説明

光学活性1−ピロリン−N−オキシドの簡便な合成法

【課題】 グリコシダーゼ阻害作用などの研究ツールとして有用なピロリジン化合物を合成するために必要な中間体である光学活性1-ピロリン-N-オキシドの簡便な合成法を提供すること。
【解決手段】 市販品である2,3-O-ベンジリデン-スレイトール(IV)から環状ヒドロキシルアミン(III)を製造し、これをさらに酸化して、1-ピロリン-N-オキシド化合物(I)を製造することができる。


(I)
式中、Rはどちらか一方が水素でもう一方がベンジル基であり、3位炭素及び4位炭素の立体配置は(3S,4S)及び(3R,4R)の組合せから選択される。なお、炭素原子横の*のマークは、その炭素原子が不斉炭素であることを意味する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピロリジン化合物の製造における有用な合成中間体である光学活性1-ピロリン-N-オキシド化合物の製法及び前記方法を利用した2−アミノメチルピロリジン化合物の新規な製造法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
生理活性天然物の基本骨格のひとつであるピロリジン類は、医薬をはじめとする機能性材料あるいは研究用ツールとして重要である。特に、糖と類似構造を有するヒドロキシピロリジン化合物は、細胞間分子認識など重要な生物活性の制御物質として注目されている糖関連酵素阻害剤の有力候補であり、種々の医薬開発および臨床応用に向けた研究が活発である。(例えば特許文献1、2、非特許文献1、2)
【0003】
その中でも、3,4-ジヒドロキシピロリジン骨格を有する化合物は、糖加水分解酵素における基質遷移状態との類似性から研究開発がさかんであり、より詳しい研究のツールとしての可能性が示されている。(例えば 非特許文献3、4参照)
今後展開すべき詳細な研究と商品開発を考えた場合、このヒドロキシピロリジン類供給の効率化が最重要課題となることは明白であるが、天然から抽出などによって供給されるヒドロキシピロリジン類は量的に十分でなく、またその種類も限られている。よって、各種の異性体を必要十分量確保する簡便な化学合成法が必要である。
ジヒドロキシピロリジン体は、いずれも各々の化合物の立体配置を満たした糖を出発原料とする従来の合成法(例えば上記文献および下記非特許文献5〜10参照)により導かれる中間体を利用して得られると考えられるが、いずれも合成ルートが煩雑で簡便とは言い難い。
【0004】
一方、L-およびD-酒石酸から導かれる光学活性な環状ニトロン(1-ピロリン-N-オキシド)を経由するルート(例えば特許文献3)は、反応の精密な立体制御に関する問題が解決されており、各異性体を画一的に合成しうるものである。
しかし、上記のルートは依然として工程数が多く、また精製等の手間もかかるため、より簡便な製造方法が求められている。
【0005】
【特許文献1】特開2000-95686
【特許文献2】特開平9-509947
【特許文献3】特開2002-88059
【非特許文献1】有機合成化学協会誌、666-675(2000)
【非特許文献2】Phytochemistry, 56, 265-295 (2001)
【非特許文献3】Chem. Biol. 8, 1061-1070 (2001)
【非特許文献4】Bioorg. Med. Chem., 12, 3485-3495 (2004)
【非特許文献5】非特許文献1. Hiranuma, S.;Shimizu, T.; Nakata, T.; Kajimoto, T.; Wong, C. H. Tetrahedron Lett., 1995, 36, 8247-8250.
【非特許文献6】Bernet, B.; Murty, A. R. C. B.; Vasella, A. Helv. Chim. Acta., 1990, 73, 940-958.
【非特許文献7】Lundt, I.; Madsen, R. Synthesis, 1995, 787-793.
【非特許文献8】非特許文献 4. Dureault, A.; Portal, M.; Depezay, J. C. Synlett, 1991, 225-226.
【非特許文献9】非特許文献 5. Fitremann, J.; Dureault, A.; Depezay, J. C. Synlett, 1995, 235-237.
【非特許文献10】非特許文献 6. Baxter, E. W.; Reitz, A. B. J. Org. Chem., 1994, 59, 3175-3185.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、グリコシダーゼ阻害作用などの研究ツールとして有用なピロリジン化合物を合成するために必要な中間体である光学活性1-ピロリン-N-オキシドの簡便な合成法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一般式(II)で表される化合物をヒドロキシルアミンと反応させて、一般式(III)で表されるN−ヒドロキシピロリジン化合物を得る工程、及び前記N−ヒドロキシピロリジン化合物を酸化して、一般式(I)で表される1-ピロリン-N-オキシド化合物を得る工程を含む、一般式(I)で表される1-ピロリン-N-オキシド化合物を製造する方法。

