説明

光触媒性積層塗膜

【課題】防眩性が十分に優れ、且つ優れた防汚性及び光触媒性を付与することが可能な光触媒性積層塗膜を提供すること。
【解決手段】第1のフッ素樹脂と第1の架橋剤とアクリル樹脂微粒子とを含有する第1の塗料からなる保護層、並びに、前記保護層上に形成された、第2のフッ素樹脂と第2の架橋剤と光触媒性微粒子とを含有する第2の塗料からなる光触媒層を備えており、前記第2のフッ素樹脂がポリジメチルシロキサン変性フッ素樹脂であり、且つ前記第1のフッ素樹脂が前記ポリジメチルシロキサン変性フッ素樹脂以外のフッ素樹脂であること特徴とする光触媒性積層塗膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光触媒性積層塗膜に関し、より詳しくは、表示装置、パラボラアンテナ、外壁塗装、道路標識、船舶、自動車、電車、テント、除雪シート等の表面塗膜として有用な光触媒性積層塗膜に関する。
【背景技術】
【0002】
表示装置、パラボラアンテナ、外壁、道路標識、船舶、自動車、電車、テント、除雪シートといったものにおいては、表面に汚れが付きにくいこと(防汚性)が要求されるため、表面に防汚性や光触媒性を有する塗膜を設けることが検討されている。そして、例えば、特開2000−248223号公報(特許文献1)には、フッ素樹脂と特定のフルオロシリコーン化合物を含む塗料組成物が開示されており、明細書中において酸化チタンを更に含有させることができ、それにより光触媒性を付与することができることが記載されている。
【0003】
しかしながら、このような表面塗膜を特に表示装置や屋外で用いられるパラボラアンテナ等に用いる場合には、基材に防汚性及び光触媒性を付与することだけでなく、塗膜表面の艶を消し、光の反射を抑制すること(防眩性)も要求されており、特許文献1に記載のような塗料組成物を用いた塗膜は、このような防眩性の点で未だ十分なものではなかった。
【0004】
また、防眩性を付与する技術として、塗膜表面や塗膜を形成する基材の表面にエッチング法等により凹凸を設ける方法が知られているが、塗膜表面に凹凸を設けた場合には、塗膜強度の低下を招く恐れがあるだけでなく、塗膜表面が粗くなるために防汚性が低下するという点で問題があった。また、塗膜を形成する基材の表面に凹凸を設けた場合には、防眩性の点で未だ十分なものではなく、さらに、塗膜を形成する基材の表面に凹凸を設けることは作業として煩雑であるという点で問題があった。
【特許文献1】特開2000−248223号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、防眩性が十分に優れ、且つ優れた防汚性及び光触媒性を付与することが可能な光触媒性積層塗膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、特定の樹脂とアクリル樹脂微粒子とを含有する塗料からなる保護層、並びに、前記保護層上に形成された、特定の樹脂と光触媒性微粒子とを含有する塗料からなる光触媒層を備える積層塗膜を表面装置等の基材に設けることにより、防眩性が十分に優れ、しかも優れた防汚性及び光触媒性を基材に付与することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明の光触媒性積層塗膜は、第1のフッ素樹脂と第1の架橋剤とアクリル樹脂微粒子とを含有する第1の塗料からなる保護層、並びに、前記保護層上に形成された、第2のフッ素樹脂と第2の架橋剤と光触媒性微粒子とを含有する第2の塗料からなる光触媒層を備えており、前記第2のフッ素樹脂がポリジメチルシロキサン変性フッ素樹脂であり、且つ前記第1のフッ素樹脂が前記ポリジメチルシロキサン変性フッ素樹脂以外のフッ素樹脂であること特徴とするものである。
【0008】
また、本発明の光触媒性積層塗膜においては、前記アクリル樹脂微粒子の平均一次粒子径が0.01〜0.3μmの範囲であり、且つ平均二次粒子径が8〜12μmの範囲であることが好ましい。
【0009】
さらに、本発明の光触媒性積層塗膜においては、前記アクリル樹脂微粒子の含有量が、前記第1のフッ素樹脂100質量部に対して0.1〜10質量部の範囲であることが好ましい。
【0010】
また、本発明の光触媒性積層塗膜においては、前記アクリル樹脂微粒子がエチレングリコールジメタクリレート重合体の微粒子であることが好ましい。
【0011】
さらに、本発明の光触媒性積層塗膜においては、前記第1のフッ素樹脂がポリフッ化ビニリデン又はポリフッ化ビニルエーテルを主成分として含有するフッ素樹脂であることが好ましい。
【0012】
