説明

光走査装置

【課題】異種材料を貼り合わせて構成された振動ミラーを用いた光走査装置において環境温度が変化しても性能劣化のない安価な装置を提供する。
【解決手段】線膨張係数の異なる材料で構成されたミラー5と振動子1とを接合して構成された振動ミラー10を用いた光走査装置である。光源52からの光を振動ミラー10に反射する反射ミラー57が互いに線膨張係数の異なる材料のミラー58と保持板59を積層して構成される。そして、環境温度が変化したときの振動ミラー10と反射ミラー57の反りが光の進行方向に対して逆方向で同一曲率になるよう構成することで、ビーム結像位置を一定位置に保つことができる性能劣化のない装置を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光源からの光を振動ミラーによって走査させ所定の像面上に結像させる光走査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザプリンタ等の画像形成装置は、レーザ光を走査することにより、感光体(感光ドラム)上に潜像を形成する。このようなレーザ光の走査は、レーザスキャニングユニットと呼ばれる光走査装置により実現される。レーザスキャニングユニットは、形成画像に応じて変調されて光源から出射されたレーザ光をミラーにより偏向し、偏向したレーザ光を感光体上にスポット状に結像する。この種のレーザスキャニングユニットに使用される偏向ミラーとして、複数の反射面を有するポリゴンミラーが広く知られている。ポリゴンミラーを備えるレーザスキャニングユニットは、モータ等の駆動手段によりポリゴンミラーを一方向に回転させることによりレーザ光を偏向する。
【0003】
近年の書込速度高速化の要求に応じて、ポリゴンミラーの回転速度は高まっているが、ポリゴンミラーの回転数を高めると、風切音やモータの振動等に起因して発生する音が大きくなり静寂性を確保することが困難になる。また、ポリゴンミラーを備えるレーザスキャニングユニットは、モータ等の駆動手段を備える必要があるため、小型化や軽量化が困難であるという問題もある。このため、レーザスキャニングユニットに往復型の偏向ミラーが使用されることもある。
【0004】
このような往復型の偏向ミラーとして振動ミラーが知られている。この振動ミラーは、レーザ光の走査方向に対して垂直方向に配置されたねじり回転軸を有する機械的振動子により構成されている。そして、振動子に支持されたミラーを往復振動させることでレーザ光を走査させる。
【0005】
近年、このような振動ミラーの製造に半導体製造技術が適用されるようになっている。このような振動ミラーは、単結晶シリコン基板等の半導体基板を加工することにより形成され、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)振動ミラーとして注目されている(例えば、特許文献1、2等参照。)。
【特許文献1】特開2003−84226号公報
【特許文献2】特開2001−305472号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述のような半導体製造技術を適用したMEMS振動ミラーを製造するためには、リソグラフィ装置等の非常に高価な製造設備が必要であり、低コストで製造することが困難である。また、シリコン単結晶基板等の半導体基板を基材として形成されたMEMS振動ミラーは、比較的容易にへき開するためハンドリングの際に破損しやすいという課題もある。
【0007】
また、これに対し、金属材料を加工することにより振動板を構成し、この振動板にレーザ光を反射するためのミラーを貼り付けて振動ミラーを構成することも可能である。このとき、ミラーの基材にはガラスやシリコンなど比較的安価で鏡面を形成しやすい材料を用いるのが好ましい。さらに振動板およびミラーは高速化の観点からすると慣性モーメントを小さくするのが好ましく、従ってこの構成は厚みをあまり大きくできない。
【0008】
ここで、振動板とミラーが線膨張係数の異なる別の材料が貼りあわされた構成では、環境温度が変化したときにバイメタル効果により反り変形が生じる。さらに、このミラーの反り変形が生じるとビームの光軸方向における結像位置が変化してしまい、所定の像面においてはビームが絞れずに解像度の低下を招くなどの問題が生じる。この構成では、前述したように厚みをあまり大きくできないので、そのような問題を避けられないという課題があった。
【0009】
本発明は、このような実情を鑑みて従来の課題を解決するものであって、異種材料が貼りあわせて構成された振動ミラーにおいても品質低下のない光走査装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明は以下の技術的手段を採用している。
【0011】
