光解離性化合物
本発明では、光解離性化合物及びその使用方法について記載する。光解離性化合物は光放出性配位子を有し、この配位子は生物学的に活性であり得て、また光に曝露されると化合物から光放出される。一部の実施形態において、光解離性化合物は光アンテナ(標識分子、その活性誘導体等)を含む。一実施形態において、光は生物試料(細胞、組織等)の生存能に有害ではない可視光であり、放出された有機分子はバイオアクティブであり、また治療効果を有し得る。別の実施形態において、光放出性配位子は、蛍光分子等の標識分子であり得る。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、米国政府の支援を受けてなされた。米国政府は、本発明において一定の権利を有する。
【0002】
本特許開示には、著作権保護の対象である材料が含まれる。米国特許商標庁の特許包袋又は記録に記載されていることから、如何なる者による特許文書又は特許開示のファクシミリ複製に対しても著作権者は異存はないが、それ以外のあらゆる著作権を留保するものである。
【0003】
関連出願の相互参照
本出願は、2009年6月26日に出願の米国仮特許出願第61/220922号の優先権を主張するものであり、その全開示が参照により本明細書に組み込まれる。米国特許出願公開第2008/0176940号もまた、参照により本明細書に全て組み込まれる。
【0004】
本発明は概して、新規な光解離性化合物(photolabile compound)及び有機分子(生理活性分子等)をアンケージする方法に関し、これらはインビトロとインビボの両方において多様な用途を有し得る。
【背景技術】
【0005】
光解離性保護基(ケージング基とも称される)は、生物化学において特に有用な保護基の種類である。光は、空間的にも時間的にも精確に制御可能であることから、保護基の生理活性分子からの開裂によって生理活性分子を放出させる又はアンケージすることができる。保護基は、典型的には、化合物の荷電基(例えば、カルボキシレート、ホスフェート)又は極性基(例えば、アミン、ヒドロキシル、スルフヒドリル)をマスクする又は隠す。多くの場合、このような官能基は、保護された分子の疎水性及び膜透過性を上昇させる。光分解の前は、光解離性化合物は典型的には化学的又は生物学的に不活性であるが、これは化合物の主要な官能基の少なくとも1つがブロックされているからである。光のパルスによって分子の活性を誘発し、光放出性化合物から分子を放出させることができる。このように、例えばインビボ又はインビトロでの望ましいタイミングと場所での化合物の放出を制御するために、光解離性保護基を光照射によって保護化合物から除去することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
市販の光解離性化合物は、典型的には、ケージからの化合物の除去に紫外光(UV)を必要とする。しかしながら、紫外光は臓器、組織及び細胞に損傷を与える可能性があることから、インビボでの使用において有害である。このため、紫外光以外の光を使用して放出可能な配位子を有する新規な光解離性化合物を、特にはインビボでの用途のために利用することが当該分野において必要とされている。本発明は、新規な光解離性化合物及びこの化合物を使用する方法を提供するものであり、これらの化合物及び方法は、紫外光に対してのみ光解離性である現行の化合物より有利である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のある態様は、有機分子(生理活性分子等)を保護する新規な光解離性化合物を提供することである。光に曝露すると、この有機分子は放出され、また本明細書に記載の方法において有用である。
【0008】
一態様において、本発明は、式I、
【化1】
I
(式中、
MはRuであり、
各L1は独立して
(a)環員の1つがMと結合を形成する窒素原子である5員単環式芳香環、
(b)環員の1つがMと結合を形成する窒素原子である6員単環式芳香環、
(c)2環式環の1つが芳香族であり且つMと結合を形成する窒素原子員を有する8〜10員2環式環、
(d)窒素原子がMと結合を形成する−NH2基、又は
(e)酸素原子の1つがMと結合を形成する−COOH基
を有する有機分子であり、
L2は(R9)3P、(R9O)3P又はL1であり、mは2であり、あるいはL2は−CNであり、mは1であり、あるいはL2は(R9)2P若しくは(R9O)2Pのリン原子を介してMに結合される標識分子又はその活性誘導体であり、mは2であり、あるいはL2はNHR9、N(R9)2、ピリジル、C(R9)=NH、C(R9)=NR9環状脂肪族アミン基若しくはニトリルの窒素原子を介してMに結合される標識分子又はその活性誘導体であり、mは2であり、
各R9は独立して−C1〜C18アルキル、−C3〜C8シクロアルキル又はフェニルであり、
R1〜R8は独立して−H、−C1〜C18アルキル、−NH2、−COOH、−(C1〜C18アルキル)−O−(C1〜C18アルキル)又は−OC(O)(C1〜C18アルキル)であり、
XはCl-、F-、Br-、I-、PF6-、CF3SO3-、(C1〜C18アルキル)−CO2-又は(C1〜C18アルキル)−SO3-である)で示される化合物を提供する。
【0009】
式Iの化合物の一実施形態において、
MはRuであり、
各L1は独立して
(a)環員の1つがMと結合を形成する窒素原子である5員単環式芳香環、
(b)環員の1つがMと結合を形成する窒素原子である6員単環式芳香環、
(c)2環式環の1つが芳香族であり且つMと結合を形成する窒素原子員を有する8〜10員2環式環、
(d)窒素原子がMと結合を形成する−NH2基、又は
(e)酸素原子の1つがMと結合を形成する−COOH基
を有する有機分子であり、
L2は(R9)3P、(R9O)3P又はL1であり、mは2であり、あるいはL2は−CNであり、mは1であり、
R1〜R8は独立して−H、−C1〜C18アルキル、−NH2、−COOH、−(C1〜C18アルキル)−O−(C1〜C18アルキル)又は−OC(O)(C1〜C18アルキル)であり、
XはCl-、F-、Br-、I-、PF6-、CF3SO3-、(C1〜C18アルキル)−CO2-又は(C1〜C18アルキル)−SO3-である。
【0010】
式Iの化合物の一部の実施形態において、L2が(R9)3Pの場合、各R9は互いに異なる。
【0011】
式Iの化合物の一部の実施形態において、L2が(R9)3Pの場合、2つのR9は同一であり且つ残りのR9とは異なる。
式Iの化合物の一部の実施形態において、L2が(Ph)3Pの場合、各フェニルはメチルで置換されない。
【0012】
別の態様において、本発明は、式II、
【化2】
II
(式中、
各L1は独立して
(a)窒素原子の1つがRuと結合を形成するテトラゾリル基、
(b)ピリジル窒素原子がRuと結合を形成するニコチン若しくはカフェイン、
(c)2環式環の1つが芳香族であり且つRuと結合を形成する窒素原子員を有する8〜10員2環式環、
(d)窒素原子がRuと結合を形成する−NH2基、又は
(e)酸素原子の1つがRuと結合を形成する−COOH基
を有する有機分子であり、
L2は(R9)3P、(R9O)3P又はL1であり、mは2であり、あるいはL2は−CNであり、mは1であり、あるいはL2は(R9)2P若しくは(R9O)2Pのリン原子を介してRuに結合される標識分子又はその活性誘導体であり、mは2であり、あるいはL2はNHR9、N(R9)2、ピリジル、C(R9)=NH、C(R9)=NR9環状脂肪族アミン基若しくはニトリルの窒素原子を介してRuに結合される標識分子又はその活性誘導体であり、mは2であり、
各R9は独立して−C1〜C18アルキル、−C3〜C8シクロアルキル又はフェニルであり、
R1〜R8は独立して−H、−C1〜C18アルキル、−NH2、−COOH、−(C1〜C18アルキル)−O−(C1〜C18アルキル)又は−OC(O)(C1〜C18アルキル)であり、
XはCl-、F-、Br-、I-、PF6-、CF3SO3-、(C1〜C18アルキル)−CO2-又は(C1〜C18アルキル)−SO3-である)の化合物を提供する。
【0013】
式IIの化合物の一実施形態において、
各L1は独立して
(a)窒素原子の1つがRuと結合を形成するテトラゾリル基、
(b)ピリジル窒素原子がRuと結合を形成するニコチン若しくはカフェイン、
(c)2環式環の1つが芳香族であり且つRuと結合を形成する窒素原子員を有する8〜10員2環式環、
(d)窒素原子がRuと結合を形成する−NH2基、又は
(e)酸素原子の1つがRuと結合を形成する−COOH基
を有する有機分子であり、
L2は(R9)3P、(R9O)3P又はL1であり、mは2であり、あるいはL2は−CNであり、mは1であり、
R1〜R8は独立して−H、−C1〜C18アルキル、−NH2、−COOH、−(C1〜C18アルキル)−O−(C1〜C18アルキル)又は−OC(O)(C1〜C18アルキル)であり、
XはCl-、F-、Br-、I-、PF6-、CF3SO3-、(C1〜C18アルキル)−CO2-又は(C1〜C18アルキル)−SO3-である。
【0014】
式IIの化合物の一部の実施形態において、L2が(R9)3Pの場合、各R9は互いに異なる。
式IIの化合物の一部の実施形態において、L2が(R9)3Pの場合、2つのR9は同一であり且つ残りのR9とは異なる。
式IIの化合物の一部の実施形態において、L2が(Ph)3Pの場合、各フェニルはメチルで置換されない。
【0015】
(0017)
別の態様において、本発明は、式III、
【化3】
III
(式中、
L1は、ピリジル窒素原子がRuと結合を形成する4−アミノピリジン(4−AP)であり、
L2は(R9)3P、(R9O)3P又はL1であり、mは2であり、あるいはL2は−CNであり、mは1であり、あるいはL2は(R9)2P若しくは(R9O)2Pのリン原子を介してRuに結合される標識分子又はその活性誘導体であり、mは2であり、あるいはL2はNHR9、N(R9)2、ピリジル、C(R9)=NH、C(R9)=NR9環状脂肪族アミン基若しくはニトリルの窒素原子を介してRuに結合される標識分子又はその活性誘導体であり、mは2であり、
各R9は独立して−C1〜C18アルキル、−C3〜C8環状アルキル又はフェニルであり、
R1〜R8は独立して−H、−C1〜C18アルキル、−NH2、−COOH、−(C1〜C18アルキル)−O−(C1〜C18アルキル)又は−OC(O)(C1〜C18アルキル)であり、
XはCl-、F-、Br-、I-、PF6-、CF3SO3-、(C1〜C18アルキル)−CO2-又は(C1〜C18アルキル)−SO3-である)の化合物を提供する。
【0016】
(0018)
式IIIの化合物の一実施形態において、
L1は、ピリジル窒素原子がRuと結合を形成する4−アミノピリジン(4−AP)であり、
L2は(R9)3P、(R9O)3P又はL1であり、mは2であり、あるいはL2は−CNであり、mは1であり、
R1〜R8は独立して−H、−C1〜C18アルキル、−NH2、−COOH、−(C1〜C18アルキル)−O−(C1〜C18アルキル)又は−OC(O)(C1〜C18アルキル)であり、
XはCl-、F-、Br-、I-、PF6-、CF3SO3-、(C1〜C18アルキル)−CO2-又は(C1〜C18アルキル)−SO3-である。
【0017】
(0019)
式IIIの化合物の一部の実施形態において、L2が(R9)3Pの場合、各R9は互いに異なる。
式IIIの化合物の一部の実施形態において、L2が(R9)3Pの場合、2つのR9は同一であり且つ残りのR9とは異なる。
式IIIの化合物の一部の実施形態において、L2が(Ph)3Pの場合、各フェニルはメチルで置換されない。
【0018】
(0022)
別の態様において、本発明は、式IV、
【化4】
IV
(式中、
M1はLi+、Na+又はK+であり、
M2はRuであり、
L1は独立して
(a)環員の1つがM2と結合を形成する窒素原子である5員単環式芳香環、
(b)環員の1つがM2と結合を形成する窒素原子である6員単環式芳香環、
(c)2環式環の1つが芳香族であり且つM2と結合を形成する窒素原子員を有する8〜10員2環式環、
(d)窒素原子がM2と結合を形成する−NH2基、又は
(e)酸素原子の1つがM2と結合を形成する−COOH基
を有する有機分子である)の化合物を提供する。
【0019】
(0023)
別の態様において、本発明は、式V、
【化5】
V
(式中、
各L1は独立して
(a)環員の1つがRuと結合を形成する窒素原子である5員単環式芳香環、
(b)環員の1つがRuと結合を形成する窒素原子である6員単環式芳香環、
(c)2環式環の1つが芳香族であり且つRuと結合を形成する窒素原子員を有する8〜10員2環式環、
(d)窒素原子がRuと結合を形成する−NH2基、
(e)酸素原子の1つがRuと結合を形成する−COOH基、
(f)リン原子がRuと結合を形成し、Rが独立して−H、−C1〜C18アルキル若しくはアリールである−PR2基、又は
(g)硫黄原子がRuと結合を形成し、Rが独立して−H、−C1〜C18アルキル若しくはアリールである−SR基
を有する有機分子であり、
L2は(R9)3P、(R9O)3P又はL1であり、mは2であり、あるいはL2は−CNであり、mは1であり、あるいはL2は(R9)2P若しくは(R9O)2Pのリン原子を介してRuに結合される標識分子又はその活性誘導体であり、mは2であり、あるいはL2はNHR9、N(R9)2、ピリジル、C(R9)=NH、C(R9)=NR9環状脂肪族アミン基若しくはニトリルの窒素原子を介してRuに結合される標識分子又はその活性誘導体であり、mは2であり、
各R9は独立して−C1〜C18アルキル、−C3〜C8シクロアルキル又はフェニルであり、
【0020】
L2がP(フェニル)3又はP(フェニル)2のリン原子を介してRuに結合される標識分子若しくはその活性誘導体の場合、各フェニルは独立して−C1〜C18アルキル、−(C1〜C18アルキル)−OH、アリール、−(C1〜C18アルキル)−オキシ、−(C1〜C18アルキル)−アミノ、−(C1〜C18アルキル)−チオ、−CO2Y、−C(=O)Y、−C(=O)NY2、−NH2、−NO2、−OH又は−SHで置換され、
R1〜R4は独立して−H、−C1〜C18アルキル、−NH2、−(C1〜C18アルキル)−O−(C1〜C18アルキル)、−OC(O)(C1〜C18アルキル)、−(C1〜C18アルキル)−OH、アリール、−(C1〜C18アルキル)−オキシ、−(C1〜C18アルキル)−アミノ、−(C1〜C18アルキル)−チオ、−CO2Y、−C(=O)Y、−C(=O)NY2、−NO2又は−SHであり、あるいはR1とR2とは及び/又はR3とR4とは組み合わさって1つ以上のオキソ基で置換される環状炭素を形成し得て、
L2がP(フェニル)3ではない場合、R1〜R4は独立して−H、−(C1〜C18アルキル)−OH、アリール、−(C1〜C18アルキル)−オキシ、−(C1〜C18アルキル)−アミノ、−(C1〜C18アルキル)−チオ、−CO2Y、−C(=O)Y、−C(=O)NY2、−NO2、−OH又は−SHであり、あるいはR1とR2とは及び/又はR3とR4とは組み合わさって1つ以上のオキソ基で置換される環状炭素を形成し得て、R1〜R4の少なくとも1つはHではなく、
XはCl-、F-、Br-、I-、PF6-、CF3SO3-、(C1〜C18アルキル)−CO2-又は(C1〜C18アルキル)−SO3-であり、
Yは−H、−C1〜C18アルキル、アリール、−(C1〜C18アルキル)−アリール、−C3〜C8シクロアルキル、ヘテロアリール及びヘテロシクリルから成る群から選択される)で示される化合物を提供する。
【0021】
(0024)
式Vで示される化合物の一実施形態において、
各L1は独立して
(a)環員の1つがRuと結合を形成する窒素原子である5員単環式芳香環、
(b)環員の1つがRuと結合を形成する窒素原子である6員単環式芳香環、
(c)2環式環の1つが芳香族であり且つRuと結合を形成する窒素原子員を有する8〜10員2環式環、
(d)窒素原子がRuと結合を形成する−NH2基、
(e)酸素原子の1つがRuと結合を形成する−COOH基、
(f)リン原子がRuと結合を形成し、Rが独立して−H、−C1〜C18アルキル若しくはアリールである−PR2基、又は
(g)硫黄原子がRuと結合を形成し、Rが独立して−H、−C1〜C18アルキル若しくはアリールである−SR基
を有する有機分子であり、
L2がP(フェニル)3の場合、各フェニルは独立して−C1〜C18アルキル、−(C1〜C18アルキル)−OH、アリール、−(C1〜C18アルキル)−オキシ、−(C1〜C18アルキル)−アミノ、−(C1〜C18アルキル)−チオ、−CO2Y、−C(=O)Y、−C(=O)NY2、−NH2、−NO2、−OH又は−SHで置換され、
R1〜R4は独立して−H、−C1〜C18アルキル、−NH2、−(C1〜C18アルキル)−O−(C1〜C18アルキル)、−OC(O)(C1〜C18アルキル)、−(C1〜C18アルキル)−OH、アリール、−(C1〜C18アルキル)−オキシ、−(C1〜C18アルキル)−アミノ、−(C1〜C18アルキル)−チオ、−CO2Y、−C(=O)Y、−C(=O)NY2、−NO2又は−SHであり、あるいはR1とR2とは及び/又はR3とR4とは組み合わさって1つ以上のオキソ基で置換される環状炭素を形成し得て、
L2がP(フェニル)3ではない場合、R1〜R4は独立して−H、−(C1〜C18アルキル)−OH、アリール、−(C1〜C18アルキル)−オキシ、−(C1〜C18アルキル)−アミノ、−(C1〜C18アルキル)−チオ、−CO2Y、−C(=O)Y、−C(=O)NY2、−NO2、−OH又は−SHであり、あるいはR1とR2とは及び/又はR3とR4とは組み合わさって1つ以上のオキソ基で置換される環状炭素を形成し得て、R1〜R4の少なくとも1つはHではなく、
XはCl-、F-、Br-、I-、PF6-、CF3SO3-、(C1〜C18アルキル)−CO2-又は(C1〜C18アルキル)−SO3-であり、
Yは−H、−C1〜C18アルキル、アリール、−(C1〜C18アルキル)−アリール、−C3〜C8シクロアルキル、ヘテロアリール及びヘテロシクリルから成る群から選択される。
【0022】
(0025)
式Vで示される化合物の一部の実施形態において、L2が(R9)3Pの場合、各R9は互いに異なる。
式Vで示される化合物の一部の実施形態において、L2が(R9)3Pの場合、2つのR9は同一であり且つ残りのR9とは異なる。
式Vで示される化合物の一部の実施形態において、L2が(Ph)3Pの場合、各フェニルはメチルで置換されない。
【0023】
(0028)
別の態様において、本発明は、式VI:
【化6】
VI
(式中、
各L1は独立して
(a)環員の1つがRuと結合を形成する窒素原子である5員単環式芳香環、
(b)環員の1つがRuと結合を形成する窒素原子である6員単環式芳香環、
(c)2環式環の1つが芳香族であり且つRuと結合を形成する窒素原子員を有する8〜10員2環式環、
(d)窒素原子がRuと結合を形成する−NH2基、
(e)酸素原子の1つがRuと結合を形成する−COOH基、
(f)リン原子がRuと結合を形成し、Rが独立して−H、−C1〜C18アルキル若しくはアリールである−PR2基、又は
(g)硫黄原子がRuと結合を形成し、Rが独立して−H、−C1〜C18アルキル若しくはアリールである−SR基
を有する有機分子であり、
L2はP(フェニル)3であり、各フェニルは独立して−C1〜C18アルキル、−(C1〜C18アルキル)−OH、アリール、−(C1〜C18アルキル)−オキシ、−(C1〜C18アルキル)−アミノ、−(C1〜C18アルキル)−チオ、−CO2Y、−C(=O)Y、−C(=O)NY2、−NH2、−NO2、−OH又は−SHで置換され、あるいはL2は(R9)2P若しくは(R9O)2Pのリン原子を介してRuに結合される標識分子又はその活性誘導体であり、mは2であり、あるいはL2はNHR9、N(R9)2、ピリジル、C(R9)=NH、C(R9)=NR9環状脂肪族アミン基若しくはニトリルの窒素原子を介してRuに結合される標識分子又はその活性誘導体であり、mは2であり、
各R9は独立して−C1〜C18アルキル、−C3〜C8シクロアルキル又はフェニルであり、
【0024】
R1〜R4は独立して−H、−C1〜C18アルキル、−NH2、−(C1〜C18アルキル)−O−(C1〜C18アルキル)、−OC(O)(C1〜C18アルキル)、−(C1〜C18アルキル)−OH、アリール、−(C1〜C18アルキル)−オキシ、−(C1〜C18アルキル)−アミノ、−(C1〜C18アルキル)−チオ、−CO2Y、−C(=O)Y、−C(=O)NY2、−NO2又は−SHであり、あるいはR1とR2とは及び/又はR3とR4とは組み合わさって1つ以上のオキソ基で置換される環状炭素を形成し得て、
XはCl-、F-、Br-、I-、PF6-、CF3SO3-、(C1〜C18アルキル)−CO2-又は(C1〜C18アルキル)−SO3-であり、
Yは−H、−C1〜C18アルキル、アリール、−(C1〜C18アルキル)−アリール、−C3〜C8シクロアルキル、ヘテロアリール及びヘテロシクリルから成る群から選択される)で示される化合物を提供する。
【0025】
(0029)
式VIの化合物の一実施形態において、
各L1は独立して
(a)環員の1つがRuと結合を形成する窒素原子である5員単環式芳香環、
(b)環員の1つがRuと結合を形成する窒素原子である6員単環式芳香環、
(c)2環式環の1つが芳香族であり且つRuと結合を形成する窒素原子員を有する8〜10員2環式環、
(d)窒素原子がRuと結合を形成する−NH2基、
(e)酸素原子の1つがRuと結合を形成する−COOH基、
(f)リン原子がRuと結合を形成し、Rが独立して−H、−C1〜C18アルキル若しくはアリールである−PR2基、又は
(g)硫黄原子がRuと結合を形成し、Rが独立して−H、−C1〜C18アルキル若しくはアリールである−SR基
を有する有機分子であり、
L2はP(フェニル)3であり、各フェニルは独立して−C1〜C18アルキル、−(C1〜C18アルキル)−OH、アリール、−(C1〜C18アルキル)−オキシ、−(C1〜C18アルキル)−アミノ、−(C1〜C18アルキル)−チオ、−CO2Y、−C(=O)Y、−C(=O)NY2、−NH2、−NO2、−OH又は−SHで置換され、
R1〜R4は独立して−H、−C1〜C18アルキル、−NH2、−(C1〜C18アルキル)−O−(C1〜C18アルキル)、−OC(O)(C1〜C18アルキル)、−(C1〜C18アルキル)−OH、アリール、−(C1〜C18アルキル)−オキシ、−(C1〜C18アルキル)−アミノ、−(C1〜C18アルキル)−チオ、−CO2Y、−C(=O)Y、−C(=O)NY2、−NO2又は−SHであり、あるいはR1とR2とは及び/又はR3とR4とは組み合わさって1つ以上のオキソ基で置換される環状炭素を形成し得て、
XはCl-、F-、Br-、I-、PF6-、CF3SO3-、(C1〜C18アルキル)−CO2-又は(C1〜C18アルキル)−SO3-であり、
Yは−H、−C1〜C18アルキル、アリール、−(C1〜C18アルキル)−アリール、−C3〜C8シクロアルキル、ヘテロアリール及びヘテロシクリルから成る群から選択される。
【0026】
(0030)
式VIの化合物の一部の実施形態において、L2が(R9)3Pの場合、各R9は互いに異なる。
式VIの化合物の一部の実施形態において、L2が(R9)3Pの場合、2つのR9は同一であり且つ残りのR9とは異なる。
式VIの化合物の一部の実施形態において、L2が(Ph)3Pの場合、各フェニルはメチルで置換されない。
【0027】
(0033)
別の態様において、本発明は、式VII、
【化7】
VII
(式中、
各L1は独立して
(a)環員の1つがRuと結合を形成する窒素原子である5員単環式芳香環、
(b)環員の1つがRuと結合を形成する窒素原子である6員単環式芳香環、
(c)2環式環の1つが芳香族であり且つRuと結合を形成する窒素原子員を有する8〜10員2環式環、
(d)窒素原子がRuと結合を形成する−NH2基、
(e)酸素原子の1つがRuと結合を形成する−COOH基、
(f)リン原子がRuと結合を形成し、Rが独立して−H、−C1〜C18アルキル若しくはアリールである−PR2基、又は
(g)硫黄原子がRuと結合を形成し、Rが独立して−H、−C1〜C18アルキル若しくはアリールである−SR基
を有する有機分子であり、
L2は(R9)3P、(R9O)3P又はL1であり、各R5は独立して−C1〜C18アルキル、−C3〜C8シクロアルキル又はフェニルであり、mは2であり、L2はP(フェニル)3ではなく、あるいはL2は−CNであり、mは1であり、あるいはL2は(R9)2P若しくは(R9O)2Pのリン原子を介してRuに結合される標識分子又はその活性誘導体であり、mは2であり、あるいはL2はNHR9、N(R9)2、ピリジル、C(R9)=NH、C(R9)=NR9環状脂肪族アミン基若しくはニトリルの窒素原子を介してRuに結合される標識分子又はその活性誘導体であり、mは2であり、
各R9は独立して−C1〜C18アルキル、−C3〜C8シクロアルキル又はフェニルであり、
【0028】
R1〜R4は独立して−H、−(C1〜C18アルキル)−OH、アリール、−(C1〜C18アルキル)−オキシ、−(C1〜C18アルキル)−アミノ、−(C1〜C18アルキル)−チオ、−CO2Y、−C(=O)Y、−C(=O)NY2、−NO2、−OH又は−SHであり、あるいはR1とR2とは及び/又はR3とR4とは組み合わさって1つ以上のオキソ基で置換される環状炭素を形成し得て、R1〜R4の少なくとも1つはHではなく、
XはCl-、F-、Br-、I-、PF6-、CF3SO3-、(C1〜C18アルキル)−CO2-又は(C1〜C18アルキル)−SO3-であり、
Yは−H、−C1〜C18アルキル、アリール、−(C1〜C18アルキル)−アリール、−C3〜C8シクロアルキル、ヘテロアリール及びヘテロシクリルから成る群から選択される)で示される化合物を提供する。
【0029】
(0034)
式VIIの化合物の一実施形態において、
各L1は独立して
(a)環員の1つがRuと結合を形成する窒素原子である5員単環式芳香環、
(b)環員の1つがRuと結合を形成する窒素原子である6員単環式芳香環、
(c)2環式環の1つが芳香族であり且つRuと結合を形成する窒素原子員を有する8〜10員2環式環、
(d)窒素原子がRuと結合を形成する−NH2基、
(e)酸素原子の1つがRuと結合を形成する−COOH基、
(f)リン原子がRuと結合を形成し、Rが独立して−H、−C1〜C18アルキル若しくはアリールである−PR2基、又は
(g)硫黄原子がRuと結合を形成し、Rが独立して−H、−C1〜C18アルキル若しくはアリールである−SR基
を有する有機分子であり、
L2は(R9)3P、(R9O)3P又はL1であり、各R5は独立して−C1〜C18アルキル、−C3〜C8シクロアルキル又はフェニルであり、mは2であり、L2はP(フェニル)3ではなく、あるいはL2は−CNであり、mは1であり、
R1〜R4は独立して−H、−(C1〜C18アルキル)−OH、アリール、−(C1〜C18アルキル)−オキシ、−(C1〜C18アルキル)−アミノ、−(C1〜C18アルキル)−チオ、−CO2Y、−C(=O)Y、−C(=O)NY2、−NO2、−OH又は−SHであり、あるいはR1とR2とは及び/又はR3とR4とは組み合わさって1つ以上のオキソ基で置換される環状炭素を形成し得て、R1〜R4の少なくとも1つはHではなく、
Xは、Cl-、F-、Br-、I-、PF6-、CF3SO3-、(C1〜C18アルキル)−CO2-又は(C1〜C18アルキル)−SO3-であり、
Yは−H、−C1〜C18アルキル、アリール、−(C1〜C18アルキル)−アリール、−C3〜C8シクロアルキル、ヘテロアリール及びヘテロシクリルから成る群から選択される。
【0030】
(0035)
式VIIの化合物の一部の実施形態において、L2が(R9)3Pの場合、各R9は互いに異なる。
式VIIの化合物の一部の実施形態において、L2が(R9)3Pの場合、2つのR9は同一であり且つ残りのR9とは異なる。
式VIIの化合物の一部の実施形態において、L2が(Ph)3Pの場合、各フェニルはメチルで置換されない。
【0031】
(0038)
別の態様において、本発明は、式VIII、
【化8】
VIII
(式中、
各L1は独立して(R9)2P若しくは(R9O)2Pのリン原子を介してRuに結合される標識分子又はその活性誘導体であり、mは2であり、あるいはL1はNHR9、N(R9)2、ピリジル、C(R9)=NH、C(R9)=NR9環状脂肪族アミン基若しくはニトリルの窒素原子を介してRuに結合される標識分子又はその活性誘導体であり、mは2であり、
各R9は独立して−C1〜C18アルキル、−C3〜C8シクロアルキル又はフェニルであり、
L2はCl−、ホスフィン、OH2又はピリジンであり、mは2であり、あるいはL2は−CNであり、mは1であり、
R1〜R4は独立して−H、−C1〜C18アルキル、−NH2、−(C1〜C18アルキル)−O−(C1〜C18アルキル)、−OC(O)(C1〜C18アルキル)、−(C1〜C18アルキル)−OH、アリール、−(C1〜C18アルキル)−オキシ、−(C1〜C18アルキル)−アミノ、−(C1〜C18アルキル)−チオ、−CO2Y、−C(=O)Y、−C(=O)NY2、−NO2又は−SHであり、あるいはR1とR2とは及び/又はR3とR4とは組み合わさって1つ以上のオキソ基で置換される環状炭素を形成し得て、
XはCl-、F-、Br-、I-、PF6-、CF3SO3-、(C1〜C18アルキル)−CO2-又は(C1〜C18アルキル)−SO3-であり、
Yは、−H、−C1〜C18アルキル、アリール、−(C1〜C18アルキル)−アリール、−C3〜C8シクロアルキル、ヘテロアリール及びヘテロシクリルから成る群から選択される)で示される化合物を提供する。
【0032】
(0039)
式VIIIの化合物の一実施形態において、
各L1は独立して標識分子であり、
L2はCl−、ホスフィン、OH2又はピリジンであり、mは2であり、あるいはL2は−CNであり、mは1であり、
R1〜R4は独立して−H、−C1〜C18アルキル、−NH2、−(C1〜C18アルキル)−O−(C1〜C18アルキル)、−OC(O)(C1〜C18アルキル)、−(C1〜C18アルキル)−OH、アリール、−(C1〜C18アルキル)−オキシ、−(C1〜C18アルキル)−アミノ、−(C1〜C18アルキル)−チオ、−CO2Y、−C(=O)Y、−C(=O)NY2、−NO2又は−SHであり、あるいはR1とR2とは及び/又はR3とR4とは組み合わさって1つ以上のオキソ基で置換される環状炭素を形成し得て、
XはCl-、F-、Br-、I-、PF6-、CF3SO3-、(C1〜C18アルキル)−CO2-又は(C1〜C18アルキル)−SO3-であり、
Yは−H、−C1〜C18アルキル、アリール、−(C1〜C18アルキル)−アリール、−C3〜C8シクロアルキル、ヘテロアリール及びヘテロシクリルから成る群から選択される。
【0033】
(0040)
式VIIIで示される化合物の一部の実施形態において、L2が(R9)3Pの場合、各R9は互いに異なる。
式VIIIで示される化合物の一部の実施形態において、L2が(R9)3Pの場合、2つのR9は同一であり且つ残りのR9とは異なる。
式VIIIで示される化合物の一部の実施形態において、L2が(Ph)3Pの場合、各フェニルはメチルで置換されない。
式I〜III及びV〜VIIIで示される化合物の一部の実施形態において、L2はローダミンB−メチルアミノプロピオニトリルアミド(RhodB−MAPN)である。式I〜III及びV〜VIIIの化合物の一部の実施形態において、L2はローダミンG−メチルアミノプロピオニトリルアミド(RhodG−MAPN)である。
【0034】
(0044)
式I〜III及びV〜VIIIで示される化合物の一実施形態において、L2は、
【化9】
(RhodB−MAMePy)又はその塩化物塩(RhodB−MAMePy−Cl)である。
【0035】
(0045)
式I〜III及びV〜VIIIの化合物の一部の実施形態において、L2は、
【化10】
(Rhod6G−MAMePy)又はその塩化物塩(Rhod6G−MAMePy−Cl)である。
【0036】
(0046)
式I〜III及びV〜VIIIの化合物の一部の実施形態において、標識分子はローダミンBである。式I〜III及びV〜VIIIの化合物の一部の実施形態において、標識分子はローダミン6Gである。
式I〜III及びV〜VIIIの化合物の一部の実施形態において、標識分子は、ボディパイ、ダンシル、フルオレセイン、テキサスレッド、シアニン染料、ピレン、クマリン、カスケードブルーTM、パシフィックブルー、マリナブルー、オレゴングリーン、4’,6−ジアミジノ−2−フェニルインドール(DAPI)、インドピラ(indopyra)染料、ルシファーイエロー、ヨウ化プロピジウム、ポルフィリン及びアルギニンから成る群から選択される。式I〜VIIIの化合物(「光解離性化合物」)は、光に曝露されるとL1を放出する。
【0037】
(0048)
別の態様において、本発明は、有効量の光解離性化合物と生理学的に許容可能な担体、ビヒクル、希釈剤又は賦形剤とを含む組成物を提供する。
別の態様において、本発明は、光解離性化合物を格納している容器を提供する。
その更に別の態様において、本発明は、光解離性化合物と使用説明書とを含むキットを提供する。
本発明の別の態様は、光解離性化合物から有機分子又は標識分子を放出させる方法を提供し、この方法は、光解離性化合物を、有機分子又は標識分子を放出させるのに十分な条件下で光に曝露することを含む。
【0038】
(0052)
更に別の態様において、本発明は、有機分子を、その有機分子を必要とする患者(患畜)にバイオアベイラブルにする方法を提供し、この方法は、光解離性化合物を患者に投与し、この化合物を、この化合物から有機分子を放出させるのに十分な条件下で光に曝露することを含む。
別の態様において、本発明は患者の疾患及び障害を治療する方法を提供し、この方法は、(a)光解離性化合物を患者に投与し、(b)この光解離性化合物を、有機分子を光解離性化合物から放出させるのに十分な条件下で光に曝露することを含む。一部の実施形態において、本発明の方法で治療する疾患及び障害には、神経学的、神経生理学的又は神経筋疾患及び状態(癲癇、多発性硬化症等)、がん、発汗並びに血液疾患が含まれる。
【0039】
(0054)
別の態様において、本発明は有機分子をアッセイする方法を提供し、この方法は、(a)光解離性化合物及び生物試料を、有機分子を光解離性化合物から放出させるのに十分な条件下で光に曝露し、(b)この有機分子の生物試料への作用を確認することを含む。
一態様において、本発明は、[Ru(bpy)2(RhodB−MAPN)Cl]Cl、[Ru(bpy)2(Rhod6G−MAPN)Cl]Cl、[Ru(bpy)2(RhodB−MAMePy)Cl]Clから成る群から選択される化合物を提供する。
別の態様において、本発明は、[Ru(bpy)2(RhodB−MAPN)Cl]Z、[Ru(bpy)2(Rhod6G−MAPN)Cl]Z、[Ru(bpy)2(RhodB−MAMePy)Cl]Z(Zはアニオン)から成る群から選択される化合物を提供する。一部の実施形態において、ZはCl-、F-、Br-又はI-である。
【0040】
(0057)
本発明によって得られる追加の態様、特徴及び利点は、以下の詳細な説明、図及び例示から明らかとなる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
(0058〜0077)
【図1】本明細書に記載の[Ru(bpy)2(4AP)2]Cl2の部分1H NMRスペクトルであり(実施例1)、4−APメタ水素に対応するシグナルを示す。ml:[Ru(bpy)2(4AP)2]2+、m2:[Ru(bpy)2(H2O)(4AP)2]2+、m3:遊離配位子4−AP。
【図2】(上)生理食塩水、[Ru(bpy)3]Cl2、[Ru(bpy)2(4AP)2]Cl2の溶液に関して医療用ヒル(Hirudo medicinalis)のニューロンにおいて記録された活動電位(スパイク)を示す。(下):スパイクの周波数。矢印は、Xeフラッシュランプを使用した光照射を示す。(中間):細胞外媒質の組成。
【図3】水中での[Ru(bpy)2(4AP)2]Cl2のサイクリックボルタンメトリ(CV)プロファイルを示す。支持電解質はKNO3(1M)であった。グラッシーカーボン電極中でdE/dt=100mV/秒。
【図4A】光照射前のD2Oにおける[Ru(bpy)2(4AP)2]Cl2のNMRスペクトルを示す。Bruker 500MHz。
【図4B】光照射後のD2Oにおける[Ru(bpy)2(4AP)2]Cl2のNMRスペクトルを示す。Bruker 500MHz。
【図5】完全な光分解前及び完全な光分解後のRu(bpy)2(4AP)2の紫外・可視光(UV−vis)スペクトルを示す。光への曝露後の光分解生成物は、Ru(bpy)2(4AP)(H2O)及び遊離4APであった。錯体(complex)は、20時間を超えては暗分解を起こさなかった。暗所での7時間後、光照射済みの溶液は、4%未満の4AP再結合を示した。
【図6】実施例3に記載の神経節光照射実験に使用したフィルタの紫外・可視スペクトルを示す。
【図7A】医療用ヒル(Hirudo medicinalis)の神経節の研究で得られた活動電位及びスパイクの周波数を示す。ヒルの神経節上での遊離4APの潅流中のレツィウスニューロン電位活動の記録を示す。[4AP]=0、10、20及び50mM。流量=1ml/分。担体:生理食塩水。実施例3に記載の通りである。
【図7B】医療用ヒル(Hirudo medicinalis)の神経節の研究で得られた活動電位及びスパイクの周波数を示す。図6のフィルタを通した緑色の光の0.1ミリ秒の閃光への曝露中のレツィウスニューロン活動の記録を示す。流量=1ml/分。担体:生理食塩水。実施例3に記載の通りである。パルスエネルギー:0.5J。
【図8A】光への曝露中の[Ru(bpy)2(4AP)2]Cl2のスペクトル変化に関する。473nmのレーザー光を照射中の[Ru(bpy)2(4AP)2]Cl2のスペクトル変化。出力:6.39mW連続。[Ru(bpy)2(4AP)2]Cl2の開始時濃度:27.9μM。A(473nm)=0.18。
【図8B】光への曝露中の[Ru(bpy)2(4AP)2]Cl2のスペクトル変化に関する。図8Aのスペクトルから得られた光照射時間の関数としての[Ru(bpy)2(4AP)(H2O)]2+の画分。
【図9】光放出された4AP対パルスエネルギーのグラフである。光源は、バンドパスフィルタを取り付けたパルスXeランプであった。[Ru(bpy)2(4AP)2]Cl2=44μM。体積=3mL。データは、紫外・可視スペクトル分析から得られた。
【図10】異なる励起波長での[Ru(bpy)2(TzGly)(py)]Cl2の幾つかの2光子蛍光画像である(倍率:約20倍)。
【図11】総2光子蛍光対[Ru(bpy)2(4AP)2]Cl2の励起波長のグラフである。
【図12】400〜600nmの光の照射前及び照射後のTzGlyの紫外・可視スペクトルである。
【図13A】TzGlyの構造を示す。
【図13B】潅流によってTzGly(1μM)をニューロンに加えることによって引き起こされたマウス皮質ニューロンのスパイキングを示す。測定結果は、当該分野で公知であり且つ用いられるホールセルパッチクランプ法によって得られた。
【図14A】[Ru(bpy)2(TzGly)(py)]Cl2と接触させたニューロンに行った実験に関する。樹状突起棘の拡大図を含む、ニューロンの蛍光イメージング顕微鏡写真である。
【図14B】[Ru(bpy)2(TzGly)(py)]Cl2と接触させたニューロンに行った実験に関する。樹状突起棘の拡大図を含む、ニューロンの蛍光イメージング顕微鏡写真である。
【図14C】[Ru(bpy)2(TzGly)(py)]Cl2と接触させたニューロンに行った実験に関する。樹状突起棘の拡大図を含む、ニューロンの蛍光イメージング顕微鏡写真である。
【図14D】[Ru(bpy)2(TzGly)(py)]Cl2と接触させたニューロンに行った実験に関する。[Ru(bpy)2(TzGly)2]Cl2の存在下での1つのニューロンのスパイキングへのレーザー照射(約40mW)の作用を示す。[Ru(bpy)2(TzGly)2]Cl2の濃度=100μM。パルス幅:10ミリ秒。出力:40mW、波長:720nm。
【図14E】[Ru(bpy)2(TzGly)(py)]Cl2と接触させたニューロンに行った実験に関する。図14A〜Dの実験に対する対照として行われた実験に関する。ニューロンの樹状突起棘の拡大図である。
【図14F】[Ru(bpy)2(TzGly)(py)]Cl2と接触させたニューロンに行った実験に関する。図14A〜Dの実験に対する対照として行われた実験に関する。ニューロンの樹状突起棘の拡大図である。
【図14G】[Ru(bpy)2(TzGly)(py)]Cl2と接触させたニューロンに行った実験に関する。。図14A〜Dの実験に対する対照として行われた実験に関する。[Ru(bpy)2(TzGly)2]Cl2の不在下での対照ニューロンへのレーザー照射の作用を示すプロットである。活動の活性化は観察されなかった。パルス幅:10ミリ秒。出力:40mW。波長:720nm。
【図15】100mMのTBAPF6を含有するCH3CN中のPtワイヤ電極での100mV/秒での天然の[Ru(bpy)2(PMe3)Glu]のサイクリックボルタンメトリ(CV)プロファイルを示す。
【図16】(上)450nmの光を使用した360秒の光照射中の[Ru(bpy)2(PMe3)Glu](0.1mM、pH=7)の紫外・可視スペクトル。(挿入グラフ)実験データ(円)から導き出された光放出されたグルタメート量。理論方程式にフィットさせたもの(線)。(下)[Ru(bpy)2(PMe3)Glu](1mM)の閃光光分解(10ナノ秒/パルス、平均256パルス)後の532nmでの吸光度変化。
【図17】光分解前(上のトレース)及び光分解後(下のトレース)のD2Oにおける[Ru(bpy)2(PMe3)Glu]の1H−NMRスペクトルの芳香族セクションを示し、[Ru(bpy)2(PMe3)H2O]2+の芳香族のシグナルを示す。
【図18】光分解前(上のトレース)及び光分解後(下のトレース)のD2Oにおける[Ru(bpy)2(PMe3)Glu]の1H−NMRスペクトルの脂肪族セクションを示す。最後のケースにおいて、3.50、2.30、2.04及び1.94ppmでのシグナルは遊離グルタメートに対応する。
【図19】錯体[Ru(bpy)2(RhodB−MAPN)Cl]+の1H NMR脂肪族領域スペクトルであり、(A)は光照射前、(B)は5分間の光照射後、(C)は遊離RhodB−MAPNスペクトルである。Bにおいて、遊離配位子a、b及びcのシグナルが明白であり、その光放出を示していることに注目すること。RhodB−MAPNにおけるエチル基に対応するシグナルd及びeは配位中心から離れていることから、大きな変化を受けない。理解しやすくするために、光分解反応図を付け加えている。
