説明

光ディスク装置、及び光ディスク装置のレーザ光のパワー制御方法

【課題】多層の光ディスクを再生する際にサーボ外れが起こり、記録層に過大なパワーのレーザ光が照射されてデータが誤って消去される問題を解消する。
【解決手段】トラッキングエラー信号、フォーカスエラー信号の振幅からサーボ外れを検出すると、レーザ光のパワーを所定の最小値に低減し、その後取得した記録媒体のアドレスからレーザ光のパワー値を再設定して、再生動作を行う。レーザ光のパワー値の変更は、例えば駆動電流にオフセットを与え、またはAPC制御の目標値を変更して行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光ディスク装置、及び光ディスク装置のレーザ光のパワー制御方法に係り、特に多層ディスクにおけるサーボ外れによるデータの誤消去を低減した光ディスク装置、及び光ディスク装置のレーザ光のパワー制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
DVD(Digital Versatile Disc)、BD(Blu-ray Disc)をはじめとする光ディスクにおいては、記録容量を高めるために記録層の多層化が進められている。最近のBDでは3層、或いは4層のディスクが開発されており、これら多層の光ディスクに対して情報データを書込み、また読取る光ディスク装置も開発途上にある。
【0003】
周知のとおり、光ディスクに書込まれた情報データを読取る際は、読取る情報データが書込まれた記録層に対し焦点を合わせるよう、光ディスク装置の光ピックアップがレーザ光を照射し、その反射光を検出して読取っている。その際のレーザ光のパワーは、情報を書込み、或いは消去する際のパワーよりも遥かに小さい。このため、情報データを読取る際はレーザ光のパワーを厳しく制御し、誤って大きなパワーのレーザ光を照射して情報データを消去することがないようにしている。
【0004】
特許文献1においては、記録、再生、消去以外の動作時において、レーザ光の記録媒体への入射光量を低減する装置が開示されている。
特許文献2においては、サーボ制御のアンロック時にレーザ光のパワーを低減する装置が開示されている。
特許文献3においては、多層の光ディスクに対してデータを記録する際、サーボ制御が外れた時にレーザ光のパワーを再生時のパワーに低減する装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭61−142538号公報
【特許文献2】特開昭64−10431号公報
【特許文献3】特開2001−176077号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
多層の光ディスクに書込まれた情報データを読取る際には、新たな問題を解消する必要がある。多層の光ディスクでは、記録層に応じて情報データを読取る際のレーザ光のパワーが異なっている。例えば4層の光ディスクでは、光ピックアップから遠い側からL0、L1、L2、L3と称する記録層を有するが、一般に遠い側の記録層から情報データを読取る際にレーザ光のパワーを大きくする。例えばレーザ光がL0層に到達するまでの間には、L3層、L2層、L1層の順で各記録層を通過するが、一つの記録層を通過する際に約4%程度のパワー損失が発生する。このため後記するように、記録層に応じて照射されるレーザ光のパワーが定められている。
【0007】
小さいパワーのレーザ光を用いて情報データを読取る記録層に対し、誤って大きいパワーのレーザ光を照射すると、情報データが誤って消去され、破壊されることがある。特に多層の光ディスクにおいては、サーボ制御が外れた際に、誤って他の記録層にレーザ光が焦点を結ぶ場合がある。即ち、大きいパワーのレーザ光を用いて情報データを読取る記録層から情報データを読取る際にサーボ制御が外れ、小さいパワーのレーザ光を用いて情報データを読取る記録層に誤ってレーザ光が焦点を結ぶと、後者の記録層における情報データが誤って消去され、破壊される問題がある。
