光偏向素子、レーザ装置及びセンシング装置
【課題】小型化が容易で、2方向において大きな偏向角を得ることができる光偏向素子を提供する。
【解決手段】 入射された光を、印加電圧に応じてXY面内で偏向する周期分極反転構造体、及び周期分極反転構造体を通過した光を該光の進行方向を含みXY面に直交する面内で偏向するグレーティングを有する光偏向ユニットが、XY面に直交する方向(Z軸方向)に複数積み重ねられている。そして、該複数の光偏向ユニットにおける各グレーティングの溝周期は、互いに異なっている。この場合は、小型で、2方向において大きな偏向角で光を射出することができる。
【解決手段】 入射された光を、印加電圧に応じてXY面内で偏向する周期分極反転構造体、及び周期分極反転構造体を通過した光を該光の進行方向を含みXY面に直交する面内で偏向するグレーティングを有する光偏向ユニットが、XY面に直交する方向(Z軸方向)に複数積み重ねられている。そして、該複数の光偏向ユニットにおける各グレーティングの溝周期は、互いに異なっている。この場合は、小型で、2方向において大きな偏向角で光を射出することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光偏向素子、レーザ装置及びセンシング装置に係り、さらに詳しくは、入射光を互いに交差する2つの面内で個別に偏向することができる光偏向素子、該光偏向素子を有するレーザ装置、該レーザ装置を備えるセンシング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、光を偏向する光偏向器として、ガルバノミラー、ポリゴンミラー、音響光学素子及び電気光学素子などを使ったものが知られている。
【0003】
ガルバノミラーを使った光偏向器は、高速での光走査が困難であるという不都合があった。
【0004】
ポリゴンミラーを使った光偏向器は、高速での光走査が可能で、偏向角を大きくとれるという利点があるが、機械的な部分を有するため、振動や光学系の大型化が避けられなかった。
【0005】
それに対し、音響光学素子及び電気光学素子を使った光偏向器は、機械的な部分を有していないため、振動や大型化の問題は生じない。
【0006】
例えば、特許文献1には、基板上に形成された薄膜光導波路における音響光学効果と熱光学効果を利用して光の進行方向を2次元的に制御する2次元光偏向器が開示されている。
【0007】
また、特許文献2には、基板上に形成された薄膜光導波路における音響光学効果、電気光学効果、及び熱光学効果を利用して光の進行方向を2次元的に制御する2次元光偏向器が開示されている。
【0008】
また、特許文献3には、電気光学効果を有する光導波路と出射用プリズムとを有し、光ビームを第1の方向、及び第1の方向と交差する第2の方向に偏向する光偏向素子が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1及び特許文献2に開示されている2次元光偏向器では、光導波路面内とは異なる方向への偏向角、すなわち射出角の変化量が極めて小さいという不都合があった。
【0010】
また、特許文献3に開示されている光偏向素子では、高価なプリズムが必要となり、高コスト化を招くという不都合があった。また、プリズムの位置合わせを高精度に行う必要があるため、調整作業に時間がかかるという不都合があった。さらに、素子の集積化に適していないため、小型化が困難であるという不都合があった。
【0011】
本発明はかかる事情の下になされたもので、その第1の目的は、小型化が容易で、2方向において大きな偏向角を得ることができる光偏向素子を提供することにある。
【0012】
また、本発明の第2の目的は、高コスト化を招くことなく、小型でレーザ光の射出角を2次元的に大きく変化させることができるレーザ装置を提供することにある。
【0013】
また、本発明の第3の目的は、高コスト化を招くことなく、小型で広い範囲をセンシングすることができるセンシング装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、第1の観点からすると、光入射部と、該光入射部を介した光を印加電圧に応じて第1の面内で偏向する第1の偏向部と、前記第1の偏向部を通過した光を該光の進行方向を含み前記第1の面に直交する第2の面内で偏向するグレーティングを含む第2の偏向部とを有する光偏向ユニットが、前記第1の面に直交する方向に複数積み重ねられ、該複数の光偏向ユニットにおける各グレーティングの溝周期が互いに異なる光偏向素子である。
【0015】
これによれば、小型化が容易で、2方向において大きな偏向角を得ることができる。
【0016】
本発明は、第2の観点からすると、本発明の光偏向素子と、前記光偏向素子の複数の光偏向ユニットにそれぞれ入射される光を射出する複数のレーザ光源と、前記複数の光偏向ユニットの各第1の偏向部に印加する電圧を制御する電圧制御装置と、を備えるレーザ装置である。
【0017】
これによれば、本発明の光偏向素子を備えているため、結果として、高コスト化を招くことなく、小型でレーザ光の射出角を2次元的に大きく変化させることができる。
【0018】
本発明は、第3の観点からすると、本発明のレーザ装置と、前記レーザ装置から射出され、物体で反射された光を受光する受光器と、前記レーザ装置からの光の射出方向及び前記受光器の出力信号に基づいて、前記物体の位置情報を求める信号処理装置と、を備えるセンシング装置である。
【0019】
これによれば、本発明のレーザ装置を備えているため、結果として、高コスト化を招くことなく、小型で広い範囲をセンシングすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施形態に係るレーザレーダを搭載した車両の外観図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る前方監視装置の構成を説明するためのブロック図である。
【図3】レーザレーダの構成を説明するためのブロック図である。
【図4】図3における光源装置の構成を説明するための図である。
【図5】図3における光偏向素子の構成を説明するための図(その1)である。
【図6】図3における光偏向素子の構成を説明するための図(その2)である。
【図7】光偏向ユニットの構成を説明するための図である。
【図8】コア層における周期分極反転構造体及びグレーティングを説明するための図である。
【図9】図9(A)〜図9(D)は、それぞれ、光偏向ユニットの作成方法を説明するための図(その1)である。
【図10】図10(A)〜図10(C)は、それぞれ、光偏向ユニットの作成方法を説明するための図(その2)である。
【図11】図11(A)〜図11(C)は、それぞれ、光偏向ユニットの作成方法を説明するための図(その3)である。
【図12】図12(A)〜図12(C)は、それぞれ、光偏向ユニットの作成方法を説明するための図(その4)である。
【図13】図13(A)〜図13(C)は、それぞれ、光偏向ユニットの作成方法を説明するための図(その5)である。
【図14】3つの光偏向ユニットの積み重ねを説明するための図である。
【図15】3つの光偏向ユニットに入射する光束を説明するための図である。
【図16】電圧制御装置からの電圧の印加を説明するための図である。
【図17】図17(A)及び図17(B)は、それぞれ、XY平面内での光束の偏向を説明するための図であり、図17(C)は、XY平面内での光束の偏向角を説明するための図である。
【図18】各グレーティングによる偏向を説明するための図である。
【図19】センシング制御装置による各半導体レーザの駆動制御を説明するための図である。
【図20】光偏向素子から射出される各光束の偏向面を説明するための図である。
【図21】電圧が印加されていないときの、XY面内での各光束の光路を説明するための図である。
【図22】3つの光偏向ユニットがY軸方向に配置されているときに、3つの光偏向ユニットから射出される各光束の光路を説明するための図である。
【図23】音声・警報発生装置の構成を説明するためのブロック図である。
【図24】光源装置の変形例を説明するための図である。
【図25】受光器の変形例1を説明するための図である。
【図26】受光器の変形例2を説明するための図である。
【図27】受光器の変形例3を説明するための図である。
【図28】コア層の入射側にもグレーティングが形成されている例を説明するための図である。
【図29】図28に対応する光源装置の一例を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の一実施形態を図1〜図23に基づいて説明する。図1には、一実施形態に係るセンシング装置としての車載用のレーザレーダ20を搭載した車両1の外観が示されている。
【0022】
レーザレーダ20は、一例として、車両1の前方のナンバープレート近傍に取り付けられている。なお、本明細書では、XYZ3次元直交座標系において、重力方向をZ軸方向、車両1の前進方向を+X方向として説明する。
【0023】
車両1の車内には、一例として図2に示されるように、表示装置30、主制御装置40、メモリ50、及び音声・警報発生装置60などを備えている。これらは、バス70を介して電気的に接続されている。
【0024】
ここでは、レーザレーダ20、表示装置30、主制御装置40、メモリ50、及び音声・警報発生装置60によって、前方監視装置10が構成されている。
【0025】
レーザレーダ20は、一例として図3に示されるように、光源装置220、電圧制御装置230、光偏向素子240、センシング制御装置300、及び受光器350などを有している。
【0026】
