光分解性高分子化合物の製造方法
【課題】 高分子化合物自体として安定でありながら、光分解感度が優れ、しかも利用しやすい化合物を利用した光分解性高分子化合物の製造方法を提供すること。
【解決手段】 ニトロ置換ベンジル基が末端に導入された高分子化合物に、開環重合開始剤の存在下、環状モノマーを開環付加重合反応させることにより、環状モノマーとしては環状エーテル化合物、環状エステル化合物、環状チオエーテル化合物、環状アミド化合物、環状シロキサン化合物が挙げられる、光分解性高分子化合物の製造方法。
【解決手段】 ニトロ置換ベンジル基が末端に導入された高分子化合物に、開環重合開始剤の存在下、環状モノマーを開環付加重合反応させることにより、環状モノマーとしては環状エーテル化合物、環状エステル化合物、環状チオエーテル化合物、環状アミド化合物、環状シロキサン化合物が挙げられる、光分解性高分子化合物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光照射することにより分解する光分解性高分子化合物の製造方法に関し、更に詳細には、紫外光、可視光などの光を照射することにより、光分解性部位が開裂し、分解する光分解性高分子化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境汚染が叫ばれる中、再利用の出来る高分子化合物や、環境中で簡単に分解のできる高分子化合物の研究が種々なされおり、例えば、生分解性高分子化合物や光分解性高分子化合物等についての種々の研究がなされている。
【0003】
このうち、光分解性高分子化合物を利用したものとしては、例えば、フェニルイソプロペニルケトンを共重合した電子写真用トナーが提案されている(特許文献1)。しかし、この公報に記載されているものは、合成方法が煩雑であること、フェニルイソプロペニルケトンが重合性単量体としての安定性に劣ること、重合後の高分子化合物が光分解の感度に劣る等の欠点があった。
【0004】
一方、アンモニウム塩のボレート誘導体や、ホスホニウム塩のボレート誘導体を利用した光分解性高分子化合物も報告されている(特許文献2)。しかし、この技術は、特殊な化合物を使用するため、コストが高くなったり、また、用途によっては使用が難しいなどの問題があった。
【0005】
【特許文献1】特開平7−209900号公報
【特許文献2】特開平11−315117号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明は、高分子化合物自体として安定でありながら、光分解感度が優れ、しかも利用しやすい化合物を利用した光分解性高分子化合物の製造方法を提供することをその課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、先にニトロ置換ベンジルを含む基を光分解性部位として利用すれば、それ自体は安定で、かつ、光の作用により容易に分解する光分解性高分子化合物が得られることを見出し、特許出願した(特願2005−53440)。そして更に、上記光分解性高分子化合物を有利に合成しうる方法について検討を続けた結果、本発明を完成した。
【0008】
すなわち本発明は、次の式(I)
【化4】
(式中、R1は、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、アルケニル基、シアノ基、ニトロ基、フェノキシ基、アリル基またはポリマー鎖を、R2は、水素原子またはアルキル基を示し、Y1は、酸素原子または炭素原子、窒素原子、イオウ原子、リン原子もしくはケイ素原子を含む結合基を、Y2は、エーテル結合、カルボン酸エステル結合、カルボン酸アミド結合、スルホン酸エステル結合またはリン酸エステル結合を示し、L1は任意のポリマー鎖を示す)
で表される高分子化合物に、開環重合開始剤の存在下、式(II)
【化5】
(式中、AおよびBは、それぞれモノマーの開環端基を示し、Lはモノマー構造基を示す)
で表される環状モノマーを反応させることを特徴とする式(III)
【化6】
(式中、A、B、R1、R2、Y1、Y2、LおよびL1は前記した意味を有し、nは任意の整数を示す)
で表される光分解性高分子化合物の製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明方法によれば、それ自体は安定で、高感度な光分解性を有する光分解性高分子化合物を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明方法により得られる光分解性高分子化合物は、次の式(VIII)で表される基を光分解性部位として含む点に特徴を有するものである。
