説明

光学活性α−メチルシステイン誘導体の製造方法

【課題】 本発明は、医薬品等の中間体として有用な、L体又はD体の光学活性α−メチルシステイン誘導体又はその塩を、安価で入手容易な原料から、簡便かつ工業的に製造する方法を提供する。
【解決手段】 本発明は、ラセミ体N−カルバモイル−α−メチルシステイン誘導体又はその塩をヒダントイナーゼによってD体選択的に環化させて、D−5−メチル−5−チオメチルヒダントイン誘導体又はその塩及びN−カルバモイル−α−メチル−L−システイン誘導体又はその塩とし、次いで、それぞれのアミノ基、硫黄原子の脱保護及び加水分解を行うことによる、L体又はD体の光学活性α−メチルシステイン誘導体又はその塩の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬品等の中間体として有用な、光学活性なL体又はD体のα−メチルシステイン誘導体又はその塩の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光学活性なL体又はD体のα−メチルシステイン誘導体又はその塩の製造方法としては、以下の様な方法が知られている。
1)光学活性システインとピバルアルデヒドより得られる光学活性チアゾリジン化合物への不斉メチル化による方法(特許文献1)。
2)光学活性アラニンとベンズアルデヒドより得られる光学活性オキサゾロン化合物への不斉チオメチル化による方法(非特許文献1)。
3)システインとシアノベンゼンより得られるチアゾリン化合物のメチル化を行い、得られたラセミ体のチアゾリン化合物をキラルHPLCにて分離精製する方法(非特許文献2)。
4)光学活性バリンとアラニンより合成される光学活性ジケトピペラジン化合物を不斉ブロモメチル化し、得られた化合物の臭素原子をアルカリ金属アルキルチオラートで置換する方法(非特許文献3)。
5)2−メチル−2−プロペン−1−オールのシャープレス不斉酸化により得られる光学活性な2−メチルグリシドールから光学活性アジリジンを合成し、これにチオールを反応させる方法(非特許文献4)。
6)アミノマロン酸誘導体をメチル化した後に、豚肝臓エステラーゼ(以下PLEと略す)による非対称化を行い、得られた非対称エステルをチオ酢酸アルカリ金属塩と反応させる方法(非特許文献5)。
【0003】
しかしながら、上記1)〜4)の方法はいずれも、ブチルリチウム等の高価な塩基を用いた低温反応が必要である。5)の方法では、工程数が長くて煩雑であり高価な試薬を多く使う必要がある。6)の方法ではエステラーゼとしてPLEを用いたジエステルの非対称化をキーとしているが、PLEは大量生産が困難であるため工業的規模での安定確保は難しく、実用的とは言い難い。このように、いずれの方法においても光学活性メチルシステイン誘導体又はその塩の工業的製造方法としては解決すべき課題を有している。
【0004】
また、上記のような方法を経て得られる、光学活性メチルシステイン誘導体は必要に応じて、適切に脱保護を行い、光学活性α−メチルシステイン又はその塩とすることができる。そこで得られた光学活性α−メチルシステイン又はその塩の単離精製法としては、晶析による方法が好ましいと考えられる。しかし、光学活性α−メチルシステイン又はその塩を結晶として晶析単離取得した例は知られていない。わずかに、単離された例としては、前記特許文献1等に記載があるにすぎない。これらは、光学活性α−メチルシステイン誘導体であるチアゾリジン化合物を塩酸により脱保護し、得られた光学活性α−メチルシステイン又はその塩の水溶液を濃縮して固化させ、場合によっては、有機溶媒にて洗浄して単離する方法である。しかしながら、我々が、この方法に従い該化合物の単離を行ったところ、水溶液を濃縮するにつれ、固体が析出すると共に含水した大きな塊状となり、攪拌が不良となることが判明した。また、引き続き濃縮操作を行っても、固体が壁面に強固に付着し流動性の全くない状態となった。したがって、水溶液を濃縮して乾固させ固体を析出させることですら、工業的操作としては不具合があるうえに、濃縮するにつれ塊状化する傾向があることから、晶析液の攪拌や固体の取り出しが困難であると考えられる。以上のことから、前記特許文献1等に記載の単離方法も、工業的生産に適した方法とは言い難い。
【0005】
さらに、光学活性メチルシステイン誘導体を脱保護し、得られる光学活性α−メチルシステイン又はその塩に、例えば反応若しくは中和等の後処理工程上、難溶性無機塩等が副生、混入する場合には、上述の従来法ではそれら無機塩を除去することは全くできない。
また、α−メチルシステイン及びその塩は、酸化に対して不安定で2量化しジスルフィドになりやすい。例えば、類似構造を有するシステインの場合、シスチンへの2量化は速やかに進行する(非特許文献6)。本化合物においても2量化が進行し、しかもジスルフィド体が一旦生成するとその除去は容易ではなく、製品中への混入を避けることは難しい。故に、ジスルフィド体の生成及び混入を高度に抑制したプロセスの構築も重要である。
このように、工業的に実施可能な、高品質の光学活性α−メチルシステイン及びその塩を好適に結晶として晶析取得する方法の確立が強く望まれていた。
【0006】
ところで、光学活性α−メチルシステイン誘導体を簡便に製造するための従来技術とは異なる方法論の1つとして、ラセミ体のα−メチルシステイン誘導体を酵素的に分割して光学活性なα−メチルシステイン誘導体へと導く方法が考えられる。本方法論を実現するためには、光学分割に供するラセミ体α−メチルシステイン誘導体の製造方法、並びに、高い光学分割能力を有する酵素反応の確立が重要である。さらには、酵素的光学分割に供するラセミ体α−メチルシステイン誘導体の選定も大きなポイントとなる。
酵素的光学分割を用いる方法を実現するうえで、基質となるラセミ体α−メチルシステイン誘導体は、簡便かつ効率的に製造できること、酵素の基質特異性に適合し、かつ高い立体選択性を得るための適切な保護基あるいは補助基を有すること、更には、酵素反応後に前記保護基あるいは補助基が簡単に除去できること、が要求される。このような観点からは、好適なラセミ体α−メチルシステイン誘導体として、N−カルバモイル−α−メチルシステイン誘導体を挙げることができる。
【0007】
古くから、ヒダントインの開環加水分解酵素として知られているヒダントイナーゼは、N−カルバモイル−α−アミノ酸を対応する5−置換ヒダントインに変換する逆反応も触媒することが知られており、当該酵素を用いてラセミ体のN−カルバモイル−α−メチルシステイン誘導体のうち、一方の光学異性体のみを選択的にヒダントインに変換し、光学分割することが期待される。光学分割で得られた光学活性N−カルバモイル−α−メチルシステイン誘導体は、脱カルバモイル化して容易に光学活性α−メチルシステイン誘導体に変換できる。一方、光学分割のもう一方の生成物である光学活性5−メチル−5−チオメチルヒダントイン誘導体は、光学活性α−メチルシステイン誘導体の等価体であり、開環加水分解および脱カルバモイル化を経て光学活性α−メチルシステイン誘導体(光学分割で直接得られるものとは逆の立体を有する)に導くことができる。
ラセミ体N−カルバモイル−α−メチルシステイン誘導体は、一般的なアミノ酸の化学的合成法とN−カルバモイル化反応とを組み合わせて製造することができるが、ラセミ体のN−カルバモイル−α−メチルシステイン誘導体を短工程かつ高収率で製造する方法は、未だ確立されていない。
【0008】
一般的なラセミ体N−カルバモイル−α−二置換アミノ酸の製造方法としては、Bucherer法により、アセトン誘導体をラセミ体5,5−二置換ヒダントインに変換した後、これを加水分解することによりラセミ体α−二置換アミノ酸誘導体とし(非特許文献7)、次いでシアン酸カリウムで処理してN−カルバモイル化する方法が知られている。しかしながら、この方法では、ラセミ体5,5−二置換ヒダントインのウレイレン基(−NHCONH−)をラセミ体N−カルバモイル−α−二置換アミノ酸誘導体のウレイド基(カルバモイルアミノ基:−NHCONH)として有効に利用することができず、また、3工程を要するなど、効率的な方法とは言い難い。
【0009】
一方、ヒダントイン類を加水分解し、アミノ酸を経由せずカルバモイル体を製造する方法としては、塩基として水酸化カルシウムを用いて加水分解する方法が知られている(特許文献2)。しかしながら、我々が、本特許記載の方法により、ラセミ体N−カルバモイル−α−メチルシステイン誘導体の製造を試みたところ、わずか25%の収率でしか目的の化合物が得られないことがわかった。即ち、少ない工程で効率的に、かつ、高収率でラセミ体N−カルバモイル−α−二置換アミノ酸誘導体、特にはラセミ体N−カルバモイル−α−メチルシステイン誘導体を製造する方法は確立されていない。
一方、ラセミ体N−カルバモイル−α−メチルシステイン誘導体の酵素的光学分割に関しては、特許文献3には、ラセミ体N−カルバモイル−アミノ酸誘導体にヒダントイナーゼを作用させ立体選択的に環化することにより分割を行う方法が記されているが、N−カルバモイル−α−メチルシステイン誘導体の反応の可能性については、記載も示唆もない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】国際公開第01/72702号パンフレット
【特許文献2】米国特許第5338859号明細書
【特許文献3】特開平1−124398号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】J.Org.Chem.,1996,61,3350−3357
【非特許文献2】Synlett.,1994,9,702−704
【非特許文献3】Synthesis,1983,37〜38
【非特許文献4】J.Org.Chem.,1995,60,790−791
【非特許文献5】J.Am.Chem.Soc.,1993,115,8449−8450
【非特許文献6】「タンパク質化学1、アミノ酸・ペプチド」共立出版、p.326
【非特許文献7】Agr.Biol.Chem.,1971,35,53−58
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記に鑑み、本発明の目的は、医薬品等の中間体として有用な、光学活性なL体又はD体のα−メチルシステイン誘導体又はその塩を、安価で入手容易な原料から簡便に製造でき、工業的生産に対して実用的な方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者等は上記に鑑み鋭意検討を行った結果、ラセミ体N−カルバモイル−α−メチルシステイン誘導体又はその塩にヒダントイナーゼを作用させることによりD体選択的に環化させ、D−5−メチル−5−チオメチルヒダントイン誘導体又はその塩及びN−カルバモイル−α−メチル−L−システイン誘導体又はその塩とし、次いでN−カルバモイル−α−メチル−L−システイン誘導体又はその塩の脱カルバモイル化と硫黄原子の脱保護を行うことによりα−メチル−L−システイン誘導体又はその塩を得る方法を見出した。
また、D−5−メチル−5−チオメチルヒダントイン誘導体又はその塩の加水分解及び硫黄原子の脱保護を行うことにより、α−メチル−D−システイン誘導体又はその塩を得る方法を見出した。さらには、上記方法の原料となるラセミ体N−カルバモイル−α−メチルシステイン誘導体を簡便かつ高収率で製造する方法も確立し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、一般式(1):
【0014】
【化1】

【0015】
(式中、Rは置換基を有していても良い炭素数1〜20のアルキル基、置換基を有していても良い炭素数7〜20のアラルキル基、又は、置換基を有していても良い炭素数6〜20のアリール基を表す)で表されるラセミ体N−カルバモイル−α−メチルシステイン誘導体又はその塩に、ヒダントイナーゼを作用させD体選択的に環化させることを特徴とする、一般式(2):
【0016】
【化2】

【0017】
(式中、Rは前記と同じ)で表されるD−5−メチル−5−チオメチルヒダントイン誘導体又はその塩、及び、一般式(3):
【0018】
【化3】

【0019】
(式中、Rは前記と同じ)で表されるN−カルバモイル−α−メチル−L−システイン誘導体又はその塩の製造方法に関する。
また、本発明は、前記N−カルバモイル−α−メチル−L−システイン誘導体(3)又はその塩を脱カルバモイル化し、必要に応じて硫黄原子の脱保護を行うことを特徴とする、一般式(4):
【0020】
【化4】

【0021】
(式中、Rは前記R若しくは水素原子を表す)で表されるα−メチル−L−システイン誘導体又はその塩の製造方法に関する。
また、本発明は、前記式(3)においてRが炭素数4〜15の3級アルキル基であるN−カルバモイル−α−メチル−L−システイン誘導体又はその塩を酸で処理することにより、脱カルバモイル化と硫黄原子の脱保護を同時に行うことを特徴とする、一般式(5):
【0022】
【化5】

【0023】
で表されるα−メチル−L−システイン又はその塩の製造方法に関する。
また、本発明は、前記N−カルバモイル−α−メチル−L−システイン誘導体(3)又はその塩の、環化及び硫黄原子の脱保護を行うことを特徴とする、一般式(6):
【0024】
【化6】

【0025】
で表されるL−5−メチル−5−チオメチルヒダントイン又はその塩の製造方法、
また、N−カルバモイル−α−メチル−L−システイン誘導体(3)又はその塩を環化して、一般式(7):
【0026】
【化7】

【0027】
(式中、Rは前記と同じ)で表されるL−5−メチル−5−チオメチルヒダントイン誘導体又はその塩とし、次いで酸で処理することにより硫黄原子の脱保護を行うことを特徴とするL−5−メチル−5−チオメチルヒダントイン(6)又はその塩の製造方法に関する。
また、本発明は、前記D−5−メチル−5−チオメチルヒダントイン誘導体(2)又はその塩を加水分解し、必要に応じて硫黄原子の脱保護を行うことを特徴とする、一般式(8):
【0028】
【化8】

【0029】
(式中、Rは前記と同じ)で表されるα−メチル−D−システイン誘導体又はその塩の製造方法に関する。
また、本発明は、前記式(2)においてRが炭素数4〜15の3級アルキル基である化合物を、酸で処理することにより加水分解反応と硫黄原子の脱保護を同時に行うことを特徴とする、一般式(9):
【0030】
【化9】

【0031】
で表されるα−メチル−D−システイン又はその塩の製造方法に関する。
また、本発明は、前記式(8)においてRがRと同じであるα−メチル−D−システイン誘導体又はその塩をカルバモイル化し、一般式(10):
【0032】
【化10】

【0033】
(式中、Rは前記と同じ)で表されるN−カルバモイル−α−メチル−D−システイン誘導体又はその塩とし、次いで、環化及び硫黄原子の脱保護を行うことを特徴とする、下記式(11):
【0034】
【化11】

