説明

光学フィルムの製造方法、光学フィルム、偏光板、光学補償フィルム、反射防止フィルムおよび液晶表示装置

【課題】液晶ディスプレイに使用した場合に十分な光学補償を実現できる、特殊な内部構造を有する光学フィルムおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】挟圧装置を構成する第一挟圧面と第二挟圧面の間に熱可塑性樹脂を含有する組成物の溶融物を通過させて連続的に挟圧してフィルム状に成形する工程を含むフィルムの製造方法であって、前記挟圧装置によって該溶融物にかかる圧力が20〜500MPaであり、かつ、前記第一挟圧面の移動速度を前記第二挟圧面の移動速度よりも速くすることを特徴とする光学フィルムの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光学フィルムの製造方法に関する。また、該製造方法で作成された光学フィルム、特殊な内部構造を有する光学フィルム、並びに該フィルムを有する偏光板、液晶表示装置にも関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶ディスプレイ市場の隆盛に伴い、様々なフィルムが開発されている。例えば、特許文献1〜3には、傾斜型位相差フィルムが開示されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、周速度の異なる二つのロール間にフィルムを通すことで、該フィルムにせん断力を付与し、光軸が傾斜したフィルムを作成する方法と、TN型液晶ディスプレイへの応用が記載されている。しかし、前記文献1に記載の方法では、フィルムの光学特性のバラツキが大きいこと、フィルム表面に接触傷が付き易い等の問題があった。また、溶融物に対して適用することも示唆していなかった。これに対し、特許文献2および3では、ゴムロールと周速度の異なってもよい金属ロールの2つのロールを用いて溶融物を挟み、せん断力を付与することで、上記問題点を解決した膜厚100〜150μmの光学フィルムが得られることが記載されている。
【0004】
しかし、特許文献2および3では、実際に透過型のTNやECB液晶ディスプレイや、半透過型のTNやECB液晶ディスプレイの光学補償を行うのに十分な性能を有する光学フィルムは記載されていなかった。
【0005】
一方、従来、ロール圧力を上げると、厚み方向に大きな圧縮力が働き、分子鎖が選択的に厚み方向に配向したフィルムが作成できることが知られている。しかしながら特許文献4では、ロール圧力を上げることで大きな残留歪みを生じさせたフィルムは光の乱反射や複屈折現象を起こすため、光学用途や液晶表示装置に使用できず、膜厚も約300μmが限界になると開示されている。また、そのため、光学用途においてはロール圧力を低下させて位相差の低減を図ることが好ましいと開示している。また、実際、溶融タッチロール法で作成されたフィルムは、溶融キャスト法で作成されたフィルムに比べて、厚み方向の配向が進むことが知られている。
【0006】
しかしながら、透過型のTNやECB液晶ディスプレイや、半透過型のTNやECB液晶ディスプレイの光学補償を行うのに十分な性能を有する光学フィルムを製造する方法は従来知られていなかった。また、このようなフィルムの光学特性とフィルム内部構造上の特徴との関係について、詳細な検討はなされていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平6−222213号公報
【特許文献2】特開2003−25414号公報
【特許文献3】特開2007−38646号公報
【特許文献4】特許第3194904号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】高分子をならべる、高分子加工One Point〈4〉、第3章、P.37
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来、光学フィルム分野では、特許文献1の比較例1や参考文献1に記載されているように、ロール間の圧力を上げると圧縮力が大きくなるため分子鎖が選択的に厚み方向に配向(面配向)してしまい、位相差の傾斜構造の大きさは相対的に低下することが予想されていた。なお、ここで位相差の傾斜構造とは、後述する|Re[+40°]−Re[−40°]|の大きさを意味する。
【0010】
また、前記特許文献2等に記載されているような従来の技術では、金属ロールと硬度の低い弾性ロール(例えば、同文献に記載されている表面を金属でコートしたゴムロール)を用いた場合、20MPa以上の大きな圧力をかけようとして同程度の力を加えるとゴムロールが変形してしまった。そのため、溶融物との接触面積が増加し、結果として挟圧装置間に高い圧力をかけることが出来なかった。そのため、位相差の傾斜構造の大きなフィルムを得るために、挟圧装置間圧力を向上させてフィルムを製造する方法については、詳細な検討がなされていなかったのが現状であった。それどころか、特許文献4の背景技術欄には、ロール挟圧力を高めるとフィルムに生じた歪みが比例して大きくなり、このような残留歪みがあるシートは、特に光の乱反射や複屈折現象を起こすため、光学的用途たとえば液晶などの表示装置には使用できないことが開示されている。すなわち、挟圧装置間の圧力を高めることは忌避される傾向にあり、特に光学フィルム分野ではそのような傾向が顕著であった。
【0011】
本発明は上記の課題を考慮してなされたものであり、本発明の第一の目的は、液晶ディスプレイに使用した場合に十分な光学補償を実現できる、特殊な内部構造を有する光学フィルムおよびその製造方法を提供することにある。また、本発明の第二の目的は、該光学フィルムを用いた偏光板、光学補償フィルム、反射防止フィルムおよび液晶表示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
このような上記課題に対し、本発明者らが従来の方法で製造された光学フィルムの内部構造について検討したところ、位相差の傾斜構造の大きさが不十分であるだけでなく、フィルム厚み方向の熱可塑性分子の配向構造についても求められているフィルムの構造とは異なることがわかった。
これに対し、本発明者らが挟圧装置を構成する第一挟圧面と第二挟圧面の間に連続的に挟圧して傾斜位相差構造を有するフィルムを作成する製造方法において挟圧装置間の圧力を上げることを検討したところ、驚くべきことに傾斜構造が大きく、従来知られていたフィルムとは異なる特殊な内部構造を有しているフィルムを作ることができることが判明した。さらに、本発明のフィルムは、従来の液晶塗布型の視野角補償フィルムに比べて、液晶ディスプレイに使用した場合に、正面コントラスト(以下、正面CRとも言う)を高くすることができるものであり、従来製造できていなかったフィルムであることが判明した。
すなわち、本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、下記製造方法およびその方法で作成されたフィルム等が上記課題を解決できることを見出し、以下に記載する本発明を完成するに至った。
【0013】
[1] 挟圧装置を構成する第一挟圧面と第二挟圧面の間に熱可塑性樹脂を含有する組成物の溶融物を通過させて連続的に挟圧してフィルム状に成形する工程を含むフィルムの製造方法であって、 前記挟圧装置によって該溶融物にかかる圧力が20〜500MPaであり、かつ、前記第一挟圧面の移動速度を前記第二挟圧面の移動速度よりも速くすることを特徴とする光学フィルムの製造方法。
[2] 前記熱可塑性樹脂を含有する組成物をダイから溶融押出しする工程をさらに含み、溶融押出しされた溶融物を前記第一挟圧面と前記第二挟圧面の間を通過させることを特徴とする[1]に記載の光学フィルムの製造方法。
[3] 下記式(I)で定義される前記挟圧装置の第一挟圧面と第二挟圧面の移動速度比が0.60〜0.99であることを特徴とする[1]または[2]に記載の光学フィルムの製造方法。
移動速度比=第二挟圧面の速度/第一挟圧面の速度 (I)
[4] 前記第一挟圧面および前記第二挟圧面の温度を、Tg−70℃〜Tg+10℃に制御することを特徴とする[1]〜[3]のいずれか一項に記載の光学フィルムの製造方法(但し、Tgは前記熱可塑性樹脂のガラス転移温度を表す)。
[5] 前記挟圧装置が互いに周速度が異なる2つのロールを含んでおり、周速度の早いロールの表面を第一挟圧面とし、周速度が遅いロールの表面を第二挟圧面とすることを特徴とする[1]〜[4]のいずれか一項に記載の光学フィルムの製造方法。
[6] 前記2つのロールのショア硬さが共に45HS以上であることを特徴とする[5]に記載の光学フィルムの製造方法。
[7] 前記2つのロールが共に金属ロールであることを特徴とする[5]または[6]に記載の光学フィルムの製造方法。
[8] 前記熱可塑性樹脂が、環状オレフィン系樹脂、セルロースアシレート系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、スチレン系樹脂およびアクリル系樹脂から選択される少なくとも1種であることを特徴とする[1]〜[7]のいずれか一項に記載の光学フィルムの製造方法。
[9] [1]〜[8]のいずれか1項に記載の光学フィルムの製造方法で製造され、かつ、厚みが200μm以下であることを特徴とする光学フィルム。
[10] 熱可塑性樹脂から構成される傾斜方位を有する光学フィルムであって、傾斜方位と厚み方向を面内に含む前記フィルムの切片を直交ニコルに配置された2枚の偏光板の間に配置し、前記偏光板の面に対して、垂直方向から光を照射しながら、直交ニコルに配置された2枚の偏光板を0°〜90°の範囲で回転させた時に、フィルム切片の一端から他端まで厚み方向へ向けて順に観測した場合に、最初に観測される消光位と最後に観測される消光位が3°を越えて異なることを特徴とする光学フィルム。
[11] 前記フィルム切片の複屈折が実質的に0でない部分で、前記消光位の変化が観測されることを特徴とする[10]に記載の光学フィルム。
[12] フィルム切片の一端から他端まで厚み方向へ向けて順に観測した場合に、複屈折の大きさが最大となる部分がフィルム内部に存在することを特徴とする[10]または[11]に記載の光学フィルム。
[13] フィルム傾斜方位とフィルム法線を含む面内において、該法線方向から測定した波長550nmにおけるレターデーションRe[0°]と、該法線に対して傾斜方位側へ40°傾いた方向から測定したレターデーションRe[+40°]と、該法線に対して傾斜方位とは反対側へ40°傾いた方向から測定したレターデーションRe[−40°]が、下記式(II)および(III)を共に満たすことを特徴とする[10]〜[12]のいずれか一項に記載の光学フィルム。
20nm≦Re[0°]≦300nm (II)
5nm≦|Re[+40°]−Re[−40°]|≦300nm (III)
[14] 前記フィルムの膜厚方向のレターデーションRthが下記式(IV)を満たすことを特徴とする[10]〜[13]のいずれか一項に記載の光学フィルム。
40nm≦Rth≦500nm (IV)
Rth=((nx+ny)/2−nz)×d
(式中、nx、ny、nzは、屈折率楕円体の各主軸方位の屈折率を表し、dはフィルム厚みを表す。)
[15] 熱可塑性樹脂を含有し、下記式(V)〜(VII)を同時に満たすことを特徴とする[13]または[14]に記載の光学フィルム。
60nm≦Re[0°]≦200nm (V)
60nm≦|Re[+40°]−Re[−40°]|≦250nm (VI)
40nm≦Rth≦350nm (VII)
[16] 熱可塑性樹脂から構成される傾斜方位を有する光学フィルムであって、
フィルム傾斜方位とフィルム法線を含む面内において、該法線方向から測定した波長550nmにおけるレターデーションRe[0°]と、該法線に対して傾斜方位側へ40°傾いた方向から測定したレターデーションRe[+40°]と、該法線に対して傾斜方位とは反対側へ40°傾いた方向から測定したレターデーションRe[−40°]が、下記式(VIII)および(IX)を共に満たすことを特徴とする光学フィルム。
60nm≦Re[0°]≦300nm (VIII)
40nm≦|Re[+40°]−Re[−40°]|≦300nm (IX)
[17] 膜厚方向のレターデーションRthが下記式(X)を満たすことを特徴とする[16]に記載の光学フィルム。
40nm≦Rth≦500nm (X)
Rth=((nx+ny)/2−nz)×d
(式中、nx、ny、nzは、屈折率楕円体の各主軸方位の屈折率を表し、dはフィルム厚みを表す。)
[18] 下記式(XI)〜(XIII)を同時に満たすことを特徴とする[16]または[17]に記載の光学フィルム。
60nm≦Re[0°]≦200nm (XI)
60nm≦|Re[+40°]−Re[−40°]|≦250nm (XII)
40nm≦Rth≦350nm (XIII)
[19] 残留溶媒を実質含まないことを特徴とする[9]〜[18]のいずれか一項に記載の光学フィルム。
[20] 膜厚が100μm以下であることを特徴とする[9]〜[19]のいずれか一項に記載の光学フィルム。
[21] 偏光子と、[9]〜[20]のいずれか一項に記載の光学フィルムとを有することを特徴とする偏光板。
[22] [9]〜[20]のいずれか一項に記載の光学フィルムを用いたことを特徴とする光学補償フィルム。
[23] [9]〜[20]のいずれか一項に記載の光学フィルムを用いたことを特徴とする反射防止フィルム。
[24] [9]〜[20]のいずれか一項に記載の光学フィルムを用いたことを特徴とする液晶表示装置。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、液晶ディスプレイに使用した場合に良好な光学補償を実現できるフィルムおよびその製造方法を提供することができる。詳しくは、本発明によれば、ECBモード、OCBモード、TNモードの液晶ディスプレイに使用した場合に、良好な光学補償を実現できるフィルムおよびその製造方法を提供することができる。従来、ECBモードの液晶ディスプレイやTNモードの液晶ディスプレイでは、液晶組成物からなる光学補償層が設けられた光学補償フィルムが偏光子に積層されて使用されている。例えば、NHフィルム(新日本石油製)、WVフィルム(富士フィルム製)が知られている。本発明によれば、液晶組成物、特に重合性液晶化合物からなる光学補償層を設けることなく、より簡易なフィルムおよびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の半透過型ECBモード液晶表示装置における偏光板の吸収軸、液晶セルの配向方向およびフィルムの遅相軸を表した平面図である。
【図2】極角とサーキュラーリターダンスの関係を表すグラフである。
【図3】実施例1および比較例1のフィルムのタッチロールに接していた側の面(タッチ面)から膜厚方向への距離と、消光位の関係を表すグラフである。
【図4】直交ニコル下におけるフィルムの偏光顕微鏡写真であり、(A)〜(D)は実施例1のフィルムをそれぞれ10°、60°、70°および80°回転させた時における消光位を表し、(a)〜(d)は比較例1のフィルムをそれぞれ10°、60°、70°および80°回転させた時における消光位を表す。
【図5】直交ニコル下におけるフィルムの偏光顕微鏡写真であり、(A)〜(D)は比較例9のフィルムをそれぞれ10°、60°、70°および80°回転させた時における消光位を表す。
【図6】直交ニコルに配置された偏光板の回転角度と、フィルムの消光位の関係を表すイメージ図であり、(A)は本発明のフィルムの消光位、(B)は従来の一軸延伸フィルムの消光位、(C)は従来の傾斜配向フィルムの消光位、(D)直交ニコルに配置された偏光板の回転角度を表す。
【図7】本発明の製造方法において、ダイから供給されたメルトをチルロールとタッチロールで挟圧した部分の中央に落とす態様の挟圧装置の模式図を表す。
【図8】本発明の製造方法において、遮風板を用いた挟圧装置の態様の模式図を表す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。また、本明細書において、「フィルム長手方向」とは、MD(マシン・ダイレクション)方向を意味する。本発明において、「熱可塑性樹脂を含有する組成物」や、「熱可塑性樹脂から構成されるフィルムとは、溶融製膜可能な熱可塑性樹脂を50%以上含有することを意味し、特に重合性液晶化合物を実質含まないことを意味する。
