説明

免疫刺激オリゴヌクレオチドおよびその医薬用途

【課題】 ヒトにおいて免疫応答の誘導活性を示し、且つその活性がマウスに交差性を示す新規な免疫刺激性オリゴヌクレオチドおよびこの免疫刺激性オリゴヌクレオチドの医薬用途を提供すること。
【解決手段】 特定の塩基配列を有し、ヒトおよびマウスに対して免疫刺激活性を有する、オリゴヌクレオチド、及びそれを含む、免疫系が正常に機能していない疾患または障害、あるいは免疫機能を増強させることが有効である疾患または障害を、処置、予防もしくは改善する際に使用するための治療剤を提供した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免疫刺激オリゴヌクレオチド配列およびそのオリゴヌクレオチドを含む治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
悪性腫瘍、感染症、免疫不全疾患あるいは自己免疫疾患に対する免疫調節型治療剤としては、各種の細菌製剤、多糖、レバミゾールなどの種々の合成低分子化合物、またはインターフェロンなどの種々のサイトカインなどが用いられ、または研究されている。しかしながらこれらの治療剤の効果は必ずしも充分なものではなく、いずれも様々な副作用を呈する。このためさらに効果の高く副作用の少ない治療剤が求められている。
【0003】
いくつかのポリヌクレオチドが生体応答調節作用を持つことが知られている。その代表的な例としてはRNAであるPoly(I:C) であろう。Poly(I:C) は、IFN産生の強力なインデューサーであり、そしてマクロファージのアクチベーターおよびNK活性のインデューサーである。Poly(I:C)を腫瘍治療に用いる研究が行われたが、発熱等の副作用を有するため現在までに治療薬として実用化されるに至っていない。
【0004】
また、特定のタイプの細菌性DNAが免疫応答を刺激することが示されている。細菌性DNAは、マクロファージおよびナチュラルキラー(NK)細胞によるサイトカイン産生を誘導する。細菌性DNAの細胞活性化は、非メチル化されたCpGジヌクレオチド(以下CpGと記す)を中心に含む短い配列によるとされている。マウス脾細胞のNK細胞活性を増強する活性について試験された場合、最も免疫刺激性の強い六量体として3'-AACGCT-5'、3'-AGCGCT-5'、3'-GACGTC-5'が見い出された(非特許文献1)。また、B細胞活性化を測定した研究では、最も刺激性のある6量体配列は5'-プリン、プリンもしくはピリミジン、CpG、プリンもしくはピリミジン、ピリミジン-3'の配列であることが示されている(特許文献1、非特許文献2)。
【0005】
細菌性DNAがマクロファージを刺激して、IL-12およびTNF-αの産生を誘導することも報告されている。これらのサイトカインは、さらに脾細胞からIL-12およびIFN-γの産生を誘導することが知られている。また、細菌性DNAまたはCpGを含む免疫刺激オリゴヌクレオチドのいずれかによる脾細胞のインビトロ処理は、IL-6、IL-12、IFN-γの産生を誘導することが報告されている(非特許文献3)。これらの結果は、CpG含有配列がTh1型の免疫応答を誘導する能力を有することを示している。
【0006】
このような性質、すなわちNK細胞活性の増強またはTh1型の免疫応答の誘導を示すCpG含有免疫刺激オリゴヌクレオチドの配列として既に幾つかのタイプが見い出されており、多数の報告がある。例としては、ある種のCpGを含むパリンドローム構造を有するポリデオキシヌクレオチドの配列が徳永らによって見い出されており、この配列はマウスにおいて免疫応答の誘導活性を示すことが報告されている(特許文献2)。ヒトの免疫応答を誘導する公知のCpG含有配列としては、D-Type の免疫刺激オリゴヌクレオチドがある(特許文献3、非特許文献4)。D-Typeの免疫オリゴヌクレオチドは、ヒト末梢血単核球におけるIFN-γの産生を誘導し、また、ヒトNK細胞を活性化させることが知られている。他のタイプのCpG ODNの配列および特性も報告されている(非特許文献5)。