ここでは、光源装置220は、一例として図4に示されるように、3つの半導体レーザ(221a、221b、221c)、3つのカップリングレンズ(223a、223b、223c)、集光レンズ225、及びシリンドリカルレンズ227を有している。
【0027】
各半導体レーザは、波長が650nmのレーザ光を+X方向に射出する。
【0028】
カップリングレンズ223aは、半導体レーザ221aから射出された光束の光路上に配置され、該光束を略平行光とする。
【0029】
カップリングレンズ223bは、半導体レーザ221bから射出された光束の光路上に配置され、該光束を略平行光とする。
【0030】
カップリングレンズ223cは、半導体レーザ221cから射出された光束の光路上に配置され、該光束を略平行光とする。
【0031】
以下では、便宜上、半導体レーザ221aから射出された光束を「光束LBa」、半導体レーザ221bから射出された光束を「光束LBb」、半導体レーザ221cから射出された光束を「光束LBc」という。
【0032】
集光レンズ225は、カップリングレンズ223aを介した光束LBa、カップリングレンズ223bを介した光束LBb、カップリングレンズ223cを介した光束LBcの光路上に配置されている。
【0033】
シリンドリカルレンズ227は、集光レンズ225の+X側に配置され、Z軸方向に関して、集光レンズ225を介した光束LBa、光束LBb及び光束LBcを集束する。
【0034】
図3に戻り、光偏向素子240は、光源装置220の+X側に配置されている。
【0035】
この光偏向素子240は、一例として図5及び図6に示されるように、3つの光偏向ユニット(240a、240b、240c)を有している。各光偏向ユニットは、X軸方向の寸法(長さ)が異なっている。ここでは、光偏向ユニット240aの長さLa>光偏向ユニット240bの長さLb>光偏向ユニット240cの長さLcとなるように設定されている。
【0036】
3つの光偏向ユニット(240a、240b、240c)は、+Z方向に、光偏向ユニット240a、光偏向ユニット240b、光偏向ユニット240cの順で積層されている。そして、X軸方向に関して、各光偏向ユニットの−X側の端部の位置は、略一致している。
【0037】
3つの光偏向ユニット(240a、240b、240c)は、それぞれ同様な構成を有している。そこで、3つの光偏向ユニット(240a、240b、240c)を区別する必要がないときは、それらを総称して光偏向ユニット240xという。
【0038】
光偏向ユニット240xは、一例として図7に示されるように、基板241、接着剤242、下部電極243、下部クラッド層244、コア層245、上部クラッド層246、及び上部電極247などから構成されている。
【0039】
コア層245は、MgOが添加されたニオブ酸リチウム(LiNbO3)結晶の厚さが約10μmの板状部材である。
【0040】
このコア層245は、一例として図8に示されるように、+X側の端部近傍に、複数の溝が円弧状に形成されているグレーティング260を有している。該グレーティング260における凹部の幅と凸部の幅は同じである。また、凹部の深さは、50nmである。3つの光偏向ユニット(240a、240b、240c)では、グレーティング260の溝周期が互いに異なっている。ここでは、光偏向ユニット240aでのグレーティング260の溝周期Λa>光偏向ユニット240bでのグレーティング260の溝周期Λb>光偏向ユニット240cでのグレーティング260の溝周期Λcとなるように設定されている。
【0041】
また、コア層245は、X軸方向に関して、−X側端部からグレーティング260近傍にかけて周期分極反転構造体250を有している。
【0042】
周期分極反転構造体250では、自発分極の方向が互いに反対である2つの領域(250a、250b)が、XY断面において互いに反対形状のプリズム状に形成されている。
【0043】
図7に戻り、上部クラッド層246は、厚さ1μmのTaO5の層であり、コア層245における周期分極反転構造体250の+Z側に形成されている。
【0044】
下部クラッド層244は、厚さ1μmのTaO5の層であり、コア層245の−Z側に形成されている。
【0045】
上部電極247は、厚さ200nmのTi(チタン)の層であり、上部クラッド層246の+Z側に形成されている。
【0046】
下部電極243は、厚さ200nmのTi(チタン)の層であり、下部クラッド層244の−Z側に形成されている。
【0047】
基板241は、ニオブ酸リチウム(LiNbO3)の基板である。この基板241は、接着剤242によって、下部電極243と接着されている。
【0048】
ここでは、コア層245及び基板241に同じ材料を用いているため、熱膨張の影響(はく離)を低減させることができる。
【0049】
次に、この光偏向ユニット240xの作成方法について、簡単に説明する。
【0050】
(1)周期分極反転構造体250を有するコア層245を準備する(図9(A)〜図9(C)参照)。なお、図9(C)は、図9(B)のA−A断面図である。
【0051】
(2)コア層245の+Z側の面に、下部クラッド層244を成膜する(図9(D)参照)。
【0052】
(3)下部クラッド層244の表面に、下部電極243を成膜する(図10(A)参照)。なお、ここで下部電極243が成膜されたものを、以下では、便宜上、「一次積層体」という。
【0053】
(4)基板241を準備し、該基板241の表面に接着剤242を塗布する(図10(B)参照)。
【0054】
(5)該接着剤242の上に、上記一次積層体を上下反転し、その下部電極243を下にして載置する(図10(C)参照)。なお、基板241と一次積層体とが接着剤242によって接合されたものを、以下では、便宜上、「二次積層体」という。
【0055】
(6)接着剤242が硬化すると、上記二次積層体を上下反転させ、コア層245の他側の面を下にする(図11(A)参照)。
【0056】
(7)二次積層体におけるコア層245の他側の面を研磨し、コア層245の厚さを約10μmとする(図11(B)参照)。
【0057】
(8)二次積層体を上下反転させ、コア層245の他側の面にフォトレジシトPRを塗布する(図11(C)参照)。
【0058】
(9)電子線描画装置を用いて、フォトレジシトPR上にグレーティング用のパターンを描画する。このとき、光偏向ユニット240aのときは溝周期がΛaとなるようにパターンが描画され、光偏向ユニット240bのときは溝周期がΛbとなるようにパターンが描画され、光偏向ユニット240cのときは溝周期がΛcとなるようにパターンが描画される。具体的には、Λa=500nm、Λb=420nm、Λc=350nm、とした。なお、露光装置を用いて、グレーティング用のパターンをフォトレジシトPR表面に転写しても良い。
【0059】
(10)フォトレジシトPRに対して所定の処理を行い、エッチングマスクとする(図12(A)参照)。なお、ここでは、レジストパターンをエッチングマスクとしているが、これに限定されるものではなく、例えば、レジストパターンに金属を蒸着し、リフトオフによって金属パターンを形成し、該金属パターンをエッチングマスクとしても良い。
【0060】
(11)エッチングマスクを介して、コア層245の他側の面をドライエッチングする(図12(B)参照)。
【0061】
(12)エッチングマスクを除去する(図12(C)参照)。これにより、グレーティング260が形成される。
【0062】
(13)コア層245の他側の面におけるグレーティング260を除く部分に、上部クラッド層246を成膜する(図13(A)参照)。
【0063】
(14)上部クラッド層246の表面に、上部電極247を成膜する(図13(B)及び図13(C)参照)。これにより、光偏向ユニット240xとなる。
【0064】
そして、このようにして個別に作成された3つの光偏向ユニット(240a、240b、240c)を、一例として図14に示されるように接着剤で接着し、光偏向素子240とする。
【0065】
光偏向素子240は、光源装置220から射出された光束LBaが光偏向ユニット240aのコア層245に入射され、光束LBbが光偏向ユニット240bのコア層245に入射され、光束LBcが光偏向ユニット240cのコア層245に入射されるように位置決めされている(図15参照)。すなわち、各コア層245が光導波路である。
【0066】
電圧制御装置230は、センシング制御装置300の指示に基づいて、各光偏向ユニットの上部電極247に個別に電圧を印加する(図16参照)。なお、各光偏向ユニットの下部電極243は、それぞれグラウンド接続されている。
【0067】
各光偏向ユニットの上部電極247に電圧が印加されると、周期分極反転構造体250における領域250aと領域250bとの間に屈折率差が生じる。この屈折率差Δnは、次の(1)式で示される。ここで、rはポッケルス定数、nはコア層245の材料の屈折率、dはコア層245の厚さ、Vは印加電圧である。
【0068】
Δn=−1/2・r・n3・V/d ……(1)
【0069】
そこで、コア層245に光源装置220からの光束が入射しているときに、電圧制御装置230から上部電極247に電圧が印加されると、光束は印加電圧に応じてXY平面内で偏向される。
【0070】
例えば、V=+150[V]のときは、一例として図17(A)に示されるように、光束は+Y側に偏向される。
【0071】
また、V=−150[V]のときは、一例として図17(B)に示されるように、光束は−Y側に偏向される。
【0072】
