説明

光学装置、およびそれを用いた撮像装置、撮像システム

【課題】
画像回復処理に合わせた特性を有する光学装置、及びそれを用いた撮像装置、撮像システムを提供することで、効果的な画像回復処理を実現する。
【解決手段】
撮像素子に被写体の像を結像するとともに、撮像素子で得られた画像に対し画像回復処理が実行される光学装置において、以下の条件式(1)を満足するMTFを有することを特徴とする光学装置。
0.001<L×NA<0.5、 5<a<30 …(1)
ただし、
L:MTFがa%におけるMTF幅、
NA:光学装置の開口数、
である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デジタルカメラなどに用いられる光学装置、その光学装置を用いた撮像装置、または撮像装置と外部装置にて構成される撮像システムに関するものであり、特に、撮像した画像に対して実行される画像復元処理に適した光学系を有するものに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、光学系を通して集光した被写体の像をCCD等の撮像素子に投影し、撮像を行う各種撮像装置が知られている。このような撮像装置においては、撮像して得られた画像に対して、所定の特性を有するフィルタにて加工する各種画像処理が行われることが一般的である。
【0003】
このような、画像処理を可能とする撮像装置として、特許文献1には、光学系と、撮像素子と、変換手段と、信号処理手段とを備え、第1フィルタと第2フィルタを用いる撮像装置が開示されている。光学系は、合焦位置およびその前後の距離において焦点のボケ量が略一定となるように形成されている。撮像素子は、光学系によって結像された被写体像を撮像する。変換手段は、撮像素子から得た画像における焦点のボケを補正して、復元した画像を生成する。信号処理手段は、画像信号に所定の画像処理を行う。また、第1フィルタは静止画撮影モード時に、変換手段の画像復元処理のために用いられる。第2フィルタは、動画撮影モード時、またはスルー画像表示時に、変換手段の画像復元処理のために用いられる。
【0004】
この特許文献1の開示によれば、動画撮影モード時やスルー画像表示時において第2フィルタを用いた簡易な画像復元処理を行うことができる。そして、これにより、高価な変換手段を必要することなく光学系を簡単化できるので、コスト低減を図ることができる。また、復元画像を劣化させることのない撮像装置を提供することができるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−011492号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1では、画像における焦点のボケを補正して画像を復元している。復元した画像における解像は十分とはいえなかった。
【0007】
本発明は、復元した画像において解像が十分得られ、また、焦点深度が拡大した画像を簡単に得ることを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述の課題を解決するために、本発明の光学装置、およびそれを用いた撮像装置、撮像システムは以下の何れかとするものである。
【0009】
本発明の光学装置の第1の構成は、撮像素子に被写体の像を結像するとともに、前記撮像素子で得た画像に対し画像回復処理が実行される光学装置において、以下の条件式(1)を満足するMTFを有することを特徴とするものである。
0.001<L×NA<0.5、 5<a<30 …(1)
ただし
L:MTFがa%におけるMTF幅、
NA:前記光学装置の開口数、
である。
【0010】
また、本発明の光学装置の第2の構成は、第1の構成において、前記MTFは、以下の条件式(2)を満足することを特徴とするものである。
0.001<Lc×NA<0.5、 5<a<30 …(2)
ただし、
Lc:MTFの半値幅
である。
【0011】
また、本発明の撮像装置の第1の構成は、撮像素子と、前記撮像素子に被写体の像を結像する光学系と、前記撮像素子で得た画像に対して画像処理を実行する画像処理手段を有し、前記光学系は、以下の条件式(1)を満足するMTFを有することを特徴とするものである。
0.001<L×NA<0.5、 5<a<30 …(1)
ただし、
L:MTFがa%におけるMTF幅、
NA:前記光学系の開口数、
である。
【0012】
また、本発明の撮像装置の第2の構成は、第1の構成において、前記MTFは、以下の条件式(2)を満足することを特徴とするものである。
0.001<Lc×NA<0.5、 5<a<30 …(2)
ただし、
Lc:MTFの半値幅
である。
【0013】
また、本発明の撮像装置の第3の構成は、第1または第2の構成において、前記MTFは、条件式(3)を満足する空間周波数を有することを特徴とするものである。
ν=1/(2×P×A)、1<A<20 …(3)
ただし、
ν:空間周波数、
P:前記撮像素子の画素ピッチ、
である。
【0014】
また、本発明の撮像装置の第4の構成は、第1または第2の構成において、前記MTFは、条件式(4)を満足する空間周波数を有することを特徴とするものである。
ν=1/(2×P×A)、2<A<8 …(4)
ただし、
ν:空間周波数、
P:前記撮像素子の画素ピッチ、
である。
【0015】
また、本発明の撮像装置の第5の構成は、第1から第4の構成において、前記MTFが、条件式(5)を満足する空間周波数を有することを特徴とするものである。
0.001<ν/N<3 …(5)
ただし、
ν:空間周波数、
N:前記撮像素子一辺の画素数、
である。
【0016】
また、この撮像装置の第1〜第5の構成に、以下に記載する何れかの構成を同時に満足することがより好ましい。
【0017】
本発明の撮像装置の第6の構成は、第1から第5の何れかの撮像装置において、前記MTFは、開放Fナンバーにおいて、前記各条件式を満足することを特徴とするものである。
【0018】
また、本発明の撮像装置の第7の構成は、第1から第6の何れかの撮像装置において、前記MTFは、コントラストが0にならない範囲で他の空間周波数のMTFと交差することを特徴とするものである。
【0019】
また、本発明の撮像装置の第8の構成は、第7の撮像装置において、前記MTFは、他の空間周波数のMTFと10%以下の位置で交差することを特徴とするものである。
【0020】
また、本発明の撮像装置の第9の構成は、第1から第8の何れかの撮像装置において、前記光学系の球面収差特性が、ピーク値を有することを特徴とするものである。
【0021】
また、本発明の撮像装置の第10の構成は、第9の撮像装置において、前記光学系の球面収差特性は、2つ以上のピーク値を有することを特徴とするものである。
【0022】
また、本発明の撮像装置の第11の構成は、第10の撮像装置において、前記球面収差特性のピーク値は、プラス側とマイナス側に位置することを特徴とするものである。
【0023】
また、本発明の撮像装置の第12の構成は、第1から第11の撮像装置において、前記光学系は、前記MTFを実現するための波面制御素子を備えることを特徴とするものである。
【0024】
また、本発明の撮像装置の第13の構成は、第12の撮像装置において、前記MTFを実現するための波面制御素子は、非球面を有することを特徴とするものである。
【0025】
また、本発明の撮像装置の第14の構成は、第12の撮像装置において、前記MTFを実現するための波面制御素子は、位相板であることを特徴とするものである。
【0026】
また、本発明の撮像装置の第15の構成は、第12の撮像装置において、前記MTFを実現するための波面制御素子は、1面に複数の曲率を有するレンズであることを特徴とするものである。
【0027】
また、本発明の撮像装置の第16の構成は、第12の撮像装置において、前記MTFを実現するための波面制御素子は、中心と周辺で異なる曲率を有するレンズであることを特徴とするものである。
【0028】
また、本発明の撮像装置の第17の構成は、第15または第16の撮像装置において、前記MTFを実現するための波面制御素子は、1面に3つの曲率を有するレンズであることを特徴とするものである。
【0029】
また、本発明の撮像装置の第18の構成は、第12から第17の何れか1つの撮像装置において、前記MTFを実現するための波面制御素子は、その材質に複屈折結晶が用いら
れることを特徴とするものである。
【0030】
また、本発明の撮像装置の第19の構成は、第12から第18の何れか1つの撮像装置において、前記MTFを実現するための波面制御素子は、着脱可能とすることを特徴とするものである。
【0031】
また、本発明の撮像装置の第20の構成は、第1から第19の何れか1つの撮像装置において、前記画像処理手段において実行される画像処理は、前記撮像素子が出力する観測画像に対する画像回復処理を含むことを特徴とするものである。
【0032】
また、本発明の撮像装置の第21の構成は、第20の撮像装置において、前記画像回復処理は、前記光学系の結像特性を用いることを特徴とするものである。
【0033】
また、本発明の撮像装置の第22の構成は、第21の撮像装置において、前記画像回復処理は、回復画像が下記微分方程式で表される処理を実行することを特徴とするものである。
f(x,y)=g(x,y)+a1(x,y)・g'(x,y)+ …
… +an(x,y)・g(n)(x,y)
ただし、
f:回復画像、g:観測画像、a1、a2、…an:劣化パラメータ
(n):観測画像に対するn次微分。
【0034】
また、本発明の第1の撮像システムの構成は、第1から第22の何れか1つの撮像装置と、前記撮像素子で得た画像に対して画像回復処理を実行する外部装置とを有することを特徴とするものである。
【0035】
また、本発明の第2の撮像システムの構成は、第1の撮像システムにおいて、前記画像回復処理は、前記光学系の結像特性を用いることを特徴とするものである。
【0036】
また、本発明の第3の撮像システムの構成は、第1または第2の撮像システムにおいて、前記画像回復処理は、回復画像が下記微分方程式で表される処理を実行することを特徴とするものである。
f(x,y)=g(x,y)+a1(x,y)・g'(x,y)+ …
… +an(x,y)・g(n)(x,y)
ただし、
f:回復画像、g:観測画像、a1、a2、…an:劣化パラメータ
(n):観測画像に対するn次微分。
【0037】
また、本発明の第4の撮像システムの構成は、前記撮像装置と前記外部装置はそれぞれ通信手段を備え、前記撮像装置で撮像された観測画像を、前記通信手段を介して前記外部装置に送信することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0038】
本発明に拠れば、復元した画像において、十分な解像が得られる。また、焦点深度が拡大した画像を簡単に得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明のMTF特性において各種パラメータを説明するための図。
【図2】比較例1、並びに、本発明の実施例1〜実施例3の光学系を展開して光軸に沿ってとった断面図。
【図3】比較例1のMTF特性を示す図。
【図4】比較例1の球面収差特性を示す図。
【図5】本発明の実施例1の光学系のMTF特性を示す図。