【0007】
前述のようなオリゴヌクレオチドの活性増強を目的とした研究も行われている。徳永らは、CpGを含むパリンドローム外の配列にデオキシグアニル酸の繰り返し構造(ポリG配列)を付加することによって、免疫応答の誘導が増強されることを見い出している(非特許文献6)。また、天然に存在するホスホジエステルヌクレオチドは細胞内および細胞培地中において様々な核酸分解活性によって分解されやすい。そのため、核酸分解活性の攻撃標的であるヌクレオチド間のホスホジエステル結合を置換することによる安定化、さらにその結果としての活性増加の検討が行われている。頻繁に用いられている置換方法としては、ホスホロチオエートへの置換である。Klinmanらの研究では、免疫刺激オリゴヌクレオチドのパリンドローム外のG配列をホスホチロオエート修飾することにより、免疫応答の誘導が増強されることを示している(非特許文献7)。
【0008】
近年の研究において、Toll様受容体(TLR)と呼ばれる受容体が見い出されている。哺乳類におけるTLRファミリーの役割は、細菌の共通構造を認識するパターン認識受容体として先天的な免疫認識に関わっていると考えられている。また、TLRファミリーはNF-κBの活性化、Type I インターフェロンの産生を誘導することが知られている。非メチル化CpGを含む細菌性DNAはTLR9によって特異的に認識され、前述のような免疫刺激活性を示すことがTLR9ノックアウトマウスを用いた研究において見い出されている。(特許文献5、非特許文献8)
【0009】
Th1型の免疫応答の誘導を示す免疫刺激オリゴヌクレオチドを利用した治療法が研究されている。例えば、抗原と免疫刺激ヌクレオチドの結合体、あるいはそれに類する近接体を投与する方法が見い出されている。結合体の投与によって、特定の抗原に対するTh2型免疫応答をダウンレギュレートしながら同じ抗原に対するTh1型免疫応答を増強されることが示されている。このような処置は、アレルギー、腫瘍、自己免疫疾患などの疾患に有効であることが述べられている。(特許文献4)
【0010】
これまでに報告された免疫刺激オリゴヌクレオチドは、ヒトまたはマウスのいずれかに免疫応答の誘導活性を示すが、種交差性は低く両者に同等レベルで活性を示すものは見い出されていない。ヒトで免疫刺激活性を示す配列においてヒト以外の種への交差性が低いということは、免疫刺激オリゴヌクレオチドを医薬品として開発する際に大きな障害となる。すなわち、ヒトでの臨床試験の前に必須である免疫刺激オリゴヌクレオチド含有医薬品の動物を用いた非臨床試験において、治療効果の確認および毒性作用の早期発見が困難となる。したがって、免疫刺激オリゴヌクレオチドがヒトにおいて高い免疫刺激活性を示し、且つヒト以外の種に交差性を示すことは重要であり、有用性が極めて高い。
【0011】
【特許文献1】特表平10-506265
【特許文献2】特開平4-352724
【特許文献3】WO00/61151
【特許文献4】特開2002-34565
【特許文献5】特表2002-517156
【非特許文献1】Yamamoto ら J. Immunol. 1992 148:4072-4076
【非特許文献2】Kuriegら Nature 374:546-549
【非特許文献3】KlinmanらProc. Natl. Acad. Sci. 1996 93:2879-2883
【非特許文献4】Klinmanら J. Immunol. 2001 166:2372-2377
【非特許文献5】Klinmanら Immunological review 2004 199:201-216
【非特許文献6】Tokunagaら J. Biochem. 116:991-994
【非特許文献7】2001 J. Immunol. 166:2372-2377
【非特許文献8】Hemmiら Nature 2000 408:740-745