本発明の目的は前記した問題に鑑み、多層ディスクにおけるサーボ外れによるデータの誤消去を低減した光ディスク装置、及び光ディスク装置のレーザ光のパワー制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するため本発明は、レーザ光を用いて複数の記録層を有する光ディスクに記録された情報データを再生する光ディスク装置であって、
前記レーザ光を発生するレーザ光源と、前記光ディスクの記録層に前記レーザ光を照射する対物レンズと、該対物レンズの前記光ディスクの記録層が有する記録トラックに対する垂直方向位置を微調するフォーカスアクチュエータと、前記対物レンズの前記光ディスクの記録層が有する記録トラックに対する半径方向位置を微調するトラッキングアクチュエータと、前記レーザ光の前記光ディスクからの反射光を検出して前記光ディスクの記録層が有する記録トラックに書込まれた情報データを読取り電気信号に変換して出力する光検出器を有する光ピックアップと、
前記対物レンズの前記光ディスクの記録層が有する記録トラックに対する垂直方向位置を微調するための第1の駆動信号を生成して前記フォーカスアクチュエータに供給し、前記対物レンズの前記光ディスクの記録層が有する記録トラックに対する半径方向位置を微調するための第2の駆動信号を生成して前記トラッキングアクチュエータに供給し、また前記レーザ光源が発生するレーザ光のパワーを調整する第3の駆動信号を生成して前記光ピックアップに供給するサーボ制御部と、
前記光ピックアップから出力された電気信号を処理し、前記対物レンズの前記光ディスクの記録層が有する記録トラックに対する垂直方向位置の誤差を示すフォーカスエラー信号と前記対物レンズの前記光ディスクの記録層が有する記録トラックに対する半径方向位置の誤差を示すトラッキングエラー信号を生成して、前記サーボ制御部に前記第1と第2の駆動信号を生成させるため供給する信号処理部を有し、
前記サーボ制御部は、前記対物レンズの前記記録トラックに対する位置に係るサーボ制御が外れた場合には、前記レーザ光のパワーを、前記複数の記録層のなかで最も小さいパワーで前記情報データを読取る記録層に対して規定されたパワーに設定するよう、前記第3の駆動信号を生成して前記光ピックアップに供給することを特徴としている。
【0009】
また本発明は、レーザ光を用いて複数の記録層を有する光ディスクに記録された情報データを再生する光ディスク装置のレーザ光のパワー制御方法であって、
前記記録層に対する前記レーザ光のサーボ制御が外れたことを検出するサーボ外れ検出ステップと、該サーボ外れ検出ステップでサーボ外れが検出された場合には現在の前記レーザ光のパワー値を取得する第1のパワー取得ステップと、該第1のパワー取得ステップで取得された前記レーザ光のパワー値が前記複数の記録層のうち最も小さいパワーではない場合には、前記レーザ光のパワー値を前記最も小さいパワー値に設定する第1のパワー設定ステップと、該第1のパワー設定ステップで設定されたパワーのレーザ光を用いて前記記録層における現在のアドレスを取得するアドレス取得ステップと、該アドレス取得ステップで取得された前記アドレスに基づき前記記録層を特定して該記録層に対して規定された前記レーザ光のパワー値を取得する第2のパワー取得ステップと、該第2のパワー取得ステップで取得されたパワー値が前記レーザ光の現在のパワー値と異なる場合には、前記レーザ光のパワー値を第2のパワー取得ステップで取得されたパワー値に設定する第2のパワー設定ステップを有し、
前記サーボ外れが検出された際にもサーボ制御を継続して前記情報データを再生することを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、多層ディスクにおけるサーボ外れによるデータの誤消去を低減した光ディスク装置、及び光ディスク装置のレーザ光のパワー制御方法を提供でき、光ディスク装置の信頼性の向上に寄与できるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】一実施例における光ディスク装置のブロック図である。
【図2】多層のBDにおける読取り時のレーザ光のパワーを示す図である。
【図3】一実施例におけるサーボ外れ時のレーザ光のパワー変更処理を示すフロー図である。
