説明

光情報記録用Al合金反射膜、光情報記録媒体および光情報記録用Al合金反射膜の形成用のAl合金スパッタリングターゲット

【課題】低熱伝導率、低溶融温度、高耐食性を有して、レーザーマーキングに対応可能な光情報記録用Al合金反射膜、この反射膜を備えた光情報記録媒体、及び、この反射膜の形成用のスパッタリングターゲットを提供する。
【解決手段】(1) 光情報記録媒体用Al合金反射膜であって、Alを主成分とし、希土類元素の少なくとも1種を1.0 〜10.0原子%含有し、更にCr,Ta,Ti,Mo,V,W,Zr,Hf,Nb,Niの少なくとも1種を0.5 〜5.0原子%含有することを特徴とする光情報記録用Al合金反射膜、(2) 前記Al合金反射膜においてFe,Coの少なくとも1種を1.0 〜5.0 原子%含有するものや、In,Zn,Ge,Cu,Liの少なくとも1種を1.0 〜10.0原子%含有するもの、(3) 前記Al合金反射膜を有していることを特徴とする光情報記録媒体、(4) 前記Al合金反射膜と同様の組成を有するAl合金よりなるスパッタリングターゲット等。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光情報記録用Al合金反射膜、光情報記録媒体および光情報記録用Al合金反射膜の形成用のAl合金スパッタリングターゲットに関する技術分野に属し、特には、CD,DVD ,Blu-ray Disk,HD-DVD等の光情報記録媒体の中の特に再生専用の媒体(ROM )において、ディスク形成後にレーザー等を用いたマーキングを可能とするために、低熱伝導率、低溶融温度、高耐食性を有すると共に、高反射率を有する反射膜、この反射膜の形成用のスパッタリングターゲット、及び、この反射膜を備えた光情報記録媒体に関する技術分野に属するものである。
【背景技術】
【0002】
光ディスクにはいくつかの種類があるが、記録再生原理から大きくは、再生専用、追記型、書き換え型の3種類に分類される。
【0003】
この中、再生専用ディスクは、図1に例示するように、透明プラスチック基体上に設けた凹凸のピットにより、製造時に記録データを形成した後にAl、Ag、Au等を母材とする反射膜層を設けた構造を有しており、データ読み出し時にはディスクに照射されたレーザー光の位相差や反射差を検出することにより、データの再生を行う。また、それぞれ個別の記録ピットを形成した上に反射膜層を設けた基材と半透明反射層を設けた基材の2枚の基材を張り合わせて2層に記録したデータを読み出すタイプもある。片面でこの記録再生方式では、データは読み出し専用(書き込み、変更不可)であり、この方式を採る光ディスクとしては、CD-ROM,DVD-ROM ,BD-ROM,HD-DVD-ROMなどが挙げられる。なお、図1は断面構造を示す模式図であって、図1において、符番の1はポリカーボネイト基体、2は半透明反射層(Au,Ag合金,Si)、3は接着層、4は全反射膜層(Al合金)、5はUV硬化樹脂保護層を示すものである。
【0004】
このような再生専用の光ディスクでは、あらかじめディスク形成時に情報のパターンを形成したスタンパによるプレス加工でディスクを大量生産することから、ディスク個別にIDをつけることは困難であった。しかしながら、ディスクの不正コピーの防止、商品流通のトレーサビリティの向上、付加価値の向上等の目的から、再生専用光ディスクにおいてもレベルゲート方式や BCA(Burst Cutting Area)方式など、ディスク形成後に、専用の装置を用いてディスク一枚毎のIDを記録したディスクが規格化され始めている。このIDのマーキングは、現状では主に製造後のディスクにレーザー光を照射して、反射膜のAl合金を溶融し、反射膜に穴をあけることにより記録を行うという方法により行われている。
【0005】
再生専用の光ディスクの反射膜としては、これまで一般構造材として流通量が多く、そのため安価な JIS6061(Al-Mg 系合金)を中心としたAl合金が広く使用されてきた。
【0006】
しかしながら、上記6061系Al合金はレーザーマーキング加工を前提とした材料でないことから、下記[1] 〜[2] の点で課題を残している。
【0007】
[1] 熱伝導率が高い。即ち、より低い出力でレーザーマーキングを行うためには、反射膜の熱伝導率は出来るだけ低い方がよいが、6061系Al合金では熱伝導率が高すぎる。このため、現状の6061系Al合金を用いてレーザーマーキングを行った場合、レーザー出力過大のためにディスクを構成するポリカーボネイト基板や接着層が熱ダメージを受ける問題があった。
【0008】
[2] 耐食性が低い。即ち、レーザーマーキングを行った場合、マーキングあとに空洞が出来るため、その後の恒温恒湿試験において、Al合金膜の腐食が発生する。
【0009】
Al合金反射膜の熱伝導率の低減については、光磁気記録用反射膜の分野において、例えば特開平4-177639号公報(特許文献1)には、AlにNb,Ti,Ta,W,Mn,Mo等を添加して熱伝導率を低減する方法が示されている。また、特開平5-12733 号公報(特許文献2)には、AlにSi,Ti,Ta,Cr,Zr,Mo,Pd,Ptの少なくとも1種を加えて熱伝導率を低減する方法が示されている。また、特開平7-11426 号公報(特許文献3)には、AlにWまたはYを添加した合金膜も開示されている。しかしながら、これらの反射膜は、レーザー照射により膜を溶融・除去することは前提としていないため、膜の熱伝導率は低下するものの、それと同時に溶融温度が上昇するものや、上記のようにマーキングあとの空洞の腐食の問題が考慮されていないものであり、レーザーマーキング用Al合金として要求を満たすものは未だ提供されていない。
【特許文献1】特開平4−177639号公報
【特許文献2】特開平5−12733号公報
【特許文献3】特開平7−11426号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
以上述べたように、レーザーマーキングに対応したAl合金には、低熱伝導率、低溶融温度、高耐食性が必要とされる。
【0011】
しかしながら、再生専用の光ディスクでの反射膜として使用されている6061系Al合金では、前述のように、熱伝導率が高く、且つ、耐食性が低く、この点でレーザーマーキング用途には対応が困難である。また、光磁気記録用反射膜の分野において、これまでに提案されてきたAl合金(特許文献1〜3に記載されたもの)では、前述の通り、レーザーマーキング用途には対応が困難である。