また、本発明の光触媒性積層塗膜においては、前記第1の架橋剤が、メラミン化合物、イソシアネート化合物、イソシアネート化合物のブロック化物、及びシランカップリング剤からなる群から選択される少なくとも一つの架橋剤であることが好ましい。
【0013】
さらに、本発明の光触媒性積層塗膜においては、前記第2のフッ素樹脂がポリジメチルシロキサンをグラフト反応で付加したものであることが好ましい。
【0014】
また、本発明の光触媒性積層塗膜においては、前記第2の架橋剤がイソシアネート化合物のブロック化物であることが好ましい。
【0015】
さらに、本発明の光触媒性積層塗膜においては、前記ブロック化物のブロック化剤がアセトキシム又は2−ブタノンオキシムと2−ヒドロキシエチルメタクリレートとの混合物であることが好ましい。
【0016】
また、本発明の光触媒性積層塗膜においては、前記光触媒性微粒子が窒素ドープ型の酸化チタン微粒子であることが好ましい。
【0017】
さらに、本発明の光触媒性積層塗膜においては、ヘーズ値が20%以下であり、光沢度が100以下であり、且つ波長550nmにおける平行光線透過率が70%以上であることが好ましい。
【0018】
また、本発明の光触媒性積層塗膜においては、前記保護層と前記光触媒層との境界面の表面粗さが5μm以下であってもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、防眩性が十分に優れ、且つ優れた防汚性及び光触媒性を付与することが可能な光触媒性積層塗膜を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0021】
本発明の光触媒性積層塗膜は、第1のフッ素樹脂と第1の架橋剤とアクリル樹脂微粒子とを含有する第1の塗料からなる保護層、並びに、前記保護層上に形成された、第2のフッ素樹脂と第2の架橋剤と光触媒性微粒子とを含有する第2の塗料からなる光触媒層を備えており、前記第2のフッ素樹脂がポリジメチルシロキサン変性フッ素樹脂であり、且つ前記第1のフッ素樹脂が前記ポリジメチルシロキサン変性フッ素樹脂以外のフッ素樹脂であること特徴とするものである。
【0022】
本発明にかかる保護層は、以下説明する第1のフッ素樹脂、第1の架橋剤及びアクリル樹脂微粒子を含有する第1の塗料から形成される層である。このような保護層を備えることにより、本発明の光触媒性積層塗膜の有する光触媒機能によって基材が劣化することを抑制することができる共に、優れた防眩性を有する光触媒性積層塗膜を得ることが可能となる。なお、光触媒機能とは、一定の波長域の光を吸収して非常に強い酸化力・還元力をもつ正孔と電子を発生させるという特定の物質が有する機能のことをいう。
【0023】
また、このような保護層の厚みは、0.3〜3μmの範囲であることが好ましく、1〜3μmの範囲であることがより好ましい。厚みが前記下限未満では、光触媒性積層塗膜の有する光触媒機能によって基材が劣化し易くなると共に防眩性が不十分となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、経済的な不利益となるだけでなく、得られる塗膜中に溶剤が残留しやすくなる傾向にある。
【0024】
本発明にかかる第1のフッ素樹脂は、ポリジメチルシロキサン変性フッ素樹脂以外のフッ素樹脂である。このような第1のフッ素樹脂としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニルエーテル、ポリパーフルオロアルキルアクリレート(C〜C)、ポリパーフルオロアルキルメタクリレート(C〜C)が挙げられる。これらの第1のフッ素樹脂は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。また、これらの第1のフッ素樹脂の中でも、後述する光触媒層との密着性の観点から、ポリフッ化ビニリデン又はポリフッ化ビニルエーテルを主成分として含有するフッ素樹脂が好ましい。さらに、このような第1のフッ素樹脂は、架橋反応により硬化させるものであるという観点から、水酸基やカルボキシル基を有するものであることが好ましい。また、水酸基やカルボキシル基を有する第1のフッ素樹脂としては、市販されている硬化性のフッ素樹脂塗料を適宜使用することができ、例えば、旭硝子社製のルミフロン、関東電化工業社製のKDシリーズが挙げられる。
【0025】
本発明にかかる第1の架橋剤は、前記第1のフッ素樹脂を架橋させることができるものであればよく、特に限定されない。このような第1の架橋剤としては、例えば、メラミン化合物、イソシアネート化合物、イソシアネート化合物のブロック化物、シランカップリング剤が挙げられる。これらの中でも、光触媒層の反応性を阻害せずに、強靭な塗膜を形成することができるという観点から、イソシアネート化合物が好ましい。
