説明

光ファイバー

【課題】高Tg及び高い透明性を有し、汎用モノマーであるメチルメタクリレート主成分とする光ファイバーを提案することを目的とする。
【解決手段】コア部及び該コア部の外周に配置されたクラッド部からなる光ファイバーであって、前記コア部が、(a)メチルメタクリレート75〜98重量%及び2,3,4,5,6−ペンタフルオロスチレン2〜25重量%由来の共重合体、(b)メチルメタクリレート75〜95重量%及び4−トリフルオロメチル 2,3,5,6,テトラフルオロスチレン5〜25重量%由来の共重合体又は(c)メチルメタクリレート50〜80重量%及び2−トリフルオロメチルスチレン20〜50重量%由来の共重合体を主たる構成成分としてなり、前記クラッド部が、前記コア部の屈折率以下の屈折率を有する重合体からなることを特徴とする光ファイバー。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバーに関し、より詳細には、高いガラス転移温度及び高い透明性を有し、汎用モノマーであるメチルメタクリレートを主成分とする光ファイバーに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ポリメチルメタクリレート(以下、PMMAと略すことがある)などのメタクリル系樹脂をコア部とした光ファイバーが知られている。このようなプラスチック製の光ファイバーは、良好な可撓性を有し、軽量で、加工性がよく、口径の大きいファイバーとして低コストで製造しやすいという種々の長所を有する。
しかし、PMMAのガラス転移温度(以下、Tgと略すことがある)が105℃程度であるため、自動車のエンジンルーム内など、120℃程度が必要と考えられている、高い耐熱性が要求される環境では使用できない。
また、高速通信性能を付与する目的で、ドーパントと呼ばれる高屈折率低分子化合物を添加した屈折率分布型(GI型)光ファイバーでは、さらにTgが低下する。従って、100℃程度のTgが要求される各種センサー、家電製品内部でのリンク用途などへ応用できない。
【0003】
従って、PMMA系GI型光ファイバーは、耐熱性の観点からは、住宅内高速ネットワーク用途としては使用可能であるが、長寿命の光源波長が660〜680nm程度に限られている。これらの波長領域では、伝送損失はおよそ200〜330dB(特許文献1参照)と長波長になるにつれて、急峻に損失が大きくなる範囲であり、PMMAの吸湿による損失悪化を考慮すると、宅内用途として要求される通信距離30m以上、とりわけ50m以上では、やはり使用することができない。
【0004】
それに対して、高Tgのポリマーを構成するモノマーとの共重合、透明性に優れるポリマーを構成するモノマー、例えば、分子中の水素原子がフッ素や重水素に置換されたモノマーとの共重合が提案されている。
例えば、N置換イソプロピルマレイミド(以下、iPrMIDと略す)とメチルメタクリレート(以下、MMAと略す場合がある)との共重合体をコア部材とした光ファイバーでは、660nmで300dB/km以下の透明性を有し、かつ、125℃の雰囲気で1000時間さらしても、透過光量の低下がほとんど認められないことが報告されている(非特許文献1参照)。
但し、PMMAを主成分とし、N置換イソプロピルマレイミドが数十パーセント重量添加されたドーパント添加型のGI型光ファイバーとした場合、Tgが100℃以下となることが予測される。
【0005】
また、フッ素含有スチレン誘導体とアルキルメタクリレート誘導体との共重合体をコア材とした光ファイバーが、650〜660nmの波長域で50〜100dB/kmの低損失が得られると報告されている(特許文献2参照)。
但し、両モノマーの水素原子置換割合、共重合組成比に関する具体的な記述がなく、その損失値からフッ素含有スチレン誘導体が主成分であるか又はアルキルメタクリレート誘導体の水素原子が重水素又はフッ素に置換されている割合が高いことが容易に推測される。
【0006】
また、ハロゲン原子又はトリフルオロメチル基(以下、CF3基と略す)で置換された構造のスチレン誘導体の重合体及びこのようなスチレン誘導体を含んだ共重合体がPMMAより高いTgを有することが報告されている(特許文献3)。
但し、組成揺らぎによる散乱損失増大のため、60モル%以上(換算値では、約72重量%以上)このスチレン誘導体を含む必要があること、例えば、CF3基を1つだけ有するスチレン誘導体は単独重合しにくいことなどの課題があった。
【0007】
このような状況下において、高Tg及び高い透明性を有するPMMAを主成分とする光ファイバー用の素材が期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第3332922号