【0012】
本発明はこのような事情に着目してなされたものであって、その目的は、低熱伝導率、低溶融温度、高耐食性を有して、レーザーマーキングに対応可能な光情報記録用Al合金反射膜、この反射膜を備えた光情報記録媒体、及び、この反射膜の形成用のスパッタリングターゲットを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を行った結果、Alに対して特定の合金元素を特定量含有させたAl合金薄膜が低い熱伝導率、低い溶融温度、高い耐食性を有し、レーザーマーキングに適した光情報記録用反射膜として好適な反射薄膜層(金属薄膜層)であるとの知見を得た。本発明はこのような知見に基づきなされたものであり、本発明によれば上記目的を達成することができる。
【0014】
このようにして完成され上記目的を達成することができた本発明は、光情報記録用Al合金反射膜、光情報記録媒体および光情報記録用Al合金反射膜の形成用のAl合金スパッタリングターゲットに係わり、特許請求の範囲の請求項1〜5記載の光情報記録用Al合金反射膜(第1〜5発明に係るAl合金反射膜)、請求項6〜7記載の光情報記録媒体(第6〜7発明に係る光情報記録媒体)、請求項8〜11記載の光情報記録用Al合金反射膜の形成用のAl合金スパッタリングターゲット(第8〜11発明に係るスパッタリングターゲット)であり、それは次のような構成としたものである。
【0015】
即ち、請求項1記載の光情報記録用Al合金反射膜は、光情報記録媒体に用いられるAl合金反射膜であって、Alを主成分とし、希土類元素の少なくとも1種を1.0 〜10.0原子%含有し、更にCr,Ta,Ti,Mo,V,W,Zr,Hf,Nb,Niの少なくとも1種を0.5 〜5.0原子%含有することを特徴とする光情報記録用Al合金反射膜である〔第1発明〕。
【0016】
請求項2記載の光情報記録用Al合金反射膜は、前記希土類元素がNd及び/又はYである請求項1記載の光情報記録用Al合金反射膜である〔第2発明〕。
【0017】
請求項3記載の光情報記録用Al合金反射膜は、Fe,Coの少なくとも1種を1.0 〜5.0 原子%含有する請求項1または2記載の光情報記録用Al合金反射膜である〔第3発明〕。
【0018】
請求項4記載の光情報記録用Al合金反射膜は、In,Zn,Ge,Cu,Liの少なくとも1種を1.0 〜10.0原子%含有する請求項1〜3のいずれかに記載の光情報記録用Al合金反射膜である〔第4発明〕。
【0019】
請求項5記載の光情報記録用Al合金反射膜は、Si,Mgの少なくとも1種を5.0原子%以下含有する請求項1〜4のいずれかに記載の光情報記録用Al合金反射膜である〔第5発明〕。
【0020】
請求項6記載の光情報記録媒体は、請求項1〜5のいずれかに記載のAl合金反射膜を有していることを特徴とする光情報記録媒体である〔第6発明〕。
【0021】
請求項7記載の光情報記録媒体は、レーザーマーキング用である請求項6記載の光情報記録媒体である〔第7発明〕。
【0022】
請求項8記載の光情報記録用Al合金反射膜の形成用のAl合金スパッタリングターゲットは、Alを主成分とし、希土類元素の少なくとも1種を1.0 〜10.0原子%含有すると共に、Cr,Ta,Ti,Mo,V,W,Zr,Hf,Nb,Niの少なくとも1種を0.5 〜5.0原子%含有することを特徴とする光情報記録用Al合金反射膜の形成用のAl合金スパッタリングターゲットである〔第8発明〕。
【0023】
請求項9記載の光情報記録用Al合金反射膜の形成用のAl合金スパッタリングターゲットは、Fe,Coの少なくとも1種を1.0 〜5.0 原子%含有する請求項8記載の光情報記録用Al合金反射膜の形成用のAl合金スパッタリングターゲットである〔第9発明〕。
【0024】
請求項10記載の光情報記録用Al合金反射膜の形成用のAl合金スパッタリングターゲットは、In,Zn,Ge,Cu,Liの少なくとも1種を1.0 〜10.0原子%含有する請求項8または9記載の光情報記録用Al合金反射膜の形成用のAl合金スパッタリングターゲットである〔第10発明〕。
【0025】
請求項11記載の光情報記録用Al合金反射膜の形成用のAl合金スパッタリングターゲットは、Si,Mgの少なくとも1種を5.0原子%以下含有する請求項8〜10のいずれかに記載の光情報記録用Al合金反射膜の形成用のAl合金スパッタリングターゲットである〔第11発明〕。
【発明の効果】
【0026】
本発明に係る光情報記録用Al合金反射膜は、低熱伝導率、低溶融温度、高耐食性を有することができて、レーザーマーキングに対応可能な光情報記録用反射膜として好適に用いることができる。本発明に係る光情報記録媒体は、かかるAl合金反射膜を有し、レーザーマーキングを好適に行うことができる。本発明に係る光情報記録用Al合金反射膜の形成用のAl合金スパッタリングターゲットによれば、かかるAl合金反射膜を形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
前述したように、レーザーマーキングに適したAl合金薄膜では、低い熱伝導率、低い溶融温度、高い耐食性を有することが必要である。
【0028】
本発明者らは、Alに種々の元素を添加したAl合金スパッタリングターゲットを製作し、これらターゲットを使用してスパッタリング法により種々の成分・組成のAl合金薄膜を形成し、その組成及び反射薄膜層としての特性を調べ、以下〔下記(1) 〜(5) 〕のことを見いだした。
【0029】
(1) Alに希土類元素の少なくとも1種を合計で1.0 〜10.0原子%(at%)添加することにより、溶融温度(液相線温度)を上げることなく、熱伝導率を大きく低減できる。この元素の添加量が1.0 at%未満の場合には、熱伝導率の低減効果が少ない。この元素の添加量が10.0at%超の場合には、反射率の低下が大きい。上記希土類元素の中でも、Nd,Yは熱伝導率の低減効果がより大きい。なお、耐食性に関しては、上記のような希土類元素の添加のみでは十分ではない。
【0030】
