説明

光変調器

【課題】LN導波路およびPLC導波路を有する光変調器において、熱応力による機械的信頼性の低下を抑制すること。
【解決手段】光変調器100は、LN導波路111及びPLC導波路112で構成されたPLC−LNチップ110と、PLC−LNチップ110を収納するパッケージ140と、パッケージ140のパイプ部140Aを通るファイバ130と、ファイバ1330をPLC112に接続するファイバブロック120とを備える。LN導波路111がパッケージ140に固定されている。パイプ部140A内にはフェルール150が挿入されており、その端面150Aで、ファイバ130の一端が固定されている。ファイバ130の他端はファイバブロック120との接点で固定されている。この二点の間のファイバ130の長さΔLmax(以下「ファイバ自由長」と言う。)が式(2)の関係ΔLmax/Lfiber<0.0125を満たす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光変調器に関し、より詳細には、PLC導波路およびLN導波路を備える光変調器に関する。
【背景技術】
【0002】
インターネット等により通信トラフィックの大容量化が求められている。そのため、波長分割多重(WDM)システムにおいて、1チャネル当たりの伝送速度の増加や波長数の増加が求められている。具体的には、WDMシステムの伝送には40Gbit/sや100Gbit/sといった高い伝送速度が求められている。しかし、高速化のために変調シンボルレートを高くすると、分散耐性が急激に劣化し、伝送距離が縮小してしまうという問題がある。また、信号スペクトルの広がりも大きくなるため、波長分割多重(WDM)伝送におけるフィルタの帯域やチャネル間隔を大きくとらなければならないという問題もある。そこで、シンボルレートを上げずにビットレートを大きくする多値化技術、多重化技術の必要性が高まっている。
【0003】
このような背景から、実際にチャネル当たり40Gbit/sや100Gbit/sの超高速伝送が実現または提案されている。こうした多値変調器の1例として、ニオブ酸リチウム(LN:LiNbO3)基板にチタン(Ti)拡散を用いて光導波路を形成したLN光変調器が有望であり、例えば40Gbit/s用のDQPSK変調器や100Gbit/s用偏波多重QPSK変調器等の開発が進められている。
【0004】
このLN変調器は、光通信システムの重要な光部品であり、その信頼性の向上が求められている。高信頼化には、LN変調器を筐体(パッケージ)に気密封止する実装技術が大きな影響を持ち、研究が進められている。
【0005】
一方、図4に示すように、LN基板と、Si基板上にSiO2系ガラスを主成分とする石英系光波回路(PLC:Planar Lightwave Circuit)を組み合わせて変調器を構成する従来例も報告されている(特許文献1及び2参照)。図4では、位相シフタの部分にのみLN基板220を用い、引き回しのための光導波路には石英系のPLC210、230を用いている。このため、LN光導波路の優れた特性はそのままで、PLCの優れたパッシブ回路の特徴を生かすことができる。例えば、回路全体を小型にしたり、全体の挿入損失を低減したりすることが可能である。
【0006】
図5に、LN基板と石英系のPLCを組み合わせて変調器を構成する従来例の斜視図を示す。この変調器300は、光信号の入力側の光ファイバ301と、2段のY分岐を備えた石英系のPLC302と、複数の位相シフタを備えたLN基板303と、2段のカプラを備えた石英系のPLC304と、光信号の出力側の光ファイバ305とから構成されている。これらの基板は、それぞれの光導波路同士を調心した後、UV接着剤により接続することが可能である。
【0007】
我々は既にPLCと光ファイバブロックとの接続について、量産性、信頼性を確立しており、このような基板同士の接続技術は、上記接続と構造が似ているため同様に容易に可能であると予想する。PLCとLN基板上の光波回路は、光導波路同士のモードフィールド径の値が近いものを用いることが可能であり、またLN光導波路の形状が例えば横長の場合でもPLCでスポットサイズ変換機能を構成することにより低い接続損失で接続可能なことが既に示されている。また、図に示すように、LN基板とPLCの間では、端面を斜めにして導波路を接続することにより反射を防止する構造を取ることが多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−195239号公報
【特許文献2】特開2003−121806号公報
【特許文献3】特開平07−027949号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
パッケージに収納されたLN変調器には、パッケージのパイプ部を通じてファイバが接続される。パッケージの材料をステンレス、例えばSUS303としてLNとの熱膨張係数の差を小さくしても、パッケージ材料と、ファイバ及びファイバブロックとの間に熱膨張係数の差が存在し、熱応力に起因する機械的信頼性低下という問題がある。
