説明

光硬化性液状樹脂組成物およびインクジェット光造形法による支持体の製造方法

【課題】硬化物の水に対する溶解性が良好で、特にインクジェット光造形法による支持体の形成用材料として有用な光硬化性液状樹脂組成物を提供する。
【解決手段】組成物の全量100質量%に対して、(A)(メタ)アクリロイル基を1つ有する(メタ)アクリルアミド15〜99質量%、(B)連鎖移動剤0.1〜5質量%、(C)光重合開始剤0.5〜10質量%、を含有する光硬化性液状樹脂組成物。(A)成分は、例えば、N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N−ジエチル(メタ)アクリルアミド、N−ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミドから選択される一種以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光造形用樹脂組成物、特にインクジェット方式の光造形法により立体造形物の支持体部分を造形するために好適な光造形用樹脂組成物、該光造形用樹脂により製造された支持体、および該光造形用樹脂を用いた支持体の造形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光硬化性液状樹脂組成物にレーザー光や紫外線ランプ等により紫外線ないし近紫外線等の光を照射して一定のパターンに硬化させた薄層を形成し、さらにその薄層の上に新たな光硬化性液状樹脂組成物を供給して上記工程を繰り返すことにより所望の立体形状を有する硬化物を造形する光造形法が広く知られている(特許文献1〜4)。このような光造形法としては、薄膜上に塗布した光硬化性液状樹脂組成物にレーザー光を一定のパターンで走査して該薄膜の一部を所望のパターンに硬化させて硬化薄膜を形成する方法、レーザー光ではなく紫外線ランプ等の光を所定の形状パターンのマスクを介して照射することにより光硬化性液状樹脂組成物を硬化させて硬化薄膜を調整する方法などが多用されてきたが、近年、インクジェット方式により光硬化性液状樹脂組成物の微小液滴をノズルから所定の形状パターンを描画するよう吐出してから紫外線を照射して硬化薄膜を形成する方式が報告されている(特許文献5、6)。
インクジェット方式による光造形法(以下、「インクジェット光造形法」という。)は、従来法に較べて光硬化性液状樹脂組成物を大量に貯留する大型の樹脂液槽が不要であるため比較的小型の造形装置とすることができる等の利点があり、CAD(Computer Aided Design)データに基づき簡便に3次元の立体造形物を得るいわゆる3次元プリンター(3Dプリンター)の用途も期待されている。インクジェット光造形法に用いられる光硬化性液状樹脂組成物としては、従来の光造形法に用いられる樹脂組成物と異なり、精細なノズルからスムーズに吐出する必要があるため、低粘度の樹脂組成物であることが要請される。
インクジェット光造形法に限らず、複雑な形状の立体造形物を形成する場合には、該造形物の底部に造形物を一時的に支持して硬化前に造形物が自重等により変形することを防止するための構造体である支持体(サポートともいう。)を形成することが多い(特許文献7、8)。支持体は立体造形物が形成された後には物理的に剥離等の手段により又は適当な溶媒により溶解させる等の手段により除去される。
【0003】
【特許文献1】特開昭60−247515号公報
【特許文献2】特開昭62−35966号公報
【特許文献3】特開昭62−101408号公報
【特許文献4】特開平5−24119号公報
【特許文献5】特開2002−067174号公報
【特許文献6】特開2003−299679号公報
【特許文献7】特開2004−255839号公報
【特許文献8】特開2002−178412号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来は目的とする立体造形物と同一の光硬化性液状樹脂組成物を用いて支持体形成用に流用する場合や立体造形物用と支持体用に別個の光硬化性液状樹脂組成物を用いる場合であっても、支持体の除去容易性に着目した支持体形成用材料が用いられていなかったため、光造形後に支持体だけを立体造形物から容易に切り離して除去することは困難であった。