(2) 上記のようにAlに希土類元素の少なくとも1種を合計で1.0 〜10.0at%添加するとともに、更に、Cr,Ta,Ti,Mo,V,W,Zr,Hf,Nb,Niの少なくとも1種を合計で0.5 〜5.0at%添加することにより、耐食性を大きく改善できる。また、これらの元素〔Cr,Ta,Ti,Mo,V,W,Zr,Hf,Nb,Ni(以下、Cr〜Nb,Niともいう)〕は、熱伝導率も下げる。しかし、これらの元素(Cr〜Nb,Ni)は溶融温度(液相線温度)を大きく上げ、また、反射率を低下させることから添加量が限られ、5.0at%以下とする必要がある。好ましくは3.0at%以下とする。これらの元素(Cr〜Nb,Ni)の添加量が0.5 at%未満の場合には、耐食性改善効果が少ない。好ましくは1.0at%以上とする。これらの元素の中でもCr,Ta,Ti,Hfを選択することが耐食性の改善効果が特に大きくいことから好ましい。
【0031】
(3) 上記のように(上記(2) に記載のように)Alに希土類元素の少なくとも1種を合計で1.0 〜10.0at%添加するとともにCr〜Nb,Niの少なくとも1種を合計で0.5 〜5.0at%添加し、更に、Fe,Coの少なくとも1種を合計で1.0 〜5.0 at%添加することにより、熱伝導率を低減することができる。これらの元素(Fe,Co)の添加量が1.0 at%未満の場合には、熱伝導率低減の効果が少なく、熱伝導率低減の効果を充分に発揮させるためには、これらの元素(Fe,Co)を1.0 at%以上添加するのがよい。これらの元素(Fe,Co)を添加しすぎると反射率の低下が大きくなることや、スパッタリングターゲットの製造の容易さから、これらの元素(Fe,Co)の添加量は5.0at%以下とするのがよい。
【0032】
(4) 上記のように(上記(2) に記載のように)Alに希土類元素の少なくとも1種を合計で1.0 〜10.0at%添加すると共にCr〜Nb,Niの少なくとも1種を合計で0.5 〜5.0at%添加し、更に、In,Zn,Ge,Cu,Liの少なくとも1種を合計で1.0 〜10.0at%添加することにより、熱伝導率と溶融温度を低減することができる。これらの元素〔In,Zn,Ge,Cu,Li(以下、In〜Liともいう)〕の添加量が1.0 at%未満の場合には、熱伝導率低減の効果および溶融温度低減の効果が少なく、熱伝導率低減の効果および溶融温度低減の効果を充分に発揮させるためには、これらの元素(In〜Li)を1.0 at%以上添加するのがよい。これらの元素(In〜Li)を添加しすぎると反射率の低下が大きくなることから、これらの元素(In〜Li)の添加量は10.0at%以下とするのがよい。
【0033】
(5) 上記のように(上記(2) に記載のように)Alに希土類元素の少なくとも1種を合計で1.0 〜10.0at%添加するとともにCr〜Nb,Niの少なくとも1種を合計で0.5 〜5.0at%添加し、更に、Si,Mgの少なくとも1種を5.0at%以下添加することにより、溶融温度を低減することができる。また、これらの元素(Si,Mg)の中、Siは耐食性の向上効果もある。なお、これらの元素(Si,Mg)は、熱伝導率の低減効果はない。溶融温度低減の効果を十分に発揮させるためには、これらの元素(Si,Mg)を1.0 at%以上添加することが望ましい。添加しすぎると反射率の低下を招くことや、ターゲット製造の容易さから、5.0at%以下とするのが良い。
【0034】
以上のような知見に基づいて本発明は完成されたものであり、前述のような構成の光情報記録用Al合金反射膜、光情報記録媒体および光情報記録用Al合金反射膜の形成用のAl合金スパッタリングターゲットとしている。
【0035】
このようにして完成された本発明に係る光情報記録用Al合金反射膜は、光情報記録媒体に用いられるAl合金反射膜であって、Alを主成分とし、希土類元素の少なくとも1種を1.0 〜10.0at%含有し、更にCr〜Nb,Ni(Cr,Ta,Ti,Mo,V,W,Zr,Hf,Nb,Ni)の少なくとも1種を0.5 〜5.0at%含有することを特徴とする光情報記録用Al合金反射膜である〔第1発明〕。
【0036】
この光情報記録用Al合金反射膜は、前記(1) 〜(2) のことからわかるように、希土類元素の少なくとも1種を合計で1.0 〜10.0at%含有することにより、溶融温度(液相線温度)を上げることなく、熱伝導率を大きく低減でき、更に、Cr〜Nb,Niの少なくとも1種を0.5 〜5.0at%含有することにより、耐食性を大きく改善でき、また、熱伝導率を更に低減できる。
【0037】
従って、本発明に係る光情報記録用Al合金反射膜は、低熱伝導率、低溶融温度、高耐食性を有することができ、レーザーマーキングに良好に対応でき、光情報記録用反射膜として好適に用いることができる。即ち、溶融温度が低いので、レーザーマーキングを容易にすることができ、また、熱伝導率が低いので、レーザーマーキングに際して、レーザー出力が低くてよく(レーザー出力を過大にする必要がなく)、このため過大レーザー出力によるディスク構成材(ポリカーボネイト基板や接着層)の熱ダメージが起こらず、更に、耐食性に優れているので、レーザーマーキング後の恒温恒湿試験での腐食(レーザーマーキングあとの空洞に浸入する水分によるAl合金反射膜の腐食)の発生を防止できる。
【0038】
本発明に係る光情報記録用Al合金反射膜において、希土類元素としてNd及び/又はYを用いた場合、前記(1) のことからわかるように、熱伝導率をより大きく低減することができる〔第2発明〕。
【0039】
本発明に係る光情報記録用Al合金反射膜において、更にFe,Coの少なくとも1種を1.0 〜5.0 at%含有するようにした場合、前記(3) のことからわかるように、熱伝導率をより大きく低減することができる。〔第3発明〕。
【0040】
本発明に係る光情報記録用Al合金反射膜において、更にIn〜Li(In,Zn,Ge,Cu,Li)の少なくとも1種を1.0 〜10.0at%含有するようにした場合、前記(4) のことからわかるように、溶融温度を低減することができ、また、熱伝導率をより大きく低減することができる〔第4発明〕。
【0041】
本発明に係る光情報記録用Al合金反射膜において、更にSi,Mgの少なくとも1種を5.0原子%以下含有するようにした場合、前記(5) のことからわかるように、溶融温度を低減することができる〔第5発明〕。なお、これらの元素(Si,Mg)の中、Siは耐食性を向上させる効果もある。
【0042】
