説明

光送受信装置の製造方法

【課題】固定用樹脂の温度変化による光軸ズレや素子の破壊等を抑制でき、信頼性の高い光送受信装置の製造方法の提供。
【解決手段】本発明の光送受信装置の製造方法は、平坦なプリント基板の上面に、受発光素子を実装する工程Aと、前記受発光素子と光結合可能に、光導波路を配置し、前記受発光素子の全体と、前記光導波路の端部とを覆うように、前記プリント基板の上面に内側樹脂層を設ける工程Bと、前記内側樹脂層を覆うように、前記内側樹脂層よりも屈折率が低い中間樹脂層を設ける工程Cと、前記中間樹脂層を覆うように、熱伝導性フィラーを含有する外側樹脂層を設ける工程Dと、を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光素子、受光素子と光導波路を結合してなる光送受信装置の製造方法に関する。本発明の光送受信装置の製造方法によって製造された光送受信装置は、スーパーコンピュータ、サーバコンピュータ、ルータ装置などの高速通信機器、自動車内光配線、携帯電話機などの小型電子機器に用いられる。
【背景技術】
【0002】
近年、サーバなどの高速通信機器、自動車内光配線、携帯電話機などの小型電子機器に光配線が適用されつつある。これらの機器は、小型化と低コスト化がすすみ、それに伴い、光送受信装置にも小型化と低コスト化の要求が強い。低コスト化と小型化を達成するため、従来より様々な構造の光送受信装置が提案されている。
【0003】
従来の光送受信装置の構造の一つとして、発光素子と受光素子と光導波路とを、高分子材料で覆って固定するものが提案されている(例えば、特許文献1,2参照。)。
特許文献1には、受光素子又は発光素子の受・発光部と光ファイバなどの光導波路端を紫外線硬化樹脂で結合する構造が開示されている。このように、受光素子又は発光素子と光導波路を、高分子材料で覆って一体化する構造は、小型化、低コスト化に有利である。
特許文献2には、光導波路を接着剤でサブマウントに固定し、基板上に実装された発光素子に位置を合わせ、固定する構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−245861号公報
【特許文献2】特開昭61−231514号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前述した特許文献1,2の従来技術では、固定のために使用している紫外線硬化樹脂や接着剤の線膨張係数が大きいため、樹脂剥がれが生じたり、受光素子又は発光素子に強い応力が加わるおそれがある。その結果、光軸ズレや、受光素子又は発光素子の破損が起こる可能性がある。
【0006】
本発明は、前記事情に鑑みてなされ、固定用樹脂の温度変化による光軸ズレや素子の破壊等を抑制でき、信頼性の高い光送受信装置の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するため、本発明は、平坦なプリント基板の上面に、受発光素子を実装する工程と、前記受発光素子と光結合可能に、光導波路を配置し、前記受発光素子の全体と、前記光導波路の端部とを覆うように、前記プリント基板の上面に内側樹脂層を設ける工程と、前記内側樹脂層を覆うように、前記内側樹脂層よりも屈折率が低い中間樹脂層を設ける工程と、前記中間樹脂層を覆うように、熱伝導性フィラーを含有する外側樹脂層を設ける工程と、を有することを特徴とする光送受信装置の製造方法を提供する。
【0008】
本発明の光送受信装置の製造方法において、前記受発光素子を実装する工程において、前記受発光素子を、その発光または受光方向が、前記プリント基板の上面と交差する方向に実装し、前記光導波路の少なくとも端部を、前記発光または受光方向に沿って配置することもできる。
【0009】
本発明の光送受信装置の製造方法において、前記内側樹脂層を設ける工程において、前記内側樹脂層に、通信光に対して透明なフィラーを混合することもできる。
【0010】
本発明の光送受信装置の製造方法において、前記中間樹脂層を設ける工程において、前記中間樹脂層に、通信光に対して透明なフィラーを混合することもできる。
【0011】
本発明の光送受信装置の製造方法において、前記光導波路は、石英ガラスからなる光ファイバであり、この光ファイバ端を覆う内側樹脂層の波長850nmにおける屈折率が1.45以上1.55以下であることが好ましい。
【0012】
本発明の光送受信装置の製造方法において、前記光導波路は、ポリマークラッドファイバとすることもできる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の光送受信装置の製造方法によれば、素子と光導波路を複数の樹脂層で固定する構造とし、且つ最外層の樹脂層に熱伝導性フィラーを含有させたものなので、発光素子又は受光素子の放熱を促進でき、固定樹脂の温度上昇を抑制し、温度変化による樹脂の膨張・収縮に伴う光軸ズレや素子の破損を抑制することができる。
