法としては、全幅2.970〜3.000mm、全厚さ0.1〜0.2mmで、各コア11の幅および高さ(厚さ)が0.040±0.005mm、各コア11間のピッチが250μmのものが、規格化されている(非特許文献1の「Annex A」を参照)。
【0025】
また、上記「フェルール本体1(PMTフェルールP)を準備する工程」は、樹脂製で、かつ、不透明性のフェルール本体1を用意するものである。このような不透明なフェルール本体1は、光不透過性の樹脂、あるいは光透過性の樹脂に顔料等の色素やチタン等の増量材を加えて、濃色または黒色等の光不透過性とした樹脂を用いて、トランスファー成形,モールド成形,インジェクション成形等により形成することができる。
【0026】
そして、上記フェルール本体1の上面には、図2(a)〜図2(c)に示すように、そのフェルール本体1の上面に、上記規格幅のポリマー光導波路10を収容することのできる嵌合溝1a(長手方向の幅:3.000〜3.010mm)が設けられ、その先端側端面には、ガイドピン(図示省略)挿入用のガイドピン穴1b,1bが形成されている。なお、上記フェルール本体1に組み合わされる蓋2およびブーツ3は、透明あるいは不透明のどちらでもよい。また、これらの標準的な寸法も、上記非特許文献1に規格化されたものに準じている。
【0027】
つぎに、上記ポリマー光導波路10をフェルール本体1に固定する際には、まず、図2(a)のように、フェルール本体1を平板状のステージ14等の上に載置し、このフェルール本体1の光導波路用嵌合溝1aの中に、上記ポリマー光導波路10の端部10aを嵌め入れる(工程A)。
【0028】
そして、光学顕微鏡やカメラを用いた画像装置等(図示省略)により、上記光導波路10の端部10aや予め形成されたアライメントマーク等を認識し、その情報を基に、このポリマー光導波路10の端部10a(端面)が、フェルール本体1の先端面と略面一となるように、その位置を調整する。
【0029】
ついで、この所定位置に位置決めされたポリマー光導波路10の端部10aが、その後の工程の途中で振動等により位置がずれないように、図2(b)のように、例えばガラス板15等の重量物(硬質なもの)を用いて、上記端部10aを嵌合溝1aの底面に向かって押圧し、所要位置に仮固定する(工程B)。なお、この位置決めあるいは仮固定の際、上記光導波路10の端部10aとフェルール本体1の嵌合溝1a底面との間に、仮固定用の少量の接着剤等を塗布しておいてもよい。
【0030】
そして、上記のように位置が仮固定された光導波路10の端部10aに、図2(c)に示すように、光導波路用嵌合溝1aの上方から、光導波路10を透過させて(介して)嵌合溝1aの底面にレーザー光Lを照射し、上記光導波路10の端部10aを嵌合溝1aの底面に本固定する(工程C)。
【0031】
上記レーザー光Lは、基本的に、図2(c)のように、その焦点が、上記嵌合溝1aの底面もしくはその底面より下側の位置(フェルール本体1の内部側)になるように調整されており、光導波路10に影響を及ぼすことなく、上記嵌合溝1aの底面(表面)のみが、選択的かつ効率的に加熱熔融される。また、上記のように焦点が設定されたレーザー光を、上記光導波路10の幅方向(矢印S方向)に走査(走曳き)することにより、上記嵌合溝1aの底面の全幅が順次加熱され、それが冷え固まったところから順に、上記光導波路10の端部10aとフェルール本体1の嵌合溝1a底面との間が固着される。なお、上記レーザー光Lの焦点は、必ずしも嵌合溝1aの底面(フェルール本体1と光導波路10の界面)に一致させる必要はなく、焦点が多少前後していても、そのレーザー光Lのビームの広がりにより、接合に充分なエネルギーを得ることができる。
【0032】
