説明

光記録再生方法、光記録再生装置

【課題】相変化型の記録層を4層以上有する多層光記録媒体に対して、効率的に情報を消去できるようにする。
【解決手段】第1波長の第1ビーム170を単一トラックに照射して情報の記録・再生を行う記録再生光学系100と、第1波長より長い第2波長の第2ビーム270を複数トラックに跨るように照射して情報を消去する消去光学系200とを用い、記録再生光学系100の第1ビームを記録層14に照射してフォーカス信号を引き込むようにし、このフォーカス信号を利用して、消去光学系200の第2ビーム270を消去対象となる記録層14にフォーカスさせて、この第2ビーム270により複数トラックの情報を同時に消去していくようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、書換可能な相変化型記録層を複数備えた多層光記録媒体に対する光記録再生方法及び光記録再生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ディジタル動画コンテンツの視聴や、ディジタルデータの記録のために、CD、DVD、Blu−ray Disc:BDなどの光記録媒体が広く利用されている。この中でも、次世代型DVD規格の一つとされるBDは、記録再生に用いるレーザー光の波長を405nmと短くし、対物レンズの開口数を0.85に設定される。BD規格に対応した光記録媒体側は、0.32μmのピッチでトラックを形成することで、光記録媒体の1つの記録層に対して25GB以上の記録再生を可能にしている。
【0003】
光記録媒体には、その記録方式として追記型光記録媒体と書換型光記録媒体がある。追記型光記録媒体は、その記録層に情報を1度だけ書き込むことができるタイプの光記録媒体であり、書換型光記録媒体は、その記録層に情報を繰り返し書き込むことができるタイプの光記録媒体である。書換型光記録媒体として、たとえば、CD−RW、DVD+/−RW、DVD−RAM、BD−REなどの規格がある。
【0004】
特許文献1には、書換型の記録層に記録された情報をより確実に消去する、いわゆる疑似オーバーライト技術が提案されている。この疑似オーバーライト技術は、記録再生用ビームよりも長い波長となる消去用ビームを用意し、この消去用ビームを複数のビームに分割して記録直前のトラックに照射する。即ち、記録直前のトラックに対して複数回の消去作業を行うようにすることで、消去率を高めるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】登録3006827号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、動画やデータの容量は今後益々増大することが予想される。従って、書換型光記録媒体においても、記録層を多層化することで記録容量を増大させる方法が検討されている。
【0007】
書換型光記録媒体において記録層を多層化する場合、光入射面から一番奥の記録層(L0記録層)を除いた手前側の記録層は、高い透過率を持たなければならない。そのためには、金属材料からなる相変化記録膜及び反射膜を薄膜化する必要がある。しかし、これらの膜厚を薄くするほど、相変化型記録膜の結晶化スピードが低下し、消去率が悪化する。
【0008】
本発明者らの未公知の研究では、光記録媒体において相変化型の記録層を4層以上に多層化する場合、反射膜や相変化記録膜の膜厚が一層薄くなるので、従来のいわゆる疑似オーバーライト技術を採用しようとすると、例えば30回以上の消去作業が必要となり、実現が困難になるという問題があった。
【0009】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、相変化型の記録層を4層以上有する多層光記録媒体に対して、書換の確実性の向上と、書換効率の向上を合理的に両立させることが出来る記録再生方法、及び記録再生装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らの鋭意研究によって、上記目的は以下の手段によって達成される。
【0011】
即ち、上記目的を達成する本発明は、4層以上となる相変化型の記録層を有する多層光記録媒体に対して情報を記録再生する記録再生方法であって、第1波長の第1ビームを単一トラックに照射して情報の記録・再生を行う記録再生光学系と、前記第1波長より長い第2波長の第2ビームを複数トラックに跨るように照射して情報を消去する消去光学系とを用い、前記記録再生光学系の第1ビームを前記記録層に照射してフォーカス信号を引き込む信号取得ステップと、該フォーカス信号を利用して、前記消去光学系の前記第2ビームを消去対象となる前記記録層にフォーカスさせて、該第2ビームにより前記複数トラックの情報を同時に消去する消去ステップと、を有することを特徴とする記録再生方法である。
【0012】
上記目的を達成する記録再生方法は、上記発明において、前記消去ステップでは、前記消去光学系のトラッキングを行わないことを特徴とする。
【0013】
上記目的を達成する記録再生方法は、上記発明において、前記消去ステップでは、消去中における前記記録再生光学系の前記フォーカス信号を利用して、前記消去光学系の前記第2ビームを常にフォーカス制御することを特徴とする。
【0014】
上記目的を達成する記録再生方法は、上記発明において、前記信号取得ステップでは、前記記録再生光学系の前記フォーカス信号を利用して、光入射面から消去対象となる前記記録層までの距離Tを算出し、前記消去ステップでは、前記消去光学系の前記第2ビームを利用して前記光入射面を検出し、且つ、前記信号取得ステップにおける前記距離Tを利用して、前記消去対象となる前記記録層に該第2ビームをフォーカスさせることを特徴とする。
【0015】
上記目的を達成する記録再生方法は、上記発明において、前記記録再生光学系の前記第1波長をλ1、対物レンズの開口数をNA1、前記消去光学系の前記第2波長をλ2、対物レンズの開口数をNA2とした際に、前記記録再生光学系の前記第1ビームのスポット径λ1/NA1は、前記多層光記録媒体の前記記録層のトラックピッチLとの関係で、λ1/NA1≦2Lを満たすようになっており、前記消去光学系の前記第2ビームのスポット径λ2/NA2は、前記多層光記録媒体の前記記録層のトラックピッチLとの関係で、λ1/NA1≧3Lを満たすことを特徴とする。
【0016】