【0010】
こうした問題に対処するために研究が行われている(特許文献3参照)。一方、PLC−LN変調器においては、問題がさらに大きくなる。ここでPLC−LN変調器とは、LN導波路は伝搬損失や許容曲げ半径がPLC導波路と比べて大きく複雑な光回路の構成に不向きであることに鑑みて、上記の通りLN導波路とPLC導波路を組み合わせた光変調器である。PLC導波路は、シリコン基板上に形成した石英系ガラス導波路によって構成されたプレーナ光波回路であり、PLC−LN変調器では、パッケージ材料と、ファイバ、ファイバブロック及びPLC導波路との間に熱膨張係数の差が存在する。パッケージ材料とPLC導波路との間の熱膨張係数の差はファイバブロックよりも大きく、その影響を無視できない。熱膨張係数の差による熱応力は、ファイバやPLC導波路とLN導波路との接続部にかかり、機械的信頼性を低下させる。表1に熱膨張係数の値を示す。
【0011】
【表1】

【0012】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、LN導波路およびPLC導波路を有する光変調器において、熱応力による機械的信頼性の低下を抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
このような目的を達成するために、本発明の第1の態様は、LN導波路およびPLC導波路を有する光変調器において、PLC導波路及びLN導波路で構成されたPLC−LNチップと、前記PLC−LNチップを収納するパッケージと、前記パッケージが有するパイプ部を通るファイバであって、前記パイプ部に固定されたファイバと、前記ファイバを前記PLC導波路に接続するファイバブロックとを備え、前記LN導波路は、前記パッケージに固定され、前記ファイバと前記ファイバブロックとの接点と、前記ファイバの前記パイプ部における固定点との間の長さをLfiber、前記光変調器の最大使用温度範囲にわたる熱膨張による前記パッケージの変位量と、前記熱膨張による前記PLC導波路、前記ファイバブロック及び前記ファイバの変位量との差をΔLmaxとして、
ΔLmax/Lfiber<0.0125
の関係を満たすことを特徴とする。
【0014】
また、本発明の第2の態様は、第1の態様において、前記ファイバにはメタルフェルールが接続され、前記メタルフェルールは前記パイプ部にハンダ付けにより固定され、前記メタルフェルールの前記パッケージの内部側の端面が、前記パイプ部の内部に位置することを特徴とする。
【0015】
また、本発明の第3の態様は、第1又は第2の態様において、前記ファイバを前記パイプ部に固定する際に、前記ファイバが前記パッケージ内にΔLmax/2以上押し込まれることを特徴とする。
【0016】
また、本発明の第4の態様は、第1又は第2の態様において、前記ファイバブロックは、前記パッケージの前記パイプ部の中心位置からずらして配置され、前記ファイバがS字形状に屈曲されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、LN導波路およびPLC導波路を有する光変調器において、ファイバ自由長を適切に設定することにより、熱応力による機械的信頼性の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態に係るPLC−LN変調器を示す図である。
【図2】ファイバ自由長の変位量とファイバにかかる応力との関係の計算結果を異なるファイバ自由長について示す図である。
【図3】図1のパイプ部140Aに挿入されたメタルフェルール150について説明するための図である。
【図4】従来の光変調器を示す図である。
【図5】従来の光変調器を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0020】
図1は、本発明の一実施形態に係る光変調器を示す図である。光変調器100は、LN導波路111及びPLC導波路112で構成されたPLC−LN変調器(以下「PLC−LNチップ」とも言う。)110と、PLC−LNチップ110を収納するパッケージ140と、パッケージ140のパイプ部140Aを通るファイバ130と、ファイバ130をPLC112に接続するファイバブロック120とを備える。LN導波路111がパッケージ140に固定されている。図1では、説明のため、パッケージ140の一部のみを示していることに留意されたい。
【0021】
パイプ部140A内にはフェルール150が挿入されており、パッケージ140の内壁140Bに近い端面150Aで、ファイバ130の一端が固定されている。ファイバ130の他端はファイバブロック120との接点で固定されている。この二点の間のファイバ130の長さ(以下「ファイバ自由長」と言う。)が機械的信頼性を高める上で重要である。
【0022】
