説明

光半導体封止用熱硬化性樹脂組成物

【課題】近年要求される短波長で高出力な発光素子の封止に用いることが可能であり、硬化物の表面タックがなく、耐熱黄変性、耐熱衝撃信頼性に優れた光半導体封止用熱硬化性樹脂組成物を提供する
【解決手段】下記の(A)成分10〜60重量%と、(B)成分90〜40重量%からなる光半導体封止用熱硬化性樹脂組成物。
(A)エポキシ基を2個以上有する脂環式エポキシ樹脂
(B)環上にカルボキシル基を有するシクロヘキシル環を2個以上有するカルボキシル基含有ポリシロキサン

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光半導体(LED)素子の封止をするために用いられる熱硬化性樹脂組成物、より詳しくは熱硬化性樹脂組成物、および該組成物を硬化してなる光半導体封止用硬化物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、LEDの各方面での需要に対応する技術として、短波長で高出力な発光素子の開発が進んでいる。このような発光素子を封止して、高性能な光半導体装置を得るために、特に短波長領域の光に対する耐光性が高いメチルポリシロキサンが使用されている。ところが、一般にメチルポリシロキサン系封止剤は表面タックを有しており、そのため、表面に異物が付着したり、発光面が損傷するといった問題があった。また、一般にメチルポリシロキサン系封止剤は、パッケージや素子との密着性が悪く、そのため、剥離する問題があった。
これら問題を解決するために、メチルポリシロキサン系封止剤に剛性成分を導入して、エポキシ樹脂硬化系を採ることが考えられる。酸/エポキシ硬化系にポリシロキサンを骨格とする光半導体封止用熱硬化性樹脂組成物に適用するには、酸変性部位やエポキシ変性部位をポリシロキサンに導入する技術が知られている。
しかしながら、親油性の高いこれら変性部位と主鎖周りにメチル基が並び非常に撥油性の高いポリシロキサンの部位との相溶性の違いから、硬化時に反応の制御が難しく、要求に適う硬化物を得ることが現実的には不可能であった。
【0003】
例えば、特許文献1には、市販のエポキシ樹脂とカルボニル基を分子鎖に導入したカルボン酸変性ポリシロキサンとを配合して用いる方法が開示されている。この開示技術を用いた場合、表面タックの問題は解決するが、エポキシ樹脂にビスフェノールのような芳香族環構造を有する場合、耐光性に問題が生ずるようになり、近年要求される短波長で高出力な発光素子の封止には用いることが難しい。
また、特許文献2には、一分子中に2個以上の二重結合基を有するシリコーンレジンとハイドロゲンポリシロキサンと硬化触媒を配合して用いる方法が開示されている。この開示技術を用いた場合にも、表面タックの問題は解決するが、二重結合基を有するシリコーンレジン中に芳香族環が含有されているため、耐光性に問題が生じるようになり、高出力な光半導体装置に使用することは難しい。
【0004】
特許文献3には、ブロック化したカルボン酸変性オルガノポリシロキサンとブロック酸とエポキシ樹脂を配合して用いる方法が開示されている。この開示技術を用いた場合、組成物の主成分が脂肪族カルボン酸とエポキシ樹脂であるので、密着性に優れる樹脂組成物が得られるものの、耐光性に問題が生じるようになり、高出力な光半導体装置に使用することは難しい。
このように、ポリシロキサンの優れた耐光性を活かしながら、表面非タック性を改善し、耐光性、耐熱黄変性、耐熱衝撃信頼性に優れた光半導体封止用熱硬化性樹脂組成物が求められているのである。
【0005】
【特許文献1】特開平4−328153号公報
【特許文献2】特開2006−299099号公報
【特許文献3】特開2003−226740号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記のような背景のもとで課題の検討がなされたものである。
本発明の目的は、近年要求される短波長で高出力な発光素子の封止に用いることが可能であり、硬化物の表面タックがなく、耐熱黄変性、耐熱衝撃信頼性に優れた光半導体封止用熱硬化性樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは前記の問題点に鑑み鋭意検討した結果、脂環式エポキシ樹脂と、特定構造のカルボキシル基含有ポリシロキサンとを特定量比で配合して用いると、前記の課題を解決しうることの知見を得て、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、次の〔1〕である。
〔1〕下記の(A)、(B)2成分からなり、2成分の含有重量の比率が(A):(B)=10:90〜50:50である光半導体封止用熱硬化性樹脂組成物。
(A)エポキシ基を2個以上有し、エポキシ当量が75〜250g/molである脂環式エポキシ樹脂
(B)カルボキシル基を2個以上有し、下記式(1)で示される構造を有するカルボキシル基含有ポリシロキサン
【0009】
【化1】