上記目的を達成する記録再生方法は、上記発明において、前記記録再生光学系の前記第1波長をλ1、前記消去光学系の前記第2波長をλ2とした際に、0.43≦λ1/λ2≦0.60を満たすことを特徴とする。このように、比率λ1/λ2を0.43以上にすることで、記録再生光学系と消去光学系のコマ収差の影響の差を小さくすることができる。同様に、光記録媒体の傾斜に対して、記録再生光学系と消去光学系のビームスポットの歪みの差も小さくすることができる。この結果、記録再生光学系と消去光学系における各フォーカス信号への影響度合いを互いに近似させることができるので、第1ビームのフォーカス信号を用いて、第2ビームのフォーカス制御を行う際も、オフセット量を抑制することができる。従って、第2ビームがデフォーカス状態になることを回避でき、所望の消去特性を得ることができる。例えば、λ1/λ2の比の値が小さくなりすぎる(λ1とλ2の差が大きくなりすぎる)と、第2ビームがデフォーカス状態になり易く、十分な消去特性が得られ難くなる。
【0017】
また、この比率λ1/λ2を0.60以下にすることで、記録再生光学系と消去光学系のビームスポット径の差を大きくすることができ、第2ビームのスポット径を大きくすることで消去効率を高めることが可能になる。例えば、比率λ1/λ2の値を大きくしすぎる(即ち1に近づけすぎる)と、フォーカス制御は簡単になるが、記録再生光学系と消去光学系のビームスポット径の差が小さくなるので、消去効率が低下してしまう。
【0018】
上記目的を達成する記録再生方法は、上記発明において、前記記録再生光学系の対物レンズの開口数をNA1、前記消去光学系の対物レンズの開口数をNA2とした際に、1.2≦NA1/NA2≦3.3を満たすことを特徴とする。この比率NA1/NA2の値を3.3以下にすることで、記録再生光学系と消去光学系のコマ収差の影響の差を小さくすることができる。同様に、光記録媒体の傾斜に対して、記録再生光学系と消去光学系のビームスポットの歪みの差も小さくすることができる。この結果、記録再生光学系と消去光学系における各フォーカス信号への影響度合いを互いに近似させることができるので、第1ビームのフォーカス信号を用いて、第2ビームのフォーカス制御を行う際も、オフセット量を抑制することができる。従って、第2ビームがデフォーカス状態になることを回避でき、所望の消去特性を得ることができる。例えば、NA1/NA2の比の値が大きくなりすぎる(即ち、NA1とNA2の差が大きくなりすぎると)、第2ビームがデフォーカス状態になり易く、十分な消去特性が得られなくなる。
【0019】
更に、比率NA1/NA2を3.3以下にすることで、記録再生光学系と消去光学系のヘッドと光記録媒体の距離(ワーキングディスタンス)の差を小さくすることができる。この結果、記録再生光学系と消去光学系の高さ方向のレンジ差が狭まるため、小型化、スリム化を実現でき、光学設計の構成としての自由度を高めることが可能となる。
【0020】
また、比率NA1/NA2を1.2以上にすることで、記録再生光学系と消去光学系のビームスポット径の差を大きくすることができ、第2ビームのスポット径を大きくすることで消去効率を高めることが可能になる。特に、波長比(λ1/λ2)と比較して、開口数比(NA1/NA2)の方が影響が大きい。コマ収差は、開口数の3乗に比例して大きくなるが、波長には反比例して大きくなるからである。従って、開口数の方が波長よりも影響が大きい。
【0021】
上記目的を達成する記録再生方法は、上記発明において、前記多層光記録媒体の前記記録層の層間距離をSとした際に、λ2/NA2/S≦0.85 を満たすことを特徴とする。このようにすると、第2ビームの焦点深度を小さくすることができるので、消去時に隣接層の記録データに影響を及ぼすことを回避できる。
【0022】
上記目的を達成する記録再生方法は、上記発明において、前記消去ステップでは、少なくとも1層の前記記録層の全情報を一括消去することを特徴とする。
【0023】
上記目的を達成する記録再生方法は、上記発明において、前記消去光学系と前記記録再生光学系は、前記多層光記録媒体の半径方向に異なる位置に配置されており、前記消去光学系による前記消去ステップと、前記消去ステップによって消去された領域に対して前記記録再生光学系が情報を記録する記録ステップを、同時進行させることを特徴とする。
【0024】
上記目的を達成する本発明は、4層以上となる相変化型の記録層を有する多層光記録媒体に対して情報を記録再生する記録再生装置であって、第1波長の第1ビームを照射して情報の記録・再生を行う記録再生光学系と、前記第1波長より長い第2波長の第2ビームを照射して情報を消去する消去光学系と、前記記録再生光学系の前記第1ビームを移動させる第1フォーカスサーボと、前記消去光学系の前記第2ビームを移動させる第2フォーカスサーボと、前記第1及び第2フォーカスサーボを制御するフォーカスコントローラと、を備えるようにし、前記フォーカスコントローラは、前記第1フォーカスサーボによって前記記録再生光学系の第1ビームを移動させることで、消去対象となる前記記録層の位置を特定し、前記第2フォーカスサーボによって前記消去光学系の前記第2ビームを消去対象となる前記記録層にフォーカスさせて、該第2ビームにより情報を消去することを特徴とする記録再生装置である。
【0025】
上記目的を達成する記録再生装置の前記フォーカスコントローラは、上記発明において、前記第1ビームを移動させて、光入射面から消去対象となる前記記録層までの範囲を含むフォーカス信号を取得する信号取得部と、前記フォーカス信号を利用して、前記光入射面から前記消去対象となる前記記録層までの距離Tを算出するターゲット位置算出部と、前記第2ビームを移動させて光入射面の位置を検知する基準位置設定部と、前記第2ビームを前記光入射面から前記距離Tだけ移動させて、前記消去対象となる前記記録層にフォーカスさせる消去位置確定部と、を備えることを特徴とする。
【0026】
上記目的を達成する記録再生装置の前記フォーカスコントローラは、上記発明において、消去作業中、前記記録再生光学系の前記第1ビームを前記消去対象となる前記記録層にフォーカスして、前記第1フォーカスサーボの制御変動をモニターするモニタリング部と、前記制御変動を前記消去光学系の前記第2フォーカスサーボにフィードバックして前記第2フォーカスサーボを制御するフィードバック部と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、相変化型の記録層を4層以上有する多層光記録媒体に対して、短い時間で情報を確実に消去することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本実施形態に係る記録再生装置の構造を示すブロック図である。
【図2】同記録再生装置で記録再生される光記録媒体の積層構造、及び記録再生光学系と消去光学系で得られるフォーカス信号を示す図である。
【図3】同光記録媒体の積層構造を更に拡大して示した断面図である。
【図4】同記録再生装置のフォーカスコントローラの機能構成を示すブロック図である。
【図5】同記録再生装置による消去作業中の状態を示す斜視図である。
【図6】本実施形態の他の構成例に係る記録再生装置による消去作業中の状態を示す斜視図である。