【0017】
[フィルム]
(面内方向のレターデーションRe、厚み方向のレターデーションRth)
本発明のフィルムは、熱可塑性樹脂を含有し、フィルム傾斜方位とフィルム法線を含む面内において、該法線から測定した波長550nmにおけるレターデーションRe[0°]と、+40°傾いた方向から測定したレターデーションRe[+40°]と、該法線に対して−40°傾いた方向から測定したレターデーションRe[−40°]が、下記式(II)および(III)を共に満たすことを特徴とする。
20nm≦Re[0°]≦300nm (II)
5nm≦|Re[+40°]−Re[−40°]|≦300nm (III)
【0018】
本明細書において、「フィルム法線からθ°傾いた方向」とは、法線方向から傾斜方位にθ°だけフィルム面方向に傾斜させた方向と定義する。即ち、フィルム面の法線方向は、傾斜角度0°の方向であり、フィルム面内の任意の方向は、傾斜角度90°の方向である。
【0019】
本発明のフィルムにおいて、面内方向のレターデーションRe[0°]は、20〜300nmであり、60〜300nmであることが好ましく、60〜250nmであることがより好ましく、60〜200nmであることが特に好ましく、さらに好ましくは、80〜180nmである。また、本発明のフィルムは、|Re[+40°]−Re[−40°]|が5〜300nmであり、40〜300nmであることが好ましく、60〜250nmであることがより好ましく、60〜200nmであることが特に好ましく、さらに好ましくは80〜180nmである。
さらに、本発明のフィルムは、厚み方向のレターデーションRthが40〜500nmであることが好ましく、より好ましくは40〜350nm、さらに好ましくは40〜300nmである。
またさらに、本発明のフィルムは、下記式(V)〜(VII)を同時に満たすことが好ましい。
60nm≦Re[0°]≦200nm (V)
60nm≦|Re[+40°]−Re[−40°]|≦250nm (VI)
40nm≦Rth≦350nm (VII)
|Re[+40°]−Re[−40°]|、Re[0°]およびRthが前記好ましい範囲のフィルムは、後述する本発明の製造方法によって作製することができる。また、上記好ましい光学特性の光学フィルムを、TNモード、ECBモード、OCBモード等の液晶ディ液晶ディスプレイの光学補償に利用した場合に、視野角特性の改善に寄与し、広視野角化を達成することができる。
また, 波長550nmにおけるフィルム面内のレターデーションRe[0°](550nm)と波長450nmにおけるフィルム面内のレターデーションRe[0°](450nm)の差、すなわちRe[0°](550nm)−Re[0°](450nm)の値は、−10〜60nmであることが好ましく、0〜50nmであることがより好ましく、10〜40nmであることが特に好ましい。
【0020】
本発明のフィルムの膜厚は、200μm以下であることが好ましく、100μm以下であることがより好ましい。液晶ディスプレイ等に用いる場合は、薄型化の観点からは、80μm以下であることが好ましく、60μm以下であることがより好ましく、40μm以下であることが特に好ましい。本発明のフィルムの製造方法では、このような薄手のフィルムを作成でき、従来技術との差異点の一つである。
【0021】
Re[0°]、Re[+40°]およびRe[−40°]のバラツキは、液晶ディスプレイに利用した場合に、表示ムラとなって現れるので、そのバラツキは小さいほど好ましく、具体的には、±3nm以内であることが好ましく、±1nm以内であることがさらに好ましい。また、同様に遅相軸の角度のバラツキも、表示ムラの原因となるので、そのバラツキは小さいほど好ましく、具体的には±1°以内であることが好ましく、±0.5°以内であることがさらに好ましく、±0.25°以内であることが特に好ましい。
【0022】
本明細書において、Re[0°]は、Rthは、光学異方性層、フィルム、積層体等の、フィルム状の測定対象物の、面内のレターデーション(nm)、及び厚み方向のレターデーション(nm)を表す。
Re[0°]は、KOBRA 21ADH又はWR(王子計測機器(株)製)において、波長550nmの光を、フィルム状の測定対象物の法線方向に入射させて測定される。測定波長λnmの選択にあたっては、波長選択フィルターをマニュアルで交換するか、または測定値をプログラム等で変換して測定することができる。
測定されるフィルム状の測定対象物が1軸又は2軸の屈折率楕円体で表されるものである場合、以下の方法によりRthが算出される。
Rthは、面内の遅相軸(KOBRA 21ADH又はWRにより判断される)を傾斜軸(回転軸)として(遅相軸がない場合には、フィルム状の測定対象物の、面内の任意の方向を回転軸とする)、フィルム状の測定対象物の法線方向に対して、法線方向から−50°から+50°まで10度ステップで各々その傾斜した方向から波長550nmの光を入射させて、レターデーション値を11点測定し、そのレターデーション値と、平均屈折率の仮定値及び入力された膜厚値とを基にKOBRA 21ADH又はWRが算出する。
上記において、法線方向から面内の遅相軸を回転軸として、ある傾斜角度にレターデーションの値がゼロとなる方向をもつフィルムの場合には、その傾斜角度より大きい傾斜角度でのレターデーション値は、その符号を負に変更した後、KOBRA 21ADH又はWRが算出する。
なお、遅相軸を回転軸として(遅相軸がない場合には、フィルム状の測定対象物の、面内の任意の方向を回転軸とする)、任意の傾斜した2方向からレターデーション値を測定し、その値と平均屈折率の仮定値、及び入力された膜厚値を基に、以下の数式(A)及び式(B)よりRthを算出することもできる。
【数1】

なお、式中、Re[θ]は法線方向から角度θ傾斜した方向におけるレターデーション値を表す。
また、式(A)において、nxは、面内における遅相軸方向の屈折率を表し、nyは面内においてnxに直交する方向の屈折率を表し、nzはnx及びnyに直交する方向の屈折率を表し、dは膜厚を表す。
【0023】
測定されるフィルム状の測定対象物が1軸、又は2軸の屈折率楕円体で表現できないもの、いわゆる光学軸(optic axis)がない測定対象物の場合には、以下の方法により、Rthが算出される。
Rthは、前記Reを、面内の遅相軸(KOBRA 21ADH又はWRにより判断される)を傾斜軸(回転軸)としてフィルム法線方向に対して−50°から+50°まで10度ステップで各々その傾斜した方向から波長550nmの光を入射させて11点測定し、その測定されたレターデーション値と、平均屈折率の仮定値、及び入力された膜厚値を基にKOBRA 21ADH又はWRが算出する。
上記の測定において、平均屈折率の仮定値は、ポリマーハンドブック(JOHN WILEY&SONS、INC)、各種光学補償フィルムのカタログの値を使用することができる。平均屈折率の値が既知でないものについては、アッベ屈折計で測定できる。主な光学補償フィルムの平均屈折率の値を以下に例示すると、セルロースアシレート(1.48)、シクロオレフィンポリマー(1.52)、ポリカーボネート(1.59)、ポリメチルメタクリレート(1.49)、ポリスチレン(1.59)である。これら平均屈折率の仮定値と膜厚を入力することで、KOBRA 21ADH又はWRは、nx、ny、nzを算出する。この算出されたnx、ny、nzよりNz=(nx−nz)/(nx−ny)が更に算出される。
なお、Re[θ°]、Rth及び屈折率の測定波長は特別な記述がない限り、測定波長550nmでの値である。
【0024】
本明細書において、フィルムのRe[0°]、Re[+40°]およびRe[−40°]は、下記傾斜方位とフィルム法線を含む面内において、該法線方向から測定した(傾斜角度0°での)波長550nmにおけるレターデーション値、該法線に対して傾斜方位側へ40°傾いた方向から測定した(傾斜角度40度での)レターデーション値および該法線に対して傾斜方位とは反対側へ40°傾いた方向から測定した(傾斜角度−40度での)レターデーション値を表す。
ここで、傾斜方位は、以下の方法で決定した。
(1)フィルム面内の遅相軸方位を0°、フィルム面内の進相軸方位を90°とし、0°〜90°の間で0.1°刻みで仮傾斜方位を設定する。
(2)各仮傾斜方位とフィルム法線を含む面内においてRe[+40°]とRe[−40°]を測定し、|Re[+40°]−Re[−40°]|を求める。
(3)|Re[+40°]−Re[−40°]|が最大となる方位を傾斜方位と決定する。
本明細書において、フィルムのRthは傾斜方位において、KOBRA21ADH、又は、WRが算出したものである。
また、Re[0°]、Re[+40°]およびRe[−40°]のバラツキは、以下の方法により測定することができる。フィルム中央部の互いに2mm以上離れた任意の10点以上の位置でサンプリングを行い、上記方法でRe[0°]、Re[+40°]およびRe[−40°]を測定し、その最大値と最小値の差を、Re[0°]、Re[+40°]およびRe[−40°]のバラツキとする。また、本発明では上記10点の平均値をRe[0°]、Re[+40°]、Re[−40°]とする。
さらに、遅相軸および後述のRthのバラツキも同様に測定される。
【0025】
(消光位)
本発明のフィルムは熱可塑性樹脂から構成される傾斜方位を有する光学フィルムであって、傾斜方位と厚み方向を面内に含む前記フィルムの切片を直交ニコルに配置された2枚の偏光板の間に配置し、前記偏光板の面に対して垂直方向から光を照射しながら、直交ニコル配置された2枚の偏光板を0°〜90°の範囲で回転させた時に、フィルム切片の一端から他端まで厚み方向へ向けて順に観測した場合に、最初に観測される消光位と最後に観測される消光位が3°を越えて異なることが特徴である。
ここで、本明細書中、前記フィルム切片の一端からの厚み方向への距離とは、フィルム切片の一端から厚み方位への距離を表す。
また、消光位とは、前記フィルム切片を直交ニコル下で0°〜90°の範囲で回転させて輝度の変化を観測した際に、最も暗くなる状態の角度のことを言う。
【0026】
本発明のフィルムは、直交ニコル配置された2枚の偏光板を0°〜90°の範囲で回転させた時に、フィルム切片の一端から他端まで厚み方向へ向けて順に観測した場合に、最初に観測される消光位と最後に観測される消光位が5°を越えて異なることがより好ましく、10°を越えて異なることが特に好ましい。
また、本発明のフィルムは上記の条件で観測した場合に観測される消光位が、膜厚方向の距離に対して急激に変化することも好ましい。例えば、膜厚1μm当たりに、消光位が0.2°以上変化することも好ましく、より好ましくは膜厚1μm当たりに、消光位が1°以上変化することも好ましく、特に好ましくは膜厚1μm当たりに、消光位が5°以上変化することが好ましい。
【0027】
本発明のフィルムは、フィルム切片の複屈折が実質的に0でない部分で、前記消光位の変化が観測されるため、液晶ディスプレイに用いた時に優れた視野角補償能を有する。本明細書中、複屈折が実質的に0でないとは、フィルム切片を偏光顕微鏡によって観察し、干渉色図表と照らし合わせて複屈折の大きさを測定した際のフィルムの配向度が2×10-5以上であることを意味する。
また、本発明のフィルムは前記フィルム切片の一端からの厚み方向への距離によって、0°を超えて90°未満の範囲内の異なる角度、または0°から90°未満の範囲内の異なる角度に消光位が複数存在することが好ましい。さらに5°以上90°未満の範囲内の異なる角度に消光位が観測されることがより好ましく、5°以上85°未満の範囲内の異なる角度に消光位が観測されることが特に好ましい。
【0028】
本発明のフィルムの消光位は、具体的には、例えば以下の方法で測定することができる。
(1)フィルムを5mm(傾斜方位と平行)×10mm(傾斜方位と直交)にサンプリングする。
(2)上記サンプルフィルムについて、傾斜方位と平行な一方の端部の面をミクロトーム(ライカ社製RM2265)にて平滑化を行う。
(3)平滑化を行った面から傾斜方位と直交方向に500μm離れた面を、傾斜方位と平行にカミソリ(日新EM社製片刃トリミング用カミソリ)にて切り、フィルムの傾斜方位と厚み方向を面内に含むフィルム切片を作成する。
(4)該フィルム切片を用いて、フィルム厚み方向の消光の変化(直交ニコル下で最も暗くなる状態)を、2つの偏光板が直交ニコルに配置された偏光顕微鏡(NIKON社製エクリプスE600POL)にて観察する。具体的には、該フィルム切片を前記2枚の偏光板と平行になるように配置し、該2つの偏光板を直交ニコルに配置された状態に固定し、直交ニコル配置された2枚の偏光板を0°〜90°の範囲で5°ごとに回転させ、消光の変化を観察する。
なお、偏光顕微鏡による観察に用いる光源は特に制限はないが、白色光源を用いることが好ましい。また、消光位の観測は直交ニコルで行われる限り特に制限ないか、直交ニコルで偏光顕微鏡によって観測した画像を基に、消光位を決定することが好ましい。また、前記フィルム切片は、前記2枚の偏光板のそれぞれの吸収軸を含む面と、平行に配置される。
【0029】
図6は、(A)本発明のフィルム、(B)従来の一軸延伸フィルム、(C)従来の傾斜配向フィルムを観察した時に観測された偏光顕微鏡画像のイメージ図である。本発明のフィルムの特長を簡易的に説明するために4層に分割してイメージ図を作成してあるが、本発明のフィルムは4層に分かれている態様に限定されるものではなく、図4の本発明の観察画像から分かるように、本発明のフィルムは連続的な層を形成している。あくまでもイメージ図であることに注意されたい。また、従来の延伸フィルムとは、後述する本発明の製造方法においてタッチロール製膜を行わずに未延伸フィルムを製膜後、テンター延伸機を用いてTg+5℃で2.0倍延伸することで作成したものである。
図6中、黒で塗りつぶした部分は直交ニコル下で最も暗くなることを表し、点の密度が小さくなると輝度が大きくなること表す。中央(B)の図は従来の延伸フィルムの切片を観察したイメージ図であり、厚み方向で均一に消光が変化しており、且つ、0°と90°に消光位が存在する。また、右(C)は特開平6-222213号公報、特開2007-38646号公報の方法を基に作成した従来の傾斜配向フィルムの切片を観察したイメージ図であり、厚み方向で均一に消光が変化しており、約15°に消光位が存在している。これらに対し、左(A)は本発明のフィルムであり、驚くべきことに厚み方向で均一に消光が変化しておらず、0°〜90°の範囲において消光位が複数存在する。
【0030】
実際に観察される偏光顕微鏡画像は、図6のように明確な4層構成になっているわけではなく、連続的な層を形成している。顕微鏡の分解能を超えて層構成を測定することが出来ないため、本発明では厚み方向の消光の変化を下記(i)および(ii)のように決定してもよい。また、本発明のフィルムが下記条件(iii)を満たすことを判定することができる。
(i) 0°〜90°まで1°刻みに観察された偏光顕微鏡画像を厚み方向に20分割(例えば、100μmの膜厚であれば5μm)で分割を行い、片側の表面から順に層に分ける。
(ii) 0°〜90°の観察された画像を、前記各層ごとに輝度の変化を測定し、0°〜90°の範囲で、最も暗くなるときの角度、すなわち消光位を決定する。
(iii) 少なくとも2つの層の消光位が3°を越えて異なるか否かを判定する。
【0031】
さらに、本発明のフィルムは、複屈折の大きさが最大となる部分がフィルム内部に存在することを特徴とする。本発明において、フィルム内部とは、上記20分割した部分の3〜18分割の部分を指し、特に5〜15分割の部分に存在することを指す。
【0032】
(サーキュラーリターダンス)
本発明のフィルムは、熱可塑性樹脂から構成されるフィルムであって、フィルム傾斜方位と直交する方位とフィルム法線を含む面内において、該法線から40°傾いた方向から測定した波長550nmにおけるサーキュラーレターダンスが5nm以上であることを特徴とする。光学フィルムのサーキュラーレターダンスは、フィルムを特定の測定波長においてAXOMETRICS社(米国)のミュラーマトリクス・ポラリメーターを用いて傾斜方位と直交する方向(y軸)とフィルム法線(z軸)を含む面内で光学特性の傾斜角依存性を測定することにより算出される。