【0035】
で表されるD−5−メチル−5−チオメチルヒダントイン又はその塩の製造方法に関する。
また、本発明は、前記式(2)で表される化合物を酸で処理することにより、硫黄原子の脱保護を行うことを特徴とする、前記式(11)で表されるD−5−メチル−5−チオメチルヒダントイン又はその塩の製造方法に関する。これら光学活性5−メチル−5−チオメチルヒダントイン誘導体又はその塩は、加水分解することにより容易に光学活性α−メチルシステインに変換することができ、光学活性α−メチルシステインと同様に、医薬等の合成中間体として好適に使用できる。
さらに、本発明は、光学活性α−メチルシステイン又はその塩の水溶液から、有機溶剤の共存下にこれらの晶出を行うことを特徴とする、光学活性α−メチルシステイン又はその塩の晶析方法にも関する。
さらに、本発明は、下記式(12):
【0036】
【化12】

【0037】
(式中、R、Rはそれぞれ独立して置換基を有していても良い炭素数1〜20のアルキル基、置換基を有していても良い炭素数7〜20のアラルキル基、又は、置換基を有していても良い炭素数6〜20のアリール基を表す)で表されるラセミ体5,5−二置換ヒダントイン誘導体又はその塩、とりわけ下記式(14):
【0038】
【化13】

【0039】
(式中、Rは前記と同じ)で表されるラセミ体5−メチル−5−チオメチルヒダントイン誘導体又はその塩を、有機塩基又はアルカリ金属水酸化物を用いて加水分解を行うことを特徴とする、下記式(13):
【0040】
【化14】