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明が解決しようとしている課題は、ヒトにおいて免疫応答の誘導活性を示し、且つその活性がマウスに交差性を示す新規な免疫刺激性オリゴヌクレオチドおよびこの免疫刺激性オリゴヌクレオチドの医薬用途を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らはこの課題を解決するため、鋭意検討を重ねた結果、徳永らが示しているCpGを含む6塩基から構成されるパリンドロームの5'-および3'-末端にある種の塩基配列を付加したオリゴヌクレオチドの中に、ヒトで高い免疫刺激活性を示し、且つマウスにおいて免疫刺激活性を示すオリゴヌクレオチドを見い出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、配列番号1に示される塩基配列、又は該塩基配列において1個ないし4個の塩基が置換し、欠失し及び/若しくは挿入された塩基配列を含み、ヒトおよびマウスに対して免疫刺激活性を有する、オリゴヌクレオチドを提供する。また、本発明は、配列番号1に示される塩基配列、又は該塩基配列において1個ないし4個の塩基が置換し、欠失し及び/若しくは挿入された塩基配列を含み、ヒトおよびマウスに対して免疫刺激活性を有する、オリゴヌクレオチドを提供する。さらに、本発明は、上記本発明のオリゴヌクレオチドの全てまたは一部のリン酸結合、リボース糖部及び/又は塩基部が修飾され、ヒトおよびマウスに対して免疫刺激活性を有するオリゴヌクレオチド誘導体を提供する。さらに、本発明は、上記本発明のオリゴヌクレオチド又はオリゴヌクレオチド誘導体を有効成分として含有する免疫刺激剤を提供する。上記本発明のオリゴヌクレオチド又はオリゴヌクレオチド誘導体を含み、医薬として使用されるオリゴヌクレオチド送達複合体を提供する。さらに、本発明は、上記本発明のオリゴヌクレオチド若しくはオリゴヌクレオチド誘導体または上記本発明のオリゴヌクレオチド送達物質を有効成分として含む、免疫系が正常に機能していない疾患または障害、あるいは免疫機能を増強させることが有効である疾患または障害を、処置、予防もしくは改善する際に使用するための治療剤を提供する。さらに、本発明は、上記本発明のオリゴヌクレオチド若しくはオリゴヌクレオチド誘導体または上記本発明の送達物質をアジュバントとして含む、ワクチンを提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明で提供される免疫刺激性オリゴヌクレオチドは、ヒトにおける免疫刺激活性が強い。さらに、その活性は、公知のヌクレオチドにはみられない、ヒト以外の動物種への交差性も有する。このような性質は、ヒトにおける免疫刺激オリゴヌクレオチドの効果について、他の動物種を用いて正確に予測することを可能とする。したがって、本発明が提供する免疫刺激ヌクレオチドおよびその使用は、医薬品および産業上の利用において、有益性および有用性の高いことが期待される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の免疫刺激性オリゴヌクレオチドは、好ましくは、配列表の配列番号1又は2で示される塩基配列を含み、ヒトおよびマウスに対して免疫刺激活性を有するものである。下記実施例において具体的に示される通り、配列番号1又は2で示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドは、ヒトおよびマウスに対して免疫刺激活性を有することが確認された。
【0016】
