説明

光重合性平版刷版の製版方法及び製版装置

【課題】露光処理、現像処理をして良好に網点を再現して製版可能とし、簡素な構成で制御が容易で廉価に製作可能な装置で露光処理をできるようにする。
【解決手段】光ラジカル重合反応を利用した画像記録層を設けた光重合性平版刷版に対し画像データに基づいて変調された光ビームを画像形成レベルの出力で照射して潜像を形成すると共に、画像記録層における非画像形成部に対して予備レベルの低出力の光ビームを照射して画像の形成に関与しない潜像を形成し、現像部で画像記録層に現像液を付けてブラッシングすることにより、画像形成レベルの光ビームで形成された潜像を残し、予備レベル光ビームで形成された潜像を除去して潜像を顕在化して製版する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、平板状の支持体の表面にラジカル光重合を利用して潜像を記録する画像記録層を設けた光重合性平版刷版に対して、露光処理、現像処理をして良好に網点を再現して製版するための光重合性平版刷版の製版方法及び製版装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、平版印刷の分野では、未露光の平版刷版の供給を受けて、この平版刷版に対し、画像データをコンピュータ処理することで光源のレーザー光を直接変調し、平版刷版の原版に変調されたレーザー光を投影して平版刷版の原版の画像記録層に直接画像を記録するレーザー露光処理をし、平版刷版を現像液に浸漬した状態で潜像が形成された画像記録層における重合されなかった非画像部をブラッシングして除去することにより潜像を顕像に変換する現像処理をして直接平版刷版を製版するCTP(Computer to Plate)システムが実用化されている。
【0003】
また、このようなCTPシステムで利用するために、レーザー光を直接照射して高感度で微細な露光を可能とした、ラジカル連鎖重合反応を利用したレーザー対応の平版刷版の開発が進んでいる。
【0004】
このような光ラジカル重合反応を利用する平版印刷版では、その光重合性材料層にレーザー記録光によって露光することにより、ラジカル開始剤から発生したラジカルがモノマーと反応し、このモノマーがラジカル化して、更にモノマーと反応を繰り返していくことで大きな分子構造を有するポリマーとなることを画像形成の手段としている。
【0005】
このような平版刷版で行われる光ラジカル重合反応は、光重合性材料層内にある酸素が露光により発生した画像記録層中のラジカルを失活化させる作用によりラジカル重合反応を妨げ、光重合性平版刷版の感度を低下させてしまう要因になっている。
【0006】
このため、例えば、光重合性平版刷版(フォトポリマー版)にFMスクリーンを形成するための最小単位のドットとなる小点(20μm×20μm)を露光すると、この露光後経時とともに画像記録層中に透過してくる大気中の酸素や画像記録層中の溶存酸素が、露光された小点の潜像の上部やサイドから露光によって生じたラジカルを消滅させていくので、光重合性平版刷版の画像記録層に形成される小点の潜像が縮小して細くなる。特に、小点の周囲は、未露光部が多いため溶存酸素が多く、小点再現性が著しく劣化しやすい。
【0007】
そこで、従来の光重合性平版刷版を製版するための露光手段では、画像を記録する第1のレーザーと予備露光(Presensitization)の処理をする第2のレーザーとを備え、画像記録層における画像を記録する領域を第2のレーザーから照射したレーザービームで予め高感度化した状態とし、この画像記録層の高感度化された領域に第1のレーザーから照射したレーザービームで記録することが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0008】
しかし、この光重合性平版刷版を製版するための露光手段では、第1のレーザーと第2のレーザーとを備えねばならないため部品点数が増大し、第1のレーザーと第2のレーザーとによりそれぞれ別の露光動作をするため制御が複雑になり、露光手段が高価になるという問題がある。
【0009】
また、従来の光重合性平版刷版を製版する手段では、光重合性平版刷版の画像記録層に光照射によって潜像を形成する露光処理の後、一定時間経過後に加熱処理をすることで、網点再現性を良好にすることが提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0010】
しかし、この従来の光重合性平版刷版を製版する手段では、小点の再現性はよくなるが、網点の濃度(網%)の高い領域では、網点がつぶれてしまう虞がある。