【図6】本発明の実施例1の球面収差特性を示す図。
【図7】本発明の実施例2で用いる2焦点レンズの構成を示した模式図。
【図8】本発明の実施例2の光学系のMTF特性を示す図。
【図9】本発明の実施例2の球面収差特性を示す図。
【図10】本発明の実施例3で用いる2焦点レンズの構成を示した模式図。
【図11】本発明の実施例3の光学系のMTF特性を示す図。
【図12】本発明の実施例4の球面収差特性を示す図。
【図13】本発明の実施例4で用いる3焦点レンズの構成を示した模式図。
【図14】本発明の実施例4の光学系のMTF特性を示す図。
【図15】本発明の実施例4の球面収差特性を示す図。
【図16】比較例2の光学系を展開して光軸に沿ってとった断面図。
【図17】比較例2のMTF特性を示す図。
【図18】比較例2の球面収差特性を示す図。
【図19】本発明の実施例4の光学系を展開して光軸に沿ってとった断面図。
【図20】本発明の実施例4の光学系のMTF特性を示す図。
【図21】本発明の実施例4の球面収差特性を示す図。
【図22】本発明の撮像装置の構成を示す概略図。
【図23】本発明の画像回復処理を示す概略図。
【図24】本発明の撮像システムの構成を示す概略図。
【発明を実施するための形態】
【0040】
本実施形態の光学装置の第1の構成は、撮像素子に被写体の像を結像するとともに、撮像素子で得た画像に対し画像回復処理が実行される光学装置において、以下の条件式(1)を満足するMTFを有することを特徴とする。
0.001<L×NA<0.5、 5<a<30 …(1)
ただし
L:MTFがa%におけるMTF幅、
NAは光学装置の開口数、
である。
【0041】
以下に、この光学装置の第1の構成を採用する理由と作用について説明する。
【0042】
光学装置では、光学系によって被写体の像が形成される。このとき、被写体の位置に応じて形成される像の位置も異なる。複数の被写体でそれぞれの位置が異なっている場合、各被写体の像の位置も異なる。ここで、ある被写体を基準として、この被写体にピントを合わせたとする。この場合、この被写体の像位置(以下、基準像位置)の前後に、他の被写体の像が形成される。そして、基準像位置ではピントの合った被写体像が得られるが、基準像位置の前後では、ピントのずれた(ぼけた)被写体像になる。
【0043】
第1の構成は、MTF特性の形状が一定、または略一定であることを規定したものである。なお、MTFとはModulation Transfer Functionのことである。図1は、本実施形態の光学装置、より具体的には、光学系のMTF特性において、各種パラメータを説明するための模式図である。この図には、デフォーカス量、すなわち、光軸に沿う方向の距離(図における横軸)に対してMTFの値をとったMTF特性が示されている。本実施形態でいうMTF幅とは、MTF特性の最両端間の距離をいうものであって、最両端間の途中でMTF特性が交差した場合においても、その交差は考慮されない。この図に示されるように、MTF_Hは、MTFの最大値を示し、MTF_H/2は最大値の半分(1/2)を
示している。また、MTFがa%においてMTF幅はLであり、MTFがMTF_H/2においてMTF幅はLcである。
【0044】
条件式(1)を満足することで、MTF特性の形状を一定、または略一定とすることができる。この場合、基準位置とその近傍位置で得られた画像それぞれについて、画像特性(画質、ボケ具合等)をほぼ同じようにすることができる。そのため、この画像に対して画像回復処理を行った場合、画像回復を効果的に行うことができる。
【0045】
具体的には、例えば、MTF特性を上昇させる回復処理を行った場合、画像の各画素において同じようにMTFを回復させることができる。すなわち、画像を構成する各画素について十分に解像をあげることができる。その結果、十分に解像された画像の回復ができる。また、焦点深度の広い画像として復元することができる。なお、略一定なMTFとは、画像回復処理が実行された時に、多くの画素で同じように像の回復が行なわれる(例えば、十分な解像が得られる程度となる)範囲(変動幅)をいう。
【0046】
条件式(1)の上限値を上回ると、画像回復処理での効果が低減したものとなる。また、条件式(1)の下限値を下回ると、幅広のMTF特性とならないとともに、光学装置の分解能も低いものとなってしまう。いずれにしても、画像回復処理が実行されたとしても、解像の低さ変化が目立つ画像となってしまう。
【0047】
なお、条件式(1)において、5<a<30の範囲全てにおいて、0.001<L×NA<0.5を満足するのが好ましい。しかしながら、5<a<30の1つにおいて0.001<L×NA<0.5を満足していれば良い。
【0048】
本実施形態の光学装置の第2の構成は、第1の構成において、MTFは、以下の条件式(2)を満足することを特徴とする。
0.001<Lc×NA<0.5、 5<a<30 …(2)
ただし、
Lc:MTFの半値幅
である。
【0049】
この条件式(2)を満足することで、MTF特性の形状を一定、または略一定とすることができる。これにより、この光学装置を使用して得られた画像に対して画像回復処理を実行する場合、この画像回復処理を効果的に行うことができる。すなわち、十分に解像された画像回復をすることができる。
【0050】
なお、条件式(2)において、5<a<30の範囲全てにおいて、0.001<Lc×NA<0.5を満足するのが好ましい。しかしながら、5<a<30の1つにおいて0.001<Lc×NA<0.5を満足していれば良い。
【0051】
本実施形態の撮像装置の第1の構成は、撮像素子と、撮像素子に被写体の像を結像する光学系と、撮像素子で得た画像に対して画像処理を実行する画像処理手段を有し、光学系は、以下の条件式(1)を満足するMTFを有することを特徴とする。
0.001<L×NA<0.5、 5<a<30 …(1)
ただし、
L:MTFがa%におけるMTF幅、
NA:光学系の開口数、
である。
【0052】
本実施形態の撮像装置の第2の構成は、第1の構成において、MTFは、以下の条件式
(2)を満足することを特徴とする。
0.001<Lc×NA<0.5、 5<a<30 …(2)
ただし、
Lc:MTFの半値幅
である。
【0053】
これら第1、第2の構成の撮像装置は、それぞれ前述した光学装置(光学系)の第1、第2の構成に、撮像素子と、撮像素子で得た画像に対して画像処理を実行する画像処理手段を付加したものである。条件式(1)と条件式(2)については、上記で説明したとおりである。これら第1、第2の撮像装置の構成に拠れば、MTF特性の形状が一定、または略一定である光学系によって画像を得ることができ、この画像に対して画像回復処理を効果的に行うことができる。すなわち、十分に解像された画像回復をすることができる。
【0054】
本実施形態の撮像装置の第3の構成は、第1または第2の構成において、MTFは、条件式(3)を満足する空間周波数を有することを特徴とする。
ν=1/(2×P×A)、1<A<20 …(3)
ただし、
ν:空間周波数、
P:撮像素子の画素ピッチ、
である。
【0055】
以下に、この撮像装置の第3の構成を採用する理由と作用について説明する。この第3の構成は、略一定なMTFが存在する空間周波数を規定したものである。第3の構成では、画素ピッチPを有する撮像素子における最大空間周波数νmax=1/(2×P)と係数
Aを用いて、略一定なMTFが存在する空間周波数を規定している。この第3の構成では、特に、空間周波数νの下限をνmax/20に規定している。撮像素子の設置位置および
その前後の所定距離において略一定なMTFが、この空間周波数νの範囲内で少なくとも1つ存在することを条件としている。このような条件を有する光学系を用いることで、画像回復処理を効果的に行うことが可能となる。すなわち、十分に解像された画像回復ができる。
【0056】
本実施形態の撮像装置の第4の構成は、第1または第2の構成において、MTFは、条件式(4)を満足する空間周波数を有することを特徴とする。
ν=1/(2×P×A)、2<A<8 …(4)
ただし、
ν:空間周波数、
P:撮像素子の画素ピッチ、
である。
【0057】
以下に、この撮像装置の第4の構成を採用する理由と作用について説明する。この第4の構成は、第3の構成と同様、略一定なMTFが存在する空間周波数を規定したものであって、第3の構成よりも空間周波数の範囲を狭め、更に良好な画像回復処理を行うことを可能としている。具体的には、最大空間周波数をνmaxとすると、空間周波数の上限をνmax/2、下限をνmax/8とするものである。この条件を満足することで、画像回復処理
を更に効果的に行うことが可能となる。すなわち、より解像された画像回復ができる。
【0058】
本実施形態の撮像装置の第5の構成は、第1から第4の構成において、MTFが、条件式(5)を満足する空間周波数を有することを特徴とする。
0.001<ν/N<3 …(5)
ただし、
ν:空間周波数、
N:撮像素子一辺の画素数、
である。
【0059】
以下に、この撮像装置の第5の構成を採用する理由と作用について説明する。この第5の構成も、略一定なMTFが存在する空間周波数を規定したものである。この第5の構成は、撮像装置で使用される撮像素子の一辺の画素数を用いて、空間周波数の上限と下限を規定したものである。ここで撮像素子一辺の画素数とは、矩形の撮像素子の場合、縦、横どちらか一辺の画素の並びにおいて多い方の画素数をいうものである。このように、条件式(5)は、撮像素子の設置位置およびその前後の所定距離において略一定なMTFが、この空間周波数νの範囲内で少なくとも1つ存在することを条件としている。この条件を満足することで、画像回復処理を効果的に行うことが可能となる。すなわち、十分に解像された画像回復ができる。
【0060】
また、この撮像装置の第1〜第5の構成に、以下に記載する何れかの構成を同時に満足することがより好ましい。
【0061】
本実施形態の撮像装置の第6の構成は、第1から第5の何れかの撮像装置において、MTFは、開放Fナンバーにおいて、各条件式を満足することを特徴とする。
【0062】
この第6の構成は、焦点深度の一番浅くなる開放Fナンバーにおいて、略一定なMTFを有することを規定したものである。光学系が可変絞りを有する場合、このように開放Fナンバーにおいて、略一定なMTFを有することを規定したものである。このようにすることで、可変絞りを変更した場合においても略一定なMTFを得ることができる。その結果、どの絞り位置の撮影で得られた画像に対しても、効果的な画像回復処理を実現できる。すなわち、十分に解像された画像回復ができる。
【0063】
本実施形態の撮像装置の第7の構成は、第1から第6の何れかの撮像装置において、MTFは、コントラストが0にならない範囲で他の空間周波数のMTFと交差することを特徴とする。
【0064】
この第7の構成は、目的とする空間周波数のMTFにおいて、撮像素子の設置位置およびその前後の所定位置におけるMTFが、略一定な箇所を有することを、他の空間周波数のMTFとの関係において保証するものである。具体的には、目的とする空間周波数のMTFとが他の空間周波数におけるMTFを重ね合わせたとする。この場合、目的とする空間周波数のMTFが略一定であれば、コントラスト0とならない範囲で他の空間周波数のMTFと交差する。なお、コントラストが0とは、着目する空間周波数のMTFにおいて、白黒が反転する位置であって、ちょうどMTFが0となる位置に相当している。
