説明

光送信装置及び光送信方法

【課題】
光通信量子暗号のデータ解読に対する安全性を一層強化し、多値強度変調による暗号の盗聴を防止する。
【解決手段】
第1の暗号鍵を用いて第1のRunning鍵を生成するための第1の擬似乱数発生部と、第1の擬似乱数発生部による第1のRunning鍵を用いて、送信するデータをビット単位の多値信号として生成する多値変調信号発生部と、第2の暗号鍵を用いて第2のRunning鍵を生成する第2の擬似乱数発生部と、第2の擬似乱数発生部による第2のRunning鍵を用いて、送信するデータの光搬送波の位相または周波数を変化させる第1の変調器と、第1の変調器によって位相又は周波数が変化された光搬送波を受けて、多値変調信号発生部より生成される多値信号により、光搬送波の光強度基底を変化させた光信号を生成する第2の変調器と、を有し、第2のRunning鍵によって光搬送波の周波数又は位相を経時的、かつランダムに変化させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光送信装置及び光送信方法に係り、特に多値強度変調を用いた光通信量子暗号における、暗号の盗聴に対する安全性の強化に関する。
【背景技術】
【0002】
光通信量子暗号化では、光の量子ゆらぎ(量子ショット雑音)を変調によって拡散させ、盗聴者において光信号を正確に識別できないレベルの受信信号とすることにより、無限の計算能力において識別、データ解読が不能となる共通鍵量子暗号が知られている。
この共通鍵量子暗号は、基底と呼ぶ、送信データを搬送する2値の光信号を1つのセットをM個用意し、何れの基底を使ってデータ送信するかを、暗号鍵に従った擬似乱数によって不規則に決める方式である。
実際には、光の複数個あるM値を量子ゆらぎによって、M値の信号間距離を位相と周波数の時間方向に対して小さくすることにより、盗聴者において受信される暗号信号から当該データを識別、データ解読(正しく復号化を成立)させないようにしている。
【0003】
上記原理に基づく暗号化は、Yuen−2000暗号通信プロトコル(Y−00プロトコルと略称)によるYuen量子暗号と呼ばれている。現在、このY−00プロトコルを具現化した通信方式としては、Northwestern大学のP.KumarやH.Yuenらによって非特許文献1の光位相変調方式が発表されている。
このY−00プロトコルは、光の量子ゆらぎを活用しない(古典Y−00と呼ぶ)の有線/無線通信における従来のストリーム暗号と比較すると、データ解読への安全性強度においては、それよりも高いプロトコルである。
【0004】
また、玉川大学のメンバーによって非特許文献2の光強度変調方式が発表されている。図1は、非特許文献2に記載されたYuen量子暗号送受信機のシステム構成の概略を示す。このシステムは、光信号を送出する送信機100と、光信号を受信する受信機105が、光ファイバー等の伝送路である通過路104を介して接続される。
送信機100は、送信データを発生する送信データ発生部103と、暗号鍵Kの入力により擬似乱数を発生しRunning鍵を発生する擬似乱数発生部102と、擬似乱数発生部102で生成されたRunning鍵を用いて、送信データ発生部103からの送信データをビット単位の多値信号として生成する多値光生成部101と、を有して構成される。また、受信機105は、直接検波方式の汎用受信機や同方式における雑音に対する復号化精度の高いヘテロダイン受信機などが用いられる場合がある。
【0005】
図2は、暗号鍵の情報を送信機と共有している正規受信者、および暗号鍵の情報を共有していない盗聴者に対するデータと閾値の関係を示す。
送信機100は暗号鍵の情報により、2値データを多値の信号レベルに変換する。例えば、8値の信号レベルに変換する場合を想定すると、正規受信者は、暗号鍵を送信機と共有しているため信号が基底A〜Dのいずれにあるか認識しており、信号の遷移に追従して閾値を(a)に示すように、閾値1〜閾値4のいずれかに設定することができる。ここで、Aの信号レベル「4」と「8」のペア、Bの信号レベル「3」と「7」のペア、Cの信号レベル「2」と「6」のペア、Dの信号レベル「1」と「5」のペアを、1つのセットとする2値の基底と呼んでいる。
