光偏向素子
【課題】電磁波の偏向素子を実現すること。
【解決手段】絶縁層と金属層とを厚さ方向のz軸方向に周期的に積層した光偏向素子において、絶縁層の面上において、z軸に垂直な方向にx軸、z軸とx軸に垂直な方向にy軸をとるとき、z軸方向に伝搬する電磁波に対して、第1周波数に関してx軸方向に沿って屈折率が、電磁波の存在する範囲において、一定の変化率で、増加、又は、減少するように、屈折率の分散特性をx軸方向に沿って変化させた特性としたメタマテリアル素子とした。電磁波の存在範囲において、第1周波数に関してx軸方向に沿って屈折率が、一定の変化率で増加し、第1周波数と異なる第2周波数に関してx軸方向に沿って屈折率が、一定の変化率で減少するように、屈折率の分散特性をx軸方向に沿って変化させた特性とする。これにより、z軸に対して両側に偏向させることができる。
【解決手段】絶縁層と金属層とを厚さ方向のz軸方向に周期的に積層した光偏向素子において、絶縁層の面上において、z軸に垂直な方向にx軸、z軸とx軸に垂直な方向にy軸をとるとき、z軸方向に伝搬する電磁波に対して、第1周波数に関してx軸方向に沿って屈折率が、電磁波の存在する範囲において、一定の変化率で、増加、又は、減少するように、屈折率の分散特性をx軸方向に沿って変化させた特性としたメタマテリアル素子とした。電磁波の存在範囲において、第1周波数に関してx軸方向に沿って屈折率が、一定の変化率で増加し、第1周波数と異なる第2周波数に関してx軸方向に沿って屈折率が、一定の変化率で減少するように、屈折率の分散特性をx軸方向に沿って変化させた特性とする。これにより、z軸に対して両側に偏向させることができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光の進行方向を変化させる光偏向素子に関する。特に、メタマテリアルを用いた光偏向素子に関する。
【背景技術】
【0002】
屈折率が周期的に変化するフォトニック結晶を用いて、光の進行方向を変化させる(以下、「偏向」という)素子が、下記特許文献1〜4により知られている。これらの文献に記載されているフォトニック結晶は、何れも、平板の厚さ方向に平行に平板と材料の異なる部分又は空間で構成される微小円柱を平行に多数、平板面において、2次元的に周期的に配列することで、屈折率を2次元面上において周期的に変化させたものである。そして、光は、この平板の厚さが表れる側面から、厚さ、すなわち、微小円柱の軸に垂直な方向に入射させている。そして、入射側面の法線に対して、零ではない入射角で入射した光は、このフォトニック結晶の有する比屈折率と入射角とに応じた屈折角で、フォトニック結晶を伝搬する。このフォトニック結晶の比屈折率の分散特性により、入射光の周波数により、屈折角が異なることを利用して、周波数に応じた屈折角でフォトニック結晶中を伝搬させるものである。
【0003】
上記のフォトニック結晶において、入射側面と出射側面とが平行である場合には、フォトニック結晶中における光の伝搬方向は、周波数により変化でき、出射側面上での光の出射位置を、周波数に応じて変化させることができるが、出射光は、入射光と平行である。出射光を入射光に対して平行としない、すなわち、出射光の進行方向を、周波数に応じて偏向させる場合に、出射側面を円弧状にしたりして、出射側面上の位置に応じて、外部の空中へ出射する場合の屈折角を変化できるようにしている。
【0004】
一方、下記非特許文献1、2に開示されているように、このような構造とは異なり、絶縁層と金属層とを多数積層して、厚さ方向に多数の柱状の孔を、面上の2次元的に周期的に配列したいわゆるフィッシュネット構造のメタマテリアルであるフォトニック結晶も知られている。この構造のフォトニック結晶は、特許文献1〜4と異なり、絶縁層と金属層の厚さ方向、すなわち、柱状の孔の軸方向に光を入射させるものである。また、光の出射面は、入射面と平行ではなく、傾斜させて、厚さ方向に対して90度ではないテーパ面としている。それにより、入射面に垂直に入射した光が、傾斜した出射面に達してから空中に放射される時に、空中に対して0度ではない入射角を形成している。そして、この入射角と、フォトニック結晶の屈折率と空中の屈折率の差を用いて、空中への屈折角、すなわち、空中への光の放射角を、フォトニック結晶の屈折率に応じて、変化させるようにしている。また、フォトニック結晶の屈折率が、周波数により異なることを利用して、フォトニック結晶の出射面に対する放射角を、入射光の周波数により変化させるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−279762
【特許文献2】特開2003−344678
【特許文献3】特開2004−145314
【特許文献4】特開2001−13439
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Jason Valentine, et al., Three-dimensional optical metamaterial with a negative refractive index, Nature Lett. Vol.455 376-380(2008)
【非特許文献2】M.Navarro-Cia, et al., Negative refraction in a prism made of stacked subwavelength hole arrays, Vol.16, No.2, Optics Express, 560-566 (2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、上記の特許文献及び非特許文献の何れにおいても、出射光を入射光と平行ではない方向に偏向させるには、出射面を円弧状に曲面形成したり、入射面と平行ではなく、傾斜面とする必要がある。このための加工が必要となり、このための精度の高い加工は困難である。
また、特許文献1〜4に開示の技術では、出射面を円弧とすると共に、薄い側面から光を非垂直に入射させる必要があり、光偏向素子の用途が限定されるという問題がある。また、面積の小さい側面から光を出射させることとなるので、開口面積が小さく、指向性を急峻にすることができないという課題がある。
また、非特許文献に開示の技術では、光の出射角は、出射面のテーパ角と、フォトニック結晶の屈折率とによって決定される。しかし、テーパ角はフォトニック結晶の光の進行方向の厚さに関係するため、大きくすることはできない。このため、入射光の周波数に対する出射角の可変範囲を大きくすることができない。また、出射角の可変範囲の中心角度は、出射面のテーパ角と中心周波数におけるフォトニック結晶の屈折率とにより固定され、入射光と平行な出射角を中心角度として偏向角を変化させることは困難である。
本発明は、上記の課題を解決するために成されたものであり、その目的は、光の出射面を入射面と平行にして、且つ、出射角の可変範囲を拡大することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための発明は、絶縁層と金属層とを厚さ方向のz軸方向に周期的に積層した光偏向素子において、絶縁層の面上において、z軸に垂直な方向にx軸、z軸とx軸に垂直な方向にy軸をとるとき、z軸方向に伝搬する電磁波に対して、第1周波数に関してx軸方向に沿って屈折率が、電磁波の存在する範囲において、一定の変化率で、増加、又は、減少するように、屈折率の分散特性をx軸方向に沿って変化させた特性としたメタマテリアル素子から成ることを特長とする光偏向素子である。
【0009】
x軸方向に沿って、屈折率を、一定の変化率で変化させる範囲は、少なくとも、入射する電磁波が存在するする範囲であれば良い。もちろん、素子の全範囲のx軸全範囲において、一定の変化率で、屈折率を変化させるものでも良い。また、電磁波の入射面と出射面には、絶縁層や金属層の他に、外部環境に対する反射率を低減するために機能する層や、保護層などを設けても良い。
【0010】
この発明において、メタマテリアル素子は、x軸方向の全範囲で、屈折率が正の右手系で構成しても、x軸方向の全範囲において、屈折率が負の左手系で構成しても、x軸方向の一部の範囲において、右手系、他の範囲で左手系となるように構成しても良い。また、予定している入射光の全周波数範囲において、右手系となっても、左手系となっても良く、ある周波数範囲において右手系となり、他の周波数範囲において左手系となるようにしても良い。要するに、第1周波数に関してx軸方向に沿って屈折率が増加、又は、減少するように、屈折率の分散特性をx軸方向に沿って変化させた特性となるように構成すれば良い。光の入射面は、絶縁層と金属層の構成する平面に平行な面である。また、光の入射方向は、この入射面の法線に平行な方向とするのが一般的であるが、入射面の法線に対して傾斜した方向としても良い。また、絶縁層は、絶縁体、誘電体、半導体から構成されるものである。また、絶縁層には、空気層、真空層を含む。すなわち、隣接する金属層と金属層との間には、材料が存在しないものも含む。
【0011】
また、第2発明のように、電磁波の存在範囲において、第1周波数に関して正のx軸方向に沿って屈折率が、一定の変化率で増加し、第1周波数と異なる第2周波数に関して正のx軸方向に沿って屈折率が、一定の変化率で減少するように、屈折率の分散特性を正のx軸方向に沿って変化させた特性としても良い。
この様に構成すると、光の入射方向を入射面の法線に平行とした場合には、光の出射角を、出射面の法線に対して、第1周波数では、正の側、第2周波数では負の側に、変化させることができる。光の入射方向を入射面の法線に対して傾斜した方向とした場合には、光の出射角は、出射面に対して光の入射方向を基準に、正、負の出射角の範囲に変化させることができる。
【0012】
また、第3発明のように、第2発明において、光偏向素子の電磁波の通過周波数帯域を、所定の中間周波数を境界として高帯域と低帯域とに2分するとき、第1周波数を高帯域の周波数とし、第2周波数を低帯域の周波数とし、中間周波数に関してx軸方向に沿って屈折率が変化しないように、屈折率の分散特性をx軸方向に沿って変化させた特性としても良い。
この様に構成すると、光の入射方向を入射面の法線に平行とした場合には、光の出射角を、中間周波数の光に対しては、出射面の法線方向とし、高帯域の周波数に対しては、この法線に対して正の側、低帯域の周波数に対しては、この法線に対して負の側に、変化させることができる。光の入射方向を入射面の法線に対して傾斜した方向とした場合には、光の出射角を、中間周波数の光に対しては、光の入射方向と同一方向とし、高帯域の周波数の光に対しては、出射面に対して、入射方向に対して正の側に、低帯域の周波数の光に対しては、出射面に対して、光の入射方向に対して、負の側に、変化させることができる。
【0013】
また、第4発明のように、屈折率の変化率が電磁波の周波数により変化するように、屈折率の分散特性のx軸方向の分布を決定するようにしても良い。このように構成することで、入射する電磁波の周波数に応じて、出射する電磁波の偏向角を変化させることができる。
また、第5発明のように、屈折率の変化率がメタマテリアルに印加する電場、磁場、光を含む電磁波により変化するように、屈折率の分散特性のx軸方向の分布を決定するようにしても良い。このように構成することで、印加する電場、磁場、光を含む電磁波の大きさ、方向、偏波方向などにより、出射する電磁波の偏向角を変化させることができる。
【0014】
上記の特性を有するメタマテリアル素子としては、第6発明のように、少なくとも全ての金属層において、同一位置に、x軸上の同一x座標に関しては、y軸方向に等周期で、x軸方向には、z軸に垂直な断面積が、漸次、変化した、z軸方向に貫通した孔又はスリット又は、導体の島状の配列を有する素子として実現することができる。
また、孔や導体の島の断面形状は、円、楕円、正方形、四角形、多角形など任意である。また、孔やスリットは、金属層に形成されていれば良く、絶縁層には、必ずしも形成される必要はない。しかし、第7発明のように孔又はスリットは、全ての金属層及び全ての絶縁層を、z軸方向に貫通するように形成しても良い。この場合には、光偏向素子の製造も容易となる。また、金属層には、孔又はスリットの配列に対する補対構造、すなわち、孔又はスリットの部分が、金属導体とした島状となり、他の部分が誘電体とした構成であっても良い。また、孔とスリットは結合したものであっても良い。
これらの構造は、非特許文献1、2に開示されているように、絶縁層と金属層とを積層させた構造に、厚さ方向に柱状の孔を、面上において2次元周期構造に設けたものに近似している。この構造との差異は、本件発明は、x軸方向に沿って、孔やスリット、島の断面積が、所定の分布をしていることである。たとえば、孔や導体の島を形成する場合には、x軸方向にそって、その孔や島の断面積が、漸増する構成とする。逆に、スリットや導体のスリット形状の島で構成する場合には、x軸方向に、その断面積が、漸減する構成とする。要は、第1発明に、この構成を用いた場合には、第1周波数における屈折率が、x軸方向に、一定の変化率で、漸増するように、孔、スリット、導体の島の断面のx軸方向の分布を決定すれば良い。また、第2、第3発明に、この構成を用いた場合には、第1周波数における屈折率が、x軸方向に、一定の変化率で漸増するように、孔、スリット、導体の島の断面のx軸方向の分布を決定し、第2周波数における屈折率が、x軸方向に、一定の変化率で漸減するように、孔、スリット、導体の島の断面のx軸方向の分布を決定すれば良い。
【0015】
また、孔、スリット、導体の島のy軸方向の周期は、x軸方向において、一定で不変であっても良い。しかし、第8発明のように、孔、スリット、又は、導体の島の配列のy軸方向の周期を、x軸方向において、漸次、変化させるようにしても良い。このように構成すると、共振周波数をx軸方向に沿って、変化させることが可能となり、第2、第3発明の構成を、実現することができる。