【図7】本発明の実施例で用いた消去パワーと記録パワー条件を示す表図である。
【図8】本発明の実施例における検証結果を示す表図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照して説明する。
【0030】
図1には、本実施形態に係る光記録再生方法が適用される光記録再生装置90と、この光記録再生装置90によって情報の記録再生が行われる書換型の光記録媒体10の構成が示されている。
【0031】
光記録再生装置90は、記録再生光学系100、消去光学系100、フォーカスコントローラ300を備える。なお、ビームの波長を除いて、記録再生光学系100と消去光学系200の構成は殆ど同じである。従って、互いに同一又は類似する部材に関して互いの符号の下二桁を一致させている。
【0032】
記録再生光学系100は、光記録媒体10の記録層群14に対して記録・再生を行う光学系となる。消去光学系100は、記録層群14に記録される情報の消去を行う光学系となる。記録再生光学系100と消去光学系100は、光記録媒体10の周方向に沿って配置されており、特に記録再生光学系100が光記録媒体10の相対回転方向Jの上流側、消去光学系100が下流側に配置される。
【0033】
記録再生光学系100の光源101から出射された第1波長λ1(青色波長となる390〜420nm(ここでは405nm))となる発散性の第1ビーム170は、球面収差補正手段193を備えたコリメートレンズ153を透過して偏光ビームスプリッタ152に入射する。偏光ビームスプリッタ152を透過した第1ビーム170は、更に4分の1波長板154の透過によって円偏光に変換された後、対物レンズ156で収束ビームに変換される。この第1ビーム170は、光記録媒体10の内部に形成された複数の記録層群14のいずれか記録層の上に集光される。
【0034】
対物レンズ156の開口はアパーチャ155で制限され、開口数NA1を0.80〜1.00(ここでは0.85)としている。第1ビーム170のスポット径はλ1/NA1で表現されることから、0.39μm〜0.525μm(ここでは0.476μm)となる。特に、記録層群14のトラックピッチL(図5参照)との関係では、λ1/NA1≦2L、好ましくはλ1/NA1≦1.65Lを満たすようになっており、単一トラックのみにスポットをフォーカス可能となっている。また、第1ビーム170の焦点深度はλ1/NA1で表現されることから、0.39μm〜0.656μm(ここでは0.561μm)となっている。この焦点深度λ1/NA1は、再生層群14の最小層間距離K(中間層群16の最小厚さ、図3参照)との関係で、λ1/NA1≦0.1Kを満たすようになっており、特定の記録層群14に対して記録パワーで第1ビーム170を照射しても、隣接する記録層群14に悪影響を与えないようになっている。
【0035】
記録層群14で反射された第1ビーム170は、対物レンズ156、4分の1波長板154を透過して往路とは90度異なる直線偏光に変換された後、偏光ビームスプリッタ152で反射される。
【0036】
偏光ビームスプリッタ152で反射された第1ビーム170は、集光レンズ159を透過して収束光に変換され、シリンドリカルレンズ157を経て、光検出器132に入射する。第1ビーム170には、シリンドリカルレンズ157を透過する際、非点収差が付与される。
【0037】
光検出器132は、図示しない4つの受光部を有し、それぞれ受光した光量に応じた電流信号を出力する。これら電流信号から、非点収差法によるフォーカス誤差(以下FEとする)信号、再生時に限定されるプッシュプル法によるトラッキング誤差(以下TEとする)信号、光記録媒体10に記録された情報の再生信号等が生成される。FE信号およびTE信号は、所望のレベルに増幅および位相補償が行われた後、フォーカスサーボ用アクチュエータ191およびトラッキングサーボ用アクチュエータ192にフィードバック供給されて、フォーカス制御およびトラッキング制御がなされる。なお、詳細は後述するが、記録再生光学系100によるフォーカス制御及びトラッキング制御は、消去光学系100における情報の消去時にも実行される。
【0038】
消去光学系100の光源201から出射された第2波長λ2(赤色〜赤外線波長となる700〜900nm(ここでは810nm))となる発散性のビーム200は、球面収差補正手段293を備えたコリメートレンズ253を透過し、偏光ビームスプリッタ252に入射する。偏光ビームスプリッタ252を透過した第2ビーム270は、更に4分の1波長板254を透過して円偏光に変換された後、対物レンズ256で収束ビームに変換される。この第2ビーム270は、光記録媒体10の内部に形成された複数の記録層群14のいずれか記録層の上に集光される。
【0039】
対物レンズ256の開口はアパーチャ255で制限され、開口数NA2を0.30〜0.65(ここでは0.4)としている。従って、第2ビーム270のスポット径はλ2/NA2で表現されることから、1.077μm〜3.00μm(ここでは2.025μm)となる。トラックピッチLとの関係では、λ2/NA2≧3L、好ましくはλ2/NA2≧5Lを満たすようになっており、少なくとも3つ(好ましくは5つ)のトラックに跨って第2ビーム270を照射できるサイズとなっている。また、第2ビーム270の焦点深度はλ2/NA2で表現されることから、1.657μm〜10.00μm(ここでは5.06μm)となっている。
【0040】
特に、より短時間で消去を行うためには、対物レンズ256のX−Y軸方向での各絞り量を異ならせるようにし、トラック方向(光記録媒体10の周方向)に対しては、第2ビーム270のスポットを絞り込んでエネルギー密度を高め、一方で、ラジアル方向(光記録媒体10の半径方向)に対しては、絞りを弱くして広範囲に広げることで、全体として楕円形の幅広なスポット形状にすることが好ましい。このようにすることで、スポットのラジアル方向サイズを数十μm〜200μm程度の幅に広げることが可能となり、広い領域を一括して消去することが可能となる。この際、基本的にはトラッキングをオフにして、第2ビーム220のラジアル方向への送り量を、通常よりも増大させるように制御することが好ましい。なお、スポットの絞り量やサイズは、光源となるレーザーの定格パワーに応じて適宜最適化すれば良い。なお、記録と消去を同時に行う場合は、第1ビーム170によってトラッキング制御を行いながら、それに連動させて第2ビーム270を送れば良い。
【0041】
なお、消去光学系100において、記録層群14で反射された第2ビーム270は、対物レンズ256、4分の1波長板254を透過して往路とは90度異なる直線偏光に変換された後、偏光ビームスプリッタ252で反射される。
【0042】
