説明

光ディスク装置及びPLL回路

【課題】PLL回路の安定化を図ることによって,良好な再生性能を実現する光ディスク装置を提供する。
【解決手段】FIRフィルターの前後の信号に対して,それぞれ位相検出器を設け,PLLの動作状況に応じて,それらを選択的に使用することにより,PLL回路の動作の安定化を図る。
【効果】ビタビ復号器の動作限界を引き出すように再生性能を向上した光ディスク装置を提供することができた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,記録媒体上に物理的性質が他の部分とは異なる記録マークを形成し,情報を記録または再生する光ディスク装置、及びそれに用いられるPLL回路に関する。
【背景技術】
【0002】
光ディスクはCD,DVDが普及し,青色レーザを用いた次世代光ディスクの開発も進んでおり,さらなる大容量化が求められ続けている。また,1台の光ディスク装置でCDを再生するだけでなく,CDとDVDの再生,CD-R/RW,DVD-RAM,DVD-R/RWの記録機能をもったスーパーマルチドライブが製品化されており,今後の主流製品になると考えられている。
【0003】
PRML(Partial Response Maximum Likelihood)法は,S/N比の改善効果が秀逸であるため磁気ディスクの大容量化手段として広く普及している。PRML法は連続するN時刻の再生信号と目標信号を比較しながら,最も確からしいビット列に2値化するものである。ML法の1つであるビタビ復号法は回路規模が大幅に削減できるため,広く実用化されている。光ディスクの再生方法としては,古くからダイレクトスライス法が用いられて来たが,高速化,大容量化には限界が見えている。このため光ディスクの再生手段としてもPRML法が応用されつつある。
【0004】
光ディスク向けのPRML法を一例として,特開平11−296987公報では,再生信号のレベルに合わせて適応的にビタビ復号器の目標信号レベルを追従させる技術が示されている。図2は目標レベルが設定可能なビタビ復号器の構成を示す。ビタビ復号ユニット40ブランチ・メトリック演算ユニット41,ACS(Add Compare Select)ユニット42,パスメモリ43,目標レベルテーブル44,および目標レベル学習ユニット45から構成される。等化処理された等化信号53はブランチ・メトリック計算ユニット41内でビット列ごとに目標レベルとの2乗誤差値(ブランチ・メトリック値)が算出される。このとき目標レベルは目標レベル・テーブル44より指示される。ACSユニット42では,1時刻前のステート及び各ステートにおけるステート・メトリック値(ステートの遷移にともないブランチ・メトリック値を逐次加算して,かつ発散しないように処理したもの)に各ビット列に対応したブランチ・メトリック値を加える。このとき,現在の時刻のステートに至る遷移過程(通常は2つ,ランレングス制限により1つの場合もある)の中から,ステート・メトリック値の小さい方を選択する処理を行う。ステートとは1時刻の遷移に対して保存するビット列のことで,例えば拘束長が4のPRクラスの場合には,ビット列が4ビット,ステートが3ビットで表される。パス・メモリ43にはビット列ごとに複合された2値化結果が十分長い時刻分だけ保存されている。ACSユニット42は遷移過程の選択処理の時に,パス・メモリに蓄えられた情報をステート・メトリック値の選択結果に応じて再配列する。こうした処理を繰り返すことによって,パス・メモリ内の情報は次第に統合されて,十分長い時間後には,ビット列に依らず同じ値になる,所謂パス・マージが完結する。2値化結果51は時刻ごとにパス・メモリの終端から取り出された2値化情報である。目標レベル学習ユニット45では2値化結果51から拘束長と等しい長さビット列を取り出し,ビット列ごとに等化信号53を平均化して,目標レベル・テーブル44に格納される目標レベルを更新する機能をもつ。また目標レベル・テーブル44には,CPUからのプリセット値設定指令56を受けて,予め設定されたビット列ごとの目標レベル値が設定可能な機能もある。
【0005】
前述のADコンバータは再生信号からPLL(Phase Locked Loop)回路を用いて生成されたクロック信号に同期してデジタル信号列への変換を行う。したがって,PRML法においてはPLLからの安定したクロックの生成が安定した2値化を実施するための前提条件となっている。
【0006】
