説明

内接歯車式ポンプ

【目的】インナーロータとアウターロータからなり、吸入ポートから吐出ポートに移送される流体の吐出量を可変可能としたものにおいて、その動作が確実でありしかも構成が極めて簡単にできる内接歯車式ポンプとすること。
【構成】インナーロータ3と、その回転中心P3と所定の偏心量eを有して回転するアウターロータ4と、包持内周部51を有するアウターリング5と、ポンプハウジングAと、ロータ室1とアウターリング5のいずれか一方に形成される複数のプロフィール溝61と、プロフィール溝61に遊挿される同数の案内ピン62と、アウターリング5を揺動させる操作手段Cとからなり、アウターリング5は操作手段Cにて揺動操作されると共に、プロフィール溝61と案内ピン62によって、アウターリング5の直径中心P5は、インナーロータ3の回転中心P3を中心として偏心量eを半径とした軌跡円Qに沿って揺動可能に案内される構成とすること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インナーロータと該インナーロータが内接するアウターロータからなり、吸入ポートから吐出ポートに移送される流体の吐出量を可変可能としたものにおいて、その動作が確実でありしかも構成が極めて簡単にできる内接歯車式ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用内燃機関の各摺動部やトランスミッションなどに潤滑油圧を供給するための可変容量形ポンプが存在する。この可変容量形ポンプでは、インナーロータと、該インナーロータが内接するアウターロータとを組み合わせたタイプのものである。そして、この種の可変容量形ポンプを開示した一例として、特許文献1が存在する。以下に、特許文献1について概略する。なお、以下の説明において、部材に付された符号は、特許文献1に記載されたものをそのまま使用する。
【0003】
アウターロータ5の外周面を回転自在に支持する調整リング7が設けられ、この調整リング7の回転角度を所定の調整機構を介して調整することにより、インナーロータ4とアウターロータ5の偏心方向が回転移動して、ポンプ吐出量を可変可能にしたタイプのものが存在する。
【0004】
そして、ポンプハウジング1に有する収容凹部6の第1〜第3曲面部位6a〜6cをトロコイド曲線によって形成し、調整リング7の外周に各曲面部位に摺接可能な先端面を有する円弧状の3つの摺接部位19〜21を形成して、3つの摺接部位が第1〜第3曲面部位を摺接しながら調整リング7が回動することによって、吐出量が可変する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−298026号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1が有する課題について述べる。まず、調整リング7の外周に3つの摺接部位がある。そして、該摺接部位がポンプハウジング1内の収容凹部の第1乃至第3曲面部位を摺接することによって、調整リング7は、3点で支持されながら回動する。その3点で支持されながら調整リング7が回動しているときに、もしも、その中の1点が摺接移動でかじりを起こすと、残りの摺接部位が曲面部位から離れてしまうことになり、調整リング7は滑らかに摺接移動ができなくなる恐れがある。
【0007】
そして、調整リング7が滑らかに摺接移動できなくなってしまうと、吐出量の可変が不安定になってしまい、所定の吐出量が得られなくなってしまう。さらに、前記調整リング7を回動させるための機構についても、可動動作が不安定になり易いという問題点があるそこで、本発明の目的(解決しようとする技術的課題)は、インナーロータと該インナーロータが内接するアウターロータからなる可変容量タイプの内接歯車式ポンプにおいて、吸入ポートから吐出ポートに移送される流体の吐出量を可変可能としたものにおいて、その動作が確実でありしかも構成を極めて簡単にすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで、発明者は上記課題を解決すべく、鋭意,研究を重ねた結果、請求項1の発明を、インナーロータと、該インナーロータが内接し且つ該インナーロータの回転中心と所定の偏心量を有して回転するアウターロータと、該アウターロータの外径