説明

光電変換装置の製造方法および光ビーム照射加工装置

【課題】基板温度の調整が不要であり、高精度な加工により高い生産効率を実現することができる光電変換装置の製造方法および光ビーム照射加工装置を提供する。
【解決手段】温度情報と事前に取得した歪情報とを含む情報に基づいて決定された位置に光ビームを照射することにより被加工物の加工が行なわれる光電変換装置の製造方法である。また、温度情報取得部によって取得された温度情報と内部記憶された歪情報とを含む情報に基づいて決定された位置に光ビームを照射できるように光ビーム発振部と駆動部とを制御することが可能な制御部を備えた光ビーム照射加工装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光電変換装置の製造方法および光ビーム照射加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光電変換装置の一例である薄膜太陽電池の代表的な構造としては、以下の(1)および(2)の2つの構造が挙げられる。
【0003】
(1)ガラス等の絶縁透光性基板上に、SnO2(酸化スズ)、ITO(indium Tin Oxide)またはZnO(酸化亜鉛)等の透明導電膜が形成され、その透明導電膜上に半導体のp層、i層およびn層がこの順に積層された光電変換層が形成され、その光電変換層上に金属薄膜等の裏面電極層が形成された構造。
【0004】
(2)金属基板電極上に、半導体のn層、i層およびp層がこの順に積層された光電変換層が形成され、その光電変換層上に透明導電膜が形成された構造。
【0005】
(1)の構造は、絶縁透光性基板が薄膜太陽電池の表面保護部材を兼ねることができること、またSnO2等の耐プラズマ性の透明導電膜上にプラズマCVD法により光電変換層を形成することが可能となったこと等から多用されるようになり、現在の主流となっている。
【0006】
また、(1)の構造においては、薄膜太陽電池の裏面電極層としてAg(銀)やAl(アルミニウム)等の反射率の高い材料を用いるとともに、光電変換層と裏面電極層との間にZnOまたはITO等の透明電極を挟んだ構造とすることによって、薄膜太陽電池の変換効率を向上させる試みも行なわれている。
【0007】
さらに、(1)の構造においては、大面積の表面を有する薄膜太陽電池を製造するため、レーザ光を用いて、絶縁透光性基板上に単位太陽電池セルを集積化して直列接続する方法が一般に用いられている。
【0008】
この方法は、たとえば、以下のようにして行なわれる。まず、絶縁透光性基板上に透明導電膜を分離する分離溝を備えた透明導電膜を形成する。次に、分離溝を備えた透明導電膜を覆うように光電変換層を積層し、レーザ光を用いたレーザスクライブ法で光電変換層の一部を除去することにより光電変換層を分離する分離溝を形成する。そして、分離溝が形成された光電変換層を覆うように裏面電極層を積層し、レーザ光を用いたレーザスクライブ法で光電変換層および裏面電極層のそれぞれの一部を除去することにより単位太陽電池セルに分離する分離溝を形成する。これにより、絶縁透光性基板上に、1つの透明導電膜、光電変換層および裏面電極層からなる単位太陽電池セルの透明導電膜が、隣接する単位太陽電池セルの裏面電極層と電気的に接続した構造の薄膜太陽電池を形成することができる。
【0009】
また、絶縁透光性基板上に単位太陽電池セルが集積化された構造の薄膜太陽電池においては、非発電面積を低減することによって、薄膜太陽電池の変換効率を向上させることが行なわれている。非発電面積を低減する方法としては、透明導電膜を分離する分離溝と光電変換層を分離する分離溝との間隔、および光電変換層を分離する分離溝と単位太陽電池セルを分離する分離溝との間隔をそれぞれ狭くする方法が考えられている。そして、これらの間隔をそれぞれ狭くして薄膜太陽電池の生産効率を向上させるためには、レーザスクライブ法による加工を精度良く行なう必要がある。
【0010】
しかしながら、レーザスクライブ法による加工においては、分離溝を精度良く形成することはできず、分離溝の形成位置にばらつきが生じて、薄膜太陽電池の特性が低下したり、薄膜太陽電池を構成する単位太陽電池セル同士の電気的な接続不良が起こるという問題があった。
【0011】
この問題を解決するため、たとえば特許文献1には、透明導電膜、光電変換層および裏面電極層のそれぞれのレーザスクライブ時における基板温度を設定値±10℃以内の範囲に調整して薄膜太陽電池を製造する方法が開示されている。この方法によれば、レーザスクライブ時における基板温度のばらつきを低減することによって、高精度のレーザスクライブが実現できるとされている。
【0012】
しかしながら、特許文献1の方法においては、基板を冷却することにより、プラズマCVD法による光電変換層の形成後、スパッタリング法による透明導電膜の形成後、およびスパッタリング法による裏面電極層の形成後のそれぞれの基板温度を室温付近まで下げるまでには相当の時間がかかるという問題があった。
【0013】
なお、基板の冷却方法としては、自然冷却および強制ファン冷却にて冷却を行なう方法が考えられる。
【0014】
図18に、幅1000mm×長さ1400mm×厚さ4mmの大きさのガラス基板を160℃から30分間放置して自然冷却させたときの測定位置1〜5のそれぞれにおける基板温度(℃)と放置時間(分)との関係を示す。図18の縦軸が基板温度(℃)を示しており、横軸が放置時間(分)を示している。
【0015】
図19に、上記のガラス基板100の表面における上記の測定位置1〜5の位置を示す模式的な平面図を示す。ここで、ガラス基板100の表面の左下の角の座標(x,y)を(0,0)とし、ガラス基板100の幅方向をx軸とし、長さ方向をy軸としたとき、測定位置1〜5の座標(x,y)はそれぞれ、測定位置1(30,30)、測定位置2(290,340)、測定位置3(500,700)、測定位置4(660,990)および測定位置5(970,1370)となっている。
【0016】
図18および図19に示すように、160℃のガラス基板100を30分間放置して自然冷却した場合には、自然冷却後のガラス基板100の表面の中心部(測定位置2〜4)の基板温度は約50℃であり、周辺部(測定位置1,5)の基板温度は約30℃となるため、ガラス基板100内で約20℃の温度差が生じている。この場合には、たとえば図20の模式的平面図に示すように、ガラス基板100が熱膨張する。そのため、このような熱膨張したガラス基板100にレーザスクライブを行なったとしても高精度のレーザスクライブを実現することができない。そのため、特許文献1の方法において、ガラス基板100の冷却を自然冷却により行なった場合には、透明導電膜、光電変換層および裏面電極層のそれぞれの形成後に、それぞれ30分以上冷却する必要があり、さらに精度良くレーザ加工を行なうためにはガラス基板100の面内の均一性を保つためにさらに長時間の冷却時間が必要になることから、薄膜太陽電池の生産効率が悪くなるという問題があった。特に、光電変換層は、薄膜太陽電池の特性に影響を与える重要な層であり、光電変換層の形成後に短時間で次の工程を行なうことが極めて重要となる。