【図20】473nmのレーザーダイオードを使用したキュベットの光照射中の錯体[Ru(bpy)2(RhodB−MAPN)Cl]+の10μM水溶液の発光スペクトルである。スペクトルは10秒毎に測定された。挿入グラフは、光照射中の発光極大を示す。
【0042】
(0078)
本発明は概して、有機分子又は標識分子を含む光解離性化合物及びこの光解離性化合物を使用する方法に関する。有機分子は、生物学的に活性であり得る。本発明の一実施形態において、有機分子(例えば、生物学的に活性な分子)は保護され、続いて光、有利には可視光への曝露によって放出される。
公知の方法とは対照的に、可視光(例えば、可視光パルス)を使用して有機分子又は標識分子を光解離性化合物から放出させることができる。このため、本方法において、光解離性化合物を投与する試料(例えば、臓器、組織、細胞)又は患者は、細胞成分、最終的には細胞の増殖及び生存能に有害な作用を及ぼす紫外光に、あったとしても最小限にしか曝露されない。
【0043】
(0080)
本発明において、理論によって拘束しようとするものではないが、Ru−有機分子結合又はRu−標識分子結合は通常、共有σ結合より弱いことから、低エネルギーの光照射で切断することができる。更に、本発明において、理論によって拘束しようとするものではないが、光への曝露による有機分子又は標識分子の放出に必要なエネルギーは比較的低い。本発明の光解離性化合物において、有機分子又は標識分子は、本明細書に記載されるように、光解離性化合物への光照射によって光放出される。
また、本発明において、光放出はインビボ又は生物試料、例えば生細胞及び身体における体液、身体試料(臓器又は組織試料等)で起き得る。このため、光解離性化合物は、インビボでの生物学的用途、例えば身体の様々な疾患、状態及び障害の治療に特に有益である。本明細書に記載されるような光解離性化合物の使用によって、生物試料又は身体若しくはその臓器、組織及び細胞成分への有害作用を最小限に抑えながら、身体、例えば生きている臓器、組織及び細胞における生理活性機能又は生理活性の開始を精確に制御することができる(すなわち、ナノ秒〜ミリ秒以内)。加えて、生物試料の光への曝露を、有機分子が必要とされる又は所望される部位に限局することができる。これは、患者、特にはヒトの患者への投与にとって特に有益である。
光解離性化合物は、太陽電池、光電池又は光メモリ(例えば、3次元光メモリ)等の非生物系への使用にも適している。
【0044】
(0083)
一実施形態において、本発明は、式I、
【化11】
I
(式中、R1〜R8、L1、L2、X、M及びmは、式Iの化合物に関して上で定義した通りである)で示される化合物を含む。
【0045】
(0084)
別の実施形態において、本発明は、式II:
【化12】
II
(式中、R1〜R8、L1、L2、X及びmは、式IIの化合物に関して上で定義した通りである)の化合物を含む。
【0046】
(0085)
別の実施形態において、本発明は、式III、
【化13】
III
(式中、R1〜R8、L1、L2、X及びmは、式IIIの化合物に関して上で定義した通りである)で示される化合物を含む。
【0047】
(0086)
別の実施形態において、本発明は、式IV、
【化14】
IV
(式中、M1、M2及びL1は、式IVで示される化合物に関して上で定義した通りである)で示される化合物を含む。
【0048】
(0087)
一実施形態において、本発明は、式V、
【化15】
V
(式中、R1〜R4、L1、L2、X及びmは、式Vの化合物に関して上で定義した通りである)で示される化合物を含む。
【0049】
(0088)
別の実施形態において、本発明は、式VI、
【化16】
VI
(式中、R1〜R4、L1、L2、X及びmは、式VIの化合物に関して上で定義した通りである)で示される化合物を含む。
【0050】
(0089)
ある実施形態において、本発明は、L2がP(フェニル)3であり、各フェニルが独立して3位又は4位で置換される式VIで示される化合物を含む。
別の実施形態において、本発明は、L2がP(フェニル)3であり、少なくとも1つのフェニルが−(C1〜C18アルキル)−OHで置換される式VIで示される化合物を含む。
別の実施形態において、本発明は、L2がP(フェニル)3であり、各フェニルが−(C1〜C18アルキル)−OHで置換される式VIで示される化合物を含む。
別の実施形態において、本発明は、L2がP(フェニル)3であり、少なくとも1つのフェニルが−COOHで置換される式VIで示される化合物を含む。
別の実施形態において、本発明は、L2がP(フェニル)3であり、各フェニルが−COOHで置換される式IIで示される化合物を含む。
【0051】
(0094)
別の実施形態において、本発明は、L2がP(フェニル)3であり、少なくとも1つのフェニルが−OHで置換される式VIで示される化合物を含む。
別の実施形態において、本発明は、L2がP(フェニル)3であり、各フェニルが−OHで置換される式VIで示される化合物を含む。
別の実施形態において、本発明は、L2がP(フェニル)3であり、少なくとも1つのフェニルが−NH2で置換される式VIで示される化合物を含む。
別の実施形態において、本発明は、L2がP(フェニル)3であり、各フェニルが−NH2で置換される式VIで示される化合物を含む。
別の実施形態において、本発明は、L2がP(フェニル)3であり、少なくとも1つのフェニルが−NO2で置換される式VIで示される化合物を含む。
別の実施形態において、本発明は、L2がP(フェニル)3であり、各フェニルが−NO2で置換される式VIで示される化合物を含む。
別の実施形態において、本発明は、L1が、リン原子がRuと結合を形成するPMe2を含む有機分子である式VIで示される化合物を含む。
別の実施形態において、本発明は、L1が、リン原子がRuと結合を形成するP(フェニル)2を含む有機分子である式VIで示される化合物を含む。
【0052】
(0102)
別の実施形態において、本発明は、式VII、
【化17】
VII
(式中、R1〜R4、L1、L2、X及びmは、式VIIの化合物に関して上で定義した通りである)で示される化合物を含む。
【0053】
(0103)
別の実施形態において、本発明は、L2がP(メチル)(フェニル)2である式VIIの化合物を含む。
別の実施形態において、本発明は、L2がP(メチル)2(フェニル)である式VIIの化合物を含む。
別の実施形態において、本発明は、L1が、リン原子がRuと結合を形成するPMe2を含む有機分子である式VIIの化合物を含む。
別の実施形態において、本発明は、L1が、リン原子がRuと結合を形成するP(フェニル)2を含む有機分子である式VIIで示される化合物を含む。
【0054】
(0107)
別の実施形態において、本発明は、式VIII、
【化18】
VIII
(式中、R1〜R4、L1、L2、X及びmは、式VIIIの化合物に関して上で定義した通りである)で示される化合物を含む。
【0055】
(0108)
式I〜VIIIで示される光解離性化合物は、cis又はtrans構造で存在し得る。したがって、式I〜VIIIは、cis及びtransの両方の形態の光解離性化合物を含む。
本発明の化合物において、用語「−(C1〜C18)アルキル」とは、1〜18個の炭素原子を有する飽和直鎖又は分岐非環状炭化水素のことである。代表的な飽和直鎖−(C1〜C18)アルキルには、−メチル、−エチル、−n−プロピル、−n−ブチル、−n−ペンチル、−n−ヘキシル、−n−ヘプチル、−n−オクチル、−n−ノニル、−n−デシル、−n−ウンデシル、−n−ドデシル、−n−トリデシル、−n−テトラデシル、−n−ペンタデシル、−n−ヘキサデシル、−n−ヘプタデシル及び−n−オクタデシルが含まれる。代表的な飽和分岐−(C1〜C18)アルキルには、−イソプロピル、−sec−ブチル、−イソブチル、−tert−ブチル、−イソペンチル、−2−メチルブチル、−3−メチルブチル、−2,2−ジメチルブチル、−2,3−ジメチルブチル、−2−メチルペンチル、−3−メチルペンチル、−4−メチルペンチル、−2−メチルヘキシル、−3−メチルヘキシル、−4−メチルヘキシル、−5−メチルヘキシル、−2,3−ジメチルブチル、−2,3−ジメチルペンチル、−2,4−ジメチルペンチル、−2,2−ジメチルヘキシル、−2,3−ジメチルヘキシル、−2,4−ジメチルヘキシル、−2,5−ジメチルヘキシル、−2,2−ジメチルペンチル、−3,3−ジメチルペンチル、−3,3−ジメチルヘキシル、−4,4−ジメチルヘキシル、−2−エチルペンチル、−3−エチルペンチル、−2−エチルヘキシル、−3−エチルヘキシル、−4−エチルヘキシル、−2−メチル−2−エチルペンチル、−2−メチル−3−エチルペンチル、−2−メチル−4−エチルペンチル、−2−メチル−2−エチルヘキシル、−2−メチル−3−エチルヘキシル、−2−メチル−4−エチルヘキシル、−2,2−ジエチルペンチル、−3,3−ジエチルヘキシル、−2,2−ジエチルヘキシル、−3,3−ジエチルヘキシル等が含まれる。
【0056】
(0110)
本発明の化合物において、用語「−(C3〜C8)シクロアルキル」とは、3〜8個の炭素原子を有する飽和環状炭化水素のことである。代表的な−(C3〜C8)シクロアルキルには、−シクロプロピル、−シクロブチル、−シクロペンチル、−シクロヘキシル、−シクロヘプチル及び−シクロオクチル炭化水素が含まれる。
本発明の化合物において、用語「アリール」とは、縮合又は結合した1〜3個の芳香環を含む芳香族基のことである。
【0057】
(0112)
本発明の化合物において、本明細書で使用の用語「複素環基」又は「複素環式」又は「ヘテロシクリル」又は「ヘテロシクロ」とは、少なくとも1つの炭素原子含有環内に少なくとも1つのヘテロ原子を有する、完全に飽和した又は部分的に若しくは完全に不飽和の芳香族を含めた(すなわち、「ヘテロアリール」)環状基(例えば、4〜7員の単環式、7〜11員の2環式、10〜16員の3環式の環系)のことである。ヘテロ原子を有する複素環基の各環は、窒素原子、酸素原子及び/又は硫黄原子から選択される1、2、3又は4個のヘテロ原子を有し得て、この窒素及び硫黄ヘテロ原子は任意で酸化され得て、またこの窒素ヘテロ原子は任意で4級化され得る。複素環基は、分子の残りの部分に、環又は環系のいずれのヘテロ原子又は炭素原子の位置でも結合され得る。例示的な複素環基には、アゼパニル、アゼチジニル、アジリジニル、ジオキソラニル、フラニル、フラザニル、ホモピペラジニル、イミダゾリジニル、イミダゾリニル、イソチアゾリル、イソキサゾリル、モルホリニル、オキサジアゾリル、オキサゾリジニル、オキサゾリル、オキサゾリジニル、ピリミジニル、フェナントリジニル、フェナントロリニル、ピペラジニル、ピペリジニル、ピラニル、ピラジニル、ピラゾリジニル、ピラゾリニル、ピラゾリル、ピリダジニル、ピリドオキサゾリル、ピリドイミダゾリル、ピリドチアゾリル、ピリジニル、ピリミジニル、ピロリジニル、ピロリニル、キヌクリジニル、テトラヒドロフラニル、チアジアジニル、チアジアゾリル、チエニル、チエノチアゾリル、チエノオキサゾリル、チエノイミダゾリル、チオモルホリニル、チオフェニル、トリアジニル及びトリアゾリルが含まれるが、これらに限定されない。例示的な2環式複素環基には、インドリル、イソインドリル、ベンゾチアゾリル、ベンゾオキサゾリル、ベンゾオキサジアゾリル、ベンゾチエニル、キヌクリジニル、キノリニル、テトラヒドロイソキノリニル、イソキノリニル、ベンズイミダゾリル、ベンゾピラニル、インドリジニル、ベンゾフリル、ベンゾフラザニル、クロモニル、クマリニル、ベンゾピラニル、シンノリニル、キノキサリニル、インダゾリル、ピロロピリジル、フロピリジニル(フロ[2,3−c]ピリジニル、フロ[3,2−b]ピリジニル]、フロ[2,3−b]ピリジニル等)、ジヒドロイソインドリル、ジヒドロキナゾリニル(3,4−ジヒドロ−4−オキソ−キナゾリニル等)、トリアジニルアゼピニル、テトラヒドロキノリニル等が含まれる。例示的な3環式複素環基には、カルバゾリル、ベンズイドリル(benzidolyl)、フェナントロリニル、アクリジニル、フェナントリジニル、キサンテニル等が含まれる。
【0058】
(0113)
本明細書で使用の用語「環状脂肪族アミン」又は「環状脂肪族アミン基」とは、非芳香族系2級アミン又は環状3級アミン基のことである。環状脂肪族アミンの例にはアジリジン及びピペリジンが含まれるが、これらに限定されない。
本明細書で使用の用語「活性誘導体(active derivative)」又は「標識分子の活性誘導体(active derivative of a labeling molecule)」とは標識分子の化学的誘導体のことであり、標識分子の標識機能を保持している(例えば、その蛍光特性)。一部の実施形態においては、このような活性誘導体によって、ホスフィン基、脂肪族アミン基、イミン基、ピリジル基又はニトリル基を介したRuへの結合に関してより優れた特性が得られる。ローダミン(標識分子)の活性誘導体の具体例はB−メチルアミノプロピオニトリルアミド(RhodB−MAPN)である。当業者は、標識分子を変性することによってその誘導体を作り出し、次に得られた誘導体の活性を、標識分子の活性を試験するのと同じやり方で試験して、その誘導体が活性であるか否かを判断することができる。
【0059】
(0115)
アミノ酸基(α−アミノ酸等)は、アミノ基(−NH2)及びカルボン酸基を有する有機分子である。アミノ酸は、20種類の一般的なα−アミノ酸(Gly、Ala、Val、Leu、Ile、Ser、Thr、Asp、Asn、Lys、Glu、Gln、Arg、His、Phe、Cys、Trp、Tyr、Met、Pro)の1種又は別の天然アミノ酸、例えばノルロイシン、エチルグリシン、オルニチン、γ−アミノ酪酸及びフェニルグリシンであり得る。
環員の1つが窒素原子である6員単環式芳香環の例には、ピリジル、ピリミジニル、ピリダジニル及びピラジニル環が含まれる。
環員の1つが窒素原子である5員単環式芳香環の例には、ピロリル、イミダゾリル、ピラゾリル、トリアゾリル、テトラゾリル、オキサゾリル、オキサジアゾリル、チアゾリル及びチアジアゾリル環が含まれる。
【0060】
(0118)
環の1つが芳香族であり且つ窒素原子員を有する8〜10員2環式芳香環の例には、インドリジニル、イソインドリル、3H−インドリル、インドリル、インダゾリル、プリニル、キノリル、イソキノリル、フタラジニル、ナフチリジニル、キノキサリニル、1,3,7−トリメチル−2,6−ジオキソプリニル、キナゾリニル、シンノリニル、プテリジニル、6−アミノ−1H−プリニル及び2−アミノヒポキサンチニル2環式芳香環が含まれる。
一般に、本光解離性化合物で有用な有機分子の実例には多様な物質が含まれ、例えば、その非限定的な例は、医薬品、小分子、薬剤、神経化学物質、ペプチド、タンパク質及び化学療法剤である。
【0061】
(0120)
例示的な有機分子には更に、ルシフェリン、酵素阻害剤、脂肪酸(例えば、アラキドン酸)、プロテインキナーゼC活性化剤(例えば、ジオクタノイルグリセロール)、チューブリン会合促進剤(例えば、パクリタキセル)、抗生物質(例えば、ペニシリン、A23187)、神経伝達物質(例えば、L−グルタミン酸、アスパラギン酸、カルバミルコリン、ドーパミン、エピネフリン、GABA、グルタミン酸、グリシン、ハロペリドール、イソプロテレノール、カイニン酸、NMDA、NMDA受容体アンタゴニストMK−801、ノルエピネフリン、フェニレフリン、プロプラノロール)、4−アミノピリジン(4AP)、セロトニン(5−ヒドロキシトリプタミン、5HT)、(RS)−(テトラゾール−5−イル)グリシン(TzGly)、テトラゾリル−α−アミノ−3−ヒドロキシ−5−メチル−4−イソキサゾールプロプリオン酸((テトラゾール−5−イル)AMPA)、ニコチン、ニコチン酸、イソキサゾール、蛍光染料(例えば、フルオレセイン、HPTS、ローダミン、カルボキシ−Q−ローダミンのサクシニミジルエステル及びスルホサクシニミジルエステル又はローダミングリーン)、ヌクレオチド(例えば、ATP、ADP、cAMP、GDP、GTP、cGMP、GTP−γ−S、GDP−β、cAMP又はcGMPの8位置換誘導体、例えば8−ブロモ−cAMP、8−ブロモ−cGMP、8−クロロ−cAMP、8−クロロ−cGMP、8−パラクロロフェニルチオ(cCPT)cAMP又はcGMP、ホスフェート(例えば、ホスフェート、ホスフェートエステル)、フェニルホスフェート(PPh3)、Py、ヌクレオシド、ヌクレオシド誘導体、ヌクレオチド誘導体(例えば、cADP−リボース、8−アミノ−cADPリボース、8−ブロモ−cADP−リボース)、シクリトール(例えば、イノシトール)、シクリトールホスフェート(例えば、ミオイノシトールホスフェート、ミオイノシトール−1,4,5−トリホスフェート、ミオイノシトール−1,3,4,5−テトラキスホスフェート、ミオイノシトール−3,4,5,6−テトラキスホスフェート)、NO(例えば、HON=N(O)(Net2))の分解性化合物由来)、キーラント(chelant)(例えば、EDTA、EGTA)並びにイオノフォア(例えば、ナイジェリシン)が含まれ得る。有機分子は、例えばFurutaらのBiochem.Biophys.Res.Commun.,228:193−198(1996)に記載されるように細胞浸透性であり得る。
【0062】
(0121)
有機分子のその他の有用な例には、アデノシン5’−ジホスフェートADP、アデノシン5’−トリホスフェートATP、アデノシン5’−モノホスフェートAMP、アミノ酪酸、L−グルタミン酸、環状アデノシン5’−ジホスフェートリボース、アデノシン3’,5’−環状モノホスフェート、フルオレセイン、メチル−D−アスパラギン酸、チラミン、トリプトファン、4−アミノピリジン(4AP)、エピネフリン、ノルエピネフリン、ドーパミン、セロトニン(5ヒドロキシトリプタミン、5HT)、(RS)−(テトラゾール−5−イル)グリシン(TzGly)(強力なN−メチル−D−アスパルテート受容体(NMDA)アゴニスト)、テトラゾリル−α−アミノ−3−ヒドロキシ−5−メチル−4−イソキサゾールプロプリオン酸((テトラゾール−5−イル)AMPA)、カフェイン及びニコチンが含まれる。
【0063】
(0122)
本発明において、有機分子配位子グルタメート、γ−アミノ酪酸(GABA)、アラニナート、グリシナート等は、可視光への曝露後に光解離性化合物から光放出されることが実証されている。このような光解離性化合物は、水に加えて溶液中で安定である。−NH2基又は−COOH基を有する有機分子は、水以外の溶媒、例えばアルコール(例えば、メタノール、エタノール)、アセトン等中に放出され得る。
本発明の有機分子には、リン原子がRuと結合を形成する−PR2基を有するリン誘導体が含まれ、Rは独立して−H、−C1〜C18アルキル又はアリールである。例示的なリン誘導体には、ジメチルホスフィニル、ジエチルホスフィニル及びジフェニルホスフィニルが含まれる。
本発明の有機分子には、硫黄原子がRuと結合を形成する−SR基を有する硫黄誘導体が含まれ、Rは独立して−H、−C1〜C18アルキル又はアリールである。例示的な硫黄誘導体には、イソプロピルβ−D−1−チオガラクトピラノシド(IPTG)、チオエーテル、チオレート、メチルチオ、エチルチオ及びフェニルチオが含まれる。
【0064】
(0125)
一般に、本光解離性化合物で有用な標識分子の実例には多様な物質が含まれ、例えば、非限定的な例として蛍光基、生物発光基、化学発光基、比色基又は放射性基を有する分子である。
蛍光分子は、ボディパイ、ダンシル、フルオレセイン、ローダミン、テキサスレッド、シアニン染料、ピレン、クマリン、カスケードブルー(登録商標)、パシフィックブルー、マリナブルー、オレゴングリーン、4’,6−ジアミジノ−2−フェニルインドール(DAPI)、インドピラ(indopyra)染料、ルシファーイエロー、ヨウ化プロピジウム、ポルフィリン、アルギニン並びにこれらの変化形及び誘導体から選択することができる。蛍光標識部分及び蛍光技法に関する更なる情報については、例えばRichard P.HaughlandのHandbook of Fluorescent Probes and Research Chemicals(第6版、Molecular Probes、1996)を参照のこと。この文献は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
L2がL1以外である式I〜III及びV〜VIIIで示される光解離性化合物は、約モル当量のRu(bdt)2Cl2(bdtは、式I〜IIIにおいて定義されるようなR1〜R8基、又は式V〜VIIIで定義されるようなR1〜R4基で置換されるビピリジン又はフェナントロリンである)を約モル当量の有機又は標識分子と、還流している水、エタノール、メタノール、イソプロピルアルコール、エチレングリコール、アセトン、塩化メチレン又はこれらの混合物中、窒素下で反応させることによって生成することができる。約4〜約8時間後、得られた溶液を冷却し、そこに少なくとも約当量のL2を添加する。得られた混合物を還流下で約4〜約20時間に亘って加熱する。室温にまで冷却後、得られた溶液を水で希釈し、そこに過剰量のNH4PF6を添加する。得られた沈殿物を濾過し、シリカゲルクロマトグラフィで精製し、乾燥させ、アセトンに溶解させる。(n−Bu)4NH4+X(Xは、式I〜III及びV〜VIIIで定義される)をこのアセトン溶液に添加し、L2がL1以外である得られた式I〜III及びV〜VIIIで示される光解離性化合物を濾過する。
【0065】
(0128)
L2がL1である式I〜III及びV〜VIIIで示される光解離性化合物は、約モル当量のRu(bdt)2Cl2(bdtは、式I〜IIIIで定義されるようなR1〜R8基、又は式V〜VIIIで定義されるようなR1〜R4基で置換されるビピリジン又はフェナントロリンである)を過剰量の有機又は標識分子と、還流している水、エタノール、メタノール、イソプロピルアルコール、エチレングリコール、アセトン、塩化メチレン又はこれらの混合物中、窒素下で反応させることによって生成することができる。約4〜約8時間後、得られた溶液を室温にまで冷却する。得られた混合物を水で希釈し、そこに過剰量のNH4PF6を添加する。得られた沈殿物を濾過し、シリカゲルクロマトグラフィで精製し、乾燥させ、アセトンに溶解させる。(n−Bu)4NH4+X(Xは、式I〜III及びV〜VIIIで定義される)をこのアセトン溶液に添加し、L2がL1である得られた式I〜III及びV〜VIIIの光解離性化合物を濾過する。
【0066】
(0129)
M2がRuの式IVの光解離性化合物は、約1モル当量の(M1)3[M2(CN)5NH3]2H2O(M1は、式IVで定義される)を、約10モル当量の有機分子を含有する約15mLのアルゴン脱酸素化されたエタノール/水(1:1)中に溶解させることによって得られる。得られた混合物をアルゴン下、ほぼ室温で約1時間に亘って維持し、真空下、ほぼ室温で約1mLの体積にまで濃縮する。得られた濃縮物に冷たいM1Iの飽和エタノール溶液を添加すると、M2がRuの式IVの光解離性化合物の沈殿が起き、この沈殿物をエタノール及びジエチルエーテルで洗浄する。
本発明に関し、光放出は一般に、適当な波長の可視光への曝露に続いて急速に、例えば約数ナノ秒〜約500ミリ秒(Salierno et al.,J Inorg Biochem.2010 104(4):418-22を参照のこと)後に起き得る。有機分子又は標識分子を光解離性化合物から効果的に光放出させるための光の適切な波長は、約300〜約500nm、約300〜約360nm又は約450〜約500nm(例えば、473nm)に及び、最高700nmにまで拡張され得る。適切な光源には、適当な波長の光を照射可能なものが含まれ、例えば市販のタングステンランプ(Cole-Parmer社)、アークランプ、キセノン連続ランプ、レーザー(例えば、青色又は緑色のレーザー)又はフォトオプティック光源であるが、これらに限定されない。このような光源は市販である(CrystaLaser社、リノ、ネバダ州、Lasever社、江東区、寧波、中国)。必要に応じて又は望ましいならば、その他の形態の光(太陽光、赤外光、パルス赤外光、紫外光等)も本発明に使用することができる。
【0067】
(0131)
光解離性化合物を光(特には可視光又は赤外光)に曝露するのに適した装置及びシステムには更に、イメージングプローブ、イメージングカテーテル及び光ファイバープローブ、特にはU.UtzingerらのJ.Biomed.Optics,8(1):121−147(2003)及びFujimotoらのPhotonic Materials,Devices and Systems−Laser Medicine and Medical Imaging Group,RLE Progress Report 144,pp27−1〜27−35に記載され且つ市販のグラジエントインデックス又はグレーデッドインデックス(GRIN)レンズを備えたものが含まれる(Sp3 plus社、英国)。光解離性化合物の曝露による有機分子又は標識分子の光放出に適した光は、約300〜約500nm、約300〜約360nm又は約450〜約500nmの波長を含む。適切な光には可視光又は赤外光が含まれる。
【0068】
(0132)
更に、本発明において、有機分子又は標識分子を、1光子又は2光子光分解によって光解離性化合物から放出させることもできる。2光子励起を利用する光学メモリは、例えばStrickler and WebbのOptics Letters,16:1780−1782(1991)に記載される。2光子励起の特徴は、焦点外のバックグラウンドの排除である(例えば、W.Denk et al.,1990,Science,248:73−76を参照のこと)。したがって、2光子アンケージングによって、有機分子又は標識分子を焦点面においてのみ放出させることができる(例えば、W.Denk et al.,1994,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,91:6629−6633を参照のこと)。
ある実施形態において、本発明は、有機分子が4−APである式Iの化合物を含む。別の実施形態において、本発明は、有機分子がTzGlyである式Iの化合物を含む。別の実施形態において、本発明は、有機分子が(テトラゾール−5−イル)AMPAである式Iの化合物を含む。別の実施形態において、本発明は、有機分子がニコチン又はカフェインである式Iの化合物を含む。別の実施形態において、本発明は、有機分子がセロトニン、エピネフリン、ノルエピネフリン又はドーパミンである式Iの化合物を含む。別の実施形態において、本発明は、有機分子がアデノシン5’−ジホスフェートADP、アデノシン5’−トリホスフェートATP、アデノシン5’−モノホスフェートAMP、環状アデノシン5’−ジホスフェートリボース又はアデノシン3’,5’−環状モノホスフェートである式Iの化合物を含む。別の実施形態において、本発明は、有機分子がアミノ酪酸又はL−グルタミン酸又はメチル−D−アスパラギン酸である式Iの化合物を含む。
【0069】
(0134)
ある実施形態において、本発明は、有機分子が4−APである式II又は式IIIの化合物を含む。別の実施形態において、本発明は、有機分子がTzGlyである式IIの化合物を含む。別の実施形態において、本発明は、有機分子が(テトラゾール−5−イル)AMPAである式IIの化合物を含む。別の実施形態において、本発明は、有機分子がニコチン又はカフェインである式IIの化合物を含む。別の実施形態において、本発明は、有機分子がセロトニン、エピネフリン、ノルエピネフリン又はドーパミンである式IIの化合物を含む。別の実施形態において、本発明は、有機分子がアデノシン5’−ジホスフェートADP、アデノシン5’−トリホスフェートATP、アデノシン5’−モノホスフェートAMP、環状アデノシン5’−ジホスフェートリボース又はアデノシン3’,5’−環状モノホスフェートである式IIの化合物を含む。別の実施形態において、本発明は、有機分子がアミノ酪酸、L−グルタミン酸又はメチル−D−アスパラギン酸である式IIの化合物を含む。
【0070】
(0135)
ある実施形態において、本発明は、有機分子が4−APである式IVの化合物を含む。別の実施形態において、本発明は、有機分子がTzGlyである式IVの化合物を含む。別の実施形態において、本発明は、有機分子が(テトラゾール−5−イル)AMPAである式IVの化合物を含む。別の実施形態において、本発明は、有機分子がニコチン又はカフェインである式IVの化合物を含む。別の実施形態において、本発明は、有機分子がセロトニン、エピネフリン、ノルエピネフリン又はドーパミンである式IVの化合物を含む。別の実施形態において、本発明は、有機分子がアデノシン5’−ジホスフェートADP、アデノシン5’−トリホスフェートATP、アデノシン5’−モノホスフェートAMP、環状アデノシン5’−ジホスフェートリボース又はアデノシン3’,5’−環状モノホスフェートである式IVの化合物を含む。別の実施形態において、本発明は、有機分子がアミノ酪酸、L−グルタミン酸又はメチル−D−アスパラギン酸である式IVの化合物を含む。
【0071】
(0136)
ある実施形態において、本発明は、有機分子が4−APである式Vの化合物を含む。別の実施形態において、本発明は、有機分子がTzGlyである式Vの化合物を含む。別の実施形態において、本発明は、有機分子が(テトラゾール−5−イル)AMPAである式Vの化合物を含む。別の実施形態において、本発明は、有機分子がニコチン又はカフェインである式Vの化合物を含む。別の実施形態において、本発明は、有機分子がセロトニン、エピネフリン、ノルエピネフリン又はドーパミンである式Vの化合物を含む。別の実施形態において、本発明は、有機分子がアデノシン5’−ジホスフェートADP、アデノシン5’−トリホスフェートATP、アデノシン5’−モノホスフェートAMP、環状アデノシン5’−ジホスフェートリボース又はアデノシン3’,5’−環状モノホスフェートである式Vの化合物を含む。別の実施形態において、本発明は、有機分子がアミノ酪酸、L−グルタミン酸又はメチル−D−アスパラギン酸である式Vの化合物を含む。
【0072】
(0137)
ある実施形態において、本発明は、有機分子が4−APである式VIの化合物を含む。別の実施形態において、本発明は、有機分子がTzGlyである式VIの化合物を含む。別の実施形態において、本発明は、有機分子が(テトラゾール−5−イル)AMPAである式VIの化合物を含む。別の実施形態において、本発明は、有機分子がニコチン又はカフェインである式VIの化合物を含む。別の実施形態において、本発明は、有機分子がセロトニン、エピネフリン、ノルエピネフリン又はドーパミンである式VIの化合物を含む。別の実施形態において、本発明は、有機分子がアデノシン5’−ジホスフェートADP、アデノシン5’−トリホスフェートATP、アデノシン5’−モノホスフェートAMP、環状アデノシン5’−ジホスフェートリボース又はアデノシン3’,5’−環状モノホスフェートである式VIの化合物を含む。別の実施形態において、本発明は、有機分子がアミノ酪酸、L−グルタミン酸又はメチル−D−アスパラギン酸である式VIの化合物を含む。
【0073】
(0138)
ある実施形態において、本発明は、有機分子が4−APである式VIIの化合物を含む。別の実施形態において、本発明は、有機分子がTzGlyである式VIIの化合物を含む。別の実施形態において、本発明は、有機分子が(テトラゾール−5−イル)AMPAである式VIIの化合物を含む。別の実施形態において、本発明は、有機分子がニコチン又はカフェインである式VIIの化合物を含む。別の実施形態において、本発明は、有機分子がセロトニン、エピネフリン、ノルエピネフリン又はドーパミンである式VIIの化合物を含む。別の実施形態において、本発明は、有機分子がアデノシン5’−ジホスフェートADP、アデノシン5’−トリホスフェートATP、アデノシン5’−モノホスフェートAMP、環状アデノシン5’−ジホスフェートリボース又はアデノシン3’,5’−環状モノホスフェートである式VIIの化合物を含む。別の実施形態において、本発明は、有機分子がアミノ酪酸、L−グルタミン酸又はメチル−D−アスパラギン酸である式VIIの化合物を含む。
【0074】
(0139)
ある実施形態において、本発明は、標識分子がローダミンである式I〜III及びV〜VIIIの化合物を含む。別の実施形態において、本発明は、標識分子がフルオレセインである式I〜III及びV〜VIIIの化合物を含む。別の実施形態において、本発明は、標識分子がヨードエオシンである式I〜III及びV〜VIIIの化合物を含む。別の実施形態において、本発明は、標識分子が、窒素原子がRuと結合を形成する−CN基を有する蛍光分子である式I〜III及びV〜VIIIの化合物を含む。別の実施形態において、本発明は、標識分子が、窒素原子がRuと結合を形成するピリジル基を有する蛍光分子である式I〜III及びV〜VIIIの化合物を含む。別の実施形態において、本発明は、標識分子が、窒素原子がRuと結合を形成するアミノ基を有する蛍光分子である式I〜III及びV〜VIIIの化合物を含む。別の実施形態において、本発明は、標識分子が、窒素原子がRuと結合を形成するホスフィン基を有する蛍光分子である式I〜III及びV〜VIIIの化合物を含む。
【0075】
(0140)
別の実施形態において、本発明は、標識分子が、窒素原子がRuと結合を形成する−CNを有するローダミンである式I〜III及びV〜VIIIの化合物を含む。別の実施形態において、本発明は、標識分子が、窒素原子がRuと結合を形成するピリジル基を有するローダミンである式I〜III及びV〜VIIIの化合物を含む。別の実施形態において、本発明は、標識分子が、窒素原子がRuと結合を形成するアミノ基を有するローダミンである式I〜III及びV〜VIIIの化合物を含む。別の実施形態において、本発明は、標識分子が、窒素原子がRuと結合を形成するホスフィン基を有するローダミンである式I〜III及びV〜VIIIの化合物を含む。
【0076】
(0141)
式I〜III及びV−VIIIの化合物の一部の実施形態において、L2は、
【化19】
(RhodB−MAMePy)又はその塩化物塩(RhodB−MAMePy−Cl)である。
【0077】
(0142)
式I〜III及びV〜VIIIの化合物の一部の実施形態において、L2は、
【化20】
(Rhod6G−MAMePy)又はその塩化物塩(Rhod6G−MAMePy−Cl)である。
【0078】
(0143)
一部の実施形態において、標識分子又はその活性誘導体は、他の配位基−NH2、ピリジル又はホスフィン基を介してRuにRuに結合される。
光解離性化合物の一部の実施形態において、L2は標識分子又はその活性誘導体を含み、光アンテナとしての役割を果たし、また部分L1の光放出をもたらす化合物の部位にエネルギーを移行させることができる。このようにして集光は化学的放出工程から切り離され、両方の過程についての直交する化学的戦略が可能になる。したがって、一部の実施形態において、光解離性化合物は2つの機能を有し、1つ目は光アンテナであること、2つ目は光放出実体であることである。
一態様において、光解離性化合物を、組み合わせた化学的戦略において使用することができる。例えば、分子の光放出部において一連の体系的な誘導体を生成し、それらを使用して大規模なスクリーニングを行うことができる。あるいは又はそれに加えて、光アンテナ部分の誘導体化を行いながら分子の光放出部を固定することができる。
別の態様において、光解離性化合物の磁気及び/又は放射線不透過特性を、生細胞中でのその同定又は操作の手段として使用する。1つのこのような実施形態において、光解離性化合物は、MRI(磁気共鳴画像法)の造影剤として使用される。
【0079】
(0147)
L2が、フルオロフォア又はその誘導体等の標識分子を含む場合、L2はアンテナの役割を果たし、光照射スペクトルを極めて高い吸収率及び効率でもってより低いエネルギーに拡大することができる。特定の実施形態において、蛍光染料は非放出性配位子(すなわち、ホスフィン)を使用した誘導体化を通じて結合される(:P(R)2−フルオロフォア)。これらの実施形態において、光は、アンテナとして機能する蛍光部分によって集められ、Ru中心に移動させられ、MLCT又はd−d励起状態をポピュレートする。一旦励起状態に達したら、もう一方の配位子(すなわち、生体分子又は薬剤になり得るL1)が放出される。
この場合、活性波長がRu中心によってではなく蛍光染料の高い吸収(約100000M-1cm-1)によって決定されるという事実は、異なる光アンケージング性成分を有する異なる錯体の異なる波長(400〜600nm)での調整を可能にし、直交性が得られる。
【0080】
(0149)
配位している蛍光染料(すなわち、標識分子)に隣接させての適切な有機染料のルテニウムへの配位は、その近接性によって蛍光の選択的なクエンチングを可能にする。この場合、Ru−bpyMLCTバンドを介した光の吸収(アンテナ効果なし。蛍光は近接する非蛍光染料によってクエンチされる)は、蛍光染料を光放出させて蛍光を劇的に増大させ、またフルオロフォアを「アンケージング」することができる。あるいは、非蛍光クエンチャを光放出することができ、ある程度同様の結果が得られる(しかしながら、条件によっては、金属中心の存在がフルオロフォアをクエンチし得る)。
更に、本発明において、R1とR2とが及び/又はR3とR4とが組み合わさって1つ以上のオキソ基で置換される環状炭素を形成する式V〜VIIIの化合物は表面に結合することができ、また表面への化合物の送達に有用である。例えば、このような化合物はナノ粒子又はナノ粉末に結合することができ、また生物学的に活性な有機分子又は標識分子の送達に使用することができる。ナノスケールの送達系には、薬剤の制御されたターゲット輸送において数多くの用途がある。薬剤を、特定の表面官能化がなされたナノ粒子によって選択的にターゲット細胞にまで運ぶことができる。ナノ粒子は、細胞膜を貫通し、また生物の生理学的障壁を乗り越えることができ、またナノ粒子は、薬剤の溶解性及びバイオアベイラビリティを改善することもできる。
【0081】
(0151)
別の実施形態において、本発明は、有機分子の溶解性を向上させる方法を提供し、この方法は、有機分子を光解離性ケージング基に錯化させることによって光解離性化合物を生成することを含み、十分な条件下での化合物の光への曝露によって、有機分子は化合物から放出される。ある実施形態において、この有機分子は、
(i)環員の1つがRuと結合を形成する窒素原子である5員単環式芳香環、
(ii)環員の1つがRuと結合を形成する窒素原子である6員単環式芳香環、
(iii)2環式環の1つが芳香族であり且つRuと結合を形成する窒素原子員を有する8〜10員2環式環、
(iv)窒素原子がRuと結合を形成する−NH2基、
(v)酸素原子の1つがRuと結合を形成する−COOH基、
(vi)リン原子がRuと結合を形成し、Rが独立して−H、−C1〜C18アルキル若しくはアリールである−PR2基、又は
(vii)硫黄原子がRuと結合を形成し、Rが独立して−H、−C1〜C18アルキル若しくはアリールである−SR基
を有する。
【0082】
(0152)
ある実施形態において、本発明は、有効量の光解離性化合物と生理学的に許容可能な担体、ビヒクル、希釈剤又は賦形剤を含む組成物を含む。適切な担体、ビヒクル、希釈剤又は賦形剤は当業者に公知であり、また本明細書に記載されるように生理学的に無菌の生理食塩水その他が含まれるが、これらに限定されない。
【0083】
(0153)
別の実施形態において、本発明は、光解離性化合物を格納している容器を提供する。この容器は更に生物試料を格納し得て、この試料は、例えば毛髪、臓器標本、組織又は細胞(例えば、神経組織、神経細胞)、腫瘍、がん若しくは新生物組織又は細胞、患者若しくは関心の対象から除去した組織又は細胞である。例えばミクロトームで切片にした組織標本は、適切な生物試料の例である。
光解離性化合物を構成している有機分子又は標識分子の放出に使用する波長の光を透過可能であり且つ光解離性化合物を懸濁させる溶媒に対して不活性であるいずれのタイプの容器も使用に適している。例えば、この容器を、ガラス、プラスチック、アクリル、石英、貴金属等で形成することができる。加えて、この容器を金属(例えば、アルミニウム、チタン、ステンレススチール)で構成する又は金属で覆う場合、光への曝露は容器の上部から又は容器に開いた「窓(window)」若しくはその他の光が通過可能な開口部を通じて行われる。固体様の材料の場合は、例えばアクリル樹脂又はアクリルアミド/ビスアクリルアミドゲル等を、光解離性化合物を入れる媒質として使用することができる。例えば、アクリルのCHCl3溶液及びRu(bpy)錯体を使用して調製したアクリル樹脂コーティングは光照射後にそのスペクトルを変化させて固体状態での光放出を可能にした。本発明のこのような固体状態の態様に関して、温度は4Kに維持され得る。
【0084】
(0155)
光解離性化合物を入れて光に曝露可能な適切な溶媒には、水性溶媒、水、アセトニトリル、アルコール(例えば、メタノール、エタノール)、アセトン、塩素化溶媒(CH2Cl2、CHCl3等)又はジメチルスルホキシドが含まれる。
光解離性化合物を光に曝露する適切な温度は一般に約0℃から約100〜150℃に及ぶ。
別の実施形態において、本発明は、有機分子又は標識分子を光解離性化合物から放出させる方法を含む。この方法は、光解離性化合物を、有機分子又は標識分子を化合物から放出させるのに十分な条件下で光に曝露させることを含む。この方法において、光は、約300〜約500nm、約300〜約360nm又は約450〜約500nmの波長を含む。更に、曝露は、約0〜約150℃の温度で起き得る。ある実施形態において、本発明の方法は、光解離性化合物(例えば、式I〜VIIIの化合物)、約300〜約500nmの波長の光、L2であるL1及び約0〜約150℃の温度を含む。別の実施形態において、この方法は、光解離性化合物、約300〜約360nmの波長の光、L2であるL1及び約0〜約150℃である温度を含む。別の実施形態において、この方法は、光解離性化合物、約450〜約500nmの波長の光、L2であるL1及び約0〜約150℃の温度を含む。別の実施形態において、この方法は、光解離性化合物、可視光又は赤外光、L2であるL1及び約0〜約150℃の温度を含む。
【0085】
(0158)