【特許文献1】EP0639799
【特許文献2】特開2005−78012号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上述の問題に鑑み、露光処理、現像処理をして良好に網点を再現して製版可能とし、簡素な構成で制御が容易で廉価に製作可能な装置で露光処理をできるようにする、光重合性平版刷版の製版方法及び製版装置を新たに提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の請求項1に記載の光重合性平版刷版の製版方法は、支持体の表面上に光ラジカル重合反応を利用した画像形成の手段としての画像記録層を設けた光重合性平版刷版に対して、画像データに基づいて変調された光ビームを画像形成レベルの出力で画像形成部に照射して光ラジカル重合反応を起こさせポリマー化して潜像を形成する露光処理工程と、露光処理された光重合性平版刷版の画像記録層を、現像液を付けるもしくは現像液中でブラッシングすることにより潜像を顕在化する湿式ブラシ現像方式の現像処理工程とを有する光重合性平版刷版の製版方法において、露光処理工程で、画像記録層における非画像形成部に対し、後の現像処理工程により掻き落とせる程度の潜像が形成される予備レベルの出力で非画像形成部に光ビームを照射することを特徴とする。
【0013】
上述の光重合性平版刷版の製版方法によれば、非画像形成部に対して照射された予備レベルの光ビームがラジカル開始剤に反応を起こさせてラジカルを発生させ、画像記録層内に残存している酸素がラジカルをクエンチして、画像記録層内に酸素が残存しないようにさせ、酸素によるラジカル重合反応の阻害を抑制する画像記録層が高感度化された状態とし、この画像記録層が高感度化された状態で画像形成レベルの光ビームで露光して画像形成部の潜像を形成するので、画像記録層に形成される小点の潜像が画像記録層内の残存酸素の影響で縮小して細くなることを防止し、網点の再現性を良好に製版できる。なお、非画像形成部にできる潜像は、後の現像処理で除去されるので、製版された光重合性平版刷版に適切な画像を形成できる。また、露光処理工程で、画像形成部に対する画像形成レベルの光ビームで露光する処理と、非画像形成部に対する予備レベルの光ビームで露光する処理とを行う露光装置を簡素な構成で制御が容易で廉価に製作可能とできる。
【0014】
本発明の請求項2に記載の光重合性平版刷版の製版装置は、支持体の表面上に、光ラジカル重合反応を利用した画像形成の手段としての画像記録層を設けた光重合性平版刷版の製版装置であって、光重合性平版刷版の画像記録層における画像形成部に対して画像形成レベルの出力の光ビームを照射して光ラジカル重合反応を起こさせポリマー化して画像を形成するための潜像を形成すると共に、画像記録層における非画像形成部に対して予備レベルの低出力の光ビームを照射して画像の形成に関与しない潜像を形成する露光装置部と、露光処理された光重合性平版刷版の画像記録層に現像液を付けてブラッシングすることにより、画像形成レベルの光ビームで形成された潜像を残し、予備レベル光ビームで形成された潜像を除去して潜像を顕在化する現像部と、を有することを特徴とする。
【0015】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の光重合性平版刷版の製版装置において、非画像形成部に対して照射する光ビームの予備レベルの出力を、下記式により求めて設定することを特徴とする。
【0016】
式 Le<V1 又は Le<V1×α
ここで、
V1:光ラジカル重合反応を起こさせ潜像を形成する露光レベル
α:V1に対し、湿式ブラシ現像方式の現像処理工程より掻き落とせる程度の潜像が形成される出力レベルとするための、実験等により求められた係数)
Le=予備レベル
上述のように構成することにより、露光装置部で、光重合性平版刷版の非画像形成部に対して予備レベルの光ビームを照射してラジカル開始剤に反応を起こさせてラジカルを発生させ、画像記録層内に残存している酸素がラジカルをクエンチして、画像記録層内に酸素が残存しないようにさせ、酸素によるラジカル重合反応の阻害を抑制する画像記録層が高感度化された状態とすると共に、この画像記録層が高感度化された状態で、露光装置部により画像形成レベルの光ビームで露光して画像形成部の潜像を形成するので、画像記録層に形成される小点の潜像が画像記録層内の残存酸素の影響で縮小して細くなることを防止し、網点の再現性を良好に製版できる。なお、非画像形成部にできる潜像は、後の現像処理で除去されるので、製版された光重合性平版刷版に適切な画像を形成できる。