と同一の内径で且つ回動自在に包持する包持内周部を有するアウターリングと、該アウターリングが揺動可能に遊挿されるロータ室を有するポンプハウジングと、前記ロータ室と前記アウターリングのいずれか一方に形成される複数のプロフィール溝と、該プロフィール溝に遊挿される同数の案内ピンと、前記アウターリングを前記ロータ室に対して接線方向に揺動させる操作手段とからなり、前記アウターリングは前記操作手段にて揺動操作されると共に、前記プロフィール溝と前記案内ピンによって、前記アウターリングの直径中心は、前記インナーロータの回転中心を中心として前記偏心量を半径とした軌跡円に沿って揺動可能に案内される構成としてなる内接歯車式ポンプとしたことにより、上記課題を解決した。
【0009】
請求項2の発明を、請求項1において、前記プロフィール溝は前記ロータ室に形成され、前記案内ピンは前記アウターリングに設けられてなる内接歯車式ポンプとしたことにより、上記課題を解決した。請求項3の発明を、請求項1において、前記プロフィール溝は前記アウターリングに形成され、前記案内ピンは前記ロータ室に設けられてなる内接歯車式ポンプとしたことにより、上記課題を解決した。
【0010】
請求項4の発明を、請求項1,2又は3のいずれか1項の記載において、前記操作手段は油圧バルブとし、前記アウターリングは、弁部材にて揺動されてなる内接歯車式ポンプとしたことにより、上記課題を解決した。請求項5の発明を、請求項1,2又は3のいずれか1項の記載において、前記操作手段は前記アウターリングに受圧面が形成されると共に該受圧面に油圧を作動させて、アウターリングを揺動させる構成としてなる内接歯車式ポンプとしたことにより、上記課題を解決した。
【発明の効果】
【0011】
請求項1の発明では、アウターロータを移動させるためのアウターリングを、プロフィール溝と案内ピンとを用いることによって、偏心量が常に一定間隔を維持するように極めて正確に揺動させることができる。しかも、インナーロータとアウターロータとの両回転中心同士を結ぶ基準線を、アウターリングの極めて少ない回動角度で、大きく回転させることができ、レイアウトを大きくすることなく可変量を大きくできる。また、プロフィール溝に沿って案内ピンが動くとき、該案内ピンは前記プロフィール溝(の外周面と内周面)によって、動作を規制されるため、アウターリングは、正確且つ円滑に回動し、滞りなく吐出容量の可変を行うことができる。
【0012】
次に、請求項2の発明では、前記プロフィール溝は前記ロータ室に形成され、前記案内ピンは前記アウターリングに設けられた構成により、プロフィール溝はロータ室に形成されるものであり、切削加工のみで簡単にできる。請求項3の発明では、前記プロフィール溝は前記アウターリングに形成され、前記案内ピンは前記ロータ室に設けられた構成により、プロフィール溝はアウターリングに形成されるものであり、切削加工のみで簡単にできる。
【0013】
請求項4の発明では、前記操作手段は油圧バルブとし、前記アウターリングは、弁部材にて揺動されてなる構成としたことで、特に吐出流量の大きくアウターロータを移動させるのに大きな力が必要な場合に好適である。請求項5の発明では、前記操作手段は前記アウターリングに受圧面が形成されると共に該受圧面に油圧を作動させて、アウターリングを揺動させる構成としたことにより、最も簡単な構成にできる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】(A)は本発明の内部の構成を示す正面図、(B)はポンプハウジングからアウターリング,アウターロータ及びインナーロータを外した状態の正面図である。
【図2】(A)は本発明の分離した状態の斜視図、(B)はアウターリング,アウターロータ及びインナーロータを組み合わせた状態の斜視図である。
【図3】(A)はアウターリング,アウターロータ及びインナーロータの作動状態を示す拡大図、(B)は(A)の(ア)部拡大図である。
【図4】プロフィール溝と案内ピンによってアウターリングが軌跡円に沿って移動する状態を示す拡大図である。
【図5】(A)は本発明における通常の状態でのアウターリング,アウターロータの位置を示す正面図、(B)は(A)の(イ)部拡大図、(C)は(A)の(ウ)部拡大図、(D)は(A)の(エ)部拡大図である。