【0065】
本実施形態の撮像装置の第8の構成は、第7の撮像装置において、MTFは、他の空間周波数のMTFと10%以下の位置で交差することを特徴とする。
【0066】
この第8の構成は、第7の構成において更に良好となる条件を規定したものである。この第8の構成によれば、目的とする空間周波数のMTFにおいて、撮像素子の設置位置およびその前後の所定位置におけるMTFが、略一定な箇所を有することを、他の空間周波数のMTFとの関係においてさらに保証するものである。
【0067】
本実施形態の撮像装置の第9の構成は、第1から第8の何れかの撮像装置において、光学系の球面収差特性が、ピーク値を有することを特徴とする。
【0068】
この第9の構成は、光学系の球面収差特性に基づいて、撮像素子の設置位置およびその前後の所定位置におけるMTFが略一定であることを規定したものである。球面収差特性がピーク値を有する場合、球面収差特性はプラス側、および、マイナス側の両方向に変動することとなる。このように球面収差特性を両方向に変動させることで、撮像素子の設置位置近傍に光線を分散させることができる。このような特性を持たせることで、略一定なMTFを形成することが可能となる。
【0069】
本実施形態の撮像装置の第10の構成は、第9の撮像装置において、光学系の球面収差特性は、2つ以上のピーク値を有することを特徴とする。
【0070】
この第10の構成は、第9の構成において更に良好となる条件を規定したものである。このように球面収差特性が2つ以上のピーク値を有することで、球面収差特性は、プラス側、および、マイナス側の両方向へ少なくとも2回変動することとなる。このような特性を持たせることで、略一定なMTFを形成することができる。
【0071】
本実施形態の撮像装置の第11の構成は、第10の撮像装置において、球面収差特性のピーク値は、プラス側とマイナス側に位置することを特徴とする。
【0072】
この第11の構成は、第10の構成において更に良好となる条件を規定したものである。このように、球面収差特性のピーク値をプラス側、マイナス側の両方に位置させることで、略一定なMTFを形成することができる
本実施形態の撮像装置の第12の構成は、第1から第11の撮像装置において、光学系は、略一定なMTFを実現するための波面制御素子を備えることを特徴とする。
【0073】
光波面制御素子を設けることで、略一定なMTFを持つ光学系を実現することができる。
【0074】
本実施形態の撮像装置の第13の構成は、第12の撮像装置において、MTFを実現するための波面制御素子は、非球面を有することを特徴とする。
【0075】
波面制御素子が非球面を有することで、略一定なMTFを持つ光学系を実現することができる。この非球面を有する波面制御素子としては、非球面レンズや非球面板、または、何れかの領域を非球面とする多少点レンズなどを採用することができる。
【0076】
本実施形態の撮像装置の第14の構成は、第12の撮像装置において、MTFを実現するための波面制御素子は、位相板であることを特徴とする。
【0077】
位相板を波面制御素子として用いることで、略一定なMTFを持つ光学系を実現することができる。
【0078】
本実施形態の撮像装置の第15の構成は、第12の撮像装置において、MTFを実現するための波面制御素子は、1面に複数の曲率を有するレンズであることを特徴とする。
【0079】
1面に複数の曲率を有するレンズを波面制御素子として用いることで、略一定なMTFを持つ光学系を実現することができる。1つの曲率としては、球面形状のような所定の曲率半径を有するものの他、非球面形状のように所定の計算式で得られる曲率を含むものである。
【0080】
本実施形態の撮像装置の第16の構成は、第12の撮像装置において、MTFを実現するための波面制御素子は、中心と周辺で異なる曲率を有するレンズであることを特徴とす
る。
【0081】
中心と周辺で異なる曲率を有するレンズを波面制御素子として用いることで、略一定なMTFを持つ光学系を実現することができる。
【0082】
本実施形態の撮像装置の第17の構成は、第17または第18の撮像装置において、MTFを実現するための波面制御素子は、1面に3つの曲率を有するレンズであることを特徴とする。
【0083】
1面に3つの曲率を有するレンズを波面制御素子として用いることで、略一定なMTFを持つ光学系を実現することができる。
【0084】
本実施形態の撮像装置の第18の構成は、第12から第17の何れか1つの撮像装置において、MTFを実現するための波面制御素子は、その材質に複屈折結晶が用いられることを特徴とする。
【0085】
波面制御素子の材質に複屈折結晶を用いることで、略一定なMTFを持つ光学系を実現することができる。
【0086】
本実施形態の撮像装置の第19の構成は、第12から第18の何れか1つの撮像装置において、MTFを実現するための波面制御素子は、着脱可能とすることを特徴とするものである。
【0087】
このような構成に拠れば、この波面制御素子を光学系から抜く、あるいは、別の光学素子と交換することができる。略一定なMTFを有する光学系と他の光学系を1つの装置にて実現し、必要なときに所望のMTF特性に変更することができる。
【0088】
本実施形態の撮像装置の第20の構成は、第1から第19の何れか1つの撮像装置において、画像処理手段において実行される画像処理は、撮像素子で得た画像に対する画像回復処理を含むことを特徴とする。
【0089】
この第20の構成に拠れば、1つの撮像装置のみで撮像、並びに撮像により得た画像に対する画像回復処理を実行することが可能となる。
【0090】
本実施形態の撮像装置の第21の構成は、第20の撮像装置において、画像回復処理は、光学系の結像特性を用いることを特徴とする。
【0091】
この第21の構成に拠れば、光学系の結像特性を利用して画像回復処理を行うことで、さらに効果的な画像回復処理を行うことができる。
【0092】
本実施形態の撮像装置の第22の構成は、第21の撮像装置において、画像回復処理は、回復画像が下記微分方程式で表される処理を実行することを特徴とする。
f(x,y)=g(x,y)+a1(x,y)・g'(x,y)+ …
… +an(x,y)・g(n)(x,y)
ただし、
f:回復画像、g:観測画像、a1、a2、…an:劣化パラメータ、
(n):観測画像に対するn次微分、
である。
【0093】
この第22の構成に拠れば、光学系の結像特性として、画像の位置に応じて変化する劣
化パラメータ、いわゆる、スペースバリアントなパラメータにてフィルタリングすることで、さらに効果的な画像回復処理を行うことができる。
【0094】
本実施形態の第1の撮像システムの構成は、第1から第22の何れか1つの撮像装置と、撮像素子で得た画像に対して画像回復処理を実行する外部装置とを有することを特徴とする。
【0095】
この第1の撮像システムの構成に拠れば、画像回復処理を外部装置にて行うことで、撮像装置内での処理負担を削減することが可能となる。その結果、撮像装置の低コスト化、高速処理を実現することができる。
【0096】
本実施形態の第2の撮像システムの構成は、第1の撮像システムにおいて、画像回復処理は、前記光学系の結像特性を用いることを特徴とする。
【0097】
この第2の撮像システムの構成に拠れば、光学系の結像特性を利用して画像回復処理を行うことで、さらに効果的な画像回復処理を行うことができる。
【0098】
本実施形態の第3の撮像システムの構成は、第1または第2の撮像システムにおいて、画像回復処理は、回復画像が下記微分方程式で表される処理を実行することを特徴とする。
f(x,y)=g(x,y)+a1(x,y)・g'(x,y)+ …
… +an(x,y)・g(n)(x,y)
ただし、
f:回復画像、g:観測画像、a1、a2、…an:劣化パラメータ
(n):観測画像に対するn次微分。
【0099】
この撮像システムの第3の構成に拠れば、光学系の結像特性として、画像の位置に応じて変化する劣化パラメータ、いわゆる、スペースバリアントなパラメータにてフィルタリングすることで、さらに効果的な画像回復処理を行うことができる。
【0100】
本実施形態の第4の撮像システムの構成は、撮像装置と外部装置はそれぞれ通信手段を備え、前記撮像素子で得た画像を、通信手段を介して外部装置に送信することを特徴とする。
【0101】
この第4の撮像システムの構成に拠れば、撮像素子で得た画像を簡易に外部装置に提供することが可能となり、また、撮像装置における記録容量や処理量を削減することが可能となる。
【0102】
図2から図21を用い、本実施形態の撮像装置で用いる光学系について説明を行う。
【0103】
図2は、比較例1、並びに、本実施形態の実施例1〜実施例4で使用する光学系の概略を展開して光軸に沿ってとった断面図である。比較例1、実施例1〜実施例4は、図中、第3レンズL3の詳細において異なっている。
【0104】
この比較例1は、実施例1〜実施例4を説明するために例示するものであり、第3レンズL3の両面を球面形状としている。これに対し、実施例1では第3レンズL3の6面を非球面形状とし、実施例2、実施例3では第3レンズL3の5面を2焦点レンズとし、実施例4では第3レンズL3の5面を3焦点レンズとしている点において異なったものとなっている。
【0105】
比較例1において、図2に示す光学系Oは、物体側から射出側に向かって順に、第1レンズL1、第2レンズL2、第3レンズL3、明るさ絞りSにて構成されている。図中、r8で示される撮像面には、CCDなどの撮像素子が設置される。
【0106】
第1レンズL1は、物体側に凸面を向けた正メニスカス形状の単レンズであり、第2レンズL2は、負屈折力を有する両凹形状の単レンズであり、第3レンズL3は、正屈折力を有する両凸形状の単レンズである。
【0107】
また、本比較例では、撮像面に設置される撮像素子には、縦または横方向の最大画素数を4000、画素ピッチを1.7(μm)のものを想定して設計を行っている。なお、これは、実施例でも同じである。
【0108】
以下に上記比較例1の数値データを示す。数値データ中、rは各レンズ面(光学面)の曲率半径、dは各レンズ面(光学面)間の間隔、ndは各レンズ(光学媒質)のd線の屈折率、Vdは各レンズ(光学媒質)のアッベ数、Fは焦点距離である。なお、曲率半径に記載する記号"∞"は、無限大であることを示している。
【0109】
各種データには、光学系の焦点距離、Fナンバーが示されている。焦点距離の単位は、ミリメートル(mm)であって、Fナンバーは、本測定に用いた開放時のものが示されている。
【0110】
深度特性は、評価空間周波数84(lp/mm)におけるMTF20%、10%時、それぞれのMTFの幅を示したものであり、その単位は、ミリメートル(mm)である。
【0111】
数値比較例1
単位 mm
面データ
面番号 r d nd Vd F
1 3.0139 1.2800 1.72341 50.20 6.1743
2 7.6146 0.1923
3 -10.5848 0.2367 1.70448 30.10 -3.5085
4 3.2544 0.3997
5 10.7443 0.4438 1.81067 41.00 5.0931
6 -6.5817 0.2367
7(絞り) ∞ 7.7389
8(撮像面) ∞