【0017】
また、基板の冷却方法として、強制ファン冷却を用いた場合には、自然冷却を用いた場合と比べて冷却時間を短縮することはできるが、高精度のレーザスクライブを実現するためにはこの場合にも30分以上の冷却時間が必要となる。また、強制ファン冷却は、製造装置のコストが増大する問題も有している。
【0018】
そこで、たとえば特許文献2には、積極的に基板温度を調整することにより、高精度のレーザスクライブと、薄膜太陽電池の生産効率の向上と、を実現するための方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】特開2000−353816号公報
【特許文献2】特許第4354282号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
しかしながら、特許文献2の方法において、たとえば製造ラインが長時間停止して基板温度が室温まで低下した場合には、その基板を室温よりも高温の設定値(特許文献2の段落[0024]および[0029]参照)まで加熱する必要があったため、薄膜太陽電池の生産効率が低下するという問題があった。また、室温まで温度が低下した基板の加熱を避けるため、製造ライン全体の温度を設定値の温度に維持する装置等を導入する必要があるが、そのような装置を導入した場合には、製造装置全体のコストが増大するという問題もあった。また、特許文献2の方法においても、設定値よりも高い基板温度を設定値まで低下させるまでの冷却時間が必要となる。
【0021】
上記の事情に鑑みて、本発明の目的は、基板温度の調整が不要であり、高精度な加工により高い生産効率を実現することができる光電変換装置の製造方法および光ビーム照射加工装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明は、基板と基板上に形成された膜とを含む被加工物の温度情報を取得する工程と、温度情報を取得する工程の後に被加工物に光ビームを照射することによって光ビームの照射領域における被加工物を加工する工程と、を含み、被加工物を加工する工程においては、温度情報と事前に取得した歪情報とを含む情報に基づいて決定された位置に光ビームが照射される、光電変換装置の製造方法である。
【0023】
ここで、本発明の光電変換装置の製造方法においては、温度情報を取得する工程において、被加工物の表面の温度分布または被加工物の表面の少なくとも1点の温度の情報が取得されることが好ましい。
【0024】
また、本発明の光電変換装置の製造方法においては、被加工物を加工する工程において、光ビームが基板側から照射されることが好ましい。
【0025】
また、本発明は、基板と基板上に形成された膜とを含む被加工物に光ビームを照射することによって被加工物を加工するための光ビーム照射加工装置であって、被加工物に光ビームを照射するための光ビーム発振部と、光ビームの照射前の被加工物の温度情報を取得するための温度情報取得部と、被加工物の位置を変更することが可能な駆動部と、温度情報取得部によって取得された温度情報と内部記憶された歪情報とを含む情報に基づいて決定された位置に光ビームを照射できるように光ビーム発振部と駆動部とを制御することが可能な制御部と、を備えた、光ビーム照射加工装置である。
【0026】
さらに、本発明は、基板と基板上に形成された膜とを含む被加工物に光ビームを照射することによって被加工物を加工するための光ビーム照射加工装置であって、被加工物の温度情報を取得するための温度情報取得部と、被加工物を加工するための加工部と、被加工物を温度情報取得部から加工部に搬送するための搬送部と、を備え、加工部は、被加工物に光ビームを照射するための光ビーム発振部と、被加工物の位置を変更することが可能な駆動部と、温度情報取得部によって取得された温度情報と内部記憶された歪情報とを含む情報に基づいて決定された位置に光ビームを照射できるように光ビーム発振部と駆動部とを制御することが可能な制御部と、を備えた、光ビーム照射加工装置である。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、基板温度の調整が不要であり、高精度な加工により高い生産効率を実現することができる光電変換装置の製造方法および光ビーム照射加工装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】実施の形態における薄膜太陽電池の製造方法の製造工程の一部を図解する模式的な断面図である。
【図2】実施の形態における薄膜太陽電池の製造方法の製造工程の他の一部を図解する模式的な断面図である。
【図3】実施の形態における薄膜太陽電池の製造方法の製造工程の他の一部を図解する模式的な断面図である。
【図4】実施の形態における薄膜太陽電池の製造方法の製造工程の他の一部を図解する模式的な断面図である。
【図5】実施の形態で用いられるレーザスクライブ装置の一例の模式的な構成図である。
【図6】太陽電池基板の歪情報を事前に取得する方法の一例の工程の一部を図解する模式的な斜視図である。
【図7】太陽電池基板の歪情報を事前に取得する方法の一例の工程の他の一部を図解する模式的な拡大平面図である。
【図8】太陽電池基板の歪情報を事前に取得する方法の他の一例を図解する模式的な拡大平面図である。
【図9】太陽電池基板の歪情報を事前に取得する方法のさらに他の一例を図解する模式的な拡大平面図である。
【図10】実施の形態において用いられるレーザスクライブ装置の他の一例の模式的な構成図である。
【図11】実施の形態において用いられるレーザスクライブ装置のさらに他の一例の模式的な構成図である。
【図12】実施の形態における薄膜太陽電池の製造方法の製造工程の他の一部を図解する模式的な断面図である。
【図13】実施の形態における薄膜太陽電池の製造方法の製造工程の他の一部を図解する模式的な断面図である。
【図14】実施の形態により製造された薄膜太陽電池における第1の分離溝、第2の分離溝および第3の分離溝の関係の一例を図解する模式的な拡大平面図である。
【図15】実施例における赤外線サーモグラフィにより測定された太陽電池基板の表面の温度分布を示す写真である。