【図6】(A)は本発明におけるアウターリングが揺動した状態の正面図、(B)は(A)の(オ)部拡大図、(C)は(A)の(カ)部拡大図、(D)は(A)の(キ)部拡大図である。
【図7】本発明においてアウターリングにプロフィール溝が形成され、ポンプハウジングに案内ピンが装着された実施形態の正面図である。
【図8】(A)は本発明においてアウターリングを直接揺動させる構成とした正面図、(B)はアウターリングが最終位置に揺動した状態の正面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。本発明は、図1(A),図2等に示すように、主に、ポンプハウジングAと、インナーロータ3と、アウターロータ4と、案内手段Bと、操作手段Cとから構成される。また、案内手段Bは、アウターリング5と、プロフィール溝61と、案内ピン62とから構成される。
【0016】
ポンプハウジングAには、図1(B),図2(A)に示すように、ロータ室1と操作室2が形成される。ロータ室1の底面部1aには、ポンプ駆動用の駆動軸が装着される軸孔11 が形成され、該軸孔11の周囲に吸入ポート12と吐出ポート13が形成されている。また、吸入ポート12と吐出ポート13との間には間仕切部が形成されている。
【0017】
この間仕切部は、ロータ室1内に2箇所に形成され、その一方は、吸入ポート12の終端部12bから吐出ポート13の始端部13aの間に位置するもので、この間仕切部を第1間仕切部14と称する〔図1(B),図2(A)参照〕。また、他方の間仕切部は、吐出ポート13の終端部13b から吸入ポート12の始端部12aの間に位置するものであり、これを第2間仕切部15と称する〔図1(B),図2(A)参照〕。ロータ室1には、インナーロータ3、アウターロータ4及びアウターリング5が内装される〔図1(A),図3(A)等参照〕。また、操作室2には、操作手段を構成する部材等が装着される。前記ロータ室1は、操作室2と連通室16によって連通されている。
【0018】
インナーロータ3及びアウターロータ4は、トロコイド形状又は略トロコイド形状とした歯車であり、複数の外歯31,31,…が形成されている。また、直径方向中心位置には、駆動軸用のボス孔32が形成され、該ボス孔32には、駆動軸が貫通固定される。ボス孔32は、非円形として形成され、ボス孔32と略同一形状の軸固定部が圧入等の固定手段にて駆動軸がインナーロータ3に固定され、インナーロータ3は駆動軸の回転駆動にて回転する。
【0019】
アウターロータ4は、環状に形成され、内周側に複数の内歯41,41,…が形成されている。そして、インナーロータ3の外歯31の数は、アウターロータ4の内歯41の数よりも1つ少ないものとして構成されている。インナーロータ3の外歯31,31,…と、アウターロータ4の内歯41,41,…によって複数の歯間空間S,S,…が構成され、通常の状態では、前記歯間空間Sが前記第1間仕切部14を通過するときに閉鎖された空間を構成し、且つ最大容積の最大歯間空間Saとなる。
【0020】
インナーロータ3の回転中心をP3とする〔図1(A),図3参照〕。この回転中心P3は、ロータ室1に対して位置は不動である。アウターロータ4の回転中心は、P4とする。そして、回転中心P3と、回転中心P4とを結ぶ仮想の線を基準線Lと称する。該基準線Lには、後述するように初期位置基準線Laと最終位置基準線Lbが設定され、初期位置基準線Laと最終位置基準線Lbとの間を案内手段B及び操作手段Cによって操作され揺動する。
【0021】
インナーロータ3の回転中心P3と、アウターロータ4の回転中心P4との距離を偏心量eと称する。該偏心量eは、インナーロータ3とアウターロータ4とが、常に一定の間隔を維持しながら回転し、内歯41,41,…と外歯31,31,…とのチップクリアランスを最適に維持するものである(図3参照)。
【0022】
案内手段Bは、前記アウターロータ4を、基準線Lを初期位置線Laから最終位置基準線Lbとなるまでの角度θbを揺動させる役目をなすものである。案内手段Bは、アウターリング5,プロフィール溝61及び案内ピン62とから構成される。アウターリング5は、前記アウターロータ4を揺動させて、前記基準線Lの角度を変更させる役目をなすものである。アウターリング5は、略円環状に形成され、その内周側を包持内周部51と称する〔図2(A)参照〕。さらに、アウターリング5には、後述する操作手段Cによって揺動されるための係止突起部52が外周側面より直径方向に突出形成されている〔図1(A),図3(A)参照〕。