【0033】
一般的に、ECB、OCBおよびTNセルは、液晶分子のチルト角が変化するため、サーキュラーリターダンスを有する。そこで、液晶セルの視野角補償を行うには、このサーキュラーリターダンスも補償できることが好ましい。これに対し、本発明のフィルムは、前記特許文献1、2、3で作成された従来のフィルムと異なり、驚くべきことに上述したサーキュラーリターダンスが5nm以上であるため、効果的な視野角補償を行えることができる。好ましい、サーキュラーリターダンスの範囲は、液晶セルが有するサーキュラーリターダンスと同程度であることが好ましく、具体的には、5nm〜500nm、さらに好ましくは、10nm〜300nm、特に好ましくは、10nm〜100nmである。
【0034】
(消偏光度)
フィルムの消偏光度は、JOURNAL OF APPLIED PHYSICS, 98, 016106 (2005)の式(2)を用いて定義される。具体的には、偏光板の間に、フィルム面内の遅相軸が偏光板の吸収軸に平行になるようにフィルムを挿入し、前記偏光板の面に対して垂直方向から光を照射させ、偏光板を直交ニコル配置と平行ニコル配置にした時のそれぞれの配置下における輝度を測定し、得られた結果を以下の式に当てはめることで求められる。
消偏光度=2×(直交ニコル化での輝度)/(平行ニコル下での輝度) (式)
つまり、この消偏光度が大きいと、直交ニコルに配置された偏光板から光が漏れていることを意味し、液晶ディスプレイに用いた際にはコントラスト低下を引き起こす。後述する実施例に示すが、驚くべきことに、従来の液晶塗布型の視野角補償フィルムに比べて、本発明のフィルムは消偏光度が1〜2桁小さく、液晶ディスプレイに用いた際には、コントラストを50%以上上げられることが分かった。消偏光度は、実質的には、1.0×10-4〜1.0×10-6であることが好ましく、より好ましくは、1.0×10-4〜5.0×10-5であり、0であることが最も好ましい。
上述した傾斜構造およびサーキュラーリターダンスに加え、このように消偏光度が小さいことで液晶ディスプレイの視野角補償とコントラストの向上を両立して達成できることも、従来のフィルムと異なる本発明のフィルムの特徴の1つである。
【0035】
(残留溶媒量)
本発明のフィルムは、残留溶媒を実質的に含まないことが好ましく、フィルム重量に対する残留溶媒量が0.01質量%未満であることが、フィルムの消偏光度を低下させる観点からより好ましい。残留溶媒量は特に好ましくは0.008質量%未満であり、より特に好ましくは0.005質量%未満である。本明細書中、溶媒とは25℃において液体であり、かつ、分子量が20〜200の分子を指す。
残留溶媒量の測定について、特に制限はないが、例えばフィルムを測定用の溶媒に溶解させて、GCにより測定することができる。測定用のフィルムを溶解させる溶媒としては、前記熱可塑性樹脂を溶解するものであれば特に制限は無く、例えば、セルロースアシレート系フィルム、ポリカーボネート系フィルム、アクリル系フィルムであれば酢酸メチル、ジクロロメタン、アセトンなどが使用でき、シクロオレフィン(COC、COP)系フィルムであれば、n−ヘキサン、シクロヘキサン、トルエン、キシレン等が使用できる。
【0036】
(表面粗さ)
本発明のフィルムは、表面粗さRaが200nm以下であることが、偏光板との密着性、消偏光度の低減の観点から好ましい。表面粗さRaは100nm以下であることがより好ましく、30nm以下であることが特に好ましい。
【0037】
(熱可塑性樹脂)
本発明で用いられる熱可塑性樹脂は、上記光学特性を有する限り特に限定されないが、前記熱可塑性樹脂のガラス転移温度(以下、Tgとも言う)が、−30〜230℃であることが好ましく、50〜200℃であることがより好ましく、60〜170℃であることが特に好ましい。
なお、熱可塑性樹脂のガラス転移温度は、走査型示差熱量計(DSC)を用いて、測定パンに樹脂をいれ、これを窒素気流中で、10℃/分で30℃から300℃まで昇温した後(1st-run)、30℃まで−10℃/分で冷却し、再度10℃/分で30℃から300℃まで昇温した(2nd-run)。2nd-runでベースラインが低温側から偏奇し始める温度をガラス転移温度(Tg)として、求めることができる。
前記熱可塑性樹脂の熱分解温度(Td)は300℃以上であることが好ましく、260℃以上であることがより好ましく、220℃以上であることが特に好ましい。
後述する押出温度における前記熱可塑性樹脂の溶融粘度は、10〜10000Pa・sであることが好ましく、100〜5000Pa・sであることがより好ましく、100〜3000Pa・sであることが特に好ましい。
前記熱可塑性樹脂のTg+100℃におけるHCrとの剥離荷重は120N以下であることが好ましく、100N以下であることがより好ましく、80N以下であることが特に好ましい。
前記熱可塑性樹脂のTg〜(Tg+100)℃における複屈折の発現時間は、2秒以下であることが好ましく、1秒以下であることがより好ましく、0.5秒以下であることが特に好ましい。
前記熱可塑性樹脂のTg〜(Tg+100)℃における複屈折の緩和時間は、0.5秒以上であることが好ましく、1秒以上であることがより好ましく、2秒以上であることが特に好ましい。
前記熱可塑性樹脂の25℃における熱伝導率は、0.01〜10W/m・kであることが好ましく、0.1〜10W/m・kであることがより好ましく、0.1〜1W/m・kであることが特に好ましい。
前記熱可塑性樹脂の25℃における表面張力は、10〜60mN/mであることが好ましく、20〜50mN/mであることがより好ましく、25〜50mN/mであることが特に好ましい。
前記熱可塑性樹脂の固有複屈折の絶対値は、0.001〜0.2であることが好ましく、0.001〜0.11であることがより好ましく、0.002〜0.05であることが特に好ましい。
前記熱可塑性樹脂の屈折率は、1.35〜1.77であることが好ましく、1.40〜1.65であることがより好ましく、1.45〜1.60であることが特に好ましい。
前記熱可塑性樹脂の全光線透過率(試験法:ISO 13468−2)は、70〜95%であることが好ましく、80〜95%であることがより好ましく、90〜95%であることが特に好ましい。
前記熱可塑性樹脂のフィルムヘイズは、3.0%以下であることが好ましく、2.0%以下であることがより好ましく、1.0%以下であることが特に好ましい。
前記熱可塑性樹脂に含まれる直径50μm以上の異物は200個/cm2以下であることが好ましく、100個/cm2以下であることがより好ましく、50個/cm2以下であることが特に好ましい。
前記熱可塑性樹脂の弾性率は、500〜10000MPaであることが好ましく、1000〜80000MPaであることがより好ましく、1500〜7000MPaであることが特に好ましい。
前記熱可塑性樹脂の破断伸度は、1%以上であることが好ましく、3%以上であることがより好ましく、4%以上であることが特に好ましい。
溶融押出し法を利用して作製する場合は、該樹脂の融点Tmと熱分解温度Tdが、Tm<Tdを満たす熱可塑性樹脂を用いることが好ましく、溶融押出し成形性が良好な材料を利用するのがより好ましく、その観点では、環状オレフィン系樹脂、セルロースアシレート系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエステル類、透明ポリエチレン、透明ポリプロピレン等のポリオレフィン類、ポリアリレート類、ポリスルホン類、ポリエーテルスルホン類、マレイミド系共重合体類、透明ナイロン類、透明フッ素樹脂類、透明フェノキシ類、ポリエーテルイミド類、ポリスチレン類、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂を選択するのが好ましい。1種の当該樹脂を含有していてもよいし、互いに異なる2種以上の当該樹脂を含有していてもよい。本発明のフィルムでは、環状オレフィン系樹脂、セルロースアシレート系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、スチレン系樹脂およびアクリル系樹脂の少なくとも1種を含むことが好ましい。また、前記環状オレフィン類は、付加重合によって得られた環状オレフィン類であることが好ましい。
本発明のフィルム中、前記熱可塑性樹脂の濃度は、フィルム厚み方向において均一であることが好ましい。また、後述する添加剤を本発明のフィルムが含む場合、該添加剤の濃度はフィルム厚み方向において均一であることが好ましい。このように本発明のフィルムの組成が全体として均一であることが、フィルムの消偏光度が低下し、液晶ディスプレイに用いた場合、正面CRが向上するため好ましい。
【0038】
特に、正の固有複屈折性を示す、セルロースアシレート系樹脂、環状オレフィン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂は、2つのロールでせん断変形を付加した場合、遅相軸が傾斜方位を向き、|Re[+40°]−Re[−40°]|>0のフィルムを作成することができ、例えば、2つのロールをダイ出口と平行に配置した場合、傾斜方位はフィルム長手方向と同じである。
また、負の固有複屈折性を示す、アクリル系樹脂およびスチレン系樹脂は、上記加工を行った場合、進相軸が傾斜方位を向き、|Re[+40°]−Re[−40°]|>0のフィルムを作成することができる。
【0039】
本発明のフィルムを、視野角補償フィルムとして液晶表示装置に応用する場合には、液晶表示装置の特性や偏光板加工の利便性を考慮にいれて、上記正または負の固有複屈折樹脂を適宜選択して用いることが出来る。
【0040】
本発明に使用可能な環状オレフィン系樹脂の例には、ノルボルネン系化合物の重合により得られたノルボルネン系樹脂が含まれる。また、開環重合および付加重合のいずれの重合方法によって得られる樹脂であってもよい。
付加重合およびそれにより得られる環状オレフィン系樹脂としては、例えば、特許3517471号公報、特許3559360号公報、特許3867178号公報、特許3871721号公報、特許3907908号公報、特許3945598号公報、特表2005−527696号公報、特開2006−28993号公報、特開2006−11361公報、国際公開WO第2006−/004376号公報、国際公開WO第2006−/030797号公報パンフレットに記載されているものが挙げられる。中でも、特許3517471号公報に記載のものが特に好ましい。
開環重合およびそれにより得られる環状オレフィン系樹脂としては、国際公開WO98第98/14499号公報パンフレット、特許3060532号公報、特許3220478号公報、特許3273046号公報、特許3404027号公報、特許3428176号公報、特許3687231号公報、特許3873934号公報、特許3912159号公報に記載のものが挙げられる。中でも、国際公開WO第98/14499号公報パンフレット、特許3060532号公報に記載のものが特に好ましい。
これらの環状オレフィン系樹脂の中でも付加重合によって得られるものが、複屈折の発現性、溶融粘度の観点から好ましく、例えば、「TOPAS #6013」(Polyplastics社製)を用いることができる。
【0041】
本発明に使用可能なセルロースアシレート系樹脂の例には、セルロース単位中の3個の水酸基が、少なくとも一部がアシル基で置換されたいずれのセルロースアシレートも含まれる。当該アシル基(好ましくは炭素数3〜22のアシル基)は、脂肪族アシル基および芳香族アシル基のいずれであってもよい。中でも、脂肪族アシル基を有するセルロースアシレートが好ましく、炭素数3〜7の脂肪族アシル基を有するものがより好ましく、炭素数3〜6の脂肪族アシル基を有するものがさらに好ましく、炭素数は3〜5の脂肪族アシル基を有するものがよりさらに好ましい。これらのアシル基は複数種が1分子中に存在していてもよい。好ましいアシル基の例には、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基などが含まれる。これらの中でも、さらに好ましいものは、アセチル基、プロピオニル基およびブチリル基から選択される1種または2種以上を有するセルロースアシレートであり、よりさらに好ましいものは、アセチル基およびプロピオニル基の双方を有するセルロースアシレート(CAP)である。前記CAPは、樹脂の合成が容易であること、押し出し成形の安定性が高いこと、の点で好ましい。
【0042】
本発明の製造方法を含む溶融押出し法によりフィルムを作製する場合は、用いるセルロースアシレートは、以下の式(S−1)および(S−2)を満足することが好ましい。以下の式を満足するセルロースアシレートは、融解温度が低く、融解性が改善されているので、溶融押出し製膜性に優れる。
式(S−1) 2.0≦X+Y≦3.0
式(S−2) 0.25≦Y≦3.0
前記式(S−1)および(S−2)中、Xはセルロースの水酸基に対するアセチル基の置換度を表し、Yはセルロースの水酸基に対するアシル基の置換度の総和を表す。本明細書でいう「置換度」とは、セルロースの2位、3位および6位のぞれぞれの水酸基の水素原子が置換されている割合の合計を意味する。2位、3位および6位全ての水酸基の水素がアシル基で置換された場合は置換度が3となる。
さらに、下記式(S−3)および(S−4)を満足するセルロースアシレートを用いるのがより好ましい。
式(S−3)2.3≦X+Y≦2.95
式(S−4)1.0≦Y≦2.95
下記式(S−5)および(S−6)を満足するセルロースアシレートを用いるのがさらに好ましい。
式(S−5)2.7≦X+Y≦2.95
式(S−6)2.0≦Y≦2.9
【0043】
セルロースアシレート系樹脂の質量平均重合度および数平均分子量については特に制限はない。一般的には、質量平均重合度が350〜800程度、および数平均分子量が70000〜230000程度である。前記セルロースアシレート系樹脂は、アシル化剤として酸無水物や酸塩化物を用いて合成できる。工業的に最も一般的な合成方法では、綿花リンタや木材パルプなどから得たセルロースをアセチル基および他のアシル基に対応する有機酸(酢酸、プロピオン酸、酪酸)またはそれらの酸無水物(無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸)を含む混合有機酸成分でエステル化してセルロースエステルを合成する。前記式(S−1)および(S−2)を満足するセルロースアシレートの合成方法としては、発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)7〜12頁の記載や、特開2006−45500号公報、特開2006−241433号公報、特開2007−138141号公報、特開2001−188128号公報、特開2006−142800号公報、特開2007−98917号公報記載の方法を参照することができる。
【0044】
本発明に使用可能なポリカーボネート系樹脂として、ビスフェノールA骨格を有するポリカーボネート樹脂が挙げられ、ジヒドロキシ成分とカーボネート前駆体とを界面重合法または溶融重合法で反応させて得られるものであり、例えば、特開2006−277914号公報、特開2006−106386号公報、特開2006−284703号公報記載のものが好ましく用いることができる。例えば、市販品として、「タフロンMD1500」(出光興産社製)を用いることができる。
【0045】
本発明に使用可能なスチレン系樹脂とは、主成分としてスチレン及びそれらの誘導体を重合して得られる樹脂及び、その他の樹脂の共重合体を指し、本発明の効果を損なわない限り特に限定されず、公知のスチレン系熱可塑性樹脂等を用いることができ、特に複屈折、フィルム強度、耐熱性を改良できる、共重合体樹脂が好ましい。
共重合体樹脂としては、例えば、スチレン-アクリロニトリル系樹脂、スチレン-アクリル系樹脂、スチレン−無水マレイン酸系樹脂、あるいはこれらの多元(二元、三元等)共重合ポリマーなどが挙げられる。これらの中でも、スチレン-アクリル系樹脂やスチレン−無水マレイン酸系樹脂が耐熱性・フィルム強度の観点から好ましい。