【0006】
盗聴者は、暗号鍵を送信機と共有していないので、信号レベルが何れのレベルにあるか認識できない。このため、(b)に示すように、隣接の信号レベル間に多数の閾値からレベルを認識する必要がある。
例えば、7つの閾値からレベルを認識としたと仮定すると、接検波方式の主な雑音は「量子ゆらぎ(量子ショット雑音)」と「熱雑音」であり、ヘテロダイン方式の雑音は「量子ゆらぎ(量子ショット雑音)」となる。
【0007】
図3に示すように、受信機における信号レベル7と信号レベル8について注目すると、ヘテロダイン方式(一点鎖線)は、直接検波方式に比べて、信号を中心とする雑音のすそのがより狭くなることから、信号の誤りが改善されて減少する。
このことから、盗聴者が使用する受信機としては、信号の誤りが減少する効果を利用して盗聴、及びデータ解読をするため、ヘテロダイン受信機を用いることが想定される。
ヘテロダイン受信機を用いた盗聴者によるデータ解読は、以下に示す様な構成を含む手順によって実施されることが想定される。
【0008】
(ステップ1)光搬送波周波数f1(Hz)を有する受信信号、光搬送波周波数f2(Hz)を有する局部発振器の出力を合波器でミキシング(乗算)する。
(ステップ2)ミキシングされた光信号を光/電気変換部で電気信号に変換する。
(ステップ3)中間周波増幅器のバンドパスフィルタで、算出式(|f1−f2|)にて光搬送波周波数の低周波成分を取り出して増幅する。
(ステップ4)バンドパスフィルタで取り出された低周波成分を復調器で再生する。
【0009】
ここで、局部発信器の光電力を受信信号の光電力よりも大きくした場合は、受信機側の回路で発生する熱雑音の影響が無視できるようになるので、光/電気変換において、量子力学的に必ず生じる量子ゆらぎ(量子ショット雑音)のみを有する状態とすることができる。
【0010】
ヘテロダイン受信機を用いたデータ解読に対して安全性が確保できれば、直接検波方式の受信機を用いた盗聴の場合でも安全性は保障されることになる。
例えば、非特許文献3によれば、局部発振機と信号に位相誤差があって、その位相誤差が分散σ2を有するガウス分布であると仮定した場合、符号誤り率は標準偏差σに大きく依存すると述べている。すなわち、信号に位相雑音を付加することで、データ解読できないシステムを作ることが出来ることが分かる。
【0011】
しかし、非特許文献4によれば、送信機の光搬送波は単一周波数であり、盗聴者の受信機を直接検波方式として符号誤り率を評価しているが、送信端にて0[ゼロ](dBm)(dBmは、mW基準の絶対値表現で0dB=1mW)においての符号誤り率0.1以上の結果が得られている。これは、データ誤りの確率が10分の1以上を意味しており、ヘテロダイン受信機を用いた場合は、直接検波方式より受信感度が良好となる構成であることから、盗聴、及びデータ解読される可能性がある。
【0012】
さらに、特許文献1(特開2006−303927公報)では、光搬送波が単一周波数であるため、非特許文献4と同様に、ヘテロダイン受信機が用いられた場合は、データ解読をされてしまう可能性がある。
【0013】
【非特許文献1】G.A.Barbosa, E.Corndorf, P.Kumar, H.P.Yuen, “Secure communication using mesoscopic coherent state,” Phys. Rev. Lett. vol−90, 227901, (2003年)
【非特許文献2】O.Hirota, K.Kato, M.Sohma, T.Usuda, K.Harasawa, “Quantum stream cipher based on optical communication” SPIE Proc. on Quantum Communications and Quantum Imaging vol−5551, (2004年)
【非特許文献3】大越孝敬、菊池和朗著、「コヒーレント光通信工学」、オーム社、1989年
【非特許文献4】圷重人 他著、“光強度変調方式 2.5Gbit/s 光通信量子暗号伝送装置(Y−00)の開発”、2006電子情報通信学会総合大会、B−10−41.