【図16】実施例の薄膜太陽電池を基板側から光学顕微鏡を用いて撮影した写真である。
【図17】比較例の薄膜太陽電池を基板側から光学顕微鏡を用いて撮影した写真である。
【図18】ガラス基板を160℃から30分間放置して自然冷却させたときの測定位置1〜5のそれぞれにおける基板温度(℃)と放置時間(分)との関係を示す図である。
【図19】ガラス基板の表面における測定位置1〜5の位置を示す模式的な平面図である。
【図20】熱膨張したガラス基板の模式的な平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の光電変換装置の製造方法の一例として、実施の形態における薄膜太陽電池の製造方法について説明する。なお、本発明の図面において、同一の参照符号は、同一部分または相当部分を表わすものとする。
【0030】
まず、図1の模式的断面図に示すように、基板1上に透明導電膜2を形成する。透明導電膜2の形成方法としては、たとえば従来から公知の熱CVD法、スパッタリング法、蒸着法またはイオンプレーティング法などを用いることができる。
【0031】
ここで、基板1としては、たとえば、ガラス基板、ポリイミド樹脂などの透明樹脂を含む樹脂基板、またはこれらの基板の複数を積層した基板などの光を透過させることができる透光性基板を用いることができる。
【0032】
また、透明導電膜2としては、たとえば、SnO2(酸化スズ)膜、ITO(Indium Tin Oxide)膜、若しくはZnO(酸化亜鉛)膜の単層またはこれらを複数重ね合わせた複数層などの光を透過させることができるとともに導電性である膜を用いることができる。透明導電膜2が複数層から構成される場合には、すべての層が同一の材料から形成されていてもよく、少なくとも1層が他と異なる材料から形成されていてもよい。
【0033】
次に、図2の模式的断面図に示すように、透明導電膜2を分離する直線状の第1の分離溝31を形成する。第1の分離溝31は、たとえばレーザスクライブ法などにより形成することができる。レーザスクライブ法による第1の分離溝31の形成は、たとえば、基板1側から透明導電膜2の一部にレーザ光を照射し、レーザ光の照射位置を透明導電膜2の表面に沿って移動させ、レーザ光の照射領域の透明導電膜2の部分を蒸散させることにより行なうことができる。なお、レーザスクライブ法による第1の分離溝31の形成に用いられるレーザ光としては、たとえば、YAGレーザ光の基本波またはYVO4レーザ光の基本波などを用いることができる。
【0034】
次に、図3の模式的断面図に示すように、第1の分離溝31が形成された透明導電膜2上に光電変換層3を形成することにより太陽電池基板12を形成する。光電変換層3の形成方法としては、たとえばプラズマCVD法などを用いることができる。
【0035】
ここで、光電変換層3としては、たとえば、プラズマCVD法により、p型半導体層、i型半導体層およびn型半導体層を基板1側からこの順序に積層した積層構造体などを用いることができる。
【0036】
p型半導体層としては、たとえば、p型非晶質シリコン層、p型微結晶シリコン層、p型非晶質炭化シリコン層、またはp型非晶質窒化シリコン層などのp型層の単層またはこれらを複数重ね合わせた複数層などを用いることができる。p型半導体層が複数層から構成される場合には、すべての層が同一の半導体材料から形成されていてもよく、少なくとも1層が他と異なる半導体材料から形成されていてもよい。p型半導体層にドープされるp型不純物としては、たとえばボロンなどを用いることができる。
【0037】
i型半導体層としては、たとえば、i型非晶質シリコン層、i型微結晶シリコン層、i型非晶質炭化シリコン層、またはi型非晶質窒化シリコン層などのi型層の単層またはこれらを複数重ね合わせた複数層などを用いることができる。i型半導体層は、p型不純物およびn型不純物のいずれもドープされないノンドープ層である。i型半導体層が複数層から構成される場合には、すべての層が同一の半導体材料から形成されていてもよく、少なくとも1層が他と異なる半導体材料から形成されていてもよい。
【0038】
n型半導体層としては、たとえば、n型非晶質シリコン層、n型微結晶シリコン層、n型非晶質炭化シリコン層、またはn型非晶質窒化シリコン層などのn型層の単層またはこれらを複数重ね合わせた複数層などを用いることができる。n型半導体層が複数層から構成される場合には、すべての層が同一の半導体材料から形成されていてもよく、少なくとも1層が他と異なる半導体材料から形成されていてもよい。n型半導体層にドープされるn型不純物としては、たとえばリンなどを用いることができる。
【0039】
また、光電変換層3としては、たとえば2つ以上のp−i−n層を重ね合わせたタンデム構造としてもよい。このようなタンデム構造としては、たとえば、p型非晶質シリコン層、i型非晶質シリコン層およびn型微結晶シリコン層が基板1側からこの順序で積層されたp−i−n層と、p型微結晶シリコン層、i型微結晶シリコン層およびn型微結晶シリコン層が基板1側からこの順序で積層されたp−i−n層とを組み合わせた構造等が挙げられる。
【0040】
なお、本明細書において、「非晶質シリコン」は「水素化非晶質シリコン」を含む概念であり、「微結晶シリコン」は「水素化微結晶シリコン」を含む概念である。
【0041】
次に、図4の模式的断面図に示すように、太陽電池基板12の光電変換層3を分離する直線状の第2の分離溝32を形成する。ここで、第2の分離溝32は、以下に例示されるレーザスクライブ法による加工により形成される。
【0042】
図5に、本実施の形態に用いられるレーザスクライブ装置の一例の模式的な構成を示す。このレーザスクライブ装置は、レーザ光発振器11と、光学ユニット13と、ステージ14と、基板位置固定ユニット15と、基板平面度維持部材(図示せず)と、駆動ユニット16a,16bと、台座23と、温度測定ユニット18と、温度情報記録ユニット19と、制御ユニット17と、を備えている。
【0043】
レーザ光発振器11は、太陽電池基板12の光電変換層3を蒸散することが可能なエネルギを有するレーザ光22を発振することができる。そのようなレーザ光22としては、たとえば、YAGレーザ光の第2高調波またはYVO4レーザ光の第2高調波などが挙げられる。
【0044】
光学ユニット13は、レーザ光発振器11から発振されたレーザ光22の進行方向を反射により変えることができるミラー20と、ミラー20で反射されたレーザ光22を集光して太陽電池基板12に照射することができるレンズ21とを含む空間伝送方式の光学系とされている。光学ユニット13としては、レーザ光発振器11から発振されたレーザ光22を太陽電池基板12に導くことができる光学系であれば特に限定されず、たとえば、空間伝送方式の光学系以外にも、光ファイバを用いたファイバ伝送方式の光学系を用いてもよい。