【0010】
(式中、aは0〜50の整数、bは3〜100の整数であり、Rは炭素数が1〜6のアルキル基であり、Xは下記式(2)で表される置換基であり、XはRまたは下記式(2)で表される置換基であり(ただし、a=0のときX≠R)、RとXはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。)
【0011】
【化2】

【0012】
(式中、Rは炭素数が1〜10のアルキレン基またはアルキレンオキシアルキレン基、kは0または1である。)
【発明の効果】
【0013】
本発明によって、硬化物の表面タックがなく、耐熱黄変性、耐熱衝撃信頼性に優れた物性を示す光半導体封止用樹脂組成物が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の光半導体封止用熱硬化性樹脂組成物は、下記の脂環式エポキシ樹脂(A)およびカルボキシル基含有ポリシロキサン(B)からなる。
<脂環式エポキシ樹脂(A)>
本発明において、脂環式エポキシ樹脂とは、分子内のエポキシ基がシクロヘキセンエポキサイド構造をなすエポキシ樹脂を指す。すなわち、本発明に用いる(A)成分は、本発明の光半導体封止用熱硬化性樹脂組成物において、酸−エポキシ反応の主剤として、分子内に存在する2個以上のシクロヘキセンエポキサイド構造をなすエポキシ基が、硬化剤である(B)成分中のカルボキシル基と、加熱時にエポキシ環の開環エステル化反応することにより、架橋構造を形成し、本願目的の物性を有する硬化物となる。
【0015】
本発明に用いるエポキシ基を2個以上有する脂環式エポキシ樹脂(A)は、エポキシ当量が75〜250g/mol、好ましくは80〜200g/mol、より好ましくは90〜130g/molである。エポキシ当量が250g/molを上回ると混和性に問題が生ずるばかりでなく、硬化物の表面非タック、耐熱黄変性、耐熱衝撃信頼性に問題が生ずる。エポキシ当量が75g/molを下回ると硬化時に見かけ上の混和性の問題は生じないが、硬化物は脆く硬化時の体積変化によって容易に自己破壊してしまう。本発明において、エポキシ当量は、脂環式エポキシ樹脂(A)の分子中の2個以上のエポキシ基間の分子の大きさを反映する指標であり、この値が上記の範囲にあることによって、ポリシロキサンのヘリカルに配向しようとする構造形成性を乱すことなく、硬化反応の進行に伴い形成されていく架橋点の凝集拘束性をうまく抑制して均一な架橋構造が形成され、本願目的の硬化物物性が得られると考えられる。
【0016】
本発明に用いる脂環式エポキシ樹脂の分子量としては、150〜500が好ましい。分子量が低すぎると、カルボキシル基含有ポリシロキサン(B)との相溶性が悪く均一な組成物が得られない場合がある。分子量が高すぎると、脂環式エポキシ樹脂の粘度が高くなり、混和性に問題を生じ本願の目的を達することができなくなる。
【0017】
本発明に用いるエポキシ基を2個以上有する脂環式エポキシ樹脂(A)としては具体的には、ビス(3,4−エポキシシクロヘキサン)等のシクロヘキセンエポキサイドの多量体;メチレンビス(3,4−エポキシシクロヘキサン)等の炭素数1〜8のn−アルカンのシクロヘキセンエポキサイド多置換体;エチレングリコールジ(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)エーテル等の炭素数1〜8の多価アルコールとシクロヘキセンエポキサイドアルコールとのエーテル化物;ビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)アジペート、ビス{(3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシル)メチル}アジペート等の炭素数1〜8の多価カルボン酸とシクロヘキセンエポキサイドアルコールとのエステル化物;(3,4−エポキシシクロヘキシル)メチル3’,4’−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート等のシクロヘキセンエポキサイドアルコールとシクロヘキセンエポキサイドカルボン酸とのエステル化物が挙げられる。また、本発明に用いるエポキシ基を2個以上有する脂環式エポキシ樹脂(A)は、シクロヘキセンエポキサイド構造の間がアセタール構造で連結されているエポキシ樹脂であってもよい。具体的には、2−(3,4−エポキシ)シクロヘキシル−5,5−スピロ(3,4−エポキシ)シクロヘキサン−m−ジオキサンが挙げられる。
これらのうち、(B)成分との硬化反応時の反応制御の点から、すなわち上記のエポキシ当量の点から、ビス(3,4−エポキシシクロヘキサン)、(3,4−エポキシシクロヘキシル)メチル−3’,4’−エポキシシクロヘキサンカルボキシレートが好ましく挙げられる。本発明に用いるエポキシ基を2個以上有する脂環式エポキシ樹脂(A)は、1種単独で用いても良いし、2種を組み合わせて用いても良い。
【0018】
<カルボキシル基含有ポリシロキサン(B)>
本発明に用いるカルボキシル基含有ポリシロキサン(B)は、カルボキシル基を2個以上有し、下記式(1)で示される構造を有する。
【0019】
【化3】