本発明において、光情報記録用Al合金反射膜の膜厚については、30nm〜200nm とすることが望ましい。これは、レーザーによるマーキングは膜厚の薄い方が容易であると考えられるが、膜厚30nm未満と膜が薄い場合には光が透過して、反射率が低下し、一方、膜厚の増加と共に表面平滑性が低下し、光が散乱されやすくなり、膜厚200nm 超の場合には光の散乱が生じやすくなるためである。かかる反射率および光の散乱の抑制の点から、更には膜厚40〜100nm とすることが望ましい。
【0043】
本発明に係る光情報記録媒体は、前述のような本発明に係る光情報記録用Al合金反射膜を有していることとしている〔第6発明〕。この光情報記録媒体は、レーザーマーキングを好適に行うことができる。このため、過大レーザー出力によるディスク構成材(ポリカーボネイト基板や接着層)の熱ダメージがなく、また、Al合金反射膜の耐食性が優れているので、レーザーマーキング後の恒温恒湿試験での腐食(レーザーマーキングあとの空洞に浸入する水分によるAl合金反射膜の腐食)が発生し難く、かかる点において優れた特性を有することができる。
【0044】
本発明に係る光情報記録媒体は、上記のように優れた特性を有することができるので、レーザーマーキング用として特に好適に用いることができる〔第7発明〕。
【0045】
本発明に係るAl合金スパッタリングターゲットは、Alを主成分とし、希土類元素の少なくとも1種を1.0 〜10.0at%含有すると共にCr〜Nb,Ni(Cr,Ta,Ti,Mo,V,W,Zr,Hf,Nb,Ni)の少なくとも1種を0.5 〜5.0at%含有することを特徴とする光情報記録用Al合金反射膜の形成用のAl合金スパッタリングターゲットである〔第8発明〕。このAl合金スパッタリングターゲットによれば、本発明の第1発明に係る光情報記録用Al合金反射膜を形成させることができる。
【0046】
本発明に係るAl合金スパッタリングターゲットにおいて、更にFe,Coの少なくとも1種を1.0 〜5.0 at%含有するようにした場合は、本発明の第3発明に係る光情報記録用Al合金反射膜を形成させることができる〔第9発明〕。
【0047】
本発明に係るAl合金スパッタリングターゲットにおいて、さらにIn〜Li(In,Zn,Ge,Cu,Li)の少なくとも1種を1.0 〜10.0at%含有するようにした場合は、本発明の第4発明に係る光情報記録用Al合金反射膜を形成させることができる〔第10発明〕。
【0048】
本発明に係るAl合金スパッタリングターゲットにおいて、更にSi,Mgの少なくとも1種を5.0at%含有するようにした場合は、本発明の第5発明に係る光情報記録用Al合金反射膜を形成させることができる〔第11発明〕。
【実施例】
【0049】
本発明の実施例および比較例について、以下説明する。なお、本発明はこの実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0050】
〔例1〕
Al-Nd (Ndを含有するAl合金)薄膜、及び、 Al-Y(Yを含有するAl合金)薄膜を作製し、Nd,Yの添加量(含有量)と薄膜の溶融温度、熱伝導率、反射率および BCA(Burst Cutting Area)特性の関係を調べた。
【0051】
上記薄膜は、次のようにして作製した。即ち、DCマグネトロンスパッタにより、ガラス基板(コーニング#1737 ,基板サイズ:直径50mm、厚さ1mm)上に、Al-Nd 薄膜あるいは Al-Y薄膜を作製(成膜)した。このとき、成膜条件は、基板温度:22℃,Arガス圧:2mTorr ,成膜速度:2nm/sec,背圧:< 5×10-6Torrである。スパッタリングターゲットとしては、得ようとするAl合金薄膜と同一組成のAl合金スパッタリングターゲットを用いた。
【0052】
薄膜の溶融温度は、次のようにして測定した。厚さ1μm に成膜したAl合金薄膜(Al-Nd 薄膜、 Al-Y薄膜)を基板より剥離し、約5mg収集したものを示差熱測定器を用いて測定した。このとき、昇温時の溶け終わり温度と降温時の固まり始め温度の平均値を溶融温度とした。熱伝導率については、厚さ100nm で作製したAl合金薄膜の電気抵抗率から換算した。反射率については、厚さ100nm でAl合金薄膜を作製し、現行DVD で使用されている波長650nm と波長405nm における反射率を測定して求めた。
【0053】
BCA特性については、成膜条件は前記と同様であるが、基板には厚さ0.6 mmのPC(ポリカーボネイト)基板を使用し、厚さ70nmのAl合金薄膜を作製して、実験を行った。実験にあたっては、レーザー波長:810nm 、線速度:4m/sec 、レーザーパワー:1.5 Wのレーザー条件で薄膜にレーザーを照射(レーザーマーキング)し、レーザーマーキング部分の開口率で特性を評価した。また、評価には、DVD-ROM 用 BCAコード記録装置POP120-8R (日立コンピューター機器製)を使用した。後記する BCA特性の評価にあたっては、開口率が95%以上のものを◎、開口率が80%以上95%未満のものを○、開口率が50%以上80%未満のものを△、開口率が50%未満のものを×とした。
【0054】
一方、上記Al合金薄膜(Al-Nd 薄膜、 Al-Y薄膜)に対する比較材として、 JIS6061材に相当する組成のAl合金薄膜を上記と同様の方法により作製(成膜)した。このとき、スパッタリングターゲットとしては、JIS6061 材より作製したAl合金ターゲットを用いた。この組成は、Si:0.75重量%(質量%),Fe:0.10重量%,Cu:0.41重量%,Mn:0.07重量%,Mg:1.10重量%,Cr:0.12重量%を含有し、残部がAlおよび不可避的不純物よりなるものである。作製されたAl合金薄膜の組成は、上記Al合金ターゲットの組成と同様である。
【0055】
そして、この JIS6061材に相当する組成のAl合金薄膜について、上記と同様の方法により、溶融温度、電気抵抗率、熱伝導率、反射率および BCA特性を測定した。
【0056】
上記測定(調査)の結果を表1に示す。なお、この表1において、組成の欄におけるAl-Nd 、 Al-YのNd量、Y量はat%(原子%)での値である。即ち、Al-X・Ndは、X at%のNdを含有するAl合金(Al-Nd 合金)薄膜、Al-X・Yは、X at%のYを含有するAl合金(Al-Y合金)薄膜のことである。例えば、Al-1.0Ndは、Ndを1.0 at%含有するAl合金のことである。