偏光ビームスプリッタ252で反射された第2ビーム270は、集光レンズ259を透過して収束光に変換され、シリンドリカルレンズ257を経て、光検出器232に入射する。第2ビーム270には、シリンドリカルレンズ257を透過する際、非点収差が付与される。
【0043】
光検出器232は、図示しない4つの受光部を有し、それぞれ受光した光量に応じた電流信号を出力する。これら電流信号から、非点収差法によるフォーカス誤差(以下FEとする)信号、再生時に限定されるプッシュプル法によるトラッキング誤差(以下TEとする)信号が生成される。FE信号およびTE信号は、所望のレベルに増幅および位相補償が行われた後、フォーカスサーボ用アクチュエータ291およびトラッキングサーボ用アクチュエータ292にフィードバック供給されて、フォーカス制御およびトラッキング制御できるようになっている。
【0044】
図2及び図3には、書換型の光記録媒体10の断面構造が拡大して示されている。
【0045】
光記録媒体10は、外径が約120mm、厚みが約1.2mmの円盤形状となっている。この光記録媒体10は、光入射面10A側から、カバー層11、記録層群14及び中間層群16、支持基板12を備えて構成される。
【0046】
記録層群14は、ここでは奥側から順番にL0記録層14A、L1記録層14B、L2記録層14C、L3記録層14D、L4記録層14Eを備えて構成されており、それぞれに情報を書換記録できる相変化型となっている。これらのL0〜L4記録層14A〜14Eは、トラッキング制御用の凹凸(グルーブ及びランド)を有しており、記録再生光学系100から高エネルギーとなる記録用の第1ビーム170が照射されると、記録マークが形成される。本実施形態ではグルーブ上に記録マークを形成する場合を示すが、ランド側に記録しても良く、グルーブとランドの双方に記録してもよい。
【0047】
具体的には、記録再生光学系100の第1ビーム170の照射によって、L0〜L4記録層14A〜14Eを加熱すると共に、その冷却速度を適宜制御することで、アモルファス(非晶質)領域と結晶領域を自在に形成し、これらの反射率の違いによって情報を記録する。この際、第1ビーム170は、最も高いエネルギーを有する記録パワー(Pw)と、低いエネルギーとなるバイアスパワー(Pb)と、中間のエネルギーとなるプリヒートパワー(Pp)等の条件設定を行う。なお、後述するように、本実施形態では、記録再生光学系100によるオーバーライト(消去と記録を同時に行う作業)を行わないので、いわゆる消去パワー(Pe)の設定は不要となるが、その場合であっても、記録パルスが入る直前の所定時間について、プリヒートパワー(Pp)で記録膜を溶融温度まで上がらない程度まで予熱することで、記録パワー(Pw)を低めに設定することが可能となる。従って、この3種類のパワー(Pw、Pp、Pb)を切替ながら、ブランク状態となるL0〜L4記録層14A〜14Eに情報を記録する。例えば、記録マークを形成するには、直前においてプリヒートパワー(Pp)でプリヒートパルスを照射し、その後、記録パワー(Pw)に設定された記録パルスと、バイアスパワー(Pb)に設定されたバイアスパルスを交互に照射する。L0〜L4記録層14A〜14Eでは、記録パルスが照射されることによって、この照射領域が融点以上に加熱され、その後、照射領域にバイアスパルスが照射されると、この照射領域が急冷されて非晶質の記録マークとなる。従って、記録パルスとバイアスパルスの組み合わせの数を増やせば、長い記録マークを形成することが可能となる。
【0048】
また、記録されたマークを消去するには、消去光学系100の第2ビーム270の照射によって、消去パワー(Pe)が一定となるように設定された消去パルスを照射する。即ち、消去パワー(Pe)を一定にして常に第2ビーム270を照射していく。なお、この消去手法のことをDC消去という。L0〜L4記録層14A〜14Eは、消去パルスが照射されることで、この照射領域が結晶化温度以上の温度に加熱される。その後、照射領域が自然放熱されることにより、全ての照射領域が結晶化して記録マークが消去される。
【0049】
支持基板12は、光記録媒体に求められる厚み(約1.2mm)を確保するための、厚さ1.1mmで直径120mmとなる円盤形状の基板であり、この支持基板12の光入射面10A側の面にL0記録層14Aが形成される。また、支持基板12における光入射面10A側に、その中心部近傍から外縁部に向けてグルーブおよびランドが螺旋状に形成される。このグルーブおよびランドが、L0記録層14Aにおけるトラッキング制御用の凹凸(溝)となる。
【0050】
なお、支持基板12の材料としては種々の材料を用いることが可能であり、例えば、ガラス、セラミックス、樹脂を利用できる。これらのうち成型の容易性の観点から樹脂が好ましい。樹脂としてはポリカーボネイト樹脂、オレフィン樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、シリコーン樹脂、フッ素系樹脂、ABS樹脂、ウレタン樹脂等が挙げられる。これらの中でも、加工性などの点からポリカーボネイト樹脂やオレフィン樹脂が特に好ましい。なお、支持基板12は、第2ビーム270の光路とならないことから、高い光透過性を有している必要はない。
【0051】
中間層群16は、光入射面10Aから遠い側から順番に第1〜第4中間層16A〜16Dを有しており、L0〜L4記録層14A〜14Eの間に積層される。各中間層16A〜16Dは、アクリル系またはエポキシ系の紫外線硬化型樹脂によって構成される。第1〜第4中間層16A〜16Dの表面には、トラッキング制御用の凹凸(グルーブおよびランド)が形成される。この凹凸は、L1〜L4記録層14B〜14Eのグルーブ及びランドとなる。これら支持基板12及び中間層群16に形成されるトラッキング制御用の凹凸のトラックピッチLは0.32μm前後に設定されている。このトラックピッチLは、記録再生光学系100の第1波長λ1の第1ビーム170でトラッキング制御できるサイズとなる。
【0052】
この中間層16A〜16Dの膜厚は、例えば本実施形態では、中間層16Aが14μm、中間層16Bが18μm、中間層16Cが11μm、中間層16Dが15μmとなっており、全て30μm以下に設定され、ここでは特に20μm以下に設定されている。このようにすると、光入射面10Aから110μm以内の間に4層以上の記録層を配置可能となる。
【0053】
カバー層11は、中間層群16と同様に光透過性のアクリル系の紫外線硬化型樹脂により構成されており、本実施形態では42μmの膜厚に設定されている。
【0054】
図3には、L0記録層14AとL1記録層14Bを部分的に拡大した断面構造が模式的に示されている。なお、L2記録層14C〜L4記録層14Eは、L1記録層14Bと同様であるので、ここでの説明を省略する。
【0055】