また、画像形成部に対する画像形成レベルの光ビームで露光する処理と、非画像形成部に対する予備レベルの光ビームで露光する処理とを行う露光装置を、簡素な構成で制御が容易で廉価に製作可能とできる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の光重合性平版刷版の製版方法及び製版装置によれば、簡素な構成で制御が容易で廉価に製作可能な装置で露光処理をし、さらに現像処理をして良好に網点を再現して製版できるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の光重合性平版刷版の製版方法及び製版装置に関する実施の形態について説明する。
(光重合性平版刷版の製版方法)
まず、本実施の形態に係る光重合性平版刷版の製版方法について説明する。
【0019】
この光重合性平版刷版の製版方法は、一般に用いられている光ラジカル重合反応を利用した画像形成の手段としてのフォトンモード記録方式又はヒートモード記録方式の平版印刷版を対象に対して適用できる。
【0020】
この光ラジカル重合反応を利用する平版刷版(ラジカル重合系の平版刷版)は、例えば、アルミニウム支持体の表面に陽極酸化皮膜を形成し、さらに陽極酸化皮膜の上に画像記録層(感光層)を設け、この画像記録層の表面を酸素遮断用の保護層が覆う多層構造に構成する。
【0021】
この画像記録層は、光重合性材料にレーザービーム(光ビーム)を照射することにより、ラジカル開始剤から発生したラジカルがモノマーと反応し、このモノマーがラジカル化して、更にモノマーと反応を繰り返していくことで大きな分子構造を有するポリマーとなって固化する画像形成手段として構成する。
【0022】
また、保護層は、大気中の酸素が画像記録層に解け込むのを抑制するために酸素遮断の性質を有する層として構成する。
【0023】
このような構成のラジカル重合系の平版印刷版は、製造されてから使用時までの長い時間が経過する間に、画像記録層及び保護層に酸素が飽和状態まで解けこんだ状態となっているのが普通である。
【0024】
本実施の形態に係わる光重合性平版刷版の製版方法では、ラジカル重合系の平版刷版(光重合性平版刷版)に対して、レーザービーム(光ビーム)を走査して潜像を形成する露光処理をし、潜像が形成された平版刷版に現像液を付けブラシによりブラッシングすることにより潜像を顕在化する湿式ブラシ現像方式の現像処理により画像を形成する。
【0025】
このレーザービームを用いた露光処理では、レーザー光源として、青紫レーザー光源又は赤外レーザー光源若しくはその他の波長のレーザー光源を用いることができる。さらに、レーザービームの走査機構には、インナードラム型又はフラットベッド型若しくはドラム型を利用できる。
【0026】
このレーザービームを用いた露光処理では、画像データに基づき、画像形成部に照射するときのレーザービームの出力を、光ラジカル重合反応を起こさせポリマー化して潜像を形成するのに十分な所定高出力である画像形成レベル(DATA DRIVE LEVEL)とする。
【0027】
また、このレーザービームを用いた露光処理では、非画像形成部に対してもレーザービームを照射する。このレーザービームを用いた露光処理では、非画像形成部に対して照射するときのレーザービームの出力を、平版刷版の画像記録層に、現像液とブラシによる現像処理により掻き落とせる程度の潜像が形成される程度の露光量となり、画像記録層内に溶存する酸素をレーザービームが照射されて生じたラジカルと反応させることにより、画像記録層内の溶存酸素の影響を遮断して網点の再現性を改善するのに適した所定低出力である予備レベル(BIAS LEVEL)とする。
【0028】
すなわち、このレーザービームを用いた露光処理では、非画像形成部に対して照射された予備レベル(BIAS LEVEL)のレーザービームがラジカル開始剤に反応を起こさせてラジカルを発生させ、画像記録層内に残存している酸素がラジカルをクエンチして、画像記録層内に酸素が残存しないようにさせ、酸素によるラジカル重合反応の阻害を抑制する高感度化された状態とする。
【0029】
よって、このレーザービームを用いた露光処理では、平版刷版の画像記録層が高感度化された状態で画像形成レベル(DATA DRIVE LEVEL)のレーザービームで画像形成部を露光して潜像を形成するので、画像記録層に形成される小点の潜像が画像記録層内の残存酸素の影響で縮小して細くなることを防止し、網点の再現性を良好に製版できる。
【0030】