【図4A】一実施例におけるトラッキングサーボ外れの検出方法を示す図である。
【図4B】一実施例におけるフォーカスサーボ外れの検出方法を示す図である。
【図5】一実施例におけるサーボ外れ後のレーザ光のパワー復帰処理を示すフロー図である。
【図6A】一実施例におけるAPC回路を示すブロック図である。
【図6B】一実施例におけるAPC回路の別な例を示すブロック図である
【図7】一実施例におけるレーザ光パワーの波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施例につき図面を用いて説明する。まず光ディスク装置に関して、装置全体の動作を説明する。
図1は、本発明の一実施例における光ディスク装置1のブロック図である。記録媒体である光ディスク101は、例えばDVDやBDである。もちろん、DVD−RやBD−Rのように一回のみ記録が可能な追記型、DVD−RAMやBD−REのような書換え型、DVD−ROMのような読取り専用型のいずれであっても良い。なお、本実施例は特に多層型の光ディスクを使用する際に有効である。装着された光ディスク101は、スピンドルモータ105により所定の回転速度(例えば、データを記録再生する位置において所定の線速度となる回転速度)で回転駆動される。そのためのスピンドルモータ制御信号は、DSP(Digital Signal Processor)109が含むサーボ部113で生成され、増幅器108で電力増幅されたうえでスピンドルモータ105に供給される。なお、サーボ部113が前記スピンドルモータ制御信号を生成するために、回転数検出回路106が設けられており、回転数検出回路106が発生するスピンドルモータ105の回転数を示す信号がDSP109に供給されている。
【0013】
光ピックアップ102は対物レンズ104を介して、レーザ光源123が発生したレーザ光束を光ディスク101の記録層に照射し、データを記録または再生する。
光ピックアップ102は、スレッド機構に搭載されており、スレッドモータ103の回転に伴い、光ディスク101上の半径方向に移動して所定のトラック位置においてデータの記録再生を行う。このためのスレッドモータ制御信号はサーボ部113で生成され、増幅器108で電力増幅されてスレッドモータ103に供給される。
また、対物レンズ104は電磁力を用いたトラッキングアクチュエータ119とフォーカスアクチュエータ120(図1では煩雑化を避けるため、119と120は対物レンズ104を駆動する方向のみ示す)に搭載されている。
【0014】
トラッキングアクチュエータ119には、サーボ部113で生成され増幅器108で電力増幅されたトラッキングアクチュエータ制御信号が供給され、これに基づき対物レンズ104は、レーザ光束が光ディスク101の所定の記録トラック上を正しくトレースするよう、光ディスク101に対する半径方向(トラッキング方向)の位置を微調整される。また、フォーカスアクチュエータ120には、サーボ部113で生成され増幅器108で電力増幅されたフォーカスアクチュエータ制御信号が供給され、これに基づき対物レンズ104は、レーザ光束が光ディスク101の所定の記録トラック上に正しくフォーカスするよう、光ディスク101に対する垂直方向(フォーカス方向)の位置を微調整される。
【0015】
光ピックアップ102が含む光検出器121は、前記レーザ光束の光ディスク101からの反射光を検出し、光ディスク101に記録されていた情報信号を検出して電気信号に変換する。検出された情報信号は信号処理部107に供給される。信号処理部107は、AFE(Analog Front End)回路とも呼ばれる回路ブロックを有し、AFE回路は、ディジタル記録であっても本質的にはアナログ信号として扱うべき段階における前記情報信号の処理を行う。即ち信号処理部107は、前記情報信号を演算処理して、例えばトラッキングエラー信号116とフォーカスエラー信号117を生成し、DSP109が含むサーボ部113に供給する。サーボ部113は、供給されたトラッキングエラー信号116とフォーカスエラー信号117に基づきトラッキング用とフォーカス用のサーボ信号、即ち先のトラッキングアクチュエータ制御信号とフォーカスアクチュエータ制御信号を生成し、増幅器108を介して光ピックアップ102に供給し、前記したトラッキング動作とフォーカス動作を制御する。