青色レーザを用いた次世代光ディスクの一例として,Blu-ray Discレコーダーとして記憶容量23.3GB/25GBのものが製品化されており,今後さらなる大容量化が進むと期待されている。Blu-ray Discに対応した光ディスク装置やされに大容量化が進んだ光ディスク装置では,最短ラン長信号の振幅が著しく低下した場合、PLLが生成するクロック精度の低下や正しいエッジ判別を行えないなどの問題を生じる。
【0007】
最短ラン長信号の振幅低下に起因するPLLの不安定化を解決する技術として,例えば特許公開2002−175673公報(対応USP6788484)や特開平10−172250公報にあるようにPLLの前段に符号の仮判別をする手段を挿入する方法が知られている。また、特許公開2000−182335公報にあるように、0レベル以外の他のターゲットレベルで位相検出を行う方法も知られている。
【0008】
【特許文献1】特開平11−296987
【0009】
【特許文献2】特開2002−175673
【特許文献3】特開平10−172250
【特許文献4】特開2000−182335
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、特開2002−175673公報や特開平10−172250号に記載された方法では、複雑で高速動作が要求される回路の規模が大きくなる上に,当該部分で生じる遅延によりPLLの引き込み動作時の位相余裕を狭めるという新たな問題を生じる。
また、特開2000−182335の方式も,CD/DVD/Blu-ray Disc等の再生信号の特性の異なる複数の光ディスクに対応させるためには,回路規模が大きくなるという課題がある。
【0011】
前述のように,PRML法を用いた光ディスク装置で良好な再生を実現するためには,PLLの安定動作が欠かせない。ところが従来のPLL安定化手法は,回路の遅延が大きくなったり,規模が大きくなったりするため改善の余地がある。
【0012】
本発明の目的はPRMLを搭載する光ディスク装置であって,PLL回路の安定化を図ることによって,良好な再生性能を実現する光ディスク装置を提供することにある。
尚、本発明では、Blu-ray Discに用いられる最短ラン長が2Tの再生信号を中心にして論旨を進めるので,特に断りのない限り最短ラン長は2Tである。また,主にAD変換後の信号を対象としているので、以下に於いては、特に断らない限り単に再生信号などと表現した場合、AD変換後のデータを指すものとする。ただし、文脈上明らかな場合は、この限りでない。
【課題を解決するための手段】
【0013】
以下,Blu-ray Discの再生信号を例にして,シミュレーションにてPLLの安定動作の条件を考察した後,課題を解決する手段をまとめる。
図3は一般的な光ディスクの再生回路の構成を示す。図において,光ヘッドから得られた再生信号50はアナログ信号処理器10により,AGC/等化/ローパスフィルター等の処理が施された後,ADコンバータ21でデジタル・データ列に変換される。スライサー22では再生信号に含まれるDC成分を補正する処理を行う。その後,FIRフィルター23では再生信号をビタビ復号器40の動作は前述のとおりである。PLL30は,位相比較器31,ローパスフィルター33,VCO(voltage controlled oscillator)34から構成される。位相比較器31は入力信号とVCO34の生成するクロック52との位相を比較して位相誤差を生成する。
【0014】
図4は3時刻方式の位相比較器の動作原理を示したものである。ここで、n時刻方式とは、現時刻を含めT間隔でn時刻の値を用いることを意味する。ここで、TはADCに於けるサンプリング間隔、すなわち、クロックの周波数の逆数である。今、非対称性、直流オフセットのいずれも0である再生信号を考え、その包絡線の中心値を信号レベルの基準、即ち0と定義する。そして、3時刻方式であれば、再生信号列{y(t), y(t-1), y(t-2)}のうちy(t)とy(t-2)の符号が互いに異なる場合、ゼロレベルを横切っていることになり、これをエッジと呼ぶ。なお、ここでx(n)は時刻nに於いてサンプリングされた再生信号の値である。同様にして、2時刻方式であれば、y(t)とy(t−1)の符号が異なる場合がエッジである。PLLと入力信号の位相が完全に一致していた場合、入力信号は、図の位相差が無い場合に示したように時刻(t-1)Tでゼロ点をクロスするものとする。この場合、エッジ信号列の時刻tTと(t-2)Tの値は絶対値が同じで互いに異符号となる。ここでは、その値が{-1, 0, 1}であったとする。仮に、クロック信号の位相が進んだ、つまり、入力信号の位相がクロック信号に対して時間にしてΔT遅れていたとすると、入力信号は、図中の実線表示した軌跡を描く。これを各時刻に於いてADコンバータでサンプリングすると時刻tTと(t-2)Tにおける値の絶対値は、図の例で言えば{-0.7, 0.3, 1.3}の様に互いに異なることになる。反対にエッジの各点の値を用いて再生信号とクロックの位相差を検出できる。これに、上昇エッジか下降エッジであるかの判断を付け加えれば、位相差に比例した値φを得ることができき、3時刻方式であれば、例えば、(数式1)で求めることが出来る。