【0023】
前記包持内周部51は、円形の内壁面として形成されたものであり、包持内周部51の内径D5は、アウターロータ4の外径D4と同一である。実際には、包持内周部51の内径D5は、アウターロータ4の外径D4よりも僅かに大きく、前記アウターロータ4が円滑に回動自在となるように、包持内周部51とアウターロータ4の間にクリアランスを有して挿入されるようになっているものであるが、この構成も同一の概念に含むものである。
【0024】
つまり、アウターリング5の包持内周部51の直径中心P5は、該包持内周部51に挿入された状態のアウターロータ4の回転中心P4と位置が一致するように構成されている(図3参照)。アウターリング5は、ロータ室1内において、アウターロータ4を包持内周部51に配置して、これを安定した状態に支持すると共に、後述する操作手段Cを介してインナーロータ3の回転中心P3を中心とした半径を偏心量eとする軌跡円Qに沿って揺動させる(図3,図4参照)。
【0025】
アウターリング5は、ポンプハウジングAのロータ室1に内装されるものであり、該ロータ室1内で、揺動可能となる構成となっている。そのために、アウターリング5の外形対して、ロータ室1は、僅かに広く形成され、アウターロータ4が揺動するためのスペースが余分に設けられている。
【0026】
アウターリング5は、その揺動の軌跡が決まっており、アウターリング5の直径中心P5が前記インナーロータ3の回転中心P3と偏心量eを維持しつつ、アウターリング5がインナーロータ3の回転中心P3の周囲の軌跡円Qに沿って揺動する。そして、前記アウターリング5の包持内周部51の内径D5と、前記アウターロータ4の外径D4とは等しいため、包持内周部51の直径中心P5と、該包持内周部51に挿入されたアウターロータ4の回転中心P4とは一致した状態である(図3参照)。
【0027】
したがって、アウターリング5の揺動によって、アウターロータ4の回転中心P4は、前記インナーロータ3の回転中心P3と偏心量eを維持しつつ、軌跡円Qに沿って、回転中心P3の周囲を揺動する。これによって、回転中心P3と回転中心P4とを結ぶ初期位置基準線Laの角度も変化することになる。
【0028】
本発明において、インナーロータ3とアウターロータ4には、初期位置と最終位置とが存在し、初期位置は、インナーロータ3とアウターロータ4とが比較的通常な状態で回転するときの位置のことである。ここで通常の状態とは、吐出圧力が一定の範囲内にある状態のことである。このときの基準線は初期位置基準線Laである。また、最終位置とはインナーロータ3とアウターロータ4とが比較的高圧な回転するときの位置のことであり、このときの基準線は最終位置基準線Lbとなる。
【0029】
そして、実際にアウターリング5が初期位置から最終位置に揺動する角度をθaとし、初期位置基準線Laと最終位置基準線Lbとのなす角度はθbとする。角度θaは角度θbよりも小さくなる。つまり、操作手段Cにより、アウターリング5の係止突起部52の僅かな移動により、初期位置基準線Laと最終位置基準線Lbに亘って大きく角度を変更することができる〔図3(A)参照〕。
【0030】
次に、プロフィール溝61と案内ピン62について説明する。プロフィール溝61及び案内ピン62は、アウターリング5をその直径中心P5がインナーロータ3の回転中心P3と偏心量eを維持しながら、アウターリング5の包持内周部51の直径中心P5を前記軌跡円Qに沿って揺動できるように案内する役目をなす案内手段である。
【0031】
プロフィール溝61はポンプハウジングAのロータ室1の底面部1aに形成され、案内ピン62はアウターリング5に設けられている〔図1(B),図2(A)参照〕。また、その反対にプロフィール溝61がアウターリング5に形成され、案内ピン62がロータ室1の底面部1aに形成され実施形態も存在する(図7参照)。
【0032】
プロフィール溝61及び案内ピン62は、それぞれ対をなして、複数個が設けられている。プロフィール溝61と案内ピン62は、それぞれ少なくとも2個設けられるものである。そして、アウターリング5及び包持内周部51に挿入配置されたアウターロータ4を安定した状態で揺動させるには、プロフィール溝61及び案内ピン62はそれぞれ3個設けられることが最適である。