(I)
式中、Rはどちらか一方が水素でもう一方がベンジル基であり、3位炭素及び4位炭素の立体配置は(3S,4S)及び(3R,4R)の組合せから選択される。なお、炭素原子横の*のマークは、その炭素原子が不斉炭素であることを意味する。

(II)
式中、R1は置換または非置換アルキル基、置換または非置換アリール基、置換または非置換アラルキル基、及び置換または非置換アルキルアリール基を含むスルホン酸エステルからなる群より選択されるスルホン酸エステル型置換基を示し、*のマークが付された炭素原子の立体配置は(R,R)及び(S,S)の組合せから選択され、R2は、どちらか一方が水素でもう一方がベンジル基である。

(III)
式中、3位炭素及び4位炭素の立体配置は(3R,4R)及び(3S,4S)の組合せから選択され、R2は、どちらか一方が水素でもう一方がベンジル基である。
一般式(II)において、R1は好ましくはトシル基である。
【0008】
本発明の他の実施態様では、上記製造方法において、一般式(II)で表される化合物は、一般式(V)で表される化合物のベンジリデン基を還元的に開裂することにより得られる化合物である。

(V)
式中、R1は置換または非置換アルキル基、置換または非置換アリール基、置換または非置換アラルキル基、及び置換または非置換アルキルアリール基を含むスルホン酸エステルからなる群より選択されるスルホン酸エステル型置換基を示し、*のマークが付された炭素原子の立体配置は(R,R)及び(S,S)の組合せから選択される。
【0009】
本発明の他の実施態様では、上記製造方法において、一般式(V)で表される化合物は、式(IV)で表される化合物に対してスルホン酸エステル型置換基を導入することにより得られる化合物である。

(IV)
式中、*のマークが付された炭素原子の立体配置は(R,R)及び(S,S)の組合せから選択される。
【0010】
本発明はまた、一般式(I)で表される1-ピロリン-N-オキシド化合物、を提供する。

(I)
式中、Rはどちらか一方が水素でもう一方がベンジル基であり、3位炭素及び4位炭素の立体配置は(3S,4S)及び(3R,4R)の組合せから選択される。なお、炭素原子横の*のマークは、その炭素原子が不斉炭素であることを意味する。
【0011】
本発明はまた、一般式(II)で表される化合物、を提供する。

(II)
式中、R1は置換または非置換アルキル基、置換または非置換アリール基、置換または非置換アラルキル基、及び置換または非置換アルキルアリール基を含むスルホン酸エステルからなる群より選択されるスルホン酸エステル型置換基を示し、*のマークが付された炭素原子の立体配置は(R,R)及び(S,S)の組合せから選択され、R2は、どちらか一方が水素でもう一方がベンジル基である。
【0012】
本発明はまた、上記方法により一般式(I)で表される化合物を製造し、さらに以下の工程を行なうことにより、式(II)の化合物から式(X)で表される化合物を製造する方法、を提供する:
一般式(I)で表される化合物の2位にシアノ基を導入して、下記一般式(VI)で表される化合物(式(VI)中、R2はどちらか一方が水素であり、残りがベンジル基である)に変換する工程、
一般式(VI)で表される化合物の遊離水酸基をアシル化することにより、一般式(VII)で表される化合物(式(VII)中、R2はどちらか一方がアセチル基であり、残りがベンジル基である)に変換する工程、
一般式(VII)で表される化合物を還元することにより、一般式(VIII)で表される化合物(式(VIII)中、R2はどちらか一方がアセチル基であり、残りがベンジル基である)に変換する工程、
一般式(VIII)で表される化合物をさらに還元することにより、一般式(IX)(式(IX)中、R2は水素であり、R3はアミノ保護基である)で表される化合物に変換する工程、
一般式(IX)で表される化合物のアミノ基の保護基を脱保護することにより式(X)で表される化合物に変換する工程。
【0013】