【0041】
(式中、R、Rは前記と同じ)で表されるラセミ体N−カルバモイル−α−アミノ酸誘導体又はその塩、とりわけ、前記式(1)で表されるラセミ体N−カルバモイル−α−メチルシステイン誘導体又はその塩の製造方法にも関する。
さらに、本発明は、前記式(1)で表されるラセミ体N−カルバモイル−α−メチルシステイン誘導体又はその塩;前記式(3)又は(10)で表されるL体又はD体の光学活性N−カルバモイル−α−メチルシステイン誘導体又はその塩;前記式(2)又は(7)においてRが炭素数4〜15の3級アルキル基である、D体又はL体の光学活性5−メチル−5−チオメチルヒダントイン誘導体又はその塩;前記式(4)又は(8)において、Rが置換基を有していても良い炭素数1〜20のアルキル基、置換基を有していても良い炭素数7〜20のアラルキル基、又は、置換基を有していても良い炭素数6〜20のアリール基である、L体又はD体の光学活性α−メチルシステイン誘導体又はその塩;前記式(6)又は(11)で表されるL体又はD体の光学活性5−メチル−5−チオメチルヒダントイン又はその塩に関する。
【0042】
以下、本発明を詳細に説明する。まず、本発明の化合物について説明する。
本発明に用いるラセミ体N−カルバモイル−α−メチルシステイン誘導体(1)において、Rは、置換基を有していても良い炭素数1〜20のアルキル基、置換基を有していても良い炭素数7〜20のアラルキル基、又は、置換基を有していても良い炭素数6〜20のアリール基を表す。
炭素数1〜20のアルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基等の直鎖アルキル基、イソプロピル基、イソブチル基、t−ブチル基、ネオペンチル基、t−ペンチル基、t−ヘキシル基等の分枝アルキル基等が挙げられ、好ましくは炭素数1〜10のアルキル基である。
炭素数7〜20のアラルキル基としては、例えばベンジル基,p−メトキシベンジル基、フェネチル基,ナフチルメチル基等が挙げられ、好ましくは炭素数7〜15のアラルキル基である。
炭素数6〜20のアリール基としては、例えばフェニル基,ナフチル基等が挙げられ、好ましくは炭素数6〜15のアリール基である。
上記アルキル基、アラルキル基、アリール基は、それぞれ無置換であってもよく、また置換基を有していてもよい。置換基としては、アミノ基、ヒドロキシル基、アリール基、アルカノイル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、ニトロ基、ハロゲン原子等が挙げられる。
【0043】
当該置換基としてのアリール基としては、例えばフェニル基、ナフチル基、p−メチルフェニル基、m−メチルフェニル基、o−メチルフェニル基等の炭素数6〜15のアリール基が挙げられる。アルカノイル基としては、例えばアセチル基、プロパノイル基、ブタノイル基等の炭素数2〜10のアルカノイル基が挙げられる。アルケニル基としては、例えばエテニル基、プロペニル基等の炭素数2〜10のアルケニル基が挙げられる。アルキニル基としては、例えばエチニル基、プロピニル基等の炭素数2〜10のアルキニル基が挙げられる。アルコキシ基としては、例えばメトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基等の炭素数1〜10のアルコキシ基が挙げられる。ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。
上記Rの中でも、脱保護の容易さ及びヒダントイナーゼによる立体選択的環化反応の反応性の点からは、置換基を有していても良い炭素数4〜15の3級アルキル基が好ましい。具体的には、t−ブチル基、t−ペンチル基、t−ヘキシル基等が挙げられ、より好ましくはt−ブチル基である。
【0044】
ラセミ体N−カルバモイル−α−アミノ酸誘導体(13)において、R、Rは、それぞれ独立して置換基を有していても良い炭素数1〜20のアルキル基、置換基を有していても良い炭素数7〜20のアラルキル基、又は、置換基を有していても良い炭素数6〜20のアリール基を表す。炭素数1〜20のアルキル基、炭素数7〜20のアラルキル基、炭素数6〜20のアリール基としては、上記Rの説明で挙げた基と同様の基を挙げることができる。
上記アルキル基、アラルキル基、アリール基は無置換であってもよく、置換基を有していても良い。置換基としては、前記Rの説明で挙げた置換基に加え、
下記式(15):
−SR (15)
で表される置換チオ基を挙げることができる。ここで、Rは上記と同じであり、その好ましい具体例も上記と同じである。
【0045】
後述するように、対応するヒダントインを加水分解して前記化合物(13)を調製するうえでは、加水分解反応の反応性の観点から、R、Rとしては置換基を有していてもよい炭素数1〜6のアルキル基が好ましく、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基等が挙げられ、R、Rの少なくとも一方がメチル基であるのがより好ましい。言うまでもなく、化合物(13)において、R、Rの一方がメチル基、他方が、前記置換チオ基(15)で置換されたメチル基の場合、化合物(1)を表す。
【0046】
ラセミ体N−カルバモイル−α−メチルシステイン誘導体(1)及びラセミ体N−カルバモイル−α−アミノ酸誘導体(13)は塩であってもよく、塩は、塩基との塩を表す。塩基との塩は、特に限定されないが、例えば、アルカリ金属水酸化物(水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等)との塩;アルカリ土類金属水酸化物(水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等)との塩等が挙げられる。好ましくは、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムとの塩である。
【0047】
前記式(2)、(7)又は(14)で表されるラセミ及び光学活性5−メチル−5−チオメチルヒダントイン誘導体において、Rは、前記式(1)で表される化合物において定義したものと同じである。
【0048】
前記式(12)で表されるラセミ体5,5−二置換ヒダントイン誘導体において、R、Rは、前記式(13)で表される化合物において定義したものと同様である。言うまでもなく、化合物(12)において、R、Rの一方がメチル基、他方が前記置換チオ基(15)で置換されたメチル基の場合が、化合物(14)である。
【0049】
これら5,5−二置換ヒダントイン誘導体は塩であってもよく、塩は、塩基との塩を表し、ヒダントイン環のイミド基上での塩を表す。塩基との塩は、特に限定されないが、例えば、アルカリ金属水酸化物(水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等)との塩;アルカリ土類金属水酸化物(水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等)との塩等が挙げられる。好ましくは、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムとの塩である。
【0050】
前記式(3)又は(10)で表される光学活性N−カルバモイル−α−メチルシステイン誘導体において、Rは前記と同じである。これら光学活性N−カルバモイル−α−メチルシステイン誘導体は塩であってもよく、塩の種類は、前記式(1)で表される化合物の場合と同様である。
【0051】
前記式(4)及び(8)で表される光学活性α−メチルシステイン誘導体において、Rは、R若しくは水素原子を表す。当該Rは、置換基を有していても良い炭素数1〜20のアルキル基、置換基を有していても良い炭素数7〜20のアラルキル基、又は、置換基を有していても良い炭素数6〜20のアリール基を表し、前記式(1)で表される化合物で定義したものと同じである。これら光学活性α−メチルシステイン誘導体は塩であってもよく、塩としては、酸との塩、塩基との塩が挙げられる。酸としては、ハロゲン化水素酸(塩酸、臭化水素酸、フッ化水素酸等)、スルホン酸(メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸等)、硫酸、硝酸、カルボン酸(ギ酸、酢酸、プロピオン酸、シュウ酸、トリフルオロ酢酸等)等が挙げられる。塩基としては、有機塩基(アンモニア、トリエチルアミン、アニリン、ピリジン等)、アルカリ金属水酸化物(水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等)、アルカリ土類金属水酸化物(水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等)等が挙げられる。
【0052】
前記式(6)又は(11)で表される光学活性5−メチル−5−チオメチルヒダントインは、塩であってもよく、塩の種類は、前記式(1)で表される化合物の場合と同様である。
【0053】
次に、前記式(1)及び(13)で表される化合物の製造法について詳細に記載する。ラセミ体N−カルバモイル−α−アミノ酸誘導体(13)又はその塩は、前記式(12)で表されるラセミ体5,5−二置換ヒダントイン誘導体又はその塩を、有機塩基又はアルカリ金属水酸化物を用いて加水分解することにより製造することができる。
原料となるラセミ体5,5−二置換ヒダントイン誘導体(12)又はその塩は、対応するケトンから当業者周知のBucherer法により合成することができる。
【0054】
本製法においては、塩基として有機塩基又はアルカリ金属水酸化物を用いて加水分解する。当該有機塩基としては、特には限定されないが、例えばメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、ピリジン、アニリン等が挙げられる。これら有機塩基は、それぞれ単独で用いても良いし、2種類以上混合して用いても良い。
【0055】
上記アルカリ金属水酸化物としては、例えば水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウム等が挙げられる。これらアルカリ金属水酸化物は、それぞれ単独で用いても良いし、2種類以上混合して用いても良い。
【0056】
上記加水分解に用いる塩基は、収率、経済性の点から、好ましくはアルカリ金属水酸化物であり、より好ましくは、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムである。
塩基の使用量としては、特には限定されないが、基質に対して、好ましくは1〜10モル当量、より好ましくは2〜5モル当量である。
【0057】
反応溶媒は、水単独でも良いし、水と有機溶媒を混合して用いても良い。
上記溶媒として水と混合する有機溶媒は、特には限定されないが、炭化水素系溶剤、エステル系溶剤、エーテル系溶剤、アルコール系溶剤、ニトリル系溶剤、アミド系溶剤等が挙げられる。好ましくは炭化水素系溶剤である。
上記炭化水素系溶剤としては、特には限定されないが、例えばトルエン、ベンゼン、キシレン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン等が挙げられ、これらのいずれか一種を単独で用いても良いし、又は二種以上を任意の割合で混合して用いても良い。好ましくはトルエンである。
エステル系溶剤としては、ギ酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、プロピオン酸メチル等が挙げられる。
エーテル系溶剤としては、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、メチルt−ブチルエーテル等が挙げられる。
アルコール系溶剤としては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、イソプロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール等が挙げられる。
ニトリル系溶剤としては、アセトニトリル、プロピオニトリル等が挙げられる。
アミド系溶剤としては、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等が挙げられる。
反応に用いる水は、基質に対して、好ましくは0.1倍〜100倍重量であり、収率、容積効率の点から、より好ましくは0.1倍〜10倍重量、さらに好ましくは0.2〜3倍重量である。
また、基質に対して、水を0.2倍〜3倍重量、塩基を2〜5モル当量使用する場合に、最も反応は収率良く進行する。
【0058】
反応温度は、基質の種類、試材量に依存するので一概に言えないが、50℃〜150℃の条件から選択でき、好ましくは80℃〜110℃、より好ましくは85℃〜100℃である。
反応時間は、基質の種類、試材量、反応温度に依存するので一概に言えないが、1〜50時間反応させるのが好ましく、収率良く生成物を得るには、より好ましくは2〜24時間である。
反応後の後処理としては、このまま、次の反応に用いても良いし、酸を加えて中和した後に、抽出、精製により単離してもよい。また、反応混合物をろ過して該化合物を単離してもよい。
【0059】
前記式(1)で表される化合物は上記と同様にして、チオアセトン誘導体からBucherer法にて前記式(14)で表されるラセミ体5−メチル−5−チオメチルヒダントイン誘導体を製造し、これを加水分解することにより製造することができる。
【0060】
次に、ラセミ体N−カルバモイル−α−メチルシステイン誘導体(1)又はその塩を、ヒダントイナーゼによってD体選択的に環化反応させ、D−5−メチル−5−チオメチルヒダントイン誘導体(2)又はその塩及びN−カルバモイル−α−メチル−L−システイン誘導体(3)又はその塩を合成する方法について説明する。
ここでヒダントイナーゼとは、5−置換ヒダントイン誘導体又はその塩を加水分解してN−カルバモイル−α−アミノ酸誘導体を生成する活性を有する酵素である。また、本酵素は、一般に、加水分解反応の逆反応として、N−カルバモイル−α−アミノ酸誘導体を環化して5−置換ヒダントイン誘導体を生成することが知られている(特開平1−1243989号公報)。
【0061】
本発明で用いるD体選択的な環化反応を触媒するヒダントイナーゼとしては、動物、植物、又は、微生物由来のいずれでも使用できるが、工業的な利用には微生物由来のものが好ましい。酵素源となる微生物としては、当該酵素の生産能力を有する微生物であればいずれも利用できるが、例えば、以下の公知の、当該酵素の生産能力を有する微生物を挙げることができる。
【0062】
例えば、細菌に属するものとしてはアセトバクター属(Acetobacter)、アクロモバクター属(Achromobacter)、アエロバクター属(Aerobacter)、アグロバクテリウム属(Agrobacterium)、アルカリゲネス属(Alcaligenes)、アルスロバクター属(Arthrobacter)、バチルス属(Bacillus)、ブレビバクテリウム属(Brevibacterium)、コリネバクテリウム属(Corynebacterium)、エンテロバクター属(Enterobacter)、エルウイニア属(Erwinia)、エシェリヒア属(Escherichia)、クレブシエラ属(Klebsiella)、ミクロバクテリウム属(Microbacterium)、ミクロコッカス属(Micrococcus)、プロタミノバクター属(Protaminobacter)、プロテウス属(Proteus)、シュードモナス属(Pseudomonas)、サルチナ属(Sartina)、セラチア属(Serratia)、キサントモナス属(Xanthomonas)、アエロモナス属(Aeromonas)、フラボバクテリウム属(Flavobacterium)、リゾビウム属(Rhizobium)等;放線菌に属するものとしてはアクチノミセス属(Actinomyces)、ミコバクテリウム属(Mycobacterium)、ノカルデイア属(Nocardia)、ストレプトミセス属(Streptomyces)、アクチノプラネス属(Actinoplanes)、ロドコッカス属(Rhodococcus)等;かびに属するものとしてはアスペルギルス属(Aspergillus)、パエシロミセス属(Paecilomyces)、ペニシリウム属(Penicillium)等;酵母に属するものとしてはキャンディダ属(Candida)、ピキア属(Phichia)、ロードトルラ属(Rhodotorula)、トルロプシス属(Torulopsis)等が挙げられる。
好ましくは、アグロバクテリウム属(Agrobacterium)、バチルス属(Bacillus)、シュードモナス属(Pseudomonas)又はリゾビウム属(Rhizobium)に属する微生物由来の酵素が挙げられる。
より好ましくは、アグロバクテリウム・スピーシーズ(Agrobacterium sp.)KNK712(FERM BP−1900)、バチルス・スピーシーズ(Bacillus sp.)KNK245(FERM BP−4863)、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)IFO12996、シュードモナス・スピーシーズ(Pseudomonas sp.)KNK003A(FERM BP−3181)又はリゾビウム・スピーシーズ(Rhizobium sp.)KNK1415由来の酵素が挙げられる。
なお、アグロバクテリウム・スピーシーズ(Agrobacterium sp.)KNK712は、FERM BP−1900の受託番号で、1988年5月31日付で;バチルス・スピーシーズ(Bacillus sp.)KNK245は、FERM BP−4863の受託番号で、1994年11月2日付で;シュードモナス・スピーシーズ(Pseudomonas sp.)KNK003Aは、FERM BP−3181の受託番号で、1990年12月1日付で;それぞれ、日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6にある独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに、ブダペスト条約に基づいて国際寄託されている。
【0063】
上記微生物は野生株であってもよく、また、変異処理によってヒダントイナーゼ活性が高められた変異株であってもよい。さらに、遺伝子組換え等の方法を用いて、上記微生物由来のヒダントイナーゼを高生産するように作成された形質転換微生物であってもよい。
ヒダントイナーゼを効率良く高生産する形質転換微生物の作成方法としては、例えばWO96/20275記載のように、ヒダントイナーゼ活性を示す菌株からヒダントイナーゼ遺伝子をクローニングした後、適当なベクターとの組換えプラスミドを作成して、これを用いて適当な宿主菌を形質転換することで得られる。なお、組換えDNA技術については当該分野において周知であり、例えば、Molecular Cloning 2nd Edition (Cold Spring Harbor Laboratory Press,1989)、Current Protocols in Molecular Biology (Greene Publishing Associates and Wiley−Interscience)に記載されている。
【0064】
このようにして得られた、ヒダントイナーゼを高生産する形質転換微生物としては、WO96/20275記載の、バチルス・スピーシーズ(Bacillus sp.)KNK245(FERM BP−4863)由来のヒダントイナーゼ遺伝子を含有するエシェリヒア・コリ(Escherichia coli)HB101 pTH104(FERM BP−4864)、アグロバクテリウム・スピーシーズ(Agrobacterium sp.)KNK712(FERM BP−1900)由来のヒダントイナーゼ遺伝子を含有するエシェリヒア・コリ(Escherichia coli)HB101 pAH1043(FERM BP−4865)、又はシュードモナス・スピーシーズ(Pseudomonas sp.)KNK003A(FERM BP−3181)由来のヒダントイナーゼ遺伝子を含有するエシェリヒア・コリ(Escherichia coli)HB101 pPHD301(FERM BP−4866)を挙げることができる。
なお、エシェリヒア・コリ(Escherichia coli)HB101 pTH104は、FERM BP−4864の受託番号で、1994年11月2日付で;エシェリヒア・コリ(Escherichia coli)HB101 pAH1043は、FERM BP−4865の受託番号で、1994年11月2日付で;エシェリヒア・コリ(Escherichia coli)HB101 pPHD301は、FERM BP−4866の受託番号で、1994年11月2日付で;それぞれ、日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6にある独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに、ブダペスト条約に基づいて国際寄託されている。
【0065】
前述のヒダントイナーゼ活性を示す微生物、或いは、上記形質転換微生物によるヒダントイナーゼの生産は、例えば、WO96/20275に記載されているように、通常の栄養培地を用いて培養を行えば良く、必要に応じて、酵素誘導のための処理を行うこともできる。酵素誘導は、例えば、培地にウラシルを添加して培養することにより行うことができる。
【0066】
本発明において、上記微生物によって生産されたヒダントイナーゼは、酵素自体として用いることができるほか、本酵素活性を有する微生物若しくはその処理物としても用いることができる。ここで、微生物の処理物とは、例えば、粗抽出液、培養菌体凍結乾燥生物体、アセトン乾燥生物体、又はそれらの菌体の破砕物を意味する。
さらにそれらは、酵素自体あるいは菌体のまま公知の手段で固定化して得た固定化酵素として用いられ得る。なお、酵素を固定化して安定化することで、酵素反応を、より過酷な温度域で行うこと等が可能となり、反応をより効率的に進行させることができる。さらに、酵素の反復使用が可能となること、製造プロセスが簡略化できる等による製造コストの低減等のメリットも期待できる。
【0067】
固定化は当業者に周知の方法である架橋法、共有結合法、物理的吸着法、包括法等で行い得る。酵素の固定化に使用される支持体としては、例えば、Duolite A−568又はDS17186(ローム・アンド・ハース社:登録商標)等のフェノールホルムアルデヒド陰イオン交換樹脂、Amberlite IRA935、IRA945、IRA901(ローム・アンド・ハース社:登録商標)、Lewatit OC1037(バイエル社:登録商標)、Diaion EX−05(三菱化学:登録商標)等のポリスチレン樹脂のような各種アミンやアンモニウム塩あるいはジエタノールアミン型の官能基を持つ各種の陰イオン交換樹脂が適している。その他、DEAE−セルロース等の支持体も使用することができる。
【0068】
固定化酵素の好適な製造方法としては、例えば、WO96/20275に示す方法で行い得る。すなわち、ヒダントイナーゼ活性を有する菌株の培養液を集菌し、超音波等により菌体を破砕後、得られた酵素液に例えば陰イオン交換樹脂Duolite A−568を加えて攪拌して酵素を吸着させることができる。この酵素を吸着した樹脂に、例えばグルタルアルデヒド等の架橋試薬を加えて攪拌することで架橋処理を行い、さらに安定性を向上させることもできる。これらの処理を行った後に、樹脂を濾集、洗浄して、固定化ヒダントイナーゼを得ることができる。
【0069】
本発明の酵素反応は、以下の方法で行うことができる。基質として前記一般式(1)で表されるラセミ体N−カルバモイル−α−メチルシステイン誘導体又はその塩を用い、前述のヒダントイナーゼ存在下、水性媒体中で反応を行う。基質の仕込み濃度は0.1%(w/v)以上90%(w/v)以下、好ましくは1%(w/v)以上50%(w/v)以下で、溶解又は懸濁した状態で反応を行い、反応温度は10℃以上80℃以下、好ましくは20℃以上60℃以下の適当な温度で調節し、pH4以上9以下、好ましくはpH5以上8以下に保ちつつ、暫時静置又は攪拌すればよい。また、基質を連続的に添加しうる。反応は、バッチ法又は連続方式で行い得る。さらに、本発明の当該反応は、固定化酵素、膜リアクター等を利用して行うことも可能である。
【0070】
水性媒体としては、水、緩衝液(例えばリン酸緩衝液、トリス緩衝液、炭酸緩衝液等)、これらに水溶性有機溶媒(例えばエタノール、メタノール、アセトニトリル等)を含む溶媒等を用いることができる。なお、上記水性媒体は、水に溶解しにくい有機溶媒(例えば、酢酸エチル、酢酸ブチル、トルエン、クロロホルム、n−ヘキサン等)との2相系として用いることもできる。さらに必要に応じて、抗酸化剤、界面活性剤、補酵素、金属等を添加することもできる。
【0071】
かくして、ラセミ体N−カルバモイル−α−メチルシステイン誘導体(1)又はその塩は、D体のみが環化され、D−5−メチル−5−チオメチルヒダントイン誘導体(2)又はその塩と、N−カルバモイル−α−メチル−L−システイン誘導体(3)又はその塩に変換される。
【0072】
生成したN−カルバモイル−α−メチル−L−システイン誘導体(3)又はその塩は、反応液のまま、脱カルバモイル化反応に供してもよいし、常套分離方法、例えば抽出、濃縮、晶析、又はカラムクロマトグラフィー等や、それらの組み合わせにより、分離、精製することができる。
【0073】
例えば、前記式(1)においてRがt−ブチル基であるN−カルバモイル−S−t−ブチル−α−メチルシステインをヒダントイナーゼによるD体選択的環化反応の基質とした場合、反応後に不溶分として析出するD−5−メチル−5−t−ブチルチオメチルヒダントインを、ろ過により容易に除去することができる。
この場合、得られたN−カルバモイル−α−メチル−L−システインを含むろ液は、そのまま次工程に使用してもよいし、精製して次工程に使用してもよい。精製する場合、例えばpHを酸性にすることで結晶を析出させ、ろ過することにより該化合物を取得することができる。
【0074】
また、不溶分として析出したD−5−メチル−5−t−ブチルチオメチルヒダントインは、そのまま次工程に用いてもよいし、一旦アルカリ水溶液に溶解してアルカリ溶液として次の工程に用いることもできる。また、アルカリ水溶液を中和することにより、結晶として取得することもできるが、これらの方法に限られるものではない。
【0075】
次に、N−カルバモイル−α−メチル−L−システイン誘導体(3)又はその塩の脱カルバモイル化及び必要に応じた硫黄原子の脱保護による前記式(4)で表されるα−メチル−L−システイン誘導体又はその塩の製造方法について説明する。
【0076】
硫黄原子の保護基は上記Rで示されるなかから選択される。脱保護としては、脱カルバモイル化(アミノ基の脱保護)と硫黄原子の脱保護を一緒に行ってもよいし、段階的にどちらか片方を行い、続いて残りの保護基を除去してもよい。脱保護の方法は、保護基と目的により適切な方法を選択すればよい。
まず、脱カルバモイル化と硫黄原子の脱保護を一緒に行う方法について説明する。本発明者らは検討を重ねる中で、硫黄原子の保護基(R)として、t−ブチル基等に代表される炭素数4〜15の3級アルキルを用いた場合、N−カルバモイル−α−メチル−L−システイン誘導体(3)又はその塩を酸で処理することにより、脱カルバモイル化(アミノ基の脱保護)と硫黄原子の脱保護を一段階で行えることを見出した。