【特許文献1】特開2006−303927公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、光通信量子暗号のデータ解読に対する安全性を一層強化し、多値強度変調による暗号の盗聴を防止することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明に係る光送信装置は、好ましくは、多値強度変調による光通信量子暗号を用いて、データを光信号に変調して送信する光送信装置であって、第1のRunning鍵を生成するための第1の擬似乱数発生部と、該第1の擬似乱数発生部によって生成された該第1のRunning鍵を用いて、送信するデータをビット単位の多値信号として生成する多値変調信号発生部と、ランダム鍵を生成するランダム鍵発生部と、該ランダム鍵発生部によって生成された該ランダム鍵を用いて、送信するデータの光搬送波の位相または周波数を変化させる第1の変調器と、該第1の変調器によって、位相又は周波数が変化された光搬送波を受けて、該多値変調信号発生部より生成される多値信号により、該光搬送波の光強度基底を変化させた光信号を生成する第2の変調器と、を有することを特徴とする光送信装置として構成される。
【0016】
好ましい例では、前記ランダム鍵発生部は、第2の暗号鍵を用いて、第2のRunning鍵を生成する第2の擬似乱数発生部であり、
前記第1の変調器は、該第2の擬似乱数発生部によって生成された該第2のRunning鍵を用いて、送信するデータの光搬送波の位相または周波数を変化させる。
【0017】
また、他の好ましい例では、前記ランダム鍵発生部は、雑音を発生する雑音源と、該雑音源から生じる雑音を増幅する増幅部とを含み、
前記第1の変調器は、該雑音増幅部で増幅された雑音を用いて、送信するデータの光搬送波の位相または周波数を変化させる。
【0018】
また、好ましくは、前記第1の変調器は、複数nのレーザと、該レーザを駆動する複数のレーザドライバと、該レーザの出力を合成する複数のカプラとを有する周波数変調器であり、前記第2の擬似乱数発生部からの前記第2のRunning鍵によって該複数nのレーザドライバの内の任意の複数m(但しm<n)を選択し、選択されたレーザドライバによって駆動されたレーザの出力を該カプラで合成して、合成された光搬送波を前記第2の変調器へ出力する。
【0019】
また、好ましくは、前記第1のRunning鍵と前記第2のRunning鍵は異なる鍵が用いられ、前記第1の変調器は、光搬送波の周波数または位相を、経時的かつランダムに切り換えて変化させる。
【0020】
また、好ましくは、前記第1の擬似乱数発生部と前記第2の擬似乱数発生部は、異なるハードウェア回路で構成され、前記第1の変調器は、光搬送波の周波数または位相を、経時的かつランダムに切り換えて変化させる。
【0021】
また、好ましくは、前記第1の変調器は周波数変調器であり、該周波数変調器は、該第2のRunning鍵の印加によって、送信された光信号を受信するヘテロダイン受信機が有する中間周波増幅器のバンドパスフィルタの周波数帯域外となる周波数の光搬送波を出力する。
【0022】
また、好ましくは、前記第1の変調器は周波数変調器であり、該周波数変調器は、該該第2のRunning鍵の印加によって、
光搬送波の周波数fc(Hz)、周波数変動Δfc(Hz)とした場合、
fc−Δfc 〜 fc+Δfc
の周波数範囲(Hz)で、経時的且つランダムに変化した周波数の光搬送波を出力する。
【0023】
また、好ましくは、前記第1の変調器は位相変調器であり、該位相変調器は、該第2のRunning鍵の印加によって、
光搬送波の位相φc(radian)、位相変動Δφc(radian)とした場合、
φc−Δφc 〜 φc+Δφc(t)
の位相範囲(radian)で、経時的且つランダムに変化した位相の光搬送波を出力する。
【0024】
また、好ましくは、前記第1の変調器はマッハツェンダ位相変調器であり、
該マッハツェンダ位相変調器の電気信号入力ポートに、該第2のRunning鍵の多値電圧を入力して、該第2のRunning鍵の多値電圧値に従って該光搬送波の位相をランダムに変化させる。
【0025】
本発明に係る光送信方法は、好ましくは、多値強度変調による光通信量子暗号を用いて、データを光信号に変調して送信する光送信方法であって、第1のRunning鍵を生成する第1の擬似乱数発生ステップと、該第1の擬似乱数発生ステップによって生成された該第1のRunning鍵を用いて、送信するデータをビット単位の多値信号として生成する多値変調信号発生ステップと、ランダム鍵を生成するランダム鍵発生ステップと、該ランダム鍵発生ステップによって生成された該ランダム鍵を用いて、送信するデータの光搬送波の位相または周波数を変化させる第1の変調ステップと、該第1の変調ステップによって、位相又は周波数が変化された光搬送波を受けて、該多値変調信号発生ステップにより生成される多値信号により、該光搬送波の光強度基底を変化させた光信号を生成する第2の変調ステップと、を有することを特徴とする光送信方法として構成される。