【特許文献2】特開昭62−113111号公報
【特許文献3】特開昭60−147703号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】S. Taneichi, et al., POF‘94 Conference Proceedings, 106(1994)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記課題に鑑みなされたものであり、高Tg及び高い透明性を有し、汎用モノマーであるメチルメタクリレート主成分とする光ファイバーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の光ファイバーは、コア部及びコア部の外周に配置されたクラッド部からなる光ファイバーであって、
(a)コア部及び該コア部の外周に配置されたクラッド部からなる光ファイバーであって、前記コア部が、メチルメタクリレート75〜98重量%及び2,3,4,5,6−ペンタフルオロスチレン2〜25重量%由来の共重合体を主たる構成成分としてなり、前記クラッド部が、前記コア部の屈折率以下の屈折率を有する重合体からなるか、
(b)前記コア部が、メチルメタクリレート75〜95重量%及び4−トリフルオロメチル 2,3,5,6,テトラフルオロスチレン5〜25重量%由来の共重合体を主たる構成成分としてなり、前記クラッド部が、前記コア部の屈折率以下の屈折率を有する重合体からなるか、
(c)前記コア部が、メチルメタクリレート50〜80重量%及び2−トリフルオロメチルスチレン20〜50重量%由来の共重合体を主たる構成成分としてなり、前記クラッド部が、前記コア部の屈折率以下の屈折率を有する重合体からなることを特徴とする。
これらの光ファイバーでは、コア部にドーパントを含み、屈折率分布を有するものが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、高Tg及び高い透明性を有し、汎用モノマーであるメチルメタクリレートを主成分とする光ファイバーを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の光ファイバーは、コア部と、コア部の外周に配置されたクラッド部とから構成される。ただし、本明細書においては、クラッド部の外周を被覆する被覆層を含めて光ファイバーということもある。
本発明の光ファイバーでは、コア部及びクラッド部とは、それぞれ、光ファイバーにおける光学的な意味でのコア及びクラッド(つまり、ドーパントの存在の有無)に捉われず、コアを構成する主成分となる重合体により構成される層をコア部といい、クラッドを構成する主成分となる重合体により構成される層をクラッド部という。
【0014】
光ファイバーは、通常、マルチモード光ファイバーと、シングルモード光ファイバーとに分類されるが、本発明の光ファイバーは、特に、マルチモード光ファイバーに有利である。
さらにマルチモード光ファイバーは、ステップインデックス(SI)型と屈折率分布を有するグレーデッドインデックス(GI)型とに分類されるが、本発明の光ファイバーは、GI型であることが好ましい。ここで、屈折率分布とは、ファイバーの中心から半径方向に向かって屈折率が放物線に近い曲線で又は一定幅で段階的に変化することを意味する。なかでも、中心から半径方向に向かって屈折率が低下しているものが好ましい。このような屈折率分布をもたせることにより、通信速度を向上させることができる。
【0015】
また、ファイバーの中心から半径方向に向って、一旦屈折率が曲線的又は段階的に低下した後、曲線的又は段階的に増加してもよい。この場合、コア部とクラッド部の最外層とでは、コア部の方が、屈折率がより高いことが好ましいが、クラッド部の最外層がコア部よりも屈折率が高くなってもよい。
【0016】
本発明の光ファイバーでは、コア部を構成する重合体は、
(a)メチルメタクリレート及び2,3,4,5,6−ペンタフルオロスチレン(以下、5FStと略する場合がある)由来の共重合体を主たる構成成分とする重合体、
(b)メチルメタクリレート及び4−トリフルオロメチル 2,3,5,6,テトラフルオロスチレン(以下、TTFSと略する場合がある)由来の共重合体を主たる構成成分とする重合体、又は
(c)メチルメタクリレート及び2−トリフルオロメチルスチレン(以下、2TFMSと略する場合がある)由来の共重合体を構成成分とする(好ましくは、主たる構成成分とする)重合体が挙げられる。
ここで、主たる構成成分とするとは、コア部を構成する成分において、最も高い含有率(重量)で含有されている成分を意味する。
