光スキャナ
【課題】本発明は、振動周波数を容易に調整でき、かつ迷光の発生しないミラー部を有する光スキャナを提供することを目的とする。
【解決手段】本発明の光スキャナ1は、ミラー部の周縁部から外方向に延出して設けられるトリミング部の、前記ミラー部の反射面が設けられている側の表面の光反射率が、エッチングによって前記ミラー部と比較して低くなるように構成されることにより、前記トリミング部が振動周波数調整のための加工を行う際に除去されない場合でも、ミラー部と比べて入射した光束を反射しにくいため、トリミング部に由来する迷光を最小限に抑えることが可能となり、高精度での走査が可能となる。
【解決手段】本発明の光スキャナ1は、ミラー部の周縁部から外方向に延出して設けられるトリミング部の、前記ミラー部の反射面が設けられている側の表面の光反射率が、エッチングによって前記ミラー部と比較して低くなるように構成されることにより、前記トリミング部が振動周波数調整のための加工を行う際に除去されない場合でも、ミラー部と比べて入射した光束を反射しにくいため、トリミング部に由来する迷光を最小限に抑えることが可能となり、高精度での走査が可能となる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザプリンタや投影型表示装置などに用いられる光スキャナに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、レーザプリンタや投影型表示装置等には光スキャナが使用されている。この光スキャナとして、一般に、ポリゴンミラーを用いるものや、MEMS(Micro−Electro−Mechanical Systems)ミラーを用いるものがある。このうち、MEMSミラーを用いた光スキャナは、ミラー部と、ミラー部を支持し、ミラー部に駆動力を伝達する梁と、梁に連結し、ミラー部と梁とを囲う外枠との一体構造となっていることなどから、ポリゴンミラーと比較して、軽量・小型の光スキャナに適している。
【0003】
図10は、特許文献1に示されている、従来知られているMEMSミラーを用いた光スキャナ100の斜視図である。光スキャナ100は、基板110と、基板上に形成された駆動部111と、基板110に連結する一対の捻れ梁部112と、一対の捻れ梁部112で支持され、入射した光束を反射する反射面を備えたミラー部113と、を備える。駆動部111は圧電体を備え、その圧電体に電圧が印加されることで、基板110の駆動部111近傍の部分に曲げたわみを生じさせる。基板110の曲げたわみが、基板110に板波を発生させる。基板110上に発生された板波は、捻れ梁部112で支持されたミラー部113並びに捻れ梁部112に回転モーメントを生じさせ、ミラー部113、並びに捻れ梁部112の捻れ振動を誘起する。ミラー部113、並びに捻れ梁部112が捻れ振動することで、ミラー部113は振動し、ミラー部113の反射面に入射した光束は走査される。
【0004】
ミラー部の振動は、駆動部に加えられる電圧が一定周期で変化することによって駆動部近傍に生じる曲げたわみの変化により発生するが、ミラー部の形状のわずかな差異によって、ミラー部の振動が、駆動電圧変化の周波数(駆動周波数)と同期しないことがあり、問題となっている。
【0005】
これに対し、特許文献2では、図11に示すように、その一面に光反射部202を設けたアクチュエータのミラー部200(振動する部分)の端部に除去部201を設け、この除去部を必要に応じて除去することにより、ミラー部の振動周波数を調整することが示されている。
【0006】
しかしながら、特許文献2で示されるようにアクチュエータのミラー部表面に光反射部を設けた場合、当該光反射部に照射される光束は、必ずしも光反射部の大きさより小さい訳ではなく、光束が光反射部からはみ出す可能性もある。光反射部周縁に設けられた除去部においても光が反射されると、光反射部以外で光が反射することによる迷光が発生して、走査される光束の品質が低下する、という問題がある。
【0007】
それに対し、特許文献3で示されるような、光スキャナ周辺部に黒塗りや塗膜、スパッタ等の被膜処理により反射防止膜を形成する技術を除去部に適用することで、迷光の発生を防止することが考えられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−293116号公報
【特許文献2】特開2006−230048号公報
【特許文献3】特開昭63−225217号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献3で示される、被膜処理による反射防止膜は、長期間の使用により、剥離や色あせ等が発生し、その機能が低下してしまうという問題点があった。
