説明

光学素子及びその製造方法

【課題】高硬度,耐湿性,耐熱性,化学的安定性等の性質を備え、紫外線領域から赤外線領域の広い波長領域の光を透過可能な保護膜を備える光学素子を提供する。
【解決手段】光学素子は、光学素子基板1と、光学素子基板1の表面にイオンビームアシスト蒸着法により成膜された、光学素子基板1の保護膜として機能する酸化ハフニウム(HfO)膜2とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光素子,受光素子,レンズ等の光学素子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、高硬度,耐湿性を目的とした光学素子の保護膜としてはSiO膜が利用されている。
【特許文献1】特開2001−174612号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、SiO膜は0.3〜6.0[μm]の範囲内の波長を有する光しか透過しないために、保護膜として適用可能な光学素子の種類に制約がある。このような背景から、高硬度,耐湿性,耐熱性,化学的安定性等の性質を備え、紫外線領域から赤外線領域の広い波長領域(0.3〜12.0[μm])の光を透過可能な保護膜の提供が望まれている。
【0004】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、その目的は、高硬度,耐湿性,耐熱性,化学的安定性等の性質を備え、紫外線領域から赤外線領域の広い波長領域の光を透過可能な保護膜を備える光学素子及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明に係る光学素子は、光学素子基板と、光学素子基板の表面にイオンビームアシスト蒸着法により成膜された、光学素子基板の保護膜として機能する酸化ハフニウム(HfO)膜とを備える。また、本発明に係る光学素子の製造方法は、光学素子基板の表面にイオンビームアシスト蒸着法により酸化ハフニウム(HfO)膜を光学素子基板の保護膜として成膜する工程を有する。
【発明の効果】
【0006】
本発明に係る光学素子及びその製造方法によれば、高硬度,耐湿性,耐熱性,化学的安定性等の性質を備え、紫外線領域から赤外線領域の広い波長領域の光を透過可能な保護膜を備える光学素子を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態となる光学素子の構成及びその製造方法について詳しく説明する。
【0008】
〔光学素子の構成〕
本発明の実施形態となる光学素子は、図1に示すように、光学素子基板1と、光学素子基板1表面上に成膜された酸化ハフニウム(HfO)膜2とを備える。光学素子基板1の表面上に化学的安定性を有するHfO膜(膜厚1.0[μm]程度)を成膜することにより、図2に示すようにHfO膜を成膜しない場合と比較して光学素子基板表面のビッカース硬度が増加(2000[Hv]以上)するので、HfO膜を光学素子基板1表面の保護膜として機能させることができる。また、HfO膜は0.3〜10.0[μm]の波長領域の光を透過する性質を有するので、紫外線領域から赤外線領域の広い波長領域の光を透過可能な保護膜を備える光学素子を提供することができる。また、HfO膜の融点は約2812[℃]と高温であるので、HfO膜を成膜することにより光学素子の耐熱性を向上させることもできる。また、HfO膜は耐湿性に優れるので、HfO膜を成膜することにより光学素子の耐湿性を向上させることもできる。
【0009】
〔光学素子の製造方法〕
上記光学素子は、図3に示すようなRFイオンビーム銃11から光学素子基板1表面に向けてイオンビームを照射しながら蒸着材料が充填された坩堝12を加熱することにより光学素子基板1表面上に成膜するイオンビームアシスト蒸着装置13により製造される。具体的には、RFイオンビーム銃11からO(酸素)イオンビームを照射しながらHfOが充填された坩堝12を加熱することにより、光学素子基板1表面上にHfOを蒸着させる。イオンビームアシスト蒸着装置13により成膜することにより、PVD(Physical Vapor Deposition)法と比較して、緻密、且つ、高耐久性を有する膜を形成することができると共に、高い成膜レートで膜を形成することができる。
【0010】
HfO膜の成膜レートは、水晶センサ14によって検出され、所定の大きさになるように調整されている。また、赤外光源15から光学素子基板1の裏面に向けて赤外線光を照射し、光学素子基板1とHfO膜を透過してきた赤外線光を赤外光センサ16によって検出すると共に、可視光センサ17によって光学素子基板1の裏面において反射した光を検出する光学センサ18によって、製造された光学素子の性能を評価することができる。
【0011】