このように、例えば、上部電極247に−150[V]〜+150[V]の電圧を印加すると、XY平面内において、偏向角(ふれ角)θx=10°で光束を偏向することができる(図17(C)参照)。なお、波長が異なることによるXY平面内での偏向方向の違いは、本実施形態で使用する波長の差異ではほとんどない。
【0073】
周期分極反転構造体250を通過した光束は、グレーティング260によって、該光束の進行方向を含みXY面に直交する面内で偏向される。このときのZ軸方向に対する角度θzは、次の(2)式で示される。ここで、n(a)はグレーティング260の周辺(ここでは、空気)の屈折率、Nはコア層245の実効屈折率、qは回折の次数、λは光束の波長、Λはグレーティング260の溝周期である。
【0074】
n(a)・sinθz=N+q・λ/Λ ……(2)
【0075】
例えば、λ=650nm、N=2.2、q=−1とすると、Λ=500nmでは、θz=64°、Λ=420nmでは、θz=41°、Λ=350nmでは、θz=20°となる。
【0076】
すなわち、Y軸方向からみたとき、光偏向ユニット240aに入射した光束LBaは、YZ面に対して+X側に64°(図18におけるθa)傾斜した方向に射出される。また、光偏向ユニット240bに入射した光束LBbは、YZ面に対して+X側に41°(図18におけるθb)傾斜した方向に射出される。さらに、光偏向ユニット240cに入射した光束LBcは、YZ面に対して+X側に20°(図18におけるθc)傾斜した方向に射出される。従って、XZ平面内での偏向角(ふれ角)は44°(=64°−20°)である。
【0077】
センシング制御装置300は、光源装置220の3つの半導体レーザ(221a、221b、221c)が順に点灯するように、それぞれの駆動信号を制御する(図19参照)。同時に、センシング制御装置300は、各半導体レーザの点灯タイミング及び消灯タイミングに関する情報(タイミング情報)を、電圧制御装置230に通知する。
【0078】
電圧制御装置230は、上記タイミング情報に基づいて、印加電圧Vを制御する。ここでは、各半導体レーザについて、該半導体レーザが点灯している時間内に印加電圧Vを−150[V]→+150[V]あるいは+150[V]→−150[V]に変化させる。これにより、光偏向素子240から射出される光束を、XY平面内では偏向角(ふれ角)10°で、XZ平面内では偏向角(ふれ角)44°で、2次元的に偏向することができる(図20参照)。
【0079】
そこで、光偏向素子240は、車両1の前方における広い領域に光束を射出することができる。
【0080】
ところで、電圧制御装置230から上部電極247に電圧が印加されていないときに、図21に示されるように、Z軸方向からみたとき、各光偏向ユニットから射出された光束の光路が略一致するように、3つの光偏向ユニットを積層する際に調整されている。この場合、コア層245内での偏向の中心が各光偏向ユニット間で一致しているため、各上部電極247に印加される電圧を同じにすれば、各光偏向ユニットから射出される光束のY軸方向に関する位置を一致させることができる。
【0081】
仮に、図22に示されるように、3つの光偏向ユニットをY軸方向に沿って配置した場合には、光偏向ユニット間でY軸方向に関する射出位置が異なるため、各光偏向ユニットから射出される光束のY軸方向に関する位置合わせが難しくなり、また投射距離により調整が必要になる。
【0082】
また、本実施形態では、3つの光偏向ユニットを重ね合わせているため、光偏向素子の占有面積を小さくすることができ、レーザレーダ20の小型化に好適である。これは、光偏向素子における光偏向ユニットの数が増えるほど効果が高くなる。
【0083】
受光器350は、光偏向素子240から射出され、車両1の前方にある物体(例えば、他の車両)で反射された光束を受光する。受光器350は、受光量に応じた信号(光電変換信号)を生成し、センシング制御装置300に出力する。
【0084】
センシング制御装置300は、そのときに点灯している半導体レーザ及びそのときの印加電圧Vから光束の射出方向を求め、該射出方向と受光器350からの信号とに基づいて、物体の大きさ、車両1に対する物体の位置などを求める。ここで得られたデータは、時間情報とともに監視データとしてメモリ50に格納される。
【0085】
主制御装置40は、メモリ50に格納されている監視データに基づいて、車両1の前方に物体があるか否か、物体があるときにその物体が移動しているか否か、該物体が移動しているときにはその移動方向及び移動速度を求める。そして、その情報を表示装置30に表示する。
【0086】
また、主制御装置40は、危険があると判断すると、音声・警報発生装置60にアラーム情報を出力する。
【0087】
音声・警報発生装置60は、一例として図23に示されるように、音声合成装置61、警報信号生成装置62及びスピーカ63などを有している。
【0088】
音声合成装置61は、複数の音声データを有しており、主制御装置40からアラーム情報を受け取ると、対応する音声データを選択し、スピーカ63に出力する。
【0089】
警報信号生成装置62は、主制御装置40からアラーム情報を受け取ると、対応する警報信号を生成し、スピーカ63に出力する。
【0090】
以上の説明から明らかなように、本実施形態に係る前方監視装置10によって、本発明のセンシング装置が構成されている。そして、センシング制御装置300によって、本発明のセンシング装置における信号処理装置が構成されている。また、主制御装置40と音声・警報発生装置60とによって、本発明のセンシング装置における監視制御装置が構成されている。
【0091】
また、光源装置220、電圧制御装置230、光偏向素子240、及びセンシング制御装置300によって、本発明のレーダ装置が構成されている。そして、センシング制御装置300によって、本発明のレーダ装置における光源制御装置が構成されている。
【0092】
以上説明したように、本実施形態に係る光偏向素子240によると、入射された光を、印加電圧に応じてXY面内(第1の面内)で偏向する周期分極反転構造体250(第1の偏向部)、及び周期分極反転構造体250を通過した光を該光の進行方向を含みXY面に直交する面内(第2の面内)で偏向するグレーティング260(第2の偏向部)を有する光偏向ユニットが、XY面に直交する方向(Z軸方向)に複数積み重ねられている。そして、該複数の光偏向ユニットにおけるグレーティング260の溝周期は、互いに異なっている。
【0093】
この場合は、小型で、2方向において大きな偏向角で光を射出することができる。また、MgOが添加されたニオブ酸リチウム(LiNbO3)結晶の板状部材であるコア層245に周期分極反転構造体250とグレーティング260を設けることが容易にできる。すなわち、集積化が容易で、光導波路面に交差する面内で大きな偏向角を得ることができる。
【0094】
また、周期分極反転構造体250を有するコア層245に、グレーティング260が形成されているため、周期分極反転構造体250とグレーティング260の位置合わせが不要である。
【0095】
また、特許文献2(特開昭58−130327号公報)と異なり、光をXZ面内で偏向させるのに、外部から電力を供給する必要はない。すなわち、低消費電力で光を2次元的に偏向することができる。
【0096】
また、光偏向素子240からの射出角は、点灯させる光源を切り替えることにより変更することができるため、非常に高速で光偏向素子240からの射出角を制御することができる。
【0097】
また、電圧制御装置230からの印加電圧と点灯させる光源を指定することにより、光偏向素子240から射出される光の射出方向を非常に高速で任意の方向に向けることができる。
【0098】
また、電圧制御装置230からの印加電圧と点灯させる光源を制御することにより、指定された範囲内に光を射出することができる。
【0099】
また、本実施形態に係る前方監視装置10によると、3つの半導体レーザ(221a、221b、221c)を有する光源装置220と、該光源装置220からの光が入射される光偏向素子240と、該光偏向素子240の各上部電極247に印加する電圧を個別に制御する電圧制御装置230とを備えている。そこで、小型でレーザ光の射出角を2次元的に大きく変化させることができる。
【0100】
また、本実施形態に係る前方監視装置10によると、光偏向素子240から射出され、物体で反射された光を受光する受光器350と、光偏向素子240からの光の射出方向及び受光器350の出力信号に基づいて、物体の位置情報を求めるセンシング制御装置300とを備えている。この場合は、高コスト化を招くことなく、小型で広い範囲をセンシングすることができる。
【0101】
また、指定した方向及び指定した範囲に光偏向素子240から光を射出することができるため、危険が予想される範囲を重点的にセンシングすることが可能である。
【0102】
なお、上記実施形態において、一例として図24に示されるように、前記3つの半導体レーザ(221a、221b、221c)に代えて、3つの発光部を有する半導体レーザ221を用いても良い。そして、3つのカップリングレンズ(223a、223b、223c)に代えて、それらが一体化されたカップリングレンズ223を用いても良い。
【0103】
また、上記実施形態では、3つの半導体レーザ(221a、221b、221c)から射出されるレーザ光の波長が同じ場合について説明したが、これに限定されるものではなく、3つの半導体レーザ(221a、221b、221c)から射出されるレーザ光の波長が互いに異なっていても良い。
【0104】
この場合には、3つの半導体レーザ(221a、221b、221c)が同時に点灯されても良い。但し、この場合には、前記受光器350に代えて、一例として図25に示されるように、波長毎に受光素子を備えた受光器350Aが用いられる。この受光器350Aは、3つのバンドパスフィルタ(BPF1、BPF2、BPF3)及び3つの受光素子(PD1、PD2、PD3)を有している。