【0026】
好ましい例では、本発明に係る光送信方法は、多値強度変調による光通信量子暗号を用いて、データを光信号に変調して送信する光送信方法であって、第1の暗号鍵を用いて第1のRunning鍵を生成するステップと、生成された該第1のRunning鍵を用いて、送信するデータをビット単位の多値信号として生成するステップと、第2の暗号鍵を用いて、第2のRunning鍵を生成するステップと、生成された該第2のRunning鍵を用いて、送信するデータの光搬送波の位相または周波数を変化させるステップと、位相又は周波数が変化された光搬送波を受けて、前記多値変調信号の生成ステップで生成される多値信号により、該光搬送波の光強度基底を変化させた光信号を生成するステップと、を有することを特徴とする光送信方法として構成される。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、光通信量子暗号のデータ解読に対する安全性を一層強化し、多値強度変調による暗号の盗聴を防止することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、図面を参照して、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。
本発明の実施例を説明する前に、図4を参照して、一般的なヘテロダイン受信機の構成について説明しておきたい。
図4において、送信装置から送信された光信号である受信信号f1は、合波器200で、局部発信器201で発生された所定の周波数f2と合成され、光/電気変換器202で電気信号に変換される。電気信号は、中間周波増幅器203で特定の共振周波数(バンドパス特性)で共振して増幅され、復調器204で復調されて、正規の受信データが生成される。
【0029】
まず、本発明による送信装置の原理について説明する。送信装置側で、特徴的な多値強度変調によるデータの暗号化を行えば、仮に、盗聴者が図4のヘテロダイン受信機を用いて、本発明による暗号化データを受信した場合でも、その解読(即ち正しい復号化の成立)が極めて困難である。
【0030】
一例として、光搬送波の周波数fc(Hz)、周波数変動Δfc(Hz)とした場合、
fc−Δfc 〜 fc+Δfc(Hz) ・・・(1)
これらを(1)の周波数範囲(Hz)にて経時的、且つランダムに変動させる。
【0031】
他の例として、光搬送波の位相φc(radian)、位相変動Δφc(radian)とした場合、
φc−Δφc 〜 φc+Δφc(t) ・・・(2)
これらを(2)の位相範囲(radian)にて経時的、且つランダムに変動させる。
【0032】
例えば、周波数変動の場合は、
| f1 − f2 | (Hz) ・・・(3)
この場合は(3)により、中間周波増幅器203のバンドパスフィルタの周波数帯域外(図4)にすることができる。
【0033】
データ解読に対しては経時的、且つランダムに変動させることで、擬似乱数系列を用いた場合、若しくは外部雑音源を用いた場合でも、暗号化に対する安全性の強化としては一定の条件で同等とすることができる。
その条件とは、光搬送波の周波数変動分Δfc(Hz)、又は光搬送波の位相変動分Δφc(radian)について、受信機の局部発信器の周波数可変範囲よりΔfc(Hz)が広範囲まで変動させられること。さらに、局部発信器が応答できない高速度で位相変動Δφc(radian)の変動させられることである。
【0034】
上記の周波数又は位相の変動の機能は、図5に示すように、送信装置のレーザ59から発生される光搬送波(連続光)の周波数又は位相を変調する変調機構500によって実現される。この周波数又は位相変調機構500の詳細例については、図7及び図9を参照して後述する。ここでは、送信装置の概略的な構成について述べておきたい。
【0035】
送信装置は、暗号鍵513からRunning鍵を生成する擬似乱数発生部512と、擬似乱数発生部512で生成されたRunning鍵を用いて、送信データをビット単位の多値信号として生成する多値変調電気信号発生部511と、周波数又は位相変調機構500からの位相又は周波数が変調された光信号を受け、多値変調電気信号発生部511で生成される多値信号により、光信号の光強度基底を変化させた光信号を生成する強度変調器52と、を有して構成される。ここで、擬似乱数発生部512や多値変調電気信号発生部511は、従来の光送信機(例えば図1の)が有している機能と同様のものである。
【0036】
次に、図6を参照して、光搬送波の周波数変動及び位相変動について説明する。