【0057】
表1からわかるように、Nd量、Y量の増加とともに熱伝導率が大きく低下している。一方、溶融温度については、Nd量、Y量が増加しても、ほとんど変化しない。また、反射率は、Nd量、Y量の増加とともに緩やかに低下している。
【0058】
熱伝導率に関しては、Nd量、Y量が1.0 at%以上のとき充分良好な値(低い値)となっており、2.0 at%以上のときには更に高水準な良好な値となっている。反射率に関しては、Nd量、Y量が10.0at%以下のとき充分良好な値(高い値)となっている。ただし、この範囲内において7at%超のとき反射率の低下の程度が7at%以下の場合に比べて大きい。
【0059】
これらの結果から、Nd量、Y量の添加量(含有量)は、1.0 〜10.0at%とする必要があり、更に2.0 〜7at%とすることが望ましいことがわかる。
【0060】
〔例2〕
Al-4.0Nd-(Ta,Cr,Ti)薄膜(Ndを4.0 at%含有すると共に、Ta,Cr,Tiの1種以上を含有するAl合金よりなる薄膜)を作製し、Ta,Cr,Tiの添加量と薄膜の溶融温度、熱伝導率、反射率、耐食性および BCA特性の関係を調べた。
【0061】
上記薄膜は次のようにして作製した。即ち、DCマグネトロンスパッタにより、ガラス基板(コーニング#1737 ,基板サイズ:直径50mm、厚さ1mm)上に、Al-4.0Nd-(Ta,Cr,Ti)合金薄膜を作製(成膜)した。このとき、成膜条件は、基板温度:22℃,Arガス圧:2mTorr ,成膜速度:2nm/sec,背圧:< 5×10-6Torrである。スパッタリングターゲットとしては、得ようとするAl合金薄膜と同一組成のAl合金スパッタリングターゲットを用いた。
【0062】
薄膜の溶融温度は、次のようにして測定した。厚さ1μm に成膜したAl合金薄膜〔Al−4.0Nd-(Ta, Cr, Ti)薄膜〕を基板より剥離し、約5mg収集したものを示差熱測定器を用いて測定した。このとき、昇温時の溶け終わり温度と降温時の固まり始め温度の平均値を溶融温度とした。熱伝導率については、厚さ100nm で作製したAl合金薄膜の電気抵抗率から換算した。反射率は、厚さ100nm でAl合金薄膜を作製し、現行DVD で使用されている波長650nm と波長405nm における反射率を測定して求めた。耐食性に関しては、35℃,5%NaCl溶液に浸漬してアノード分極測定し、これより孔食発生電位(電流密度が10μA/cm2 に対応する電位)を求め、これを耐食性の指標とした。なお、この電位は、飽和カロメル電極(SCE )基準の電位、即ち、SCE 電位に対する電位である(以下、同様)。
【0063】
BCA特性については、成膜条件は前記と同様であるが、基板には厚さ0.6 mmのPC(ポリカーボネイト)基板を使用し、厚さ70nmのAl合金薄膜を作製して、実験を行った。実験にあたっては、レーザー波長:810nm 、線速度:4m/sec 、レーザーパワー:1.5 Wのレーザー条件で薄膜にレーザーを照射(レーザーマーキング)し、レーザーマーキング部分の開口率で特性を評価した。また、評価には、DVD-ROM 用 BCAコード記録装置POP120-8R (日立コンピューター機器製)を使用した。後記する BCA特性の評価にあたっては、開口率が95%以上のものを◎、開口率が80%以上95%未満のものを○、開口率が50%以上80%未満のものを△、開口率が50%未満のものを×とした。
【0064】
上記測定(調査)の結果を表2に示す。なお、この表2において、組成の欄におけるAl-4Nd-(Ta,Cr,Ti)のNd量、Ta量、Cr量、Ti量はat%(原子%)での値である。即ち、Al-4Nd-Y・Ta (またはCr,Ti)は、4.0 at%のNdを含有すると共にY at%のTa (またはCr,Ti)を含有するAl合金〔Al-Nd-(Ta, Cr, Ti)合金〕薄膜のことである。例えば、Al-4Nd- 1.0Ta は、Ndを4.0 at%含有すると共にTaを1.0 at%含有するAl合金のことである。
【0065】
表2からわかるように、Ta,Ti,Crとも、その添加量(含有量)の増大と共に孔食発生電位が増大し(貴になり)、耐食性が向上している。Ta,Ti,Crの中で特にTaは耐食性向上の効果が大きい。一方、これらの元素(Ta,Ti,Cr)の添加量の増大とともに溶融温度が上昇し、また、反射率が低下している。
【0066】
耐食性に関しては、Ta量、Ti量、Cr量が0.5 at%以上のとき充分良好な値(高い値)となっており、2.0 at%以上のときには更に高い水準の良好な値となっている。反射率に関しては、Ta量、Ti量、Cr量が5.0at%以下のとき充分良好な値(高い値)となっており、4 .0at%以下のときには更に高い水準の良好な値となっている。溶融温度に関しては、Ta量、Ti量、Cr量が5.0at%以下のとき充分良好な値(低い値)となっており、4 .0at%以下のときには更に高い水準の良好な値となっている。
【0067】
これらの結果から、Ta量、Ti量、Cr量の添加量(含有量)は、0.5 〜5.0at%とする必要があり、更に2.0 〜4.0 at%とすることが望ましいことがわかる。
【0068】
なお、純Alよりなる膜は、表1〜2からわかる如く、熱伝導率が大きくて良好でなく、また、孔食発生電位が低くて(卑であり)耐食性が良好でない。 JIS6061材に相当する組成のAl合金膜については、その孔食発生電位が表に示されていないが、−744mV であり、孔食発生電位が低くて耐食性が良好でない。
【0069】
〔例3〕
Al- 4.0Nd-〔Mo,V,W,Zr,Hf,Nb,Ni(以下、Mo〜Nb,Niともいう)〕薄膜(Ndを4.0 at%含有すると共に、Mo〜Nb,Niの1種以上を含有するAl合金よりなる薄膜)を作製し、Mo〜Nb,Niの添加量と薄膜の溶融温度、熱伝導率、反射率、耐食性および BCA特性の関係を調べた。
【0070】
上記薄膜は次のようにして作製した。即ち、DCマグネトロンスパッタにより、ガラス基板(コーニング#1737 ,基板サイズ:直径50mm、厚さ1mm)上に、Al-4.0Nd-(Mo〜Nb,Ni)合金薄膜を作製(成膜)した。このとき、成膜条件は、基板温度:22℃,Arガス圧:2mTorr ,成膜速度:2nm/sec,背圧:< 5×10-6Torrである。スパッタリングターゲットとしては、得ようとするAl合金薄膜と同一組成のAl合金スパッタリングターゲットを用いた。