【0105】
バンドパスフィルタBPF1は、半導体レーザ221aから射出されるレーザ光の波長λ1と中心波長が同じ狭帯域のバンドパスフィルタであり、バンドパスフィルタBPF2は、半導体レーザ221bから射出されるレーザ光の波長λ2と中心波長が同じ狭帯域のバンドパスフィルタであり、バンドパスフィルタBPF3は、半導体レーザ221cから射出されるレーザ光の波長λ3と中心波長が同じ狭帯域のバンドパスフィルタである。
【0106】
受光素子PD1は、バンドパスフィルタBPF1を透過した光束を受光し、受光素子PD2は、バンドパスフィルタBPF2を透過した光束を受光し、受光素子PD3は、バンドパスフィルタBPF3を透過した光束を受光する。
【0107】
この場合は、センシング制御装置300での前記監視データの取得の高速化を図ることができる。
【0108】
さらに、この場合に、前記3つのバンドパスフィルタ(BPF1、BPF2、BPF3)に代えて、一例として図26に示されるように、回折格子351を用いても良いし、一例として図27に示されるように、プリズム352を用いても良い。
【0109】
また、この場合に、3つの半導体レーザ(221a、221b、221c)に代えて、射出される光束の波長を変化させることができる波長可変レーザを用いても良い。波長可変レーザとしては、分布帰還型(DFB)レーザ、分布ブラッグ反射型(DBR)レーザ、Littrow構成の波長可変レーザなどが使用可能であるが、電流制御及び温度制御が可能なDFBレーザあるいはDBRレーザが好ましい。このとき、波長可変レーザから射出される波長λ1の光を光偏向ユニット240aに導光し、波長λ2の光を光偏向ユニット240bに導光し、波長λ3の光を光偏向ユニット240cに導光する光学系を有することとなる。
【0110】
また、上記実施形態では、光偏向素子240がZ軸方向に積み重ねられた3つの光偏向ユニットを有する場合について説明したが、これに限定されるものではない。例えば、光偏向素子240がZ軸方向に積み重ねられた4つ以上の光偏向ユニットを有し、各光偏向ユニットにおけるグレーティングの溝周期が互いに異なっていれば、さらに広い範囲をセンシングすることができる。
【0111】
また、上記実施形態では、周期分極反転構造体250における自発分極の方向が互いに反対である2つの領域(250a、250b)がプリズム状の場合について説明したが、これに限定されるものではない。要するに、印加電圧に応じて光を光導波路面内で偏向することができれば良い。
【0112】
また、上記実施形態では、上部電極247への印加電圧が、−150[V]〜+150[V]の場合について説明したが、これに限定されるものではない。周期分極反転構造体250の特性、及び必要な偏向角に応じて、上部電極247への印加電圧を設定すれば良い。
【0113】
また、上記実施形態では、Λ1=500nm、Λ2=420nm、Λ3=350nmの場合について説明したが、これに限定されるものではない。XZ平面内での必要な偏向角(ふれ角)に応じて設定することができる。
【0114】
また、上記実施形態において、一例として図28に示されるように、各光偏向ユニットのコア層245における+Z側の面の−Y側端部に、前記グレーティング260とは別にグレーティング261が設けられても良い。
【0115】
この場合は、一例として図29に示されるように、3つの光源(221a、221b、221c)から射出された光は、対応するカップリングレンズ(223a、223b、223c)及び集光レンズ(225a、225b、225c)を介して、対応する光偏向ユニットのグレーティング261に入射され、光導波路にカップリングされる。
【0116】
また、上記実施形態では、前方監視装置10が1つのレーザレーダ20を備える場合について説明したが、これに限定されるものではない。車両の大きさ、監視領域などに応じて、複数のレーザレーダ20を備えても良い。
【0117】
また、上記実施形態では、レーザレーダ20が車両の進行方向(前方)を監視する前方監視装置10に用いられた場合について説明したが、これに限定されるものではない。例えば、車両の後方を監視する装置に用いられても良い。
【0118】
さらに、レーザレーダ20は、車載用以外のセンシング装置にも用いることができる。この場合には、主制御装置40は、センシングの目的に応じたアラーム情報を出力する。
【0119】
また、レーザレーダ20は、センシング装置以外の用途(例えば、計測装置)にも用いることができる。
【0120】
また、光偏向素子240は、レーザレーダ以外の用途(例えば、医療用装置)にも用いることができる。
【産業上の利用可能性】
【0121】
以上説明したように、本発明の光偏向素子によれば、小型化が容易で、2方向において大きな偏向角を得るのに適している。また、本発明のレーザ装置によれば、小型でレーザ光の射出角を2次元的に大きく変化させるのに適している。また、本発明のセンシング装置によれば、高コスト化を招くことなく、小型で広い範囲をセンシングするのに適している。
【符号の説明】
【0122】
1…車両、10…前方監視装置(センシング装置)、20…レーザレーダ、40…主制御装置(監視制御装置の一部)、50…メモリ、60…音声・警報発生装置(監視制御装置の一部)、221a〜221c…半導体レーザ(レーザ光源)、230…電圧制御装置、240…光偏向素子、240a,240b,240c…光偏向ユニット、250…周期分極反転構造体(第1の偏向部)、260…グレーティング(第2の偏向部)、300…センシング制御装置(光源制御装置、信号処理装置)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0123】
【特許文献1】特開昭58−125023号公報
【特許文献2】特開昭58−130327号公報
【特許文献3】特開2000−330143号公報
【技術分野】
【0001】
本発明は、光偏向素子、レーザ装置及びセンシング装置に係り、さらに詳しくは、入射光を互いに交差する2つの面内で個別に偏向することができる光偏向素子、該光偏向素子を有するレーザ装置、該レーザ装置を備えるセンシング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、光を偏向する光偏向器として、ガルバノミラー、ポリゴンミラー、音響光学素子及び電気光学素子などを使ったものが知られている。
【0003】
ガルバノミラーを使った光偏向器は、高速での光走査が困難であるという不都合があった。
【0004】
ポリゴンミラーを使った光偏向器は、高速での光走査が可能で、偏向角を大きくとれるという利点があるが、機械的な部分を有するため、振動や光学系の大型化が避けられなかった。
【0005】
それに対し、音響光学素子及び電気光学素子を使った光偏向器は、機械的な部分を有していないため、振動や大型化の問題は生じない。
【0006】
例えば、特許文献1には、基板上に形成された薄膜光導波路における音響光学効果と熱光学効果を利用して光の進行方向を2次元的に制御する2次元光偏向器が開示されている。
【0007】
また、特許文献2には、基板上に形成された薄膜光導波路における音響光学効果、電気光学効果、及び熱光学効果を利用して光の進行方向を2次元的に制御する2次元光偏向器が開示されている。
【0008】
また、特許文献3には、電気光学効果を有する光導波路と出射用プリズムとを有し、光ビームを第1の方向、及び第1の方向と交差する第2の方向に偏向する光偏向素子が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1及び特許文献2に開示されている2次元光偏向器では、光導波路面内とは異なる方向への偏向角、すなわち射出角の変化量が極めて小さいという不都合があった。
【0010】
また、特許文献3に開示されている光偏向素子では、高価なプリズムが必要となり、高コスト化を招くという不都合があった。また、プリズムの位置合わせを高精度に行う必要があるため、調整作業に時間がかかるという不都合があった。さらに、素子の集積化に適していないため、小型化が困難であるという不都合があった。
【0011】
本発明はかかる事情の下になされたもので、その第1の目的は、小型化が容易で、2方向において大きな偏向角を得ることができる光偏向素子を提供することにある。
【0012】
また、本発明の第2の目的は、高コスト化を招くことなく、小型でレーザ光の射出角を2次元的に大きく変化させることができるレーザ装置を提供することにある。
【0013】
また、本発明の第3の目的は、高コスト化を招くことなく、小型で広い範囲をセンシングすることができるセンシング装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、第1の観点からすると、光入射部と、該光入射部を介した光を印加電圧に応じて第1の面内で偏向する第1の偏向部と、前記第1の偏向部を通過した光を該光の進行方向を含み前記第1の面に直交する第2の面内で偏向するグレーティングを含む第2の偏向部とを有する光偏向ユニットが、前記第1の面に直交する方向に複数積み重ねられ、該複数の光偏向ユニットにおける各グレーティングの溝周期が互いに異なる光偏向素子である。
【0015】
これによれば、小型化が容易で、2方向において大きな偏向角を得ることができる。
【0016】
本発明は、第2の観点からすると、本発明の光偏向素子と、前記光偏向素子の複数の光偏向ユニットにそれぞれ入射される光を射出する複数のレーザ光源と、前記複数の光偏向ユニットの各第1の偏向部に印加する電圧を制御する電圧制御装置と、を備えるレーザ装置である。