【0016】
また、孔又はスリット、又は、導体の島を除く部分は、真空、空気であっても良いが、第9発明のように、孔又はスリット、又は、導体の島状を除く部分には、誘電率又は透磁率が、電場、磁場、光を含む電磁波により変化する物質が充填されていても良い。この構成によると、入射する電磁波の周波数が固定されていても、出射角を、印加する電場、磁場、光を含む電磁波によっても変化させることができる。
【0017】
また、孔又はスリット、又は、導体の島を除く部分に充填される物質は、第10発明のように、液晶とすることで、印加する電圧や磁場により、誘電率を変化させることができる。
また、屈折率の分散特性を、x座標に関して、変形、移動させる方法としては、第11発明のように、絶縁層を、誘電率、透磁率、又は厚さが、電場、磁場、光を含む電磁波により変化する物質とし、絶縁層に、電場、磁場、電磁波を印加する状態変化手段を有し、状態変化手段により、絶縁層の誘電率、透磁率又は厚さを変化させることで、屈折率の分散特性を変動させるようにしても良い。また、金属層間に、電場、磁場などにより引力を発生させて、金属層間の距離を変化させるようにしても良い。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、光偏光素子を、第1周波数に関して前記x軸方向に沿って屈折率が、一定の変化率で増加、又は、減少するように、屈折率の分散特性をx軸方向に沿って変化させた特性としたメタマテリアル素子で構成していることから、電磁波の波数、位相速度は、x座標の関数となり、xが増加するとき、位相、位相速度は、一定の変化率で増加又は減少する特性となる。
この結果、入射する電磁波の平面波のx軸方向の波数分布が、一定の変化率で変化することにより、この変化率に応じた偏向角で、電磁波は、この光偏向素子から出射されることになる。
絶縁層と金属層を積層した構造における厚さが、x座標に係わらず一定であっても、すなわち、光の入射面と出射面とが平行な平面であっても、出射する電磁波を入射する電磁波光の向きと異なる向きに偏向させることができる。また、本構成のメタマテリアルの屈折率は、分散特性を有している。すなわち、波数、屈折率、位相速度は、原点を通らない非線形の周波数の関数となる。その結果、それらの値のx軸方向の変化率を、周波数の関数として、変化させることができる。この結果、入射する電磁波の周波数を変化させることで、出射する電磁波の偏向角を変化させることができる。
また、メタマテリアルに電場、磁場、光を含む電磁波を印加することで、屈折率の分散特性を変化させて、屈折率のx軸方向の変化率を、変化させることができる。このようにて、外部から物理量を印加することで、出射する電磁波の偏向角を変化させることができる。
【0019】
第2の発明、第3発明では、高帯域の第1周波数の入射電磁波に対しては、その進行方向に対して、出射電磁波をx軸の正の側に偏向させることができ、低帯域の第2周波数の入射電磁波に対しては、その進行方向に対して、出射電磁波をx軸の負の側に偏向させることができる。
また、第5発明、第10発明のように構成すれば、入射電磁波の周波数が変化しなくとも、外部から印加する電場、磁場、光を含む電磁波の大きさ、向き、偏波方向などにより、絶縁層、金属層、孔やスリットに充填された物質の誘電率や透磁率を変化させることで、波数のx軸方向に関する分布における変化率を、これらの物理量により変化させることができ、出射電磁波の偏向角を変化させることができる。
【0020】
第6、第7、第8発明の構成を採用することにより、上記の偏向角の変化特性が得られるための屈折率の分散特性に関して、その分散特性をx軸方向に関して変化させることができる。孔又はスリット、又は、導体の島の大きさにより、屈折率の分散特性の傾斜を変化させることができる。また、それらのy軸方向の周期を変化させることで、その分散特性を周波数軸方向に平行移動させることができる。この結果、第8発明のように、孔又はスリット、又は、導体の島の配列のy軸方向の周期を、x軸方向に沿って変化させることで、入射電磁波の進行方向に対して、両側に偏向させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1.A】本発明の光偏向素子100の電磁波の伝搬方向に垂直な断面図。
【図1.B】同光偏向素子における孔の配列を示した平面図。
【図2】本発明の動作を説明するための波数の分散特性を示した特性図。
【図3】波数の分散特性と孔のy軸方向の配列周期との関係を示した特性図。
【図4】右手系の光偏向素子の波数の分散特性を示した特性図。
【図5】右手系の光偏向素子の波数のx軸方向の分布を示した特性図。
【図6】出射光の偏向の様子を示した説明図。
【図7】一つの孔に関する波数の分散特性を示した特性図。
【図8】右手系の光偏向素子において、y軸方向の範列周期をx座標に関して変化させた場合の偏向素子の平面図。
【図9】右手系の光偏向素子において、y軸方向の範列周期をx座標に関して変化させた場合の波数の分散特性を示した特性図。
【図10】右手系の光偏向素子において、y軸方向の範列周期をx座標に関して変化させた場合の波数のx軸方向の分布を示した特性図。
【図11】左手系の光偏向素子における波数の分散特性を示した特性図。
【図12】左手系の光偏向素子において、y軸方向の範列周期をx座標に関して変化させた場合の波数のx軸方向の分布を示した特性図。
【図13】左手系の光偏向素子において、y軸方向の範列周期をx座標に関して変化させた場合の偏向素子の平面図。
【図14】左手系の光偏向素子において、y軸方向の範列周期をx座標に関して変化させた場合の波数の分散特性を示した特性図。
【図15】左手系の光偏向素子において、y軸方向の範列周期をx座標に関して変化させた場合の波数のx軸方向の分布を示した特性図。
【図16】一つの孔を有した金属層の構成図。
【図17】金属層間に電圧を印加して偏向角を変化させるための説明図。
【図18】孔、スリット、導体の島に関する他の例を示した平面図。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の具体的な実施例を図を参照しながら説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
以下、本発明の原理について説明する。
本実施例の偏向素子100は、図1.Aの断面図に示すように、誘電体層10と金属層20との積層構造をしている。偏向素子100の一方の面が光を入射させる長方形状の入射面30、他方の面が光を出射させる長方形状の出射面31となっている。入射面30と出射面31は平行である。図1.A、1.Bに示すように、入射面30上において、入射面の長方形の一つの角に原点oをとり、長辺方向にx軸、それに垂直な短辺方向にy軸、両軸に垂直で偏向素子100の厚さ方向にz軸をとる。その偏向素子100には、図1.Bの平面図に示すように、2次元格子状に、z軸に垂直な断面が円形で、z軸方向に軸を有する円筒形状の孔40が、多数、形成されている。その孔40の半径rは、x軸方向にはx座標の変位に応じて、漸増している。すなわち、r(x)は、単調増加関数である。隣接する孔40の中心間のx軸方向の距離dx (x軸方向の配列周期)は、座標x、座標yの値に係わらず、一定である。
【0023】
孔40の中心間のy軸方向の距離dy (y軸方向の配列周期)は、座標yに係わらず一定であるが、座標xの値に関しては、一定とする場合と、座標xの値に応じて変化させる場合とがある。まずは、y軸方向の配列周期dy が、x座標に係わらず一定である場合について説明する。また、x軸方向の配列周期dx とy軸方向の配列周期dy とは、等しくとも、異なる値であっても良い。
【0024】
今、入射光(入射電磁波)は、z軸方向、すなわち、入射面30に対して垂直に入射し、電界ベクトルはy軸方向を向いた直線偏波光とする。本光偏向素子100は、周波数が増大すると波数も増加する右手系と、周波数が増大すると波数が減少する左手系とで、構成できる。z軸方向に伸びた孔40は、低周波数帯域の電磁波を遮断する一種の円形導波管となる。したがって、この孔40の中を電磁波が伝搬する高周波数帯域では、右手系となり、この孔40を電磁波が伝搬できない低周波数帯域では、左手系となる。
【0025】
(a)波数、屈折率、位相速度の分散特性について
孔40が開けられた上記の積層構造において入射面30に垂直なz軸方向に伝搬する電磁波の波数kの分散特性k(ω)は、模式的に表現すると、図2のようになる。kが正の領域(第1象限)は右手系の分散特性、kが負の領域(第2象限)は左手系の分散特性を示している。各分散特性のパラメータは、孔40の半径rのy軸方向の配列周期dy に対する比率R=r/dy である。この比率Rが大きい程、すなわち、配列周期dy に占める孔40の断面積が大きくなる程、同一のk、又は、同一のωの値で比較すると、波数kの周波数ωに対する変化率dk/dωは、小さくなっている。
【0026】
今、光偏向素子100内での電磁波の損失、減衰を無視して、波数k、屈折率n、共に、実部だけ考える。屈折率nと、波数kとの関係は、k=ωn/cであるので、同一周波数でみると、波数kは、その周波数における屈折率nを与える。ただし、cは真空中の光速度である。また、位相速度vは、v=c/nの関係があるので、k=ω/vとなり、同一周波数でみると、波数kは、その周波数での位相速度vを与える。したがって、屈折率n、位相速度vに関する周波数特性も、波数kの周波数特性から、同様に、求められる。
【0027】
次に、y軸方向の配列周期dy を変化させた場合について考察する。上記のメタマテリアル構造は、z軸方向にも、x軸、y軸方向にも周期構造であることから、所定の周波数帯域のパスバンドを有する。孔40の半径rを一定にして、y軸方向の配列周期dy を短くすると、共振周波数が高くなる。この結果、図2の分散特性は、図3のように、周波数軸の方向に移動する。本発明では、このような波数の分散特性の性質が用いられている。
【0028】
(b)右手系でy軸方向の配列周期dy が、x軸方向に関して一定の場合
まずは、光偏向素子100を右手系で構成し、y軸方向の配列周期dy をx軸方向に沿って、一定とした場合について説明する。
孔40の半径rを変化させると、波数の分散特性は、図4のように、変化する。これらの特性は、FDTD法によりマックスウェルの方程式を解析することにより、詳細に求めることができる。解析から言えることは、孔40の半径rを大きくする程、同一周波数では、波数の周波数に対する変化率dk/dωは、小さくなる。y軸方向の配列周期dy は、x座標に係わらず一定であるので、この光偏向素子100のパスバンドの下端周波数ωL (k=0での値)は、x座標に係わらず一定である。そして、入射電磁波の任意の周波数ωにおける波数k(ω)は、孔40の半径rが小さくなるほど、大きくなる。したがって、孔40の半径rと、周波数ωを与えれば、波数k(ω,r)は、一意的に決定される。
【0029】
また、孔40の半径rは、x座標の単調増加関数r(x)として与えている。したがって、x座標と周波数ωを与えれば、波数k(ω,x)は、一意的に決定される。そこで、波数k(ω,x)を、図5に示すように、波数kのx座標に関する変化率dk/dxが、少なくとも電磁波の存在する範囲(幅Lの範囲)、 又は、光偏向素子100のx軸方向の全幅においてx座標のとり得る全範囲で、一定となるように、孔40の半径rのx軸方向の分布r(x)を決定する。また、電磁波の存在する範囲Lの左端のx座標をx3 、右端のx座標をx1 とする。上記の分散特性k(ω,r)が、FDTD法により詳細に決定することができるので、各周波数ω毎に、その導関数dk(ω,r)/drを求めることができる。
【0030】
【数1】
であるので、
【数2】
により、半径rのxに関する導関数dr/dxを求めることができる。dr/dxが求まれば、そのxに関する積分として、r(x)を求めることができる。
ただし、a(ω)は、各周波数ωについて、図5における波数kのxに関する分布特性のxに対する変化率である。
【0031】
r(x)は、周波数ωに依存しない関数とする必要がある。そのためには、dr/dxも、周波数に依存しない関数にする必要がある。したがって、a(ω)/{dk(ω,r)/dr}を周波数に依存しない関数とする必要がある。
【0032】
図5に示すように、波数の分散特性k(ω,x)のxに対する変化率dk/dxを一定とするためには、k(ω,x)は、xに関しては一次式である必要がある。そこで、変化率をp(ω)とすると、波数k(ω,x)は、次式となる。
【数3】
ただし、q( ω−ωL )は、x=0の位置における波数の分散特性である。q( ω−ωL )は、x=0の位置に半径rの最小な孔40が形成されている場合には、その半径rの時の波数の分散特性を示し、x=0の位置では、孔40が形成されていない場合には、座標x3 、x1 間の直線を外挿した時のx=0における波数の分散特性である。p(ω−ωL )、q(ω−ωL )は、パスバンドの下端周波数ωL において、孔40の半径rに係わらず波数kが零となることから、ω−ωL の関数で表現している。(3)式は、x=0における基準特性q( ω−ωL )に対する、位置の変化量xにおける波数の分散特性の変化量がp( ω−ωL )xであることを意味している。もちろん、基準座標x3 における波数k(ω,x3 )=p( ω−ωL )x3 +q( ω−ωL )を基準特性として、その基準座標x3 からの位置の偏差(x−x3 )に対する波数の分散特性の変化量がp( ω−ωL )(x−x3 )であることを意味している。
【0033】