同様にして、2時刻方式では(数式2)で求めることが可能である。

ただし、

である。また、エッジの検出は、2時刻または3時刻間でのサンプル値の符号遷移を監視することによって行う。
【0015】
このような方式で位相差を検出する場合、前述のように記録密度が高くなって,最短ラン長信号の振幅(分解能)が著しく低下した場合や再生速度を高速にしてアンプノイズ等の影響でジッター値が大きくなった場合に,クロック精度の低下や正しいエッジ判別を行えないなどの問題を生じる。
【0016】
PLLの安定動作の目標値を考察するために,最初にアナログ信号処理器の等化条件について検討する。ここでは,アナログ等化器として広く知られている7次等リップルフィルターを用いることにした。詳細は煩雑なので示さないが,7次等リップルフィルターの等化特性は一般的にブースト量Fbとローパスフィルターのカットオフ周波数Fcによって定まる。Blu-ray Discの再生信号からジッター値が最小になる等化条件を求めた結果を図5に示す。PLLの安定化を考慮してジッター値が最小となる条件として,Fb=10dB,Fc=0.27Fs(FsはPLLクロックの周波数)をアナログ等下器の等化条件として選択した。
【0017】
次に,PRクラスをPR(1,2,2,1)MLとして,アナログ等化器の出力ジッターとビットエラー率の関係を求めた。ここでFIRフィルターは通過(信号をそのまま通す)ものとし,高速再生を前提として,アンプノイズを増減することによって,再生信号のジッター値を変化させた。結果を図6に示す。一般的に光ディスクでは,ビットエラー率が10−4がエラー訂正能力の限界である。従って,アナログ等化器の出力ジッター値約30%がビタビ復号器の再生限界である。逆に言えば,PLLはジッター30%程度まで安定に動作する必要があるということである。一般的にDVDやCDでダイレクト・スライス法により2値化処理を行う場合,ジッター15%程度が再生限界であるから,Blu-ray discのような高密度の1-7変調を用いる光ディスクではPLLの安定動作のジッター上限値が約2倍に引き上げられることになる。これが,本発明において,PLLの安定化を実現しなければならない理由である。
【0018】
図7は上と同じビタビ復号器において,クロックの位相とビットエラー率の関係を示すものである。クロックの位相は直流的に変化するものとし,アンプノイズの大きさを変化させてシミュレーションした。PLLの不安定性をクロックの位相として考えると,ビットエラー率の増加を10倍以下にするためには,位相ずれが0.1Tw以下である必要がある。これが,PLL安定動作の制限条件である。
【0019】
図8はPLLの入力信号のジッター値と位相誤差のRMS値の関係のシミュレーション結果である。ここでは,位相誤差検出器を2時刻方式とし,ローパスフィルターは256Twの移動平均フィルターと2次系を構成するために適当な位相誤差の積分値をフィード・バックする構成とした。ここで,位相誤差のRMS値は,理想クロックとVCOの出力クロックとの位相差とのRMS値を算出したものである。上の考察から,位相誤差のRMS値の上限と10%とすると図より入力信号のジッター値の上限が約22%であることが判る。
【0020】
以上から,ビタビ復号器の動作限界がアナログ等化器の出力ジッター値で30%であるのに対して,PLLの安定動作条件は入力信号のジッター値が22%以下であることが判った。従って,図3のように基本的にアナログ等化器の出力信号をPLLの入力信号として使う方式では,PLLの不安定化がボトル・ネックになってビタビ復号器の性能を十分に活かせないことが判った。本発明の課題を定量化すれば,位相検出器の入力信号のジッター値を8%(30%-22%)以上低減することである。
【0021】