【0077】
本方法で用いる酸としては、例えば塩酸,硫酸,臭化水素酸,硝酸,酢酸,トリフルオロ酢酸等を挙げることができ、前記から選ばれる任意の1種を単独で用いても良いし、あるいは2種以上を任意の割合で混合して用いても良い。反応性、経済性から、好ましくは塩酸又は臭化水素酸であり、より好ましくは塩酸である。塩酸、臭化水素酸は、市販の濃塩酸、濃臭化水素酸を反応溶媒を兼ねて使用することができる。水や有機溶剤を添加しても良いが、反応性の観点からは反応溶媒を兼ねるのが好適である。
【0078】
反応条件としては、例えば、硫黄原子の保護基がt−ブチル基であるN−カルバモイル−S−t−ブチル−α−メチルシステインを塩酸で処理することにより一段階でα−メチルシステイン塩酸塩を得る場合、反応温度は、好ましくは70℃〜180℃、より好ましくは90℃〜150℃である。反応時間は、例えば100℃〜110℃、常圧で反応を行った場合、2〜4日間程度が好ましく、耐圧反応器を用いて、より高温で反応を行うことにより、反応時間を短くすることができる。
【0079】
次に、まずN−カルバモイル−α−メチル−L−システイン誘導体(3)又はその塩の脱カルバモイル化を行って、前記式(4)においてRが前記式(1)におけるRと同じであるα−メチル−L−システイン誘導体又はその塩とした後に、硫黄原子の脱保護を行い、前記式(5)で表されるα−メチル−L−システイン又はその塩を得る方法について説明する。
【0080】
この場合、脱カルバモイル化はカルバモイル基を除去でき得る方法であれば特に制限されるものではないが、例えば、亜硝酸酸化法、アルカリ加水分解法及び酸加水分解法が挙げられる。硫黄原子上の保護基がt−ブチル基等の3級アルキル基の場合、塩酸等による酸加水分解法では、硫黄原子上の脱保護が進行する傾向にあるので、脱カルバモイル化のみを行いたい場合は、他の方法を用いることが好ましい。
【0081】
亜硝酸酸化法は、通常の脱カルバモイル化に用いられる反応条件が利用できる。例えば、亜硝酸単独、又は、亜硝酸の塩と適当な酸の組み合わせを用いることができるが、亜硝酸塩と酸の組み合わせを用いることが好ましい。
亜硝酸塩としては、亜硝酸ナトリウム、亜硝酸カリウム、亜硝酸カルシウム、亜硝酸セシウム、亜硝酸マグネシウム、亜硝酸バリウム等が挙げられ、亜硝酸カリウム、亜硝酸ナトリウムが好ましい。また組み合わせる酸としては、酢酸、塩酸、硫酸、臭化水素酸等が好ましく、特に好ましくは塩酸である。溶媒としては特に制限されるものではないが、基質の溶解性から、水又はアルコール(例えばメタノール、エタノール、イソプロパノール等)を用いることが好ましい。
亜硝酸酸化法の反応温度は、−5℃〜100℃の範囲で行うことが好ましく、生成物の安定性、収率向上の面から、より好ましくは0℃〜50℃の範囲である。
【0082】
アルカリ加水分解法で用いるアルカリとしては、特に限定されないが、例えば水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム、水酸化バリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム等が好ましく、より好ましくは水酸化リチウムである。
アルカリ加水分解の反応温度は、−5℃〜150℃の範囲で行うことが好ましく、生産性及び収率向上の面から、より好ましくは80℃〜120℃の範囲である。
【0083】
前記式(4)においてRが前記式(1)におけるRと同じである化合物は、そのまま次工程に用いてもよいし、精製して次工程に用いてもよい。精製する場合、例えばRがt−ブチル基である場合、アルカリ加水分解後の反応溶液のpHを、酸を加えることにより下げることで、前記式(4)においてRがt−ブチル基であるα−メチル−L−システイン誘導体又はその塩を結晶として得ることができる。
【0084】
この場合、アルカリ加水分解に用いるアルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム、水酸化バリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム等のなかから任意に選ばれる。また、アルカリ加水分解後の反応溶液に加える酸としては、塩酸、硫酸、臭化水素酸、硝酸、酢酸、トリフルオロ酢酸等を挙げることができ、前記から選ばれる任意の1種を単独で用いても良いし、あるいは2種以上を任意の割合で混合して用いても良いが、中和時に生成する無機塩が水に対して良好な溶解度を有し、脱塩が容易であることから、アルカリとして水酸化リチウム、酸として塩酸の組み合わせを用いることが好ましい。
【0085】
ここでいう「中和」とは、反応液のpHを結晶が析出する領域に調整することを表す。前記式(4)においてRがt−ブチル基であるα−メチル−L−システイン誘導体又はその塩を結晶として収率良く得るためには、pHの上限は9.5以下が好ましく、7.0以下がより好ましい。pHの下限は通常、1.0以上であり、2.0以上が好ましく、3.0以上がより好ましい。
【0086】
以上のようにして脱カルバモイル化した後、さらに硫黄原子の脱保護が必要な場合は、例えば反応液をそのまま、又は、一旦α−メチル−L−システイン誘導体を単離した後、保護基に応じた反応条件で硫黄原子の脱保護を行うことができる。
【0087】
例えば、保護基がt−ブチル基等の3級アルキル基の場合、酸で処理することにより硫黄原子の脱保護を行うことができる。酸としては、塩酸,硫酸,臭化水素酸,硝酸,酢酸,トリフルオロ酢酸等を挙げることができ、前記から選ばれる任意の1種を単独で用いても良いし、あるいは2種以上を任意の割合で混合して用いても良い。好ましくは塩酸又は臭化水素酸であり、より好ましくは塩酸である。塩酸、臭化水素酸の場合は、市販の濃塩酸、濃臭化水素酸を反応溶媒を兼ねて使用することもできる。水や有機溶剤を添加しても良いが、反応性の観点からは、溶媒を兼ねるのが好適である。反応温度は、好ましくは50℃〜120℃、より好ましくは80℃〜100℃である。
【0088】
次に、前記式(3)で表されるN−カルバモイル−α−メチル−L−システイン誘導体又はその塩から、L−5−メチル−5−チオメチルヒダントイン(6)又はその塩を経由することによる、α−メチル−L−システイン(5)又はその塩の製造方法について説明する。
まず、N−カルバモイル−α−メチル−L−システイン誘導体(3)又はその塩の硫黄原子の脱保護と環化反応を一段階で行う方法について説明する。硫黄原子上の保護基がt−ブチル基に代表される3級アルキル基の場合、酸で処理することにより脱保護と環化を同時に行うことが可能である。
【0089】
用いる酸としては、例えば塩酸,硫酸,臭化水素酸,硝酸,酢酸,トリフルオロ酢酸等を挙げることができ、前記から選ばれる任意の1種を単独で用いても良いし、あるいは2種以上を任意の割合で混合して用いてもよい。好ましくは塩酸である。塩酸、臭化水素酸の場合は、市販の濃塩酸、濃臭化水素酸を反応溶媒を兼ねて用いることができる。水や有機溶剤を添加しても良いが、反応性の観点からは、反応溶媒を兼ねるのが好適である。
【0090】
反応温度は特に限定されるものではないが、L−5−メチル−5−チオメチルヒダントイン(6)又はその塩の加水分解を抑制するためには、温和な条件が良く、例えば0℃〜100℃、好ましくは60℃〜90℃の範囲で数時間反応を行い、目的物が主たる生成物となった時点で反応を停止すればよい。
【0091】
次に、環化のみを先に行いL−5−メチル−5−チオメチルヒダントイン誘導体(7)又はその塩を得た後に、硫黄原子の脱保護を行う方法を説明する。硫黄原子上の保護基がt−ブチル基に代表される3級アルキル基の場合、酸で環化を行うと先に硫黄原子の脱保護が進行するため、アルカリで処理することが好ましい。
用いるアルカリとしては、特に制限されるものではなく、例えば水酸化ナトリウム,水酸化カリウム,水酸化リチウム,水酸化マグネシウム,水酸化バリウム,水酸化カルシウム等が挙げられるが、入手の容易さ、価格の面等から、水酸化ナトリウム,水酸化カリウムあるいは水酸化リチウムが好ましい。
【0092】
環化の際の反応温度としては、好ましくは0℃〜100℃、より好ましくは60℃〜90℃である。また、溶媒は、水単独でも良いし、有機溶媒との混合溶媒でも良い。好ましくは水単独である。
L−5−メチル−5−チオメチルヒダントイン誘導体(7)又はその塩は、そのまま次工程に用いてもよいし、有機溶媒で抽出後に次工程に用いてもよいし、晶析等により単離してから次工程に用いてもよい。
得られた(7)又はその塩をさらに酸で処理することにより硫黄原子の脱保護が進行し、L−5−メチル−5−チオメチルヒダントイン(6)又はその塩を得ることができる。
【0093】
用いる酸としては、塩酸,硫酸,臭化水素酸,硝酸,酢酸,トリフルオロ酢酸等が挙げられ、前記から選ばれる任意の1種を単独で用いても良いし、あるいは2種以上を任意の割合で混合して用いても良い。収率や価格の面から塩酸が好ましい。酸処理は、前述の脱保護と環化を一段階で行う場合と同様の条件にて、好適に実施できる。
【0094】
以上のようにして得られたL−5−メチル−5−チオメチルヒダントイン(6)又はその塩は、酸又はアルカリで加水分解することにより、α−メチル−L−システイン(5)又はその塩に変換できる。好ましくは酸による加水分解である。
【0095】
酸としては、例えば塩酸、硫酸、臭化水素酸、硝酸、酢酸、トリフルオロ酢酸等が挙げられ、前記から選ばれる任意の1種を単独で用いても良いし、あるいは2種以上を任意の割合で混合して用いても良い。塩酸又は臭化水素酸が好ましく、塩酸がより好ましい。また、アルカリとしては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等が好ましい。
【0096】
次に、D−5−メチル−5−チオメチルヒダントイン誘導体(2)又はその塩の加水分解反応を行い、得られた前記式(8)においてRが前記式(1)におけるRと同じであるα−メチル−D−システイン誘導体又はその塩の硫黄原子の脱保護を行うことによるα−メチル−D−システイン又はその塩の製造方法について説明する。
加水分解は、通常、アルカリを用いて行われる。加水分解に用いるアルカリは特に制限されるものではないが、例えば水酸化ナトリウム,水酸化カリウム,水酸化リチウム,水酸化バリウム,水酸化マグネシウム,水酸化カルシウム等が挙げられ、好ましくは水酸化ナトリウム,水酸化カリウム,水酸化リチウムである。反応後に生成物の晶析を行う際に、生じる無機塩不純物が水に対して良好な溶解度を有することから、水酸化リチウムを用いることが特に好ましい。
【0097】
溶媒は、水単独でも良いし、有機溶媒との混合溶媒でも良い。好ましくは水単独である。
反応温度としては、好ましくは−5℃〜150℃、より好ましくは80℃〜120℃である。
【0098】
例えば、Rがt−ブチル基の場合、得られたα−メチル−S−t−ブチル−D−システインは、加水分解反応後に反応液に酸を加えてpHを下げることにより、結晶として取得することができる。
ここで用いる酸は、反応液のpHを下げ得るものであれば特に限定されるものではないが、例えば塩酸,硫酸,臭化水素酸,硝酸,酢酸,トリフルオロ酢酸等が挙げられ、前記から選ばれる任意の1種を単独で用いても良く、あるいは2種以上を任意の割合で混合して用いても良い。加水分解に水酸化リチウムを用いた場合、中和時に生成する無機塩不純物が水に対して良好な溶解度を有し、結晶中に混入しにくいことから塩酸を用いることが好ましい。
【0099】
ここでいう「中和」とは、反応液のpHを結晶が析出する領域に調整することを表す。α−メチル−S−t−ブチル−D−システインを結晶として収率良く得るためには、pHの上限は9.5以下が好ましく、7.0以下がより好ましい。pHの下限は通常、1.0以上であり、2.0以上が好ましく、3.0以上がより好ましい。
【0100】
かくして、得られた前記式(8)においてRがRと同じである化合物は、硫黄原子の脱保護を行うことによりα−メチル−D−システイン(9)又はその塩に変換することが出来る。脱保護の方法は、硫黄原子上の保護基に応じて選択されるが、保護基としてt−ブチル基等の3級アルキル基を用いた場合、酸で処理することにより容易に脱保護することができる。
【0101】
本方法で用いる酸としては、例えば塩酸,硫酸,臭化水素酸,硝酸,酢酸,トリフルオロ酢酸等を挙げることができ、前記から選ばれる任意の1種を単独で用いても良いし、あるいは2種以上を任意の割合で混合して用いても良い。反応性、経済性から、好ましくは塩酸又は臭化水素酸であり、より好ましくは塩酸である。塩酸、臭化水素酸を用いる場合は、市販の濃塩酸、濃臭化水素酸を反応溶媒を兼ねて使用することができる。水や有機溶剤を添加しても良いが、反応性の観点からは、溶媒を兼ねるのが好適である。
反応温度としては、好ましくは70℃〜180℃、より好ましくは90℃〜150℃である。
【0102】
次に、D−5−メチル−5−チオメチルヒダントイン誘導体(2)又はその塩の加水分解反応と硫黄原子の脱保護を酸により一段階で行う方法を説明する。例えば、前記式(2)におけるRがt−ブチル基に代表される炭素数4〜15の3級アルキル基の場合、酸で処理することにより一段階でα−メチル−D−システイン(9)又はその塩を得ることができる。
【0103】
ここで用いる酸は、例えば塩酸,硫酸,臭化水素酸,硝酸,酢酸,トリフルオロ酢酸等を挙げることができ、前記から選ばれる任意の1種を単独で用いても良いし、あるいは2種以上を任意の割合で混合して用いても良い。好ましくは塩酸又は臭化水素酸であり、より好ましくは塩酸である。塩酸、臭化水素酸を用いる場合は、市販の濃塩酸、濃臭化水素酸を反応溶媒を兼ねて使用することがでできる。水や有機溶剤を添加しても良いが、反応性の観点からは、溶媒を兼ねるのが好適である。
反応温度としては、好ましくは70℃〜180℃、より好ましくは90℃〜150℃である。
【0104】
次に、D−5−メチル−5−チオメチルヒダントイン誘導体(2)又はその塩から、硫黄原子の脱保護を行ってD−5−メチル−5−チオメチルヒダントイン(11)又はその塩とし、さらに該化合物を加水分解することによりα−メチル−D−システイン(9)又はその塩を製造する方法について説明する。
【0105】
まず、D−5−メチル−5−チオメチルヒダントイン誘導体(2)又はその塩の硫黄原子の脱保護のみを選択的に行い、D−5−メチル−5−チオメチルヒダントイン(11)又はその塩を得る方法について説明する。前述したように、硫黄原子の保護基がt−ブチル基等の3級アルキル基である場合、酸で処理することにより容易に脱保護が可能である。
【0106】
用いる酸としては、例えば塩酸,硫酸,臭化水素酸,硝酸,酢酸,トリフルオロ酢酸等を挙げることができ、前記から選ばれる任意の1種を単独で用いても良いし、あるいは2種以上を任意の割合で混合して用いても良い。好ましくは塩酸である。塩酸、臭化水素酸を用いる場合は、市販の濃塩酸、濃臭化水素酸を反応溶媒を兼ねて使用することができる。水や有機溶剤を添加しても良いが、反応性の観点からは、溶媒を兼ねるのが好適である。
【0107】
反応条件は、加水分解を抑制し、選択性良くD−5−メチル−5−チオメチルヒダントイン(11)を得られる比較的温和な条件であれば特に限定されるものではないが、100℃以下で数時間反応を行い、目的物が主たる生成物となった時点で反応を停止すればよい。
【0108】
次いで、D−5−メチル−5−チオメチルヒダントイン(11)又はその塩を加水分解して、α−メチル−D−システイン(9)又はその塩を製造する。
【0109】
加水分解は、酸加水分解、アルカリ加水分解のいずれも可能である。酸加水分解の場合、酸としては、例えば塩酸、硫酸、臭化水素酸、硝酸、酢酸、トリフルオロ酢酸等を挙げることができ、前記から選ばれる任意の1種を単独で用いても良いし、あるいは2種以上を任意の割合で混合して用いても良い。反応性、経済性から好ましくは塩酸または臭化水素酸であり、更に好ましくは塩酸である。塩酸、臭化水素酸を用いる場合は、市販の濃塩酸、濃臭化水素酸を溶媒を兼ねて使用することができる。水や有機溶剤を添加しても良いが、反応性の観点からは、溶媒を兼ねるのが好ましい。反応温度は、好ましくは70℃〜180℃、更に好ましくは、90℃〜150℃である。反応時間は、例えば100℃〜110℃、常圧で反応を行う場合、2〜4日間程度が好ましく、耐圧反応器を用いてより高温で反応を行うことにより、反応時間を短縮することができる。
【0110】
次に、まずD−5−メチル−5−チオメチルヒダントイン誘導体(2)又はその塩の加水分解を先に行うことにより、前記式(8)で表されるα−メチル−D−システイン誘導体又はその塩を得た後に、カルバモイル化して、N−カルバモイル−α−メチル−D−システイン誘導体(10)又はその塩で表される化合物に変換し、次いで、環化及び硫黄原子の脱保護を行うことによりD−5−メチル−5−チオメチルヒダントイン(11)又はその塩を得る方法について説明する。
この場合、D−5−メチル−5−チオメチルヒダントイン誘導体(2)又はその塩からα−メチル−D−システイン誘導体(8)又はその塩への変換は、既に記載した方法で行うことができる。
【0111】
α−メチル−D−システイン誘導体(8)又はその塩のカルバモイル化は、シアン酸のアルカリ金属塩及び酸を用いて行うことができる。シアン酸のアルカリ金属塩としては、例えばイソシアン酸カリウム、シアン酸カリウム、シアン酸ナトリウム等が挙げられる。酸としては、例えば塩酸、硫酸、臭化水素酸、硝酸、酢酸、トリフルオロ酢酸等が挙げられる。これらを用いて、通常のカルバモイル化反応条件(例えば、水溶媒中、0〜100℃)に付すことにより、カルバモイル化する。
【0112】
N−カルバモイル−α−メチル−D−システイン誘導体(10)又はその塩の環化及び硫黄原子の脱保護は、前述のN−カルバモイル−α−メチル−L−システイン誘導体(3)又はその塩からL−5−メチル−5−チオメチルヒダントイン(6)への変換で記載した方法と同様にして行うことができる。
【0113】
次に、光学活性α−メチルシステイン又はその塩の晶析方法について詳細に説明する。光学活性α−メチルシステイン又はその塩の水溶液から、有機溶剤の共存下に、これらの晶出を行うことにより、光学活性α−メチルシステイン又はその塩を容易に取得することが可能である。
【0114】
光学活性α−メチルシステイン又はその塩としては、特には限定されないが、光学活性α−メチルシステイン、光学活性α−メチルシステインの酸との塩、光学活性α−メチルシステインの塩基との塩が挙げられるが、好ましくは酸との塩である。また、光学活性α−メチルシステインは、L体、D体のいずれでもよい。
前記の酸との塩の酸としては、ハロゲン化水素酸、スルホン酸、硫酸、硝酸、カルボン酸等が挙げられるが、好ましくはハロゲン化水素酸である。
前記ハロゲン化水素酸としては、塩酸、臭化水素酸、フッ化水素酸等が挙げられるが、好ましくは塩酸である。
スルホン酸としては、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸等が挙げられ、カルボン酸としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、シュウ酸、トリフルオロ酢酸等が挙げられる。また、塩基との塩の塩基としては、アンモニア、トリエチルアミン、アニリン、ピリジン等が挙げられる。
【0115】
光学活性α−メチルシステイン又はその塩の水溶液は、その調製法は特には限定されない。例えば、前記従来の技術1)〜6)の方法により得られるα−メチルシステイン誘導体又はその塩、若しくは保護体を、適切に変換、脱保護して得られる水溶液である。また、本明細書記載の方法に従い得られる該化合物の水溶液であってもよい。好ましくは、本明細書記載の方法により製造された光学活性α−メチルシステイン又はその塩の水溶液である。
【0116】
本晶析方法においては、光学活性α−メチルシステイン又はその塩の水溶液を、有機溶剤との共存下に濃縮することにより、水を系外に除去すると共に、有機溶剤に置換する。これにより、当該化合物が塊状化することを抑制して、取り出し及びろ過が容易なスラリーを得ることができる。得られたスラリーをろ過後、洗浄、乾燥し、光学活性α−メチルシステイン又はその塩を結晶として取得することが可能である。
本晶析方法の実施にあたっては、有機溶剤の添加に先立ち、光学活性α−メチルシステイン又はその塩の水溶液を予備的に濃縮しておくこともできる。この場合、該化合物の重量濃度が10重量%以上、より好ましくは30重量%以上となる程度に水溶液を濃縮するのが好ましい。
【0117】
置換する有機溶剤の種類は、特には限定されないが、好ましくは水と共沸することができ、共沸時の水の組成が5.0重量%以上の溶媒である。また、水と相溶性の低い又はない有機溶剤がさらに好ましい。
前記水と相溶性の低い又はない有機溶剤として、炭化水素系溶剤、エステル系溶剤、又はエーテル系溶剤等が挙げられる。水と相溶性が低く、光学活性α−メチルシステイン又はその塩の溶解性が低く、溶剤の回収再利用が容易である点から、好ましくは炭化水素系有機溶剤である。
炭化水素系有機溶剤としては、特には限定されないが、例えばトルエン、ベンゼン、キシレン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタンのいずれかの一種又は二種以上混合して用いても良い。好ましくは経済性の点からトルエンである。
エステル系溶剤としては、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸イソブチル等が挙げられる。
エーテル系溶剤としては、ジプロピルエーテル、ジブチルエーテル、1,4−ジオキサン、メチルt−ブチルエーテル等が挙げられる。
これら上記溶剤は、各々単独で用いても良いし、同種または異種の溶剤を任意の割合で混合して用いても良い。
【0118】
有機溶剤への置換は、一度に行っても良いし、複数回に分けて行っても良い。また、置換する有機溶剤の使用量は、有機溶剤の種類、濃縮の減圧度、内温により異なるので一概には言えないが、例えばトルエンの場合、一回の投入量として、水溶液の全重量に対して、好ましくは0.1〜100倍重量であり、より好ましくは0.2〜10倍重量である。
有機溶剤添加後、水を系外に除去しつつ、光学活性α−メチルシステイン又はその塩を晶出させるときの濃度としては、溶質としての光学活性α−メチルシステイン又はその塩が0.1〜70重量%、好ましくは1〜70重量%である。
上記操作により、系外に水を除去した後に最終的に残存する水の量としては、光学活性α−メチルシステイン又はその塩に対して、100重量%以下であることが好ましく、得られる結晶の性状、ろ過性、晶出率、スラリーの流動性の点からは、40重量%以下まで水を系外に除去することがより好ましい。
【0119】
濃縮を行う際の蒸発速度としては、装置の能力に依存するので一概には言えないが、蒸発速度を大きくすると、発泡が激しくなり得られるスラリーの流動性が極めて悪くなり、また塊状化する傾向にある。したがって、蒸発速度を、単位蒸発面積及び単位時間あたりの速度として1000L/h・m以下に制御するのが好ましい。600L/h・m以下がより好ましく、300L/h・m以下が更に好ましく、100L/h・m以下が特に好ましい。
【0120】
有機溶剤投入後濃縮を行う際の減圧度としては、通常500mmHg以下であり、好ましくは200mmHg以下である。下限は特に制限されないが、通常0.1mmHg以上である。
濃縮時の温度は、減圧度、装置の能力に依存するが、取り扱いが容易な、高品質の結晶を取得する為には、0℃〜150℃であり、好ましくは10℃〜100℃、より好ましくは30〜70℃である。
【0121】
次に、光学活性α−メチルシステイン又はその塩の水溶液から、無機塩を除去した後に、該化合物を晶析取得する方法について下記に詳細に記載する。光学活性α−メチルシステイン又はその塩の水溶液に有機溶剤を添加し、濃縮を行い、水を系外に除去すると共に有機溶剤に置換する。このとき、難溶性無機塩の大半は析出しており、ろ過等の方法により無機塩を除去することができる。そして、得られたろ液から、貧溶媒添加、冷却、又は濃縮等の操作により、該化合物を晶出させることにより、光学活性α−メチルシステイン又はその塩を結晶として取得することができる。
上記操作により、有機溶剤を添加し、系外に水を除去するとき最終的に残存する水の量としては、光学活性α−メチルシステイン又はその塩に対して、好ましくは100重量%以下であり、除去すべき無機塩の析出量の点から、40重量%以下まで水を系外に除去することがより好ましい。
【0122】
置換する有機溶剤の種類は、特には限定されないが、無機塩が難溶又は不溶で、かつ、光学活性α−メチルシステイン塩酸塩が可溶な物性を有している点で、水と相溶性のある有機溶剤が好ましい。より好ましくは、アルコール系溶剤単独、水と相溶性のあるエーテル系溶剤単独、又は、各々を任意に混合した溶剤である。
アルコール系溶剤としては、例えばメチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、イソブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、t−ブチルアルコール等が挙げられる。これらの中から任意に1種を単独で用いても良いし、2種以上を任意の割合で混合して用いても良いが、脱水効率、経済性、エステル化等の副反応を低減する観点から、好ましくはイソプロピルアルコールである。
上記水と相溶性のあるエーテル系溶剤としては、例えば、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、メチル−t−ブチルエーテル等が挙げられる。これらの中から任意に1種を単独で用いても良いし、2種を任意の割合で混合して用いても良いが、脱水効率、経済性の点から、好ましくはテトラヒドロフランである。
【0123】
難溶性無機塩を除去後、得られるろ液から、光学活性α−メチルシステイン又はその塩を晶出させる方法としては特には限定されず、例えば貧溶媒添加、冷却、又は濃縮等の一般的な晶析操作が実施可能であるが、好ましくは貧溶媒を添加する方法である。
上記貧溶媒としては、特には限定されず、炭化水素系溶剤、エステル系溶剤、水と相溶性のない又は低いエーテル系溶剤等が挙げられる。結晶の析出量、純度の点から、好ましくは炭化水素系溶剤及びエステル系溶剤である。より好ましくは炭化水素系溶剤である。
上記炭化水素系溶剤としては、特には限定されないが、例えばトルエン、ベンゼン、キシレン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン等が挙げられ、好ましくはトルエン、キシレン、ヘキサン、へプタン、より好ましくはトルエンである。
上記エステル系溶剤としては、特には限定されないが、例えば酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル等が挙げられ、好ましくは酢酸エチルである。
水と相溶性のない又は低いエーテル系溶剤としては、特には限定されないが、例えばジプロピルエーテル、ジブチルエーテル、1,4−ジオキサン、メチルt−ブチルエーテル等が挙げられる。
これら上記溶剤は、各々単独で用いても良いし、同種または異種の溶剤を任意の割合で混合して用いても良い。
【0124】