また、内側樹脂層、又は内側樹脂層と中間樹脂層に、通信光に対して透明なフィラーを混合したことによって、受光素子又は発光素子と光導波路を固定する樹脂の線膨張係数を小さくすることができ、光軸ズレや素子の破損をさらに抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の光送受信装置の第1実施形態を示す要部断面図である。
【図2】本発明の光送受信装置の第2実施形態を示す要部断面図である。
【図3】実施例で行ったヒートサイクル試験の温度条件を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
図1は、本発明の光送受信装置の第1実施形態を示す要部断面図である。図1中、符号1は光送受信装置、2はプリント基板、3は発光素子又は受光素子(以下、受発光素子と記す)、4は発光部又は受光部(以下、受発光部と記す)、5は光導波路、6は内層樹脂層、7は外層樹脂層、8は熱伝導性フィラーである。
【0016】
本実施形態において、プリント基板2としては、従来より周知の各種プリント基板、例えばフレキシブルプリント基板、リジッドプリント基板、リジッド−フレキ基板などの中から適宜選択して用いることができる。このプリント基板2表面の所定の実装位置には、受発光素子3を実装するための電極パッドが設けられていることが好ましい。このプリント基板2上には、受発光素子3が実装されるだけでなく、駆動用のICやLSI、液晶表示素子などの種々の電子機器や、これらを電気的に接続する回路(配線)などを適宜設けることができる。
【0017】
本実施形態において、受発光素子3としては、面発光レーザ(以下、VCSELと記す。)、レーザダイオード(以下、LDと記す。)、発光ダイオード(LED)などの発光素子、フォトダイオード(以下、PDと記す。)などの受光素子を用いることができる。
【0018】
本実施形態において、受発光素子3は、図1に示すようにプリント基板2の上面(実装面)に実装された状態で、その受発光部4の受発光方向がプリント基板2の上面と直交する、又はほぼ直交する構造となっている。このような構造を持つ発光素子で、サーバなどの高速通信機器、自動車内光配線、携帯電話など小型電子機器に適用できる発光素子としては、例えば、VCSELがある。前記の構造をしたVCSELは、受発光方向に対して低背であり、従来のLDと比較し価格が安いという特徴を持つ。また素子構造上、発光閾値電流が低く、その結果、消費電力が低いという特徴がある。前記の用途では、低価格で低消費電力の光源は、大きな利点である。
【0019】
本実施形態において、光導波路5としては、シート型光導波路やファイバ型光導波路などを用いることができる。特にファイバ型光導波路は、長尺の導波路を作製することが可能であり、安価に光導波路を得ることができるので有利である。ファイバ型光導波路としては、石英ガラスファイバ、プラスチックファイバなどを用いることができる。また、石英ガラスファイバの一種であるが、光を導波させるコアが石英ガラスからなり、コア周辺のクラッド部がポリマーからなるポリマークラッドファイバを用いることもできる。これらのファイバ型導波路は、ケーブル化、テープ化するなどして複数本を一括して実装することもできる。また、クラッド部がポリマーからなるポリマークラッドファイバは、ファイバを構成するガラス部分の径が小さいため、ファイバをより小さい曲率で曲げることができる。
【0020】
本実施形態において、プリント基板2に実装された受発光素子3の全体と、その受発光部4に近接した光導波路5の端部とは、内側樹脂層6によって覆われ、また内側樹脂層6の外側は、熱伝導性フィラー8を含有する外側樹脂層7で覆われることによって固定されている。
【0021】
内側樹脂層6としては、エポキシ系樹脂、アクリル系樹脂、シリコーン系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリシラン系樹脂などを用いることができる。硬化方法は、UV硬化型、熱硬化型、二液混合(化学反応)硬化型、水分反応硬化型などがある。特に、UV硬化型樹脂は硬化時間が短く、硬化中に光導波路と受発光素子との位置ずれが起きにくいため、望ましい。
【0022】