要するに、このレーザービームを用いた露光処理では、画像データに基づいて、画像形成部に照射するときのレーザービームの出力を所定高出力である画像形成レベル(DATA DRIVE LEVEL)に切り替えると共に非画像形成部に照射するときのレーザービームの出力を所定の低出力(BIAS LEVEL)に切り替えて露光する動作により、平版刷版の画像記録層の全面に潜像を形成する。
【0031】
また、このレーザービームを用いた露光処理では、非画像形成部に照射するための所定低出力である予備レベル(BIAS LEVEL)のレーザービームの光量(光の強度)及び照射時間等の各条件を、照射の対象となる平版刷版の画像記録層における化学的組成や画像記録層内に飽和状態で解け込んでいる酸素分子の量等を勘案して、予め各画像記録層の種別毎に実験により求めておき、実際に露光処理を行う画像記録層に対応して設定する。
【0032】
このレーザービームを用いた露光処理では、露光処理された平版刷版の画像記録層に、画像形成部となる十分にポリマー化した潜像部分と、非画像形成部となる画像記録層の表面側部分だけが若干ポリマー化した部分とが形成される。
【0033】
次に、本実施の形態に係わる光重合性平版刷版の製版方法では、上述のように露光処理をして潜像が形成された平版刷版を現像処理する。この現像処理では、潜像が形成された平版刷版の画像記録層に現像液を付けブラシによりブラッシングすることにより、平版刷版の画像記録層における、非画像形成部に対応した表面側部分だけが若干ポリマー化した部分を支持体から掻き落とし、画像形成部に対応した十分にポリマー化した部分を支持体上に残して潜像を顕在化して画像を形成する。
(光重合性平版刷版の製版装置)
次に、前述した光重合性平版刷版の製版方法を実施する光重合性平版刷版の製版装置について、図1乃至図5によって説明する。
【0034】
本実施の形態に係る光重合性平版刷版の製版装置(セッタ)は、図示しないが、給版部、露光部、加熱部及び現像部を設けた処理部と、露光部と処理部との間に設けられたバッファー部とで構成することができる。
【0035】
この光重合性平版刷版の製版装置では、露光処理工程をインナードラム露光装置で行い、現像処理工程を現像液中でブラッシングする湿式アルカリブラシ現像方式の現像装置で行う。なお、この光重合性平版刷版の製版装置では、露光処理工程で、インナードラム露光装置の他に、フラットベッド型若しくはドラム型の露光装置を用いても良い。
【0036】
図1の概略構成図に示すように、この光重合性平版刷版の製版装置で用いる露光装置部としてのインナードラム露光装置10は、円弧内周面形状(円筒内周面の一部を構成する形状)の支持筐体12を母体として構成されており、この支持筐体12の内周面に沿って記録媒体である光重合性平版刷版14を支持するようになっている。
【0037】
なお、このインナードラム露光装置10では、図示しない光重合性平版刷版14の供給排出装置によって、未記録の光重合性平版刷版14を供給し支持筐体12の内周面に確実に密着させて沿わせた状態に係着してから露光処理を行い、また露光処理済みの光重合性平版刷版14を支持筐体12から外部へ排出する操作を行う。
【0038】
このインナードラム露光装置10には、支持筐体12の円弧中心位置に、走査手段としてのスピナーミラー装置16を配設する。このスピナーミラー装置16は、円柱状の回転軸18を、その中心軸を回転軸(支持筐体12の円弧中心軸と一致する)として駆動源であるモータ20によって回動可能に構成する。このスピナーミラー装置16の回転軸18の先端部には、回転軸に対して45度の角度をなす反射鏡面18Aを形成する。
【0039】
この走査手段としてのスピナーミラー装置16は、図示しない副走査移動手段によって、支持筐体12の円弧中心軸の軸線方向(図1に向かって左右方向となる矢印C方向)に等速度で移動走査される。このスピナーミラー装置16は、スピナードライバ22によって、そのモータ20の回転制御がされ、図示しない副走査移動手段により副走査方向に移動制御される。
【0040】
図1に示すように、このインナードラム露光装置10には、光重合性平版刷版14の記録面上を主走査するため、スピナーミラー装置16側に光ビームを投射するレーザービーム出射装置24を設ける。
【0041】
図1及び図2に示すように、レーザービーム出射装置24は、中央処理装置26からの画像信号を受け、この画像信号に基づいて変調されたレーザ光を出力するように構成する。
【0042】