【0020】
(式中、aは0〜50の整数、bは3〜100の整数であり、Rは炭素数が1〜6のアルキル基であり、Xは下記式(2)で表される置換基であり、XはRまたは下記式(2)で表される置換基であり(ただし、a=0のときX≠R)、RとXはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。)
式(1)における、Rは炭素数が1〜6のアルキル基、好ましくは1〜3のアルキル基であり、Rはすべて同一でも異なっていてもよい。Rがアルキル基でなく芳香族炭化水素基や脂環式炭化水素基であると、耐光性や耐熱衝撃信頼性が低下する。Rの炭素数が6を上回る場合には、シリコーンセグメントとの相溶性が悪くなり、耐熱性が低下する。
としては具体的には例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基などの直鎖型アルキル基;イソプロピル基、イソブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、イソペンチル基、3−メチルブチル基、sec−ペンチル基、ネオペンチル基、t−ペンチル基、イソヘキシル基、sec−ヘキシル基、t−ヘキシル基などの分岐型アルキル基が挙げられる。これらのうち耐熱性の点から、メチル基が特に好ましい。
式(1)におけるXは、Rもしくは下記式(2)で表される置換基であり、R、Xはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。
【0021】
【化4】

【0022】
式中、Rは炭素数が1〜10、好ましくは2〜5のアルキレン基またはアルキレンオキシアルキレン基である。Rがアルキル基でなく芳香族炭化水素基や脂環式炭化水素基であると、耐光性や耐熱衝撃信頼性が低下する。Rの炭素数が10を上回る場合には、シリコーンセグメントとの相溶性が悪くなり、耐熱性が低下する。
としては具体的には例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基などのアルキレン基(−R−);メチレンオキシメチレン基、メチレンオキシエチレン基、メチレンテトラオキシメチレン基などのアルキレンオキシアルキレン基(−ROR−)が挙げられる。
【0023】
式(2)はシクロヘキサン環上にカルボン酸が置換されている構造である。シクロヘキサン構造でなく芳香族であった場合には、芳香環の光吸収のため耐光性が低下する。また、シクロヘキサン構造ではなく脂肪族炭化水素基であった場合、環構造では有していた剛性を付与することができないため、耐熱衝撃信頼性やタック性が低下する。
シクロヘキサン環構造を有することで、柔軟性の高いポリシロキサンに剛性を付与することができ、耐熱衝撃信頼性やタック性が良好となる。
【0024】
本発明に用いるカルボキシル基含有ポリシロキサン(B)におけるカルボキシル基含有セグメントの繰り返し単位数、すなわち式(1)におけるaは0〜50、好ましくは5〜20である。aが0の場合、XはRではなく式(2)で表される置換基であり、すなわち、カルボキシル基含有ポリシロキサン(B)の分子が両末端にのみカルボキシル基を有することを意味する。aが1〜50の場合、側鎖にカルボキシル基を有することになり、より密な架橋構造をとることができ、表面非タック性や硬度の点から好ましい。
aが50を超える場合、表面非タック性は良好であるものの、耐熱黄変性が低下する。これは、カルボキシル基含有ポリシロキサン(B)におけるXの占める割合が高くなることになり、酸当量が小さくなり、有機成分が増大するためである。有機成分中の結合(炭素−炭素結合や炭素−酸素結合)はシロキサン結合よりも結合エネルギーが低いために分解しやすいからである。