特に、(a’)メチルメタクリレート75〜98重量%及び5FSt2〜25重量%由来の共重合体を主たる構成成分とする重合体、
(b’)メチルメタクリレート75〜95重量%及びTTFS5〜25重量%由来の共重合体を主たる構成成分とする重合体、
(c’)メチルメタクリレート50〜80重量%及び2TFMS20〜50重量%由来の共重合体を主たる構成成分とする重合体が好ましい。2TFMSが多くなると共重合体が脆くなる傾向にあるため、メチルメタクリレートが50重量%より多く、80重量%以下及び2TFMSが20重量%以上、50重量%未満由来の共重合体を主たる構成成分とする重合体がより好ましい。
【0017】
また、クラッド部を構成する重合体は、コア部以下となる屈折率を有する重合体であれば特に限定されないが、透明であり、コア部との接着性に優れるものが好ましい。
例えば、フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン三元共重合体、フルオロアルキルメタクリレート重合体、異なるアルキル基を有する2種のフルオロアルキルメタクリレートの共重合体、フルオロアルキルメタクリレートとフルオロアルキルアクリレートとの共重合体、フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン共重合体とフルオロアルキルメタクリレート重合体又はフルオロアルキルアクリレート重合体との混合物などが挙げられる。
【0018】
コア部は、ドーパントを含んでなることが好ましい。ドーパントを含有させることにより、光ファイバーにおけるコア部の屈折率を変化させ、屈折率分布を付与することができる。なかでも、中心から半径方向に向かって屈折率が低下しているものが好ましい。このような屈折率分布をもたせることにより、通信速度を向上させることができる。特に、屈折率分布を付与するために、コア部においてドーパントの濃度分布を調整することが有効である。なお、クラッド部には、ドーパントが含有されていてもよい。
【0019】
ドーパントは、コア部を構成するモノマーによる重合体と相溶性があり、これら重合体の屈折率よりも高い屈折率をもつ化合物であることが適している。相溶性の良好な化合物を用いることにより、コア部に濁りを生じさせず、散乱損失を極力抑え、通信できる距離を増大させることができる。
【0020】
ドーパントの候補としては、低分子化合物又はこれら化合物中に存在する水素原子を重水素原子に置換した化合物等が挙げられる。低分子化合物としては、ジフェニルスルホン及びジフェニルスルホン誘導体(例えば、4,4'−ジクロロジフェニルスルホン、3,3',4,4'−テトラクロロジフェニルスルホン等の塩化ジフェニルスルホン)、ジフェニルスルフィド、ジフェニルスルホキシド、ジベンゾチオフェン、ジチアン誘導体等の硫黄化合物;リン酸トリフェニル(TPP)、トリス−2−エチルヘキシルホスフェート(TOP)、トリエチルホスフェート(TEP)、リン酸トリクレジル等のリン酸化合物;安息香酸ベンジル;フタル酸ベンジルn−ブチル;フタル酸ジフェニル;ビフェニル;ジフェニルメタン等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0021】
コア部におけるドーパント量は、コア部を構成する重合体の組成、意図する屈折率、用いるクラッド部を構成する重合体の組成、用いるドーパントの種類等によって適宜調整することができ、例えば、コア部を構成する重合体100重量部に対して0.1〜25重量部程度とすることにより、コア部の屈折率を好適な値に調整することができる。
【0022】
本発明の光ファイバーのコア部及びクラッド部を構成する重合体は、当該分野で公知の方法によって製造することができる。
例えば、重合体を構成するモノマーの混合物を、溶液重合、塊状重合、乳化重合又は懸濁重合等に付す方法などが挙げられる。なかでも、異物、不純物の混入を防ぐという観点から、塊状重合法が好ましい。
この際の重合温度は、特に限定されず、例えば、80〜150℃程度が適している。反応時間は、モノマーの量、種類、後述する重合開始剤、連鎖移動剤等の量、反応温度等に応じて適宜調整することができ、20〜60時間程度が適している。
これらの重合体は、後述するコア部及び/又はクラッド部を成形する際に、同時に又は連続して製造してもよい。
【0023】
コア部を構成する重合体は、上述したMMAと5FStとの共重合体、MMAとTTFSとの共重合体又はMMAと2TFMSとの共重合体以外に、他のモノマー成分を用いないことが好ましいが、得られる光ファイバーの特性を損なわない範囲で、さらに重合性モノマー等を含有していてもよい。