従って、本発明の目的は、インクジェット光造形法に好適な低い粘度を有し、かつ、光造形後に、水系溶媒に溶解することにより容易に除去することができる、インクジェット光造形法による支持体形成用の光硬化性光硬化性液状樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、前記特性を有する組成物を得るべく種々検討した結果、特定のアクリルアミド系化合物と連鎖移動剤を配合して組成物を構成することにより、光硬化性が良好でありながら、水に溶解し易く、弱い力を加えるだけで容易に除去することができる支持体が得られることから、この本発明の組成物がインクジェット光造形法による支持体形成用材料として好適であることを見いだし、本発明を完成した。
【0006】
すなわち、本発明は、光硬化性液状樹脂組成物をインクジェット方式により射出する光造形法において立体造形物の支持体を造形するために使用される光硬化性液状樹脂組成物であって、組成物全量100質量%に対して、(A)(メタ)アクリロイル基を1つ有する(メタ)アクリルアミド15〜99質量%、(B)連鎖移動剤0.1〜5質量%、および(C)光重合開始剤0.5〜10質量%、を含有する光硬化性液状樹脂組成物を提供するものである。
また、本発明は、当該光硬化性液状樹脂組成物を硬化して得られる支持体、及びこの支持体の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明の光硬化性液状樹脂組成物は、光硬化性が良好であり、硬化物の水に対する溶解性が良好であり、かつ、硬化物からなる支持体に弱い外力を加えることにより容易に支持体を除去することが可能である。従って、本発明の組成物は、インクジェット光造形法による支持体形成用材料として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
[光硬化性液状樹脂組成物]
本発明の光硬化性液状樹脂組成物に用いられる成分(A)である、ビニル基を1つ有するアクリルアミド系化合物は、(メタ)アクリルアミドおよびそのN−置換体であれば特に限定されない。成分(A)は、光照射により重合して組成物を硬化することができることに加えて、硬化物の水溶性を改善する。
【0009】
成分(A)の具体例としては、(メタ)アクリルアミドの他、そのN−置換体として、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N−プロピル(メタ)アクリルアミド、N−ブチル(メタ)アクリルアミド、N,N’−ジメチル(メタ)アクリルアミド(DMAAともいう。)、N,N’−ジエチル(メタ)アクリルアミド等の炭素数1〜4のアルキル基を有するN−アルキル(メタ)アクリルアミド、N−ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド(HEAAともいう。)、N−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリルアミド、N−ヒドロキシブチル(メタ)アクリルアミド等の炭素数2〜4のアルキル基を有するN−ヒドロキシアルキル(メタ)アクリルアミド等を挙げることができる。N−アルキル(メタ)アクリルアミドは、硬化物の水溶性を改善する特性に特に優れており、N−ヒドロキシアルキル(メタ)アクリルアミドは、光硬化性に特に優れている。これらの中では、N−ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミドがさらに好ましい。成分(A)の市販品としては、HEAA(株式会社興人製)、DMAA等(株式会社興人製)が挙げられる。
【0010】
成分(A)は、本発明の光硬化性液状樹脂組成物中に、組成物全量100質量%に対して、好ましくは15〜99質量%、さらに好ましくは30〜97質量%、特に好ましくは35〜95質量%配合することが好ましい。成分(A)の配合量が上記範囲内であると、十分な光硬化性が得られ、硬化物の水溶性が良好となる。
【0011】
本発明の光硬化性液状樹脂組成物に用いられる成分(B)は、連鎖移動剤であり、ラジカル反応の連鎖移動剤として機能する化合物であれば特に限定されない。成分(B)を配合することにより、組成物に光を照射して光硬化させるときに、硬化物の分子量が過大になるのを抑制して、硬化物の水溶性が改善される。
成分(B)の好ましい具体例としては、2−メルカプトベンゾチアゾール、γ−メルカプトキシプロピルトリメトキシシラン等のチオール化合物、2,4−ジフェニル−4−メチル−ペンテン等を挙げることができる。