【0011】
【化7】
(式中、R1、R2、Y1およびY2は前記した意味を有する)
【0012】
上記の光分解部位(VIII)を含む光分解性高分子化合物は、例えば、100mW/cm2程度の強度の、UVで吸収のある波長の光を、30秒から10分間程度の時間照射することにより、上記光分解性部位(VIII)において開裂し、分解する。
【0013】
そして、この光分解により分解された高分子化合物の断片には、もとのポリマーの末端であった基、例えば、カルボキシル基、水酸基、アミノ基、スルホニル基等が形成される。
【0014】
なお、上記光分解性部位(VIII)のうち好ましいものとしては、ニトロ基がフェニレン基の2位(m−位)に置換した構造を有するものが挙げられる。
【0015】
本発明方法により得られる上記式(III)で表される光分解性高分子化合物は、次のようにして製造される。
【0016】
(A)化合物(III)の製造:
化合物(III)を製造するには、下式に従い、式(I)の高分子化合物に、リビング重合開始剤の存在下、式(II)の環状モノマーを反応させればよい。
【0017】
【化8】
(式中、A、B、R1、R2、Y1、Y2、LおよびL1は前記した意味を有し、nは任意の整数を示す)
【0018】
出発原料である高分子化合物(I)は、前出のニトロ置換ベンジル誘導体(V)と、末端を活性化した高分子化合物とを、常法に従い反応させることにより製造することができる。
【0019】
また、高分子化合物(I)と反応させる環状モノマー(II)としては、環状エーテル化合物、環状エステル化合物、環状シロキサン化合物等が挙げられる。このうち、環状エーテル化合物としては、エチレンオキシド、プロピレンオキシド等が、環状エステル化合物としては、β−プロピオラクトン、ラクチド、ε−カプロラクトン等が、環状シロキサン化合物としては、1,1,3,3,5,5−ヘキサメチルトリシロキサン、1,1,3,3,5,5,7,7−オクタメチルテトラシロキサン等が例示される。従って、例えば環状エーテルである場合の、環状モノマー(II)の基Aおよび基Bは、それぞれ開環部分に対応する−CH2−と−O−、Lは、−(CH2)m−(ここでmは任意の整数を意味する)であり、環状エステル化合物(ラクトン類)である場合の基Aおよび基Bは、それぞれ開環部分に対応する−CO−と−O−、Lは、−(CH2)k−(ここでkは任意の整数を意味する)である。
【0020】
この高分子化合物(I)と環状モノマー(II)との反応は、開環重合開始剤の存在下、トルエン、DMF等の溶媒を使用して行われる。この反応は、高分子化合物(I)を高真空下、溶媒中に加え、更に開環重合開始剤を加えて室温で1時間程度反応させた後、環状モノマー(II)を、50℃程度の温度で加え、1時間程度反応させれば良い。ここで用いる開環重合開始剤は、開環重合をリビング的に進行させるものであれば、特に限定されない。例えば、環状エーテル化合物のリビング開環重合開始剤としては、ハロゲン化アルミニウムトリフェニルスルホン、ハロゲン化マンガントリフェニルスルホン、アルコキシカリウムなどが挙げられ、環状エステル化合物のリビング開環重合開始剤としては、ジアルキルアルコキシアルミニウム、トリアルコキシアルミニウム、ハロゲン化アルミニウムフェニルスルホンなどが挙げられ、環状シロキサン化合物のリビング開環重合開始剤としては、アルキルリチウム、ハロゲン化アルミニウムトリフェニルスルホンが挙げられる。
【0021】
また、式(I)のL1は任意のポリマー鎖であり、特に制約はなく、種々の種類の高分子化合物を利用し製造することができる。その製法は特に制約されないが、分子量や構造の制御の点からリビング重合法により製造されたものであることが好ましい。更に、このリビング重合法は、広範囲のモノマーに適用可能である点や、制御の容易さの点から、原子移動ラジカル重合(Atomic Transfer Radical Polymerization;ATRP)法がより好ましい。
【実施例】
【0022】
次に実施例を挙げ、本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例等により何ら制約されるものではない。