図6において、(a)は基準光搬送波、(b)は基準光搬送波に対してΔfc(Hz)周波数を変動した光搬送波、(c)は基準光搬送波に対してΔφc(radian)位相を変動させた光搬送波を示す。
送信装置側で基準光搬送波の周波数又は位相を経時的、かつランダムに変動させると、ヘテロダイン受信機(図4)では、受信した光信号に対して特定の共振周波数f2で共振が発生しなくなる。そのため、受信信号の正しい復号化(盗聴)が成立せず、送信データの暗号化の安全性を一層強化することできる。
【0037】
[実施例1]
図7は、一実施例による基準光搬送波の周波数を変動させる送信装置の構成例を示す。
図7において、暗号鍵713からRunning鍵1を生成する擬似乱数発生部712と、擬似乱数発生部712で生成されたRunning鍵1を用いて、送信データをビット単位の多値信号として生成する多値変調電気信号発生部711、及び光信号の光強度基底を変化させた光信号を生成する強度変調器72は、図5の暗号鍵513、擬似乱数発生部512、多値変調電気信号発生部511、及び強度変調器52と同様である。
【0038】
更に、暗号鍵2(73)を用いてRunning鍵2を生成する擬似乱数発生部72と、周波数変調器70を備える。周波数変調器70は、複数(n個)のレーザ(LD)に対応して、それらを駆動する複数のレーザドライバ702と、レーザ703の出力である連続光を加算する複数のカプラ704を有して構成される。
【0039】
擬似乱数発生部72で発生されるRunning鍵2に従って、少なくとも2個以上のレーザドライバ702を選択して、その対応するレーザ703を経時的にオン/オフする。これにより発生する連続光を経時的にカプラ704で加算して、それを強度変調器303に与える。
これにより、強度変調器52に与えられる連続光は、図10のように、基準周波数の連続光(a)に対して、周波数がf〜f3・・のように変動した信号となる。
【0040】
例えば、それぞれ出力パワーが等しいn個のレーザ703を用いた場合、経時的に同時にオンする任意の2個のレーザ703を、それぞれLD-i、LD-jとし、他の(n−2)個のレーザ703をオフ状態とする。
【0041】
経時的に同時にONしたレーザ703の出力が、(4)で表される場合、
【0042】
【数1】

強度変調器52の入力信号は、(5)となる。
【0043】
【数2】

ここで、(6)は、変換された光搬送波周波数(Hz)、(7)は、同包短線成分の周波数(Hz)である。
【0044】
【数3】

【0045】
【数4】

図8は、レーザ703およびレーザドライバ702の動作速度とヘテロダイン受信機の局部発信器201の応答速度による光搬送波周波数の関係を示す。
レーザ703およびレーザドライバ702の動作速度は光搬送波周波数が0.1fになる速度が35(ps)、ヘテロダイン受信機の局部発信器201の応答速度が0.1fになる速度が140(ps)である。
【0046】
時間tにおける光搬送波周波数はf、局部発信器周波数はf'であり、
【0047】
【数5】

つまり、レーザ703およびレーザドライバ702の動作速度がヘテロダイン受信機の局部発信器201の応答速度より速い場合、光搬送波の周波数の変化にヘテロダイン受信機が追従できなくなる。そのために、式(8)の場合は中間周波増幅器203(図4)のバンドパスフィルタの周波数帯域外にすることが可能となる。従って、レーザの出力レベルは小さくなり、受信信号は正確に復号化はできない。
【0048】
一方、ヘテロダイン受信機の局部発信器203の応答速度よりレーザ703、レーザドライバ702の動作速度が遅い場合でも、局部発信器201の動作周波数範囲より(6)の変動幅が大きいならば、バンドパスフィルタの周波数帯域外にすることが可能となる。そのため、ヘテロダイン受信機を用いた場合においても、正しい復号化を成立(暗号の盗聴)させなくすることができる。
【0049】
次に、具体的数値を用いて、実施例を説明する。
中間周波増幅器203のバンドパスフィルタの伝達関数H(f)は、
【0050】
【数6】

【0051】
【数7】

f:周波数(Hz)、f0=|f1−f2|:中間周波数(Hz)、Q:尖鋭度(10〜100)、
Vout:復調器出力レベル(V)、Vin:中間周波増幅器入力レベル(V)、
G:中間周波増幅器の利得(倍)
レーザ504の周波数をITU-T Recommendation G.692で規定されているLD504の周波数を用い、Q=100、Vin=0.1(V)、G=10(倍)、f2=193.339(THz)の中間周波増幅器203を想定する。
【0052】
特許文献1又は非特許文献4に記載のように、単一周波数193.4(THz)のLDを1個用いた時の中間周波数はf0=|193.4−193.339|=1(GHz)、(9)は、
|H(f)|=1となる。(10)よりVout=1(V)となる。
【0053】