また、内側樹脂層6の硬化後の屈折率が光導波路5のコアと同値の樹脂を用いることで、フレネル反射を防ぎ、受発光素子3と光導波路5との結合損を少なくすることができる。例えば、光導波路5として石英ガラス光ファイバを用いる場合、内側樹脂層6の硬化後屈折率は、1.40〜1.60の範囲のもの、より好ましくは1.45〜1.55の範囲のものを用いることが望ましい。
この内側樹脂層6を形成するには、未硬化の樹脂液を所定の箇所に滴下し、UV光照射などの手段により硬化させることによって形成できる。樹脂液の滴下には、ディスペンサなどを用いることができる。
【0023】
外側樹脂層7としては、熱伝導性フィラー8を含有していること以外は特に限定されず、例えば、内側樹脂層6と同様の樹脂に熱伝導性フィラー8を混合した材料を用いることができる。熱伝導性フィラー8の材料、形状は特に制限されず、例えば、カーボンフィラーなどを用いることができる。このように外側樹脂層7に熱伝導性フィラー8を混合することにより、受発光素子3から生じた熱を外部に放熱する効果が高められる。その結果、受発光素子3の発熱に起因する内側樹脂層6の温度変化が小さくなり、光軸ズレや、受発光素子3の破損といった問題を解決できる。
【0024】
図2は、本発明の光送受信装置の第2実施形態を示す要部断面図である。本実施形態の光送受信装置11は、前述した図1に示す第1実施形態の光送受信装置1と同様の構成要素を備えており、同じ構成要素には同一符号を付している。
本実施形態の光送受信装置11は、プリント基板2に実装された受発光素子3の全体と、その受発光部4に近接した光導波路5の端部とを、内側樹脂層6で覆い、該内側樹脂層6を中間樹脂層9で覆い、更に該中間樹脂層9を、熱伝導性フィラー8を含有する外側樹脂層7で覆った3層の樹脂被覆を有する構造になっている。
【0025】
本実施形態において、3層の樹脂層のうち、内側樹脂層6の屈折率を中間樹脂層9よりも高くした構成としてもよい。この構造とすることで、内側樹脂層6と中間樹脂層9でコア・クラッド構造となり、受発光素子3と光導波路5の結合効率が向上する。また、外側樹脂層7に前述した熱伝導性フィラー8を混合することにより、受発光素子3から生じた熱を外部に放熱する効果が高められ、受発光素子3の発熱に起因する内側樹脂層6及び中間樹脂層9の温度変化が小さくなる。
この場合、中間樹脂層9は、内側樹脂層6と同様、通信光に対して透明な樹脂で構成される。透明樹脂の材質は特に制限されないが、エポキシ樹脂、アクリル樹脂などを用いることができる。
【0026】
また本実施形態において、3層の樹脂層のうち、内側樹脂層6(及び中間樹脂層9)に透明性フィラーを混合した構成としてもよい。内側樹脂層6(及び中間樹脂層9)の透明性フィラーにより、受発光素子3と光導波路5端の結合部の線膨張係数が下がり、効果的に光軸ズレや、受発光素子3の破損といった問題を解決できる。
【0027】
この場合、言うまでもないが、内側樹脂層6に用いる透明性フィラーの屈折率は、内側樹脂層6に用いる樹脂の屈折率と同じか又はほとんど同じであることが望ましい。両者の屈折率の差が大きくなると、散乱が顕著になり、通信光のロスが大きくなるので望ましくない。この透明性フィラーの材質は特に制限されない。通信に用いる波長が、可視光〜近赤外光の場合、石英ガラスフィラーを用いることができる。透明性フィラーの形状は、針状、粒状など、特に制限されないが、特開2006−257353号公報に開示されているように、球状であり、かつ、粒径が波長の数分の一から波長の数倍までのミー散乱を起こしやすい領域を避けることで、通信光の散乱を抑制することができるものが好ましい。
【0028】
中間樹脂層9にも透明性フィラーを用いる場合、内側樹脂層6の場合と同様、中間樹脂層9に用いる樹脂の屈折率と近い屈折率を持った透明性フィラーを用いることが好ましい。
【0029】
このように樹脂を複数層設ける場合、内側樹脂層6は、少なくとも受発光素子3全体と光導波路5端部とをすっぽり覆って設けることが望ましい。これにより、受発光素子3と光導波路5との結合強度の向上を図ることができ、信頼性を向上させることができる。さらに、内側樹脂層6に透明性フィラーが混合されている場合、内側樹脂層6の線膨張係数が低くなることから、温度変化に強くなり、信頼性をより向上させることができる。
【実施例】
【0030】
(実施例)
図2に示す構造の光送受信装置を作製した。発光素子3としては、発光中心波長850nmのVCSELを用いた。内側樹脂層6には、硬化後の屈折率が1.457で、屈折率を調整した石英ガラスフィラーを10質量%混合した紫外線硬化型エポキシ樹脂を用いた。中間樹脂層9には、硬化後の屈折率が1.452で、屈折率を調整した石英ガラスフィラーを10質量%混合した紫外線硬化型エポキシ樹脂を用いた。外側樹脂層7には、熱伝導性フィラー8としてカーボンフィラーを10質量%混合した紫外線硬化樹脂を用いた。