【0010】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、振動周波数を容易に調整でき、かつ迷光の発生しないミラー部を有する光スキャナを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明の請求項1に係る発明の光スキャナは、基板に捻れ梁部を形成し、前記捻れ梁部により支持されたミラー部を振動させて、前記ミラー部の一面側に設けられた反射面に入射した光束を反射し走査する光スキャナであって、前記ミラー部には、その周縁部から外方向へ延出して設けられるトリミング部を備え、前記トリミング部の、前記ミラー部の前記反射面が設けられている側の表面は、エッチングによって、その光反射率が、前記ミラー部と比較して低くなるように構成されていることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の請求項2に係る発明の光スキャナの製造方法は、請求項1に記載の光スキャナの製造方法であって、光スキャナをエッチングにより形成する際に、前記トリミング部の前記反射面が設けられている側の表面を同時にエッチングすることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の請求項3に係る発明の光スキャナの製造方法は、請求項2に記載の発明の構成に加え、光スキャナを形成するエッチングを、前記基板の両面から行い、トリミング部の非反射面を前記基板の片面からのみエッチングすることを特徴とする。
【0014】
また、本発明の請求項4に係る発明の光スキャナは、請求項1に記載の発明の構成に加え、前記トリミング部は、前記ミラー部の周縁部において、前記ミラー部の振動軸から最も離れた箇所から外方向へ延出して設けられることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
請求項1に係る発明の光スキャナは、ミラー部の周縁部から外方向に延出して設けられるトリミング部の、前記ミラー部の反射面が設けられている側の表面は、エッチングによりその光反射率が、前記ミラー部と比較して低くなるように構成されることにより、前記トリミング部が振動周波数調整のための加工を行う際に除去されない場合でも、ミラー部と比べて入射した光束を反射しにくいため、トリミング部に由来する迷光を最小限に抑えることが可能となり、高精度での走査が可能となる。また、トリミング部表面の処理が劣化して剥離や色あせすることがないため、長期間にわたって高精度の走査を行うことが可能となる。
【0016】
請求項2に係る発明の光スキャナの製造方法は、光スキャナをエッチングにより形成する際に、前記トリミング部の前記反射面が設けられている側の表面を同時にエッチングすることにより、トリミング部表面の加工を光スキャナ全体の形成と同時に行うことができるため、光スキャナ製造工程に大きな影響を及ぼすことなく、トリミング部表面の加工を行うことが可能となる。
【0017】
また、請求項3記載の光スキャナの製造方法は、請求項2に記載の発明の効果に加え、光スキャナを形成するエッチングを、前記基板の両面から同時に行い、トリミング部の非反射面を前記基板の片面からのみエッチングすることにより、トリミング部表面の加工を、片面からのエッチングにて行い、かつ光スキャナ全体の加工は両面からのエッチングで行うため、光スキャナ製造工程にかかる時間をより短縮することが可能となる。
【0018】
また、請求項4に係る発明の光スキャナは、請求項1に記載の発明の効果に加え、前記トリミング部は、前記ミラー部の周縁部において、前記ミラー部の振動軸から最も離れた箇所から外方向へ延出して設けられるため、トリミング部の除去による振動周波数の調整のレンジがより広くなり、より効果的に振動周波数の調整を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】光スキャナ1の斜視図である。
【図2】光スキャナ1の上面図である。
【図3】光スキャナ1の図2におけるA−A’線断面図である。
【図4】ミラー部11の拡大図である。
【図5】ミラー部11の別形態を示す拡大図である。
【図6】光スキャナ1の製造工程を示すフロー図である。
【図7】基板31にレジストパターン33が形成された様子を示す上面図である。
【図8】ミラー部11に相当する基板31の部位にレジストパターン33が形成された様子を示す断面図である。
【図9】トリミング部13上面に塗膜41が形成された比較例を示す上面図及び断面図である。
【図10】光スキャナ100の斜視図である。
【図11】質量部200の上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態である光スキャナ1について説明する。
【0021】
<光スキャナの構造>
以下、本発明の一実施形態について図面を用いて詳細に説明する。図1は、光スキャナ1の外観を示す斜視図である。図2は、図1に示した光スキャナ1の上面図であり、図3は、図2に示したA−A’線に従う断面図である。また、図4は、ミラー部11の拡大図であり、図5は、ミラー部11の別形態の拡大図である。なお、図1〜3には、光スキャナ1とともに駆動制御部31が示されているが、駆動制御部31は駆動部20に電気的に接続されていればどの位置に配置されていてもよい。そのため、駆動制御部31の位置関係は、図1〜3とで厳密に対応付けられていない。