本発明に用いるカルボキシル基含有ポリシロキサン(B)におけるカルボキシル基不含セグメントの繰り返し単位数、すなわち式(1)におけるbは、3〜100、好ましくは10〜50である。bが3未満の場合、カルボキシル基含有ポリシロキサン(B)におけるシロキサン含有量が少なくなり、有機成分が増大するため、耐熱黄変性が低下する。bが100を超える場合、カルボキシル基含有ポリシロキサン(B)の分子量が高くなるとともに粘度が高くなるため、相溶性や作業性の観点から好ましくない。
【0025】
また、本発明の光半導体封止用熱硬化性樹脂組成物の配合において、カルボキシル基含有ポリシロキサン(B)における(カルボキシル基含有セグメント)/(カルボキシル基不含セグメント)の比率a/bは、通常0.1〜5、好ましくは0.2〜3である。この範囲であると、カルボキシル基含有ポリシロキサン(B)の酸当量が十分な値となり、良好な硬化性が得られる。a/bが0.1より小さい場合、酸当量が過多なため硬化性が不十分な場合がある。また、a/bが5より大きい場合、酸当量が過少なため硬化物の透明性が不十分な場合がある。
【0026】
本発明に用いるカルボキシル基含有ポリシロキサン(B)は、式(1)において、(2)式に相当する置換基Xが−R−OHであるカルビノール基含有前駆体をシクロヘキサンポリカルボン酸無水物を等モルで反応させる開環ハーフエステル化反応によって定量的に得られる。
カルボキシル基含有ポリシロキサン(B)を合成する際に使用されるシクロヘキサンポリカルボン酸無水物は、具体的には、シクロヘキサンジカルボン酸無水物、シクロヘキサントリカルボン酸無水物が挙げられる。前記のシクロヘキサンポリカルボン酸無水物は1種単独で用いても良いし、2種を組み合わせても良い。
【0027】
本発明で使用するカルビノール基含有ポリシロキサンは、両末端官能型で数平均分子量Mnが1000〜20000のものが好ましい。数平均分子量が小さすぎるとシロキサン含有量が少なくなり、有機成分が増大するため、耐熱黄変性が低下する場合がある。分子量が大きすぎると粘度が高くなるため、塗工性に支障を来す場合がある。
【0028】
本発明における、カルボキシル基含有ポリシロキサン(B)の製造方法は、カルビノール含有ポリシロキサンのヒドロキシル基1モルに対し、酸無水物が1モル反応するように配合を行う。反応条件は通常、室温〜200℃の温度範囲で、1〜100時間の条件下で反応させることにより合成できる。
【0029】
<(A)(B)両成分の配合比率>
【0030】
本発明の光半導体封止用熱硬化性樹脂組成物において、(A)(B)両成分の配合比率(A):(B)は重量比において、10:90〜50:50、好ましくは20:80〜40:60である。(A):(B)=10:90を外れて脂環式エポキシ樹脂(A)の含有割合が少なすぎると、硬化物中に未反応のカルボキシル基が多く存在することとなり、硬化物の耐湿性が低下するので好ましくない。(A):(B)=50:50を外れて脂環式エポキシ樹脂(A)の含有割合が多すぎると、硬化性が不十分となり、耐熱性が低下するので好ましくない。
本発明において、脂環式エポキシ樹脂(A)とカルボキシル基含有ポリシロキサン(B)を上記の割合で用いることによって特異的に、親油性の高い脂環式エポキシおよび酸変性部位と、撥油性の高いポリシロキサンの部位との相溶性を良好にできる。したがって、相溶性不良に起因する硬化阻害の問題が解決し、本願目的である非タック性、耐熱黄変性、耐熱衝撃信頼性を同時に満たす優れた性能を有する光半導体封止用熱硬化性樹脂組成物が得られるのである。
【0031】
本発明では、非タック性、耐熱黄変性、耐熱衝撃信頼性に優れた熱硬化性樹脂組成物が得られる。これらの機構については、証明されたわけではないが、次のように推定される。
一般的にポリシロキサンは、主鎖部がシロキサン結合(ケイ素−酸素結合)で構成されており、炭素−炭素結合に比べて原子結合エネルギーが高いため、エポキシ樹脂と比較した場合、耐光性、耐熱性が良いと言われている。本発明においては、硬化剤にポリシロキサンを使用しており、組成物のシリコーン含有量が高いことから、耐熱性や耐光性が良好である。また、末端のカルボキシル基はシクロヘキサンに結合しているため剛直な構造となり、硬化物のガラス転移点および硬度を増加させることから耐熱衝撃信頼性および表面非タック性が良好となる。硬化剤に使用しているカルボキシル基含有ポリシロキサン(B)はシクロヘキサン構造を有しており、主剤に使用している脂環式エポキシ樹脂とは類似構造のため、相溶性も良好である。脂環式エポキシ樹脂もまた、硬化物のガラス転移点および硬度を増加させ、主剤と硬化剤の相乗効果により耐熱衝撃信頼性および表面非タック性が良好となる。