LD-i=193.4(THz)、fLD-j=192.7(THz)のLDを2個用いた場合(6)より、f=(193.4+192.7)/2=193.05(THz)となり、(9)は|H(f)|=2.86×10−5、(10)よりVout=2.86×10−5(V)となり、復調器204(図4)に信号はほとんど入力されず、データの復調は期待できない。
【0054】
ヘテロダイン受信機の局部発信器201の応答速度よりレーザ703、レーザドライバ702の動作速度が遅い場合について、具体的数値を用いて説明する。
光搬送波周波数の可変範囲が193.4(THz)±0.1(THz)、局部発振器201の周波数可変範囲が193.399(THz)±0.05(THz)であった場合、中間周波数は、|(193.4±0.1)−(193.339±0.05)|=‐49(GHz)〜51(GHz)となる。中間周波増幅器203の条件が上記である場合、Vin=0.2(mV)となり、復調器204に入力される信号はデータの復調に期待できない程度しか入力されない。
【0055】
本実施例において、暗号鍵713と暗号鍵73、擬似乱数発生部712と擬似乱数発生部72は、同じ回路でも良好に機能する。しかし、光通信量子暗号化による安全性の強化の観点から、暗号鍵1と暗号鍵2を異ならしめ、及び又は擬似乱数発生部1と2を異なるハードウェア回路で構成するのが好ましい。また、擬似乱数発生部1と擬似乱数発生部2は非同期に独立的に動作させることが望ましい。
【0056】
また、上記例では、Running鍵2にて2個のレーザドライバ702を選択するようにしたが、2個に限らず、3個以上の複数個でもよい。
また、各レーザ703の出力パワーはそれぞれ等しいとしたが、各レーザの出力パワーは適当に異なってもよい。
【0057】
[実施例2]
図9は、他の実施例(実施例2)による、基準光搬送波の位相を変動させる送信装置の構成例を示す。
レーザ59から常時出力される光搬送波(連続光)が位相変調器90に入力される。
例えば、Running鍵2の出力は、多値の電圧であり、+0〜+4(Vpp)までの1024段階ステップにおいて、ランダムな電圧値を設定した場合、ステップ単位には、4(Vpp)÷1024(ステップ)≒3.9m(Vpp/ステップ)となることから、位相変調器90には、マッハツェンダ位相変調器を使用することが望ましい。
【0058】
具体的には、マッハツェンダ位相変調器の電気信号入力ポートにRunning鍵2の多値電圧を入力すると、LD59からの位相がそろった連続光の位相をRunning鍵2の多値電圧値に従い、ランダムに変化させることが出来る。
【0059】
暗号鍵73によってRunning鍵2を生成する擬似乱数発生部72の構成は、図7と同様である。また、暗号鍵713によってRunning鍵1を生成する擬似乱数発生部711、及びRunning鍵によって多値信号の基調を変化させる多値変調電気信号発生部711の構成も図7と同様である。
【0060】
この例によれば、図11に示すように、基準光搬送波(a)に対して、位相変調器90で、Δφ0〜Δφc(radian)の位相変調した多値位相変調信号光(b)が生成され、その多値位相変調信号光を強度変調器92で多値強度変調して光ファイバ104に送出する。
【0061】
上記したように、好ましい実施例によれば、光搬送波とヘテロダイン受信機(図4)における局部発信器201の周波数差を中間周波増幅器203の周波数帯域外に設定する(実施例1)、又はヘテロダイン受信機における局部発信器201の応答速度よりレーザドライバ59の動作速度を速くするように位相を制御する(実施例2)ことにより、多値強度変調による暗号化に対する安全性の強化を図ることができる。而して、ヘテロダイン受信機を用いた場合においても、正しい復号化を成立(暗号の盗聴)させなくすることができる。
【0062】
[実施例3]
図12は、実施例1の送信装置におけるRunning鍵2の発生手段に代えて雑音源を用いた例である。
すなわち、図7の送信装置において、暗号鍵2、擬似乱数発生部72の出力であるRuning鍵2に代えて、物理的雑音源74と、その雑音を増幅する雑音増幅部75を設け、雑音増幅部75で増幅された雑音を周波数変調器70に与える。物理的雑音源74は、電圧や熱による環境により規則性が保たれることがなく、この物理的雑音源74と雑音増幅部75を用いることで、安全性が強化された送信装置を構成することができる。
【0063】
[実施例4]
図13は、実施例2の送信装置におけるRunning鍵2の発生手段に代えて雑音源を用いた例である。
すなわち、図9の送信装置において、暗号鍵2、擬似乱数発生部72の出力であるRuning鍵2に代えて、物理的雑音源74と、その雑音を増幅する雑音増幅部75を設け、雑音増幅部75で増幅された雑音を位相変調器90に与える。物理的雑音源74は、電圧や熱による環境により規則性が保たれることがなく、この物理的雑音源74と雑音増幅部75を用いることで、安全性が強化された送信装置を構成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】Yuen量子暗号送受信機のシステム構成の概略を示す図。
