説明

光ディスク用ハードコート剤およびこれを用いた光ディスクとその製造方法

【課題】帯電防止性、耐摩耗性、耐擦傷性に優れ、かつ生産性、保存信頼性の高い光ディスクに適したハードコート剤、光ディスクとその製造方法を提供すること。
【解決手段】分子内に水酸基を含有する(メタ)アクリレート化合物(A)、導電性金属酸化物(B)、光重合開始剤(C)および低沸点アルコール溶剤(D)を含むハードコート剤を、光ディスクのレーザ光入射側表面に、室温で回転数1000〜7000rpmにてスピンコート法により塗布した後、低沸点アルコール溶剤(D)を除去する工程を経ずに、紫外線照射によりハードコート剤を硬化させる光ディスクの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ディスク用ハードコート組成物およびこれを用いた光ディスクの製造方法等に関し、より詳しくは、高硬度で、優れた帯電防止性、耐摩耗性、耐擦傷性を有したハードコート層が設けられた、生産性、保存信頼性の高い光ディスクを製造するのに適した紫外線硬化型ハードコート剤及びこれを用いたハードコート層付与光ディスクの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
今日、実用化されている光ディスク記録媒体としては、CD(コンパクトディスク)、MO(光磁気ディスク)、CD−R(追記型)、CD−RW(書き換え型)等がある。これらCDは、1.2mmのポリカーボネート基板上に記録膜、反射膜等を形成し、外的要因からこれらを保護する目的で紫外線硬化型の保護層が設けられている。
【0003】
また近年、さらなる記憶容量の向上のためにポリカーボネート基板の厚さを半分(0.6mm)にし、2枚の基板を貼り合わせる追記型のDVD、書き換え型のDVD等が実用化されている。これらのDVDは、何れも0.6mmのポリカーボネート基板上に記録膜、反射膜等を形成し、保護、接着の目的で紫外線硬化型の保護層あるいは接着剤層が設けられている。
【0004】
OA機器の普及に伴って、上記光ディスクは、データの保管の手段として広く一般的に使用されている。そして、光ディスクが広く普及するのに従って、光ディスクの取り扱い方法も、光ディスクが使用される環境も今まで以上に苛酷なものとなってきた。その結果、基板のレーザ光入射面に傷が付くことが多くなった。そして、このような傷に起因する再生不良、記録エラーが増加してきた。
【0005】
また、ポリカーボネート基板は電気の不良導体である。このため、ポリカーボネート基板は摩擦により帯電しやすい。この結果、保管、使用中に基板表面上にゴミやホコリ等が付着しやすくなり、このゴミやホコリ等は再生不良の原因となっていた。
そこで、レーザ光の入射面側の基板表面にハードコート層を設け、耐摩耗性、耐擦傷性を向上させ、基板を保護する手法が鋭意検討されてきた。さらに、帯電防止性能を兼ね備えたハードコート層を設けることが種々検討されてきた。
【0006】
例えば、このようなハードコート層としては、三官能以上のアクリル酸エステルと、一官能エチレン性不飽和基含有化合物と、光重合開始剤と、酸化錫または酸化インジウムを主成分とする導電性粉末とを含有する光ディスク用材料が報告されている(特許文献1参照)。具体的には、特許文献1の実施例中で、平均粒径0.2μm以下のリン含有酸化スズ(実施例1)、平均粒径0.2μm以下の三酸化アンチモン含有酸化スズ(実施例2)、及び平均粒径0.2μm以下の三酸化アンチモン含有酸化インジウム(実施例3)を用いている。
【0007】
また、コロイダルシリカおよび紫外線硬化型アクリル系樹脂を含有するハードコート剤と、プロピレングリコールモノメチルエーテルを主成分とする溶剤とを含むハードコート溶液を用いて塗布形成され、硬化させた厚み1〜5μmのハードコート層が報告されている(特許文献2参照)。そして、特許文献2においては、プロピレングリコールモノメチルエーテル(沸点:120℃)を用いて、スピンコート塗布時の回転数を従来の4000〜5000rpm程度からより高回転の8000rpm以上とすることで、加熱乾燥工程を行うことなく、ハードコート層を硬化させることができるとされている。
【0008】
【特許文献1】特開平4−172634号公報(第2頁、右上欄第5行目〜9行目、実施例)
【特許文献2】特開2004−272993号公報(段落0007、0011、0021)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、表面固有抵抗、全光線透過率、スエーズ値、鉛筆硬度の評価結果から分かるように、特許文献1における光ディスク用材料は、所定の性能を示すものの、高価な酸化錫、酸化インジウムを使用している。また、これら酸化金属類は、安定性が十分でない傾向もある。
【0010】
加えて、同文献の実施例で用いられている酸化錫や酸化インジウムの平均粒径は0.2μm以下である。これは、0.1μmよりも大きい粒径を含んでいることを意味する。本発明者等の検討によれば、0.1μmよりも大きい粒径を有する粒子をハードコート層に多く含むと、全光線透過率が安定的に高いハードコート層を得にくくなる傾向にあることが判明している。
【0011】
また、特許文献2においては、プロピレングリコールモノメチルエーテル(沸点:120℃)を用いた場合でも加熱乾燥工程を行わないために、8000rpm以上という超高速回転でスピンコート塗布を行わなければならない。高速回転でのスピンコート塗布は、生産性が不安定になるおそれもある。
【0012】
従って、市場においては、より優れた耐擦傷性、耐摩耗性、帯電防止性を有するハードコート層の開発が望まれている。加えて、高い生産性及び低コストで光ディスク上にハードコート層を設ける技術の開発も強く求められている。
【0013】
本発明は、このような技術課題を解決するためになされたものである。
即ち、本発明の目的は、光ディスクのレーザ光入射側表面に、より優れた帯電防止性、耐摩耗性、耐擦傷性を有し、さらに硬度、生産性、保存信頼性が高く、低コストで製造できるハードコート層を設けるためのハードコート剤およびハードコート層付与光ディスクの製造方法を提供することにある。
また、本発明の他の目的は、前述した製造方法で製造された光ディスクを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
このような技術課題を解決するために、本発明においては、特定の組成を有するハードコート剤を、特定の手法を用いて光ディスク上に形成することにより、上記課題が解決されることを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明によれば、下記(1)〜(14)が提供される。
(1)分子内に水酸基を有する(メタ)アクリレート化合物(A)と、
BET法により測定される粒子径が18nm以下又は動的散乱法により測定される平均粒子径0.1μm以下の導電性金属酸化物(B)と、
光重合開始剤(C)と、
低沸点アルコール溶剤(D)と、を含有するハードコート剤であって、
前記ハードコート剤中に含まれる固形分の総量に対し、(A)30重量%〜89重量%、(B)10重量%〜30重量%、(C)0.5重量%〜20重量%を含有することを特徴とする光ディスク用ハードコート剤。
(2)前記低沸点アルコール溶剤(D)の沸点が100℃以下であることを特徴とする(1)記載の光ディスク用ハードコート剤。
(3)前記導電性金属酸化物(B)がアンチモン酸亜鉛であることを特徴とする(1)記載の光ディスク用ハードコート剤。
(4)前記ハードコート剤中に含まれる固形分の総量に対し、一官能エチレン性不飽和基含有化合物の含有量が4.5重量%以下であることを特徴とする(1)記載の光ディスク用ハードコート剤。
(5)前記ハードコート剤中に含まれる固形分の総量に対し、前記導電性金属酸化物(B)を10〜14重量%含有することを特徴とする(1)記載の光ディスク用ハードコート剤。
【0015】
(6)ハードコート層付与光ディスクの製造方法であって、
分子内に水酸基を含有する(メタ)アクリレート化合物(A)、BET法により測定される粒子径が18nm以下又は動的散乱法により測定される平均粒子径が0.1μm以下の導電性金属酸化物(B)、光重合開始剤(C)、低沸点アルコール溶剤(D)を含有するハードコート剤を、室温下で回転数1000rpm〜7000rpmにてスピンコート法により光ディスクのレーザ光入射面側表面に塗布し、紫外線により硬化させる工程を有し、
前記光ディスクのレーザ光入射面側表面に全光線透過率が80%〜95%、且つ表面抵抗率が2×1012Ω/□以下であるハードコート層を設けることを特徴とするハードコート層付与光ディスクの製造方法。