また、図4の波数の分散特性において、q( ω−ωL )/p( ω−ωL )が周波数に依存しない定数となる場合には、(3)式は、p( ω−ωL )(x−x0 )で表される。この場合には、図5に示すように、波数kのxに関する線形特性は、周波数ωに係わらずx=x0 ,k=0の位置を通る。図4の波数の分散特性が、k軸方向に相似形状で表される場合には、このような関係となる。使用周波数帯域において、波数の分散特性が直線で近似できる場合には、この相似関係を、当然に満たす。、
【0034】
(3)式の関係が得られるとき、k(ω,x)のxに関する導関数dk(ω,x)/dxは、次式となる。
【数4】
となり、図5の特性の変化率をxに関しては一定とし、その変化率は周波数ωの関数とすることができる。
【0035】
次に、(3)式から、dk/drを求めると次のようになる。
【数5】
(5)式を(2)式に代入すると、次式が成立する。
【数6】
dr/dxがωに依存しないためには、
【数7】
を満たす必要がある。
すなわち、図5の波数kのxに関する特性の変化率の周波数特性a( ω)は、図4における波数kの周波数特性から、オフセットq( ω−ωL )を減算した周波数特性の変化量の基本となっている基本関数p(ω−ωL )で決定される。半径rをxに対して、増加するように設定した場合には、p(ω−ωL )は負値で、半径rのxに対する変化率が大きい程、pの絶対値は大きくなる。
【0036】
上記の説明では、入射電磁波の幅Lの両端の座標をx3 、x1 とし、孔40の半径rは、x座標が大きくなる程、大きくなるものとしている。この結果、波数k(x)と屈折率n(x)は、xが大きくなるに従い小さくなり、位相速度v(x)は、xが大きくなるに従い、大きくなる。半径r1 の孔が形成されているところのx座標をx1 、半径r3 の孔が形成されているところのx座標をx3 とする。したがって、x1 >x3 である。この両位置間x1 、x3 間の波数差Δkは、(3)式より、次式で表される。
【0037】
【数8】
x1 ,x3 における光偏向素子100の厚さhを伝搬するのに要する時間t1 ,t3 は、次式で表される。
【数9】
【数10】
【0038】
xが大きい程、k(ω,x)は小さいので、t1 <t3 である。したがって、図6に示すように、x3 の位置とx1 の位置において、電磁波の等位相面が出射面31から放出される時間差はt3 −t1 であり、x1 の位置で出射される電磁波の方が、x3 の位置で出射される電磁波よりも、早く空間に出射される。この結果、x3 の位置で電磁波が出射される時刻においては、x1 において出射面31から出射された電磁波は、すでに、c(t3 −t1 )だけ、空間を伝搬している。したがって、図6に示すように、等位相面とx軸との成す角をα(ω)とすると、次式が成立する。
【数11】
つつ この角α(ω)は、z軸と出射電磁波の進行ベクトルとの成す角で定義され、反時計回転方向を正と定義される偏向角である。この結果から明らかなように、偏向角α(ω)を波数k(ω,x)の特性p(ω−ωL )と周波数ωとの比で、変化させることができる。周波数ωをωL よりも大きくするに連れて、偏向角α(ω)は、大きくなる。
【0039】
(c)右手系でy軸方向の配列周期dy を孔の半径が小さい程、小さくした場合
孔40の半径rが小さい程、y軸方向の配列周期dy を小さくした場合の光偏向素子110のの平面図を図8に示す。すなわち、x座標が大きくなるに連れて、y軸方向の配列周期dy (x)を大きくすると共に、半径rの配列周期dy に対する比率R(x)=r(x)/dy (x)を、大きくしている。すなわち、配列周期dy の増加率dy /dxよりも、半径rの増加率dr/dxを大きくする。
【0040】
y軸方向の配列周期dy (x)を大きくすると、パスバンドの下端周波数ωL が小さくなる。したがって、図4に対応する波数kの分散特性は、比率Rがx軸方向に増加する関係を保持した状態で、配列周期dy を大きくするに連れて、周波数ωが低い方に平行移動する。そして、xの関数である配列周期dy (x)を適正に設定することで、図9に示すように、x軸方向の全位置における波数kの分散特性を、周波数ωM で一致するように、配列周期dy のxに関する分布dy (x)を設計することができる。
【0041】
図9において、周波数ωM の時の波数をk0 とする。波数kの分散特性は、半径rの配列周期dy に対する比率R(x)=r(x)/dy (x)をパラメータとして変化する。図9の分散特性を用いた場合、波数kのx軸方向の分布特性は、図10のようになる。周波数ωがωM より高く、波数がk0 よりも大きいときは、配列周期dy (x)をxに関して一定とした(b)の場合と同一であるので、周波数を高くするに連れて、偏向角α(ω)は正方向に大きくなる。ただし、(3)式の波数k(ω,x)を表す関数、p( ω−ωL )、q( ω−ωL )は、それぞれ、p( ω−ωM )、q( ω−ωM )となり、(4)〜(8)式、及び、偏向角を表す(11)式中のωL は、ωM である。
【0042】
周波数ωがωM に等しく、波数がk0 に等しい場合には、x軸方向に波数は、 一定で変化がないので、偏向角α(ωM )は零、すなわち、電磁波は、z軸方向に出射される。これとは逆に、周波数ωがωM より低く、波数kがk0 よりも小さいときは、図9から明らかなように、孔40の比率R(x)が小さい程、波数kは小さく、比率R(x)が大きい程、波数kは大きくなる。よって、図10のように、波数kのxに関する分布のxに対する変化率dk/dxは、正となる。この結果、関数p(ω−ωM )は正となり、(11)式より、偏向角α(ω)は負となり、z軸からx軸の正方向に傾斜した偏向角が得られる。
【0043】
このように配列周期dy (x)を配列周期dy (x)を一定にした(b)の場合と異なり、周波数ωを変化させることで、z軸に対して、正負の両側の偏向角を実現することができる。周波数ωをωM よりも大きくするに連れて偏向角α(ω)は、正の方向に大きくなり、周波数ωをωM よりも小さくするに連れて、負の方向で、絶対値を大きくすることができる。
【0044】
なお、配列周期dy (x)を半径rが大きくなる程、小さくした場合には、波数kの分散特性を波数kの正領域で交差させることができない。よって、この場合には、z軸の正負領域において、偏向角を変化させることはできない。
【0045】
(d)左手系でy軸方向の配列周期dy が、x軸方向に関して一定の場合
光偏向素子を左手系で構成した場合には、波数k(ω)の分散特性は、図2の波数kが負の領域で示される特性となり、図11で示す特性となる。実際には、1積層については、図7のような特性となる。また、この場合には、右手系の(b)の場合と同様に、同一周波数ωでは、孔40の半径rが大きくなるほど、波数kの絶対値は小さくなる。したがって、波数kのx軸方向の分布は、図12のようになり、周波数ωが小さい程、その変化率dk/dxは、符号が正で、絶対値が大きくなる。したがって、右手系の(b)の場合で述べたことと同様な結果が得られる。ただし、(3)式の波数k(ω,x)を表す関数、p( ω−ωL )、q( ω−ωL )は、それぞれ、p( ω−ωH )、q( ω−ωH )となり、(4)〜(8)式、及び、偏向角を表す(11)式中のωL は、ωH である。x1 及びx3 の位置における伝搬時間を表す(9)、(10)式も、そのまま成立する。しかし、左手系では、波数kが負であり、位相速度vも負値となる。この結果、t1 、t3 も負値となり、偏向角α(ω)を表す(11)式も、そのまま、成立して、次式となる。
【数12】
この場合、右手系の(b)場合と異なり、関数p(ω−ωH )は正となり、偏向角α(ω)は負となり、z軸からx軸の正方向に傾斜した偏向角が得られる。偏向の方向が、右手系とは、異なる方向となる。ただし、左手系の場合には、使用周波数帯域ωは、パスバンドの上端周波数ωH よりも低い帯域となる。また、周波数ωをωH から低下させるに連れて、偏向角α(ω)の絶対値は大きくなる。
【0046】
(e)左手系でy軸方向の配列周期dy を孔の半径が大きい程、小さくした場合
孔40の半径rが大きい程、y軸方向の配列周期dy を小さくした場合の光偏向素子120の平面図を図13に示す。この場合にも、孔40の比率R(x)=r(x)/dy (x)を、xの増加に伴い増大することを保持する条件で、配列周期dy (x)をx軸方向に小さくする。y軸方向の配列周期dy (x)を小さくすると、パスバンドの上端周波数ωH が大きくなる。したがって、図11に対応する波数kの分散特性は、配列周期dy を小さくするに連れて、周波数ωが高い方に平行移動する。そして、xの関数である配列周期dy (x)を適正に設定することで、図13に示すように、x軸方向の全位置における波数kの分散特性を、周波数ωM で一致するように、dy (x)を設計することができる。
【0047】
図14において、周波数ωM の時の波数を−k0 とする。図14の分散特性を用いた場合、波数kのx軸方向の分布特性は、図15のようになる。周波数ωがωM より低く、波数の絶対値がk0 よりも大きいときは、配列周期dy (x)をxに関して一定とした左手系の(c)の場合と同一であるので、周波数をωM から低くするに連れて、負方向に偏向角α(ω)は大きくなる。ただし、(3)式の波数k(ω,x)を表す関数、p( ω−ωL )、q( ω−ωL )は、それぞれ、p( ω−ωM )、q( ω−ωM )となり、(4)〜(8)式、及び、偏向角を表す(12)式中のωH は、ωM である。
【0048】
周波数ωがωM に等しく、波数がk0 に等しい場合には、x軸方向に波数は、 一定で変化がないので、偏向角α(ωM )は零、すなわち、電磁波は、z軸方向に出射される。これとは逆に、周波数ωがωM より高く、波数の絶対値がk0 よりも小さいときは、図14から明らかなように、同一周波数では、孔40の比率Rが小さい程、波数kの絶対値は小さく、比率Rが大きい程、波数kの絶対値は大きくなる。よって、図15のように、波数kのxに関する分布のxに対する変化率dk/dxは、負となる。この結果、関数p(ω−ωM )は負となり、(12)式より、偏向角α(ω)は正となり、z軸からx軸の負方向に傾斜した偏向角が得られる。このように配列周期dy (x)を配列周期dy (x)を一定にした左手系の(c)の場合と異なり、周波数ωを変化させることで、z軸に対して、正負の両側の偏向角を実現することができる。
【0049】
このように、周波数ωをωM よりも小さくするに連れて偏向角α(ω)は、負の方向で、絶対値を大きくでき、周波数ωをωM よりも大きくするに連れて、正の方向に、大きくすることができる。
【0050】
なお、配列周期dy (x)を半径rが大きくなる程、大きくした場合には、波数kの分散特性を波数kの負領域で交差させることができない。よって、この場合には、z軸の正負領域において、偏向角を変化させることはできない。
また、左手系の方が右手系よりも、波数kの周波数ωに対する変化率dk/dωを大きくすることができるために、左手系で構成する方が、偏向角α(ω)の周波数ωに対する変化率dα(ω)/dωを大きくすることができる。
【0051】
(f)右手系と左手系とを混在させた場合
上記の(b)の右手系の素子と、(d)の左手系の素子とを、x軸方向に2分した左領域と右領域とに用いても良い。この場合には、波数kが零となる周波数ωL より高い周波数では、左手系の素子は、入射電磁波をカットオフし、右手系の素子だけが機能して、(b)の右手系の素子の場合と同一となる。したがって、偏向角α(ω)を正とし、周波数を増大させるに連れて、偏向角α(ω)を大きくすることができる。また、周波数ωL より低い周波数では、右手系の素子は、入射電磁波をカットオフし、左手系の素子だけが機能して、(d)の左手系の素子の場合と同一となり、偏向角α(ω)を負とすることができる。もちろん、(c)、(e)場合のように、配列周期dy (x)をxに関して、変化させた場合においても、x軸方向について、2分された1/2の領域を左手系、他の半分の領域が左手系と右手系との混在、逆に、2分された1/2が右手系、他の半分が右手系と左手系との混在する素子としても良い。この場合には、波数kの分散特性は、波数の正の領域と負の領域とで連続させるようにする必要がある。
【0052】
(g)孔40の内部の誘電率や金属層間の間隔を電気的に変化させた場合
上記の(b)〜(e)の場合は、入射電磁波の周波数を変化させることで、偏向角を変化させるようにしている。周波数を変化させる代わりに、孔40に電界、磁界、光を含む電磁波により、誘電率や透磁率を変化させることができる材料を充填させる。例えば、電界により誘電率が変化する液晶を充填する。このようにすると、電界を印加することで、波数k(ω,x)の分散特性を、全xの範囲において、全体的に、周波数の高い方、又は、低い方に、平行移動させることができる。その時の波数の分布は、特性を固定して、周波数を変化させた場合と同一となる。その結果、入射電磁波の固定された周波数に対して波数kのx軸方向の分布を、外部電界の大きさにより変化させることができる。その結果として、偏向角αも、外部電界により、変化させることができる。金属層間の距離を静電力により変化させた場合も、同様に、電界を印加することで、波数k(ω,x)の分散特性を、全xの範囲において、全体的に、周波数の高い方、又は、低い方に、平行移動させることができる。この結果として、偏向角αも、外部電界により、変化させることができる。
【実施例1】
【0053】