各種データ
焦点距離 9.9902
Fナンバー 3.5

深度特性(評価空間周波数:84[lp/mm])
深度
MTF20% 0.09
MTF10% 0.11 。
【0112】
図3は、この比較例1における評価空間周波数84(lp/mm)でのMTF特性を示した図である。図3には、軸上でのデフォーカス量(単位:ミリメートル(mm))に対するMTF(単位:%)が示されている。この比較例1のMTF特性は、基準位置に対して−0.05(mm)付近に約70%の尖鋭なピークを持つ形状となっている。図4は、
この比較例1における球面収差特性を示した図であり、ここでは、波長546.07(nm)での球面収差特性が示されている。
【0113】
次に、実施例1について数値実施例、並びに各種特性を以下に説明する。この実施例1は、図2における第3レンズL3の6面を非球面形状とすることで、撮像素子の設置位置およびその前後の所定距離において略一定なMTFを実現している。各数値の意味、各種設計条件は、比較例1において説明したものと同様である。面データ中、面番号の右側に付されたアスタリスク"*"は、そのレンズ面が非球面形状であることを示している。
【0114】
深度特性に記載する対比較例は、比較例1に対するMTF20%、10%時、それぞれのMTFの幅の比を示したものである。また、換算Fナンバーは、本実施例1のMTFの幅を比較例1において実現する場合に必要とされるFナンバーを示したものである。
【0115】
また、非球面形状は、xを光の進行方向を正とした光軸とし、yを光軸と直交する方向にとると下記の式にて表される。
【0116】
x=(y2/r)/[1+{1−(K+1)(y/r)21/2
+A2y2+A4y4+A6y6+A8y8+A10y10+ …
ただし、rは近軸曲率半径、Kは円錐係数、A2〜A10はそれぞれ2次〜10次の非球面係数である。なお、記号"E"は、それに続く数値が10を底にもつ、べき指数であることを示している。例えば「1.0E−5」は「1.0×10-5」を意味している。
【0117】
数値実施例1
単位 mm
面データ
面番号 r d nd Vd F
1 3.0139 1.2800 1.72341 50.20 6.1743
2 7.6146 0.1923
3 -10.5848 0.2367 1.70448 30.10 -3.5085
4 3.2544 0.3997
5 10.7443 0.4438 1.81067 41.00 5.0931
6* -6.5817 0.2367
7(絞り) ∞ 7.7389
8(撮像面) ∞

