説明

免震構造及び建築物

【課題】被支持物を上下方向に免震支持し、被支持物の支持高さを低く抑えることが可能な免震構造、及びこの免震構造を有する建築物を提供する。
【解決手段】鉛直力伝達手段24A、24Bを介して被支持物16を支持する第1、第2部材20、22の一方は左右一方に傾斜して配置され、他方は左右他方に傾斜して配置されている。よって、被支持物16に上下方向の振動が発生したときに第1、第2部材20、22が伸縮し、被支持物16を上下方向に免震支持することができる。また、第1、第2部材20、22は左右に傾斜しているので、被支持物16の支持高さを低く抑えることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被支持物に発生する上下方向の振動を低減する免震構造及びこの免震構造を有する建築物に関する。
【背景技術】
【0002】
地震等により建築物に発生する水平方向の振動を低減する技術として、建築物の免震層に積層ゴム支承等の免震装置を設置する水平免震構造が広く普及している。
これに対して、地震等により建築物に発生する上下方向の振動を低減する上下免震は、実現が難しい。その理由の1つとして、上下免震を実現する部材の設計が困難であることが挙げられる。
【0003】
例えば、線形の応力−歪特性を有する部材(以下、「上下免震部材」とする)を介して地盤上に構造物(以下、「被支持物」とする)を支持させる場合、被支持物の上下方向の周期を大きくして免震性を高めるために上下免震部材を柔らかくすると、被支持物の自重によって上下免震部材の上下方向に大きな変形が生じてしまう。このため、上下免震部材を上下方向に長大な形状にしなければならない。すなわち、被支持物は、地盤からかなり離れた高い位置で支持されることになる。
【0004】
特許文献1の免震構造物は、図29に示すように、地盤上に塔状構造体300を立設し、この塔状構造体300の頂部に免震機構302を介して吊り支持構造体304を設けている。さらに、吊り支持構造体304から複数層の板状構造体306を吊り支持している。
【0005】
このような構成により、免震構造物は、3つの振動モード(スイング、スウェイ、ロッキング)に対して有効に免震効果を発揮する。スイングの振動モードは、図30(a)に示すように板状構造体306全体が振り子として揺動する。スウェイの振動モードは、図30(b)に示すように板状構造体306全体が塔状構造体300に対して水平方向に変位する。ロッキングの振動モードは、図30(c)に示すように塔状構造体300の曲げ変形によりこの塔状構造体300の頂部が左右に振れる。
【0006】
しかし、特許文献1の免震構造物は、被支持物(板状構造体306)に発生する上下方向の振動を低減する効果は期待できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−16911号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は係る事実を考慮し、被支持物を上下方向に免震支持し、被支持物の支持高さを低く抑えることが可能な免震構造、及びこの免震構造を有する建築物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載の発明は、基盤上に被支持物を支持する免震構造において、前記基盤上に設けられた支持手段と、弾性を有し一端が前記支持手段に支持されると共に左右一方に傾斜して配置される第1部材と、弾性を有し一端が前記支持手段に支持されると共に左右他方に傾斜して配置される第2部材と、前記第1部材及び前記第2部材に前記被支持物を支持させる鉛直力伝達手段と、前記被支持物に発生する上下方向の振動を低減する減衰手段と、を備えている。
【0010】
請求項1に記載の発明では、基盤上に被支持物を支持する免震構造が、支持手段、第1部材、第2部材、鉛直力伝達手段、及び減衰手段を備えている。
【0011】
支持手段は、基盤上に設けられている。第1部材は弾性を有し、一端が支持手段に支持されると共に左右一方に傾斜して配置されている。第2部材は弾性を有し、一端が支持手段に支持されると共に左右他方に傾斜して配置されている。鉛直力伝達手段は、第1部材及び第2部材に被支持物を支持させている。減衰手段は、被支持物に発生する上下方向の振動を低減する。
【0012】
よって、被支持物に上下方向の振動が発生したときに第1部材及び第2部材の歪によって第1部材及び第2部材が伸縮し、被支持物を上下方向に免震支持することができる。また、被支持物に発生する上下方向の振動を減衰手段によって低減することができる。
また、第1部材及び第2部材は、左右に傾斜して構造物を支持しているので、構造物の支持高さを低く抑えることができる。
【0013】
これらにより、被支持物を上下方向に免震支持し、被支持物の支持高さを低く抑えることが可能となる。
【0014】
また、第1部材及び第2部材は左右に傾斜して配置されているので、第1部材及び第2部材と同じ軸剛性を有する部材を鉛直に配置して被支持物を支持するよりも鉛直剛性を小さくすることができる。例えば、水平面に対して第1部材及び第2部材が角度θ傾いている場合、第1部材及び第2部材の鉛直剛性は、第1部材及び第2部材と同じ軸剛性を有し鉛直に配置されて被支持物を支持する部材の鉛直剛性のsin2θ倍になる。すなわち、免震構造の長周期化を効果的に図ることができる。
【0015】
また、複数の第1部材及び第2部材を並べて配置することにより必要な鉛直剛性を得るための断面積を確保することができるので、免震構造の設計自由度が高い。例えば、構造物の支持高さを低くしたい場合には、第1部材及び第2部材を横方向に複数並べて配置すればよいし、構造物の下方に居室等の空間を確保したい場合には、第1部材及び第2部材を上下方向に複数並べて配置すればよい。