【0023】
実 施 例 1
ポリスチレン末端の2−ニトロベンジル基(マクロイニシエーター)からのε−カ プロラクトンの重合:
(1)窒素気流下、式(A)で示される末端が臭素で修飾されたポリスチレン(Mn=8770) 1.14g(0.13mmol)と4−ヒドロキシ−5−メトキシ−2−ニトロベンジルアルコール 0.27g(1.36mmol)をDMF 12mlに溶かし、炭酸カリウム 0.159g(1.15mmol)を加えて終夜撹拌した。これをメタノールに滴下して反応を停止し、そのままメタノールにて再沈殿を行った。THF/メタノール系で再沈殿を繰り返し、続いてベンゼン溶液から凍結乾燥することで精製し、下式(B)で示される4−ヒドロキシ−5−メトキシ−2−ニトロベンジルアルコールとポリスチレンの縮合物0.924gを得た。
【0024】
【化9】
【0025】
【化10】
【0026】
(2)高真空(約1.33×10−4pa)下、トルエン中に(1)で得た4−ヒドロキシ−5−メトキシ−2−ニトロベンジルアルコールとポリスチレンの縮合物 0.480g(0.054mmol)とトリエチルアルミニウム 5.26mg(0.0626mmol)を加え、室温で一時間程度反応させた。次に、ε−カプロラクトン 0.218g(1.91mmol)を加え、50℃で1時間重合を行った。重合は酢酸を入れて停止し、メタノールにて再沈殿を行った。THF/メタノール系で再沈殿を繰り返し、続いてベンゼン溶液から凍結乾燥することで精製し、下式(C)で表されるポリスチレン部分とポリε−カプロラクトン部分を有する光分解性高分子化合物0.282gを得た。
【0027】
【化11】
【0028】
実 施 例 2
実施例1の操作(2)において、4−ヒドロキシー5−メトキシー2−ニトロベンジルアルコールとポリスチレンの縮合物を0.569g(0.064mmol)に、トリエチルアルミニウムを7.06mg(0.0840mmol)に、ε−カプロラクトンを0.202g(1.77mmol)にした以外は同様にして、式(C)で表されるポリスチレン部分とポリε―カプロラクトン部分を有する光分解性高分子化合物0.378gを得た。
【0029】
実 施 例 3
(1)ATRPによるスチレンの重合:
室温、窒素気流下において、30mlニロナスフラスコに、スチレン7.86g(75.5mmol)、(1−ブロモエチル)ベンゼン0.125g(0.68mmol)、2.2’―ビピリジル0.324g(2.04mmol)および臭化銅0.099g(0.68mmol)を入れ、窒素雰囲気下とし、110℃で12時間攪拌した。これを再沈殿(メタノール100ml 2回)し、吸引ろ過、真空乾燥し、白色固体として、末端が臭素で修飾されたポリスチレン5.13gを得た。
【0030】
(2)光分解性基の導入:
室温、窒素気流下において、200mlニロナスフラスコに1−(4−ヒドロキシー5−メトキシー2−ニトロフェニル)エタノール0.150g(704μmol)、DMF40ml、炭酸カリウム0.187g(1.35mmol)、上記で得た、末端が臭素で修飾されたポリスチレン3.01g(334μmol)を入れ、窒素雰囲気下とし、80℃で終夜攪拌した。これに水100mlを入れ、抽出(クロロホルム 100ml、3回)、洗浄(飽和食塩水 100ml)し、無水硫酸マグネシウムで乾燥し、濃縮した。これにクロロホルムを少量加え、再沈殿(メタノール 50ml、2回)し、吸引ろ過、真空乾燥し、白色固体2.73gを得た。
【0031】
これをカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=2:1)により分離生成し、濃縮後、クロロホルムを少量加え、最沈殿(メタノール30ml)し、吸引ろ過、真空乾燥し、白色固体として、末端に光分解性基を導入したポリスチレン0.680gを得た。
【0032】
(3)ポリスチレン末端の2−ニトロベンジル基(マクロイニシエーター)からの
ε―カプロラクトンの重合:
高真空(約1.33×10−4pa)下、1.63mg(0.00391mmol)の、予め高真空下1時間乾燥後、THFで希釈したトリフルオロメタンスルホン酸スズ(II)を反応容器に入れて溶媒を除去した後、上記で得た末端に光分解性基を導入したポリスチレン192mg(0.0213mmol)を加えて室温で1時間置いた。続いて442mg(3.88mmol)のε―カプロラクトンを加えて70℃で48時間反応させた。反応溶液を200mlのメタノールに注ぎ込み、沈殿物を回収して203mgの淡褐色固体を得た。