非球面データ
第6面
K=0
A2=-2.01E-12
A4=5.98E-03
A6=-2.08E-02
A8=2.19E-02
A10=-7.06E-03

各種データ
焦点距離 9.9902
Fナンバー 3.5

深度特性(評価空間周波数:84[lp/mm])
深度 対比較例[%] 換算Fナンバー
MTF20% 0.09 182 6.4
MTF10% 0.11 223 7.8 。
【0118】
図5は、この実施例1におけるMTF特性を示した図であり、図5(a)は、軸上でのMTF特性を示したものである。また、図5(b)は、軸外でのMTF特性を示したものである。ここでは、0.25dと、0.35d(ただし、0.5d:撮像面最大高)、2つの軸外におけるMTF特性が示されている。なお、図5(a)、(b)ともに評価空間周波数は、84(lp/mm)としている。
【0119】
図5(c)は、評価空間周波数が異なる場合のMTF特性を示したものである。ここでは、図5(a)と同じ84(lp/mm)のMTF特性と、50(lp/mm)のMTF特性の、2つのMTF特性が示されている。
【0120】
このように図5(a)に示される軸上でのMTF特性は、図3の比較例1のMTF特性と比較してみると分かるように、デフォーカス量を0とする位置、すなわち、撮像素子が設置される位置、そしてその前後の所定距離範囲内において、低い値ではあるものの略一定なMTFを実現するものである。
【0121】
このような特性(曲線)を有するMTFでは、得られた画像に対し各種画像回復処理を施すことで、所定の範囲でデフォーカス量した画像において、一様にMTFを上昇させることができる。これにより、十分な解像を持つ画像を復元することができる。また、焦点深度の深い画像を実現することが可能となる。なお、デフォーカス量を0とする位置、すなわち、撮像素子の設置位置は、各種MTF特性の形状を考慮して適宜な位置とすることが可能である。
【0122】
図5(b)からは、軸上と同様、軸外においても略一定なMTF特性を有することがみてとれる。そして、図5(c)からは、84(lp/mm)のMTF特性においてコントラストが0とならない範囲で84(lp/mm)のMTF特性と50(lp/mm)のMTF特性が交差している。このような状態であれば、84(lp/mm)のMTF特性が略一定であることが保証されているといえる。なお、コントラストが0とは、着目する評価空間周波数のMTFにおいて、白黒が反転する位置であって、MTFが0になる位置に相当している。
【0123】
図6は、この実施例1における球面収差特性を示した図であり、ここでは、波長546.07(nm)での球面収差特性が示されている。この球面収差特性は、図4の球面収差特性と比較して、収差を表す曲線がプラス側、マイナス側に変動している。図6では、収差曲線は、矢印で示すように、3つのピークを有する。このピークの前後では、収差の発生方向がプラス側からマイナス側、あるいはその逆になっている。
【0124】
このように、球面収差特性をプラス側、マイナス側の両方向に変動させることで、デフォーカス量0の位置付近において、略一定なMTFを実現することが可能となる。この実施例1のように、球面収差特性において、プラス側、マイナス側の両方に複数のピークを形成することが好ましい。なお、球面収差特性において、2つ以上のピークを持たせることだけでもで、MTFを略一定とすることに貢献することができる。
【0125】
次に、実施例2について数値実施例、並びに各種特性を説明する。この実施例2は、図2における第3レンズL3の5面を2焦点レンズとすることで、撮像素子の設置位置およびその前後の所定距離において略一定なMTFを実現している。各種数値の意味、各種設計条件は、比較例1、実施例1において説明したものと同様である。
【0126】
図7は、第3レンズL3の5面に採用される2焦点レンズの正面図、並びに、光軸に沿ってとった断面図である。この図は複数焦点レンズを説明するため模式的に示した図であって、その形状は実際の数値による形状とは異なっている。
【0127】
図7に示されるように、この2焦点レンズは、その中央に領域Aが設けられ、領域Aを取り巻くように領域Bが設けられている。本実施例では領域A、領域Bは、共に球面形状を有するとともに、領域Aと領域B間は段差を有すること無く連続的に変化する形状となっている。下記数値実施例に、領域毎の半径、曲率、各レンズ面(光学面)間の間隔d4、d5を示しておく。ここで、領域Bの面間隔d4、d5は、図7に示すように、領域Bのレンズ面が形成する仮想面が光軸と交差する位置での面間隔(図中d4'、d5')をいうものである。
【0128】
数値実施例2
単位 mm
面データ
面番号 r d nd Vd F
1 3.0139 1.2800 1.72341 50.20 6.1743
2 7.6146 0.1923
3 -10.5848 0.2367 1.70448 30.10 -3.5085
4 3.2544 0.3997
5(2焦点) 10.7443 0.4438 1.81067 41.00 8.1189
6 -6.5817 0.2367
7(絞り) ∞ 7.7389
8(撮像面) ∞

2焦点レンズデータ(面番号5)
半径 曲率 d4 d5
領域A 0.715 10.7443 0.3997 0.4438
領域B 1.2 11.0443 0.4003 0.4432

各種データ
焦点距離 9.9902
Fナンバー 3.5

深度特性(評価空間周波数:84[lp/mm])
深度 対比較例[%] 換算Fナンバー
MTF20% 0.16 177 6.2
MTF10% 0.19 175 6.1 。
【0129】
図8は、この実施例2における軸上でのMTF特性を示した図である。評価空間周波数は、比較例1と同様、84(lp/mm)としている。このように図8に示される軸上でのMTF特性においても、デフォーカス量を0とする位置、すなわち、撮像素子が設置される位置、そしてその前後の所定距離範囲内において略一定なMTFを実現することがみてとれる。
【0130】
図9は、この実施例2における球面収差特性を示した図であって、比較例1と同様、波長546.07(nm)での球面収差特性が示されている。この球面収差特性は、プラス側、マイナス側にいくつかのピークを有するものとなっている。よって、実施例2においても、デフォーカス量0となる前後の位置においてMTFが略一定となっている。
【0131】
次に、実施例3について数値実施例、並びに各種特性を説明する。この実施例3は、実施例2と同様、図2における第3レンズL3の5面を2焦点レンズとすることで、撮像素子の設置位置およびその前後の所定距離において略一定なMTFを実現している。ただし、実施例2とは2焦点レンズの詳細において異なったものとなっている。各種数値の意味、各種設計条件は、比較例1、実施例1、2において説明したものと同様である。
【0132】
図10は、第3レンズL3の5面に採用される2焦点レンズの正面図、並びに、光軸に沿ってとった断面図である。この図は複数焦点レンズを説明するため模式的に示した図であって、その形状は実際の数値による形状とは異なっている。
【0133】
図10に示されるように、この2焦点レンズは、その中央に領域Aが設けられ、領域Aを取り巻くように領域Bが設けられている。本実施例3は、実施例2と比較して領域Aの半径が大きい点において異なっている。下記数値実施例には、各領域毎の半径、曲率、各レンズ面(光学面)間の間隔d4、d5を示しておく。
【0134】
数値実施例3
単位 mm
面データ
面番号 r d nd Vd F
1 3.0139 1.2800 1.72341 50.20 6.1743
2 7.6146 0.1923
3 -10.5848 0.2367 1.70448 30.10 -3.5085
4 3.2544 0.3997
5(2焦点) 10.7443 0.4438 1.81067 41.00 8.1189
6 -6.5817 0.2367
7(絞り) ∞ 7.7389
8(撮像面) ∞

2焦点レンズデータ(面番号5)
半径 曲率 d4 d5
領域A 0.78 10.7443 0.3997 0.4438
領域B 1.2 11.0443 0.4005 0.4430

各種データ
焦点距離 9.9902
Fナンバー 3.5

深度特性(評価空間周波数:84[lp/mm])
深度 対比較例[%] 換算Fナンバー
MTF20% 0.14 157 5.5
MTF10% 0.20 176 6.2 。
【0135】
図11(a)は、比較例1と同様、評価空間周波数が84(lp/mm)における軸上でのMTF特性を示したものである。
【0136】
このように図11(a)に示される軸上でのMTF特性においても、デフォーカス量を0とする位置、すなわち、撮像素子が設置される位置、そしてその前後の所定距離範囲内において、略一定なMTFを実現することがみてとれる。
【0137】
図12は、この実施例3における球面収差特性を示した図であって、比較例1と同様、波長546.07(nm)での球面収差特性が示されている。この球面収差特性は、プラス側、マイナス側にいくつかのピークを有するものとなっている。よって、実施例3においても、デフォーカス量0となる前後の位置においてMTFは略一定となっている。
【0138】
次に、実施例4についての数値実施例、並びに各種特性を説明する。この実施例4は、図2における第3レンズL3の5面を3焦点レンズとすることで、撮像素子の設置位置およびその前後の所定距離において略一定なMTFを実現している。各種数値の意味、各種設計条件は、比較例1、実施例1〜実施例3において説明したものと同様である。
【0139】
図13は、第3レンズL3の5面に採用される3焦点レンズの正面図、並びに、光軸に沿ってとった断面図を示す。この図は複数焦点レンズを説明するため、模式的に示した図であって、その形状は実際の数値による形状とは異なったものとなっている。
【0140】
図13に示されるように、この3焦点レンズは、その中央に領域Aが設けられ、領域Aを取り巻くように領域B、さらに領域Bを取り巻くように領域Cが設けられている。本実施例4では領域A、領域B、領域Cは、それぞれが球面形状を有するとともに、各領域間は段差を有すること無く連続的に変化する形状となっている。下記数値実施例に、各領域毎の半径、曲率、各レンズ面(光学面)間の間隔d4、d5を示しておく。ここで、領域Bの面間隔d4、d5は、図13に示すように、領域Bのレンズ面が形成する仮想面が光軸と交差する位置での面間隔(図中d4'、d5')であり、また、領域Cの面間隔d4、d5は、領域Cのレンズ面が形成する仮想面が光軸と交差する位置での面間隔(図中d4''、d5'')である。
【0141】
数値実施例4
単位 mm
面データ
面番号 r d nd Vd F
1 3.0139 1.2800 1.72341 50.20 6.1743
2 7.6146 0.1923
3 -10.5848 0.2367 1.70448 30.10 -3.5085
4 3.2544 0.3997
5(3焦点) 10.7443 0.4438 1.81067 41.00 8.1189
6 -6.5817 0.2367
7(絞り) ∞ 7.7389
8(撮像面) ∞

3焦点レンズデータ(面番号5)
半径 曲率 d4 d5
領域A 0.715 10.7443 0.3997 0.4438
領域B 1.105 11.0443 0.4003 0.4432
領域C 1.2 11.2943 0.4025 0.4410

