説明

光導波路及びその製造方法

【課題】単純な構成及び製造方法によって、光のパワー密度の低下及び重なり積分の低下をともに防止する。
【解決手段】基板面11aから凸状に突出したリッジ部13を一体的に有する基板11を具え、リッジ部は、屈折率が等しい第1クラッド23及び第2クラッド25と、これら第1クラッド及び第2クラッドと比して高屈折率であるコア27とを有する光導波路構造21を含み、コアは、第1クラッド及び第2クラッド間に、リッジ部の厚み方向に沿って挟み込まれている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、光導波路に関し、特に疑似位相整合を利用した波長変換素子として使用される光導波路に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光通信ネットワークにおいて使用される波長変換素子として、LN(LiNbO:ニオブ酸リチウム)結晶を基板とし、このLN結晶基板に作り込んだ光導波路を用いる技術が注目されている。
【0003】
LN結晶基板に形成された光導波路(以下、LN−光導波路とも称する)では、例えば周期電極による電界印加によって形成された周期的な分極反転、すなわち周期分極反転構造によって、疑似位相整合(QPM:Quasi Phase Matching)を実現している。そして、このような疑似位相整合型の光導波路は、例えばSHG(Second Harmonic Generation:第二高調波発生)、SFG(Sum Freqency Generation:和周波発生)、DFG(Difference Freqency Generation:差周波発生)等の2次の非線形光学効果を利用することによって様々な波長の光を取り出すことができるため、波長変換素子として好適に使用することができる。
【0004】
ここで、LN結晶基板に光導波路を形成する場合には、例えば周知のTi(チタン)拡散法またはプロトン交換法等を用いてLN結晶基板に高屈折部を作り込み、この高屈折部を光の伝送通路、すなわちコアとする方法が知られている(例えば非特許文献1参照)。
【0005】
ところで、このようなLN−光導波路を波長変換素子として使用する場合には、光損傷を抑制することが重要である。
【0006】
光損傷とは、LN結晶等の電気光学結晶に可視レーザ光が照射されたとき、結晶中の不純物準位によって電子が励起され、この励起電子がトラップされることによって生じる現象である。すなわち、励起電子がトラップ準位に落ち込むことにより、結晶中に正と負とに帯電した部分が生じ、その結果、空間電界が発生する。この空間電界による、屈折率が変化する現象が光損傷である(例えば非特許文献1参照)。
【0007】
そして、LN−光導波路において、この光損傷により屈折率が変化した場合には、疑似位相整合条件が変化し、その結果、波長変換効率が低下するため、波長変換素子としての性能低下に繋がる。
【0008】
そこで、この光損傷を抑制するために、LN結晶にMg(マグネシウム)を添加する方法が周知である(例えば非特許文献2参照)。
【0009】
非特許文献2によれば、光導波路の基板として用いるLN結晶について、一致溶融組成LN(CLN:Congruent LiNbO)では5mol%以上、また、定比組成LN(SLN:Stoichiometry LiNbO)では1.8mol%以上の濃度でMgをドープすることによって、上述した光損傷が抑制されることが開示されている。
【0010】
また、光損傷を抑制するために、上述したTi拡散法またはプロトン交換法の代わりに、LN結晶基板にZn(亜鉛)を拡散することによって、このZn拡散領域から光導波路のコアを形成する方法、すなわちZn拡散法が周知である(例えば非特許文献3参照)。
【0011】
また、LN−光導波路について、伝播する光のパワー密度の低下を防止するために、光導波路をいわゆるリッジ構造とする技術が周知である(例えば特許文献1参照)。
【0012】
特許文献1によれば、LN−光導波路の上側表面に凸状に突出したリッジ部を形成し、このリッジ部を光の伝送通路、すなわち高屈折率部であるコアとする。このような構成とすることによって、リッジ部は、その上面及び光伝播方向に沿った両側面が外気、すなわちコアに対して低屈折率である空気によって包含される。その結果、伝播する光をコアに閉じ込めることができ、光のパワー密度の低下を防止することができる。
【0013】
また、LN−光導波路について、コアが形成されたLN基板表面部に、コアと比して低屈折率なクラッド膜を形成する技術が周知である(例えば非特許文献4参照)。
【0014】