【0016】
請求項2に記載の発明は、前記被支持物は構造物である。
【0017】
請求項2に記載の発明では、被支持物は構造物であるので、構造物を上下方向に免震支持し、構造物の支持高さを低く抑えることができる。
【0018】
請求項3に記載の発明は、前記第1部材及び前記第2部材は、鋼材によって形成されている。
【0019】
請求項3に記載の発明では、第1部材及び第2部材は鋼材によって形成されているので、被支持物を支持すると共に長周期化のために必要な歪を生じさせる鉛直剛性を確実に確保することができる。
【0020】
請求項4に記載の発明は、前記鋼材は、PC鋼材である。
【0021】
請求項4に記載の発明では、鋼材はPC鋼材であるので、被支持物を支持すると共に長周期化のために必要な歪を生じさせる鉛直剛性をより確実に確保することができる。
【0022】
請求項5に記載の発明は、前記支持手段は、前記被支持物の両側に位置する前記基盤上に立てられた支持部材によって構成され、前記鉛直力伝達手段は、前記被支持物が載置され内部に前記第1部材及び前記第2部材が配置される基礎構造体である。
【0023】
請求項5に記載の発明では、支持手段が支持部材によって構成されている。支持部材は、被支持物の両側に位置する基盤上に立てられている。また、鉛直力伝達手段は、内部に第1部材及び第2部材が配置される基礎構造体であり、この基礎構造体に被支持物が載置されている。
【0024】
よって、被支持物を基礎構造体に載置させることにより、被支持物の形状や平面配置に大きな制約を受けることなく、第1部材及び第2部材によって被支持物を支持することができる。また、特定の第1部材及び第2部材に集中して荷重が掛かることを防ぐことができる。
【0025】
また、基礎構造体をコンクリートによって形成し、第1部材及び第2部材を緊張して基礎構造体にプレストレスを導入する構成にすれば、被支持物の自重により基礎構造体に発生するモーメントに効果的に抵抗させることが可能となり、コンクリートに生じるひび割れ抑制効果も期待できる。
【0026】
請求項6に記載の発明は、前記基礎構造体の上に設置され前記被支持物を支持して該被支持物に発生する横方向の振動を低減する免震手段を備えている。
【0027】
請求項6に記載の発明では、基礎構造体の上に設置される免震手段によって被支持物が支持されている。免震手段は、被支持物に発生する横方向の振動を低減する。
よって、被支持物に発生する上下方向及び横方向の振動を低減することができる。すなわち、被支持物を3次元免震することができる。
【0028】
請求項7に記載の発明は、前記支持手段は、前記基盤上に立てられた柱状の支持構造体によって構成され、前記第1部材及び前記第2部材は、前記支持構造体の中心軸に対して平面視にて放射状に複数配置されている。
【0029】
請求項7に記載の発明では、基盤上に立てられた柱状の支持構造体によって支持手段が構成されている。また、この支持構造体の中心軸に対して、第1部材及び第2部材が平面視にて放射状に複数配置されている。
【0030】
よって、第1部材及び第2部材から支持構造体に作用する力はこの支持構造体の周方向に伝達されて、他の第1部材及び第2部材から支持構造体に作用する力と打ち消し合う。すなわち、支持構造体が圧縮リングとして機能し、第1部材及び第2部材から支持構造体へ作用する力に対して反力を別途とる必要がなくなる。
【0031】
請求項8に記載の発明は、前記第1部材及び前記第2部材は、上下方向に複数配置されている。
【0032】
請求項8に記載の発明では、第1部材及び第2部材は上下方向に複数配置されているので、上下方向に複数配置される第1部材及び第2部材の側方に空間を得ることが可能になる。すなわち、被支持物の下方に居室等の空間を確保することができる。
【0033】
請求項9に記載の発明は、前記第1部材及び前記第2部材は、横方向に複数配置されている。
【0034】
請求項9に記載の発明では、第1部材及び第2部材は横方向に複数配置されているので、被支持物の支持高さを低くすることができる。
【0035】
請求項10に記載の発明は、前記第1部材と前記第2部材とは、連結されている。
【0036】
請求項10に記載の発明では、第1部材と第2部材とは連結されているので、第1部材及び第2部材の固定箇所(例えば、第1、第2部材を、PC鋼より線を束ねたPC鋼材とした場合には、このPC鋼材を定着する定着具を配置する箇所)を減らすことが可能になる。これにより、施工性を向上させることができる。
【0037】
請求項11に記載の発明は、請求項1〜10の何れか1項に記載の免震構造を有する建築物である。
【0038】
請求項11に記載の発明では、被支持物を上下方向に免震支持し、被支持物の支持高さを低く抑えることが可能な免震構造を有する建築物を構築することができる。
【発明の効果】
【0039】
本発明は上記構成としたので、被支持物を上下方向に免震支持し、被支持物の支持高さを低く抑えることが可能な免震構造、及びこの免震構造を有する建築物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る建築物を示す斜視図である。
【図2】図1のA−A矢視図である。
【図3】図1のB−B矢視図である。
【図4】本発明の第1の実施形態に係る支柱を示す断面図である。
【図5】本発明の第1の実施形態に係る吊り支柱を示す断面図である。
【図6】本発明の第1の実施形態に係る免震構造の比較例を示す斜視図である。
【図7】本発明の第1の実施形態に係る免震構造の作用を示す説明図である。
【図8】本発明の第1の実施形態に係るPC鋼材の傾きを示す説明図である。
【図9】本発明の第1の実施形態に係る吊り支柱の変形例を示す断面図である。