光学活性α−メチルシステイン又はその塩を晶出させるときの当該化合物の濃度としては、温度、溶媒比等により異なるが、溶液全体に対して、通常0.1〜70重量%、好ましくは1〜70重量%、より好ましくは2〜70重量%である。
【0125】
本発明の晶析方法によれば、高純度の光学活性α−メチルシステイン又はその塩を工業的に実施可能な工程で良好に取得できる。また、本発明の晶析方法で取得した結晶中の対応するジスルフィド体含有量は、1.0モル%以下、好ましくは0.5モル%以下、より好ましくは0.1モル%以下である。ジスルフィド体の含有量の低い光学活性α−メチルシステイン又はその塩を得るために好ましい形態は、酸との塩であり、より好ましくはハロゲン化水素酸との塩、さらに好ましくは塩酸との塩である。
【発明の効果】
【0126】
本発明によれば、安価で入手容易な原料から簡便かつ工業的に実施可能な方法によって、医薬品等の中間体として有用な光学活性α−メチルシステイン誘導体又はその塩のD体、L体両方を製造することができる。また、該化合物を工業的実施可能な形態で、晶析取得することができる。
【発明を実施するための形態】
【0127】
以下に実施例を挙げ、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0128】
(参考例1)ラセミ体5−メチル−5−t−ブチルチオメチルヒダントインの製造方法
窒素風船を備えた反応容器に、5wt%水酸化ナトリウム水溶液(9.6g,12mmol)、t−ブチルメルカプタン(1.13mL,10mmol)を0℃で混合し、10分間攪拌した。クロロアセトン(0.79mL,10mmol)を加え、室温に昇温し2時間反応させた。このとき反応溶液は淡黄色で二相分離していた。反応容器にジムロート型冷却管を備え、NaCN(588mg,12mmol)、(NH)HCO(2.77g,35mmol)、28%アンモニア水(3.1mL)を加え、均一な溶液とした後、55−60℃に昇温した。6時間加熱攪拌した後、0℃に冷却し、反応溶液に濃塩酸を加えpH=7.0−7.6に調整した。生成した白色結晶を濾別し、H NMR分析を行ったところ目的物(1.84g、収率84.8%)であった。
【0129】
(参考例2)5−(2−メトキシフェニルメチル)−5−メチル−ヒダントインの製造方法
2−メトキシフェニルアセトン(16.4g、100mmol)と水164gを混合し、これにNaCN(5.88g、120mmol)、(NH)HCO(27.7g、350mmol)、28%アンモニア水27.7gを加えた。50℃で4時間、60℃で12時間攪拌した後に、23℃まで放冷し、濃塩酸を加えpH7.5に調整した。析出した固体をろ取し、トルエンで洗浄した後に、減圧乾燥し、標題化合物22.10g(収率94.5%)を得た。
H NMR(300MHz,CDCl) δ:7.10−6.88(m,4H),5.49(brs,1H),3.86(s,3H),3.20(d,1H),2.97(d,1H),1.49(s,3H)。
【0130】
(参考例3)ラセミ体N−カルバモイル−S−t−ブチル−α−メチルシステインの製造方法
ラセミ体5−メチル−5−チオメチルヒダントイン(4.77g,22.1mmol)を10%水酸化ナトリウム水溶液(75g)に溶解し、72時間還流させた。室温まで放冷後、反応液を一部抜き取り、HPLC(カラム:コスモシルAR−II(ナカライ社製)、移動相:リン酸二水素カリウム・リン酸水溶液(pH2.0)/アセトニトリル=97/3、流速:1.0ml/min、検出波長:210nm、カラム温度:40℃、保持時間21.15分)にてラセミ体S−t−ブチル−α―メチルシステインの生成を確認した。濃塩酸にてpHを8に調整した後、溶液を70℃に加熱、シアン酸カリウム(2.07g)を蒸留水(10mL)に溶解した溶液を20分かけて滴下した。滴下終了後、5時間攪拌した後、反応液の一部を抜き取りHPLCにて分析したところ未反応のアミノ酸が認められたので、さらにシアン酸カリウム(4.14g)を蒸留水(20mL)に溶かした溶液を20分かけて滴下した。滴下終了後、さらに1時間攪拌し室温まで放冷、濃塩酸にてpHを2とし、析出した固体をろ取した。得られた固体を水洗、乾燥させH NMRで分析したところ目的物であることがわかった(3.38g、収率66%)。
【0131】
(実施例1)N−カルバモイル−S−t−ブチル−α−メチル−L−システイン及びD−5−t−ブチルチオメチル−5−メチルヒダントインの製造方法
WO96/20275記載の培養方法と固定化酵素の調製方法に従い、バチルス sp.KNK245株(FERM BP−4863)を培養、集菌後、超音波破砕して得た酵素液に、固定化用担体である陰イオン交換樹脂、Duolite A−568を添加して酵素を吸着させ、さらにグルタルアルデヒドで架橋処理することで固定化ヒダントイナーゼを得た。
【0132】
次に、参考例2で得たラセミ体のN−カルバモイル−S−t−ブチル−α−メチルシステイン15mgに0.1Mリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)1.5mlと0.5M硫酸マンガン水溶液0.003mlを加え10N水酸化ナトリウム水溶液によりpH6.5に調整した溶液に、上記の様にして得られた固定化ヒダントイナーゼ200mg(湿重量)を加えて、40℃、48時間攪拌して反応させた。反応中は6N塩酸によりpHを6.5付近に保った。反応液をHPLC分析(カラム:COSMOSIL 5C8−MS、移動相:アセトニトリル/10mMリン酸二水素カリウム水溶液=3/7、流速:0.8ml/min、検出波長:210nm、カラム温度:40℃)した結果、N−カルバモイル−S−t−ブチル−α−メチルシステインの残存率は41%であった。さらに、反応液中N−カルバモイル−S−t−ブチル−α−メチルシステインの光学純度をHPLC分析(カラム:CHIRALPAK AS(ダイセル社製)、移動相:ヘキサン/イソプロパノール/トリクロロ酢酸=7/3/0.01、流速:0.5ml/min、検出波長:210nm、カラム温度:30℃)したところ96.7%eeであった。また、得られた光学活性N−カルバモイル−S−t−ブチル−α−メチルシステインがL体であることを、実施例9及び10に示す方法でメチルシステインに誘導して旋光度を測定することで確認した。
【0133】
一方、上記酵素反応中に生成し析出した化合物を酢酸エチルで抽出した後、キラルHPLCで分析(カラム:CHIRALPAK AD(ダイセル社製)、移動相:ヘキサン/イソプロパノール=10/3、流速:1ml/min、検出波長:210nm、カラム温度:30℃)したところ、溶出時間が標品と一致したことから光学活性5−t−ブチルチオメチル−5−メチルヒダントインであることを確認した(面積比から化学純度88%、光学純度100%ee)。また、得られた光学活性5−t−ブチルチオメチル−5−メチルヒダントインがD体であることを、別途合成した標品とのHPLC分析(カラム:CHIRALPAK AD(ダイセル社製)、移動相:ヘキサン/イソプロパノール=10/1、流速:1ml/min、検出波長:210nm、カラム温度:30℃、D体:14.7分、L体:25.3分)による保持時間の比較により確認した。
N−カルバモイル−S−t−ブチル−α−メチル−L−システイン:H NMR(300MHz,CDOD)δ:3.22(d,1H),3.16(d,1H),1.52(s,3H),1.29(s,9H)
D−5−t−ブチルチオメチル−5−メチルヒダントイン:H NMR(300MHz,CDCl with 3 drops of CDOD)δ:2.90(d,1H),2.80(d,1H),1.49(s,3H),1.30(s,9H)。
【0134】
(実施例2)形質転換微生物エシェリヒア・コリ HB101 pTH104を用いたN−カルバモイル−S−t−ブチル−α−メチル−L−システインの製造方法
バチルス sp.KNK245株(FERM BP−4863)のヒダントイナーゼ遺伝子を組み込んだ形質転換微生物エシェリヒア・コリ HB101 pTH104(FERM BP−4864)を10ml液体培地(10g/l トリプトン、10g/l イーストエキス、5g/l NaCl、pH7を120℃で15分間殺菌後、100mg/l アンピシリンをろ過滅菌にて添加)に植菌し、37℃にて18時間振とう培養した。この培養液1mlを、500ml容坂口フラスコ中、120℃で15分間殺菌した50ml液体培地(10g/l トリプトン、10g/l イーストエキス、5g/l NaCl、pH7)に植菌し、37℃にて24時間振とう培養した。この培養液1mlから遠心分離により得られた菌体を1.5mlの0.1Mリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)に懸濁し、ラセミ体のN−カルバモイル−S−t−ブチル−α−メチルシステイン150mgと0.5M硫酸マンガン水溶液0.003mlを添加後、10N水酸化ナトリウム水溶液によりpHを6.5に調整した。そして、6N塩酸によりpHを6.5付近に保ちつつ、40℃で24時間攪拌して反応させた。反応液をHPLC分析(カラム:COSMOSIL 5C8−MS、移動相:アセトニトリル/10mMリン酸二水素カリウム水溶液=3/7、流速:0.8ml/min、検出波長:210nm、カラム温度:40℃)した結果、N−カルバモイル−S−t−ブチル−α−メチルシステインの残存率は49%であった。さらに、反応液中N−カルバモイル−S−t−ブチル−α−メチルシステインの光学純度をHPLC分析(カラム:CHIRALPAK AS(ダイセル社製)、移動相:ヘキサン/イソプロパノール/トリクロロ酢酸=7/3/0.01、流速:0.5ml/min、検出波長:210nm、カラム温度:30℃)したところ94.6%eeであり、また、実施例1で得られたN−カルバモイル−S−t−ブチル−α−メチル−L−システインとの保持時間の比較からL体であることを確認した。
【0135】
(実施例3)バチルス属細菌を用いたN−カルバモイル−S−t−ブチル−α−メチル−L−システインの製造方法
バチルス sp.KNK245株(FERM BP−4863)の乾燥保存菌体を、500ml容坂口フラスコ中、120℃で15分間殺菌した100ml液体培地(10g/l ポリペプトン、10g/l 肉エキス、5g/l イーストエキス、pH7.5)に植菌し、45℃にて15時間振とう培養した。この培養液2mlを、上記培地成分にさらに1g/l ウラシル、20mg/l 塩化マンガンを加えた培地に植菌し、45℃にて24時間振とう培養した。この培養液15mlから遠心分離により得られた菌体を1.5mlの0.1Mリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)に懸濁し、ラセミ体のN−カルバモイル−S−t−ブチル−α−メチルシステイン150mgと0.5M硫酸マンガン水溶液0.003mlを添加後、10N水酸化ナトリウム水溶液によりpHを6.5に調整した。そして、6N塩酸によりpHを6.5付近に保ちつつ、40℃で19時間攪拌して反応させた。反応液をHPLC分析(カラム:COSMOSIL 5C8−MS、移動相:アセトニトリル/10mMリン酸二水素カリウム水溶液=3/7、流速:0.8ml/min、検出波長:210nm、カラム温度:40℃)した結果、N−カルバモイル−S−t−ブチル−α−メチルシステインの残存率は44%であった。さらに、反応液中N−カルバモイル−S−t−ブチル−α−メチルシステインの光学純度をHPLC分析(カラム:CHIRALPAK AS(ダイセル社製)、移動相:ヘキサン/イソプロパノール/トリクロロ酢酸=9/1/0.01、流速:0.5ml/min、検出波長:210nm、カラム温度:30℃)したところ99.0%eeであり、また、実施例1で得られたN−カルバモイル−S−t−ブチル−α−メチル−L−システインとの保持時間の比較からL体であることを確認した。
【0136】
(実施例4)シュードモナス属細菌を用いたN−カルバモイル−S−t−ブチル−α−メチル−L−システインの製造方法
シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)IFO12996を固体培地(10g/l ポリペプトン、2g/l イーストエキス、1g/l 硫酸マグネシウム七水和物、15g/l 寒天、pH7.0)で30℃にて24時間培養した。この菌体一白金耳を、500ml容坂口フラスコ中、120℃で15分間殺菌した100ml液体培地(20g/l 肉エキス、6g/l グリセロール、1g/l ウラシル、2g/l リン酸二水素カリウム、1g/l 硫酸マグネシウム七水和物、40mg/l 塩化カルシウム二水和物、20mg/l 硫酸第一鉄七水和物、20mg/l 硫酸マンガン四〜六水和物、20mg/l 硫酸銅五水和物、pH5.5)に植菌し、30℃にて24時間振とう培養した。この培養液10mlから遠心分離により得られた菌体を1mlの0.1Mリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)に懸濁し、ラセミ体のN−カルバモイル−S−t−ブチル−α−メチルシステイン10mgと0.5M硫酸マンガン水溶液0.002mlを添加した。そして、6N塩酸によりpHを6.5付近に保ちつつ、40℃で50時間攪拌して反応させた。反応液をHPLC分析(カラム:COSMOSIL 5C8−MS、移動相:アセトニトリル/10mMリン酸二水素カリウム水溶液=3/7、流速:0.8ml/min、検出波長:210nm、カラム温度:40℃)した結果、N−カルバモイル−S−t−ブチル−α−メチルシステインの残存率は52%であった。さらに、反応液中N−カルバモイル−S−t−ブチル−α−メチルシステインの光学純度をHPLC分析(カラム:CHIRALPAK AS(ダイセル社製)、移動相:ヘキサン/イソプロパノール/トリクロロ酢酸=9/1/0.01、流速:0.5ml/min、検出波長:210nm、カラム温度:30℃)したところ95.6%eeであり、また、実施例1で得られたN−カルバモイル−S−t−ブチル−α−メチル−L−システインとの保持時間の比較からL体であることを確認した。
【0137】
(実施例5)アグロバクテリウム属細菌を用いたN−カルバモイル−S−t−ブチル−α−メチル−L−システインの製造方法
アグロバクテリウム・スピーシーズ KNK712株(FERM BP−1900)を大型試験管中、120℃で15分間殺菌した10ml液体培地(10g/l ポリペプトン、10g/l 肉エキス、5g/l イーストエキス、5g/l グリセリン、5g/l リン酸二水素カリウム、5g/l リン酸水素二ナトリウム、pH6.5)に植菌し、30℃にて24時間振とう培養した。この培養液1mlを、100ml液体培地(25g/l グリセリン、5g/l シュークロース、5g/l リン酸二水素カリウム、5g/l リン酸水素二ナトリウム、1g/l リン酸マグネシウム七水和物、10mg/l 塩化マンガン四水和物、4g/l イーストエキス、pH6.5を120℃で15分間殺菌後、2g/l ウレア、1g/l D−N−カルバモイル−α−p−ヒドロキシフェニルグリシンをろ過滅菌にて添加)に植菌し、33℃にて23時間振とう培養した。この培養液5mlから遠心分離により得られた菌体を1mlの0.1Mリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)に懸濁し、ラセミ体のN−カルバモイル−S−t−ブチル−α−メチルシステイン10mgと0.5M硫酸マンガン水溶液0.002mlを添加した。そして、6N塩酸によりpHを6.5付近に保ちつつ、40℃で5時間攪拌して反応させた。反応液をHPLC分析(カラム:COSMOSIL 5C8−MS、移動相:アセトニトリル/10mMリン酸二水素カリウム水溶液=3/7、流速:0.8ml/min、検出波長:210nm、カラム温度:40℃)した結果、N−カルバモイル−S−t−ブチル−α−メチルシステインの残存率は23%であった。さらに、反応液中N−カルバモイル−S−t−ブチル−α−メチルシステインの光学純度をHPLC分析(カラム:CHIRALPAK AS(ダイセル社製)、移動相:ヘキサン/イソプロパノール/トリクロロ酢酸=9/1/0.01、流速:0.5ml/min、検出波長:210nm、カラム温度:30℃)したところ85.8%eeであり、また、実施例1で得られたN−カルバモイル−S−t−ブチル−α−メチル−L−システインとの保持時間の比較からL体であることを確認した。
【0138】
(実施例6)D−5−t−ブチルチオメチル−5−メチルヒダントインの製造方法
実施例3の方法により得られた酵素とD−5−t−ブチルチオメチル−5−メチルヒダントインの混合物(50g)に不純物として含まれるS−t−ブチル−α−メチル−L−システインを除去するために、水(400g)を加え攪拌した後に不溶分をろ取し、水(200g)でさらに洗浄した。これに5wt%水酸化ナトリウム水溶液(120g)を加え、攪拌した。酵素を不溶分としてろ別し、ろ液を濃塩酸にてpH=9に調整した。析出した結晶をろ取し、これを水洗した後に、減圧下にて乾燥を行い、粗生成物を結晶として得た(19.7g)。これをHPLCにて分析(カラム:COSMOSIL 5C8−MS、移動相:アセトニトリル/リン酸二水素カリウム・リン酸水溶液(pH2.0)=2/8、流速:1.0ml/min、検出波長:210nm、カラム温度:40℃)し、標品との比較により純度及び収率を算出したところ、純度87.5wt%,収率79.6%であった。また光学純度は、HPLC分析(カラム:CHIRALPAK AS(ダイセル社製)、移動相:ヘキサン/イソプロパノール=9/1、流速:1.0ml/min、検出波長:210nm、カラム温度:30℃,保持時間:D体=15.2分,L体=39.8分)により決定し、97.6%eeであった。
【0139】
(実施例7)S−t−ブチル−α−メチル−D−システインの製造方法
実施例1〜5のいずれかの方法で取得したD−5−t−ブチルチオメチル−5−メチルヒダントインと酵素混合物(80g)に、10wt%水酸化リチウム水溶液(150mL)を加えて溶解させた。酵素をろ別した後に、母液中に含まれるD−5−t−ブチルチオメチル−5−メチルヒダントインをHPLC(分析条件は実施例6と同じ)にて定量したところ44.2g含有していた。この溶液に水酸化リチウム(54g)、蒸留水(51g)を加え38時間加熱還流した。室温まで放冷し、生じた固体をろ別した。母液を内温20C付近に保ち、濃塩酸(110g)を加えpH=6.7に調整し、内温2Cに冷却し2時間攪拌を続けた。次に生じた固体をろ取し、40Cで24時間真空乾燥し、乾燥結晶(34.9g)を取得した。HPLC(カラム:Cosmosil 5C18−AR(ナカライ社製)、移動相:リン酸二水素カリウム・リン酸水溶液(pH2.0)/アセトニトリル=90/10、流速:1.0ml/min、検出波長:210nm、カラム温度:40℃)で分析して、上記目的物であることを確認し、標品との比較により純度及び収率を決定した(純度96.7wt%,収率85.7%)。
【0140】
(実施例8)α−メチル−D−システイン塩酸塩の製造方法
S−t−ブチル−α−メチル−D−システイン(20g)を濃塩酸(180g)に溶解させ45時間加熱還流した。室温まで放冷し、反応溶液を35gまで濃縮した。これを40Cに加温し、トルエン(110mL)を加え、約40gになるまで濃縮した。この操作をさらに4回行い、生じた固体をろ取し、60Cで48時間真空乾燥し、標題化合物を白色固体として得た(15.3g)。HPLC(カラム:CAPCELL PAK SCX(資生堂社製)、移動相:リン酸二水素カリウム・リン酸水溶液(pH2.0)/アセトニトリル=95/5、流速:0.3ml/min、検出波長:210nm、カラム温度:30℃)で分析したところ、上記目的物であることを確認した(収率84.6%)。また旋光度を測定したところ、[α]20=−6.28(c1.21,HO)であり、符号が実施例10で得られたα−メチル−L−システイン塩酸塩と逆であることから、立体が目的とするD体であることを確認した。
【0141】
(実施例9)α−メチル−L−システイン塩酸塩の製造方法
N−カルバモイル−S−t−ブチル−α−メチル−L−システイン(100mg,0.43mmol)を濃塩酸(1mL)に溶解し、窒素下、60時間還流させ、α−メチル−L−システイン塩酸塩の水溶液を得た。
【0142】
(実施例10)α−メチル−L−システイン塩酸塩の単離方法
実施例9で得られたα−メチル−L−システイン塩酸塩反応溶液に、イソプロピルアルコール(0.5mL)を加えて減圧下濃縮し、共沸脱水を行った。同様の操作を3回繰り返し、容量が約1/3となったところで濃縮を止め、60℃に加熱、トルエン(1mL)を加え、攪拌しながら室温まで放冷した。そのまま約1時間攪拌した後、析出した結晶をろ別、トルエンで洗浄し、減圧下乾燥させ、標題化合物を白色固体として得た(44.3mg)。HPLC(実施例8の分析条件)で分析したところ、上記目的物であることを確認した(収率60.0%)。また旋光度を測定したところ、[α]20=8.77(c1.15,HO)であり、符号が文献値(Tetrahedron,1993,49,2131〜2138,WO98/38177)と一致することから、立体が目的とするL体であることを確認した。
H NMR(300MHz,DO)δ:3.18(d,1H),2.89(d,1H),1.60(s,3H)。
【0143】
(実施例11)S−t−ブチル−α−メチル−L−システインの製造方法
N−カルバモイル−S−t−ブチル−α−メチル−L−システイン(82.4g,351.4mmol)を18%水酸化リチウム水溶液(630g)に溶解し、窒素下、41時間還流させた。室温まで放冷後、不溶分をろ別した後の溶液に濃塩酸(180.1g)を加えてpHを6に調整し、そのまま約1時間攪拌した後に4〜5Cに冷却し、さらに1時間攪拌した。得られた結晶をろ別し、水洗の後に減圧下乾燥を行い、標題化合物を白色固体として得た(53.9g)。HPLC(カラム:Cosmosil 5C18−AR(ナカライ社製)、移動相:リン酸二水素カリウム・リン酸水溶液(pH2.0)/アセトニトリル=90/10、流速:1.0ml/min、検出波長:210nm、カラム温度:40℃)で分析したところ、上記目的物であることを確認した(収率85.7%)。
H NMR(300MHz,DO)δ:3.18(d,1H),2.91(d,1H),1.60(s,3H),1.35(s,9H)。
【0144】
(実施例12)α−メチル−L−システイン塩酸塩の製造方法
実施例11記載の方法で得られたS−t−ブチル−α−メチル−L−システイン(38.4g,201mmol)に濃塩酸(345.3g)を加え、24時間還流し、α−メチル−L−システイン塩酸塩の水溶液を得た。
【0145】
(実施例13)α−メチル−L−システイン塩酸塩の単離方法
実施例12により得られたα−メチル−L−システイン塩酸塩反応溶液を67.5gにまで濃縮(減圧度30〜60mmHg、温度45℃)し、トルエン(206g)を加え、減圧濃縮操作(減圧度40〜60mmHg、温度40℃、留出速度107L/h・m)を行い、全量109gとした。さらにトルエン(206g)を加えて濃縮し、同様の操作を合計6回繰り返し、得られたα−メチル−L−システイン塩酸塩トルエンスラリー(104g)を得た。このものの水分含量は30重量%(対α−メチル−L−システイン塩酸塩)であった。ろ過し、トルエンにて結晶を洗浄、減圧下乾燥(0〜100mmHg、30〜80℃、5−10時間)させ、標題化合物を白色固体として得た(32.2g、収率93.4%)。
【0146】
(実施例14)α−メチル−L−システイン塩酸塩の製造方法
実施例11記載の方法で得られたS−t−ブチル−α−メチル−L−システイン(25g,131mmol)に水(47.6g)及び濃塩酸(177.4g)を加え、41時間還流した。さらに濃塩酸(47.6g)を加え3時間還流させた後に、室温まで放冷した。イソプロピルアルコール(90mL)を加え減圧下濃縮を行い、共沸脱水を3回、同量のイソプロピルアルコールを用いて行った。最後にイソプロピルアルコールを加え濃縮し、容量が約1/3となったところで濃縮を止め60Cに加熱、トルエン(90mL)を加え、攪拌しながら室温まで放冷した。そのまま約1時間攪拌した後、析出した結晶をろ取し、トルエンで洗浄し、減圧下乾燥させ、標題化合物を白色固体として得た(13.5g、収率60.0%)。
【0147】
(実施例15)D−5−メルカプトメチル−5−メチルヒダントインの製造方法
実施例6により得られたD−5−t−ブチルチオメチル−5−メチルヒダントイン(4.38g)を濃塩酸(100g)に溶解し、80℃で18.5時間攪拌した。室温まで放冷後、約半量となるまで濃縮した後、30wt%水酸化ナトリウム水溶液を30.5g加えてpHを0とした。酢酸エチル(100mL×3)で抽出後、有機相を全量の10%となるまで濃縮した後、トルエン(30mL)を加えて析出した結晶をろ取し、目的のD−5−メルカプトメチル−5−メチルヒダントイン(2.65g)を収率80%で得た。このものの光学純度をHPLC(CHIRALPAK AS(ダイセル社製)、移動相:ヘキサン/イソプロパノール=9/1、流速:1.0ml/min、検出波長:210nm、カラム温度:35℃、保持時間D体;30.4分、L体;33.8分)により測定したところ、L体は検出されなかった。
H NMR(400MHz、MeOH−d4)δ:1.32(s、3H)、2.60(d、1.6Hz、1H)、2.72(d、1.6Hz、1H)。
【0148】
(実施例16)α−メチル−L−システイン塩酸塩の光学純度決定法
実施例13記載の方法で得られたα−メチル−L−システイン塩酸塩(74.9mg,0.44mmol)を水(3mL)に溶解させ、炭酸水素ナトリウム(197.7mg)を添加し、エタノール3mLを加えた。窒素置換後、クロロ炭酸ベンジルエステル(0.17mL,1.10mmol)を加え、室温で2日間攪拌した。反応液に濃塩酸を添加してpH=1.9とし、酢酸エチルで抽出後、無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、溶媒を減圧下留去した。これをPTLC(ヘキサン/酢酸エチル=1/1に少量の酢酸を添加)で精製しH NMRにて分析したところ、目的物(106mg、収率60%)であることを確認した。これをHPLCにて分析(カラム:CHIRALCEL OD−RH(ダイセル社製)、移動相:リン酸二水素カリウム・リン酸水溶液(pH2.0)/アセトニトリル=6/4、流速:1.0ml/min、検出波長:210nm、カラム温度:30℃、保持時間19.15分(D)、22.92分(L))した結果、光学純度は98.6%eeであった。
H NMR(300MHz,DO)δ:7.30−7.40(m,10H),5.22(s,2H),5.10(s,2H),3.60(s,2H),1.63(s,3H)。
【0149】
(実施例17−21)N−カルバモイル−S−t−ブチル−α−メチル−システインの製造方法
5−t−ブチルチオメチル−5−メチルヒダントインに水酸化ナトリウムと水を加え、所定の温度まで加熱攪拌した。反応液をHPLC分析(カラム:COSMOSIL 5C18−AR(ナカライ社製),移動相:アセトニトリル/10mMリン酸二水素カリウム水溶液=30/70,流速:1.0ml/min,検出波長:210nm,カラム温度:40℃)し、表題化合物の収率を求めた。結果を表1に示す。
【0150】
【表1】