【0045】
ステージ14としては、その表面上に太陽電池基板12を設置することが可能な構造(たとえば、太陽電池基板12の周辺部を保持可能な支持部材)を有するものが用いられている。
【0046】
基板位置固定ユニット15としては、ステージ14の4つの側面にそれぞれ取り付けられて太陽電池基板12の側面を押さえることにより、ステージ14に対する太陽電池基板12の相対的な位置を変化させない機構が用いられている。ただし、基板位置固定ユニット15は、この機構に限定されるものではなく、ステージ14上で太陽電池基板12を固定することができる機構であればよい。
【0047】
基板平面度維持部材(図示せず)は、ステージ14の内部に設けられて、先端部が樹脂から構成され、太陽電池基板12を複数点で支持することにより太陽電池基板12の表面の平面度を維持する部材である。基板平面度維持部材(図示せず)としては、たとえば、支持ピンやボールベア等を用いることができる。また、基板平面度維持部材(図示せず)の代わりに、オートフォーカス機能を有し、太陽電池基板12の撓みに対応する機構を設けてもよい。
【0048】
駆動ユニット16aとしては、台座23の表面の長手方向をx軸とし、台座23の表面の長手方向に直交する方向をy軸としたときに、台座23の表面のx軸方向にステージ14を移動自在とする機構が用いられており、駆動ユニット16bとしては、台座23の表面のy軸方向にステージ14を移動自在とする機構が用いられている。ただし、駆動ユニット16a,16bは、この構成に限定されるものではなく、太陽電池基板12を保持したステージ14の台座23の表面上における2次元的な移動を可能とするものであればよい。
【0049】
台座23としては、ステージ14の2次元的な移動を可能とする表面を有する平板が用いられている。
【0050】
温度測定ユニット18は、太陽電池基板12の上方に位置して太陽電池基板12の温度情報を取得することができる。温度測定ユニット18としては、太陽電池基板12の温度情報を取得することができるものであれば特に限定されず、たとえば、太陽電池基板12の表面全体の温度分布の情報を取得することができる非接触式の赤外線サーモグラフィ、または太陽電池基板12の表面の温度をスポットで測定することができる非接触式の赤外放射温度計若しくは接触式の熱電対などを用いることができる。
【0051】
温度情報記録ユニット19は、温度測定ユニット18および制御ユニット17にそれぞれ接続されている。そして、温度測定ユニット18から送信されてきた太陽電池基板12の温度情報を受信してその内部に記録し、その記録した温度情報を制御ユニット17に送信することができる。
【0052】
制御ユニット17は、レーザ光発振器11、駆動ユニット16a、駆動ユニット16bおよび温度情報記録ユニット19にそれぞれ接続されている。また、制御ユニット17の内部には、事前に取得された太陽電池基板12の歪情報が記憶されている。そして、制御ユニット17は、温度情報記録ユニット19から送信されてきた太陽電池基板12の温度情報と、内部記憶された太陽電池基板12の歪情報とに基づいてレーザ光発振器11から発振されるレーザ光22の太陽電池基板12への照射位置を決定し、その決定された照射位置にレーザ光22が照射されるように、レーザ光発振器11から発振されるレーザ光22の照射タイミングおよび駆動ユニット16a,16bによるステージ14の移動をそれぞれ制御することができる。
【0053】
太陽電池基板12の歪情報は、太陽電池基板12の表面の少なくとも1つの位置における温度に対する歪量についての情報であり、レーザスクライブ法による太陽電池基板12の加工前に事前に取得される。
【0054】
太陽電池基板12の歪情報は、たとえば以下の(a)〜(d)のようにして事前に取得することができる。
【0055】
(a)被加工物となる太陽電池基板12と同様のサンプルを作製する際に、第1の分離溝31の形成後であって光電変換層3の形成前に、予め、室温における基板1の表面の少なくとも1つの所定の位置(好ましくは基板1の表面の中心と両端を含む3点)を特定しておく。ここで、所定の位置は、被加工物の温度変化によっては位置が変動しない基準位置(たとえば基板1の側面など)からの距離によって特定される。
【0056】
(b)次に、第1の分離溝31が形成された透明導電膜2の表面上に光電変換層3を形成することによって、被加工物となる太陽電池基板12と同様のサンプルを作製する。
【0057】
(c)次に、たとえば図6の模式的斜視図に示すように、光電変換層3の形成直後のサンプル12aの表面の温度分布を測定する。
【0058】
(d)次に、たとえば図7の模式的拡大平面図に示すように、上記の(a)で特定された所定の位置であるA点〜E点は、それぞれ、光電変換層3の形成による歪みによりA’点〜E’点の位置に移動する。そして、上記の(a)と同様にして、基準位置からA’点〜E’点までのそれぞれの距離を測定する。そして、基準位置からA’点〜E’点までのそれぞれの距離と、上記の(a)で特定された基準位置からA点〜E点までのそれぞれの距離と、の差の絶対値を算出する。これにより、上記の(a)で特定された所定の位置であるA点〜E点のそれぞれの点における温度と歪量WA、WB、WC、WDおよびWEとの関係の情報を取得することができる。なお、図7において、参照符号42は後述のレーザ光22の照射位置の軌道に相当し、A’点〜E’点を通る曲線が当該軌道42の幅の中心線である加工中心ライン42aに相当する。また、第1の分離溝31の幅の中心線が第1の分離溝31の加工中心ライン31aに相当する。
【0059】
なお、上記において、A点〜E点はそれぞれ以下の点に相当する。
A点:レーザスクライブ法による加工後に室温まで冷却された後に理想的な位置に形成される直線状の第2の分離溝32の幅方向の中心線に相当する加工中心ライン32aの一方の端部近傍の点
B点:レーザスクライブ法による加工後に室温まで冷却された後に理想的な位置に形成される直線状の第2の分離溝32の加工中心ライン32aの中点
C点:レーザスクライブ法による加工後に室温まで冷却された後に理想的な位置に形成される直線状の第2の分離溝32の加工中心ライン32aのA点とは反対側の端部近傍の点
D点:レーザスクライブ法による加工後に室温まで冷却された後に理想的な位置に形成される直線状の第2の分離溝32の加工中心ライン32aのA点とB点とを結ぶ線分ABの中点