【0071】
薄膜の溶融温度は、次のようにして測定した。厚さ1μm に成膜したAl合金薄膜〔Al−4.0Nd-(Mo〜Nb,Ni) 薄膜〕を基板より剥離し、約5mg収集したものを示差熱測定器を用いて測定した。このとき、昇温時の溶け終わり温度と降温時の固まり始め温度の平均値を溶融温度とした。熱伝導率については、厚さ100nm で作製したAl合金薄膜の電気抵抗率から換算した。反射率は、厚さ100nm でAl合金薄膜を作製し、現行DVD で使用されている波長650nm と波長405nm における反射率を測定して求めた。耐食性に関しては、35℃,5%NaCl溶液に浸漬してアノード分極測定し、これより孔食発生電位(電流密度が10μA/cm2 に対応する電位)を求め、これを耐食性の指標とした。
【0072】
BCA特性については、成膜条件は前記と同様であるが、基板には厚さ0.6 mmのPC(ポリカーボネイト)基板を使用し、厚さ70nmのAl合金薄膜を作製して、実験を行った。実験にあたっては、レーザー波長:810nm 、線速度:4m/sec 、レーザーパワー:1.5 Wのレーザー条件で薄膜にレーザーを照射(レーザーマーキング)し、レーザーマーキング部分の開口率で特性を評価した。また、評価には、DVD-ROM 用 BCAコード記録装置POP120-8R (日立コンピューター機器製)を使用した。後記する BCA特性の評価にあたっては、開口率が95%以上のものを◎、開口率が80%以上95%未満のものを○、開口率が50%以上80%未満のものを△、開口率が50%未満のものを×とした。
【0073】
上記測定(調査)の結果を表3〜4に示す。なお、この表3〜4において、組成の欄におけるAl-4Nd-(Mo〜Nb,Ni)のMo〜Nb,Ni量はat%(原子%)での値である。即ち、Al-4Nd-Y・Mo (またはV〜Nb,Niの1種)は、4.0 at%のNdを含有すると共にY at%のMo (またはV〜Nb,Niの1種)を含有するAl合金〔Al-Nd-(Mo〜Nb,Ni) 合金〕薄膜のことである。例えば、Al-4Nd-1.0Moは、Ndを4.0 at%含有すると共にMoを1.0 at%含有するAl合金のことである。
【0074】
表3〜4からわかるように、Mo〜Nb,Ni(Mo,V,W,Zr,Hf,Nb,Ni)はいずれも、その添加量(含有量)の増大と共に孔食発生電位が増大し(貴になり)、耐食性が向上する。一方、これらの元素(Mo〜Nb,Ni)の添加量の増大と共に溶融温度が上昇し、また、反射率が低下する。
【0075】
耐食性に関しては、Mo〜Nb,Niの添加量が0.5 at%以上のとき充分良好な値(高い値)となり、2.0 at%以上のときには更に高い水準の良好な値となる。反射率に関しては、Mo〜Nb,Niの添加量が5.0at%以下のとき充分良好な値(高い値)となり、4 .0at%以下のときには更に高い水準の良好な値となる。溶融温度に関しては、Mo〜Nb,Ni添加量が5.0at%以下のとき充分良好な値(低い値)となり、4 .0at%以下のときには更に高い水準の良好な値となる。
【0076】
これらより、Mo〜Nb,Niの添加量(含有量)は、0.5 〜5.0at%とする必要があり、更に2.0 〜4.0 at%とすることが望ましいことがわかる。
【0077】
〔例4〕
Al-4.0Nd-(Fe,Co)薄膜(Ndを4.0 at%含有すると共に、FeまたはCoを含有するAl合金よりなる薄膜)、及び、Al-4.0Nd-1Ta-(Fe,Co)薄膜(Ndを4.0 at%、Taを1.0at %含有すると共に、FeまたはCoを含有するAl合金よりなる薄膜)を作製し、Fe,Coの添加量と薄膜の溶融温度、熱伝導率、反射率、耐食性および BCA特性を調べた。
【0078】
上記薄膜は次のようにして作製した。即ち、DCマグネトロンスパッタにより、ガラス基板(コーニング#1737 ,基板サイズ:直径50mm、厚さ1mm)上に、Al-4.0Nd-(Fe,Co)合金薄膜や、Al-4.0Nd-1Ta-(Fe,Co)合金薄膜等を作製(成膜)した。このとき、成膜条件は、基板温度:22℃,Arガス圧:2mTorr ,成膜速度:2nm/sec,背圧:< 5×10-6Torrである。スパッタリングターゲットとしては、得ようとするAl合金薄膜と同一組成のAl合金スパッタリングターゲットを用いた。
【0079】
薄膜の溶融温度は、次のようにして測定した。厚さ1μm に成膜したAl合金薄膜〔Al−4.0Nd-(Fe,Co)薄膜、Al-4.0Nd-1Ta-(Fe,Co)薄膜等〕を基板より剥離し、約5mg収集したものを示差熱測定器を用いて測定した。このとき、昇温時の溶け終わり温度と降温時の固まり始め温度の平均値を溶融温度とした。熱伝導率については、厚さ100nm で作製したAl合金薄膜の電気抵抗率から換算した。反射率は、厚さ100nm でAl合金薄膜を作製し、現行DVD で使用されている波長650nm と波長405nm での反射率を測定して求めた。耐食性に関しては、35℃,5%NaCl溶液に浸漬してアノード分極測定し、これより孔食発生電位(電流密度が10μA/cm2 に対応する電位)を求め、これを耐食性の指標とした。
【0080】
BCA特性については、成膜条件は前記と同様であるが、基板には厚さ0.6 mmのPC(ポリカーボネイト)基板を使用し、厚さ70nmのAl合金薄膜を作製して、実験を行った。実験にあたっては、レーザー波長:810nm 、線速度:4m/sec 、レーザーパワー:1.5 Wのレーザー条件で薄膜にレーザーを照射(レーザーマーキング)し、レーザーマーキング部分の開口率で特性を評価した。また、評価には、DVD-ROM 用 BCAコード記録装置POP120-8R (日立コンピューター機器製)を使用した。後記する BCA特性の評価にあたっては、開口率が95%以上のものを◎、開口率が80%以上95%未満のものを○、開口率が50%以上80%未満のものを△、開口率が50%未満のものを×とした。
【0081】
上記測定(調査)の結果を表5に示す。なお、この表5において、組成の欄におけるAl-4Nd-1Ta-(Fe,Co)のFe,Co量はat%での値である。即ち、Al-4Nd-1Ta-Z・Fe (又はCo)は、4.0 at%のNd及び1.0 at%のTaを含有すると共にZ at%のFe (又はCo)を含有するAl合金〔Al-Nd-Ta-(Fe,Co) 合金〕薄膜のことである。例えば、Al-4Nd-1Ta-3.0Feは、Ndを4.0 at%、Taを1.0 at%含有すると共にFeを3.0 at%含有するAl合金のことである。