本発明の光走査装置は、光を発する光源と、線膨張係数の異なる材料が積層されて構成されており、層面で前記光源からの光を反射する反射ミラーとを備えている。また、線膨張係数の異なる材料を積層して構成され、前記反射ミラーが前記層面に沿った一の線を軸として往復振動することで、前記反射ミラーから受けた光を層面で反射しかつ走査する振動ミラーを備えている。さらに、前記光源が発した光を像面上に結像させるための光学系を備え、前記反射ミラーと前記振動ミラーとが、環境温度変化時に、それぞれの光を反射する側に対して互いに逆向きに反り変形するよう構成されている。
【0012】
また、本発明の光走査装置は、光を発する光源と、前記光源からの光を反射する反射ミラーと、前記反射ミラーを可変に反り変形させる反り量調整手段とを備えている。また、線膨張率の異なる材料が積層されて構成されており、層面に沿った一の線を軸として往復振動することで、前記反射ミラーから受けた光を層面で反射しかつ走査する振動ミラーを備えている。そして、前記光源が発した光を像面上に結像させるための光学系とを備え、前記反り量調整手段によって前記反射ミラーの反り量を変化させて前記光源からの光の結像位置を変化させるよう構成してもよい。
【0013】
また、本発明の光走査装置は、光を発する光源と、前記光源からの光を反射する反射ミラーと、前記反射ミラーをその反り量を可変に反り変形させる反り量調整手段とを備える。また、線膨張率の異なる材料が積層されて構成されており、層面に沿った一の線を軸として往復振動することで、前記反射ミラーから受けた光を層面で反射しかつ走査する振動ミラーを備える。さらに、前記光源が発した光を像面上に結像させるための光学系と、前記光源が発した光の結像位置を検出する検出手段を備える。そして、前記検出手段の検出結果に応じて前記反り量調整手段によって前記反射ミラーの反り量を変化させて前記光源からの光の結像位置を変化させるよう構成してもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、振動ミラーを線膨張係数の異なる別々の材料で構成される振動板とミラーを貼り合わせて構成した光走査装置を提供する。このような光走査装置において、環境温度変化時に振動ミラーの反りによって発生するビーム結像位置の変化に対して、反射ミラーの反りによってビーム結像位置を補正することができる。また、安価で品質の良好な光走査装置を提供することが可能である。
【0015】
すなわち、本発明に係る構成によれば、環境温度が変化して振動ミラーが反り変形しても反射ミラーが逆方向に反り変形するので、ビーム結像位置が補正され品質を保つことができる。
【0016】
また、反り量調整手段を備えた構成とし、その反り量調整手段によって反射ミラーの反り量を変化させて光源からの光の結像位置を変化させる。これにより、振動ミラーの反りによって光の結像位置が所望の位置にない場合でも反射ミラーの反り量を調整できるので、光の結像位置を像面上に移動させることができ品質の低下を防ぐことができる。
【0017】
また、光源が発した光の結像位置を検出する検出手段を備えた構成とすれば、その検出手段によって、光の結像位置が所望の位置にあるかどうか検出することができる。これにより、反射ミラーの反り量を調整することで、光源からの光の結像位置を正確に像面上に移動させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明に係る第1の実施形態は、光を発する光源と、線膨張係数の異なる材料が積層されており、層面で前記光源からの光を反射する反射ミラーとを備えた光走査装置である。そして、前記層面に沿った一の線を軸として往復振動することで、前記反射ミラーから受けた光をこの層面で反射しかつ走査する振動ミラーと、前記光源が発した光を像面上に結像させるための光学系とを備える。また、前記反射ミラーと前記振動ミラーとが、環境温度変化時に、それぞれの光を反射する側に対して互いに逆向きに反り変形するよう構成されている。
【0019】
このような構成により、環境温度が変化して振動ミラーが反り変形しても反射ミラーが逆方向に反り変形するので、ビーム結像位置が補正され品質を保つことができる。
【0020】
また、本発明に係る第2の実施形態は、第1の実施形態の光走査装置において、反射ミラーと振動ミラーとは、両者ともに光を反射するミラーとそのミラーを保持する保持板とが積層されて構成されている。前記反射ミラーのミラーと振動ミラーのミラーとは同一厚みで同一材料であり、かつ反射ミラーの保持板と振動ミラーの保持板とは同一厚みで同一材料である。また、その反射ミラーとその振動ミラーとではそれぞれの光を反射する側に対してミラーと保持板との積層順が互いに逆に構成されている。
【0021】