このレーザービーム出射装置24のレーザー駆動回路では、半導体レーザー光源28(LED、ここでは青紫レーザー用の発光ダイオードを用いる)に対して、駆動電流コントローラ30における画像形成レベル(DATA DRIVE LEVEL)用の駆動電流を供給する回路と、駆動電流コントローラ30における予備レベル(BIAS LEVEL)用の駆動電流を供給する回路とを、レベルシフタ33によって各出力電流を重畳してからレーザー光源28へ供給するように接続する。
【0043】
さらに、画像形成レベル(DATA DRIVE LEVEL)用の駆動電流を供給する回路には、画像データ(IMAGE DATA IN)に基づいて、画像形成部用の駆動電流をON、0FFすることにより、画像信号に基づいて変調された画像形成部用のレーザ光を出力させるためのスイッチング素子である変調用素子32を設ける。
【0044】
また、このレーザー駆動回路では、レーザー光源28とレベルシフタ33との間の部分に、レーザー光源28の温度制御用の開閉器34を設ける。
【0045】
また、この駆動電流コントローラ30では、中央処理装置26(図1に図示)から送信された制御信号により、露光処理の対象となる光重合性平版刷版14の個別の特性に対応した所定の非画像形成部用の駆動電流を、露光処理の動作中の全般に渡って出力するように設定される。
【0046】
この駆動電流コントローラ30で出力する非画像形成部用の駆動電流は、下記式の条件に基づいて定めることができる。
【0047】
式 Le<V1 又は Le<V1×α
ここで、
V1:光ラジカル重合反応を起こさせ潜像を形成する露光レベル
α:V1に対し、湿式ブラシ現像方式の現像処理工程より掻き落とせる程度の潜像が形成される出力レベルとするための、実験等により求められた係数)
Le=予備レベル
これにより、このレーザー駆動回路では、一枚の光重合性平版刷版14に対する露光処理の開始から終了までの間、駆動電流コントローラ30から非画像形成部用の駆動電流を常時通電すると共に、変調用素子32を画像情報の露光タイミングに対応してON、0FF制御することにより、非画像形成部用の駆動電流と画像形成部用に変調された駆動電流とがレベルシフタ33によって図3に例示するように重畳された状態でレーザー光源28を駆動する。
【0048】
なお、このレーザービーム出射装置24では、スピナーミラー装置16の反射鏡面18Aが1回転する間に、図4に示すように、光重合性平版刷版14上に形成する画像データに対応したレーザービームと、レーザーパワーをフィードバック制御するためのレーザービームとを出力する。
【0049】
このレーザービーム出射装置24では、レーザー光源28で発光されたレーザー光を集光し、アパーチャを含む結像レンズ系36でレーザービームとしてスピナーミラー装置16の反射鏡面18Aに反射させて、光重合性平版刷版14上に走査露光する。
【0050】
このレーザービーム出射装置24は、レーザー駆動回路でレーザー光源28を駆動することにより、光重合性平版刷版14の画像記録層における非画像形成部分に比較的弱い露光量で露光して現像処理で剥離される潜像を形成し、画像形成部分に比較的強い露光量で露光して現像処理で光重合性平版刷版14上に現像処理で残される潜像を形成する。
【0051】
このインナードラム露光装置10では、上述のように非画像形成部分に比較的弱い露光量で露光するためのレーザー光を光重合性平版刷版14の画像記録層に照射したときに生じたラジカルを、画像記録層内に溶存する酸素と反応させることにより、画像記録層内の溶存酸素の影響を遮断する。
【0052】
すなわち、このレーザービーム出射装置24を備えたインナードラム露光装置10を用いた露光処理では、非画像形成部に対して照射された所定低出力である予備レベル(BIAS LEVEL)のレーザービームがラジカル開始剤に反応を起こさせてラジカルを発生させ、画像記録層内に残存している酸素がラジカルをクエンチして、画像記録層内に酸素が残存しないようにさせ、酸素によるラジカル重合反応の阻害を抑制する高感度化された状態とする。
【0053】
そして、このレーザービーム出射装置24を備えたインナードラム露光装置10を用いた露光処理では、光重合性平版刷版14の画像記録層が高感度化された状態で所定高出力である画像形成レベル(DATA DRIVE LEVEL)のレーザービームで画像形成部を露光して潜像を形成するので、画像記録層に形成される小点の潜像が画像記録層内の残存酸素の影響で縮小して細くなることを防止し、網点の再現性を良好に製版できる。
【0054】
また、このレーザービーム出射装置24では、レーザー光源28が温度制御機構であるペルチェ素子40(PELTIER)、サーミスタ(THERMISTOR)42及び温度コントローラ44(TEMP CONTROL)の働きにより一定温度に保たれる。なお、レーザー光源28が限界温度以上に加熱したことをサーミスタ42が検出した場合には、その限界温度以上に加熱されたことの検出信号が温度制御保護部38へ送信されて、温度制御保護部38が開閉器34を0FF操作してレーザー光源28への給電を停止してレーザー光源28を保護する。