E点:レーザスクライブ法による加工後に室温まで冷却された後に理想的な位置に形成される直線状の第2の分離溝32の加工中心ライン32aのB点とC点とを結ぶ線分BCの中点
また、たとえば図8または図9に示すように、上記のA点〜E点以外の点についても歪量を算出することができる。ここで、A点〜E点以外の点の歪量の算出方法として、F点(A点とD点とを結ぶ線分ADの中点)、G点(D点とB点とを結ぶ線分DBの中点)、H点(B点とE点とを結ぶ線分BEの中点)およびI点(E点とC点とを結ぶ線分ECの中点)の歪量の算出について説明する。
【0060】
図8は、第1の分離溝31の加工中心ライン31aと第2の分離溝32の加工中心ライン32aとの間の間隔が50μm程度である場合に、隣り合う歪量の差(WD−WA、WB−WD、WB−WE、WE−WC)がそれぞれ20μm以下であるときのF点〜I点における歪量の算出方法について図解している。
【0061】
まず、図8に示すように、A’点、D’点、およびB’点をそれぞれ通過するような直線若しくは近似直線と、B’点、E’点およびC’点ををそれぞれ通過する直線若しくは近似直線とをそれぞれ結んだ屈曲線を描く。
【0062】
次に、上記の屈曲線と、加工中心ライン32a上のF点〜I点のそれぞれの点との距離を測定することによって、F点〜I点における歪量WF、WG、WH、およびWIがそれぞれ算出される。
【0063】
図9は、第1の分離溝31の加工中心ライン31aと第2の分離溝32の加工中心ライン32aとの間の間隔が50μm程度である場合に、隣り合う歪量の差(WD−WA、WB−WD、WB−WE、WE−WC)の少なくとも1つが20μmを超えるときのF点〜I点における歪量の算出方法について図解している。
【0064】
まず、図9に示すように、A’点〜E’点をそれぞれ通過するような曲線若しくは近似曲線を描く。
【0065】
次に、上記の曲線若しくは近似曲線と、加工中心ライン32a上のF点〜I点のそれぞれの点との距離を測定することによって、F点〜I点における歪量WF、WG、WH、およびWIがそれぞれ算出される。
【0066】
以上のようにして、サンプル12aの表面の温度分布を変化させながらサンプル12aの表面の所定の位置における歪量を算出していくことによって、太陽電池基板12の表面の所定の位置における温度に対する歪量についての情報である歪情報を取得することができる。
【0067】
なお、上記においては、レーザスクライブ法による加工後に室温まで冷却された後に理想的な位置に形成される直線状の第2の分離溝32の加工中心ライン32a上の複数の点から太陽電池基板12の歪情報を取得したが、上記と同様にして、代表的な1点(好ましくは光電変換層3の形成後において最も高温となる点)から太陽電池基板12の表面の複数の点における歪情報を取得することもできる。これは、同一の製造工程により同一の構造の薄膜太陽電池を量産する場合には、太陽電池基板12の温度分布はほとんど同じ傾向を示すためである。
【0068】
また、透明導電膜2の形成後であって第1の分離溝31の形成前の基板1、および後述する裏面電極層の形成後であって第3の分離溝の形成前の太陽電池基板12についてもそれぞれ上記と同様に歪情報を事前に取得しておくことが好ましい。
【0069】
以下に、図5に示すレーザスクライブ装置を用いて太陽電池基板12のレーザスクライブ法による太陽電池基板12の加工による第2の分離溝32の形成方法の一例について説明する。
【0070】
まず、図5に示すように、被加工物である太陽電池基板12をステージ14上に設置し、その後、基板位置固定ユニット15によってステージ14上に太陽電池基板2を固定する。
【0071】
次に、温度測定ユニット18により太陽電池基板12の表面の温度情報が取得され、取得された太陽電池基板12の表面の温度情報が温度情報記録ユニット19に送信されて、温度情報記録ユニット19に記録される。
【0072】
次に、温度情報記録ユニット19に記録された温度情報が温度情報記録ユニット19から制御ユニット17に送信される。そして、制御ユニット17において、温度情報記録ユニット19から送信されてきた温度情報と、事前に取得され制御ユニット17に内部記憶された太陽電池基板12の歪情報とに基づいて、室温まで冷却した後の太陽電池基板12に直線状の第2の分離溝32が形成されるように、レーザ光22の照射位置が決定される。また、レーザ光22の照射位置は、さらに第2の分離溝32のピッチを考慮して決定することもできる。
【0073】
次に、制御ユニット17によって、レーザ光発振器11および駆動ユニット16a,16bを制御して、駆動ユニット16a,16bによりステージ14が台座23のx軸方向および/またはy軸方向に2次元的に移動させられながらレーザ光発振器11によりレーザ光22が照射されて、上記のようにして決定されたレーザ光22の照射位置の軌道に沿ってレーザ光22が照射される。ここで、レーザ光22の照射は、たとえば、加工基準(好ましくは第1の分離溝31の幅方向に位置する基板1の側面)を基準として行なうことができる。
【0074】
ここで、レーザ光22は、レーザ光発振器11から発振された後に光学ユニット13に進行し、光学ユニット13の内部のミラー20によって反射し、レンズ21によって集光された後に太陽電池基板12の基板1側から入射する。太陽電池基板12の基板1側から入射したレーザ光22は、基板1および透明導電膜2を通して光電変換層3に照射され、レーザ光22の照射部分の光電変換層3が蒸散して除去されて第2の分離溝32が形成される。
【0075】
レーザ光22の照射位置の軌道は、レーザスクライブ法による加工前の太陽電池基板12の温度分布の状態から室温まで冷却された後の状態に変化した後にどのように歪が生じるかということを想定して決定されている。したがって、レーザスクライブ法による加工直後においては、第2の分離溝32の形状は、上記で決定された軌道に応じた形状となっているが、上記の加工後に太陽電池基板12が室温まで冷却された後には、太陽電池基板12に生じていた歪が解消されることにより、第2の分離溝32の形状が直線状となって直線状の第2の分離溝32が形成されることになる。
【0076】
その後、基板位置固定ユニット15による固定が解除され、ステージ14から第2の分離溝32の形成後の太陽電池基板12が取り出されて、レーザスクライブ法による太陽電池基板12の加工が完了する。
【0077】
図10に、本実施の形態に用いられるレーザスクライブ装置の他の一例の模式的な構成を示す。このレーザスクライブ装置は、被加工物である太陽電池基板12をコンベア51により搬送し、レーザ光照射装置10の内部への搬入前に赤外線サーモグラフィ52により太陽電池基板12の表面全体の温度分布を温度情報として取得する点に特徴がある。