非特許文献4に開示の技術によれば、LN結晶基板に、このLN結晶基板の他の部分、すなわち低屈折率部と比して高屈折率で作り込まれたコアが、LN結晶基板の低屈折率部及びクラッド膜間に、基板の厚み方向に沿って挟み込まれている。そして、LN結晶基板の低屈折率部とコアとの屈折率差、及びコアとクラッド膜との屈折率差が同程度に設定されている。これによって、コアを伝播する光の電界分布が厚み方向において対称となる。その結果、非特許文献4によるLN−光導波路では、光導波路に入力された入力光と、この入力光がコアを伝播して出力された出力光との電界分布のピークが一致しており、従って、入力光と出力光との重なり積分の低下が防止されている。そのため、この非特許文献4によるLN−光導波路では、良好な変換効率を有する波長変換素子として使用することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2002−365680号公報
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】西原、春名、栖原「光集積回路」オーム社、p.171−179、1993
【非特許文献2】Jpn.J.Appl.Phys.,Vol.41(2002)pp.L49−L51,Part2,No.1A/B
【非特許文献3】JOURNAL OF LIGHTWAVE TECHNOLOGY, VOL.10,NO.9,pp.1238−1246,1992
【非特許文献4】IEEE PHOTONICS TECHNOLOGY LETTERS, VOL.15,NO.4,pp.569−571,2003
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
しかしながら、特許文献1によるLN−光導波路では、上述した重なり積分の低下を、また、非特許文献4によるLN−光導波路では、光のパワー密度の低下を、それぞれ防止することができない。
【0018】
これら光のパワー密度の低下及び重なり積分の低下をともに防止し、さらに光損傷が抑制されたLN−光導波路として、例えば上述した非特許文献1、非特許文献2、特許文献1、及び非特許文献4にそれぞれ開示されている技術を組み合わせた構造が想定される。すなわち、非特許文献1、非特許文献2、及び特許文献1に開示の技術を用いて、Mgが添加されたLN結晶基板に、上述したリッジ部を形成し、このリッジ部に例えば上述したTi拡散法によってコアを形成する。さらに、非特許文献4に開示の技術を用いて、コアを伝播する光の電界分布を厚み方向において対称とするために、リッジ部の上側表面に、屈折率を調整するためのクラッド膜を設ける。このような構造を採用することによって、LN−光導波路について、光のパワー密度の低下及び重なり積分の低下をともに防止し、さらに光損傷を抑制することができると考えられる。
【0019】
しかし、上述の構成では、例えば重なり積分の低下を防止するために屈折率調整用のクラッド膜を形成する必要があり、構成及びその製造工程が複雑化する。
【0020】
そこで、この発明の目的は、従来と比してより単純な構成及び製造方法によって、上述した光のパワー密度の低下及び重なり積分の低下がともに防止された光導波路を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上述の目的の達成を図るため、この発明による光導波路は以下の特徴を有している。
【0022】
すなわち、この発明による光導波路は、基板面から凸状に突出したリッジ部を一体的に有する基板を具えている。
【0023】
リッジ部は、屈折率が等しい第1クラッド及び第2クラッドと、これら第1クラッド及び第2クラッドと比して高屈折率であるコアとを有する光導波路構造を含んでいる。
【0024】
コアは、第1クラッド及び第2クラッド間に、リッジ部の厚み方向に沿って挟み込まれて形成されている。
【0025】
また、この発明による光導波路の製造方法は、以下の第1工程から第4工程までの各工程を含む。
【0026】
すなわち、まず、第1工程では、基板面から凸状に突出したリッジ部を一体的に有する基板を用意する。
【0027】
次に、第2工程では、リッジ部の上面を被覆する第1屈折率調整物質膜とともに、基板面を被覆する第2屈折率調整物質膜を形成する。
【0028】
次に、第3工程では、第1屈折率調整物質膜及び第2屈折率調整物質膜を構成する屈折率調整物質を、リッジ部内に拡散させる。これによって、リッジ部上部に、第1屈折率調整物質膜からの屈折率調整物質が添加された第1クラッド、リッジ部下部に、第2屈折率調整物質膜からの屈折率調整物質が、第1クラッドと等しい濃度で添加された第2クラッド、及びこれら第1クラッド及び第2クラッド間に、リッジ部の厚み方向に沿って挟み込まれ、かつ第1クラッド及び第2クラッドと比して低濃度で屈折率調整物質が添加されたコアを形成する。