【0055】
また、このレーザービーム出射装置24では、結像レンズ系36の一部にビームスプリッタ46を配置して分岐した検出用のビームの光量をフォトダイオード48で検出して得られたレーザーパワー検出値をパワーコントロール50に送信し、このレーザーパワー検出値に基づいてレーザー光源28のレーザーパワーを所定の出力に保つようにフィードバック制御する。
【0056】
さらに、このレーザービーム出射装置24では、フォトダイオード48で検出したレーザーパワーが上限の所定値以上となったことの検出信号が温度制御保護部38へ送信されて、温度制御保護部38が開閉器34を0FF操作してレーザー光源28への給電を停止してレーザー光源28を保護する。
【0057】
このレーザービーム出射装置24では、駆動電流コントローラ30の出力電流が上限の所定値以上となったときに、その検出信号を温度制御保護部38へ送信し、温度制御保護部38が開閉器34を0FF操作しレーザー光源28への給電を停止してレーザー光源28を保護するよう構成する。
【0058】
上述のように構成した光重合性平版刷版の製版装置の露光処理工程を実施するインナードラム露光装置10では、スピナーミラー装置16とレーザービーム出射装置24とを、中央処理装置26で制御しながら光重合性平版刷版14に画像を記録する作業を行う。
【0059】
この光重合性平版刷版の製版装置では、図示しない入力装置から露光すべき画像情報を入力し露光処理開始の指令を中央処理装置26に送信すると、中央処理装置26が露光すべき画像情報に基づいて変調用素子32を駆動し、レーザー光源28を発光制御して画像信号に基づいて変調されたレーザー光を発光させ、結像レンズ系36によってスピナーミラー装置16の反射鏡面18Aに反射させて光重合性平版刷版14上へ結像させるように、露光用のレーザービームを出射する。
【0060】
また、これと同時に、中央処理装置26は、モータ20を回転制御して反射鏡面18Aを回転し、レーザービーム出射装置24から反射鏡面18Aに入射したレーザビームLを反射して光重合性平版刷版14に対して主走査方向への走査露光を行うと共に、スピナードライバ22へ制御信号を送信する。
【0061】
この制御信号を受信したスピナードライバ22は、図示しない副走査移動手段を制御し、スピナーミラー装置16を支持筐体12の円弧中心軸の軸線方向(図1に向かって左右方向となる矢印C方向)に等速度で移動走査する。これにより、スピナーミラー装置16で主走査方向への走査露光を行いながら、スピナーミラー装置16を副走査方向へ移動することによって、光重合性平版刷版14の記録面全面に対して2次元の画像を記録する処理を行う。
【0062】
この光重合性平版刷版の製版装置における現像処理工程を実施する湿式アルカリブラシ現像方式の現像装置は、図5の概略構成図に示すように、現像液等の液体中で、潜像が形成されている光重合性平版刷版14の画像記録層表面を回転ブラシ112でブラッシングして現像処理を行うように構成する。
【0063】
このため図5に示す現像部100では、アルカリ等の現像液を貯留する液槽102を設け、この内部に貯留されたアルカリ現像液中を通過して浸漬されるように光重合性平版刷版14の搬送路をガイド板114等で構成する。
【0064】
また、現像部100では、光重合性平版刷版14の搬送路における液槽102の上流側に搬送ローラ対104を配置し、液槽102の下流側に搬送ローラ対108を配置する。さらに、光重合性平版刷版14の搬送路におけるアルカリ現像液中を通過している部分に、回転ブラシ112及び補助ローラ110の対と、搬送ローラ対106とを、それぞれ設置する。
【0065】
この回転ブラシ112は、搬送路の上側に配置され、その直下には近接して補助ローラ110を配置する。この補助ローラ110は、回転ブラシ112が光重合性平版刷版14の表面を所定の強さで擦るように圧接して回転するブラッシング動作の際に、光重合性平版刷版14を下から支持するように構成する。
【0066】
このように構成した現像部100では、光重合性平版刷版14が液槽102内のアルカリ現像液に浸漬されている状態で、回転ブラシ112によって光重合性平版刷版14の画像記録層表面を所定の強さで擦ることにより、光重合性平版刷版14の画像記録層における、非画像形成部に対応した表面側部分だけが若干ポリマー化した比較的剥離しやすい部分を支持体から除去し、画像形成部に対応した十分にポリマー化した部分だけを支持体上に残して潜像を顕在化する現像処理を行う。