【図10】本発明の第2の実施形態に係る建築物を示す斜視図である。
【図11】本発明の第2の実施形態に係る吊り壁を示す説明図である。
【図12】本発明の第2の実施形態に係る支持壁の変形例を示す説明図である。
【図13】本発明の第2の実施形態に係る吊り壁の変形例を示す断面図である。
【図14】本発明の第3の実施形態に係る建築物を示す斜視図である。
【図15】図14のF−F矢視図である。
【図16】図15のH−H矢視図及びI−I矢視図である。
【図17】本発明の第3の実施形態に係る建築物の変形例を示す斜視図である。
【図18】本発明の第4の実施形態に係る建築物を示す斜視図である。
【図19】本発明の第4の実施形態に係る建築物を示す平面図である。
【図20】本発明の第4の実施形態に係る建築物を示す正面図である。
【図21】本発明の第4の実施形態に係る建築物の変形例を示す平面図である。
【図22】本発明の第4の実施形態に係る建築物の変形例を示す斜視図である。
【図23】本発明の第4の実施形態に係る免震構造の変形例を示す平面図である。
【図24】本発明の第4の実施形態に係る免震構造の変形例を示す斜視図である。
【図25】本発明の実施形態に係る周期に対する加速度応答スペクトルを示す線図である。
【図26】本発明の実施形態に係るPC鋼材の固定方法の変形例を示す説明図である。
【図27】本発明の実施形態に係る免震構造の応用例を示す正面図である。
【図28】本発明の実施形態に係る免震構造の応用例を示す斜視図である。
【図29】従来の免震構造物を示す説明図である。
【図30】従来の免震構造物を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
図面を参照しながら、本発明の免震構造及び建築物を説明する。なお、本実施形態では、鉄筋コンクリート造の建築物に本発明を適用した例を示すが、鉄骨造、鉄骨鉄筋コンクリート造、CFT造(Concrete-Filled Steel Tube:充填形鋼管コンクリート構造)、それらの混合構造など、さまざまな構造や規模の建築物に対して適用することができる。
【0042】
まず、本発明の第1の実施形態について説明する。
【0043】
図1の斜視図、図1のA−A矢視図である図2、及び図1のB−B矢視図である図3に示すように、建築物10の有する免震構造12は、基盤としての地盤14上に被支持物としての上部建物16を支持している。また、免震構造12は、支持手段としての支柱18A〜18F、第1部材としての弾性を有するPC鋼材20、第2部材としての弾性を有するPC鋼材22、鉛直力伝達手段としての吊り支柱24A〜24D、及び減衰手段としての油圧ダンパー26を備えている。PC鋼材20、22は、PC鋼より線を複数束ねて構成された線状の材料であり、上下方向に複数配置されている。上部建物16、支柱18A〜18F、及び吊り支柱24A〜24Dは、鉄筋コンクリートによって形成されている。
【0044】
支柱18A〜18Fは、地盤14上に立設されている。また、吊り支柱24A〜24Dは、上端部が上部建物16の下面に固定され下方に吊り下げられている。
PC鋼材20は、定着具によって一端が支柱18A、18B、18D、18Eに固定されて支持されると共に右側下方に傾斜して配置されている。また、PC鋼材22は、定着具によって一端が支柱18B、18C、18E、18Fに固定されて支持されると共に左側下方に傾斜して配置されている。
【0045】
図4には、定着具28によりPC鋼材20を支柱18Aに固定した例が示されているが、他の支柱18B〜18Fにおいても同様に、定着具28によりPC鋼材20、22を固定する。支柱18B、18Eにおいては、左右にPC鋼材22、20を張り出させる。
【0046】
図5の断面図に示すように、PC鋼材22とPC鋼材20とは連結されており、鉛直力伝達手段としての吊り支柱24A〜24Dに形成された貫通孔30を貫通している。すなわち、吊り支柱24A〜24Dは、PC鋼材20、22に上部建物16を支持させている。
【0047】
地盤14の上面と上部建物16の下面との間には、減衰手段としての油圧ダンパー26が配置されおり、この油圧ダンパー26によって上部建物16に発生する上下方向の振動を低減する。
【0048】
次に、本発明の第1の実施形態の作用及び効果について説明する。
【0049】
第1の実施形態では、図1に示すように、上部建物16に上下方向の振動が発生したときにPC鋼材20、22の歪によってPC鋼材20、22が伸縮し、上部建物16を上下方向に免震支持することができる。また、上部建物16に発生する上下方向の振動を油圧ダンパー26によって低減することができる。
【0050】
ここで、図6に示すように、線形の応力−歪特性を有する上下免震部材32を介し、地盤14上に上部建物16を支持させる免震構造34を考えた場合、上部建物16の質量をM、重力加速度をg、上下免震部材32の上下方向のばね定数をK、及び上部建物16の建物重量(=M・g)による上下免震部材32の上下方向の変形量をxとすると、式(1)の関係が成り立つ。
【0051】
【数1】

【0052】
また、上部建物16の上下方向の固有周期をT、円振動数をωとすると、式(2)の関係を満たし、変形量xは式(3)によって求めることができる。
【0053】
【数2】

【0054】
【数3】

【0055】
式(3)より、固有周期Tが0.5秒のときには、変形量xは6.2cmとなるので、上下免震部材32の長期ひずみが1/1000の場合には、上下免震部材32に必要とされる鉛直長さは62mとなる。すなわち、上下免震部材32が上下方向に長大な形状になるので、上部建物16の支持高さが高く(地盤14の上面から上部建物16の支持点までの距離が大きく)なってしまう。
【0056】