【0033】
試 験 例
上記の実施例で得た光分解性高分子化合物をクロロホルムに溶解後キャストし、約0.1mm厚のフィルムを得た。このフィルムに超高圧水銀灯(USH−500D)にて、硫酸銅フィルターを用いて320nm以上の光を1分間照射した。
【0034】
紫外線照射前後のフィルムのIR(日本分光製 FT/IR−460plus)測定を行ったところ、照射前のフィルムのスペクトルではニトロ基に由来する1520cm−1付近のピークが確認されるのに対し、照射後のフィルムのスペクトルではそのピークが消失していることから、ポリマー間の結合が切断されたことが示唆された。
【0035】
また、紫外線照射前後のフィルムをTHFに溶解し、GPC(TOSOH製 HLC−8020)測定(溶媒:THF,送液速度:1.0mL/min,カラム:G5000HXL+ G4000HXL+ G3000HXL)により分子量および分子量分布(標準試料:ポリスチレン)を確認した。この結果、紫外線照射後のサンプルは照射前と比較し、低分子量側にポリスチレンブロックと一致するピークがあり、分解反応が起きていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明方法により得られる光分解性高分子化合物は、通常の使用状態では安定であるが、UVで吸収のある光を照射することにより、容易に分解するものである。
【0037】
従って、本発明の光分解性高分子化合物でプラスチック製品を製造すれば、使用後に光を照射して分解させ、ポリマーフラグメントを再使用するなど、リサイクルに適した製品を提供することが可能になる。
【0038】
また、本発明方法によれば、例えば、ポリスチレン鎖とポリオキシエチレン鎖とが光分解性部分のみを介して結合される光分解性高分子化合物中も得られるが、このものは、経済性、物性とも好ましいものである。
【0039】
更に、本発明方法によれば、例えば、ポリスチレン鎖とポリε−カプロラクタムとが光分解性部分のみを介して結合される光分解性高分子化合物中も得られ、新しい物性を有する高分子としての利用も期待される。
以 上
【技術分野】
【0001】
本発明は、光照射することにより分解する光分解性高分子化合物の製造方法に関し、更に詳細には、紫外光、可視光などの光を照射することにより、光分解性部位が開裂し、分解する光分解性高分子化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境汚染が叫ばれる中、再利用の出来る高分子化合物や、環境中で簡単に分解のできる高分子化合物の研究が種々なされおり、例えば、生分解性高分子化合物や光分解性高分子化合物等についての種々の研究がなされている。
【0003】
このうち、光分解性高分子化合物を利用したものとしては、例えば、フェニルイソプロペニルケトンを共重合した電子写真用トナーが提案されている(特許文献1)。しかし、この公報に記載されているものは、合成方法が煩雑であること、フェニルイソプロペニルケトンが重合性単量体としての安定性に劣ること、重合後の高分子化合物が光分解の感度に劣る等の欠点があった。
【0004】
一方、アンモニウム塩のボレート誘導体や、ホスホニウム塩のボレート誘導体を利用した光分解性高分子化合物も報告されている(特許文献2)。しかし、この技術は、特殊な化合物を使用するため、コストが高くなったり、また、用途によっては使用が難しいなどの問題があった。
【0005】
【特許文献1】特開平7−209900号公報
【特許文献2】特開平11−315117号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明は、高分子化合物自体として安定でありながら、光分解感度が優れ、しかも利用しやすい化合物を利用した光分解性高分子化合物の製造方法を提供することをその課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、先にニトロ置換ベンジルを含む基を光分解性部位として利用すれば、それ自体は安定で、かつ、光の作用により容易に分解する光分解性高分子化合物が得られることを見出し、特許出願した(特願2005−53440)。そして更に、上記光分解性高分子化合物を有利に合成しうる方法について検討を続けた結果、本発明を完成した。
【0008】