【発明の効果】
【0029】
この発明による光導波路では、第1クラッドとコアとの屈折率差、及びコアと第2クラッドとの屈折率差が等しくなるため、この光導波路に入力された入力光と、入力光がコアを伝播して出力された出力光との電界分布のピークが一致し、その結果、入力光と出力光との重なり積分の低下が防止される。
【0030】
そして、この発明による光導波路では、上述したように、凸状のリッジ部内に第1クラッド、コア、及び第2クラッドが作り込まれて光導波路構造が構成されている。従って、従来とは異なり、個別のクラッド膜をリッジ部に設ける必要がないため、構造が複雑化することなく、光のパワー密度の低下及び重なり積分の低下を防止することができる。
【0031】
また、この発明による光導波路の製造方法では、上述したように、第3工程において、第1屈折率調整物質膜及び第2屈折率調整物質膜を構成する屈折率調整物質をリッジ部内に拡散させ、この拡散によるリッジ部内における屈折率調整物質濃度の高低から第1クラッド、コア、及び第2クラッドを形成する。
【0032】
従って、この発明による光導波路の製造方法では、1つの工程によって第1クラッド及び第2クラッドとコアとを形成することができる。そのため、従来とは異なり、それぞれ個別にコア及びクラッド膜を形成する必要がないため、良好なスループットで上述した構造の光導波路を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】この発明の第1の実施の形態による光導波路を概略図に示す斜視図である。
【図2】この発明の第1の実施の形態による光導波路を概略的に示す図であり、図1に示すI−I線に沿って切り取った切り口を矢印方向から見た端面図である。
【図3】第1の実施の形態による光導波路のリッジ部における厚み方向に沿った屈折率の大きさの分布を示す図であり、図1に示すII−IIに沿った屈折率の大きさの分布を示す図である。
【図4】第1の実施の形態による光導波路のリッジ部のコアの短手方向に沿った屈折率の大きさの分布を示す図であり、図1に示すIII−IIIに沿った屈折率の大きさの分布を示す図である。
【図5】(A)及び(B)は、この発明の第1の実施の形態による光導波路の製造方法を説明する工程図であり、(A)は、この製造方法の第1工程で得られた構造体を、光伝播方向に直交する短手方向に沿って、厚み方向に切り取った切り口で示してあり、(B)は、この製造方法の第1工程で得られた構造体を、光伝播方向に沿って厚み方向に切り取った切り口で示してある。
【図6】(A)及び(B)は、この発明の第1の実施の形態による光導波路の製造方法を説明する工程図であり、図5(A)に続く工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、図面を参照して、この発明の実施の形態に係る光導波路について説明する。なお、各図は、この発明が理解できる程度に、各構成要素の形状、大きさ、及び配置関係を概略的に示してあるに過ぎない。従って、この発明の構成は、何ら図示の構成例にのみ限定されるものではない。
【0035】
〈第1の実施の形態〉
第1の実施の形態では、リッジ部を具え、かつこのリッジ部内に第1クラッド、コア、及び第2クラッドを有する光導波路構造が作り込まれている光導波路及びその製造方法について説明する。
【0036】
図1は、この発明の第1の実施の形態による光導波路を概略図に示す斜視図である。また、図2は、この発明の第1の実施の形態による光導波路を概略的に示す図であり、図1に示すI−I線に沿って切り取った切り口を矢印方向から見た端面図である。
【0037】
第1の実施の形態による光導波路は、基板面11aから凸状に突出したリッジ部13を一体的に有する基板11を具えている。
【0038】
ここで、この第1の実施の形態による光導波路は、上述したQPMによる波長変換素子として使用される。そのために、基板11を以下のような構成とするのが好ましい。
【0039】
すなわち、基板11は、例えばCLN、SLN等のLN結晶を材料として構成されている。
【0040】
そして、基板11は、基板11を構成するLN結晶の自発分極15の方向に沿って、基板11の厚み方向が設定されている。
【0041】
基板11には、上述したQPMを実現するために、周期分極反転構造が作り込まれている。すなわち、基板11を構成するLN結晶は、一定方向に沿って周期的に自発分極15の方向が反転した領域が形成されている。従って、基板11では、自発分極15の方向が反転していない領域17aと自発分極15の方向が反転した領域17bとが互いに交互に配列して形成されている。そのため、領域17aにおける自発分極15aと領域17bにおける15bとは、互いに反対の方向を向いている(図2参照)。