【0026】
また、このような第1の架橋剤の含有量は、前記第1のフッ素樹脂100質量部に対して2〜15質量部の範囲であることが好ましい。含有量が前記下限未満では、保護層の硬化塗膜の耐溶剤性が不十分となるため、光触媒層を重ねて形成する際に膨潤しやすくなり、均一な積層塗膜を形成することが困難となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、塗膜中のフッ素元素の含有率が低下するため、光触媒層からの劣化作用を受け易くなる傾向にある。
【0027】
本発明にかかるアクリル樹脂微粒子は、アクリル樹脂からなる微粒子のことをいう。このようなアクリル樹脂微粒子の平均一次粒子径は、0.01〜0.3μmの範囲であることが好ましく、0.01〜0.1μmの範囲であることがより好ましい。平均一次粒子径が前記下限未満では、塗膜中での光散乱効果が消失するため、十分な防眩性を付与できない傾向にあり、他方、前記上限を超えると、塗膜中において二次凝集した粒子の内部に存在する空隙部が多くなるため、得られる積層塗膜の強度が低下する傾向にある。また、このようなアクリル樹脂微粒子の平均二次粒子径は、8〜12μmの範囲であることが好ましい。平均二次粒子径が前記下限未満では、得られる積層塗膜の防眩性が不十分となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、保護層の厚みが不均一となる傾向にある。なお、平均二次粒子径が前記上限を超える場合には、ジェットミル等を用いて平均二次粒子径が上記の範囲となるように、乾式粉砕しておくことが好ましい。また、アクリル樹脂微粒子の平均一次粒子径は、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いてSEM写真を観察することにより測定することができる。さらに、アクリル樹脂微粒子の平均二次粒子径は、マイクロトラック粒度分布計(例えば、日機装社製のMT3300II型)を用いて平均粒子径D50を測定することにより求めることができる。
【0028】
また、このようなアクリル樹脂微粒子の含有量は、前記第1のフッ素樹脂100質量部に対して0.1〜10質量部の範囲であることが好ましく、3〜10質量部の範囲であることがより好ましい。含有量が前記下限未満では、得られる積層塗膜の防眩性が不十分となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、得られる積層塗膜の強度が低下する傾向にある。
【0029】
さらに、このようなアクリル樹脂微粒子の製造する方法としては特に限定されないが、例えば、触媒を含有する有機溶媒中でアクリル系モノマーを重合せしめる方法を採用することができる。このようにアクリル系モノマーを重合せしめ、有機溶媒に対して溶解性を失ったアクリル系重合体を分離して、本発明にかかるアクリル樹脂微粒子を得ることができる。
【0030】
なお、このようなアクリル系モノマーとしては、平均一次粒子径が前記範囲内となるようなアクリル樹脂微粒子を効率よく製造するという観点から、反応基を2つ以上有する架橋性のアクリル系モノマーを用いることが好ましい。また、このようなアクリル系モノマーとしては、エチレングリコールジメタクリレート、エチレングリコールジアクリレート、ジビニルベンゼンが挙げられる。これらの中でも、得られる積層塗膜の防眩性の観点から、エチレングリコールジメタクリレートが好ましい。これらのアクリル系モノマーは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0031】
また、このような方法に用いる有機溶媒は特に限定されず、例えば、メチルエチルケトン、酢酸エチル、酢酸n−プロピル、酢酸イソプロピルを用いることができる。これらの有機溶媒は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。さらに、このような方法に用いる触媒は特に限定されず、例えば、過酸化ベンゾイルを用いることができる。
【0032】
そして、このようなアクリル系モノマーを重合せしめる条件としては、例えば、アクリル系モノマーの配合量を3〜10質量%の範囲とし、触媒の使用量を0.5〜3質量%の範囲とすることが好ましい。また、反応温度は70〜90℃の範囲であることが好ましい。さらに、反応時間は180〜360分間の範囲であることが好ましい。
【0033】