このような構成により、同一厚みで同一材料の積層順だけを逆にすることで、反りを逆向きに同一量発生させることができ、簡単な構成で補正が可能となる。
【0022】
また、本発明に係る第3の実施形態は、第2の実施形態の光走査装置において、保持板が、不透明な材料で構成されている。そして、前記反射ミラー又は振動ミラーにおけるミラーに対してその光反射する側に当該保持板が位置するときには、この保持板が、光線が通過できる領域である透過窓を有した形状であるような光走査装置であるである。
【0023】
このような構成により、保持板材料が不透明な材料であった場合でも、積層順を逆にすることができる。
【0024】
また、本発明に係る第4の実施形態は、光を発する光源と、前記光源からの光を反射する反射ミラーと、前記反射ミラーを反り変形させる、かつその反り量が可変である反り量調整手段とを備えた光走査装置である。この光走査装置は、線膨張率の異なる材料が積層されて構成されており、層面に沿った一の線を軸として往復振動することで、前記反射ミラーから受けた光を層面で反射しかつ走査する振動ミラーを備えている。また、前記光源が発した光を像面上に結像させるための光学系とを備え、前記反り量調整手段によって前記反射ミラーの反り量を変化させて前記光源からの光の結像位置を変化させるよう構成されている。
【0025】
このような反り量調整手段を備えた構成とし、その反り量調整手段によって反射ミラーの反り量を変化させて光源からの光の結像位置を変化させる。これにより、振動ミラーの反りによって光の結像位置が所望の位置にない場合でも反射ミラーの反り量を調整できるので、光の結像位置を像面上に移動させることができ品質の低下を防ぐことができる。
【0026】
また、本発明に係る第5の実施形態は、光を発する光源と、前記光源からの光を反射する反射ミラーと、前記反射ミラーを反り変形させ、かつその反り量が可変である反り量調整手段とを備えた光走査装置である。また、線膨張率の異なる材料が積層されて構成されており、層面に沿った一の線を軸として往復振動することで、前記反射ミラーから受けた光を層面で反射しかつ走査する振動ミラーを備えている。さらに、前記光源が発した光を像面上に結像させるための光学系と、前記光源が発した光の結像位置を検出する検出手段とを備えている。そして、前記検出手段の検出結果に応じて、前記反り量調整手段によって前記反射ミラーの反り量を変化させて、前記光源からの光の結像位置を変化させるよう構成されている。
【0027】
このような構成により、光源が発した光の結像位置を検出する検出手段を備えた構成とすれば、その検出手段によって、光の結像位置が所望の位置にあるかどうか検出することができる。よって、反射ミラーの反り量を調整することで、光源からの光の結像位置を正確に像面上に移動させることができる。
【0028】
また、本発明に係る第6の実施形態は、第4または5の実施形態の光走査装置において、前記反り量調整手段が、反射ミラーと積層されて接合された圧電材料と、前記圧電材料に電圧を印加する駆動手段とを含んで構成されている。このような構成により、反射ミラーの反り量の調整を自由にできる。
【0029】
また、本発明に係る第7の実施形態は、第4または5の実施形態の光走査装置において、前期反り量調整手段が、反射ミラーと積層されて接合されかつその反射ミラーとは線膨張率の異なる材料からなる保持材と、前記反射ミラーの温度を変化させる温度調整手段とを含んで構成されている。このような構成により、簡単な構成で反射ミラーの反り量の調整が可能となる。
【0030】
以下、本発明の最良の実施形態について、その実施例を、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0031】
(実施例1)
(振動ミラーの構成)
まず、本発明に係る光走査装置の一例であるレーザスキャニングユニットに搭載される振動ミラー10の構造について詳細に説明する。
【0032】
図1は、本実施例の振動ミラー10の構造を示す概略斜視図である。図1に示すように、振動ミラー10は、後述するプレス加工により成形された振動子1と、ミラー5と、永久磁石6とを備え、これらはそれぞれ接着剤により貼り合わされて構成されている。ここで、振動子1はチタン合金などの金属材料で構成され、ミラー5はシリコンやガラスなどの材料で構成されるが本実施例においてはシリコンが用いられている。振動子1は、ミラー5および永久磁石6が固定される支持部4が同一直線上に配置された2本の梁3により支持された構造を有する。梁3の他端は、振動子1として一体に成形された矩形状の枠体2に支持されており、振動子1は梁3をねじり回転軸として往復振動する。この往復振動は、永久磁石6に交番磁場を付与することで持続される。
【0033】