【0078】
図10に示すレーザスクライブ装置においては、レーザ光照射装置10における太陽電池基板12の加工時に他の太陽電池基板12の温度情報を赤外線サーモグラフィ52によって予め取得しておくことができることから、太陽電池基板12の連続的な加工が可能となる。
【0079】
なお、レーザ光照射装置10としては、たとえば、図5に示すレーザスクライブ装置の温度測定ユニット18および温度情報記録ユニット19を装置の内部から取り外したしたものなどを用いることができる。
【0080】
図11に、本実施の形態に用いられるレーザスクライブ装置のさらに他の一例の模式的な構成を示す。このレーザスクライブ装置は、レーザ光照射装置10の内部への搬入前の温度測定装置として、太陽電池基板12の表面の温度をスポットで測定することが可能な赤外放射温度計53を用いている点に特徴がある。
【0081】
図11に示すレーザスクライブ装置においては、赤外放射温度計53は、図10に示すレーザスクライブ装置の赤外線サーモグラフィ52より低コストで設置が可能であることから、装置コストの低減を図ることができる。さらに、この場合には、赤外放射温度計53による太陽電池基板12の中心の温度情報だけでなく、少なくとも太陽電池基板12の端の温度情報も取得し、太陽電池基板12の中心と端の温度差を監視することが好ましい。これにより、各太陽電池基板12の温度分布が通常の太陽電池基板12の温度分布の範囲内に収まっているかどうかを確認することができるため、レーザスクライブ法による太陽電池基板12の加工精度を高めることができる。
【0082】
なお、図10および図11に示すように、太陽電池基板12の温度情報の取得方法が、レーザ光照射装置10の外部における太陽電池基板12により放射される赤外線のスペクトルの検出により行なわれる場合には蛍光灯などによる温度情報の影響を避けるために、太陽電池基板12への光の入射を妨げるようにコンベア51の周囲を囲む部材を設置することが好ましい。
【0083】
また、図10および図11に示すように、太陽電池基板12の温度情報の取得方法が、レーザ光照射装置10の外部における太陽電池基板12により放射される赤外線のスペクトルの検出により行なわれる場合の測定温度誤差は、実際の温度±2℃の範囲内であることが好ましく、実際の温度±1℃の範囲内であることがより好ましく、実際の温度±0.5℃の範囲内であることがさらに好ましい。また、太陽電池基板12の温度情報の取得は、太陽電池基板12がレーザ光照射装置10の内部に搬入される直前であることが好ましい。
【0084】
上記のようにして、光電変換層3を分離する第2の分離溝32を形成した後には、図12の模式的断面図に示すように、第2の分離溝32が形成された光電変換層3を覆うように裏面電極層4を形成する。裏面電極層4の形成方法としては、たとえば従来から公知のスパッタリング法、蒸着法またはイオンプレーティング法などを用いることができる。
【0085】
ここで、裏面電極層4としては、たとえばAg(銀)層、Al(アルミニウム)層またはこれらの層の積層体などの導電性を有する層を用いることができる。また、裏面電極層4は、光電変換層3側の表面に、たとえば、SnO2膜、ITO膜、ZnO膜、若しくはこれらの膜に微量の不純物を添加した膜の単層またはこれらを複数重ね合わせた複数層などの光を透過させることができるとともに導電性である透明導電膜を有していることが薄膜太陽電池の変換効率を向上させる観点から好ましい。透明導電膜が複数層から構成される場合には、すべての層が同一の材料から形成されていてもよく、少なくとも1層が他と異なる材料から形成されていてもよい。また、裏面電極層4の厚さは、たとえば、150nm以上400nm以下の厚さとすることができる。
【0086】
その後、図13の模式的断面図に示すように、光電変換層3および裏面電極層4を分離する直線状の第3の分離溝33を形成することよって薄膜太陽電池が製造される。本実施の形態で製造された薄膜太陽電池の裏面電極層4等に電流取り出し用の電極を形成してもよい。
【0087】
第3の分離溝33は、たとえばレーザスクライブ法などにより形成することができる。レーザスクライブ法による第3の分離溝33の形成は、たとえば、基板1側から光電変換層3の一部にレーザ光を照射し、レーザ光の照射位置を光電変換層3の表面に沿って移動させていくことによりレーザ光の照射領域の光電変換層3および裏面電極層4の部分を蒸散して行なうことができる。なお、レーザスクライブ法による第3の分離溝33の形成に用いられるレーザ光としては、たとえば、YAGレーザ光の第2高調波またはYVO4レーザ光の第2高調波などを用いることができる。
【0088】
また、レーザスクライブ法による第3の分離溝33の形成についても、上記の第2の分離溝32と同様にして形成することが好ましい。すなわち、裏面電極層4の形成後の太陽電池基板12を被加工物として、当該被加工物の加工前の温度情報と、事前に取得した当該被加工物の歪情報とに基づいてレーザ光の照射位置を決定して、決定されたレーザ光の照射位置に基板1側からレーザ光を照射するレーザスクライブ法により第3の分離溝33を形成することが好ましい。この場合には、当該被加工物の温度を調整することなく、第3の分離溝33を高精度で形成することが可能となるため、高い生産効率で薄膜太陽電池を製造することが可能となる。
【0089】
また、レーザスクライブ法による第1の分離溝31の形成についても、上記の第2の分離溝32と同様にして形成することが好ましい。すなわち、透明導電膜2の形成後の基板1を被加工物として、当該被加工物の加工前の温度情報と、事前に取得した当該被加工物の歪情報とに基づいてレーザ光の照射位置を決定して、決定されたレーザ光の照射位置に基板1側からレーザ光を照射するレーザスクライブ法により第1の分離溝31を形成することが好ましい。この場合には、当該被加工物の温度を調整することなく、第1の分離溝31を高精度で形成することが可能となるため、高い生産効率で薄膜太陽電池を製造することが可能となる。
【0090】
本実施の形態により製造された薄膜太陽電池においては、たとえば図14の模式的拡大平面図に示すように、第1の分離溝31の加工中心ライン31aと第2の分離溝32の加工中心ライン32aとの間のピッチP12と、第2の分離溝32の加工中心ライン32aと第3の分離溝33の加工中心ライン33aとの間のピッチP13とをそれぞれ、たとえば120μm程度に高精度に制御することが可能である。
【0091】