ある実施形態において、本発明は有機分子をアッセイする方法を含み、この方法は、光解離性化合物及び生物試料を、有機分子を光解離性化合物から放出させるのに十分な条件下で光に曝露し、(b)この有機分子の生物試料への作用を確認することを含む。この試料は生物試料であり得て、例えば患者の身体から切除、除去又は別の形で採取された試料である。患者の生物試料は、例えば毛髪試料、(例えば、生検、剖検によって得られた)臓器若しくは組織試料又は細胞試料であり得る。加えて、生物試料は、体液試料であり得る。体液試料には、血液、血清、血漿、リンパ液、唾液、痰、涙液、精液又は尿が含まれるが、これらに限定されない。生物試料には更に、脳組織、脳細胞、筋組織、筋細胞、筋線維、線維芽細胞、身体のいずれかの臓器から得た組織切片又は微細組織標本、筋小胞体、皮膚組織、膜標本又はフラグメント等が含まれ得るが、これらに限定されない。
【0086】
(0159)
本発明の方法による化合物を曝露させるための光は、太陽光、フォトオプティック光又はレーザー光であり得る。有利には、本発明の方法において、化合物の曝露のための光は、紫外線以外である。したがって、例えば、光は可視光又は赤外光であり得て、1光子光及び2光子光が含まれる。光は多様な光源から放射することができ、レーザー光源、タングステン光源、フォトオプティック光源等が含まれるが、これらに限定されない。本発明の化合物の曝露又は光照射のための可視光の別の利点は、簡便性及び例えば化合物を導入する試料を観察し、また可視光への曝露後に化合物から光放出される配位子を顕微鏡で可視化する又はモニタするために可視光顕微鏡を使用できることに関係する。多くの顕微鏡は紫外光を透過しないことから、本発明において非石英系顕微鏡を使用できることは有利である。可視光を使用する更に別の利点は、可視光が生細胞及び組織に有害ではないことであり、患者の体内での使用に有益である。加えて、患者に使用する場合、光を、光解離性化合物を導入する又は投与するエリアにレーザー技術、ファイバー、プローブ、チューブ等の使用によって特異的に指向させることができる。このようなプローブ、ファイバー又はチューブを、例えば体腔若しくは開口部内へと又は経皮的に直接挿入して光解離性化合物を光に曝露させることができる。
【0087】
(0160)
その別の実施形態において、本発明は、有機分子を患者にバイオアベイラブルにする方法を含む。有機分子を、患者の局所的な身体領域若しくはエリアに又は体全体に全身的にバイオアベイラブルにすることができる。光解離性化合物の局所的なバイオアベイラビリティは、例えば光解離性化合物の直接投与(例えば、体腔若しくは開口部内に又は経皮的に挿入する)を可能にする送達器具及び方法を介して達成される。本実施形態の方法は、光解離性化合物を患者に投与し、この化合物を、有機分子を化合物から放出させるのに十分な条件下で光に曝露することによって有機分子を患者に及び/又は患者の身体部位若しくは領域にバイオアベイラブルにすることを伴う。光への曝露は、プローブ、ファイバー、チューブ等の使用を含み得て、これらは光を、身体上又は身体内の目的とする領域に特異的に指向させることができる。あるいは、光解離性化合物を、暗所に留めておいた患者に投与することができる。有機分子を光放出させるために、患者を、光への曝露及び光放出が起きる明るい場所へと移動させることができる。本方法の実施形態において、有機分子は、
(a)環員の1つがRuと結合を形成する窒素原子である5員単環式芳香環、
(b)環員の1つがRuと結合を形成する窒素原子である6員単環式芳香環、
(c)2環式環の1つが芳香族であり且つRuと結合を形成する窒素原子員を有する8〜10員2環式環、
(d)窒素原子がRuと結合を形成する−NH2基、
(e)酸素原子の1つがRuと結合を形成する−COOH基、
(f)リン原子がRuと結合を形成し、Rが独立して−H、−C1〜C18アルキル若しくはアリールである−PR2基、又は
(g)硫黄原子がRuと結合を形成し、Rが独立して−H、−C1〜C18アルキル若しくはアリールである−SR基
を有する。
【0088】
(0161)
別の実施形態において、有機分子は、
(a)窒素原子の1つがRuと結合を形成するテトラゾリル基、
(b)ピリジル窒素原子がRuと結合を形成するニコチン若しくはカフェイン、
(c)2環式環の1つが芳香族であり且つRuと結合を形成する窒素原子員を有する8〜10員2環式環、
(d)窒素原子がRuと結合を形成する−NH2基、
(e)酸素原子の1つがRuと結合を形成する−COOH基
(f)リン原子がRuと結合を形成し、Rが独立して−H、−C1〜C18アルキル若しくはアリールである−PR2基、又は
(g)硫黄原子がRuと結合を形成し、Rが独立して−H、−C1〜C18アルキル若しくはアリールである−SR基
を有する。
【0089】
(0162)
関連する実施形態において、光解離性化合物は、上述したように有機分子(薬剤、医薬品、生物学的に活性である小分子等)の放出に有用である。有機分子の光解離性化合物からの放出によって、この有機分子は、疾患、障害、病態又は状態に苦しんでいる対象又は患者にバイオアベイラブルとなる。光解離性化合物及び有機分子は、動物及びヒト用の薬物において有用である。有機分子をバイオアベイラブルにすることによって治療、回復、軽減、排除、寛解又は予防する疾患、障害、病態又は状態については以下で更に説明するが、非限定的な例として、末梢及び中枢神経系障害、神経障害及びそれに関連した障害、神経変性障害及びこれに関連した障害、癲癇、発作、偏頭痛、頭痛、脳卒中、不安、鬱、限定された脳機能、嗜癖障害、神経症、精神病、掻痒状態、パーキンソン病、ハンチントン舞踏病、認知障害、記憶の欠落、アルツハイマー病、認知症、ジスキネジア、筋痙縮、網膜症、嘔吐、がん、新生物、腫瘍、血管疾患並びに心血管疾患が含まれる。
【0090】
(0163)
更に別の非限定的な例として、有機分子は、例えば神経変性若しくは神経疾患又は障害の治療で使用するための、カリウムチャンネルをブロックする神経化学物質である。特定の実施形態において、有機分子は4−APであり、これはカルシウムチャンネル阻害剤である。別の実施形態において、有機分子はTzGlyであり、これはNMDAより強力なNMDA受容体アゴニストである。一実施形態においては、本発明の有機分子をそれを必要とする患者にバイオアベイラブルとするために、光解離性化合物の光への曝露を、疾患、障害、病態又は状態の部位(腫瘍、新生物若しくはがんの病巣又は増殖部位等)で起こすことによって、有機分子を必要な位置で局所的に且つより精確に放出させることができる。別の実施形態においては、本発明の有機分子をそれを必要とする患者にバイオアベイラブルとするために、光解離性化合物の光への曝露を、血液疾患の部位で行わせることができる。
【0091】
(0164)
その他の関連する実施形態において、本発明は、有効量の光解離性化合物又は光解離性化合物を含む生理学的に許容可能な組成物を患者に投与して有機分子を患者にバイオアベイラブルとすることによる、治療、セラピー及び予防の方法を提供する。光解離性化合物を実質的に精製することができる(例えば、その効果を制限する又は望ましくない副作用を引き起こす物質を実質的に含有しない)。有利には、光解離性化合物を患者に投与する方法において、有機分子を光放出させてそれを患者にバイオアベイラブルにするための光(例えば、赤外光、レーザー光、可視光)を、フォトオプティックデバイス、プローブ及びファイバー(当該分野で公知であり、また上記のもの等)の使用によって、目的とする内部部位又は領域に指向させることができる。当業者は、光解離性化合物を患者に投与した後に光解離性化合物を光に曝露するために、器具を利用、操作及び内的に指向させることができる。
【0092】
(0165)
患者及び/又は疾患、障害、病態若しくは状態の治療、セラピー若しくは予防を含む本発明の方法において、患者は好ましくは動物であり、哺乳動物、例えばヒト、ヒト以外の霊長類、ウシ、ブタ、ウマ、ヤギ、ヒツジ、ウサギ、ニワトリ、ネコ、イヌ、モルモット、ラット、マウス等が含まれるが、これらに限定されない。本発明の方法は特にヒトの治療を含む。
様々な送達系が公知であり、また光解離性化合物の投与に使用することができ、例えば滅菌溶液の使用、リポソーム、ミクロ粒子、マイクロカプセル内へのカプセル化又は受容体依存性エンドサイトーシス(例えば、Wu and Wu,1987,J.Biol.Chem.,262:4429−4432を参照のこと)である。導入方法には、皮内、筋肉内、腹腔内、静脈内、皮下、鼻腔内、硬膜外、局所、経皮、非経口、くも膜下腔内、膣内、直腸内、結腸直腸内、経口、頭蓋内、後眼窩、胸骨内経路又はこれらの組み合わせが含まれるがこれらに限定されない。
【0093】
(0167)
光解離性化合物又は組成物は、簡便な経路又はモードで投与され得て、例えば持続注入、非持続注入、ボーラス投与、上皮又は粘膜皮膚を介した吸収(例えば、口腔粘膜、表皮、直腸粘膜、腸粘膜等)である。また、別の生物学的に活性である及び/又は治療用の薬剤と共に投与され得る。投与は全身的又は局所的であり得る。加えて、光解離性化合物又は組成物を中枢神経系にいずれの適切な経路で導入することも望ましく、脳室内及びくも膜下腔内投与が含まれる。脳室内投与は、例えばオマヤリザーバー(Ommaya reservoir)等のリザーバーに取り付けられた脳室内カテーテルによって促進され得る。例えば吸入器又は噴霧器の使用及びエアロゾル化剤による製剤によって肺から投与することもできる。
特定の実施形態においては、光解離性化合物又は組成物を、治療を必要とするエリアに局所的に投与することが望まれ得る。これは、例えば、手術中の局所注入、局所適用(例えば、手術後の創傷包帯と共に)、注射、カテーテル、坐薬又はインプラント(このインプラントは、シアラスティック(sialastic)膜等の膜又は繊維を含む、多孔性、非多孔性又はゼラチン様材料である)によって達成され得る。
【0094】
(0169)
局所投与を伴う別の実施形態においては、経皮吸収パッチを使用することができる。この実施形態において、光解離性化合物は、患者又は医療提供者が、光解離性化合物を含有しているそのパッチの全体又は一部を光に曝露するまで光に曝露されずに留められる。したがって、パッチを開封し、例えば患者が暗い部屋から明るい部屋へと又は暗いエリアから明るいエリアへと移動することによって、あるいは患者がパッチ全体又はその一部を直接、適切な光源に曝露することによって、あるいは患者がパッチ全体又はその一部を太陽光に曝露することによって、光への曝露後、生理活性分子を化合物から放出させる又は「活性化」させることができる。多様なタイプの経皮吸収パッチが公知であり、また当業者によって使用されている。あるいは、局所投与に関して、光解離性化合物を感光性組成物に調製することができ、この組成物は暗い遮光コンテナに格納され、目的とするエリアに暗所で局所的に適用される(例えば、患者の皮膚に塗布される又は擦り込まれる)。暗所での局所適用に続いて、目的とするエリアを光又は適当な光源に曝露する、あるいは患者が明るい場所へと移動することによって、光解離性化合物の有機分子を放出させる。
【0095】
(0170)
別の実施形態においては、光解離性化合物又は組成物を、小胞、特にはリポソームに入れて送達することができる(例えば、Langer,1990,Science,249:1527−1533、Treat et al.,Liposomes in the Therapy of Infectious Disease and Cancer,Lopez−Berestein and Fidler(eds.),Liss,New York,pp.353−365(1989)、Lopez−Berestein、同書pp.317−327を参照のこと。広く同書を参照のこと)。更に別の実施形態においては、光解離性化合物又は組成物を、制御放出系で送達することができる。例えば、ポンプを使用し得る(上記のLanger、Sefton,1987,CRC Crit.Ref.Biomed.Eng.14:201、Buchwald et al.,1980,Surgery,88:507、Saudek et al.,1989,NEJM,Med.321:574(1989)を参照のこと)。あるいは、高分子材料を使用することができる(例えば、Medical Applications of Controlled Release,Langer and Wise(eds.),CRC Press,Boca Raton,Fla.(1974)、Controlled Drug Bioavailability,Drug Product Design and Performance,Smolen and Ball(eds.),Wiley,New York(1984)、Ranger and Peppas,1983,J.Macromol.Sci.Rev.Macromol.Chem.,23:61、Levy et al.,1985,Science,228:190、During et al.,1989,Neurol.,25:351、Howard et al.,1989,J.Neurosurg.,71:105を参照のこと)。更に、制御放出系を、治療ターゲット(例えば、脳)の近傍に置くことができるため、全身量の一部しか必要としない(例えば、Goodson,1984,Medical Applications of Controlled Release,Vol.2,pp.115−138を参照のこと)。更なる指針については、その他の制御放出系がLanger,1990,Science,249:1527−1533に記載されている。
【0096】
(0171)
光解離性化合物はまた、例えば治療薬としての使用のために、薬学的に許容可能な担体、希釈剤、賦形剤又はビヒクルを含む医薬組成物中に有効量で提供される。一実施形態において、用語「薬学的に許容可能な(pharmaceutically acceptable)」は、連邦政府若しくは州政府の規制当局によって承認されていること又は動物、特にはヒトにおける使用に関して米国薬局方若しくはその他の一般的に認められている薬局方に記載されていることを意味する。用語「ビヒクル(vehicle)、担体(carrier)又は賦形剤(excipient)」とは、治療薬を含んで、又は治療薬と共に投与される希釈剤又はアジュバントのことである。このような医薬担体、ビヒクル又は賦形剤は、無菌の液体(水、油等。石油、動物、植物又は合成由来のもの、例えば落花生油、ダイズ油、鉱油、ゴマ油等が含まれる)になり得る。医薬組成物が静脈内投与され且つ水溶性である場合、好ましい担体は水である。生理食塩水並びにデキストロース及びグリセロール水溶液も液体担体として、特には注射剤用に使用することができる。適切な医薬賦形剤には、デンプン、グルコース、ラクトース、スクロース、ゼラチン、麦芽、米、小麦粉、チョーク、シリカゲル、ステアリン酸ナトリウム、モノステアリン酸グリセロール、タルク、塩化ナトリウム、乾燥脱脂乳、グリセロール、プロピレン、グリコール、水、エタノール等が含まれる。必要な、又は望ましい場合、本発明の組成物は、少量の湿潤剤、乳化剤又はpH緩衝剤も含有し得る。
【0097】
(0172)
本発明の光解離性化合物及び組成物を、溶液、懸濁液、エマルション、錠剤、丸薬、カプセル、粉末、徐放性製剤等に調製することができる。組成物を、トリグリセリド等の伝統的なバインダ及び担体を使用して坐薬として製剤することができる。経口製剤は、医薬品グレードのマンニトール、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、セルロース、炭酸マグネシウム等の標準的な担体を含むことができる。適切な医薬担体等の例は、E.W.MartinのRemington’s Pharmaceutical Sciencesの最新版に記載されている。このような組成物は通常、治療有効量の好ましくは精製された形態の光解離性化合物を、患者に正しく投与するための剤形を得るための適切な量の担体と共に含有する。製剤は、投与方法に適合していなければならない。
【0098】
(0173)
別の実施形態において、本発明の光解離性化合物は、ヒトへの静脈内投与に適合した医薬組成物として定法に従って製剤される。典型的には、静脈内投与のための組成物は、無菌の等張水性緩衝液中の溶液である。必要に応じて、組成物は可溶化剤及び注射部位の痛みを緩和するためのリドカイン等の局所麻酔薬も含み得る。一般に、成分は、例えば凍結乾燥粉末又は密封コンテナ内の無水濃縮物(活性薬剤の量を表示したアンプル又はサシェ等)として別々に供給される又は単位剤形内で混合される。組成物を注入によって投与する場合、組成物を、無菌の医薬品グレードの水又は生理食塩水の入った点滴ボトルで投薬することができる。組成物を注射によって投与する場合は、投与に先立って成分を混合し得るように、無菌の注射用水又は生理食塩水のアンプルが提供され得る。治療を目的として投与する場合の組成物の無菌性は、除菌濾過膜(例えば、0.2ミクロンの膜)を介した濾過によって容易に達成される。治療薬は一般に、無菌のアクセスポートを有するコンテナ(例えば、皮下注射針を刺すことができる、ストッパーを有する静脈点滴用の薬液バッグ又はバイアル)に入れられる。治療薬は典型的には、1回分又は複数回分が入るコンテナ内(例えば、密封アンプル又はバイアル)に水溶液又は再構成用の凍結乾燥製剤として貯蔵される。必要に応じて、アンプル又はバイアルは本質的に光不透過性である。凍結乾燥治療製剤の例としては、10mlのバイアルに5mlの除菌濾過した1%(w/v)治療薬水溶液を充填し、得られた混合物を凍結乾燥させる。注入溶液は、この凍結乾燥させた治療薬を静菌性注射用水を使用して再構成することによって調製される。
【0099】
(0174)
有機分子の使用及び生理活性に関連した特定の疾患、状態、病態又は障害の治療、回復、軽減、排除、阻害又は予防において効果的な光解離性化合物の量は、標準的な臨床技法によって求めることができる。本発明の光解離性化合物の「有効量(effective amount)」又は「薬学的な有効量(pharmaceutically effective amount)」とは、化合物の使用対象である疾患、状態、病態又は障害の治療、回復、軽減、寛解、排除、予防に効果的な量のことである。特定の実施形態において、有効量は、本発明の有機分子を患者にバイオアベイラブルにするのに効果的な量である。別の治療薬を光解離性化合物と共に使用する場合、この治療薬の有効量とは、治療薬の治療効果を得るのに効果的な量のことである。製剤で採用する精確な用量は投与経路、また個々の患者の事情(患者の年齢、保健及び人口動態統計(health and vital statistics)、疾患、状態又は障害の重篤度等)にも左右される。投薬は、患者の評価、患者の生理学的状況及び病歴についての考察に基づいた医師の判断に従って決定されるべきである。加えて、インビトロのアッセイを任意で行うことによって、最適な用量範囲の決定を支援し得る。有効用量は、インビトロ又はインビボの動物モデル試験系から得られる用量反応曲線から推定することができる。
【0100】
(0175)
一般に、非経口的に投与される光解離性化合物の1回あたりの総有効量は、患者の体重に対して約1μg/kg/日〜10mg/kg/日の範囲である。ただし、上述したように、この量は、患者の状態及び上記の変数に基づいて判断される。治療量は、特にヒトへの投与の場合、少なくとも0.01mg/kg/日又は約0.01〜1mg/kg/日にもなり得る。連続的に投与する場合、治療薬は典型的には約1μg/kg/時間〜約50μg/kg/時間の投薬速度で1日あたり1〜4本の注射又は例えばミニポンプを使用した持続皮下注入によって投与される。静脈点滴バッグ薬液も使用し得る。変化を観察するのに必要な治療期間及び治療に続いて応答が起きるまでの間隔は、望む作用に応じて異なり得る。一部の実施形態において、適切な有効投薬量は約4時間毎に約10μg〜約2500mgである。ただし量は典型的には約100mg以下である。一実施形態において、光解離性化合物の有効用量は約4時間毎に約0.01mg〜約100mgである。別の実施形態において、本発明の化合物の有効用量は、約4時間毎に約0.020mg〜約50mgであり、別の実施形態においては約4時間毎に約0.025mg〜約20mgである。有効投薬量とは、投与される総量のことである。このため、2種以上の光解離性化合物を投与する場合、有効投薬量は投与される総量に相当する。
【0101】
(0176)
別の実施形態において、光解離性化合物を生物試料とインビトロで接触させる場合、有効量は典型的には薬学的に許容可能な担体、希釈剤若しくは賦形剤の溶液又は懸濁液の約0.01μg/L〜約5mg/Lであり、別の実施形態においては約0.01μg/L〜約2.5mg/Lであり、別の実施形態においては約0.01μg/L〜約0.5mg/Lであり、更に別の実施形態においては約0.01μg/L〜約0.25mg/Lである。ある実施形態において、溶液又は懸濁液の体積は約1μL〜約1mLであり、別の実施形態において、溶液又は懸濁液の体積は約200μLである。
【0102】
(0177)
光解離性化合物及び光放出された有機分子を使用して治療、回復、軽減、寛解、排除、阻害、予防及び/又は診断できる新生物性若しくは過剰増殖性疾患、障害、病態又は状態の例には、結腸、腹部、骨、乳房、消化器系、食道、肝臓、膵臓、腹膜、内分泌腺(副腎、副甲状腺、下垂体、精巣、卵巣、子宮頚部、胸腺、甲状腺)、目、頭頸部、神経(中枢神経、末梢神経)、リンパ系、骨盤、皮膚、軟組織、脾臓、胸郭領域、膀胱及び泌尿生殖器系に位置する新生物(がん又は腫瘍)が含まれるが、これらに限定されない。光解離性化合物を使用して治療し得るがんには、濾胞性リンパ腫、p53が遺伝子変異した細胞腫及びホルモン依存性腫瘍が含まれ、結腸がん、心臓腫瘍、膵がん、メラノーマ、網膜芽細胞腫、神経膠芽腫、肺がん、腸がん、精巣がん、胃がん、神経芽細胞腫、粘液腫、筋腫、リンパ腫、内皮腫、骨芽細胞腫、骨巨細胞腫、軟骨肉腫、アデノーマ、乳がん、前立腺がん、カポジ肉腫、卵巣がん又はこれらの転移が含まれるが、これらに限定されない。自己免疫疾患、障害又は状態は光解離性化合物で治療され得て、また多発性硬化症、シェーグレン症候群、橋本甲状腺炎、胆汁性肝硬変、ベーチェット病、クローン病、多発性筋炎、全身性エリテマトーデス、免疫に関連した糸球体腎炎、関節リウマチ、虚血障害(例えば、心筋梗塞、脳卒中及び再潅流障害によって引き起こされる)、肝損傷(例えば、肝炎に関連した肝損傷、虚血/再潅流障害、胆汁うっ滞(cholestosis)(胆管損傷)、肝がん)、毒素誘発性肝疾患(例えば、アルコールによって引き起こされる)、敗血症性ショック、悪液質及び食欲不振症が含まれる。ウィルス感染症(ヘルペスウィルス、ポックスウィルス、アデノウィルス等)、炎症、移植片対宿主病(GVH)、急性移植片拒絶反応及び慢性移植片拒絶反応も、光解離性化合物で治療され得る。
【0103】
(0178)
光解離性化合物を使用して治療、回復、軽減、寛解、排除、阻害、予防及び/又は診断し得る異常且つ上昇した細胞生存に関連したさらなる疾患又は状態には、悪性腫瘍の進行及び/又は転移並びに関連した障害、例えば白血病(急性白血病(例えば、急性リンパ性白血病、急性骨髄性白血病。骨髄芽球性白血病、前骨髄球性白血病、骨髄単球性白血病、単球性白血病、赤白血病を含む)、慢性白血病(例えば、慢性骨髄性(顆粒球)白血病、慢性リンパ性白血病)を含む)、真性多血症、リンパ腫(例えば、ホジキン病、非ホジキン病)、多発性骨髄腫、ワルデンシュトレームマクログロブリン血症、重鎖病、肉腫及び癌腫を含むがこれらに限定されない固形腫瘍、例えば線維肉腫、粘液肉腫、脂肪肉腫、軟骨肉腫、骨肉腫、脊索腫、血管肉腫、内皮肉腫、リンパ管肉腫、リンパ管内皮肉腫、滑膜腫、中皮腫、ユーイング腫瘍、平滑筋肉腫、横紋筋肉腫、結腸癌、膵がん、乳がん、卵巣がん、前立腺がん、扁平上皮癌、基底細胞癌、腺癌、汗腺癌、皮脂腺癌、乳頭癌、乳頭状腺癌、嚢胞腺癌、髄様癌、気管支原性肺癌、腎細胞癌、肝細胞癌、胆管癌、絨毛癌、セミノーマ、胎児性癌、ウィルムス腫瘍、子宮頸癌、精巣腫瘍、肺癌、小細胞肺癌、膀胱癌、上皮癌、グリオーマ、星状細胞腫、髄芽腫、頭蓋咽頭腫、上衣腫、松果体腫、血管芽細胞腫、聴神経腫、乏突起神経膠腫、髄膜腫(menangioma)、メラノーマ、神経芽細胞腫及び網膜芽細胞腫が含まれるが、これらに限定されない。
【0104】
(0179)
別の実施形態において、光解離性化合物は、創傷の治癒を目的とした、上皮細胞増殖及び基底ケラチノサイトを刺激し、また毛包形成及び皮膚の創傷の治癒を刺激するための治療薬として必要とされ得る。本発明の光解離性化合物は、創傷の治癒の刺激において臨床的に有用であり、この創傷には手術創、切除創、真皮及び表皮の損傷を伴う深い創傷、眼組織の創傷、歯の組織の創傷、口腔の創傷、糖尿病性潰瘍、皮膚潰瘍、肘潰瘍、動脈潰瘍、静脈うっ血潰瘍、熱への曝露又は化学薬品による熱傷並びにその他の異常な創傷治癒状態、例えば尿毒症、栄養障害、ビタミン欠乏症や、ステロイド、放射線療法、抗悪性腫瘍薬及び代謝拮抗薬を使用した全身治療に関連した合併症が含まれる。
【0105】
(0180)
光解離性化合物で治療、回復、軽減、寛解、排除、阻害、予防及び/又は診断し得るその他の疾患、障害又は状態には、エイズ、神経変性疾患、障害及び/又は状態(アルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、多発性硬化症、網膜色素変性症(RP)、小脳変性症、脳腫瘍又は事前の関連疾患等)が含まれる。
一実施形態において、カルシウムチャンネル阻害剤(例えば、4AP)を使用して治療可能な疾患及び状態には、心疾患、高血圧、狭心症、胸痛、心血管疾患、例えば冠動脈疾患、心筋症、心臓弁膜症、腎疾患、ペイロニー病、神経学的、神経生理学的又は神経筋疾患及び状態、例えば筋萎縮性側索硬化症(ALS)、多発性硬化症、癲癇が含まれるが、これらに限定されない。
別の実施形態において、NMDA受容体アゴニスト又はアンタゴニスト(例えば、TzGly)を使用して治療可能な疾患には、神経学的、神経変性又は神経生理学的疾患、障害及び状態、例えばアルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病及びジスキネジアが含まれるが、これらに限定されない。別の実施形態において、神経学的、神経変性及び神経生理学的疾患、例えばパーキンソン病、アルツハイマー病等は、TzAMPAを使用して治療可能である。
【0106】
(0183)
別の実施形態において、本発明は、光解離性化合物と使用説明書とを含むキットに関する。キットは、診断、スクリーニング又は試験アッセイに使用され得る。キットは、特には疾患、障害、病態若しくは状態の治療又は予防に使用するための医薬品パックでもあり得る。薬学的使用のためのキットは典型的には無菌であり、疾患、障害、病態若しくは状態の治療又は予防に効果的な量の光解離性化合物と、薬学的に許容可能な担体、希釈剤又は賦形剤とを含有している。このキット又は医薬品パックは、有効量の本発明の1種以上の光解離性化合物又は組成物を充填した1つ以上の容器又はコンテナと(例えば、単位剤形)、薬学的に許容可能な担体、希釈剤又は賦形剤とを含み得る。キット又は医薬品パックは更に、ラベルを含み得る。加えて、キット又は医薬品パックは、別の治療薬の単位剤形、例えば有効量のもう一方の治療薬の入った容器も含み得る。キット又は医薬品パックには更に任意で、医薬品又は生物製剤の製造、使用又は販売を規制する政府機関によって規定される形態の通知書が添付され得て、この通知書は、ヒトへの投与に対する製造、使用又は販売に関する政府機関による承認を表す。キット又は医薬品パックは、単位剤形の投与に有用な器具も含み得る。このような器具の例には、シリンジ、ドリップバッグ、パッチ、吸入器及び浣腸バッグ又は容器が含まれるが、これらに限定されない。
【実施例】
【0107】
(0184)
以下に記載の実施例は本発明を説明するためのものであり、本発明を限定することを目的としたものではない。
実施例1
[Ru(bpy)2(4AP)2]Cl2の合成
159mgのRu(bpy)2Cl2(bpy=2,2’-ビピリジン)を7mLの水に85℃、N2下で懸濁させた。溶解後、66mgの4−アミノピリジン(4AP)を添加し、得られた溶液を約20分間に亘って約50〜80℃以上で加熱した。モル過剰量のNH4PF6を添加し、得られた赤色の固形物を水で洗浄し、乾燥させた。この赤色の固形物を最小量のアセトンに溶解させ、このアセトン溶液に塩化テトラエチルアンモニウムを添加して[Ru(bpy)2(4AP)2]Cl2を沈殿させた(収率79%)。
【0108】
(0186)
実施例2
[Ru(bpy)2(TzGly)2]Cl2の合成
[Ru(bpy)2(TzGly)2]Cl2を、実施例1に記載の[Ru(bpy)2(4AP)2]Cl2の生成で使用した手順に従って生成した。ただし、4APの代わりに(RS)−(テトラゾール−5−イル)グリシン(TzGly)を使用した。
【0109】
(0187)
実施例3
[Ru(bpy)2(5HT)2]Cl2の合成
[Ru(bpy)2(5HT)2]Cl2を、実施例1に記載の[Ru(bpy)2(4AP)2]Cl2の生成で使用した手順に従って生成する。ただし、4APの代わりにセロトニン(5HT)を使用する。
【0110】
(0188)
実施例4
[Ru(bpy)2(4AP)(PPh3)]Cl2の合成
Ru(bpy)2Cl2(bpy=2,2’−ビピリジン)を、水に濃度10mg/mLで85℃、N2下で懸濁させた。溶解後、1当量のPPh3を添加し、得られた溶液を約60分間に亘って約50〜80℃以上で加熱した。1.1当量の4APを続いて添加し、加熱を更に30分間に亘って継続した。モル過剰量のNH4PF6を添加し、得られた橙色の固形物を水で洗浄し、乾燥させた。橙色の固形物を最小量のアセトンに溶解させ、このアセトン溶液に塩化テトラエチルアンモニウムを添加して[Ru(bpy)2(4AP)(PPh3)]Cl2を沈殿させた。
実施例5
[Ru(bpy)2(TzGly)(PPh3)]Cl2の合成
[Ru(bpy)2(TzGly)(PPh3)]Cl2を、実施例4に記載の[Ru(bpy)2(4AP)(PPh3)]Cl2の生成で使用した手順に従って生成した。ただし、4APの代わりにTzGlyを使用した。
実施例6
[Ru(bpy)2(5HT)(PPh3)]Cl2の合成
[Ru(bpy)2(5HT)(PPh3)]Cl2を、実施例4に記載の[Ru(bpy)2(4AP)(PPh3)]Cl2の生成で使用した手順に従って生成する。ただし、4APの代わりにセロトニンを使用する。
【0111】
(0191)
実施例7
[Ru(bpy)2(ニコチン)(PPh3)]Cl2の合成
[Ru(bpy)2(ニコチン)(PPh3)]Cl2を、実施例4に記載の[Ru(bpy)2(4AP)(PPh3)]Cl2の生成で使用した手順に従って生成する。ただし、4APの代わりにニコチンを使用する。
【0112】
(0192)
実施例8
[Ru(bpy)2(TzGly)(py)]Cl2の合成
[Ru(bpy)2(TzGly)(py)]Cl2(py=ピリジン)を、実施例4に記載の[Ru(bpy)2(4AP)(PPh3)]Cl2の生成で使用した手順に従って生成した。ただし、4APの代わりにTzGlyを使用し、PPh3の代わりにピリジンを使用した。
【0113】
(0193)
実施例9
[Ru(bpy)2(4AP)(py)]Cl2の合成
[Ru(bpy)2(4AP)(py)]Cl2(py=ピリジン)を、実施例4に記載の[Ru(bpy)2(4AP)(PPh3)]Cl2の生成で使用した手順に従って生成する。ただし、PPh3の代わりにピリジンを使用する。
【0114】
(0194)
実施例10
[Ru(bpy)2(5HT)(py)]Cl2の合成
[Ru(bpy)2(5HT)(py)]Cl2(py=ピリジン)を、実施例4に記載の[Ru(bpy)2(4AP)(PPh3)]Cl2の生成で使用した手順に従って生成する。ただし、4APの代わりに5HTを使用し、PPh3の代わりにピリジンを使用する。
【0115】
(0195)
実施例11
[Ru(bpy)2(ニコチン)(py)]Cl2の合成
[Ru(bpy)2(ニコチン)(py)]Cl2(py=ピリジン)を、実施例4に記載の[Ru(bpy)2(4AP)(PPh3)]Cl2の生成で使用した手順に従って生成する。ただし、4APの代わりにニコチンを使用し、PPh3の代わりにピリジンを使用する。
実施例12
Co(DMG)2(5HT)(Cl)の合成
CoCl2を、水/エタノールの1:1v/v混合物に最終濃度約0.2Mで溶解させた。2当量のジメチルグリオキシム(DMG)を添加し、得られた混合物を溶解するまでN2下で撹拌した。1当量の5HTを添加し、得られた混合物に6時間に亘って空気をバブリングさせるとCo(DMG)2(5HT)(Cl)が沈殿した。沈殿した生成物を濾過し、洗浄した。
【0116】
(0197)
実施例13
[Ru(bpy)2(4AP)2]Cl2からの4APの光放出
水中での紫外・可視スペクトルを、HP 8453ダイオードアレイ分光光度計を使用して得た。RMN1Hスペクトルを、Bruker 500MHz装置を使用して得た。CV測定を、PAR 273Aポテンシオスタットを使用して行った。光照射は、480nmのローパスフィルタを取り付けたパルスXeランプ(パルスエネルギー:約0.5J)を使用して行われた。473nmのDPSSレーザーを使用した光照射でも同様の結果が得られた。
【0117】
(0198)
[Ru(bpy)2(4AP)2]Cl2は水に極めてよく溶け、また暗所において安定である一方、可視光を照射すると489nmを中心としたその金属−配位子電荷移動(MLCT)バンドで分解される(450nmであるとの過去の研究での特性決定にも関わらず、CH3CN溶液中、吸収バンドは492nmに赤色シフトし、これは溶媒の低極性と合致する。しかしながら、[Ru(bpy)2(4AP)2]Cl2のCH3CN溶液の光曝露によって、450nmの吸収極大の黄色の化合物が生成された。これはこの化合物に関して過去に帰属が誤って解釈されたことに符号し得て(D.Chun−Ying et al.,1999,J.Coord.Chem.,46:301−312)、光生成物は錯体[Ru(bpy)2(4AP)CH3CN]2+であると考えられる)。幾つかのルテニウムポリピリジル錯体がこの挙動を呈する(D.V.Pinnick et al.,1984,Inorg.Chem.,23:1440−1445)。
【0118】
(0199)
pH7では光照射済みの錯体のスペクトルは最初の錯体のスペクトルと極めて似通っているものの、470nmでの肩の減衰が明白になる。光化学反応の性質を知るために、NMRスペクトルを、可視光の照射前及び照射後にとった。図1は、メタ水素[Ru(bpy)2(4AP)2]Cl2(m1)に帰属されたシグナルを示す。照射後、このシグナルは低下し、下の図では2つの新しいシグナルが出現した。一方のシグナルは遊離配位子(m3)に対応し、もう一方はアコ−4AP錯体(m2)に対応し、これは4APの光放出を示す。これらの後者の2つのシグナルは、最初のシグナルの0.30及び0.27に積分され、60%の光化学反応に対応する。
【0119】
(0200)
水中で測定された[Ru(bpy)2(4AP)2]Cl2に関するカップルRuIII/RuIIの酸化還元電位は、Ag/AgClに対してE=0.76Vであり、これはピリジンと比較しての4APのより高い塩基性と一致する。したがって、[Ru(bpy)2(4AP)2]Cl2の酸化還元及び光化学は、Ru(bpy)2XY系に対応して得られる結果と完全に一致する(X、Yは、単座配位子である)(例えば、E.S.Dodsworth et al.,1986,Chem.Phys.Lett.,124:152−158を参照のこと)。これらの化合物の光活性は、MLCT状態と低エネルギーd−d状態との間での遷移を伴う反応経路で説明されていて、遷移は配位子の放出を促進する。MLCT遷移のエネルギーと光化学反応の量子収率との間には直接の対応性がある。[Ru(bpy)2(4AP)CH3CN]2+に関して、光化学反応収率は約ΦPR=0.4である。[Ru(bpy)2(4AP)2]Cl2は赤色シフトしたバンドを呈することから、より低い光化学反応収率が予測される。過去の実験に基づいた推定値から、
(473nm)が得られる。
【0120】
(0201)
実施例14
[Ru(bpy)2(4AP)2]Cl2から光放出された4APの神経生理学的活性
細胞内電圧を測定するための標準的な装置を使用し、また医療用ヒル(Hirudo medicinalis)を使用して、光放出された4APの神経生理学的活性を実証した。医療用ヒル(Hirudo medicinalis)は、幾つかの神経節がある中枢神経索を有し、各神経節は、公知のパターンに配置された約400個のニューロンを含む(W.−R.Schlue et al.,1980,J.Exp.Biol.,82:23−34)。神経節全体をディッシュ上に置いた。神経節中の単一細胞(ニューロン)の膜電位を、Ag/AgCl電極にとってのルギンブリッジとして働く飽和KCl水溶液を充填した、マイクロメートルサイズの端部を有するガラスマイクロピペットをニューロン内部に挿入して記録した。別のAg/AgCl電極を基準電極として使用した。シグナルは、AM−System 1600増幅器を使用してとらえられ、装置全体はファラデーケージで覆われた。12ビットA/D収集カードを使用し、クイックベーシックで書かれたアドホックプログラムを使用してデータのデジタル化を行った。
【0121】
(0202)
低Ca2+/高Mg2+生理食塩水(NaCl:102mM、KCl:4mM、CaCl2:1mM、MgCl2:10mM、トリス塩基、pH5.4は7.4に調節)を、ディッシュに潅流させた。[Ru(bpy)2(4AP)2]Cl2及び遊離配位子4APを、メインストリームに制御されたタイミングで注入した。ディッシュ下に位置するパルスXeランプを使用して溶液に光照射を行った。紫外光は、500nmのバンドパスフィルタを使用して除去された。図2は、神経節中のレツィウス細胞(Rz)の1つで記録された膜電位の挙動を示す。図2の上のグラフは生データであり、静止電位期間及び極めて速いスパイク(活動電位)を示し、これらは膜イオン透過性の変化によって生じる。下のグラフは、各回の瞬時スパイク周波数を示す。
【0122】
(0203)
細胞に電極を刺入した後、数多くの実験を同細胞に行うことによって再現性を確保した。5000秒後、グラフの左に見られるように、細胞は低活性を示した。t=5200秒で、約100μMのRu(bpy)3Cl2を生理食塩水に添加したが、活性に大きな変化はなかった。300秒後の5500秒の時点で、神経節に閃光をあてた。活動電位の周波数の急激な上昇は主に温度パルスによるものであるが、短い時間をおいて活性は基底レベルにまで低下した。潅流による洗浄後、更なるパルス照射(t=6000秒)は、極めて似通ったパターンを示した。t=6250秒で、約100mMの[Ru(bpy)2(4AP)2]Cl2を生理食塩水に添加したが、活性は変化しないままであった。しかしながら、新たに閃光をあてた後(t=6400秒)急激な活性が記録され、300秒後も高いままであった。6750秒の時点での2回目の光パルスによって更に高い活性が促進され、この活性は、純生理食塩水での清浄化潅流後に初めて低下した。
【0123】
(0204)
同様の周波数の上昇は遊離4APを細胞節上に潅流させた時にも起き、これは4APの放出がこの維持された周波数上昇を引き起こすことを実証した。4APの溶液を使用した細胞活性のキャリブレーションは、各光照射において、10〜15μMの4APが[Ru(bpy)2(4AP)2]Cl2から前実験中に放出されたことを示した。実験中、ニューロンへの毒性も有害な作用も観察されなかった。これらの結果は、神経生理学的活性を有する有機分子を光放出する[Ru(bpy)2(4AP)2]Cl2(例となる光解離性化合物)を使用してニューロン応答を刺激できることを示す。
実施例15
[Ru(bpy)2(TzGly)(py)]Cl2からのTzGlyの光放出
[Ru(bpy)2(TzGly)(py)]Cl2からのTzGlyの光放出の手順は、実施例13で上述の[Ru(bpy)2(4AP)2]Cl2からの4APの光放出に使用したものと同様である。ただし、照射光点は極めて限局化された(直径<1ミクロン)。470nmでの[Ru(bpy)2(TzGly)(py)]Cl2の光照射によってTzGlyが光放出された。
【0124】
(0206)
実施例16
[Ru(bpy)2(TzGly)(py)]Cl2から光放出されたTzGlyの神経生理学的活性
光放出されたTzGlyの神経生理学的活性を、実施例14で上述のものと同様の実験を行うことによって評価した。したがって、細胞内電圧を測定するための標準的な装置を使用し、医療用ヒル(Hirudo medicinalis)を使用して、光放出されたTzGlyのヒルの神経節における神経生理学的活性を実証した。
実施例17
[Ru(bpy)2(PMe3)Cl]PF6の合成
520mgの[Ru(bpy)2Cl2]を20mLのメタノール/水混合物(1:1)に溶解させ、N2下で還流させた。THF中の1.2mLのトリメチルホスフィン1M(Aldrich、324108)をシリンジで添加した。反応を、紫外・可視分光法で追った。一部のケースでは、より多くのホスフィン溶液を添加した。紫外・可視スペクトルが一旦安定したら、メタノール及び過剰なホスフィンを真空下でロータリーエバポレータを使用して蒸留した。得られた水溶液を濾過して固形物を除去し、氷上で過剰量のKPF6を使用して沈殿させた。暗橙色の固形物を冷水で3回洗浄し、乾燥させた。
【0125】
(0208)
実施例18
[Ru(bpy)2(PMe3)GlutH2](PF6)2の合成
110mgの[Ru(bpy)2(PMe3)Cl]PF6を2mLのアセトンに溶解させた。200mgの塩化物含有陰イオン交換樹脂DOWEX 2x8の懸濁液を添加し、10分間に亘って撹拌した。得られた[Ru(bpy)2(PMe3)Cl]Cl溶液を濾過した。500mgのグルタミン酸一ナトリウム及び4.4mLのNaOH 1Mを添加し、3時間に亘って加熱した。1mLの飽和KPF6を添加し、得られた沈殿物を廃棄した。溶液を0℃にまで冷却し、HCl 5MでpH2にまで酸性化した。過剰量のKPF6を添加すると[Ru(bpy)2(PMe3)GlutH2](PF6)2が沈殿した。黄色がかった橙色の固形物を冷水で3回洗浄し、乾燥させた。
実施例19
[Ru(bpy)2(PMe3)GlutH2](PF6)2からのグルタメートの光放出
[Ru(bpy)2(PMe3)GlutH2](PF6)2は鮮やかな橙色を示し、pH>6で水への高い溶解性を見せる(脱プロトン化種[Ru(bpy)2(PMe3)Glu]として)。その水溶液は、このRuポリピリジン系の特徴である強い金属から配位子への電荷移動バンド(MLCTバンド)を450nmで示す。アセトニトリルに溶解させた化合物のサイクリックボルタンメトリ(図15)は、0.98、1.46及び1.56V(vs.NHE)での3つの酸化還元工程を示し、これはそれぞれ最初の錯体のRu(III)/Ru(II)カップル及びグルタメートの酸化生成物を有する錯体のRu(III)/Ru(II)カップルに対応する。
【0126】
(0210)