永久磁石6に付与する交番磁場は、例えば、電磁石に交流電力を印加する駆動手段11(図2参照)により生成できる。この場合、往復振動の周波数、すなわち、電磁石に印加する交流電力の周波数(以下、駆動周波数という。)と振動ミラー10の共振周波数とが一致していると、振動ミラー10の駆動のための消費電力を小さくすることができる。振動ミラー10が共振周波数で往復振動する場合、振動を維持するために必要な外力の大きさが最小になるからである。
【0034】
振動ミラー10を介してレーザ光を感光体上で走査させるレーザスキャニングユニットでは、駆動周波数は感光体上の記録密度および印字速度(感光体の送り速度)に密接に関係する。すなわち、駆動周波数fは、記録密度D(dpi)、印字速度V(mm/sec)により以下の式1で示される。
【0035】
【数1】

【0036】
式1は、振動ミラー10がねじり回転軸に対していずれの方向に回転している場合にも印字を行う往復印字を前提としている。振動ミラー10がねじり回転軸に対して一方向に回転している場合にのみ印字を行う片方向印字の場合には、駆動周波数fは2倍になる。例えば、記録密度Dが600dpiであり、印字速度Vが180mm/secである場合、駆動周波数fは、約2126Hz(往復印字)である。
【0037】
また、以上の構造を有する振動ミラー10の共振周波数f0は、梁3のばね定数K(両方の梁3の合計)と、ミラー5および永久磁石6を含む支持部4の慣性モーメントJとにより、以下の式2で示される。
【0038】
【数2】

【0039】
一方、本実施例では、振動子1が金属材料により構成されているため、往復振動中に梁3に付加されるせん断応力が梁3の許容応力を超えると、振動子1が破損してしまう。このため、構造上、振動子1には、梁3に付加されるせん断応力が、梁3の許容応力以下であることが求められる。各梁3のねじり回転軸方向の長さをL、梁3の幅をb、梁3の厚さをt(ここでは、t≦b)、梁3に付与されるトルクをTとすると、梁3の表面において幅方向の中点でのせん断応力τAは、以下の式3により表現される。
【0040】
【数3】

【0041】
また、梁3の表面において厚さ方向の中点でのせん断応力τBは、以下の式4により表現される。
【0042】
【数4】

【0043】
さらに、梁3の単位長さあたりのねじれ角ω(共振周波数で往復振動しているときの最大振り角θ/梁長L)は、梁3の横方向弾性係数Gを用いて、以下の式5により表現される。
【0044】
【数5】

【0045】
この場合、ばね定数Kは、以下の式6を満足する。
【0046】
【数6】

【0047】
従って、梁3は、式3および式4に示すせん断応力τAとτBとが、梁3の許容応力以下であり、かつ式2、式5および式6を満足する必要がある。
【0048】
以下、振動ミラー10の具体的な構造をその設計手順とともに説明する。
【0049】
振動ミラー10を設計する場合、まず、振動子1を構成する金属材料を選定する。上述のように、振動子1はプレス加工により成形される。このような成形を可能とするために、金属材料はフープ材であることが望ましい。また、往復振動に起因する金属疲労を生じることがなく、かつ梁3の許容応力を大きくするという観点では、振動子1を構成する金属材料は、大きな疲労限度を有することが望ましい。さらに、慣性モーメントJを小さくする(共振周波数f0を大きくする)観点では、密度が小さいことが好ましく、往復振動の振り角θを大きくする観点では、横弾性係数Gが小さいことが好ましい(上記式5参照)。加えて、耐環境性能の観点からは材料的に安定しており、価格も安価であることが好ましい。そこで、本実施例では、以上の条件を全て満足する金属材料としてチタン合金(Ti−15V−3Cr−3Sn−3Al、AMS4914)を採用している。当該チタン合金の疲労強度は350MPaであり、密度は4.7g/cm3である。なお、振動子1を構成する金属材料として、他の金属を採用することも可能である。
【0050】
振動子1を構成する金属材料を選定した後、振動ミラー10の振り角、ミラー5の材質およびサイズ、永久磁石6の材質およびサイズを決定する。振動ミラー10の振り角およびミラー5のサイズは、レーザスキャニングユニットとして所望のビーム特性を得るのに必要な振り角およびサイズに決定される。当該ビーム特性は、振動ミラー10と、振動ミラー10により反射されたビームを感光体上に結像するレンズとの間の距離等のレーザスキャニングユニットの構造に依存して決まる。例えば、記録密度Dが600dpiであり、印字速度Vが180mm/secである場合、振り角は±23度、ミラー5のサイズは幅4.7mm×長さ(ねじり回転軸方向)0.8mm×厚さ0.15mmとすることができる。なお、ここではミラー5の平面形状を矩形としているが、所望のビーム形状のレーザ光を反射可能であれば、楕円形状等の他の平面形状であってもよい。また、ミラー5の材質はレーザ光を反射可能な材質であればよく、ここではシリコンからなるベース材料にアルミなどの材料からなる反射膜を設けさらにその上に保護膜を設けた構成になっている。