すなわち本発明は、次の式(I)
【化4】
(式中、R1は、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、アルケニル基、シアノ基、ニトロ基、フェノキシ基、アリル基またはポリマー鎖を、R2は、水素原子またはアルキル基を示し、Y1は、酸素原子または炭素原子、窒素原子、イオウ原子、リン原子もしくはケイ素原子を含む結合基を、Y2は、エーテル結合、カルボン酸エステル結合、カルボン酸アミド結合、スルホン酸エステル結合またはリン酸エステル結合を示し、L1は任意のポリマー鎖を示す)
で表される高分子化合物に、開環重合開始剤の存在下、式(II)
【化5】
(式中、AおよびBは、それぞれモノマーの開環端基を示し、Lはモノマー構造基を示す)
で表される環状モノマーを反応させることを特徴とする式(III)
【化6】
(式中、A、B、R1、R2、Y1、Y2、LおよびL1は前記した意味を有し、nは任意の整数を示す)
で表される光分解性高分子化合物の製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明方法によれば、それ自体は安定で、高感度な光分解性を有する光分解性高分子化合物を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明方法により得られる光分解性高分子化合物は、次の式(VIII)で表される基を光分解性部位として含む点に特徴を有するものである。
【0011】
【化7】
(式中、R1、R2、Y1およびY2は前記した意味を有する)
【0012】
上記の光分解部位(VIII)を含む光分解性高分子化合物は、例えば、100mW/cm2程度の強度の、UVで吸収のある波長の光を、30秒から10分間程度の時間照射することにより、上記光分解性部位(VIII)において開裂し、分解する。
【0013】
そして、この光分解により分解された高分子化合物の断片には、もとのポリマーの末端であった基、例えば、カルボキシル基、水酸基、アミノ基、スルホニル基等が形成される。
【0014】
なお、上記光分解性部位(VIII)のうち好ましいものとしては、ニトロ基がフェニレン基の2位(m−位)に置換した構造を有するものが挙げられる。
【0015】
本発明方法により得られる上記式(III)で表される光分解性高分子化合物は、次のようにして製造される。
【0016】
(A)化合物(III)の製造:
化合物(III)を製造するには、下式に従い、式(I)の高分子化合物に、リビング重合開始剤の存在下、式(II)の環状モノマーを反応させればよい。
【0017】
【化8】
(式中、A、B、R1、R2、Y1、Y2、LおよびL1は前記した意味を有し、nは任意の整数を示す)
【0018】
出発原料である高分子化合物(I)は、前出のニトロ置換ベンジル誘導体(V)と、末端を活性化した高分子化合物とを、常法に従い反応させることにより製造することができる。
【0019】
また、高分子化合物(I)と反応させる環状モノマー(II)としては、環状エーテル化合物、環状エステル化合物、環状シロキサン化合物等が挙げられる。このうち、環状エーテル化合物としては、エチレンオキシド、プロピレンオキシド等が、環状エステル化合物としては、β−プロピオラクトン、ラクチド、ε−カプロラクトン等が、環状シロキサン化合物としては、1,1,3,3,5,5−ヘキサメチルトリシロキサン、1,1,3,3,5,5,7,7−オクタメチルテトラシロキサン等が例示される。従って、例えば環状エーテルである場合の、環状モノマー(II)の基Aおよび基Bは、それぞれ開環部分に対応する−CH2−と−O−、Lは、−(CH2)m−(ここでmは任意の整数を意味する)であり、環状エステル化合物(ラクトン類)である場合の基Aおよび基Bは、それぞれ開環部分に対応する−CO−と−O−、Lは、−(CH2)k−(ここでkは任意の整数を意味する)である。
【0020】
この高分子化合物(I)と環状モノマー(II)との反応は、開環重合開始剤の存在下、トルエン、DMF等の溶媒を使用して行われる。この反応は、高分子化合物(I)を高真空下、溶媒中に加え、更に開環重合開始剤を加えて室温で1時間程度反応させた後、環状モノマー(II)を、50℃程度の温度で加え、1時間程度反応させれば良い。ここで用いる開環重合開始剤は、開環重合をリビング的に進行させるものであれば、特に限定されない。例えば、環状エーテル化合物のリビング開環重合開始剤としては、ハロゲン化アルミニウムトリフェニルスルホン、ハロゲン化マンガントリフェニルスルホン、アルコキシカリウムなどが挙げられ、環状エステル化合物のリビング開環重合開始剤としては、ジアルキルアルコキシアルミニウム、トリアルコキシアルミニウム、ハロゲン化アルミニウムフェニルスルホンなどが挙げられ、環状シロキサン化合物のリビング開環重合開始剤としては、アルキルリチウム、ハロゲン化アルミニウムトリフェニルスルホンが挙げられる。