【0067】
すなわち、この現像部100では、光重合性平版刷版14における非画像形成部に対応した表面側部分だけが若干ポリマー化した状態であっても、回転ブラシ112によるブラッシングによって非画像形成部を除去してしまうので、光重合性平版刷版14を、何ら不都合を生じること無く良好に製版することができる。
【0068】
なお、本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、その他種々の構成を取り得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明の光重合性平版刷版の製版装置の実施の形態に係わるインナードラム露光装置の概略構成を示す斜視図である。
【図2】本発明の光重合性平版刷版の製版装置の実施の形態に係わるレーザービーム出射装置部分を示す回路説明図である。
【図3】本発明の光重合性平版刷版の製版装置の実施の形態に係わるレーザービーム出射装置から出射するレーザービームの出力状態を示す説明図である。
【図4】本発明の光重合性平版刷版の製版装置の実施の形態に係わるレーザービーム出射装置から出射するレーザービームにおける、スピナーミラー装置の反射鏡面が1回転する間の出力状態を示す説明図である。
【図5】本発明の光重合性平版刷版の製版装置の実施の形態に係わる現像部を示す概略構成図である。
【符号の説明】
【0070】
10 インナードラム露光装置
14 光重合性平版刷版
24 レーザービーム出射装置
26 中央処理装置
28 レーザー光源
30 駆動電流コントローラ
32 変調用素子
33 レベルシフタ
34 開閉器
36 結像レンズ系
100 現像部
102 液槽
112 回転ブラシ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体の表面上に光ラジカル重合反応を利用した画像形成の手段としての画像記録層を設けた光重合性平版刷版に対して、画像データに基づいて変調された光ビームを画像形成レベルの出力で画像形成部に照射して光ラジカル重合反応を起こさせポリマー化して潜像を形成する露光処理工程と、
露光処理された前記光重合性平版刷版の前記画像記録層を、現像液を付けるもしくは現像液中でブラッシングすることにより潜像を顕在化する湿式ブラシ現像方式の現像処理工程とを有する光重合性平版刷版の製版方法において、
前記露光処理工程で、前記画像記録層における非画像形成部に対し、後の現像処理工程により掻き落とせる程度の潜像が形成される予備レベルの出力で非画像形成部に光ビームを照射することを特徴とする光重合性平版刷版の製版方法。
【請求項2】
支持体の表面上に、光ラジカル重合反応を利用した画像形成の手段としての画像記録層を設けた光重合性平版刷版の製版装置であって、
前記光重合性平版刷版の前記画像記録層における画像形成部に対して画像形成レベルの出力の光ビームを照射して光ラジカル重合反応を起こさせポリマー化して画像を形成するための潜像を形成すると共に、前記画像記録層における非画像形成部に対して予備レベルの低出力の光ビームを照射して画像の形成に関与しない潜像を形成する露光装置部と、
前記露光処理された前記光重合性平版刷版の前記画像記録層に現像液を付けてブラッシングすることにより、前記画像形成レベルの前記光ビームで形成された前記潜像を残し、前記予備レベル前記光ビームで形成された前記潜像を除去して前記潜像を顕在化する現像部と、
を有することを特徴とする光重合性平版刷版の製版装置。
【請求項3】
前記非画像形成部に対して照射する光ビームの予備レベルの出力を、下記式により求めて設定することを特徴とする請求項2に記載の光重合性平版刷版の製版装置。
式 Le<V1 又は Le<V1×α
ここで、
V1:光ラジカル重合反応を起こさせ潜像を形成する露光レベル
α:V1に対し、湿式ブラシ現像方式の現像処理工程より掻き落とせる程度の潜像が形成される出力レベルとするための、実験等により求められた係数)
Le=予備レベル

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−271795(P2007−271795A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−95653(P2006−95653)
【出願日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】