L0記録層14Aは、光入射面の反対側から順に、反射層14A−1、誘電体膜14A−2、保護膜14A−3、記録膜14A−4、保護膜14A−5、放熱膜14A−6を備えている。
【0056】
反射膜14A−1は、放熱と光反射効果を得る為のものであり、好ましくはAg合金が用いられる。反射膜14A−1の膜厚は50nmに設定している。
【0057】
誘電体膜14A−2は光学特性の調整及び放熱制御を行うものである。材料は特に限定されないが、好ましくはZnSとSiOの混合物から形成される。
【0058】
記録膜14A−4は、例えばSbを主成分とする材料系や、GeTeを主成分とする材料を用いて形成されている。例えば、Sbを主成分とする材料系では、Sb量が60at%以上85at%以下であり、Te、Ge、In、Sn、Bi、Ga、Al、Zn、Mg、Si、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mnから選ばれる少なくとも1種類の元素を含む材料が好ましい。記録膜14A−4の膜厚は14nmに設定している。
【0059】
保護膜14A−3、14A−5は、記録膜14A−4の保護及び結晶化速度の制御を行う。保護層14A−3の材料には、例えばZrとCrとOを含むようにする。例えば、Crの含有比率を高めると結晶化速度を高めることができるので好ましい。
【0060】
放熱膜14−6は、記録膜14−4からの放熱を制御し、記録膜14A−4の冷却効果を高めて正確にアモルファスマークを形成し易くするためのものである。材料は、例えばAlN、SiN、Al、TiO2やIn、ZnOを主成分とする透明導電膜が好ましい。
【0061】
L1記録層14Bの構造も、L0記録膜14Aと殆ど同じであり、光入射面の反対側から順に、反射層14B−1、誘電体膜14B−2、保護膜14B−3、記録膜14B−4、保護膜14B−5、放熱膜14B−6を備えている。
【0062】
L0記録層14Aと異なる点として、このL1記録層14Bは半透過膜として機能させなければならない点が挙げられる。従って、反射膜14B−1の膜厚は極めて薄く設定しなければならない。ここでは反射膜14B−1の膜厚は10nmに設定している。なお、この結果、反射膜14B−1の放熱機能は低下する。
【0063】
同様に記録膜14B−4も薄く設定され、ここでは4nmに設定している。これにより光透過率を高めることが出来るが、同様に放熱機能は低下する。
【0064】
保護膜14B−3、14B−5は、Crの含有比率を高めると、結晶化速度が高まる点で好ましいが光透過率が低下する。従って、L0記録層14Aの保護膜14A−3、14A−5と比較して、保護膜14B−3、14B−5ではCrの含有比率を低く設定している。
【0065】
なお、特に図示しないが、L2記録層14Cの反射膜14C−1の膜厚は8nm、記録膜14C−4の膜厚は3.8nmに設定され、L3記録層14Dの反射膜14D−1の膜厚は5nm、記録膜14D−4の膜厚は3.8nmに設定され、L4記録層14Eの反射膜14E−1の膜厚は4nm、記録膜14E−4の膜厚は3.8nmに設定される。
【0066】
以上のことから分かるように、この光記録媒体10では、相変化型の記録層を多層化しているため、L1〜L4記録層14B〜14Eにおいて記録膜・反射膜が薄くなり放熱特性が悪くなる。この結果、L1〜L4記録層14B〜14Eでは、L0記録層14Aと同等の結晶化スピードが得られないことから、記録再生光学系100のビーム170では、十分なパワーが得られないため、消去率が低下する。
【0067】
図4には、フォーカスコントローラ300の機能構成が示されている。このフォーカスコントローラ300は、特に図示しないメモリ、CPU等の汎用部品を有しており、CPUにおいて所定のプログラムが実行されることで、以下に示す機能構成が実現される。
【0068】
即ち、このフォーカスコントローラ300は、機能構成として、信号取得部302、ターゲット位置算出部304、基準位置設定部306、消去位置確定部308、モニタリング部310、フィードバック部312を有している。
【0069】
信号取得部302は、第1ビーム170を、光記録媒体10の厚さ方向に移動させて、光入射面10Aから、消去対象となるL0〜L4記録層14A〜14Eのいずれかまでの範囲を含むフォーカス信号を取得する。例えば図3には、第1ビーム170を、光入射面10Aからスタートして最も奥側のL4記録層14Eまで移動させることにより、光検出器132で取得されたフォーカス信号Pが示されている。このフォーカス信号Pから分かるとおり、記録再生光学系100では、L0〜L4記録層14A〜14Eを通過する毎にS字カーブが正確に出力されることになる。
【0070】
ターゲット位置算出部304は、このフォーカス信号Pを解析して、光入射面10Aの位置(Surface)から消去対象となる記録層(ここではL2記録層14C)までの距離Tを算出する。具体的には、フォーカス信号Pの振幅がゼロになる領域を解析していき、最も手前側の振幅ゼロ点を光入射面10Aとし、これを基準にして奥側の振幅ゼロ点を順番にL4、L3、L2、L1、L0記録層の位置と定義し、目的とする距離Tを算出する。また、これと同時に、第1ビーム170のフォーカスを消去対象となるL2記録層14Cに合わせておく。
【0071】
基準位置設定部306は、消去光学系200における第2ビーム270を移動させて、そのフォーカス信号Qによって、光入射面10Aの位置を検知する。図3には、第2ビーム270を、光入射面10Aからスタートして最も奥側のL4記録層14Eまで移動させることにより、光検出器232で取得されたフォーカス信号Qが示されている。このフォーカス信号Qから分かるとおり、消去光学系200では、L0〜L4記録層14A〜14Eを通過する毎のS字カーブは正しく出力されない。既に述べたように、第2ビーム270のスポット径は1.077μm〜3.00μm、焦点深度は1.657μm〜10.00μmと大きいので、層間距離が30μm以下、トラックピッチが0.32μm前後となるこの光記録媒体10では十分なフォーカス信号を得られないからである。一方、このフォーカス信号Qの出力が始まる位置、即ち光入射面10Aの位置のみは正しく検知することができる。そこで、基準位置設定部306では、第2ビーム270のスポットが光入射面10Aにフォーカスした場所を基準位置として検出する。
【0072】
消去位置確定部308は、消去光学系200のフォーカスサーボアクチュエータ291を制御して、第2ビーム270を、光入射面10Aとなる基準位置から距離Tだけ移動させる。この距離Tは、ターゲット位置算出部304においてフォーカス信号Pを利用して算出したものを用いる。この結果、第2ビーム270を、消去対象となるL2記録層14Cに対して正確にフォーカスさせることができる。これにより消去準備が整う。
【0073】