【0016】
また信号処理部107は、光ディスク101に対して情報信号を記録再生した際の振幅や位相の周波数特性を等化したうえで、等化された情報信号118をDSP109が含むデコーダ部112に供給する。デコーダ部112は、光ディスク101に記録されていた情報信号の再生処理を行う。例えば、光ディスク101に記録する以前に情報信号に施されたデータ圧縮処理とは逆の伸張処理を行い、元の情報信号をデコードする。なお、先の信号処理部107は、DSP109と同じ半導体チップ上に集積されることがある。
【0017】
以上述べた光ディスク装置1の動作は、マイコン(マイクロコンピュータ)111が生成する制御信号に基づいて行われる。なお、マイコン111もDSP109と同じ半導体チップ上に集積されることがある。以下では、マイコン111を制御部111と記述することがある。
【0018】
また、例えばユーザからの動作指令などは、光ディスク装置1の上位装置であるホストコンピュータ2で生成される。ホストコンピュータ2で生成された指令信号は、DSP109が含むI/F(インタフェース)部110が上位装置と光ディスク装置1の間の通信を仲介することで伝達される。
【0019】
前記デコーダ部112でデコードされた情報信号は、I/F部110を介してホストコンピュータ2に供給される。また、光ディスク装置1が情報信号を光ディスク101に記録する機能を有する場合は、逆にホストコンピュータ2からI/F部110を介して供給された情報信号は、信号処理部107が有する記録信号処理回路で所定の変調動作と記録符号化が施された後、光ピックアップ102が発生するレーザ光束を介して光ディスク1の記録トラックに記録される。
【0020】
また、先の光ピックアップ102はFMD(Front Monitor Diode)122を有し、FMD122は光ピックアップ102が有するレーザ光源123の発生したレーザ光のパワーを示すFMD信号115を生成して、DSP109に供給する。DSP109のサーボ部113は、FMD信号115に基づき後記するようなAPC(Automatic Power Control)制御を行う。即ち、レーザ光のパワーが、その時点の動作モードにおける所定値となるよう前記レーザ光源123を制御する。
【0021】
先のトラッキングエラー信号116には、信号処理部107で生成された例えばDPD(Differential Phase Detecting)信号、DPP(Differential Push-Pull)信号が含まれている。先のフォーカスエラー信号117には、信号処理部107で生成された例えばDAD(Differential Astigmatism Detection)信号が含まれている。
【0022】
図2は、多層のBDにおける読取り時のレーザ光のパワーを示す図であり、その値はサーボ部113からアクセスできる不揮発メモリを用いた記憶部(図示せず)に記憶されている。BD−Rの3層及び4層、BD−REの3層ディスクの例を示しているが、光ピックアップ102から遠い記録層(LO層が最も遠い)ほどレーザ光のパワーが大きい。例えば、BD−REの3層ディスクのLO層を読取り中にサーボ制御が外れ、1.44mW級のパワーのレーザ光がL2層に焦点を結んだ場合には、L2層の情報データが誤って消去される恐れがある。
【0023】
本実施例はこの問題に鑑み、光ディスク装置において多層の光ディスクから情報データを読取る際にサーボ外れが発生した場合、まずサーボ外れを検出し、レーザ光源123が発生するレーザ光のパワーを、いずれの記録層においても情報データを誤って消去しない値に低減することを一つの特徴としている。
その後、このパワーのレーザ光が焦点を結んだ記録層から現在の光ディスク上のアドレスを読取り、前記記録層に対して定められた値にレーザ光のパワーを再度設定して、再生動作を継続することを一つの特徴としている。これにより、サーボ外れが起こった際のリカバリを早めることを狙いとしている。