また、上記光導波路10の本固定に用いるレーザー光としては、波長800〜2000nmの近赤外レーザー光を好適に用いることができる。これは、上記波長のレーザー光が、光導波路10(コア11とアンダークラッド層12およびオーバークラッド層13)に用いられている材料(紫外線硬化樹脂)に吸収されにくく、上記光導波路10への熱等の影響をより軽減できるからである。しかも、波長800〜2000nmの近赤外レーザー光は、前記濃色あるいは黒色のフェルール本体1(の表面)に効果的に吸収され、その熔融を早める効果を奏する。
【0033】
上記構成により、本実施形態の光コネクタの製法は、上記レーザー光のエネルギーを利用して、上記光導波路10の端部10aを簡単にかつ素早く、フェルール本体1の嵌合溝1aに固定することができる。また、この光コネクタの製法は、光導波路10に熱がかからないので、その固定作業中に、位置決めされた位置がずれることがない。これにより、本実施形態の光コネクタの製法は、光導波路10の端部10aを、フェルール本体1の嵌合溝1a内の所定位置に、正確にかつ精度良く固定することが可能になる。
【0034】
しかも、この光コネクタの製法は、接着剤を仮止め程度の最少量しか使用しないため、接着剤に由来するフェルール本体1の先端面のばりや汚れも発生することがない。したがって、本実施形態の光コネクタの製法は、従来必要であった、光導波路固定後の研磨工程を省略することができる。
【0035】
なお、上記実施形態においては、光コネクタの一方の端部についてのみ説明したが、上記PMTフェルールPは、光導波路のどちらか一方の端部に装着するか、あるいは、その両端にそれぞれ装着してもよい。
【0036】
つぎに、本発明の第2実施形態について説明する。
図3は、本発明の光コネクタを用いた光電気混載モジュールの構造を示す模式的断面図である。
【0037】
この図3に示す光コネクタ付き光電気混載モジュールMは、上記第1実施形態における光コネクタの光導波路10の一方の端部10bに、ハーフミラー等からなる光路変換部10cが設けられ、この光路変換部10cが、電気回路と、発光素子,受光素子等とを備える光電気混載基板20上に実装された構成をとる。なお、図3において、符号21はVCSEL等の発光素子とPD等の受光素子が一体となった光電変換部を、符号22はドライバ,TIA等のICチップであり、光電気混載基板20上のその他の実装電子部品は、図示を省略している。
【0038】
この実施形態においても、光コネクタ部分(PMTフェルールP)の製法は、第1実施形態と同様である。すなわち、この光コネクタは、透明性の光導波路10と、光導波路用嵌合溝1aを有する不透明性のフェルール本体1を準備し、上記嵌合溝1aの中に、光導波路10の端部10aを嵌め入れ〔図2(a)参照〕、この端部10aの位置を調整して位置決めして仮固定する〔図2(b)参照〕とともに、上記光導波路用嵌合溝1aの上方から、光導波路10を透過して嵌合溝1aの底面にレーザー光Lを照射し、上記光導波路10の端部10aを嵌合溝1aの底面に本固定する〔図2(c)参照〕方法により行われる。
【0039】
ついで、フェルールの蓋(2)やブーツ3等を取り付け、光導波路10の一方の端部10aに上記PMTフェルールPの装着が完了した後、この光導波路10の他方の端部10bに、ダイシング等を用いて光路変換部10c(ハーフミラー)が設けられ、その後この光路変換部10cが、図3のように、光電気混載基板20の光電変換部21上に実装・固定される。
【0040】
このような光コネクタ付き光電気混載モジュールMにおいても、上記光コネクタ部分(PMTフェルールP)は、レーザー光のエネルギーを利用して、光導波路10の端部10aに簡単にかつ素早く固定される。また、上記光導波路10は、その固定作業中に熱がかからないので、フェルール本体1上で位置決めされた位置がずれることがない。これにより、本実施形態の光コネクタ付き光電気混載モジュールMは、その光コネクタ(PMTフェルールP)と他の光コネクタとを、低結合損失で光結合することができる。