【0014】
本発明はまた、下記一般式(VI)で表される化合物を提供する。

(VI)
2はいずれかが水素であり、いずれかがベンジル基である。
【0015】
本発明はまた、下記一般式(VII)で表される化合物を提供する。


(VII)
2はいずれかがアセチル基であり、いずれかがベンジル基である。
【0016】
本発明はまた、下記一般式(VIII)で表される化合物を提供する。

(VIII)
2はいずれかがアセチル基であり、いずれかがベンジル基である。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、精製が容易な結晶性の合成中間体を経由して、短工程で光学活性な1-ピロリン-N-オキシド化合物を高純度で得ることができる。また、本発明の1-ピロリン-N-オキシド化合物を活用することにより、種々のピロリジン化合物を簡便に合成できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明のピロリジン化合物を製造する方法について以下に説明する。
スキーム1は、本発明の1-ピロリン-N-オキシド化合物を製造する方法の一実施態様について、概略を示したものである。市販品である2,3-O-ベンジリデン-スレイトール(IV)に対して、スルホン酸エステル型置換基の導入を行ない化合物(V)とし、化合物(V)のベンジリデン基を還元的に開環して化合物(II)を製造し、次に化合物(II)とヒドロキシルアミンとを反応させることにより環状ヒドロキシルアミン(III)を製造する。この環状ヒドロキシルアミン(III)のN-ヒドロキシル基を酸化し、1-ピロリン-N-オキシド化合物(I)を製造することができる。各工程においては公知の手法を適用できる。その際、生成物の立体配置は用いる合成中間体に依存する。
【0019】
スキーム1で表される本発明の製造方法において、スルホン酸エステル型置換基とは、−SO2−Yで表される置換基を意味し、Yは置換あるいは非置換アルキル基、置換あるいは非置換アリール基、置換あるいは非置換アラルキル基、及び置換あるいは非置換アルキルアリール基からなる群より選択される基が挙げられる。より具体的には、アルキル基は、炭素数1〜10、より好ましくは1〜3の、直鎖、分岐鎖若しくは環状アルキル基が挙げられ、アリール基としては、炭素数6〜10のアリール基、好ましくはフェニル基、ナフチル基等が挙げられる。アラルキル基及びアルキルアリール基は、上記アルキル基とアリール基との組合せからなる基である。上記基における置換基としては、ハロゲン、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基等が挙げられる。導入や取り扱いの観点から、好ましくはYはメチル、トリルであり、最も好ましくはp-トリル基である。スルホン酸エステル型置換基の導入は、スルホン酸化合物のハロゲン化物または酸無水物を第三アミンやピリジン等の塩基存在下に反応させることにより達成することができる。必要に応じて加熱または冷却を行なってもかまわないが、高温・長時間の反応ではスルホニル基がハロゲンに置換されたりして複雑化することがあるので注意すべきである。
【0020】
また、化合物(V)のベンジリデン基の還元的開裂は公知の何れの方法を用いることもできるが、取り扱いの観点から、水素化ジイソブチルアルミニウムが好ましい。ただし、同試薬は化合物(V)のスルホニル基を水素原子に置換する作用も有するため、反応温度と使用する試薬量、溶媒量を調節して反応を制御するべきである。
【0021】

スキーム1 1-ピロリン-N-オキシド化合物(I)の合成(例)
【0022】
より具体的に、本発明の1-ピロリン-N-オキシド化合物を製造する方法について、スキーム2に従い説明する。スキーム2には、(3S,4S)1-ピロリン-N-オキシド化合物の合成のルートが示されている。