金属に周期的な穴、もしくはスリットを設けた構造は、FSS (Frequency Selective Surface 、周波数選択面) と呼ばれ、設計により所望の周波数のみの電磁波を選択的に透過、もしくは遮蔽する構造となる。図1.A、1.Bに示すFSS を積層させた構造( 以下、「FSS スタック」と呼ぶ) は、FSS の構造と積層間隔が、FSS を貫通する方向、すなわちz軸方向の電磁波の位相速度vに影響を及ぼす。また、その位相速度vには周波数分散性があり、周波数により異なる。位相速度の周波数分散性v(ω)は、FSS の穴やスリットの形状や、それらの周期、すなわち構造設計により制御できるため、FSS の構造設計を一方向に徐々に変化させることにより、FSS スタック内で位相速度に分布v(x)を持たせ、さらに、その周波数分散性にも分布v(ω,x)を持たせることができる。これは、言い換えると、FSS スタック内のz方向の波数k(ω,x)を素子内の位置xと周波数ωによって制御することになる。
【0054】
本実施例は、入射電磁波として、1.5μm帯赤外線レーザーとし、赤外線レーザーに対する光偏向素子に、本発明を用いた実施例である。素子寸法は素子作成に用いる絶縁層10の媒質内波長λg を基準として考える。絶縁層10として、SiO 2 を用いた。したがって、SiO2 の屈折率1.5をとすると媒質内波長は、波長/屈折率により、1μmとなる。
【0055】
1)積層構造の構成
最下の絶縁層10としての絶縁体基板に、SiO2 基板を用いた。そのSiO2 基板上に、金属層20としてのAl膜と、絶縁層10としてSiO2 膜を、積層した。製膜技術を用いて、金属層20と絶縁層10とを交互に5層乃至20層の範囲で、多数、積層させる。金属層20の厚さは、媒質内波長の1/50=0.02倍である20nmとし、絶縁層10の厚さは、媒質内波長の4/50=0.08倍である80nmとした。
【0056】
2)FSS パターンの設計
2.1 )基本構成
まず、基本となるFSS のパターンを設計する。FSS パターンとしては半波長ホールアレーを基本とする。この場合、FSS パターンのx軸方向の配列周期dx 及びy軸方向の配列周期dy は、入射光の媒質内波長と一致させ1μmとした。そして、孔40の半径rは、媒質内波長の1/4である250nmとした。これにより、パスバンド上端波長(真空中波長)が、1.5μm、上端周波数(ωH /2π)が200THzの左手系のFSS スタックができる。積層膜の寸法とあわせて図16に基本パターンの1周期分の構成図を示す。
【0057】
2.2 )バンド図のスロープの調整
本実施例は、上記した(d)の場合の実施例である。入射波長による媒質内波数の変動量を、素子内のx軸方向に分布させるために、x軸方向に沿って、異なる傾きdk/dωの分散特性を有するFSS パターンを設計する。傾きの大小は、FSS スタックのパスバンドの帯域幅の大小と逆比例しているため、異なる帯域幅をもつFSS スタックを用意すればよい。基本パターンに対し、孔40の半径rを小さくすると狭帯域となり、周波数変動に対する媒質内波数の変化率dk/dωが大きくなり、逆に孔40の半径rを大きくすると、パスバンドは広帯域となり、周波数変動に対する波数の変動率dk/dωは小さくなる。したがって、孔40の半径rを一方向(例えば左から右)へ徐々に拡大させたパターンを作成することにより、光偏向素子が作成できる。このとき、y軸方向の配列周期dy をxに関して一定としているので、理論的には、すべてのパターンにおいてパスバンド上端が同一の共振周波数となるので、ビームの周波数をパスバンド上端から下端へスイープすると、出射光は出射面31の法線(z軸方向、入射光の進行方向)に対して、x軸の正の方向に偏向させることができる。本実施例では、入射光の中心を光偏向素子の入射面30の中心部とし、その位置での孔40の半径rを250nmと、xが増加するに連れて、この半径rを、この値から増大させて、ビームの右端位置x1 において、300nmとし、xが減少するに連れて、この値から、ビームの左端位置x3 において、200nmとした。この間は、半径rは、xに関して増加関数で変化させた。
3)ホールアレーの加工
積層構造に、フォトリソグラフィーでパターニングし、異方性エッチング技術を用いホールアレーを作成する。
【実施例2】
【0058】
本実施例は、上記した(e)の場合の実施例である。FSS スタックの構成や寸法については、実施例1と同一である。
1)バスバンド中心の調整
x軸方向に分布した媒質内の波数kの分散特性において、同一波数の時に同一周波数をとる点をパスバンドの中心に位置させると、ビームの周波数をパスバンド上端から下端へスイープすることにより、出射光を出射面31の法線(z軸)に対して、x軸の負の方向への偏向から、x軸の正の方向への偏向へと、偏向角を、連続的に変化させることができる。そのために、すべてのパターンでパスバンド中央の周波数を一致させるためFSS パターンのy軸方向の配列周期dy を、x軸方向にそって、一定の分布となるように調節する。FSS パターンのy軸方向の配列周期dy を狭くすると、共振波長が短くなるため、パスバンドの中心周波数は大きくなり、波数の分散特性は、全体的に、周波数軸方向の上方に移動する。逆にFSS パターンのy軸方向の配列周期dy を広くすると、共振波長が大きくなり、パスバンド中心の周波数は小さくなり、波数の分散特性は、全体的に、周波数軸方向の下方に移動する。
【0059】
そこで、本実施例では、孔40の半径rのx軸方向の分布については、実施例1と同一として、孔40のy軸方向の配列周期dy のみをx軸方向に変化させた。配列周期dy は、入射面30の中心点が位置するx座標xs =(x1 +x3 )/2 において、配列周期dy を1μmとした。すなわち、x座標xs における波数kの分散特性を、実施例1の特性として不変とした。したがって、パスバンドの中心周波数の波長は、1.5μmよりも長い。そして、ビームの左端x3 の位置では、配列周期dy (x)を、1.0−(1.0×1.5/λ0 )とし、ビームの右端x3 の位置では、配列周期dy (x)を、1.0+(1.0×1.5/λ0 )とした。ただし、λ0 は、パスバンドの中心周波数に対応する真空中波長である。
【0060】
すなわち、上端波長の1.5μmに対する波長比率に比例して、配列周期dy を変化させた。
したがって、一般には、配列周期dy (x)は次式で表される。
【数13】
ただし、λH は、配列周期dy (x)をdy (xs )で一定とした場合のパスバンドの上端の真空中波長である。すなわち、左端x3 の位置では、配列周期dy (x)を一定にした場合の波数の分散特性を、(λ0 −λH )だけ、低周波数側に平行移動させ、右端x1 の位置では、配列周期dy (x)を一定にした場合の波数の分散特性を、(λ0 −λH )だけ、高周波数側に移動させた特性とすればよい。したがって偏向素子のパターンは左から右へ徐々に孔40の半径r(x)が広がると同時に配列周期dy (x)が狭くなる構成となる。(13)式は、近似的な関係式であり、正確には、半径r(x)と周期dy (x)とから、波数の位置xの関数としての分散特性k(ω,x,dy )を求めて、全てのxの位置における分散特性が(k0 、ωM )の変動範囲の中点を通過するように、dy (x)が、数値解析により、最適設計される。
【実施例3】
【0061】
本実施例は、周波数を固定して、偏向角を変化させる実施例である。実施例1、2で作成した素子は、入射光の波長を制御することにより偏向可能である。さらに、固定周波数走査をおこなうために、実施例1、2で作成した素子の孔40に液晶を含浸させる。一般的なネマチック液晶を用いると屈折率を1.5 から1.7 へ変化させることができる。この変化により素子全体のパスバンドを低い周波数へシフトさせることができる。これにより入射光の周波数をパスバンド下端から上端へ走査したときと同様の効果を得る。なお、液晶を含浸させる場合は、液晶部の屈折率を変化幅の中間値である1.6に調整してFSS の配列周期dy (x)を決定する必要がある。液晶の変調方法であるが、素子が非常に小さいため、素子全体に一様に外部磁場を印加することにより可能である。
【実施例4】
【0062】
本実施例は、本発明の偏向素子をミリ波帯レーダー送信機への適用した実施例である。1)FSS パターン設計
パターン設計手法は実施例1、2と同様に行うことができる。基板の樹脂をポリエチレン、誘電率2.3のものを使うと、基板屈折率は1.5となる。周波数60GHzを対象とすると真空中の波長は5mm、したがってFSS パターンの基本配列周期dy (xs )は、5mm/1.5の3.33mmとなる。基本となる孔径はその半分の1.67mmとなる。
【0063】
1)全体構成
低損失樹脂フィルム基板にエッチングでFSS パターンを描き、それを5枚30枚積層させる。フィルムの厚みはフィルム材料の媒質内波長の1/4以下の0.83mm以下のものを用いる。可能であれば、媒質内波長の1/10以下などの薄いものを用いることにより広帯域設計が容易になる。
【0064】
2)固定周波数走査
固定周波数走査をおこなうためには、樹脂基板に多孔性の樹脂材料をもちい、1)で作成した素子に液晶を含浸させる。あるいは、実施例1、2と同様に、FSS パターンの孔40を基板ごと空孔とし、その空孔部に液晶を充填する。または、図17に示すように、実施例1、2の光偏向素子において、隣接する金属層20間に電圧を印加して、それらの間隔を変化させるようにする。この場合には、誘電体層10は、空間とするか、弾性変形が可能な弾性体で構成すれば良い。又は、誘電体層10を電圧により厚さが変化する圧電体で構成しても良い。このようにしても、出射光を、電圧により偏向させることができる。
【0065】
[変形例]
孔40のz軸に垂直な断面形状は、円形の他、正方形でも良い。また、図18の(a)に示すように、断面積が大きくなるにしたがって、y軸方向に長軸を有する楕円形状としても良い。また、(b)に示すように、x軸上の一部の領域に孔とスリットが形成されたものでも良い。また、(c)、(d)に示すように、金属層20において、(a)、(b)の孔に該当する部分だけ金属を残して、他は、誘電体層10を露出させても良い。すなわち、上記の実施例1、2、3において、金属層10をパターンを、補対構造としても良い。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明は、光を含む電磁波の進行方向を変化させる偏向素子として有効
【符号の説明】
【0067】
10…誘電体層
20…金属層
30…入射面
31…出射面
40…孔
100,110…光偏向素子
【技術分野】
【0001】
本発明は、光の進行方向を変化させる光偏向素子に関する。特に、メタマテリアルを用いた光偏向素子に関する。
【背景技術】
【0002】
屈折率が周期的に変化するフォトニック結晶を用いて、光の進行方向を変化させる(以下、「偏向」という)素子が、下記特許文献1〜4により知られている。これらの文献に記載されているフォトニック結晶は、何れも、平板の厚さ方向に平行に平板と材料の異なる部分又は空間で構成される微小円柱を平行に多数、平板面において、2次元的に周期的に配列することで、屈折率を2次元面上において周期的に変化させたものである。そして、光は、この平板の厚さが表れる側面から、厚さ、すなわち、微小円柱の軸に垂直な方向に入射させている。そして、入射側面の法線に対して、零ではない入射角で入射した光は、このフォトニック結晶の有する比屈折率と入射角とに応じた屈折角で、フォトニック結晶を伝搬する。このフォトニック結晶の比屈折率の分散特性により、入射光の周波数により、屈折角が異なることを利用して、周波数に応じた屈折角でフォトニック結晶中を伝搬させるものである。
【0003】
上記のフォトニック結晶において、入射側面と出射側面とが平行である場合には、フォトニック結晶中における光の伝搬方向は、周波数により変化でき、出射側面上での光の出射位置を、周波数に応じて変化させることができるが、出射光は、入射光と平行である。出射光を入射光に対して平行としない、すなわち、出射光の進行方向を、周波数に応じて偏向させる場合に、出射側面を円弧状にしたりして、出射側面上の位置に応じて、外部の空中へ出射する場合の屈折角を変化できるようにしている。
【0004】
一方、下記非特許文献1、2に開示されているように、このような構造とは異なり、絶縁層と金属層とを多数積層して、厚さ方向に多数の柱状の孔を、面上の2次元的に周期的に配列したいわゆるフィッシュネット構造のメタマテリアルであるフォトニック結晶も知られている。この構造のフォトニック結晶は、特許文献1〜4と異なり、絶縁層と金属層の厚さ方向、すなわち、柱状の孔の軸方向に光を入射させるものである。また、光の出射面は、入射面と平行ではなく、傾斜させて、厚さ方向に対して90度ではないテーパ面としている。それにより、入射面に垂直に入射した光が、傾斜した出射面に達してから空中に放射される時に、空中に対して0度ではない入射角を形成している。そして、この入射角と、フォトニック結晶の屈折率と空中の屈折率の差を用いて、空中への屈折角、すなわち、空中への光の放射角を、フォトニック結晶の屈折率に応じて、変化させるようにしている。また、フォトニック結晶の屈折率が、周波数により異なることを利用して、フォトニック結晶の出射面に対する放射角を、入射光の周波数により変化させるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−279762
【特許文献2】特開2003−344678
【特許文献3】特開2004−145314
【特許文献4】特開2001−13439
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Jason Valentine, et al., Three-dimensional optical metamaterial with a negative refractive index, Nature Lett. Vol.455 376-380(2008)