【0051】
次いで、上記チタン合金の疲労強度に基づいて許容応力を決定する。許容応力は、チタン合金の疲労強度曲線(S−N曲線)に基づいて決定することができる。図3は、上記チタン合金のS−N曲線を示す図である。上述のように、当該チタン合金の疲労限度は350MPaであり、最大振り角時に梁3に付与される最大応力が当該疲労限度以下とすれば、半永久的な寿命を実現することができる。ここでは、疲労限度350MPaに対して100MPaのマージンを設けた250Mpaを許容応力としている。
【0052】
ミラー5は、振動子1の支持部4に接着剤で接合されるが、前述のように振動子1とミラー5は異なる材料で構成されており、それぞれ線膨張係数が異なる。振動子1を構成するチタン合金の線膨張係数は8.5×10-6/℃であり、ミラー5を構成するシリコンの線膨張係数は3×10-6/℃となっている。線膨張係数が異なる材料が接合されて構成されているため、環境温度が変化するとそれぞれの材料の伸縮量が異なるために接合部分においてバイメタル効果によって一定の曲率で反り変形が生じる。このときの反りの曲率ρは、振動子材料の縦弾性係数、厚み、線膨張係数を、それぞれ、E1、t1、α1とし、ミラー材料の縦弾性係数、厚み、線膨張係数を、それぞれ、E2、t2、α2とし、環境温度変化をΔTとすると、式7で示される。
【0053】
【数7】

【0054】
図4に環境温度が接合時より高温に変化したときのミラー5と振動子1における支持部4のねじり軸方向(梁3がねじれる方向)から見た変形状態の例を示す。ミラー5より振動子1の伸びが大きいためミラー面側に凹形状に変形する。ミラー5は一定の曲率で反った場合には、光軸方向における結像位置は変化するもののミラーからの反射光を結像レンズなどの手段によって一点に集光することが可能である。一方、ミラーの中に曲率が異なる部分がある場合にはそれぞれの部分ごとに結像位置が異なるため一点に集光することができず、ビームが十分に絞れないという問題が発生する。このため、本発明においては、ミラー5と振動子支持部4のミラー走査方向における接合長さをミラー有効領域の70%以上となるように構成している。ミラー中央部の曲率が一定の領域を70%以上設けることでビームを実用上問題のないレベルまで絞ることが可能となっている。
【0055】
永久磁石6は、振動子支持部4に固定可能なサイズで、振動ミラー10を往復振動させる外力を発生しうるものであればよい。ここでは、永久磁石6として、径0.8mm×厚さ0.4mmの希土類磁石を使用している。
【0056】
続いて、振動子1の厚みを仮設定し、ミラー5および永久磁石6を固定した状態、すなわち、ミラー5、永久磁石6、ミラー5を支持部4に固定するための接着部材および永久磁石6を支持部4に固定するための接着部材を含めた状態で、支持部4の慣性モーメントJを算出する。そして、当該慣性モーメントJおよび式2より、所望の共振周波数f0が得られるばね定数Kを算出する。そして、算出したばね定数Kと式3〜式6を用いて、式3および式4のせん断応力τA、τBが許容応力250MPa以下になる条件下で、梁幅bおよび梁長Lを決定する。なお、梁厚tは、上記仮設定した支持部4の厚さと同一である。
【0057】
(レーザスキャニングユニットの構成)
次に、上記のように構成された振動ミラーを備える本発明の光走査装置の一例であるレーザスキャニングユニットの構成について説明する。
【0058】
図2は、当該レーザスキャニングユニットを示す概略構成図である。レーザスキャニングユニット50は、光源52、反射ミラー57、偏向器53、二次光学系となる結像レンズ系54、振幅検出用ミラー64、振幅検出センサ65を筐体51内に備える。
【0059】
光源52は、回路基板63上に実装されたレーザダイオード61と、コリメータレンズ62とを備える一体のユニットとして構成されている。回路基板63は、外部から入力される画像信号にしたがってレーザダイオード61が出射するレーザ光の強度変調を行う。変調されたレーザ光はコリメータレンズ62に入射される。コリメータレンズ62は、円筒形状のガラスまたはプラスチックのレンズからなり、レーザダイオード61から出力されたレーザ光をコリメータレンズ62の光軸と一致した略平行光に変換して出力する。なお、レーザダイオード61の発光点は、コリメータレンズ62の焦点に配置されている。
【0060】