【0042】
このような周期分極反転構造を形成することによって、第1の実施の形態による光導波路では、領域17a及び領域17bの配列方向、すなわち周期分極反転方向に沿って光が伝播する。従って、この周期分極反転方向が矢印で示す光伝播方向19となる(図1及び図2参照)。
【0043】
また、リッジ部13は、光伝播方向19に沿って延在して形成されている。
【0044】
そして、リッジ部13には、第1クラッド23、第2クラッド25、及びコア27によって構成された光導波路構造21が作り込まれている。
【0045】
コア27は、第1クラッド23及び第2クラッド25間に、リッジ部13の厚み方向に沿って挟み込まれて配設されている。このコア27は、第1クラッド23及び第2クラッド25と比して高屈折率に調整されている。
【0046】
また、第1クラッド23及び第2クラッド25は、屈折率が等しく調整されている。
【0047】
そして、リッジ部13の厚みを例えば10μmとした場合には、コア27の厚みを6μm程度、また、リッジ部13内における第1クラッド23及び第2クラッド25の厚みをそれぞれ例えば2μmとするのが好ましい。
【0048】
このように、リッジ部13内に高屈折領域としてのコア27、及びこのコア27を挟み込む低屈折率領域としての第1クラッド23及び第2クラッド25を作り込むことによって、入力された光は、光伝播方向19に沿ってコア27を伝播する。従って、この第1の実施の形態による光導波路では、このような光導波路構造21を含むリッジ部13が、実質的な光導波路部として機能する。
【0049】
また、リッジ部13に入力された光を確実にコア27内に閉じ込めて伝播するために、コア27の屈折率を、第1クラッド23及び第2クラッド25よりも0.03程度高く設定するのが好ましい。より具体的な一例としては、コア27の屈折率を例えば2.20程度、また、第1クラッド23及び第2クラッド25の屈折率を例えば2.17程度とするのが好ましい。
【0050】
ここで、この第1の実施の形態による光導波路では、これら第1クラッド23及び第2クラッド25とコア27との屈折率の差を、Mgの添加濃度を以って調整する。
【0051】
すなわち、コア27には第1クラッド23及び第2クラッド25と比して低濃度で、また、第1クラッド23及び第2クラッド25にはコア27と比して高濃度で、Mgが添加されたMg含有領域としてそれぞれ構成すればよい。
【0052】
なお、リッジ部13内において第1クラッド23、第2クラッド25、及びコア27の屈折率調節物質としてMgを作用させるためには、このMgを単体のMgとしてのみではなく、MgO(酸化マグネシウム)の状態で添加してもよい。
【0053】
そして、この第1の実施の形態による光導波路では、上述したようにコア27の屈折率を第1クラッド23及び第2クラッド25よりも0.03高く設定するために、コア27にはMgが例えばMgOの状態で5mol%程度の濃度で、また、第1クラッド23及び第2クラッド25にはMgが例えばMgOの状態で10mol%程度の濃度で、それぞれ添加されている。
【0054】
なお、この第1の実施の形態による光導波路は、基板11の、リッジ部13以外の部分、すなわち基板本体部29にもMgが添加されている構成としてもよい。
【0055】
さらに、この第1の実施の形態による光導波路は、基板本体部29内の上部に、基板面11aから、第2クラッド25と連続的にMgが添加された低屈折率部を具える構成としてもよい。その場合には、この低屈折率部は、第2クラッド25と等しい濃度でMgが添加され、従って、第2クラッド25と等しい屈折率に調整される。なお、図1及び図2では、基板本体部29の上部にこの低屈折率部、すなわち低屈折率部31を設けた構成例を示している。
【0056】
次に、図3及び図4を参照して、第1の実施の形態による光導波路おけるリッジ部13の屈折率の大きさの分布について説明する。
【0057】
図3は、第1の実施の形態による光導波路のリッジ部13における厚み方向に沿った屈折率の大きさの分布を示す図であり、図1に示すII−IIに沿った屈折率の大きさの分布を示す図である。
【0058】
図3において、曲線35は、図1の構造体のII−IIに沿った屈折率の大きさを示す曲線である。また、図3において、横軸は屈折率の大きさを、また、縦軸はリッジ部13の厚み方向に沿った位置を任意スケールで目盛ってある。そして、図3に示す領域37は第1クラッド23に、領域39はコア27に、また、領域41は第2クラッド25にそれぞれ対応した屈折率の大きさを示している。
【0059】
既に説明したように、第1クラッド23及び第2クラッド25は、等しい屈折率n2に調整されている。そして、コア27の屈折率n1は、第1クラッド23及び第2クラッド25と比して高屈折率に調整されている。