【0021】
また、式(I)のL1は任意のポリマー鎖であり、特に制約はなく、種々の種類の高分子化合物を利用し製造することができる。その製法は特に制約されないが、分子量や構造の制御の点からリビング重合法により製造されたものであることが好ましい。更に、このリビング重合法は、広範囲のモノマーに適用可能である点や、制御の容易さの点から、原子移動ラジカル重合(Atomic Transfer Radical Polymerization;ATRP)法がより好ましい。
【実施例】
【0022】
次に実施例を挙げ、本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例等により何ら制約されるものではない。
【0023】
実 施 例 1
ポリスチレン末端の2−ニトロベンジル基(マクロイニシエーター)からのε−カ プロラクトンの重合:
(1)窒素気流下、式(A)で示される末端が臭素で修飾されたポリスチレン(Mn=8770) 1.14g(0.13mmol)と4−ヒドロキシ−5−メトキシ−2−ニトロベンジルアルコール 0.27g(1.36mmol)をDMF 12mlに溶かし、炭酸カリウム 0.159g(1.15mmol)を加えて終夜撹拌した。これをメタノールに滴下して反応を停止し、そのままメタノールにて再沈殿を行った。THF/メタノール系で再沈殿を繰り返し、続いてベンゼン溶液から凍結乾燥することで精製し、下式(B)で示される4−ヒドロキシ−5−メトキシ−2−ニトロベンジルアルコールとポリスチレンの縮合物0.924gを得た。
【0024】
【化9】
【0025】
【化10】
【0026】
(2)高真空(約1.33×10−4pa)下、トルエン中に(1)で得た4−ヒドロキシ−5−メトキシ−2−ニトロベンジルアルコールとポリスチレンの縮合物 0.480g(0.054mmol)とトリエチルアルミニウム 5.26mg(0.0626mmol)を加え、室温で一時間程度反応させた。次に、ε−カプロラクトン 0.218g(1.91mmol)を加え、50℃で1時間重合を行った。重合は酢酸を入れて停止し、メタノールにて再沈殿を行った。THF/メタノール系で再沈殿を繰り返し、続いてベンゼン溶液から凍結乾燥することで精製し、下式(C)で表されるポリスチレン部分とポリε−カプロラクトン部分を有する光分解性高分子化合物0.282gを得た。
【0027】
【化11】
【0028】
実 施 例 2
実施例1の操作(2)において、4−ヒドロキシー5−メトキシー2−ニトロベンジルアルコールとポリスチレンの縮合物を0.569g(0.064mmol)に、トリエチルアルミニウムを7.06mg(0.0840mmol)に、ε−カプロラクトンを0.202g(1.77mmol)にした以外は同様にして、式(C)で表されるポリスチレン部分とポリε―カプロラクトン部分を有する光分解性高分子化合物0.378gを得た。
【0029】
実 施 例 3
(1)ATRPによるスチレンの重合:
室温、窒素気流下において、30mlニロナスフラスコに、スチレン7.86g(75.5mmol)、(1−ブロモエチル)ベンゼン0.125g(0.68mmol)、2.2’―ビピリジル0.324g(2.04mmol)および臭化銅0.099g(0.68mmol)を入れ、窒素雰囲気下とし、110℃で12時間攪拌した。これを再沈殿(メタノール100ml 2回)し、吸引ろ過、真空乾燥し、白色固体として、末端が臭素で修飾されたポリスチレン5.13gを得た。
【0030】
(2)光分解性基の導入:
室温、窒素気流下において、200mlニロナスフラスコに1−(4−ヒドロキシー5−メトキシー2−ニトロフェニル)エタノール0.150g(704μmol)、DMF40ml、炭酸カリウム0.187g(1.35mmol)、上記で得た、末端が臭素で修飾されたポリスチレン3.01g(334μmol)を入れ、窒素雰囲気下とし、80℃で終夜攪拌した。これに水100mlを入れ、抽出(クロロホルム 100ml、3回)、洗浄(飽和食塩水 100ml)し、無水硫酸マグネシウムで乾燥し、濃縮した。これにクロロホルムを少量加え、再沈殿(メタノール 50ml、2回)し、吸引ろ過、真空乾燥し、白色固体2.73gを得た。