【0082】
表5からわかるように、Fe,Coは、いずれも、熱伝導率を下げる効果がある。Fe,Coには耐食性向上の効果はない。
【0083】
Fe,Coの添加量が1.0 at%未満の場合には、熱伝導率低減の効果が少ない。Fe,Coの添加量が5.0at%を超えると反射率の低下が大きくなる。これらより、Fe,Coの添加量は、1.0 〜5.0at%とするのがよいことがわかる。
【0084】
〔例5〕
Al- 4.0Nd-〔In〜Li(In,Zn,Ge,Cu,Li)〕薄膜(Ndを4.0 at%含有すると共に、In〜Liの1種以上を含有するAl合金よりなる薄膜)、及び、Al-4.0Nd- 1Ta-〔In〜Li(In,Zn,Ge,Cu,Li)〕薄膜(Ndを4.0 at%、Taを1.0at %含有すると共に、In〜Liの1種以上を含有するAl合金よりなる薄膜)を作製し、In〜Liの添加量と薄膜の溶融温度、熱伝導率、反射率、耐食性および BCA特性の関係を調べた。
【0085】
上記薄膜は次のようにして作製した。即ち、DCマグネトロンスパッタにより、ガラス基板(コーニング#1737 ,基板サイズ:直径50mm、厚さ1mm)上に、Al-4.0Nd-(In〜Li)合金薄膜や、Al-4.0Nd-1Ta-(In〜Li)合金薄膜等を作製(成膜)した。このとき、成膜条件は、基板温度:22℃,Arガス圧:2mTorr ,成膜速度:2nm/sec,背圧:< 5×10-6Torrである。スパッタリングターゲットとしては、得ようとするAl合金薄膜と同一組成のAl合金スパッタリングターゲットを用いた。
【0086】
薄膜の溶融温度は、次のようにして測定した。厚さ1μm に成膜したAl合金薄膜〔Al−4.0Nd-(In〜Li) 薄膜、Al-4.0Nd-1Ta-(In〜Li) 薄膜等〕を基板より剥離し、約5mg収集したものを示差熱測定器を用いて測定した。このとき、昇温時の溶け終わり温度と降温時の固まり始め温度の平均値を溶融温度とした。熱伝導率については、厚さ100nm で作製したAl合金薄膜の電気抵抗率から換算した。反射率は、厚さ100nm でAl合金薄膜を作製し、現行DVD で使用されている波長650nm と波長405nm での反射率を測定して求めた。耐食性に関しては、35℃,5%NaCl溶液に浸漬してアノード分極測定し、これより孔食発生電位(電流密度が10μA/cm2 に対応する電位)を求め、これを耐食性の指標とした。
【0087】
BCA特性については、成膜条件は前記と同様であるが、基板には厚さ0.6 mmのPC(ポリカーボネイト)基板を使用し、厚さ70nmのAl合金薄膜を作製して、実験を行った。実験にあたっては、レーザー波長:810nm 、線速度:4m/sec 、レーザーパワー:1.5 Wのレーザー条件で薄膜にレーザーを照射(レーザーマーキング)し、レーザーマーキング部分の開口率で特性を評価した。また、評価には、DVD-ROM 用 BCAコード記録装置POP120-8R (日立コンピューター機器製)を使用した。後記する BCA特性の評価にあたっては、開口率が95%以上のものを◎、開口率が80%以上95%未満のものを○、開口率が50%以上80%未満のものを△、開口率が50%未満のものを×とした。
【0088】
上記測定(調査)の結果を表6に示す。なお、この表6において、組成の欄におけるAl-4Nd-1Ta-(In〜Li)のIn〜Li量はat%(原子%)での値である。即ち、Al-4Nd-1Ta-Z・In (またはZn,Ge,Cu,Liの1種)は、4.0 at%のNd及び1.0 at%のTaを含有すると共にZ at%のIn (またはZn,Ge,Cu,Liの1種)を含有するAl合金〔Al-Nd-Ta-(In〜Li) 合金〕薄膜のことである。例えば、Al-4Nd-1Ta-3.0Inは、Ndを4.0 at%、Taを1.0 at%含有すると共にInを3.0 at%含有するAl合金のことである。
【0089】
表6からわかるように、In〜Li(In,Zn,Ge,Cu,Li)は、いずれも、溶融温度を下げると共に、熱伝導率を下げる効果がある。In〜Liの中で特にIn,Geは熱伝導率を下げる効果が大きく、この点でIn,Geの添加が好ましい。In〜Liには耐食性向上の効果はない。
【0090】
In〜Liの添加量が1.0 at%未満の場合には、熱伝導率低減の効果および溶融温度低減の効果が少ない。In〜Liの添加量が10.0at%を超えると、反射率の低下が大きくなる。これらより、In〜Liの添加量は、1.0 〜10.0at%とするのがよいことがわかる。
【0091】
〔例6〕
Al-4.0Nd-2.0Ta-(Si,Mg)薄膜(Ndを4.0 at%、Taを2.0 at%含有すると共に、Si,Mgの1種以上を含有するAl合金よりなる薄膜)を作製し、Si,Mg添加量と薄膜の溶融温度、熱伝導率、反射率、耐食性および BCA特性の関係を調べた。
【0092】
上記薄膜は、次のようにして作製した。即ち、DCマグネトロンスパッタにより、ガラス基板(コーニング#1737 ,基板サイズ:直径50mm、厚さ1mm)上に、Al-4.0Nd-2.0Ta-(Si,Mg)合金薄膜を作製(成膜)した。このとき、成膜条件は、基板温度:22℃,Arガス圧:2mTorr ,成膜速度:2nm/sec,背圧:< 5×10-6Torrである。スパッタリングターゲットとしては、得ようとするAl合金薄膜と同一組成のAl合金スパッタリングターゲットを用いた。
【0093】
薄膜の溶融温度は次のようにして測定した。厚さ1μm に成膜したAl合金薄膜〔Al-4.0Nd-2.0Ta-(Si, Mg) 薄膜〕を基板より剥離し、約5mg収集したものを示差熱測定器を用いて測定した。このとき、昇温時の溶け終わり温度と降温時の固まり始め温度の平均値を溶融温度とした。熱伝導率については、厚さ100nm で作製したAl合金薄膜の電気抵抗率から換算した。反射率は、厚さ100nm でAl合金薄膜を作製し、現行DVD で使用されている波長650nm と波長405nm における反射率を測定して求めた。耐食性に関しては、35℃,5%NaCl溶液に浸漬してアノード分極測定し、これより孔食発生電位(電流密度10μA/cm2 に対応する電位)を求め、これを耐食性の指標とした。