【0017】
これによれば、本発明の光偏向素子を備えているため、結果として、高コスト化を招くことなく、小型でレーザ光の射出角を2次元的に大きく変化させることができる。
【0018】
本発明は、第3の観点からすると、本発明のレーザ装置と、前記レーザ装置から射出され、物体で反射された光を受光する受光器と、前記レーザ装置からの光の射出方向及び前記受光器の出力信号に基づいて、前記物体の位置情報を求める信号処理装置と、を備えるセンシング装置である。
【0019】
これによれば、本発明のレーザ装置を備えているため、結果として、高コスト化を招くことなく、小型で広い範囲をセンシングすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施形態に係るレーザレーダを搭載した車両の外観図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る前方監視装置の構成を説明するためのブロック図である。
【図3】レーザレーダの構成を説明するためのブロック図である。
【図4】図3における光源装置の構成を説明するための図である。
【図5】図3における光偏向素子の構成を説明するための図(その1)である。
【図6】図3における光偏向素子の構成を説明するための図(その2)である。
【図7】光偏向ユニットの構成を説明するための図である。
【図8】コア層における周期分極反転構造体及びグレーティングを説明するための図である。
【図9】図9(A)〜図9(D)は、それぞれ、光偏向ユニットの作成方法を説明するための図(その1)である。
【図10】図10(A)〜図10(C)は、それぞれ、光偏向ユニットの作成方法を説明するための図(その2)である。
【図11】図11(A)〜図11(C)は、それぞれ、光偏向ユニットの作成方法を説明するための図(その3)である。
【図12】図12(A)〜図12(C)は、それぞれ、光偏向ユニットの作成方法を説明するための図(その4)である。
【図13】図13(A)〜図13(C)は、それぞれ、光偏向ユニットの作成方法を説明するための図(その5)である。
【図14】3つの光偏向ユニットの積み重ねを説明するための図である。
【図15】3つの光偏向ユニットに入射する光束を説明するための図である。
【図16】電圧制御装置からの電圧の印加を説明するための図である。
【図17】図17(A)及び図17(B)は、それぞれ、XY平面内での光束の偏向を説明するための図であり、図17(C)は、XY平面内での光束の偏向角を説明するための図である。
【図18】各グレーティングによる偏向を説明するための図である。
【図19】センシング制御装置による各半導体レーザの駆動制御を説明するための図である。
【図20】光偏向素子から射出される各光束の偏向面を説明するための図である。
【図21】電圧が印加されていないときの、XY面内での各光束の光路を説明するための図である。
【図22】3つの光偏向ユニットがY軸方向に配置されているときに、3つの光偏向ユニットから射出される各光束の光路を説明するための図である。
【図23】音声・警報発生装置の構成を説明するためのブロック図である。
【図24】光源装置の変形例を説明するための図である。
【図25】受光器の変形例1を説明するための図である。
【図26】受光器の変形例2を説明するための図である。
【図27】受光器の変形例3を説明するための図である。
【図28】コア層の入射側にもグレーティングが形成されている例を説明するための図である。
【図29】図28に対応する光源装置の一例を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の一実施形態を図1〜図23に基づいて説明する。図1には、一実施形態に係るセンシング装置としての車載用のレーザレーダ20を搭載した車両1の外観が示されている。
【0022】
レーザレーダ20は、一例として、車両1の前方のナンバープレート近傍に取り付けられている。なお、本明細書では、XYZ3次元直交座標系において、重力方向をZ軸方向、車両1の前進方向を+X方向として説明する。
【0023】
車両1の車内には、一例として図2に示されるように、表示装置30、主制御装置40、メモリ50、及び音声・警報発生装置60などを備えている。これらは、バス70を介して電気的に接続されている。
【0024】
ここでは、レーザレーダ20、表示装置30、主制御装置40、メモリ50、及び音声・警報発生装置60によって、前方監視装置10が構成されている。
【0025】
レーザレーダ20は、一例として図3に示されるように、光源装置220、電圧制御装置230、光偏向素子240、センシング制御装置300、及び受光器350などを有している。
【0026】
ここでは、光源装置220は、一例として図4に示されるように、3つの半導体レーザ(221a、221b、221c)、3つのカップリングレンズ(223a、223b、223c)、集光レンズ225、及びシリンドリカルレンズ227を有している。
【0027】
各半導体レーザは、波長が650nmのレーザ光を+X方向に射出する。
【0028】
カップリングレンズ223aは、半導体レーザ221aから射出された光束の光路上に配置され、該光束を略平行光とする。
【0029】
カップリングレンズ223bは、半導体レーザ221bから射出された光束の光路上に配置され、該光束を略平行光とする。
【0030】
カップリングレンズ223cは、半導体レーザ221cから射出された光束の光路上に配置され、該光束を略平行光とする。
【0031】
以下では、便宜上、半導体レーザ221aから射出された光束を「光束LBa」、半導体レーザ221bから射出された光束を「光束LBb」、半導体レーザ221cから射出された光束を「光束LBc」という。
【0032】
集光レンズ225は、カップリングレンズ223aを介した光束LBa、カップリングレンズ223bを介した光束LBb、カップリングレンズ223cを介した光束LBcの光路上に配置されている。
【0033】
シリンドリカルレンズ227は、集光レンズ225の+X側に配置され、Z軸方向に関して、集光レンズ225を介した光束LBa、光束LBb及び光束LBcを集束する。
【0034】
図3に戻り、光偏向素子240は、光源装置220の+X側に配置されている。
【0035】
この光偏向素子240は、一例として図5及び図6に示されるように、3つの光偏向ユニット(240a、240b、240c)を有している。各光偏向ユニットは、X軸方向の寸法(長さ)が異なっている。ここでは、光偏向ユニット240aの長さLa>光偏向ユニット240bの長さLb>光偏向ユニット240cの長さLcとなるように設定されている。
【0036】
3つの光偏向ユニット(240a、240b、240c)は、+Z方向に、光偏向ユニット240a、光偏向ユニット240b、光偏向ユニット240cの順で積層されている。そして、X軸方向に関して、各光偏向ユニットの−X側の端部の位置は、略一致している。
【0037】
3つの光偏向ユニット(240a、240b、240c)は、それぞれ同様な構成を有している。そこで、3つの光偏向ユニット(240a、240b、240c)を区別する必要がないときは、それらを総称して光偏向ユニット240xという。
【0038】
光偏向ユニット240xは、一例として図7に示されるように、基板241、接着剤242、下部電極243、下部クラッド層244、コア層245、上部クラッド層246、及び上部電極247などから構成されている。
【0039】
コア層245は、MgOが添加されたニオブ酸リチウム(LiNbO3)結晶の厚さが約10μmの板状部材である。
【0040】
このコア層245は、一例として図8に示されるように、+X側の端部近傍に、複数の溝が円弧状に形成されているグレーティング260を有している。該グレーティング260における凹部の幅と凸部の幅は同じである。また、凹部の深さは、50nmである。3つの光偏向ユニット(240a、240b、240c)では、グレーティング260の溝周期が互いに異なっている。ここでは、光偏向ユニット240aでのグレーティング260の溝周期Λa>光偏向ユニット240bでのグレーティング260の溝周期Λb>光偏向ユニット240cでのグレーティング260の溝周期Λcとなるように設定されている。
【0041】
また、コア層245は、X軸方向に関して、−X側端部からグレーティング260近傍にかけて周期分極反転構造体250を有している。
【0042】
周期分極反転構造体250では、自発分極の方向が互いに反対である2つの領域(250a、250b)が、XY断面において互いに反対形状のプリズム状に形成されている。
【0043】
図7に戻り、上部クラッド層246は、厚さ1μmのTaO5の層であり、コア層245における周期分極反転構造体250の+Z側に形成されている。
【0044】
下部クラッド層244は、厚さ1μmのTaO5の層であり、コア層245の−Z側に形成されている。
【0045】
上部電極247は、厚さ200nmのTi(チタン)の層であり、上部クラッド層246の+Z側に形成されている。
【0046】
下部電極243は、厚さ200nmのTi(チタン)の層であり、下部クラッド層244の−Z側に形成されている。
【0047】
基板241は、ニオブ酸リチウム(LiNbO3)の基板である。この基板241は、接着剤242によって、下部電極243と接着されている。
【0048】
ここでは、コア層245及び基板241に同じ材料を用いているため、熱膨張の影響(はく離)を低減させることができる。
【0049】
次に、この光偏向ユニット240xの作成方法について、簡単に説明する。