【非特許文献2】M.Navarro-Cia, et al., Negative refraction in a prism made of stacked subwavelength hole arrays, Vol.16, No.2, Optics Express, 560-566 (2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、上記の特許文献及び非特許文献の何れにおいても、出射光を入射光と平行ではない方向に偏向させるには、出射面を円弧状に曲面形成したり、入射面と平行ではなく、傾斜面とする必要がある。このための加工が必要となり、このための精度の高い加工は困難である。
また、特許文献1〜4に開示の技術では、出射面を円弧とすると共に、薄い側面から光を非垂直に入射させる必要があり、光偏向素子の用途が限定されるという問題がある。また、面積の小さい側面から光を出射させることとなるので、開口面積が小さく、指向性を急峻にすることができないという課題がある。
また、非特許文献に開示の技術では、光の出射角は、出射面のテーパ角と、フォトニック結晶の屈折率とによって決定される。しかし、テーパ角はフォトニック結晶の光の進行方向の厚さに関係するため、大きくすることはできない。このため、入射光の周波数に対する出射角の可変範囲を大きくすることができない。また、出射角の可変範囲の中心角度は、出射面のテーパ角と中心周波数におけるフォトニック結晶の屈折率とにより固定され、入射光と平行な出射角を中心角度として偏向角を変化させることは困難である。
本発明は、上記の課題を解決するために成されたものであり、その目的は、光の出射面を入射面と平行にして、且つ、出射角の可変範囲を拡大することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための発明は、絶縁層と金属層とを厚さ方向のz軸方向に周期的に積層した光偏向素子において、絶縁層の面上において、z軸に垂直な方向にx軸、z軸とx軸に垂直な方向にy軸をとるとき、z軸方向に伝搬する電磁波に対して、第1周波数に関してx軸方向に沿って屈折率が、電磁波の存在する範囲において、一定の変化率で、増加、又は、減少するように、屈折率の分散特性をx軸方向に沿って変化させた特性としたメタマテリアル素子から成ることを特長とする光偏向素子である。
【0009】
x軸方向に沿って、屈折率を、一定の変化率で変化させる範囲は、少なくとも、入射する電磁波が存在するする範囲であれば良い。もちろん、素子の全範囲のx軸全範囲において、一定の変化率で、屈折率を変化させるものでも良い。また、電磁波の入射面と出射面には、絶縁層や金属層の他に、外部環境に対する反射率を低減するために機能する層や、保護層などを設けても良い。
【0010】
この発明において、メタマテリアル素子は、x軸方向の全範囲で、屈折率が正の右手系で構成しても、x軸方向の全範囲において、屈折率が負の左手系で構成しても、x軸方向の一部の範囲において、右手系、他の範囲で左手系となるように構成しても良い。また、予定している入射光の全周波数範囲において、右手系となっても、左手系となっても良く、ある周波数範囲において右手系となり、他の周波数範囲において左手系となるようにしても良い。要するに、第1周波数に関してx軸方向に沿って屈折率が増加、又は、減少するように、屈折率の分散特性をx軸方向に沿って変化させた特性となるように構成すれば良い。光の入射面は、絶縁層と金属層の構成する平面に平行な面である。また、光の入射方向は、この入射面の法線に平行な方向とするのが一般的であるが、入射面の法線に対して傾斜した方向としても良い。また、絶縁層は、絶縁体、誘電体、半導体から構成されるものである。また、絶縁層には、空気層、真空層を含む。すなわち、隣接する金属層と金属層との間には、材料が存在しないものも含む。
【0011】
また、第2発明のように、電磁波の存在範囲において、第1周波数に関して正のx軸方向に沿って屈折率が、一定の変化率で増加し、第1周波数と異なる第2周波数に関して正のx軸方向に沿って屈折率が、一定の変化率で減少するように、屈折率の分散特性を正のx軸方向に沿って変化させた特性としても良い。
この様に構成すると、光の入射方向を入射面の法線に平行とした場合には、光の出射角を、出射面の法線に対して、第1周波数では、正の側、第2周波数では負の側に、変化させることができる。光の入射方向を入射面の法線に対して傾斜した方向とした場合には、光の出射角は、出射面に対して光の入射方向を基準に、正、負の出射角の範囲に変化させることができる。
【0012】
また、第3発明のように、第2発明において、光偏向素子の電磁波の通過周波数帯域を、所定の中間周波数を境界として高帯域と低帯域とに2分するとき、第1周波数を高帯域の周波数とし、第2周波数を低帯域の周波数とし、中間周波数に関してx軸方向に沿って屈折率が変化しないように、屈折率の分散特性をx軸方向に沿って変化させた特性としても良い。
この様に構成すると、光の入射方向を入射面の法線に平行とした場合には、光の出射角を、中間周波数の光に対しては、出射面の法線方向とし、高帯域の周波数に対しては、この法線に対して正の側、低帯域の周波数に対しては、この法線に対して負の側に、変化させることができる。光の入射方向を入射面の法線に対して傾斜した方向とした場合には、光の出射角を、中間周波数の光に対しては、光の入射方向と同一方向とし、高帯域の周波数の光に対しては、出射面に対して、入射方向に対して正の側に、低帯域の周波数の光に対しては、出射面に対して、光の入射方向に対して、負の側に、変化させることができる。
【0013】
また、第4発明のように、屈折率の変化率が電磁波の周波数により変化するように、屈折率の分散特性のx軸方向の分布を決定するようにしても良い。このように構成することで、入射する電磁波の周波数に応じて、出射する電磁波の偏向角を変化させることができる。
また、第5発明のように、屈折率の変化率がメタマテリアルに印加する電場、磁場、光を含む電磁波により変化するように、屈折率の分散特性のx軸方向の分布を決定するようにしても良い。このように構成することで、印加する電場、磁場、光を含む電磁波の大きさ、方向、偏波方向などにより、出射する電磁波の偏向角を変化させることができる。
【0014】
上記の特性を有するメタマテリアル素子としては、第6発明のように、少なくとも全ての金属層において、同一位置に、x軸上の同一x座標に関しては、y軸方向に等周期で、x軸方向には、z軸に垂直な断面積が、漸次、変化した、z軸方向に貫通した孔又はスリット又は、導体の島状の配列を有する素子として実現することができる。
また、孔や導体の島の断面形状は、円、楕円、正方形、四角形、多角形など任意である。また、孔やスリットは、金属層に形成されていれば良く、絶縁層には、必ずしも形成される必要はない。しかし、第7発明のように孔又はスリットは、全ての金属層及び全ての絶縁層を、z軸方向に貫通するように形成しても良い。この場合には、光偏向素子の製造も容易となる。また、金属層には、孔又はスリットの配列に対する補対構造、すなわち、孔又はスリットの部分が、金属導体とした島状となり、他の部分が誘電体とした構成であっても良い。また、孔とスリットは結合したものであっても良い。
これらの構造は、非特許文献1、2に開示されているように、絶縁層と金属層とを積層させた構造に、厚さ方向に柱状の孔を、面上において2次元周期構造に設けたものに近似している。この構造との差異は、本件発明は、x軸方向に沿って、孔やスリット、島の断面積が、所定の分布をしていることである。たとえば、孔や導体の島を形成する場合には、x軸方向にそって、その孔や島の断面積が、漸増する構成とする。逆に、スリットや導体のスリット形状の島で構成する場合には、x軸方向に、その断面積が、漸減する構成とする。要は、第1発明に、この構成を用いた場合には、第1周波数における屈折率が、x軸方向に、一定の変化率で、漸増するように、孔、スリット、導体の島の断面のx軸方向の分布を決定すれば良い。また、第2、第3発明に、この構成を用いた場合には、第1周波数における屈折率が、x軸方向に、一定の変化率で漸増するように、孔、スリット、導体の島の断面のx軸方向の分布を決定し、第2周波数における屈折率が、x軸方向に、一定の変化率で漸減するように、孔、スリット、導体の島の断面のx軸方向の分布を決定すれば良い。
【0015】
また、孔、スリット、導体の島のy軸方向の周期は、x軸方向において、一定で不変であっても良い。しかし、第8発明のように、孔、スリット、又は、導体の島の配列のy軸方向の周期を、x軸方向において、漸次、変化させるようにしても良い。このように構成すると、共振周波数をx軸方向に沿って、変化させることが可能となり、第2、第3発明の構成を、実現することができる。
【0016】
また、孔又はスリット、又は、導体の島を除く部分は、真空、空気であっても良いが、第9発明のように、孔又はスリット、又は、導体の島状を除く部分には、誘電率又は透磁率が、電場、磁場、光を含む電磁波により変化する物質が充填されていても良い。この構成によると、入射する電磁波の周波数が固定されていても、出射角を、印加する電場、磁場、光を含む電磁波によっても変化させることができる。
【0017】
また、孔又はスリット、又は、導体の島を除く部分に充填される物質は、第10発明のように、液晶とすることで、印加する電圧や磁場により、誘電率を変化させることができる。
また、屈折率の分散特性を、x座標に関して、変形、移動させる方法としては、第11発明のように、絶縁層を、誘電率、透磁率、又は厚さが、電場、磁場、光を含む電磁波により変化する物質とし、絶縁層に、電場、磁場、電磁波を印加する状態変化手段を有し、状態変化手段により、絶縁層の誘電率、透磁率又は厚さを変化させることで、屈折率の分散特性を変動させるようにしても良い。また、金属層間に、電場、磁場などにより引力を発生させて、金属層間の距離を変化させるようにしても良い。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、光偏光素子を、第1周波数に関して前記x軸方向に沿って屈折率が、一定の変化率で増加、又は、減少するように、屈折率の分散特性をx軸方向に沿って変化させた特性としたメタマテリアル素子で構成していることから、電磁波の波数、位相速度は、x座標の関数となり、xが増加するとき、位相、位相速度は、一定の変化率で増加又は減少する特性となる。
この結果、入射する電磁波の平面波のx軸方向の波数分布が、一定の変化率で変化することにより、この変化率に応じた偏向角で、電磁波は、この光偏向素子から出射されることになる。
絶縁層と金属層を積層した構造における厚さが、x座標に係わらず一定であっても、すなわち、光の入射面と出射面とが平行な平面であっても、出射する電磁波を入射する電磁波光の向きと異なる向きに偏向させることができる。また、本構成のメタマテリアルの屈折率は、分散特性を有している。すなわち、波数、屈折率、位相速度は、原点を通らない非線形の周波数の関数となる。その結果、それらの値のx軸方向の変化率を、周波数の関数として、変化させることができる。この結果、入射する電磁波の周波数を変化させることで、出射する電磁波の偏向角を変化させることができる。
また、メタマテリアルに電場、磁場、光を含む電磁波を印加することで、屈折率の分散特性を変化させて、屈折率のx軸方向の変化率を、変化させることができる。このようにて、外部から物理量を印加することで、出射する電磁波の偏向角を変化させることができる。
【0019】
第2の発明、第3発明では、高帯域の第1周波数の入射電磁波に対しては、その進行方向に対して、出射電磁波をx軸の正の側に偏向させることができ、低帯域の第2周波数の入射電磁波に対しては、その進行方向に対して、出射電磁波をx軸の負の側に偏向させることができる。
また、第5発明、第10発明のように構成すれば、入射電磁波の周波数が変化しなくとも、外部から印加する電場、磁場、光を含む電磁波の大きさ、向き、偏波方向などにより、絶縁層、金属層、孔やスリットに充填された物質の誘電率や透磁率を変化させることで、波数のx軸方向に関する分布における変化率を、これらの物理量により変化させることができ、出射電磁波の偏向角を変化させることができる。
【0020】
第6、第7、第8発明の構成を採用することにより、上記の偏向角の変化特性が得られるための屈折率の分散特性に関して、その分散特性をx軸方向に関して変化させることができる。孔又はスリット、又は、導体の島の大きさにより、屈折率の分散特性の傾斜を変化させることができる。また、それらのy軸方向の周期を変化させることで、その分散特性を周波数軸方向に平行移動させることができる。この結果、第8発明のように、孔又はスリット、又は、導体の島の配列のy軸方向の周期を、x軸方向に沿って変化させることで、入射電磁波の進行方向に対して、両側に偏向させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1.A】本発明の光偏向素子100の電磁波の伝搬方向に垂直な断面図。
【図1.B】同光偏向素子における孔の配列を示した平面図。
【図2】本発明の動作を説明するための波数の分散特性を示した特性図。
【図3】波数の分散特性と孔のy軸方向の配列周期との関係を示した特性図。
【図4】右手系の光偏向素子の波数の分散特性を示した特性図。
【図5】右手系の光偏向素子の波数のx軸方向の分布を示した特性図。
【図6】出射光の偏向の様子を示した説明図。
【図7】一つの孔に関する波数の分散特性を示した特性図。
【図8】右手系の光偏向素子において、y軸方向の範列周期をx座標に関して変化させた場合の偏向素子の平面図。