図2に、ファイバ自由長の変位量とファイバにかかる応力との関係の計算結果を異なるファイバ自由長について示す。×印は、ファイバ自由長を8mmとして破断実験を行った実験結果である。上記計算および実験において、PLC導波路112の長さを22mm、ファイバブロック120の長さを6mmとした。
【0023】
ここでファイバ130の破断応力は、以下のように計算で求めることができる。まず直径125μmの光ファイバの破断は6kgf=58.8N程度であることが知られている。これを光ファイバの直径125μmに対応した断面積で割ると、光ファイバの破断応力が4.8GPaと求まる。したがって、安全率を5倍にとると、ファイバ130にかかる応力は0.96GPa以下であることが求められる。光変調器100の最大使用温度範囲はここでは−50℃から100℃とした。この温度範囲にわたる熱膨張によるファイバの変位量はほぼ82μmである。図2から分かるように、ファイバ自由長が6mmの場合には、変位量が82μmのときに応力が0.96GPaを超えてしまうため、8mm以上のファイバ自由長が必要である。ファイバ自由長を8mm以上とすれば、熱膨張によりファイバ130にかかる応力を十分に抑え、機械的信頼性の低下を抑制することができる。
【0024】
表2に、ファイバ自由長を8mmとして破断実験を行った実験結果を示す。400μmまでの変位量に対して破断のないことを確認した。
【0025】
【表2】

【0026】
図2では、特定の構造における見積もりであったが、この結果は以下のようにより一般的な式として表すことができる。各部品の熱膨張係数は表1に示した通りである。ここで、近似のためにPLC導波路112とファイバブロック120の熱膨張係数をα、ファイバ130の熱膨張係数を0、SUSパッケージ140の熱膨張係数をβとし、光線方向のPLC導波路112の長さをLPLC、ファイバブロック120の長さをLFB、ファイバ自由長をLfiberとする。ここで、これらの合計長(LPLC+LFB+Lfiber)をL1とし、一方パッケージ140において、これらに対応する部分の長さをL2とする。ここでL=(L2−L1)とし、温度差ΔTでの熱膨張による、光線方向のLの変位量の差をΔLとすると、
ΔL={(LPLC+LFB)×(β-α)+Lfiber×β}×ΔT (1)
となる。ここで変位量の差ΔLによる引っ張りまたは押し込み応力を最も大きくうけるのが、断面積の小さいファイバであり、このΔLがほぼファイバ130の引っ張り又は押し込み量に対応する。ΔLの変位量に対してファイバ130の破断を充分に回避できるようにするためには、一定値以上のファイバ自由長が必要となる。安全率5倍を確保できるファイバ自由長は実験結果より以下の式で表すことができる。ここで、ΔLmaxは、式(1)でΔTを最大使用温度範囲の上限から下限、即ち最も広い温度範囲としたときのΔLの値である。ここで最大使用温度範囲は−50℃から100℃とした。
【0027】
ΔLmax/Lfiber<0.0125 (2)
図2において、ファイバ自由長Lfiberが6、8、10、12mmのとき、安全率5倍を満たす変位量はそれぞれ約75、100、125、150μm以下となっている。よって、Lfiberの長さによらず、式(2)を安全率5倍を確保する条件とすることができる。ここで、Lfiberが8mmの時は、上述のようにΔLmaxは82μmとなり式(2)を満たしている。さらに実際に可能性のあるLfiberの値が8mmより増加させた時に、図2から、同じΔLに対してファイバにかかる応力は小さくなる傾向になり、安全率5倍に対応する0.96GPa以下となるため、式(2)を満たしている。このように式(2)は、Lfiberが8mm以上のファイバ長においても成り立っている。
【0028】
なお使用温度変動範囲については、−50℃から100℃以外の温度範囲で、この変調器を使用することは現実ありえないため、その温度範囲での使用を想定していればよい。
【0029】
ここで、図3を参照して、図1のパイプ部140Aに挿入されたメタルフェルール150について説明する。図3は、光変調器100の断面の斜視図である。パッケージ140のパイプ部140A内には、従来行われているようにメタライズドファイバをハンダ付けするのではなく、ファイバ130に取り付けたメタルフェルール150をハンダ付けする。その際、メタルフェルール150の内部側の端面150Aは、パッケージ140の内壁140Bよりも外側に位置する状態とする。換言すると、端面150Aは図3(b)に示すようにパイプ部の内部に位置するようにする。こうすることで、パッケージ140を小型に保ったまま、ファイバ自由長を式(2)を満たすように長くして熱応力による機械的信頼性の低下を抑制することが可能となる。メタルフェルールのもう一方の端面150Bは、パイプ部140Aの内部にあっても外部にあってもよい。
【0030】
なお、メタルフェルール150を用いなくとも式(2)を満たすようにファイバ自由長を定めれば熱応力の影響を低減できることに留意されたい。この場合、ファイバ自由長は、ファイバ130とファイバブロック120との接点と、ファイバ130のパイプ部140Aにおける固定点との間の長さを言う。このファイバ自由長を対応させさえすれば、上記の議論がそのままメタルフェルールを用いない場合にも適用することができる。