このように本実施の形態においては、従来の方法のように、被加工物の温度を調整してから分離溝の形成を行なうことが不要であることから、高い生産効率で薄膜太陽電池を製造することができる。
【0092】
また、本実施の形態においては、レーザスクライブ法におけるレーザ光の照射位置が、レーザスクライブ法による加工前の被加工物の表面の温度分布の状態から室温まで冷却された後の状態に変化した後にどのように歪が生じるかということを想定して決定されているため、レーザスクライブ法による分離溝の形成を高精度で行なうことができる。
【0093】
したがって、本実施の形態の薄膜太陽電池の製造方法およびレーザスクライブ装置によれば、被加工物の温度調整をすることなく、高精度な加工により薄膜太陽電池の高い生産効率を実現することができる。
【0094】
なお、本実施の形態においては、レーザ光発振器11から1つのレーザ光22のみを発振する場合について説明したが、複数のレーザ光をそれぞれ独立に同時に発振して複数の溝を同時に形成することができるものであってもよい。
【0095】
また、本実施の形態においては、制御ユニット17は、被加工物の温度情報と被加工物の歪情報とに基づいてレーザ光22の照射位置を決定する場合について説明したが、被加工物の温度情報と歪情報とが含まれていればその他の情報を含めてレーザ光の照射位置が決定されてもよい。
【実施例】
【0096】
<実施例>
まず、図1に示すように、基板1としての幅1000mm×長さ1400mm×厚さ4mmの矩形状の表面を有するガラス基板上に、熱CVD法により、透明導電膜としてSnO2からなる透明導電膜2を成膜した。
【0097】
次に、図2に示すように、透明導電膜2に、基板1の長さ方向に伸長する直線状の第1の分離溝31をレーザスクライブ法によって一定の間隔で複数本形成した。なお、YAGレーザ光の基本波の照射は、基板1の幅方向における一方の側(以下、「K側」という。)の側面を加工基準として基板1側から行われ、その照射部分の透明導電膜2を蒸散により除去した。この際、基板1の表面の中心温度は27℃(室温)付近で行なわれた。
【0098】
ここで、第1の分離溝31は、後述する第2の分離溝32と同様に、図5に示されるレーザスクライブ装置を用いて、透明導電膜2の成膜後の基板1の温度情報と、透明導電膜2の成膜後の基板1の事前に取得した歪情報とに基づいて決定された位置にYAGレーザ光の基本波を照射するレーザスクライブ法により形成してもよい。具体的には、まず、制御ユニット17において、赤外線サーモグラフィにより取得された透明導電膜2の成膜後の基板1の表面の温度分布と、事前に取得されて内部記憶された透明導電膜2の成膜後の基板1の歪情報と、に基づいて、YAGレーザ光の基本波の照射位置の軌道を決定する。次に、その決定された軌道に沿って基板1の幅方向におけるK側の側面を加工基準として基板1側からYAGレーザ光の基本波を照射し、透明導電膜2を加工して第1の分離溝31を形成することができる。このような歪情報に基づいてレーザ光の照射位置(軌道)を決定する方法は、基板1の温度が室温と大きく異なる場合、例えば透明導電膜2の成膜後の基板1の温度が室温から10℃以上異なる場合に特に有効である。
【0099】
次に、図3に示すように、第1の分離溝31が形成された後の基板1を純水で超音波洗浄した後、透明導電膜2を覆うようにして光電変換層3を成膜して、基板1、透明導電膜2および光電変換層3の積層体からなる太陽電池基板12を形成した。ここで、光電変換層3は、基板1の温度が180℃の条件におけるプラズマCVD法により、ボロンがドープされた水素化非晶質シリコン半導体(a−Si:H)からなるp層、ノンドープの水素化非晶質シリコン半導体(a−Si:H)からなるi層、リンがドープされた水素化微結晶シリコン半導体(μc−Si:H)からなるn層、水素化微結晶シリコン半導体(μc−Si:H)からなるp層、ノンドープの水素化微結晶シリコン半導体(μc−Si:H)からなるi層、およびリンがドープされた水素化微結晶シリコン半導体(μc−Si:H)からなるn層を基板1側からこの順序で成膜することによって形成した。
【0100】
次に、図4に示すように、光電変換層3に、基板1の長さ方向に伸長する直線状の第2の分離溝32をレーザスクライブ法によって複数本形成した。ここで、第2の分離溝32は、図5に示されるレーザスクライブ装置を用いて、太陽電池基板12の温度情報と事前に取得した太陽電池基板12の歪情報とに基づいて決定された位置にレーザ光を照射するレーザスクライブ法により形成された。
【0101】
具体的には、まず、上記の光電変換層3の形成後の太陽電池基板12をステージ4上に設置して基板位置固定ユニット15により固定し、温度測定ユニット18としての赤外線サーモグラフィにより太陽電池基板12の表面(基板1の表面)の温度分布を測定した。その結果を図15に示す。図15に示すように、上記の光電変換層3の形成後の太陽電池基板12の表面の温度は、太陽電池基板12の表面の中心の温度である50℃(最高温度)から周辺近傍に進むにしたがって次第に低下していることが確認された。
【0102】
次に、図5に示されるレーザスクライブ装置の制御ユニット17において、上記の赤外線サーモグラフィにより取得された太陽電池基板12の表面の温度分布と、事前に取得されて内部記憶された太陽電池基板12の歪情報と、に基づいて、レーザ光22としてのYVO4レーザ光の第2高調波の照射位置の軌道を決定した。
【0103】
次に、上記で決定されたYVO4レーザ光の第2高調波の照射位置の軌道に沿ってYVO4レーザ光の第2高調波が基板1側から照射されるように、駆動ユニット16a,16bによりステージ14を移動させながらレーザ光発振器11からYVO4レーザ光の第2高調波を発振した。これにより、YVO4レーザ光の第2高調波の照射部分の光電変換層3が蒸散することにより第2の分離溝32が形成された。ここでも、YVO4レーザ光の第2高調波の照射は、基板1の幅方向におけるK側の側面を加工基準として行なった。その後、第2の分離溝32の形成後の太陽電池基板12を図5に示されるレーザスクライブ装置から取り出した。
【0104】
次に、図12に示すように、第2の分離溝32の形成後の太陽電池基板12の光電変換層3の表面上に裏面電極層4を形成した。ここで、裏面電極層4は、マグネトロンスパッタ法により、基板1の温度が140℃の条件で、光電変換層3側からZnO膜およびAg膜をこの順序で成膜して形成された。
【0105】