前記スチレン−無水マレイン酸系樹脂は、スチレンと無水マレイン酸との質量組成比が、スチレン:無水マレイン酸=95:5〜50:50であることが好ましく、スチレン:無水マレイン酸=90:10〜70:30であることがより好ましい。また、固有複屈折を調整するため、スチレン系樹脂の水素添加を行うことも好ましく利用できる。
前記スチレン−無水マレイン酸系樹脂としては、例えば、ノバケミカル社製の「 Daylark D332」などが挙げられる。
また、スチレン-アクリル系樹脂としては、後述する、旭化成ケミカル社製の「デルペット980N」などを用いることができる。
【0046】
本発明に使用可能なアクリル系樹脂とは、主成分として、アクリル酸、メタクリル酸およびそれらの誘導体を重合して得られる樹脂、およびさらにその誘導体のことをいい、本発明の効果を損なわない限り特に限定されず、公知のメタクリル酸系熱可塑性樹脂等を用いることできる。
アクリル酸、メタクリル酸およびそれらの誘導体を重合して得られる樹脂としては、例えば、下記一般式(1)で表される構造のものを挙げることができる。
【0047】
【化1】

前記一般式(1)中、R1およびR2は、それぞれ独立に、水素原子または炭素数1〜20の有機残基を示す。有機残基とは、具体的には、炭素数1〜20の直鎖状、分枝鎖状、もしくは環状のアルキル基を示す。
【0048】
前記アクリル酸、メタクリル酸およびそれらの誘導体を重合して得られる樹脂の具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸tert-ブチル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸2−クロロエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2、3、4、5、6−ペンタヒドロキシエキシルおよび(メタ)アクリル酸2、3、4、5−テトラヒドロキシペンチルが好ましく、熱安定性に優れる点で(メタ)アクリル酸メチル(以下MMAともいう)がより好ましい。これらのうち一種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、これらのうち一種の単重合体であっても、2種以上の共重合体であっても、その他の樹脂の共重合体であってもよいが、ガラス転移温度を高める観点からその他の樹脂との共重合体であることが特に好ましい。
前記アクリル系共重合体樹脂の中でも、樹脂を構成する全モノマー中、MMA単位(モノマー)を30モル%以上含むものが好ましく、MMA以外に、ラクトン環単位、無水マレイン酸単位、グルタル酸無水物単位の少なくとも1種の単位を含むことがより好ましく、例えば下記のものを使用できる。
【0049】
(1)ラクトン環単位を含むアクリル樹脂
特開2007−297615号、特開2007−63541号、特開2007−70607号、特開2007−100044号、特開2007−254726号、特開2007−254727号、特開2007−261265号、特開2007−293272号、特開2007−297619号、特開2007−316366号、特開2008−9378号、特開2008−76764号の各公報に記載のものを使用できる。この中でより好ましいのが特開2008−9378号公報に記載の樹脂である。
(2)無水マレイン酸単位を含むアクリル樹脂
特開2007−113109号、特開2003−292714号、特開平6−279546号、特開2007−51233号(ここに記載の酸変性ビニル)、特開2001−270905号、特開2002−167694号、特開2000−302988号、特開2007−113110号、特開2007−11565号各公報に記載のものを使用できる。この中でより好ましいのが、特開2007−113109号公報に記載のものである。また市販のマレイン酸変性MAS樹脂(例えば旭化成ケミカルズ(株)製デルペット980N)も好ましく使用できる。
(3)グルタル酸無水物単位を含むアクリル樹脂
特開2006−241263号、特開2004−70290号、特開2004−70296号、特開2004−126546号、特開2004−163924号、特開2004−291302号、特開2004−292812号、特開2005−314534号、特開2005−326613号、特開2005−331728号、特開2006−131898号、特開2006−134872号、特開2006−206881号、特開2006−241197号、特開2006−283013号、特開2007−118266号、特開2007−176982号、特開2007−178504号、特開2007−197703号、特開2008−74918号、国際公開WO2005/105918等各公報に記載のものを使用できる。この中でより好ましいのが特開2008−74918号公報に記載のものである。
これらの樹脂のガラス転移温度(Tg)は106℃〜170℃が好ましく、より好ましくは110℃〜160℃、さらに好ましくは115℃〜150℃である。
【0050】
これらの中でも、前記熱可塑性樹脂としては、環状オレフィン系樹脂であることが好ましく、高透明性、複屈折発現性および耐熱性の観点からノルボルネン系樹脂であることがより好ましく、付加重合系のノルボルネン系樹脂であることが特に好ましい。
また、前記熱可塑性樹脂が共重合体である場合は、ランダム共重合体であっても、ブロック共重合体であってもかまわない。
【0051】
(添加剤)
本発明のフィルムは、上記熱可塑性樹脂以外の材料を含有していてもよいが、上記熱可塑性樹脂の1種または2種以上を主成分(組成物中の全材料中、最も含有割合の高い材料を意味し、当該樹脂を2種以上含有する態様では、それらの合計の含有割合が、他の材料それぞれの含有割合より高いことを意味する)として含有しているのが好ましい。上記熱可塑性樹脂以外の材料としては、種々の添加剤が挙げられ、その例には、安定化剤、紫外線吸収剤、光安定化剤、可塑剤、微粒子、および光学調整剤が含まれる。
【0052】
安定化剤:
本発明のフィルムは、安定化剤の少なくとも一種を含有していてもよい。安定化剤は、前記熱可塑性樹脂を加熱溶融する前にまたは加熱溶融時に添加することが好ましい。安定化剤は、フィルム構成材料の酸化防止、分解して発生した酸の捕捉、光または熱によるラジカル種基因の分解反応を抑制または禁止する等の作用がある。安定化剤は、解明されていない分解反応などを含む種々の分解反応によって、着色や分子量低下等の変質および揮発成分の生成等が引き起こされるのを抑制するのに有用である。樹脂を製膜するための溶融温度においても安定化剤自身が分解せずに機能することが求められる。安定化剤の代表的な例には、フェノール系安定化剤、亜リン酸系安定化剤(フォスファイト系)、チオエーテル系安定化剤、アミン系安定化剤、エポキシ系安定化剤、ラクトン系安定化剤、アミン系安定化剤、金属不活性化剤(スズ系安定化剤)などが含まれる。これらは、特開平3−199201号公報、特開平5−1907073号公報、特開平5−194789号公報、特開平5−271471号公報、特開平6−107854号公報などに記載があり、本発明ではフェノール系や亜リン酸系安定化剤の少なくとも一方以上を用いることが好ましい。フェノール系安定化剤の中でも、特に分子量500以上のフェノール系安定化剤を添加することが好ましい。好ましいフェノール系安定化剤としては、ヒンダードフェノール系安定化剤が挙げられる。
【0053】
これらの素材は、市販品として容易に入手可能であり、下記のメーカーから販売されている。チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社から、Irganox 1076、Irganox 1010、Irganox 3113、Irganox 245、Irganox 1135、Irganox 1330、Irganox 259、Irganox 565、Irganox 1035、Irganox 1098、Irganox 1425WL、として入手することができる。また、旭電化工業株式会社から、アデカスタブ AO−50、アデカスタブ AO−60、アデカスタブ AO−20、アデカスタブ AO−70、アデカスタブ AO−80として入手できる。さらに、住友化学株式会社から、スミライザーBP−76、スミライザーBP−101、スミライザーGA−80、として入手できる。また、シプロ化成株式会社からシーノックス326M、シーノックス336B、としても入手することが可能である。
【0054】
また、上記の亜リン酸系安定化剤としては、特開2004−182979号公報の[0023]〜[0039]に記載の化合物をより好ましく用いることができる。亜リン酸エステル系安定化剤の具体例としては、特開昭51−70316号公報、特開平10−306175号公報、特開昭57−78431号公報、特開昭54−157159号公報、特開昭55−13765号公報に記載の化合物を挙げることができる。さらに、その他の安定化剤としては、発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)17頁〜22頁に詳細に記載されている素材を好ましく用いることができる。
【0055】
上記亜リン酸エステル系安定化剤は、高温での安定性を保つために高分子量であることが有用であり、分子量500以上であり、より好ましくは分子量550以上であり、特には分子量600以上が好ましい。さらに、少なくとも一置換基は芳香族性エステル基であることが好ましい。また、亜リン酸エステル系安定化剤は、トリエステルであることが好ましく、リン酸、モノエステルやジエステルの不純物の混入がないことが望ましい。これらの不純物が存在する場合は、その含有量が5質量%以下であることが好ましく、より好ましくは3質量%以下であり、特には2質量%以下である。これらは、特開2004−182979号公報の[0023]〜[0039]に記載の化合物などを挙げることが、さらに特開昭51−70316号公報、特開平10−306175号公報、特開昭57−78431号公報、特開昭54−157159号公報、特開昭55−13765号公報に記載の化合物も挙げることができる。亜リン酸エステル系安定化剤の好ましい具体例として下記の化合物を挙げることができるが、本発明で用いることができる亜リン酸エステル系安定化剤はこれらに限定されるものではない。
【0056】
これらは、旭電化工業株式会社からアデカスタブ1178、同2112、同PEP−8、同PEP−24G、PEP−36G、同HP−10として、またクラリアント社からSandostab P−EPQとして市販されており、入手可能である。さらに、フェノールと亜リン酸エステルを同一分子内に有する安定化剤も好ましく用いられる。これらの化合物については、さらに特開平10−273494号公報に詳細に記載されており、その化合物例は、前記安定化剤の例に含まれるが、これらに限定されるものではない。代表的な市販品として、住友化学株式会社から、スミライザーGPがある。これらは、住友化学株式会社から、スミライザーTPL、同TPM、同TPS、同TDPとして市販されている。旭電化工業株式会社から、アデカスタブAO-412Sとしても入手可能である。
【0057】
前記安定化剤は、それぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができ、その配合量は本発明の目的を損なわない範囲で適宜選択される。好ましくは、熱可塑性樹脂の質量に対して、安定化剤の添加量は0.001〜5質量%が好ましく、より好ましくは0.005〜3質量%であり、さらに好ましくは0.01〜0.8質量%である。
【0058】
紫外線吸収剤:
本発明のフィルムは、1種または2種以上の紫外線吸収剤を含有していてもよい。紫外線吸収剤は、劣化防止の観点から、波長380nm以下の紫外線の吸収能に優れ、かつ、透明性の観点から、波長400nm以上の可視光の吸収が少ないものが好ましい。例えば、オキシベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、サリチル酸エステル系化合物、ベンゾフェノン系化合物、シアノアクリレート系化合物、ニッケル錯塩系化合物などが挙げられる。特に好ましい紫外線吸収剤は、ベンゾトリアゾール系化合物やベンゾフェノン系化合物である。中でも、ベンゾトリアゾール系化合物は、セルロース混合エステルに対する不要な着色が少ないことから好ましい。これらは、特開昭60−235852号、特開平3−199201号、同5−1907073号、同5−194789号、同5−271471号、同6−107854号、同6−118233号、同6−148430号、同7−11056号、同7−11055号、同7−11056号、同8−29619号、同8−239509号、特開2000−204173号の各公報に記載がある。
紫外線吸収剤の添加量は、熱可塑性樹脂の0.01〜2質量%であることが好ましく、0.01〜1.5質量%であることがさらに好ましい。
【0059】
光安定化剤:
本発明のフィルムは、1種または2種以上の光安定化剤を含有していてもよい。光安定化剤としては、ヒンダードアミン光安定化剤(HALS)化合物が挙げられ、より具体的には、米国特許第4、619、956号明細書の第5〜11欄および米国特許第4、839、405号明細書の第3〜5欄に記載されているように、2、2、6、6−テトラアルキルピペリジン化合物、またはそれらの酸付加塩もしくはそれらと金属化合物との錯体が含まれる。これらは、旭電化からアデカスタブLA−57、同LA−52、同LA−67、同LA−62、同LA−77として、またチバ・スペシャリティーケミカルズ社からTINUVIN 765、同144として市販されている。
【0060】
これらのヒンダードアミン系光安定化剤は、それぞれ単独で、或いは2種以上を組み合わせて用いることができる。また、これらヒンダードアミン系光安定化剤は、勿論、可塑剤、安定化剤、紫外線吸収剤等の添加剤と併用してもよいし、これら添加剤の分子構造の一部に導入されていてもよい。その配合量は、本発明の効果を損なわない範囲で決定され、一般的には、熱可塑性樹脂100質量部に対して、0.01〜20質量部程度であり、好ましくは0.02〜15質量部程度、特に好ましくは0.05〜10質量部程度である。光安定化剤は、熱可塑性樹脂組成物の溶融物を調製するいずれの段階で添加してもよく、例えば、溶融物調製工程の最後に添加してもよい。
【0061】
可塑剤:
本発明のフィルムは、可塑剤を含有していてもよい。可塑剤の添加は、機械的性質向上、柔軟性を付与、耐吸水性付与、水分透過率低減等のフィルム改質の観点において好ましい。また、本発明のフィルムを溶融製膜法で製造する場合は、用いる熱可塑性樹脂のガラス転移温度よりも、可塑剤の添加によりフィルム構成材料の溶融温度を低下させることを目的として、または無添加の熱可塑性樹脂よりも同じ加熱温度において粘度を低下させることを目的として、添加されるであろう。本発明のフィルムには、例えばリン酸エステル誘導体、カルボン酸エステル誘導体から選択される可塑剤が好ましく用いられる。また、特開2003−12859号公報に記載の重量平均分子量が500〜10000であるエチレン性不飽和モノマーを重合して得られるポリマー、アクリル系ポリマー、芳香環を側鎖に有するアクリル系ポリマーまたはシクロヘキシル基を側鎖に有するアクリル系ポリマーなども好ましく用いられる。
【0062】
微粒子:
本発明のフィルムは、微粒子を含有していてもよい。微粒子としては、無機化合物の微粒子や有機化合物の微粒子が挙げられ、いずれでもよい。本発明における熱可塑性樹脂に含まれる微粒子の平均一次粒子サイズは、ヘイズを低く抑えるという観点から5nm〜3μmであることが好ましく、5nm〜2.5μmであることがより好ましく、10nm〜2.0μmであることがさらに好ましい。ここで、微粒子の平均一次粒子サイズは、熱可塑性樹脂を透過型電子顕微鏡(倍率50万〜100万倍)で観察し、粒子100個の一次粒子サイズの平均値を求めることにより決定する。微粒子の添加量は、熱可塑性樹脂に対して0.005〜1.0質量%であることが好ましく、より好ましくは0.01〜0.8質量%であり、さらに好ましくは0.02〜0.4質量%である。
【0063】
光学調整剤:
本発明のフィルムは、光学調整剤を含有していてもよい。光学調整剤としてはレターデーション調整剤を挙げることができ、例えば、特開2001−166144号、特開2003−344655号、特開2003−248117号、特開2003−66230号各公報記載のものを使用することができる。光学調整剤を添加することによって、面内のレターデーション(Re)、厚み方向のレターデーション(Rth)を制御することができる。好ましい添加量は0〜10質量%であり、より好ましくは0〜8質量%、さらに好ましくは0〜6質量%である。