【0023】

スキーム2 (3S,4S)1-ピロリン-N-オキシド化合物の合成のルート
【0024】
まず、公知(市販品)化合物(1)の両端水酸基を塩化パラトルエンスルホニルによってトシル基へと変換する。塩化パラトルエンスルホニルは過剰に使用することができるが、単離・精製の簡単のため、使用量としては原料のジオール体(1)1当量に対して2〜10当量が好ましく、さらに好ましくは2〜3当量である。このとき、使用する塩化物と同モル以上の塩基が必要であるが、通常ピリジンあるいはトリエチルアミンが適している。また、反応溶媒としては、通常酢酸エチル、クロロホルム、塩化メチレン、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、1,2-ジメトキシエタン、1,4-ジオキサンおよびこれらの混合溶媒などが使用できる。反応温度は、通常0〜50℃程度が好ましく、特に0〜20℃が好ましい。反応時間は、通常5分間〜2日間が好ましい。
【0025】
このようにして得られたトシル体(2)は、水素化ジイソブチルアルミニウムでの還元反応により相当するモノベンジル体(3)に変換される。この反応においては、市販の水素化ジイソブチルアルミニウム溶液が適用できるが、反応性・扱い易さなどの点からトルエン溶液が好ましい。それぞれの使用量は1〜10当量、好ましくは1.5〜3当量である。反応溶媒としては、トルエン、ベンゼン、クロロホルム、塩化メチレン、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、1,2-ジメトキシエタン、1,4-ジオキサンおよびそれらの混合溶媒などが使用でき、水素化ジイソブチルアルミニウムが溶解しているトルエンをそのまま溶媒としても良いが、好ましくは、塩化メチレンである。反応温度は、通常0〜50℃程度が好ましく、特に0〜20℃が好ましい。反応時間は、通常5分間〜2日間が好ましい。
【0026】
このようにして得られたモノベンジル体(3)は、塩基存在下でのヒドロキシルアミン塩酸塩との反応により、相当するヒドロキシルアミノ体(4)を生成する。トリエチルアミンを代表とする非水系塩基は過剰に使用することができるが、反応終了後の扱い易さなどの点から使用量を制限することが望ましく、使用量としては、原料1当量に対して10当量〜100当量が好ましく、さらに好ましくは30〜50当量である。本反応で用いるヒドロキシルアミン塩酸塩は市販品を適用できるが、反応性・扱い易さなどの点から水分を含まない結晶上のものが好ましい。反応溶媒としては、通常メタノール、エタノールをはじめとするアルコール類およびこれらの混合溶媒などが使用でき、原料の20〜50倍程度の重量が適当である。反応温度は、通常加熱還流温度が好ましい。反応時間は、通常10時間〜2日間が好ましい。
【0027】
このようにして得られたヒドロキシルアミノ体(4)は、酸化反応により相当する環状ニトロン化合物(5aおよび5b)へと変換される。酸化剤としては、市販のものあるいは調製した試薬および酸素を含むガス(例えば、空気)を利用する方法が適用できる。この反応は、黄色酸化水銀の作用によっても行なうことができる(参考文献:1. J. Org. Chem., 1990, 55, 1736-1744. 2. Bull.Chem. Soc. Jpn., 1999, 72, 2737-2754. 3. Tetrahedron, Lett., 2001, 43, 6503-6505. 4. Synthesis, 1999, 2036-2040. 5. 特開2004-262880))。黄色酸化水銀を使用する場合、その使用量は、ヒドロキシルアミノ体1当量に対して1〜5当量、好ましくは1.1〜2当量である。反応溶媒としては、通常クロロホルム、塩化メチレンおよびこれらの混合溶液などが使用できる。反応温度は、通常−10〜50℃程度が好ましく、特に0〜20℃が好ましい。反応時間は、通常5分間〜2日間程度が好ましい。この反応においては、ニトロンの位置異性体が2種(5aおよび5b)生成するが、以降の反応における反応性・選択性に影響しないので、分離せずに用いることが可能である。
【0028】
本発明の中間体(3)から(4)を経て(5)に至る一連の反応形態・操作は、公知(J. Org. Chem., 1993, 58, 5274-5275)の手法と同等であるが、安価かつ中性条件で除去可能なベンジル基で保護された(5)は合成されておらず、容易に得難い化合物であった。本発明の1-ピロリン-N-オキシド化合物は、糖加水分解酵素(グリコシダーゼ)阻害剤をはじめとする光学活性ピロリジン化合物を合成する際の実用的な中間体であり、本発明の簡便なる供給法の確立は、今後展開すべき詳細な研究と商品開発に大きく寄与するものである。
次に実施例を示し、本発明をさらに具体的に説明する。
【実施例】
【0029】
化合物 (2) の合成
公知(市販品)の化合物(1)(42.5 g, 0.20 mol) をピリジン (85 mL) に溶かし、−5℃に冷却して撹拌した。この溶液に、塩化パラトルエンスルホニル (80.9 g, 0.424 mol) を加え、−5℃で30分間撹拌した。反応終了後、溶液を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液にあけ、析出した結晶をアセトンから再結晶することにより、トシル体(2)を収率84%で得た。
【0030】
化合物(2)の物性値
分子式:C25H26O8S2
分子量:518.60