これに対して免震構造12では、PC鋼材20、22が右側下方又は左側下方に傾斜して上部建物16を支持しているので、上部建物16の支持高さを低く抑えることができる。
【0057】
また、PC鋼材20、22は右側下方又は左側下方に傾斜して配置されているので、PC鋼材20、22と同じ軸剛性を有する部材を鉛直に配置して上部建物16を支持する免震構造よりも、免震構造12の鉛直剛性を小さくすることができる。
【0058】
例えば、水平面に対してPC鋼材20、22が角度θ傾いている場合、このPC鋼材20、22によって構成される免震構造の鉛直剛性は、PC鋼材20、22と同じ軸剛性を有し鉛直に配置されて上部建物16を支持する部材によって構成される免震構造の鉛直剛性のsin2θ倍になる。すなわち、免震構造12の長周期化を効果的に図ることができる。
【0059】
このことについて、具体例を用いて説明する。図7に示すように、免震構造12をモデル化した免震構造モデル36において、第1、第2部材としてのPC鋼材20、22の長期応力をσ、ヤング係数をE、全体積をV、上部建物16の建物質量をM、重力加速度をgとし、上部建物16の建物重量P(=M・g)が作用したときのPC鋼材20、22の下端点38の上下方向の変形量をxとすると、PC鋼材20、22に生じる単位体積当りの歪エネルギーはσ/(2E)となり、上部建物16に生じる位置エネルギーはM・g・xとなるので、式(4)の関係が成り立つ。
【0060】
【数4】

【0061】
ここで、例えば、上部建物16の上下方向の固有周期Tを0.75秒とした場合、式(3)より変形量xは約14cmとなる。また、上部建物16の建物重量P(=M・g)を2500ton・f、長期応力σを46.7kN/cmとすると、式(4)よりPC鋼材20、22の全体積Vは4.6mとなる。よって、PC鋼材20、22の断面積S(束ねられたPC鋼より線の断面積の合計)を17cmとすれば、必要とするPC鋼材の長さLは2715m(=4.6m×10/17cm)となる。
【0062】
さらに、図7に示すように、PC鋼材20とPC鋼材22とが連結されたPC鋼材40に上部建物16の建物重量Pが作用する前における、水平面に対するPC鋼材20、22の角度をθとし、PC鋼材20、22の材軸方向の伸び量をΔLとすると、式(5)、(6)の関係が成り立つ。
【0063】
【数5】

【0064】
【数6】

【0065】
そして、歪をεとして、σ=E・ε及び式(5)、(6)より、式(7)が求められる。さらに、免震構造モデル36の鉛直剛性をKzとすると、式(7)より式(8)が求められる。
【0066】
【数7】

【0067】
【数8】

【0068】
よって、式(8)から、免震構造モデル36の鉛直剛性Kzは、鉛直に配置される長さLのPC鋼材20によって上部建物16を支持する免震構造の鉛直剛性(=(E・S)/L)のsin2θ倍となって小さくなる。
【0069】
また、先に求めたように、必要とするPC鋼材の長さLを2715mとし、図1に示す免震構造12において支柱18Aと支柱18Cとの間の水平距離、及び支柱18Dと支柱18Fとの間の水平距離を24mとした場合、平面視にて上部建物16の短辺方向に4列(支柱18A側に2列、支柱18D側に2列)の並びとしたPC鋼材(2本のPC鋼材40が連なって24m)を上下方向に29本(≧(2715m/24m)/4列)配置すればよいことになる。
【0070】
さらに、式(8)より、Kz=P/x=2500ton・f/14cm=179ton・f/cmとなるので、式(8)より角度θは5.5度となる。この場合、図8に示すように、PC鋼材40の高さは57.6cmとなるので、PC鋼材40を5cm間隔で上下方向に29本配置すると、上部建物16の支持高さは2m程度(=57.6cm+5cm×29本)になる。
これに対して、先に説明したように、図6で説明した免震構造34における支持高さは62m程度であるので、上部建物16の支持高さを遥かに小さくできることがわかる。
【0071】
また、PC鋼材20、22は線状の材料なので、運搬や設置等の際に扱い易い。
また、複数のPC鋼材20、22を並べて配置することにより、必要な鉛直剛性を得るための断面積を確保することができるので、免震構造12の設計自由度が高い。例えば、上部建物16の支持高さを低くしたい場合には、PC鋼材20、22を横方向に複数並べて配置すればよいし、上部建物16の下方に居室等の空間を確保したい場合には、PC鋼材20、22を上下方向に複数並べて配置すればよい。第1の実施形態では、PC鋼材20、22を上下方向に複数並べて配置しているので、後者の効果が得られる。
【0072】
また、第1の実施形態では、第1部材及び第2部材をPC鋼材20、22としているので、上部建物16を支持すると共に長周期化のために必要な歪を生じさせる鉛直剛性を確実に確保することができる。
【0073】
また、PC鋼材20とPC鋼材22とは連結されているので、PC鋼材20及びPC鋼材22の固定箇所を減らすことが可能になり、施工性を向上させることができる。第1の実施形態では、PC鋼材20とPC鋼材22とを連結してPC鋼材40を形成することにより、吊り支柱24A〜24DへのPC鋼材20、22の定着を不要にしている。
【0074】
以上、本発明の第1の実施形態について説明した。
【0075】
なお、第1の実施形態では、PC鋼材20が右側下方に傾斜して配置され、PC鋼材22が左側下方に傾斜して配置されている例を示したが、PC鋼材20が左右一方側の下方に傾斜して配置され、PC鋼材22が左右他方側の下方に傾斜して配置されていればよい。また、この場合、PC鋼材20とPC鋼材22とは同一の鉛直平面になくてもよい。
【0076】