【0064】
一方、本発明のフィルムは、熱可塑性樹脂から構成され、かつ、単層で光学補償能を発現するため、塗布型フィルムに用いられる重合性液晶化合物を実質的に含まないことが好ましい。本発明において、重合性液晶化合物とは、特開2001−328973号公報、特開2006−227630号公報、特開2006−323069号公報、特開2007−248780号公報に記載されているような、支持体に塗布し、配向させたのち、重合させることにより、配向状態を固化することができる液晶化合物を指す。このような重合性液晶化合物は、10質量%未満であることが好ましく、より特に好ましくは5質量%未満である。
このような重合性液晶化合物としては、例えば、特開2001−328973号公報の[0008]〜[0034]、特開2006−227630号公報の[0017]、特開2007−248780号公報の[0014]〜[0097]に記載のものを挙げることができる。
【0065】
[フィルムの製造方法]
本発明のフィルムの製造方法は、挟圧装置を構成する第一挟圧面と第二挟圧面の間に熱可塑性樹脂を含有する組成物の溶融物を通過させて連続的に挟圧してフィルム状に成形する工程を含むフィルムの製造方法であって、前記挟圧装置によって該溶融物にかかる圧力が20〜500MPaであり、かつ、前記第一挟圧面の移動速度を前記第二挟圧面の移動速度よりも速くすることを特徴とする。このような大きな圧力をかけることが、従来の方法と異なる本発明の特徴である。このような条件で製膜することにより、下記式(II)および(III)を満たすことを特徴の1つとする本発明のフィルムを得ることができる。
20nm≦Re[0°]≦300nm (II)
5nm≦|Re[+40°]−Re[−40°]|≦300nm (III)
前記第一挟圧面と第二挟圧面とで速度の異なる挟圧装置としては、例えば互いに周速度が異なる2つのロールの組合せや、特開2000−219752号公報に記載の互いに速度の異なるロールとタッチベルトの組合せ(片面ベルト方式)や、ベルトとベルトの組合せ(両面ベルト方式)等が挙げられる。この中でも、20〜500MPaの高圧を均一にかけられることから、互いに周速度が異なる2つのロールであることが好ましい。ロール圧力は、圧力測定フィルム(富士フィルム社製 中圧用プレスケール等)を2つのロールに通すことで測定することが出来る。
以下、本発明のフィルムの製造方法(以下、本発明の製造方法ともいう)について詳細に説明する。
【0066】
<熱可塑性樹脂組成物の溶融物の供給>
本発明の製造方法では、まず、熱可塑性樹脂を含有する組成物(「熱可塑性樹脂組成物」という場合がある)を溶融押出しする。挟圧装置を構成する第一挟圧面と第二挟圧面の間を通過させて連続的に挟圧してフィルム状に成形する工程(以下、挟圧工程とも言う)を含むが、前記挟圧工程において、熱可塑性樹脂を含有する組成物の溶融物(以下、メルトとも言う)を供給する手段に特に制限はない。例えば、メルトの具体的な供給手段として、熱可塑性樹脂組成物を溶融してフィルム状に押出す押出機を用いる態様でもよく、押出機およびダイを用いる態様でもよく、熱可塑性樹脂を一度固化してフィルム状とした後に加熱手段により溶融してメルトを形成し、製膜工程に供給する態様でもよい。
本発明のフィルムの製造方法は、前記熱可塑性樹脂を含有する組成物(以下、熱可塑性樹脂組成物とも言う)をダイから溶融押出しする工程と、溶融押出しされた溶融物を前記第一挟圧面と前記第二挟圧面の間を通過させる工程と、を含むことが、より得られるフィルムの光学特性のムラを抑える観点から好ましい。
前記熱可塑性樹脂組成物を溶融押出しする場合、溶融押出しをする前に、熱可塑性樹脂組成物をペレット化するのが好ましい。市販品の熱可塑性樹脂(例えば、TOPAS#6013、タフロンMD1500、デルペット980N、DayLark D332等)は、ペレット化されている場合もあるが、ペレット化されていない場合は以下の方法を用いることができる。前記熱可塑性樹脂としては本発明のフィルムに含まれる熱可塑性樹脂として説明したものを用いることができ、好ましい範囲も同様である。
前記熱可塑性樹脂組成物を乾燥した後、2軸混練押出機を用い150℃〜300℃で溶融後、ヌードル状に押出したものを空気中あるいは水中で固化し裁断することにより作製できる。また、押出機による溶融後、水中に口金より直接押出しながらカットするアンダーウオーターカット法等によりペレット化することもできる。ペレット化に利用される押出機としては、単軸スクリュー押出機、非かみ合い型異方向回転二軸スクリュー押出機、かみ合い型異方向回転二軸スクリュー押出機、かみ合い型同方向回転二軸スクリュー押出機などを用いることができる。押出機の回転数は10rpm〜1000rpmが好ましく、より好ましくは20rpm〜700rpmである。押出滞留時間は10秒〜10分、より好ましくは20秒〜5分である。
ペレットの大きさについては特に制限はないが、一般的には10mm3〜1000mm3程度であり、より好ましくは30mm3〜500mm3程度である。
【0067】
熱可塑性樹脂組成物の溶融物の供給前に、ペレット中の水分を減少させることが好ましい。好ましい乾燥温度は40〜200℃、さらに好ましくは60〜150℃である。これにより含水率を1.0質量%以下にすることが好ましく、0.1質量%以下にすることがさらに好ましい。さらに、ペレット中の溶剤量を減少させることが好ましい。好ましい乾燥温度は、水分の好ましい乾燥温度と同様である。これにより、本発明のフィルム中の残留溶媒量を好ましい範囲に制御することができる。乾燥は空気中で行ってもよく、窒素中で行ってもよく、真空中で行ってもよい。
【0068】
押出機を用いて溶融押出しを行う場合、次に、乾燥したペレットを、押出機の供給口を介してシリンダー内に供給し、混練および溶融させる。シリンダー内は、例えば、供給口側から順に、供給部、圧縮部、計量部とで構成されることが好ましい。押出機のスクリュー圧縮比は1.5〜4.5が好ましく、シリンダー内径に対するシリンダー長さの比(L/D)は20〜70が好ましく、シリンダー内径は30mm〜150mmが好ましい。前記熱可塑性樹脂組成物を供給する供給手段(例えばダイ)の押出し温度(以下、吐出温度とも言う)は、熱可塑性樹脂の溶融温度に応じて決定されるが、一般的には、190〜300℃程度が好ましい。さらに残存酸素による溶融樹脂の酸化を防止するため、押出機内を不活性(窒素等)気流中、あるいはベント付き押出機を用い真空排気しながら実施するのも好ましい。
【0069】
熱可塑性樹脂組成物中の異物濾過のためブレーカープレート式の濾過やリーフ型ディスクフィルターを組み込んだ濾過装置を設けることが好ましい。濾過は1段で行ってもよく、多段濾過で行ってもよい。濾過精度は15μm〜3μmが好ましく、さらに好ましくは10μm〜3μmである。濾材としてはステンレス鋼を用いることが望ましい。濾材の構成は、線材を編んだもの、金属繊維もしくは金属粉末を焼結したもの(焼結濾材)が使用でき、中でも焼結濾材が好ましい。
【0070】
吐出量の変動を減少させ厚み精度を向上させるために、押出機と前記熱可塑性樹脂組成物を供給する供給手段(例えばダイ)の間にギアポンプを設けることが好ましい。これにより前記熱可塑性樹脂組成物を供給する供給手段(例えばダイ)内の樹脂圧力変動巾を±1%以内にすることができる。ギアポンプによる定量供給性能を向上させるために、スクリューの回転数を変化させて、ギアポンプ前の圧力を一定に制御する方法も用いることができる。
【0071】
前記の如く構成された押出機によって溶融され、必要に応じ濾過機、ギアポンプを経由して溶融樹脂が前記熱可塑性樹脂組成物を供給する供給手段(例えばダイ)に連続的に送られる。前記ダイはTダイ、フィッシュテールダイ、ハンガーコートダイの何れのタイプでも構わない。また前記熱可塑性樹脂組成物を供給する供給手段(例えばダイ)の直前に樹脂温度の均一性アップのためスタティックミキサーを入れることも好ましい。
【0072】
前記供給手段がダイである場合、ダイ出口部分のクリアランス(以下、リップギャップとも言う)は一般的にフィルム厚みの1.0〜30倍がよく、好ましくは5.0〜20倍である。具体的には、0.04〜3mmであることが好ましく、0.2〜2mmであることがより好ましく、0.4〜1.5mmであることが特に好ましい。
本発明の製造方法において、ダイリップの先端の曲率半径は特に制限はなく、公知のダイを用いることができる。
【0073】
前記ダイは5〜50mm間隔で厚み調整可能であることが好ましい。また下流のフィルム厚み、厚み偏差を計算し、その結果をダイの厚み調整にフィードバックさせる自動厚み調整ダイも有効である。
単層製膜装置以外にも、多層製膜装置を用いて製造も可能である。
このようにして、樹脂が供給口から押出機に入ってから前記熱可塑性樹脂組成物を供給する供給手段(例えばダイ)から出るまでの滞留時間は3分〜40分が好ましく、さらに好ましくは4分〜30分である。
【0074】
<挟圧工程>
次に、挟圧装置を構成する第一挟圧面と第二挟圧面の間に、供給された熱可塑性樹脂組成物の溶融物を通過させて連続的に挟圧してフィルム状に成形し、冷却固化して、フィルムを得る。この際、第一挟圧面と第二挟圧面のうち、いずれか一方の面と溶融物が先に剥離し、その後もう一方の面と溶融物が剥離することが生産性の安定化の観点から好ましい。本発明の製造方法において第一挟圧面の移動速度は前記第二挟圧面の移動速度よりも速いが、先に剥離する側の面は、第一挟圧面であっても第二挟圧面であってもよいが、剥離ダンを抑制する観点から、先に剥離する側の面は、第一挟圧面(移動速度が速い挟圧面)であることが好ましい。
【0075】
本発明の製造方法では、供給された熱可塑性樹脂組成物の溶融物を挟圧装置を構成する第一挟圧面と第二挟圧面の間に連続的に挟圧してフィルム状に成形する従来の方法に加え、挟圧装置間に圧力を20〜500MPaかけることで、本発明の光学特性を有するフィルムを作製している。好ましい圧力は、25〜300MPaであり、さらに好ましくは、25〜200MPaであり、特に好ましくは30〜150MPaである。
【0076】
本発明の製造方法では、下記式(I)で定義される前記挟圧装置の第一挟圧面と第二挟圧面の移動速度比を0.60〜0.99に調製し、供給された熱可塑性樹脂組成物の溶融物が挟圧装置を通過する際にせん断応力を付与し、本発明のフィルムを製造することが好ましい。挟圧装置の移動速度比は、0.60〜0.99とすることが好ましく、0.75〜0.98とすることがより好ましい。
移動速度比=第二挟圧面の速度/第一挟圧面の速度 (I)
2つの挟圧面の移動速度比が0.60以上であれば、得られるフィルムのRe[+40°]とRe[−40°]の差の絶対値は大きくなり、前記式(III)を満たすことができ好ましい。移動速度比が0.60以上であれば、得られるフィルムの表面に傷が付きにくく好ましい。前記2つの挟圧面の移動速度比を0.60〜0.99にすると、フィルム表面に傷が付き難く、平滑性が良好なフィルムを安定的に製造することができるため好ましい。
【0077】
(吐出温度)
本発明の製造方法では、吐出温度(供給手段の出口での熱可塑性樹脂組成物の溶融物温度)は、熱可塑性樹脂組成物の溶融物の成形性向上と劣化抑制の観点から、Tg+50〜Tg+200℃であることが好ましく、Tg+70〜Tg+180℃であることがより好ましく、Tg+90〜Tg+150℃であることが特に好ましい。すなわち、Tg+50℃以上であれば、熱可塑性樹脂組成物の溶融物の粘度が十分低くなるため成形性が良好となり、Tg+200℃以下であれば、熱可塑性樹脂組成物の溶融物が劣化しにくい。
【0078】
(エアーギャップ)
本発明の製造方法では、例えばダイなどの供給手段から熱可塑性樹脂組成物を挟圧装置に供給する場合、エアーギャップ(供給手段の出口から挟圧装置の溶融物着地点までの距離)は、エアーギャップ間におけるメルトの保温の観点から、可能な限り近接することが好ましく、具体的には10〜300mmであることが好ましく、より好ましくは、20〜250mm、特に好ましくは、30〜200mmである。
【0079】
(ライン速度)
本発明の製造方法では、エアーギャップでのメルトの保温の観点から、ライン速度(製膜速度)が2m/分以上であることが好ましく、5m/分以上であることがより好ましく、10m/分以上であることが特に好ましい。ライン速度が速くなると、エアーギャップ中でのメルトの冷却を抑制でき、メルトの温度が高い状態で、挟圧装置によって、より均一なせん断変形を付与できる。なお、前記ライン速度とは、挟圧装置間を熱可塑性樹脂組成物の溶融物が通過する速度、および搬送装置におけるフィルム搬送速度を表す。
【0080】
本発明の製造方法では、前記第一挟圧面および前記第二挟圧面の温度は、狭圧される溶融樹脂のガラス転移温度Tgを用いてTg−70℃〜Tg+10℃に設定することが好ましく、より好ましくはTg−50℃〜Tg+5℃、さらに好ましくはTg−40℃〜Tg℃に設定する。また、狭圧される溶融樹脂に比べて、20℃〜200℃低く設定することが好ましく、20℃〜150℃に設定することがより好ましく、20℃〜100℃に設定することが特に好ましい。このような温度制御は、前記挟圧面内部に温調した液体、気体を通すことで達成することができる。さらに、Re[40°]とRe[−40°]の差を制御するために、前記第一挟圧面および前記第二挟圧面の表面温度に差をつけてもよい。好ましい温度差は5℃〜80℃であり、より好ましくは20℃〜80℃、さらに好ましくは20℃〜60℃である。
【0081】
本発明の製造方法では、フィルム状の溶融物の幅は特に制限はなく、例えば200〜2000mmとすることができる。
【0082】
(2つのロールを用いたキャスト)
前記挟圧装置を構成する第一挟圧面と第二挟圧面の間に熱可塑性樹脂の溶融物を通過させて連続的に挟圧してフィルム状に成形する方法の中でも、2つのロール(例えば、タッチロール(第1ロール)およびチルロール(第2ロール))間を通過させることが好ましい。前記挟圧装置が互いに周速度が異なる2つのロールを含んでいる場合、周速度の早いロールの表面を第一挟圧面とし、周速度が遅いロールの表面を第二挟圧面とする。なお、本明細書では、前記溶融物を搬送するキャスティングロールを複数有している場合、最上流の前記熱可塑性樹脂組成物供給手段(例えば、ダイ)に最も近いキャスティングロールのことをチルロールともいう。以下、2つのロールを用いた本発明の製造方法の好ましい態様を説明する。
【0083】
本発明のフィルムの製造方法では、前記供給手段から押し出された溶融物の着地点に特に制限はなく、該供給手段から押出されたメルトの着地点と、該タッチロールと該キャストロールとが最も接近する部分における隙間の中点を通る鉛直線との距離がゼロであっても、ずれていてもよい。
前記メルトの着地点とは、供給手段から押し出されたメルトが初めてタッチロールあるいはチルロールに接触(着地)する地点を指す。また前記タッチロールとキャストロールの隙間の中点とは、タッチロールとキャストロールの隙間が最も狭くなった所のタッチロール表面とキャストロール表面の中点を指す。
【0084】
前記2つのロール(例えば、タッチロールやキャスティングロール)の表面は、算術平均高さRaが100nm以下であることが好ましく、より好ましくは50nm以下、さらに好ましくは25nm以下である。
【0085】
本発明の製造方法では、前記2つのロールのそれぞれの横幅は特に制限はなく、フィルム状の溶融物の幅に対応して、自由に変更して採用することができる。
【0086】
本発明の製造方法では、前記範囲のロール圧力を加圧するために、シリンダー設定値を適宜変更することとなる。前記シリンダー設定値は、用いる樹脂材料や2つのロールの材質によっても異なるが、例えば、フィルム状の溶融物の実効幅が200mmの場合、3〜100KNであることが好ましく、3〜50KNであることがより好ましく、3〜25KNであることが特に好ましい。
【0087】