例えば、(メタ)アクリル酸エステル系化合物として、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸n−ブチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸n−ブチル等;スチレン系化合物として、スチレン、α−メチルスチレン、クロロスチレン、ブロモスチレン等;ビニルエステル類として、ビニルアセテート、ビニルベンゾエート、ビニルフェニルアセテート、ビニルクロロアセテート等;マレイミド類として、N―n−ブチルマレイミド、N―tert−ブチルマレイミド、N―イソプロピルマレイミド、N―シクロヘキシルマレイミド等、これらモノマーの重水素置換物等が例示される。
【0024】
重合体を製造する際、重合開始剤及び/又は連鎖移動剤を使用することが好ましい。
重合開始剤としては、通常のラジカル開始剤が挙げられる。例えば、過酸化ベンゾイル、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサネート、ジ−t−ブチルパーオキシド、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、n−ブチル4,4,ビス(t−ブチルパーオキシ)バラレートなどのパーオキサイド系化合物;2,2'−アゾビスイソブチロニト
リル、2,2'−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、1,1'―アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、2,2'−アゾビス(2−メチルプロパン)、2,2'−アゾビス(2−メチルブタン)、2,2'−アゾビス(2−メチルペンタン)、2,2'−アゾビス(2,3−ジメチルブタン)、2,2'−アゾビス(2−メチルヘキサン)、2
,2'−アゾビス(2,4−ジメチルペンタン)、2,2'−アゾビス(2,3,3−トリメチルブタン)、2,2'−アゾビス(2,4,4−トリメチルペンタン)、3,3'−アゾビス(3−メチルペンタン)、3,3'−アゾビス(3−メチルヘキサン)、3,3'−アゾビス(3,4−ジメチルペンタン)、3,3'−アゾビス(3−エチルペンタン)、
ジメチル−2,2'−アゾビス(2−メチルプロピオネート)、ジエチル−2,2'−アゾビス(2−メチルプロピオネート)、ジ−t−ブチル−2,2'−アゾビス(2−メチル
プロピオネート)などのアゾ系化合物等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
重合開始剤は、全モノマーに対して0.01〜2重量%程度で用いることが適している。
【0025】
連鎖移動剤としては、特に限定されることなく、公知のものを用いることができる。例えば、アルキルメルカプタン類(n−ブチルメルカプタン、n−ペンチルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、n−ラウリルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン等)、チオフェノール類(チオフェノール、m−ブロモチオフェノール、p−ブロモチオフェノール、m−トルエンチオール、p−トルエンチオール等)等が挙げられる。なかでも、n−ブチルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、n−ラウリルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン等のアルキルメルカプタンが好適に用いられる。また、C−H結合の水素原子が重水素原子又はフッ素原子で置換された連鎖移動剤を用いてもよい。これらは、単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0026】
連鎖移動剤は、通常、成形上及び物性上、適当な分子量に調整するために用いられる。各モノマーに対する連鎖移動剤の連鎖移動定数は、例えば、ポリマーハンドブック第3版(J.BRANDRUP及びE.H.IMMERGUT編、JOHN WILEY&SON発行)「高分子合成の実験法」(大津隆行、木下雅悦共著、化学同人、昭和47年刊)等を参考にして、実験によって求めることができる。よって、連鎖移動定数を考慮して、モノマーの種類等に応じて、適宜、その種類及び添加量を調整することが好ましい。例えば、全モノマー成分100重量部に対して0.1〜4重量部程度が挙げられる。
【0027】