なお、一般に、生理活性を有する核酸において、少数の塩基が置換し、欠失し及び/又は挿入された場合であっても、もとの核酸の生理活性が維持される場合があることは当業者において広く知られているところである。従って、配列番号1又は2で示される塩基配列において、1個ないし4個の塩基が置換し、欠失し及び/若しくは挿入された塩基配列を含むものであって、ヒトおよびマウスに対して免疫刺激活性を有するオリゴヌクレオチドは本発明の範囲に含まれる。このような置換、欠失及び/又は挿入の塩基数は、好ましくは2個以下、さらに好ましくは1個以下、最も好ましくは0個である。また、置換、欠失及び/又は挿入の部位としては、ヒトおよびマウスに対する免疫刺激活性が維持されるのであれば、何ら限定されないが、配列番号1と配列番号2で異なっている部位、すなわち、5'側から6番目ないし11番目であることが通常好ましい。なお、本発明のオリゴヌクレオチドは、配列番号1若しくは2で示される塩基配列又は上記したその修飾配列のみから成っていてもよいし、あるいは、該塩基配列を含んでいれば、ヒトおよびマウスに対して免疫刺激活性を有する限り、他の塩基配列がさらに結合されていてもよい。オリゴヌクレオチドのサイズは、ヒトおよびマウスに対して免疫刺激活性を有する限り特に限定されないが、好ましくは20塩基ないし50塩基、さらに好ましくは20塩基ないし25塩基である。
【0017】
本発明の免疫刺激オリゴヌクレオチドがヒトおよびマウスに免疫刺激活性を有するとは、ヒトにおいては平均的な反応性を有するヒト検体の末梢血単核球、マウスにおいては骨髄由来樹状細胞からのサイトカイン産生を誘導する作用のことを示し、ヒト末梢血単核球においては10μM以下の免疫刺激オリゴヌクレオチド処置により20ng/ml以上のインターフェロン-γ(以下IFN-γ)、マウス骨髄由来樹状細胞においては1μM以下の免疫刺激オリゴヌクレオチド処置により40ng/ml以上のインターロイキン-12p40(以下IL-12p40)を誘導することをいう。ヒトおよびマウスに交差性を示すとは、ヒト及びマウスにおいて免疫刺激活性を示す最小用量の比が10以下であることを指し示す。
【0018】
本発明の免疫刺激オリゴヌクレオチドによるヒト末梢血単核球のサイトカイン産生誘導の有無を確認する手段として、ヒト末梢血単核球(PBMC)からのインターフェロン−γおよびαのin vitroでの誘導評価試験が挙げられる。すなわち、ヒト血液からHistopaque 1077を用いた密度勾配遠心を2000rpm, 室温で25分間行い PBMCを単離する。単離したPBMCを10%FCS入りRPMI1640培地で1ml当たり4.0×106個の細胞が含まれるように調製後、U底の96穴マイクロプレートに1ウェルあたり4.0×105個の細胞を播き、同時にCpG-ODNを存在下で24時間、7日間刺激し、それぞれ培養上清を回収する。回収した培養上清を用いて、24時間の刺激終了後はIFNαの産生量を、7日間の刺激終了後はIFNγの産生量をそれぞれELISA法にて定量する。
【0019】
本発明の免疫刺激オリゴヌクレオチドによるマウス骨髄由来樹状細胞のサイトカイン産生誘導の有無を確認する手段として、マウス樹状細胞における免疫刺激オリゴヌクレオチドのサイトカイン(IL-12p40)のin vitroでの誘導評価試験が挙げられる。すなわち、オス10-25週齢のCL57BL/6Nマウスの大腿骨・脛骨より骨髄細胞を取得し、10ng/ml murine GM-CSF を含む10%FCS入りRPMI1640培地で培養する。2日毎の培地交換により、主に顆粒球からなる浮遊細胞を除去しながら6日間培養し、樹状前駆細胞から未成熟樹状細胞 (imDC) に分化させる。6日間培養した後、imDCをピペッティングにより回収し、平底の96穴プレート (IWAKI) に1ウェル当たり2.0×105個の細胞を播きCpG-ODNで2日間刺激する。刺激終了後、培養上清中に放出されたTh1反応由来のサイトカインであるIL-12p40の量をELISAにて定量する。
【0020】
本発明はまた、上記配列の全てまたは一部のリン酸結合、リボース糖部および塩基部を修飾した免疫刺激オリゴヌクレオチドを含む。好適な実施形態としては、上記の修飾がホスホロチオエート型オリゴヌクレオチド化である。さらに好適な実施形態としては、5'- 及び3'- 末端の一部または全ての連続するG配列のヌクレオチド残基間がホスホロチオエート修飾されている。