また、PC鋼材20とPC鋼材22とは連結されていなくてもよい。この場合には、支柱18A〜18FにPC鋼材20、22を固定した方法と同様に、定着具28を用いて吊り支柱24A〜24DにPC鋼材20、22を固定してもよい。また、例えば、図9に示すように、定着具28を上下方向にずらして配置してもよい。
【0077】
また、PC鋼材20とPC鋼材22とは同数でなくてもよく、PC鋼材20の少なくとも1つが左右一方側の下方に傾斜して配置され、PC鋼材22の少なくとも1つが左右他方側の下方に傾斜して配置されていればよい。すなわち、全てのPC鋼材20、22を1つの鉛直平面に投影したときに、その鉛直平面に投影されたPC鋼材20の少なくとも1つが左右一方側の下方に傾斜し、PC鋼材22の少なくとも1つが左右他方側の下方に傾斜していればよい。
【0078】
次に、本発明の第2の実施形態とその作用及び効果について説明する。
【0079】
第2の実施形態の説明において、第1の実施形態と同じ構成のものは、同符号を付すると共に、適宜省略して説明する。
図10の斜視図に示すように、建築物42の有する免震構造44は、基盤としての地盤14上に被支持物としての上部建物16を支持している。また、免震構造44は、支持手段としての鉄筋コンクリート造の支持壁46A〜46C、第1部材としての弾性を有するPC鋼材20、第2部材としての弾性を有するPC鋼材22、鉛直力伝達手段としての吊り壁48A、48B、及び減衰手段としての油圧ダンパー26を備えている。PC鋼材20、22は、横方向に複数配置されている。
【0080】
支持壁46A〜46Cは、地盤14上に立設されている。また、吊り壁48A、48Bは、上端部が上部建物16の下面に固定されて下方に吊り下げられている。
【0081】
PC鋼材20は、一端が支持壁46A、46Bに固定されて支持されると共に右側下方に傾斜して配置されている。また、PC鋼材22は、一端が支持壁46B、46Cに固定されて支持されると共に左側下方に傾斜して配置されている。PC鋼材20、22は、図4で示した方法と同様に、定着具28を用いて支持壁46A〜46Cに固定されている。
【0082】
図11(a)、及び図11(a)のC−C矢視図である図11(b)に示すように、PC鋼材20とPC鋼材22とは連結されて1つのPC鋼材40を形成しており、このPC鋼材40が、鉛直力伝達手段としての吊り壁48A、48Bの下端面に形成された固定溝50に収容されている。すなわち、吊り壁48A、48Bは、PC鋼材40(PC鋼材20、22)に上部建物16を支持させている。
【0083】
上部建物16の下部には、減衰手段としての油圧ダンパー26が設けられており、この油圧ダンパー26によって上部建物16に発生する上下方向の振動を低減する。
免震構造44は、PC鋼材20、22が横方向に複数配置されているので、上部建物16の支持高さを低くすることができる。
【0084】
以上、本発明の第2の実施形態について説明した。
【0085】
なお、第2の実施形態では、PC鋼材20が右側下方に傾斜して配置され、PC鋼材22が左側下方に傾斜して配置されている例を示したが、PC鋼材20が左右一方側の下方に傾斜して配置され、PC鋼材22が左右他方側の下方に傾斜して配置されていればよい。また、この場合、PC鋼材20とPC鋼材22とは同一の鉛直平面になくてもよい。
【0086】
また、PC鋼材20とPC鋼材22とは連結されていなくてもよい。この場合には、支持壁46A〜46CにPC鋼材20、22を固定した方法と同様に、定着具28を用いて吊り壁48A、48BにPC鋼材20、22を固定してもよい。また、例えば、図13の平断面図に示すように、定着具28を横方向にずらして配置してもよい。
【0087】
また、PC鋼材20とPC鋼材22とは同数でなくてもよく、PC鋼材20の少なくとも1つが左右一方側の下方に傾斜して配置され、PC鋼材22の少なくとも1つが左右他方側の下方に傾斜して配置されていればよい。すなわち、全てのPC鋼材20、22を1つの鉛直平面に投影したときに、その鉛直平面に投影されたPC鋼材20の少なくとも1つが左右一方側の下方に傾斜し、PC鋼材22の少なくとも1つが左右他方側の下方に傾斜していればよい。
【0088】
また、第2の実施形態では、PC鋼材20、22の一端が、定着具28を用いて支持壁46Bに固定されている例を示したが、図12(a)、及び図12(a)のD−D矢視図である図12(b)に示すように、PC鋼材40同士を連結されて1つのPC鋼材52を形成し、このPC鋼材52を、支持壁46Bの上端面に形成された固定溝54に収容させてもよい。
【0089】
次に、本発明の第3の実施形態について説明する。
【0090】
第3の実施形態の説明において、第1の実施形態と同じ構成のものは、同符号を付すると共に、適宜省略して説明する。
図14の斜視図に示すように、建築物56の有する免震構造58は、地盤14上に上部建物16を支持している。また、免震構造58では、支持手段が支持部材としての支持壁60A、60Bによって構成されている。
【0091】
支持壁60A、60Bは、平面視にて上部建物16の左右外側に位置する地盤14上に立てられている。支持壁60A、60Bは、鉄筋コンクリートによって形成されている。また、鉛直力伝達手段としての鉄筋コンクリート造の基礎構造体62の内部には、第1部材としてのPC鋼材20及び第2部材としてのPC鋼材22が配置されている。
【0092】
図14のF−F矢視図である図15に示すように、平面視における上部建物16の短辺方向に、PC鋼材20とPC鋼材22とが交互に複数配置されている。
【0093】
PC鋼材20の末端部は定着具28によって支持壁60Aに固定され、PC鋼材20の先端部は定着具28によって基礎構造体62に固定されている。PC鋼材22の末端部は定着具28によって支持壁60Bに固定され、PC鋼材22の先端部は定着具28によって基礎構造体62に固定されている。
【0094】