【0031】
また、図3(a)では、ファイバブロック120を、パイプ部140Aの中心位置からずらして配置している。当該配置により、ファイバ130が予めS字形状にたわみ、熱膨張係数差による応力変動に対応することができる。ここでS字形状なしで押し込み等のみでたわみをつけることも可能であり問題があるわけではないが、たわみの方向により顕微鏡等で観察しにくい場合もある。一方、パイプ部を中心位置からずらして配置して、S字形状をつけた場合については、たわみの状態が水平方向になっているため、ファイバのたわみの状態を顕微鏡等で容易に確認することが可能であり、より安全に作業することが可能である。
【0032】
また、メタルフェルール150をパイプ部140Aにハンダ付けする際に、所定量押し込んでからハンダ付けすることにより、使用温度範囲でファイバ130にかかる熱応力を緩和することが可能である。図2の実験に用いた実施例のように、最大使用温度範囲が−50℃から100℃程度であり、パッケージ140の材料がSUS303、PLC導波路112の長さが22mm、ファイバブロック120の長さが6mmの場合、熱応力によるファイバの変位量ΔLmaxは82μmである。使用温度範囲として室温25℃から100℃を考えると、変位量は41μm程度であり、ΔLmax/2とみることができる。ΔLmax/2以上メタルフェルール150を押し込んでハンダ付けして、ファイバ130にゆとりを持たせることで、熱膨張の差を吸収することができる。上記実施例の場合では、41μm以上、たとえば50μm程度押し込むのが好ましい。
【0033】
なお、メタルフェルール150を使用する場合を例に説明したが、メタルフェルールを用いず、メタライズドファイバ等を用いる際には、ファイバ自体を押し込んでからハンダ付けを行う。
【0034】
また、上述してきた構造は、ファイバの本数が異なる場合や、PLC−LNチップの片側のみにパイプ部がある場合、両側にある場合のいずれにも適用可能であることに留意されたい。
【符号の説明】
【0035】
100 光変調器
110 PLC−LNチップ
111 LN導波路
112 PLC導波路
120 ファイバブロック
130 ファイバ
140 パッケージ
140A パイプ部
140B 内壁
150 メタルフェルール
150A、150B メタルフェルール150の端面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
LN導波路およびPLC導波路を有する光変調器において、
PLC導波路及びLN導波路で構成されたPLC−LNチップと、
前記PLC−LNチップを収納するパッケージと、
前記パッケージが有するパイプ部を通るファイバであって、前記パイプ部に固定されたファイバと、
前記ファイバを前記PLC導波路に接続するファイバブロックと
を備え、
前記LN導波路は、前記パッケージに固定され、
前記ファイバと前記ファイバブロックとの接点と、前記ファイバの前記パイプ部における固定点との間の長さをLfiber、前記光変調器の最大使用温度範囲にわたる熱膨張による前記パッケージの変位量と、前記熱膨張による前記PLC導波路、前記ファイバブロック及び前記ファイバの変位量との差をΔLmaxとして、
ΔLmax/Lfiber<0.0125
の関係を満たすことを特徴とする光変調器。
【請求項2】
前記ファイバにはメタルフェルールが接続され、
前記メタルフェルールは前記パイプ部にハンダ付けにより固定され、
前記メタルフェルールの前記パッケージの内部側の端面が、前記パイプ部の内部に位置することを特徴とする請求項1に記載の光変調器。
【請求項3】
前記ファイバを前記パイプ部に固定する際に、前記ファイバが前記パッケージ内にΔLmax/2以上押し込まれることを特徴とする請求項1又は2に記載の光変調器。
【請求項4】
前記ファイバブロックは、前記パッケージの前記パイプ部の中心位置からずらして配置され、前記ファイバがS字形状に屈曲されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の光変調器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−150089(P2011−150089A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−10450(P2010−10450)
【出願日】平成22年1月20日(2010.1.20)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、総務省、「超高速光伝送システム技術の研究開発(デジタルコヒーレント光送受信技術)」委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】