消去準備が完了した状態を図5に示す。L2記録層14Cに対して第1ビーム170と第2ビーム270の双方が照射されている。第2ビーム270のスポット径は、L2記録層14Cの凹凸18(ランド18Aおよびグルーブ18B)のトラックピッチLよりも遙かに大きい。従って、第2ビーム270は、複数のトラックを跨るようにして照射される。一方、第1ビーム170のスポット径は、トラックピッチLと略同等に設定されている。
【0074】
この状態で、光記録媒体10を回転させながら、消去パワー(Pe)となる第2ビーム270を照射していくと、記録マークMが消去される。例えば、第2ビーム270のスポット内に3トラック以上を同時に含むようにすると、3トラック以上の記録マークMを同時に消去していくことが可能となり極めて効率的な作業となる。
【0075】
モニタリング部310は、この消去中において、記録再生光学系100の第1ビーム170を、消去対象となるL2記録層14Cにフォーカスしておき、この記録再生光学系100のフォーカスサーボアクチュエータ191の制御変動(ここでは電流変位量)をモニターする。これにより、光記録媒体10が回転中におけるL2記録層14Cの周方向の面ぶれを検知することができる。
【0076】
そこで、フィードバック部312は、モニタリング部310でモニタしている電流変位量を利用して、消去光学系200のフォーカスサーボアクチュエータ291をフィードバック制御する。これにより、第2ビーム270も、L2記録層14Cの周方向の変位に対してリアルタイムで追従することが可能となる。
【0077】
以上の構成となるフォーカスコントローラ300は、記録再生光学系100のフォーカスサーボアクチュエータ191によって、光記録媒体10における消去対象となるL2記録層14Cの位置を特定し、この情報を利用して、消去光学系200のフォーカスサーボアクチュエータ291によって、第2ビーム270をL2記録層14Cにフォーカスさせて、効率的に情報を消去することを実現する。
【0078】
次に、この光記録再生装置90を用いた光記録媒体10の記録再生手法と、その利点について説明する。この記録再生手法では、4層以上となる相変化型の記録層を有する光記録媒体10に対して、一旦記録された情報を記録層単位で確実に消去してから、記録再生を行うようにしている。具体的には、短波長となる記録再生光学系100側においては、第1ビーム170を単一トラックに照射して情報の記録・再生を行うようにし、長波長となる消去光学系200側においては、第2ビーム270を複数トラックに跨るように照射して情報を消去する。
【0079】
消去時は、記録再生光学系100の第1ビーム170を記録層群14に照射して、記録層群14の位置を取得する為のフォーカス信号Pを引き込む。そして、このフォーカス信号Pを利用して、消去光学系200の第2ビーム270を、消去対象の記録層にフォーカスさせて、この第2ビーム270により複数トラックの情報を同時に消去する。第2ビーム270のスポット径は、第1ビーム170と比較して大きくなるため、いわゆるDC消去の場合はスポットの通過時間が長くなる。即ち、長い時間に亘って第2ビーム270を照射することになるので、記録膜を薄くして結晶化スピードが低下したL1〜L4記録層14B〜14Eに対して、極めて効率的な消去作業が実現される。なお、結晶化スピードとは、結晶化温度以上の状態でアモルファス状態が結晶に変わる為に要する時間であり、結晶化スピードが落ちると、結晶化温度以上の状態を長い時間に亘って保たなければならない。
【0080】
また更に、長波長となる光源201の方が、高パワーに設定できるので、この結果、広い範囲に亘って十分な消去エネルギーを光記録媒体10に印加することが可能となり、これによっても極めて効率的な消去作業を実現できる。
【0081】
特に本実施形態では、第2ビーム270のスポット径(λ2/NA2)が、トラックピッチLの3倍以上、好ましくは5倍以上に設定されている。即ち、少なくとも3つのトラック、好ましくは5つのトラックに跨って第2ビーム270をまとめて照射できる。仮に第2ビーム270を5つのトラックに同時に跨るように照射する場合、この第2ビーム270をグルーブ18Bに沿って移動させるだけで、DC消去としては1回となるが、各トラックでは実質的に5回の消去作業が行われる。なお、このトラッキングは、図5で示されるように、記録再生光学系100の第1ビーム170で行い、これを第2ビーム270にフィードバック制御することが好ましい。
【0082】
更に消去作業中は、記録再生光学系100のフォーカス信号を利用して、消去光学系200の第2ビーム270を常にフィードバック制御する。この結果、記録層群14の周方向変位にリアルタイムで追従することができる。従って、第2ビーム270のフォーカスエラーが抑制され、より確実な消去作業が可能となっている。
【0083】
なお、本実施形態では、記録再生光学系100の第1波長をλ1、消去光学系200の第2波長をλ2とした際に、これらの比率λ1/λ2が、0.43≦λ1/λ2≦0.60を満たすようになっている。また更に、記録再生光学系100の対物レンズの開口数をNA1、消去光学系200の対物レンズの開口数をNA2とした際に、これらの比率NA1/NA2が、1.2≦NA1/NA2≦3.3を満たすようになっている。更にまた、光記録媒体10の記録層群14の層間距離をSとした際に、λ2/NA2/S≦0.85を満たすようになっている。
【0084】
このように、比率λ1/λ2を0.43以上にすることで、記録再生光学系100と消去光学系200のコマ収差の影響の差を小さくすることができる。同様に、光記録媒体10の傾斜に対して、記録再生光学系100と消去光学系200のビームスポットの歪みの差も小さくすることができる。この結果、記録再生光学系100と消去光学系200における、各フォーカス信号への影響度合いを互いに近似させることができるので、第1ビーム170のフォーカス信号を用いて、第2ビーム270のフォーカス制御を行う際も、第2ビーム270のオフセット量を抑制できる。従って、第2ビーム270がデフォーカス状態になることを回避でき、所望の消去特性を得ることができる。例えば、λ1/λ2の比が小さくなりすぎると、オフセット量が増大し、第2ビーム270がデフォーカス状態になり易く、十分な消去特性が得られ難くなる。
【0085】
また、この比率λ1/λ2を0.60以下にすることで、記録再生光学系100と消去光学系200のビームスポット径の差を大きくすることができ、第2ビーム270のスポット径を大きくすることで消去効率を高めることが可能になる。比率λ1/λ2を0.60よりも大きくして1に近づけすぎると、フォーカス制御は簡単になるが、記録再生光学系100と消去光学系200のビームスポット径の差が小さくなるので、消去効率が低下してしまう。なお、本実施形態では、λ1/λ2=(405/810)=0.5となり、上記条件を満たしている。