1H NMR (CDCl3) δ 7.81 and 7.70 (each d,4H, aromatic), 7.37-7.31 (m, 9H, aromatic), 5.80 (s, 1H, benzylidene), 4.25-4.10 (m, 6H, H-1, 2, 3 and 4), 2.45 and 2.44 (each s, 6H, Ts).
【0031】
化合物(3)の合成
化合物(2)(10.0 g, 19.3 mmol) を塩化メチレン (200 mL) に溶かし、−15℃に冷却して撹拌した。この溶液に、水素化ジイソブチルアルミニウム (1Mトルエン溶液;57.8 mL, 57.8 mmol) を加え、−15℃で30分間撹拌した。系内に飽和塩化アンモニウム水溶液を加え反応を停止後、1M塩酸を加えて塩化メチレン層と分液した。水層から数回塩化メチレン抽出を行ない、有機層を合わせて無水硫酸マグネシウムで乾燥、濃縮した。残渣をシリカゲルカラム(n-ヘキサン:酢酸エチル=4:1〜1:1にて溶出)で精製して、定量的収率で純粋なモノベンジル体(3)を得た。
【0032】
化合物(3)の物性値
分子式:C25H28O8S2
分子量:520.62
1H NMR (CDCl3) δ 7.76 (d, 4H, J = 7.3 Hz, aromatic), 7.37-7.18 (m, 9H, aromatic), 4.61 and 4.42 (each d, 2H, J = 11.2 Hz, benzyl), 4.16 (dd, 1H, J = 5.5, 10.6 Hz, H-1 or 4), 4.11 (dd, 1H, J = 5.5, 10.6 Hz, H-1 or 4), 3.98 (dd, 1H, J = 5.5, 10.3 Hz, H-1 or 4), 3.94 (dd, 1H, J = 5.5, 10.6 Hz, H-1 or 4), 3.86-3.81 (m, 1H, H-3), 3.73 (dt, 1H, J = 2.9, 5.5, 5.5 Hz, H-2), 2.45 and 2.44 (each s, 6H, Ts), 2.31 (d, 1H, J = 7.3 Hz, OH).
13C NMR (CDCl3) δ 145.11, 145.07, 136.78, 132.18, 132.11, 129.88, 128.34, 128.19, 128.03, 127.99, 127.81, 127.78, 75.00, 73.26, 69.54, 68.27, 68.15, 21.51.
【0033】
化合物(4)の合成
化合物(3)(5.0 g, 9.6 mmol) をエタノール (29 mL) に溶かし、これにヒドロキシルアミン塩酸塩 (2.7 g, 38.4 mmol) とトリエチルアミン (29 mL)を加え、アルゴン雰囲気下で15時間加熱還流した。反応終了を確認後、溶液中のエタノールとトリエチルアミンの大部分を留去し、1M水酸化ナトリウム水溶液にあけて酢酸エチルで数回抽出した。分離した有機層を、飽和食塩水による洗浄、無水硫酸マグネシウムによる乾燥ののち濃縮すると、定量的収率で純粋なヒドロキシルアミノ体(4)が得られた。
【0034】
化合物(4)の物性値
分子式:C11H15NO3
分子量:209.24
1H NMR (CDCl3) δ 7.35-7.24 (m, 5H, aromatic), 5.95 (br s, 1H, OH), 4.60 and 4.52 (each d, 2H, J = 11.7 Hz, benzyl), 4.26 (br s, 1H, H-3), 4.20-4.05 (m, 1H, H-4), 3.61 (dd, 1H, J = 7.0, 12.8 Hz, H-5a), 3.20 (s, 2H, H-2), 2.91 (br d, 1H, H-5b).
【0035】
化合物(5a)(5b)の合成
化合物(4)(742 mg, 3.55 mmol) を塩化メチレン (7.5 mL) に溶かし、これに黄色酸化水銀 (1.54 g, 7.10 mmol)を加え、室温で4時間撹拌した。反応終了を確認後、不溶物をセライトろ過してろ液を濃縮すると、728 mg(収率99%)の環状ニトロン体(5a)(5b)が高純度で得られた。この環状ニトロン体は、ベンジル基が2位または3位に結合した2種の異性体混合物(5a):(5b)=1:1である。
【0036】
化合物(5a):(5b)=1:1の物性値
分子式:C11H13NO3
分子量:207.23
1H NMR (CDCl3) δ 7.39-7.25 (m, 5H, aromatic), 6.98 (s, 0.5H, H-2), 6.89 (s, 0.5H, H-2), 4.82 (s, 0.5H, H-3), 4.63 (d, 1H, J = 11.6 Hz, benzyl), 4.55 and 4.53 (each d, 1H, J = 11.6 Hz, benzyl), 4.49 (s, 0.5H, H-3), 4.42 (d, 0.5H, J = 6.2 Hz, H-4), 4.30 (dd, 0.5H, J = 6.2, 14.6 Hz, H-5a), 4.28 (dd, 0.5H, J = 6.2, 14.6 Hz, H-5a), 4.14 (d, 0.5H, J = 6.2 Hz, H-4), 3.80 (d, 0.5H, J = 14.6 Hz, H-5b), 3.74 (d, 0.5H, J = 14.6 Hz, H-5b).
【0037】
本発明の(3S,4S)1-ピロリン-N-オキシド化合物を用いたピロリジン化合物の合成例