【0060】
このようにリッジ部13内の屈折率を調整して第1クラッド23、第2クラッド25、及びコア27作り込むことによって、この第1の実施の形態による光導波路では、第1クラッド23とコア27との屈折率の差、及び第2クラッド25とコア27との屈折率の差が等しくなる。従って、第1の実施の形態による光導波路では、コア27を伝播する光の電界分布が厚み方向において対称となるため、上述した入力光と出力光との重なり積分の低下が防止される。
【0061】
また、図4は、第1の実施の形態による光導波路のリッジ部13のコア27の、厚み方向及び光伝播方向19に直交する方向、すなわち図1に矢印で示す短手方向43に沿った屈折率の大きさの分布を示す図であり、図1に示すIII−IIIに沿った屈折率の大きさの分布を示す図である。
【0062】
図4において、曲線45は、図1の構造体のIII−IIIに沿った屈折率の大きさを示す曲線である。また、図4において、縦軸は屈折率の大きさを、また、横軸はコア27の短手方向43に沿った位置を任意スケールで目盛ってある。そして、図4に示す領域47はコア27に、領域49及び領域51はリッジ部13の光伝播方向19に沿った両側面13b及び13c側の空気にそれぞれ対応した屈折率の大きさを示している。
【0063】
第1の実施の形態による光導波路では、リッジ部13は、その上面13a及び光伝播方向19に沿った両側面13b及び13cが外気、すなわちコア27に対して低屈折率である空気(屈折率:1.00)によって包含されている(図1参照)。
【0064】
そのため、図4に示すように、コア27の光伝播方向19に沿った両側面13a及び13b側において、コア27と空気との間に大きな屈折率差が生じる。
【0065】
その結果、第1の実施の形態による光導波路では、伝播する光を確実にコア27に閉じ込めることができるため、光のパワー密度の低下が防止される。
【0066】
なお、この第1の実施の形態による光導波路では、同様の効果を得るために、すなわちコア27を伝播する光のパワー密度を低下させないために、リッジ部13を、空気と同程度に低屈折率である例えば有機樹脂や石英ガラス等の物質で被覆する構成としてもよい(図示せず)。
【0067】
以上に説明したように、第1の実施の形態による光導波路では、凸状のリッジ部13内に、Mgの添加濃度差を以って第1クラッド23、コア27、及び第2クラッド25が作り込まれている。従って、従来とは異なり、個別のクラッド膜をリッジ部13に設ける必要がないため、構造が複雑化することなく、光のパワー密度の低下及び重なり積分の低下を防止することができる。
【0068】
さらに、第1の実施の形態による光導波路では、第1クラッド23、コア27、及び第2クラッド25の屈折率を調整するための屈折率調整物質として、Mgを添加しているため、上述した光損傷を防止することができる。
【0069】
従って、第1の実施の形態による光導波路では、光のパワー密度の低下、重なり積分の低下、及び光損傷を同時に、かつ単純な構造で防止することができるため、波長変換素子として好適に使用することができる。
【0070】
次に、この第1の実施の形態による光導波路の製造方法について説明する。この製造方法は、第1工程から第3工程までを含んでいる。以下、第1工程から順に各工程につき説明する。
【0071】
図5(A)及び(B)は、この発明の第1の実施の形態による光導波路の製造方法を説明する工程図である。図5(A)は、この製造方法の第1工程で得られた構造体を、光伝播方向に直交する短手方向に沿って、厚み方向に切り取った切り口で示してある。また、図5(B)は、この製造方法の第1工程で得られた構造体を、光伝播方向に沿って厚み方向に切り取った切り口で示してある。また、図6(A)及び(B)は、図5(A)に続く工程図である。これらの各図は、それぞれ、各製造段階で得られた構造体を、光伝播方向に沿って厚み方向に切り取った切り口で示してある。
【0072】
まず、第1工程では、基板面11aから凸状に突出したリッジ部13を有する基板11を用意する(図5(A)及び(B)参照)。
【0073】
既に説明したように、第1の実施の形態による光導波路は、上述したQPMによる波長変換素子として使用される。そのために、この第1工程において用意する基板11を以下のような構成とする。
【0074】
まず、基板11は、例えばCLN、SLN等のLN結晶を材料として構成された基板とする。
【0075】