本発明の製造方法では、前記範囲のロール圧力を加圧するために、ロールのショア硬さは30HS以上が好ましく、より好ましくは45HS以上のロールを使用する。また、本発明では、ロール圧力を高い状態で、連続製膜するため、ロール間に、フィルム中の異物や、空気中のホコリ等が挟まれると、ロールが凹んだり、傷つく場合がある。そのため、特に好ましい前記2つのロールのショア硬さは50HS以上であり、さらに好ましくは60〜90HSである。
ショア硬さは、JIS Z 2246の方法を用いて、ロール幅方向に5点および周方向に5点測定した値の平均値から求めることができる。
【0088】
前記2つのロールの材質は、金属であることが前記ショア硬さを達成する観点から好ましく、より好ましくはステンレスであり、表面をメッキ処理されたロールも好ましい。ロールのショア硬さは、金属データブック(日本金属学会編)の第3章に記載されている様な、焼入れ、焼もどしの方法で達成することができる。また、2つのロールの材質は金属であれば、表面の凹凸が小さく、フィルムの表面に傷が付きにくいため、好ましい。一方、ゴムロールやゴムでライニングした金属ロールは、前記ロール圧力を達成できれば特に制限なく用いることができる。
前記タッチロールについては、例えば特開平11−314263号公報、特開2002−36332号公報、特開平11−235747号公報、国際公開第97/28950号パンフレット、特開2004−216717号公報、特開2003−145609号公報記載のものを利用できる。
【0089】
さらに、本発明の製造方法では、フィルム状の溶融物を通過させる2つのロールの周速比を調整することで、溶融樹脂が2つのロールを通過する際にせん断応力を付与し、本発明のフィルムを製造することが好ましい。
本発明のフィルムを得るためには、前記2つのロールの速度はどちらが速くても構わないが、タッチロールが遅い場合、タッチロール側にバンク(溶融物の余剰分がロール上へ滞留し、形成された滞留物)が形成される。タッチロールは、溶融物が接触している時間が短いため、タッチロール側に形成されたバンクは、十分に冷却することができず、剥離ダンが発生し、面状故障の原因となり易い。よって、遅いロールがチルロール(第2ロール)であり、速いロールがタッチロール(第1ロール)であることが好ましい。
【0090】
さらに、本発明の製造方法では、前記2つのロールとして、それぞれ直径の大きなロールを用いるのが好ましく、具体的には、直径200〜1500mm、より好ましくは、300mm〜1000mm、特に好ましくは350mm〜800mm、より特に好ましくは350〜600mm、さらに好ましくは350〜500mmの2つのロールを使用するのが好ましい。直径の大きなロールを用いると、フィルム状の溶融物とロールの接触面積が広くなり、せん断がかかる時間がより長くなるため、Re[+40°]とRe[−40°]の差が大きなフィルムを、しかもRe[0°]、Re[+40°]およびRe[−40°]のバラツキを抑制しつつ製造することができる。また、ロールのたわみも低減できるため好ましい。なお、本発明の製造方法では、前記2つのロールの直径は等しくても、異なっていてもよい。
【0091】
本発明の製造方法では、前記2つのロールが、互いに異なる周速度で駆動される。前記2つのロールは、連れ周り駆動でも独立駆動でもよいが、Re[0°]、Re[+40°]およびRe[−40°]のバラツキを抑制するためには、独立駆動であることが好ましい。
【0092】
また、本発明の製造方法では、供給手段から供給された熱可塑性樹脂組成物の溶融物を2つのロールの少なくとも一方に接触する直前まで保温し、幅方向の温度分布を軽減するのが好ましく、具体的には、幅方向の温度分布を5℃以内にするのが好ましい。温度分布を軽減するためには、前記エアーギャップの少なくとも一部に、断熱機能または熱反射機能のある部材を配置し、該溶融物を外気から遮蔽するのが好ましい。この様に、断熱部材を通路に配置して、外気から遮蔽することで、外部環境、例えば風、の影響を抑えることができ、フィルムの幅方向の温度分布を抑制することができる。フィルム状溶融物の幅方向の温度分布は、±3℃以内がより好ましく、±1℃以内がよりさらに好ましい。
さらに、前記遮蔽部材を用いると、フィルム状溶融物の温度が高い状態、すなわち、溶融粘度が低い状態で、ロール間を通過させることができるため、本発明のフィルムを作成しやすい効果もある。
なお、フィルム状の溶融物の温度分布は、接触式温度計や非接触式温度計によって測定することができる。
【0093】
前記遮蔽部材は、例えば、2つのロールの両端部よりも内側で、且つ熱可塑性樹脂組成物の供給手段(例えば、ダイ)の幅方向側面と隙間を介して設けられる。遮蔽板は、供給手段の側面に直接固定されてもよいし、支持部材によって支持固定されてもよい。遮蔽部材の幅は、供給手段の放熱による上昇気流を効率的に遮断できるように、例えば、供給手段側面の幅と同等かそれ以上であるのが好ましい。
遮蔽部材とフィルム状の溶融物の幅方向端部との隙間は、ロールの表面に沿って流れ込む上昇気流を効率よく遮蔽する上で狭く形成されることが好ましく、フィルム状溶融物の幅方向端部から50mm程度であることがより好ましい。なお、供給手段の側面と遮蔽部材との隙間は、必ずしも設ける必要はないが、遮蔽部材に囲まれた空間内の気流を排出できる程度、例えば10mm以下に形成されることが好ましい。
また、断熱機能および/または熱反射機能を持つ材料として、遮風性や保温性に優れたものが好ましく、例えば、ステンレス等の金属板が好ましく使用できる。
【0094】
よりRe[0°]、Re[+40°]およびRe[−40°]のバラツキをなくす方法として、フィルム状の溶融物がキャスティングロールに接触する際の密着性を上げる方法がある。具体的には、静電印加法、エアナイフ法、エアーチャンバー法、バキュームノズル法などの方法を組み合わせて、密着性を向上させることができる。このような密着向上法は、フィルム状の溶融物の全面に実施してもよく、一部に実施してもよい。
【0095】
このようにして製膜した後、フィルム状の溶融物を通過させる2つのロール(例えばキャスティングロールとタッチロール)以外に、キャスティングロールを1本以上使用して、フィルムを冷却するのが好ましい。タッチロールは、通常は最上流側(熱可塑性樹脂組成物の供給手段、例えばダイ、に近い方)の最初のキャスティングロールにタッチさせるように配置する。一般的には3本の冷却ロールを用いることが比較的よく行われているが、この限りではない。複数本あるキャスティングロールの間隔は、面間で0.3mm〜300mmが好ましく、より好ましくは、1mm〜100mm、さらに好ましくは3mm〜30mmである。
【0096】
さらに加工したフィルムの両端をトリミングすることが好ましい。トリミングで切り落とした部分は破砕し、再度原料として使用してもよい。また片端あるいは両端に厚みだし加工(ナーリング処理)を行うことも好ましい。厚みだし加工による凹凸の高さは1μm〜50μmが好ましく、より好ましくは3μm〜20μmである。厚みだし加工は両面に凸になるようにしても、片面に凸になるようにしても構わない。厚みだし加工の幅は1mm〜50mmが好ましく、より好ましくは3mm〜30mmである。厚みだし加工は室温〜300℃で実施できる。
【0097】
巻き取る前に、片面もしくは両面に、ラミフィルムを付けることも好ましい。ラミフィルムの厚みは5μm〜100μmが好ましく、10μm〜50μmがより好ましい。材質はポリエチレン、ポリエステル、ポリプロピレン等、特に限定されない。
【0098】
巻き取り張力は、好ましくは2kg/m幅〜50kg/m幅であり、より好ましくは5kg/m幅〜30kg/m幅である。
【0099】
本発明の製造方法で得られるフィルムの未延伸時の膜厚は、100μm以下であることが好ましい。液晶ディスプレイ等に用いる場合は、薄型化の観点からは、80μm以下であることがより好ましく、60μm以下であることが特に好ましく、40μm以下であることがより特に好ましい。
【0100】
<延伸、緩和処理>
さらに、上記方法により製膜した後、延伸および/または緩和処理を行ってもよい。例えば、以下の(a)〜(g)の組合せで各工程を実施することができる。
(a) 横延伸
(b) 横延伸→緩和処理
(c) 縦延伸
(d) 縦延伸→緩和処理
(e) 縦(横)延伸→横(縦)延伸
(f) 縦(横)延伸→横(縦)延伸→緩和処理
(g) 横延伸→緩和処理→縦延伸→緩和処理
これらの中で特に好ましいのは、(a)〜(d)の工程である。
【0101】
横延伸はテンターを用い実施することができる。即ちフィルムの幅方向の両端部をクリップで把持し、横方向に拡幅することで延伸する。この時、テンター内に所望の温度の風を送ることで延伸温度を制御できる。延伸温度は、Tg−10℃〜Tg+60℃が好ましく、Tg−5℃〜Tg+45℃がより好ましく、Tg−10℃〜Tg+20℃以下がさらに好ましい。また、好ましい横延伸倍率は1.2〜3.0倍、より好ましく1.2〜2.5倍、さらに好ましくは1.2〜2.0倍である。
このような延伸の前に予熱、延伸の後に熱固定を行うことで延伸後のRe、Rth分布を小さくし、ボーイングに伴う配向角のばらつきを小さくできる。予熱、熱固定はどちらか一方であってもよいが、両方行うのがより好ましい。これらの予熱、熱固定はクリップで把持して行うのが好ましく、即ち延伸と連続して行うのが好ましい。
予熱は延伸温度より1℃〜50℃程度高い温度で行うことができ、好ましく2℃〜40℃以下、さらに好ましくは3℃〜30℃高くすることが好ましい。好ましい予熱時間は1秒〜10分であり、より好ましくは5秒〜4分、さらに好ましくは10秒〜2分である。予熱の際、テンターの幅はほぼ一定に保つことが好ましい。ここで「ほぼ」とは未延伸フィルムの幅の±10%を指す。
熱固定は延伸温度より1℃〜50℃低い温度で行うことができ、より好ましく2℃〜40℃、さらに好ましくは3℃〜30℃低くすることが好ましい。さらに好ましくは延伸温度以下でかつTg以下にするのが好ましい。好ましい予熱時間は1秒〜10分であり、より好ましくは5秒〜4分、さらに好ましくは10秒〜2分である。熱固定の際、テンターの幅はほぼ一定に保つことが好ましい。ここで「ほぼ」とは延伸終了後のテンター幅の0%(延伸後のテンター幅と同じ幅)〜−10%(延伸後のテンター幅より10%縮める=縮幅)を指す。延伸幅以上に拡幅すると、フィルム中に残留歪が発生しやすく好ましくない。
【0102】
縦延伸は、2対のロール間を加熱しながら出口側の周速を入口側の周速より速くすることで達成できる。この際、間の間隔(L)と延伸前のフィルム幅(W)を変えることで厚み方向のレターデーションの発現性を変えることができる。L/W(縦横比と称する)が2〜50以下(長スパン延伸)ではRthを小さいフィルムを作成し易く、L/Wが0.01〜0.3(短スパン)ではRthが大きいフィルムを作成できる。本実施の形態では長スパン延伸、短スパン延伸、これらの間の領域(中間延伸=L/Wが0.3を超え2以下)のどれを使用してもよいが、配向角を小さくできる長スパン延伸、短スパン延伸が好ましい。さらに高Rthを狙う場合は短スパン延伸、低Rthを狙う場合は長スパン延伸と区別して使用することがより好ましい。
延伸温度は、Tg−10℃〜Tg+60℃が好ましく、Tg−5℃〜Tg+45℃がより好ましく、Tg−10℃〜Tg+20℃以下がさらに好ましい。また、好ましい縦延伸倍率は1.2〜3.0倍、より好ましく1.2〜2.5倍、さらに好ましくは1.2〜2.0倍である。
【0103】
さらに、これらの延伸の後に緩和処理を行うことで寸法安定性を改良できる。熱緩和は製膜後、縦延伸後、横延伸後のいずれか、あるいは両方で行うことが好ましい。緩和処理は延伸後に連続してオンラインで行ってもよく、延伸後巻き取った後、オフラインで行ってもよい。
熱緩和は(Tg−30)℃〜(Tg+30)℃、より好ましく(Tg−30)℃〜(Tg+20)℃、さらに好ましくは(Tg−15)℃〜(Tg+10)℃で、1秒〜10分、より好ましくは5秒〜4分、さらに好ましくは10秒〜2分、0.1kg/m〜20kg/m、より好ましく1kg/m〜16kg/m、さらに好ましくは2kg/m〜12kg/mの張力で搬送しながら実施するのが好ましい。
【0104】
[偏光板]
本発明のフィルムに、少なくとも偏光子(以下、偏光膜ともいう)を積層することで、本発明の偏光板を得ることができる。以下において、本発明の偏光板を説明する。本発明の偏光板の例は、偏光膜の一面に、保護フィルムと視野角補償の2つの機能を目的として作成されたものや、TACなどの保護フィルムの上に積層された複合型偏光板が挙げられる。
【0105】
本発明の偏光板は、本発明のフィルムと偏光子を用いたものであれば、特に構成に制限はない。例えば、本発明の偏光板が、偏光子とその両面を保護する二枚の偏光板保護フィルム(透明ポリマーフィルム)からなる場合において、本発明のフィルムを少なくとも一方の偏光板保護フィルムとして用いることができる。また、本発明の偏光板は、その少なくとも一方の面に、他の部材との貼着のための粘着剤層を有してもよい。また、本発明の偏光板において、本発明のフィルムの表面が凹凸構造であれば、アンチグレア性(防眩性)の機能を有することになる。さらに、本発明の偏光板には、本発明のフィルムの表面にさらに反射防止層(低屈折率層)を積層した本発明の反射防止フィルムや、本発明のフィルムの表面にさらに光学異方性層を積層した本発明の光学補償フィルムを用いることも好ましい。
【0106】
一般に液晶表示装置は二枚の偏光板の間に液晶セルが設けられるため、4枚の偏光板保護フィルムを有する。本発明のフィルムは、4枚の偏光板保護フィルムのいずれに用いてもよいが、本発明のフィルムは、液晶表示装置における液晶セルと偏光板との間に配置される保護フィルムとして、特に有利に用いることができる。
【0107】
本発明の偏光板は、セルロースアシレートフィルム、偏光子および本発明のフィルムがこの順に積層している構成であることがより好ましい。また、セルロースアシレートフィルム、偏光子、本発明のフィルムおよび粘着剤層がこの順に積層している構成もより好ましい。
【0108】
(光学フィルム)
本発明の偏光板の光学フィルムには、本発明のフィルムが用いられる。また、前記フィルムには表面処理をしておくこともできる。表面処理方法としては、例えば、コロナ放電、グロー放電、UV照射、火炎処理等の方法が挙げられる。
【0109】
(セルロースアシレートフィルム)
本発明の偏光板のセルロースアシレートフィルムには、公知の偏光板用のセルロースアシレートフィルムが用いられる。例えば、公知のトリアセチルセルロース(TAC)フィルム(例えば、富士フィルム(株)製フジタックT−60)などを好ましく用いることができる。また、前記セルロースアシレートフィルムには表面処理をしておくこともできる。表面処理方法としては、例えば、けん化処理などが挙げられる。
【0110】
(偏光子)
前記偏光子としては、例えば、ポリビニルアルコールフィルムを沃素溶液中に浸漬して延伸したもの等を用いることができる。
【0111】
本発明に用いられる偏光子は、本発明の目的を達成し得るものであれば、任意の適切なものが選択され得る。前記偏光子としては、例えば、親水性高分子フィルムにヨウ素や二色性染料等の二色性物質を吸着させて一軸延伸したもの、ポリビニルアルコールの脱水処理物やポリ塩化ビニルの脱塩酸処理物等のポリエン系配向フィルム等が挙げられる。前記親水性高分子フィルムとしては、例えば、ポリビニルアルコール系フィルム、部分ホルマール化ポリビニルアルコール系フィルム、エチレン・酢酸ビニル共重合体系部分ケン化フィルム等が挙げられる。本発明において、ポリビニルアルコール系フィルムにヨウ素を吸着させた偏光子が好ましい。
【0112】
前記偏光子は、好ましくは、さらにカリウムおよびホウ素の少なくとも一方を含有する。前記偏光子が、カリウムおよびホウ素を含有することによって、好ましい範囲の複合弾性率(Er)を有し、且つ、偏光度が高い偏光子(偏光板)を得ることができる。カリウムおよびホウ素の少なくとも一方を含む偏光子の製造は、例えば、偏光子の形成材料であるフィルムを、カリウムおよびホウ素の少なくとも一方の溶液に浸漬すればよい。前記溶液は、ヨウ素を含む溶液を兼ねてもよい。
【0113】
前記ポリビニルアルコール系フィルムを得る方法としては、任意の適切な成形加工法が採用され得る。前記成形加工法としては、従来公知の方法が適用できる。また、前記ポリビニルアルコール系フィルムには、市販のフィルムをそのまま用いることもできる。市販のポリビニルアルコール系フィルムとしては、例えば、(株)クラレ製の商品名「クラレビニロンフィルム」、東セロ(株)製の商品名「トーセロビニロンフィルム」、日本合成化学工業(株)製の商品名「日合ビニロンフィルム」等が挙げられる。