【0086】
また、比率NA1/NA2を3.3以下にすることによっても、記録再生光学系100と消去光学系200のコマ収差の影響の差を小さくすることができる。同様に、光記録媒体10の傾斜に対して、記録再生光学系100と消去光学系200のビームスポットの歪みの差も小さくすることができる。この結果、記録再生光学系100と消去光学系200における、各フォーカス信号への影響度合いを互いに近似させることができるので、第1ビーム170のフォーカス信号を用いて、第2ビーム270のフォーカス制御を行う際も、オフセット量を抑制することができる。従って、第2ビーム270がデフォーカス状態になることを回避でき、所望の消去特性を得ることができる。更に、比率NA1/NA2を3.3以下にすることで、各光学系のヘッドと光記録媒体10との距離(ワーキングディスタンス)の差を小さくすることができる。この結果、記録再生光学系と消去光学系の高さ方向のレンジ差が狭まるため、小型化、スリム化を実現でき、光学設計の構成としての自由度を高めることが可能となる。
【0087】
また、比率NA1/NA2を1.2以上にすることで、記録再生光学系100と消去光学系200のビームスポット径の差を大きくすることができ、第2ビーム270のスポット径を大きくすることで消去効率を高めることが可能になる。特に、波長比(λ1/λ2)と比較して、開口数比(NA1/NA2)の方が影響が大きい。コマ収差は、開口数(NA)の3乗に比例して大きくなるが、波長(λ)に反比例(−1乗に比例)して大きくなるからである。従って、開口数の方が波長よりも影響が大きい。なお、本実施形態では、NA1/NA2=(0.85/0.4)=2.125となり、上記条件を満たしている。
また、λ2/NA2/S≦0.85にすると、第2ビーム270の焦点深度を小さくすることができるので、消去時に隣接層の記録データに影響を及ぼすことを回避できる。本実施形態では、最小となる層間距離Sが11μmであり、焦点深度は5.06μmに設定されていることから、λ2/NA2/S=0.46となり、この条件を満たす。
【0088】
以上、本実施形態では、第2ビーム270をグルーブ18Bに沿って移動させる場合に限って示したが、本発明はこれに限定されない。この消去光学系200の第2ビーム270の消去パワーを十分に確保できる場合は、トラッキング制御を行わないことも好ましい。例えば、第2ビーム270が、6つのトラックに同時に跨るように照射されるにも拘わらず、各トラックは実質的に2回の消去工程で十分となる場合は、この第2ビーム270を、グルーブ18B飛び越えながら通常よりも3倍の早さで半径方向に移動させる。即ち、光記録媒体10が一周する間に、第2ビーム270が3つのトラックを飛び越えるように半径方向に移動する。この結果、各トラックは実質的に2回の消去工程となる。このようにすると、記録層全体を消去する際の消去時間が飛躍的に短くなる。
【0089】
更に本実施形態では、記録再生光学系100と消去光学系200が、光記録媒体10の周方向に沿って並列配置されている場合を示したが、本発明はこれに限定されない。例えば図6に示される他の構成のように、消去光学系200と記録再生光学系100を、光記録媒体10の半径方向にずれた位置に配置することも好ましい。例えば、半径方向の移動方向に対して、消去光学系200を先、記録再生光学系100を後に配列することで、消去光学系200で記録層の情報Mを消去しながら、その消去領域に対して記録再生光学系100で情報を記録していくことも可能である。この結果、消去作業と記録作業を同時進行することができるので、記録時間をより短くすることが可能となる。この際にも、記録再生光学系100のフォーカスサーボアクチュエータ191の電流変位量をモニタリングして、消去光学系200をフィードバック制御すれば、記録層の面変動に追従できる。
【0090】
また、本実施形態では、第2ビーム270の最小スポットを記録層群14に照射するようにしているが、あえてピントをぼかすことでスポット径を大きくし、より広範囲に第2ビーム270を照射して消去効率を高めるようにしてもよい。
【実施例1】
【0091】
上記実施形態で示した記録再生装置90と光記録媒体10を用いて消去率を検証した。具体的には、初期状態として、光記録媒体10の記録層群14の全てに対して、CLV(線速度一定)が8m/sとし、記録信号の周波数を8.97MHzに設定して、情報を記録した。その後、実施例1として、CLV(線速度一定)を8m/s、消去パワーを一定(DC消去)に条件設定し、各記録層に対して1回ずつ消去作業を行い、再度、CLV(線速度一定)が8m/s、記録信号の周波数8.97MHzとなる条件で情報を記録して、記録前後の再生信号のCNRをスペクトルアナライザで評価した。消去が不十分な状態に対して更に情報が記録されると、ノイズレベルが悪化してCNRが低下するので、その低下具合によって消去効率が判定できる。なお、記録及び消去で用いた記録パワーと消去パワーの各設定値については図7に示す。
【0092】
ここでいうDC消去1回とは、グルーブ18Bに沿って1回(最内周から最外周まで)に限って第2ビーム270を照射したことを意味している。消去前と消去後において、CNRの差が無い場合は○(良好)と判定し、消去後の記録・再生におけるCNRの低下が1dB未満の場合は△(普通)と判定し、消去後の記録・再生におけるCNRの低下が1dB以上の場合は×(悪化)と判定した。実施例2では、CLV(線速度一定)が4m/sの条件でDC消去を1回行い、再度、CLV(線速度一定)が8m/sの条件で情報を記録して評価を行った。
【0093】
更に、比較例1として、従来方式でオーバーライト(上書き)作業を行った場合と、比較例2として、記録再生光学系100のみを利用してDC消去を1回行った場合と、比較例3として、記録再生光学系100のみを利用してDC消去を10回行った場合と、比較例4として、記録再生光学系100のみを利用してDC消去を30回行った場合も同様に評価した。実施例と比較例の検証結果を図8に示す。
【0094】
図8から明らかなように、実施例1、実施例2の場合は、DC消去が1回であるにも拘わらず、その後に形成した記録マークの信号品質の低下が抑制されていることが分かる。特に、消去スピードを4m/sに低下させれば、信号品質は消去前後で変わらない。一方、比較例1〜3に示されるように、記録再生光学系100を用いるだけでは、DC消去を10回繰り返しても記録マークが確実に消去されていないため、その後に形成した記録マークの信号品質が低下する。なお、比較例4のように、DC消去を30回繰り返せば情報が確実に消去され、その後に形成した記録マークの信号品質が良好になる。しかし、30回の消去作業は時間がかかりすぎるので、実現するのは難しい。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明は、相変化型の記録層を複数有する各種光記録媒体に適用することができる。