【図9】右手系の光偏向素子において、y軸方向の範列周期をx座標に関して変化させた場合の波数の分散特性を示した特性図。
【図10】右手系の光偏向素子において、y軸方向の範列周期をx座標に関して変化させた場合の波数のx軸方向の分布を示した特性図。
【図11】左手系の光偏向素子における波数の分散特性を示した特性図。
【図12】左手系の光偏向素子において、y軸方向の範列周期をx座標に関して変化させた場合の波数のx軸方向の分布を示した特性図。
【図13】左手系の光偏向素子において、y軸方向の範列周期をx座標に関して変化させた場合の偏向素子の平面図。
【図14】左手系の光偏向素子において、y軸方向の範列周期をx座標に関して変化させた場合の波数の分散特性を示した特性図。
【図15】左手系の光偏向素子において、y軸方向の範列周期をx座標に関して変化させた場合の波数のx軸方向の分布を示した特性図。
【図16】一つの孔を有した金属層の構成図。
【図17】金属層間に電圧を印加して偏向角を変化させるための説明図。
【図18】孔、スリット、導体の島に関する他の例を示した平面図。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の具体的な実施例を図を参照しながら説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
以下、本発明の原理について説明する。
本実施例の偏向素子100は、図1.Aの断面図に示すように、誘電体層10と金属層20との積層構造をしている。偏向素子100の一方の面が光を入射させる長方形状の入射面30、他方の面が光を出射させる長方形状の出射面31となっている。入射面30と出射面31は平行である。図1.A、1.Bに示すように、入射面30上において、入射面の長方形の一つの角に原点oをとり、長辺方向にx軸、それに垂直な短辺方向にy軸、両軸に垂直で偏向素子100の厚さ方向にz軸をとる。その偏向素子100には、図1.Bの平面図に示すように、2次元格子状に、z軸に垂直な断面が円形で、z軸方向に軸を有する円筒形状の孔40が、多数、形成されている。その孔40の半径rは、x軸方向にはx座標の変位に応じて、漸増している。すなわち、r(x)は、単調増加関数である。隣接する孔40の中心間のx軸方向の距離dx (x軸方向の配列周期)は、座標x、座標yの値に係わらず、一定である。
【0023】
孔40の中心間のy軸方向の距離dy (y軸方向の配列周期)は、座標yに係わらず一定であるが、座標xの値に関しては、一定とする場合と、座標xの値に応じて変化させる場合とがある。まずは、y軸方向の配列周期dy が、x座標に係わらず一定である場合について説明する。また、x軸方向の配列周期dx とy軸方向の配列周期dy とは、等しくとも、異なる値であっても良い。
【0024】
今、入射光(入射電磁波)は、z軸方向、すなわち、入射面30に対して垂直に入射し、電界ベクトルはy軸方向を向いた直線偏波光とする。本光偏向素子100は、周波数が増大すると波数も増加する右手系と、周波数が増大すると波数が減少する左手系とで、構成できる。z軸方向に伸びた孔40は、低周波数帯域の電磁波を遮断する一種の円形導波管となる。したがって、この孔40の中を電磁波が伝搬する高周波数帯域では、右手系となり、この孔40を電磁波が伝搬できない低周波数帯域では、左手系となる。
【0025】
(a)波数、屈折率、位相速度の分散特性について
孔40が開けられた上記の積層構造において入射面30に垂直なz軸方向に伝搬する電磁波の波数kの分散特性k(ω)は、模式的に表現すると、図2のようになる。kが正の領域(第1象限)は右手系の分散特性、kが負の領域(第2象限)は左手系の分散特性を示している。各分散特性のパラメータは、孔40の半径rのy軸方向の配列周期dy に対する比率R=r/dy である。この比率Rが大きい程、すなわち、配列周期dy に占める孔40の断面積が大きくなる程、同一のk、又は、同一のωの値で比較すると、波数kの周波数ωに対する変化率dk/dωは、小さくなっている。
【0026】
今、光偏向素子100内での電磁波の損失、減衰を無視して、波数k、屈折率n、共に、実部だけ考える。屈折率nと、波数kとの関係は、k=ωn/cであるので、同一周波数でみると、波数kは、その周波数における屈折率nを与える。ただし、cは真空中の光速度である。また、位相速度vは、v=c/nの関係があるので、k=ω/vとなり、同一周波数でみると、波数kは、その周波数での位相速度vを与える。したがって、屈折率n、位相速度vに関する周波数特性も、波数kの周波数特性から、同様に、求められる。
【0027】
次に、y軸方向の配列周期dy を変化させた場合について考察する。上記のメタマテリアル構造は、z軸方向にも、x軸、y軸方向にも周期構造であることから、所定の周波数帯域のパスバンドを有する。孔40の半径rを一定にして、y軸方向の配列周期dy を短くすると、共振周波数が高くなる。この結果、図2の分散特性は、図3のように、周波数軸の方向に移動する。本発明では、このような波数の分散特性の性質が用いられている。
【0028】
(b)右手系でy軸方向の配列周期dy が、x軸方向に関して一定の場合
まずは、光偏向素子100を右手系で構成し、y軸方向の配列周期dy をx軸方向に沿って、一定とした場合について説明する。
孔40の半径rを変化させると、波数の分散特性は、図4のように、変化する。これらの特性は、FDTD法によりマックスウェルの方程式を解析することにより、詳細に求めることができる。解析から言えることは、孔40の半径rを大きくする程、同一周波数では、波数の周波数に対する変化率dk/dωは、小さくなる。y軸方向の配列周期dy は、x座標に係わらず一定であるので、この光偏向素子100のパスバンドの下端周波数ωL (k=0での値)は、x座標に係わらず一定である。そして、入射電磁波の任意の周波数ωにおける波数k(ω)は、孔40の半径rが小さくなるほど、大きくなる。したがって、孔40の半径rと、周波数ωを与えれば、波数k(ω,r)は、一意的に決定される。
【0029】
また、孔40の半径rは、x座標の単調増加関数r(x)として与えている。したがって、x座標と周波数ωを与えれば、波数k(ω,x)は、一意的に決定される。そこで、波数k(ω,x)を、図5に示すように、波数kのx座標に関する変化率dk/dxが、少なくとも電磁波の存在する範囲(幅Lの範囲)、 又は、光偏向素子100のx軸方向の全幅においてx座標のとり得る全範囲で、一定となるように、孔40の半径rのx軸方向の分布r(x)を決定する。また、電磁波の存在する範囲Lの左端のx座標をx3 、右端のx座標をx1 とする。上記の分散特性k(ω,r)が、FDTD法により詳細に決定することができるので、各周波数ω毎に、その導関数dk(ω,r)/drを求めることができる。
【0030】
【数1】
であるので、
【数2】
により、半径rのxに関する導関数dr/dxを求めることができる。dr/dxが求まれば、そのxに関する積分として、r(x)を求めることができる。
ただし、a(ω)は、各周波数ωについて、図5における波数kのxに関する分布特性のxに対する変化率である。
【0031】
r(x)は、周波数ωに依存しない関数とする必要がある。そのためには、dr/dxも、周波数に依存しない関数にする必要がある。したがって、a(ω)/{dk(ω,r)/dr}を周波数に依存しない関数とする必要がある。
【0032】
図5に示すように、波数の分散特性k(ω,x)のxに対する変化率dk/dxを一定とするためには、k(ω,x)は、xに関しては一次式である必要がある。そこで、変化率をp(ω)とすると、波数k(ω,x)は、次式となる。
【数3】
ただし、q( ω−ωL )は、x=0の位置における波数の分散特性である。q( ω−ωL )は、x=0の位置に半径rの最小な孔40が形成されている場合には、その半径rの時の波数の分散特性を示し、x=0の位置では、孔40が形成されていない場合には、座標x3 、x1 間の直線を外挿した時のx=0における波数の分散特性である。p(ω−ωL )、q(ω−ωL )は、パスバンドの下端周波数ωL において、孔40の半径rに係わらず波数kが零となることから、ω−ωL の関数で表現している。(3)式は、x=0における基準特性q( ω−ωL )に対する、位置の変化量xにおける波数の分散特性の変化量がp( ω−ωL )xであることを意味している。もちろん、基準座標x3 における波数k(ω,x3 )=p( ω−ωL )x3 +q( ω−ωL )を基準特性として、その基準座標x3 からの位置の偏差(x−x3 )に対する波数の分散特性の変化量がp( ω−ωL )(x−x3 )であることを意味している。
【0033】
また、図4の波数の分散特性において、q( ω−ωL )/p( ω−ωL )が周波数に依存しない定数となる場合には、(3)式は、p( ω−ωL )(x−x0 )で表される。この場合には、図5に示すように、波数kのxに関する線形特性は、周波数ωに係わらずx=x0 ,k=0の位置を通る。図4の波数の分散特性が、k軸方向に相似形状で表される場合には、このような関係となる。使用周波数帯域において、波数の分散特性が直線で近似できる場合には、この相似関係を、当然に満たす。、
【0034】
(3)式の関係が得られるとき、k(ω,x)のxに関する導関数dk(ω,x)/dxは、次式となる。
【数4】
となり、図5の特性の変化率をxに関しては一定とし、その変化率は周波数ωの関数とすることができる。
【0035】
次に、(3)式から、dk/drを求めると次のようになる。
【数5】
(5)式を(2)式に代入すると、次式が成立する。
【数6】
dr/dxがωに依存しないためには、
【数7】
を満たす必要がある。
すなわち、図5の波数kのxに関する特性の変化率の周波数特性a( ω)は、図4における波数kの周波数特性から、オフセットq( ω−ωL )を減算した周波数特性の変化量の基本となっている基本関数p(ω−ωL )で決定される。半径rをxに対して、増加するように設定した場合には、p(ω−ωL )は負値で、半径rのxに対する変化率が大きい程、pの絶対値は大きくなる。
【0036】
上記の説明では、入射電磁波の幅Lの両端の座標をx3 、x1 とし、孔40の半径rは、x座標が大きくなる程、大きくなるものとしている。この結果、波数k(x)と屈折率n(x)は、xが大きくなるに従い小さくなり、位相速度v(x)は、xが大きくなるに従い、大きくなる。半径r1 の孔が形成されているところのx座標をx1 、半径r3 の孔が形成されているところのx座標をx3 とする。したがって、x1 >x3 である。この両位置間x1 、x3 間の波数差Δkは、(3)式より、次式で表される。
【0037】
【数8】
x1 ,x3 における光偏向素子100の厚さhを伝搬するのに要する時間t1 ,t3 は、次式で表される。
【数9】
【数10】
【0038】
xが大きい程、k(ω,x)は小さいので、t1 <t3 である。したがって、図6に示すように、x3 の位置とx1 の位置において、電磁波の等位相面が出射面31から放出される時間差はt3 −t1 であり、x1 の位置で出射される電磁波の方が、x3 の位置で出射される電磁波よりも、早く空間に出射される。この結果、x3 の位置で電磁波が出射される時刻においては、x1 において出射面31から出射された電磁波は、すでに、c(t3 −t1 )だけ、空間を伝搬している。したがって、図6に示すように、等位相面とx軸との成す角をα(ω)とすると、次式が成立する。
【数11】
つつ この角α(ω)は、z軸と出射電磁波の進行ベクトルとの成す角で定義され、反時計回転方向を正と定義される偏向角である。この結果から明らかなように、偏向角α(ω)を波数k(ω,x)の特性p(ω−ωL )と周波数ωとの比で、変化させることができる。周波数ωをωL よりも大きくするに連れて、偏向角α(ω)は、大きくなる。
【0039】
(c)右手系でy軸方向の配列周期dy を孔の半径が小さい程、小さくした場合
孔40の半径rが小さい程、y軸方向の配列周期dy を小さくした場合の光偏向素子110のの平面図を図8に示す。すなわち、x座標が大きくなるに連れて、y軸方向の配列周期dy (x)を大きくすると共に、半径rの配列周期dy に対する比率R(x)=r(x)/dy (x)を、大きくしている。すなわち、配列周期dy の増加率dy /dxよりも、半径rの増加率dr/dxを大きくする。
【0040】
y軸方向の配列周期dy (x)を大きくすると、パスバンドの下端周波数ωL が小さくなる。したがって、図4に対応する波数kの分散特性は、比率Rがx軸方向に増加する関係を保持した状態で、配列周期dy を大きくするに連れて、周波数ωが低い方に平行移動する。そして、xの関数である配列周期dy (x)を適正に設定することで、図9に示すように、x軸方向の全位置における波数kの分散特性を、周波数ωM で一致するように、配列周期dy のxに関する分布dy (x)を設計することができる。
【0041】
図9において、周波数ωM の時の波数をk0 とする。波数kの分散特性は、半径rの配列周期dy に対する比率R(x)=r(x)/dy (x)をパラメータとして変化する。図9の分散特性を用いた場合、波数kのx軸方向の分布特性は、図10のようになる。周波数ωがωM より高く、波数がk0 よりも大きいときは、配列周期dy (x)をxに関して一定とした(b)の場合と同一であるので、周波数を高くするに連れて、偏向角α(ω)は正方向に大きくなる。ただし、(3)式の波数k(ω,x)を表す関数、p( ω−ωL )、q( ω−ωL )は、それぞれ、p( ω−ωM )、q( ω−ωM )となり、(4)〜(8)式、及び、偏向角を表す(11)式中のωL は、ωM である。
【0042】