【0094】
BCA特性については、成膜条件は前記と同様であるが、基板には厚さ0.6 mmのPC(ポリカーボネイト)基板を使用し、厚さ70nmのAl合金薄膜を作製して、実験を行った。実験にあたっては、レーザー波長:810nm 、線速度:4m/sec 、レーザーパワー:1.5 Wのレーザー条件で薄膜にレーザーを照射(レーザーマーキング)し、レーザーマーキング部分の開口率で特性を評価した。また、評価には、DVD-ROM 用 BCAコード記録装置POP120-8R (日立コンピューター機器製)を使用した。後記する BCA特性の評価にあたっては、開口率が95%以上のものを◎、開口率が80%以上95%未満のものを○、開口率が50%以上80%未満のものを△、開口率が50%未満のものを×とした。
【0095】
上記測定(調査)の結果を表7に示す。なお、この表7において、組成の欄におけるAl-4Nd-2.0Ta-(Si, Mg) のNd量、Ta量、Si量、Mg量はat%(原子%)での値である。即ち、Al-4Nd-2.0Ta-Z・Si (又はMg)は、4.0 at%のNdおよび2.0 at%のTaを含有すると共にZ at%のSi (又はMg)を含有するAl合金〔Al-Nd-Ta-(Si, Mg) 合金〕薄膜のことである。例えば、Al-4Nd-2.0Ta-5.0Siは、Ndを4.0 at%、Taを2.0 at%含有すると共にSiを5.0 at%含有するAl合金のことである。
【0096】
表7からわかるように、Si,Mgの添加量の増大とともに、溶融温度が低減している。また、Siを添加する(含有させる)ことにより、孔食発生電位が大きく上昇し、耐食性が向上している。なお、Al-2.0Si(比較例)は、Siのみを添加したものであり、孔食発生電位の上昇は認められない。Si,Mgとも熱伝導率の低減効果はあるが、その程度は低い。
【0097】
【表1】

【0098】
【表2】

【0099】
【表3】

【0100】
【表4】

【0101】
【表5】

【0102】
【表6】

【0103】
【表7】

【0104】
なお、以上の例においては、希土類元素としてはNd又はYを添加したが、Nd,Y以外の希土類元素を添加した場合も、以上の例の場合と同様の傾向の結果が得られる。また、以上の例においては、希土類元素はそのいずれかを添加(単独添加)し、Cr〜Nb,Ni(Cr,Ta,Ti,Mo,V,W,Zr,Hf,Nb,Ni)はそのいずれかを添加(単独添加)したが、希土類元素の2種以上を添加(複合添加)し、Cr〜Nb,Niの2種以上を添加(複合添加)した場合も、以上の例の場合と同様の傾向の結果が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明に係る光情報記録用Al合金反射膜は、低熱伝導率、低溶融温度、高耐食性を有するので、これらの特性を必要とする光情報記録用反射膜として好適に用いることができ、特には、レーザーマーキングを要する光情報記録媒体用の反射膜として好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0106】
【図1】再生専用光ディスクの断面構造を示す模式図である。
【符号の説明】
【0107】
1--ポリカーボネイト基体、2--半透明反射層(Au,Ag合金,Si)、3--接着層、
4--全反射膜層(Al合金)、5--UV硬化樹脂保護層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光情報記録媒体に用いられるAl合金反射膜であって、Alを主成分とし、希土類元素の少なくとも1種を1.0 〜10.0原子%含有し、更にCr,Ta,Ti,Mo,V,W,Zr,Hf,Nb,Niの少なくとも1種を0.5 〜5.0原子%含有することを特徴とする光情報記録用Al合金反射膜。
【請求項2】
前記希土類元素がNd及び/又はYである請求項1記載の光情報記録用Al合金反射膜。
【請求項3】
Fe,Coの少なくとも1種を1.0 〜5.0 原子%含有する請求項1または2記載の光情報記録用Al合金反射膜。
【請求項4】
In,Zn,Ge,Cu,Liの少なくとも1種を1.0 〜10.0原子%含有する請求項1〜3のいずれかに記載の光情報記録用Al合金反射膜。
【請求項5】
Si,Mgの少なくとも1種を5.0原子%以下含有する請求項1〜4のいずれかに記載の光情報記録用Al合金反射膜。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のAl合金反射膜を有していることを特徴とする光情報記録媒体。
【請求項7】
レーザーマーキング用である請求項6記載の光情報記録媒体。
【請求項8】
Alを主成分とし、希土類元素の少なくとも1種を1.0 〜10.0原子%含有すると共にCr,Ta,Ti,Mo,V,W,Zr,Hf,Nb,Niの少なくとも1種を0.5 〜5.0原子%含有することを特徴とする光情報記録用Al合金反射膜の形成用のAl合金スパッタリングターゲット。
【請求項9】
Fe,Coの少なくとも1種を1.0 〜5.0 原子%含有する請求項8記載の光情報記録用Al合金反射膜の形成用のAl合金スパッタリングターゲット。
【請求項10】
In,Zn,Ge,Cu,Liの少なくとも1種を1.0 〜10.0原子%含有する請求項8または9記載の光情報記録用Al合金反射膜の形成用のAl合金スパッタリングターゲット。
【請求項11】
Si,Mgの少なくとも1種を5.0原子%以下含有する請求項8〜10のいずれかに記載の光情報記録用Al合金反射膜の形成用のAl合金スパッタリングターゲット。

【図1】
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【公開番号】特開2009−87527(P2009−87527A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−269836(P2008−269836)
【出願日】平成20年10月20日(2008.10.20)
【分割の表示】特願2004−307129(P2004−307129)の分割
【原出願日】平成16年10月21日(2004.10.21)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】