【0031】
これをカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=2:1)により分離生成し、濃縮後、クロロホルムを少量加え、最沈殿(メタノール30ml)し、吸引ろ過、真空乾燥し、白色固体として、末端に光分解性基を導入したポリスチレン0.680gを得た。
【0032】
(3)ポリスチレン末端の2−ニトロベンジル基(マクロイニシエーター)からの
ε―カプロラクトンの重合:
高真空(約1.33×10−4pa)下、1.63mg(0.00391mmol)の、予め高真空下1時間乾燥後、THFで希釈したトリフルオロメタンスルホン酸スズ(II)を反応容器に入れて溶媒を除去した後、上記で得た末端に光分解性基を導入したポリスチレン192mg(0.0213mmol)を加えて室温で1時間置いた。続いて442mg(3.88mmol)のε―カプロラクトンを加えて70℃で48時間反応させた。反応溶液を200mlのメタノールに注ぎ込み、沈殿物を回収して203mgの淡褐色固体を得た。
【0033】
試 験 例
上記の実施例で得た光分解性高分子化合物をクロロホルムに溶解後キャストし、約0.1mm厚のフィルムを得た。このフィルムに超高圧水銀灯(USH−500D)にて、硫酸銅フィルターを用いて320nm以上の光を1分間照射した。
【0034】
紫外線照射前後のフィルムのIR(日本分光製 FT/IR−460plus)測定を行ったところ、照射前のフィルムのスペクトルではニトロ基に由来する1520cm−1付近のピークが確認されるのに対し、照射後のフィルムのスペクトルではそのピークが消失していることから、ポリマー間の結合が切断されたことが示唆された。
【0035】
また、紫外線照射前後のフィルムをTHFに溶解し、GPC(TOSOH製 HLC−8020)測定(溶媒:THF,送液速度:1.0mL/min,カラム:G5000HXL+ G4000HXL+ G3000HXL)により分子量および分子量分布(標準試料:ポリスチレン)を確認した。この結果、紫外線照射後のサンプルは照射前と比較し、低分子量側にポリスチレンブロックと一致するピークがあり、分解反応が起きていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明方法により得られる光分解性高分子化合物は、通常の使用状態では安定であるが、UVで吸収のある光を照射することにより、容易に分解するものである。
【0037】
従って、本発明の光分解性高分子化合物でプラスチック製品を製造すれば、使用後に光を照射して分解させ、ポリマーフラグメントを再使用するなど、リサイクルに適した製品を提供することが可能になる。
【0038】
また、本発明方法によれば、例えば、ポリスチレン鎖とポリオキシエチレン鎖とが光分解性部分のみを介して結合される光分解性高分子化合物中も得られるが、このものは、経済性、物性とも好ましいものである。
【0039】
更に、本発明方法によれば、例えば、ポリスチレン鎖とポリε−カプロラクタムとが光分解性部分のみを介して結合される光分解性高分子化合物中も得られ、新しい物性を有する高分子としての利用も期待される。
以 上
【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の式(I)
【化1】
(式中、R1は、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、アルケニル基、シアノ基、ニトロ基、フェノキシ基、アリル基またはポリマー鎖を、R2は、水素原子またはアルキル基を示し、Y1は、酸素原子または炭素原子、窒素原子、イオウ原子、リン原子もしくはケイ素原子を含む結合基を、Y2は、エーテル結合、カルボン酸エステル結合、カルボン酸アミド結合、スルホン酸エステル結合またはリン酸エステル結合を示し、L1は任意のポリマー鎖を示す)
で表される高分子化合物に、開環重合開始剤の存在下、式(II)
【化2】
(式中、AおよびBは、それぞれモノマーの開環端基を示し、Lはモノマー構造基を示す)
で表される環状モノマーを反応させることを特徴とする式(III)
【化3】