図15のH−H矢視図である図16(a)に示すように、PC鋼材20は右側下方に傾斜して配置され、PC鋼材20の固定部(PC鋼材20の先端部)は基礎構造体62の右側壁面付近に位置している。また、PC鋼材22は左側下方に傾斜して配置され、PC鋼材22の固定部(PC鋼材22の先端部)は基礎構造体62の左側壁面付近に位置している。そして、このようなPC鋼材20、22の配置により、PC鋼材20とPC鋼材22とは正面視にてX字状に交差している。なお、PC鋼材20、22は、基礎構造体62と一体化されていてもよいし、PC鋼材20、22をアンボンドにして、基礎構造体62への付着を絶つようにしてもよい。
【0095】
基礎構造体62の上には、上部建物16が載置されている。また、地盤14の上面と上部建物16の下面との間には、減衰手段としての油圧ダンパー26が配置されおり、この油圧ダンパー26によって上部建物16及び基礎構造体62に発生する上下方向の振動を低減する。
【0096】
次に、本発明の第3の実施形態の作用及び効果について説明する。
【0097】
第3の実施形態では、図14に示すように、上部建物16を基礎構造体62に載置させることにより、上部建物16の形状や平面配置に大きな制約を受けることなく、PC鋼材20、22によって上部建物16を支持することができる。また、特定のPC鋼材20、22に集中して荷重が掛かることを防ぐことができる。
【0098】
また、PC鋼材20、22を緊張して基礎構造体62にプレストレスを導入すれば、上部建物16の建物重量により基礎構造体62に発生するモーメントに効果的に抵抗させることが可能となり、コンクリートに生じるひび割れ抑制効果も期待できる。
【0099】
以上、本発明の第3の実施形態について説明した。
【0100】
なお、第3の実施形態では、PC鋼材20とPC鋼材22とを正面視にてX字状に交差させた例を示したが、PC鋼材20とPC鋼材22とを正面視にて交差しないように配置してもよい。例えば、PC鋼材20の下端部とPC鋼材22の下端部とを連結し、PC鋼材20とPC鋼材22とを正面視にてV字状に配置してもよい。
【0101】
また、第3の実施形態では、基礎構造体62の上に上部建物16を載置した例を示したが、図17の斜視図に示す建築物66のように、基礎構造体62の上に免震手段としての積層ゴム64を設置して、この積層ゴム64によって上部建物16を支持する免震構造68としてもよい。積層ゴム64は、上部建物16に発生する横方向の振動を低減する。
このようにすれば、上部建物16に発生する上下方向及び横方向の振動を低減することができる。すなわち、上部建物16を3次元免震することができる。
【0102】
この場合、免震手段は、積層ゴム64に限らず、上部建物16に発生する横方向の振動を低減するものであればよい。例えば、積層ゴム、滑り支承、転がり支承等の支承に、オイルダンパー、鋼材ダンパー、鉛ダンパーなどの減衰装置を組み合わせたものを用いてもよい。
【0103】
次に、本発明の第4の実施形態について説明する。
【0104】
第4の実施形態の説明において、第1の実施形態と同じ構成のものは、同符号を付すると共に、適宜省略して説明する。
図18の斜視図に示すように、建築物70の有する免震構造72は、地盤14上に被支持物としての円柱状の上部建物76を支持している。上部建物76は、鉄筋コンクリートによって形成されている。
【0105】
また、免震構造72では、地盤14上に立てられた柱状の支持構造体74によって支持手段が構成されている。支持構造体74は鉄筋コンクリートによって円筒状に形成されており、この円筒の内側に上部建物76の下部が配置されている。また、上部建物76の下面には、円錐状の凹部78が鉛直力伝達手段として形成されている。
【0106】
図19の平面図、及び図20の正面図に示すように、支持構造体74の中心軸80に対して、第1部材としてのPC鋼材20及び第2部材としてのPC鋼材22が平面視にて放射状に複数配置されている。PC鋼材20、22は、円周方向に対して等間隔に配置されている。PC鋼材20とPC鋼材22とは対をなし、中心軸80に対して線対称に配置されている。
【0107】
PC鋼材20、22の上端部は定着具28によって支持構造体74に固定され、PC鋼材20、22の下端部は定着具28によって上部建物76の下部に固定されている。
【0108】
定着具28は、凹部78の内側斜面に沿って配置されているので、凹部78の空間を利用して、定着具28によるPC鋼材20、22の上部建物76への固定作業を行うことができる。
【0109】
PC鋼材20は左右一方側の下方に傾斜して配置され、PC鋼材22は左右他方側の下方に傾斜して配置されている。PC鋼材20、22は、上部建物76の下部と一体化されていてもよいし、PC鋼材20、22をアンボンドにして、上部建物76の下部への付着を絶つようにしてもよい。
【0110】
地盤14の上面と上部建物76の下面との間には、減衰手段としての油圧ダンパー26が配置されおり、この油圧ダンパー26によって上部建物76に発生する上下方向の振動を低減する。
【0111】
次に、本発明の第4の実施形態の作用及び効果について説明する。
【0112】
第4の実施形態では、図19に示すように、上部建物76の建物重量を受けたPC鋼材20、22から支持構造体74に作用する力はこの支持構造体74の円周方向に伝達されて、他のPC鋼材20、22から支持構造体74に作用する力と打ち消し合う。すなわち、支持構造体74が圧縮リングとして機能し、PC鋼材20、22から支持構造体74へ作用する力に対して反力を別途とる必要がなくなる。
【0113】
以上、本発明の第4の実施形態について説明した。
【0114】