周波数ωがωM に等しく、波数がk0 に等しい場合には、x軸方向に波数は、 一定で変化がないので、偏向角α(ωM )は零、すなわち、電磁波は、z軸方向に出射される。これとは逆に、周波数ωがωM より低く、波数kがk0 よりも小さいときは、図9から明らかなように、孔40の比率R(x)が小さい程、波数kは小さく、比率R(x)が大きい程、波数kは大きくなる。よって、図10のように、波数kのxに関する分布のxに対する変化率dk/dxは、正となる。この結果、関数p(ω−ωM )は正となり、(11)式より、偏向角α(ω)は負となり、z軸からx軸の正方向に傾斜した偏向角が得られる。
【0043】
このように配列周期dy (x)を配列周期dy (x)を一定にした(b)の場合と異なり、周波数ωを変化させることで、z軸に対して、正負の両側の偏向角を実現することができる。周波数ωをωM よりも大きくするに連れて偏向角α(ω)は、正の方向に大きくなり、周波数ωをωM よりも小さくするに連れて、負の方向で、絶対値を大きくすることができる。
【0044】
なお、配列周期dy (x)を半径rが大きくなる程、小さくした場合には、波数kの分散特性を波数kの正領域で交差させることができない。よって、この場合には、z軸の正負領域において、偏向角を変化させることはできない。
【0045】
(d)左手系でy軸方向の配列周期dy が、x軸方向に関して一定の場合
光偏向素子を左手系で構成した場合には、波数k(ω)の分散特性は、図2の波数kが負の領域で示される特性となり、図11で示す特性となる。実際には、1積層については、図7のような特性となる。また、この場合には、右手系の(b)の場合と同様に、同一周波数ωでは、孔40の半径rが大きくなるほど、波数kの絶対値は小さくなる。したがって、波数kのx軸方向の分布は、図12のようになり、周波数ωが小さい程、その変化率dk/dxは、符号が正で、絶対値が大きくなる。したがって、右手系の(b)の場合で述べたことと同様な結果が得られる。ただし、(3)式の波数k(ω,x)を表す関数、p( ω−ωL )、q( ω−ωL )は、それぞれ、p( ω−ωH )、q( ω−ωH )となり、(4)〜(8)式、及び、偏向角を表す(11)式中のωL は、ωH である。x1 及びx3 の位置における伝搬時間を表す(9)、(10)式も、そのまま成立する。しかし、左手系では、波数kが負であり、位相速度vも負値となる。この結果、t1 、t3 も負値となり、偏向角α(ω)を表す(11)式も、そのまま、成立して、次式となる。
【数12】
この場合、右手系の(b)場合と異なり、関数p(ω−ωH )は正となり、偏向角α(ω)は負となり、z軸からx軸の正方向に傾斜した偏向角が得られる。偏向の方向が、右手系とは、異なる方向となる。ただし、左手系の場合には、使用周波数帯域ωは、パスバンドの上端周波数ωH よりも低い帯域となる。また、周波数ωをωH から低下させるに連れて、偏向角α(ω)の絶対値は大きくなる。
【0046】
(e)左手系でy軸方向の配列周期dy を孔の半径が大きい程、小さくした場合
孔40の半径rが大きい程、y軸方向の配列周期dy を小さくした場合の光偏向素子120の平面図を図13に示す。この場合にも、孔40の比率R(x)=r(x)/dy (x)を、xの増加に伴い増大することを保持する条件で、配列周期dy (x)をx軸方向に小さくする。y軸方向の配列周期dy (x)を小さくすると、パスバンドの上端周波数ωH が大きくなる。したがって、図11に対応する波数kの分散特性は、配列周期dy を小さくするに連れて、周波数ωが高い方に平行移動する。そして、xの関数である配列周期dy (x)を適正に設定することで、図13に示すように、x軸方向の全位置における波数kの分散特性を、周波数ωM で一致するように、dy (x)を設計することができる。
【0047】
図14において、周波数ωM の時の波数を−k0 とする。図14の分散特性を用いた場合、波数kのx軸方向の分布特性は、図15のようになる。周波数ωがωM より低く、波数の絶対値がk0 よりも大きいときは、配列周期dy (x)をxに関して一定とした左手系の(c)の場合と同一であるので、周波数をωM から低くするに連れて、負方向に偏向角α(ω)は大きくなる。ただし、(3)式の波数k(ω,x)を表す関数、p( ω−ωL )、q( ω−ωL )は、それぞれ、p( ω−ωM )、q( ω−ωM )となり、(4)〜(8)式、及び、偏向角を表す(12)式中のωH は、ωM である。
【0048】
周波数ωがωM に等しく、波数がk0 に等しい場合には、x軸方向に波数は、 一定で変化がないので、偏向角α(ωM )は零、すなわち、電磁波は、z軸方向に出射される。これとは逆に、周波数ωがωM より高く、波数の絶対値がk0 よりも小さいときは、図14から明らかなように、同一周波数では、孔40の比率Rが小さい程、波数kの絶対値は小さく、比率Rが大きい程、波数kの絶対値は大きくなる。よって、図15のように、波数kのxに関する分布のxに対する変化率dk/dxは、負となる。この結果、関数p(ω−ωM )は負となり、(12)式より、偏向角α(ω)は正となり、z軸からx軸の負方向に傾斜した偏向角が得られる。このように配列周期dy (x)を配列周期dy (x)を一定にした左手系の(c)の場合と異なり、周波数ωを変化させることで、z軸に対して、正負の両側の偏向角を実現することができる。
【0049】
このように、周波数ωをωM よりも小さくするに連れて偏向角α(ω)は、負の方向で、絶対値を大きくでき、周波数ωをωM よりも大きくするに連れて、正の方向に、大きくすることができる。
【0050】
なお、配列周期dy (x)を半径rが大きくなる程、大きくした場合には、波数kの分散特性を波数kの負領域で交差させることができない。よって、この場合には、z軸の正負領域において、偏向角を変化させることはできない。
また、左手系の方が右手系よりも、波数kの周波数ωに対する変化率dk/dωを大きくすることができるために、左手系で構成する方が、偏向角α(ω)の周波数ωに対する変化率dα(ω)/dωを大きくすることができる。
【0051】
(f)右手系と左手系とを混在させた場合
上記の(b)の右手系の素子と、(d)の左手系の素子とを、x軸方向に2分した左領域と右領域とに用いても良い。この場合には、波数kが零となる周波数ωL より高い周波数では、左手系の素子は、入射電磁波をカットオフし、右手系の素子だけが機能して、(b)の右手系の素子の場合と同一となる。したがって、偏向角α(ω)を正とし、周波数を増大させるに連れて、偏向角α(ω)を大きくすることができる。また、周波数ωL より低い周波数では、右手系の素子は、入射電磁波をカットオフし、左手系の素子だけが機能して、(d)の左手系の素子の場合と同一となり、偏向角α(ω)を負とすることができる。もちろん、(c)、(e)場合のように、配列周期dy (x)をxに関して、変化させた場合においても、x軸方向について、2分された1/2の領域を左手系、他の半分の領域が左手系と右手系との混在、逆に、2分された1/2が右手系、他の半分が右手系と左手系との混在する素子としても良い。この場合には、波数kの分散特性は、波数の正の領域と負の領域とで連続させるようにする必要がある。
【0052】
(g)孔40の内部の誘電率や金属層間の間隔を電気的に変化させた場合
上記の(b)〜(e)の場合は、入射電磁波の周波数を変化させることで、偏向角を変化させるようにしている。周波数を変化させる代わりに、孔40に電界、磁界、光を含む電磁波により、誘電率や透磁率を変化させることができる材料を充填させる。例えば、電界により誘電率が変化する液晶を充填する。このようにすると、電界を印加することで、波数k(ω,x)の分散特性を、全xの範囲において、全体的に、周波数の高い方、又は、低い方に、平行移動させることができる。その時の波数の分布は、特性を固定して、周波数を変化させた場合と同一となる。その結果、入射電磁波の固定された周波数に対して波数kのx軸方向の分布を、外部電界の大きさにより変化させることができる。その結果として、偏向角αも、外部電界により、変化させることができる。金属層間の距離を静電力により変化させた場合も、同様に、電界を印加することで、波数k(ω,x)の分散特性を、全xの範囲において、全体的に、周波数の高い方、又は、低い方に、平行移動させることができる。この結果として、偏向角αも、外部電界により、変化させることができる。
【実施例1】
【0053】
金属に周期的な穴、もしくはスリットを設けた構造は、FSS (Frequency Selective Surface 、周波数選択面) と呼ばれ、設計により所望の周波数のみの電磁波を選択的に透過、もしくは遮蔽する構造となる。図1.A、1.Bに示すFSS を積層させた構造( 以下、「FSS スタック」と呼ぶ) は、FSS の構造と積層間隔が、FSS を貫通する方向、すなわちz軸方向の電磁波の位相速度vに影響を及ぼす。また、その位相速度vには周波数分散性があり、周波数により異なる。位相速度の周波数分散性v(ω)は、FSS の穴やスリットの形状や、それらの周期、すなわち構造設計により制御できるため、FSS の構造設計を一方向に徐々に変化させることにより、FSS スタック内で位相速度に分布v(x)を持たせ、さらに、その周波数分散性にも分布v(ω,x)を持たせることができる。これは、言い換えると、FSS スタック内のz方向の波数k(ω,x)を素子内の位置xと周波数ωによって制御することになる。
【0054】
本実施例は、入射電磁波として、1.5μm帯赤外線レーザーとし、赤外線レーザーに対する光偏向素子に、本発明を用いた実施例である。素子寸法は素子作成に用いる絶縁層10の媒質内波長λg を基準として考える。絶縁層10として、SiO 2 を用いた。したがって、SiO2 の屈折率1.5をとすると媒質内波長は、波長/屈折率により、1μmとなる。
【0055】
1)積層構造の構成
最下の絶縁層10としての絶縁体基板に、SiO2 基板を用いた。そのSiO2 基板上に、金属層20としてのAl膜と、絶縁層10としてSiO2 膜を、積層した。製膜技術を用いて、金属層20と絶縁層10とを交互に5層乃至20層の範囲で、多数、積層させる。金属層20の厚さは、媒質内波長の1/50=0.02倍である20nmとし、絶縁層10の厚さは、媒質内波長の4/50=0.08倍である80nmとした。
【0056】
2)FSS パターンの設計
2.1 )基本構成
まず、基本となるFSS のパターンを設計する。FSS パターンとしては半波長ホールアレーを基本とする。この場合、FSS パターンのx軸方向の配列周期dx 及びy軸方向の配列周期dy は、入射光の媒質内波長と一致させ1μmとした。そして、孔40の半径rは、媒質内波長の1/4である250nmとした。これにより、パスバンド上端波長(真空中波長)が、1.5μm、上端周波数(ωH /2π)が200THzの左手系のFSS スタックができる。積層膜の寸法とあわせて図16に基本パターンの1周期分の構成図を示す。
【0057】
2.2 )バンド図のスロープの調整
本実施例は、上記した(d)の場合の実施例である。入射波長による媒質内波数の変動量を、素子内のx軸方向に分布させるために、x軸方向に沿って、異なる傾きdk/dωの分散特性を有するFSS パターンを設計する。傾きの大小は、FSS スタックのパスバンドの帯域幅の大小と逆比例しているため、異なる帯域幅をもつFSS スタックを用意すればよい。基本パターンに対し、孔40の半径rを小さくすると狭帯域となり、周波数変動に対する媒質内波数の変化率dk/dωが大きくなり、逆に孔40の半径rを大きくすると、パスバンドは広帯域となり、周波数変動に対する波数の変動率dk/dωは小さくなる。したがって、孔40の半径rを一方向(例えば左から右)へ徐々に拡大させたパターンを作成することにより、光偏向素子が作成できる。このとき、y軸方向の配列周期dy をxに関して一定としているので、理論的には、すべてのパターンにおいてパスバンド上端が同一の共振周波数となるので、ビームの周波数をパスバンド上端から下端へスイープすると、出射光は出射面31の法線(z軸方向、入射光の進行方向)に対して、x軸の正の方向に偏向させることができる。本実施例では、入射光の中心を光偏向素子の入射面30の中心部とし、その位置での孔40の半径rを250nmと、xが増加するに連れて、この半径rを、この値から増大させて、ビームの右端位置x1 において、300nmとし、xが減少するに連れて、この値から、ビームの左端位置x3 において、200nmとした。この間は、半径rは、xに関して増加関数で変化させた。
3)ホールアレーの加工
積層構造に、フォトリソグラフィーでパターニングし、異方性エッチング技術を用いホールアレーを作成する。
【実施例2】
【0058】
本実施例は、上記した(e)の場合の実施例である。FSS スタックの構成や寸法については、実施例1と同一である。
1)バスバンド中心の調整
x軸方向に分布した媒質内の波数kの分散特性において、同一波数の時に同一周波数をとる点をパスバンドの中心に位置させると、ビームの周波数をパスバンド上端から下端へスイープすることにより、出射光を出射面31の法線(z軸)に対して、x軸の負の方向への偏向から、x軸の正の方向への偏向へと、偏向角を、連続的に変化させることができる。そのために、すべてのパターンでパスバンド中央の周波数を一致させるためFSS パターンのy軸方向の配列周期dy を、x軸方向にそって、一定の分布となるように調節する。FSS パターンのy軸方向の配列周期dy を狭くすると、共振波長が短くなるため、パスバンドの中心周波数は大きくなり、波数の分散特性は、全体的に、周波数軸方向の上方に移動する。逆にFSS パターンのy軸方向の配列周期dy を広くすると、共振波長が大きくなり、パスバンド中心の周波数は小さくなり、波数の分散特性は、全体的に、周波数軸方向の下方に移動する。