コア部及び/又はクラッド部を構成する重合体は、重量平均分子量が、5〜30万程度の範囲のものが適しており、10〜25万程度のものが好ましい。適当な可撓性、透明性等を確保するためである。コア部とクラッド部とにおいては、例えば、粘度調整等のために、分子量が異なっていてもよい。重量平均分子量は、例えば、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)により測定されたポリスチレン換算の値を指す。
【0028】
本発明の光ファイバーを構成する重合体には、光ファイバーとしての透明性、耐熱性等の性能を損なわない範囲で、必要に応じて、配合剤、例えば、熱安定化助剤、加工助剤、耐熱向上剤、酸化防止剤、光安定剤等を配合してもよい。これらは、それぞれ、単独又は2種以上を組み合わせて用いることができ、これらの配合物とモノマー又は重合体とを混合する方法は、例えば、ホットブレンド法、コールドブレンド法、溶液混合法等が挙げられる。
【0029】
本発明の光ファイバーを製造する方法としては、当該分野で公知の方法を利用することができる。例えば、1層又は2層以上のコア部の外周に1層又は2層以上のクラッド部を形成するために、界面ゲル重合法、回転重合、溶融押出ドーパント拡散法、複合溶融紡糸及びロッドインチューブ法等を利用することができる。また、予めプリフォームを形成し、延伸、線引き等を行ってもよいが、上述した方法によって、直接ファイバーを形成してもよい。
【0030】
具体的には、中空状のクラッド部を作製し、このクラッド部の中空部にコア部を作製する方法が挙げられる。
この場合、コア部を構成するモノマーをクラッド部の中空部に導入し、クラッド部を回転させながら重合体を重合して、クラッド部より高い屈折率を有するコア部を形成する。この操作を1回のみ行って、1層のコア部を形成してもよいし、この操作を繰り返すことにより、複数層からなるコア部を形成してもよい。
【0031】
用いる重合容器は、ガラス、プラスチック又は金属性の円筒管形状の容器(チューブ)で、回転による遠心力などの外力に耐え得る機械的強度及び加熱重合時の耐熱性を有するものが利用できる。
重合時の重合容器の回転速度は、500〜3000rpm程度が例示される。
通常、モノマーをフィルターにより濾過して、モノマー中に含まれる塵埃を除去してか

ら、重合容器内に導入することが好ましい。
【0032】
さらに、2台以上の溶融押出機と2層以上の多層ダイ及び多層用紡糸ノズルを用いて、コア部及びクラッド部を形成する方法であってもよい。
つまり、コア部及びクラッド部を構成する重合体等を、それぞれ加熱溶融させ、個々の流路から多層ダイ及び多層用紡糸ノズルへ注入する。このダイ及びノズルでコア部を押出成形すると同時に、その外周に1層又は2層以上の同心円状のクラッド部を押出し、溶着一体化させることでファイバー又はプリフォームを形成することができる。
【0033】
なお、光ファイバーにおいてGI型の屈折率分布をつけるには、例えば、WO93/08488号に記載されたように、モノマー組成比を一定にして、ドーパントを加えて、重合体の界面でモノマーを塊状重合させ、その反応によってドーパントの濃度分布を付与する界面ゲル重合又はその界面ゲル重合の反応機構を回転重合法で行う回転ゲル重合法及び屈折率の異なるモノマー仕込み組成比率を漸進的に変化させ、つまり、前層の重合率を制御(重合率を低く)し、より高屈折率になる次層を重合し、クラッド部との界面から中心部まで、屈折率分布が漸進的に増加するように、回転重合を行うなどの方法が例示される。
また、2台以上の溶融押出機と2層以上の多層ダイ及び多層用紡糸ノズルを用いて、コア部及びクラッド部を形成した後、引続いて設けられた熱処理ゾーンでドーパントを周辺部又は中心部に向かって拡散させ、ドーパントの濃度分布を付与する溶融押出ドーパント拡散法、2台以上の溶融押出機にそれぞれドーパント量を変えた重合体等を導入して、多層構造でコア部及び/又はクラッド部を押出成形する方法などが例示される。
【0034】
SI型の屈折率分布をつける場合には、モノマー組成比及び/又はドーパントの添加量を最初から最後まで一定にして回転重合等を行うことが適している。
マルチステップ型の屈折率分布を付与する場合には、回転重合等において、前層の重合率を制御(重合率を高く)し、より高屈折率になる次層を重合することが好ましい。
【0035】
上述した方法等によって光ファイバーのプリフォームを形成した場合、このプリフォームを溶融延伸することにより、プラスチック光ファイバーを作製することができる。延伸は、例えば、プリフォームを、加熱炉等の内部を通過させることによって加熱し、溶融させた後、延伸紡糸する方法が例示される。加熱温度は、プリフォームの材質等に応じて適宜決定することができ、例えば、180〜250℃程度が例示される。延伸条件(延伸温度等)は、得られたプリフォームの径、所望の光ファイバーの径及び用いた材料等を考慮して、適宜調整することができる。