【0114】
偏光子の製造方法の一例について、例えば、ポリビニルアルコール系樹脂を主成分とする高分子フィルム(原反フィルム)は、純水を含む膨潤浴、およびヨウ素水溶液を含む染色浴に浸漬され、速比の異なるロールでフィルム長手方向に張力を付与されながら、膨潤処理および染色処理が施される。つぎに、膨潤処理および染色処理されたフィルムは、ヨウ化カリウムを含む架橋浴中に浸漬され、速比の異なるロールでフィルムの長手方向に張力を付与されながら、架橋処理および最終的な延伸処理が施される。架橋処理されたフィルムは、ロールによって、純水を含む水洗浴中に浸漬され、水洗処理が施される。水洗処理されたフィルムは、乾燥して水分率を調節した後で巻き取られる。このように、偏光子は、原反フィルムを、例えば、元の長さの5倍〜7倍に延伸することで得ることができる。
【0115】
前記偏光子は、接着剤との密着性を向上させるために、任意の表面改質処理が施されていてもよい。前記表面改質処理としては、例えば、コロナ処理、プラズマ処理、グロー放電処理、火炎処理、オゾン処理、UVオゾン処理、紫外線処理等が挙げられる。これらの処理は、単独で、または2つ以上を組み合せて用いてもよい。
【0116】
(粘着剤層)
本発明の偏光板は、最外層の少なくとも一方として粘着剤層を有していても良い(このような偏光板を粘着型偏光板と称することがある)。特に好ましい形態として、前記光学フィルムの偏光子が接着されていない側に、他の光学フィルムや液晶セル等の他部材と接着するための粘着剤層を設けることができる。
【0117】
(偏光板の製造方法)
本発明の偏光板の製造方法を説明する。
本発明の偏光板は、接着剤を用いて前記偏光子の少なくとも片面に本発明のフィルムの片面(表面処理をしてある場合は表面処理面)を貼り合わせることで製造できる。また、セルロースアシレートフィルム、偏光子および本発明のフィルムの順に貼り合わせる場合は、本発明の偏光板は偏光子の両面に接着剤を用いて偏光子とその他のフィルムを張り合わせることで製造できる。
本発明の偏光板の製造方法においては、本発明のフィルムが偏光子と直接貼合されていることが好ましい。
【0118】
前記接着剤としては、公知の偏光板製造用接着剤を用いることができる。また、前記偏光子と各フィルムの間に接着剤層を有する態様も好ましい。前記接着剤の具体例としては、ポリビニルアルコールまたはポリビニルアセタール(例、ポリビニルブチラール)の水溶液や、ビニル系ポリマー(例、ポリブチルアクリレート)のラテックスを用いることができる。特に好ましい接着剤は、完全鹸化ポリビニルアルコールの水溶液である。前記ポリビニルアルコール系接着剤は、ポリビニルアルコール系樹脂と架橋剤を含有することが好ましい。
【0119】
本発明の偏光板の製造方法は、上記の方法に限定されず、他の方法を用いることもできる。例えば、特開2000−171635号、特開2003−215563号、特開2004−70296号、特開2005−189437号、特開2006−199788号、特開2006−215463号、特開2006−227090号、特開2006−243216号、特開2006−243681号、特開2006−259313号、特開2006−276574号、特開2006−316181号、特開2007−10756号、特開2007−128025号、特開2007−140092号、特開2007−171943号、特開2007−197703号、特開2007−316366号、特開2007−334307号、特開2008−20891号各公報などに記載の方法を使用できる。これらの中でもより好ましくは特開2007−316366号、特開2008−20891号公報に記載の方法である。
【0120】
偏光膜の他方の表面にも保護フィルムが貼り付けられているのが好ましく、かかる保護フィルムは、本発明のフィルムであってもよい。また、セルロースアシレートフィルム、環状ポリオレフィン系ポリマーフィルム等、従来偏光板の保護フィルムとして用いられている種々のフィルムを利用することができる。
【0121】
このようにして得た本発明の偏光板は、液晶表示装置内で使用するのが好ましく、液晶セルの視認側、バックライト側のどちらか片側に設けても、両側に設けてもよく、限定されない。本発明の偏光板が適用可能な画像表示装置の具体例としては、エレクトロルミネッセンス(EL)ディスプレイ、プラズマディスプレイ(PD)、電界放出ディスプレイ(FED:Field Emission Display)のような自発光型表示装置が挙げられる。液晶表示装置は透過型液晶表示装置、反射型液晶表示装置等に適用される。
【0122】
[液晶表示装置]
本発明のフィルムおよび偏光板は、種々のモードの液晶表示装置に用いることができる。好ましくは、TN(Twisted Nematic)、OCB(Optically Compensatory Bend)、ECB(Electrically Controlled Birefringence)モードの液晶表示装置、中でも、より好ましくは、TN、ECBモード液晶表示に用いることができる。
【0123】
[光学補償フィルム]
本発明のフィルムは、光学用途用フィルムとして好ましく用いることができ、光学補償フィルムとして特に好ましく用いることができる。
【0124】
<積層フィルム>
本発明のフィルムは単層フィルムであることが、フィルムの張り合わせ工程の削減や積層界面での光の反射を抑制する観点から好ましいが、本発明のフィルムにさらに機能層を積層することで、積層フィルムとすることもできる。本発明のフィルムが2以上の層からなる積層フィルムである場合、すべての層が前記液晶性重合化合物を含まないことが、低消偏光度化の観点から好ましい。
本発明のフィルムにさらに光学異方性層を付与した積層フィルムとすることもできる。本発明に用いることができる光学異方性層については特に制限はないが、例えば、特開2001−328973号公報の[0008]〜[0034]、特開2006−227630号公報の[0017]、特開2007−248780号公報の[0014]〜[0097]に記載のものを挙げることができる。
【0125】
[反射防止フィルム]
本発明のフィルムの上に反射防止層を付与することで、本発明の反射防止フィルムが得られる。反射防止層は、一般に、防汚性層でもある低屈折率層と、および低屈折率層より高い屈折率を有する少なくとも一層の層(高屈折率層、および中屈折率層)とを(透明)支持体上に設けて成る。本発明に用いることができる反射防止層については特に制限はないが、例えば特開2007−65635号公報の[0011]〜[0150]、特開2008−262187号公報の[0015]〜[0028]や[0073]〜[0207]、特開2008−268939号公報の[0009]〜[0201]に記載される反射防止層を好ましく用いることができる。
【実施例】
【0126】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
【0127】
[製造例1] 環状オレフィン共重合体のペレットの製造
環状オレフィン共重合体として、Polyplastics社製の「TOPAS#6013」のペレットを用いた。なお、「TOPAS#6013」は、正の固有複屈折性を示す。また、当該樹脂のガラス転移点は136℃であった。
【0128】
[製造例2] セルロースアシレートのペレットの製造
セルロース・アセテート・プロピオネート(CAP)を特開2006−348123号公報の実施例1に記載の方法に従って製造し、これを常法に従ってペレット化した。なお使用したCAPの組成は、アセチル化度0.15、プロピオニル化度2.60、全アシル置換度2.75、数平均重合度DPn=118で、正の固有複屈折性を示す。また、当該樹脂のガラス転移点は137℃であった。
【0129】
[製造例3] ポリカーボネートのペレットの製造
ポリカーボネートとして、出光興産社製の「タフロンMD1500」のペレットを用いた。なお、「タフロンMD1500」は、正の固有複屈折性を示す。また、当該樹脂のガラス転移点は142℃であった。
【0130】
[製造例4] アクリル系樹脂のペレットの製造
アクリル系樹脂として、スチレン-アクリル系共重合体である旭化成ケミカルズ社製の「デルペット980N」のペレットを用いた。なお、「デルペット980N」は、負の固有複屈折性を示す。また、当該樹脂のガラス転移点は123℃であった。
【0131】
[実施例1]
(フィルムの作製)
環状オレフィン共重合体TOPAS#6013のペレットを用いて、100℃において2時間以上乾燥し、260℃で溶融し、1軸混練押出し機を用い混練し押出した。このとき押し出し機とダイの間にスクリーンフィルター、ギアポンプ、リーフディスクフィルターをこの順に配置し、これらをメルト配管で連結した。これを表1に記載の押出し温度(吐出温度)で幅450mm、リップギャップ1mmのダイから押出した。
この後、キャストロールとチルロールで挟圧した部分の中央(図7参照)にメルト(溶融樹脂)を押出した。この時、最上流側の幅1800mm、直径400mmのHCrメッキされた金属製キャストロール(チルロール)に、下記表1に記載のタッチ圧力となるようにシリンダーを設定し、幅200mm、直径350mmのHCrメッキされた金属製タッチロールを接触させた。タッチ圧力は、プレスケール(富士フィルム社製)をメルトのない状態で、2つのロールに挟みこむことで測定し、その値を製膜時にメルトに付加する圧力とした。なお、圧力測定の際のロール温度は25℃、ロール速度は共に5m/分とした。タッチロールおよびチルロールは下記表1に記載のショア硬度のものを用いた。これらのロールを用い、タッチロール速度、チルロール速度および周速比を下記表1に記載の条件に設定して製膜した。
なお、タッチロール、チルロールの温度はTg−5℃とし、ダイとメルト着地点の距離を200mmと設定した。また、製膜の雰囲気は25℃、60%であった。
この後、巻き取り直前に両端(全幅の各5cm)をトリミングした後、両端に幅10mm、高さ20μmの厚みだし加工(ナーリング)をつけた。また製膜幅は200mmとし、製膜速度5m/分(チルロール速度)で450m巻き取った。製膜後のフィルムの厚みは100μmとし、実施例1のフィルムを作製した。
【0132】
(フィルムのレターデーション)
得られた実施例1のフィルム中央部の互いに2mm以上離れた任意の10点の位置でサンプリングを行い、KOBRAを用いて、フィルム傾斜方位にあおった、レターデーション値Re[+40°]とRe[−40°]を測定し、その平均値を表1に記載した。同様に、ミュラーマトリクス・ポラリメーターを用いて、フィルム傾斜方位と直交する方向にあおったCRe[+40°]を表1にあわせて記載した。なお、実施例1のフィルムの傾斜方位は、フィルムの長手方向であった。
(フィルムの消偏光度)
得られた実施例1のフィルムを10×10cmにサンプリングし、偏光板の間に、サンプルフィルムを、その面内の遅相軸が、偏光板の吸収軸に平行になるように挿入し、前記偏光板の面に対して垂直方向から光を照射させ、偏光板を直交ニコル配置と平行ニコル配置にした時の輝度より、以下の式を用いて計算した。
消偏光度=2×(直交ニコル化での輝度)/(平行ニコル下での輝度) (式)
【0133】
(フィルムの残留溶媒量)
得られた実施例1のフィルム300mgを溶媒(フィルムを溶解するものであれば特に限定されないが、本実施例ではCAP、スチレン−アクリルおよびPCについてはジクロロメタンを用い、環状オレフィンについてはn−ヘキサンを用いた)30mlに溶解した。このフィルム溶解液をガスクロマトグラフィー(GC)を用い、下記条件で測定した。
カラム:DB−WAX(0.25mmφ×30m、膜厚0.25μm)
カラム温度:50℃
キャリアーガス:窒素
分析時間:15分間
サンプル注入量:1μl
あらかじめ測定しておいた検量線から、実施例1のフィルムの残留溶媒量を求めた。その結果を下記表1に示す。
【0134】
(フィルムの表面粗さ)
得られた実施例1のフィルムの表面粗さRaを、以下の方法に従って求めた。その結果を下記表1に示す。
フィルムを10×10cmにサンプリングし、レーザー干渉計F601(フジノン(株)社製)を用いて、Ra値を求めた。
【0135】
(フィルムの消光位)
実施例1のフィルム切片の消光位を、0°〜90°まで1°刻みで回転させながら、偏光顕微鏡(NIKON社製エクリプスE600POL)にて観測し、観察された偏光顕微鏡画像を厚み方向に20分割して片側の表面から順に層に分け、図3に実施例1のフィルムの移動速度の速い第一挟圧面(タッチロール)に接していた側の面(下記図4におけるフィルム下側表面)からの膜厚方向への距離と、消光位の関係をまとめた。図3から分かるように、本発明のフィルムは、厚み方向に沿って消光位が変化する特別な内部構造を形成している。また、図3より、本発明のフィルムはフィルム下側表面から60〜80μmの距離において、消光位が急激に変化していることがわかった。
さらに、実施例1のフィルムについて、2枚の偏光板を10°回転させた場合と60°、70°、80°回転させた場合における、フィルム切片の消光位を偏光顕微鏡(NIKON社製エクリプスE600POL)にて撮影し、図4の(A)〜(D)にまとめた。2枚の偏光板を10°回転させた場合(A)では、フィルム下側表面から約80μmの部分で消光している一方、それ以外の部分では消光していないことが分かった。一方、2枚の偏光板を60°回転させた場合(B)では、フィルム下側表面から約5μmの部分で消光している一方、それ以外の部分では消光しておらず、2枚の偏光板を70°回転させた場合(C)では、約35μmの部分で、2枚の偏光板を80°回転させた場合(D)では、約70μmの部分で消光している一方、それ以外の部分では消光していないことが分かった。
以上より、実施例1のフィルムは、フィルム切片の下側表面から上側表面へ向けて順に観測した場合に、最初に観測される消光位と最後に観測される消光位が3°を越えて異なっていることを確認した。また、干渉色図表と照らし合わせて複屈折の大きさを測定した結果、従来の塗布型フィルムと異なり(従来の塗布型フィルムは厚み方向の複屈折の大きさは一定)、複屈折の大きさが最大となる部分がフィルム内部に存在することが分かった。
【0136】
[実施例2〜21、比較例1〜8]
用いた樹脂と製膜条件を下記表1に記載したように変更した以外は実施例1と同様にして、各実施例および比較例の光学フィルムを得た。各実施例および比較例の光学フィルムの光学特性を下記表1に示す。なお、比較例4で用いたゴムロールのショア硬度は、JIS Z 2246に基づく測定方法では測定不能であり、20HS以下であった。
また、実施例2〜21のフィルム厚み方向の、消光位、複屈折の大きさを実施例1と同様の方法で確認し、いずれも、フィルム切片の下側表面から上側表面へ向けて順に観測した場合に、最初に観測される消光位と最後に観測される消光位が3°を越えて異なっていることを確認した。一方、比較例1及び2のフィルムは、フィルム切片の下側表面から上側表面へ向けて順に観測した場合に、最初に観測される消光位と最後に観測される消光位が3°以下しか異なっていないことを確認した。なお、実施例、比較例のフィルムの傾斜方位は、いずれも、フィルムの長手方向であった。また、フィルム面内の遅相軸は、実施例20、実施例21、比較例7はフィルム幅手方向で、その他のフィルムはフィルム長手方向であった。
【0137】
【表1】

【0138】
表1から、実施例1〜21ではいずれも良好な位相差の傾斜構造が形成されていることが判明した。また、実施例1〜21のフィルムは、いずれも膜厚が200μm以下である上、サーキュラーレターデーションが5nmを超え、残留溶媒量が実質的に0%であり、表面粗さRaが小さいフィルムであった。