【図2】正規受信者と盗聴者のデータと閾値の関係を示す図。
【図3】受信機における直接検波方式とヘテロダイン方式の信号レベルの比較を示す図。
【図4】一般的なヘテロダイン受信機の構成を示す図。
【図5】一実施例による送信装置の構成を示す図。
【図6】一実施例における光搬送波の波形を示す図。
【図7】一実施例(実施例1)による送信装置の構成を示す図。
【図8】一実施例におけるLD動作速度および局部発信器への応答速度を示す図。
【図9】一実施例(実施例2)による送信装置の構成を示す図。
【図10】実施例1における光搬送波の光周波数特性を示す図。
【図11】実施例2における光搬送波の位相特性を示す図。
【図12】実施例3による送信装置の構成を示す図。
【図13】実施例4による送信装置の構成を示す図。
【符号の説明】
【0065】
500:周波数又は位相変調機構 511:多値変調電気信号発生部 512:擬似乱数発生部 513:暗号鍵 104:光ファイバ 52:強度変調器
70:周波数変調器 702:LD Driver 703:LD 704:カプラ 72:擬似乱数発生器2、 73:暗号鍵2 713:暗号鍵1 712:擬似乱数発生部1 711:多値変調電気信号発生部 52:強度変調器 104:光ファイバ 90:位相変調器 74:物理的雑音源 75:雑音増幅部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多値強度変調による光通信量子暗号を用いて、データを光信号に変調して送信する光送信装置であって、
第1のRunning鍵を生成するための第1の擬似乱数発生部と、該第1の擬似乱数発生部によって生成された該第1のRunning鍵を用いて、送信するデータをビット単位の多値信号として生成する多値変調信号発生部と、
ランダム鍵を生成するランダム鍵発生部と、該ランダム鍵発生部によって生成された該ランダム鍵を用いて、送信するデータの光搬送波の位相または周波数を変化させる第1の変調器と、
該第1の変調器によって、位相又は周波数が変化された光搬送波を受けて、該多値変調信号発生部より生成される多値信号により、該光搬送波の光強度基底を変化させた光信号を生成する第2の変調器と、を有することを特徴とする光送信装置。
【請求項2】
前記ランダム鍵発生部は、第2の暗号鍵を用いて、第2のRunning鍵を生成する第2の擬似乱数発生部であり、
前記第1の変調器は、該第2の擬似乱数発生部によって生成された該第2のRunning鍵を用いて、送信するデータの光搬送波の位相または周波数を変化させることを特徴とする請求項1の光送信装置。
【請求項3】
前記ランダム鍵発生部は、雑音を発生する雑音源と、該雑音源から生じる雑音を増幅する増幅部とを含み、
前記第1の変調器は、該雑音増幅部で増幅された雑音を用いて、送信するデータの光搬送波の位相または周波数を変化させることを特徴とする請求項1の光送信装置。
【請求項4】
前記第1の変調器は、複数nのレーザと、該レーザを駆動する複数のレーザドライバと、該レーザの出力を合成する複数のカプラとを有する周波数変調器であり、前記第2の擬似乱数発生部からの前記第2のRunning鍵によって該複数nのレーザドライバの内の任意の複数m(但しm<n)を選択し、選択されたレーザドライバによって駆動されたレーザの出力を該カプラで合成して、合成された光搬送波を前記第2の変調器へ出力することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかの光送信装置。
【請求項5】
前記第1のRunning鍵と前記第2のRunning鍵は異なる鍵が用いられ、前記第1の変調器は、光搬送波の周波数または位相を、経時的かつランダムに切り換えて変化させることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかの光送信装置。
【請求項6】
前記第1の擬似乱数発生部と前記第2の擬似乱数発生部は、異なるハードウェア回路で構成され、前記第1の変調器は、光搬送波の周波数または位相を、経時的かつランダムに切り換えて変化させることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかの光送信装置。
【請求項7】
前記第1の変調器は周波数変調器であり、
該周波数変調器は、該第2のRunning鍵の印加によって、
送信された光信号を受信するヘテロダイン受信機が有する中間周波増幅器のバンドパスフィルタの周波数帯域外となる周波数の光搬送波を出力することを特徴とする請求項1乃至6のいずれかの光送信装置。
【請求項8】
前記第1の変調器は周波数変調器であり、