(7)前記分子内に水酸基を含有する(メタ)アクリレート化合物(A)の配合比率は、前記ハードコート剤の固形分の総量に対して30重量%〜95重量%であることを特徴とする(6)記載のハードコート層付与光ディスクの製造方法。
(8)前記ハードコート剤中の固形分の総量に対する前記導電性金属酸化物(B)の含有率が10重量%〜30重量%であることを特徴とする(6)又は(7)記載のハードコート層付与光ディスクの製造方法。
(9)前記導電性金属酸化物(B)がアンチモン酸亜鉛であることを特徴とする(6)乃至(8)のいずれかに記載のハードコート層付与光ディスクの製造方法。
(10)前記低沸点アルコール溶剤(D)の沸点が100℃以下であることを特徴とする(6)乃至(9)のいずれかに記載のハードコート層付与光ディスクの製造方法。
(11)前記スピンコート法が温度15℃〜35℃にて行われることを特徴とする(6)乃至(10)のいずれかに記載のハードコート層付与光ディスクの製造方法。
(12)前記ハードコート層の膜厚が1μm〜5μmであることを特徴とする(6)乃至(11)のいずれかに記載のハードコート層付与光ディスクの製造方法。
(13)前記ハードコート剤中の固形分の総量に対する前記導電性金属酸化物(B)の含有率が10重量%〜14重量%であることを特徴とする(6)乃至(12)のいずれかに記載のハードコート層付与光ディスクの製造方法。
【0016】
(14)(6)乃至(13)のいずれかに記載のハードコート層付与光ディスクの製造方法によって製造された光ディスク。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、優れた帯電防止性、耐摩耗性、耐擦傷性を有し、さらに生産性、保存信頼性が高く、低コストで製造できるハードコート層を有する光ディスクの製造方法およびそれにより得られる光ディスクが提供される。また、本発明の光ディスクの製造方法により得られる光ディスクは、レーザ光入射面側の傷に起因する再生不良や記録エラーが効果的に抑制される。さらに、光ディスク表面へのゴミやホコリ等の付着による再生不良等が効果的に抑制される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための最良の形態(実施形態)について詳細に説明する。しかしながら、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
本発明においては、分子内に水酸基を有する(メタ)アクリレート化合物(A)、BET法により測定される粒子径が18nm以下、または動的散乱法により測定される平均粒子径が0.1μm以下の導電性金属酸化物(B)、光重合開始剤(C)、及び低沸点アルコール溶剤(D)を含有するハードコート剤を用いる。そして、上記ハードコート剤を、回転数1000rpm〜7000rpmにてスピンコート法により塗布し、紫外線により硬化させる。この結果、全光線透過率が80〜95%で、かつ表面抵抗率が2×1012Ω/□以下である良好なハードコート層を設けることができる。
【0019】
ここで、ハードコート層の全光線透過率を80%〜95%とすることは、光ディスクに記録された情報の再生が良好に行えることを意味する。つまり、ハードコート層の全光線透過率を80%〜95%とすることにより、CD、DVD、及び青色レーザ対応の光ディスク等の規格で決められた再生信号特性が満足できるようになる。逆にいえば、本発明のハードコート層を有する光ディスクにおいて、CDやDVD、及び青色レーザ対応の光ディスク等の規格で決められた再生信号特性が満足されることは、本発明のハードコート層の全光線透過率の範囲が80%〜95%に制御されていることを意味している。
【0020】
また、今後更なる高密度化が要求される光ディスクにおいては、記録再生光に青色レーザが使用されることが予想される。従って、これらの光ディスクにおいては、特にこの青色レーザの波長である405nmにおける透過率が高いことが要求される。この、波長405nmにおける透過率の値は、好ましくは90%以上、更に好ましくは95%以上である。
【0021】
尚、ハードコート層の透過率は、基本的にはハードコート層単体での透過率を示す。但し、例えば、測定する波長に対して十分な透明性を有する基板上にハードコート層を形成して、透過率を測定してもよい。このような測定方法の具体例として、後述の実施例では、ポリカーボネート基板上にハードコート層を形成した試験用ディスクを作製している。そして、この試験用ディスクの透過率を測定している。
【0022】
また、表面抵抗率を2×1012Ω/□以下とすることにより、静電気による光ディスク表面へのゴミやホコリ等の付着が効果的に抑制されるようになる。このようなゴミやホコリ等の付着が抑制できれば、再生不良等が抑制されやすくなる。表面抵抗率の測定は公知の方法(例えば、四端子法)を用いることができる。
【0023】
本発明においては、まず、上記(A)〜(D)の組成比を適宜制御することによって、全光線透過率が80%〜95%で、かつ表面抵抗率が2×1012Ω/□以下であるハードコート層を実現できるようになる。
上記(A)〜(D)のうち、ハードコート層の全光線透過率及び表面抵抗率に大きな影響を与えるのは、BET法により測定される粒子径が18nm以下、または動的散乱法により測定される平均粒子径が0.1μm以下の導電性金属酸化物(B)である。
【0024】
この観点から、本発明では、上記のように非常に小さい粒径を有する導電性金属酸化物(B)を用いる。このような導電性金属酸化物(B)の使用により、ハードコート層の全光線透過率を向上させることができるようになる。そして、
1)上記導電性金属酸化物(B)の粒径の制御、
2)上記所定の粒径を有する導電性金属酸化物(B)の種類(複数の導電性金属酸化物を用いる場合には、これらの組成比)、
3)導電性金属酸化物(B)の含有量、
の3つの要素を組み合わせて制御することにより、全光線透過率が80%〜95%で、かつ表面抵抗率が2×1012Ω/□以下であるハードコート層が実現されやすくなる。
【0025】
加えて、分子内に水酸基を有する(メタ)アクリレート化合物(A)を用いることにより、上記導電性金属酸化物(B)の分散が安定化しやすくなる。この結果、塗布時にハードコート層の透過率を高くしやすくなる。このように、分子内に水酸基を有する(メタ)アクリレート化合物(A)と所定の導電性金属酸化物(B)との組み合わせにより全光線透過率及び表面抵抗率の制御を良好に行えるようになる。
【0026】
以下、本発明のハードコート剤に用いる各要素について説明する。
分子内に水酸基を有する(メタ)アクリレート化合物(A)は、特に、導電性金属酸化物の分散安定性や硬化性に寄与するものである。本発明において、分子内に水酸基を有する(メタ)アクリレート化合物(A)としては、エポキシ(メタ)アクリレート、水酸基含有(メタ)アクリレートを挙げることができる。
【0027】
エポキシ(メタ)アクリレートとしては、グリシジルエーテル型エポキシ化合物と(メタ)アクリル酸を反応させることにより得られたものであれば、いずれも使用できる。
上記グリシジルエーテル型エポキシ化合物としては、ビスフェノールA或いは、そのアルキレンオキサイド付加体のジグリシジルエーテル、ビスフェノールF或いは、そのアルキレンオキサイド付加体のジグリシジルエーテル、水素添加ビスフェノールA或いは、そのアルキレンオキサイド付加体のジグリシジルエーテル、水素添加ビスフェノールF或いは、そのアルキレンオキサイド付加体のジグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、ブタンジオールジグリシジルエーテル、ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、シクロヘキサンジメチロールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル等を挙げることができる。
【0028】
エポキシ(メタ)アクリレートは、例えば、エポキシ樹脂のエポキシ基1当量に対して、(メタ)アクリル酸を、通常0.9当量〜1.5当量、好ましくは0.95当量〜1.1当量の比率で反応させて得ることもできる。この反応において、反応温度は80℃〜120℃が好ましい。また、反応時間は10時間〜35時間程度が好ましい。
【0029】