光導波路5には、石英ガラス製光ファイバを用いた。
【0031】
(比較例)
比較のため、内側、中間及び外側の各樹脂層にフィラーを含まないエポキシ樹脂を用い、それ以外は前記実施例と同様である光送受信装置も作製した。
【0032】
(ヒートサイクル試験)
作製した実施例、比較例の各サンプルについてヒートサイクル試験を行った。試験は、VCSELを発光出力0.3mWで発光させながら行った。図3に示すダイヤグラムを1サイクルとして、500サイクル処理を行い、処理後の各サンプルのVCSELと樹脂層と光ファイバとの接合部を光学顕微鏡で観察した。
【0033】
比較例(フィラー無し)では、VCSELと樹脂の接合部、及び、光ファイバと樹脂との接合部が剥がれているサンプルが少数であるが見つかった。
一方、樹脂層にフィラーを加えた実施例では、接合剥がれはほとんど見つからなかった。この結果、樹脂層にフィラーを加えた実施例は熱サイクルに強いことがわかった。
【0034】
なお、本実施例では、石英ガラスフィラーとして市販のフィラーを用いた。市販の石英ガラスフィラーで屈折率調整が困難な場合、気相合成法を用いて石英ガラスフィラーを合成し、用いることができる。原料としては、例えば、四塩化珪素を用いることができる。
四塩化珪素の蒸気を、アルゴン、窒素などのキャリアガスと、酸素と混合して合成チャンバーに搬送し、800℃〜1500℃程度に加熱することで、球状の石英ガラスフィラーを得ることができる。石英ガラスフィラーの屈折率を調整するには、例えば、四塩化ゲルマニウム、三塩化アルミニウムなどの蒸気を四塩化珪素の蒸気と混合し、合成すればよい。ゲルマニウム、アルミニウムなどの元素は石英ガラスに添加することで、石英ガラスの屈折率を上昇させることができる。添加する分量に応じて、屈折率上昇量を調整することができる。
【符号の説明】
【0035】
1,11・・・光送受信装置、2・・・プリント基板、3・・・受発光素子、4・・・受発光部、5・・・光導波路、6・・・内層樹脂層、7・・・外層樹脂層、8・・・熱伝導性フィラー、9・・・中間樹脂層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平坦なプリント基板の上面に、受発光素子を実装する工程と、
前記受発光素子と光結合可能に、光導波路を配置し、前記受発光素子の全体と、前記光導波路の端部とを覆うように、前記プリント基板の上面に内側樹脂層を設ける工程と、
前記内側樹脂層を覆うように、前記内側樹脂層よりも屈折率が低い中間樹脂層を設ける工程と、
前記中間樹脂層を覆うように、熱伝導性フィラーを含有する外側樹脂層を設ける工程と、
を有することを特徴とする光送受信装置の製造方法。
【請求項2】
前記受発光素子を実装する工程において、前記受発光素子を、その発光または受光方向が、前記プリント基板の上面と交差する方向に実装し、前記光導波路の少なくとも端部を、前記発光または受光方向に沿って配置することを特徴とする請求項1に記載の光送受信装置の製造方法。
【請求項3】
前記内側樹脂層を設ける工程において、前記内側樹脂層に、通信光に対して透明なフィラーを混合することを特徴とする請求項1または2に記載の光送受信装置の製造方法。
【請求項4】
前記中間樹脂層を設ける工程において、前記中間樹脂層に、通信光に対して透明なフィラーを混合することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の光送受信装置の製造方法。
【請求項5】
前記光導波路は、石英ガラスからなる光ファイバであり、この光ファイバ端を覆う内側樹脂層の波長850nmにおける屈折率が1.45以上1.55以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の光送受信装置の製造方法。
【請求項6】
前記光導波路は、ポリマークラッドファイバであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の光送受信装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−103732(P2012−103732A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−28806(P2012−28806)
【出願日】平成24年2月13日(2012.2.13)
【分割の表示】特願2007−150339(P2007−150339)の分割
【原出願日】平成19年6月6日(2007.6.6)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】