なお、前記したAPC制御を行っている場合には、レーザ光のパワーを低減し、また再度設定するためには、APC制御の目標値を変更し、或いは制御ループ内に加えるオフセット量を変更すると良い。
【0024】
次に、サーボ外れを検出してレーザ光のパワーを低減する処理について詳しく説明する。
図3は、一実施例におけるサーボ外れ時のレーザ光のパワー変更処理を示すフロー図である。このフローは再生動作が開始されるとともに開始され、再生動作が停止されるまで継続される。
【0025】
ステップS31でサーボ部113は、フォーカスエラー信号117の波形をモニタする。次にステップS32でサーボ部113は、フォーカスエラー信号117の振幅が所定の閾値よりも大きいか否かを判定する。前記振幅が閾値よりも大きいと判定された場合には(図中のyes)、サーボ部113はサーボが外れたと判断してステップS33に到る。前記振幅が閾値以下と判定された場合には(図中のno)、サーボは外れておらず、そのまま再生動作を続けて良いので、ステップS31に戻って前記波形のモニタを継続する。
【0026】
ステップS33ではサーボ部113は、光ピックアップ102が有するFMD122により検出されている現在のレーザ光のパワー値を取得する。次にステップS34でサーボ部113は、現在のレーザ光のパワー値が所定の最小値であるか否かを判定する。ステップS34での判定の結果、現在のレーザ光のパワー値が所定の最小値である場合には(図中のyes)、そのままフローを終了して図5に示す次のフローに到る。現在のレーザ光のパワー値が所定の最小値でない場合には(図中のno)、ステップS35でサーボ部113は光ピックアップ102に指示して、レーザ光のパワー値を所定の最小値に変更したうえで図5に示す次のフローに到る。このため、サーボ外れを起こした際に光ディスク101に記録された情報データが誤って消去される問題を解消することができる。
【0027】
ステップS34におけるレーザ光パワーの所定の最小値とは、例えば再生時のレーザ光のパワーが最も小さい値に規定されている記録層に対するパワー値であって良い。例えば図2に示すように、この最小のパワー値は、使用する光ディスクが3層または4層のBD−Rであれば1.10mWであり、3層のBD−REであれば1.0mWである。このように光ディスクの種類により、最小のパワー値が異なっている。
【0028】
前記したとおり、本実施例は第1にサーボ外れの際に記録層に記録されていたデータが誤消去されないようにすることを目的としている。この場合、ステップS34でレーザ光の再生パワーを0にしても目的を達成できる。しかし、本実施例では0ではなく、所定の最小値とした理由は、後に図5において説明するように、サーボ外れが起こった際のリカバリを早めるためである。
【0029】
ステップS35でレーザ光のパワー値を変更する方法については、後に詳しく説明するが、サーボ部113が光ピックアップ102に供給するレーザ光源駆動電流にオフセットを与える方法、前記FMD122によるAPC制御における目標値を変更する方法、及びこれら二つを組合せる方法がある。
【0030】
ステップS32でサーボ外れを検出する方法として、フォーカスエラー信号117の振幅に基づく方法を述べた。本実施例では、サーボ外れにより目標とした記録層以外の記録層にレーザ光が焦点を結ぶことを避けるために、フォーカスエラー信号117を用いた例を示した。しかし、トラッキングエラー信号116の振幅に基づく方法を用いても目的を達成することができる。また、光検出器121が検出した全光量を表す信号、即ちPE(Pull-in Error)信号が所定値以下に低下したことで、フォーカスサーボ外れを検出することもできる。
【0031】
ここで、ステップS32でサーボ外れをトラッキングエラー信号、フォーカスエラー信号に基づいて検出する方法の一例を、図4Aと図4Bを用いて説明する。
図4Aは、一実施例におけるトラッキングサーボ外れの検出方法を示す図である。また、図4Bは、一実施例におけるフォーカスサーボ外れの検出方法を示す図である。
【0032】