【0021】
本発明の免疫刺激オリゴヌクレオチドは従来の技術及び核酸合成装置で合成できる。これらの合成方法は酵素的方法、化学的方法、本発明の配列より長い配列の分解を含むが、必ずしもこれに限定されるものではない。また、修飾されたオリゴヌクレオチドも従来の技術において合成される。例えば、オリゴヌクレオチドホスホルアミデートを硫黄で処理することにより、ホスホロチオエート修飾されたオリゴヌクレオチドが得られるが、必ずしもこれに限定されるものではない。これらのオリゴヌクレオチドの合成技術、修飾技術は本明細中に引用されている特許文献、非特許文献においても用いられており、その他にも多数の報告が確認される公知の技術である。
【0022】
上記した本発明の免疫刺激性オリゴヌクレオチド又は上記したその誘導体は、免疫刺激剤としての用途を有する。あるいは、上記した本発明の免疫刺激性オリゴヌクレオチド又は上記したその誘導体は、医薬としての使用を目的としたオリゴヌクレオチド送達複合体の形態にあってもよい。送達複合体とは、該免疫刺激オリゴヌクレオチド又はその誘導体と他の物質との混合物および結合体、該免疫刺激オリゴヌクレオチドを取り込ませたリポソームおよびナノスフィアがあげられるが、必ずしもこれに限定されるものではない。好適な実施形態としては、上記の送達複合体がオリゴヌクレオチド又はその誘導体を埋封したリポソームである。埋封とは、リポソームの脂質膜表面との結合、脂質膜中への取り込み、あるいはリポソームの内腔への取り込みを指し示す。
【0023】
上記免疫刺激剤は、免疫系が正常に機能していない疾患または障害、あるいは免疫機能を増強させることが有効である疾患または障害を、処置、予防もしくは改善する際に使用するための、治療剤として用いることができる。免疫系が正常に機能していない疾患または障害とは、アレルギー、悪性腫瘍があげられ、必ずしもこれに限定されるものではないが、好適な実施形態としては、上記疾患または障害がアレルギー疾患である。アレルギー疾患とは、花粉、ダニ、ハウスダストなどに由来する抗原物質を起因とし、鼻炎、結膜炎、皮膚炎、喘息などの炎症を症状とする疾患であるが、さらに好適な実施形態としては、上記アレルギー疾患が花粉アレルギー症である。花粉アレルギーとは特にスギ花粉由来の蛋白を抗原とするアレルギーを指すが、ブタクサ、ヒノキなどの他の花粉由来物質が抗原であっても良い。
【0024】
このような治療剤として用いる場合、投与経路は、特に限定されないが、皮下注射、皮内注射、静脈内注射、筋肉内注射、患部組織への注入、経鼻投与、経眼投与等、系咽頭投与、系肺投与、経皮投与などが好ましい。また、投与量は、患者の症状、治療目的、投与経路等により適宜選択されるが、通常、成人1日当り、オリゴヌクレオチド量として、0.1pM〜10μM、好ましくは1pM〜1μM程度である。また、オリゴヌクレオチド又はその誘導体は、通常、採用される剤形を製剤する周知の製剤方法により製剤される。
【0025】
本発明はまた、上記の免疫刺激オリゴヌクレオチドまたは送達複合体は、ワクチンのアジュバントとしての用途をも有する。ワクチンの使用可能な疾患は感染症であり、感染症とはウィルス、細菌、真菌および原虫等を原因として発症する疾患である。アジュバントとして使用する場合の投与量も、投与目的、投与経路等により適宜選択されるが、通常、上記と同程度の投与量でよい。
【実施例】
【0026】
以下に比較例および実施例を詳細に説明する。なお、以下の説明文中で使用されている免疫刺激オリゴヌクレオチドの配列の略号および特性は、配列表に記載されている。
比較例1:公知の免疫オリゴヌクレオチドのマウスおよびヒトにおけるサイトカイン誘導効果
公知の免疫刺激オリゴヌクレオチド(表1)について、マウスおよびヒトにおけるサイトカイン誘導効果、すなわち交差性を検討した。
【0027】
【表1】

【0028】