【0050】
(1)周期分極反転構造体250を有するコア層245を準備する(図9(A)〜図9(C)参照)。なお、図9(C)は、図9(B)のA−A断面図である。
【0051】
(2)コア層245の+Z側の面に、下部クラッド層244を成膜する(図9(D)参照)。
【0052】
(3)下部クラッド層244の表面に、下部電極243を成膜する(図10(A)参照)。なお、ここで下部電極243が成膜されたものを、以下では、便宜上、「一次積層体」という。
【0053】
(4)基板241を準備し、該基板241の表面に接着剤242を塗布する(図10(B)参照)。
【0054】
(5)該接着剤242の上に、上記一次積層体を上下反転し、その下部電極243を下にして載置する(図10(C)参照)。なお、基板241と一次積層体とが接着剤242によって接合されたものを、以下では、便宜上、「二次積層体」という。
【0055】
(6)接着剤242が硬化すると、上記二次積層体を上下反転させ、コア層245の他側の面を下にする(図11(A)参照)。
【0056】
(7)二次積層体におけるコア層245の他側の面を研磨し、コア層245の厚さを約10μmとする(図11(B)参照)。
【0057】
(8)二次積層体を上下反転させ、コア層245の他側の面にフォトレジシトPRを塗布する(図11(C)参照)。
【0058】
(9)電子線描画装置を用いて、フォトレジシトPR上にグレーティング用のパターンを描画する。このとき、光偏向ユニット240aのときは溝周期がΛaとなるようにパターンが描画され、光偏向ユニット240bのときは溝周期がΛbとなるようにパターンが描画され、光偏向ユニット240cのときは溝周期がΛcとなるようにパターンが描画される。具体的には、Λa=500nm、Λb=420nm、Λc=350nm、とした。なお、露光装置を用いて、グレーティング用のパターンをフォトレジシトPR表面に転写しても良い。
【0059】
(10)フォトレジシトPRに対して所定の処理を行い、エッチングマスクとする(図12(A)参照)。なお、ここでは、レジストパターンをエッチングマスクとしているが、これに限定されるものではなく、例えば、レジストパターンに金属を蒸着し、リフトオフによって金属パターンを形成し、該金属パターンをエッチングマスクとしても良い。
【0060】
(11)エッチングマスクを介して、コア層245の他側の面をドライエッチングする(図12(B)参照)。
【0061】
(12)エッチングマスクを除去する(図12(C)参照)。これにより、グレーティング260が形成される。
【0062】
(13)コア層245の他側の面におけるグレーティング260を除く部分に、上部クラッド層246を成膜する(図13(A)参照)。
【0063】
(14)上部クラッド層246の表面に、上部電極247を成膜する(図13(B)及び図13(C)参照)。これにより、光偏向ユニット240xとなる。
【0064】
そして、このようにして個別に作成された3つの光偏向ユニット(240a、240b、240c)を、一例として図14に示されるように接着剤で接着し、光偏向素子240とする。
【0065】
光偏向素子240は、光源装置220から射出された光束LBaが光偏向ユニット240aのコア層245に入射され、光束LBbが光偏向ユニット240bのコア層245に入射され、光束LBcが光偏向ユニット240cのコア層245に入射されるように位置決めされている(図15参照)。すなわち、各コア層245が光導波路である。
【0066】
電圧制御装置230は、センシング制御装置300の指示に基づいて、各光偏向ユニットの上部電極247に個別に電圧を印加する(図16参照)。なお、各光偏向ユニットの下部電極243は、それぞれグラウンド接続されている。
【0067】
各光偏向ユニットの上部電極247に電圧が印加されると、周期分極反転構造体250における領域250aと領域250bとの間に屈折率差が生じる。この屈折率差Δnは、次の(1)式で示される。ここで、rはポッケルス定数、nはコア層245の材料の屈折率、dはコア層245の厚さ、Vは印加電圧である。
【0068】
Δn=−1/2・r・n3・V/d ……(1)
【0069】
そこで、コア層245に光源装置220からの光束が入射しているときに、電圧制御装置230から上部電極247に電圧が印加されると、光束は印加電圧に応じてXY平面内で偏向される。
【0070】
例えば、V=+150[V]のときは、一例として図17(A)に示されるように、光束は+Y側に偏向される。
【0071】
また、V=−150[V]のときは、一例として図17(B)に示されるように、光束は−Y側に偏向される。
【0072】
このように、例えば、上部電極247に−150[V]〜+150[V]の電圧を印加すると、XY平面内において、偏向角(ふれ角)θx=10°で光束を偏向することができる(図17(C)参照)。なお、波長が異なることによるXY平面内での偏向方向の違いは、本実施形態で使用する波長の差異ではほとんどない。
【0073】
周期分極反転構造体250を通過した光束は、グレーティング260によって、該光束の進行方向を含みXY面に直交する面内で偏向される。このときのZ軸方向に対する角度θzは、次の(2)式で示される。ここで、n(a)はグレーティング260の周辺(ここでは、空気)の屈折率、Nはコア層245の実効屈折率、qは回折の次数、λは光束の波長、Λはグレーティング260の溝周期である。
【0074】
n(a)・sinθz=N+q・λ/Λ ……(2)
【0075】
例えば、λ=650nm、N=2.2、q=−1とすると、Λ=500nmでは、θz=64°、Λ=420nmでは、θz=41°、Λ=350nmでは、θz=20°となる。
【0076】
すなわち、Y軸方向からみたとき、光偏向ユニット240aに入射した光束LBaは、YZ面に対して+X側に64°(図18におけるθa)傾斜した方向に射出される。また、光偏向ユニット240bに入射した光束LBbは、YZ面に対して+X側に41°(図18におけるθb)傾斜した方向に射出される。さらに、光偏向ユニット240cに入射した光束LBcは、YZ面に対して+X側に20°(図18におけるθc)傾斜した方向に射出される。従って、XZ平面内での偏向角(ふれ角)は44°(=64°−20°)である。
【0077】
センシング制御装置300は、光源装置220の3つの半導体レーザ(221a、221b、221c)が順に点灯するように、それぞれの駆動信号を制御する(図19参照)。同時に、センシング制御装置300は、各半導体レーザの点灯タイミング及び消灯タイミングに関する情報(タイミング情報)を、電圧制御装置230に通知する。
【0078】
電圧制御装置230は、上記タイミング情報に基づいて、印加電圧Vを制御する。ここでは、各半導体レーザについて、該半導体レーザが点灯している時間内に印加電圧Vを−150[V]→+150[V]あるいは+150[V]→−150[V]に変化させる。これにより、光偏向素子240から射出される光束を、XY平面内では偏向角(ふれ角)10°で、XZ平面内では偏向角(ふれ角)44°で、2次元的に偏向することができる(図20参照)。
【0079】
そこで、光偏向素子240は、車両1の前方における広い領域に光束を射出することができる。
【0080】
ところで、電圧制御装置230から上部電極247に電圧が印加されていないときに、図21に示されるように、Z軸方向からみたとき、各光偏向ユニットから射出された光束の光路が略一致するように、3つの光偏向ユニットを積層する際に調整されている。この場合、コア層245内での偏向の中心が各光偏向ユニット間で一致しているため、各上部電極247に印加される電圧を同じにすれば、各光偏向ユニットから射出される光束のY軸方向に関する位置を一致させることができる。
【0081】
仮に、図22に示されるように、3つの光偏向ユニットをY軸方向に沿って配置した場合には、光偏向ユニット間でY軸方向に関する射出位置が異なるため、各光偏向ユニットから射出される光束のY軸方向に関する位置合わせが難しくなり、また投射距離により調整が必要になる。
【0082】
また、本実施形態では、3つの光偏向ユニットを重ね合わせているため、光偏向素子の占有面積を小さくすることができ、レーザレーダ20の小型化に好適である。これは、光偏向素子における光偏向ユニットの数が増えるほど効果が高くなる。
【0083】
受光器350は、光偏向素子240から射出され、車両1の前方にある物体(例えば、他の車両)で反射された光束を受光する。受光器350は、受光量に応じた信号(光電変換信号)を生成し、センシング制御装置300に出力する。
【0084】
センシング制御装置300は、そのときに点灯している半導体レーザ及びそのときの印加電圧Vから光束の射出方向を求め、該射出方向と受光器350からの信号とに基づいて、物体の大きさ、車両1に対する物体の位置などを求める。ここで得られたデータは、時間情報とともに監視データとしてメモリ50に格納される。
【0085】
主制御装置40は、メモリ50に格納されている監視データに基づいて、車両1の前方に物体があるか否か、物体があるときにその物体が移動しているか否か、該物体が移動しているときにはその移動方向及び移動速度を求める。そして、その情報を表示装置30に表示する。
【0086】
また、主制御装置40は、危険があると判断すると、音声・警報発生装置60にアラーム情報を出力する。
【0087】
音声・警報発生装置60は、一例として図23に示されるように、音声合成装置61、警報信号生成装置62及びスピーカ63などを有している。
【0088】
音声合成装置61は、複数の音声データを有しており、主制御装置40からアラーム情報を受け取ると、対応する音声データを選択し、スピーカ63に出力する。