図4Aに示すようにトラッキングエラー信号116は、前記したDPD信号、DPP信号のいずれにおいても、サーボロック時には僅かな振幅の信号であるが、サーボ外れ時には記録トラックを過ぎることに係る大振幅のAC信号となる。したがい、図中に示すように正方向と負方向の閾値を設けてトラッキングエラー信号と比較し、前記閾値を越す成分が現れた場合に、サーボ部113はトラッキングサーボ外れと判定し、サーボ外れを示す論理信号を発生させることができる。
【0033】
図4Bに示すようにフォーカスエラー信号117においても、例えば前記したDAD信号において同様なサーボ外れの検出ができる。フォーカスサーボが外れた際のフォーカスエラー信号は前記したトラッキングエラー信号とは異なり、AC信号の繰返しとは異なるが、やはり所定の閾値を設定することでサーボ外れを検出して論理信号を発生させることができる。
【0034】
次に、図3のフローを終了した後の復帰方法について説明する。
図5は、一実施例におけるサーボ外れ後のレーザ光のパワー復帰処理を示すフロー図である。ステップS51で制御部111は、DSP109に指示してレーザ光が照射される記録層から現在のアドレスを取得させる。
【0035】
ここでは図3で説明したとおり、レーザ光のパワーは0ではなく所定の最小値となっている。各記録層に記録されたデータを読取るためには、図2で示したパワーが必要である。例えば3層のBD−Rの場合、レーザ光のパワーが所定の最小値1.10mWであれば、L0層やL1層に記録されたデータを読取ることは困難である。しかし、L0層やL1層のアドレスを読取ることは可能なことが多い。アドレスはデータと異なり、各記録層の記録トラックのランドやグルーブが有するウォブルから読取られる。このため、レーザ光のパワーが所定値より小さくとも、現在のアドレスを取得することができる。
サーボ外れの際に、従来はレーザ光のパワーを0とし、対物レンズ104を所定の初期位置に一旦戻してから再度フォーカスサーボをかける動作を含め、再生動作を再起動するようにしていた。このため、リカバリに要する時間が長いという問題があった。しかし、本実施例ではレーザ光のパワーを0ではない所定の最小値として、記録されているデータを誤消去することなく、現在のアドレスを取得しているため、リカバリに要する時間が大幅に短縮されるという特徴がある。
【0036】
次にステップS52でDSP109は、前記アドレスの取得に成功したか否かを判定する。
ステップS52での判定の結果、前記アドレスの取得に成功したと判定された場合には(図中のyes)、ステップS53に到りサーボ部113は、取得したアドレスに基づき一つの記録層を特定し、該記録層に対して例えば図2に示す規格で規定されるパワー値を前記した記憶部(図示せず)から取得する。次いでステップS54でサーボ部113は、FMD122が検出する現在のレーザ光のパワー値を取得する。さらにステップS55でサーボ部113は、ステップS54で取得した現在のレーザ光のパワー値が、ステップS53で取得した規格で規定するパワー値と等しいか否かを判定する。
【0037】
ステップS55での判定の結果、現在のレーザ光のパワー値が規格で規定するパワー値と等しいと判定された場合には(図中のyes)、現在のレーザ光のパワー値で問題ないため、そのままフローを終了する。現在のレーザ光のパワー値が規格で規定するパワー値と異なると判定された場合には(図中のno)、ステップS56でサーボ部113は、レーザ光源123が発生するレーザ光のパワー値を、規格で規定するパワー値に変更して、フローを終了する。
【0038】
なお、ステップS52での判定の結果、前記物理アドレスの取得に失敗したと判定された場合には(図中のno)、そのままフローを終了し、制御部111は再生動作をリセットして再度立ち上げる。この場合は、アドレスを取得するためにレーザ光のパワーを上昇させると、記録層に記録されているデータを誤消去する恐れがあるため、安全のため再生動作をリセットする。
【0039】
次に、レーザ光のパワーのAPC制御に関して説明する。
図6Aと図6Bは、一実施例におけるAPC回路を示すブロック図である。該APC回路は、サーボ部113が含んでいる。前記したようにレーザ光のパワーを低減し、また再度設定する際には、APC制御の目標値を変更する方法と制御ループ内に加えるオフセット量を変更する方法がある。APC制御の目標値はサーボ部113自身が入力端子61に供給し、またオフセット量はサーボ部113自身が入力端子63に供給する。出力端子66からは、光ピックアップ102に対してレーザ光源123のパワーを制御する信号が供給される。