本発明にかかる第1の塗料は、前述した第1のフッ素樹脂、第1の架橋剤及びアクリル樹脂微粒子を含有するものである。そして、このような第1の塗料は前記第1のフッ素樹脂及び第1の架橋剤を溶解させるための溶媒、或いは前記アクリル樹脂微粒子を分散させるための分散媒を更に含有するものである。このような溶媒又は分散媒としては、例えば、メチルエチルケトン、酢酸エチル、酢酸n−プロピル、酢酸イソプロピル、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、トリメチルシクロヘキサンが挙げられる。これらの溶媒又は分散媒は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。また、このような第1の塗料は、光触媒層の光触媒機能による劣化を抑制するため必要に応じて、例えば、ポリフェノール等の酸化防止剤;ベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾフェノン系化合物等の紫外線吸収剤;ピペラジン系ヒンダートアミン、酸化亜鉛等の紫外線遮蔽材料を更に含有していてもよい。
【0034】
本発明にかかる光触媒層は、前記保護層上に形成される層であって、以下説明する第2のフッ素樹脂、第2の架橋剤及び光触媒性微粒子を含有する第2の塗料から形成される層である。このような光触媒層を備えることにより、優れた防汚性及び光触媒性を基材に付与することが可能となる。
【0035】
また、このような光触媒層の厚みは、0.1〜5μmの範囲であることが好ましく、0.3〜3μmの範囲であることがより好ましい。厚みが前記下限未満では、光触媒作用に寄与する光触媒粒子の単位面積あたりの量が不足するために、光触媒作用が不足する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、塗膜欠陥のない光触媒層を安定して製造することが極めて困難となる傾向にある。
【0036】
本発明にかかる第2のフッ素樹脂は、ポリジメチルシロキサン変性フッ素樹脂である。このような第2のフッ素樹脂は、ポリジメチルシロキサンにより変性されたフッ素樹脂であればよいが、得られる積層塗膜の防汚性の観点から、ポリジメチルシロキサンをグラフト反応で付加したものであることが好ましい。また、このような第2のフッ素樹脂の重量平均分子量は、得られる積層塗膜の防汚性の観点から、500〜1000の範囲であることが好ましい。すなわち、このような第2のフッ素樹脂がポリジメチルシロキサンをグラフト反応で付加したものであり、且つ重量平均分子量が前記範囲内である場合には、フッ素樹脂が硬化する際にポリジメチルシロキサンに由来するケイ素が塗膜表面に濃縮されたいわゆる傾斜配向を示すために、積層塗膜の防汚性が向上するものと推察される。
【0037】
また、このような第2のフッ素樹脂においては、得られる積層塗膜の防汚性及び前記保護層との密着性の観点から、フッ素樹脂中のフッ素元素の含有量が0.4〜50質量%の範囲であり、且つケイ素元素の含有量が0.3〜10質量%の範囲であることが好ましい。さらに、このような第2のフッ素樹脂は、架橋反応により硬化させるものであるという観点から、水酸基、カルボキシル基、シラノール基等の官能基を有するものであることが好ましい。また、これらの官能基を有する第2のフッ素樹脂としては、市販されているポリシロキサン変性フッ素樹脂を適宜使用することができ、例えば、富士化成工業社製のZXシリーズ、大日本塗料社製のマジックアートシリーズ及びV−マジックシリーズ、関東電化工業社製のKDシリーズが挙げられる。
【0038】
本発明にかかる第2の架橋剤としては、前記第2のフッ素樹脂を架橋させることができるものであればよく特に限定されないが、後述するように第2の塗料では分散媒として水やエタノールを用いることから、イソシアネート化合物のブロック化物を用いることが好ましい。また、このようなブロック化物のブロック化剤としては、オキシム化合物による潜在的イソシアネート基の形成や光硬化性官能基としてのビニル基の導入を目的とするため、ビニル基と活性水素とを含有するものを用いることが好ましい。このようなブロック化剤としては、例えば、アセトキシム、2−ブタノンオキシム等のオキシム化合物;2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート等の活性水素含有アクリル系化合物が挙げられる。これらのブロック化剤は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。また、このようなブロック化剤は、紫外線硬化性を付与することにより得られる積層塗膜の表面硬度や耐摩耗性を更に向上させることができるという観点から、アセトキシム又は2−ブタノンオキシムと2−ヒドロキシエチルメタクリレートとの混合物であることが好ましい。