そして、上述したQPMを実現するために、基板11に、予め周期分極反転構造を作り込んでおく。すなわち、周知の方法、例えば周期電極による電界印加等の方法を用いて、基板11を構成するLN結晶に、一定方向に沿って周期的に自発分極15の方向が反転した領域を形成する。その結果、基板11では、自発分極15の方向が反転していない領域17aと自発分極15の方向が反転した領域17bとが互いに交互に配列して形成される。従って、領域17aにおける自発分極15aと領域17bにおける15bとは、互いに反対の方向を向いている(図5(B)参照)。
【0076】
このような周期分極反転構造を形成することによって、基板11では、領域17a及び領域17bの配列方向、すなわち周期分極反転方向に沿って光が伝播する。従って、この周期分極反転方向が矢印で示す光伝播方向19となる(図5(B)参照)。
【0077】
また、リッジ部13は、自発分極15の方向を基板11の厚み方向として、基板面11a上に、光伝播方向19に沿って延在させて形成しておく。
【0078】
なお、この実施の形態では、リッジ部13を、例えば周知のダイシング、イオンミリング、ドライエッチング、レーザーアブレーション等を用いて、表面側から基板を掘削加工することによって形成するのが好ましい。これによって、基板11は、基板面11aから凸状に突出して形成されたリッジ部13、及び上側にリッジ部13が形成された基板本体部29を一体的に有する構成となる。
【0079】
また、この第1工程では、製造される光導波路の光損傷を防止する目的、及びリッジ部13内の屈折率を調整する目的で、予めMgが添加された基板11を用いる。
【0080】
なお、これら光損傷の防止及び屈折率の調整という効果を得るに当たり、基板11に添加しておくMgは、単体のMgのみではなく、MgO(酸化マグネシウム)の状態で添加しておいてもよい。そして、この第1の実施の形態では、Mgを例えばMgOの状態で5mol%程度の濃度で、基板11に添加しておくのが好ましい。
【0081】
次に、第2工程では、リッジ部13の上面13aを被覆する第1屈折率調整物質膜53とともに、基板面11aを被覆する第2屈折率調整物質膜55を形成して図6(A)に示すような構造体を得る。
【0082】
これら第1屈折率調整物質膜53及び第2屈折率調整物質膜55は、続く第3工程において、リッジ部13内に屈折率調整物質を拡散させることによって光導波路構造を形成する際に、屈折率調整物質の拡散ソースとして用いられる。
【0083】
そのために、この第2工程では、これら第1屈折率調整物質膜53及び第2屈折率調整物質膜55を、屈折率調整物質を材料として基板11上に形成する。
【0084】
この第1の実施の形態では、リッジ部13内に添加する屈折率調整物質としてMgを用いる。そこで、第1屈折率調整物質膜53及び第2屈折率調整物質膜55を、Mg含有物質、すなわち例えば単体のMgまたはMgO等を材料として形成する。この実施の形態では、例えばリッジ部13の厚みを10μm及びリッジ部13の短手方向43に沿った幅を6μmとした場合において、上述したようにコアを、厚みが6μm程度で、かつ第1クラッド及び第2クラッドよりも屈折率が0.03高くなるように形成するために、これら第1屈折率調整物質膜53及び第2屈折率調整物質膜55を、MgOを材料として例えば0.05μmの膜厚で形成するのが好ましい。
【0085】
また、この第2工程では、第1屈折率調整物質膜53及び第2屈折率調整物質膜55を形成するために、好ましくは例えば周知の電子ビームによる蒸着法、またはスパッタ法等を用いて、材料である屈折率調整物質を基板11の上側から堆積させる。これによって、リッジ部13の上面13aに堆積した屈折率調整物質から第1屈折率調整物質膜53を、また、基板面11aに堆積した屈折率調整物質から第2屈折率調整物質膜55を同時に形成する。
【0086】
次に、第3工程では、第1屈折率調整物質膜53及び第2屈折率調整物質膜55を構成する屈折率調整物質を、リッジ部13内に拡散させることによって、第1クラッド23、コア27、及び第2クラッド25を形成して、図6(B)に示すような構造体を得る。
【0087】
既に説明したように、この第1の実施の形態では、第1クラッド23、コア27、及び第2クラッド25の屈折率差を、添加する屈折率調整物質、すなわちMgの濃度差を以って調整する。そのために、この第3工程では、上述した第2工程で得た構造体(図6(A)参照)に対して熱処理を行うことによって、第1屈折率調整物質膜53及び第2屈折率調整物質膜55を構成する屈折率調整物質膜、すなわちMg含有物質をリッジ部13内に拡散させる。
【0088】
そして、この熱処理の結果、リッジ部13上部には、第1屈折率調整物質膜53から拡散した屈折率調整物質が、また、リッジ部13下部には、第2屈折率調整物質膜55からの屈折率調整物質が、それぞれ拡散する。
【0089】