【0041】
なお、上記第1,第2実施形態における本発明の光コネクタ用光導波路の作製に使用する形成材料としては、クラッド層およびコアともに、エポキシ樹脂,ポリイミド樹脂,アクリル樹脂,メタクリル樹脂の他、オキセタン,シリコーン樹脂等の感光性樹脂(光重合性樹脂)があげられる。これらの光重合性樹脂は、光酸発生剤,光塩基発生剤,光ラジカル重合開始剤等の光触媒とともに光重合性樹脂組成物を構成し、他の成分として、反応性オリゴマー,希釈剤,カップリング剤等を含んでいてもよい。
【0042】
また、本発明の光コネクタの製法に使用する光導波路は、ポリマー光導波路以外にも、フレキシブルで、かつ、近赤外領域の光を高率で透過することのできるものであれば、ガラス製等の他の構成の光導波路を使用してもよく、その製造方法も適宜選択できる。なお、使用する光導波路は、PMTフェルールを構成する樹脂との親和性(密着性)を考慮して決定する必要がある。
【実施例】
【0043】
つぎに、実施例について比較例と併せて説明する。ただし、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0044】
本実施例では、フォトリソグラフィによりポリマー光導波路を作製し、このポリマー光導波路の一方の端部を、近赤外レーザー光を用いて市販のPMTフェルールに固定した。また、同じ光導波路を用いて、その端部を接着剤によりPMTフェルールに固定した比較例を作製し、これら実施例と比較例における「フェルール装着前」の挿入損失と「フェルール装着後」(比較例においては研磨実施後)の挿入損失を比較した。なお、挿入損失の測定は、JIS C 5961「光ファイバコネクタ試験方法」に準じて行った。
【0045】
実施例に先立って、まず、供試用光導波路を作製した。
<光導波路の作製>
〔クラッド層の形成材料〕
成分A:脂環骨格を含むエポキシ樹脂〈ADEKA社製:EP4080E〉 100重量部
成分B:(光酸発生剤)トリアリールスルホニウム塩の50%プロピオンカーボネイト溶液〈サンアプロ社製:CPI−200K〉 2重量部
これらを混合撹拌することにより、アンダークラッド層およびオーバークラッド層の形成材料(光重合性樹脂組成物)を調製した。
【0046】
〔コアの形成材料〕
成分C:フルオレン骨格を含むエポキシ樹脂〈大阪ガスケミカル社製:オグゾールEG〉
40重量部
成分D:フルオレン骨格を含むエポキシ樹脂〈ナガセケムテックス社製:EX−1040〉 30重量部
成分E:オキセタン樹脂〈日東電工社製:1,3,3−トリス(4−(2−(3−オキセタニル)ブトキシフェニル)ブタン)〉 30重量部
成分B:(光酸発生剤)トリアリールスルホニウム塩の50%プロピオンカーボネイト溶液〈サンアプロ社製:CPI−200K〉 1重量部
これらを乳酸エチル〈武蔵野化学研究所社製〉 71重量部に撹拌溶解させ、コアの形成材料(光重合性樹脂組成物)を調製した。
【0047】
〔アンダークラッド層の作製〕
まず、PEN(ポリエチレンナフタレート)フィルム〈厚さ0.188mm,150mm角〉の表面に上記クラッド層の形成材料をアプリケーターを用いて塗布し、全面に1000mJ/cm2の紫外線照射を行った。つづいて、80℃×5分間の加熱処理を行うことにより、基材上に、アンダークラッド層を形成した。得られたアンダークラッド層の膜厚は、接触膜厚計で測定すると25μmであった。なお、アンダークラッド層(形成材料)の830nmにおける屈折率は1.510である。
【0048】
〔コアの作製〕
つぎに、上記アンダークラッド層の表面に、コアの形成材料をアプリケーターを用いて塗布した後、100℃×5分間の乾燥処理を行った。ついで、長手方向に沿って互いに平行なストレート状コアに対応するパターン(12本,L/S=50μm/200μm)の開口を有する石英系のクロムマスク(フォトマスク)を、上記コアの形成材料(層)の上に配置し、その上方から、iバンドパスフィルターを介して、プロキシミティ露光法(ギャップ100μm)により2500mJ/cm2の紫外線線照射による露光を行った。