次に,FIRフィルターによってジッター値をどこまで改善できるかについて考察する。アナログ等化器は群遅延を発生させないようにするために,等化特性を自由に設定できないという問題がある。光ディスクへの応用を考えた場合,規格書などに記載されている標準的な等化特性を複数規格の光ディスクに対して設定することが重要であることも等化特性を限定する1つの要因である。一般に,FIRフィルターはアナログ等化器の出力信号をビタビ復号器の目標信号に近づけるように等化処理し良好な再生性能を得るために用いられている。前述のように,CD/DVD/Blu-ray Disc等の密度の異なる光ディスクを1台のドライブで再生するためには,固定のPRクラスを持ったビタビ復号器よりも,図2に示したような再生信号にあわせて適応的に目標信号レベルが追従する方式のビタビ復号器が適するのは言うまでもない。よく知られているようにFIRフィルターはデジタル等化器であって,タップ数を大きくすることによって周波数特性を比較的自由に選択することができる。この特性を使えば,FIRフィルターを使って再生信号のジッター値を小さくすることも可能である。従って,FIRフィルターを用いて再生信号のジッター値を小さし,これを位相誤差検出器の入力信号として用いれば,アナログ等化器の出力ジッターが大きくても,PLLの安定動作を実現することが可能である。
【0022】
FIRフィルターのタップ係数は自動等化技術によって定めることが一般的である。自動等化技術の1つとしてLSE(Least Square Error)法もしくはLMS(Least Mean Square)法としてよく知られた方法がある。これは目標信号と等化信号の誤差の2乗誤差値が最小になるように逐次的にタップ係数を更新する手法である。
【0023】
LSE法の目標信号をPR(1,2,2,1)MLの目標信号であるとして,FIRフィルターのタップ数と出力信号のジッター値の関係を算出した結果を図9に示す。ここで,FIRフィルターは連続n時刻のタップを持ち,入力信号としては図6で説明したようにアンプノイズを変化させてジッター値を変えたものを用いた。図に示すように,FIRフィルターのタップ数を増加させるほど,出力信号のジッター値が減少することが判る。図に見られるようにジッター値の改善量は,ジッター30%の場合に約8%であり,前述の目標を達成することができた。
【0024】
図10は上の結果におけるFIRフィルターのタップ係数の値をまとめたものである。ここで求めた値はソフトウェア処理により浮動小数点の倍精度実数値として求めたものをまとめた。LSI化をするに際しては,回路規模と処理速度の効率化の観点から固定小数点の実数値(整数値nを512等の2の固定値で割ってn/512等で表す方がさらに効率的である)とする方がよい。
【0025】
図11は上の結果におけるFIRフィルターの周波数特性をまとめたものである。これは各タップ係数からインパルス・レスポンスを求め,フーリエ変換して周波数特性を求めることで平易に算出可能である。
【0026】
以上の検討から,FIRフィルターを用いてジッター値を改善し,これをPLLの入力信号に用いることによって,PLLの安定性を向上することができた。本発明により,PLLの安定度を改善するという課題を解決し, PRMLを搭載する光ディスク装置の再生性能を向上することが可能になった。
【発明の効果】
【0027】
本発明によって安定したPLL回路と実現し,これを用いてビタビ復号器の動作限界を引き出すことが可能になり,良好な再生性能を有する光ディスク装置を提供することができるようになった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下本発明の詳細を,実施例を用いて説明する。
【実施例1】
【0029】
FIRフィルター
FIRフィルターのタップ数が奇数の場合については既に述べた。ここではタップ数が偶数の場合について説明する。
【0030】
図12はFIRフィルターのタップ数が偶数の場合のタップ係数の値をまとめたものである。具体的にタップ数を2,4,6,8,10,12,14,16,18の場合について,上と同様にPR(1,2,2,1)MLから目標信号レベルを算出して,LSE法で求めたものである。
【0031】
図13はFIRフィルターのタップ数が偶数の場合に,ケース1からケース5のタップレイアウトにおいて,FIRフィルターによるジッター改善量を算出した結果である。図に示すように,FIRフィルターのタップが不連続の場合でも,同様にジッター改善効果があり,回路規模を小さくできる利点がある。ケース3のように中心から6連続してタップを配置することにより,連続18タップの場合を理想的な性能とした場合に,これに最も近いジッター改善効果が得られる。これは中心から連続6タップで良好なローパスフィルターを構成できるからである。
【0032】
図14はFIRフィルターの入力と出力信号を示したものである。このように,FIRフィルターのタップ数が偶数の場合でも信号品質の改善ができる。