各種データ
焦点距離 9.9902
Fナンバー 3.5

深度特性(評価空間周波数:84[lp/mm])
深度 対比較例[%] 換算Fナンバー
MTF20% 0.17 184 6.5
MTF10% 0.22 195 6.8 。
【0142】
この3焦点レンズを用いた実施例4についてもそのMTF特性、並びに球面収差特性を示しておく。
【0143】
図14は、この実施例4における軸上でのMTF特性を示した図であり、図14(a)は、比較例1と同様、評価空間周波数が84(lp/mm)における軸上でのMTF特性を示したものである。また、図14(c)は、評価空間周波数が異なる場合のMTF特性を示したものである。ここでは、図14(a)と同じ84(lp/mm)と、100(lp/mm)、2つのMTF特性を併せて示している。
【0144】
このように図14(a)に示される軸上でのMTF特性においても、デフォーカス量を0とする位置、すなわち、撮像素子が設置される位置、そしてその前後の所定距離範囲内において、略一定なMTFが実現されている。また、図14(c)では、84(lp/mm)のMTF特性においてコントラストが0とならない範囲で84(lp/mm)のMTF特性とし、100(lp/mm)のMTF特性が交差している。このような状態であれば、84(lp/mm)のMTF特性が略一定であることが保証されているといえる。また、この実施例4では、10%以下の位置で交差したものとなっており、84(lp/mm)のMTF特性が略一定であることを更に裏付けている。
【0145】
図15は、この実施例4における球面収差特性を示した図であって、比較例1と同様、波長546.07(nm)での球面収差特性が示されている。この球面収差特性は、プラス側、マイナス側にいくつかのピークを有するものとなっている。よって、おり、実施例4においても、デフォーカス量0となる前後の位置においてMTFは略一定となっている。
【0146】
次に、別の光学系を用いた実施例5について、その比較例2とともに説明を行う。図16は、この比較例2で使用する光学系を展開して光軸に沿ってとった断面図である。
【0147】
この比較例2の光学系Oは、物体側から射出側に向かって配列された第1レンズL1、明るさ絞りS、第2レンズL2、第3レンズL3にて構成されている。図中、r9で示される撮像面には、CCDなどの撮像素子が設置される。
【0148】
第1レンズL1は、物体側に凸面を向けた正メニスカス形状の単レンズであり、第2レンズL2は、物体側に凹面を向けた正メニスカス形状の単レンズであり、第3レンズL3は、正屈折力を有する両凸形状の単レンズである。また、実施例5との比較のため、明るさ絞りSの前段に仮想面r3を設けて設計を行うこととしている。
【0149】
また、本実施例では、撮像面に設置される撮像素子には、縦または横方向の最大画素数を353、画素ピッチを3.0(μm)のものを想定して設計を行っている。
【0150】
以下に上記比較例2の数値実施例を示す。各種数値の意味は、比較例1、実施例1〜4において説明したものと同様である。また、深度特性における評価空間周波数は111(lp/mm)としている。
【0151】
数値比較例2
単位 mm
面データ
面番号 r d nd Vd F
1* 1.0577 0.4200 1.59008 29.90 3.5608
2 1.8160 0.3820
3 ∞ 0.0500
4(絞り) ∞ 0.2020
5 -0.3626 0.4200 1.49380 57.40 4.1989
6* -0.4268 0.0380
7 1.1353 0.3530 1.69979 55.50 1.2981
8 -3.9640 0.6686
9(撮像面) ∞

非球面データ
第1面
K=0
A2=0.00E+00
A4=1.58E-01
A6=0.00E+00
A8=0.00E+00
A10=0.00E+00
第6面
K=0
A2=0.00E+00
A4=1.08E+00
A6=-5.63E+00
A8=7.40E+01
A10=0.00E+00

各種データ
焦点距離 0.9971
Fナンバー 2.8

深度特性(評価空間周波数:111[lp/mm])
深度
MTF20% 0.06
MTF10% 0.07 。
【0152】
図17は、この比較例2における評価空間周波数111(lp/mm)でのMTF特性を示した図であり、軸上でのデフォーカス量(単位:ミリメートル(mm))に対するMTF(単位:%)が示されている。この比較例1のMTF特性は、0(mm)付近に約65%の尖鋭なピーク値を持つ形状となっている。
【0153】
図18は、この比較例2における球面収差特性を示した図であり、ここでは、波長546.07(nm)での球面収差特性が示されている。この図からは変動の少ない球面収差特性がみてとれる。
【0154】
次に、実施例5について数値実施例、並びに各種特性を以下に説明する。図19に実施例5の光学系を展開して光軸に沿ってとった断面図を示す。この実施例5は、図16における仮想面r3と明るさ絞りS間に非球面板Cを挿入することで、撮像素子の設置位置およびその前後の所定距離において略一定なMTFを実現するものである。各数値の意味、各種設定条件は、比較例2のものと同様である。
【0155】
数値実施例5
単位 mm
面データ
面番号 r d nd Vd F
1* 1.0577 0.4200 1.59008 29.90 3.5608
2 1.8160 0.3820
3* ∞ 0.0500 2.11986 36.80 11.0766
4(絞り) ∞ 0.2020
5 -0.3626 0.4200 1.49380 57.40 4.1989
6* -0.4268 0.0380
7 1.1353 0.3530 1.69979 55.50 1.2981
8 -3.9640 0.6222
9(撮像面) ∞

非球面データ
第1面
K=0
A2=0.00E+00
A4=1.58E-01
A6=0.00E+00
A8=0.00E+00
A10=0.00E+00
第3面
K=0
A2=4.01E-02
A4=-3.95E+00
A6=6.19E+02
A8=-7.92E-01
A10=-1.04E+06
第6面
K=0
A2=0.00E+00
A4=1.08E+00
A6=-5.63E+00
A8=7.40E+01
A10=0.00E+00

各種データ
焦点距離 0.9973
Fナンバー 2.8

深度特性(評価空間周波数:111[lp/mm])
深度 対比較例[%] 換算Fナンバー
MTF20% 0.09 159 4.4
MTF10% 0.11 158 4.4 。
【0156】
図20は、この実施例5におけるMTF特性を示した図であり、図20(a)は、軸上でのMTF特性を示したものである。また、図20(b)は、軸外でのMTF特性を示したものである。ここでは、0.25dと、0.35d(ただし、0.5d:撮像面最大高)、2つの軸外におけるMTF特性が示されている。なお、図20(a)、(b)ともに評価空間周波数は、111(lp/mm)としている。
【0157】
このように図20(a)に示される軸上でのMTF特性は、図17の比較例2のMTF特性と比較してみると分かるように、デフォーカス量を0とする位置、すなわち、撮像素子が設置される位置、そしてその前後の所定距離範囲内において、低い値ではあるものの略一定なMTFを実現するものである。
【0158】
また、図20(b)からは、軸上と同様、軸外においても略一定なMTF特性を有することがみてとれる。
【0159】
図21は、この実施例5における球面収差特性を示した図であり、ここでは、波長546.07(nm)での球面収差特性が示されている。この球面収差特性は、図18の球面収差特性と比較して、大幅に変動する特性となっており、マイナス側に2つのピーク値をとって変動することがみてとれる。
【0160】
このように、球面収差特性を変動させることで、デフォーカス量0の位置付近において、略一定なMTFを実現することが可能となる。
【0161】
以上、図2〜図15を用いて実施例1〜実施例4、並びにその比較例1を、図16〜図21を用いて実施例5、並びにその比較例2について説明を行ったが、このような実施例1から実施例5の光学系によれば、デフォーカス量が0となる位置、すなわち、撮像素子の設置位置およびその前後の所定距離において略一定なMTFを実現している。このような光学系を介して画像を得た場合、得られた画像に対して画像回復処理を施すことで、十分な解像を持った画像を得る事ができる。また、焦点深度の広い画像を実現することが可能となる。
【0162】
なお、略一定なMTFを実現するため、比較例1に対し、実施例1では非球面形状を、実施例2、実施例3では2焦点レンズを、実施例4では3焦点レンズを設けた点が、また、比較例2に対し実施例5では非球面板を設けた点が異なっている。なお、略一定なMTFを実現するための波面制御素子としては、このようなレンズの非球面形状、複数焦点レンズ、非球面板だけでなく、位相板を用いても良い。更に、複数の波面制御素子にて略一定なMTFを実現することとしても構わない。実施例2〜実施例4では複数焦点レンズの各々の領域を球面形状としたが、何れかの領域を非球面形状としてもよい。また、波面制御素子の材質に複屈折結晶を採用することで略一定なMTFを実現してもよい。
【0163】
また、これら略一定なMTFを実現するための波面制御素子を着脱可能としても良い。このようにすることで、尖鋭なMTF特性を有する通常の光学系(比較例1、比較例2)として用いることができるようにしてもよい。例えば、実施例1〜実施例4では、第3レンズL3を交換することで比較例1の光学系に変更することができ、実施例5では、非球面板Cを取り除くことで比較例2の光学系に変更することが可能となる。
【0164】
上記実施例1〜実施例5について、各条件式(1)〜条件式(5)の値を下記に示しておく。なお、これらは、a=20における値である。また、実施例1、実施例5については0.25dと、0.35d(ただし、0.5d:撮像面最大高)、2つの軸外における軸外データを示しておく。
【0165】
実施例1 実施例2 実施例3 実施例4 実施例5
条件式(1) 0.023 0.023 0.020 0.024 0.017
条件式(2) 0.027 0.027 0.024 0.025 0.003
条件式(3) 84 84 84 84 111
条件式(4) 84 84 84 84 111
条件式(5) 0.021 0.021 0.021 0.021 0.314

【0166】
軸外データ
-------- 実施例1 -------- -------- 実施例5 --------
(0.25d) (0.35d) (0.25d) (0.35d)
条件式(1) 0.006 0.006 0.015 0.015
条件式(2) 0.035 0.033 0.004 0.004
条件式(3) 84 84 111 111
条件式(4) 84 84 111 111
条件式(5) 0.021 0.021 0.314 0.314