【0022】
図1に示すように、光スキャナ1は、ミラー部11と、捻れ梁部15と、揺動板17と、駆動部20とを備える。ミラー部11は、振動軸線25回りに振動する。
【0023】
ミラー部11は、図1〜図4に示すように、反射面12とトリミング部13とを備える。ミラー部11の形状は、本実施形態では円形となっているが、これには限定されず、例えば矩形形状でもよい。
【0024】
ミラー部11の一面には反射面12が設けられている。反射面12は、ミラー部11の一面が鏡面加工されていることにより設けられている。
【0025】
トリミング部13は、図4に示すように、ミラー部11の周縁部から外方向に延出して設けられている。トリミング部13の、反射面12側の面は、表面がエッチング処理によって粗されて、光反射率が反射面12より低くなるように構成されている。トリミング部13は、図5に示すように、ミラー部11周縁部の任意の箇所から外方向に延出して設けることが可能であるが、図4に示すように、ミラー部11の振動軸線25から最も離れた箇所から外方向に延出して設けることが望ましい。
【0026】
捻れ梁部15はミラー部11を挟んでその両側に配置され、一端がミラー部11に連結され、他端が揺動板17に連結される。なお、図1に示す矢印71が示すように、捻れ梁部15に平行な方向をX軸方向、反射面12に平行な面上で、且つ捻れ梁部15に垂直な方向をY軸方向、反射面12に垂直な方向をZ軸方向として定義する。X軸方向、Y軸方向、Z軸方向の定義は他の図面においても共通のものとする。
【0027】
ミラー部11と、捻れ梁部15と、揺動板17とは弾性を有する導電性材料であるステンレスにより、表面が鏡面加工されて形成されている。揺動板17は、図1に示すように、貫通孔18を備える。貫通孔18は、ミラー部11と、捻れ梁部15と、揺動板17とからなる基板が後述のエッチング処理によりエッチングされる際に、基板が、各々図2に示すように、Z軸方向に貫通されることで形成される。
【0028】
駆動部20は、下部電極21と圧電素子22と上部電極23とを備える。駆動部20は、図1〜3に示すように揺動板17上に設けられる。駆動制御部31は、図1及び図3に示すように、光スキャナ1の下部電極21と上部電極23とに接続される。駆動制御部31は、下部電極21と上部電極23との間に駆動電圧を印加する。この駆動電圧の印加により、圧電素子22は揺動板17平面に平行な方向(XY平面の方向)に伸縮する。この圧電素子22の伸縮により、揺動板17がZ軸方向に反ったり、元に戻ったりを繰り返す。その変形が捻れ梁部15を伝わってミラー部11が振動する。
【0029】
<光スキャナ製造方法>
次に、本実施形態に係る光スキャナ1の製造方法について、詳細に説明する。図6は光スキャナ1の製造工程を示すフロー図であり、図7は、レジストパターンを形成した基板の状態を示す下面図である。また、図8は、図7におけるB−B’線に従う断面図である。
【0030】
まず、弾性を有する材料であるステンレスの基板31が被エッチング材として準備される(ステップS1、以下S1と記す)。次に、基板31の上面側に鏡面加工を施す(S2)。この鏡面加工は、公知である適切な方法で行うことが可能である。次に、被エッチング材にレジストを塗布し、露光、現像することで、図7に示すようなレジストパターン33を形成する(S3)。この際、図8に示すように、ミラー部11周縁のトリミング部13に相当する部位のレジストパターン33は、下面側のレジストパターン33bにおいてのみ被覆し、上面のレジストパターン33aにおいては被覆せずに開放する。このことで、トリミング部13の上側表面(鏡面加工されている側の面)について、次の工程であるエッチング処理において、鏡面加工されている表面を粗す加工を行う。
【0031】
次に、S3にてレジストパターンが形成された基板に対し、エッチング処理を施すことで、ミラー部11と、捻れ梁部15と、揺動板17とを一体形成する(S4)。この際、上述したとおり、トリミング部13の上側表面も同時にエッチングし、鏡面加工されている側の表面を粗す加工を行う。この処理の後、レジストを除去し(S5)、次に駆動部20を揺動板17上に形成する(S6)。S6の工程では、あらかじめ、圧電素子22の上下両面に下部電極21及び上部電極23が形成されている駆動部20を、揺動板17上に接着する。以上に示した製造方法により、光スキャナ1が製造される。
【0032】
<トリミングによる振動周波数調整手順>
次に、本実施形態の光スキャナ1の振動周波数調整の方法について説明する。
【0033】
まず、光スキャナ1の振動周波数を測定する。振動周波数の測定は、例えばミラーの偏向状態を取得し、その状態をもとに算出するような方法にて行えばよい。
【0034】