反応を促進させるために、例えば、トリフェニルフォスフィン、トリエタノールアミン、テトラエチルアンモニウムクロライド等の触媒を使用することも好ましい。また、反応中、重合を防止するために重合禁止剤(例えば、パラメトキシフェノール、メチルハイドロキノン等)を使用することもできる。本発明の樹脂組成物において、エポキシ(メタ)アクリレートは、1種または2種以上を任意の割合で混合使用することができる。また、エポキシ(メタ)アクリレートの分子量は200〜10000が好ましい。
【0030】
次に、水酸基含有(メタ)アクリレートの具体例としては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、カプロラクトンアクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、ジメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールのアルキレンオキサイド付加体のトリ(メタ)アクリレート、ジメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
【0031】
より好ましいものとしては、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート等を挙げることができる。これらの水酸基含有(メタ)アクリレートは、1種または2種以上を任意の割合で混合使用することができる。
【0032】
本発明におけるハードコート剤の固形分の総量に対する、分子内に水酸基を有する(メタ)アクリレート化合物(A)の含有率は、通常30重量%〜89重量%であり、好ましくは40重量%〜85重量%である。
【0033】
次に、本発明においては、導電性金属酸化物(B)が用いられる。導電性金属酸化物(B)を用いることにより、ハードコート層に導電性を付与することができる。この結果、静電気によるハードコート層へのホコリやゴミの吸着を抑制することができる。導電性金属酸化物(B)は、上記機能をハードコート層に付与することができるものであればよい。より具体的には、四探針法抵抗率測定装置(商品名:ロレスター 三菱化学株式会社製)で測定したときの体積抵抗率が1kΩ・cm〜10kΩ・cmとなるような金属酸化物を用いればよい。
【0034】
導電性金属酸化物(B)の具体例としては、アンチモンドープされた錫酸化物、錫ドープされた酸化インジウム、アンチモン酸亜鉛等が使用できる。好ましくは、アンチモン酸亜鉛である。これらは、有機溶剤に分散してあるオルガノゾルとして使用することが好ましい。また、粉末の導電性金属酸化物(B)を樹脂中に分散させて使用することもできる。
【0035】
導電性金属酸化物(B)の粒径は、粒子状態で気相吸着法により算出されるBET法での粒子径が18nm以下である。または、導電性金属酸化物(B)の粒径は、溶剤に分散させたゾル状態で測定した動的散乱法での平均粒子径が0.1μm以下である。導電性金属酸化物(B)を上記粒子径の範囲内とすることにより、塗布面の平滑性や透明性が十分に得られるようになる。加えて、帯電防止性能を向上させるために、ハードコート層中の導電性金属酸化物(B)の含有量を多くした場合(例えば、ハードコート剤の固形分中の導電性金属酸化物(B)の含有率を30重量%以上とした場合)においても、良好な透明性を確保しやすい。
【0036】
一方、導電性金属酸化物(B)の粒径の下限値は、現実的には以下の通りとなる。つまり、BET法により測定される粒子径においては、5nm以上となる。一方、動的散乱法により測定される平均粒子径においては、5nm以上となる。
これらの導電性金属酸化物(B)は、1種または2種以上を任意の割合で混合使用することができる。
【0037】
本発明に適した導電性金属酸化物(B)の具体例を以下に列挙する。アンチモンドープ・酸化錫(ATO)としては、例えば、FSS−10M、SNS−10M(いずれも石原産業株式会社製)等を挙げることができる。また、酸化インジウム錫(ITO)としては、例えばシーアイ化成株式会社製、ITO分散液等を挙げることができる。さらに、アンチモン酸亜鉛としては、例えば、セルナックスCX−Z600M−3、CX−Z600M−3F、CX−Z210IP−F2(いずれも日産化学工業株式会社製)等を挙げることができる。これら材料は市場から容易に入手することができる。
【0038】
本発明におけるハードコート剤の固形分総量中における導電性金属酸化物(B)の含有率は、通常10重量%〜30重量%であり、好ましくは10重量%〜25重量%である。特に青色レーザを記録再生光として用いる場合には、10重量%〜14重量%が特に好ましい。
【0039】
尚、BET法による粒子径は、導電性金属酸化物を粉末状態で気相吸着法により算出される。また、動的散乱法による平均粒子径は、前記導電性金属酸化物のゾル状態で、Coulter社製N4装置(またはこれと同等の装置)で測定することが可能である。尚、BET法による測定の場合における導電性金属酸化物の性状は、通常粉体である。一方、動的散乱法による測定の場合における導電性金属酸化物の性状は、通常ゾル等の液体状となる。
【0040】
上記導電性金属酸化物(B)をハードコート剤に混合または分散する際に、導電性金属酸化物(B)の分散状態を安定化させるために分散剤を使用しても良い。分散剤の例としては、カチオン系、アニオン系、ノニオン系あるいは両面界面活性剤等が挙げられる。好ましいものは、アルキルアミン系界面活性剤である。例えば、ソルスパース20000(商品名 ゼネガ社製、アルキルアミンのPO、EO変性物)、あるいはTAMNO−15(商品名 日光ケミカル株式会社製、アルキルアミンのEO変性物)等がある。分散剤の添加量は、使用する導電性金属酸化物に対して、通常0.5重量%〜30重量%、好ましくは1重量%〜20重量%とする。
【0041】
本発明における光重合開始剤(C)としては、紫外線の照射により重合を開始させる機能を有しているものであればいずれも使用することができる。
光重合開始剤(C)の具体例としては、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、1−〔4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル〕−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オンまたは2−メチル−〔4−(メチルチオ)フェニル〕−2−モルホリノ−1−プロパノン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルホリノフェニル)−ブタン−1−オン、2−クロロチオキサントン、2,4−ジメチルチオキサントン、2,4−ジイソプロピルチオキサントン、イソプロピルチオキサントン、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフォスフィンオキサイドまたはビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルフォスフィンオキサイド等が挙げられる。
【0042】
これらの光重合開始剤は、1種または2種以上を任意の割合で混合して使用することができる。ハードコート剤の固形分の総量に対する光重合開始剤(C)の含有率は、通常0.5重量%〜20重量%であり、好ましくは1重量%〜15重量%である。
【0043】
さらにアミン類などの光重合開始助剤と併用することもできる。アミン類の具体例としては、2−ジメチルアミノエチルベンゾエ−ト、ジメチルアミノアセトフェノン、p−ジメチルアミノ安息香酸エチルエステルまたはp−ジメチルアミノ安息香酸イソアミルエステル等が挙げられる。光重合開始助剤のハードコート剤の固形分総量中における含有率は、通常0.005重量%〜5重量%、好ましくは0.01重量%〜3重量%とする。
【0044】
ハードコート剤には低沸点アルコール溶剤(D)を含有させる。低沸点アルコール溶剤(D)を用いることにより、ハードコート剤塗布後の加熱乾燥を行う必要がなくなる。つまり、室温下でハードコート剤の塗布及び硬化を行うことが可能となる。この結果、加熱乾燥を行うことによる、ハードコート剤が塗布された面が所定の(メタ)アクリレート化合物(A)によって侵される現象が抑制される。また、乾燥装置が不要となり、工程の短縮化がはかれる。さらに、生産コストの低減を図ることもできる。
【0045】
低沸点アルコール溶剤(D)としては、その沸点が100℃以下であるものが好ましい。一方、低沸点アルコール溶剤(D)の沸点は、現実的には、通常65℃以上となる。低沸点アルコール溶剤(D)の具体例としては、メチルアルコール(65℃)、エチルアルコール(78℃)、イソプロピルアルコール(83℃)、n−プロピルアルコール(97℃)、t−ブチルアルコール(83℃)等を挙げることができる。これらの低沸点アルコール溶剤(D)は、1種または2種以上を任意の割合で混合使用することができる。低沸点アルコール溶剤(D)のハードコート剤中の含有量は、通常20重量%〜70重量%、好ましくは30重量%〜65重量%である。