【0167】
では、次に図22〜図24を用い、本実施形態で用いる撮像装置および撮像システムについて説明を行う。図22は、本実施形態の撮像装置の構成を示した概略図である。この撮像装置10は、光学系11と、撮像素子12と、画像処理手段14と、制御手段13により構成されている。なお、本実施形態では、画像処理手段14により画像回復処理30を実行することとしているが、この画像回復処理30は撮像装置10の外部で行うこととしてもよい。
【0168】
この撮像装置10において、光学系11は、これまで説明してきた撮像素子12の設置位置およびその前後の所定距離において略一定なMTFを有するものである。被写体から発せられた光は、この光学系11により集光され、この集光位置に被写体の像が結像される。そして、この集光位置には、CCD等の撮像素子12が配置されている。撮像素子12は、規則正しく配列された光電変換素子(画素)の集まりにて形成されている。
【0169】
撮像素子12に入射した光束は、この撮像素子12の光電変換素子により電気信号(画像信号)に変換される。この電気信号は画像処理手段14に入力され、画像処理手段14にて現像処理、ガンマー補正、画像圧縮処理、画像回復処理30等、各種信号処理が施される。信号処理が施された電気信号は、図示しない撮像装置10内の内蔵メモリーや各種インターフェイスを介し、外部メモリーあるいは外部装置に出力される。
【0170】
制御手段13は、光学系11、撮像素子12、画像処理手段14を統括して制御する手段である。この制御手段13は、CPU、ROMやRAMなどの記憶手段、記憶手段に記憶された各種プログラムによって構成されている。この制御手段13は、画像処理手段14と兼用することとしてもよい。
【0171】
画像回復処理30では、光学系11の結像特性に基づいた処理を行う。この場合、制御手段13は、光学系11の結像特性に関する情報を取得して画像回復処理30に引き渡す。このような構成に拠れば、交換可能な光学系11を有する撮像装置10においても光学系11に応じた画像回復処理30を実行することができる。光学系11の結像特性としては、絞り値、焦点距離など結像特性を実際に示す情報に限らず、製品番号など光学系11の識別情報を用い、制御手段13にて識別情報に対応する実際の結像特性に変換することとしてもよい。
【0172】
では、次に本実施形態の撮像装置における画像回復処理について説明する。なお、以下の説明では、画像回復処理の対象となる画像(撮像素子で得た画像)を、観測画像と称する。画像回復処理では各種の処理(変換)を利用することができるが、利用可能な画像回復処理を大別すると以下の3つに分類することができる。
(1)光学系11の結像特性を利用するとともに、観測画像の位置に応じた処理が行われ
る画像回復処理。
(2)光学系11の結像特性を利用するとともに、観測画像全体に対し一定の処理が行われる画像回復処理。
(3)光学系11の結像特性を利用することなく、観測画像全体に対し一定の処理が行われる画像回復処理。
【0173】
(1)の画像回復処理は、観測画像の各画素について異なる処理、いわゆるスペースバリアントな処理が施される画像処理である。この画像処理は、本実施形態の光学系11で撮像した画像に対し、きわめて効果的な画像回復ができる。すなわち、撮像素子12が設置される位置、および、その近傍におけるMTFを略均等に上昇させ、撮像素子12が設置される位置、および、その近傍において高いMTFを復元することができる。この画像回復処理の詳細については後述する。なお、画素ごとに処理を異ならせるのではなく、画素群ごとに処理を異ならせても良い。
【0174】
(2)、(3)の画像回復処理は、観測画像の各画素について同じ処理、いわゆるスペースインバリアントな処理が施される画像処理である。(2)のような画像回復処理としては、観測画像に対し、光学系11の結像特性に対応した劣化関数の逆関数にてフィルタリングすることで、効果的な画像回復を行うことができる。
【0175】
また(3)の画像回復処理としては、所定の帯域を持ち上げる帯域強調や、観測画像から抽出したエッジ情報を加算するエッジ強調などがあり、これらの画像回復処理に拠れば、光学系11の結像特性を用いることなく簡易に画像回復を行うことが可能となる。これら(2)、(3)の画像回復処理は、空間上で行う処理であっても、フーリエ変換などを用いて周波数軸上で行われる処理であってもよい。
【0176】
では、(1)の画像回復処理について詳細な説明を以下に行う。
【0177】
奥行きが連続的に変化する被写体を撮影すると、手前側から奥側にかけてボケ方が異なる観測画像が得られる。被写体の中心部にピントが合っているとすると、撮影で得られた被写体の観測画像のボケ量は、大→小→大と連続性を持って変化することとなる。このような場合を、観測画像の各画素のボケ方が観測画像の座標位置に応じて変動する状態、いわゆるスペースバリアントな状態と定義することができる。
【0178】
まず、回復画像をf(x、y)、観測画像をg(x、y)、劣化関数をh(x、y、α、β)と定義すると、f(x、y)、g(x、y)のx、y周りでのm、n次微分、h(x、y、α、β)のi,k次モーメントは、それぞれ(数1)内に示す式で定義することができる。ただし、劣化関数h(x、y、α、β)は、観測画像g(x、y)の画素位置、及び、光学系の結像特性を示すPSF(α、β)によって変化するボケ量を示す関数である。
【0179】
【数1】

次に観測画像g、回復画像f、劣化関数hの関係をモデル化すると(数2)のようにg
は、hとfの畳み込み積分で表すことができる。
【0180】
【数2】

この(数2)において、右辺のh、fをそれぞれテーラー展開(h:N次打ち切り、f:M次打ち切り)にて展開すると、
【0181】
【数3】

(数3)を(数2)に代入し、h、fの積より導かれる各項毎の積分で表すと、各積分の項は、数1にて定義したhのモーメントに置き換えることが可能となり、(数4)を導くことができる。
【0182】
【数4】