【0049】
つづいて、100℃×10分間の加熱処理を行った。つぎに、γ―ブチロラクトン〈三菱化学社製〉を用いてディップ現像することにより、未露光部分を溶解除去した後、加熱乾燥処理を行うことにより、上記パターン形状のコアを形成した。得られた各コアの断面寸法は、デジタルマイクロスコープで測定したところ、幅50μm×高さ(厚さ)50μmであった。なお、これら略正方形状の各コアは、前記JPCA規格のとおり、そのセンター(中心)の高さが、アンダークラッド層の底面(全光導波路の底面)から0.050±0.003mmの位置にくるようになっている。また、コア(形成材料)の830nmにおける屈折率は1.592であった。
【0050】
〔オーバークラッド層の作製〕
ついで、上記コアを覆うように、上記クラッド層の形成材料をアプリケーターを用いて塗布し、全面に1000mJ/cm2の紫外線照射を行った。つづいて、80℃×5分間の加熱処理を行うことにより、アンダークラッド層上に、上記各コアを覆うオーバークラッド層を形成した。得られた光導波路のオーバークラッド層の膜厚は、デジタルマイクロスコープで測定したところ、厚さ25μmであった。なお、オーバークラッド層(形成材料)の830nmにおける屈折率は1.510である。
【0051】
〔短冊状光導波路の作製〕
作製後のフィルム状光導波路は、ダイシングブレードを用いたダイシングにより所定長さ(4.5cm)に裁断した後、同様のダイシングにより、上記コアを12本含む所定幅(3.000mm)の短冊状に切断した。
【0052】
〔PMTフェルール〕
光コネクタの作製に使用したPMTフェルールは、白山製作所社製PMT(樹脂製 色:黒)であり、前記JPCA規格に沿った寸法と構成を有する。
【0053】
(実施例)
上記のようにして作製した短冊状光導波路の一方の端部(長手方向端部)を、前記第1実施形態における製法のように、フェルールの光導波路用嵌合溝の中に嵌め入れ〔図2(a)参照〕、光導波路の端部位置を調整して位置決めし、ガラス板で押さえて仮固定する〔図2(b)参照〕とともに、この嵌合溝の上方から、光導波路を透過して嵌合溝の底面にレーザー光Lを照射した後、放冷して、上記光導波路の端部をこのフェルールに固着させた。なお、本実施例においては、上記端部の仮止めに、接着剤は使用していない。
【0054】
照射したレーザー光は、波長940nmの近赤外レーザー光であり、そのレーザー光(パワー10W)の焦点が、上記嵌合溝の表面で2mmφ径のスポットになるように調整して、照射した。また、レーザー光(L)は、このスポットを、図2(c)のように、光導波路幅方向(S方向)に25mm/secの速度で移動させながら(走査しながら)照射した。
【0055】
(比較例)
フェルールの光導波路用嵌合溝に、極少量の光学用熱硬化接着剤(ムロマチテクノス社製 エポテック353ND)を滴下し、その上に、同様にして作製した短冊状光導波路の一方の端部(長手方向端部)を嵌め入れて載置し、紫外線を照射することにより接着剤を硬化させて、上記端部を固定した。ついで、この光導波路端部の上に、上記と同様、極少量の光学用熱硬化接着剤を滴下し、フェルールの蓋を接着固定した。つぎに、フェルールの先端面に露出する光導波路の端面に付着した接着剤を除去するために、この先端面に研磨加工を施し、比較例の光コネクタを得た。
【0056】
なお、上記実施例,比較例に用いた測定方法は、以下のとおりである。
<屈折率測定>
クラッド層形成用およびコア形成用の調製された形成材料(ワニス)を、それぞれシリコンウェハ上のスピンコートにより成膜して屈折率測定用サンプルを作製し、プリズムカプラー(SAIRON TECHNOLOGY社製 SPA−4000)を用いて、屈折率を測定した。