成分(B)は、本発明の光硬化性液状樹脂組成物中に、組成物全量100質量%に対して、好ましくは0.1〜5質量%、さらに好ましくは0.2〜4質量%、特に好ましくは0.3〜3質量%配合することが好ましい。成分(B)の配合量が上記範囲内であると、硬化物の水溶性が良好となる。
【0012】
本発明の光硬化性液状樹脂組成物の成分(C)は、光重合開始剤である。成分(C)は、紫外線、近紫外線又は可視光領域の波長の光を照射するとラジカル反応を促進する化合物であれば特に限定されない。
【0013】
成分(C)の具体例としては、例えば1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、キサントン、フルオレノン、ベンズアルデヒド、フルオレン、アントラキノン、トリフェニルアミン、カルバゾール、3−メチルアセトフェノン、4−クロロベンゾフェノン、4,4’−ジメトキシベンゾフェノン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、ミヒラーケトン、ベンゾインプロピルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンジルジメチルケタール、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、チオキサントン、ジエチルチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、2−メチル−1−〔4−(メチルチオ)フェニル〕−2−モルホリノ−プロパン−1−オン、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルフォフフィンオキシド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド等が挙げられる。成分(C)の市販品名としては、IRGACURE184、369、651、500、819、907、CGI1700、CGI1750、CGI1850、CG24−61、DAROCUR1116、1173(以上、チバスペシャルティケミカルズ社製);LUCIRIN TPO(BASF社製);ユベクリルP36(UCB社製)等が挙げられる。
【0014】
成分(C)は、本発明の光硬化性液状樹脂組成物中に、組成物全量100質量%に対して、好ましくは0.5〜10質量%、より好ましくは1.5〜9質量%、特に好ましくは3〜8質量%配合することが好ましい。成分(C)の配合量が上記範囲であると、光硬化性が良好となる。
【0015】
本発明の光硬化性液状樹脂組成物には、発明の効果を妨げない範囲で成分(D)である(メタ)アクリレート系化合物を配合することができる。成分(D)は、成分(A)以外の(メタ)アクリロイル基を有する化合物であって、(メタ)アクリロイル基を1個有する化合物(以下、「単官能(メタ)アクリレート系化合物」という。)と(メタ)アクリロイル基を2個以上有する化合物(以下、「多官能(メタ)アクリレート系化合物」という。)がある。成分(D)を配合することにより、光硬化性を改善することができる。
【0016】
単官能(メタ)アクリレート系化合物の具体例としては、高い極性を有する単官能(メタ)アクリレート系化合物が好ましく、好ましい具体例としては、N−ビニルピロリドン、N−ビニルカプロラクタム等のビニル基含有ラクタム、アクリロイルモルフォリン、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
【0017】
多官能(メタ)アクリレート系化合物の具体例としては、脂肪族ポリエーテル構造又は脂肪族ポリエステル構造を有する多官能(メタ)アクリレート系化合物が好ましく、好ましい具体例としては、ポリエチレングリコールのジアクリレート、ポリテトラメチレングリコールのジアクリレート、ポリプロピレングリコールのジアクリレート、ポリエステルジオールのジアクリレート等が挙げられる。また、脂肪族ポリエーテル構造又は脂肪族ポリエステル構造を有するウレタン(メタ)アクリレートも好適に用いられる。
これらの多官能(メタ)アクリレート系化合物が有する脂肪族ポリエーテル構造又は脂肪族ポリエステル構造の分子量は、好ましくは600〜2000であり、さらに好ましくは800〜1500である。
【0018】
成分(D)は、本発明の光硬化性液状樹脂組成物中に、組成物全量100質量%に対して、好ましくは0〜20質量%、さらに好ましくは5〜15質量%配合することが好ましい。成分(D)の配合量が上記範囲内であると、光硬化性が良好となる。