【0033】
次に,光ディスクの透明基板の厚さがヘッドの設計値からずれて,球面収差が発生している場合について示す。ここではヘッドの波長を405nm,開口数を0.85,光ディスクの基板厚さの中心値を100μmとして,基板厚さのずれΔdが0,5,10,15,20μmの各場合について,FIRフィルターのタップ数とビットエラー率の関係を計算した結果を図15に示す。図からΔdが10μmを超えるとビットエラー率が増加するが,FIRフィルターのタップ数が十分に大きければ,球面収差によって発生した信号の歪を補正してビットエラー率を改善できることが判る。各タップ係数の学習には同様にLSE法を用いた。
【0034】
図16は図15と同様に基板の厚さが変化した場合にFIRフィルターのタップ数とビットエラー率の関係を計算した結果である。ここでは,各タップ係数の学習に標準のLSE法ではなく,再生信号のエッジを判定して,エッジ部のみでタップ係数の学習処理を行うエッジ・フォーカス・LSE法を用いた。目標信号レベルは通常ゼロであることが多いから,エッジ・フォーカス・LSE法の利点はPRクラスにエッジ部を判定してその信号レベルがゼロに近づくように各タップ係数の更新を実施することで,目標信号レベルの算出処理を簡素化し,回路規模を縮小できることにある。図に見られるように,この方法でも同様にビットエラー率の改善効果が見られる。
【0035】
図17は図15の結果において,FIRフィルターのタップ係数をまとめたものである。
【0036】
図18は図15の結果において,基板厚ずれが20μmでタップ数が19の場合のFIRフィルターの入出力の信号を示すものである。FIRフィルターによって信号品質が改善されていることが判る。
【実施例2】
【0037】
PLL回路及び位相検出回路
図1は本発明の再生信号の復号回路の構成を示すものである。図示していない光ヘッドで検出したRF信号50はアナログ等化器10で等化処理とAGC処理が施された後,デジタル信号処理部20に入力する。デジタル信号処理部20内では,入力したRF信号をADコンバータ21でクロックごとにデジタル信号化した後,スライサー22でDC補正を施し,FIRフィルター23でデジタル等化されてビタビ複号器40によって2値化され,2値化出力51として取り出される。ビタビ復号器40の内部構成については,再生信号とビット列とPRクラスの畳み込みから生成される目標信号とを比較して,誤差が最小になるビット列を選択して2値化するものである。上に述べたFIRフィルターのタップ係数の学習処理はLSE制御部24により実施される。クロック信号52を生成するPLL(Phase Locked Loop)回路30は2つの位相検出器PD1,PD2(それぞれ31,32)とセレクター35及びローパスフィルター33,VCO(Voltage Controlled Oscillator)34,ロックモニター30から構成される。本構成の特徴はADコンバータ21の後とFIRフィルター23の後の2つの信号に対して,それぞれ位相検出器31及び32を設け,セレクタ35で選択して使うことである。この理由を次に説明する。
【0038】
FIRフィルター23で再生信号の品質を改善できることは既に述べた。AD変換してから位相検出器31で位相を検出した結果に基づいてVCO34を制御するまでの応答遅れをt1とする。またAD変換してからFIRフィルター23で等化処理した後の再生信号から位相検出器32によって位相誤差を検出し,VCOを制御してクロック信号52に反映するまでの応答遅れをt2とする。図1の構成を見ても明らかなように,t2はt1に比較して大きいため,クロックの引き込み処理などのように,PLLループの応答速度が重要な場合において,位相検出器32を用いた場合には,引き込み失敗が発生する可能性が高い。本構成の特徴はこのように,応答速度が重要な場合には,最短のパスである位相検出器31を用いてVCOを制御し,引き込み後の定常動作のように安定性が重要な場合には,位相検出器32を用いるように,セレクター35で切り替えることである。セレクター35の制御は外部のCPU140からモード選択信号54により実施することができる。また,ディスク上の欠陥等,CPU140では対応できない場合に対応するため,ロックモニター36により,位相誤差のRMS値を監視して,これによって自動的にモード切替え信号54を生成してセレクター35の動作を制御するように配慮することも重要である。
【0039】