光源52から出力されたレーザ光は、アパーチャ55、シリンドリカルレンズ56を通じて反射ミラー57の反射面に入射される。反射ミラー57は、表面に反射膜が設けられたミラー材料58と保持材59が積層されて構成されており、ミラー材料58と保持材59は線膨張係数の異なる材料で構成されている。例えば、ミラー材料58としてガラス材料、保持材59としてチタン系材料を使用することができる。このとき、ミラー材料58と保持材59は式7で示される温度変化時の曲率ρが振動ミラー10の曲率と同じで逆方向になるように、材料の線膨張係数、縦弾性係数、厚みが選定されている。反射ミラー57で反射されたレーザ光は次に偏向器53の反射面に入射される。偏向器53は、感光体上でのレーザ光の走査方向に対して垂直方向に配置されたねじり回転軸を有する振動ミラー10と、当該振動ミラー10を正弦的に往復振動させる駆動手段11とにより構成されている。シリンドリカルレンズ56は、振動ミラー10の反射面上に、レーザ光のねじり回転軸方向のみを収束させた状態でレーザ光を投影する。
【0061】
偏向器53により偏向されたレーザ光は結像レンズ系54に入射される。ここでは、結像レンズ系54は、2枚のアクリルレンズにより構成されており、偏向器53により偏向されたレーザ光を、感光体上の走査速度が略同一となる状態で感光体上にスポット状に結像させる。すなわち、結像レンズ系54は、正弦的に振動する振動ミラー10により反射され、入射角が時間とともに三角関数的に変化するレーザ光を、感光体上に等間隔なスポット列として結像させるアークサインθレンズになっている。
【0062】
振幅検出用ミラー64および振幅検出センサ65は、振動ミラー10によって走査され感光体に記録が行われる領域の両方の外側に1組ずつ設けられていて、走査されたレーザ光は振幅検出用ミラー64で反射されて振幅検出センサ65に入射されるよう構成されている。振動ミラー10は、これらの振幅検出用ミラー64を越えて外側まで走査されるよう大きな振幅を持って振動するよう駆動され、これにより1往復の振動の間にそれぞれの振幅検出センサ65から2回ずつ検出信号が出力される。ここで、2つの振幅検出センサ65からの信号間の時間が一定になるよう制御すれば、振動ミラー10の振幅は一定に保たれ、これにより画像も所定の位置に記録される。
【0063】
以上のように構成された装置において、環境温度が変化すると前述のように反射ミラー57および振動ミラー10は光の進行方向に対して逆方向に同一量の反りが発生する。例えば、環境温度が上昇したときには、反射ミラー57においてはミラー面側を凸にして反りが発生し、振動ミラー10においてはミラー面側を凹にして反りが発生するよう構成されている。このとき、これらの曲率が同一量で逆方向になると、反射ミラー57に入ってきた平行光線は反射ミラー57で反射して広がりを持つが、この光線が振動ミラー10で反射すると絞られて再び平行光線に戻るものである。したがって、環境温度が変化しても結像位置を一定に保つことができるものである。この様子を図5に模式図で示す。環境温度が低下したときはそれぞれのミラーの反り方向が逆になるが、同様にして補正作用が働くのである。
【0064】
(実施例2)
次に、本発明の第二の実施例について説明する。
【0065】
図6に示すように、本実施例においては、反射ミラー57はミラー58と保持材59が接合されて構成されている。また、ミラー58は振動ミラー10のミラー5と同一厚みの同一材料で構成され、保持板59は振動ミラー10の振動子支持部4と同一厚みの同一材料で構成され、不透明な材料となっている。また、保持板59が光の進行方向に対して手前に配置され、保持板59のビームが当る領域においては透過窓59(a)が開けられた構成となっている。なお、透過窓59aの開口サイズは保持板59の面積の10%程度である。これにより、透過窓59(a)を通過した光はミラー58で反射するよう構成されている。その他の構成については、第一の実施例と同様である。
【0066】
上記のような構成においては、反射ミラー57と振動ミラー10において、ミラーおよび支持材が同一厚みの同一材料で構成されるとともに光線の進行方向に対して積層順が逆になっているため、環境温度変化があったときに同一量で逆方向の反りを示す。このため、第一の実施例と同様に結像位置を一定に保つことができるものである。
【0067】
(実施例3)
次に、本発明の第三の実施例について説明する。
【0068】
本実施例においては、反射ミラー57は図7に示すようにミラー58と圧電部材71が接合されて構成されており、圧電部材71には表裏に電極が設けられている。図示しない駆動手段により圧電部材71に電圧を印加すると圧電効果により伸縮するため反射ミラー57には反りが発生する。この反り量は印加する電圧によってコントロールすることが可能であり、また反射ミラー57の反りによってビームの結像位置を変化させることが可能である。即ち、圧電部材71は反射ミラー57の反り量を可変に調整する、反り量調整手段として作用する。その他の構成については、第一の実施例と同様である。
【0069】