【0046】
尚、導電性金属酸化物(B)のオルガノゾルを使用し、低沸点アルコール溶剤(D)がその媒体として用いられる場合には、ハードコート剤中の低沸点アルコール溶剤(D)の含有量を以下のように決めればよい。つまり、低沸点アルコール溶剤(D)の含有量は、上記ゾル中の含有量を勘案して適宜決められる。
【0047】
本発明においては低沸点アルコール溶剤(D)を用いるが、これは、高沸点溶媒(例えば、沸点が100℃より大きい溶媒)の使用を排除するものではない。なぜなら、低沸点アルコール溶剤(D)を用いるのは、室温以上での加熱乾燥を行わないためである。従って、加熱乾燥を行わなくても良好な特性を有するハードコート層が得られる範囲で、高沸点溶媒をハードコート剤中に含有させてもよい。
【0048】
具体的には、ハードコート剤中に高沸点溶媒を含有させる場合、高沸点溶媒の含有量は、通常15重量%以下とする。高沸点溶媒を過度に含有させると、上述の通り、スピンコート塗布後に、乾燥工程を経て溶剤を除去する必要が出てくる。なぜなら、十分に高沸点溶媒が除去されてないまま硬化すると、硬化膜の白化や硬度の低下が起こりやすくなるからである。さらに、硬化膜にクラック等が発生しやすくなる。また、ハードコート層の均一性、生産性において劣る結果となる可能性もある。そして、ハードコート層が光ディスクから剥離しやすくなる。尚、この剥離の現象は用いる溶媒の種類、沸点、含有量等により影響をうけるようである。
【0049】
但し、高沸点溶媒としてアルコール溶剤を用いる場合には、低沸点アルコール溶剤(D)と共通種類の溶媒となるためか、高沸点溶媒の上限を20重量%程度とすることができるようになる。
低沸点アルコール溶剤(D)を使用した場合、溶剤の残留の虞が低い。加えて、乾燥工程無しに、紫外線照射してもハードコート層の特性を十分発現することができる。この現象は、沸点が100℃以下のアルコール溶剤を用いるとより顕著に発揮される。
【0050】
本発明においては、必要に応じて、分子内に水酸基を有する(メタ)アクリレート化合物(A)以外の(メタ)アクリレート化合物を任意に使用することができる。そのような(メタ)アクリレート化合物の例としては、(メタ)アクリレートモノマー、(メタ)アクリレートオリゴマーを挙げることができる。
【0051】
(メタ)アクリレートモノマーは、分子中に1個の(メタ)アクリレート基を有する単官能モノマーと、分子中に2個以上の(メタ)アクリレート基を有する多官能モノマーと、に分類できる。分子中に1個の(メタ)アクリレート基を有する単官能モノマーの具体例としては、トリシクロデカン(メタ)アクリレート、ジシクロペンタジエンオキシエチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、イソボロニル(メタ)アクリレート、アダマンチル(メタ)アクリレート、フェニルオキシエチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、モルフォリン(メタ)アクリレート、フェニルグリシジル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、エチルカルビトール(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0052】
また、分子中に2個以上(メタ)アクリレート基を有する多官能モノマーの具体例としては、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメチロールジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバルアルデヒド変性トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニルジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、トリス[(メタ)アクリロキシエチル]イソシアヌレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0053】
(メタ)アクリレートオリゴマーの好ましい例としては、分子量400〜10000のウレタン(メタ)アクリレートを挙げることができる。分子量400〜10000のウレタン(メタ)アクリレートは、下記多価アルコール、有機ポリイソシアネート及びヒドロキシ(メタ)アクリレート化合物を適宜反応させることによって得られる。
【0054】
多価アルコールとしては、例えば、ネオペンチルグリコール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、トリシクロデカンジメチロール、ビス−[ヒドロキシメチル]−シクロヘキサン等;これら多価アルコール類と多塩基酸(例えば、コハク酸、フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、テレフタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、テトラヒドロ無水フタル酸等)との反応によって得られるポリエステルポリオール;前記多価アルコール類とε−カプロラクトンとの反応によって得られるカプロラクトンアルコール;ポリカーボネートポリオール(例えば、1,6−ヘキサンジオールとジフェニルカ−ボネートとの反応によって得られるポリカーボネートジオール等);ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、エチレンオキサイド変性ビスフェノールA等のポリエーテルポリオールが挙げられる。
【0055】
有機ポリイソシアネートとしては、例えば、イソホロンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート、ジシクロペンタニルイソシアネート等が挙げられる。
【0056】
ヒドロキシ(メタ)アクリレート化合物としては、例えば、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ジメチロールシクロヘキシルモノ(メタ)アクリレート、ヒドロキシカプロラクトン(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0057】
これら(メタ)アクリレート化合物は、1種または2種以上を任意の割合で混合使用してもかまわない。上記(メタ)アクリレートを用いる場合、ハードコート剤の固形分中における上記(メタ)アクリレート化合物の含有比率は、ハードコート層の硬度を考慮して決められる。例えば、一官能(メタ)アクリレート化合物の含有比率は、通常0〜4.5重量%が良い。
【0058】
また、ハードコート剤が、さらにハードコート層表面の改質剤を含有することが好ましい。このような改質剤を用いることにより、ハードコート層表面に指紋油が付着した場合においても拭き取りやすくなる。
【0059】
改質剤としては、シリコン系またはフッ素系のレベリング剤、表面潤滑剤を挙げることができる。好ましいものとしては、シリコン系レベリング剤、フッ素系表面改質剤等を挙げることができる。
【0060】
シリコン系レベリング剤としては、例えば、BYK−307、BYK−322、BYK−323、BYK−331、BYK−333、BYK−UV3500、BYK−UV3510,BYK−UV3530、BYK−UV3570(商品名 ビックケミー株式会社製 ポリ(ジ)メチルシロキサン化合物)を挙げることができる。また、フッ素系表面改質剤としては、例えば、モディパーF−100、F−110、F−200、F−202、F−2020、F−220、F−500、F−600(商品名 日本油脂株式会社製、フッ素含有ブロックコポリマー)等を挙げることができる。
【0061】
改質剤を用いる場合には、改質剤の添加量は、ハードコート剤に対して、通常1重量%〜20重量%、好ましくは2重量%〜10重量%である。
【0062】
さらに、本発明においては、必要に応じて、高分子ポリマー(例えば、ポリエステル系、ポリカーボネート系、ポリアクリル系、ポリウレタン系、ポリビニル系樹脂等のポリマー)、有機溶剤、重合禁止剤、光安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、充填剤などそれ自体公知の各種添加剤を併用することができる。