次に、測定された振動周波数から、除去すべきトリミング部13の場所、個数、面積を、測定された振動周波数と、調整により取得したい振動周波数との差異から、別途定めた所定の方法で決定する。そして、決定された場所、個数、面積のトリミング部13を、レーザー光の照射により除去する。
【0035】
そして、トリミング部13の除去が完了した光スキャナ1について、再度振動周波数を測定し、調整の結果を確認する。
【0036】
<光スキャナの評価>
次に、実際に振動周波数の調整を行ったデータの例を表1に示す。
【表1】
【0037】
表1では、トリミング部13が図4の箇所に設けられている場合(試料1)、及び図5の箇所に設けられている場合(試料2)について、トリミング部13が除去される前、及び全て除去した後の振動周波数のデータを示している。いずれの場合も、トリミング部13を除去することで振動周波数が変化している。このデータより、トリミング部13を除去する場所、個数、面積を調整することで、表1に示した値の範囲内にて振動周波数を調整することが可能となることがわかる。
【0038】
なお、トリミング部13の1個あたりの除去前後の振動周波数の差は、試料2より試料1の方が大きい。このことから、試料1のように、トリミング部13を振動軸線25から最も離れたミラー部11の周縁部から外方向に延出させることがより望ましいことがわかる。
【0039】
また、トリミング部13の除去作業前後の反射面12で反射した光を集光したビーム幅(ビーム強度が1/e2の箇所にて測定:e=自然底数)を比較したところ、トリミング部13除去前のビーム幅が、梁方向:13.6μm、梁と垂直方向:13.3μmであったのに対し、トリミング部13除去後のビーム幅は梁方向:13.3μm、梁と垂直方向:13.2μmであり、大きな違いがないことが分かった。つまり、トリミング部13の反射面12側の表面がエッチング処理され、その光反射率が反射面12より低くなるように構成されていることにより、トリミング部13の有無に関係なく光スキャナ1のミラー部11で光束が反射されるということが分かる。
【0040】
また、トリミング部13の、反射面12側の面の光反射率が低くなるように構成した本実施形態と、同一面の光反射率が反射面と同一のままの比較例とについて、ビームプロファイルを比較したところ、比較例の方が、本実施形態と比較して、ビームプロファイルが劣化したことが分かった。このことから、トリミング部13の反射面12側の表面がエッチング処理され、その光反射率が反射面12より低くなるように構成されていることにより、反射される光束における迷光を防止できることが分かる。
【0041】
また、本実施形態では、トリミング部13の反射面12側の面について、製造工程中のエッチング処理工程(S4)において露出させてエッチング処理を行うことで、光反射率を反射面12より低くする加工を行っている。この場合、図9に示されるような(図9(a)は上面図、図9(b)は図9(a)におけるC−C’線に従う断面図)、トリミング部13に塗膜41を形成する加工によってトリミング部13の反射面12側の面を低反射率とする場合と異なり、母材を直接加工することになる。そのため、塗膜41の密着性の問題がない。また、トリミング部13表面に塗膜等を形成すると、そのことに起因する応力の発生が、ミラー部11の反りを引き起こして光束の反射に乱れが発生する可能性があるが、母材を直接加工することによりその可能性もなくなる。また、トリミング部13表面に塗膜等を形成した場合、形成された塗膜等の劣化による剥離が、ミラー部11の重量バランス変化を引き起こし、ミラー部11の可動状態を変化させてしまう危険性があるが、本実施形態では、トリミング部13表面に塗膜等を形成しないため、そのような問題は生じない。よって、トリミング部13を全て除去しなかった場合においても、より長期間にわたって安定して光束を反射する光スキャナ1を得ることが可能となる。
【符号の説明】
【0042】
1 光スキャナ
11 ミラー部
12 反射面
13 トリミング部
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザプリンタや投影型表示装置などに用いられる光スキャナに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、レーザプリンタや投影型表示装置等には光スキャナが使用されている。この光スキャナとして、一般に、ポリゴンミラーを用いるものや、MEMS(Micro−Electro−Mechanical Systems)ミラーを用いるものがある。このうち、MEMSミラーを用いた光スキャナは、ミラー部と、ミラー部を支持し、ミラー部に駆動力を伝達する梁と、梁に連結し、ミラー部と梁とを囲う外枠との一体構造となっていることなどから、ポリゴンミラーと比較して、軽量・小型の光スキャナに適している。
【0003】