【0040】
光ピックアップ102が含むFMD122は、出力端子606からの制御信号に応じて発生されたレーザ光のパワーの検出信号を、差動入力を有するオペアンプ62の一方の入力端子に供給する。このフィードバックループの作用により、前記検出信号の値と、入力端子61から入力されオペアンプ62の残る一方の入力端子に供給された目標値が略一致するため、前記目標値を適宜設定することにより、レーザ光のパワーを所定値とすることができる。
【0041】
また、入力端子63から与えられたオフセット量を、加算器64で前記フィードバックループ内に加算することによっても、レーザ光のパワーを設定することができる。図6Aと図6Bでは、前記オフセット量を加算するための加算器64の位置が異なるが、動作自体は同様である。
本実施例では、入力端子61に供給する目標値、入力端子63に供給するオフセット量のいずれを変化させてレーザ光のパワー値を制御しても良く、また双方を変化させて制御しても良い。入力端子61に供給する目標値を変化させる場合は、フィードバックループの時定数だけ応答が遅れるため、一般には入力端子63に供給するオフセット量を変化させる方が応答を早くすることができる。
【0042】
実際のレーザ光のパワーは、レーザーノイズ低減のために高周波重畳が施され、図2で示した直流値(平均値)近傍を中心として、略正弦波状に変化する。例えば入力端子63に供給されるオフセット量を変化させることで、レーザ光のパワーが変化される。
図7は、一実施例におけるレーザ光パワーの波形図である。図7の(a)は、3層のBD−REの記録層L2からデータを読取る際の波形例であり、レーザ光のパワーは1.1±0.8mWの範囲で変化している。一方、サーボ外れがあってレーザ光のパワーを前記した所定の最小値とする場合には、データを誤消去する危険を低減するため、パワーを低減すると良い。例えば図7の(b)に示すように1.0±0.8mWとすると良い。
【0043】
以上で説明したとおり、本実施例によれば多層ディスクにおけるサーボ外れによるデータの誤消去を低減した光ディスク装置を提供することができる。また、サーボ外れの後のリカバリを早める特徴もある。
ここまで示した実施形態は一例であって、本発明を限定するものではない。本発明の趣旨に基づきながら異なる実施形態を考えられるが、いずれも本発明の範疇にある。
【符号の説明】
【0044】
1:光ディスク装置、2:ホスト装置、101:光ディスク、102:光ピックアップ、107:信号処理部、109:DSP、111:制御部、113:サーボ部、122:FMIC、123:レーザ光源。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光を用いて複数の記録層を有する光ディスクに記録された情報データを再生する光ディスク装置であって、
前記レーザ光を発生するレーザ光源と、前記光ディスクの記録層に前記レーザ光を照射する対物レンズと、該対物レンズの前記光ディスクの記録層が有する記録トラックに対する垂直方向位置を微調するフォーカスアクチュエータと、前記対物レンズの前記光ディスクの記録層が有する記録トラックに対する半径方向位置を微調するトラッキングアクチュエータと、前記レーザ光の前記光ディスクからの反射光を検出して前記光ディスクの記録層が有する記録トラックに書込まれた情報データを読取り電気信号に変換して出力する光検出器を有する光ピックアップと、
前記対物レンズの前記光ディスクの記録層が有する記録トラックに対する垂直方向位置を微調するための第1の駆動信号を生成して前記フォーカスアクチュエータに供給し、前記対物レンズの前記光ディスクの記録層が有する記録トラックに対する半径方向位置を微調するための第2の駆動信号を生成して前記トラッキングアクチュエータに供給し、また前記レーザ光源が発生するレーザ光のパワーを調整する第3の駆動信号を生成して前記光ピックアップに供給するサーボ制御部と、