なお、第4の実施形態では、PC鋼材20とPC鋼材22とを同数としたが、PC鋼材20とPC鋼材22とは同数でなくてもよく、PC鋼材20の少なくとも1つが左右一方側の下方に傾斜して配置され、PC鋼材22の少なくとも1つが左右他方側の下方に傾斜して配置されていればよい。すなわち、全てのPC鋼材20、22を1つの鉛直平面に投影したときに、その鉛直平面に投影されたPC鋼材20の少なくとも1つが左右一方側の下方に傾斜し、PC鋼材22の少なくとも1つが左右他方側の下方に傾斜していればよい。例えば、図21の平面図に示すように、PC鋼材22の数をPC鋼材20の数よりも少なくしてもよい。
また、PC鋼材20の下端部とPC鋼材22の下端部とを連結してもよい。
【0115】
また、第4の実施形態では、支持構造体74を円筒状とした例を示したが、内側に上部建物76の下部が配置される形状であればよい。
【0116】
また、図22の斜視図に示す建築物84のように、支持手段を円柱状の支持構造体82としてもよい。建築物84の有する免震構造86では、地盤14上に板状の上部建物88を支持している。上部建物88は、鉄筋コンクリートによって形成されている。
【0117】
また、免震構造86では、地盤14上に立てられた支持構造体82によって支持手段が構成されている。支持構造体82は、鉄筋コンクリートによって円柱状に形成されており、支持構造体82に対して上部建物88が上下移動可能となるように、上部建物88に形成された穴90に貫通している。
【0118】
図23の平面図に示すように、支持構造体82の中心軸92に対して、第1部材としてのPC鋼材20及び第2部材としてのPC鋼材22が平面視にて放射状に複数配置されている。PC鋼材20、22は、円周方向に対して等間隔に配置されている。PC鋼材20とPC鋼材22とは対をなし、中心軸92に対して線対称に配置されている。
【0119】
図24(a)、(b)の斜視図に示すように、PC鋼材20、22の上端部は、支持構造体82の側面上部に設けられた固定部94内に配置された定着具(不図示)によって支持構造体82に固定され、PC鋼材20、22の下端部は、上部建物88の上面に設けられた固定部96内に配置された定着具(不図示)によって上部建物88に固定されている。すなわち、免震構造86では、固定部96が鉛直力伝達手段となる。
【0120】
PC鋼材20は左右一方側の下方に傾斜して配置され、PC鋼材22は左右他方側の下方に傾斜して配置されている。
また、固定部94と固定部96とを繋ぐように、減衰手段としての油圧ダンパー26が配置されおり、この油圧ダンパー26によって上部建物88に発生する上下方向の振動を低減する。
なお、支持構造体82は柱状であればよく、例えば、円筒状、角筒状、及び角柱状としてもよい。
また、PC鋼材20の上端部とPC鋼材22の上端部とを連結してもよい。
【0121】
以上、本発明の第1〜第4の実施形態について説明した。
【0122】
なお、第1の実施形態では、上部建物16の上下方向の固有周期Tを0.75秒とした例を示したが、上部建物16の上下方向の固有周期Tを0.7秒以上すれば、応答加速度が入力加速度よりも小さくなることが期待できるので好ましい。
【0123】
図25のグラフには、減衰定数を30%とした振動系モデルに対して行った地震応答解析の結果が示されている。横軸には上下振動の周期が示され、縦軸には上下振動の加速度応答スペクトルが示されている。値98は、中越地震の原波を振動系モデルに入力したときの値であり、値100は、岩手・宮城地震の原波を振動系モデルに入力したときの値である。
【0124】
値98、100から、上下振動の固有周期が0.7秒(周期T)以上であれば、入力加速度とほぼみなせる周期Tのときの加速度応答スペクトルの値よりも加速度応答スペクトルの値は小さくなる。すなわち、減衰定数を30%とした振動系モデルにおいて振動低減効果が期待できる。
【0125】
また、第2の実施形態では、定着具28を用いてPC鋼材20、22を支持壁46A、46Cに固定する例を示したが(図10を参照のこと)、図26に示すように、支持壁46A、46Cを介してPC鋼材20、22を配置し、PC鋼材20、22の端部を地盤14に固定するようにすれば、地盤14に対する支持壁46A、46Cの固定強度を低減することができる。図26には、地盤14上に設けられた鉄筋コンクリート造の基礎102上に支持壁46A、46Cが設置され、この基礎102にPC鋼材20、22の端部が定着具28によって固定されている。この方法は、第1の実施形態の支柱18A、18C、18D、18Fに適用してもよい。
【0126】
また、第1〜第4の実施形態では、第1、第2部材をPC鋼材20、22とした例を示したが、第1、第2部材は、材軸方向に対して弾性を有する部材であればよく、鋼材によって形成することが好ましい。例えば、第1、第2部材に、線状の部材や、梁、トラス等の構造体を用いることができる。
線状の部材とは、部材の材軸方向の長さに比べて部材の横断面積が小さい線材を意味する。例えば、第1、第2部材を、PC鋼線、PC鋼より線、又はPC鋼棒等のPC鋼材としてもよいし、H型鋼、アングル部材、鉄骨、又はこれらを組み合わせて構成した複合部材としてもよいし、炭素繊維やビニロン繊維などの繊維材料により形成してもよい。
【0127】
図27(a)、(b)の正面図には、第1〜第4の実施形態で示した免震構造12、44、58、68、72、86の技術的思想を応用して、第1、第2部材を、地盤14上に立設された支持手段110から張り出す、片持ち梁112や片持ちトラス114とした例が示されている。
【0128】
左側に配置された片持ち梁112、片持ちトラス114を右側下方に傾斜させて設け、右側に配置された片持ち梁112、片持ちトラス114を左側下方に傾斜させて設ければ、図7で説明した免震構造モデル36とほぼ同様の作用が得られる。
【0129】