【0151】
(実施例22)N−カルバモイル−S−t−ブチル−α−メチル−システインの製造方法
5−t−ブチルチオメチル−5−メチルヒダントイン(5g、23mmol)と58%水酸化カリウム水溶液(9.2g)を混合した後、95℃まで加熱し、22時間攪拌した。反応液をHPLC分析した結果、反応収率92%で表題化合物が生成していた。
【0152】
(実施例23)N−カルバモイル−S−t−ブチル−α−メチル−システインの製造方法
5−t−ブチルチオメチル−5−メチルヒダントイン(5g、23mmol)、65%水酸化カリウム水溶液(4.4g)及び、トルエン5mlを混合した後、95Cまで加熱し、27時間攪拌した。反応液をHPLC分析した結果、反応収率88%で表題化合物が生成していた。
【0153】
(実施例24)N−カルバモイル−S−t−ブチル−α−メチル−システインの製造方法
5−t−ブチルチオメチル−5−メチルヒダントイン(5g、23mmol)、73%水酸化カリウム水溶液(5.7g)及び、トルエン10mlを混合した後、95Cまで加熱し、51時間攪拌した。反応液をHPLC分析した結果、反応収率90%で表題化合物が生成していた。
【0154】
(実施例25)N−カルバモイル−2−アミノ−2−メチルプロピオン酸の製造方法
5,5−ジメチルヒダントイン4.0g、水酸化ナトリウム4.0g、水4.0gを混合し、85〜90℃で3.5時間攪拌した。反応混合物をHPLC(カラム:COSMOSIL 5C18−ARII(ナカライ社製),移動相:アセトニトリル/10mMリン酸二水素カリウム水溶液=20/80,流速:0.5ml/min,検出波長:210nm,カラム温度:40℃)にて分析したところ、標題化合物が3.38g(収率74.1%)生成していた。
H NMR(300MHz,DO) δ:1.39(s,6H)。
【0155】
(実施例26)N−カルバモイル−2−アミノ−3−(2−メトキシフェニル)−2−メチルプロピオン酸の製造方法
5−(2−メトキシフェニルメチル)−5−メチル−ヒダントイン4.40g、水酸化ナトリウム2.64g、水3.5gを混合し、94〜96℃で30時間反応させた。反応混合物をHPLC(カラム:COSMOSIL 5C18−ARII(ナカライ社製),移動相:アセトニトリル/10mMリン酸二水素カリウム水溶液=20/80,流速:1.0ml/min,検出波長:210nm,カラム温度:40℃)にて分析したところ、標題化合物と2−アミノ−3−(2−メトキシフェニル)−2−メチルプロピオン酸と原料が78.8:5.5:15.5の面積比で生成していた。
H NMR(300MHz,DO) δ:7.32−6.90(m,4H),4.84(s,3H),3.19(d,1H),3.18(d,1H),1.37(s,3H)。
【0156】
(実施例27)N−カルバモイル−S−ベンジル−α−メチル−システインの製造方法
5−ベンジルチオメチル−5−メチル−ヒダントイン5.0g、水酸化カリウム3.6g、水3gを混合し、94〜96℃で12時間反応させた。反応混合物をHPLC(カラム:COSMOSIL 5C18−ARII(ナカライ社製),移動相:アセトニトリル/10mMリン酸二水素カリウム水溶液=30/70,流速:1.0ml/min,検出波長:254nm,カラム温度:40℃)にて分析したところ、標題化合物が3.56g(収率66.4%)生成していた。
H NMR(300MHz,DO) δ:7.40−7.30(m,5H),3.78(s,2H),3.15(d,1H),3.14(d,1H),1.41(s,3H)。
【0157】
(比較例1)N−カルバモイル−S−t−ブチル−α−メチル−システインの製造方法
5−t−ブチルチオメチル−5−メチルヒダントイン(5g、23mmol)、水酸化バリウム(11.7)、水(10g)を混合した後、95Cまで加熱し、2時間攪拌した。反応液をHPLC分析した結果、反応収率39%で表題化合物が生成していた。
【0158】
(比較例2)N−カルバモイル−S−t−ブチル−α−メチル−システインの製造方法(US5338859記載の方法により実施)
5−t−ブチルチオメチル−5−メチルヒダントイン(純分10.82g、50.0mmol)、水酸化カルシウム(3.70g、50.0mmol)、水(60g)を混合した後、100Cまで加熱し、3.5時間攪拌した。反応液をHPLC分析した結果、反応収率25%で表題化合物が生成していた。
【産業上の利用可能性】
【0159】
以上述べたように、本発明によれば、安価で入手容易な原料から簡便かつ工業的に実施可能な方法によって、医薬品等の中間体として有用な光学活性α−メチルシステイン誘導体又はその塩のD体、L体両方を製造することができる。また、該化合物を工業的実施可能な形態で、晶析取得することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(2):
【化1】