【0063】
ハードコート剤は、前記した各成分を常法により20℃〜60℃で混合溶解して得ることができる。また、必要ならば濾過処理を施して粒度の均一化を行うこともできる。また、濾過処理により夾雑物(不純物)を除くこともできる。
【0064】
次にハードコート剤を用いて光ディスク上にハードコート層を形成する方法について説明する。
本発明でハードコート層を形成する光ディスクとしては、市販されている光ディスクのいずれも用いることができ、特に限定されないが、通常、以下のものが挙げられる。すなわち、光ディスクとは、記録再生機能層を有し、光を用いて情報の記録、消去、再生の少なくとも1つを行う情報記録媒体をいう。ここで、光としては、通常レーザ光が用いられる。
【0065】
記録再生機能層は、再生専用の媒体(ROM媒体)である場合と、一度の記録のみ可能な追記型の媒体(Write Once媒体)である場合と、記録消去を繰り返し行える書き換え可能型の媒体(Rewritable媒体)である場合と、によって、それぞれの目的に応じた層構成を採用することができる。また、記録再生機能層は、記録・再生用のレーザ光の入射方向によって、基板面入射型と膜面入射型とに分けることができる。
【0066】
以下、記録再生機能層の具体例について説明する。
(再生専用媒体の例)
再生専用の媒体においては、記録再生機能層は、通常、基板上に反射層と保護層とを形成することによって得られる。反射層の材料としては、通常、Al、Ag、Au等の金属または合金が用いられる。保護層の材料としては、通常、紫外線硬化性樹脂が用いられる。また、保護層として、樹脂(例えば、ポリカーボネート)や金属等の板状の部材を用いてもよい。
【0067】
記録再生機能層は、通常、以下のように形成される。つまり、スパッタ法によりAl、Ag、Au反射層を基板上に成膜して反射層を形成する。そして、反射層上に紫外線硬化性樹脂を塗布・硬化されることによって保護層が形成される。また、保護層に樹脂(例えば、ポリカーボネート)や金属等の板状の部材を用いる場合には、これら部材を接着剤を用いて、反射層に接着すればよい。
ここで、光の入射面が基板側となる場合には、基板上にハードコート層を設けることになる。一方、光の入射面が保護層側となる場合には、保護層上にハードコート層を設けることになる。
【0068】
(追記型の媒体の例1)
追記型の媒体で膜面入射型の媒体においては、記録再生機能層は、通常、基板上に、反射層、記録層、及び保護層をこの順に設けることによって得られる。ここで、記録層と保護層との間に無機材料(例えば、ZnS/SiO)で形成されるバッファー層を設けてもよい。
【0069】
一方、追記型の媒体で基板面入射型の媒体においては、記録再生機能層は、通常、基板上に、記録層、反射層、保護層をこの順に設けることによって得られる。
ここで、基板面入射型の媒体においては、基板上にハードコート層を設けることになる。一方、膜面入射型の媒体においては、保護層上にハードコート層を設けることになる。
【0070】
反射層の材料としては、通常、Al、Ag、Au等の金属または合金が用いられる。保護層の材料としては、通常、紫外線硬化性樹脂が用いられる。また、保護層として、樹脂(例えば、ポリカーボネート)や金属等の板状の部材を用いてもよい。反射層及び保護層の形成方法は、再生専用の媒体と同様とすればよい。尚、保護層に樹脂(例えば、ポリカーボネート)や金属等の板状の部材を用いる場合には、これら部材を、接着剤を用いて、記録層、バッファ−層、または、反射層に接着すればよい。
【0071】
上記追記型の媒体における記録層の材料としては、通常、有機色素が用いられる。このような有機色素としては、大環状アザアヌレン系色素(フタロシアニン色素、ナフタロシアニン色素、ポルフィリン色素など)、ポリメチン系色素(シアニン色素、メロシアニン色素、スクワリリウム色素など)、アントラキノン系色素、アズレニウム系色素、含金属アゾ系色素、含金属インドアニリン系色素などが挙げられる。特に含金属アゾ系色素は、耐久性および耐光性に優れているため好ましい。
【0072】
有機色素により記録層を形成する場合は、通常、有機色素を適当な溶媒に溶解した溶液によるスピンコート、スプレーコート、ディップコート、ロールコート等の塗布方法で成膜される。この際、溶媒としては、ジアセトンアルコール、3−ヒドロキシ−3−メチル−2−ブタノン等のケトンアルコール溶媒、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ等のセロソルブ溶媒、テトロフルオロプロパノール、オクタフルオロペンタノール等のパーフルオロアルキルアルコール溶媒、乳酸メチル、イソ酪酸メチル等のヒドロキシエチル溶媒が好適に使用される。
【0073】
記録層の厚さは、記録方法等により適した膜厚が異なるため、特に限定されないが、十分な変調度を得るために、通常、5nm以上、好ましくは10nm以上であり、特に好ましくは20nm以上である。但し、光を透過させる必要があるため、通常、3μm以下であり、好ましくは1μm以下、より好ましくは200nm以下である。
【0074】
(追記型の媒体の例2)
追記型の媒体で膜面入射型の媒体における他の具体例においては、記録再生機能層が、通常、基板上に、反射層、誘電体層、記録層、誘電体層、及び保護層をこの順に設けることによって得られる。一方、追記型の媒体で基板面入射型の媒体における他の具体例においては、記録再生機能層が、通常、基板上に、誘電体層、記録層、誘電体層、反射層、及び保護層をこの順に設けることによって得られる。
【0075】
ここで、基板面入射型の媒体においては、基板上にハードコート層を設けることになる。一方、膜面入射型の媒体においては、保護層上にハードコート層を設けることになる。反射層の材料としては、通常、Al、Ag、Au等の金属または合金が用いられる。保護層の材料としては、通常、紫外線硬化性樹脂が用いられる。また、保護層として、樹脂(例えば、ポリカーボネート)や金属等の板状の部材を用いてもよい。反射層及び保護層の形成方法は、再生専用の媒体と同様とすればよい。
【0076】
誘電体層の材料としては、通常、無機材料(代表的には、ZnS/SiO)が用いられる。誘電体層は、通常、スパッタリングすることによって形成される。
【0077】
記録層は、通常、無機材料(例えば、GeTe、GeSbTeの様なカルコゲン系合金)が用いられる。記録層は、通常、スパッタリングによって形成される。記録層の膜厚は、通常1nm〜50nm程度とされる。
【0078】
(書き換え可能型の媒体の例1)
書き換え可能型の媒体で膜面入射型の媒体においては、記録再生機能層が、通常、基板上に、反射層、誘電体層、記録層、誘電体層、及び保護層をこの順に設けることによって得られる。一方、書き換え可能型の媒体で基板面入射型の媒体においては、記録再生機能層が、通常、基板上に、誘電体層、記録層、誘電体層、反射層、及び保護層をこの順に設けることによって得られる。
ここで、基板面入射型の媒体においては、基板上にハードコート層を設けることになる。一方、膜面入射型の媒体においては、保護層上にハードコート層を設けることになる。
【0079】
反射層、誘電体層、記録層、及び保護層としては、上記追記型の媒体の例2と同様にすればよい。但し、記録層は、記録・消去を可逆的に行えるような材料とする必要がある。このような材料としては、例えば、SbTe系、GeTe系、GeSbTe系、InSbTe系、AgSbTe系、AgInSbTe系、GeSb系、GeSbSn系、InGeSbTe系、InGeSbSnTe系等の材料が挙げられる。これらの中でも、結晶化速度を高めるために、記録層にSbを主成分とする組成を用いることが好ましい。
【0080】
(書き換え可能型の媒体の例2)
書き換え可能型の媒体としての他の具体例として、光磁気記録媒体(MOディスク)を挙げることができる。
【0081】
(共通事項)
尚、上記記録再生機能層に用いられる基板としては、通常以下のものを用いる。
つまり、基板は、適度な加工性と剛性を有するプラスチック、金属、ガラス等を用いることができる。基板面入射型の光記録媒体では基板は入射するレーザ光に対して透明である必要がある。膜面入射型の光記録媒体では、通常レーザ光が基板を透過することがないので、基板はレーザ光に対して透明である必要はない。
【0082】
基板は、金属、ガラスでは、表面に光や熱硬化性の薄い樹脂層を設け、そこに、溝を形成する必要がある。この点、プラスチック材料を用い、射出成型によって、基板の形状(特に円盤状)と表面の案内溝を一挙に形成するほうが製造上は好ましい。