スキーム4 (2R,3S,4S) 2-アミノメチル-3,4-ジヒドロキシピロリジン二塩酸塩の立体選択的合成
【0038】
化合物(7a)(7b)の合成
環状ニトロン体((5a):(5b)=1:1)(74 mg, 0.36 mmol) をアセトニトリル (1.5 mL) とメタノール (0.5 mL)の混合溶媒に溶かし、トリエチルアミン (248 μl, 1.79 mmol)とトリメチルシリルシアニド (238 μl, 1.79 mmol)を加え、室温にて1.5時間撹拌した。反応終了後、大部分の溶媒を留去してから飽和炭酸水素ナトリウム水溶液にあけ酢酸エチルで抽出した。有機層を飽和食塩水で洗浄後、乾燥、濃縮すると相当するヒドロキシアミノニトリル体が収率90%で得られた。このヒドロキシアミノニトリル体は、ベンジル基が2位及び3位に結合した2種の異性体((6a):(6b)=1:1)が含まれた混合物である。このヒドロキシアミノニトリル体((6a):(6b)=1:1)(44 mg, 0.19 mmol) をピリジン (0.5 mL)に溶かし、これに無水酢酸 (0.5 mL)を加え、60℃にて1時間撹拌した。反応終了後、溶媒を留去すると相当するイミノニトリル体(7a):(7b)=1:1が48 mg(定量的収率)で得られた。2工程収率は90%である。
【0039】
化合物(7a):(7b)=1:1の物性値
分子式:C14H14N2O3
分子量:258.27
1H NMR (CDCl3) δ 7.40-7.30 (m, 5H, aromatic), 5.82 (s, 0.5H, H-3A), 5.18 (dt, 0.5H, J = 2.2, 2.2, 5.9 Hz, H-4B), 4.84, 4.76 and 4.71 (each d, 1.5H, J = 11.7 Hz, benzyl), 4.57 (s, 0.5H, H-4A), 4.55 (d, 0.5H, J = 11.7 Hz, benzyl), 4.48 (ddd, 0.5H, J = 2.2, 5.9, 19.2 Hz, H-5aB), 4.38 (ddd, 0.5H, J = 2.2, 5.9, 19.2 Hz, H-5aA), 4.18 (dd, 0.5H, J = 2.2, 19.2 Hz, H-5bA), 4.13 (m, 0.5H, H-3B), 4.09 (dd, 0.5H, J = 2.2, 19.2 Hz, H-5bB), 2.16 and 2.06 (each s, 3H, Ac).
【0040】
化合物(8a)(8b)の合成
イミノニトリル体((7a):(7b)=1:1)(48 mg, 0.19 mmol) をエタノール (1 mL)に溶かし、これに水素化ホウ素ナトリウム(21 mg, 0.56 mmol)を0℃にて加え、室温にて3時間撹拌した。反応終了後、反応溶液を飽和食塩水にあけ酢酸エチルで抽出した。有機層を乾燥、濃縮すると、相当するアミノニトリル体が定量的収率で得られた。このアミノニトリル体は、ベンジル基が2位及び3位に結合した2種の異性体((8a):(8b)=1:1)が含まれた混合物である。
【0041】
化合物(8a):(8b)=1:1の物性値
分子式:C14H16N2O3
分子量:260.29
1H NMR (CDCl3) δ 7.42-7.30 (m, 5H, aromatic), 5.29 (dd, 0.5H, J = 1.6, 5.9 Hz, H-3B), 5.17 (dt, 0.5H, J = 1.6, 5.5 Hz, H-4A), 4.79, 4.71, 4.63 and 4.55 (each d, 2H, J = 11.9 Hz, benzyl), 4.42 (d, 0.5H, J = 5.9 Hz, H-2B), 4.14 (d, 0.5H, J = 5.9 Hz, H-2A), 4.08 (dd, 0.5H, J = 1.6, 5.9 Hz, H-3A), 4.07 (dt, 0.5H, J = 1.6, 5.5 Hz, H-4B), 3.53 (dd, 0.5H, J = 5.5, 12.5 Hz, H-5aA), 3.29 (dd, 0.5H, J = 5.5, 12.5 Hz, H-5aB), 3.09 (dd, 0.5H, J = 1.6, 12.5 Hz, H-5bB), 2.98 (dd, 0.5H, J = 1.6, 12.5 Hz, H-5bA), 2.17 and 2.05 (each s, 3H, Ac).
【0042】
化合物(9)の合成