(式中、Rは置換基を有していても良い炭素数1〜20のアルキル基、置換基を有していても良い炭素数7〜20のアラルキル基、又は、置換基を有していても良い炭素数6〜20のアリール基を表す)で表されるD−5−メチル−5−チオメチルヒダントイン誘導体又はその塩を加水分解することを特徴とする、一般式(8):
【化2】

(式中、Rは前記R若しくは水素原子を表す)で表されるα−メチル−D−システイン誘導体又はその塩の製造方法。
【請求項2】
加水分解を、アルカリを用いて行い、前記式(8)においてRが前記式(2)におけるRと同じである化合物を製造することを特徴とする請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
加水分解に用いるアルカリが、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化バリウム、水酸化マグネシウム、又は、水酸化カルシウムであることを特徴とする請求項2記載の製造方法。
【請求項4】
加水分解反応後に、反応溶液に酸を加えてpHを下げることにより、前記式(8)においてRが前記式(2)におけるRと同じである化合物を晶析し、結晶を取得する請求項1から3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
用いる酸が、塩酸、硫酸、臭化水素酸、硝酸、酢酸、トリフルオロ酢酸から選ばれる任意の1種あるいは2種以上の混酸であることを特徴とする請求項4記載の製造方法。
【請求項6】
用いる酸が塩酸であることを特徴とする請求項4記載の製造方法。
【請求項7】
反応溶液のpHを9.5以下に下げることを特徴とする請求項4から6のいずれかに記載の製造方法。
【請求項8】
加水分解後、さらに硫黄原子の脱保護を行うことを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の製造方法。
【請求項9】
請求項1記載の方法により得られた前記式(8)で表される化合物においてRが前記式(2)におけるRと同じである化合物を、酸で処理することにより硫黄原子の脱保護を行うことを特徴とする一般式(9):
【化3】