【0032】
また、本発明における脂環式エポキシ樹脂(A)とカルボキシル基含有ポリシロキサン(B)の配合量は、(カルボキシル基含有ポリシロキサン(B)に由来するカルボキシル基のモル濃度)/(脂環式エポキシ樹脂(A)に由来するエポキシ基のモル濃度)の比率が通常0.2〜2.0、好ましくは0.7〜1.2、より好ましくは0.8〜1.1になるよう調整する。前記の比率が0.2未満であると、光半導体封止用熱硬化性樹脂組成物を硬化してなる樹脂硬化物の密着性が低下する恐れがあり、2.0を上回るとカルボン酸過剰による硬化不良や透明性が低下することがある。
【0033】
本発明の光半導体封止用熱硬化性樹脂組成物は、低温にて短時間で硬化する際に、硬化反応を促進し、硬化物に良好な化学性能および物理性能を付与する目的で、酸触媒を添加して使用してもよい。酸触媒としては、リン酸、スルホン酸、ホウ酸などのプロトン酸;BF、FeCl、SnCl、AlCl、ZnCl、有機金属錯体などのルイス酸が挙げられる。これらのうち、硬化性や透明性の観点から、有機金属錯体が特に好ましい。
前記酸触媒は、単独でも、2種以上を組み合わせてもよく、またその添加量は本発明の光半導体封止用熱硬化性樹脂組成物の総固形分量100重量部に対して、通常0.01〜10重量部の範囲で選ばれる。酸触媒の量が0.01重量部未満では触媒効果が十分に発揮されないし、10重量部を超える場合には、最終的に得られる硬化物が着色したり、耐水性が低下したりすることがあり好ましくない。
【0034】
本発明の光半導体封止用熱硬化性樹脂組成物は有機溶剤で希釈して使用することができる。有機溶剤としては、芳香族炭化水素、脂環式炭化水素、エステル類、含ハロゲン脂肪族炭化水素、ケトン類、エーテル類等が挙げられる。有機溶剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
有機溶剤を添加して使用する場合、光半導体封止用熱硬化性樹脂組成物100重量部に対して、溶剤の添加量は通常30重量部以下、好ましくは7重量部以下である。
また、本発明のエポキシ樹脂組成物には、必要に応じて本発明の効果を損なわない範囲で、カップリング剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、可視光吸収剤、赤外線吸収剤、変性剤、充填剤、難燃剤、チクソトロピー性付与剤等の従来公知の添加剤を添加して使用することができる。添加剤は、単独でも、2種以上を組み合わせてもよく、またその添加量は本発明の光半導体封止用熱硬化性樹脂組成物の総固形分量100重量部に対して、通常0.01〜10重量部の範囲で選ばれる。
本発明の光半導体封止用熱硬化性樹脂組成物を封止材として使用する場合には、前記のポリシロキサン組成物を、熱硬化あるいは光硬化することにより硬化することができる。その際には、前記の組成物をオーバーコート、ディップコート等により塗布して硬化させたり、容器内にポリシロキサン組成物を入れてその中に、素子をディップしてそのまま硬化させる方法等により本発明の光半導体素子の封止材とすることができる。
【0035】
本発明の光半導体封止用熱硬化性樹脂組成物には、(A)(B)両成分に対して親和性のある化合物をさらに添加して使用することにより、(A)(B)両成分間の相溶性をさらに向上し、さらに耐光性を良好にすることができる。
このような化合物としては、例えば、エポキシ基またはオキセタニル基を含有するシルセスキオキサンが挙げられ、具体的には下記一般式(3)で示される。
【0036】
【化5】