【0039】
さらに、このような第2の架橋剤においては、得られる積層塗膜の表面硬度や耐摩耗性の観点から、潜在的イソシアネート基と光硬化性官能基としてのビニル基との比率を調整することが好ましい。例えば、このような第2の架橋剤としてヘキサメチレンジイソシアネート三量体のブロック化物を用いる場合には、第2の架橋剤中における潜在的イソシアネート基に対するビニル基の比率(ビニル基/潜在的イソシアネート基)を1/9〜1/6の範囲とすることが好ましい。
【0040】
また、このような第2の架橋剤の含有量は、前記第2のフッ素樹脂100質量部に対して2〜15質量部の範囲であることが好ましい。
【0041】
本発明にかかる光触媒性微粒子は、光触媒機能を有する微粒子のことをいう。このような光触媒性微粒子としては、酸化チタン、酸亜鉛、チタン酸ストロンチウム、酸化タングステン、炭化珪素等の微粒子が挙げられる。これらの無機微粒子の中でも、光触媒機能が強いという観点から、酸化チタンの微粒子が好ましい。
【0042】
また、このような酸化チタンとしては、紫外線を照射することにより光触媒反応を行うことができる紫外線応答型の酸化チタンの他に、可視光を照射することにより光触媒反応を行うことができる可視光応答型の酸化チタンを挙げることができる。紫外線応答型の酸化チタンとしては、例えば、アナターゼ型の酸化チタン、ルチル型の酸化チタン、ブルッカイト型の酸化チタンが挙げられる。これらの中でも、光触媒反応の観点から、アナターゼ型の酸化チタンが好ましい。また、可視光応答型の酸化チタンとしては、アナターゼ型の酸化チタンにおける酸化チタン結晶の酸素原子の一部を置換したもの、或いは酸化チタンに貴金属を更に担持したものを用いることができ、例えば、窒素ドープ型の酸化チタン、硫黄ドープ型の酸化チタン、白金担持酸化チタンを好ましいものとして挙げることができる。これらの中でも、経済性や光触媒機能の観点から、窒素ドープ型の酸化チタンを用いることが好ましい。また、このような窒素ドープ型の酸化チタンを用いる場合には、酸化鉄や酸化銅等を更に担持したものを用いてもよい。
【0043】
さらに、このような光触媒性微粒子の平均一次粒子径は、2〜40nmの範囲であることが好ましく、5〜35nmの範囲であることがより好ましい。平均一次粒子径が前記下限未満では、塗膜中で光触媒粒子が塗膜内部に埋没し、塗膜表面における光触媒作用が著しく低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、光触媒性微粒子の均一な分散液を作製することができず、均一な塗料を安定して作製することが困難となる傾向にある。また、光触媒性微粒子の平均二次粒子径は、0.3〜1.5μmの範囲であることが好ましい。平均二次粒子径が前記上限を超えると、塗料中に光触媒性微粒子を分散せしめる際に、分散装置の中で粒子の滞留が生じやすくなる傾向にある。なお、平均二次粒子径が前記上限を超える場合には、ジェットミル等を用いて平均二次粒子径が上記の範囲となるように、乾式粉砕しておくことが好ましい。
【0044】
本発明にかかる第2の塗料は、前述した第2のフッ素樹脂、第2の架橋剤及び光触媒性微粒子を含有するものである。そして、このような第2の塗料は前記第2のフッ素樹脂及び第2の架橋剤を溶解させるための溶媒、或いは前記光触媒性微粒子を分散させるための分散媒を更に含有するものである。このような溶媒又は分散媒としては、例えば、水、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、ペンタノール、エチレングリコール、N−メチルピロリドン、酢酸メチル、酢酸ブチルが挙げられる。これらの溶媒又は分散媒は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。また、このような溶媒又は分散媒としては、光触媒性微粒子の分散安定性の観点から、水、アルコール、N−メチルピロリドン等の誘電率の高いものを用いることが好ましい。
【0045】
本発明の光触媒性積層塗膜は、前述した第1の塗料からなる保護層、並びに、前記保護層上に形成された、前述した第2の塗料からなる光触媒層を備えるものである。このような光触媒性積層塗膜は、防眩性が十分に優れ、しかも優れた防汚性及び光触媒性を基材に付与することができる。また、本発明の光触媒性積層塗膜を形成することができる基材としては、特に限定されず、例えば、表示装置、パラボラアンテナ、外壁、道路標識、船舶、自動車、電車、テント、除雪シートが挙げられる。