前記光ピックアップから出力された電気信号を処理し、前記対物レンズの前記光ディスクの記録層が有する記録トラックに対する垂直方向位置の誤差を示すフォーカスエラー信号と前記対物レンズの前記光ディスクの記録層が有する記録トラックに対する半径方向位置の誤差を示すトラッキングエラー信号を生成して、前記サーボ制御部に前記第1と第2の駆動信号を生成させるため供給する信号処理部を有し、
前記サーボ制御部は、前記対物レンズの前記記録トラックに対する位置に係るサーボ制御が外れた場合には、前記レーザ光のパワーを、前記複数の記録層のなかで最も小さいパワーで前記情報データを読取る記録層に対して規定されたパワーに設定するよう、前記第3の駆動信号を生成して前記光ピックアップに供給することを特徴とする光ディスク装置。
【請求項2】
請求項1に記載の光ディスク装置において、前記サーボ制御部は、前記対物レンズの前記記録トラックに対する位置に係るサーボ制御が外れた場合に、前記レーザ光のパワーを、前記複数の記録層のなかで最も小さいパワーで前記情報データを読取る記録層に対して規定されたパワーに設定した後、前記記録層が有する記録トラックから読取ったアドレス情報に基づき前記記録層を特定して、前記レーザ光のパワーを、特定された記録層に対して規定された値に再設定するよう、前記第3の駆動信号を生成して前記光ピックアップに供給することを特徴とする光ディスク装置。
【請求項3】
請求項1に記載の光ディスク装置において、前記サーボ制御部は、前記トラッキングエラー信号、または前記フォーカスエラー信号の振幅に基づき、前記対物レンズの前記記録トラックに対する位置に係るサーボ制御が外れたことを検出することを特徴とする光ディスク装置。
【請求項4】
請求項1に記載の光ディスク装置において、前記光ピックアップは、前記レーザ光のパワーを検出するFMDを有し、前記サーボ制御部は、前記対物レンズの前記記録トラックに対する位置に係るサーボ制御が外れた場合には、前記FMDが検出する前記レーザ光のパワーに基づいて前記レーザ光のパワーを、前記複数の記録層のなかで最も小さいパワーで前記情報データを読取る記録層に対して規定されたパワーに設定するよう、前記第3の駆動信号を生成して前記光ピックアップに供給することを特徴とする光ディスク装置。
【請求項5】
レーザ光を用いて複数の記録層を有する光ディスクに記録された情報データを再生する光ディスク装置のレーザ光のパワー制御方法であって、
前記記録層に対する前記レーザ光のサーボ制御が外れたことを検出するサーボ外れ検出ステップと、
該サーボ外れ検出ステップでサーボ外れが検出された場合には現在の前記レーザ光のパワー値を取得する第1のパワー取得ステップと、
該第1のパワー取得ステップで取得された前記レーザ光のパワー値が前記複数の記録層のうち最も小さいパワーではない場合には、前記レーザ光のパワー値を前記最も小さいパワー値に設定する第1のパワー設定ステップと、
該第1のパワー設定ステップで設定されたパワーのレーザ光を用いて前記記録層における現在のアドレスを取得するアドレス取得ステップと、
該アドレス取得ステップで取得された前記アドレスに基づき前記記録層を特定して該記録層に対して規定された前記レーザ光のパワー値を取得する第2のパワー取得ステップと、
該第2のパワー取得ステップで取得されたパワー値が前記レーザ光の現在のパワー値と異なる場合には、前記レーザ光のパワー値を第2のパワー取得ステップで取得されたパワー値に設定する第2のパワー設定ステップを有し、
前記サーボ外れが検出された際にもサーボ制御を継続して前記情報データを再生することを特徴とする光ディスク装置のレーザ光のパワー制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−146370(P2012−146370A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−5182(P2011−5182)
【出願日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【出願人】(501009849)株式会社日立エルジーデータストレージ (646)
【Fターム(参考)】