【0057】
<クラッド層およびコアの高さ,幅測定>
作製した光導波路をダイサー式切断機〈ディスコ社製 DAD522〉を用いて切断(ダイシング)し、その切削面をデジタルマイクロスコープ〈キーエンス社製 VHX−200〉で観察し、膜厚(高さ)と幅を測定した。
【0058】
光コネクタの挿入損失は、JIS C 5961に準拠し、以下のようにして測定した。
<挿入損失の測定>
まず、光源であるVCSEL(三喜社製 発光波長:850nm)から出た光を、モードコントローラを介して50μmφ径のマルチモード光ファイバ(MMF)に通し、出射した光をパワーメーターのフォトディテクタ(PD)で測定して、光導波路入射前の較正(キャリブレーション)用光パワー(光量=I0)を測定した。ついで、上記MMFから出射した光を、光コネクタ作製前の光導波路単体(長手方向の長さ4.5cm)に入射させ、光導波路から出射した光を、レンズを介して集光し、上記パワーメーターで「光コネクタ作製前」の光量Iを測定し、下記式(1)により、ブランク(コントロール)となる挿入損失(光損失)を算出した。
挿入損失[dB] = −10×Log(I/I0) ・・・(1)
また、同様にして、レーザー光の照射により作製した実施例の光コネクタ(研磨なし)の挿入損失と、接着剤を用いて作製した比較例の光コネクタ(研磨後)の挿入損失とを測定した。
【0059】
結果は、レーザー光の照射により作製した「実施例の光コネクタ」は、光コネクタ作製前の光導波路単体で4.0dB、フェルールを装着した光コネクタの状態で4.0dB、とフェルールの装着(光導波路端部の固定)による光損失の低下は見られなかった。これに対して、接着剤を用いて作製した「比較例の光コネクタ」は、光コネクタ作製前の光導波路単体で3.7dB、フェルールを装着した光コネクタの状態で4.7dB、とフェルールの装着による1.0dBの光損失の悪化が見られた。
【0060】
このように、本発明の光コネクタの製法は、光導波路の性能(光損失)に影響を及ぼすことなく、この光導波路を光接続用のフェルールに素早く簡単に固定することができる。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明の光コネクタの製法は、信号伝達用の光導波路の性能を低下させることなく、その光導波路の端部に、光接続用のフェルールを簡単かつ短時間で取り付けることができる。したがって、本発明の製法により得られる光コネクタは、光配線に適した、高品質で低コストな光コネクタとすることができる。
【符号の説明】
【0062】
1 フェルール本体
1a 嵌合溝
10 光導波路
10a 端部
L レーザー光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂製の光接続用フェルールの所定位置に形成された光導波路用嵌合溝の中に、コアとその上下に設けられたクラッド層とからなる透明性の光導波路の端部を嵌め入れる工程と、上記光導波路用嵌合溝の上方から、上記透明性の光導波路に向かって所定波長のレーザー光を下向きに照射し、この嵌合溝の底面にレーザー光を到達させ、上記光導波路を光接続用フェルールに融着固定する工程とを備えることを特徴とする光コネクタの製法。
【請求項2】
上記レーザー光が、波長800〜2000nmの近赤外レーザー光である請求項1記載の光コネクタの製法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−168294(P2012−168294A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−27911(P2011−27911)
【出願日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】