【0046】
また、このような基材に本発明の光触媒性積層塗膜を形成する方法としては、例えば、基材上に前記第1の塗料を塗布した後に乾燥して保護層を形成し、その後、前記保護層上に前記第2の塗料を塗布した後に乾燥して光触媒層を形成する方法を採用することができる。
【0047】
そして、このように第1及び第2の塗料を塗布する方法としては、特に限定されないが、例えば、グラビアコート、スピンコート、ディップコート、スプレーコート、はけ塗り等の塗工方法を採用することができる。また、第1の塗料を乾燥させる条件としては、例えば、乾燥温度を80〜170℃の範囲とし、乾燥時間を0.5〜30分間の範囲とすることが好ましい。さらに、第2の塗料を乾燥させる条件としては、例えば、乾燥温度を80〜170℃の範囲とし、乾燥時間を3〜10分間の範囲とすることが好ましい。
【0048】
また、このように光触媒性積層塗膜を形成する方法においては、塗膜強度等の観点から、必要に応じて、熱硬化処理や光硬化処理を施してもよい。熱硬化処理の条件としては、例えば、処理温度を40〜60℃の範囲とし、処理時間を12〜72時間の範囲とすることが好ましい。また、光硬化処理の条件としては、例えば、100〜300mJ/cmの範囲の紫外線を照射することが好ましい。
【0049】
なお、このようにして得られる本発明の光触媒性積層塗膜においては、前記保護層と前記光触媒層との密着性は十分に優れており、しかも前述の通り保護層により十分な防眩性が付与されることから、前記保護層を形成した後に表面処理等を施す必要がない。そのため、本発明の光触媒性積層塗膜においては、前記保護層と前記光触媒層との境界面の表面粗さが5μm以下であってもよい。
【0050】
また、本発明の光触媒性積層塗膜においては、ヘーズ値が20%以下であり、光沢度が100以下であり、且つ波長550nmにおける平行光線透過率が70%以上であることが好ましい。ヘーズ値が前記上限以下であることが、塗膜の白化の度合いの点で好ましい。また、光沢度が前記上限を超えると、例えば液晶モニターの表面塗膜として用いる場合には防眩性が不十分となる傾向にある。さらに、平行光線透過率が前記下限未満では、塗膜の透明性が不十分となる傾向にある。なお、ヘーズ値、光沢度及び平行光線透過率は後述する実施例で説明する通りの方法で測定することができる。
【実施例】
【0051】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例及び比較例において使用したアクリル樹脂微粒子1(AC微粒子1)、及びヘキサメチレンジイソシアネート三量体のブロック化物(HMDI)は、以下説明する調製例1〜2で得られたものをそれぞれ用いた。なお、実施例及び比較例において使用した材料を、その略号とともに表1にまとめて示す。また、実施例及び比較例における塗料の組成を表2にまとめて示す。
【0052】
(調製例1)
メチルエチルケトン975質量部及びジメチルシクロヘキサン975質量部からなる混合溶媒に、エチレングリコールジメタクリレート95質量部とロビスゲンD30(センカ社製)5質量部とを添加し、更に触媒として過酸化ベンゾイル1質量部を添加した。その後、回転数1500rpmで攪拌しつつ、温度80℃にて4時間反応せしめてアクリル樹脂粉末を得た。次に、得られたアクリル樹脂粉末を粉砕機(大阪ケミカル社製、製品名「ワンダーブレンダーWB−1」)を用いて粉砕し、アクリル樹脂微粒子1を得た。得られたアクリル樹脂微粒子1の一次粒子径を走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて測定したところ、一次粒子径は0.2μmであった。また、得られたアクリル樹脂微粒子1の平均二次粒子径をマイクロトラック粒度分布計(日機装社製、品番「MT3300II型」)を用いて測定したところ、平均粒子径D50(平均二次粒子径)は10μmであった。
【0053】
(調製例2)
2Lフラスコ中にヘキサメチレンジイソシアネート三量体(日本ポリウレタン工業社製、製品名「コロネートHX」)504.6質量部を投入し、更に酢酸エチル242.6質量部、2−ブタノンオキシム261.4質量部、及びジブチル錫ジラウレート0.38質量部を添加した。その後、温度70〜75℃にて6時間反応せしめて、ヘキサメチレンジイソシアネート三量体のブロック化物(固形分濃度:50質量%)を得た。
【0054】
【表1】

【0055】
【表2】

【0056】
(実施例1)