図19は位相比較器の位相検出方法を示したものである。図に示すように,サンプリング点(クロック)が再生信号のエッジに同期した場合でも,1/2クロックずれた場合でも,エッジのレベル(ゼロ点からのずれ)を位相誤差と等価な量として扱うことによって,位相検出をすることができる。図1の位相検出器PD1とPD2にはどちらかの構成を採用すればよい。
【0040】
図20は図1の構成におけるPLLロックモニターのロック状態検出の方法を示す実施例である。前述のようにPLLの安定度を測定する手法として位相誤差のRMS値を使うことが有効である。しかしながら,RMS値の算出処理では2乗値の算出等を必要とするため回路規模と消費電力の増大が問題となる。そこで,本実施例ではRMS値の算出の代わりに,位相誤差の絶対値を算出した後,その平均値を取る方法を示した。2乗値の算出には高速な掛け算器が必要であるが,絶対値の算出の場合には符号ビットを正の値を示すように強制設定することによって簡便に値を得ることができる。また,ここに示した平均化処理は256サンプルの移動平均によるものであるが,IIRフィルターを用いても同様な値を算出することができる。図の構成により,位相誤差信号55からロックモニター信号56を得ることができる。本構成のPLLロックモニター信号の生成回路は図1におけるローパルフィルター33の一部として内臓することが可能である。このとき,構成を簡便にするためにVCOの制御のためのローパスフィルターの出力を平均化処理すると,位相誤差が正負で大きく変動しているような場合において,VCOの制御のためのローパスフィルターの出力がゼロ(または平均値)に近い値となって,ロック状態を正しくモニターすることができなくなってしまう。あくまで,絶対値に変換してから平均化処理をすることが重要である。
【0041】
図21は図1の構成において,ロックモニター36がどちらの位相検出器を使うかを自動的に選択する処理のシーケンスを示すものである。一般に,PLLの引き込み過程では図1に示していないワイドキャプチャー機能によって周波数誤差約1%程度までVCOの制御を行い,その後再生信号の位相誤差を検出してVCOにフィードバックする処理に移行する。図ではワイドキャプチャー処理を考慮したPLL引き込み時のシーケンスを示している。基本的にロックモニター信号の値を参照して,これに応じてモードを切り替えることによって,PLLの安定した引き込み動作と定常動作を両立することができる。ここでは引き込み時の処理について示したが,欠陥等によりPLLの動作が不安定になった場合にも,本図のシーケンスを使って,安定状態に復帰することができる。
【実施例3】
【0042】
光ディスク装置
図22は本発明の光ディスク装置の構成を示す実施例である。光ディスク媒体100はモータ160により回転される。再生時にはCPU140によって指令された光強度になるようにレーザパワー/パルス制御器120が光ヘッド110内の半導体レーザ112に流す電流を制御してレーザ光114を発生させる。レーザ光114は対物レンズ111によって集光され光スポット101を光ディスク媒体100上に形成する。この光スポット101からの反射光115は対物レンズ111を介して,光検出器113で検出される。光検出器は複数に分割された光検出素子から構成されている。再生信号処理回路130は,光ヘッド110で検出された信号を用いて,光ディスク媒体100上に記録された情報を再生する。記録時には,レーザパワー/パルス制御器120は,所定の記録データを所定の記録パルス電流に変換して,パルス光が半導体レーザ112から出射されるように制御する。図1に示した本発明の再生信号の復号回路は再生信号処理回路130に内蔵される。こうした構成によって,PLLの動作を安定化し,良好な再生性能を有する光ディスク装置を実現することができる。なお、この装置は、CD,DVD,BDなど、複数の媒体を記録または再生できるマルチドライブである。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は,大容量光ディスク装置に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の光ディスク装置の再生信号処理回路の構成を示す図。
【図2】適応型PRMLの構成図。
【図3】一般的な再生信号処理回路の構成図。
【図4】位相誤差の検出原理を示す摸式図。
【図5】アナログ等化器の適正等化条件を示すシミュレーション結果。
【図6】ジッターとビットエラー率の関係を示すシミュレーション結果。
【図7】クロック位相誤差とビットエラー率の関係を示すシミュレーション結果。
【図8】PLLの入力信号ジッターとクロックのRMS誤差の関係を示す示すシミュレーション結果。