図16(上)は、450±20nmのLEDでの光照射中のpH=7での錯体の紫外・可視スペクトルである。光化学反応が進行するにつれて、アコ錯体の生成が記録され、約4分後に完了した。2つの等吸収点の存在及びスペクトルについての因子分析は、単一の光アコ化工程で予測されるものに従って、ちょうど2種類の着色種が溶液中に存在することを示している。光生成物のスペクトルは、錯体[Ru(bpy)2(PMe3)(H2O)]2+のものと同じであると判明し、後者は水中でのクロロ錯体の還流によって合成することができる。pH=11で、同様の挙動が観察された。ただし、この場合、生成物はヒドロキソ錯体[Ru(bpy)2(PMe3)(OH)]+であった。
図16の挿入グラフ(上)は、スペクトルの分析によって得られた光分解で発生した遊離グルタメートの収率を示す。光源の放射照度を[Ru(bpy)(Py)2]2+の光分解の公知の効率を利用して較正した。光放出されたグルタメートの量を、2パラメータ単一指数関数:y=a[1−exp(−bx)]を利用してフィットさせた。量子収率(φPC)はa・bとして得られ、pH=7での値0.13とpH=11での値0.10を採用した。
【0127】
(0212)
アンケージング時間を推定するために、閃光光分解実験を[Ru(bpy)2(PMe3)Glu]の塩基性水溶液にNd−YAGレーザーの第2高調波(532nm、10ナノ秒パルス)を使用して行った。結果を図16に示す(下)。光開裂は最初の50ナノ秒以内に起きていて、報告されているものの中で知る限り最も速いケージド化合物である。グルタメートのアンケージング反応を完了させるためには数十ナノ秒が必要であるという事実は、グルタメートの代わりにピリジンを含有している同様の化合物について測定された励起状態の寿命が10〜100ナノ秒の範囲であるという観察結果と一致する。
光化学反応も、NMR分光法で追った。錯体の1H−NMRスペクトル(図17)の芳香族領域において、bpyプロトンに対応する16個のシグナルを識別することができ、シグナルは二重になっていると判明したが、これは得られた材料が、L−グルタメートとΛ及びΔRu−bpyエナンチオマーのラセミ混合物との配位によって生じるジアステレオマーの約1:1の混合物であるからである。ジアステレオマーを分離する試みはなされず、化学的試験及び生物学的試験の両方が同様の挙動を示唆している。
【0128】
(0214)
グルタメート部分に対応する脂肪族領域は、図18の上のトレースに描かれていて、−NH2プロトンは4.50、4.12、4.00及び3.57ppmに出現している。D2O溶液におけるこれらのシグナルの存在(錯体における同位体交換の不在を立証している)は、グルタメートの配位がアミン窒素を介して行われて、それ以上のプロトン付加を阻んでいることをはっきりと示す。この挙動は遊離グルタメートのものとは異なり、遊離グルタメートは、同一条件下で、D+をH+と速やかに交換する。室温でのD2O中での2カ月後、交換は見られず、化合物が真に不活性であることも実証している。
光分解後、多くの新しいシグナルがアコ錯体に対応する芳香族領域に出現する。同時に、脂肪族領域の分析(図18、下のトレース)は、遊離グルタメートシグナルの出現をはっきりと立証している。配位した−NH2シグナルは光照射によって減衰し、遊離グルタメートのメチレンプロトンの特徴的なシグナルが、3.50、2.30、2.04及び1.94ppmに出現する。
グルタメートを更に追加しても新しいシグナルは発生せず、既存のシグナルの強度だけが増大し、これは固有の脂肪族光生成物がグルタメートであることを証明している。
【0129】
(0217)
生体適合性試験を行って錯体の潜在毒性を評価した。350μMの[Ru(bpy)2(PMe3)Glu](2光子アンケージング実験で使用した濃度)を、マウスの脳切片内の生体新皮質錐体ニューロンでインキュベートし、そのニューロンのモルホロジー及び電気生理学的特性を2光子顕微鏡法及びホールセルパッチ記録法によって慎重にモニタした。1時間のインキュベーション後、検出可能な作用は観察されず、ニューロンは正常なままであった。これはこの錯体が膜の完全性を変化させることがない又は生体ニューロンに有害な作用を及ぼさないことを意味している。
本明細書で引用した全ての特許出願、公開特許出願、特許権が交付及び付与された特許、文書及び参考文献は参照によりその全体が本明細書に組み込まれ、本発明が関係する最先端技術をより詳しく説明するものである。
上記の方法及び組成物には、記載したような本発明の範囲及び精神から逸脱することなく様々な変更を加えることができるため、上記の説明に含まれ、添付の図面に描かれ、あるいは付随する請求項で定義される全ての主題は説明上のものであると解釈され、本発明を限定しないとする。
【0130】
(0220)
実施例20
活性化可能な蛍光プローブとしてのルテニウム−ローダミン錯体
この実施例では、ルテニウム−ビピリジンコアをベースとした、標識分子の活性誘導体として変性ローダミンを有するケージド蛍光プローブについて説明する。この錯体はケージド蛍光プローブとして挙動し、可視光で励起されるとその蛍光を約6倍に増大させる。このため、この実施例では、標識分子又はその活性誘導体を含む光解離性化合物の蛍光分子又はその活性誘導体(ローダミンB、ローダミン6G、RhodB−MAPN、Rhod−6G−MAPN、RhodB−MAMePy、Rhod−6G−MAMePy等)の蛍光を増大させることにおける利点を実証する。
全ての試薬はSigma−Aldrich社から購入し、そのままで使用した。Ru(bpy)2Cl2を、文献通りに溶媒として水を使用して合成した(Viala C.,Coudret C,Inorg.Chim.Acta 2006,359:984−989)。紫外・可視スペクトルを、HP8453ダイオードアレイ分光光度計を使用して得た。NMRスペクトルを、500MHz Bruker AM−500を使用して得た。蛍光発光測定を、PTI Quantamaster分光蛍光計で行い、装置応答関数について補正した。ローダミンBを発光量子収率の蛍光標準として使用した(水溶液中でφ=0.31)。錯体の量子収率は、スペクトル面積(同じ形状を示す)の比から直接得られた。
【0131】
(0222)
光アンケージング量子収率の測定は、473nmに2倍したNd:YAGダイオード励起固体レーザーを使用して6.3mWの定出力で行われた。光はコリメートされ、1cmの光路を蛍光ガラスキュベット内へと撹拌下で送られた。総照射エネルギーは、Coherent Fieldmaster FMライトメータを可視光光ダイオードモデルSR45と共に使用して測定された。
ヒル(Hirudo medicinalis)の神経節の顕微鏡による観察を、約1μmのチップ直径の毛細管をニューロン体に刺入するために使用するマイクロマニピュレータと記録装置としてのCCDウェッブカムとを備えた、光電気生理学用のカスタムメイドの装置で行った。セグメント7〜14の単離したヒルの神経節をシルガードコーティングした35mmペトリ皿に固定した。レツィウス細胞をその位置、サイズ及び発火挙動から同定した。細胞内記録は、約20MΩの鋭い毛細管微小電極、Neuroprobe 1600(A−M Systems社)増幅器及びA/Dシグナル入力ボード(1kHzのサンプリングレート)及びカスタムメイドのソフトウェアを使用して得られた。染料のイオン泳動注入に関しては、微小電極に、1mMのケージド蛍光染料(塩化物形態)を添加した記録溶液を充填した。1nA、2Hzの方形2相パルスを5分未満に亘って印加した。
【0132】
(0224)
分光光度薄層フローセル及びFIA毛細管の写真を、蛍光アダプタを取り付けたNikon TS−100を使用して撮影した。カスタムアダプタを介して通常の接眼レンズで焦点を絞る家庭用電化製品タイプのコンパクトデジタルカメラ(Casio社、Exilim EX−FC100)を、ISO800の感度でのビデオ撮影に使用した。ビデオ及び写真の分析は、公開されているImageJソフトウェアを使用して行われた。蛍光の活性化は405nm、6mWで行われ、レーザーダイオードを、速いリードリレーを使用したパルス発生器で制御して20ミリ秒の光パルスを得た。レーザービームは細胞面に焦点が絞られ、倒立顕微鏡(Nikon社、TS100。蛍光アダプタ付き)でモニタされた。
合成
ローダミンB−メチルアミノプロピオニトリルアミド(RhodB−MAPN)
550mgのローダミンB.HClを10mlの無水1,2−ジクロロエタンに溶解させた。この系をN2でパージし、300μLのオキシ塩化リンを添加した。混合物を5時間に亘って還流させた。溶媒を真空下で蒸留し、固形物を速やかに無水アセトニトリルに溶解させた。500μLのトリエチルアミン及び108μLのN−メチルアミンプロピオニトリルを添加し、混合物を12時間に亘って還流させた。溶媒を真空下で除去し、水に再溶解させ、濾過して固形物を除去し、過剰量のKPF6の添加による沈殿を行った。暗赤色の固形物を蒸留水で数回洗浄し、シリカゲル上で乾燥させた。水溶性配位子を得るためのClのPF6との交換は、RhodB−MAPN.PF6のアセトン/水溶液(1:1)をDowex 22陰イオン樹脂と共に一晩撹拌し、得られた溶液を凍結乾燥することによって行われた。RhodB−MAPN塩化物塩は若干吸湿性であり、無湿環境で保存しなくてはならない。
【0133】
(0226)
総収率:55%、1HNMR(アセトン−d6):1Hδ1.37(t、12H)、2.37(t、2H)、3.16(s、3H)、3.53(t、2H)、3.80(m、8H)、6.98(d、2H)、7.20(dd、2H)、7.37(dd、2H)、7.62(m、1H)、7.77(m、1H)、7.82(t、2H)
【0134】
(0227、0228)
[Ru(bpy)2(L)Cl]PF6
L=ローダミンB−メチルアミノプロピオニトリルアミドの場合
20mgのRu(bpy)2Cl2を2mLのEtOH/水(2:1)混合物に懸濁させ、懸濁液を80℃にまで完全に溶解するまで加熱した。[Ru(bpy)2(H2O)Cl]+錯体の生成は、490nm(水中)でのその吸収によって確認された。クロロ−アコ錯体の生成後、2当量のRhodB−MAPN塩化物塩を添加し、反応を、シリカプレート及び溶離液としての水/EtOH/nBuOH(1:1:1)混合物を使用したTLCで追った。溶液を80℃で約2時間に亘って、TLC変化が観察されなくなるまで加熱した。続く全ての手順は暗所で行われた。溶液を濾過して不溶性の粒子を除去し、溶媒を真空下で除去した。得られた油を4mLのアセトン/メタノール混合物(3:1)に再溶解させ、過剰量のTHFの添加による沈殿を行った。
【0135】
(0229)
未反応の配位子を含有しているTHF画分を廃棄し、沈殿物をTHFで数回洗浄し、水に再溶解させ、飽和KPF6で沈殿を行った。収率:26%、NMR(アセトン−d6):1Hδ1.35(m、12H)、2.98(t、2H)、3.10(s、3H)、3.40〜3.55(dm、2H)、3.80(m、8H)、6.97(d、2H)、7.20〜7.40(m、6H)、7.60(d、1H)、7.67(t、1H)、7.70〜7.85(m、4H)、7.88〜7.98(m、4H)、8.17(t、1H)、8.30(t、1H)、8.56(dd、2H)、8.69(d、1H)、8.72(d、1H)、9.55(d、1H)、10.08(d、1H)。
【0136】
(0230)
L=ビニルアセトニトリル(VACN)の場合
20mgのRu(bpy)2Cl2を2mLの96%EtOHに懸濁させ、懸濁液を80℃で完全に溶解するまで加熱した。[Ru(bpy)2(H2O)Cl]+錯体の生成は、490nm(水中)でのそのバンドによって確認された。4mLのEtOHで希釈した1.5当量のVACNを添加し、混合物を80℃で2時間に亘って維持した。溶媒を蒸留によって真空下で除去し、残留物を2mLの水に再溶解させ、遠心分離によって固形物を除去し、飽和KPF6による沈殿を行った。収率は66%であった。
【0137】
(0231)
NMR(アセトン−d6):1Hδ3.65(d、2H)、5.13(d、2H)、5.75(m、1H)、7.29(t、1H)、7.32(t、1H)、7.70(d、1H)、7.81(t、1H)、7.92(3t、3H)、7.97(d、1H)、8.20(t、1H)、8.31(t、1H)、8.56(d、1H)、8.60(d、1H)、8.69(d、1H)、8.74(d、1H)、9.53(d、1H)、10.08(d、1H)。
【0138】
(0232)
ローダミンは、その1に迫る発光量子収率及び光退色への高い耐性から、有用なフルオロフォアである。ローダミンは、蛍光をもたらすキサンテン部分とそのスペクトル特性を調整する安息香酸から構成される。スキーム1Aは、この実施例の開始点として選択されたローダミンBの構造を示す。
【化21】
【0139】
(0233)
ルテニウム−ビピリジル錯体は、供与体窒素(脂肪族アミン、ピリジン、イミン、更にはニトリルの窒素等)に容易に配位し得るが、アニリンの窒素には、1級のものであっても配位しない。ローダミンBのジエチルアニリンはRu中心と安定した錯体を形成しない。カルボキシレートはRu−bpyコアに配位することができるが、このような錯体は水溶液中で室温で容易に加水分解されてしまう。
これらの特性を考慮し、ローダミンBの化学構造を、蛍光分子を金属中心に配位させるための「スティッキーテール(sticky tail)」の追加によって変性した。配位基を有する変性ローダミンを合成しようとの最初の試みにおいては、カルボキシレートをアミノプロピオニトリルでAdamczyk法(Adamczyk,M.J.Bioorg.Med.Chem.Lett.2000,10:1539−1541)を利用してアミド化した。得られた化合物は、スキーム1Bに示されるRhodB−APNである。しかしながら、この配位子はRu−bpy錯体にニトリルを介して配位できるものの、生理学的pHでは環状スピロラクタムへの異性化を起こしてしまい(スキーム1C)、非蛍光となる。ローダミン6Gを、上述したようにローダミンBへと同様に変性することができる。
【0140】
(0235)
2級アミドは環状形態に異性化できないため、ローダミンB酸塩化物のアミノプロピオニトリルでのアミド化を通じて得られたRhodB−MAPN(スキーム1D)は、極めて高い黄色の蛍光を呈し、その一方でその末端ニトリルは、Ru−bpy中心への配位を可能にする。
錯体cis−[Ru(bpy)2(L)Cl]PF6、L)RhodB−MAPNが、暗紫色の固形物として得られ、この固形物は水に若干可溶性であり、またアセトンへの可溶性が極めて高かった。その極めて高いモル吸光係数により、その水への溶解性は殆どの実験状況にとって十分な高さであった。FIA画像化実験に関し、錯体はこの形態で使用された。溶解性がずっと高い塩化物塩(生物学的実験により適している)は、アセトン/水(1:1)中でのDowex 22塩化物樹脂を使用したバッチイオン交換によって調製された。塩は、生物学的実験で使用された。錯体の溶液は弱い黄色がかった蛍光を呈する。予備調査により、この錯体が感光性であり、エタノール又はアセトン水溶液中で光照射されるとその蛍光を増大させることが判明している。
【0141】
(0237)
図19(上)は、RhodB−MAPNを配位子として有するRu錯体の1HNMRスペクトルの脂肪族領域を示し、配位しているRhodB−MAPNに関して予測される数のシグナル及び積分を示している。3.40〜3.55ppmの2つのマルチプレット(a’と表示)は、配位点に最も近いメチレン基に対応する。2.98ppmのトリプレット(b’)及び3.10ppmのシングレット(c’)はその他のメチレン及びN−メチル基にそれぞれ対応する。同様のシグナルが、アミノニトリルテールをRu−bpyコアに配位させさえすれば得られた。450nmのLEDを使用したNMR管内での5分間の光照射後(中央のトレース)、RhodB−MAPN配位子の放出により新しいシグナルが2.37、3.16及び3.53ppmで出現する。これらの3つのシグナルは、遊離配位子のシグナルと完全にマッチする(a、c、bとそれぞれ表示。下のトレース)。RhodB−MAPNの4つのエチル基は完全に等価ではなく、マルチプレット(−CH2−)又はブロードトリプレット(−CH3)として表れ、光照射後に殆ど変化を示さないが、これはこれらの基が配位中心から遠いからである。
【0142】
(0238)
芳香族領域においては、RhodB−MAPNを有する非対称cis錯体に関して予測される数のシグナル及び積分が得られた。光分解後、6.98、7.20、7.37、7.62、7.77及び7.82に遊離RhodB−MAPNからのシグナルが、アコ錯体[Ru(bpy)2(H2O)Cl]+からのものと同じ化学シフトで出現する。
[Ru(bpy)2(RhodB−MAPN)Cl]+の希釈水溶液は、極大が592nmの弱い蛍光を呈する(励起:518nm)。
図20は、光照射中の錯体の発光スペクトルである。初期発光スペクトルの極大及び形状は、遊離配位子RhodB−MAPNのものと同一であるが、発光量子収率はずっと低く、約φt=0.04である。量子収率は、スペクトル面積を積分することによって容易に計算される。473nmレーザーでの光照射後、RhodB−MAPNが放出され、溶液はその蛍光を6倍、φt=0.24にまで増大させる。挿入グラフは、照射時間の関数としてのスペクトルの極大を示す。
ローダミン光放出の量子収率を、473nmでの光アンケージング中の蛍光発光データの分析後に計算した。1秒毎に完全スペクトルが得られた。錯体[Ru(bpy)2(RhodB−MAPN)Cl]+による光の吸収によってアコ錯体[Ru(bpy)2(H2O)Cl]+及び遊離RhodB−MAPNがもたらされる。各光照射期間中、生成されるアコ錯体及び遊離RhodB−MAPNの量は、以下の式:
【数1】
によって求められ、式中、δtは照射時間であり、Iは1秒あたりの光子のモル数での光強度であり、φPUは、光アンケージングの量子収率であり、AbsRは、473nmでの光活性種[Ru(bpy)2(RhodB−MAPN)Cl]+の吸光度であり、AbsTは照射された溶液の総吸光度である。前出の方程式の有限要素法計算によって、光アンケージング量子収率φPU=0.12(25℃)が計算された。この値は、同様の錯体に関して報告されている量子収率と十分に一致する。
【0143】
(0242)
このクエンチングの原因は、近接するルテニウム−ビピリジン部分の存在に帰することができ、ルテニウム−ビピリジン部分は、ローダミン発光のものと重なるMLCT遷移を示す。しかしながら、この錯体のそのような波長範囲での吸収バンドを直接調べることは、蛍光配位子のモル吸光係数が極めて高く(約105M-1cm-1)、金属中心によって吸収が弱まるため、不可能である。
この吸収を測定するために、類似した錯体を、RhodB−MAPNの代わりにビニルアセトニトリル(VACN)を使用して合成した。Ru−bpy錯体のMLCTバンドのエネルギーはRu中心に近い配位子の性質及び塩基性度に大きく依存するが、より遠いフラグメントとはほぼ無関係であることがわかる。錯体[Ru(bpy)2(VACN)Cl]+は典型的なMLCTバンドを示し、460nm前後を中心として低エネルギー領域に100nmを超えて広がり、ローダミン配位子の発光スペクトルと重なっている。この吸収は、観察されたクエンチングを説明するのに十分である。この類似した錯体は、VACNをより高い量子収率φPU=0.21で光放出する。
【0144】
(0244)
この実施例では、可視光領域で驚くべき感度を示す活性化可能な蛍光プローブを提供する。このプローブは、青色光の照射後、その本来の蛍光を6倍にまで増大させる。このプローブは生理学的に無害であり、ニューロン等の興奮性細胞であっても生細胞に注入することができ、短期間(約2時間)の実験において急性毒性の徴候を示さなかった。このプローブは、分光光度薄層フローセルの内部の層流を画像化し、FIA毛細管内の放物線流の可視化に使用された。このプローブによって、プルームの広がりだけではなく、流速がゼロに近づく壁付近での分析物の蓄積による記憶効果も明らかになる。簡単に言うと、錯体[Ru(bpy)2(RhodB−MAPN)Cl]Clは、蛍光の操作が必要とされる全ての種類の系の画像化に驚くほど効果的なツールである。
[Ru(bpy)2(Rhod6G−MAPN)Cl]Cl及び[Ru(bpy)2(RhodB−MAMePy)Cl]は本明細書に記載の手順を利用して生成され、また[Ru(bpy)2(RhodB−MAPN)Cl]Clに関して本明細書で記載されたものと同様の結果を示したことから、本明細書に記載の式I、II、III、V、VI、VII及びVIIIの光解離性化合物類(L2は、標識分子又はその活性誘導体を含む)への光アンテナ構想の適用可能性を例示している。
【0145】
(0246)
[Ru(bpy)2(RhodB−MAPN)Cl]Clに関してこの実施例で実証された同じ驚くべき特性が、本明細書に記載の式I、II、III、V、VI、VII及びVIIIの光解離性化合物(L2は、標識分子又はその活性誘導体を含む)にもあてはまると予測される。
【技術分野】
【0001】
本発明は、米国政府の支援を受けてなされた。米国政府は、本発明において一定の権利を有する。
【0002】
本特許開示には、著作権保護の対象である材料が含まれる。米国特許商標庁の特許包袋又は記録に記載されていることから、如何なる者による特許文書又は特許開示のファクシミリ複製に対しても著作権者は異存はないが、それ以外のあらゆる著作権を留保するものである。
【0003】
関連出願の相互参照
本出願は、2009年6月26日に出願の米国仮特許出願第61/220922号の優先権を主張するものであり、その全開示が参照により本明細書に組み込まれる。米国特許出願公開第2008/0176940号もまた、参照により本明細書に全て組み込まれる。
【0004】
本発明は概して、新規な光解離性化合物(photolabile compound)及び有機分子(生理活性分子等)をアンケージする方法に関し、これらはインビトロとインビボの両方において多様な用途を有し得る。
【背景技術】
【0005】
光解離性保護基(ケージング基とも称される)は、生物化学において特に有用な保護基の種類である。光は、空間的にも時間的にも精確に制御可能であることから、保護基の生理活性分子からの開裂によって生理活性分子を放出させる又はアンケージすることができる。保護基は、典型的には、化合物の荷電基(例えば、カルボキシレート、ホスフェート)又は極性基(例えば、アミン、ヒドロキシル、スルフヒドリル)をマスクする又は隠す。多くの場合、このような官能基は、保護された分子の疎水性及び膜透過性を上昇させる。光分解の前は、光解離性化合物は典型的には化学的又は生物学的に不活性であるが、これは化合物の主要な官能基の少なくとも1つがブロックされているからである。光のパルスによって分子の活性を誘発し、光放出性化合物から分子を放出させることができる。このように、例えばインビボ又はインビトロでの望ましいタイミングと場所での化合物の放出を制御するために、光解離性保護基を光照射によって保護化合物から除去することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
市販の光解離性化合物は、典型的には、ケージからの化合物の除去に紫外光(UV)を必要とする。しかしながら、紫外光は臓器、組織及び細胞に損傷を与える可能性があることから、インビボでの使用において有害である。このため、紫外光以外の光を使用して放出可能な配位子を有する新規な光解離性化合物を、特にはインビボでの用途のために利用することが当該分野において必要とされている。本発明は、新規な光解離性化合物及びこの化合物を使用する方法を提供するものであり、これらの化合物及び方法は、紫外光に対してのみ光解離性である現行の化合物より有利である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のある態様は、有機分子(生理活性分子等)を保護する新規な光解離性化合物を提供することである。光に曝露すると、この有機分子は放出され、また本明細書に記載の方法において有用である。
【0008】
一態様において、本発明は、式I、
【化1】
I
(式中、
MはRuであり、
各L1は独立して
(a)環員の1つがMと結合を形成する窒素原子である5員単環式芳香環、
(b)環員の1つがMと結合を形成する窒素原子である6員単環式芳香環、
(c)2環式環の1つが芳香族であり且つMと結合を形成する窒素原子員を有する8〜10員2環式環、
(d)窒素原子がMと結合を形成する−NH2基、又は
(e)酸素原子の1つがMと結合を形成する−COOH基
を有する有機分子であり、
L2は(R9)3P、(R9O)3P又はL1であり、mは2であり、あるいはL2は−CNであり、mは1であり、あるいはL2は(R9)2P若しくは(R9O)2Pのリン原子を介してMに結合される標識分子又はその活性誘導体であり、mは2であり、あるいはL2はNHR9、N(R9)2、ピリジル、C(R9)=NH、C(R9)=NR9環状脂肪族アミン基若しくはニトリルの窒素原子を介してMに結合される標識分子又はその活性誘導体であり、mは2であり、
各R9は独立して−C1〜C18アルキル、−C3〜C8シクロアルキル又はフェニルであり、
R1〜R8は独立して−H、−C1〜C18アルキル、−NH2、−COOH、−(C1〜C18アルキル)−O−(C1〜C18アルキル)又は−OC(O)(C1〜C18アルキル)であり、
XはCl-、F-、Br-、I-、PF6-、CF3SO3-、(C1〜C18アルキル)−CO2-又は(C1〜C18アルキル)−SO3-である)で示される化合物を提供する。
【0009】
式Iの化合物の一実施形態において、
MはRuであり、
各L1は独立して
(a)環員の1つがMと結合を形成する窒素原子である5員単環式芳香環、
(b)環員の1つがMと結合を形成する窒素原子である6員単環式芳香環、
(c)2環式環の1つが芳香族であり且つMと結合を形成する窒素原子員を有する8〜10員2環式環、
(d)窒素原子がMと結合を形成する−NH2基、又は
(e)酸素原子の1つがMと結合を形成する−COOH基
を有する有機分子であり、
L2は(R9)3P、(R9O)3P又はL1であり、mは2であり、あるいはL2は−CNであり、mは1であり、
R1〜R8は独立して−H、−C1〜C18アルキル、−NH2、−COOH、−(C1〜C18アルキル)−O−(C1〜C18アルキル)又は−OC(O)(C1〜C18アルキル)であり、
XはCl-、F-、Br-、I-、PF6-、CF3SO3-、(C1〜C18アルキル)−CO2-又は(C1〜C18アルキル)−SO3-である。
【0010】
式Iの化合物の一部の実施形態において、L2が(R9)3Pの場合、各R9は互いに異なる。
【0011】
式Iの化合物の一部の実施形態において、L2が(R9)3Pの場合、2つのR9は同一であり且つ残りのR9とは異なる。
式Iの化合物の一部の実施形態において、L2が(Ph)3Pの場合、各フェニルはメチルで置換されない。
【0012】
別の態様において、本発明は、式II、
【化2】
II
(式中、
各L1は独立して
(a)窒素原子の1つがRuと結合を形成するテトラゾリル基、
(b)ピリジル窒素原子がRuと結合を形成するニコチン若しくはカフェイン、
(c)2環式環の1つが芳香族であり且つRuと結合を形成する窒素原子員を有する8〜10員2環式環、
(d)窒素原子がRuと結合を形成する−NH2基、又は
(e)酸素原子の1つがRuと結合を形成する−COOH基
を有する有機分子であり、
L2は(R9)3P、(R9O)3P又はL1であり、mは2であり、あるいはL2は−CNであり、mは1であり、あるいはL2は(R9)2P若しくは(R9O)2Pのリン原子を介してRuに結合される標識分子又はその活性誘導体であり、mは2であり、あるいはL2はNHR9、N(R9)2、ピリジル、C(R9)=NH、C(R9)=NR9環状脂肪族アミン基若しくはニトリルの窒素原子を介してRuに結合される標識分子又はその活性誘導体であり、mは2であり、
各R9は独立して−C1〜C18アルキル、−C3〜C8シクロアルキル又はフェニルであり、
R1〜R8は独立して−H、−C1〜C18アルキル、−NH2、−COOH、−(C1〜C18アルキル)−O−(C1〜C18アルキル)又は−OC(O)(C1〜C18アルキル)であり、
XはCl-、F-、Br-、I-、PF6-、CF3SO3-、(C1〜C18アルキル)−CO2-又は(C1〜C18アルキル)−SO3-である)の化合物を提供する。
【0013】
式IIの化合物の一実施形態において、
各L1は独立して
(a)窒素原子の1つがRuと結合を形成するテトラゾリル基、
(b)ピリジル窒素原子がRuと結合を形成するニコチン若しくはカフェイン、
(c)2環式環の1つが芳香族であり且つRuと結合を形成する窒素原子員を有する8〜10員2環式環、
(d)窒素原子がRuと結合を形成する−NH2基、又は
(e)酸素原子の1つがRuと結合を形成する−COOH基
を有する有機分子であり、
L2は(R9)3P、(R9O)3P又はL1であり、mは2であり、あるいはL2は−CNであり、mは1であり、
R1〜R8は独立して−H、−C1〜C18アルキル、−NH2、−COOH、−(C1〜C18アルキル)−O−(C1〜C18アルキル)又は−OC(O)(C1〜C18アルキル)であり、
XはCl-、F-、Br-、I-、PF6-、CF3SO3-、(C1〜C18アルキル)−CO2-又は(C1〜C18アルキル)−SO3-である。
【0014】
式IIの化合物の一部の実施形態において、L2が(R9)3Pの場合、各R9は互いに異なる。
式IIの化合物の一部の実施形態において、L2が(R9)3Pの場合、2つのR9は同一であり且つ残りのR9とは異なる。
式IIの化合物の一部の実施形態において、L2が(Ph)3Pの場合、各フェニルはメチルで置換されない。
【0015】
(0017)
別の態様において、本発明は、式III、
【化3】
III
(式中、
L1は、ピリジル窒素原子がRuと結合を形成する4−アミノピリジン(4−AP)であり、
L2は(R9)3P、(R9O)3P又はL1であり、mは2であり、あるいはL2は−CNであり、mは1であり、あるいはL2は(R9)2P若しくは(R9O)2Pのリン原子を介してRuに結合される標識分子又はその活性誘導体であり、mは2であり、あるいはL2はNHR9、N(R9)2、ピリジル、C(R9)=NH、C(R9)=NR9環状脂肪族アミン基若しくはニトリルの窒素原子を介してRuに結合される標識分子又はその活性誘導体であり、mは2であり、
各R9は独立して−C1〜C18アルキル、−C3〜C8環状アルキル又はフェニルであり、
R1〜R8は独立して−H、−C1〜C18アルキル、−NH2、−COOH、−(C1〜C18アルキル)−O−(C1〜C18アルキル)又は−OC(O)(C1〜C18アルキル)であり、
XはCl-、F-、Br-、I-、PF6-、CF3SO3-、(C1〜C18アルキル)−CO2-又は(C1〜C18アルキル)−SO3-である)の化合物を提供する。
【0016】
(0018)
式IIIの化合物の一実施形態において、
L1は、ピリジル窒素原子がRuと結合を形成する4−アミノピリジン(4−AP)であり、
L2は(R9)3P、(R9O)3P又はL1であり、mは2であり、あるいはL2は−CNであり、mは1であり、
R1〜R8は独立して−H、−C1〜C18アルキル、−NH2、−COOH、−(C1〜C18アルキル)−O−(C1〜C18アルキル)又は−OC(O)(C1〜C18アルキル)であり、
XはCl-、F-、Br-、I-、PF6-、CF3SO3-、(C1〜C18アルキル)−CO2-又は(C1〜C18アルキル)−SO3-である。
【0017】
(0019)
式IIIの化合物の一部の実施形態において、L2が(R9)3Pの場合、各R9は互いに異なる。
式IIIの化合物の一部の実施形態において、L2が(R9)3Pの場合、2つのR9は同一であり且つ残りのR9とは異なる。
式IIIの化合物の一部の実施形態において、L2が(Ph)3Pの場合、各フェニルはメチルで置換されない。
【0018】
(0022)
別の態様において、本発明は、式IV、
【化4】
IV
(式中、
M1はLi+、Na+又はK+であり、
M2はRuであり、
L1は独立して
(a)環員の1つがM2と結合を形成する窒素原子である5員単環式芳香環、
(b)環員の1つがM2と結合を形成する窒素原子である6員単環式芳香環、
(c)2環式環の1つが芳香族であり且つM2と結合を形成する窒素原子員を有する8〜10員2環式環、
(d)窒素原子がM2と結合を形成する−NH2基、又は
(e)酸素原子の1つがM2と結合を形成する−COOH基
を有する有機分子である)の化合物を提供する。
【0019】
(0023)
別の態様において、本発明は、式V、
【化5】
V
(式中、
各L1は独立して
(a)環員の1つがRuと結合を形成する窒素原子である5員単環式芳香環、
(b)環員の1つがRuと結合を形成する窒素原子である6員単環式芳香環、
(c)2環式環の1つが芳香族であり且つRuと結合を形成する窒素原子員を有する8〜10員2環式環、
(d)窒素原子がRuと結合を形成する−NH2基、
(e)酸素原子の1つがRuと結合を形成する−COOH基、
(f)リン原子がRuと結合を形成し、Rが独立して−H、−C1〜C18アルキル若しくはアリールである−PR2基、又は
(g)硫黄原子がRuと結合を形成し、Rが独立して−H、−C1〜C18アルキル若しくはアリールである−SR基
を有する有機分子であり、
L2は(R9)3P、(R9O)3P又はL1であり、mは2であり、あるいはL2は−CNであり、mは1であり、あるいはL2は(R9)2P若しくは(R9O)2Pのリン原子を介してRuに結合される標識分子又はその活性誘導体であり、mは2であり、あるいはL2はNHR9、N(R9)2、ピリジル、C(R9)=NH、C(R9)=NR9環状脂肪族アミン基若しくはニトリルの窒素原子を介してRuに結合される標識分子又はその活性誘導体であり、mは2であり、
各R9は独立して−C1〜C18アルキル、−C3〜C8シクロアルキル又はフェニルであり、
【0020】
L2がP(フェニル)3又はP(フェニル)2のリン原子を介してRuに結合される標識分子若しくはその活性誘導体の場合、各フェニルは独立して−C1〜C18アルキル、−(C1〜C18アルキル)−OH、アリール、−(C1〜C18アルキル)−オキシ、−(C1〜C18アルキル)−アミノ、−(C1〜C18アルキル)−チオ、−CO2Y、−C(=O)Y、−C(=O)NY2、−NH2、−NO2、−OH又は−SHで置換され、
R1〜R4は独立して−H、−C1〜C18アルキル、−NH2、−(C1〜C18アルキル)−O−(C1〜C18アルキル)、−OC(O)(C1〜C18アルキル)、−(C1〜C18アルキル)−OH、アリール、−(C1〜C18アルキル)−オキシ、−(C1〜C18アルキル)−アミノ、−(C1〜C18アルキル)−チオ、−CO2Y、−C(=O)Y、−C(=O)NY2、−NO2又は−SHであり、あるいはR1とR2とは及び/又はR3とR4とは組み合わさって1つ以上のオキソ基で置換される環状炭素を形成し得て、
L2がP(フェニル)3ではない場合、R1〜R4は独立して−H、−(C1〜C18アルキル)−OH、アリール、−(C1〜C18アルキル)−オキシ、−(C1〜C18アルキル)−アミノ、−(C1〜C18アルキル)−チオ、−CO2Y、−C(=O)Y、−C(=O)NY2、−NO2、−OH又は−SHであり、あるいはR1とR2とは及び/又はR3とR4とは組み合わさって1つ以上のオキソ基で置換される環状炭素を形成し得て、R1〜R4の少なくとも1つはHではなく、
XはCl-、F-、Br-、I-、PF6-、CF3SO3-、(C1〜C18アルキル)−CO2-又は(C1〜C18アルキル)−SO3-であり、
Yは−H、−C1〜C18アルキル、アリール、−(C1〜C18アルキル)−アリール、−C3〜C8シクロアルキル、ヘテロアリール及びヘテロシクリルから成る群から選択される)で示される化合物を提供する。
【0021】
(0024)
式Vで示される化合物の一実施形態において、
各L1は独立して
(a)環員の1つがRuと結合を形成する窒素原子である5員単環式芳香環、
(b)環員の1つがRuと結合を形成する窒素原子である6員単環式芳香環、
(c)2環式環の1つが芳香族であり且つRuと結合を形成する窒素原子員を有する8〜10員2環式環、
(d)窒素原子がRuと結合を形成する−NH2基、
(e)酸素原子の1つがRuと結合を形成する−COOH基、
(f)リン原子がRuと結合を形成し、Rが独立して−H、−C1〜C18アルキル若しくはアリールである−PR2基、又は
(g)硫黄原子がRuと結合を形成し、Rが独立して−H、−C1〜C18アルキル若しくはアリールである−SR基
を有する有機分子であり、
L2がP(フェニル)3の場合、各フェニルは独立して−C1〜C18アルキル、−(C1〜C18アルキル)−OH、アリール、−(C1〜C18アルキル)−オキシ、−(C1〜C18アルキル)−アミノ、−(C1〜C18アルキル)−チオ、−CO2Y、−C(=O)Y、−C(=O)NY2、−NH2、−NO2、−OH又は−SHで置換され、
R1〜R4は独立して−H、−C1〜C18アルキル、−NH2、−(C1〜C18アルキル)−O−(C1〜C18アルキル)、−OC(O)(C1〜C18アルキル)、−(C1〜C18アルキル)−OH、アリール、−(C1〜C18アルキル)−オキシ、−(C1〜C18アルキル)−アミノ、−(C1〜C18アルキル)−チオ、−CO2Y、−C(=O)Y、−C(=O)NY2、−NO2又は−SHであり、あるいはR1とR2とは及び/又はR3とR4とは組み合わさって1つ以上のオキソ基で置換される環状炭素を形成し得て、
L2がP(フェニル)3ではない場合、R1〜R4は独立して−H、−(C1〜C18アルキル)−OH、アリール、−(C1〜C18アルキル)−オキシ、−(C1〜C18アルキル)−アミノ、−(C1〜C18アルキル)−チオ、−CO2Y、−C(=O)Y、−C(=O)NY2、−NO2、−OH又は−SHであり、あるいはR1とR2とは及び/又はR3とR4とは組み合わさって1つ以上のオキソ基で置換される環状炭素を形成し得て、R1〜R4の少なくとも1つはHではなく、
XはCl-、F-、Br-、I-、PF6-、CF3SO3-、(C1〜C18アルキル)−CO2-又は(C1〜C18アルキル)−SO3-であり、
Yは−H、−C1〜C18アルキル、アリール、−(C1〜C18アルキル)−アリール、−C3〜C8シクロアルキル、ヘテロアリール及びヘテロシクリルから成る群から選択される。
【0022】
(0025)
式Vで示される化合物の一部の実施形態において、L2が(R9)3Pの場合、各R9は互いに異なる。
式Vで示される化合物の一部の実施形態において、L2が(R9)3Pの場合、2つのR9は同一であり且つ残りのR9とは異なる。
式Vで示される化合物の一部の実施形態において、L2が(Ph)3Pの場合、各フェニルはメチルで置換されない。
【0023】
(0028)
別の態様において、本発明は、式VI:
【化6】
VI
(式中、
各L1は独立して
(a)環員の1つがRuと結合を形成する窒素原子である5員単環式芳香環、
(b)環員の1つがRuと結合を形成する窒素原子である6員単環式芳香環、
(c)2環式環の1つが芳香族であり且つRuと結合を形成する窒素原子員を有する8〜10員2環式環、
(d)窒素原子がRuと結合を形成する−NH2基、
(e)酸素原子の1つがRuと結合を形成する−COOH基、
(f)リン原子がRuと結合を形成し、Rが独立して−H、−C1〜C18アルキル若しくはアリールである−PR2基、又は
(g)硫黄原子がRuと結合を形成し、Rが独立して−H、−C1〜C18アルキル若しくはアリールである−SR基
を有する有機分子であり、
L2はP(フェニル)3であり、各フェニルは独立して−C1〜C18アルキル、−(C1〜C18アルキル)−OH、アリール、−(C1〜C18アルキル)−オキシ、−(C1〜C18アルキル)−アミノ、−(C1〜C18アルキル)−チオ、−CO2Y、−C(=O)Y、−C(=O)NY2、−NH2、−NO2、−OH又は−SHで置換され、あるいはL2は(R9)2P若しくは(R9O)2Pのリン原子を介してRuに結合される標識分子又はその活性誘導体であり、mは2であり、あるいはL2はNHR9、N(R9)2、ピリジル、C(R9)=NH、C(R9)=NR9環状脂肪族アミン基若しくはニトリルの窒素原子を介してRuに結合される標識分子又はその活性誘導体であり、mは2であり、
各R9は独立して−C1〜C18アルキル、−C3〜C8シクロアルキル又はフェニルであり、
【0024】
R1〜R4は独立して−H、−C1〜C18アルキル、−NH2、−(C1〜C18アルキル)−O−(C1〜C18アルキル)、−OC(O)(C1〜C18アルキル)、−(C1〜C18アルキル)−OH、アリール、−(C1〜C18アルキル)−オキシ、−(C1〜C18アルキル)−アミノ、−(C1〜C18アルキル)−チオ、−CO2Y、−C(=O)Y、−C(=O)NY2、−NO2又は−SHであり、あるいはR1とR2とは及び/又はR3とR4とは組み合わさって1つ以上のオキソ基で置換される環状炭素を形成し得て、
XはCl-、F-、Br-、I-、PF6-、CF3SO3-、(C1〜C18アルキル)−CO2-又は(C1〜C18アルキル)−SO3-であり、
Yは−H、−C1〜C18アルキル、アリール、−(C1〜C18アルキル)−アリール、−C3〜C8シクロアルキル、ヘテロアリール及びヘテロシクリルから成る群から選択される)で示される化合物を提供する。
【0025】
(0029)
式VIの化合物の一実施形態において、
各L1は独立して
(a)環員の1つがRuと結合を形成する窒素原子である5員単環式芳香環、
(b)環員の1つがRuと結合を形成する窒素原子である6員単環式芳香環、
(c)2環式環の1つが芳香族であり且つRuと結合を形成する窒素原子員を有する8〜10員2環式環、
(d)窒素原子がRuと結合を形成する−NH2基、
(e)酸素原子の1つがRuと結合を形成する−COOH基、
(f)リン原子がRuと結合を形成し、Rが独立して−H、−C1〜C18アルキル若しくはアリールである−PR2基、又は
(g)硫黄原子がRuと結合を形成し、Rが独立して−H、−C1〜C18アルキル若しくはアリールである−SR基
を有する有機分子であり、
L2はP(フェニル)3であり、各フェニルは独立して−C1〜C18アルキル、−(C1〜C18アルキル)−OH、アリール、−(C1〜C18アルキル)−オキシ、−(C1〜C18アルキル)−アミノ、−(C1〜C18アルキル)−チオ、−CO2Y、−C(=O)Y、−C(=O)NY2、−NH2、−NO2、−OH又は−SHで置換され、
R1〜R4は独立して−H、−C1〜C18アルキル、−NH2、−(C1〜C18アルキル)−O−(C1〜C18アルキル)、−OC(O)(C1〜C18アルキル)、−(C1〜C18アルキル)−OH、アリール、−(C1〜C18アルキル)−オキシ、−(C1〜C18アルキル)−アミノ、−(C1〜C18アルキル)−チオ、−CO2Y、−C(=O)Y、−C(=O)NY2、−NO2又は−SHであり、あるいはR1とR2とは及び/又はR3とR4とは組み合わさって1つ以上のオキソ基で置換される環状炭素を形成し得て、