該周波数変調器は、該該第2のRunning鍵の印加によって、
光搬送波の周波数fc(Hz)、周波数変動Δfc(Hz)とした場合、
fc−Δfc 〜 fc+Δfc
の周波数範囲(Hz)で、経時的且つランダムに変化した周波数の光搬送波を出力することを特徴とする請求項1乃至7のいずれかの光送信装置。
【請求項9】
前記第1の変調器は位相変調器であり、
該位相変調器は、該第2のRunning鍵の印加によって、
光搬送波の位相φc(radian)、位相変動Δφc(radian)とした場合、
φc−Δφc 〜 φc+Δφc(t)
の位相範囲(radian)で、経時的且つランダムに変化した位相の光搬送波を出力することを特徴とする請求項1乃至6のいずれかの光送信装置。
【請求項10】
前記第1の変調器はマッハツェンダ位相変調器であり、
該マッハツェンダ位相変調器の電気信号入力ポートに、該第2のRunning鍵の多値電圧を入力して、該第2のRunning鍵の多値電圧値に従って該光搬送波の位相をランダムに変化させることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかの光送信装置。
【請求項11】
多値強度変調による光通信量子暗号を用いて、データを光信号に変調して送信する光送信方法であって、
第1のRunning鍵を生成する第1の擬似乱数発生ステップと、
該第1の擬似乱数発生ステップによって生成された該第1のRunning鍵を用いて、送信するデータをビット単位の多値信号として生成する多値変調信号発生ステップと、
ランダム鍵を生成するランダム鍵発生ステップと、
該ランダム鍵発生ステップによって生成された該ランダム鍵を用いて、送信するデータの光搬送波の位相または周波数を変化させる第1の変調ステップと、
該第1の変調ステップによって、位相又は周波数が変化された光搬送波を受けて、該多値変調信号発生ステップにより生成される多値信号により、該光搬送波の光強度基底を変化させた光信号を生成する第2の変調ステップと、を有することを特徴とする光送信方法。
【請求項12】
多値強度変調による光通信量子暗号を用いて、データを光信号に変調して送信する光送信方法であって、
第1の暗号鍵を用いて第1のRunning鍵を生成するステップと、
生成された該第1のRunning鍵を用いて、送信するデータをビット単位の多値信号として生成するステップと、
第2の暗号鍵を用いて、第2のRunning鍵を生成するステップと、
生成された該第2のRunning鍵を用いて、送信するデータの光搬送波の位相または周波数を変化させるステップと、
位相又は周波数が変化された光搬送波を受けて、前記多値変調信号の生成ステップで生成される多値信号により、該光搬送波の光強度基底を変化させた光信号を生成するステップと、
を有することを特徴とする光送信方法。
【請求項13】
前記第1のRunning鍵と前記第2のRunning鍵として異なる鍵を用いて、光搬送波の周波数または位相を、経時的かつランダムに切り換えて変化させることを特徴とする請求項11の光送信方法。
【請求項14】
光搬送波の周波数を変化させる周波数変調器は、該第2のRunning鍵の印加によって、送信された光信号を受信するヘテロダイン受信機が有する中間周波増幅器のバンドパスフィルタの周波数帯域外となる周波数の光搬送波を出力することを特徴とする請求項11乃至13のいずれかの光送信方法。
【請求項15】
光搬送波の周波数を変化させる周波数変調器は、該該第2のRunning鍵の印加によって、光搬送波の周波数fc(Hz)、周波数変動Δfc(Hz)とした場合、
fc−Δfc 〜 fc+Δfc
の周波数範囲(Hz)で、経時的且つランダムに変化した周波数の光搬送波を出力することを特徴とする請求項11乃至14のいずれかの光送信方法。
【請求項16】
光搬送波の位相を変化させる変調器としてマッハツェンダ位相変調器を用い、
該マッハツェンダ位相変調器は、該第2のRunning鍵の印加によって、
光搬送波の位相φc(radian)、位相変動Δφc(radian)とした場合、
φc−Δφc 〜 φc+Δφc(t)
の位相範囲(radian)で、経時的且つランダムに変化した位相の光搬送波を出力することを特徴とする請求項11乃至13のいずれかの光送信方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−114662(P2010−114662A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−285537(P2008−285537)
【出願日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【出願人】(000233295)日立情報通信エンジニアリング株式会社 (195)
【出願人】(593171592)学校法人玉川学園 (38)
【Fターム(参考)】