【図9】奇数タップのFIRフィルターのタップ数と出力信号のジッター値の関係を示すシミュレーション結果。
【図10】奇数タップのFIRフィルターのタップ係数を示すシミュレーション結果。
【図11】奇数タップのFIRフィルターの周波数特性を示すシミュレーション結果。
【図12】偶数タップのFIRフィルターのタップ係数を示すシミュレーション結果。
【図13】偶数タップのFIRフィルターの構成ごとのジッター改善量をまとめたシミュレーション結果。
【図14】FIRフィルターの入出力の再生信号の違いを示す図。
【図15】球面収差がある場合のタップ数とビットエラー率の関係を示す図。
【図16】球面収差がある場合のタップ数とビットエラー率の関係を示す図。
【図17】球面収差がある場合のFIRフィルターのタップ係数を示す図。
【図18】球面収差がある場合のFIRフィルターの入出力の再生信号の違いを示す図。
【図19】位相検出器の検出原理を示す図。
【図20】PLLロックモニターのPLLロック状態の検出方法を示す図。
【図21】位相検出器の切り替えシーケンスを示す図。
【図22】本発明の光ディスク装置の構成を示す実施例。
【符号の説明】
【0045】
100:光ディスク、101:光スポット、110:光ヘッド、111:対物レンズ、112:半導体レーザ、113:光検出器、120:レーザパワー/パルス制御器、130:再生信号処理回路、140:CPU、150:サーボ制御器、160:スピンドルモータ、170:インターフェース、180:ホストコンピュータ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビタビ復号器を備えた光ディスク装置であって,
デジタル方式のPLL回路と,
前記PLL回路に内蔵される2つ以上の位相比較器とを備え,前記位相比較器は,それぞれ等化条件の異なる再生信号から位相誤差情報を検出するものであって,
前記PLL回路は,前記位相比較器の1つを選択するセレクターを有することを特徴とする光ディスク装置。
【請求項2】
前記セレクターは、前記PLL回路の動作状況に応じて,前記位相比較器のうち適正なものを自動的に選択する機能を有することを特徴とする請求項1記載の光ディスク装置。
【請求項3】
前記光ディスク装置は、前記位相誤差のRMS値を監視するロックモニターを有し、前記ロックモニターにより前記セレクターの動作を制御することを特徴とする請求項1記載の光ディスク装置。
【請求項4】
前記光ディスク装置は、前記位相誤差の信号からロックモニター信号を出力するロックモニターを有し、前記ロックモニター信号は、前記位相誤差の絶対値の平均値をとることによって算出され、前記ロックモニターにより前記セレクターの動作を制御することを特徴とする請求項1記載の光ディスク装置。
【請求項5】
前記光ディスク装置は、情報記録媒体から検出したRF信号の等化処理を行うアナログ等化器と、前記等化処理されたRF信号をデジタル変換するADコンバーターと、デジタル化された信号にDC補正を行うスライサーと、DC補正した信号をデジタル等化するFIRフィルターとを有し、
前記ビタビ復号器は、前記デジタル等化された信号を2値化するものであり、
更に、前記FIRフィルターのタップ係数の学習処理を行うLSE制御部とを有することを特徴とする請求項1記載の光ディスク装置。
【請求項6】
再生信号からクロックを抽出するデジタル方式のPLL回路であって,
それぞれ等化条件の異なる再生信号から位相誤差情報を検出する複数の位相比較器を備え,
前記位相比較器のうち1つを選択するセレクターを有することを特徴とするPLL回路。
【請求項7】
前記セレクターは、前記PLL回路の動作状況に応じて,前記位相比較器のうち適正なものを自動的に選択する機能を有することを特徴とする請求項6記載のPLL回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図14】
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【図18】
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【公開番号】特開2006−252681(P2006−252681A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−68341(P2005−68341)
【出願日】平成17年3月11日(2005.3.11)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】