XはCl-、F-、Br-、I-、PF6-、CF3SO3-、(C1〜C18アルキル)−CO2-又は(C1〜C18アルキル)−SO3-であり、
Yは−H、−C1〜C18アルキル、アリール、−(C1〜C18アルキル)−アリール、−C3〜C8シクロアルキル、ヘテロアリール及びヘテロシクリルから成る群から選択される。
【0026】
(0030)
式VIの化合物の一部の実施形態において、L2が(R9)3Pの場合、各R9は互いに異なる。
式VIの化合物の一部の実施形態において、L2が(R9)3Pの場合、2つのR9は同一であり且つ残りのR9とは異なる。
式VIの化合物の一部の実施形態において、L2が(Ph)3Pの場合、各フェニルはメチルで置換されない。
【0027】
(0033)
別の態様において、本発明は、式VII、
【化7】
VII
(式中、
各L1は独立して
(a)環員の1つがRuと結合を形成する窒素原子である5員単環式芳香環、
(b)環員の1つがRuと結合を形成する窒素原子である6員単環式芳香環、
(c)2環式環の1つが芳香族であり且つRuと結合を形成する窒素原子員を有する8〜10員2環式環、
(d)窒素原子がRuと結合を形成する−NH2基、
(e)酸素原子の1つがRuと結合を形成する−COOH基、
(f)リン原子がRuと結合を形成し、Rが独立して−H、−C1〜C18アルキル若しくはアリールである−PR2基、又は
(g)硫黄原子がRuと結合を形成し、Rが独立して−H、−C1〜C18アルキル若しくはアリールである−SR基
を有する有機分子であり、
L2は(R9)3P、(R9O)3P又はL1であり、各R5は独立して−C1〜C18アルキル、−C3〜C8シクロアルキル又はフェニルであり、mは2であり、L2はP(フェニル)3ではなく、あるいはL2は−CNであり、mは1であり、あるいはL2は(R9)2P若しくは(R9O)2Pのリン原子を介してRuに結合される標識分子又はその活性誘導体であり、mは2であり、あるいはL2はNHR9、N(R9)2、ピリジル、C(R9)=NH、C(R9)=NR9環状脂肪族アミン基若しくはニトリルの窒素原子を介してRuに結合される標識分子又はその活性誘導体であり、mは2であり、
各R9は独立して−C1〜C18アルキル、−C3〜C8シクロアルキル又はフェニルであり、
【0028】
R1〜R4は独立して−H、−(C1〜C18アルキル)−OH、アリール、−(C1〜C18アルキル)−オキシ、−(C1〜C18アルキル)−アミノ、−(C1〜C18アルキル)−チオ、−CO2Y、−C(=O)Y、−C(=O)NY2、−NO2、−OH又は−SHであり、あるいはR1とR2とは及び/又はR3とR4とは組み合わさって1つ以上のオキソ基で置換される環状炭素を形成し得て、R1〜R4の少なくとも1つはHではなく、
XはCl-、F-、Br-、I-、PF6-、CF3SO3-、(C1〜C18アルキル)−CO2-又は(C1〜C18アルキル)−SO3-であり、
Yは−H、−C1〜C18アルキル、アリール、−(C1〜C18アルキル)−アリール、−C3〜C8シクロアルキル、ヘテロアリール及びヘテロシクリルから成る群から選択される)で示される化合物を提供する。
【0029】
(0034)
式VIIの化合物の一実施形態において、
各L1は独立して
(a)環員の1つがRuと結合を形成する窒素原子である5員単環式芳香環、
(b)環員の1つがRuと結合を形成する窒素原子である6員単環式芳香環、
(c)2環式環の1つが芳香族であり且つRuと結合を形成する窒素原子員を有する8〜10員2環式環、
(d)窒素原子がRuと結合を形成する−NH2基、
(e)酸素原子の1つがRuと結合を形成する−COOH基、
(f)リン原子がRuと結合を形成し、Rが独立して−H、−C1〜C18アルキル若しくはアリールである−PR2基、又は
(g)硫黄原子がRuと結合を形成し、Rが独立して−H、−C1〜C18アルキル若しくはアリールである−SR基
を有する有機分子であり、
L2は(R9)3P、(R9O)3P又はL1であり、各R5は独立して−C1〜C18アルキル、−C3〜C8シクロアルキル又はフェニルであり、mは2であり、L2はP(フェニル)3ではなく、あるいはL2は−CNであり、mは1であり、
R1〜R4は独立して−H、−(C1〜C18アルキル)−OH、アリール、−(C1〜C18アルキル)−オキシ、−(C1〜C18アルキル)−アミノ、−(C1〜C18アルキル)−チオ、−CO2Y、−C(=O)Y、−C(=O)NY2、−NO2、−OH又は−SHであり、あるいはR1とR2とは及び/又はR3とR4とは組み合わさって1つ以上のオキソ基で置換される環状炭素を形成し得て、R1〜R4の少なくとも1つはHではなく、
Xは、Cl-、F-、Br-、I-、PF6-、CF3SO3-、(C1〜C18アルキル)−CO2-又は(C1〜C18アルキル)−SO3-であり、
Yは−H、−C1〜C18アルキル、アリール、−(C1〜C18アルキル)−アリール、−C3〜C8シクロアルキル、ヘテロアリール及びヘテロシクリルから成る群から選択される。
【0030】
(0035)
式VIIの化合物の一部の実施形態において、L2が(R9)3Pの場合、各R9は互いに異なる。
式VIIの化合物の一部の実施形態において、L2が(R9)3Pの場合、2つのR9は同一であり且つ残りのR9とは異なる。
式VIIの化合物の一部の実施形態において、L2が(Ph)3Pの場合、各フェニルはメチルで置換されない。
【0031】
(0038)
別の態様において、本発明は、式VIII、
【化8】
VIII
(式中、
各L1は独立して(R9)2P若しくは(R9O)2Pのリン原子を介してRuに結合される標識分子又はその活性誘導体であり、mは2であり、あるいはL1はNHR9、N(R9)2、ピリジル、C(R9)=NH、C(R9)=NR9環状脂肪族アミン基若しくはニトリルの窒素原子を介してRuに結合される標識分子又はその活性誘導体であり、mは2であり、
各R9は独立して−C1〜C18アルキル、−C3〜C8シクロアルキル又はフェニルであり、
L2はCl−、ホスフィン、OH2又はピリジンであり、mは2であり、あるいはL2は−CNであり、mは1であり、
R1〜R4は独立して−H、−C1〜C18アルキル、−NH2、−(C1〜C18アルキル)−O−(C1〜C18アルキル)、−OC(O)(C1〜C18アルキル)、−(C1〜C18アルキル)−OH、アリール、−(C1〜C18アルキル)−オキシ、−(C1〜C18アルキル)−アミノ、−(C1〜C18アルキル)−チオ、−CO2Y、−C(=O)Y、−C(=O)NY2、−NO2又は−SHであり、あるいはR1とR2とは及び/又はR3とR4とは組み合わさって1つ以上のオキソ基で置換される環状炭素を形成し得て、
XはCl-、F-、Br-、I-、PF6-、CF3SO3-、(C1〜C18アルキル)−CO2-又は(C1〜C18アルキル)−SO3-であり、
Yは、−H、−C1〜C18アルキル、アリール、−(C1〜C18アルキル)−アリール、−C3〜C8シクロアルキル、ヘテロアリール及びヘテロシクリルから成る群から選択される)で示される化合物を提供する。
【0032】
(0039)
式VIIIの化合物の一実施形態において、
各L1は独立して標識分子であり、
L2はCl−、ホスフィン、OH2又はピリジンであり、mは2であり、あるいはL2は−CNであり、mは1であり、
R1〜R4は独立して−H、−C1〜C18アルキル、−NH2、−(C1〜C18アルキル)−O−(C1〜C18アルキル)、−OC(O)(C1〜C18アルキル)、−(C1〜C18アルキル)−OH、アリール、−(C1〜C18アルキル)−オキシ、−(C1〜C18アルキル)−アミノ、−(C1〜C18アルキル)−チオ、−CO2Y、−C(=O)Y、−C(=O)NY2、−NO2又は−SHであり、あるいはR1とR2とは及び/又はR3とR4とは組み合わさって1つ以上のオキソ基で置換される環状炭素を形成し得て、
XはCl-、F-、Br-、I-、PF6-、CF3SO3-、(C1〜C18アルキル)−CO2-又は(C1〜C18アルキル)−SO3-であり、
Yは−H、−C1〜C18アルキル、アリール、−(C1〜C18アルキル)−アリール、−C3〜C8シクロアルキル、ヘテロアリール及びヘテロシクリルから成る群から選択される。
【0033】
(0040)
式VIIIで示される化合物の一部の実施形態において、L2が(R9)3Pの場合、各R9は互いに異なる。
式VIIIで示される化合物の一部の実施形態において、L2が(R9)3Pの場合、2つのR9は同一であり且つ残りのR9とは異なる。
式VIIIで示される化合物の一部の実施形態において、L2が(Ph)3Pの場合、各フェニルはメチルで置換されない。
式I〜III及びV〜VIIIで示される化合物の一部の実施形態において、L2はローダミンB−メチルアミノプロピオニトリルアミド(RhodB−MAPN)である。式I〜III及びV〜VIIIの化合物の一部の実施形態において、L2はローダミンG−メチルアミノプロピオニトリルアミド(RhodG−MAPN)である。
【0034】
(0044)
式I〜III及びV〜VIIIで示される化合物の一実施形態において、L2は、
【化9】
(RhodB−MAMePy)又はその塩化物塩(RhodB−MAMePy−Cl)である。
【0035】
(0045)
式I〜III及びV〜VIIIの化合物の一部の実施形態において、L2は、
【化10】
(Rhod6G−MAMePy)又はその塩化物塩(Rhod6G−MAMePy−Cl)である。
【0036】
(0046)
式I〜III及びV〜VIIIの化合物の一部の実施形態において、標識分子はローダミンBである。式I〜III及びV〜VIIIの化合物の一部の実施形態において、標識分子はローダミン6Gである。
式I〜III及びV〜VIIIの化合物の一部の実施形態において、標識分子は、ボディパイ、ダンシル、フルオレセイン、テキサスレッド、シアニン染料、ピレン、クマリン、カスケードブルーTM、パシフィックブルー、マリナブルー、オレゴングリーン、4’,6−ジアミジノ−2−フェニルインドール(DAPI)、インドピラ(indopyra)染料、ルシファーイエロー、ヨウ化プロピジウム、ポルフィリン及びアルギニンから成る群から選択される。式I〜VIIIの化合物(「光解離性化合物」)は、光に曝露されるとL1を放出する。
【0037】
(0048)
別の態様において、本発明は、有効量の光解離性化合物と生理学的に許容可能な担体、ビヒクル、希釈剤又は賦形剤とを含む組成物を提供する。
別の態様において、本発明は、光解離性化合物を格納している容器を提供する。
その更に別の態様において、本発明は、光解離性化合物と使用説明書とを含むキットを提供する。
本発明の別の態様は、光解離性化合物から有機分子又は標識分子を放出させる方法を提供し、この方法は、光解離性化合物を、有機分子又は標識分子を放出させるのに十分な条件下で光に曝露することを含む。
【0038】
(0052)
更に別の態様において、本発明は、有機分子を、その有機分子を必要とする患者(患畜)にバイオアベイラブルにする方法を提供し、この方法は、光解離性化合物を患者に投与し、この化合物を、この化合物から有機分子を放出させるのに十分な条件下で光に曝露することを含む。
別の態様において、本発明は患者の疾患及び障害を治療する方法を提供し、この方法は、(a)光解離性化合物を患者に投与し、(b)この光解離性化合物を、有機分子を光解離性化合物から放出させるのに十分な条件下で光に曝露することを含む。一部の実施形態において、本発明の方法で治療する疾患及び障害には、神経学的、神経生理学的又は神経筋疾患及び状態(癲癇、多発性硬化症等)、がん、発汗並びに血液疾患が含まれる。
【0039】
(0054)
別の態様において、本発明は有機分子をアッセイする方法を提供し、この方法は、(a)光解離性化合物及び生物試料を、有機分子を光解離性化合物から放出させるのに十分な条件下で光に曝露し、(b)この有機分子の生物試料への作用を確認することを含む。
一態様において、本発明は、[Ru(bpy)2(RhodB−MAPN)Cl]Cl、[Ru(bpy)2(Rhod6G−MAPN)Cl]Cl、[Ru(bpy)2(RhodB−MAMePy)Cl]Clから成る群から選択される化合物を提供する。
別の態様において、本発明は、[Ru(bpy)2(RhodB−MAPN)Cl]Z、[Ru(bpy)2(Rhod6G−MAPN)Cl]Z、[Ru(bpy)2(RhodB−MAMePy)Cl]Z(Zはアニオン)から成る群から選択される化合物を提供する。一部の実施形態において、ZはCl-、F-、Br-又はI-である。
【0040】
(0057)
本発明によって得られる追加の態様、特徴及び利点は、以下の詳細な説明、図及び例示から明らかとなる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
(0058〜0077)
【図1】本明細書に記載の[Ru(bpy)2(4AP)2]Cl2の部分1H NMRスペクトルであり(実施例1)、4−APメタ水素に対応するシグナルを示す。ml:[Ru(bpy)2(4AP)2]2+、m2:[Ru(bpy)2(H2O)(4AP)2]2+、m3:遊離配位子4−AP。
【図2】(上)生理食塩水、[Ru(bpy)3]Cl2、[Ru(bpy)2(4AP)2]Cl2の溶液に関して医療用ヒル(Hirudo medicinalis)のニューロンにおいて記録された活動電位(スパイク)を示す。(下):スパイクの周波数。矢印は、Xeフラッシュランプを使用した光照射を示す。(中間):細胞外媒質の組成。
【図3】水中での[Ru(bpy)2(4AP)2]Cl2のサイクリックボルタンメトリ(CV)プロファイルを示す。支持電解質はKNO3(1M)であった。グラッシーカーボン電極中でdE/dt=100mV/秒。
【図4A】光照射前のD2Oにおける[Ru(bpy)2(4AP)2]Cl2のNMRスペクトルを示す。Bruker 500MHz。
【図4B】光照射後のD2Oにおける[Ru(bpy)2(4AP)2]Cl2のNMRスペクトルを示す。Bruker 500MHz。
【図5】完全な光分解前及び完全な光分解後のRu(bpy)2(4AP)2の紫外・可視光(UV−vis)スペクトルを示す。光への曝露後の光分解生成物は、Ru(bpy)2(4AP)(H2O)及び遊離4APであった。錯体(complex)は、20時間を超えては暗分解を起こさなかった。暗所での7時間後、光照射済みの溶液は、4%未満の4AP再結合を示した。
【図6】実施例3に記載の神経節光照射実験に使用したフィルタの紫外・可視スペクトルを示す。
【図7A】医療用ヒル(Hirudo medicinalis)の神経節の研究で得られた活動電位及びスパイクの周波数を示す。ヒルの神経節上での遊離4APの潅流中のレツィウスニューロン電位活動の記録を示す。[4AP]=0、10、20及び50mM。流量=1ml/分。担体:生理食塩水。実施例3に記載の通りである。
【図7B】医療用ヒル(Hirudo medicinalis)の神経節の研究で得られた活動電位及びスパイクの周波数を示す。図6のフィルタを通した緑色の光の0.1ミリ秒の閃光への曝露中のレツィウスニューロン活動の記録を示す。流量=1ml/分。担体:生理食塩水。実施例3に記載の通りである。パルスエネルギー:0.5J。
【図8A】光への曝露中の[Ru(bpy)2(4AP)2]Cl2のスペクトル変化に関する。473nmのレーザー光を照射中の[Ru(bpy)2(4AP)2]Cl2のスペクトル変化。出力:6.39mW連続。[Ru(bpy)2(4AP)2]Cl2の開始時濃度:27.9μM。A(473nm)=0.18。
【図8B】光への曝露中の[Ru(bpy)2(4AP)2]Cl2のスペクトル変化に関する。図8Aのスペクトルから得られた光照射時間の関数としての[Ru(bpy)2(4AP)(H2O)]2+の画分。
【図9】光放出された4AP対パルスエネルギーのグラフである。光源は、バンドパスフィルタを取り付けたパルスXeランプであった。[Ru(bpy)2(4AP)2]Cl2=44μM。体積=3mL。データは、紫外・可視スペクトル分析から得られた。
【図10】異なる励起波長での[Ru(bpy)2(TzGly)(py)]Cl2の幾つかの2光子蛍光画像である(倍率:約20倍)。
【図11】総2光子蛍光対[Ru(bpy)2(4AP)2]Cl2の励起波長のグラフである。
【図12】400〜600nmの光の照射前及び照射後のTzGlyの紫外・可視スペクトルである。
【図13A】TzGlyの構造を示す。
【図13B】潅流によってTzGly(1μM)をニューロンに加えることによって引き起こされたマウス皮質ニューロンのスパイキングを示す。測定結果は、当該分野で公知であり且つ用いられるホールセルパッチクランプ法によって得られた。
【図14A】[Ru(bpy)2(TzGly)(py)]Cl2と接触させたニューロンに行った実験に関する。樹状突起棘の拡大図を含む、ニューロンの蛍光イメージング顕微鏡写真である。
【図14B】[Ru(bpy)2(TzGly)(py)]Cl2と接触させたニューロンに行った実験に関する。樹状突起棘の拡大図を含む、ニューロンの蛍光イメージング顕微鏡写真である。
【図14C】[Ru(bpy)2(TzGly)(py)]Cl2と接触させたニューロンに行った実験に関する。樹状突起棘の拡大図を含む、ニューロンの蛍光イメージング顕微鏡写真である。
【図14D】[Ru(bpy)2(TzGly)(py)]Cl2と接触させたニューロンに行った実験に関する。[Ru(bpy)2(TzGly)2]Cl2の存在下での1つのニューロンのスパイキングへのレーザー照射(約40mW)の作用を示す。[Ru(bpy)2(TzGly)2]Cl2の濃度=100μM。パルス幅:10ミリ秒。出力:40mW、波長:720nm。
【図14E】[Ru(bpy)2(TzGly)(py)]Cl2と接触させたニューロンに行った実験に関する。図14A〜Dの実験に対する対照として行われた実験に関する。ニューロンの樹状突起棘の拡大図である。
【図14F】[Ru(bpy)2(TzGly)(py)]Cl2と接触させたニューロンに行った実験に関する。図14A〜Dの実験に対する対照として行われた実験に関する。ニューロンの樹状突起棘の拡大図である。
【図14G】[Ru(bpy)2(TzGly)(py)]Cl2と接触させたニューロンに行った実験に関する。。図14A〜Dの実験に対する対照として行われた実験に関する。[Ru(bpy)2(TzGly)2]Cl2の不在下での対照ニューロンへのレーザー照射の作用を示すプロットである。活動の活性化は観察されなかった。パルス幅:10ミリ秒。出力:40mW。波長:720nm。
【図15】100mMのTBAPF6を含有するCH3CN中のPtワイヤ電極での100mV/秒での天然の[Ru(bpy)2(PMe3)Glu]のサイクリックボルタンメトリ(CV)プロファイルを示す。
【図16】(上)450nmの光を使用した360秒の光照射中の[Ru(bpy)2(PMe3)Glu](0.1mM、pH=7)の紫外・可視スペクトル。(挿入グラフ)実験データ(円)から導き出された光放出されたグルタメート量。理論方程式にフィットさせたもの(線)。(下)[Ru(bpy)2(PMe3)Glu](1mM)の閃光光分解(10ナノ秒/パルス、平均256パルス)後の532nmでの吸光度変化。
【図17】光分解前(上のトレース)及び光分解後(下のトレース)のD2Oにおける[Ru(bpy)2(PMe3)Glu]の1H−NMRスペクトルの芳香族セクションを示し、[Ru(bpy)2(PMe3)H2O]2+の芳香族のシグナルを示す。
【図18】光分解前(上のトレース)及び光分解後(下のトレース)のD2Oにおける[Ru(bpy)2(PMe3)Glu]の1H−NMRスペクトルの脂肪族セクションを示す。最後のケースにおいて、3.50、2.30、2.04及び1.94ppmでのシグナルは遊離グルタメートに対応する。
【図19】錯体[Ru(bpy)2(RhodB−MAPN)Cl]+の1H NMR脂肪族領域スペクトルであり、(A)は光照射前、(B)は5分間の光照射後、(C)は遊離RhodB−MAPNスペクトルである。Bにおいて、遊離配位子a、b及びcのシグナルが明白であり、その光放出を示していることに注目すること。RhodB−MAPNにおけるエチル基に対応するシグナルd及びeは配位中心から離れていることから、大きな変化を受けない。理解しやすくするために、光分解反応図を付け加えている。
【図20】473nmのレーザーダイオードを使用したキュベットの光照射中の錯体[Ru(bpy)2(RhodB−MAPN)Cl]+の10μM水溶液の発光スペクトルである。スペクトルは10秒毎に測定された。挿入グラフは、光照射中の発光極大を示す。
【0042】
(0078)
本発明は概して、有機分子又は標識分子を含む光解離性化合物及びこの光解離性化合物を使用する方法に関する。有機分子は、生物学的に活性であり得る。本発明の一実施形態において、有機分子(例えば、生物学的に活性な分子)は保護され、続いて光、有利には可視光への曝露によって放出される。
公知の方法とは対照的に、可視光(例えば、可視光パルス)を使用して有機分子又は標識分子を光解離性化合物から放出させることができる。このため、本方法において、光解離性化合物を投与する試料(例えば、臓器、組織、細胞)又は患者は、細胞成分、最終的には細胞の増殖及び生存能に有害な作用を及ぼす紫外光に、あったとしても最小限にしか曝露されない。
【0043】
(0080)
本発明において、理論によって拘束しようとするものではないが、Ru−有機分子結合又はRu−標識分子結合は通常、共有σ結合より弱いことから、低エネルギーの光照射で切断することができる。更に、本発明において、理論によって拘束しようとするものではないが、光への曝露による有機分子又は標識分子の放出に必要なエネルギーは比較的低い。本発明の光解離性化合物において、有機分子又は標識分子は、本明細書に記載されるように、光解離性化合物への光照射によって光放出される。
また、本発明において、光放出はインビボ又は生物試料、例えば生細胞及び身体における体液、身体試料(臓器又は組織試料等)で起き得る。このため、光解離性化合物は、インビボでの生物学的用途、例えば身体の様々な疾患、状態及び障害の治療に特に有益である。本明細書に記載されるような光解離性化合物の使用によって、生物試料又は身体若しくはその臓器、組織及び細胞成分への有害作用を最小限に抑えながら、身体、例えば生きている臓器、組織及び細胞における生理活性機能又は生理活性の開始を精確に制御することができる(すなわち、ナノ秒〜ミリ秒以内)。加えて、生物試料の光への曝露を、有機分子が必要とされる又は所望される部位に限局することができる。これは、患者、特にはヒトの患者への投与にとって特に有益である。
光解離性化合物は、太陽電池、光電池又は光メモリ(例えば、3次元光メモリ)等の非生物系への使用にも適している。
【0044】
(0083)
一実施形態において、本発明は、式I、
【化11】
I
(式中、R1〜R8、L1、L2、X、M及びmは、式Iの化合物に関して上で定義した通りである)で示される化合物を含む。
【0045】
(0084)
別の実施形態において、本発明は、式II:
【化12】
II
(式中、R1〜R8、L1、L2、X及びmは、式IIの化合物に関して上で定義した通りである)の化合物を含む。
【0046】
(0085)
別の実施形態において、本発明は、式III、
【化13】
III
(式中、R1〜R8、L1、L2、X及びmは、式IIIの化合物に関して上で定義した通りである)で示される化合物を含む。
【0047】
(0086)
別の実施形態において、本発明は、式IV、
【化14】
IV
(式中、M1、M2及びL1は、式IVで示される化合物に関して上で定義した通りである)で示される化合物を含む。
【0048】
(0087)
一実施形態において、本発明は、式V、
【化15】
V
(式中、R1〜R4、L1、L2、X及びmは、式Vの化合物に関して上で定義した通りである)で示される化合物を含む。
【0049】
(0088)
別の実施形態において、本発明は、式VI、
【化16】
VI
(式中、R1〜R4、L1、L2、X及びmは、式VIの化合物に関して上で定義した通りである)で示される化合物を含む。
【0050】
(0089)
ある実施形態において、本発明は、L2がP(フェニル)3であり、各フェニルが独立して3位又は4位で置換される式VIで示される化合物を含む。
別の実施形態において、本発明は、L2がP(フェニル)3であり、少なくとも1つのフェニルが−(C1〜C18アルキル)−OHで置換される式VIで示される化合物を含む。
別の実施形態において、本発明は、L2がP(フェニル)3であり、各フェニルが−(C1〜C18アルキル)−OHで置換される式VIで示される化合物を含む。
別の実施形態において、本発明は、L2がP(フェニル)3であり、少なくとも1つのフェニルが−COOHで置換される式VIで示される化合物を含む。
別の実施形態において、本発明は、L2がP(フェニル)3であり、各フェニルが−COOHで置換される式IIで示される化合物を含む。
【0051】
(0094)
別の実施形態において、本発明は、L2がP(フェニル)3であり、少なくとも1つのフェニルが−OHで置換される式VIで示される化合物を含む。
別の実施形態において、本発明は、L2がP(フェニル)3であり、各フェニルが−OHで置換される式VIで示される化合物を含む。
別の実施形態において、本発明は、L2がP(フェニル)3であり、少なくとも1つのフェニルが−NH2で置換される式VIで示される化合物を含む。
別の実施形態において、本発明は、L2がP(フェニル)3であり、各フェニルが−NH2で置換される式VIで示される化合物を含む。
別の実施形態において、本発明は、L2がP(フェニル)3であり、少なくとも1つのフェニルが−NO2で置換される式VIで示される化合物を含む。
別の実施形態において、本発明は、L2がP(フェニル)3であり、各フェニルが−NO2で置換される式VIで示される化合物を含む。
別の実施形態において、本発明は、L1が、リン原子がRuと結合を形成するPMe2を含む有機分子である式VIで示される化合物を含む。
別の実施形態において、本発明は、L1が、リン原子がRuと結合を形成するP(フェニル)2を含む有機分子である式VIで示される化合物を含む。
【0052】
(0102)
別の実施形態において、本発明は、式VII、
【化17】
VII
(式中、R1〜R4、L1、L2、X及びmは、式VIIの化合物に関して上で定義した通りである)で示される化合物を含む。
【0053】
(0103)
別の実施形態において、本発明は、L2がP(メチル)(フェニル)2である式VIIの化合物を含む。
別の実施形態において、本発明は、L2がP(メチル)2(フェニル)である式VIIの化合物を含む。
別の実施形態において、本発明は、L1が、リン原子がRuと結合を形成するPMe2を含む有機分子である式VIIの化合物を含む。
別の実施形態において、本発明は、L1が、リン原子がRuと結合を形成するP(フェニル)2を含む有機分子である式VIIで示される化合物を含む。
【0054】
(0107)
別の実施形態において、本発明は、式VIII、
【化18】
VIII
(式中、R1〜R4、L1、L2、X及びmは、式VIIIの化合物に関して上で定義した通りである)で示される化合物を含む。
【0055】
(0108)
式I〜VIIIで示される光解離性化合物は、cis又はtrans構造で存在し得る。したがって、式I〜VIIIは、cis及びtransの両方の形態の光解離性化合物を含む。
本発明の化合物において、用語「−(C1〜C18)アルキル」とは、1〜18個の炭素原子を有する飽和直鎖又は分岐非環状炭化水素のことである。代表的な飽和直鎖−(C1〜C18)アルキルには、−メチル、−エチル、−n−プロピル、−n−ブチル、−n−ペンチル、−n−ヘキシル、−n−ヘプチル、−n−オクチル、−n−ノニル、−n−デシル、−n−ウンデシル、−n−ドデシル、−n−トリデシル、−n−テトラデシル、−n−ペンタデシル、−n−ヘキサデシル、−n−ヘプタデシル及び−n−オクタデシルが含まれる。代表的な飽和分岐−(C1〜C18)アルキルには、−イソプロピル、−sec−ブチル、−イソブチル、−tert−ブチル、−イソペンチル、−2−メチルブチル、−3−メチルブチル、−2,2−ジメチルブチル、−2,3−ジメチルブチル、−2−メチルペンチル、−3−メチルペンチル、−4−メチルペンチル、−2−メチルヘキシル、−3−メチルヘキシル、−4−メチルヘキシル、−5−メチルヘキシル、−2,3−ジメチルブチル、−2,3−ジメチルペンチル、−2,4−ジメチルペンチル、−2,2−ジメチルヘキシル、−2,3−ジメチルヘキシル、−2,4−ジメチルヘキシル、−2,5−ジメチルヘキシル、−2,2−ジメチルペンチル、−3,3−ジメチルペンチル、−3,3−ジメチルヘキシル、−4,4−ジメチルヘキシル、−2−エチルペンチル、−3−エチルペンチル、−2−エチルヘキシル、−3−エチルヘキシル、−4−エチルヘキシル、−2−メチル−2−エチルペンチル、−2−メチル−3−エチルペンチル、−2−メチル−4−エチルペンチル、−2−メチル−2−エチルヘキシル、−2−メチル−3−エチルヘキシル、−2−メチル−4−エチルヘキシル、−2,2−ジエチルペンチル、−3,3−ジエチルヘキシル、−2,2−ジエチルヘキシル、−3,3−ジエチルヘキシル等が含まれる。
【0056】
(0110)
本発明の化合物において、用語「−(C3〜C8)シクロアルキル」とは、3〜8個の炭素原子を有する飽和環状炭化水素のことである。代表的な−(C3〜C8)シクロアルキルには、−シクロプロピル、−シクロブチル、−シクロペンチル、−シクロヘキシル、−シクロヘプチル及び−シクロオクチル炭化水素が含まれる。
本発明の化合物において、用語「アリール」とは、縮合又は結合した1〜3個の芳香環を含む芳香族基のことである。
【0057】
(0112)
本発明の化合物において、本明細書で使用の用語「複素環基」又は「複素環式」又は「ヘテロシクリル」又は「ヘテロシクロ」とは、少なくとも1つの炭素原子含有環内に少なくとも1つのヘテロ原子を有する、完全に飽和した又は部分的に若しくは完全に不飽和の芳香族を含めた(すなわち、「ヘテロアリール」)環状基(例えば、4〜7員の単環式、7〜11員の2環式、10〜16員の3環式の環系)のことである。ヘテロ原子を有する複素環基の各環は、窒素原子、酸素原子及び/又は硫黄原子から選択される1、2、3又は4個のヘテロ原子を有し得て、この窒素及び硫黄ヘテロ原子は任意で酸化され得て、またこの窒素ヘテロ原子は任意で4級化され得る。複素環基は、分子の残りの部分に、環又は環系のいずれのヘテロ原子又は炭素原子の位置でも結合され得る。例示的な複素環基には、アゼパニル、アゼチジニル、アジリジニル、ジオキソラニル、フラニル、フラザニル、ホモピペラジニル、イミダゾリジニル、イミダゾリニル、イソチアゾリル、イソキサゾリル、モルホリニル、オキサジアゾリル、オキサゾリジニル、オキサゾリル、オキサゾリジニル、ピリミジニル、フェナントリジニル、フェナントロリニル、ピペラジニル、ピペリジニル、ピラニル、ピラジニル、ピラゾリジニル、ピラゾリニル、ピラゾリル、ピリダジニル、ピリドオキサゾリル、ピリドイミダゾリル、ピリドチアゾリル、ピリジニル、ピリミジニル、ピロリジニル、ピロリニル、キヌクリジニル、テトラヒドロフラニル、チアジアジニル、チアジアゾリル、チエニル、チエノチアゾリル、チエノオキサゾリル、チエノイミダゾリル、チオモルホリニル、チオフェニル、トリアジニル及びトリアゾリルが含まれるが、これらに限定されない。例示的な2環式複素環基には、インドリル、イソインドリル、ベンゾチアゾリル、ベンゾオキサゾリル、ベンゾオキサジアゾリル、ベンゾチエニル、キヌクリジニル、キノリニル、テトラヒドロイソキノリニル、イソキノリニル、ベンズイミダゾリル、ベンゾピラニル、インドリジニル、ベンゾフリル、ベンゾフラザニル、クロモニル、クマリニル、ベンゾピラニル、シンノリニル、キノキサリニル、インダゾリル、ピロロピリジル、フロピリジニル(フロ[2,3−c]ピリジニル、フロ[3,2−b]ピリジニル]、フロ[2,3−b]ピリジニル等)、ジヒドロイソインドリル、ジヒドロキナゾリニル(3,4−ジヒドロ−4−オキソ−キナゾリニル等)、トリアジニルアゼピニル、テトラヒドロキノリニル等が含まれる。例示的な3環式複素環基には、カルバゾリル、ベンズイドリル(benzidolyl)、フェナントロリニル、アクリジニル、フェナントリジニル、キサンテニル等が含まれる。
【0058】
(0113)
本明細書で使用の用語「環状脂肪族アミン」又は「環状脂肪族アミン基」とは、非芳香族系2級アミン又は環状3級アミン基のことである。環状脂肪族アミンの例にはアジリジン及びピペリジンが含まれるが、これらに限定されない。
本明細書で使用の用語「活性誘導体(active derivative)」又は「標識分子の活性誘導体(active derivative of a labeling molecule)」とは標識分子の化学的誘導体のことであり、標識分子の標識機能を保持している(例えば、その蛍光特性)。一部の実施形態においては、このような活性誘導体によって、ホスフィン基、脂肪族アミン基、イミン基、ピリジル基又はニトリル基を介したRuへの結合に関してより優れた特性が得られる。ローダミン(標識分子)の活性誘導体の具体例はB−メチルアミノプロピオニトリルアミド(RhodB−MAPN)である。当業者は、標識分子を変性することによってその誘導体を作り出し、次に得られた誘導体の活性を、標識分子の活性を試験するのと同じやり方で試験して、その誘導体が活性であるか否かを判断することができる。
【0059】
(0115)
アミノ酸基(α−アミノ酸等)は、アミノ基(−NH2)及びカルボン酸基を有する有機分子である。アミノ酸は、20種類の一般的なα−アミノ酸(Gly、Ala、Val、Leu、Ile、Ser、Thr、Asp、Asn、Lys、Glu、Gln、Arg、His、Phe、Cys、Trp、Tyr、Met、Pro)の1種又は別の天然アミノ酸、例えばノルロイシン、エチルグリシン、オルニチン、γ−アミノ酪酸及びフェニルグリシンであり得る。
環員の1つが窒素原子である6員単環式芳香環の例には、ピリジル、ピリミジニル、ピリダジニル及びピラジニル環が含まれる。
環員の1つが窒素原子である5員単環式芳香環の例には、ピロリル、イミダゾリル、ピラゾリル、トリアゾリル、テトラゾリル、オキサゾリル、オキサジアゾリル、チアゾリル及びチアジアゾリル環が含まれる。
【0060】
(0118)
環の1つが芳香族であり且つ窒素原子員を有する8〜10員2環式芳香環の例には、インドリジニル、イソインドリル、3H−インドリル、インドリル、インダゾリル、プリニル、キノリル、イソキノリル、フタラジニル、ナフチリジニル、キノキサリニル、1,3,7−トリメチル−2,6−ジオキソプリニル、キナゾリニル、シンノリニル、プテリジニル、6−アミノ−1H−プリニル及び2−アミノヒポキサンチニル2環式芳香環が含まれる。
一般に、本光解離性化合物で有用な有機分子の実例には多様な物質が含まれ、例えば、その非限定的な例は、医薬品、小分子、薬剤、神経化学物質、ペプチド、タンパク質及び化学療法剤である。
【0061】
(0120)
例示的な有機分子には更に、ルシフェリン、酵素阻害剤、脂肪酸(例えば、アラキドン酸)、プロテインキナーゼC活性化剤(例えば、ジオクタノイルグリセロール)、チューブリン会合促進剤(例えば、パクリタキセル)、抗生物質(例えば、ペニシリン、A23187)、神経伝達物質(例えば、L−グルタミン酸、アスパラギン酸、カルバミルコリン、ドーパミン、エピネフリン、GABA、グルタミン酸、グリシン、ハロペリドール、イソプロテレノール、カイニン酸、NMDA、NMDA受容体アンタゴニストMK−801、ノルエピネフリン、フェニレフリン、プロプラノロール)、4−アミノピリジン(4AP)、セロトニン(5−ヒドロキシトリプタミン、5HT)、(RS)−(テトラゾール−5−イル)グリシン(TzGly)、テトラゾリル−α−アミノ−3−ヒドロキシ−5−メチル−4−イソキサゾールプロプリオン酸((テトラゾール−5−イル)AMPA)、ニコチン、ニコチン酸、イソキサゾール、蛍光染料(例えば、フルオレセイン、HPTS、ローダミン、カルボキシ−Q−ローダミンのサクシニミジルエステル及びスルホサクシニミジルエステル又はローダミングリーン)、ヌクレオチド(例えば、ATP、ADP、cAMP、GDP、GTP、cGMP、GTP−γ−S、GDP−β、cAMP又はcGMPの8位置換誘導体、例えば8−ブロモ−cAMP、8−ブロモ−cGMP、8−クロロ−cAMP、8−クロロ−cGMP、8−パラクロロフェニルチオ(cCPT)cAMP又はcGMP、ホスフェート(例えば、ホスフェート、ホスフェートエステル)、フェニルホスフェート(PPh3)、Py、ヌクレオシド、ヌクレオシド誘導体、ヌクレオチド誘導体(例えば、cADP−リボース、8−アミノ−cADPリボース、8−ブロモ−cADP−リボース)、シクリトール(例えば、イノシトール)、シクリトールホスフェート(例えば、ミオイノシトールホスフェート、ミオイノシトール−1,4,5−トリホスフェート、ミオイノシトール−1,3,4,5−テトラキスホスフェート、ミオイノシトール−3,4,5,6−テトラキスホスフェート)、NO(例えば、HON=N(O)(Net2))の分解性化合物由来)、キーラント(chelant)(例えば、EDTA、EGTA)並びにイオノフォア(例えば、ナイジェリシン)が含まれ得る。有機分子は、例えばFurutaらのBiochem.Biophys.Res.Commun.,228:193−198(1996)に記載されるように細胞浸透性であり得る。
【0062】
(0121)
有機分子のその他の有用な例には、アデノシン5’−ジホスフェートADP、アデノシン5’−トリホスフェートATP、アデノシン5’−モノホスフェートAMP、アミノ酪酸、L−グルタミン酸、環状アデノシン5’−ジホスフェートリボース、アデノシン3’,5’−環状モノホスフェート、フルオレセイン、メチル−D−アスパラギン酸、チラミン、トリプトファン、4−アミノピリジン(4AP)、エピネフリン、ノルエピネフリン、ドーパミン、セロトニン(5ヒドロキシトリプタミン、5HT)、(RS)−(テトラゾール−5−イル)グリシン(TzGly)(強力なN−メチル−D−アスパルテート受容体(NMDA)アゴニスト)、テトラゾリル−α−アミノ−3−ヒドロキシ−5−メチル−4−イソキサゾールプロプリオン酸((テトラゾール−5−イル)AMPA)、カフェイン及びニコチンが含まれる。
【0063】
(0122)
本発明において、有機分子配位子グルタメート、γ−アミノ酪酸(GABA)、アラニナート、グリシナート等は、可視光への曝露後に光解離性化合物から光放出されることが実証されている。このような光解離性化合物は、水に加えて溶液中で安定である。−NH2基又は−COOH基を有する有機分子は、水以外の溶媒、例えばアルコール(例えば、メタノール、エタノール)、アセトン等中に放出され得る。
本発明の有機分子には、リン原子がRuと結合を形成する−PR2基を有するリン誘導体が含まれ、Rは独立して−H、−C1〜C18アルキル又はアリールである。例示的なリン誘導体には、ジメチルホスフィニル、ジエチルホスフィニル及びジフェニルホスフィニルが含まれる。
本発明の有機分子には、硫黄原子がRuと結合を形成する−SR基を有する硫黄誘導体が含まれ、Rは独立して−H、−C1〜C18アルキル又はアリールである。例示的な硫黄誘導体には、イソプロピルβ−D−1−チオガラクトピラノシド(IPTG)、チオエーテル、チオレート、メチルチオ、エチルチオ及びフェニルチオが含まれる。
【0064】
(0125)
一般に、本光解離性化合物で有用な標識分子の実例には多様な物質が含まれ、例えば、非限定的な例として蛍光基、生物発光基、化学発光基、比色基又は放射性基を有する分子である。
蛍光分子は、ボディパイ、ダンシル、フルオレセイン、ローダミン、テキサスレッド、シアニン染料、ピレン、クマリン、カスケードブルー(登録商標)、パシフィックブルー、マリナブルー、オレゴングリーン、4’,6−ジアミジノ−2−フェニルインドール(DAPI)、インドピラ(indopyra)染料、ルシファーイエロー、ヨウ化プロピジウム、ポルフィリン、アルギニン並びにこれらの変化形及び誘導体から選択することができる。蛍光標識部分及び蛍光技法に関する更なる情報については、例えばRichard P.HaughlandのHandbook of Fluorescent Probes and Research Chemicals(第6版、Molecular Probes、1996)を参照のこと。この文献は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
L2がL1以外である式I〜III及びV〜VIIIで示される光解離性化合物は、約モル当量のRu(bdt)2Cl2(bdtは、式I〜IIIにおいて定義されるようなR1〜R8基、又は式V〜VIIIで定義されるようなR1〜R4基で置換されるビピリジン又はフェナントロリンである)を約モル当量の有機又は標識分子と、還流している水、エタノール、メタノール、イソプロピルアルコール、エチレングリコール、アセトン、塩化メチレン又はこれらの混合物中、窒素下で反応させることによって生成することができる。約4〜約8時間後、得られた溶液を冷却し、そこに少なくとも約当量のL2を添加する。得られた混合物を還流下で約4〜約20時間に亘って加熱する。室温にまで冷却後、得られた溶液を水で希釈し、そこに過剰量のNH4PF6を添加する。得られた沈殿物を濾過し、シリカゲルクロマトグラフィで精製し、乾燥させ、アセトンに溶解させる。(n−Bu)4NH4+X(Xは、式I〜III及びV〜VIIIで定義される)をこのアセトン溶液に添加し、L2がL1以外である得られた式I〜III及びV〜VIIIで示される光解離性化合物を濾過する。
【0065】
(0128)
L2がL1である式I〜III及びV〜VIIIで示される光解離性化合物は、約モル当量のRu(bdt)2Cl2(bdtは、式I〜IIIIで定義されるようなR1〜R8基、又は式V〜VIIIで定義されるようなR1〜R4基で置換されるビピリジン又はフェナントロリンである)を過剰量の有機又は標識分子と、還流している水、エタノール、メタノール、イソプロピルアルコール、エチレングリコール、アセトン、塩化メチレン又はこれらの混合物中、窒素下で反応させることによって生成することができる。約4〜約8時間後、得られた溶液を室温にまで冷却する。得られた混合物を水で希釈し、そこに過剰量のNH4PF6を添加する。得られた沈殿物を濾過し、シリカゲルクロマトグラフィで精製し、乾燥させ、アセトンに溶解させる。(n−Bu)4NH4+X(Xは、式I〜III及びV〜VIIIで定義される)をこのアセトン溶液に添加し、L2がL1である得られた式I〜III及びV〜VIIIの光解離性化合物を濾過する。