【0019】
本発明の光硬化性液状樹脂組成物には、発明の効果を妨げない範囲で成分(E)である非硬化性の水溶性化合物を配合することができる。成分(E)は、ビニル基、(メタ)アクリロイル基等の硬化性の官能基を有しない化合物であって、水溶性の化合物であれば特に限定されない。成分(E)の好ましい具体例としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等の多価アルコールが挙げられる。成分(E)の分子量は、好ましくは500以下であり、より好ましくは50〜200であり、特に好ましくは60〜100である。分子量がこの範囲内であると、組成物の粘度を過度に増加させることなく、支持体を小さな外力で容易に剥離することができる。
【0020】
成分(E)は、本発明の光硬化性液状樹脂組成物中に、組成物全量100質量%に対して、好ましくは0〜60質量%、さらに好ましくは10〜55質量%、特に好ましくは20〜50質量%配合することが好ましい。成分(E)の配合量が上記範囲であると、光硬化性が良好となる。
【0021】
また、上記成分以外に各種添加剤、例えば酸化防止剤、着色剤、紫外線吸収剤、光安定剤、レベリング剤、界面活性剤、保存安定剤、可塑剤、老化防止剤、濡れ性改良剤、塗面改良剤等を必要に応じて配合することができる。
ここで、酸化防止剤としては、例えばIRGANOX1010、1035、1076、1222(以上、チバスペシャルティケミカルズ社製)、ANTIGENE P、3C、Sumilizer GA−80、GP(住友化学工業社製)等が挙げられる。紫外線吸収剤としては、例えばTINUVIN P、234、320、326、327、328、329、213(以上、チバスペシャルティケミカルズ社製)、Seesorb102、103、501、202、712、704(以上、シプロ化成社製)等が挙げられる。光安定剤としては、例えばTINUVIN 292、144、622LD(以上、チバスペシャルティケミカルズ社製)、サノールLS770(三共社製)、TM−061(住友化学工業社製)等が挙げられる。
【0022】
さらに、上記成分以外に無機又は有機のフィラーや粒子を配合することもできる。ただし、インクジェットノズルに詰まることを避けるため、そのサイズ又は一次粒径はノズルの直径よりも十分に小さいサイズであることが必要である。また、一次粒径がノズルの直径よりも小さい場合であっても、凝集した二次粒径がノズルの直径を超えるとノズルのつまりを生じる可能性がある。このため、フィラーや粒子は配合しないことが最も好ましく、配合する場合であってもその配合量は、組成物全量100質量%に対して、40質量%以下にすることが好ましい。
なお、本発明の光硬化性液状樹脂組成物は、光によって硬化されるが、ここで光とは、遠赤外線、赤外線、可視光線、近紫外線、紫外線等であるが、特に近紫外線又は紫外線が好ましい。
本発明の光硬化性液状樹脂組成物の粘度は、インクジェットノズルからの吐出性の点から80℃以下において5〜20mPa・sが好ましい。
本発明の光硬化性液状樹脂組成物の硬化物のヤング率は、0.5〜300MPa、さらに1.0〜200MPaであることが好ましい。
【0023】
[インクジェット光造形法、支持体および支持体の製造方法]
インクジェット光造形法は、インクジェット方式により光硬化性液状樹脂組成物の微小液滴をノズルから所定の形状パターンを描画するよう吐出してから紫外線を照射して硬化薄膜を形成する方式の光造形法である。具体的には、インクジェット光造形法に用いる光造形装置は、目的とする立体造形物を光造形するための平面ステージと、平面ステージに対して少なくとも平行な平面上に移動可能なインクジェットノズルを少なくとも1個と、光硬化性液状樹脂組成物の硬化光を照射するための光源とを有している。CADデータ等に基づいて目的とする立体造形物の形状を複数の断面形状に分割した断面形状データに応じてた所望のパターンでインクジェットノズルから光硬化性液状樹脂組成物を吐出して同組成物からなる樹脂薄層(光硬化性液状樹脂組成物層)を形成した後、光源から硬化光を照射して該樹脂薄層を硬化させる。次いで、該硬化させた樹脂薄層の上に、次の断面形状に応じてインクジェットノズルから光硬化性液状樹脂組成物を供給する。以上を繰り返すことにより、各断面形状に相当する樹脂硬化層を積層して、目的とする立体造形物および支持体を形成する。支持体は、通常、平面ステージと立体造形物との間に形成させる。支持体を形成するときには支持体形成用の光硬化性液状樹脂組成物をインクジェットノズルから供給し、立体造形物を形成するときには立体造形物形成用の光硬化性液状樹脂組成物をインクジェットノズルから供給する。支持体形成用の光硬化性液状樹脂組成物と立体造形物形成用の光硬化性液状樹脂組成物とを同一のインクジェットノズルから吐出してもよいし、別個のインクジェットノズルから吐出してもよい。