射出成型できるプラスチック材料としては、従来CDやDVDで用いられたポリカーボネート樹脂、ポリオレフィン樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂等を用いることができる。基板の厚みとしては0.5mm〜1.2mm程度とするのが好ましい。
【0083】
基板には、通常、トラッキング用の案内溝が形成されている。
トラックピッチは、光記録媒体の記録再生に用いるレーザ光の波長によって異なる。具体的には、CD系の光記録媒体では、トラックピッチは通常1.5μm〜1.6μmである。DVD系の光記録媒体では、トラックピッチは通常0.7μm〜0.8μmである。青色レーザ用の光記録媒体では、トラックピッチは通常0.2μm〜0.5μmである。一方、溝の深さも光記録媒体の記録再生に用いるレーザ光の波長によって異なる。具体的には、CD系の光記録媒体では、溝深さは通常10nm〜300nmである。DVD系の光記録媒体では、溝深さは通常10nm〜200nmである。青色レーザ用の光記録媒体では、溝深さは通常10nm〜200nmである。
【0084】
(現在実用化されている光ディスクの具体例)
現在実用化されている光ディスクの具体例としては、ポリカーボネート基板が1.2mmであるCD(コンパクトディスク)、MO(光磁気ディスク)、CD−R(追記型)、CD−RW(書き換え型)等がある。近年、記憶容量を向上させるために、ポリカーボネートの厚さを半分(0.6mm)にし、2枚の基板を貼り合わせる追記型DVD、書き換え型DVD等もある。
【0085】
本発明においては、光ディスクのレーザ光入射側表面に、室温下で、本発明の所定の組成を有するハードコート剤を塗布、硬化させてハードコート層を得る。具体的には、ハードコート剤を、回転数1000rpm〜7000rpmにてスピンコート法により塗布、及び紫外線により硬化させてハードコート層を得る。
ここで、室温とは、人間が不快に思うことなく作業可能な温度範囲をいう。具体的には、15℃〜35℃の温度範囲を挙げることができる。これは、スピンコート法による塗布後に加熱乾燥が不要となることも意味する。
【0086】
スピンコート法による塗布及び紫外線による硬化の具体例を以下に説明する。
まず、所定の組成を有するハードコート剤を、必要により、前記低沸点アルコール溶剤(D)で粘度を調整した後、公知のスピンコート法により光ディスクのレーザ照射面に塗布する。この時、ハードコート層の膜厚としては硬化時の膜厚で1〜10μmとなるように塗布される。また、スピンコートは室温で回転数1000rpm〜7000rpmの条件で行われる。但し、装置への負担を軽減する観点から、回転数は、好ましくは1000rpm〜5000rpm、より好ましくは1000rpm〜4000rpmとする。
【0087】
塗布後、室温に保ったまま(つまり、室温よりも高い温度での加熱乾燥を行うことなく)で、紫外線などの光線を照射することによりハードコート層(ハードコート剤の硬化物)を得ることができる。硬化を行う際の光源は、紫外〜近紫外の光線を照射できるランプであればよく、特に種類は問わない。光源としては、例えば、低圧、高圧または超高圧水銀灯、メタルハライドランプ、(パルス)キセノンランプ、また無電極ランプ等が使用できる。照射エネルギ−は、通常100mJ/cm〜1000mJ/cmである。尚、上記例では、スピンコート法による塗布後に紫外線照射を行っているが、スピンコート法による塗布と同時に紫外線照射を行ってもよい。例えば、高精度の膜厚制御が必要になるような場合には、上記方法は有効である。
【0088】
このようにして得られたハードコート層には、分子内に水酸基を有する(メタ)アクリレート系の樹脂、BET法により測定される粒子径が18nm以下又は動的散乱法により測定される平均粒子径が0.1μm以下の導電性酸化物を含有されるようになる。そして、ハードコート層の全光線透過率が80%〜95%、かつ、表面抵抗率が2×1012Ω/□以下となる。
【0089】
本発明は以上のように、優れた帯電防止性、耐摩耗性、耐擦傷性を有し、かつ生産性に優れた高硬度で保存信頼性の高い、光ディスクの製造方法及びその方法により得られた光ディスクの提供が可能となる。
【実施例】
【0090】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明する。但し、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
(試験用ディスクの調製)
後述する表1及び表2にそれぞれ示した各ハードコート剤を、透明光ディスク基板(ポリカーボネート)上に、スピンコーター(グローバルマシーナリー製、回転数:3000rpm〜4000rpm、時間:1.5〜3秒)で乾燥時の膜厚が1μm〜5μmとなるように塗布した(塗布終了時に、ハードコート剤は乾燥状態であった。)。次に、塗布したハードコート剤を紫外線照射装置(フュージョンHP−6、UVランプ:Dバルブ)により、積算光量400mJ/cmの条件で硬化させることにより試験用ディスクを調製した。
【0091】
上述した試験用ディスクを用いて以下に示す項目の評価をそれぞれ行った。
(ハードコート剤の安定性)
後述する表1及び表2に示す各ハードコート剤50gを、それぞれ50ml褐色サンプル瓶に入れて蓋をし、40℃の定温乾燥器内に1ヶ月間静置した。その後、目視で各褐色サンプル瓶中のハードコート剤の状態を観察し、以下の基準でハードコート剤の安定性を評価した。
○(OK):ハードコート剤中のアンチモン酸亜鉛ゾルに凝集、または沈降が無い
×(NG):アンチモン酸亜鉛ゾルに凝集、または沈降が確認された
【0092】
(耐摩耗性(Δヘーズ))
JIS K7204に準拠した摩耗性試験機(東洋精器製作所株式会社製、磨耗輪:CS−10F、荷重:250gf)を用いて、予め調製した試験用ディスクのハードコート層表面上の、ディスクの中周を50回転磨耗させた。その後、JIS K7136に準拠したヘーズメーター(装置:東京電色TC−HIIIDPK)を用いてヘーズを測定した。そして、磨耗前後でのヘーズの値を比較した。この磨耗前後におけるヘーズ値の変化量をΔヘーズとした(単位:%)。Δヘーズは、10%以下が好ましい。
【0093】
(指紋の拭き取り易さ)
予め調製した試験用ディスクのハードコート層面に指紋を付着した後、キムワイプS−200(紙ワイパー株式会社クレシア製)で指紋油を拭き取り、以下の基準で指紋の拭き取り易さを評価した。
○(OK):キムワイプS−200の5往復以内の拭き取りによって、目視で指紋が除去された
×(NG):キムワイプS−200の5往復後の拭き取りによっても、指紋油が目視で残っている
【0094】
(全光線透過率)
JIS K7105に準拠したヘーズメーター(東京電色株式会社製、TC−HIIIDPK)を用いて、予め調製した試験用ディスクのハードコート層表面上の3点における全光線透過率を測定し、この3点の透過率の平均値を最終的な全光線透過率とした(単位:%)。数値が大きいほど光透過性が高い。
【0095】
(波長405nmにおける透過率)
分光光度計(株式会社日立製作所社製 U−3310)を用いて、未塗布の透明光ディスク基板を比較に、予め調整したハードコート剤を塗布した試験用ディスクの3点における405nmの透過率を測定し、この3点の透過率の平均値を最終的な405nmにおける透過率とした(単位:%)。数値が大きいほど光透過性が高い。
【0096】
(表面抵抗率)
予め調製した試験用ディスクを、25℃、65%の環境下に一日放置した。その後、JIS K6911に準拠した表面抵抗測定器(三菱化学株式会社製HIRESTA−IP、加電圧:250V、時間:10秒)を用いて、ハードコート層表面上の5点の表面抵抗率を測定し、この5点の平均値を最終的な表面抵抗率とした(単位:Ω/□)。数値が小さいほど帯電防止性能が高い。
【0097】
(半減期)
半減期とは、初期帯電電圧が2分の1の値に減衰するまでに必要な時間をいう。半減期の試験方法は以下の通りである。
予め調製した試験用ディスクを、25℃、65%の環境下に一日放置した。その後、JIS L1094に準拠した半減期測定機(シシド静電気株式会社製HO110、印加電圧:10kV、電圧印加時間:60秒)を用いて、ハードコート層表面上の3点の帯電電圧の時間変化を測定し、上記3点について半減期を測定した。さらに、上記3点で得られた半減期を平均して、最終的な半減期とした(単位:秒(sec))。この平均された半減期は、10秒以内であることが好ましい。
【0098】
(基板への密着性)