【0066】
(0129)
M2がRuの式IVの光解離性化合物は、約1モル当量の(M1)3[M2(CN)5NH3]2H2O(M1は、式IVで定義される)を、約10モル当量の有機分子を含有する約15mLのアルゴン脱酸素化されたエタノール/水(1:1)中に溶解させることによって得られる。得られた混合物をアルゴン下、ほぼ室温で約1時間に亘って維持し、真空下、ほぼ室温で約1mLの体積にまで濃縮する。得られた濃縮物に冷たいM1Iの飽和エタノール溶液を添加すると、M2がRuの式IVの光解離性化合物の沈殿が起き、この沈殿物をエタノール及びジエチルエーテルで洗浄する。
本発明に関し、光放出は一般に、適当な波長の可視光への曝露に続いて急速に、例えば約数ナノ秒〜約500ミリ秒(Salierno et al.,J Inorg Biochem.2010 104(4):418-22を参照のこと)後に起き得る。有機分子又は標識分子を光解離性化合物から効果的に光放出させるための光の適切な波長は、約300〜約500nm、約300〜約360nm又は約450〜約500nm(例えば、473nm)に及び、最高700nmにまで拡張され得る。適切な光源には、適当な波長の光を照射可能なものが含まれ、例えば市販のタングステンランプ(Cole-Parmer社)、アークランプ、キセノン連続ランプ、レーザー(例えば、青色又は緑色のレーザー)又はフォトオプティック光源であるが、これらに限定されない。このような光源は市販である(CrystaLaser社、リノ、ネバダ州、Lasever社、江東区、寧波、中国)。必要に応じて又は望ましいならば、その他の形態の光(太陽光、赤外光、パルス赤外光、紫外光等)も本発明に使用することができる。
【0067】
(0131)
光解離性化合物を光(特には可視光又は赤外光)に曝露するのに適した装置及びシステムには更に、イメージングプローブ、イメージングカテーテル及び光ファイバープローブ、特にはU.UtzingerらのJ.Biomed.Optics,8(1):121−147(2003)及びFujimotoらのPhotonic Materials,Devices and Systems−Laser Medicine and Medical Imaging Group,RLE Progress Report 144,pp27−1〜27−35に記載され且つ市販のグラジエントインデックス又はグレーデッドインデックス(GRIN)レンズを備えたものが含まれる(Sp3 plus社、英国)。光解離性化合物の曝露による有機分子又は標識分子の光放出に適した光は、約300〜約500nm、約300〜約360nm又は約450〜約500nmの波長を含む。適切な光には可視光又は赤外光が含まれる。
【0068】
(0132)
更に、本発明において、有機分子又は標識分子を、1光子又は2光子光分解によって光解離性化合物から放出させることもできる。2光子励起を利用する光学メモリは、例えばStrickler and WebbのOptics Letters,16:1780−1782(1991)に記載される。2光子励起の特徴は、焦点外のバックグラウンドの排除である(例えば、W.Denk et al.,1990,Science,248:73−76を参照のこと)。したがって、2光子アンケージングによって、有機分子又は標識分子を焦点面においてのみ放出させることができる(例えば、W.Denk et al.,1994,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,91:6629−6633を参照のこと)。
ある実施形態において、本発明は、有機分子が4−APである式Iの化合物を含む。別の実施形態において、本発明は、有機分子がTzGlyである式Iの化合物を含む。別の実施形態において、本発明は、有機分子が(テトラゾール−5−イル)AMPAである式Iの化合物を含む。別の実施形態において、本発明は、有機分子がニコチン又はカフェインである式Iの化合物を含む。別の実施形態において、本発明は、有機分子がセロトニン、エピネフリン、ノルエピネフリン又はドーパミンである式Iの化合物を含む。別の実施形態において、本発明は、有機分子がアデノシン5’−ジホスフェートADP、アデノシン5’−トリホスフェートATP、アデノシン5’−モノホスフェートAMP、環状アデノシン5’−ジホスフェートリボース又はアデノシン3’,5’−環状モノホスフェートである式Iの化合物を含む。別の実施形態において、本発明は、有機分子がアミノ酪酸又はL−グルタミン酸又はメチル−D−アスパラギン酸である式Iの化合物を含む。
【0069】
(0134)
ある実施形態において、本発明は、有機分子が4−APである式II又は式IIIの化合物を含む。別の実施形態において、本発明は、有機分子がTzGlyである式IIの化合物を含む。別の実施形態において、本発明は、有機分子が(テトラゾール−5−イル)AMPAである式IIの化合物を含む。別の実施形態において、本発明は、有機分子がニコチン又はカフェインである式IIの化合物を含む。別の実施形態において、本発明は、有機分子がセロトニン、エピネフリン、ノルエピネフリン又はドーパミンである式IIの化合物を含む。別の実施形態において、本発明は、有機分子がアデノシン5’−ジホスフェートADP、アデノシン5’−トリホスフェートATP、アデノシン5’−モノホスフェートAMP、環状アデノシン5’−ジホスフェートリボース又はアデノシン3’,5’−環状モノホスフェートである式IIの化合物を含む。別の実施形態において、本発明は、有機分子がアミノ酪酸、L−グルタミン酸又はメチル−D−アスパラギン酸である式IIの化合物を含む。
【0070】
(0135)
ある実施形態において、本発明は、有機分子が4−APである式IVの化合物を含む。別の実施形態において、本発明は、有機分子がTzGlyである式IVの化合物を含む。別の実施形態において、本発明は、有機分子が(テトラゾール−5−イル)AMPAである式IVの化合物を含む。別の実施形態において、本発明は、有機分子がニコチン又はカフェインである式IVの化合物を含む。別の実施形態において、本発明は、有機分子がセロトニン、エピネフリン、ノルエピネフリン又はドーパミンである式IVの化合物を含む。別の実施形態において、本発明は、有機分子がアデノシン5’−ジホスフェートADP、アデノシン5’−トリホスフェートATP、アデノシン5’−モノホスフェートAMP、環状アデノシン5’−ジホスフェートリボース又はアデノシン3’,5’−環状モノホスフェートである式IVの化合物を含む。別の実施形態において、本発明は、有機分子がアミノ酪酸、L−グルタミン酸又はメチル−D−アスパラギン酸である式IVの化合物を含む。
【0071】
(0136)
ある実施形態において、本発明は、有機分子が4−APである式Vの化合物を含む。別の実施形態において、本発明は、有機分子がTzGlyである式Vの化合物を含む。別の実施形態において、本発明は、有機分子が(テトラゾール−5−イル)AMPAである式Vの化合物を含む。別の実施形態において、本発明は、有機分子がニコチン又はカフェインである式Vの化合物を含む。別の実施形態において、本発明は、有機分子がセロトニン、エピネフリン、ノルエピネフリン又はドーパミンである式Vの化合物を含む。別の実施形態において、本発明は、有機分子がアデノシン5’−ジホスフェートADP、アデノシン5’−トリホスフェートATP、アデノシン5’−モノホスフェートAMP、環状アデノシン5’−ジホスフェートリボース又はアデノシン3’,5’−環状モノホスフェートである式Vの化合物を含む。別の実施形態において、本発明は、有機分子がアミノ酪酸、L−グルタミン酸又はメチル−D−アスパラギン酸である式Vの化合物を含む。
【0072】
(0137)
ある実施形態において、本発明は、有機分子が4−APである式VIの化合物を含む。別の実施形態において、本発明は、有機分子がTzGlyである式VIの化合物を含む。別の実施形態において、本発明は、有機分子が(テトラゾール−5−イル)AMPAである式VIの化合物を含む。別の実施形態において、本発明は、有機分子がニコチン又はカフェインである式VIの化合物を含む。別の実施形態において、本発明は、有機分子がセロトニン、エピネフリン、ノルエピネフリン又はドーパミンである式VIの化合物を含む。別の実施形態において、本発明は、有機分子がアデノシン5’−ジホスフェートADP、アデノシン5’−トリホスフェートATP、アデノシン5’−モノホスフェートAMP、環状アデノシン5’−ジホスフェートリボース又はアデノシン3’,5’−環状モノホスフェートである式VIの化合物を含む。別の実施形態において、本発明は、有機分子がアミノ酪酸、L−グルタミン酸又はメチル−D−アスパラギン酸である式VIの化合物を含む。
【0073】
(0138)
ある実施形態において、本発明は、有機分子が4−APである式VIIの化合物を含む。別の実施形態において、本発明は、有機分子がTzGlyである式VIIの化合物を含む。別の実施形態において、本発明は、有機分子が(テトラゾール−5−イル)AMPAである式VIIの化合物を含む。別の実施形態において、本発明は、有機分子がニコチン又はカフェインである式VIIの化合物を含む。別の実施形態において、本発明は、有機分子がセロトニン、エピネフリン、ノルエピネフリン又はドーパミンである式VIIの化合物を含む。別の実施形態において、本発明は、有機分子がアデノシン5’−ジホスフェートADP、アデノシン5’−トリホスフェートATP、アデノシン5’−モノホスフェートAMP、環状アデノシン5’−ジホスフェートリボース又はアデノシン3’,5’−環状モノホスフェートである式VIIの化合物を含む。別の実施形態において、本発明は、有機分子がアミノ酪酸、L−グルタミン酸又はメチル−D−アスパラギン酸である式VIIの化合物を含む。
【0074】
(0139)
ある実施形態において、本発明は、標識分子がローダミンである式I〜III及びV〜VIIIの化合物を含む。別の実施形態において、本発明は、標識分子がフルオレセインである式I〜III及びV〜VIIIの化合物を含む。別の実施形態において、本発明は、標識分子がヨードエオシンである式I〜III及びV〜VIIIの化合物を含む。別の実施形態において、本発明は、標識分子が、窒素原子がRuと結合を形成する−CN基を有する蛍光分子である式I〜III及びV〜VIIIの化合物を含む。別の実施形態において、本発明は、標識分子が、窒素原子がRuと結合を形成するピリジル基を有する蛍光分子である式I〜III及びV〜VIIIの化合物を含む。別の実施形態において、本発明は、標識分子が、窒素原子がRuと結合を形成するアミノ基を有する蛍光分子である式I〜III及びV〜VIIIの化合物を含む。別の実施形態において、本発明は、標識分子が、窒素原子がRuと結合を形成するホスフィン基を有する蛍光分子である式I〜III及びV〜VIIIの化合物を含む。
【0075】
(0140)
別の実施形態において、本発明は、標識分子が、窒素原子がRuと結合を形成する−CNを有するローダミンである式I〜III及びV〜VIIIの化合物を含む。別の実施形態において、本発明は、標識分子が、窒素原子がRuと結合を形成するピリジル基を有するローダミンである式I〜III及びV〜VIIIの化合物を含む。別の実施形態において、本発明は、標識分子が、窒素原子がRuと結合を形成するアミノ基を有するローダミンである式I〜III及びV〜VIIIの化合物を含む。別の実施形態において、本発明は、標識分子が、窒素原子がRuと結合を形成するホスフィン基を有するローダミンである式I〜III及びV〜VIIIの化合物を含む。
【0076】
(0141)
式I〜III及びV−VIIIの化合物の一部の実施形態において、L2は、
【化19】
(RhodB−MAMePy)又はその塩化物塩(RhodB−MAMePy−Cl)である。
【0077】
(0142)
式I〜III及びV〜VIIIの化合物の一部の実施形態において、L2は、
【化20】
(Rhod6G−MAMePy)又はその塩化物塩(Rhod6G−MAMePy−Cl)である。
【0078】
(0143)
一部の実施形態において、標識分子又はその活性誘導体は、他の配位基−NH2、ピリジル又はホスフィン基を介してRuにRuに結合される。
光解離性化合物の一部の実施形態において、L2は標識分子又はその活性誘導体を含み、光アンテナとしての役割を果たし、また部分L1の光放出をもたらす化合物の部位にエネルギーを移行させることができる。このようにして集光は化学的放出工程から切り離され、両方の過程についての直交する化学的戦略が可能になる。したがって、一部の実施形態において、光解離性化合物は2つの機能を有し、1つ目は光アンテナであること、2つ目は光放出実体であることである。
一態様において、光解離性化合物を、組み合わせた化学的戦略において使用することができる。例えば、分子の光放出部において一連の体系的な誘導体を生成し、それらを使用して大規模なスクリーニングを行うことができる。あるいは又はそれに加えて、光アンテナ部分の誘導体化を行いながら分子の光放出部を固定することができる。
別の態様において、光解離性化合物の磁気及び/又は放射線不透過特性を、生細胞中でのその同定又は操作の手段として使用する。1つのこのような実施形態において、光解離性化合物は、MRI(磁気共鳴画像法)の造影剤として使用される。
【0079】
(0147)
L2が、フルオロフォア又はその誘導体等の標識分子を含む場合、L2はアンテナの役割を果たし、光照射スペクトルを極めて高い吸収率及び効率でもってより低いエネルギーに拡大することができる。特定の実施形態において、蛍光染料は非放出性配位子(すなわち、ホスフィン)を使用した誘導体化を通じて結合される(:P(R)2−フルオロフォア)。これらの実施形態において、光は、アンテナとして機能する蛍光部分によって集められ、Ru中心に移動させられ、MLCT又はd−d励起状態をポピュレートする。一旦励起状態に達したら、もう一方の配位子(すなわち、生体分子又は薬剤になり得るL1)が放出される。
この場合、活性波長がRu中心によってではなく蛍光染料の高い吸収(約100000M-1cm-1)によって決定されるという事実は、異なる光アンケージング性成分を有する異なる錯体の異なる波長(400〜600nm)での調整を可能にし、直交性が得られる。
【0080】
(0149)
配位している蛍光染料(すなわち、標識分子)に隣接させての適切な有機染料のルテニウムへの配位は、その近接性によって蛍光の選択的なクエンチングを可能にする。この場合、Ru−bpyMLCTバンドを介した光の吸収(アンテナ効果なし。蛍光は近接する非蛍光染料によってクエンチされる)は、蛍光染料を光放出させて蛍光を劇的に増大させ、またフルオロフォアを「アンケージング」することができる。あるいは、非蛍光クエンチャを光放出することができ、ある程度同様の結果が得られる(しかしながら、条件によっては、金属中心の存在がフルオロフォアをクエンチし得る)。
更に、本発明において、R1とR2とが及び/又はR3とR4とが組み合わさって1つ以上のオキソ基で置換される環状炭素を形成する式V〜VIIIの化合物は表面に結合することができ、また表面への化合物の送達に有用である。例えば、このような化合物はナノ粒子又はナノ粉末に結合することができ、また生物学的に活性な有機分子又は標識分子の送達に使用することができる。ナノスケールの送達系には、薬剤の制御されたターゲット輸送において数多くの用途がある。薬剤を、特定の表面官能化がなされたナノ粒子によって選択的にターゲット細胞にまで運ぶことができる。ナノ粒子は、細胞膜を貫通し、また生物の生理学的障壁を乗り越えることができ、またナノ粒子は、薬剤の溶解性及びバイオアベイラビリティを改善することもできる。
【0081】
(0151)
別の実施形態において、本発明は、有機分子の溶解性を向上させる方法を提供し、この方法は、有機分子を光解離性ケージング基に錯化させることによって光解離性化合物を生成することを含み、十分な条件下での化合物の光への曝露によって、有機分子は化合物から放出される。ある実施形態において、この有機分子は、
(i)環員の1つがRuと結合を形成する窒素原子である5員単環式芳香環、
(ii)環員の1つがRuと結合を形成する窒素原子である6員単環式芳香環、
(iii)2環式環の1つが芳香族であり且つRuと結合を形成する窒素原子員を有する8〜10員2環式環、
(iv)窒素原子がRuと結合を形成する−NH2基、
(v)酸素原子の1つがRuと結合を形成する−COOH基、
(vi)リン原子がRuと結合を形成し、Rが独立して−H、−C1〜C18アルキル若しくはアリールである−PR2基、又は
(vii)硫黄原子がRuと結合を形成し、Rが独立して−H、−C1〜C18アルキル若しくはアリールである−SR基
を有する。
【0082】
(0152)
ある実施形態において、本発明は、有効量の光解離性化合物と生理学的に許容可能な担体、ビヒクル、希釈剤又は賦形剤を含む組成物を含む。適切な担体、ビヒクル、希釈剤又は賦形剤は当業者に公知であり、また本明細書に記載されるように生理学的に無菌の生理食塩水その他が含まれるが、これらに限定されない。
【0083】
(0153)
別の実施形態において、本発明は、光解離性化合物を格納している容器を提供する。この容器は更に生物試料を格納し得て、この試料は、例えば毛髪、臓器標本、組織又は細胞(例えば、神経組織、神経細胞)、腫瘍、がん若しくは新生物組織又は細胞、患者若しくは関心の対象から除去した組織又は細胞である。例えばミクロトームで切片にした組織標本は、適切な生物試料の例である。
光解離性化合物を構成している有機分子又は標識分子の放出に使用する波長の光を透過可能であり且つ光解離性化合物を懸濁させる溶媒に対して不活性であるいずれのタイプの容器も使用に適している。例えば、この容器を、ガラス、プラスチック、アクリル、石英、貴金属等で形成することができる。加えて、この容器を金属(例えば、アルミニウム、チタン、ステンレススチール)で構成する又は金属で覆う場合、光への曝露は容器の上部から又は容器に開いた「窓(window)」若しくはその他の光が通過可能な開口部を通じて行われる。固体様の材料の場合は、例えばアクリル樹脂又はアクリルアミド/ビスアクリルアミドゲル等を、光解離性化合物を入れる媒質として使用することができる。例えば、アクリルのCHCl3溶液及びRu(bpy)錯体を使用して調製したアクリル樹脂コーティングは光照射後にそのスペクトルを変化させて固体状態での光放出を可能にした。本発明のこのような固体状態の態様に関して、温度は4Kに維持され得る。
【0084】
(0155)
光解離性化合物を入れて光に曝露可能な適切な溶媒には、水性溶媒、水、アセトニトリル、アルコール(例えば、メタノール、エタノール)、アセトン、塩素化溶媒(CH2Cl2、CHCl3等)又はジメチルスルホキシドが含まれる。
光解離性化合物を光に曝露する適切な温度は一般に約0℃から約100〜150℃に及ぶ。
別の実施形態において、本発明は、有機分子又は標識分子を光解離性化合物から放出させる方法を含む。この方法は、光解離性化合物を、有機分子又は標識分子を化合物から放出させるのに十分な条件下で光に曝露させることを含む。この方法において、光は、約300〜約500nm、約300〜約360nm又は約450〜約500nmの波長を含む。更に、曝露は、約0〜約150℃の温度で起き得る。ある実施形態において、本発明の方法は、光解離性化合物(例えば、式I〜VIIIの化合物)、約300〜約500nmの波長の光、L2であるL1及び約0〜約150℃の温度を含む。別の実施形態において、この方法は、光解離性化合物、約300〜約360nmの波長の光、L2であるL1及び約0〜約150℃である温度を含む。別の実施形態において、この方法は、光解離性化合物、約450〜約500nmの波長の光、L2であるL1及び約0〜約150℃の温度を含む。別の実施形態において、この方法は、光解離性化合物、可視光又は赤外光、L2であるL1及び約0〜約150℃の温度を含む。
【0085】
(0158)
ある実施形態において、本発明は有機分子をアッセイする方法を含み、この方法は、光解離性化合物及び生物試料を、有機分子を光解離性化合物から放出させるのに十分な条件下で光に曝露し、(b)この有機分子の生物試料への作用を確認することを含む。この試料は生物試料であり得て、例えば患者の身体から切除、除去又は別の形で採取された試料である。患者の生物試料は、例えば毛髪試料、(例えば、生検、剖検によって得られた)臓器若しくは組織試料又は細胞試料であり得る。加えて、生物試料は、体液試料であり得る。体液試料には、血液、血清、血漿、リンパ液、唾液、痰、涙液、精液又は尿が含まれるが、これらに限定されない。生物試料には更に、脳組織、脳細胞、筋組織、筋細胞、筋線維、線維芽細胞、身体のいずれかの臓器から得た組織切片又は微細組織標本、筋小胞体、皮膚組織、膜標本又はフラグメント等が含まれ得るが、これらに限定されない。
【0086】
(0159)
本発明の方法による化合物を曝露させるための光は、太陽光、フォトオプティック光又はレーザー光であり得る。有利には、本発明の方法において、化合物の曝露のための光は、紫外線以外である。したがって、例えば、光は可視光又は赤外光であり得て、1光子光及び2光子光が含まれる。光は多様な光源から放射することができ、レーザー光源、タングステン光源、フォトオプティック光源等が含まれるが、これらに限定されない。本発明の化合物の曝露又は光照射のための可視光の別の利点は、簡便性及び例えば化合物を導入する試料を観察し、また可視光への曝露後に化合物から光放出される配位子を顕微鏡で可視化する又はモニタするために可視光顕微鏡を使用できることに関係する。多くの顕微鏡は紫外光を透過しないことから、本発明において非石英系顕微鏡を使用できることは有利である。可視光を使用する更に別の利点は、可視光が生細胞及び組織に有害ではないことであり、患者の体内での使用に有益である。加えて、患者に使用する場合、光を、光解離性化合物を導入する又は投与するエリアにレーザー技術、ファイバー、プローブ、チューブ等の使用によって特異的に指向させることができる。このようなプローブ、ファイバー又はチューブを、例えば体腔若しくは開口部内へと又は経皮的に直接挿入して光解離性化合物を光に曝露させることができる。
【0087】
(0160)
その別の実施形態において、本発明は、有機分子を患者にバイオアベイラブルにする方法を含む。有機分子を、患者の局所的な身体領域若しくはエリアに又は体全体に全身的にバイオアベイラブルにすることができる。光解離性化合物の局所的なバイオアベイラビリティは、例えば光解離性化合物の直接投与(例えば、体腔若しくは開口部内に又は経皮的に挿入する)を可能にする送達器具及び方法を介して達成される。本実施形態の方法は、光解離性化合物を患者に投与し、この化合物を、有機分子を化合物から放出させるのに十分な条件下で光に曝露することによって有機分子を患者に及び/又は患者の身体部位若しくは領域にバイオアベイラブルにすることを伴う。光への曝露は、プローブ、ファイバー、チューブ等の使用を含み得て、これらは光を、身体上又は身体内の目的とする領域に特異的に指向させることができる。あるいは、光解離性化合物を、暗所に留めておいた患者に投与することができる。有機分子を光放出させるために、患者を、光への曝露及び光放出が起きる明るい場所へと移動させることができる。本方法の実施形態において、有機分子は、
(a)環員の1つがRuと結合を形成する窒素原子である5員単環式芳香環、
(b)環員の1つがRuと結合を形成する窒素原子である6員単環式芳香環、
(c)2環式環の1つが芳香族であり且つRuと結合を形成する窒素原子員を有する8〜10員2環式環、
(d)窒素原子がRuと結合を形成する−NH2基、
(e)酸素原子の1つがRuと結合を形成する−COOH基、
(f)リン原子がRuと結合を形成し、Rが独立して−H、−C1〜C18アルキル若しくはアリールである−PR2基、又は
(g)硫黄原子がRuと結合を形成し、Rが独立して−H、−C1〜C18アルキル若しくはアリールである−SR基
を有する。
【0088】
(0161)
別の実施形態において、有機分子は、
(a)窒素原子の1つがRuと結合を形成するテトラゾリル基、
(b)ピリジル窒素原子がRuと結合を形成するニコチン若しくはカフェイン、
(c)2環式環の1つが芳香族であり且つRuと結合を形成する窒素原子員を有する8〜10員2環式環、
(d)窒素原子がRuと結合を形成する−NH2基、
(e)酸素原子の1つがRuと結合を形成する−COOH基
(f)リン原子がRuと結合を形成し、Rが独立して−H、−C1〜C18アルキル若しくはアリールである−PR2基、又は
(g)硫黄原子がRuと結合を形成し、Rが独立して−H、−C1〜C18アルキル若しくはアリールである−SR基
を有する。
【0089】
(0162)
関連する実施形態において、光解離性化合物は、上述したように有機分子(薬剤、医薬品、生物学的に活性である小分子等)の放出に有用である。有機分子の光解離性化合物からの放出によって、この有機分子は、疾患、障害、病態又は状態に苦しんでいる対象又は患者にバイオアベイラブルとなる。光解離性化合物及び有機分子は、動物及びヒト用の薬物において有用である。有機分子をバイオアベイラブルにすることによって治療、回復、軽減、排除、寛解又は予防する疾患、障害、病態又は状態については以下で更に説明するが、非限定的な例として、末梢及び中枢神経系障害、神経障害及びそれに関連した障害、神経変性障害及びこれに関連した障害、癲癇、発作、偏頭痛、頭痛、脳卒中、不安、鬱、限定された脳機能、嗜癖障害、神経症、精神病、掻痒状態、パーキンソン病、ハンチントン舞踏病、認知障害、記憶の欠落、アルツハイマー病、認知症、ジスキネジア、筋痙縮、網膜症、嘔吐、がん、新生物、腫瘍、血管疾患並びに心血管疾患が含まれる。
【0090】
(0163)
更に別の非限定的な例として、有機分子は、例えば神経変性若しくは神経疾患又は障害の治療で使用するための、カリウムチャンネルをブロックする神経化学物質である。特定の実施形態において、有機分子は4−APであり、これはカルシウムチャンネル阻害剤である。別の実施形態において、有機分子はTzGlyであり、これはNMDAより強力なNMDA受容体アゴニストである。一実施形態においては、本発明の有機分子をそれを必要とする患者にバイオアベイラブルとするために、光解離性化合物の光への曝露を、疾患、障害、病態又は状態の部位(腫瘍、新生物若しくはがんの病巣又は増殖部位等)で起こすことによって、有機分子を必要な位置で局所的に且つより精確に放出させることができる。別の実施形態においては、本発明の有機分子をそれを必要とする患者にバイオアベイラブルとするために、光解離性化合物の光への曝露を、血液疾患の部位で行わせることができる。
【0091】
(0164)
その他の関連する実施形態において、本発明は、有効量の光解離性化合物又は光解離性化合物を含む生理学的に許容可能な組成物を患者に投与して有機分子を患者にバイオアベイラブルとすることによる、治療、セラピー及び予防の方法を提供する。光解離性化合物を実質的に精製することができる(例えば、その効果を制限する又は望ましくない副作用を引き起こす物質を実質的に含有しない)。有利には、光解離性化合物を患者に投与する方法において、有機分子を光放出させてそれを患者にバイオアベイラブルにするための光(例えば、赤外光、レーザー光、可視光)を、フォトオプティックデバイス、プローブ及びファイバー(当該分野で公知であり、また上記のもの等)の使用によって、目的とする内部部位又は領域に指向させることができる。当業者は、光解離性化合物を患者に投与した後に光解離性化合物を光に曝露するために、器具を利用、操作及び内的に指向させることができる。
【0092】
(0165)
患者及び/又は疾患、障害、病態若しくは状態の治療、セラピー若しくは予防を含む本発明の方法において、患者は好ましくは動物であり、哺乳動物、例えばヒト、ヒト以外の霊長類、ウシ、ブタ、ウマ、ヤギ、ヒツジ、ウサギ、ニワトリ、ネコ、イヌ、モルモット、ラット、マウス等が含まれるが、これらに限定されない。本発明の方法は特にヒトの治療を含む。
様々な送達系が公知であり、また光解離性化合物の投与に使用することができ、例えば滅菌溶液の使用、リポソーム、ミクロ粒子、マイクロカプセル内へのカプセル化又は受容体依存性エンドサイトーシス(例えば、Wu and Wu,1987,J.Biol.Chem.,262:4429−4432を参照のこと)である。導入方法には、皮内、筋肉内、腹腔内、静脈内、皮下、鼻腔内、硬膜外、局所、経皮、非経口、くも膜下腔内、膣内、直腸内、結腸直腸内、経口、頭蓋内、後眼窩、胸骨内経路又はこれらの組み合わせが含まれるがこれらに限定されない。
【0093】
(0167)
光解離性化合物又は組成物は、簡便な経路又はモードで投与され得て、例えば持続注入、非持続注入、ボーラス投与、上皮又は粘膜皮膚を介した吸収(例えば、口腔粘膜、表皮、直腸粘膜、腸粘膜等)である。また、別の生物学的に活性である及び/又は治療用の薬剤と共に投与され得る。投与は全身的又は局所的であり得る。加えて、光解離性化合物又は組成物を中枢神経系にいずれの適切な経路で導入することも望ましく、脳室内及びくも膜下腔内投与が含まれる。脳室内投与は、例えばオマヤリザーバー(Ommaya reservoir)等のリザーバーに取り付けられた脳室内カテーテルによって促進され得る。例えば吸入器又は噴霧器の使用及びエアロゾル化剤による製剤によって肺から投与することもできる。
特定の実施形態においては、光解離性化合物又は組成物を、治療を必要とするエリアに局所的に投与することが望まれ得る。これは、例えば、手術中の局所注入、局所適用(例えば、手術後の創傷包帯と共に)、注射、カテーテル、坐薬又はインプラント(このインプラントは、シアラスティック(sialastic)膜等の膜又は繊維を含む、多孔性、非多孔性又はゼラチン様材料である)によって達成され得る。
【0094】
(0169)
局所投与を伴う別の実施形態においては、経皮吸収パッチを使用することができる。この実施形態において、光解離性化合物は、患者又は医療提供者が、光解離性化合物を含有しているそのパッチの全体又は一部を光に曝露するまで光に曝露されずに留められる。したがって、パッチを開封し、例えば患者が暗い部屋から明るい部屋へと又は暗いエリアから明るいエリアへと移動することによって、あるいは患者がパッチ全体又はその一部を直接、適切な光源に曝露することによって、あるいは患者がパッチ全体又はその一部を太陽光に曝露することによって、光への曝露後、生理活性分子を化合物から放出させる又は「活性化」させることができる。多様なタイプの経皮吸収パッチが公知であり、また当業者によって使用されている。あるいは、局所投与に関して、光解離性化合物を感光性組成物に調製することができ、この組成物は暗い遮光コンテナに格納され、目的とするエリアに暗所で局所的に適用される(例えば、患者の皮膚に塗布される又は擦り込まれる)。暗所での局所適用に続いて、目的とするエリアを光又は適当な光源に曝露する、あるいは患者が明るい場所へと移動することによって、光解離性化合物の有機分子を放出させる。
【0095】
(0170)
別の実施形態においては、光解離性化合物又は組成物を、小胞、特にはリポソームに入れて送達することができる(例えば、Langer,1990,Science,249:1527−1533、Treat et al.,Liposomes in the Therapy of Infectious Disease and Cancer,Lopez−Berestein and Fidler(eds.),Liss,New York,pp.353−365(1989)、Lopez−Berestein、同書pp.317−327を参照のこと。広く同書を参照のこと)。更に別の実施形態においては、光解離性化合物又は組成物を、制御放出系で送達することができる。例えば、ポンプを使用し得る(上記のLanger、Sefton,1987,CRC Crit.Ref.Biomed.Eng.14:201、Buchwald et al.,1980,Surgery,88:507、Saudek et al.,1989,NEJM,Med.321:574(1989)を参照のこと)。あるいは、高分子材料を使用することができる(例えば、Medical Applications of Controlled Release,Langer and Wise(eds.),CRC Press,Boca Raton,Fla.(1974)、Controlled Drug Bioavailability,Drug Product Design and Performance,Smolen and Ball(eds.),Wiley,New York(1984)、Ranger and Peppas,1983,J.Macromol.Sci.Rev.Macromol.Chem.,23:61、Levy et al.,1985,Science,228:190、During et al.,1989,Neurol.,25:351、Howard et al.,1989,J.Neurosurg.,71:105を参照のこと)。更に、制御放出系を、治療ターゲット(例えば、脳)の近傍に置くことができるため、全身量の一部しか必要としない(例えば、Goodson,1984,Medical Applications of Controlled Release,Vol.2,pp.115−138を参照のこと)。更なる指針については、その他の制御放出系がLanger,1990,Science,249:1527−1533に記載されている。
【0096】
(0171)
光解離性化合物はまた、例えば治療薬としての使用のために、薬学的に許容可能な担体、希釈剤、賦形剤又はビヒクルを含む医薬組成物中に有効量で提供される。一実施形態において、用語「薬学的に許容可能な(pharmaceutically acceptable)」は、連邦政府若しくは州政府の規制当局によって承認されていること又は動物、特にはヒトにおける使用に関して米国薬局方若しくはその他の一般的に認められている薬局方に記載されていることを意味する。用語「ビヒクル(vehicle)、担体(carrier)又は賦形剤(excipient)」とは、治療薬を含んで、又は治療薬と共に投与される希釈剤又はアジュバントのことである。このような医薬担体、ビヒクル又は賦形剤は、無菌の液体(水、油等。石油、動物、植物又は合成由来のもの、例えば落花生油、ダイズ油、鉱油、ゴマ油等が含まれる)になり得る。医薬組成物が静脈内投与され且つ水溶性である場合、好ましい担体は水である。生理食塩水並びにデキストロース及びグリセロール水溶液も液体担体として、特には注射剤用に使用することができる。適切な医薬賦形剤には、デンプン、グルコース、ラクトース、スクロース、ゼラチン、麦芽、米、小麦粉、チョーク、シリカゲル、ステアリン酸ナトリウム、モノステアリン酸グリセロール、タルク、塩化ナトリウム、乾燥脱脂乳、グリセロール、プロピレン、グリコール、水、エタノール等が含まれる。必要な、又は望ましい場合、本発明の組成物は、少量の湿潤剤、乳化剤又はpH緩衝剤も含有し得る。
【0097】
(0172)
本発明の光解離性化合物及び組成物を、溶液、懸濁液、エマルション、錠剤、丸薬、カプセル、粉末、徐放性製剤等に調製することができる。組成物を、トリグリセリド等の伝統的なバインダ及び担体を使用して坐薬として製剤することができる。経口製剤は、医薬品グレードのマンニトール、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、セルロース、炭酸マグネシウム等の標準的な担体を含むことができる。適切な医薬担体等の例は、E.W.MartinのRemington’s Pharmaceutical Sciencesの最新版に記載されている。このような組成物は通常、治療有効量の好ましくは精製された形態の光解離性化合物を、患者に正しく投与するための剤形を得るための適切な量の担体と共に含有する。製剤は、投与方法に適合していなければならない。
【0098】
(0173)
別の実施形態において、本発明の光解離性化合物は、ヒトへの静脈内投与に適合した医薬組成物として定法に従って製剤される。典型的には、静脈内投与のための組成物は、無菌の等張水性緩衝液中の溶液である。必要に応じて、組成物は可溶化剤及び注射部位の痛みを緩和するためのリドカイン等の局所麻酔薬も含み得る。一般に、成分は、例えば凍結乾燥粉末又は密封コンテナ内の無水濃縮物(活性薬剤の量を表示したアンプル又はサシェ等)として別々に供給される又は単位剤形内で混合される。組成物を注入によって投与する場合、組成物を、無菌の医薬品グレードの水又は生理食塩水の入った点滴ボトルで投薬することができる。組成物を注射によって投与する場合は、投与に先立って成分を混合し得るように、無菌の注射用水又は生理食塩水のアンプルが提供され得る。治療を目的として投与する場合の組成物の無菌性は、除菌濾過膜(例えば、0.2ミクロンの膜)を介した濾過によって容易に達成される。治療薬は一般に、無菌のアクセスポートを有するコンテナ(例えば、皮下注射針を刺すことができる、ストッパーを有する静脈点滴用の薬液バッグ又はバイアル)に入れられる。治療薬は典型的には、1回分又は複数回分が入るコンテナ内(例えば、密封アンプル又はバイアル)に水溶液又は再構成用の凍結乾燥製剤として貯蔵される。必要に応じて、アンプル又はバイアルは本質的に光不透過性である。凍結乾燥治療製剤の例としては、10mlのバイアルに5mlの除菌濾過した1%(w/v)治療薬水溶液を充填し、得られた混合物を凍結乾燥させる。注入溶液は、この凍結乾燥させた治療薬を静菌性注射用水を使用して再構成することによって調製される。
【0099】
(0174)
有機分子の使用及び生理活性に関連した特定の疾患、状態、病態又は障害の治療、回復、軽減、排除、阻害又は予防において効果的な光解離性化合物の量は、標準的な臨床技法によって求めることができる。本発明の光解離性化合物の「有効量(effective amount)」又は「薬学的な有効量(pharmaceutically effective amount)」とは、化合物の使用対象である疾患、状態、病態又は障害の治療、回復、軽減、寛解、排除、予防に効果的な量のことである。特定の実施形態において、有効量は、本発明の有機分子を患者にバイオアベイラブルにするのに効果的な量である。別の治療薬を光解離性化合物と共に使用する場合、この治療薬の有効量とは、治療薬の治療効果を得るのに効果的な量のことである。製剤で採用する精確な用量は投与経路、また個々の患者の事情(患者の年齢、保健及び人口動態統計(health and vital statistics)、疾患、状態又は障害の重篤度等)にも左右される。投薬は、患者の評価、患者の生理学的状況及び病歴についての考察に基づいた医師の判断に従って決定されるべきである。加えて、インビトロのアッセイを任意で行うことによって、最適な用量範囲の決定を支援し得る。有効用量は、インビトロ又はインビボの動物モデル試験系から得られる用量反応曲線から推定することができる。
【0100】
(0175)
一般に、非経口的に投与される光解離性化合物の1回あたりの総有効量は、患者の体重に対して約1μg/kg/日〜10mg/kg/日の範囲である。ただし、上述したように、この量は、患者の状態及び上記の変数に基づいて判断される。治療量は、特にヒトへの投与の場合、少なくとも0.01mg/kg/日又は約0.01〜1mg/kg/日にもなり得る。連続的に投与する場合、治療薬は典型的には約1μg/kg/時間〜約50μg/kg/時間の投薬速度で1日あたり1〜4本の注射又は例えばミニポンプを使用した持続皮下注入によって投与される。静脈点滴バッグ薬液も使用し得る。変化を観察するのに必要な治療期間及び治療に続いて応答が起きるまでの間隔は、望む作用に応じて異なり得る。一部の実施形態において、適切な有効投薬量は約4時間毎に約10μg〜約2500mgである。ただし量は典型的には約100mg以下である。一実施形態において、光解離性化合物の有効用量は約4時間毎に約0.01mg〜約100mgである。別の実施形態において、本発明の化合物の有効用量は、約4時間毎に約0.020mg〜約50mgであり、別の実施形態においては約4時間毎に約0.025mg〜約20mgである。有効投薬量とは、投与される総量のことである。このため、2種以上の光解離性化合物を投与する場合、有効投薬量は投与される総量に相当する。
【0101】
(0176)
別の実施形態において、光解離性化合物を生物試料とインビトロで接触させる場合、有効量は典型的には薬学的に許容可能な担体、希釈剤若しくは賦形剤の溶液又は懸濁液の約0.01μg/L〜約5mg/Lであり、別の実施形態においては約0.01μg/L〜約2.5mg/Lであり、別の実施形態においては約0.01μg/L〜約0.5mg/Lであり、更に別の実施形態においては約0.01μg/L〜約0.25mg/Lである。ある実施形態において、溶液又は懸濁液の体積は約1μL〜約1mLであり、別の実施形態において、溶液又は懸濁液の体積は約200μLである。
【0102】
(0177)
光解離性化合物及び光放出された有機分子を使用して治療、回復、軽減、寛解、排除、阻害、予防及び/又は診断できる新生物性若しくは過剰増殖性疾患、障害、病態又は状態の例には、結腸、腹部、骨、乳房、消化器系、食道、肝臓、膵臓、腹膜、内分泌腺(副腎、副甲状腺、下垂体、精巣、卵巣、子宮頚部、胸腺、甲状腺)、目、頭頸部、神経(中枢神経、末梢神経)、リンパ系、骨盤、皮膚、軟組織、脾臓、胸郭領域、膀胱及び泌尿生殖器系に位置する新生物(がん又は腫瘍)が含まれるが、これらに限定されない。光解離性化合物を使用して治療し得るがんには、濾胞性リンパ腫、p53が遺伝子変異した細胞腫及びホルモン依存性腫瘍が含まれ、結腸がん、心臓腫瘍、膵がん、メラノーマ、網膜芽細胞腫、神経膠芽腫、肺がん、腸がん、精巣がん、胃がん、神経芽細胞腫、粘液腫、筋腫、リンパ腫、内皮腫、骨芽細胞腫、骨巨細胞腫、軟骨肉腫、アデノーマ、乳がん、前立腺がん、カポジ肉腫、卵巣がん又はこれらの転移が含まれるが、これらに限定されない。自己免疫疾患、障害又は状態は光解離性化合物で治療され得て、また多発性硬化症、シェーグレン症候群、橋本甲状腺炎、胆汁性肝硬変、ベーチェット病、クローン病、多発性筋炎、全身性エリテマトーデス、免疫に関連した糸球体腎炎、関節リウマチ、虚血障害(例えば、心筋梗塞、脳卒中及び再潅流障害によって引き起こされる)、肝損傷(例えば、肝炎に関連した肝損傷、虚血/再潅流障害、胆汁うっ滞(cholestosis)(胆管損傷)、肝がん)、毒素誘発性肝疾患(例えば、アルコールによって引き起こされる)、敗血症性ショック、悪液質及び食欲不振症が含まれる。ウィルス感染症(ヘルペスウィルス、ポックスウィルス、アデノウィルス等)、炎症、移植片対宿主病(GVH)、急性移植片拒絶反応及び慢性移植片拒絶反応も、光解離性化合物で治療され得る。
【0103】
(0178)