次に、図13に示すように、光電変換層3に、基板1の長さ方向に伸長する直線状の第3の分離溝33をレーザスクライブ法で複数本形成することにより、基板1上に複数の単位太陽電池セルが集積されて直列に接続された構造を有する実施例の薄膜太陽電池を形成した。ここで、第3の分離溝33は、第2の分離溝32と同様に、図5に示されるレーザスクライブ装置を用いて、裏面電極層4の成膜後の太陽電池基板12の温度情報と、裏面電極層4の成膜後の太陽電池基板12の事前に取得した歪情報とに基づいて決定された位置にレーザ光を照射するレーザスクライブ法により形成された。
【0106】
具体的には、まず、制御ユニット17において、赤外線サーモグラフィにより取得された裏面電極層4の成膜後の太陽電池基板12の表面の温度分布と、事前に取得されて内部記憶された裏面電極層4の成膜後の太陽電池基板12の歪情報と、に基づいて、YVO4レーザ光の第2高調波の照射位置の軌道を決定した。次に、その決定された軌道に沿って基板1の幅方向におけるK側の側面を加工基準として基板1側からYVO4レーザ光の第2高調波を照射し、その照射部分の光電変換層3および裏面電極層4を蒸散により除去した。この際、基板1の表面の中心温度は27℃(室温)付近で行なわれた。
【0107】
図16に、実施例の薄膜太陽電池を基板1側から光学顕微鏡を用いて撮影した写真を示す。図16に示すように、実施例の太陽電池においては、基板1の幅方向におけるK側から順に、第3の分離溝33、第2の分離溝32、第1の分離溝31が形成され、それぞれが互いに重なっておらず、設計通りに薄膜太陽電池が製造できていることが確認された。
【0108】
<比較例>
第2の分離溝32および第3の分離溝33の形成時にそれぞれ、被加工物(太陽電池基板12、および裏面電極層4の成膜後の太陽電池基板12)の温度情報と被加工物の歪情報とに基づいて、制御ユニット17におけるレーザ光の照射位置の軌道を決定せず、レーザ光の照射位置の軌道を補正しなかったこと以外は実施例と同様にして比較例の薄膜太陽電池を製造した。
【0109】
図17に、比較例の薄膜太陽電池を基板1側から顕微鏡を用いて撮影した写真を示す。図17に示すように、比較例の太陽電池においては、第2の分離溝32と、第3の分離溝33とが重なっており、第3の分離溝33が十分に形成されなかったことから、隣り合う単位太陽電池セルの裏面電極層4同士が短絡する部分が確認された。
【0110】
また、比較例において、基板1の幅方向におけるK側と反対側(H側)の側面を加工基準としてレーザ光を照射して第2の分離溝32および第3の分離溝33を形成した場合には、第1の分離溝31と第2の分離溝32とが重なる結果となった。
【0111】
したがって、レーザ光の照射位置は、基板1の幅方向において加工基準となる側と、単位太陽電池セルの集積方向と、を考慮して決定されることが好ましい。
【0112】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0113】
本発明は、光電変換装置の製造方法および光ビーム照射加工装置に利用することができる可能性がある。
【符号の説明】
【0114】
1 基板、2 透明導電膜、3 光電変換層、10 レーザ光照射装置、11 レーザ光発振器、12 太陽電池基板、12a サンプル、13 光学ユニット、14 ステージ、15 基板位置固定ユニット、16a,16b 駆動ユニット、17 制御ユニット、18 温度測定ユニット、19 温度情報記録ユニット、20 ミラー、21 レンズ、22 レーザ光、23 台座、31 第1の分離溝、31a 加工中心ライン、32 第2の分離溝、32a 加工中心ライン、33 第3の分離溝、33a 加工中心ライン、42 軌道、42a 加工中心ライン、51 コンベア、52 赤外線サーモグラフィ、53 赤外放射温度計、100 ガラス基板。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と該基板上に形成された膜とを含む被加工物の温度情報を取得する工程と、
前記温度情報を取得する工程の後に前記被加工物に光ビームを照射することによって前記光ビームの照射領域における前記被加工物を加工する工程と、を含み、
前記被加工物を加工する工程においては、前記温度情報と事前に取得した歪情報とを含む情報に基づいて決定された位置に前記光ビームが照射されることを特徴とする、光電変換装置の製造方法。
【請求項2】
前記温度情報を取得する工程においては、前記被加工物の表面の温度分布または前記被加工物の表面の少なくとも1点の温度の情報が取得されることを特徴とする、請求項1に記載の光電変換装置の製造方法。
【請求項3】
前記被加工物を加工する工程においては、前記光ビームは前記基板側から照射されることを特徴とする、請求項1または2に記載の光電変換装置の製造方法。
【請求項4】
基板と該基板上に形成された膜とを含む被加工物に光ビームを照射することによって前記被加工物を加工するための光ビーム照射加工装置であって、
前記被加工物に前記光ビームを照射するための光ビーム発振部と、
前記光ビームの照射前の前記被加工物の温度情報を取得するための温度情報取得部と、
前記被加工物の位置を変更することが可能な駆動部と、
前記温度情報取得部によって取得された前記温度情報と内部記憶された歪情報とを含む情報に基づいて決定された位置に前記光ビームを照射できるように前記光ビーム発振部と前記駆動部とを制御することが可能な制御部と、を備えた、
光ビーム照射加工装置。
【請求項5】
基板と該基板上に形成された膜とを含む被加工物に光ビームを照射することによって前記被加工物を加工するための光ビーム照射加工装置であって、
前記被加工物の温度情報を取得するための温度情報取得部と、
前記被加工物を加工するための加工部と、
前記被加工物を前記温度情報取得部から前記加工部に搬送するための搬送部と、を備え、
前記加工部は、
前記被加工物に前記光ビームを照射するための光ビーム発振部と、
前記被加工物の位置を変更することが可能な駆動部と、
前記温度情報取得部によって取得された前記温度情報と内部記憶された歪情報とを含む情報に基づいて決定された位置に前記光ビームを照射できるように前記光ビーム発振部と前記駆動部とを制御することが可能な制御部と、を備えた、
光ビーム照射加工装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2011−156583(P2011−156583A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−22182(P2010−22182)
【出願日】平成22年2月3日(2010.2.3)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】