JIS K5400に準拠し、予め調製した試験用ディスクのハードコート層表面に1mm間隔で縦、横それぞれ11本の切れ目をカッターナイフで入れ、100個の碁盤目を作った。そして、セロハンテープをその表面に密着させた後、一気に剥がしたときに、剥離せず残存したマス目の個数を表示した(単位:個数/100個)。密着性は、90/100以上が好ましい。
【0099】
以上の評価項目の中、「ハードコート剤の安定性」、「指紋の拭き取り易さ」は、生産性及び使い勝手をより向上させたハードコート層を得るという観点に基づく評価項目である。また、「全光線透過率」、「基板への密着性」、「表面抵抗率」、「半減期」、「耐摩耗性」は、実使用可能なハードコート層を得るという観点に基づく評価項目である。
【0100】
(実施例1〜実施例6)
表1に、(実施例1〜実施例6)においてそれぞれ用いた紫外線硬化型のハードコート剤の各成分組成(重量部及び重量部比)を示した。
表1に示されるハードコート剤は、各成分を常法により配合し調製した。
尚、実施例1〜実施例6において、導電性金属酸化物(B)として、動的散乱法による平均一次粒径が0.1μm以下であるアンチモン酸亜鉛のオルガノゾルを使用した。尚、アンチモン酸亜鉛のオルガノゾルには、アンチモン酸亜鉛と低沸点アルコール溶剤が含有されている。
【0101】
【表1】

【0102】
尚、表1に示した各組成の略号は下記の通りである。
(a)(A)成分(分子内に水酸基を有する(メタ)アクリレート化合物(A))
・PET−30:ペンタエリスリトールトリアクリレート、日本化薬株式会社製
・R−167:1,6−ヘキサンジオールエポキシアクリレート、日本化薬株式会社製
・R−115:ビスフェノールA型エポキシアクリレート、日本化薬株式会社製
【0103】
(b)(B)成分(平均粒子径0.1μm以下の導電性金属酸化物(B))
・アンチモン酸亜鉛:動的散乱法による平均一次粒径が0.1μm以下であるアンチモン酸亜鉛のオルガノゾル
【0104】
(c)(C)成分(光重合開始剤(C))
・IRG−184:1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、チバ・スペシャルティーケミカル株式会社製
・IRG−907:2−メチル−〔4−(メチルチオ)フェニル〕−2−モルホリノ−1−プロパノン、チバ・スペシャルティーケミカル株式会社製
【0105】
(d)他のモノマー
・PET−40:ペンタエリスリトールテトラアクリレート、日本化薬株式会社製
・HDDA:1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、日本化薬株式会社製
・TC−101:テトラヒドロフルフリルアクリレート、日本化薬株式会社製
・DPHA:ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、日本化薬株式会社製
【0106】
(e)他の添加剤
・F−202:フッ素系ブロックコポリマー(モディパーF−202) 日本油脂株式会社製 表面改質剤
【0107】
(f)アルコール(低沸点アルコール溶剤(D))
・IPA:イソプロピルアルコール(沸点83℃)
・MeOH:メチルアルコール(沸点65℃)
【0108】
表1に示す結果から、分子内に水酸基を有する(メタ)アクリレート化合物((A)成分)と、平均粒子径0.1μm以下の導電性金属酸化物((B)成分)と、光重合開始剤((C)成分)とを、低沸点アルコール溶剤((D)成分)を用いて調製したハードコート剤において、ハードコート剤中に含まれる固形分の総量に対し、(A)成分30重量%〜89重量%、(B)成分10重量%〜30重量%、(C)成分0.5重量%〜20重量%を含有するハードコート剤(実施例1〜実施例6)は、実使用可能なハードコート層が得られることが分かる。
【0109】
尚、分子内に水酸基を有する(メタ)アクリレート化合物((A)成分)とともに、一官能エチレン性不飽和基含有化合物であるTC−101(テトラヒドロフルフリルアクリレート)を2.5重量%(/対固形分)程度配合し、IPA(イソプロピルアルコール)及びMeOH(メチルアルコール)混合溶媒を用いて調製したハードコート剤の場合は(実施例4)、耐磨耗性(Δヘーズ)がわずかに低下する(Δヘーズ5.0)ものの、ハードコート層として実使用可能な性能が得られることが分かる。
【0110】
また、表面改質剤であるF−202(フッ素系ブロックコポリマー(モディパーF−202))を添加しない場合(実施例5)であっても、ハードコート剤の安定性が確保され、また、ハードコート層としては、指紋のふき取り易さが低下するものの、実使用可能な性能が得られることが分かる。
【0111】
更に、平均粒子径0.1μm以下の導電性金属酸化物((B)成分)の、ハードコート剤中に含まれる固形分の総量に対する含有率を14%以下にすることにより(実施例6)、波長405nmにおける透過率が95%以上のハードコート層が得られることが判る。
【0112】
実施例1から6の結果から考察すると、(A)成分と他のモノマーからなる重合性化合物のうち、三官能以上の重合性化合物の使用量は、固形分の全体に対して、30重量%〜80重量%であり、二官能の重合性化合物の使用量は、固形分の全体に対して、0重量%〜50重量%であり、単官能の重合性化合物の使用量は、固形分の全体に対して、0〜4.5重量%であることが好ましいことが判る。
【0113】
さらに、耐磨耗性について見ると、実施例4よりも実施例1乃至3、5及び6の方が良好であるという結果から考察すると三官能以上の重合性化合物の使用量は、固形分の全体に対して、30重量%〜80重量%であり、二官能の重合性化合物の使用量は、固形分の全体に対して、5重量%〜50重量%であり、単官能の重合性化合物の使用量は、固形分の全体に対して、0〜4.5重量%であることが好ましいことが判る。
【0114】
(比較例1〜比較例7)
また、表2に、(比較例1〜比較例7)においてそれぞれ用いた紫外線硬化型のハードコート剤の各成分組成(重量部及び重量部比)を示した。
表2に示されるハードコート剤は、各成分を常法により配合し調製した。
【0115】
【表2】

【0116】
尚、表2に示した各組成の略号は下記の通りである。
(a)(A)成分(分子内に水酸基を有する(メタ)アクリレート化合物(A))
・PET−30:ペンタエリスリトールトリアクリレート、日本化薬株式会社製
・R−167:1,6−ヘキサンジオールエポキシアクリレート、日本化薬株式会社製
・R−115:ビスフェノールA型エポキシアクリレート、日本化薬株式会社製
【0117】
(b)(B)成分(平均粒子径0.1μm以下の導電性金属酸化物(B))
・アンチモン酸亜鉛:動的散乱法による平均一次粒径が0.1μm以下であるアンチモン酸亜鉛のオルガノゾル
【0118】
(c)(C)成分(光重合開始剤(C))
・IRG−184:1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、チバ・スペシャルティーケミカル株式会社製
・IRG−907:2−メチル−〔4−(メチルチオ)フェニル〕−2−モルホリノ−1−プロパノン、チバ・スペシャルティーケミカル株式会社製
【0119】
(d)他のモノマー
・DPHA:ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、日本化薬株式会社製
・HDDA:1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、日本化薬株式会社製
・TC−101:テトラヒドロフルフリルアクリレート、日本化薬株式会社製
・TMPTA:トリメチロールプロパントリアクリレート、日本化薬株式会社製
・R−684:トリシクロデカンジメチロールジアクリレート、日本化薬株式会社製
【0120】
(e)他の添加剤
・F−202:フッ素系ブロックコポリマー(モディパーF−202) 日本油脂株式会社製 表面改質剤
・A−1100:シランカップリング剤、日本ユニカ−株式会社製
【0121】
(f)アルコール(低沸点アルコール溶剤(D))
・IPA:イソプロピルアルコール(沸点83℃)
・MeOH:メチルアルコール(沸点65℃)
【0122】
(g)その他の溶媒
・PGM:プロピレングリコールモノメチルエーテル(沸点120℃)
・MIBK:メチルイソブチルケトン(沸点115℃)
【0123】
比較例1におけるハードコート剤は、分子内に水酸基を有する(メタ)アクリレート化合物(A)を用いず、他のモノマー(TC−101:テトラヒドロフルフリルアクリレート、TMPTA:トリメチロールプロパントリアクリレート、R−684:トリシクロデカンジメチロールジアクリレート)を用いて調製したものである。