また、第1〜第4の実施形態では、減衰手段を油圧ダンパー26とした例を示したが、減衰手段は上部建物16、76、88に発生する上下方向の振動を低減できるものであればよく、第1の実施形態で示したように、地盤14と上部建物16、76、88との間に設けられるダンパーとしてもよいし、第1、第2部材に減衰性を持たせてもよい。
【0130】
また、第1の実施形態では、免震構造12において、第1、第2部材としてのPC鋼材20、22を上下方向に複数配置する例を示したが、第2〜第4の実施形態の免震構造44、58、68、72、86で用いられているPC鋼材20、22を上下方向に複数配置してもよい。
【0131】
また、第2及び第3の実施形態では、免震構造44、58、68において、第1、第2部材としてのPC鋼材20、22を横方向に複数配置する例を示したが、第1の実施形態で示した免震構造12で用いられているPC鋼材20、22を横方向に複数配置してもよい。
【0132】
また、第1〜第4の実施形態では、基盤を地盤14とし、被支持物を上部建物16とした例を示したが、基盤と被支持物とは上下方向に相対移動するものであればよい。例えば、基盤を基礎とし被支持物を上部建物としてもよいし、基盤を下部建物とし被支持物を上部建物としてもよいし、基盤を下部構造物とし被支持物を上部構造物としてもよい。
【0133】
また、第1〜第4の実施形態で示した免震構造12、44、58、68、72、86を免震台や防振台として利用してもよい。例えば、図28の斜視図に示すように、第2の実施形態で示した免震構造44の上にコンピュータ・サーバ、電子顕微鏡、精密機器等の設備機器104を載置してもよい。図28では、基盤を床スラブ106とし、被支持物を設備機器104としている。また、設備機器104は、下面に吊り壁48A、48Bが固定された支持台108に載置されている。この場合、例えば、支持壁46A〜46C、吊り壁48A、48B、及び支持台108は、鋼材、木材、合成樹脂等によって形成すればよい。
【0134】
以上、本発明の第1〜第4の実施形態について説明したが、本発明はこうした実施形態に何等限定されるものでなく、第1〜第4の実施形態を組み合わせて用いてもよいし、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施し得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0135】
10、42、56、66、70、84 建築物
12、44、58、68、72、86 免震構造
14 地盤(基盤)
16、76、88 上部建物(被支持物)
18A〜18F 支柱(支持手段)
20 PC鋼材(第1部材)
22 PC鋼材(第2部材)
24A〜24D 吊り支柱(鉛直力伝達手段)
26 油圧ダンパー(減衰手段)
46A〜46C、60A、60B 支持壁(支持手段)
48A、48B 吊り壁(鉛直力伝達手段)
62 基礎構造体(鉛直力伝達手段)
64 積層ゴム(免震手段)
74、82 支持構造体(支持手段)
96 固定部(鉛直力伝達手段)
104 設備機器(被支持物)
106 床スラブ(基盤)
110 支持手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基盤上に被支持物を支持する免震構造において、
前記基盤上に設けられた支持手段と、
弾性を有し一端が前記支持手段に支持されると共に左右一方に傾斜して配置される第1部材と、
弾性を有し一端が前記支持手段に支持されると共に左右他方に傾斜して配置される第2部材と、
前記第1部材及び前記第2部材に前記被支持物を支持させる鉛直力伝達手段と、
前記被支持物に発生する上下方向の振動を低減する減衰手段と、
を備える免震構造。
【請求項2】
前記被支持物は構造物である請求項1に記載の免震構造。
【請求項3】
前記第1部材及び前記第2部材は、鋼材によって形成されている請求項1又は2に記載の免震構造。
【請求項4】
前記鋼材は、PC鋼材である請求項3に記載の免震構造。
【請求項5】
前記支持手段は、前記被支持物の両側に位置する前記基盤上に立てられた支持部材によって構成され、
前記鉛直力伝達手段は、前記被支持物が載置され内部に前記第1部材及び前記第2部材が配置される基礎構造体である請求項1〜4の何れか1項に記載の免震構造。
【請求項6】
前記基礎構造体の上に設置され前記被支持物を支持して該被支持物に発生する横方向の振動を低減する免震手段を備える請求項5に記載の免震構造。
【請求項7】
前記支持手段は、前記基盤上に立てられた柱状の支持構造体によって構成され、
前記第1部材及び前記第2部材は、前記支持構造体の中心軸に対して平面視にて放射状に複数配置されている請求項1〜4の何れか1項に記載の免震構造。
【請求項8】
前記第1部材及び前記第2部材は、上下方向に複数配置されている請求項1〜7の何れか1項に記載の免震構造。
【請求項9】
前記第1部材及び前記第2部材は、横方向に複数配置されている請求項1〜6の何れか1項に記載の免震構造。
【請求項10】
前記第1部材と前記第2部材とは、連結されている請求項1〜9の何れか1項に記載の免震構造。
【請求項11】
請求項1〜10の何れか1項に記載の免震構造を有する建築物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【公開番号】特開2011−64276(P2011−64276A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−216000(P2009−216000)
【出願日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【出願人】(000003621)株式会社竹中工務店 (1,669)
【Fターム(参考)】