【0033】
プロフィール溝61は、円弧状に形成された略楕円形状の溝であり、その長手方向は僅かに円弧状に形成されている。プロフィール溝61は、アウターリング5の直径中心P5側に対して凹形円弧形状となる。プロフィール溝61は、案内ピン62を、前記アウターリング5の直径中心P5が、前記軌跡円Qに沿って移動できるように案内する。そして、プロフィール溝61は、案内ピン62を、直径中心P5が軌跡円Qに沿って案内移動させることができる形状に形成されたものである(図3,図4参照)。
【0034】
つまり、アウターリング5の初期位置において、案内ピン62の中心とアウターリング5の直径中心P5を結ぶ線の長さを線長とする。そして、案内ピン62が3個を設けられた構成において、それぞれの案内ピン62の前記中心は、K1,K2,K3とし、またそれぞれの案内ピン62の中心とアウターリング5の直径中心P5とを結ぶ線長をS1,S2,S3とすると、
【数1】

となる(図4参照)。
【0035】
さらに、アウターリング5の最終位置における案内ピン62の中心と最終位置におけるアウターリング5の直径中心P5´を結ぶ線の長さを線長とする。そして案内ピン62が3個を設けられた構成において、それぞれの案内ピン62の中心をK1´,K2´,K3´とし、それぞれの案内ピン62の中心とアウターリング5の直径中心P5´とを結ぶ線長S´をS1´,S2´,S3´とすると、
【数2】

となる(図4参照)。
【0036】
そして、前記アウターリング5において、包持内周部51の直径中心P5と、各案内ピン62,62,…との距離は、不変であるため、
【数3】

となる(図4参照)。
【0037】
上記の式を満たすようにして、それぞれの案内ピン62がそれぞれに対応するプロフィール溝61に対して移動するように、該プロフィール溝61が形成されるものである。プロフィール溝61及び案内ピン62は、ロータ室1の底面部1a及びアウターリング5に対して略90度程度の間隔となるように設けられることが好ましい。
【0038】
ここで、インナーロータ3とアウターロータ4とが初期位置にあるときは、初期位置基準線Laが第1間仕切部14と第2間仕切部15との中間箇所を通過するものであって、第1間仕切部14において、歯間空間Sが最大の最大歯間空間Saとなり、第2間仕切部15で最小の最深噛み合い部Sbとなるものである〔図2(A),図5参照〕。
【0039】
また、インナーロータ3とアウターロータ4とが最終位置にあるときは、容積が最大の最大歯間空間Saと、容積が最小となる最深噛み合い部Sbは最終位置基準線Lb上に移動する。したがって、第1間仕切部14において、歯間空間Sは最大とはならず、同時に第2間仕切部15で最小とならない(図6参照)。つまり、第1間仕切部14には、最大歯間空間Saではない歯間空間Sが通過し、第2間仕切部15には最深噛み合い部Sbでない歯間空間Sが通過する。
【0040】
操作手段Cは、油圧バルブタイプ(図1乃至図7参照),ソレノイドバルブタイプ及び直接に油圧をアウターリング5に押圧するタイプが存在する(図8参照)。まず、油圧バルブタイプでは、バルブ7とスプリング8とからなる。バルブ7には、前記アウターリング5の外周から直径方向に突出する係止突起部52が係止される被係止部71が形成されている。被係止部71は、軸状のバルブ7の一部に形成された括れであり、該括れとした被係止部71にアウターリング5の係止突起部52が略遊挿状態で係止される。
【0041】
バルブ7は、スプリング8により、常時初期位置となるように弾性付勢されている。そして、バルブ7にかかる油圧が上昇するとスプリング8の弾性力を上回って、バルブ7が軸方向に移動し、被係止部71に係止されたアウターリング5の係止突起部52がロータ室1の接線方向に沿って移動する。
【0042】
次に、本発明における動作を説明する。ここで、操作手段Cは、油圧にてバルブ7が作動する構造とし、その油圧は、ポンプの吐出圧と共に変化する構造のものとする。まず、ポンプ始動時には、駆動軸の回転に伴ってインナーロータ3とアウターリング5とが互いの外歯31,31,…と内歯41,41,…とを噛み合わせながら回転すると、前記歯間空間Sが吸入ポート11側で容積が拡大し、第1間仕切部14を通過した後に吐出ポート12で収縮し、かかる容積を変化させることによってポンプ作用が行なわれる。