【0037】
(式中、nは6〜18の整数、mは0又はn+2以下の整数、ただし、mが0のとき、nは6〜18の偶数である。aは0〜mの整数である。Xは下記式(4)、(5)、または(6)で表される置換基であり、Rは、−O−R又は−O−Si(R(Rは水素原子または炭素数1〜6のアルキル基である。ただし、Rが複数あるときは同一でも異なっていてもよい。)を表し、かつ、複数のX及びRのうち少なくとも二つは架橋点を形成し得るものである。)
【0038】
【化6】

【0039】
【化7】

【0040】
【化8】

【0041】
前記の式(4)中において、シルセスキオキサンの具体的な構造体は、例えば、以下の(i)〜(iii)で示される。
(i)上記式(3)で表される籠型構造体のシルセスキオキサンにおいて、mおよびaが0の場合の(X−SiO3/2で表される籠型構造体、
(ii)上記式(3)においてaが0の場合の(X−SiO3/2(O1/2H)で表される籠型構造体の部分開裂構造体、
(iii)ラダー型構造体
【0042】
式(4)で表されるシルセスキオキサンのnは6〜18の整数、好ましくは8〜12の整数である。nが6未満の場合、硬化物の硬度を低下させ、18を超える場合、配合物の粘度が高くなる。
mは0またはn+2以下の整数、ただし、mが0のとき、nは6〜18の偶数である。aは0〜mの整数である。Xは下記式(4)または(5)または(6)で表される置換基、Rは、−O−Rまたは−O−Si(R(Rは水素原子または、炭素数1〜6のアルキル基。ただし、Rが複数あるときは同一でも異なっていてもよい。)を表し、かつ、複数のXおよびRのうち少なくとも二つは架橋点を形成し得るものである。
【0043】
前記の式(4)、(5)、および(6)において、Rは炭素数が1〜10好ましくは2〜5のアルキレン基またはアルキレンオキシアルキレン基である。Rがアルキレン基またはアルキレンオキシアルキレン基でなく芳香族炭化水素基や脂環式炭化水素基であると、耐光性や耐熱衝撃信頼性が低下する。また、Rの炭素数が6を上回る場合には、シリコーンセグメントとの相溶性が悪くなり、耐熱性が低下する。
としては具体的には例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基などの炭化水素基(−R−);メチレンオキシメチレン基、メチレンオキシエチレン基、メチレンテトラオキシメチレン基などのアルキレンオキシアルキレン基(−ROR−)が挙げられる。
これらのうち、アルキレンオキシアルキレン基が合成のしやすさの点から特に好ましい。
【0044】
前記の式(6)において、Rは水素原子または炭素数が1〜10好ましくは2〜5のアルキル基である。Rがアルキル基でなく芳香族炭化水素基や脂環式炭化水素基であると、耐光性や耐熱衝撃信頼性が低下する。また、Rの炭素数が6を上回る場合には、シリコーンセグメントとの相溶性が悪くなり、耐熱性が低下する。
としては具体的には例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基などの炭化水素基(−R)が挙げられる。
これらのうち、エチル基が合成のしやすさの点から特に好ましい。
【0045】
本発明の光半導体封止用熱硬化性樹脂組成物に添加して使用するシルセスキオキサンは、式(3)で表される籠型構造体のシルセスキオキサンにおいて、mおよびaが0の場合の(X−SiO3/2で表される籠型構造体(i)が好ましい。籠型構造体の部分開裂構造体(ii)や、ラダー型構造体(iii)を使用すると、(i)より柔軟な構造をとるため非タック性を損なう場合がある。
本発明の光半導体封止用熱硬化性樹脂組成物に添加して使用するシルセスキオキサンは公知の方法で製造することができ、製法は特に限定されない。例えば、エポキシ基またはオキセタニル基含有トリアルコキシシランを加水分解・縮合反応させる方法が挙げられる。
本発明の光半導体封止用熱硬化性樹脂組成物100重量部に対して、シルセスキオキサンを添加して使用する場合は通常25重量部以下を使用する。シルセスキオキサンの含有割合が25重量%を超えると、硬化性が不十分となり、耐熱黄変性および非タック性が低下する場合がある。
【実施例】
【0046】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。
実施例1〜6および比較例1〜7に使用される樹脂組成物を酸/エポキシの当量比が0.9となるように表1および表2に示す組成に従って、各原料を配合し、均一に溶解させることにより調製した。表1および表2に記載の樹脂組成物を下記に示す試験法に合わせた形状に成形し、30分間減圧脱泡を行った後、100℃で1時間プリベイク後に、150℃で1時間本硬化させることにより硬化物を得た。なお表1および表2中の商品名および略号は以下の通りである。
【0047】
<脂環式エポキシ樹脂(A)またはその他のエポキシ樹脂>
CE2021P:(3,4−エポキシシクロヘキシル)メチル−3’,4’−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、脂環式エポキシ樹脂(ダイセル化学工業(株)製「セロキサイドCE2021P」、商品名)、エポキシ当量126g/mol。
CE8000:ビス(3,4−エポキシシクロヘキサン)、脂環式エポキシ樹脂、エポキシ当量97g/mol
jER828EL:ビスフェノールA型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン(株)製、商品名、エポキシ当量190g/mol、分子量約380
YX8000:水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン(株)製、商品名)、エポキシ当量205(g/mol)、分子量約350
<カルボキシル基含有ポリシロキサン(B)またはその他の熱硬化剤>
X−22−3710:片末端/カルボキシル変性シリコーンオイル(信越化学工業(株)製)
Me−HHPA:4−メチルヘキサヒドロフタル酸(新日本理化(株)製)
<その他>
KF−99:メチルハイドロジェンシリコーンオイル(信越化学工業(株)製)、粘度20cSt(25℃)
X−22−164:両末端メタクリル変性シリコーンオイル(信越化学工業(株)製)
<硬化触媒>
2E4MZ:2−エチル−4−メチルイミダゾール(四国化成工業(株)製「キュアゾール2E4MZ」、商品名、)
Pt(acac):白金(II)ビス(アセチルアセトナート)(シグマアルドリッチジャパン(株)製)。
【0048】
〔合成例1〕カルボキシル基含有ポリシロキサン(B−1)の合成
温度計、還流冷却器、撹拌機を備えた1リットルの4つ口フラスコに、下記式(7)で表されるカルビノール基含有ポリシロキサン(分子量4760)510g、シクロヘキサンジカルボン酸無水物190gを投入し、反応温度140℃で付加反応を行った。同温度で4時間反応させた後、反応終了とし、放冷させた後に回収した。下記式(8)で表される無色透明のカルボキシル基含有ポリシロキサン(B−1、分子量6608)を91%の収率で得た。
【0049】
【化9】