光解離性化合物を使用して治療、回復、軽減、寛解、排除、阻害、予防及び/又は診断し得る異常且つ上昇した細胞生存に関連したさらなる疾患又は状態には、悪性腫瘍の進行及び/又は転移並びに関連した障害、例えば白血病(急性白血病(例えば、急性リンパ性白血病、急性骨髄性白血病。骨髄芽球性白血病、前骨髄球性白血病、骨髄単球性白血病、単球性白血病、赤白血病を含む)、慢性白血病(例えば、慢性骨髄性(顆粒球)白血病、慢性リンパ性白血病)を含む)、真性多血症、リンパ腫(例えば、ホジキン病、非ホジキン病)、多発性骨髄腫、ワルデンシュトレームマクログロブリン血症、重鎖病、肉腫及び癌腫を含むがこれらに限定されない固形腫瘍、例えば線維肉腫、粘液肉腫、脂肪肉腫、軟骨肉腫、骨肉腫、脊索腫、血管肉腫、内皮肉腫、リンパ管肉腫、リンパ管内皮肉腫、滑膜腫、中皮腫、ユーイング腫瘍、平滑筋肉腫、横紋筋肉腫、結腸癌、膵がん、乳がん、卵巣がん、前立腺がん、扁平上皮癌、基底細胞癌、腺癌、汗腺癌、皮脂腺癌、乳頭癌、乳頭状腺癌、嚢胞腺癌、髄様癌、気管支原性肺癌、腎細胞癌、肝細胞癌、胆管癌、絨毛癌、セミノーマ、胎児性癌、ウィルムス腫瘍、子宮頸癌、精巣腫瘍、肺癌、小細胞肺癌、膀胱癌、上皮癌、グリオーマ、星状細胞腫、髄芽腫、頭蓋咽頭腫、上衣腫、松果体腫、血管芽細胞腫、聴神経腫、乏突起神経膠腫、髄膜腫(menangioma)、メラノーマ、神経芽細胞腫及び網膜芽細胞腫が含まれるが、これらに限定されない。
【0104】
(0179)
別の実施形態において、光解離性化合物は、創傷の治癒を目的とした、上皮細胞増殖及び基底ケラチノサイトを刺激し、また毛包形成及び皮膚の創傷の治癒を刺激するための治療薬として必要とされ得る。本発明の光解離性化合物は、創傷の治癒の刺激において臨床的に有用であり、この創傷には手術創、切除創、真皮及び表皮の損傷を伴う深い創傷、眼組織の創傷、歯の組織の創傷、口腔の創傷、糖尿病性潰瘍、皮膚潰瘍、肘潰瘍、動脈潰瘍、静脈うっ血潰瘍、熱への曝露又は化学薬品による熱傷並びにその他の異常な創傷治癒状態、例えば尿毒症、栄養障害、ビタミン欠乏症や、ステロイド、放射線療法、抗悪性腫瘍薬及び代謝拮抗薬を使用した全身治療に関連した合併症が含まれる。
【0105】
(0180)
光解離性化合物で治療、回復、軽減、寛解、排除、阻害、予防及び/又は診断し得るその他の疾患、障害又は状態には、エイズ、神経変性疾患、障害及び/又は状態(アルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、多発性硬化症、網膜色素変性症(RP)、小脳変性症、脳腫瘍又は事前の関連疾患等)が含まれる。
一実施形態において、カルシウムチャンネル阻害剤(例えば、4AP)を使用して治療可能な疾患及び状態には、心疾患、高血圧、狭心症、胸痛、心血管疾患、例えば冠動脈疾患、心筋症、心臓弁膜症、腎疾患、ペイロニー病、神経学的、神経生理学的又は神経筋疾患及び状態、例えば筋萎縮性側索硬化症(ALS)、多発性硬化症、癲癇が含まれるが、これらに限定されない。
別の実施形態において、NMDA受容体アゴニスト又はアンタゴニスト(例えば、TzGly)を使用して治療可能な疾患には、神経学的、神経変性又は神経生理学的疾患、障害及び状態、例えばアルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病及びジスキネジアが含まれるが、これらに限定されない。別の実施形態において、神経学的、神経変性及び神経生理学的疾患、例えばパーキンソン病、アルツハイマー病等は、TzAMPAを使用して治療可能である。
【0106】
(0183)
別の実施形態において、本発明は、光解離性化合物と使用説明書とを含むキットに関する。キットは、診断、スクリーニング又は試験アッセイに使用され得る。キットは、特には疾患、障害、病態若しくは状態の治療又は予防に使用するための医薬品パックでもあり得る。薬学的使用のためのキットは典型的には無菌であり、疾患、障害、病態若しくは状態の治療又は予防に効果的な量の光解離性化合物と、薬学的に許容可能な担体、希釈剤又は賦形剤とを含有している。このキット又は医薬品パックは、有効量の本発明の1種以上の光解離性化合物又は組成物を充填した1つ以上の容器又はコンテナと(例えば、単位剤形)、薬学的に許容可能な担体、希釈剤又は賦形剤とを含み得る。キット又は医薬品パックは更に、ラベルを含み得る。加えて、キット又は医薬品パックは、別の治療薬の単位剤形、例えば有効量のもう一方の治療薬の入った容器も含み得る。キット又は医薬品パックには更に任意で、医薬品又は生物製剤の製造、使用又は販売を規制する政府機関によって規定される形態の通知書が添付され得て、この通知書は、ヒトへの投与に対する製造、使用又は販売に関する政府機関による承認を表す。キット又は医薬品パックは、単位剤形の投与に有用な器具も含み得る。このような器具の例には、シリンジ、ドリップバッグ、パッチ、吸入器及び浣腸バッグ又は容器が含まれるが、これらに限定されない。
【実施例】
【0107】
(0184)
以下に記載の実施例は本発明を説明するためのものであり、本発明を限定することを目的としたものではない。
実施例1
[Ru(bpy)2(4AP)2]Cl2の合成
159mgのRu(bpy)2Cl2(bpy=2,2’-ビピリジン)を7mLの水に85℃、N2下で懸濁させた。溶解後、66mgの4−アミノピリジン(4AP)を添加し、得られた溶液を約20分間に亘って約50〜80℃以上で加熱した。モル過剰量のNH4PF6を添加し、得られた赤色の固形物を水で洗浄し、乾燥させた。この赤色の固形物を最小量のアセトンに溶解させ、このアセトン溶液に塩化テトラエチルアンモニウムを添加して[Ru(bpy)2(4AP)2]Cl2を沈殿させた(収率79%)。
【0108】
(0186)
実施例2
[Ru(bpy)2(TzGly)2]Cl2の合成
[Ru(bpy)2(TzGly)2]Cl2を、実施例1に記載の[Ru(bpy)2(4AP)2]Cl2の生成で使用した手順に従って生成した。ただし、4APの代わりに(RS)−(テトラゾール−5−イル)グリシン(TzGly)を使用した。
【0109】
(0187)
実施例3
[Ru(bpy)2(5HT)2]Cl2の合成
[Ru(bpy)2(5HT)2]Cl2を、実施例1に記載の[Ru(bpy)2(4AP)2]Cl2の生成で使用した手順に従って生成する。ただし、4APの代わりにセロトニン(5HT)を使用する。
【0110】
(0188)
実施例4
[Ru(bpy)2(4AP)(PPh3)]Cl2の合成
Ru(bpy)2Cl2(bpy=2,2’−ビピリジン)を、水に濃度10mg/mLで85℃、N2下で懸濁させた。溶解後、1当量のPPh3を添加し、得られた溶液を約60分間に亘って約50〜80℃以上で加熱した。1.1当量の4APを続いて添加し、加熱を更に30分間に亘って継続した。モル過剰量のNH4PF6を添加し、得られた橙色の固形物を水で洗浄し、乾燥させた。橙色の固形物を最小量のアセトンに溶解させ、このアセトン溶液に塩化テトラエチルアンモニウムを添加して[Ru(bpy)2(4AP)(PPh3)]Cl2を沈殿させた。
実施例5
[Ru(bpy)2(TzGly)(PPh3)]Cl2の合成
[Ru(bpy)2(TzGly)(PPh3)]Cl2を、実施例4に記載の[Ru(bpy)2(4AP)(PPh3)]Cl2の生成で使用した手順に従って生成した。ただし、4APの代わりにTzGlyを使用した。
実施例6
[Ru(bpy)2(5HT)(PPh3)]Cl2の合成
[Ru(bpy)2(5HT)(PPh3)]Cl2を、実施例4に記載の[Ru(bpy)2(4AP)(PPh3)]Cl2の生成で使用した手順に従って生成する。ただし、4APの代わりにセロトニンを使用する。
【0111】
(0191)
実施例7
[Ru(bpy)2(ニコチン)(PPh3)]Cl2の合成
[Ru(bpy)2(ニコチン)(PPh3)]Cl2を、実施例4に記載の[Ru(bpy)2(4AP)(PPh3)]Cl2の生成で使用した手順に従って生成する。ただし、4APの代わりにニコチンを使用する。
【0112】
(0192)
実施例8
[Ru(bpy)2(TzGly)(py)]Cl2の合成
[Ru(bpy)2(TzGly)(py)]Cl2(py=ピリジン)を、実施例4に記載の[Ru(bpy)2(4AP)(PPh3)]Cl2の生成で使用した手順に従って生成した。ただし、4APの代わりにTzGlyを使用し、PPh3の代わりにピリジンを使用した。
【0113】
(0193)
実施例9
[Ru(bpy)2(4AP)(py)]Cl2の合成
[Ru(bpy)2(4AP)(py)]Cl2(py=ピリジン)を、実施例4に記載の[Ru(bpy)2(4AP)(PPh3)]Cl2の生成で使用した手順に従って生成する。ただし、PPh3の代わりにピリジンを使用する。
【0114】
(0194)
実施例10
[Ru(bpy)2(5HT)(py)]Cl2の合成
[Ru(bpy)2(5HT)(py)]Cl2(py=ピリジン)を、実施例4に記載の[Ru(bpy)2(4AP)(PPh3)]Cl2の生成で使用した手順に従って生成する。ただし、4APの代わりに5HTを使用し、PPh3の代わりにピリジンを使用する。
【0115】
(0195)
実施例11
[Ru(bpy)2(ニコチン)(py)]Cl2の合成
[Ru(bpy)2(ニコチン)(py)]Cl2(py=ピリジン)を、実施例4に記載の[Ru(bpy)2(4AP)(PPh3)]Cl2の生成で使用した手順に従って生成する。ただし、4APの代わりにニコチンを使用し、PPh3の代わりにピリジンを使用する。
実施例12
Co(DMG)2(5HT)(Cl)の合成
CoCl2を、水/エタノールの1:1v/v混合物に最終濃度約0.2Mで溶解させた。2当量のジメチルグリオキシム(DMG)を添加し、得られた混合物を溶解するまでN2下で撹拌した。1当量の5HTを添加し、得られた混合物に6時間に亘って空気をバブリングさせるとCo(DMG)2(5HT)(Cl)が沈殿した。沈殿した生成物を濾過し、洗浄した。
【0116】
(0197)
実施例13
[Ru(bpy)2(4AP)2]Cl2からの4APの光放出
水中での紫外・可視スペクトルを、HP 8453ダイオードアレイ分光光度計を使用して得た。RMN1Hスペクトルを、Bruker 500MHz装置を使用して得た。CV測定を、PAR 273Aポテンシオスタットを使用して行った。光照射は、480nmのローパスフィルタを取り付けたパルスXeランプ(パルスエネルギー:約0.5J)を使用して行われた。473nmのDPSSレーザーを使用した光照射でも同様の結果が得られた。
【0117】
(0198)
[Ru(bpy)2(4AP)2]Cl2は水に極めてよく溶け、また暗所において安定である一方、可視光を照射すると489nmを中心としたその金属−配位子電荷移動(MLCT)バンドで分解される(450nmであるとの過去の研究での特性決定にも関わらず、CH3CN溶液中、吸収バンドは492nmに赤色シフトし、これは溶媒の低極性と合致する。しかしながら、[Ru(bpy)2(4AP)2]Cl2のCH3CN溶液の光曝露によって、450nmの吸収極大の黄色の化合物が生成された。これはこの化合物に関して過去に帰属が誤って解釈されたことに符号し得て(D.Chun−Ying et al.,1999,J.Coord.Chem.,46:301−312)、光生成物は錯体[Ru(bpy)2(4AP)CH3CN]2+であると考えられる)。幾つかのルテニウムポリピリジル錯体がこの挙動を呈する(D.V.Pinnick et al.,1984,Inorg.Chem.,23:1440−1445)。
【0118】
(0199)
pH7では光照射済みの錯体のスペクトルは最初の錯体のスペクトルと極めて似通っているものの、470nmでの肩の減衰が明白になる。光化学反応の性質を知るために、NMRスペクトルを、可視光の照射前及び照射後にとった。図1は、メタ水素[Ru(bpy)2(4AP)2]Cl2(m1)に帰属されたシグナルを示す。照射後、このシグナルは低下し、下の図では2つの新しいシグナルが出現した。一方のシグナルは遊離配位子(m3)に対応し、もう一方はアコ−4AP錯体(m2)に対応し、これは4APの光放出を示す。これらの後者の2つのシグナルは、最初のシグナルの0.30及び0.27に積分され、60%の光化学反応に対応する。
【0119】
(0200)
水中で測定された[Ru(bpy)2(4AP)2]Cl2に関するカップルRuIII/RuIIの酸化還元電位は、Ag/AgClに対してE=0.76Vであり、これはピリジンと比較しての4APのより高い塩基性と一致する。したがって、[Ru(bpy)2(4AP)2]Cl2の酸化還元及び光化学は、Ru(bpy)2XY系に対応して得られる結果と完全に一致する(X、Yは、単座配位子である)(例えば、E.S.Dodsworth et al.,1986,Chem.Phys.Lett.,124:152−158を参照のこと)。これらの化合物の光活性は、MLCT状態と低エネルギーd−d状態との間での遷移を伴う反応経路で説明されていて、遷移は配位子の放出を促進する。MLCT遷移のエネルギーと光化学反応の量子収率との間には直接の対応性がある。[Ru(bpy)2(4AP)CH3CN]2+に関して、光化学反応収率は約ΦPR=0.4である。[Ru(bpy)2(4AP)2]Cl2は赤色シフトしたバンドを呈することから、より低い光化学反応収率が予測される。過去の実験に基づいた推定値から、
(473nm)が得られる。
【0120】
(0201)
実施例14
[Ru(bpy)2(4AP)2]Cl2から光放出された4APの神経生理学的活性
細胞内電圧を測定するための標準的な装置を使用し、また医療用ヒル(Hirudo medicinalis)を使用して、光放出された4APの神経生理学的活性を実証した。医療用ヒル(Hirudo medicinalis)は、幾つかの神経節がある中枢神経索を有し、各神経節は、公知のパターンに配置された約400個のニューロンを含む(W.−R.Schlue et al.,1980,J.Exp.Biol.,82:23−34)。神経節全体をディッシュ上に置いた。神経節中の単一細胞(ニューロン)の膜電位を、Ag/AgCl電極にとってのルギンブリッジとして働く飽和KCl水溶液を充填した、マイクロメートルサイズの端部を有するガラスマイクロピペットをニューロン内部に挿入して記録した。別のAg/AgCl電極を基準電極として使用した。シグナルは、AM−System 1600増幅器を使用してとらえられ、装置全体はファラデーケージで覆われた。12ビットA/D収集カードを使用し、クイックベーシックで書かれたアドホックプログラムを使用してデータのデジタル化を行った。
【0121】
(0202)
低Ca2+/高Mg2+生理食塩水(NaCl:102mM、KCl:4mM、CaCl2:1mM、MgCl2:10mM、トリス塩基、pH5.4は7.4に調節)を、ディッシュに潅流させた。[Ru(bpy)2(4AP)2]Cl2及び遊離配位子4APを、メインストリームに制御されたタイミングで注入した。ディッシュ下に位置するパルスXeランプを使用して溶液に光照射を行った。紫外光は、500nmのバンドパスフィルタを使用して除去された。図2は、神経節中のレツィウス細胞(Rz)の1つで記録された膜電位の挙動を示す。図2の上のグラフは生データであり、静止電位期間及び極めて速いスパイク(活動電位)を示し、これらは膜イオン透過性の変化によって生じる。下のグラフは、各回の瞬時スパイク周波数を示す。
【0122】
(0203)
細胞に電極を刺入した後、数多くの実験を同細胞に行うことによって再現性を確保した。5000秒後、グラフの左に見られるように、細胞は低活性を示した。t=5200秒で、約100μMのRu(bpy)3Cl2を生理食塩水に添加したが、活性に大きな変化はなかった。300秒後の5500秒の時点で、神経節に閃光をあてた。活動電位の周波数の急激な上昇は主に温度パルスによるものであるが、短い時間をおいて活性は基底レベルにまで低下した。潅流による洗浄後、更なるパルス照射(t=6000秒)は、極めて似通ったパターンを示した。t=6250秒で、約100mMの[Ru(bpy)2(4AP)2]Cl2を生理食塩水に添加したが、活性は変化しないままであった。しかしながら、新たに閃光をあてた後(t=6400秒)急激な活性が記録され、300秒後も高いままであった。6750秒の時点での2回目の光パルスによって更に高い活性が促進され、この活性は、純生理食塩水での清浄化潅流後に初めて低下した。
【0123】
(0204)
同様の周波数の上昇は遊離4APを細胞節上に潅流させた時にも起き、これは4APの放出がこの維持された周波数上昇を引き起こすことを実証した。4APの溶液を使用した細胞活性のキャリブレーションは、各光照射において、10〜15μMの4APが[Ru(bpy)2(4AP)2]Cl2から前実験中に放出されたことを示した。実験中、ニューロンへの毒性も有害な作用も観察されなかった。これらの結果は、神経生理学的活性を有する有機分子を光放出する[Ru(bpy)2(4AP)2]Cl2(例となる光解離性化合物)を使用してニューロン応答を刺激できることを示す。
実施例15
[Ru(bpy)2(TzGly)(py)]Cl2からのTzGlyの光放出
[Ru(bpy)2(TzGly)(py)]Cl2からのTzGlyの光放出の手順は、実施例13で上述の[Ru(bpy)2(4AP)2]Cl2からの4APの光放出に使用したものと同様である。ただし、照射光点は極めて限局化された(直径<1ミクロン)。470nmでの[Ru(bpy)2(TzGly)(py)]Cl2の光照射によってTzGlyが光放出された。
【0124】
(0206)
実施例16
[Ru(bpy)2(TzGly)(py)]Cl2から光放出されたTzGlyの神経生理学的活性
光放出されたTzGlyの神経生理学的活性を、実施例14で上述のものと同様の実験を行うことによって評価した。したがって、細胞内電圧を測定するための標準的な装置を使用し、医療用ヒル(Hirudo medicinalis)を使用して、光放出されたTzGlyのヒルの神経節における神経生理学的活性を実証した。
実施例17
[Ru(bpy)2(PMe3)Cl]PF6の合成
520mgの[Ru(bpy)2Cl2]を20mLのメタノール/水混合物(1:1)に溶解させ、N2下で還流させた。THF中の1.2mLのトリメチルホスフィン1M(Aldrich、324108)をシリンジで添加した。反応を、紫外・可視分光法で追った。一部のケースでは、より多くのホスフィン溶液を添加した。紫外・可視スペクトルが一旦安定したら、メタノール及び過剰なホスフィンを真空下でロータリーエバポレータを使用して蒸留した。得られた水溶液を濾過して固形物を除去し、氷上で過剰量のKPF6を使用して沈殿させた。暗橙色の固形物を冷水で3回洗浄し、乾燥させた。
【0125】
(0208)
実施例18
[Ru(bpy)2(PMe3)GlutH2](PF6)2の合成
110mgの[Ru(bpy)2(PMe3)Cl]PF6を2mLのアセトンに溶解させた。200mgの塩化物含有陰イオン交換樹脂DOWEX 2x8の懸濁液を添加し、10分間に亘って撹拌した。得られた[Ru(bpy)2(PMe3)Cl]Cl溶液を濾過した。500mgのグルタミン酸一ナトリウム及び4.4mLのNaOH 1Mを添加し、3時間に亘って加熱した。1mLの飽和KPF6を添加し、得られた沈殿物を廃棄した。溶液を0℃にまで冷却し、HCl 5MでpH2にまで酸性化した。過剰量のKPF6を添加すると[Ru(bpy)2(PMe3)GlutH2](PF6)2が沈殿した。黄色がかった橙色の固形物を冷水で3回洗浄し、乾燥させた。
実施例19
[Ru(bpy)2(PMe3)GlutH2](PF6)2からのグルタメートの光放出
[Ru(bpy)2(PMe3)GlutH2](PF6)2は鮮やかな橙色を示し、pH>6で水への高い溶解性を見せる(脱プロトン化種[Ru(bpy)2(PMe3)Glu]として)。その水溶液は、このRuポリピリジン系の特徴である強い金属から配位子への電荷移動バンド(MLCTバンド)を450nmで示す。アセトニトリルに溶解させた化合物のサイクリックボルタンメトリ(図15)は、0.98、1.46及び1.56V(vs.NHE)での3つの酸化還元工程を示し、これはそれぞれ最初の錯体のRu(III)/Ru(II)カップル及びグルタメートの酸化生成物を有する錯体のRu(III)/Ru(II)カップルに対応する。
【0126】
(0210)
図16(上)は、450±20nmのLEDでの光照射中のpH=7での錯体の紫外・可視スペクトルである。光化学反応が進行するにつれて、アコ錯体の生成が記録され、約4分後に完了した。2つの等吸収点の存在及びスペクトルについての因子分析は、単一の光アコ化工程で予測されるものに従って、ちょうど2種類の着色種が溶液中に存在することを示している。光生成物のスペクトルは、錯体[Ru(bpy)2(PMe3)(H2O)]2+のものと同じであると判明し、後者は水中でのクロロ錯体の還流によって合成することができる。pH=11で、同様の挙動が観察された。ただし、この場合、生成物はヒドロキソ錯体[Ru(bpy)2(PMe3)(OH)]+であった。
図16の挿入グラフ(上)は、スペクトルの分析によって得られた光分解で発生した遊離グルタメートの収率を示す。光源の放射照度を[Ru(bpy)(Py)2]2+の光分解の公知の効率を利用して較正した。光放出されたグルタメートの量を、2パラメータ単一指数関数:y=a[1−exp(−bx)]を利用してフィットさせた。量子収率(φPC)はa・bとして得られ、pH=7での値0.13とpH=11での値0.10を採用した。
【0127】
(0212)
アンケージング時間を推定するために、閃光光分解実験を[Ru(bpy)2(PMe3)Glu]の塩基性水溶液にNd−YAGレーザーの第2高調波(532nm、10ナノ秒パルス)を使用して行った。結果を図16に示す(下)。光開裂は最初の50ナノ秒以内に起きていて、報告されているものの中で知る限り最も速いケージド化合物である。グルタメートのアンケージング反応を完了させるためには数十ナノ秒が必要であるという事実は、グルタメートの代わりにピリジンを含有している同様の化合物について測定された励起状態の寿命が10〜100ナノ秒の範囲であるという観察結果と一致する。
光化学反応も、NMR分光法で追った。錯体の1H−NMRスペクトル(図17)の芳香族領域において、bpyプロトンに対応する16個のシグナルを識別することができ、シグナルは二重になっていると判明したが、これは得られた材料が、L−グルタメートとΛ及びΔRu−bpyエナンチオマーのラセミ混合物との配位によって生じるジアステレオマーの約1:1の混合物であるからである。ジアステレオマーを分離する試みはなされず、化学的試験及び生物学的試験の両方が同様の挙動を示唆している。
【0128】
(0214)
グルタメート部分に対応する脂肪族領域は、図18の上のトレースに描かれていて、−NH2プロトンは4.50、4.12、4.00及び3.57ppmに出現している。D2O溶液におけるこれらのシグナルの存在(錯体における同位体交換の不在を立証している)は、グルタメートの配位がアミン窒素を介して行われて、それ以上のプロトン付加を阻んでいることをはっきりと示す。この挙動は遊離グルタメートのものとは異なり、遊離グルタメートは、同一条件下で、D+をH+と速やかに交換する。室温でのD2O中での2カ月後、交換は見られず、化合物が真に不活性であることも実証している。
光分解後、多くの新しいシグナルがアコ錯体に対応する芳香族領域に出現する。同時に、脂肪族領域の分析(図18、下のトレース)は、遊離グルタメートシグナルの出現をはっきりと立証している。配位した−NH2シグナルは光照射によって減衰し、遊離グルタメートのメチレンプロトンの特徴的なシグナルが、3.50、2.30、2.04及び1.94ppmに出現する。
グルタメートを更に追加しても新しいシグナルは発生せず、既存のシグナルの強度だけが増大し、これは固有の脂肪族光生成物がグルタメートであることを証明している。
【0129】
(0217)
生体適合性試験を行って錯体の潜在毒性を評価した。350μMの[Ru(bpy)2(PMe3)Glu](2光子アンケージング実験で使用した濃度)を、マウスの脳切片内の生体新皮質錐体ニューロンでインキュベートし、そのニューロンのモルホロジー及び電気生理学的特性を2光子顕微鏡法及びホールセルパッチ記録法によって慎重にモニタした。1時間のインキュベーション後、検出可能な作用は観察されず、ニューロンは正常なままであった。これはこの錯体が膜の完全性を変化させることがない又は生体ニューロンに有害な作用を及ぼさないことを意味している。
本明細書で引用した全ての特許出願、公開特許出願、特許権が交付及び付与された特許、文書及び参考文献は参照によりその全体が本明細書に組み込まれ、本発明が関係する最先端技術をより詳しく説明するものである。
上記の方法及び組成物には、記載したような本発明の範囲及び精神から逸脱することなく様々な変更を加えることができるため、上記の説明に含まれ、添付の図面に描かれ、あるいは付随する請求項で定義される全ての主題は説明上のものであると解釈され、本発明を限定しないとする。
【0130】
(0220)
実施例20
活性化可能な蛍光プローブとしてのルテニウム−ローダミン錯体
この実施例では、ルテニウム−ビピリジンコアをベースとした、標識分子の活性誘導体として変性ローダミンを有するケージド蛍光プローブについて説明する。この錯体はケージド蛍光プローブとして挙動し、可視光で励起されるとその蛍光を約6倍に増大させる。このため、この実施例では、標識分子又はその活性誘導体を含む光解離性化合物の蛍光分子又はその活性誘導体(ローダミンB、ローダミン6G、RhodB−MAPN、Rhod−6G−MAPN、RhodB−MAMePy、Rhod−6G−MAMePy等)の蛍光を増大させることにおける利点を実証する。
全ての試薬はSigma−Aldrich社から購入し、そのままで使用した。Ru(bpy)2Cl2を、文献通りに溶媒として水を使用して合成した(Viala C.,Coudret C,Inorg.Chim.Acta 2006,359:984−989)。紫外・可視スペクトルを、HP8453ダイオードアレイ分光光度計を使用して得た。NMRスペクトルを、500MHz Bruker AM−500を使用して得た。蛍光発光測定を、PTI Quantamaster分光蛍光計で行い、装置応答関数について補正した。ローダミンBを発光量子収率の蛍光標準として使用した(水溶液中でφ=0.31)。錯体の量子収率は、スペクトル面積(同じ形状を示す)の比から直接得られた。
【0131】
(0222)
光アンケージング量子収率の測定は、473nmに2倍したNd:YAGダイオード励起固体レーザーを使用して6.3mWの定出力で行われた。光はコリメートされ、1cmの光路を蛍光ガラスキュベット内へと撹拌下で送られた。総照射エネルギーは、Coherent Fieldmaster FMライトメータを可視光光ダイオードモデルSR45と共に使用して測定された。
ヒル(Hirudo medicinalis)の神経節の顕微鏡による観察を、約1μmのチップ直径の毛細管をニューロン体に刺入するために使用するマイクロマニピュレータと記録装置としてのCCDウェッブカムとを備えた、光電気生理学用のカスタムメイドの装置で行った。セグメント7〜14の単離したヒルの神経節をシルガードコーティングした35mmペトリ皿に固定した。レツィウス細胞をその位置、サイズ及び発火挙動から同定した。細胞内記録は、約20MΩの鋭い毛細管微小電極、Neuroprobe 1600(A−M Systems社)増幅器及びA/Dシグナル入力ボード(1kHzのサンプリングレート)及びカスタムメイドのソフトウェアを使用して得られた。染料のイオン泳動注入に関しては、微小電極に、1mMのケージド蛍光染料(塩化物形態)を添加した記録溶液を充填した。1nA、2Hzの方形2相パルスを5分未満に亘って印加した。
【0132】
(0224)
分光光度薄層フローセル及びFIA毛細管の写真を、蛍光アダプタを取り付けたNikon TS−100を使用して撮影した。カスタムアダプタを介して通常の接眼レンズで焦点を絞る家庭用電化製品タイプのコンパクトデジタルカメラ(Casio社、Exilim EX−FC100)を、ISO800の感度でのビデオ撮影に使用した。ビデオ及び写真の分析は、公開されているImageJソフトウェアを使用して行われた。蛍光の活性化は405nm、6mWで行われ、レーザーダイオードを、速いリードリレーを使用したパルス発生器で制御して20ミリ秒の光パルスを得た。レーザービームは細胞面に焦点が絞られ、倒立顕微鏡(Nikon社、TS100。蛍光アダプタ付き)でモニタされた。
合成
ローダミンB−メチルアミノプロピオニトリルアミド(RhodB−MAPN)
550mgのローダミンB.HClを10mlの無水1,2−ジクロロエタンに溶解させた。この系をN2でパージし、300μLのオキシ塩化リンを添加した。混合物を5時間に亘って還流させた。溶媒を真空下で蒸留し、固形物を速やかに無水アセトニトリルに溶解させた。500μLのトリエチルアミン及び108μLのN−メチルアミンプロピオニトリルを添加し、混合物を12時間に亘って還流させた。溶媒を真空下で除去し、水に再溶解させ、濾過して固形物を除去し、過剰量のKPF6の添加による沈殿を行った。暗赤色の固形物を蒸留水で数回洗浄し、シリカゲル上で乾燥させた。水溶性配位子を得るためのClのPF6との交換は、RhodB−MAPN.PF6のアセトン/水溶液(1:1)をDowex 22陰イオン樹脂と共に一晩撹拌し、得られた溶液を凍結乾燥することによって行われた。RhodB−MAPN塩化物塩は若干吸湿性であり、無湿環境で保存しなくてはならない。
【0133】
(0226)
総収率:55%、1HNMR(アセトン−d6):1Hδ1.37(t、12H)、2.37(t、2H)、3.16(s、3H)、3.53(t、2H)、3.80(m、8H)、6.98(d、2H)、7.20(dd、2H)、7.37(dd、2H)、7.62(m、1H)、7.77(m、1H)、7.82(t、2H)
【0134】
(0227、0228)
[Ru(bpy)2(L)Cl]PF6
L=ローダミンB−メチルアミノプロピオニトリルアミドの場合
20mgのRu(bpy)2Cl2を2mLのEtOH/水(2:1)混合物に懸濁させ、懸濁液を80℃にまで完全に溶解するまで加熱した。[Ru(bpy)2(H2O)Cl]+錯体の生成は、490nm(水中)でのその吸収によって確認された。クロロ−アコ錯体の生成後、2当量のRhodB−MAPN塩化物塩を添加し、反応を、シリカプレート及び溶離液としての水/EtOH/nBuOH(1:1:1)混合物を使用したTLCで追った。溶液を80℃で約2時間に亘って、TLC変化が観察されなくなるまで加熱した。続く全ての手順は暗所で行われた。溶液を濾過して不溶性の粒子を除去し、溶媒を真空下で除去した。得られた油を4mLのアセトン/メタノール混合物(3:1)に再溶解させ、過剰量のTHFの添加による沈殿を行った。
【0135】
(0229)
未反応の配位子を含有しているTHF画分を廃棄し、沈殿物をTHFで数回洗浄し、水に再溶解させ、飽和KPF6で沈殿を行った。収率:26%、NMR(アセトン−d6):1Hδ1.35(m、12H)、2.98(t、2H)、3.10(s、3H)、3.40〜3.55(dm、2H)、3.80(m、8H)、6.97(d、2H)、7.20〜7.40(m、6H)、7.60(d、1H)、7.67(t、1H)、7.70〜7.85(m、4H)、7.88〜7.98(m、4H)、8.17(t、1H)、8.30(t、1H)、8.56(dd、2H)、8.69(d、1H)、8.72(d、1H)、9.55(d、1H)、10.08(d、1H)。
【0136】
(0230)
L=ビニルアセトニトリル(VACN)の場合
20mgのRu(bpy)2Cl2を2mLの96%EtOHに懸濁させ、懸濁液を80℃で完全に溶解するまで加熱した。[Ru(bpy)2(H2O)Cl]+錯体の生成は、490nm(水中)でのそのバンドによって確認された。4mLのEtOHで希釈した1.5当量のVACNを添加し、混合物を80℃で2時間に亘って維持した。溶媒を蒸留によって真空下で除去し、残留物を2mLの水に再溶解させ、遠心分離によって固形物を除去し、飽和KPF6による沈殿を行った。収率は66%であった。
【0137】
(0231)
NMR(アセトン−d6):1Hδ3.65(d、2H)、5.13(d、2H)、5.75(m、1H)、7.29(t、1H)、7.32(t、1H)、7.70(d、1H)、7.81(t、1H)、7.92(3t、3H)、7.97(d、1H)、8.20(t、1H)、8.31(t、1H)、8.56(d、1H)、8.60(d、1H)、8.69(d、1H)、8.74(d、1H)、9.53(d、1H)、10.08(d、1H)。
【0138】
(0232)
ローダミンは、その1に迫る発光量子収率及び光退色への高い耐性から、有用なフルオロフォアである。ローダミンは、蛍光をもたらすキサンテン部分とそのスペクトル特性を調整する安息香酸から構成される。スキーム1Aは、この実施例の開始点として選択されたローダミンBの構造を示す。
【化21】
【0139】
(0233)
ルテニウム−ビピリジル錯体は、供与体窒素(脂肪族アミン、ピリジン、イミン、更にはニトリルの窒素等)に容易に配位し得るが、アニリンの窒素には、1級のものであっても配位しない。ローダミンBのジエチルアニリンはRu中心と安定した錯体を形成しない。カルボキシレートはRu−bpyコアに配位することができるが、このような錯体は水溶液中で室温で容易に加水分解されてしまう。
これらの特性を考慮し、ローダミンBの化学構造を、蛍光分子を金属中心に配位させるための「スティッキーテール(sticky tail)」の追加によって変性した。配位基を有する変性ローダミンを合成しようとの最初の試みにおいては、カルボキシレートをアミノプロピオニトリルでAdamczyk法(Adamczyk,M.J.Bioorg.Med.Chem.Lett.2000,10:1539−1541)を利用してアミド化した。得られた化合物は、スキーム1Bに示されるRhodB−APNである。しかしながら、この配位子はRu−bpy錯体にニトリルを介して配位できるものの、生理学的pHでは環状スピロラクタムへの異性化を起こしてしまい(スキーム1C)、非蛍光となる。ローダミン6Gを、上述したようにローダミンBへと同様に変性することができる。
【0140】
(0235)
2級アミドは環状形態に異性化できないため、ローダミンB酸塩化物のアミノプロピオニトリルでのアミド化を通じて得られたRhodB−MAPN(スキーム1D)は、極めて高い黄色の蛍光を呈し、その一方でその末端ニトリルは、Ru−bpy中心への配位を可能にする。
錯体cis−[Ru(bpy)2(L)Cl]PF6、L)RhodB−MAPNが、暗紫色の固形物として得られ、この固形物は水に若干可溶性であり、またアセトンへの可溶性が極めて高かった。その極めて高いモル吸光係数により、その水への溶解性は殆どの実験状況にとって十分な高さであった。FIA画像化実験に関し、錯体はこの形態で使用された。溶解性がずっと高い塩化物塩(生物学的実験により適している)は、アセトン/水(1:1)中でのDowex 22塩化物樹脂を使用したバッチイオン交換によって調製された。塩は、生物学的実験で使用された。錯体の溶液は弱い黄色がかった蛍光を呈する。予備調査により、この錯体が感光性であり、エタノール又はアセトン水溶液中で光照射されるとその蛍光を増大させることが判明している。
【0141】
(0237)
図19(上)は、RhodB−MAPNを配位子として有するRu錯体の1HNMRスペクトルの脂肪族領域を示し、配位しているRhodB−MAPNに関して予測される数のシグナル及び積分を示している。3.40〜3.55ppmの2つのマルチプレット(a’と表示)は、配位点に最も近いメチレン基に対応する。2.98ppmのトリプレット(b’)及び3.10ppmのシングレット(c’)はその他のメチレン及びN−メチル基にそれぞれ対応する。同様のシグナルが、アミノニトリルテールをRu−bpyコアに配位させさえすれば得られた。450nmのLEDを使用したNMR管内での5分間の光照射後(中央のトレース)、RhodB−MAPN配位子の放出により新しいシグナルが2.37、3.16及び3.53ppmで出現する。これらの3つのシグナルは、遊離配位子のシグナルと完全にマッチする(a、c、bとそれぞれ表示。下のトレース)。RhodB−MAPNの4つのエチル基は完全に等価ではなく、マルチプレット(−CH2−)又はブロードトリプレット(−CH3)として表れ、光照射後に殆ど変化を示さないが、これはこれらの基が配位中心から遠いからである。
【0142】
(0238)
芳香族領域においては、RhodB−MAPNを有する非対称cis錯体に関して予測される数のシグナル及び積分が得られた。光分解後、6.98、7.20、7.37、7.62、7.77及び7.82に遊離RhodB−MAPNからのシグナルが、アコ錯体[Ru(bpy)2(H2O)Cl]+からのものと同じ化学シフトで出現する。
[Ru(bpy)2(RhodB−MAPN)Cl]+の希釈水溶液は、極大が592nmの弱い蛍光を呈する(励起:518nm)。
図20は、光照射中の錯体の発光スペクトルである。初期発光スペクトルの極大及び形状は、遊離配位子RhodB−MAPNのものと同一であるが、発光量子収率はずっと低く、約φt=0.04である。量子収率は、スペクトル面積を積分することによって容易に計算される。473nmレーザーでの光照射後、RhodB−MAPNが放出され、溶液はその蛍光を6倍、φt=0.24にまで増大させる。挿入グラフは、照射時間の関数としてのスペクトルの極大を示す。
ローダミン光放出の量子収率を、473nmでの光アンケージング中の蛍光発光データの分析後に計算した。1秒毎に完全スペクトルが得られた。錯体[Ru(bpy)2(RhodB−MAPN)Cl]+による光の吸収によってアコ錯体[Ru(bpy)2(H2O)Cl]+及び遊離RhodB−MAPNがもたらされる。各光照射期間中、生成されるアコ錯体及び遊離RhodB−MAPNの量は、以下の式:
【数1】
によって求められ、式中、δtは照射時間であり、Iは1秒あたりの光子のモル数での光強度であり、φPUは、光アンケージングの量子収率であり、AbsRは、473nmでの光活性種[Ru(bpy)2(RhodB−MAPN)Cl]+の吸光度であり、AbsTは照射された溶液の総吸光度である。前出の方程式の有限要素法計算によって、光アンケージング量子収率φPU=0.12(25℃)が計算された。この値は、同様の錯体に関して報告されている量子収率と十分に一致する。
【0143】
(0242)
このクエンチングの原因は、近接するルテニウム−ビピリジン部分の存在に帰することができ、ルテニウム−ビピリジン部分は、ローダミン発光のものと重なるMLCT遷移を示す。しかしながら、この錯体のそのような波長範囲での吸収バンドを直接調べることは、蛍光配位子のモル吸光係数が極めて高く(約105M-1cm-1)、金属中心によって吸収が弱まるため、不可能である。
この吸収を測定するために、類似した錯体を、RhodB−MAPNの代わりにビニルアセトニトリル(VACN)を使用して合成した。Ru−bpy錯体のMLCTバンドのエネルギーはRu中心に近い配位子の性質及び塩基性度に大きく依存するが、より遠いフラグメントとはほぼ無関係であることがわかる。錯体[Ru(bpy)2(VACN)Cl]+は典型的なMLCTバンドを示し、460nm前後を中心として低エネルギー領域に100nmを超えて広がり、ローダミン配位子の発光スペクトルと重なっている。この吸収は、観察されたクエンチングを説明するのに十分である。この類似した錯体は、VACNをより高い量子収率φPU=0.21で光放出する。
【0144】
(0244)
この実施例では、可視光領域で驚くべき感度を示す活性化可能な蛍光プローブを提供する。このプローブは、青色光の照射後、その本来の蛍光を6倍にまで増大させる。このプローブは生理学的に無害であり、ニューロン等の興奮性細胞であっても生細胞に注入することができ、短期間(約2時間)の実験において急性毒性の徴候を示さなかった。このプローブは、分光光度薄層フローセルの内部の層流を画像化し、FIA毛細管内の放物線流の可視化に使用された。このプローブによって、プルームの広がりだけではなく、流速がゼロに近づく壁付近での分析物の蓄積による記憶効果も明らかになる。簡単に言うと、錯体[Ru(bpy)2(RhodB−MAPN)Cl]Clは、蛍光の操作が必要とされる全ての種類の系の画像化に驚くほど効果的なツールである。
[Ru(bpy)2(Rhod6G−MAPN)Cl]Cl及び[Ru(bpy)2(RhodB−MAMePy)Cl]は本明細書に記載の手順を利用して生成され、また[Ru(bpy)2(RhodB−MAPN)Cl]Clに関して本明細書で記載されたものと同様の結果を示したことから、本明細書に記載の式I、II、III、V、VI、VII及びVIIIの光解離性化合物類(L2は、標識分子又はその活性誘導体を含む)への光アンテナ構想の適用可能性を例示している。
【0145】
(0246)
[Ru(bpy)2(RhodB−MAPN)Cl]Clに関してこの実施例で実証された同じ驚くべき特性が、本明細書に記載の式I、II、III、V、VI、VII及びVIIIの光解離性化合物(L2は、標識分子又はその活性誘導体を含む)にもあてはまると予測される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
【化1】
V
(式中、
各L1は、独立して
(a)環員の1つがRuと結合を形成する窒素原子である5員単環式芳香環、
(b)環員の1つがRuと結合を形成する窒素原子である6員単環式芳香環、
(c)2環式環の1つが芳香族であり且つRuと結合を形成する窒素原子員を有する8〜10員2環式環、
(d)窒素原子がRuと結合を形成する−NH2基、
(e)酸素原子の1つがRuと結合を形成する−COOH基、
(f)リン原子がRuと結合を形成し、Rが、独立して−H、−C1〜C18アルキル若しくはアリールである−PR2基、又は
(g)硫黄原子が、Ruと結合を形成し、Rが、独立して−H、−C1〜C18アルキル若しくはアリールである−SR基、
を有する有機分子であり、
L2は(R9)3P、(R9O)3P又はL1であり、mは2であり、あるいはL2は−CNであり、mは1であり、あるいはL2は(R9)2P若しくは(R9O)2Pのリン原子を介してRuに結合される標識分子又はその活性誘導体であり、mは2であり、あるいはL2は、NHR9、N(R9)2、ピリジル、C(R9)=NH、C(R9)=NR9環状脂肪族アミン基若しくはニトリルの窒素原子を介してRuに結合される標識分子又はその活性誘導体であり、mは2であり、
各R9は、独立して−C1〜C18アルキル、−C3〜C8シクロアルキル又はフェニルであり、
L2が、P(フェニル)3又はP(フェニル)2のリン原子を介してRuに結合される標識分子若しくはその活性誘導体の場合、各フェニルは独立して−C1〜C18アルキル、−(C1〜C18アルキル)−OH、アリール、−(C1〜C18アルキル)−オキシ、−(C1〜C18アルキル)−アミノ、−(C1〜C18アルキル)−チオ、−CO2Y、−C(=O)Y、−C(=O)NY2、−NH2、−NO2、−OH又は−SHで置換され、