ここで、既に説明したように、リッジ部13を含む基板11には、上述した第1工程の時点で既に例えばMgO等の状態でMgが添加されている。従って、この第3工程において、第1屈折率調整物質膜53及び第2屈折率調整物質膜55から屈折率調整物質、すなわちMg含有物質が拡散することによって、リッジ部13上部及びリッジ部13下部には、Mgが高濃度で添加された領域が形成される。
【0090】
その結果、第1屈折率調整物質膜53から拡散した屈折率調整物質が添加されて、リッジ部13上部に第1クラッド23が形成される。また、同時に、第2屈折率調整物質膜55から拡散した屈折率調整物質が、第1クラッド23と等しい濃度で添加されて、リッジ部13下部に第2クラッド25が形成される。
【0091】
また、これら第1クラッド23及び第2クラッド25間には、第1屈折率調整物質膜53及び第2屈折率調整物質膜55からの屈折率調整物質が、第1クラッド23及び第2クラッド25と比して低濃度で拡散した領域、または拡散が及ばない領域が形成される。この領域は、上述した第1工程の時点でのMg添加濃度が残存するため、Mgが第1クラッド23及び第2クラッド25と比して低濃度で添加されたコア27となる。
【0092】
このように、リッジ部13内におけるMg濃度を調整することによって、第1クラッド23、第2クラッド25、及びこれら第1クラッド23及び第2クラッド25間にリッジ部13の厚み方向に沿って第1クラッド23及び第2クラッド25間に挟み込まれたコア27が形成される。
【0093】
そして、このように、コア27のMg濃度を、第1クラッド23及び第2クラッド25と比して低濃度とすることによって、コア27の屈折率は、第1クラッド23及び第2クラッド25と比して高くなる。
【0094】
また、第1クラッド23、コア27、及び第2クラッド25を形成するためには、第2工程で得た構造体を、例えば800〜1000℃の温度で、長くとも10時間程度熱処理を行うのが好ましい。
【0095】
より詳細には、上述した構成、すなわち例えば厚み10μmのリッジ部13内において、コア27の厚みを6μm程度、また、リッジ部13内における第1クラッド23及び第2クラッド25の厚みをそれぞれ例えば2μmとし、かつコア27の屈折率を第1クラッド23及び第2クラッド25と比して0.03高く調整するためには、第1屈折率調整物質膜53及び第2屈折率調整物質膜55を上述したように膜厚0.05μmのMgO膜とし、屈折率調整物質としてMgOを用い、かつ湿潤酸素雰囲気中において、例えば1000℃の温度で3時間熱処理するのが好ましい。
【0096】
このような条件において熱処理することによって、5mol%程度の濃度でMgOが添加されたコア27が6μm程度の厚みで、また、10mol%程度の濃度でMgOが添加された第1クラッド23及び第2クラッド25がそれぞれ2μm程度の厚みで形成される。
【0097】
なお、この第3工程において、上述した熱処理による第2屈折率調整物質膜55からの屈折率調整物質は、基板面11aから基板本体部29内の上部にも拡散する。その結果、基板本体部29内の上部には、第2クラッド25と連続的に高濃度でMgが添加された低屈折率部31が形成される。
【0098】
以上説明したように、この第1の実施の形態による光導波路の製造方法では、第3工程において、第1屈折率調整物質膜53及び第2屈折率調整物質膜55を構成する屈折率調整物質をリッジ部13内に拡散させ、リッジ部13内における屈折率調整物質濃度の高低から第1クラッド23、コア27、及び第2クラッド25を形成する。
【0099】
従って、この第1の実施の形態による光導波路の製造方法では、1つの工程によって第1クラッド23及び第2クラッド25とコア27とを形成することができる。そのため、従来とは異なり、それぞれ個別にコア及びクラッド膜を形成する必要がないため、良好なスループットで上述した構造の光導波路(図1参照)を製造することができる。
【0100】
なお、上述した製造方法では、第1工程においてMgが添加された基板11を用意する製造工程例について説明した。
【0101】
しかし、この第1の実施の形態による光導波路の製造方法では、上述した第2工程において形成する第1屈折率調整物質膜53及び第2屈折率調整物質膜55の膜厚、及び上述した第3工程における熱処理の条件を適宜設定することによって、Mgが無添加のLN結晶を材料とした基板を用いた場合でも、この実施の形態の光導波路を製造することが可能である。
【0102】
すなわち、第1工程において、基板11としてMgが無添加のLN結晶基板を用いる場合には、第2工程において、MgOを材料として第1屈折率調整物質膜53及び第2屈折率調整物質膜55を、好ましくは例えば0.1μmの膜厚で形成する。
【0103】