【0124】
表2に示すように、分子内に水酸基を有する(メタ)アクリレート化合物(A)を含まないハードコート剤は、ハードコート層として実使用に耐える評価結果(耐摩耗性(Δヘーズ)、指紋の拭き取り易さ、全光線透過率、表面抵抗率)が得られるが、40℃の定温乾燥器内に1ヶ月間静置した後に、アンチモン酸亜鉛ゾルに凝集・沈降が見られることから(ハードコート剤安定性:×)、ハードコート剤としての安定性が不十分であることが分かる。また、全光線透過率も比較的低い値(80%)となった。
【0125】
比較例2におけるハードコート剤は、平均粒子径0.1μm以下の導電性金属酸化物(B)(アンチモン酸亜鉛)の含有量が、ハードコート剤の固形分の総量に対し10重量%未満(6.7重量%)のものである。表2に示すように、(B)成分の含有量が、ハードコート剤の固形分の総量に対し10重量%未満の場合は、表面抵抗率が増大し(≧1014Ω/□)、帯電防止性能が低下することが分かる。
【0126】
比較例3におけるハードコート剤は、平均粒子径0.1μm以下の導電性金属酸化物(B)の含有量が、ハードコート剤の固形分の総量に対し30重量%を超える(30.9重量%)ものである。表2に示すように、(B)成分の含有量が、ハードコート剤の固形分の総量に対し30重量%を超える場合は、全光線透過率が低下し(75%)、光透過性が低下することが分かる。
【0127】
比較例4におけるハードコート剤は、高沸点溶媒(PGM:プロピレングリコールモノメチルエーテル(沸点120℃))を用いて調製したものである。表2に示すように、PGMを用いて調製したハードコート層を調製すると、高沸点溶媒であるPGMが残留したまま硬化されるため、耐摩耗性(Δヘーズ)が低下し、また、基板との密着性が得られないことが分かる。
【0128】
比較例5におけるハードコート剤は、アルコール溶剤とは異なる溶剤(MIBK:メチルイソブチルケトン(沸点115℃))を用いて調製したものである。表2に示すように、MIBKを用いてハードコート層を調製すると、MIBKによってポリカーボネート基板が溶解し、基板が白化することが分かる。
【0129】
比較例6におけるハードコート剤は、平均粒子径が0.1μmより大きい(0.15μm〜0.2μm)導電性金属酸化物ゾル(アンチモン酸亜鉛)を用いて調製したものである。表2に示すように、平均粒子径が0.1μmより大きいアンチモン酸亜鉛ゾルを用いて調製した場合は、全光線透過率が低下(70%)することが分かる。
【0130】
比較例7におけるハードコート剤は、シランカップリング剤(A−1100)を添加して調製したものである。表2に示すように、シランカップリング剤(A−1100)の添加によってアンチモン酸亜鉛ゾルが凝集し、ハードコート剤の安定性が低下するとともにハードコート層が白化することが分かる。
【0131】
(実施例7)
次に、実施例1において評価した紫外線硬化型のハードコート剤を用いて、追記型DVD(市販品:三菱化学メディア株式会社製)の光入射面側のポリカーボネート基板上にハードコート層を形成した。尚、ハードコート層の形成条件については上述した試験用ディスクにおいて説明した通りである。
このようにしてハードコート層を形成した追記型DVDについて、耐久性試験(80℃/80%RHで250時間保持)を実施したところ、耐久性試験前後での記録再生特性のデータに差がないことがわかった。結果は、表3に示す。
【0132】
【表3】

【0133】
表3の結果より、本発明の製造方法により本発明のハードコート剤を用いて得られたハードコート層は、耐久性試験において優れていることが確認された。
【0134】
表3において、PIsum8、POFは光ディスクの記録再生特性の一種であり、エラーの数を示している。これらの数値が大きいほど、光ディスクの保存されたデータが劣化していることを示す。
【0135】
表3において、PIsum8は、DVD規格では「280以下」とされている。一方、POFは修復不可能なエラー数であるため、POFが発生した場合データが読めなくなる可能性がある。尚、試験用ディスク(追記型DVD)への書き込みは、市販ドライブ(BENQ製DW1620PRO)を用いた。書き込みスピ−ドは8倍速、記録再生特性データ評価装置は、オーディオデベロップメント社製DVD−CATS(SA300)を用いてエラーの測定を行った。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子内に水酸基を有する(メタ)アクリレート化合物(A)と、
BET法により測定される粒子径が18nm以下又は動的散乱法により測定される平均粒子径0.1μm以下の導電性金属酸化物(B)と、
光重合開始剤(C)と、
低沸点アルコール溶剤(D)と、を含有するハードコート剤であって、
前記ハードコート剤中に含まれる固形分の総量に対し、(A)30重量%〜89重量%、(B)10重量%〜30重量%、(C)0.5重量%〜20重量%を含有することを特徴とする光ディスク用ハードコート剤。
【請求項2】
前記低沸点アルコール溶剤(D)の沸点が100℃以下であることを特徴とする請求項1記載の光ディスク用ハードコート剤。
【請求項3】
前記導電性金属酸化物(B)がアンチモン酸亜鉛であることを特徴とする請求項1記載の光ディスク用ハードコート剤。
【請求項4】
前記ハードコート剤中に含まれる固形分の総量に対し、
一官能エチレン性不飽和基含有化合物の含有量が4.5重量%以下であることを特徴とする請求項1記載の光ディスク用ハードコート剤。
【請求項5】
前記ハードコート剤中に含まれる固形分の総量に対し、前記導電性金属酸化物(B)を10重量%〜14重量%含有することを特徴とする請求項1記載の光ディスク用ハードコート剤。
【請求項6】
ハードコート層付与光ディスクの製造方法であって、
分子内に水酸基を含有する(メタ)アクリレート化合物(A)、BET法により測定される粒子径が18nm以下又は動的散乱法により測定される平均粒子径が0.1μm以下の導電性金属酸化物(B)、光重合開始剤(C)、低沸点アルコール溶剤(D)を含有するハードコート剤を、室温下で回転数1000rpm〜7000rpmにてスピンコート法により光ディスクのレーザ光入射面側表面に塗布し、紫外線により硬化させる工程を有し、
前記光ディスクのレーザ光入射面側表面に全光線透過率が80%〜95%、且つ表面抵抗率が2×1012Ω/□以下であるハードコート層を設けることを特徴とするハードコート層付与光ディスクの製造方法。
【請求項7】
前記分子内に水酸基を含有する(メタ)アクリレート化合物(A)の配合比率は、前記ハードコート剤の固形分の総量に対して30重量%〜95重量%であることを特徴とする請求項6記載のハードコート層付与光ディスクの製造方法。
【請求項8】
前記ハードコート剤中の固形分の総量に対する前記導電性金属酸化物(B)の含有率が10重量%〜30重量%であることを特徴とする請求項6又は7記載のハードコート層付与光ディスクの製造方法。
【請求項9】
前記導電性金属酸化物(B)がアンチモン酸亜鉛であることを特徴とする請求項6乃至8のいずれか1項に記載のハードコート層付与光ディスクの製造方法。
【請求項10】
前記低沸点アルコール溶剤(D)の沸点が100℃以下であることを特徴とする請求項6乃至9のいずれか1項に記載のハードコート層付与光ディスクの製造方法。
【請求項11】
前記スピンコート法が温度15℃〜35℃にて行われることを特徴とする請求項6乃至10のいずれか1項に記載のハードコート層付与光ディスクの製造方法。
【請求項12】
前記ハードコート層の膜厚が1μm〜5μmであることを特徴とする請求項6乃至11のいずれか1項に記載のハードコート層付与光ディスクの製造方法。
【請求項13】
前記ハードコート剤中の固形分の総量に対する前記導電性金属酸化物(B)の含有率が10重量%〜14重量%であることを特徴とする請求項6乃至12のいずれか1項に記載のハードコート層付与光ディスクの製造方法。
【請求項14】
請求項6乃至13のいずれか1項に記載のハードコート層付与光ディスクの製造方法によって製造された光ディスク。

【公開番号】特開2007−59045(P2007−59045A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−203254(P2006−203254)
【出願日】平成18年7月26日(2006.7.26)
【出願人】(501495237)三菱化学メディア株式会社 (105)
【出願人】(000004086)日本化薬株式会社 (921)
【Fターム(参考)】