アミノニトリル体((8a):(8b)=1:1)(48 mg, 0.19 mmol) をエタノール (1 mL)に溶かし、これにBoc2O (81 mg, 0.37 mmol)とトリエチルアミン(52 μl, 0.37 mmol)を室温にて加え2時間撹拌した。反応終了後、反応溶液を濃縮して残渣をシリカゲルカラム(n-ヘキサン:酢酸エチル=3:1〜2:1にて溶出)で精製して、収率90%で相当するN-Boc体を得た。このN-Boc体(13 mg, 35.2 μmol)をメタノール(1 mL)に溶かし、これにナトリウムメトキシド (1 mg, 17.6 μmol)を加え室温にて1時間撹拌した。反応終了後、反応溶液にイオン交換樹脂(DOWEX50WX-8(ダウケミカル社製))を加えて中和し、ろ過ののち濃縮すると脱アセチル体が得られた。さらに、これをエタノール (1 mL) に溶かし、これに酢酸(0.3 mL)と水酸化パラジウム (20% on 活性炭) (ca. 5 mg) を加え、水素ガス雰囲気下室温で10時間撹拌した。反応終了を確認し、反応液をセライトろ過ののち濃縮すると、N-Bocアミノメチル体(9)が収率96%で得られた。ここでは、N-Bocアミノメチル体(9)の酢酸塩が得られるので、これをDOWEX50WX-8(ダウケミカル社製)にてイオン交換カラム (1.3N アンモニア水で溶出) することで定量的に塩フリーとした。3工程収率は86%である。
【0043】
N-Boc中間体の物性値
1H NMR (CDCl3) δ 7.43-7.32 (m, 5H, aromatic), 5.19 (s, 1H, H-4), 4.77 (s, 2H, benzyl), 4.69 (d, 0.4H, J = 5.5 Hz, H-2), 4.59 (d, 0.6H, J = 5.5 Hz, H-2), 4.16 (d, 0.6H, J = 5.5 Hz, H-3), 4.15 (d, 0.4H, J = 5.5 Hz, H-3), 3.83 (dd, 0.4H, J = 5.5, 12.1 Hz, H-5a), 3.79 (dd, 0.6H, J = 5.5, 12.1 Hz, H-5a), 3.58 (d, 0.6H, J = 12.1 Hz, H-5b), 3.40 (d, 0.4H, J = 12.1 Hz, H-5b), 2.06 (s, 3H, Ac), 1.53 and 1.48 (each s, 9H, Boc).
【0044】
脱アセチル体の物性値
1H NMR (CDCl3) δ 7.43-7.28 (m, 5H, aromatic), 4.78-4.75 (br s, 1H, H-2), 4.74 (s, 2H, benzyl), 4.26 (br-s, 1H, H-4), 4.11-4.06 (m, 1H, H-3), 3.60 and 3.57 (each dd, 1H, J = 5.9, 12.1 Hz, H-5a), 3.37-3.30 (m, 1H, H-5b), 1.53 and 1.48 (each s, 9H, Boc).
【0045】
化合物(9)の物性値
分子式:C10H20N2O4
分子量:232.28
1H NMR (CD3OD) δ 4.36-3.95, 3.65-3.25 and 3.20-3.10 (each m, 7H), 1.50 and 1.48 (each s, 9H, t-Bu). (構造中のBoc基に起因するロータマー混合物として観測された)
13C NMR (CD3OD) δ 179.11, 158.44, 82.01, 77.81, 74.92, 58.90, 58.31, 54.10, 40.94, 28.77, 28.73, 28.64, 23.29, 18.38. (構造中のBoc基に起因するロータマー混合物として観測された)
【0046】
化合物(10)の合成
N-Bocアミノメチル誘導体(9)をTFA(ca. 1 ml)に溶かし、室温にて10分間撹拌した。濃縮すると(2R,3S,4S)-2-アミノメチル-3,4-ジヒドロキシピロリジン(10)はトリフルオロ酢酸塩として得られた。これを、Sephadex(登録商標) G-15(ファルマシア製)にてゲルろ過(水で溶出)して、さらにDOWEX(登録商標) 50WX-8(ダウケミカル社製)にてイオン交換カラム(1.3N アンモニア水で溶出)することで塩フリーとして単離した。さらに濃縮乾固したのちに1M塩酸を加えて濃縮すると塩酸塩として単離した。
分子式:C5H14Cl2N2O2
分子量:205.08376
比旋光度:[a]D -4.0° (c 0.64, H2O)
Rf 値: 0.4 (n-BuOH : AcOH : H2O = 1 : 1 : 1)
1H NMR (D2O) δ 4.30 (d, 1H, H-4, J = 4.0 Hz), 4.25 (d, 1H, H-3, J = 3.3 Hz), 3.97 (ddd, 1H, H-2, J = 3.3, 6.6, 6.6 Hz), 3.61 (dd, 1H, H-5a, J = 4.0, 13.1 Hz), 3.47 (dd, 1H, H-2'a, J = 6.6, 13.8 Hz), 3.37 (dd, 1H, H-2'b, J = 6.6, 13.8 Hz), 3.23 (d, 1H, H-5b, J = 13.1 Hz).
13C NMR (D2O) δ 74.25 (C-3), 73.86 (C-4), 58.56 (C-2), 51.52 (C-5), 35.65 (C-2').