そして、第3工程において、好ましくは例えば湿潤酸素雰囲気中で、1000℃の温度で4時間熱処理する。
【0104】
このような条件で第2工程及び第3工程を行うことによって、基板11としてMg無添加のLN結晶基板を用いた場合においても、上述の構成、すなわち例えば厚み10μmのリッジ部13内に5mol%程度の濃度でMgOが添加されたコア27が6μm程度の厚みで、また、10mol%程度の濃度でMgOが添加された第1クラッド23及び第2クラッド25がそれぞれ2μm程度の厚みで形成された光導波路を得ることができる。
【0105】
Mg無添加のLN結晶は、Mgが添加されたLN結晶と比して安価に手に入れることができるため、基板11としてMg無添加のLN結晶を用いた場合には、材料コストの低減を図ることができる。
【符号の説明】
【0106】
11:基板
13:リッジ部
21:光導波路構造
23:第1クラッド
25:第2クラッド
27:コア
29:基板本体部
31:低屈折率部
53:第1屈折率調整物質膜
55:第2屈折率調整物質膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板面から凸状に突出したリッジ部を一体的に有する基板を具え、
前記リッジ部は、屈折率が等しい第1クラッド及び第2クラッドと、該第1クラッド及び第2クラッドと比して高屈折率であるコアとを有する光導波路構造を含み、
前記コアは、前記第1クラッド及び第2クラッド間に、前記リッジ部の厚み方向に沿って挟み込まれている
ことを特徴とする光導波路。
【請求項2】
請求項1に記載の光導波路であって、
前記コアは、前記第1クラッド及び第2クラッドよりも屈折率が0.03高い
ことを特徴とする光導波路。
【請求項3】
請求項1または2に記載の光導波路であって、
前記基板は、LiNbO結晶を材料として構成されており、
前記コア、前記第1クラッド及び第2クラッドは、前記LiNbO結晶にMgが添加されて構成されており、
前記第1クラッド及び第2クラッドには、前記コアと比して高濃度でMgが添加されている
ことを特徴とする光導波路。
【請求項4】
請求項3に記載の光導波路であって、
前記コアにはMgが5mol%程度の濃度で、また、前記第1クラッド及び第2クラッドにはMgが10mol%程度の濃度で、それぞれ添加されている
ことを特徴とする光導波路。
【請求項5】
基板面から凸状に突出したリッジ部を一体的に有する基板を用意する第1工程と、
前記リッジ部の上面を被覆する第1屈折率調整物質膜とともに、前記基板面を被覆する第2屈折率調整物質膜を形成する第2工程と、
前記第1屈折率調整物質膜及び前記第2屈折率調整物質膜を構成する屈折率調整物質を、前記リッジ部内に拡散させることによって、前記リッジ部上部に、前記第1屈折率調整物質膜からの前記屈折率調整物質が添加された第1クラッド、前記リッジ部下部に、前記第2屈折率調整物質膜からの前記屈折率調整物質が、前記第1クラッドと等しい濃度で添加された第2クラッド、及び該第1クラッド及び第2クラッド間に、前記リッジ部の厚み方向に沿って挟み込まれ、かつ該第1クラッド及び第2クラッドと比して低濃度で前記屈折率調整物質が添加されたコアを形成する第3工程と
を含むことを特徴とする光導波路の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の光導波路の製造方法であって、
Mgが添加されたLiNbO結晶を材料とした前記基板を用意する
ことを特徴とする光導波路の製造方法。
【請求項7】
請求項5に記載の光導波路の製造方法であって、
Mgが無添加のLiNbO結晶を材料とした前記基板を用意する
ことを特徴とする光導波路の製造方法。
【請求項8】
請求項6または7に記載の光導波路の製造方法であって、
Mg含有物質を材料として、前記第1屈折率調整物質膜及び前記第2屈折率調整物質膜を形成し、前記屈折率調整物質としてMgを拡散する
ことを特徴とする光導波路の製造方法。
【請求項9】
請求項8に記載の光導波路の製造方法であって、
前記コアのMg濃度が5mol%程度となるように、また、前記第1クラッド及び第2クラッドのMg濃度が10mol%程度となるように、前記Mgを拡散する
ことを特徴とする光導波路の製造方法。


















【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−210900(P2010−210900A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−56484(P2009−56484)
【出願日】平成21年3月10日(2009.3.10)
【出願人】(000000295)沖電気工業株式会社 (6,645)
【Fターム(参考)】