【0050】
【化10】

【0051】
〔合成例2〕カルボキシル基含有ポリシロキサン(B−2)の合成
温度計、還流冷却器、撹拌機を備えた1リットルの4つ口フラスコに、下記式(9)で表されるカルビノール基含有ポリシロキサン(分子量1078)493g、シクロヘキサントリカルボン酸無水物207gを投入し、反応温度140℃で付加反応を行った。同温度で6時間反応させた後、反応終了とし、放冷させた後に回収した。下記式(10)で表される無色透明のカルボキシル基含有ポリシロキサン(B−2、分子量1474)を89%の収率で得た。
【0052】
【化11】

【0053】
【化12】

【0054】
〔比較合成例1〕カルボキシル基含有ポリシロキサン類似体(B’−1)の合成
温度計、還流冷却器、撹拌機を備えた1リットルの4つ口フラスコに、合成例2と同じく前記の式(9)で表されるカルビノール基含有ポリシロキサン498g、トリメリット酸無水物202gを投入し、反応温度140℃で付加反応を行った。同温度で4時間反応させた後、反応終了とし、放冷させた後に回収した。下記式(11)で表される無色透明のカルボキシル基含有ポリシロキサン類似体(B’−1、分子量1462)を92%の収率で得た。
【0055】
【化13】

【0056】
〔参考例1〕シルセスキオキサン(C−1)の合成
撹拌機を備えた1リットルの2つ口フラスコに、下記式(12)で表されるエポキシ基含有アルコキシシラン166g、イソプロピルアルコール500mLを加え、室温で攪拌しているところに、水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液を35g滴下した。滴下終了後、室温で24時間反応させた。その後、塩化ナトリウム水溶液で中性になるように調整した後、酢酸エチル/ヘキサン混合溶液で分別精製を行うことにより、無色透明の籠型構造を主成分とするシルセスキオキサン(C−1)を得た。
【0057】
【化14】

【0058】
〔参考例2〕シルセスキオキサン(C−2)の合成
撹拌機を備えた1リットルの2つ口フラスコに、下記式(13)で表されるオキセタニル基含有アルコキシシラン182g、イソプロピルアルコール500mLを加え、室温で攪拌しているところに、水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液を35g滴下した。滴下終了後、室温で24時間反応させた。その後、塩化ナトリウム水溶液で中性になるように調整した後、酢酸エチル/ヘキサン混合溶液で分別精製を行うことにより、無色透明の籠型構造を主成分とするシルセスキオキサン(C−2)を得た。
【0059】
【化15】