ヒトのPBMCに、10μMのD19N、3および10μMのD19N+GSを処置すると、IFN-γの誘導を確認し、なかでも末端のG配列のホスホロチオエート修飾をした配列D19N+GSが低用量で活性を有することを確認した。また、他の公知配列(D19GS、M-CpGS、M-non-CpGS)の処置よるサイトカインの誘導は、ほとんどみられなかった。(図1)
【0029】
各免疫刺激オリゴヌクレオチドをマウスの BMDC に処置すると、マウスの免疫刺激活性を有する公知配列である M-CpGS の処置により、 IL-12p40 の産生が著明に誘導され、その産生は1μMの低濃度においても確認できた。他の免疫刺激オリゴヌクレオチドは、10μMの処置でIFN-γの産生を誘導しているが、その産生量は低く、1μMの処置での産生はほとんどみられない。したがって、公知の配列において、ヒトとマウスのIFN-γ産生を誘導する活性に交差性は見られなかった。(図2)
【0030】
これらの試験結果から、公知配列であるD19NおよびD19N+GSの活性は、ヒトに活性を有するものの、マウスでの活性は低く、マウスおよびヒトにおける免疫刺激性の交差性が低いことが証明された。また、このような性質は、全配列または末端G配列のホスホロチオエート修飾を施しても改善されない。したがって、交差性を増強させるには、免疫調節活性を示す配列に単純に前述のような修飾を付加することでは達成できないことが確認された。
【0031】
実施例1:パリンドローム配列両末端のホスホロチオエート修飾されたG配列を含む免疫刺激オリゴヌクレオチドの、ヒトPBMCにおけるサイトカイン産生の誘導活性
徳永らが示しているパリンドローム配列(特開平4-352724、配列3および15)を含むパリンドローム配列の両末端に、ホスホロチオエート修飾されたG配列を含むヌクレオチド配列を付加した免疫誘導オリゴヌクレオチド、mod1(配列番号1)、mod2(配列番号2)、mod9(配列番号3)、およびmod12(配列番号4)を構築した。そしてこれらの配列のヒトPBMCにおけるサイトカイン産生の誘導活性のスクリーニングを行った。
【0032】
ヒトPBMCにD19N+GS、 mod1、2、9および12を各々処置したところ、 mod1、2の配列において、3μM処置でのIFN-γ産生の誘導がD19N+GSと比較して活性が高いことを確認した(図3)。
【0033】
マウスBMDCに上記のオリゴヌクレオチドを各々処置したところ、 mod1および2の1μM処置において、IL-12p40産生の誘導活性がD19N+GSと比較して高いことを確認し、5μMではさらに活性が上昇した(図4)。
【0034】
これらの結果から、オリゴヌクレオチド配列mod1および2において、ヒトおよびマウスへの交差活性を有することが確認された。また、mod9および12にはヒトおよびマウスにおける活性は弱かった。これらの結果は徳永らの配列の末端にG配列を含むヌクレオチド配列を付加することが、必ずしもヒトおよびマウスにおける活性の増加に結びつかないことが示された。したがって、ヒトおよびマウスへの交差活性はmod1およびmod2の配列に特有の性質であることが確認された。
【0035】
実施例2:D19N-GS、mod1およびmod2のヒトPBMCにおけるIFN-α産生の誘導活性
D19N-GS、mod1およびmod2について、ヒトPBMCにおけるIFN-α産生の誘導活性のスクリーニングを行った。
【0036】
これらのオリゴヌクレオチド(3μM)をPBMCに処置すると、D19N-GSおよびmod1では3ng/ml前後の産生量であった。それに対して、mod2を処置すると25ng/ml以上の産生量が確認され、D19N-GSおよびmod1と比較して、顕著にPBMCからのIFN-αの産生が誘導されていた(図5)。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】公知の免疫刺激オリゴヌクレオチドを処置したヒトPBMCにおけるIFN-γ産生量の結果を示す図である。
【図2】公知の免疫刺激オリゴヌクレオチドを処置したマウスBMDCにおけるIL-12p40産生量の結果を示す図である。