【0059】
そこで、本実施例では、孔40の半径rのx軸方向の分布については、実施例1と同一として、孔40のy軸方向の配列周期dy のみをx軸方向に変化させた。配列周期dy は、入射面30の中心点が位置するx座標xs =(x1 +x3 )/2 において、配列周期dy を1μmとした。すなわち、x座標xs における波数kの分散特性を、実施例1の特性として不変とした。したがって、パスバンドの中心周波数の波長は、1.5μmよりも長い。そして、ビームの左端x3 の位置では、配列周期dy (x)を、1.0−(1.0×1.5/λ0 )とし、ビームの右端x3 の位置では、配列周期dy (x)を、1.0+(1.0×1.5/λ0 )とした。ただし、λ0 は、パスバンドの中心周波数に対応する真空中波長である。
【0060】
すなわち、上端波長の1.5μmに対する波長比率に比例して、配列周期dy を変化させた。
したがって、一般には、配列周期dy (x)は次式で表される。
【数13】
ただし、λH は、配列周期dy (x)をdy (xs )で一定とした場合のパスバンドの上端の真空中波長である。すなわち、左端x3 の位置では、配列周期dy (x)を一定にした場合の波数の分散特性を、(λ0 −λH )だけ、低周波数側に平行移動させ、右端x1 の位置では、配列周期dy (x)を一定にした場合の波数の分散特性を、(λ0 −λH )だけ、高周波数側に移動させた特性とすればよい。したがって偏向素子のパターンは左から右へ徐々に孔40の半径r(x)が広がると同時に配列周期dy (x)が狭くなる構成となる。(13)式は、近似的な関係式であり、正確には、半径r(x)と周期dy (x)とから、波数の位置xの関数としての分散特性k(ω,x,dy )を求めて、全てのxの位置における分散特性が(k0 、ωM )の変動範囲の中点を通過するように、dy (x)が、数値解析により、最適設計される。
【実施例3】
【0061】
本実施例は、周波数を固定して、偏向角を変化させる実施例である。実施例1、2で作成した素子は、入射光の波長を制御することにより偏向可能である。さらに、固定周波数走査をおこなうために、実施例1、2で作成した素子の孔40に液晶を含浸させる。一般的なネマチック液晶を用いると屈折率を1.5 から1.7 へ変化させることができる。この変化により素子全体のパスバンドを低い周波数へシフトさせることができる。これにより入射光の周波数をパスバンド下端から上端へ走査したときと同様の効果を得る。なお、液晶を含浸させる場合は、液晶部の屈折率を変化幅の中間値である1.6に調整してFSS の配列周期dy (x)を決定する必要がある。液晶の変調方法であるが、素子が非常に小さいため、素子全体に一様に外部磁場を印加することにより可能である。
【実施例4】
【0062】
本実施例は、本発明の偏向素子をミリ波帯レーダー送信機への適用した実施例である。1)FSS パターン設計
パターン設計手法は実施例1、2と同様に行うことができる。基板の樹脂をポリエチレン、誘電率2.3のものを使うと、基板屈折率は1.5となる。周波数60GHzを対象とすると真空中の波長は5mm、したがってFSS パターンの基本配列周期dy (xs )は、5mm/1.5の3.33mmとなる。基本となる孔径はその半分の1.67mmとなる。
【0063】
1)全体構成
低損失樹脂フィルム基板にエッチングでFSS パターンを描き、それを5枚30枚積層させる。フィルムの厚みはフィルム材料の媒質内波長の1/4以下の0.83mm以下のものを用いる。可能であれば、媒質内波長の1/10以下などの薄いものを用いることにより広帯域設計が容易になる。
【0064】
2)固定周波数走査
固定周波数走査をおこなうためには、樹脂基板に多孔性の樹脂材料をもちい、1)で作成した素子に液晶を含浸させる。あるいは、実施例1、2と同様に、FSS パターンの孔40を基板ごと空孔とし、その空孔部に液晶を充填する。または、図17に示すように、実施例1、2の光偏向素子において、隣接する金属層20間に電圧を印加して、それらの間隔を変化させるようにする。この場合には、誘電体層10は、空間とするか、弾性変形が可能な弾性体で構成すれば良い。又は、誘電体層10を電圧により厚さが変化する圧電体で構成しても良い。このようにしても、出射光を、電圧により偏向させることができる。
【0065】
[変形例]
孔40のz軸に垂直な断面形状は、円形の他、正方形でも良い。また、図18の(a)に示すように、断面積が大きくなるにしたがって、y軸方向に長軸を有する楕円形状としても良い。また、(b)に示すように、x軸上の一部の領域に孔とスリットが形成されたものでも良い。また、(c)、(d)に示すように、金属層20において、(a)、(b)の孔に該当する部分だけ金属を残して、他は、誘電体層10を露出させても良い。すなわち、上記の実施例1、2、3において、金属層10をパターンを、補対構造としても良い。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明は、光を含む電磁波の進行方向を変化させる偏向素子として有効
【符号の説明】
【0067】
10…誘電体層
20…金属層
30…入射面
31…出射面
40…孔
100,110…光偏向素子
【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁層と金属層とを厚さ方向のz軸方向に周期的に積層した光偏向素子において、
前記絶縁層の面上において、z軸に垂直な方向にx軸、z軸とx軸に垂直な方向にy軸をとるとき、z軸方向に伝搬する電磁波に対して、第1周波数に関して前記x軸方向に沿って屈折率が,前記電磁波の存在範囲において、一定の変化率で、増加、又は、減少するように、屈折率の分散特性を前記x軸方向に沿って変化させた特性としたメタマテリアル素子から成ることを特長とする光偏向素子。
【請求項2】
前記電磁波の存在範囲において、第1周波数に関して前記x軸方向に沿って屈折率が、一定の変化率で増加し、前記第1周波数と異なる第2周波数に関して前記x軸方向に沿って、屈折率が、一定の変化率で減少するように、前記屈折率の分散特性を前記x軸方向に沿って変化させた特性としたことを特徴とする請求項1に記載の光偏向素子。
【請求項3】
前記光偏向素子の前記電磁波の通過周波数帯域を、所定の中間周波数を境界として高帯域と低帯域とに2分するとき、前記第1周波数を前記高帯域の周波数とし、前記第2周波数を前記低帯域の周波数とし、前記中間周波数に関して前記x軸方向に沿って屈折率が変化しないように、前記屈折率の分散特性を前記x軸方向に沿って変化させた特性としたことを特徴とする請求項2に記載の光偏向素子。
【請求項4】
前記屈折率の前記変化率が前記電磁波の周波数により変化するように、前記屈折率の分散特性の前記x軸方向の分布が決定されていることを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載の光偏向素子。
【請求項5】
前記屈折率の前記変化率が前記メタマテリアルに印加する電場、磁場、光を含む電磁波により変化するように、前記屈折率の分散特性の前記x軸方向の分布が決定されていることを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れか1項に記載の光偏向素子。
【請求項6】
前記メタマテリアル素子は、少なくとも全ての前記金属層において、同一位置に、前記x軸上の同一x座標に関しては、前記y軸方向に等周期で、前記x軸方向には、前記z軸に垂直な断面積が、漸次、変化した、前記z軸方向に貫通した孔又はスリット、 又は、導体の島状の配列を有することを特徴とする請求項1乃至請求項5の何れか1項に記載の光偏向素子。
【請求項7】
前記孔又はスリットは、全ての前記金属層及び全ての絶縁層を、z軸方向に貫通していることを特徴とする請求項6に記載の光偏向素子。
【請求項8】
前記孔又はスリット、又は、導体の島状の配列の前記y軸方向の周期は、前記x軸方向において、漸次、変化していることを特徴とする請求項6又は請求項7に記載の光偏向素子。
【請求項9】
前記孔又はスリットには、又は、導体の島状を除く部分は、誘電率又は透磁率が、電場、磁場、光を含む電磁波により変化する物質が充填されていることを特徴とする請求項6乃至請求項8の何れか1項に記載の光偏向素子。
【請求項10】
前記物質は、液晶であることを特徴とする請求項9に記載の光偏向素子。
【請求項11】
前記絶縁層は、誘電率、透磁率、又は厚さが、電場、磁場、光を含む電磁波により変化する物質とし、前記絶縁層に、電場、磁場、電磁波を印加する状態変化手段を有し、
前記状態変化手段により、前記絶縁層の誘電率、透磁率又は厚さを変化させることで、前記屈折率の分散特性を変動させることを特徴とする請求項1乃至請求項10の何れか1項に記載の光偏向素子。
【請求項1】
絶縁層と金属層とを厚さ方向のz軸方向に周期的に積層した光偏向素子において、
前記絶縁層の面上において、z軸に垂直な方向にx軸、z軸とx軸に垂直な方向にy軸をとるとき、z軸方向に伝搬する電磁波に対して、第1周波数に関して前記x軸方向に沿って屈折率が,前記電磁波の存在範囲において、一定の変化率で、増加、又は、減少するように、屈折率の分散特性を前記x軸方向に沿って変化させた特性としたメタマテリアル素子から成ることを特長とする光偏向素子。
【請求項2】
前記電磁波の存在範囲において、第1周波数に関して前記x軸方向に沿って屈折率が、一定の変化率で増加し、前記第1周波数と異なる第2周波数に関して前記x軸方向に沿って、屈折率が、一定の変化率で減少するように、前記屈折率の分散特性を前記x軸方向に沿って変化させた特性としたことを特徴とする請求項1に記載の光偏向素子。
【請求項3】
前記光偏向素子の前記電磁波の通過周波数帯域を、所定の中間周波数を境界として高帯域と低帯域とに2分するとき、前記第1周波数を前記高帯域の周波数とし、前記第2周波数を前記低帯域の周波数とし、前記中間周波数に関して前記x軸方向に沿って屈折率が変化しないように、前記屈折率の分散特性を前記x軸方向に沿って変化させた特性としたことを特徴とする請求項2に記載の光偏向素子。
【請求項4】
前記屈折率の前記変化率が前記電磁波の周波数により変化するように、前記屈折率の分散特性の前記x軸方向の分布が決定されていることを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載の光偏向素子。
【請求項5】
前記屈折率の前記変化率が前記メタマテリアルに印加する電場、磁場、光を含む電磁波により変化するように、前記屈折率の分散特性の前記x軸方向の分布が決定されていることを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れか1項に記載の光偏向素子。
【請求項6】
前記メタマテリアル素子は、少なくとも全ての前記金属層において、同一位置に、前記x軸上の同一x座標に関しては、前記y軸方向に等周期で、前記x軸方向には、前記z軸に垂直な断面積が、漸次、変化した、前記z軸方向に貫通した孔又はスリット、 又は、導体の島状の配列を有することを特徴とする請求項1乃至請求項5の何れか1項に記載の光偏向素子。
【請求項7】
前記孔又はスリットは、全ての前記金属層及び全ての絶縁層を、z軸方向に貫通していることを特徴とする請求項6に記載の光偏向素子。
【請求項8】
前記孔又はスリット、又は、導体の島状の配列の前記y軸方向の周期は、前記x軸方向において、漸次、変化していることを特徴とする請求項6又は請求項7に記載の光偏向素子。
【請求項9】
前記孔又はスリットには、又は、導体の島状を除く部分は、誘電率又は透磁率が、電場、磁場、光を含む電磁波により変化する物質が充填されていることを特徴とする請求項6乃至請求項8の何れか1項に記載の光偏向素子。
【請求項10】
前記物質は、液晶であることを特徴とする請求項9に記載の光偏向素子。
【請求項11】
前記絶縁層は、誘電率、透磁率、又は厚さが、電場、磁場、光を含む電磁波により変化する物質とし、前記絶縁層に、電場、磁場、電磁波を印加する状態変化手段を有し、
前記状態変化手段により、前記絶縁層の誘電率、透磁率又は厚さを変化させることで、前記屈折率の分散特性を変動させることを特徴とする請求項1乃至請求項10の何れか1項に記載の光偏向素子。
【図1.A】
【図1.B】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図1.B】
【図2】
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【図4】
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【図11】
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【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公開番号】特開2011−112942(P2011−112942A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−270365(P2009−270365)
【出願日】平成21年11月27日(2009.11.27)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年11月27日(2009.11.27)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】
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