R1〜R4は独立して−H、−C1〜C18アルキル、−NH2、−(C1〜C18アルキル)−O−(C1〜C18アルキル)、−OC(O)(C1〜C18アルキル)、−(C1〜C18アルキル)−OH、アリール、−(C1〜C18アルキル)−オキシ、−(C1〜C18アルキル)−アミノ、−(C1〜C18アルキル)−チオ、−CO2Y、−C(=O)Y、−C(=O)NY2、−NO2又は−SHであり、あるいはR1とR2とは及び/又はR3とR4とは組み合わさって1つ以上のオキソ基で置換される環状炭素を形成し得て、
L2がP(フェニル)3ではない場合、R1〜R4は独立して−H、−(C1〜C18アルキル)−OH、アリール、−(C1〜C18アルキル)−オキシ、−(C1〜C18アルキル)−アミノ、−(C1〜C18アルキル)−チオ、−CO2Y、−C(=O)Y、−C(=O)NY2、−NO2、−OH又は−SHであり、あるいはR1とR2とは及び/又はR3とR4とは組み合わさって1つ以上のオキソ基で置換される環状炭素を形成し得て、R1〜R4の少なくとも1つはHではなく、
Xは、Cl-、F-、Br-、I-、PF6-、CF3SO3-、(C1〜C18アルキル)−CO2-又は(C1〜C18アルキル)−SO3-であり、
Yは、−H、−C1〜C18アルキル、アリール、−(C1〜C18アルキル)−アリール、−C3〜C8シクロアルキル、ヘテロアリール及びヘテロシクリルから成る群から選択される。)
【請求項2】
前記有機分子L1が、4−アミノピリジンである、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
前記有機分子が、(RS)−(テトラゾール−5−イル)グリシンである、請求項1に記載の化合物。
【請求項4】
前記有機分子が、(テトラゾール−5−イル)AMPAである、請求項1に記載の化合物。
【請求項5】
前記有機分子が、ニコチン又はカフェインである、請求項1に記載の化合物。
【請求項6】
前記有機分子が、セロトニン、エピネフリン、ノルエピネフリン又はドーパミンである、請求項1に記載の化合物。
【請求項7】
前記有機分子が、アデノシン5’−ジホスフェートADP、アデノシン5’−トリホスフェートATP、アデノシン5’−モノホスフェートAMP、環状アデノシン5’−ジホスフェートリボース又はアデノシン3’,5’−環状モノホスフェートである、請求項1に記載の化合物。
【請求項8】
前記有機分子が、アミノ酪酸、L−グルタミン酸又はメチル−D−アスパラギン酸である、請求項1に記載の化合物。
【請求項9】
有機分子を光解離性化合物から放出させる方法であって、
請求項1に記載の化合物を、有機分子を放出させるのに十分な条件下で光に曝露することを含むことを特徴とする方法。
【請求項10】
前記光が、約300〜約500nmの波長を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記光が、約300〜約360nmの波長を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記光が、約450〜約500nmの波長を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
L2が、L1である、請求項9に記載の方法。
【請求項14】
前記光が、可視光又は赤外光を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項15】
前記曝露が、約0℃〜約150℃の温度で起きる、請求項9に記載の方法。
【請求項16】
有機分子を患者にバイオアベイラブルにする方法であって、
(a)請求項1に記載の化合物を患者に投与し、
(b)前記化合物を、有機分子を前記化合物から放出させるのに十分な条件下で光に曝露することを含み、
前記有機分子が、
(i)環員の1つが、Ruと結合を形成する窒素原子である5員単環式芳香環、
(ii)環員の1つが、Ruと結合を形成する窒素原子である6員単環式芳香環、
(iii)2環式環の1つが、芳香族であり且つRuと結合を形成する窒素原子員を有する8〜10員2環式環、
(iv)窒素原子が、Ruと結合を形成する−NH2基、
(v)酸素原子の1つがRuと結合を形成する−COOH基、
(vi)リン原子が、Ruと結合を形成し、Rが独立して−H、−C1〜C18アルキル若しくはアリールである−PR2基、又は
(vii)硫黄原子が、Ruと結合を形成し、Rが独立して−H、−C1〜C18アルキル若しくはアリールである−SR基、
を有することを特徴とする方法。
【請求項17】
前記光が、太陽光、フォトオプティック光又はレーザー光である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記光が、可視光又は赤外光である、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
前記曝露が、腫瘍、がん又は新生物の部位で起きる、請求項16に記載の方法。
【請求項20】
前記曝露が、血液疾患の部位で起きる、請求項16に記載の方法。
【請求項21】
前記投与が、静脈内、局所、皮内、筋肉内、経皮、皮下、鼻腔内、非経口、くも膜下腔内、膣内、直腸内、結腸直腸内、経口、頭蓋内、後眼窩、胸骨内経路で又は注射によって行われる、請求項16に記載の方法。
【請求項22】
前記投与が、経皮吸収パッチを介して行われる、請求項16に記載の方法。
【請求項23】
請求項1に記載の化合物と、生理学的に許容可能な担体、ビヒクル、希釈剤又は賦形剤とを含む組成物。
【請求項24】
請求項1に記載の化合物を格納している容器。
【請求項25】
更に生物試料を格納している、請求項24に記載の容器。
【請求項26】
前記生物試料が、臓器、組織、細胞又は毛髪試料である、請求項25に記載の容器。
【請求項27】
前記組織が、神経組織である、請求項26に記載の容器。
【請求項28】
前記細胞が、神経細胞である、請求項26に記載の容器。
【請求項29】
前記組織又は細胞が、腫瘍、がん又は新生物組織若しくは細胞である、請求項26に記載の容器。
【請求項30】
前記生物試料が、体液試料である、請求項25に記載の容器。
【請求項31】
前記体液試料が、血液、血清、血漿、リンパ液、唾液、痰、涙液、精液又は尿である、請求項30に記載の容器。
【請求項32】
請求項1に記載の化合物と、前記化合物の使用説明書とを含むキット。
【請求項33】
患者の障害及び疾患を治療する方法であって、
(a)治療有効量の請求項1に記載の化合物を患者に投与し、
(b)前記化合物を、有機分子を前記化合物から放出させるのに十分な条件下で光に曝露することを含み、
前記有機分子が、
(i)環員の1つが、Ruと結合を形成する窒素原子である5員単環式芳香環、
(ii)環員の1つが、Ruと結合を形成する窒素原子である6員単環式芳香環、
(iii)2環式環の1つが、芳香族であり且つRuと結合を形成する窒素原子員を有する8〜10員2環式環、
(iv)窒素原子が、Ruと結合を形成する−NH2基、
(v)酸素原子の1つが、Ruと結合を形成する−COOH基、
(vi)リン原子が、Ruと結合を形成し、Rが独立して−H、−C1〜C18アルキル若しくはアリールである−PR2基、又は
(vii)硫黄原子が、Ruと結合を形成し、Rが、独立して−H、−C1〜C18アルキル若しくはアリールである−SR基、
を有することを特徴とする方法。
【請求項34】
前記障害及び疾患が、神経学的、神経生理学的又は神経筋疾患及び状態である、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記神経学的、神経生理学的又は神経筋疾患及び状態が癲癇である、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記神経学的、神経生理学的又は神経筋疾患及び状態が、多発性硬化症である、請求項34に記載の方法。
【請求項37】
前記障害が、発汗である、請求項34に記載の方法。
【請求項38】
前記疾患が、がんである、請求項34に記載の方法。
【請求項39】
有機分子の溶解性を向上させる方法であって、
有機分子を光解離性ケージング基に錯化させることによって請求項1に記載の化合物を生成することを含み、
前記化合物を十分な条件下で光に曝露すると前記有機分子が前記化合物から放出され、前記有機分子が、
(i)環員の1つが、Ruと結合を形成する窒素原子である5員単環式芳香環、
(ii)環員の1つが、Ruと結合を形成する窒素原子である6員単環式芳香環、
(iii)2環式環の1つが、芳香族であり且つRuと結合を形成する窒素原子員を有する8〜10員2環式環、
(iv)窒素原子が、Ruと結合を形成する−NH2基、
(v)酸素原子の1つが、Ruと結合を形成する−COOH基、
(vi)リン原子が、Ruと結合を形成し、Rが独立して−H、−C1〜C18アルキル若しくはアリールである−PR2基、又は
(vii)硫黄原子が、Ruと結合を形成し、Rが独立して−H、−C1〜C18アルキル若しくはアリールである−SR基
を有することを特徴とする方法。
【請求項40】
VI
(式中、
各L1は、独立して
(a)環員の1つが、Ruと結合を形成する窒素原子である5員単環式芳香環、
(b)環員の1つが、Ruと結合を形成する窒素原子である6員単環式芳香環、
(c)2環式環の1つが、芳香族であり且つRuと結合を形成する窒素原子員を有する8〜10員2環式環、
(d)窒素原子が、Ruと結合を形成する−NH2基、
(e)酸素原子の1つが、Ruと結合を形成する−COOH基、
(f)リン原子が、Ruと結合を形成し、Rが、独立して−H、−C1〜C18アルキル若しくはアリールである−PR2基、又は
(g)硫黄原子が、Ruと結合を形成し、Rが、独立して−H、−C1〜C18アルキル若しくはアリールである−SR基
を有する有機分子であり、
L2はP(フェニル)3であり、各フェニルは、独立して−C1〜C18アルキル、−(C1〜C18アルキル)−OH、アリール、−(C1〜C18アルキル)−オキシ、−(C1〜C18アルキル)−アミノ、−(C1〜C18アルキル)−チオ、−CO2Y、−C(=O)Y、−C(=O)NY2、−NH2、−NO2、−OH又は−SHで置換され、あるいはL2は(R9)2P若しくは(R9O)2Pのリン原子を介してRuに結合される標識分子又はその活性誘導体であり、mは、2であり、あるいはL2はNHR9、N(R9)2、ピリジル、C(R9)=NH、C(R9)=NR9環状脂肪族アミン基若しくはニトリルの窒素原子を介してRuに結合される標識分子又はその活性誘導体であり、mは、2であり、
各R9は、独立して−C1〜C18アルキル、−C3〜C8シクロアルキル又はフェニルであり、
R1〜R4は、独立して−H、−C1〜C18アルキル、−NH2、−(C1〜C18アルキル)−O−(C1〜C18アルキル)、−OC(O)(C1〜C18アルキル)、−(C1〜C18アルキル)−OH、アリール、−(C1〜C18アルキル)−オキシ、−(C1〜C18アルキル)−アミノ、−(C1〜C18アルキル)−チオ、−CO2Y、−C(=O)Y、−C(=O)NY2、−NO2又は−SHであり、あるいはR1とR2とは及び/又はR3とR4とは組み合わさって1つ以上のオキソ基で置換される環状炭素を形成し得て、
Xは、Cl-、F-、Br-、I-、PF6-、CF3SO3-、(C1〜C18アルキル)−CO2-又は(C1〜C18アルキル)−SO3-であり、
Yは、−H、−C1〜C18アルキル、アリール、−(C1〜C18アルキル)−アリール、−C3〜C8シクロアルキル、ヘテロアリール及びヘテロシクリルから成る群から選択される。)
【請求項41】
L2が、P(フェニル)3であり、各フェニルが独立して3位又は4位で置換される、請求項40に記載の化合物。
【請求項42】
L2が、P(フェニル)3であり、少なくとも1つのフェニルが−(C1〜C18アルキル)−OHで置換される、請求項40に記載の化合物。
【請求項43】
L2が、P(フェニル)3であり、各フェニルが、−(C1〜C18アルキル)−OHで置換される、請求項40に記載の化合物
【請求項44】
L2がP(フェニル)3であり、少なくとも1つのフェニルが−COOHで置換される、請求項40に記載の化合物。
【請求項45】
L2が、P(フェニル)3であり、各フェニルが、−COOHで置換される、請求項40に記載の化合物。
【請求項46】
L2が、P(フェニル)3であり、少なくとも1つのフェニルが、−OHで置換される、請求項40に記載の化合物。
【請求項47】
L2が、P(フェニル)3であり、各フェニルが、−OHで置換される、請求項40に記載の化合物。
【請求項48】
L2が、P(フェニル)3であり、少なくとも1つのフェニルが、−NH2で置換される、請求項40に記載の化合物。
【請求項49】
L2が、P(フェニル)3であり、各フェニルが、−NH2で置換される、請求項40に記載の化合物。
【請求項50】
L2が、P(フェニル)3であり、少なくとも1つのフェニルが、−NO2で置換される、請求項40に記載の化合物。
【請求項51】
L2が、P(フェニル)3であり、各フェニルが、−NO2で置換される、請求項40に記載の化合物。
【請求項52】
VII
(式中、
各L1は、独立して
(a)環員の1つが、Ruと結合を形成する窒素原子である5員単環式芳香環、
(b)環員の1つが、Ruと結合を形成する窒素原子である6員単環式芳香環、
(c)2環式環の1つが、芳香族であり且つRuと結合を形成する窒素原子員を有する8〜10員2環式環、
(d)窒素原子が、Ruと結合を形成する−NH2基、
(e)酸素原子の1つがRuと結合を形成する−COOH基、
(f)リン原子が、Ruと結合を形成し、Rが、独立して−H、−C1〜C18アルキル若しくはアリールである−PR2基、又は
(g)硫黄原子が、Ruと結合を形成し、Rが、独立して−H、−C1〜C18アルキル若しくはアリールである−SR基
を有する有機分子であり、
L2は、(R9)3P、(R9O)3P又はL1であり、各R5は、独立して−C1〜C18アルキル、−C3〜C8シクロアルキル又はフェニルであり、mは、2であり、L2は、P(フェニル)3ではなく、あるいはL2は、−CNであり、mは、1であり、あるいはL2は、(R9)2P若しくは(R9O)2Pのリン原子を介してRuに結合される標識分子又はその活性誘導体であり、mは、2であり、あるいはL2は、NHR9、N(R9)2、ピリジル、C(R9)=NH、C(R9)=NR9環状脂肪族アミン基若しくはニトリルの窒素原子を介してRuに結合される標識分子又はその活性誘導体であり、mは、2であり、
各R9は、独立して−C1〜C18アルキル、−C3〜C8シクロアルキル又はフェニルであり、
R1〜R4は、独立して−H、−(C1〜C18アルキル)−OH、アリール、−(C1〜C18アルキル)−オキシ、−(C1〜C18アルキル)−アミノ、−(C1〜C18アルキル)−チオ、−CO2Y、−C(=O)Y、−C(=O)NY2、−NO2、−OH又は−SHであり、あるいはR1とR2とは及び/又はR3とR4とは組み合わさって1つ以上のオキソ基で置換される環状炭素を形成し得て、R1〜R4の少なくとも1つはHではなく、
Xは、Cl-、F-、Br-、I-、PF6-、CF3SO3-、(C1〜C18アルキル)−CO2-又は(C1〜C18アルキル)−SO3-であり、
Yは、−H、−C1〜C18アルキル、アリール、−(C1〜C18アルキル)−アリール、−C3〜C8シクロアルキル、ヘテロアリール及びヘテロシクリルから成る群から選択される。)
【請求項53】
L2が、P(メチル)(フェニル)2である、請求項52に記載の化合物。
【請求項54】
L2が、P(メチル)2(フェニル)である、請求項52に記載の化合物。
【請求項55】
VIII
(式中、
各L1は、独立して(R9)2P若しくは(R9O)2Pのリン原子を介してRuに結合される標識分子又はその活性誘導体であり、mは、2であり、あるいはL1は、NHR9、N(R9)2、ピリジル、C(R9)=NH、C(R9)=NR9環状脂肪族アミン基若しくはニトリルの窒素原子を介してRuに結合される標識分子又はその活性誘導体であり、mは2であり、
各R9は、独立して−C1〜C18アルキル、−C3〜C8シクロアルキル又はフェニルであり、
L2は、Cl−、ホスフィン、OH2又はピリジンであり、mは、2であり、あるいはL2は、−CNであり、mは、1であり、
R1〜R4は、独立して−H、−C1〜C18アルキル、−NH2、−(C1〜C18アルキル)−O−(C1〜C18アルキル)、−OC(O)(C1〜C18アルキル)、−(C1〜C18アルキル)−OH、アリール、−(C1〜C18アルキル)−オキシ、−(C1〜C18アルキル)−アミノ、−(C1〜C18アルキル)−チオ、−CO2Y、−C(=O)Y、−C(=O)NY2、−NO2又は−SHであり、あるいはR1とR2とは及び/又はR3とR4とは組み合わさって1つ以上のオキソ基で置換される環状炭素を形成し得て、
Xは、Cl-、F-、Br-、I-、PF6-、CF3SO3-、(C1〜C18アルキル)−CO2-又は(C1〜C18アルキル)−SO3-であり、
Yは、−H、−C1〜C18アルキル、アリール、−(C1〜C18アルキル)−アリール、−C3〜C8シクロアルキル、ヘテロアリール及びヘテロシクリルから成る群から選択される。)
【請求項56】
前記蛍光分子が、窒素原子がRuと結合を形成する−CN基を含有する、請求項55に記載の化合物。
【請求項57】
前記蛍光分子が、ローダミンを含有する、請求項55に記載の化合物。
【請求項58】
前記蛍光分子が、フルオレセインを含有する、請求項55に記載の化合物。
【請求項59】
前記蛍光分子が、ヨードエオシンを含有する、請求項55に記載の化合物。
【請求項60】
蛍光分子を光解離性化合物から放出させる方法であって、
請求項55に記載の化合物を蛍光分子を放出させるのに十分な条件下で光に曝露することを含む方法。
【請求項61】
前記光が、約300〜約500nmの波長を含む、請求項60に記載の方法。
【請求項62】
前記光が、約300〜約360nmの波長を含む、請求項60に記載の方法。
【請求項63】
前記光が、約450〜約500nmの波長を含む、請求項60に記載の方法。
【請求項64】
前記光が、可視光又は赤外光を含む、請求項60に記載の方法。
【請求項65】
前記曝露が、約0℃〜約150℃の温度で起きる、請求項60に記載の方法。
【請求項66】
L2が、標識分子又はその誘導体である、請求項1、40、52又は55のいずれかに記載の方法。
【請求項67】
L2が、ローダミンB−メチルアミノプロピオニトリルアミド(RhodB−MAPN)、ローダミン6G−メチルアミノプロピオニトリルアミド(Rhod6G−MAPN)、RhodB−MAMePy、Rhod6G−MAMePy又はこれらの塩である、請求項66に記載の方法。
【請求項68】
[Ru(bpy)2(RhodB−MAPN)Cl]Cl、[Ru(bpy)2(Rhod6G−MAPN)Cl]Cl、[Ru(bpy)2(RhodB−MAMePy)Cl]Clから成る群から選択される化合物。
【請求項69】
Zが、アニオンである[Ru(bpy)2(RhodB−MAPN)Cl]Z、[Ru(bpy)2(Rhod6G−MAPN)Cl]Z、[Ru(bpy)2(RhodB−MAMePy)Cl]Zから成る群から選択される化合物。
【請求項1】
【化1】
V
(式中、
各L1は、独立して
(a)環員の1つがRuと結合を形成する窒素原子である5員単環式芳香環、
(b)環員の1つがRuと結合を形成する窒素原子である6員単環式芳香環、
(c)2環式環の1つが芳香族であり且つRuと結合を形成する窒素原子員を有する8〜10員2環式環、
(d)窒素原子がRuと結合を形成する−NH2基、
(e)酸素原子の1つがRuと結合を形成する−COOH基、
(f)リン原子がRuと結合を形成し、Rが、独立して−H、−C1〜C18アルキル若しくはアリールである−PR2基、又は
(g)硫黄原子が、Ruと結合を形成し、Rが、独立して−H、−C1〜C18アルキル若しくはアリールである−SR基、
を有する有機分子であり、
L2は(R9)3P、(R9O)3P又はL1であり、mは2であり、あるいはL2は−CNであり、mは1であり、あるいはL2は(R9)2P若しくは(R9O)2Pのリン原子を介してRuに結合される標識分子又はその活性誘導体であり、mは2であり、あるいはL2は、NHR9、N(R9)2、ピリジル、C(R9)=NH、C(R9)=NR9環状脂肪族アミン基若しくはニトリルの窒素原子を介してRuに結合される標識分子又はその活性誘導体であり、mは2であり、
各R9は、独立して−C1〜C18アルキル、−C3〜C8シクロアルキル又はフェニルであり、
L2が、P(フェニル)3又はP(フェニル)2のリン原子を介してRuに結合される標識分子若しくはその活性誘導体の場合、各フェニルは独立して−C1〜C18アルキル、−(C1〜C18アルキル)−OH、アリール、−(C1〜C18アルキル)−オキシ、−(C1〜C18アルキル)−アミノ、−(C1〜C18アルキル)−チオ、−CO2Y、−C(=O)Y、−C(=O)NY2、−NH2、−NO2、−OH又は−SHで置換され、
R1〜R4は独立して−H、−C1〜C18アルキル、−NH2、−(C1〜C18アルキル)−O−(C1〜C18アルキル)、−OC(O)(C1〜C18アルキル)、−(C1〜C18アルキル)−OH、アリール、−(C1〜C18アルキル)−オキシ、−(C1〜C18アルキル)−アミノ、−(C1〜C18アルキル)−チオ、−CO2Y、−C(=O)Y、−C(=O)NY2、−NO2又は−SHであり、あるいはR1とR2とは及び/又はR3とR4とは組み合わさって1つ以上のオキソ基で置換される環状炭素を形成し得て、
L2がP(フェニル)3ではない場合、R1〜R4は独立して−H、−(C1〜C18アルキル)−OH、アリール、−(C1〜C18アルキル)−オキシ、−(C1〜C18アルキル)−アミノ、−(C1〜C18アルキル)−チオ、−CO2Y、−C(=O)Y、−C(=O)NY2、−NO2、−OH又は−SHであり、あるいはR1とR2とは及び/又はR3とR4とは組み合わさって1つ以上のオキソ基で置換される環状炭素を形成し得て、R1〜R4の少なくとも1つはHではなく、
Xは、Cl-、F-、Br-、I-、PF6-、CF3SO3-、(C1〜C18アルキル)−CO2-又は(C1〜C18アルキル)−SO3-であり、
Yは、−H、−C1〜C18アルキル、アリール、−(C1〜C18アルキル)−アリール、−C3〜C8シクロアルキル、ヘテロアリール及びヘテロシクリルから成る群から選択される。)
【請求項2】
前記有機分子L1が、4−アミノピリジンである、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
前記有機分子が、(RS)−(テトラゾール−5−イル)グリシンである、請求項1に記載の化合物。
【請求項4】
前記有機分子が、(テトラゾール−5−イル)AMPAである、請求項1に記載の化合物。
【請求項5】
前記有機分子が、ニコチン又はカフェインである、請求項1に記載の化合物。
【請求項6】
前記有機分子が、セロトニン、エピネフリン、ノルエピネフリン又はドーパミンである、請求項1に記載の化合物。
【請求項7】
前記有機分子が、アデノシン5’−ジホスフェートADP、アデノシン5’−トリホスフェートATP、アデノシン5’−モノホスフェートAMP、環状アデノシン5’−ジホスフェートリボース又はアデノシン3’,5’−環状モノホスフェートである、請求項1に記載の化合物。
【請求項8】
前記有機分子が、アミノ酪酸、L−グルタミン酸又はメチル−D−アスパラギン酸である、請求項1に記載の化合物。
【請求項9】
有機分子を光解離性化合物から放出させる方法であって、
請求項1に記載の化合物を、有機分子を放出させるのに十分な条件下で光に曝露することを含むことを特徴とする方法。
【請求項10】
前記光が、約300〜約500nmの波長を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記光が、約300〜約360nmの波長を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記光が、約450〜約500nmの波長を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
L2が、L1である、請求項9に記載の方法。
【請求項14】
前記光が、可視光又は赤外光を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項15】
前記曝露が、約0℃〜約150℃の温度で起きる、請求項9に記載の方法。
【請求項16】
有機分子を患者にバイオアベイラブルにする方法であって、
(a)請求項1に記載の化合物を患者に投与し、
(b)前記化合物を、有機分子を前記化合物から放出させるのに十分な条件下で光に曝露することを含み、
前記有機分子が、
(i)環員の1つが、Ruと結合を形成する窒素原子である5員単環式芳香環、
(ii)環員の1つが、Ruと結合を形成する窒素原子である6員単環式芳香環、
(iii)2環式環の1つが、芳香族であり且つRuと結合を形成する窒素原子員を有する8〜10員2環式環、
(iv)窒素原子が、Ruと結合を形成する−NH2基、
(v)酸素原子の1つがRuと結合を形成する−COOH基、
(vi)リン原子が、Ruと結合を形成し、Rが独立して−H、−C1〜C18アルキル若しくはアリールである−PR2基、又は
(vii)硫黄原子が、Ruと結合を形成し、Rが独立して−H、−C1〜C18アルキル若しくはアリールである−SR基、
を有することを特徴とする方法。
【請求項17】
前記光が、太陽光、フォトオプティック光又はレーザー光である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記光が、可視光又は赤外光である、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
前記曝露が、腫瘍、がん又は新生物の部位で起きる、請求項16に記載の方法。
【請求項20】
前記曝露が、血液疾患の部位で起きる、請求項16に記載の方法。
【請求項21】
前記投与が、静脈内、局所、皮内、筋肉内、経皮、皮下、鼻腔内、非経口、くも膜下腔内、膣内、直腸内、結腸直腸内、経口、頭蓋内、後眼窩、胸骨内経路で又は注射によって行われる、請求項16に記載の方法。
【請求項22】
前記投与が、経皮吸収パッチを介して行われる、請求項16に記載の方法。
【請求項23】
請求項1に記載の化合物と、生理学的に許容可能な担体、ビヒクル、希釈剤又は賦形剤とを含む組成物。
【請求項24】
請求項1に記載の化合物を格納している容器。
【請求項25】
更に生物試料を格納している、請求項24に記載の容器。
【請求項26】
前記生物試料が、臓器、組織、細胞又は毛髪試料である、請求項25に記載の容器。
【請求項27】
前記組織が、神経組織である、請求項26に記載の容器。
【請求項28】
前記細胞が、神経細胞である、請求項26に記載の容器。
【請求項29】
前記組織又は細胞が、腫瘍、がん又は新生物組織若しくは細胞である、請求項26に記載の容器。
【請求項30】
前記生物試料が、体液試料である、請求項25に記載の容器。
【請求項31】
前記体液試料が、血液、血清、血漿、リンパ液、唾液、痰、涙液、精液又は尿である、請求項30に記載の容器。
【請求項32】
請求項1に記載の化合物と、前記化合物の使用説明書とを含むキット。
【請求項33】
患者の障害及び疾患を治療する方法であって、
(a)治療有効量の請求項1に記載の化合物を患者に投与し、
(b)前記化合物を、有機分子を前記化合物から放出させるのに十分な条件下で光に曝露することを含み、
前記有機分子が、
(i)環員の1つが、Ruと結合を形成する窒素原子である5員単環式芳香環、
(ii)環員の1つが、Ruと結合を形成する窒素原子である6員単環式芳香環、
(iii)2環式環の1つが、芳香族であり且つRuと結合を形成する窒素原子員を有する8〜10員2環式環、
(iv)窒素原子が、Ruと結合を形成する−NH2基、
(v)酸素原子の1つが、Ruと結合を形成する−COOH基、
(vi)リン原子が、Ruと結合を形成し、Rが独立して−H、−C1〜C18アルキル若しくはアリールである−PR2基、又は
(vii)硫黄原子が、Ruと結合を形成し、Rが、独立して−H、−C1〜C18アルキル若しくはアリールである−SR基、
を有することを特徴とする方法。
【請求項34】
前記障害及び疾患が、神経学的、神経生理学的又は神経筋疾患及び状態である、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記神経学的、神経生理学的又は神経筋疾患及び状態が癲癇である、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記神経学的、神経生理学的又は神経筋疾患及び状態が、多発性硬化症である、請求項34に記載の方法。
【請求項37】
前記障害が、発汗である、請求項34に記載の方法。
【請求項38】
前記疾患が、がんである、請求項34に記載の方法。
【請求項39】
有機分子の溶解性を向上させる方法であって、
有機分子を光解離性ケージング基に錯化させることによって請求項1に記載の化合物を生成することを含み、
前記化合物を十分な条件下で光に曝露すると前記有機分子が前記化合物から放出され、前記有機分子が、
(i)環員の1つが、Ruと結合を形成する窒素原子である5員単環式芳香環、
(ii)環員の1つが、Ruと結合を形成する窒素原子である6員単環式芳香環、
(iii)2環式環の1つが、芳香族であり且つRuと結合を形成する窒素原子員を有する8〜10員2環式環、
(iv)窒素原子が、Ruと結合を形成する−NH2基、
(v)酸素原子の1つが、Ruと結合を形成する−COOH基、
(vi)リン原子が、Ruと結合を形成し、Rが独立して−H、−C1〜C18アルキル若しくはアリールである−PR2基、又は
(vii)硫黄原子が、Ruと結合を形成し、Rが独立して−H、−C1〜C18アルキル若しくはアリールである−SR基
を有することを特徴とする方法。
【請求項40】
VI
(式中、
各L1は、独立して
(a)環員の1つが、Ruと結合を形成する窒素原子である5員単環式芳香環、
(b)環員の1つが、Ruと結合を形成する窒素原子である6員単環式芳香環、
(c)2環式環の1つが、芳香族であり且つRuと結合を形成する窒素原子員を有する8〜10員2環式環、
(d)窒素原子が、Ruと結合を形成する−NH2基、
(e)酸素原子の1つが、Ruと結合を形成する−COOH基、
(f)リン原子が、Ruと結合を形成し、Rが、独立して−H、−C1〜C18アルキル若しくはアリールである−PR2基、又は
(g)硫黄原子が、Ruと結合を形成し、Rが、独立して−H、−C1〜C18アルキル若しくはアリールである−SR基
を有する有機分子であり、
L2はP(フェニル)3であり、各フェニルは、独立して−C1〜C18アルキル、−(C1〜C18アルキル)−OH、アリール、−(C1〜C18アルキル)−オキシ、−(C1〜C18アルキル)−アミノ、−(C1〜C18アルキル)−チオ、−CO2Y、−C(=O)Y、−C(=O)NY2、−NH2、−NO2、−OH又は−SHで置換され、あるいはL2は(R9)2P若しくは(R9O)2Pのリン原子を介してRuに結合される標識分子又はその活性誘導体であり、mは、2であり、あるいはL2はNHR9、N(R9)2、ピリジル、C(R9)=NH、C(R9)=NR9環状脂肪族アミン基若しくはニトリルの窒素原子を介してRuに結合される標識分子又はその活性誘導体であり、mは、2であり、
各R9は、独立して−C1〜C18アルキル、−C3〜C8シクロアルキル又はフェニルであり、
R1〜R4は、独立して−H、−C1〜C18アルキル、−NH2、−(C1〜C18アルキル)−O−(C1〜C18アルキル)、−OC(O)(C1〜C18アルキル)、−(C1〜C18アルキル)−OH、アリール、−(C1〜C18アルキル)−オキシ、−(C1〜C18アルキル)−アミノ、−(C1〜C18アルキル)−チオ、−CO2Y、−C(=O)Y、−C(=O)NY2、−NO2又は−SHであり、あるいはR1とR2とは及び/又はR3とR4とは組み合わさって1つ以上のオキソ基で置換される環状炭素を形成し得て、
Xは、Cl-、F-、Br-、I-、PF6-、CF3SO3-、(C1〜C18アルキル)−CO2-又は(C1〜C18アルキル)−SO3-であり、
Yは、−H、−C1〜C18アルキル、アリール、−(C1〜C18アルキル)−アリール、−C3〜C8シクロアルキル、ヘテロアリール及びヘテロシクリルから成る群から選択される。)
【請求項41】
L2が、P(フェニル)3であり、各フェニルが独立して3位又は4位で置換される、請求項40に記載の化合物。
【請求項42】
L2が、P(フェニル)3であり、少なくとも1つのフェニルが−(C1〜C18アルキル)−OHで置換される、請求項40に記載の化合物。
【請求項43】
L2が、P(フェニル)3であり、各フェニルが、−(C1〜C18アルキル)−OHで置換される、請求項40に記載の化合物
【請求項44】
L2がP(フェニル)3であり、少なくとも1つのフェニルが−COOHで置換される、請求項40に記載の化合物。
【請求項45】
L2が、P(フェニル)3であり、各フェニルが、−COOHで置換される、請求項40に記載の化合物。
【請求項46】
L2が、P(フェニル)3であり、少なくとも1つのフェニルが、−OHで置換される、請求項40に記載の化合物。
【請求項47】
L2が、P(フェニル)3であり、各フェニルが、−OHで置換される、請求項40に記載の化合物。
【請求項48】
L2が、P(フェニル)3であり、少なくとも1つのフェニルが、−NH2で置換される、請求項40に記載の化合物。
【請求項49】
L2が、P(フェニル)3であり、各フェニルが、−NH2で置換される、請求項40に記載の化合物。
【請求項50】
L2が、P(フェニル)3であり、少なくとも1つのフェニルが、−NO2で置換される、請求項40に記載の化合物。
【請求項51】
L2が、P(フェニル)3であり、各フェニルが、−NO2で置換される、請求項40に記載の化合物。
【請求項52】
VII
(式中、
各L1は、独立して
(a)環員の1つが、Ruと結合を形成する窒素原子である5員単環式芳香環、
(b)環員の1つが、Ruと結合を形成する窒素原子である6員単環式芳香環、
(c)2環式環の1つが、芳香族であり且つRuと結合を形成する窒素原子員を有する8〜10員2環式環、
(d)窒素原子が、Ruと結合を形成する−NH2基、
(e)酸素原子の1つがRuと結合を形成する−COOH基、
(f)リン原子が、Ruと結合を形成し、Rが、独立して−H、−C1〜C18アルキル若しくはアリールである−PR2基、又は
(g)硫黄原子が、Ruと結合を形成し、Rが、独立して−H、−C1〜C18アルキル若しくはアリールである−SR基
を有する有機分子であり、
L2は、(R9)3P、(R9O)3P又はL1であり、各R5は、独立して−C1〜C18アルキル、−C3〜C8シクロアルキル又はフェニルであり、mは、2であり、L2は、P(フェニル)3ではなく、あるいはL2は、−CNであり、mは、1であり、あるいはL2は、(R9)2P若しくは(R9O)2Pのリン原子を介してRuに結合される標識分子又はその活性誘導体であり、mは、2であり、あるいはL2は、NHR9、N(R9)2、ピリジル、C(R9)=NH、C(R9)=NR9環状脂肪族アミン基若しくはニトリルの窒素原子を介してRuに結合される標識分子又はその活性誘導体であり、mは、2であり、
各R9は、独立して−C1〜C18アルキル、−C3〜C8シクロアルキル又はフェニルであり、
R1〜R4は、独立して−H、−(C1〜C18アルキル)−OH、アリール、−(C1〜C18アルキル)−オキシ、−(C1〜C18アルキル)−アミノ、−(C1〜C18アルキル)−チオ、−CO2Y、−C(=O)Y、−C(=O)NY2、−NO2、−OH又は−SHであり、あるいはR1とR2とは及び/又はR3とR4とは組み合わさって1つ以上のオキソ基で置換される環状炭素を形成し得て、R1〜R4の少なくとも1つはHではなく、
Xは、Cl-、F-、Br-、I-、PF6-、CF3SO3-、(C1〜C18アルキル)−CO2-又は(C1〜C18アルキル)−SO3-であり、
Yは、−H、−C1〜C18アルキル、アリール、−(C1〜C18アルキル)−アリール、−C3〜C8シクロアルキル、ヘテロアリール及びヘテロシクリルから成る群から選択される。)
【請求項53】
L2が、P(メチル)(フェニル)2である、請求項52に記載の化合物。
【請求項54】
L2が、P(メチル)2(フェニル)である、請求項52に記載の化合物。
【請求項55】
VIII
(式中、
各L1は、独立して(R9)2P若しくは(R9O)2Pのリン原子を介してRuに結合される標識分子又はその活性誘導体であり、mは、2であり、あるいはL1は、NHR9、N(R9)2、ピリジル、C(R9)=NH、C(R9)=NR9環状脂肪族アミン基若しくはニトリルの窒素原子を介してRuに結合される標識分子又はその活性誘導体であり、mは2であり、
各R9は、独立して−C1〜C18アルキル、−C3〜C8シクロアルキル又はフェニルであり、
L2は、Cl−、ホスフィン、OH2又はピリジンであり、mは、2であり、あるいはL2は、−CNであり、mは、1であり、
R1〜R4は、独立して−H、−C1〜C18アルキル、−NH2、−(C1〜C18アルキル)−O−(C1〜C18アルキル)、−OC(O)(C1〜C18アルキル)、−(C1〜C18アルキル)−OH、アリール、−(C1〜C18アルキル)−オキシ、−(C1〜C18アルキル)−アミノ、−(C1〜C18アルキル)−チオ、−CO2Y、−C(=O)Y、−C(=O)NY2、−NO2又は−SHであり、あるいはR1とR2とは及び/又はR3とR4とは組み合わさって1つ以上のオキソ基で置換される環状炭素を形成し得て、
Xは、Cl-、F-、Br-、I-、PF6-、CF3SO3-、(C1〜C18アルキル)−CO2-又は(C1〜C18アルキル)−SO3-であり、
Yは、−H、−C1〜C18アルキル、アリール、−(C1〜C18アルキル)−アリール、−C3〜C8シクロアルキル、ヘテロアリール及びヘテロシクリルから成る群から選択される。)
【請求項56】
前記蛍光分子が、窒素原子がRuと結合を形成する−CN基を含有する、請求項55に記載の化合物。
【請求項57】
前記蛍光分子が、ローダミンを含有する、請求項55に記載の化合物。
【請求項58】
前記蛍光分子が、フルオレセインを含有する、請求項55に記載の化合物。
【請求項59】
前記蛍光分子が、ヨードエオシンを含有する、請求項55に記載の化合物。
【請求項60】
蛍光分子を光解離性化合物から放出させる方法であって、
請求項55に記載の化合物を蛍光分子を放出させるのに十分な条件下で光に曝露することを含む方法。
【請求項61】
前記光が、約300〜約500nmの波長を含む、請求項60に記載の方法。
【請求項62】
前記光が、約300〜約360nmの波長を含む、請求項60に記載の方法。
【請求項63】
前記光が、約450〜約500nmの波長を含む、請求項60に記載の方法。
【請求項64】
前記光が、可視光又は赤外光を含む、請求項60に記載の方法。
【請求項65】
前記曝露が、約0℃〜約150℃の温度で起きる、請求項60に記載の方法。
【請求項66】
L2が、標識分子又はその誘導体である、請求項1、40、52又は55のいずれかに記載の方法。
【請求項67】
L2が、ローダミンB−メチルアミノプロピオニトリルアミド(RhodB−MAPN)、ローダミン6G−メチルアミノプロピオニトリルアミド(Rhod6G−MAPN)、RhodB−MAMePy、Rhod6G−MAMePy又はこれらの塩である、請求項66に記載の方法。
【請求項68】
[Ru(bpy)2(RhodB−MAPN)Cl]Cl、[Ru(bpy)2(Rhod6G−MAPN)Cl]Cl、[Ru(bpy)2(RhodB−MAMePy)Cl]Clから成る群から選択される化合物。
【請求項69】
Zが、アニオンである[Ru(bpy)2(RhodB−MAPN)Cl]Z、[Ru(bpy)2(Rhod6G−MAPN)Cl]Z、[Ru(bpy)2(RhodB−MAMePy)Cl]Zから成る群から選択される化合物。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図5】
【図6】
【図7A】
【図7B】
【図8A】
【図8B】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13A】
【図13B】
【図14A】
【図14B】
【図14C】
【図14D】
【図14E】
【図14F】
【図14G】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図2】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図5】
【図6】
【図7A】
【図7B】
【図8A】
【図8B】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13A】
【図13B】
【図14A】
【図14B】
【図14C】
【図14D】
【図14E】
【図14F】
【図14G】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【公表番号】特表2012−531443(P2012−531443A)
【公表日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−517826(P2012−517826)
【出願日】平成22年6月28日(2010.6.28)
【国際出願番号】PCT/US2010/040220
【国際公開番号】WO2010/151879
【国際公開日】平成22年12月29日(2010.12.29)
【出願人】(506118526)ザ トラスティーズ オブ コロンビア ユニヴァーシティ イン ザ シティ オブ ニューヨーク (25)
【出願人】(511314278)ウニヴェルシダ デ ブエノス アイレス (1)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年6月28日(2010.6.28)
【国際出願番号】PCT/US2010/040220
【国際公開番号】WO2010/151879
【国際公開日】平成22年12月29日(2010.12.29)
【出願人】(506118526)ザ トラスティーズ オブ コロンビア ユニヴァーシティ イン ザ シティ オブ ニューヨーク (25)
【出願人】(511314278)ウニヴェルシダ デ ブエノス アイレス (1)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]