【0024】
支持体の形状は任意であるが、硬化歪みの低減等の理由から微細な柱状構造の集合体等の形状が採用される場合が多い。本発明の支持体形成用の光硬化性液状樹脂組成物を用いることにより水に対する溶解性に優れる支持体を得ることができるので、立体造形物の任意の外表面に接して多数の支持体を設けることも可能である。このように多数の支持体を設けることにより、立体造形物が光造形直後に自重等により変形することを防止することができる。これらの支持体は、支持体および立体造形物を光造形した後に、支持体部分に外力をかけて立体造形物から剥離・除去するか、水その他の適当な溶媒に浸漬して支持体を溶解除去する。
【実施例】
【0025】
以下に本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0026】
[合成例1:ウレタンアクリレートの合成]
撹拌機を備えた反応容器に、2,4−トリレンジイソシアネート28.59g、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール0.021g、ジブチル錫ジラウレート0.072gおよびフェノチアジン0.007gを仕込み、これらを撹拌しながら液温度が10℃以下になるまで氷冷した。数平均分子量2000のプロピレンオキサイドの開環重合体26450gを加え、液温が35℃以下になるように制御しながら2時間攪拌して反応させた。次に、2−ヒドロキシプロピルアクリレート9.70gを滴下し、さらに、ヒドロキシエチルアクリレート24.74gを滴下して、液温度70〜75℃にて3時間撹拌を継続させ、残留イソシアネートが0.1質量%以下になった時を反応終了とした。得られたウレタンアクリレートを「ウレタンアクリレート1」とする。
【0027】
実施例1〜9、比較例1〜2
表1に示す組成の光硬化性液状樹脂組成物を製造し、下記の方法に従い、粘度、ヤング率、光硬化性、硬化物の除去容易性、硬化物の水に対する溶解性を測定した。表中の配合量は、質量部である。
【0028】
(1)粘度測定方法:
実施例及び比較例で得られた組成物の80℃における粘度を、粘度計TV−10形(東機産業(株)製)を用いて測定した。
(2)ヤング率:
実施例及び比較例で得られた組成物の硬化後のヤング率を測定した。354μm厚のアプリケーターバーを用いてガラス板上に光硬化性液状樹脂組成物を塗布し、これを空気中で1J/cmのエネルギーの紫外線を照射し硬化させ試験用フィルムを得た。この硬化フィルムから延伸部が幅6mm、長さ25mmとなるように短冊状サンプルを作成した。温度23℃、湿度50%下で、引張り試験機AGS−1KND(島津製作所(株)製)を用い、JIS K7127に準拠して引張試験を行った。引張速度は1mm/minで2.5%歪みでの抗張力からヤング率を求めた。
【0029】
(3)光硬化性
ヤング率評価の場合と同様にして試験用フィルムを調製した。この試験用フィルムを指触し、ベタツキの有無を確認した。ベタツキがない場合を「◎」、ややベタツキがある場合を「○」と判定した。
(4)硬化物の除去容易性
ヤング率評価の場合と同様にして試験用フィルムを調製した。この試験用フィルムに指を押しつけてこすることにより、膜の硬さを判断した。試験用フィルムが容易にガラス板から完全に剥離する場合を「◎」、やや硬いがガラス板から完全に剥離する場合を「○」、ガラス版から剥離するが硬化フィルムの一部がガラス板に残る場合を「△」、硬化フィルムをガラス板から剥離できない場合を「×」と判定した。
【0030】
(5)硬化物の水に対する溶解性
板形状の金型の表面を横断して幅300μm、深さ150μmの矩形断面を有する直線上の溝を設け、その溝中に実施例及び比較例で得られた組成物を充填した後、該溝の上を厚さ100μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムで覆い、該PETフィルムを介して1J/cmのエネルギーの紫外線を照射して組成物を硬化させて評価用試料を作成した。得られた評価用試料をすい水中に浸漬し、水を1時間攪拌した後、組成物を充填した溝の端面から硬化物に水が染み込んだ距離を光学顕微鏡にて測定した。水が染みこんだ距離が5mm以上の場合を「◎」、3mm以上の場合を「○」、1mm以上の場合を「△」、1mm未満の場合を「×」と判定した。