図10は、特許文献1に示されている、従来知られているMEMSミラーを用いた光スキャナ100の斜視図である。光スキャナ100は、基板110と、基板上に形成された駆動部111と、基板110に連結する一対の捻れ梁部112と、一対の捻れ梁部112で支持され、入射した光束を反射する反射面を備えたミラー部113と、を備える。駆動部111は圧電体を備え、その圧電体に電圧が印加されることで、基板110の駆動部111近傍の部分に曲げたわみを生じさせる。基板110の曲げたわみが、基板110に板波を発生させる。基板110上に発生された板波は、捻れ梁部112で支持されたミラー部113並びに捻れ梁部112に回転モーメントを生じさせ、ミラー部113、並びに捻れ梁部112の捻れ振動を誘起する。ミラー部113、並びに捻れ梁部112が捻れ振動することで、ミラー部113は振動し、ミラー部113の反射面に入射した光束は走査される。
【0004】
ミラー部の振動は、駆動部に加えられる電圧が一定周期で変化することによって駆動部近傍に生じる曲げたわみの変化により発生するが、ミラー部の形状のわずかな差異によって、ミラー部の振動が、駆動電圧変化の周波数(駆動周波数)と同期しないことがあり、問題となっている。
【0005】
これに対し、特許文献2では、図11に示すように、その一面に光反射部202を設けたアクチュエータのミラー部200(振動する部分)の端部に除去部201を設け、この除去部を必要に応じて除去することにより、ミラー部の振動周波数を調整することが示されている。
【0006】
しかしながら、特許文献2で示されるようにアクチュエータのミラー部表面に光反射部を設けた場合、当該光反射部に照射される光束は、必ずしも光反射部の大きさより小さい訳ではなく、光束が光反射部からはみ出す可能性もある。光反射部周縁に設けられた除去部においても光が反射されると、光反射部以外で光が反射することによる迷光が発生して、走査される光束の品質が低下する、という問題がある。
【0007】
それに対し、特許文献3で示されるような、光スキャナ周辺部に黒塗りや塗膜、スパッタ等の被膜処理により反射防止膜を形成する技術を除去部に適用することで、迷光の発生を防止することが考えられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−293116号公報
【特許文献2】特開2006−230048号公報
【特許文献3】特開昭63−225217号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献3で示される、被膜処理による反射防止膜は、長期間の使用により、剥離や色あせ等が発生し、その機能が低下してしまうという問題点があった。
【0010】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、振動周波数を容易に調整でき、かつ迷光の発生しないミラー部を有する光スキャナを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明の請求項1に係る発明の光スキャナは、基板に捻れ梁部を形成し、前記捻れ梁部により支持されたミラー部を振動させて、前記ミラー部の一面側に設けられた反射面に入射した光束を反射し走査する光スキャナであって、前記ミラー部には、その周縁部から外方向へ延出して設けられるトリミング部を備え、前記トリミング部の、前記ミラー部の前記反射面が設けられている側の表面は、エッチングによって、その光反射率が、前記ミラー部と比較して低くなるように構成されていることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の請求項2に係る発明の光スキャナの製造方法は、請求項1に記載の光スキャナの製造方法であって、光スキャナをエッチングにより形成する際に、前記トリミング部の前記反射面が設けられている側の表面を同時にエッチングすることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の請求項3に係る発明の光スキャナの製造方法は、請求項2に記載の発明の構成に加え、光スキャナを形成するエッチングを、前記基板の両面から行い、トリミング部の非反射面を前記基板の片面からのみエッチングすることを特徴とする。
【0014】
また、本発明の請求項4に係る発明の光スキャナは、請求項1に記載の発明の構成に加え、前記トリミング部は、前記ミラー部の周縁部において、前記ミラー部の振動軸から最も離れた箇所から外方向へ延出して設けられることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
請求項1に係る発明の光スキャナは、ミラー部の周縁部から外方向に延出して設けられるトリミング部の、前記ミラー部の反射面が設けられている側の表面は、エッチングによりその光反射率が、前記ミラー部と比較して低くなるように構成されることにより、前記トリミング部が振動周波数調整のための加工を行う際に除去されない場合でも、ミラー部と比べて入射した光束を反射しにくいため、トリミング部に由来する迷光を最小限に抑えることが可能となり、高精度での走査が可能となる。また、トリミング部表面の処理が劣化して剥離や色あせすることがないため、長期間にわたって高精度の走査を行うことが可能となる。