【0089】
警報信号生成装置62は、主制御装置40からアラーム情報を受け取ると、対応する警報信号を生成し、スピーカ63に出力する。
【0090】
以上の説明から明らかなように、本実施形態に係る前方監視装置10によって、本発明のセンシング装置が構成されている。そして、センシング制御装置300によって、本発明のセンシング装置における信号処理装置が構成されている。また、主制御装置40と音声・警報発生装置60とによって、本発明のセンシング装置における監視制御装置が構成されている。
【0091】
また、光源装置220、電圧制御装置230、光偏向素子240、及びセンシング制御装置300によって、本発明のレーダ装置が構成されている。そして、センシング制御装置300によって、本発明のレーダ装置における光源制御装置が構成されている。
【0092】
以上説明したように、本実施形態に係る光偏向素子240によると、入射された光を、印加電圧に応じてXY面内(第1の面内)で偏向する周期分極反転構造体250(第1の偏向部)、及び周期分極反転構造体250を通過した光を該光の進行方向を含みXY面に直交する面内(第2の面内)で偏向するグレーティング260(第2の偏向部)を有する光偏向ユニットが、XY面に直交する方向(Z軸方向)に複数積み重ねられている。そして、該複数の光偏向ユニットにおけるグレーティング260の溝周期は、互いに異なっている。
【0093】
この場合は、小型で、2方向において大きな偏向角で光を射出することができる。また、MgOが添加されたニオブ酸リチウム(LiNbO3)結晶の板状部材であるコア層245に周期分極反転構造体250とグレーティング260を設けることが容易にできる。すなわち、集積化が容易で、光導波路面に交差する面内で大きな偏向角を得ることができる。
【0094】
また、周期分極反転構造体250を有するコア層245に、グレーティング260が形成されているため、周期分極反転構造体250とグレーティング260の位置合わせが不要である。
【0095】
また、特許文献2(特開昭58−130327号公報)と異なり、光をXZ面内で偏向させるのに、外部から電力を供給する必要はない。すなわち、低消費電力で光を2次元的に偏向することができる。
【0096】
また、光偏向素子240からの射出角は、点灯させる光源を切り替えることにより変更することができるため、非常に高速で光偏向素子240からの射出角を制御することができる。
【0097】
また、電圧制御装置230からの印加電圧と点灯させる光源を指定することにより、光偏向素子240から射出される光の射出方向を非常に高速で任意の方向に向けることができる。
【0098】
また、電圧制御装置230からの印加電圧と点灯させる光源を制御することにより、指定された範囲内に光を射出することができる。
【0099】
また、本実施形態に係る前方監視装置10によると、3つの半導体レーザ(221a、221b、221c)を有する光源装置220と、該光源装置220からの光が入射される光偏向素子240と、該光偏向素子240の各上部電極247に印加する電圧を個別に制御する電圧制御装置230とを備えている。そこで、小型でレーザ光の射出角を2次元的に大きく変化させることができる。
【0100】
また、本実施形態に係る前方監視装置10によると、光偏向素子240から射出され、物体で反射された光を受光する受光器350と、光偏向素子240からの光の射出方向及び受光器350の出力信号に基づいて、物体の位置情報を求めるセンシング制御装置300とを備えている。この場合は、高コスト化を招くことなく、小型で広い範囲をセンシングすることができる。
【0101】
また、指定した方向及び指定した範囲に光偏向素子240から光を射出することができるため、危険が予想される範囲を重点的にセンシングすることが可能である。
【0102】
なお、上記実施形態において、一例として図24に示されるように、前記3つの半導体レーザ(221a、221b、221c)に代えて、3つの発光部を有する半導体レーザ221を用いても良い。そして、3つのカップリングレンズ(223a、223b、223c)に代えて、それらが一体化されたカップリングレンズ223を用いても良い。
【0103】
また、上記実施形態では、3つの半導体レーザ(221a、221b、221c)から射出されるレーザ光の波長が同じ場合について説明したが、これに限定されるものではなく、3つの半導体レーザ(221a、221b、221c)から射出されるレーザ光の波長が互いに異なっていても良い。
【0104】
この場合には、3つの半導体レーザ(221a、221b、221c)が同時に点灯されても良い。但し、この場合には、前記受光器350に代えて、一例として図25に示されるように、波長毎に受光素子を備えた受光器350Aが用いられる。この受光器350Aは、3つのバンドパスフィルタ(BPF1、BPF2、BPF3)及び3つの受光素子(PD1、PD2、PD3)を有している。
【0105】
バンドパスフィルタBPF1は、半導体レーザ221aから射出されるレーザ光の波長λ1と中心波長が同じ狭帯域のバンドパスフィルタであり、バンドパスフィルタBPF2は、半導体レーザ221bから射出されるレーザ光の波長λ2と中心波長が同じ狭帯域のバンドパスフィルタであり、バンドパスフィルタBPF3は、半導体レーザ221cから射出されるレーザ光の波長λ3と中心波長が同じ狭帯域のバンドパスフィルタである。
【0106】
受光素子PD1は、バンドパスフィルタBPF1を透過した光束を受光し、受光素子PD2は、バンドパスフィルタBPF2を透過した光束を受光し、受光素子PD3は、バンドパスフィルタBPF3を透過した光束を受光する。
【0107】
この場合は、センシング制御装置300での前記監視データの取得の高速化を図ることができる。
【0108】
さらに、この場合に、前記3つのバンドパスフィルタ(BPF1、BPF2、BPF3)に代えて、一例として図26に示されるように、回折格子351を用いても良いし、一例として図27に示されるように、プリズム352を用いても良い。
【0109】
また、この場合に、3つの半導体レーザ(221a、221b、221c)に代えて、射出される光束の波長を変化させることができる波長可変レーザを用いても良い。波長可変レーザとしては、分布帰還型(DFB)レーザ、分布ブラッグ反射型(DBR)レーザ、Littrow構成の波長可変レーザなどが使用可能であるが、電流制御及び温度制御が可能なDFBレーザあるいはDBRレーザが好ましい。このとき、波長可変レーザから射出される波長λ1の光を光偏向ユニット240aに導光し、波長λ2の光を光偏向ユニット240bに導光し、波長λ3の光を光偏向ユニット240cに導光する光学系を有することとなる。
【0110】
また、上記実施形態では、光偏向素子240がZ軸方向に積み重ねられた3つの光偏向ユニットを有する場合について説明したが、これに限定されるものではない。例えば、光偏向素子240がZ軸方向に積み重ねられた4つ以上の光偏向ユニットを有し、各光偏向ユニットにおけるグレーティングの溝周期が互いに異なっていれば、さらに広い範囲をセンシングすることができる。
【0111】
また、上記実施形態では、周期分極反転構造体250における自発分極の方向が互いに反対である2つの領域(250a、250b)がプリズム状の場合について説明したが、これに限定されるものではない。要するに、印加電圧に応じて光を光導波路面内で偏向することができれば良い。
【0112】
また、上記実施形態では、上部電極247への印加電圧が、−150[V]〜+150[V]の場合について説明したが、これに限定されるものではない。周期分極反転構造体250の特性、及び必要な偏向角に応じて、上部電極247への印加電圧を設定すれば良い。
【0113】
また、上記実施形態では、Λ1=500nm、Λ2=420nm、Λ3=350nmの場合について説明したが、これに限定されるものではない。XZ平面内での必要な偏向角(ふれ角)に応じて設定することができる。
【0114】
また、上記実施形態において、一例として図28に示されるように、各光偏向ユニットのコア層245における+Z側の面の−Y側端部に、前記グレーティング260とは別にグレーティング261が設けられても良い。
【0115】
この場合は、一例として図29に示されるように、3つの光源(221a、221b、221c)から射出された光は、対応するカップリングレンズ(223a、223b、223c)及び集光レンズ(225a、225b、225c)を介して、対応する光偏向ユニットのグレーティング261に入射され、光導波路にカップリングされる。
【0116】
また、上記実施形態では、前方監視装置10が1つのレーザレーダ20を備える場合について説明したが、これに限定されるものではない。車両の大きさ、監視領域などに応じて、複数のレーザレーダ20を備えても良い。
【0117】
また、上記実施形態では、レーザレーダ20が車両の進行方向(前方)を監視する前方監視装置10に用いられた場合について説明したが、これに限定されるものではない。例えば、車両の後方を監視する装置に用いられても良い。
【0118】
さらに、レーザレーダ20は、車載用以外のセンシング装置にも用いることができる。この場合には、主制御装置40は、センシングの目的に応じたアラーム情報を出力する。
【0119】
また、レーザレーダ20は、センシング装置以外の用途(例えば、計測装置)にも用いることができる。
【0120】
また、光偏向素子240は、レーザレーダ以外の用途(例えば、医療用装置)にも用いることができる。
【産業上の利用可能性】
【0121】