【0043】
そして、ポンプ始動前あるいは始動直後のポンプ吐出圧がゼロあるいは極めて低い場合には、アウターリング5は、操作手段Cのスプリング8のばね力によって、静止状態のバルブ7に押圧付勢されている。本発明の実施形態では、バルブ7は反時計回りの方向に弾性付勢されている(図5参照)。
【0044】
この状態では、インナーロータ3の回転中心P3に対するアウターロータ4の位置を示す基準線Lは、初期位置線Laにあり、第1間仕切部14と一致する。つまり、インナーロータ3に対するアウターロータ4の偏心方向に対応する初期の基準線Lは、第1間仕切部14と一致し、該第1間仕切部14の中間を通過するので〔図5(A),(B)参照〕、吸入ポート11側から吐出ポート12側への歯間空間Sの容積が最大の状態で第1間仕切部14を通過する〔図5(C)参照〕。その一方で、吐出ポート12側から吸入ポート11への歯間空間Sの容積が最小の状態となって、第2間仕切部15を通過する〔図5(D)参照〕。これによって、インナーロータ3とアウターロータ4との初期位置状態では、ポンプ吐出量が最大となる。
【0045】
ポンプ回転数の増加に伴いポンプ吐出圧が上昇すると、ポンプ吐出圧が吐出ポート12から操作手段Cに作用して、アウターリング5は、スプリング8の弾性付勢力に抗してインナーロータ3とアウターロータ4との回転方向とは反対の方向(本発明においては時計回りの方向)へ回動する。そして、アウターリング5は、前記ポンプ吐出圧とスプリング8のばね力との釣り合った位置で回動が停止される。この説明において、停止する位置は、最終位置基準線Lbまで到達した状態とする〔図6(A)参照〕。
【0046】
アウターリング5は、該アウターリング5側に設けられた案内ピン62,62,…によって、ポンプハウジングA側のプロフィール溝61,61,…に沿って案内されて揺動する。これにより、アウターロータ4の回転中心P4が、インナーロータ3の回転中心P3に対して角度θbだけ傾く。つまり、アウターロータ4と共に基準線Lは、初期位置線Laから角度θbだけ傾き、最終位置基準線Lbに向って揺動する。
【0047】
この角度θbだけ傾くことによって、歯間空間Sが最大容積となる位置が角度θbだけ移動することになる。つまり、最大歯間空間Saの通過位置は、第1間仕切部14から吸入ポート11側に離れた位置となり、第1間仕切部14は最大歯間空間Saではない歯間空間Sが通過することになる(図6参照)。そして、歯間空間Sの容積が最大になるときから更に圧縮工程に入った状態で、歯間空間Sが吸入ポート11と連通し、歯間空間Sの容積が最大より小さくなっているときに第1間仕切部14を通過することになる〔図6(C)参照〕。したがって、初期位置状態のときよりも最終位置状態では、吐出量が小さくなる。
【0048】
さらに、アウターリング5の揺動動作を、アウターリング5に油圧を直接的に作用させて、アウターリング5を揺動させる構造とした実施形態も存在する。この実施形態では、アウターリング5に受圧部53が形成され、該受圧部53に油圧油を受けて、アウターリング5を揺動動作させるものである(図8参照)。また、この実施形態では、スプリング8が具備され、アウターリング5の初期位置への復帰はスプリング8の弾性付勢力によって行われる。さらに、この実施形態では、プロフィール溝61及び案内ピン62がそれぞれ最小限の2個設けられており、最少数にとすることにより、加工や部品数を少なくでき、コストを抑えることができる。
【0049】
本発明では、アウターロータ4が回転自在に挿入されたアウターリング5は、操作手段Cによってロータ室1内を揺動する。ここで、アウターリング5は、操作手段Cによって、ロータ室1の接線方向に移動するものであり、操作手段Cによる揺動角度(角度θa)は小さいものである。しかし、アウターリング5自体は、包持内周部51の直径中心P5がインナーロータ3の回転中心P3を中心とし、偏心量eを半径とした軌跡円Qに沿って移動するものである。
【0050】