【0016】
請求項2に係る発明の光スキャナの製造方法は、光スキャナをエッチングにより形成する際に、前記トリミング部の前記反射面が設けられている側の表面を同時にエッチングすることにより、トリミング部表面の加工を光スキャナ全体の形成と同時に行うことができるため、光スキャナ製造工程に大きな影響を及ぼすことなく、トリミング部表面の加工を行うことが可能となる。
【0017】
また、請求項3記載の光スキャナの製造方法は、請求項2に記載の発明の効果に加え、光スキャナを形成するエッチングを、前記基板の両面から同時に行い、トリミング部の非反射面を前記基板の片面からのみエッチングすることにより、トリミング部表面の加工を、片面からのエッチングにて行い、かつ光スキャナ全体の加工は両面からのエッチングで行うため、光スキャナ製造工程にかかる時間をより短縮することが可能となる。
【0018】
また、請求項4に係る発明の光スキャナは、請求項1に記載の発明の効果に加え、前記トリミング部は、前記ミラー部の周縁部において、前記ミラー部の振動軸から最も離れた箇所から外方向へ延出して設けられるため、トリミング部の除去による振動周波数の調整のレンジがより広くなり、より効果的に振動周波数の調整を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】光スキャナ1の斜視図である。
【図2】光スキャナ1の上面図である。
【図3】光スキャナ1の図2におけるA−A’線断面図である。
【図4】ミラー部11の拡大図である。
【図5】ミラー部11の別形態を示す拡大図である。
【図6】光スキャナ1の製造工程を示すフロー図である。
【図7】基板31にレジストパターン33が形成された様子を示す上面図である。
【図8】ミラー部11に相当する基板31の部位にレジストパターン33が形成された様子を示す断面図である。
【図9】トリミング部13上面に塗膜41が形成された比較例を示す上面図及び断面図である。
【図10】光スキャナ100の斜視図である。
【図11】質量部200の上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態である光スキャナ1について説明する。
【0021】
<光スキャナの構造>
以下、本発明の一実施形態について図面を用いて詳細に説明する。図1は、光スキャナ1の外観を示す斜視図である。図2は、図1に示した光スキャナ1の上面図であり、図3は、図2に示したA−A’線に従う断面図である。また、図4は、ミラー部11の拡大図であり、図5は、ミラー部11の別形態の拡大図である。なお、図1〜3には、光スキャナ1とともに駆動制御部31が示されているが、駆動制御部31は駆動部20に電気的に接続されていればどの位置に配置されていてもよい。そのため、駆動制御部31の位置関係は、図1〜3とで厳密に対応付けられていない。
【0022】
図1に示すように、光スキャナ1は、ミラー部11と、捻れ梁部15と、揺動板17と、駆動部20とを備える。ミラー部11は、振動軸線25回りに振動する。
【0023】
ミラー部11は、図1〜図4に示すように、反射面12とトリミング部13とを備える。ミラー部11の形状は、本実施形態では円形となっているが、これには限定されず、例えば矩形形状でもよい。
【0024】
ミラー部11の一面には反射面12が設けられている。反射面12は、ミラー部11の一面が鏡面加工されていることにより設けられている。
【0025】
トリミング部13は、図4に示すように、ミラー部11の周縁部から外方向に延出して設けられている。トリミング部13の、反射面12側の面は、表面がエッチング処理によって粗されて、光反射率が反射面12より低くなるように構成されている。トリミング部13は、図5に示すように、ミラー部11周縁部の任意の箇所から外方向に延出して設けることが可能であるが、図4に示すように、ミラー部11の振動軸線25から最も離れた箇所から外方向に延出して設けることが望ましい。
【0026】
捻れ梁部15はミラー部11を挟んでその両側に配置され、一端がミラー部11に連結され、他端が揺動板17に連結される。なお、図1に示す矢印71が示すように、捻れ梁部15に平行な方向をX軸方向、反射面12に平行な面上で、且つ捻れ梁部15に垂直な方向をY軸方向、反射面12に垂直な方向をZ軸方向として定義する。X軸方向、Y軸方向、Z軸方向の定義は他の図面においても共通のものとする。
【0027】
ミラー部11と、捻れ梁部15と、揺動板17とは弾性を有する導電性材料であるステンレスにより、表面が鏡面加工されて形成されている。揺動板17は、図1に示すように、貫通孔18を備える。貫通孔18は、ミラー部11と、捻れ梁部15と、揺動板17とからなる基板が後述のエッチング処理によりエッチングされる際に、基板が、各々図2に示すように、Z軸方向に貫通されることで形成される。
【0028】