以上説明したように、本発明の光偏向素子によれば、小型化が容易で、2方向において大きな偏向角を得るのに適している。また、本発明のレーザ装置によれば、小型でレーザ光の射出角を2次元的に大きく変化させるのに適している。また、本発明のセンシング装置によれば、高コスト化を招くことなく、小型で広い範囲をセンシングするのに適している。
【符号の説明】
【0122】
1…車両、10…前方監視装置(センシング装置)、20…レーザレーダ、40…主制御装置(監視制御装置の一部)、50…メモリ、60…音声・警報発生装置(監視制御装置の一部)、221a〜221c…半導体レーザ(レーザ光源)、230…電圧制御装置、240…光偏向素子、240a,240b,240c…光偏向ユニット、250…周期分極反転構造体(第1の偏向部)、260…グレーティング(第2の偏向部)、300…センシング制御装置(光源制御装置、信号処理装置)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0123】
【特許文献1】特開昭58−125023号公報
【特許文献2】特開昭58−130327号公報
【特許文献3】特開2000−330143号公報
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光入射部と、該光入射部を介した光を印加電圧に応じて第1の面内で偏向する第1の偏向部と、前記第1の偏向部を通過した光を該光の進行方向を含み前記第1の面に直交する第2の面内で偏向するグレーティングを含む第2の偏向部とを有する光偏向ユニットが、前記第1の面に直交する方向に複数積み重ねられ、該複数の光偏向ユニットにおける各グレーティングの溝周期が互いに異なる光偏向素子。
【請求項2】
前記複数の光偏向ユニットにおいて、各第1の偏向部に電圧が印加されていないとき、あるいは同一の電圧が印加されているとき、
前記複数の光偏向ユニットにおいて、各第1の偏向部を通過する光の光路は、前記第1の面に直交する方向からみたとき、互いに略一致していることを特徴とする請求項1に記載の光偏向素子。
【請求項3】
前記各光偏向ユニットにおいて、前記第1の偏向部と前記第2の偏向部は、同一基板上に配置されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の光偏向素子。
【請求項4】
前記第1の偏向部は、周期分極反転構造を有する構造体、及び該構造体に電圧を印加するための電極を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の光偏向素子。
【請求項5】
前記各光偏向ユニットにおいて、前記光入射部の表面に前記第2の偏向部のグレーティングとは別のグレーティングが形成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の光偏向素子。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の光偏向素子と、
前記光偏向素子の複数の光偏向ユニットにそれぞれ入射される光を射出する複数のレーザ光源と、
前記複数の光偏向ユニットの各第1の偏向部に印加する電圧を制御する電圧制御装置と、を備えるレーザ装置。
【請求項7】
前記複数のレーザ光源から射出された複数の光を、対応する光偏向ユニットの光入射部に導く光学系を備えることを特徴とする請求項6に記載のレーザ装置。
【請求項8】
前記複数のレーザ光源は、互いに同じ波長の光を射出することを特徴とする請求項6又は7に記載のレーザ装置。
【請求項9】
前記複数のレーザ光源を1つずつ順次点灯させる光源制御装置を備えることを特徴とする請求項8に記載のレーザ装置。
【請求項10】
前記複数のレーザ光源は、互いに波長が異なる光を射出することを特徴とする請求項6又は7に記載のレーザ装置。
【請求項11】
前記複数のレーザ光源を同時に点灯させる光源制御装置を備えることを特徴とする請求項10に記載のレーザ装置。
【請求項12】
請求項6〜11のいずれか一項に記載のレーザ装置と、
前記レーザ装置から射出され、物体で反射された光を受光する受光器と、
前記レーザ装置からの光の射出方向及び前記受光器の出力信号に基づいて、前記物体の位置情報を求める信号処理装置と、を備えるセンシング装置。
【請求項13】
前記物体の位置情報を表示する表示装置を備えることを特徴とする請求項12に記載のセンシング装置。
【請求項14】
前記物体の位置情報を保存するメモリを備えることを特徴とする請求項12又は13に記載のセンシング装置。
【請求項15】
車両に搭載され、
前記物体の位置情報に基づいて危険があると判断すると、アラーム情報を出力する監視制御装置を備えることを特徴とする請求項12〜14のいずれか一項に記載のセンシング装置。
【請求項1】
光入射部と、該光入射部を介した光を印加電圧に応じて第1の面内で偏向する第1の偏向部と、前記第1の偏向部を通過した光を該光の進行方向を含み前記第1の面に直交する第2の面内で偏向するグレーティングを含む第2の偏向部とを有する光偏向ユニットが、前記第1の面に直交する方向に複数積み重ねられ、該複数の光偏向ユニットにおける各グレーティングの溝周期が互いに異なる光偏向素子。
【請求項2】
前記複数の光偏向ユニットにおいて、各第1の偏向部に電圧が印加されていないとき、あるいは同一の電圧が印加されているとき、
前記複数の光偏向ユニットにおいて、各第1の偏向部を通過する光の光路は、前記第1の面に直交する方向からみたとき、互いに略一致していることを特徴とする請求項1に記載の光偏向素子。
【請求項3】
前記各光偏向ユニットにおいて、前記第1の偏向部と前記第2の偏向部は、同一基板上に配置されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の光偏向素子。
【請求項4】
前記第1の偏向部は、周期分極反転構造を有する構造体、及び該構造体に電圧を印加するための電極を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の光偏向素子。
【請求項5】
前記各光偏向ユニットにおいて、前記光入射部の表面に前記第2の偏向部のグレーティングとは別のグレーティングが形成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の光偏向素子。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の光偏向素子と、
前記光偏向素子の複数の光偏向ユニットにそれぞれ入射される光を射出する複数のレーザ光源と、
前記複数の光偏向ユニットの各第1の偏向部に印加する電圧を制御する電圧制御装置と、を備えるレーザ装置。
【請求項7】
前記複数のレーザ光源から射出された複数の光を、対応する光偏向ユニットの光入射部に導く光学系を備えることを特徴とする請求項6に記載のレーザ装置。
【請求項8】
前記複数のレーザ光源は、互いに同じ波長の光を射出することを特徴とする請求項6又は7に記載のレーザ装置。
【請求項9】
前記複数のレーザ光源を1つずつ順次点灯させる光源制御装置を備えることを特徴とする請求項8に記載のレーザ装置。
【請求項10】
前記複数のレーザ光源は、互いに波長が異なる光を射出することを特徴とする請求項6又は7に記載のレーザ装置。
【請求項11】
前記複数のレーザ光源を同時に点灯させる光源制御装置を備えることを特徴とする請求項10に記載のレーザ装置。
【請求項12】
請求項6〜11のいずれか一項に記載のレーザ装置と、
前記レーザ装置から射出され、物体で反射された光を受光する受光器と、
前記レーザ装置からの光の射出方向及び前記受光器の出力信号に基づいて、前記物体の位置情報を求める信号処理装置と、を備えるセンシング装置。
【請求項13】
前記物体の位置情報を表示する表示装置を備えることを特徴とする請求項12に記載のセンシング装置。
【請求項14】
前記物体の位置情報を保存するメモリを備えることを特徴とする請求項12又は13に記載のセンシング装置。
【請求項15】
車両に搭載され、
前記物体の位置情報に基づいて危険があると判断すると、アラーム情報を出力する監視制御装置を備えることを特徴とする請求項12〜14のいずれか一項に記載のセンシング装置。
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図1】
【図3】
【図4】
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【図12】
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【図14】
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【図18】
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【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図1】
【公開番号】特開2012−163642(P2012−163642A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−22241(P2011−22241)
【出願日】平成23年2月4日(2011.2.4)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年2月4日(2011.2.4)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】
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