この(数4)の両辺をx、yに関して微分し、f、hの微分係数>N、Mの場合には、各微分係数を0とし、これをg(p,q)=f(p,q)となるまでx、yについてp、q回繰り返し、逆算して(数4)のfの微分値に代入していく。このような手順により(数4)に残るfの関数は0次の微分の項のみとなり、回復画像fは、下記に示すように観測画像gと劣化関数hの積和演算により表すことができる。
【0183】
f(x,y)=g(x,y)+a1(x,y)・g'(x,y)+ … +an(x,y)・g(n)(x,y)
ただし、
f:回復画像、g:観測画像、a1、a2、…an:劣化パラメータ
(n):観測画像に対するn次微分。
【0184】
ここで劣化パラメータは、劣化関数hによって定まるパラメータであり、観測画像g(x、y)の画素位置、及び、光学系の結像特性によって変化するパラメータである。
【0185】
本実施形態では、光学系11の結像特性を利用するとともに、観測画像の位置に応じた変換が行われる(1)の画像回復処理を、観測画像に施している。すなわち、被写体を、撮像素子の設置位置およびその前後の所定距離において略一定なMTFを有する光学系で撮像した場合、撮像で得られた観測画像に(1)の画像処理を施すことで、(2)、(3)の画像回復処理と比べて、更に効果的に画像解像を回復する(十分に解像された画像にする)ことができる。
【0186】
では、この画像回復処理30の処理の一例について図23を参照しつつ説明を行う。図23は、画像回復処理30のブロック図を示したものであり、本実施形態では、入力信号微分手段31、劣化パラメータ読み出し手段32、劣化パラメータルックアップテーブル33、乗加算手段34より構成されている。
【0187】
入力信号微分手段31は、観測画像gを微分する手段であり、ここでは1次微分を実行するソーベルフィルタ、2次微分を実行するラプラシアンフィルタ、2つのフィルタを用いている。
【0188】
劣化パラメータルックアップテーブル33には、観測画像gの画素位置(x、y)、及び、光学系11の光学特性に応じた劣化パラメータa1、a2、…anが予め記憶されてい
る。このように、本実施形態では、光学系11の設計値に基づくルックアップテーブルを予め用意しておくことで、演算時間を短縮することができる。なお、ソーベルフィルタとラプラシアンフィルタを用いた場合は、劣化パラメータルックアップテーブル33から読み出す係数はa1、a2までになるので、a3〜anは使わなくても良い。
【0189】
劣化パラメータの取得は、このようなルックアップテーブル33を用意することに代え、光学特性からリアルタイム演算により算出したり、光学特性に沿った近似式を予め複数用意したりしておき、選択的に利用して演算することとしてもよい。
【0190】
劣化パラメータ読み出し手段32は、この劣化パラメータルックアップテーブル33から、画素の位置(x、y)に応じた値を読み出して、乗加算手段34に出力する。
【0191】
乗加算手段34は、入力信号微分手段31から出力される信号と読み出された劣化パラメータを乗加算するとともに、観測画像gを加算して回復画像fの出力を行う。
【0192】
図24は、画像回復処理を外部装置にて行う場合の撮像装置10の構成、並びに、当該撮像装置10と外部装置20からなる撮像システムの構成を示した概略図である。本実施形態は、画像回復処理30を外部装置20にて行う構成としている。
【0193】
撮像装置10は、光学系11、撮像素子12、第1画像処理手段14、第1制御手段13を備え、それぞれの構成は、図22で説明した撮像装置で同符号を有する構成と同様である。また本実施形態では、第1通信手段15が設けられている。この第1通信手段15は、撮像装置10で撮像した画像(観測画像)を外部装置20に送信するための第1通信手段15が設けられている。外部装置20にて実行される画像回復処理30において、光学系11の結像特性が必要とされる場合は、この結像特性を観測画像に対応付くようにして送信することとしてもよい。
【0194】
一方、外部装置20は、第2通信手段21、画像回復処理30を実行可能とする第2画像処理手段22、第2制御手段23が設けられている。第2通信手段21は、第1通信手段15から送信された画像を受信するための手段である。これら第1通信手段15、第2通信手段は有線、無線を問わず各種方式のものを採用することができる。
【0195】
第2画像処理手段22では、第2通信手段21を介して受信した観測画像、あるいは、観測画像と結像特性により画像回復処理30が実行される。画像回復処理30が施された画像は、図示しない内部メモリーや、各種インターフェイスを介し、外部メモリーあるいは他の外部装置に出力される。なお、この第2画像処理手段22では、画像回復処理30のみだけでなく他の各種画像処理を行うこととしてもよい。
【0196】
このように、外部装置20にて画像回復処理30を実行することで、撮像装置10内で
の処理負担を軽減することが可能となる。なお、本実施形態では観測画像など各種情報のやりとりを通信手段15、21にて行うこととしたが、各種情報のやりとりは撮像装置10、外部装置20に装着可能な外部メモリーを介して行うものであってもよい。
【0197】
以上、本発明における撮像装置、並びに撮像システムについて説明したが、これら本発明における撮像装置、撮像システムとしては、一般的なデジタルカメラ(OVF、EVF問わず)のみならず、医療分野などで利用される被検体内部に挿入して観察を行う内視鏡や、被検体となる患者が飲み込むことで体内の観察を行うカプセル内視鏡、あるいは、顕微鏡など各種光学装置に用いることができる。
【0198】
以上、本発明の種々の実施形態について説明したが、本発明はこれらの実施形態のみに限られるものではなく、それぞれの実施形態の構成を適宜組み合わせて構成した実施形態も本発明の範疇となるものである。
【符号の説明】
【0199】
L1…第1レンズ
L2…第2レンズ
L3…第3レンズ
S…明るさ絞り
C…非球面板
10…撮像装置
11…光学系
12…撮像素子
13…(第1)制御手段
14…(第1)画像処理手段
15…第1通信手段
20…外部装置
21…第2通信手段
22…第2画像処理手段
23…第2制御手段
30…画像回復処理
31…入力信号微分手段
32…劣化パラメータ読み出し手段
33…劣化パラメータLUT
34…乗加算手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
撮像素子に被写体の像を結像するとともに、前記撮像素子で得た画像に対し画像回復処理が実行される光学装置において、
以下の条件式(1)を満足するMTFを有することを特徴とする
光学装置。
0.001<L×NA<0.5、 5<a<30 …(1)
ただし、
L:MTFがa%におけるMTF幅、
NA:光学装置の開口数、
である。
【請求項2】
前記MTFは、以下の条件式(2)を満足することを特徴とする
請求項1に記載の光学装置。
0.001<Lc×NA<0.5、 5<a<30 …(2)
ただし、
Lc:MTFの半値幅
である。
【請求項3】
撮像素子と、
前記撮像素子に被写体の像を結像する光学系と、
前記撮像素子が出力する観測画像に対して画像処理を実行する画像処理手段を有し、
前記光学系は、以下の条件式(1)を満足するMTFを有することを特徴とする
撮像装置。
0.001<L×NA<0.5、 5<a<30 …(1)
ただし、
L:MTFがa%におけるMTF幅、
NA:光学系の開口数、
である。
【請求項4】
前記MTFは、以下の条件式(2)を満足することを特徴とする
請求項3に記載の撮像装置。
0.001<Lc×NA<0.5、 5<a<30 …(2)
ただし、
Lc:MTFの半値幅
である。
【請求項5】
前記MTFは、条件式(3)を満足する空間周波数を有することを特徴とする
請求項3または請求項4に記載の撮像装置。
ν=1/(2×P×A)、1<A<20 …(3)
ただし、
ν:空間周波数、
P:撮像素子の画素ピッチ、
である。
【請求項6】
前記MTFは、条件式(4)を満足する空間周波数を有することを特徴とする
請求項3または請求項4に記載の撮像装置。
ν=1/(2×P×A)、2<A<8 …(4)
ただし、
ν:空間周波数、
P:撮像素子の画素ピッチ、
である。
【請求項7】
前記MTFは、条件式(5)を満足する空間周波数を有することを特徴とする
請求項3から請求項6の何れか1項に記載の撮像装置。
0.001<ν/N<3 …(5)
ただし、
ν:空間周波数、
N:撮像素子一辺の画素数、
である。
【請求項8】
前記MTFは、開放Fナンバーにおいて、前記各条件式を満足することを特徴とする
請求項3から請求項7の何れか1項に記載の撮像装置。
【請求項9】
前記MTFは、コントラストが0にならない範囲で他の空間周波数のMTFと交差することを特徴とする
請求項3から請求項8の何れか1項に記載の撮像装置。
【請求項10】
前記MTFは、他の空間周波数のMTFと10%以下の位置で交差することを特徴とする
請求項9に記載の撮像装置。
【請求項11】
前記光学系の球面収差特性は、ピーク値を有することを特徴とする
請求項3から請求項10の何れか1項に記載の撮像装置。
【請求項12】
前記光学系の球面収差特性は、2つ以上のピーク値を有することを特徴とする
請求項11に記載の撮像装置。
【請求項13】
前記球面収差特性のピーク値は、プラス側とマイナス側に位置することを特徴とする
請求項12に記載の撮像装置。
【請求項14】
前記光学系は、前記MTFを実現するための波面制御素子を備えることを特徴とする
請求項3から請求項13の何れか1項に記載の撮像装置。
【請求項15】
前記MTFを実現するための波面制御素子は、非球面を有することを特徴とする
請求項14に記載の撮像装置。
【請求項16】
前記MTFを実現するための波面制御素子は、位相板であることを特徴とする
請求項14に記載の撮像装置。
【請求項17】
前記MTFを実現するための波面制御素子は、1面に複数の曲率を有するレンズであることを特徴とする
請求項14に記載の撮像装置。
【請求項18】
前記MTFを実現するための波面制御素子は、中心と周辺で異なる曲率を有するレンズであることを特徴とする
請求項17に記載の撮像装置。
【請求項19】
前記MTFを実現するための波面制御素子は、1面に3つの曲率を有するレンズであることを特徴とする
請求項17または請求項18の何れか1項に記載の撮像装置。
【請求項20】
前記MTFを実現するための波面制御素子は、その材質に複屈折結晶が用いられることを特徴とする
請求項14から請求項19の何れか1項に記載の撮像装置。
【請求項21】
前記MTFを実現するための波面制御素子は、着脱可能とすることを特徴とする
請求項14から請求項20の何れか1項に記載の撮像装置。
【請求項22】
前記画像処理手段において実行される画像処理は、前記撮像素子で得られた画像に対する画像回復処理を含むことを特徴とする
請求項3から請求項21の何れか1項に記載の撮像装置。
【請求項23】
前記画像回復処理は、前記光学系の結像特性を用いることを特徴とする
請求項22に記載の撮像装置。
【請求項24】
前記画像回復処理は、回復画像が下記微分方程式で表される処理を実行することを特徴とする
請求項23に記載の撮像装置。
f(x,y)=g(x,y)+a1(x,y)・g'(x,y)+ …
… +an(x,y)・g(n)(x,y)
ただし、
f:回復画像、g:観測画像、a1、a2、…an:劣化パラメータ
(n):観測画像に対するn次微分
【請求項25】
請求項3から請求項24の何れか1項に記載の撮像装置と、
前記撮像素子で得られた画像に対して画像回復処理を実行する外部装置とを有することを特徴とする
撮像システム。
【請求項26】
前記画像回復処理は、前記光学系の結像特性を用いることを特徴とする
請求項25に記載の撮像システム。
【請求項27】
前記画像回復処理は、回復画像が下記微分方程式で表される処理を実行することを特徴とする
請求項25または請求項26に記載の撮像システム。
f(x,y)=g(x,y)+a1(x,y)・g'(x,y)+ …
… +an(x,y)・g(n)(x,y)
ただし、
f:回復画像、g:観測画像、a1、a2、…an:劣化パラメータ
(n):観測画像に対するn次微分
【請求項28】
前記撮像装置と前記外部装置はそれぞれ通信手段を備え、
前記撮像素子で得られた画像を、前記通信手段を介して前記外部装置に送信することを特徴とする
請求項25から請求項27の何れか1項に記載の撮像システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate

【図22】
image rotate

【図23】
image rotate

【図24】
image rotate


【公開番号】特開2011−53418(P2011−53418A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−201689(P2009−201689)
【出願日】平成21年9月1日(2009.9.1)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】