なお、コア部を回転ゲル重合法、回転重合法で作製した場合は、中心部が中空となっているので、延伸時にプリフォームを上部から減圧しながら延伸するのが好ましい。
【0036】
また、任意の段階で、熱処理を行ってもよい。この熱処理によって、ドーパントを光ファイバー又はプリフォームの周辺部又は中心部に向かって拡散させることができる。この際の条件(例えば、温度、時間、圧力、雰囲気組成等)は、任意に調節することが好ましい。
【0037】
本発明の光ファイバーは、そのままの形態で適用することができる。また、上述したように、その外周を1つ又は複数の樹脂層、繊維層、金属線等の被覆材で被覆することにより及び/又は複数のファイバーを束ねることにより、光ファイバーケーブル等の種々の用途に適用することができる。
光ファイバーを被覆する樹脂としては、特に限定されないが、光ファイバーケーブル等に必要な、強度、難燃性、柔軟性、耐薬品性、耐熱性等を満足するものを選択することが好ましい。例えば、塩化ビニル樹脂、塩素化塩化ビニル樹脂、塩素化ポリエチレン樹脂、ポリエチレン樹脂、アクリル樹脂、フッ素樹脂、ポリカーボネート樹脂、ナイロン樹脂、ポリエステル樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル−エチレン−酢酸ビニル共重合体、酢酸ビニル−塩化ビニル共重合体等を主成分とするものなどが挙げられる。また、これら樹脂に上述した添加剤を添加した組成物を用いたものであってもよい。
繊維としては、例えば、アラミド繊維、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維が挙げられる。
金属線としては、ステンレス線、亜鉛合金線、銅線などが挙げられる。
【0038】
光ファイバーの外周に樹脂を被覆する方法としては、特に限定されず、光ファイバー成形後に表層に被覆押出する方法等が挙げられる。
また、光ファイバーを用いたケーブルは、端部に接続用光プラグを用いてジャック部に確実に固定することが好ましい。プラグ及びジャックにより構成されるコネクタとしては、PN型、SMA型、SMI型、F05型、MU型、FC型、SC型などの市販の各種コネクタを利用することが可能である。また、光ファイバーを用いたケーブルの端部に接続用プラグは用いず、メディアコンバーター等の接続機器側にOptoLock(商品名、Firecomms社製)等のプラグレスコネクタを取り付け、切り放したケーブルを差し込んで接続することも可能である。
以下、本発明の光ファイバーの実施態様を詳細に説明するが、本発明は下記の例に限定されるものではない。
【0039】
実施例1
MMA95重量%、5FSt5重量%、重合開始剤としてのジt−ブチルパーオキサイド及び連鎖移動剤としてのn−ラウリルメルカプタンを、全モノマー成分100重量部当りそれぞれ0.01重量部及び0.05重量部添加し、さらにドーパントとしてジフェニルスルフィドを5重量部添加し、攪拌混合した。この混合液を細孔径0.1μmのメンブレンフィルタを用いて濾過し、濾過後の液を重合容器に入れ、重合容器の温度を110℃に維持しながら、約40時間かけて重合させ、コア部材ロッドを得た。
【0040】
MMA80重量%、テトラフルオロエチルメタクリレート20重量%、重合開始剤としてのジt−ブチルパーオキサイド及び連鎖移動剤としてのn−ラウリルメルカプタンを、これらを含め全モノマー成分100重量部に対してそれぞれ0.01重量部及び0.22重量部となるように添加し、攪拌混合した。この混合液を細孔径0.1μmのメンブレンフィルタを用いて濾過し、濾液を重合容器に入れ、重合容器の温度を110℃に維持しながら、約40時間かけて重合させ、クラッド部材ロッドを得た。
【0041】
コア部材とクラッド部材とを、別々の押出成形機とそれらに連結された2層金型とを用いて、コア部及びクラッド部の積層複層状とした。この積層体を、加熱流路に一定時間通すことで、コア部に含有されるドーパントをクラッド部へ拡散させた。
さらに、もう一台の押出成形機により、オーバークラッド材であるXYLEX X7300CL[製品名、SABIC Innovative Plastics社製、ポリエステル複合ポリカーボネート(ビカット軟化温度108℃)](以下PCともいう)を溶融し、2層金型を用いて、上記のコア部及びクラッド部の溶融物の通る流路と合流させることで最外周へ被覆した。金型出口より吐出される溶融樹脂を引き取り、コア部径、クラッド部径及びファイバー外径が、それぞれ、200μm、280μm及び750μmであるGI型POFを得た。得られた光ファイバー試料について、以下の(1)、(2)の評価を行った。
【0042】
(1)伝送損失:カットバック法を用いて665nmでの伝送損失を測定した。