【0060】
実施例、比較例における試験法を下記に示す。
1.[耐熱黄変性]
光半導体封止用熱硬化性樹脂組成物を硬化させて、厚さ1mmの硬化物を作製した。作製した光半導体封止用樹脂硬化物を、150℃で1ヶ月間保管し、その後、分光光度計((株)島津製作所製UV−2450)で組成物の透過率を測定した。初期透過率との透過率減少率を算出し、以下の基準に従って評価を行い、○以上をもって実用に適うものと判定した。
◎ : 透過率減少率が95%以上。
○ : 透過率減少率が80%〜95%。
△ : 透過率減少率が50%〜80%。
× : 透過率減少率が50%未満。
2.[耐光性]
光半導体封止用熱硬化性樹脂組成物を硬化させて、厚さ1mmの硬化物を作製した。これを、ウェザーメーター(スガ試験機(株)製)を使用し、照射強度0.4kw/m、ブラックパネル温度63℃の条件下で1ヶ月間保管し、その後、分光光度計((株)島津製作所製UV−2450)で組成物の透過率を測定した。初期透過率との透過率減少率を算出し、以下の基準に従って評価を行い、○以上をもって実用に適うものと判定した。
◎ : 透過率減少率が95%以上。
○ : 透過率減少率が80%〜95%。
△ : 透過率減少率が50%〜80%。
× : 透過率減少率が50%未満。
3.[耐熱衝撃信頼性]
サファイア基板を光半導体封止用熱硬化性樹脂組成物で封止し、直径10mmの評価用LEDを作製した。評価用LEDのヒートサイクル試験(−40℃〜125℃、各30分)を行い、クラックの発生の有無について観察を行った。クラックの観察は50サイクル毎に行い、サンプル全体の内10%(20個のサンプルの内2個)が不良品となった回数を試験結果とした。
4.[耐高温高湿性]
光半導体封止用熱硬化性樹脂組成物で封止した評価用IC(外形寸法:20×6.3×2.3mm、ピン数16)の高温高湿試験(85℃/85%)を行った後、導通試験を行い断線およびクラック発生の有無について観察を行った。導通試験は100時間毎に行い、サンプル全体の内10%(20個のサンプルの内2個)が不良品となった時間を試験結果とした。
5.[表面非タック性]
光半導体封止用熱硬化性樹脂組成物を硬化させて、厚さ1mmの硬化物を作製した。作製した光半導体封止用樹脂硬化物を、触指観察により試験片の表面のタック性を観察し、下記の基準で表面タック性を評価した。
○:タックが認められなかった。
×:タックは認められた。
【0061】
【表1】

【0062】
【表2】

【0063】
表1における実施例1〜6の試験結果から、本発明の光半導体封止用熱硬化性樹脂組成物は、耐光性、耐熱黄変性、耐熱衝撃信頼性、表面非タック性に優れることが明らかになった。
一方で、表2に示すように比較例1〜7においては、本発明の脂環式エポキシ樹脂(A)と構造が異なる主剤を用いている、あるいは、本発明のカルボキシル基を2個以上有し、シクロヘキサン構造を有するカルボキシル基含有ポリシロキサン(B)と構造が異なる硬化剤を用いているため、本願効果である、耐光性、耐熱黄変性、表面タック性、耐熱衝撃信頼性に問題が生じることが確認された。
【0064】
以上説明したように、本発明によって、耐熱黄変性、耐熱衝撃信頼性、表面非タック性の優れた光半導体封止用熱硬化性樹脂組成物が提供される。
そのため、本発明の光半導体封止用熱硬化性樹脂組成物は、電子部品材料や光半導体素子の封止材料として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の(A)、(B)2成分からなり、2成分の含有重量の比率が(A):(B)=10:90〜50:50である光半導体封止用熱硬化性樹脂組成物。
(A)エポキシ基を2個以上有する脂環式エポキシ樹脂
(B)カルボキシル基を2個以上有し、下記式(1)で示される構造を有するカルボキシル基含有ポリシロキサン
【化1】

(式中、aは0〜50の整数、bは3〜100の整数であり、Rは炭素数が1〜6のアルキル基であり、Xは下記式(2)で表される置換基であり、XはRまたは下記式(2)で表される置換基であり(ただし、a=0のときX≠R)、RとXはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。)
【化2】

(式中、Rは炭素数が1〜10のアルキレン基またはアルキレンオキシアルキレン基、kは0または1である。)

【公開番号】特開2009−126901(P2009−126901A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−301404(P2007−301404)
【出願日】平成19年11月21日(2007.11.21)
【出願人】(000004341)日油株式会社 (896)
【Fターム(参考)】