【符号の説明】
【0096】
10 第1記録媒体
11 カバー層
12 支持基板
14 記録層群
16 中間層群
90 光記録再生装置
100 記録再生光学系
200 消去光学系
300 フォーカスコントローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
4層以上となる相変化型の記録層を有する多層光記録媒体に対して情報を記録再生する記録再生方法であって、
第1波長の第1ビームを単一トラックに照射して情報の記録・再生を行う記録再生光学系と、前記第1波長より長い第2波長の第2ビームを複数トラックに跨るように照射して情報を消去する消去光学系とを用い、
前記記録再生光学系の第1ビームを前記記録層に照射してフォーカス信号を引き込む信号取得ステップと、
該フォーカス信号を利用して、前記消去光学系の前記第2ビームを消去対象となる前記記録層にフォーカスさせて、該第2ビームにより前記複数トラックの情報を同時に消去する消去ステップと、を有することを特徴とする記録再生方法。
【請求項2】
前記消去ステップでは、前記消去光学系のトラッキングを行わないことを特徴とする請求項1に記載の記録再生方法。
【請求項3】
前記消去ステップでは、消去中における前記記録再生光学系の前記フォーカス信号を利用して、前記消去光学系の前記第2ビームを常にフォーカス制御することを特徴とする請求項1又は2に記載の記録再生方法。
【請求項4】
前記信号取得ステップでは、前記記録再生光学系の前記フォーカス信号を利用して、光入射面から消去対象となる前記記録層までの距離Tを算出し、
前記消去ステップでは、前記消去光学系の前記第2ビームを利用して前記光入射面を検出し、且つ、前記信号取得ステップにおける前記距離Tを利用して、前記消去対象となる前記記録層に該第2ビームをフォーカスさせることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の記録再生方法。
【請求項5】
前記記録再生光学系の前記第1波長をλ1、対物レンズの開口数をNA1、前記消去光学系の前記第2波長をλ2、対物レンズの開口数をNA2とした際に、
前記記録再生光学系の前記第1ビームのスポット径λ1/NA1は、前記多層光記録媒体の前記記録層のトラックピッチLとの関係で、λ1/NA1≦2Lを満たすようになっており、
前記消去光学系の前記第2ビームのスポット径λ2/NA2は、前記多層光記録媒体の前記記録層のトラックピッチLとの関係で、λ1/NA1≧3Lを満たすことを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の記録再生方法。
【請求項6】
前記記録再生光学系の前記第1波長をλ1、前記消去光学系の前記第2波長をλ2とした際に、
0.43≦λ1/λ2≦0.60
を満たすことを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の記録再生方法。
【請求項7】
前記記録再生光学系の対物レンズの開口数をNA1、前記消去光学系の対物レンズの開口数をNA2とした際に、
1.2≦NA1/NA2≦3.3
を満たすことを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の記録再生方法。
【請求項8】
前記多層光記録媒体の前記記録層の層間距離をSとした際に、
λ2/NA2/S≦0.85
を満たすことを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の記録再生方法。
【請求項9】
前記消去ステップでは、少なくとも1層の前記記録層の全情報を一括消去することを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載の記録再生方法。
【請求項10】
前記消去光学系と前記記録再生光学系は、前記多層光記録媒体の半径方向に異なる位置に配置されており、
前記消去光学系による前記消去ステップと、前記消去ステップによって消去された領域に対して前記記録再生光学系が情報を記録する記録ステップを、同時進行させることを特徴とする請求項1乃至9のいずれかに記載の記録再生方法。
【請求項11】
4層以上となる相変化型の記録層を有する多層光記録媒体に対して情報を記録再生する記録再生装置であって、
第1波長の第1ビームを照射して情報の記録・再生を行う記録再生光学系と、
前記第1波長より長い第2波長の第2ビームを照射して情報を消去する消去光学系と、
前記記録再生光学系の前記第1ビームを移動させる第1フォーカスサーボと、
前記消去光学系の前記第2ビームを移動させる第2フォーカスサーボと、
前記第1及び第2フォーカスサーボを制御するフォーカスコントローラと、を備えるようにし、
前記フォーカスコントローラは、
前記第1フォーカスサーボによって前記記録再生光学系の第1ビームを移動させることで、消去対象となる前記記録層の位置を特定し、
前記第2フォーカスサーボによって前記消去光学系の前記第2ビームを消去対象となる前記記録層にフォーカスさせて、該第2ビームにより情報を消去することを特徴とする記録再生装置。
【請求項12】
前記フォーカスコントローラは、
前記第1ビームを移動させて、光入射面から消去対象となる前記記録層までの範囲を含むフォーカス信号を取得する信号取得部と、
前記フォーカス信号を利用して、前記光入射面から前記消去対象となる前記記録層までの距離Tを算出するターゲット位置算出部と、
前記第2ビームを移動させて光入射面の位置を検知する基準位置設定部と、
前記第2ビームを前記光入射面から前記距離Tだけ移動させて、前記消去対象となる前記記録層にフォーカスさせる消去位置確定部と、
を備えることを特徴とする請求項11に記載の記録再生装置。
【請求項13】
前記フォーカスコントローラは、
消去作業中、前記記録再生光学系の前記第1ビームを前記消去対象となる前記記録層にフォーカスして、前記第1フォーカスサーボの制御変動をモニターするモニタリング部と、
前記制御変動を前記消去光学系の前記第2フォーカスサーボにフィードバックして前記第2フォーカスサーボを制御するフィードバック部と、
を備えることを特徴とする請求項11又は12に記載の記録再生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−18730(P2012−18730A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−155832(P2010−155832)
【出願日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】