HfO膜の結晶構造は、図4及び図5に示すX線回折図形から明らかなように、イオンビーム加速電圧や輸送比(RFイオンビーム銃11からのイオンビームの照射条件)を選定することにより制御することができる。図4及び図5に示すX線回折図形はそれぞれ、輸送比を1.0に固定した状態でイオンビーム加速電圧を0〜1000[V]の範囲内で変化させた時のHfO膜の結晶方位の変化、及びイオン加速電圧を700[V]に固定した状態で輸送比を0.0〜1.0の範囲内で変化させた時のHfO膜の結晶方位の変化を示す。これにより、様々な光学素子基板1に密着性の良いHfO膜を成膜することができる。「輸送比」とは、光学素子基板1表面に到達するイオンの数を光学素子基板1表面に到達する蒸着原子の数で割った値を示す。
【0012】
HfO膜における光の屈折率は、図6及び図7に示すように、イオンビーム加速電圧や輸送比を選定することにより制御することができる。図6及び図7はそれぞれ、輸送比を0.7に固定した状態でイオンビーム加速電圧を700〜1000[V]の範囲内で変化させた時のHfO膜における光の屈折率の変化、及びイオン加速電圧を700[V]に固定した状態で輸送比を0.0〜1.0の範囲内で変化させた時のHfO膜における屈折率の変化を示す。これにより、光学設計に幅を持たせることができる。
【0013】
以上、本発明者らによってなされた発明を適用した実施の形態について説明したが、この実施の形態による本発明の開示の一部をなす論述及び図面により本発明は限定されることはない。すなわち、上記実施の形態に基づいて当業者等によりなされる他の実施の形態、実施例及び運用技術等は全て本発明の範疇に含まれることは勿論であることを付け加えておく。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態となる光学素子の構成を示す断面図である。
【図2】光学素子基板表面にHfO膜を形成した場合と形成しない場合における光学素子のビッカース硬度の変化を示す図である。
【図3】図1に示す光学素子を製造する際に用いられるイオンビームアシスト蒸着装置の構成を示す模式図である。
【図4】イオンビーム加速電圧の変化に伴うHfO膜の結晶方位の変化を示すX線回折図形である。
【図5】輸送比の変化に伴うHfO膜の結晶方位の変化を示すX線回折図形である。
【図6】イオンビーム加速電圧の変化に伴うHfO膜における光の屈折率の変化を示す図である。
【図7】輸送比の変化に伴うHfO膜における光の屈折率の変化を示す図である。
【符号の説明】
【0015】
1:光学素子基板
2:HfO
11:RFイオン銃
12:坩堝
13:イオンビームアシスト蒸着装置
14:水晶センサ
15:赤外光源
16:赤外光センサ
17:可視光センサ
18:光学モニタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学素子基板と、
前記光学素子基板の表面にイオンビームアシスト蒸着法により成膜された、光学素子基板の保護膜として機能するHfO膜と
を備えることを特徴とする光学素子。
【請求項2】
光学素子基板の表面にイオンビームアシスト蒸着法によりHfO膜を光学素子基板の保護膜として成膜する工程を有することを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載の光学素子の製造方法において、イオンビームアシスト蒸着法によりHfO膜を成膜する際、イオンビーム加速電圧を選定することにより前記HfO膜の結晶構造を制御することを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項4】
請求項2又は請求項3に記載の光学素子の製造方法において、イオンビームアシスト蒸着法によりHfO膜を成膜する際、光学素子基板の表面に到達するイオンの数を光学素子基板の表面に到達する蒸着原子数で除算した値を選定することにより前記HfO膜の結晶構造を制御することを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項5】
請求項2乃至請求項4のうち、いずれか1項に記載の光学素子の製造方法において、イオンビームアシスト蒸着法によりHfO膜を成膜する際、イオンビーム加速電圧を選定することにより前記HfO膜における光の屈折率を制御することを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項6】
請求項2乃至請求項5のうち、いずれか1項に記載の光学素子の製造方法において、イオンビームアシスト蒸着法によりHfO膜を成膜する際、光学素子基板の表面に到達するイオンの数を光学素子基板の表面に到達する蒸着原子数で除算した値を選定することにより前記HfO膜における光の屈折率を制御することを特徴とする光学素子の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2008−76941(P2008−76941A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−258629(P2006−258629)
【出願日】平成18年9月25日(2006.9.25)
【出願人】(000005832)松下電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】