上記のような構成において、環境温度が変化すると、振動ミラー10におけるミラー5は振動子支持部4との線膨張係数の差によって反りが発生する。ミラー5に反りが発生すると光軸方向における結像位置が変化し、感光体上でビームが絞れなくなる。振幅検出センサ65は振幅検出用ミラー64を介して感光体を延長した位置に相当する距離に設置されている。したがって、振幅検出センサ65の位置でビームが絞れていると感光体上でもビームを絞れることになる。振幅検出センサ65においてビームが絞れているかどうかは、個々の振幅検出センサ65をビームが通過する時間で判断できる。すなわち、ビームが絞れているとビーム幅が小さいためビームが通過するのに要する時間は小さく、振幅検出センサ65から出力されるパルス幅は狭くなる。一方ビームが絞れていないとビーム幅が大きいためビームが通過するのに要する時間は大きく、振幅検出センサ65から出力されるパルス幅は広くなる。
【0070】
この検出結果に応じて圧電部材71に電圧を印加して反射ミラー57に反りを発生させビームの結像位置を変化させる。ここで振幅検出センサ65におけるパルス幅が所定の値になるように制御してやれば、感光体上でビームを結像できるようにコントロールすることができるものである。この構成によると、圧電材料71への印加電圧によりビームの結像位置を自由に変えることができ制御性がよい。また、ビームの結像状態を調べるのに振動ミラー10の振幅を一定にするための振幅検出センサ65を兼用することができ、安価な構成を可能とする。
【0071】
(実施例4)
次に、本発明の第四の実施例について説明する。
【0072】
本実施例においては、反射ミラー57は図8に示すようにミラー58と保持材59が積層されて接合されており、さらに反射ミラー57には温度調整手段としてのヒータ72が設置されている。ミラー58と保持材59は線膨張係数の異なる材料で構成されており、反射ミラー57はヒータ72により加熱されるとバイメタル効果で反りを発生する。この反り量は反射ミラー57の温度によって変化し、ヒータ72による加熱量によりコントロールでき、反射ミラー57の反りにより、ビームの結像位置を変化させることが可能である。即ち、本施例では、ヒータ72が反射ミラー57の反り量を可変に調整する、反り量調整手段として作用する。その他の構成については、第一の実施例と同様である。
【0073】
上記のような構成において、環境温度が変化すると、振動ミラー10におけるミラー5は振動子支持部4との線膨張係数の差によって反りが発生する。また、反射ミラー57においても同様に反りが発生する。これらのミラーに反りが発生すると光軸方向における結像位置が変化し、感光体上でビームが絞れなくなる。光軸方向における結像状態は、第三の実施例と同様にして、振幅検出センサ65によって検出することが可能である。この振幅検出センサ65の検出結果に応じてヒータ72に通電して反射ミラー57に反りを発生させビームの結像位置を変化させる。振幅検出センサ65におけるパルス幅が所定の値になるように制御してやれば、感光体上でビームを結像できるようにコントロールすることができる。
【0074】
この構成によると、ヒータ72への通電によりビームの結像位置を自由に変えることができ制御性がよい。また、ビームの結像状態を調べるのに振動ミラー10の振幅を一定にするための振幅検出センサ65を兼用することができ、安価な構成を可能とする。
【0075】
ここで、温度制御手段がヒータ72だけだと温度を上昇させる側にだけしか制御できない。このため、温度変化時のそれぞれのミラーの反りに応じて組立時に予め結像位置をオフセットして調整しておき、温度を上昇させたときに感光体上でビームが結像できるよう構成することも可能である。
【0076】
また、温度制御手段にはペルチェ素子などを使用することが可能で、ペルチェ素子によって反射ミラー57の温度を下げる方向にコントロールすることができる。このときには、前記の例とは逆に温度を下げたときに感光体上でビームが結像できるように組立時に予め結像位置をオフセットして調整しておくことも可能である。また、温度制御手段としてヒータ、ペルチェ素子の両方を設置することも可能である。
【0077】
なお、本発明は上述した各実施例に限定される趣旨ではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲において、種々の変形および応用が可能である。例えば、上記実施例では、振動ミラーに永久磁石を搭載し、当該永久磁石に駆動手段が交番磁場を付与する構成を説明したが、振動ミラーの駆動方式は、本発明の効果を奏する範囲において任意に変更することができる。
【0078】