駆動部20は、下部電極21と圧電素子22と上部電極23とを備える。駆動部20は、図1〜3に示すように揺動板17上に設けられる。駆動制御部31は、図1及び図3に示すように、光スキャナ1の下部電極21と上部電極23とに接続される。駆動制御部31は、下部電極21と上部電極23との間に駆動電圧を印加する。この駆動電圧の印加により、圧電素子22は揺動板17平面に平行な方向(XY平面の方向)に伸縮する。この圧電素子22の伸縮により、揺動板17がZ軸方向に反ったり、元に戻ったりを繰り返す。その変形が捻れ梁部15を伝わってミラー部11が振動する。
【0029】
<光スキャナ製造方法>
次に、本実施形態に係る光スキャナ1の製造方法について、詳細に説明する。図6は光スキャナ1の製造工程を示すフロー図であり、図7は、レジストパターンを形成した基板の状態を示す下面図である。また、図8は、図7におけるB−B’線に従う断面図である。
【0030】
まず、弾性を有する材料であるステンレスの基板31が被エッチング材として準備される(ステップS1、以下S1と記す)。次に、基板31の上面側に鏡面加工を施す(S2)。この鏡面加工は、公知である適切な方法で行うことが可能である。次に、被エッチング材にレジストを塗布し、露光、現像することで、図7に示すようなレジストパターン33を形成する(S3)。この際、図8に示すように、ミラー部11周縁のトリミング部13に相当する部位のレジストパターン33は、下面側のレジストパターン33bにおいてのみ被覆し、上面のレジストパターン33aにおいては被覆せずに開放する。このことで、トリミング部13の上側表面(鏡面加工されている側の面)について、次の工程であるエッチング処理において、鏡面加工されている表面を粗す加工を行う。
【0031】
次に、S3にてレジストパターンが形成された基板に対し、エッチング処理を施すことで、ミラー部11と、捻れ梁部15と、揺動板17とを一体形成する(S4)。この際、上述したとおり、トリミング部13の上側表面も同時にエッチングし、鏡面加工されている側の表面を粗す加工を行う。この処理の後、レジストを除去し(S5)、次に駆動部20を揺動板17上に形成する(S6)。S6の工程では、あらかじめ、圧電素子22の上下両面に下部電極21及び上部電極23が形成されている駆動部20を、揺動板17上に接着する。以上に示した製造方法により、光スキャナ1が製造される。
【0032】
<トリミングによる振動周波数調整手順>
次に、本実施形態の光スキャナ1の振動周波数調整の方法について説明する。
【0033】
まず、光スキャナ1の振動周波数を測定する。振動周波数の測定は、例えばミラーの偏向状態を取得し、その状態をもとに算出するような方法にて行えばよい。
【0034】
次に、測定された振動周波数から、除去すべきトリミング部13の場所、個数、面積を、測定された振動周波数と、調整により取得したい振動周波数との差異から、別途定めた所定の方法で決定する。そして、決定された場所、個数、面積のトリミング部13を、レーザー光の照射により除去する。
【0035】
そして、トリミング部13の除去が完了した光スキャナ1について、再度振動周波数を測定し、調整の結果を確認する。
【0036】
<光スキャナの評価>
次に、実際に振動周波数の調整を行ったデータの例を表1に示す。
【表1】
【0037】
表1では、トリミング部13が図4の箇所に設けられている場合(試料1)、及び図5の箇所に設けられている場合(試料2)について、トリミング部13が除去される前、及び全て除去した後の振動周波数のデータを示している。いずれの場合も、トリミング部13を除去することで振動周波数が変化している。このデータより、トリミング部13を除去する場所、個数、面積を調整することで、表1に示した値の範囲内にて振動周波数を調整することが可能となることがわかる。
【0038】
なお、トリミング部13の1個あたりの除去前後の振動周波数の差は、試料2より試料1の方が大きい。このことから、試料1のように、トリミング部13を振動軸線25から最も離れたミラー部11の周縁部から外方向に延出させることがより望ましいことがわかる。
【0039】
また、トリミング部13の除去作業前後の反射面12で反射した光を集光したビーム幅(ビーム強度が1/e2の箇所にて測定:e=自然底数)を比較したところ、トリミング部13除去前のビーム幅が、梁方向:13.6μm、梁と垂直方向:13.3μmであったのに対し、トリミング部13除去後のビーム幅は梁方向:13.3μm、梁と垂直方向:13.2μmであり、大きな違いがないことが分かった。つまり、トリミング部13の反射面12側の表面がエッチング処理され、その光反射率が反射面12より低くなるように構成されていることにより、トリミング部13の有無に関係なく光スキャナ1のミラー部11で光束が反射されるということが分かる。
【0040】