(式中、A、B、R1、R2、Y1、Y2、LおよびL1は前記した意味を有し、nは任意の整数を示す)
で表される光分解性高分子化合物の製造方法。
【請求項2】
式(II)で表される環状モノマーが、リビング開環重合可能な化合物であり、開環重合開始剤が、リビング開環重合開始剤である請求項第1項記載の光分解性高分子化合物の製造方法。
【請求項3】
式(II)で表される化合物が、環状エーテル化合物、環状エステル化合物、環状チオエーエル、環状アミドまたは環状シロキサン化合物である請求項第1項または第2項記載の光分解性高分子化合物の製造方法。
【請求項4】
式(I)のL1が原子移動ラジカル重合法により得たポリマーである請求項第1項ないし第3項の何れかの項記載の光分解性高分子化合物の製造方法。
【請求項1】
次の式(I)
【化1】
(式中、R1は、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、アルケニル基、シアノ基、ニトロ基、フェノキシ基、アリル基またはポリマー鎖を、R2は、水素原子またはアルキル基を示し、Y1は、酸素原子または炭素原子、窒素原子、イオウ原子、リン原子もしくはケイ素原子を含む結合基を、Y2は、エーテル結合、カルボン酸エステル結合、カルボン酸アミド結合、スルホン酸エステル結合またはリン酸エステル結合を示し、L1は任意のポリマー鎖を示す)
で表される高分子化合物に、開環重合開始剤の存在下、式(II)
【化2】
(式中、AおよびBは、それぞれモノマーの開環端基を示し、Lはモノマー構造基を示す)
で表される環状モノマーを反応させることを特徴とする式(III)
【化3】
(式中、A、B、R1、R2、Y1、Y2、LおよびL1は前記した意味を有し、nは任意の整数を示す)
で表される光分解性高分子化合物の製造方法。
【請求項2】
式(II)で表される環状モノマーが、リビング開環重合可能な化合物であり、開環重合開始剤が、リビング開環重合開始剤である請求項第1項記載の光分解性高分子化合物の製造方法。
【請求項3】
式(II)で表される化合物が、環状エーテル化合物、環状エステル化合物、環状チオエーエル、環状アミドまたは環状シロキサン化合物である請求項第1項または第2項記載の光分解性高分子化合物の製造方法。
【請求項4】
式(I)のL1が原子移動ラジカル重合法により得たポリマーである請求項第1項ないし第3項の何れかの項記載の光分解性高分子化合物の製造方法。
【公開番号】特開2007−131710(P2007−131710A)
【公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−324890(P2005−324890)
【出願日】平成17年11月9日(2005.11.9)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成17年5月10日 社団法人高分子学会発行の「高分子学会予稿集 54巻1号」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成17年9月5日 社団法人高分子学会発行の「高分子学会予稿集 54巻2号」に発表
【出願人】(000102980)リンテック株式会社 (1,750)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【出願人】(592218300)学校法人神奈川大学 (243)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年11月9日(2005.11.9)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成17年5月10日 社団法人高分子学会発行の「高分子学会予稿集 54巻1号」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成17年9月5日 社団法人高分子学会発行の「高分子学会予稿集 54巻2号」に発表
【出願人】(000102980)リンテック株式会社 (1,750)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【出願人】(592218300)学校法人神奈川大学 (243)
【Fターム(参考)】
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