先ず、溶媒として酢酸プロピル170質量部に、フッ素樹脂(旭硝子社製、製品名「ルミフロン302」)100質量部とリジントリイソシアネート(協和発酵社製)3質量部とを溶解せしめてフッ素樹脂含有溶液を得た。そして、この溶液に調製例1で得られたアクリル樹脂微粒子1を0.5質量部分散せしめて第1の塗料を得た。また、溶媒として1−ペンタノール500質量部に、ポリジメチルシロキサン変性フッ素樹脂(固形分濃度:45質量%、富士化成工業社製、製品名「ZX022H」)222質量部(固形分換算で100質量部)と調製例2で得られたヘキサメチレンジイソシアネート三量体のブロック化物100質量部(固形分換算で50質量部)とを溶解せしめて変性フッ素樹脂含有溶液を得た。そして、この溶液に窒素ドープ型の酸化チタン粒子(豊田通商社製、製品名「V−CAT01」)を固形分換算で50質量部分散せしめて第2の塗料を得た。
【0057】
次に、透明基材(PETフィルム、帝人社製、厚み:150μm)上に、乾燥後の厚みが3μmとなるように第1の塗料を塗布した後、温度145℃にて30分間乾燥せしめて保護層を形成した。その後、保護層上に、乾燥後の厚みが1μmとなるように第2の塗料を塗布した後、温度145℃にて360分間乾燥せしめて光触媒層を形成し、透明基材上に積層塗膜を形成した。
【0058】
(実施例2〜12、比較例1、2、5〜9)
第1及び第2の塗料の組成をそれぞれ表2に記載の通り変更した以外は実施例1と同様にして、透明基材上に積層塗膜を形成した。
【0059】
(比較例3)
第1の塗料としてテトラエトキシシラン溶液(テトラエトキシシラン2質量%、イソプロパノール97質量%、水1質量%)を用い、第2の塗料としてテトラエトキシシラン溶液(テトラエトキシシラン10質量%、イソプロパノール88質量%、水2質量%)100質量部に窒素ドープ型の酸化チタン粒子(豊田通商社製、製品名「V−CAT01」)50質量部を分散せしめたものを用いた以外は実施例1と同様にして、透明基材上に積層塗膜を形成した。
【0060】
(比較例4)
透明基材(PETフィルム、帝人社製、厚み:150μm)上に、乾燥後の厚みが1μmとなるようにハードコート塗膜形成用の塗料(JSR社製、製品名「Z7503」)を塗布した後、温度100℃にて3分間乾燥せしめ、更に紫外線ランプ電圧160W/cm、ライン速度10m/分の条件で紫外線により硬化せしめて透明基材上にハードコート塗膜を形成した。
【0061】
<塗膜の防汚性、光触媒性、防眩性及び光線透過率の評価>
(I)評価方法
以下の方法によって、塗膜の防汚性、光触媒性、防眩性及び光線透過率を評価又は測定した。
【0062】
(1)防汚性の評価
(i)インクハジキ性の評価
塗膜表面上に油性ペン(寺西化学工業社製、製品名「マジックインキNo.500細書き用(黒)」)で線を描き、そのインクのハジキ具合を観察して、以下の基準で塗膜の防汚性を評価した。
○:インクをはじいた面積が75%以上である。
△:インクをはじいた面積が25%以上であり、且つ75%未満である。
×:インクをはじいた面積が25%未満である。
【0063】
(ii)インク拭き取り性の評価
塗膜表面上に油性ペン(寺西化学工業社製、製品名「マジックインキNo.500細書き用(黒)」)で線を描いた後に、布を用いてインクを拭き取った。その後、塗膜表面を観察して、以下の基準で塗膜の防汚性を評価した。
○:塗膜表面に残っているインクの面積が25%未満である。
△:塗膜表面に残っているインクの面積が25%以上であり、且つ75%未満である。
×:塗膜表面に残っているインクの面積が75%以上である。
【0064】
(iii)水の接触角の測定
塗膜における水の接触角を、接触角測定装置(協和界面化学社製、製品名「Drop Master500」)を用い、液適法によりイオン交換水1μLの条件にて測定した。
【0065】
(2)光触媒性の評価
先ず、塗膜が形成された透明基材を10cm×10cmの大きさに切断し、その塗膜上にひまし油0.5gを塗布したものを試料とした。そして、試料の質量変化を測定し、以下の基準で塗膜の光触媒性を評価した。
◎:質量変化が0.2g/7day以上である。
○:質量変化が0.1g/7day以上であり、且つ0.2g/7day未満である。
△:質量変化が0.05g/7day以上であり、且つ0.1g/7day未満である。
×:質量変化が0.05g/7day未満である。
【0066】
(3)防眩性
(i)ヘーズ値の測定
塗膜が形成された透明基材を試料としてJIS K−7136に記載された方法に準拠してヘーズ値を測定した。すなわち、塗膜のヘーズ値をヘーズコンピュータ(スガ試験機社製、製品名「HGM−2D」)を用いて測定した。
【0067】
(ii)光沢度の測定