一方、比較例1および2は、タッチ圧力を本発明の製造方法の下限値以下としたものであり、得られたフィルムの位相差の傾斜構造は小さく位相差フィルムとして不十分な性能であった。さらに、比較例1のフィルムについて、図3にフィルムの移動速度の速い第一挟圧面(タッチロール)に接していた側の面(下記図4におけるフィルム下側表面)からの膜厚方向への距離と、消光位の関係をまとめた。また、2枚の偏光板を10°回転させた場合と60°、70°、80°回転させた場合における、フィルム切片の消光位を偏光顕微鏡(NIKON社製エクリプスE600POL)にて撮影し、図4の(a)〜(d)にまとめた。図3および図4について、実施例1のフィルムと対比すると、比較例1のフィルムは、図3から読み取れるように、消光位は83〜86°にあり、フィルム切片の下側表面から上側表面へ向けて順に観測した場合に、最初に観測される消光位と最後に観測される消光位の差は3°以下であり、ほぼ単一に傾斜したフィルムであることが分かった。
さらに、実施例1〜7および19のフィルムでは厚み方向に20分割したフィルムの5〜15分割目の部分に最大消光位の位置が観測された。また、実施例1〜7および19のフィルムでは厚み方向に20分割したフィルムの5〜15分割目の部分に複屈折の最大値の位置が観測された。その他の実施例のフィルムでは厚み方向に20分割したフィルムの3〜18分割目の部分に最大消光位の位置および複屈折の最大値の位置が観測された。
比較例3は、タッチ圧力を本発明の製造方法の上限値以上としたものであり、タッチロールおよびキャストロール(チルロール)が歪み製膜不能となった。比較例4は、タッチロールとしてゴムロールを用い、シリンダー圧力を10KNとしたものであるが、タッチ圧力は1MPaまでしか上がらずにゴムロールが変形し、製膜不能となった。比較例5〜7は樹脂の種類を変更し、タッチ圧力を本発明の製造方法の下限値以下としたものであり、得られたフィルムの位相差の傾斜構造は位相差フィルムとして不十分な性能であった。さらに比較例1〜7のフィルムはいずれもサーキュラーレターデーションが実質的に0nmであった。
実施例のフィルムと比較例のフィルムの内部構造が大きく異なる理由は、タッチ圧力に由来すると考えられる。すなわち、実施例のフィルムはタッチ圧力を高くすることで、ロール間にバンクを積極的に形成させ、バンクの流動配向を用いて、位相差を発現させる。そのため、バンクの流速に起因した特殊な内部構造が発現する。一方、比較例のフィルムはタッチ圧力が低いため、バンクは殆ど形成されず、異周速ロールに起因した単純ずり変形のみが樹脂に付与され、ほぼ単一傾斜の位相差フィルムが作成されると考えられる。
また、比較例8は、周速比を本発明の上限以上としたものであり、傾斜方位を有さないフィルムが作成されることを確認した。
さらに、タッチロール及びチルロールの温度を、本発明の好ましい範囲の上限以上であるTg+15℃に変更した以外は実施例1と同様にして製膜を行い、特殊な内部構造を有するフィルムを作成したが、剥離ダン故障が発生した。次に、タッチロール及びチルロールの温度を、本発明の好ましい範囲の下限以下であるTg−75℃に変更した以外は実施例1と同様にして、製膜を行い、特殊な内部構造を有するフィルムを作成したが、横ダンが発生した。次に、周速比を本発明の好ましい範囲の下限以下である0.56に変更した以外は実施例1と同様にして製膜を行い、特殊な内部構造を有するフィルムを作成したが、フィルム全面にスリキ故障が発生したと共に、金属ロールの表面にもスリキ故障が発生した。次に、ロールのショア硬度を本発明の好ましい範囲の下限以下である25HSに変更した以外は実施例1と同様にして、製膜を行い、特殊な内部構造を有するフィルムを作成したが、製膜中にロールが凹んだため、連続製膜適正が低いことを確認した。
【0139】
[比較例9]
特開平6−222213号公報に記載の方法で傾斜配向フィルムを作成し比較例9のフィルムとした。なお、比較例9のフィルムの膜厚は、100μmである。
比較例9のフィルムは、Re[0°]のバラツキが非常に大きく、また顕著な横ダンが発生し、実施例1のフィルムに比べて均一性が著しく悪かった。
さらに、比較例9のフィルムについて、図5に、2枚の偏光板を10°回転させた場合と60°、70°、80°回転させた場合における、フィルム切片の消光位を偏光顕微鏡(NIKON社製エクリプスE600POL)にて撮影し、(A)〜(D)にまとめた。図5について、特に実施例1のフィルムと対比したときに特徴的に異なる点を説明する。まず、比較例9のフィルムは、図5から読み取れるように、消光位は約60°にあり、フィルム切片の下側表面から上側表面へ向けて順に観測した場合に、最初に観測される消光位と最後に観測される消光位の差が小さく、ほぼ単一に傾斜したフィルムであることが分かる。
このように、本発明のフィルムは従来の方法で製造されたフィルムとは全く異なる内部構造を有していることが分かった。
【0140】
以上より、本発明の製造方法によれば、タッチ圧を本発明の範囲として2つのロール間に周速差を与えることで、良好な傾斜構造を有し、特殊な内部構造を有するフィルムを製造できることがわかった。
また、実施例1〜21より、本発明のフィルムは特殊な内部構造を有するフィルムであり、特に光学補償フィルムとして好適に用いることができることを次に示す。
【0141】
(偏光板の作製)
[比較例10]
作成した実施例1のフィルムおよび比較例1のフィルムを用いて偏光板を作製した。具体的には、まず、延伸したポリビニルアルコールフィルムにヨウ素を吸着させて偏光フィルムを作製した。この偏光フィルムを用いて、図1に示すような配置で、80μmのTACフィルム(富士フィルム社製)、一軸延伸したノルボルネン系高分子フィルムからなる、Re=270nmのλ/2板、本発明1または比較例1のフィルムを、本発明1または比較例1のフィルムのチルロール面がλ/2板と接するように貼合わせた。この様にして、実施例1のフィルムを用いた偏光板PL1および比較例1のフィルムを用いたPL2をそれぞれ2枚ずつ作製した。また、特開2002−311426号公報の実施例1の方法に従って、液晶塗布型のフィルム比較例10を作成し、上記実施例1の変わりに偏光板と貼り合せ、偏光板PL3を作成した。
【0142】
(半透過型ECBモード液晶表示装置の作製と評価)
次に、上記偏光板を用いてECB型の半透過型液晶表示装置を作製した。使用した液晶セルは、液晶材料としてZLI−1695(Merck社製)を用い、液晶層厚は反射電極領域(反射表示部)で2.4μm、透過電極領域(透過表示部)で4.9μmとした。液晶層の基板両界面のプレチルト角は2度であり、液晶セルのΔndは、反射表示部で略150nm、透過表示部で略320nmであった。
この液晶セルの上下に、上記作製した2種の偏光板を、図1に示すように配置した。偏光板P1およびP2中の矢印はそれぞれの吸収軸を、位相差フィルム中の矢印はそれぞれの遅相軸を、ECBセルの矢印はそれぞれの対向面に施されたラビング処理のラビング方向を示す。ここで、12時方向が0°、時計回りが+である。
【0143】
本発明の実施例である液晶表示装置LCD1について、白黒表示時のコントラスト比が10以上の視野角度を求めたところ、LCD1は左右上下の視野角の和が280°を達成していた。また正面CRが250を達成した。一方、比較例1のフィルムを用いたLCD2は、コントラスト比10以上の視野角度が、上下左右の視野角の和が100°であり、正面CRも100以下だった。また、比較例10のフィルムは、LCD3は左右上下の視野角の和が280°を達成していたが、正面CRが180と低かった。そこで、比較例10のフィルムの消偏光度を測定すると、8.53×10-4と、実施例1のフィルムに比べて1桁程度高いことが分かった。
このように、本発明のフィルムを用いると、液晶表示装置に組み込んだ場合、十分な視野角補償が行え、かつ正面CRが上昇することが分かった。
【0144】
(液晶ディスプレイ用反射防止フィルム)
実施例1の光学フィルムを発明協会公開技報(公技番号2001−1745)の実施例47に従い低反射フィルムを作製し、液晶表示装置に組み込んだところ、良好な光学性能が得られた。
【0145】
(有機EL用反射防止フィルム)
特開平9−127885号公報に従って、実施例1の光学フィルムと直線偏光板を、遅相軸と吸収軸の角度が45度になるように張り合わせ、反射防止フィルムを作成した。その反射防止フィルムを、有機EL表示装置に組み込み、反射防止機能を確認した。さらに、本発明のフィルムの特徴から、非対称な視野角性能を有することを確認した。
【符号の説明】
【0146】
1 移動速度が速い第一挟圧面側のフィルム表面
2 移動速度が遅い第二挟圧面側のフィルム表面
10 ダイ
11 タッチロール
12 チルロール
13 リップ調整ボルト
14 セルロースアシレート樹脂含有組成物
15 前方遮風板
16 後方遮風板
17 側面遮風板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
挟圧装置を構成する第一挟圧面と第二挟圧面の間に熱可塑性樹脂を含有する組成物の溶融物を通過させて連続的に挟圧してフィルム状に成形する工程を含むフィルムの製造方法であって、
前記挟圧装置によって該溶融物にかかる圧力が20〜500MPaであり、かつ、前記第一挟圧面の移動速度を前記第二挟圧面の移動速度よりも速くすることを特徴とする光学フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記熱可塑性樹脂を含有する組成物をダイから溶融押出しする工程をさらに含み、溶融押出しされた溶融物を前記第一挟圧面と前記第二挟圧面の間を通過させることを特徴とする請求項1に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項3】
下記式(I)で定義される前記挟圧装置の第一挟圧面と第二挟圧面の移動速度比が0.60〜0.99であることを特徴とする請求項1または2に記載の光学フィルムの製造方法。
移動速度比=第二挟圧面の速度/第一挟圧面の速度 (I)
【請求項4】
前記第一挟圧面および前記第二挟圧面の温度を、Tg−70℃〜Tg+10℃に制御することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の光学フィルムの製造方法(但し、Tgは前記熱可塑性樹脂のガラス転移温度を表す)。
【請求項5】
前記挟圧装置が互いに周速度が異なる2つのロールを含んでおり、周速度の早いロールの表面を第一挟圧面とし、周速度が遅いロールの表面を第二挟圧面とすることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項6】
前記2つのロールのショア硬さが共に45HS以上であることを特徴とする請求項5に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項7】
前記2つのロールが共に金属ロールであることを特徴とする請求項5または6に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項8】
前記熱可塑性樹脂が、環状オレフィン系樹脂、セルロースアシレート系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、スチレン系樹脂およびアクリル系樹脂から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の光学フィルムの製造方法で製造され、かつ、厚みが200μm以下であることを特徴とする光学フィルム。
【請求項10】
熱可塑性樹脂から構成される傾斜方位を有する光学フィルムであって、
傾斜方位と厚み方向を面内に含む前記フィルムの切片を直交ニコルに配置された2枚の偏光板の間に配置し、前記偏光板の面に対して、垂直方向から光を照射しながら、直交ニコルに配置された2枚の偏光板を0°〜90°の範囲で回転させた時に、フィルム切片の一端から他端まで厚み方向へ向けて順に観測した場合に、最初に観測される消光位と最後に観測される消光位が3°を越えて異なることを特徴とする光学フィルム。
【請求項11】
前記フィルム切片の複屈折が実質的に0でない部分で、前記消光位の変化が観測されることを特徴とする請求項10に記載の光学フィルム。
【請求項12】
フィルム切片の一端から他端まで厚み方向へ向けて順に観測した場合に、複屈折の大きさが最大となる部分がフィルム内部に存在することを特徴とする請求項10または11に記載の光学フィルム。
【請求項13】
フィルム傾斜方位とフィルム法線を含む面内において、該法線方向から測定した波長550nmにおけるレターデーションRe[0°]と、該法線に対して傾斜方位側へ40°傾いた方向から測定したレターデーションRe[+40°]と、該法線に対して傾斜方位とは反対側へ40°傾いた方向から測定したレターデーションRe[−40°]が、下記式(II)および(III)を共に満たすことを特徴とする請求項10〜12のいずれか一項に記載の光学フィルム。
20nm≦Re[0°]≦300nm (II)
5nm≦|Re[+40°]−Re[−40°]|≦300nm (III)
【請求項14】
前記フィルムの膜厚方向のレターデーションRthが下記式(IV)を満たすことを特徴とする請求項10〜13のいずれか一項に記載の光学フィルム。
40nm≦Rth≦500nm (IV)
Rth=((nx+ny)/2−nz)×d
(式中、nx、ny、nzは、屈折率楕円体の各主軸方位の屈折率を表し、dはフィルム厚みを表す。)
【請求項15】
熱可塑性樹脂を含有し、下記式(V)〜(VII)を同時に満たすことを特徴とする請求項13または14に記載の光学フィルム。
60nm≦Re[0°]≦200nm (V)
60nm≦|Re[+40°]−Re[−40°]|≦250nm (VI)
40nm≦Rth≦350nm (VII)
【請求項16】
熱可塑性樹脂から構成される傾斜方位を有する光学フィルムであって、
フィルム傾斜方位とフィルム法線を含む面内において、該法線方向から測定した波長550nmにおけるレターデーションRe[0°]と、該法線に対して傾斜方位側へ40°傾いた方向から測定したレターデーションRe[+40°]と、該法線に対して傾斜方位とは反対側へ40°傾いた方向から測定したレターデーションRe[−40°]が、下記式(VIII)および(IX)を共に満たすことを特徴とする光学フィルム。
60nm≦Re[0°]≦300nm (VIII)
40nm≦|Re[+40°]−Re[−40°]|≦300nm (IX)
【請求項17】
膜厚方向のレターデーションRthが下記式(X)を満たすことを特徴とする請求項16に記載の光学フィルム。
40nm≦Rth≦500nm (X)
Rth=((nx+ny)/2−nz)×d
(式中、nx、ny、nzは、屈折率楕円体の各主軸方位の屈折率を表し、dはフィルム厚みを表す。)
【請求項18】
下記式(XI)〜(XIII)を同時に満たすことを特徴とする請求項16または17に記載の光学フィルム。
60nm≦Re[0°]≦200nm (XI)
60nm≦|Re[+40°]−Re[−40°]|≦250nm (XII)
40nm≦Rth≦350nm (XIII)
【請求項19】
残留溶媒を実質含まないことを特徴とする請求項9〜18のいずれか一項に記載の光学フィルム。
【請求項20】
膜厚が100μm以下であることを特徴とする請求項9〜19のいずれか一項に記載の光学フィルム。
【請求項21】
偏光子と、請求項9〜20のいずれか一項に記載の光学フィルムとを有することを特徴とする偏光板。
【請求項22】
請求項9〜20のいずれか一項に記載の光学フィルムを用いたことを特徴とする光学補償フィルム。
【請求項23】
請求項9〜20のいずれか一項に記載の光学フィルムを用いたことを特徴とする反射防止フィルム。
【請求項24】
請求項9〜20のいずれか一項に記載の光学フィルムを用いたことを特徴とする液晶表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図7】
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【図8】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−58495(P2010−58495A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−115420(P2009−115420)
【出願日】平成21年5月12日(2009.5.12)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】