(2)ガラス転移温度測定:コア部材ロッドから試料をサンプリングし、窒素雰囲気下、昇温速度10℃/minでのDSC法により測定した。
【0043】
実施例2、3及び比較例1、2
表1に示すように、コア部のモノマー成分の割合を変えた他は実施例1と同様にして各光ファイバー試料を作製し、該試料について同様に伝送損失及びTg測定を行った。
【0044】
実施例4
MMA90重量%、TTFS10重量%、重合開始剤としてのジt−ブチルパーオキサイド及び連鎖移動剤としてのn−ラウリルメルカプタンを、全モノマー成分100重量部当りそれぞれ0.01重量部及び0.05重量部となるように添加し、さらにドーパントとしてジフェニルスルフィドを5重量部添加し、攪拌混合した。この混合液を細孔径0.1μmのメンブレンフィルタを用いて濾過し、濾過後の液を重合容器に入れ、重合容器の温度を110℃に維持しながら、約40時間かけて重合させ、コア部材ロッドを得た。
その他は実施例1と同様にして光ファイバーを作成し、試料について同様に伝送損失及びTg測定を行った。
【0045】
実施例5及び比較例3
表1に示すように、コア部のモノマー成分の割合を変えた他は実施例4と同様にして各光ファイバー試料を作製し、該試料について同様に伝送損失及び、Tg測定を行った。
【0046】
実施例6
MMA75重量%、2TFMS25重量%、重合開始剤としてのジt−ブチルパーオキサイド及び連鎖移動剤としてのn−ラウリルメルカプタンを、全モノマー成分100重量部当りそれぞれ0.01重量部及び0.05重量部となるように添加し、さらにドーパントとしてジフェニルスルフィドを5重量部添加し、攪拌混合した。この混合液を細孔径0.1μmのメンブレンフィルタを用いて濾過し、濾過後の液を重合容器に入れ、重合容器の温度を110℃に維持しながら、約40時間かけて重合させ、コア部材ロッドを得た。
その他は実施例1と同様にして光ファイバーを作成し、試料について同様に伝送損失及びTg測定を行った。
【0047】
実施例7及び比較例4
表1に示すように、コア部のモノマー成分の割合を変えた他は実施例6と同様にして各光ファイバー試料を作製し、該試料について同様に伝送損失及び、Tg測定を行った。これらの結果を表1に示す。
【0048】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明は、高速通信を意図する光ファイバー、光ファイバーケーブルの構成要素として有用であり、さらに、形状を変化させることにより、光導波路等の光導性素子類、スチールカメラ用、ビデオカメラ用、望遠鏡用、眼鏡用、プラスチックコンタクトレンズ用、太陽光集光用等のレンズ類、凹面鏡、ポリゴン等の鏡類、ペンタプリズム類等のプリズム類等の光学部材として応用することが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コア部及び該コア部の外周に配置されたクラッド部からなる光ファイバーであって、
前記コア部が、メチルメタクリレート75〜98重量%及び2,3,4,5,6−ペンタフルオロスチレン2〜25重量%由来の共重合体を主たる構成成分としてなり、
前記クラッド部が、前記コア部の屈折率以下の屈折率を有する重合体からなることを特徴とする光ファイバー。
【請求項2】
コア部及び該コア部の外周に配置されたクラッド部からなる光ファイバーであって、
前記コア部が、メチルメタクリレート75〜95重量%及び4−トリフルオロメチル2,3,5,6−テトラフルオロスチレン5〜25重量%由来の共重合体を主たる構成成分としてなり、
前記クラッド部が、前記コア部の屈折率以下の屈折率を有する重合体からなることを特徴とする光ファイバー。
【請求項3】
コア部及び該コア部の外周に配置されたクラッド部からなる光ファイバーであって、
前記コア部が、メチルメタクリレート50〜80重量%及び2−トリフルオロメチルスチレン20〜50重量%由来の共重合体を主たる構成成分としてなり、
前記クラッド部が、前記コア部の屈折率以下の屈折率を有する重合体からなることを特徴とする光ファイバー。
【請求項4】
コア部にドーパントを含み、屈折率分布を有する請求項1〜3のいずれか1つに記載の光ファイバー。

【公開番号】特開2011−257729(P2011−257729A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−4050(P2011−4050)
【出願日】平成23年1月12日(2011.1.12)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【出願人】(899000079)学校法人慶應義塾 (742)
【Fターム(参考)】