【0031】
【表1】

【0032】
表1中、「−」は評価を行っていない。実施例9および比較例1では、硬化フィルムが柔らかく脆いため、ヤング率を測定することができなかった。
表1中に略称等で表したものの化合物名等は、次のとおりである。
HEAA:N−ヒドロキシエチルアクリルアミド(株式会社興人)
DMAA:N,N’−ジメチルアクリルアミド(株式会社興人社製)
Irgacure819:ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド(チバ・スペシャルティケミカルズ社製)
Irgacure184:1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(チバ・スペシャルティケミカルズ社製)
SR−740A:ポリエチレングリコール(分子量1000)のジアクリレート(サートマー社製)
【0033】
表1から明らかなように、本発明の組成物は、光硬化性に優れ、硬化物が柔らかく脆く、水に対して溶解しやすい。このため、本発明の組成物はインクジェット光造形法で支持体を形成するために好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光硬化性液状樹脂組成物をインクジェット方式により射出する光造形法において立体造形物の支持体を造形するために使用される光硬化性液状樹脂組成物であって、組成物全量100質量%に対して、下記成分(A)、(B)および(C)を含有する光硬化性液状樹脂組成物。
(A)ビニル基を1つ有するアクリルアミド系化合物 15〜99質量%、
(B)連鎖移動剤 0.1〜5質量%、
(C)光重合開始剤 0.5〜10質量%
【請求項2】
(A)成分が、N−ジアルキル(メタ)アクリルアミド又はN−ヒドロキシアルキル(メタ)アクリルアミドを含む、請求項1に記載の光硬化性液状樹脂組成物。
【請求項3】
(A)成分が、N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N−ジエチル(メタ)アクリルアミド、N−ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミドから選択される一種以上を含む、請求項2に記載の光硬化性液状樹脂組成物。
【請求項4】
組成物の全量100質量%に対して、
(D)2つ以上の(メタ)アクリロイル基および脂肪族ポリエーテル若しくは脂肪族ポリエステル構造を有する(メタ)アクリレート化合物
を含有する、請求項1〜3のいずれか一に記載の光硬化性液状樹脂組成物。
【請求項5】
(E)2つ以上の水酸基を有する、理論分子量が500以下の非硬化性化合物
を含有する、請求項1〜4のいずれか一に記載の光硬化性液状樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一に記載の光硬化性組成物を硬化して得られる支持体。
【請求項7】
インクジェット方式の光造形法に使用される支持体の製造方法であって、組成物全量100質量%に対して、下記成分(A)、(B)および(C)を含有する光硬化性液状樹脂組成物をインクジェット方式により所望のパターンで射出して光硬化性液状樹脂組成物層を形成する工程1、光硬化性液状樹脂組成物層に光を照射して該光硬化性液状樹脂組成物層を硬化させる工程2、および工程1および工程2を含む工程を繰り返して支持体を形成する、支持体の製造方法。
(A)ビニル基を1つ有するアクリルアミド系化合物 15〜99質量%、
(B)連鎖移動剤 0.1〜5質量%、
(C)光重合開始剤0.5〜10質量%

【公開番号】特開2010−155889(P2010−155889A)
【公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−334218(P2008−334218)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【出願人】(592109732)日本特殊コーティング株式会社 (23)
【Fターム(参考)】