【図3】本発明および公知の免疫刺激オリゴヌクレオチドを処置したヒトPBMCにおけるIFN-γ産生量の結果を示す図である。
【図4】本発明および公知の免疫刺激オリゴヌクレオチドを処置したマウスBMDCにおけるIL-12p40産生量の結果を示す図である。
【図5】本発明および公知の免疫刺激オリゴヌクレオチドを処置したヒトPBMCにおけるIFN-α産生量の結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1に示される塩基配列、又は該塩基配列において1個ないし4個の塩基が置換し、欠失し及び/若しくは挿入された塩基配列を含み、ヒトおよびマウスに対して免疫刺激活性を有する、オリゴヌクレオチド。
【請求項2】
配列番号1に示される塩基配列を含む請求項1記載のオリゴヌクレオチド。
【請求項3】
配列番号1に示される塩基配列からなる20塩基のオリゴヌクレオチドである、請求項2記載のオリゴヌクレオチド。
【請求項4】
配列番号2に示される塩基配列、又は該塩基配列において1個ないし4個の塩基が置換し、欠失し及び/若しくは挿入された塩基配列を含み、ヒトおよびマウスに対して免疫刺激活性を有する、オリゴヌクレオチド。
【請求項5】
配列番号2に示される塩基配列を含む請求項4記載のオリゴヌクレオチド。
【請求項6】
配列番号2に示される塩基配列からなる20塩基のオリゴヌクレオチドである、請求項5記載のオリゴヌクレオチド。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか1項に記載のオリゴヌクレオチドの全てまたは一部のリン酸結合、リボース糖部及び/又は塩基部が修飾され、ヒトおよびマウスに対して免疫刺激活性を有するオリゴヌクレオチド誘導体。
【請求項8】
前記修飾が、ホスホジエステル結合を有するオリゴヌクレオチドのリン酸基部の酸素原子を硫黄原子で置換したホスホロチオエート型オリゴヌクレオチド化である請求項7のオリゴヌクレオチド誘導体。
【請求項9】
5'- 及び3'- 末端の連続するG配列のヌクレオチド残基間がホスホロチオエート修飾されている、請求項8に記載のオリゴヌクレオチド誘導体。
【請求項10】
請求項1ないし9のいずれか1項に記載のオリゴヌクレオチド又はオリゴヌクレオチド誘導体を有効成分として含有する免疫刺激剤。
【請求項11】
請求項1乃至9のいずれかに記載のオリゴヌクレオチド又はオリゴヌクレオチド誘導体を含み、医薬として使用されるオリゴヌクレオチド送達複合体。
【請求項12】
前記複合体がオリゴヌクレオチドを埋封したリポソームである、請求項11に記載のオリゴヌクレオチド送達複合体。
【請求項13】
請求項1乃至9のいずれか1項に記載のオリゴヌクレオチド若しくはオリゴヌクレオチド誘導体または請求項11もしくは12のオリゴヌクレオチド送達物質を有効成分として含む、免疫系が正常に機能していない疾患または障害、あるいは免疫機能を増強させることが有効である疾患または障害を、処置、予防もしくは改善する際に使用するための治療剤。
【請求項14】
前記疾患または障害がアレルギー疾患である、請求項13に記載の治療剤。
【請求項15】
前記アレルギー疾患が花粉アレルギー症である、請求項14記載の治療剤。
【請求項16】
請求項1乃至9のいずれか1項に記載のオリゴヌクレオチド若しくはオリゴヌクレオチド誘導体または請求項11もしくは12のオリゴヌクレオチド送達物質をアジュバントとして含む、ワクチン。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−1(P2008−1A)
【公開日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−287102(P2004−287102)
【出願日】平成16年9月30日(2004.9.30)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】