塗膜が形成された透明基材を塗膜が上面となるように白紙の上に置き、塗膜の60°光沢度を光沢度計(HORIBA社製、製品名「IG−310」)を用いて測定した。
【0068】
(4)光線透過率
塗膜が形成された透明基材の波長550nmにおける平行光線透過率を、分光光度計(日本分光社製、製品名「V−570」)を用いて測定した。
【0069】
(II)評価結果
実施例1〜12及び比較例1〜9で得られた塗膜の防汚性、光触媒性、防眩性及び光線透過率を評価又は測定した。得られた結果を表3に示す。
【0070】
【表3】

【0071】
表3に示した結果から明らかなように、本発明の積層塗膜(実施例1〜12)は、防汚性、光触媒性、防眩性及び光線透過率が優れたものであった。また、平均二次粒子径が10μmのアクリル樹脂微粒子を用いた場合(実施例1〜11)には、ヘーズ値が20%以下である場合にも光沢度が100以下であり、特に防眩性が優れたものであった。
【産業上の利用可能性】
【0072】
以上説明したように、本発明によれば、防眩性が十分に優れ、且つ優れた防汚性及び光触媒性を付与することが可能な光触媒性積層塗膜を提供することが可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のフッ素樹脂と第1の架橋剤とアクリル樹脂微粒子とを含有する第1の塗料からなる保護層、並びに、前記保護層上に形成された、第2のフッ素樹脂と第2の架橋剤と光触媒性微粒子とを含有する第2の塗料からなる光触媒層を備えており、前記第2のフッ素樹脂がポリジメチルシロキサン変性フッ素樹脂であり、且つ前記第1のフッ素樹脂が前記ポリジメチルシロキサン変性フッ素樹脂以外のフッ素樹脂であること特徴とする光触媒性積層塗膜。
【請求項2】
前記アクリル樹脂微粒子の平均一次粒子径が0.01〜0.3μmの範囲であり、且つ平均二次粒子径が8〜12μmの範囲であることを特徴とする請求項1に記載の光触媒性積層塗膜。
【請求項3】
前記アクリル樹脂微粒子の含有量が、前記第1のフッ素樹脂100質量部に対して0.1〜10質量部の範囲であることを特徴とする請求項1又は2に記載の光触媒性積層塗膜。
【請求項4】
前記アクリル樹脂微粒子がエチレングリコールジメタクリレート重合体の微粒子であることを特徴とする請求項1〜3のうちのいずれか一項に記載の光触媒性積層塗膜。
【請求項5】
前記第1のフッ素樹脂がポリフッ化ビニリデン又はポリフッ化ビニルエーテルを主成分として含有するフッ素樹脂であることを特徴とする請求項1〜4のうちのいずれか一項に記載の光触媒性積層塗膜。
【請求項6】
前記第1の架橋剤が、メラミン化合物、イソシアネート化合物、イソシアネート化合物のブロック化物、及びシランカップリング剤からなる群から選択される少なくとも一つの架橋剤であることを特徴とする請求項1〜5のうちのいずれか一項に記載の光触媒性積層塗膜。
【請求項7】
前記第2のフッ素樹脂がポリジメチルシロキサンをグラフト反応で付加したものであることを特徴とする請求項1〜6のうちのいずれか一項に記載の光触媒性積層塗膜。
【請求項8】
前記第2の架橋剤がイソシアネート化合物のブロック化物であることを特徴とする請求項1〜7のうちのいずれか一項に記載の光触媒性積層塗膜。
【請求項9】
前記ブロック化物のブロック化剤がアセトキシム又は2−ブタノンオキシムと2−ヒドロキシエチルメタクリレートとの混合物であることを特徴とする請求項8に記載の光触媒性積層塗膜。
【請求項10】
前記光触媒性微粒子が窒素ドープ型の酸化チタン微粒子であることを特徴とする請求項1〜9のうちのいずれか一項に記載の光触媒性積層塗膜。
【請求項11】
ヘーズ値が20%以下であり、光沢度が100以下であり、且つ波長550nmにおける平行光線透過率が70%以上であることを特徴とする請求項1〜10のうちのいずれか一項に記載の光触媒性積層塗膜。
【請求項12】
前記保護層と前記光触媒層との境界面の表面粗さが5μm以下であることを特徴とする請求項1〜11のうちのいずれか一項に記載の光触媒性積層塗膜。

【公開番号】特開2009−18231(P2009−18231A)
【公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−181103(P2007−181103)
【出願日】平成19年7月10日(2007.7.10)
【出願人】(000000077)アキレス株式会社 (402)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【出願人】(000241485)豊田通商株式会社 (73)
【Fターム(参考)】