で表されるα−メチル−D−システイン又はその塩の製造方法。
【請求項10】
用いる酸が、塩酸、硫酸、臭化水素酸、硝酸、酢酸、トリフルオロ酢酸から選ばれる任意の1種あるいは2種以上の混酸であることを特徴とする請求項9記載の製造方法。
【請求項11】
用いる酸が塩酸であることを特徴とする請求項9記載の製造方法。
【請求項12】
一般式(2):
【化4】

においてRが炭素数4〜15の3級アルキル基である化合物を、酸で処理することにより加水分解反応と硫黄原子の脱保護を同時に行うことを特徴とする、一般式(9):
【化5】

で表されるα−メチル−D−システイン又はその塩の製造方法。
【請求項13】
用いる酸が、塩酸、硫酸、臭化水素酸、硝酸、酢酸、トリフルオロ酢酸から選ばれる任意の1種あるいは2種以上の混酸であることを特徴とする請求項12記載の製造方法。
【請求項14】
用いる酸が塩酸であることを特徴とする請求項12記載の製造方法。
【請求項15】
前記式(2)においてRが炭素数4〜15の3級アルキル基である化合物が、
一般式(1):
【化6】

(式中、Rは上記と同じ)で表されるラセミ体N−カルバモイル−α−メチルシステイン誘導体又はその塩に、ヒダントイナーゼを作用させD体選択的に環化させることにより製造されたものである、請求項12から14のいずれかに記載の製造方法。
【請求項16】
一般式(2):
【化7】

(式中、Rは置換基を有していても良い炭素数1〜20のアルキル基、置換基を有していても良い炭素数7〜20のアラルキル基、又は、置換基を有していても良い炭素数6〜20のアリール基を表す)で表されるD−5−メチル−5−チオメチルヒダントイン誘導体又はその塩を酸で処理することにより、硫黄原子の脱保護を行うことを特徴とする、一般式(11):
【化8】

で表されるD−5−メチル−5−チオメチルヒダントイン又はその塩の製造方法。
【請求項17】
用いる酸が、塩酸、硫酸、臭化水素酸、硝酸、酢酸、トリフルオロ酢酸から選ばれる任意の1種あるいは2種以上の混酸であることを特徴とする請求項16記載の製造方法。
【請求項18】
用いる酸が塩酸であることを特徴とする請求項16記載の製造方法。
【請求項19】
前記式(2)で表される化合物が、
一般式(1):
【化9】

(式中、Rは上記と同じ)で表されるラセミ体N−カルバモイル−α−メチルシステイン誘導体又はその塩に、ヒダントイナーゼを作用させD体選択的に環化させることにより得られたものであることを特徴とする、請求項16から18のいずれかに記載の製造方法。
【請求項20】
請求項16記載の方法で得られた、前記式(11)で表されるD−5−メチル−5−チオメチルヒダントイン又はその塩を加水分解することを特徴とする、一般式(9):
【化10】

で表されるα−メチル−D−システイン又はその塩の製造方法。
【請求項21】
加水分解を酸で行うことを特徴とする請求項20記載の製造方法。
【請求項22】
用いる酸が、塩酸、硫酸、臭化水素酸、硝酸、酢酸、トリフルオロ酢酸から選ばれる任意の1種あるいは2種以上の混酸であることを特徴とする請求項21記載の製造方法。
【請求項23】
用いる酸が塩酸であることを特徴とする請求項21記載の製造方法。
【請求項24】
光学活性α‐メチルシステイン又はその塩の水溶液から、有機溶剤の共存下に、該化合物の晶出を行うことを特徴とする光学活性α‐メチルシステイン又はその塩の晶析方法。
【請求項25】
光学活性α‐メチルシステインの酸との塩を取得する請求項24記載の晶析方法。
【請求項26】
光学活性α‐メチルシステインのハロゲン化水素酸との塩を取得する請求項25記載の晶析方法。
【請求項27】
光学活性α‐メチルシステイン塩酸塩を取得する請求項25記載の晶析方法。
【請求項28】
一般式(3):
【化11】

(式中、Rは置換基を有していても良い炭素数1〜20のアルキル基、置換基を有していても良い炭素数7〜20のアラルキル基、又は、置換基を有していても良い炭素数6〜20のアリール基を表す)で表されるN−カルバモイル−α−メチル−L−システイン誘導体又はその塩を脱カルバモイル化することを特徴とする製造方法で製造された、一般式(4):
【化12】

(式中、Rは前記R若しくは水素原子を表す)で表される光学活性α‐メチルシステイン又はその塩を晶析する、請求項24から27のいずれかに記載の晶析方法。
【請求項29】
一般式(3):
【化13】

(式中、Rは置換基を有していても良い炭素数1〜20のアルキル基、置換基を有していても良い炭素数7〜20のアラルキル基、又は、置換基を有していても良い炭素数6〜20のアリール基を表す)で表されるN−カルバモイル−α−メチル−L−システイン誘導体又はその塩を脱カルバモイル化することにより製造された、一般式(4):
【化14】

(式中、Rは前記Rを表す)で表される化合物を、酸で処理することにより硫黄原子の脱保護を行うことを特徴とする製造方法で製造された、一般式(5):
【化15】

で表されるα−メチル−L−システイン又はその塩を晶析する、請求項24から27のいずれかに記載の晶析方法。
【請求項30】
一般式(3):
【化16】

においてRが炭素数4〜15の3級アルキル基であるN−カルバモイル−α−メチル−L−システイン誘導体又はその塩を酸で処理することにより、脱カルバモイル化と硫黄原子の脱保護を同時に行うことを特徴とする製造方法で製造された、一般式(5):
【化17】

で表されるα−メチル−L−システイン又はその塩を晶析する、請求項24から27のいずれかに記載の晶析方法。
【請求項31】
一般式(3):
【化18】

(式中、Rは置換基を有していても良い炭素数1〜20のアルキル基、置換基を有していても良い炭素数7〜20のアラルキル基、又は、置換基を有していても良い炭素数6〜20のアリール基を表す)で表されるN−カルバモイル−α−メチル−L−システイン誘導体又はその塩の、環化及び硫黄原子の脱保護を行うことを特徴とする製造方法で製造された、一般式(6):
【化19】

で表されるL−5−メチル−5−チオメチルヒダントイン又はその塩を加水分解することを特徴とする製造方法で製造された、一般式(5):
【化20】

で表されるα−メチル−L−システイン又はその塩を晶析する、請求項24から27のいずれかに記載の晶析方法。
【請求項32】
請求項1、9、12又は20に記載の方法により製造された光学活性α‐メチルシステイン又はその塩を晶析する、請求項24から27のいずれかに記載の晶析方法。
【請求項33】
光学活性α‐メチルシステイン又はその塩の水溶液から、有機溶剤の共存下に、濃縮を行い、水を系外に除去すると共に、有機溶剤に置換し、該化合物を晶出させる請求項24から32のいずれかに記載の晶析方法。
【請求項34】
有機溶剤として、水と相溶性の低い又はない有機溶剤を用いる請求項33記載の晶析方法。
【請求項35】
有機溶剤として、炭化水素系溶剤、エステル系溶剤、又はエーテル系溶剤を用いる請求項33又は34記載の晶析方法。
【請求項36】
有機溶剤として、炭化水素系溶剤を用いる請求項33又は34記載の晶析方法。
【請求項37】
炭化水素系溶剤として、トルエン、ベンゼン、キシレン、ヘキサン、シクロヘキサン及びヘプタンから選ばれる一種又は二種以上の混合溶剤を用いる、請求項36記載の晶析方法。
【請求項38】
光学活性α−メチルシステイン又はその塩の濃度が1〜70重量%で晶出を行う、請求項33から37のいずれかに記載の晶析方法。
【請求項39】
残存する水の量として、光学活性α−メチルシステイン又はその塩に対して100重量%以下まで濃縮、溶剤置換し、晶出する光学活性α−メチルシステイン又はその塩を取得する、請求項33から38のいずれかに記載の晶析方法。
【請求項40】
濃縮時の蒸発速度を、1000L/h・m以下に制御して行う請求項33から39のいずれかに記載の晶析方法。
【請求項41】
濃縮時の蒸発速度を、600L/h・m以下に制御して行う請求項33から39のいずれかに記載の晶析方法。
【請求項42】
濃縮時の蒸発速度を、300L/h・m以下に制御して行う請求項33から39のいずれかに記載の晶析方法。
【請求項43】
濃縮時の減圧度を、500mmHg以下に制御する請求項33から42のいずれかに記載の晶析方法。
【請求項44】
光学活性α−メチルシステイン又はその塩の水溶液から、有機溶剤の共存下に、濃縮を行い、水を系外に除去すると共に有機溶剤に置換し、析出する難溶性無機塩をろ別した後、該化合物の溶液から、貧溶媒添加、冷却、又は濃縮の操作により、該化合物を晶出させる請求項24から32のいずれかに記載の晶析方法。
【請求項45】
残存する水の量として、光学活性α−メチルシステイン又はその塩に対して100重量%以下まで水分を系外に除去する請求項44記載の晶析方法。
【請求項46】
置換する有機溶剤として、アルコール系溶剤単独、エーテル系溶剤単独、又は、各々を任意に混合した溶剤を用いる請求項44又は45のいずれかに記載の晶析方法。
【請求項47】
アルコール系溶剤が、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、イソブチルアルコール、t−ブチルアルコールのいずれか1種あるいは2種以上の混合溶媒である請求項46記載の晶析方法。
【請求項48】
エーテル系溶剤が、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、メチル−t−ブチルエーテルのいずれか1種あるいは2種以上の混合溶媒である請求項46記載の晶析方法。
【請求項49】
α−メチルシステイン又はその塩を晶出させる為に、貧溶媒を加えることを特徴とする請求項44から48のいずれかに記載の晶析方法。
【請求項50】
貧溶媒が、炭化水素系溶剤、エステル系溶剤、エーテル系溶剤のいずれか一種又は二種以上の混合溶媒である請求項49記載の晶析方法。
【請求項51】
貧溶媒が、炭化水素系溶剤である請求項49記載の晶析方法。
【請求項52】
炭化水素系溶剤が、トルエン、キシレン、ヘキサン、へプタンのいずれか一種又は二種以上の混合溶媒である請求項51記載の晶析方法。
【請求項53】
光学活性α−メチルシステイン又はその塩の晶析時の濃度が、1〜70重量%である請求項44から52のいずれかに記載の晶析方法。
【請求項54】
一般式(12):
【化21】

(式中、R、Rはそれぞれ独立して置換基を有していても良い炭素数1〜20のアルキル基、置換基を有していても良い炭素数7〜20のアラルキル基、又は、置換基を有していても良い炭素数6〜20のアリール基を表す)で表されるラセミ体5,5−二置換ヒダントイン誘導体又はその塩を、有機塩基又はアルカリ金属水酸化物を用いて加水分解を行うことを特徴とする、一般式(13):
【化22】

(式中、R、Rは前記と同じ)で表されるラセミ体N−カルバモイル−α−アミノ酸誘導体又はその塩の製造方法。
【請求項55】
用いるアルカリ金属水酸化物が、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムであることを特徴とする請求項54記載の製造方法。
【請求項56】
前記式(12)で表されるラセミ体5,5−二置換ヒダントイン誘導体又はその塩に対し、0.1倍から10倍重量の水を用いることを特徴とする、請求項54又は55のいずれかに記載の製造方法。
【請求項57】
前記式(12)で表されるラセミ体5,5−二置換ヒダントイン誘導体又はその塩に対し、0.2倍から3倍重量の水を用いることを特徴とする、請求項54から56のいずれかに記載の製造方法。
【請求項58】
前記式(12)で表されるラセミ体5,5−二置換ヒダントイン誘導体又はその塩に対し、1モル当量から10モル当量の塩基を用いることを特徴とする、請求項54から57のいずれかに記載の製造方法。
【請求項59】
前記式(12)で表されるラセミ体5,5−二置換ヒダントイン誘導体又はその塩に対し、2モル当量から5モル当量の塩基を用いることを特徴とする、請求項54から58のいずれかに記載の製造方法。
【請求項60】
前記式(12)で表されるラセミ体5,5−二置換ヒダントイン誘導体又はその塩に対し、0.2倍から3倍重量の水と、2モル当量から5モル当量の塩基を用いることを特徴とする、請求項54から59のいずれかに記載の製造方法。
【請求項61】
溶媒として、水単独、又は、水と有機溶剤の混合溶媒を使用する請求項54から60のいずれかに記載の製造方法。
【請求項62】
水と組み合わせる有機溶剤として、炭化水素系有機溶媒を用いる請求項61記載の製造方法。
【請求項63】
反応温度が80℃から110℃であることを特徴とする請求項54から62のいずれかに記載の製造方法。
【請求項64】
前記式(12)において、Rが置換基を有していても良い炭素数1〜6の1級アルキル基であることを特徴とする請求項54から63のいずれかに記載の製造方法。
【請求項65】
前記式(12)において、Rがメチル基であることを特徴とする請求項64に記載の製造方法。
【請求項66】
前記式(12)で表されるラセミ体5,5−二置換ヒダントイン誘導体として、一般式(14):
【化23】

(式中、Rは置換基を有していても良い炭素数1〜20のアルキル基、置換基を有していても良い炭素数7〜20のアラルキル基、又は、置換基を有していても良い炭素数6〜20のアリール基を表す)で表される化合物を用い、前記式(13)で表されるラセミ体N−カルバモイル−α−アミノ酸誘導体として、一般式(1):
【化24】

(式中、Rは前記と同じ)で表される化合物を製造する請求項54から65のいずれかに記載の製造方法。
【請求項67】
前記式(14)においてRがt−ブチル基であることを特徴とする請求項66に記載の製造方法。

【公開番号】特開2009−292842(P2009−292842A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−217497(P2009−217497)
【出願日】平成21年9月18日(2009.9.18)
【分割の表示】特願2004−513502(P2004−513502)の分割
【原出願日】平成15年6月5日(2003.6.5)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】