以上説明したように、本発明によれば、振動板とミラーを線膨張係数の異なる材料で構成した振動ミラーを用いる光走査装置において、環境温度が変化したときに発生する振動ミラーの反りに伴うビーム結像位置の変化に対して、反射ミラーの反りでキャンセルすることでビーム結像位置を一定に保つことができ、環境温度に関係なく品質の良好な装置を提供することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明の光走査装置は、画像形成装置、レーザプリンタ、デジタル複写機などに利用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】本発明における振動ミラーの構造を示す概略斜視図。
【図2】本発明における光走査装置の構造を示す概略構成図。
【図3】チタン合金のS−N曲線を示す図。
【図4】環境温度が変化したときのミラーと振動子の反り状態の一例を示す図。
【図5】ミラーによる光線の補正状態を示す模式図。
【図6】本発明の第二の実施例における反射ミラーを示す図。
【図7】本発明の第三の実施例における反射ミラーを示す図。
【図8】本発明の第四の実施例における反射ミラーを示す図。
【符号の説明】
【0081】
1 振動子
2 枠体
3 梁(ねじり回転軸)
4 支持部
5 ミラー
6 永久磁石
10 振動ミラー
50 レーザスキャニングユニット
52 光源
53 偏向器
54 結像レンズ系(アークサインθレンズ)
56 シリンドリカルレンズ
57 反射ミラー
58 ミラー
59 保持部材
64 振幅検出用ミラー
65 振幅検出センサ
71 圧電部材
72 ヒータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光を発する光源と、
線膨張係数の異なる材料が積層されて構成されており、前記光源からの光を反射する反射ミラーと、
線膨張係数の異なる材料が積層されて構成されており、積層面に沿った一の線を軸として往復振動することで、前記反射ミラーから受けた光を反射しかつ走査する振動ミラーと、
前記光源が発した光を像面上に結像させるための光学系と、
を備え、
前記反射ミラーと前記振動ミラーとは、環境温度変化時に、それぞれの光を反射する側に対して互いに逆向きに反り変形するよう構成されたことを特徴とする、光走査装置。
【請求項2】
前記反射ミラーと前記振動ミラーとは、両者ともに光を反射するミラーとそのミラーを保持する保持板とが積層されて構成されており、
前記反射ミラーのミラーと前記振動ミラーのミラーとは同一厚みで同一材料であり、かつ前記反射ミラーの保持板と前記振動ミラーの保持板とは同一厚みで同一材料であるとともに、
前記反射ミラーと前記振動ミラーとではそれぞれの光を反射する側に対して前記ミラーと前記保持板との積層順が互いに逆に構成されている、請求項1記載の光走査装置。
【請求項3】
前記保持板は、
不透明な材料で構成されており、
前記反射ミラー又は前記振動ミラーにおいて前記ミラーに対してその光を反射する側に当該保持板が位置するものであるときには、光線が通過できる領域である透過窓を有した形状であることを特徴とする、請求項2記載の光走査装置。
【請求項4】
光を発する光源と、
前記光源からの光を反射する反射ミラーと、
前記反射ミラーを反り変形させる、かつその反り量が可変である反り量調整手段と、
線膨張率の異なる材料が積層されて構成されており、層面に沿った一の線を軸として往復振動することで、前記反射ミラーから受けた光を層面で反射しかつ走査する振動ミラーと、
前記光源が発した光を像面上に結像させるための光学系と、
を備え、
前記反り量調整手段によって前記反射ミラーの反り量を変化させて前記光源からの光の結像位置を変化させることを特徴とする、光走査装置。
【請求項5】
前記光源が発した光の結像位置を検出する検出手段を備え、
前記検出手段の検出結果に応じて前記反り量調整手段によって前記反射ミラーの反り量を変化させて前記光源からの光の結像位置を変化させる、請求項4記載の光走査装置。
【請求項6】
前記反り量調整手段は、前記反射ミラーと積層されて接合された圧電材料と、前記圧電材料に電圧を印加する駆動手段とを含んで構成されている、請求項4または5に記載の光走査装置。
【請求項7】
前記反り量調整手段は、前記反射ミラーと積層されて接合されかつその反射ミラーとは線膨張率の異なる材料からなる保持材と、前記反射ミラーの温度を変化させる温度調整手段とを含んで構成されている、請求項4または5に記載の光走査装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2010−54651(P2010−54651A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−217664(P2008−217664)
【出願日】平成20年8月27日(2008.8.27)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】