そのために、前述した操作手段Cによるロータ室1の接線方向における移動に加えて、アウターリング5の包持内周部51の直径中心P5が軌跡円Qに沿って上下方向への移動も行われることとなり、アウターリング5に挿入されたアウターロータ4は、アウターリング5が操作手段Cにより揺動した角度θaよりも、プロフィール溝61と案内ピン62によって案内揺動される大きな角度θbでアウターロータ4の回転中心P4を移動させることができる。
【0051】
この大きな移動により、初期位置の状態では第1間仕切部14でインナーロータ3とアウターロータ4による歯間空間Sは最大であったものが、その移送がずれて、第1間仕切部14での歯間空間Sは最大状態から減少した状態で通過することになる。つまり、このことによって、第1間仕切部14における歯間空間Sは最大状態から減少したものとなり、総合的な吐出量を減少させることができる。このように、本発明では、操作手段Cによる僅かなアウターリング5の移動操作によって、実質的にアウターリング5に大きな回転を行わせることができるものであり、しかもこのような構成を有しながらポンプハウジングAはコンパクトにできる。
【0052】
なお、本発明において、特に図示しないが、前記ポンプハウジングAのロータ室1を覆うためのカバー部材が具備される。そして、このカバー部材にも、案内手段Bが設けられることもあり、前記プロフィール溝61又は前記案内ピン62のいずれかが形成又は装着されるものである。この場合には、アウターリング5にはロータ室1の底面部1aと、前述したカバー部材との両方に対向する両面に案内ピン62又はプロフィール溝61のいずれかが装着又は形成されることになる(図2参照)。つまり、アウターリング5は、ポンプハウジングAとカバー部材の両方に設けられた案内手段B(プロフィール溝61又は案内ピン62)に従って揺動動作を行うものである。
【符号の説明】
【0053】
A…ポンプハウジング、1…ロータ室、3…インナーロータ、4…アウターロータ、
B…案内手段、5…アウターリング、51…包持内周部、52…係止突起部、
53…受圧部、61…プロフィール溝、62…案内ピン、C…操作手段、7…バルブ、
8…スプリング、Q…軌跡円、e…偏心量。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インナーロータと、該インナーロータが内接し且つ該インナーロータの回転中心と所定の偏心量を有して回転するアウターロータと、該アウターロータの外径と同一の内径で且つ回動自在に包持する包持内周部を有するアウターリングと、該アウターリングが揺動可能に遊挿されるロータ室を有するポンプハウジングと、前記ロータ室と前記アウターリングのいずれか一方に形成される複数のプロフィール溝と、該プロフィール溝に遊挿される同数の案内ピンと、前記アウターリングを前記ロータ室に対して接線方向に揺動させる操作手段とからなり、前記アウターリングは前記操作手段にて揺動操作されると共に、前記プロフィール溝と前記案内ピンによって、前記アウターリングの直径中心は、前記インナーロータの回転中心を中心として前記偏心量を半径とした軌跡円に沿って揺動可能に案内される構成としてなることを特徴とする内接歯車式ポンプ。
【請求項2】
請求項1において、前記プロフィール溝は前記ロータ室に形成され、前記案内ピンは前記アウターリングに設けられてなることを特徴とする内接歯車式ポンプ。
【請求項3】
請求項1において、前記プロフィール溝は前記アウターリングに形成され、前記案内ピンは前記ロータ室に設けられてなることを特徴とする内接歯車式ポンプ。
【請求項4】
請求項1,2又は3のいずれか1項の記載において、前記操作手段は油圧バルブとし、前記アウターリングは、弁部材にて揺動されてなることを特徴とする内接歯車式ポンプ。
【請求項5】
請求項1,2又は3のいずれか1項の記載において、前記操作手段は前記アウターリングに受圧面が形成されると共に該受圧面に油圧を作動させて、アウターリングを揺動させる構成としてなることを特徴とする内接歯車式ポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−113125(P2013−113125A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−257350(P2011−257350)
【出願日】平成23年11月25日(2011.11.25)
【出願人】(000144810)株式会社山田製作所 (183)
【Fターム(参考)】