また、トリミング部13の、反射面12側の面の光反射率が低くなるように構成した本実施形態と、同一面の光反射率が反射面と同一のままの比較例とについて、ビームプロファイルを比較したところ、比較例の方が、本実施形態と比較して、ビームプロファイルが劣化したことが分かった。このことから、トリミング部13の反射面12側の表面がエッチング処理され、その光反射率が反射面12より低くなるように構成されていることにより、反射される光束における迷光を防止できることが分かる。
【0041】
また、本実施形態では、トリミング部13の反射面12側の面について、製造工程中のエッチング処理工程(S4)において露出させてエッチング処理を行うことで、光反射率を反射面12より低くする加工を行っている。この場合、図9に示されるような(図9(a)は上面図、図9(b)は図9(a)におけるC−C’線に従う断面図)、トリミング部13に塗膜41を形成する加工によってトリミング部13の反射面12側の面を低反射率とする場合と異なり、母材を直接加工することになる。そのため、塗膜41の密着性の問題がない。また、トリミング部13表面に塗膜等を形成すると、そのことに起因する応力の発生が、ミラー部11の反りを引き起こして光束の反射に乱れが発生する可能性があるが、母材を直接加工することによりその可能性もなくなる。また、トリミング部13表面に塗膜等を形成した場合、形成された塗膜等の劣化による剥離が、ミラー部11の重量バランス変化を引き起こし、ミラー部11の可動状態を変化させてしまう危険性があるが、本実施形態では、トリミング部13表面に塗膜等を形成しないため、そのような問題は生じない。よって、トリミング部13を全て除去しなかった場合においても、より長期間にわたって安定して光束を反射する光スキャナ1を得ることが可能となる。
【符号の説明】
【0042】
1 光スキャナ
11 ミラー部
12 反射面
13 トリミング部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板に捻れ梁部を形成し、前記捻れ梁部により支持されたミラー部を振動させて、前記ミラー部の一面側に設けられた反射面に入射した光束を反射し走査する光スキャナであって、
前記ミラー部には、その周縁部から外方向へ延出して設けられるトリミング部を備え、
前記トリミング部の、前記ミラー部の前記反射面が設けられている側の表面は、エッチングによって、その光反射率が、前記ミラー部と比較して低くなるように構成されていることを特徴とする光スキャナ。
【請求項2】
請求項1に記載の光スキャナの製造方法であって、
光スキャナをエッチングにより形成する際に、前記トリミング部の前記反射面が設けられている側の表面を同時にエッチングすることを特徴とする光スキャナの製造方法。
【請求項3】
光スキャナを形成するエッチングを、前記基板の両面から行い、トリミング部の非反射面を前記基板の片面からのみエッチングすることを特徴とする請求項2に記載の光スキャナの製造方法。
【請求項4】
前記トリミング部は、前記ミラー部の周縁部において、前記ミラー部の振動軸から最も離れた箇所から外方向へ延出して設けられることを特徴とする請求項1に記載の光スキャナ。
【請求項1】
基板に捻れ梁部を形成し、前記捻れ梁部により支持されたミラー部を振動させて、前記ミラー部の一面側に設けられた反射面に入射した光束を反射し走査する光スキャナであって、
前記ミラー部には、その周縁部から外方向へ延出して設けられるトリミング部を備え、
前記トリミング部の、前記ミラー部の前記反射面が設けられている側の表面は、エッチングによって、その光反射率が、前記ミラー部と比較して低くなるように構成されていることを特徴とする光スキャナ。
【請求項2】
請求項1に記載の光スキャナの製造方法であって、
光スキャナをエッチングにより形成する際に、前記トリミング部の前記反射面が設けられている側の表面を同時にエッチングすることを特徴とする光スキャナの製造方法。
【請求項3】
光スキャナを形成するエッチングを、前記基板の両面から行い、トリミング部の非反射面を前記基板の片面からのみエッチングすることを特徴とする請求項2に記載の光スキャナの製造方法。
【請求項4】
前記トリミング部は、前記ミラー部の周縁部において、前記ミラー部の振動軸から最も離れた箇所から外方向へ延出して設けられることを特徴とする請求項1に記載の光スキャナ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−186104(P2011−186104A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−50171(P2010−50171)
【出願日】平成22年3月8日(2010.3.8)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月8日(2010.3.8)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】
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