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(II)で表される化合物をヒドロキシルアミンと反応させて、一般式(III)で表されるN−ヒドロキシピロリジン化合物を得る工程、及び前記N−ヒドロキシピロリジン化合物(III)を酸化して、一般式(I)で表される1-ピロリン-N-オキシド化合物を得る工程を含む、一般式(I)で表される1-ピロリン-N-オキシド化合物を製造する方法。

(I)
式中、Rはどちらか一方が水素でもう一方がベンジル基であり、3位炭素及び4位炭素の立体配置は(3S,4S)及び(3R,4R)の組合せから選択される。なお、炭素原子横の*のマークは、その炭素原子が不斉炭素であることを意味する。


(II)
式中、R1は置換または非置換アルキル基、置換または非置換アリール基、置換または非置換アラルキル基、及び置換または非置換アルキルアリール基を含むスルホン酸エステルからなる群より選択されるスルホン酸エステル型置換基を示し、*のマークが付された炭素原子の立体配置は(R,R)及び(S,S)の組合せから選択され、R2は、どちらか一方が水素でもう一方がベンジル基である。

(III)
式中、3位炭素及び4位炭素の立体配置は(3R,4R)及び(3S,4S)の組合せから選択され、R2は、どちらか一方が水素でもう一方がベンジル基である。
【請求項2】
一般式(II)で表される化合物が、一般式(V)で表される化合物のベンジリデン基を還元的に開裂することにより得られる化合物である、請求項1記載の方法。

(V)
式中、R1は置換または非置換アルキル基、置換または非置換アリール基、置換または非置換アラルキル基、及び置換または非置換アルキルアリール基を含むスルホン酸エステルからなる群より選択されるスルホン酸エステル型置換基を示し、*のマークが付された炭素原子の立体配置は(R,R)及び(S,S)の組合せから選択される。
【請求項3】
一般式(V)で表される化合物が、式(IV)で表される化合物に対してスルホン酸エステル型置換基を導入することにより得られる化合物である、請求項2記載の方法。

(IV)
式中、*のマークが付された炭素原子の立体配置は(R,R)及び(S,S)の組合せから選択される。
【請求項4】
一般式(I)で表される1-ピロリン-N-オキシド化合物。

(I)
式中、Rはどちらか一方が水素でもう一方がベンジル基であり、3位炭素及び4位炭素の立体配置は(3S,4S)及び(3R,4R)の組合せから選択される。なお、炭素原子横の*のマークは、その炭素原子が不斉炭素であることを意味する。
【請求項5】
一般式(II)で表される化合物。

(II)
式中、R1は置換または非置換アルキル基、置換または非置換アリール基、置換または非置換アラルキル基、及び置換または非置換アルキルアリール基を含むスルホン酸エステルからなる群より選択されるスルホン酸エステル型置換基を示し、*のマークが付された炭素原子の立体配置は(R,R)及び(S,S)の組合せから選択され、R2は、どちらか一方が水素でもう一方がベンジル基である。
【請求項6】
請求項1に記載の方法により一般式(I)で表される化合物を製造し、さらに以下の工程を行なうことにより、式(II)の化合物から式(X)で表される化合物を製造する方法:
一般式(I)で表される化合物の2位にシアノ基を導入して、下記一般式(VI)で表される化合物(式(VI)中、R2はどちらか一方が水素であり、残りがベンジル基である)に変換する工程、
一般式(VI)で表される化合物の遊離水酸基をアシル化することにより、一般式(VII)で表される化合物(式(VII)中、R2はどちらか一方がアセチル基であり、残りがベンジル基である)に変換する工程、
一般式(VII)で表される化合物を還元することにより、一般式(VIII)で表される化合物(式(VIII)中、R2はどちらか一方がアセチル基であり、残りがベンジル基である)に変換する工程、
一般式(VIII)で表される化合物をさらに還元することにより、一般式(IX)(式(IX)中、R2は水素であり、R3はアミノ保護基である)で表される化合物に変換する工程、
一般式(IX)で表される化合物のアミノ基の保護基を脱保護することにより式(X)で表される化合物に変換する工程。

【請求項7】
下記一般式(VI)で表される化合物。

(VI)
2はどちらか一方が水素であり、どちらか一方がベンジル基である。
【請求項8】
一般式(VII)で表される化合物。

(VII)
2はどちらか一方がアセチル基であり、どちらか一方がベンジル基である。
【請求項9】
一般式(VIII)で表される化合物。


(VIII)
2はどちらか一方がアセチル基であり、どちらか一方がベンジル基である。

【公開番号】特開2006−225345(P2006−225345A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−42537(P2005−42537)
【出願日】平成17年2月18日(2005.2.18)
【出願人】(504448645)
【出願人】(504448656)
【出願人】(500433203)株式会社浮間化学研究所 (3)
【Fターム(参考)】