説明

内燃機関におけるバランス装置

【課題】クランク軸5にて回転するバランス軸9をシリンダブロック1に形成したバランス軸ハウジング8内に設ける一方,シリンダヘッド3の動弁機構室からバランス軸ハウジングへの第1オイル落とし通路19及び前記バランス軸ハウジングからオイルパン7への第2オイル落とし通路20を備えて成る内燃機関において,前記動弁機構室から前記バランス軸ハウジングを経てにオイルパンに至る潤滑油のオイル落としを積極的に行なう。
【解決手段】前記バランス軸のうち前記各オイルとし通路が開口する部分に,前記第1オイル落とし通路からの潤滑油を前記第2オイル落とし通路に送り出すようにしたポンプ体21を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,往復動式の内燃機関において,その往復動に起因して発生する振動を抑制するためのバランス装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ピストン往復動式の内燃機関において,そのピストンの往復動に起因して発生する振動の低減には,従来から良く知られているように,偏心バランスウエイトを備えて成るバランス軸を,クランク軸と平行にして設け,このバランス軸を前記クランク軸と同期して回転するという方式が採用されている。
【0003】
先行技術としての特許文献1には,内燃機関におけるシリンダブロックに,バランス軸を内蔵するバランス軸ハウジングを設け,前記内燃機関のシリンダヘッド上面の動弁機構室における潤滑油を,前記シリンダブロックに設けた第1オイル落とし通路を介して前記バランス軸ハウジング内に導入し,このバランス軸ハウジング内から前記シリンダブロックの下面におけるオイルパンに,第2オイル落とし通路を介して戻すという構成にすることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開昭64−46411号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記先行技術によると,バランス軸を,シリンダヘッドの上面における動弁機構室からバランス軸ハウジングを経てオイルパンに戻る潤滑油によって潤滑することができる。
【0006】
しかし,前記動弁機構室からバランス軸ハウジングを経てオイルパンへの潤滑油のオイル落としが,前記バランス軸ハウジング内におけるバランス軸の回転にて妨げられることになる。これに加えて,前記バランス軸ハウジング内には,シリンダブロックのクランクケース内にピストンの往復動に起因して発生する脈動が伝播していて,この脈動が,前記動弁機構室からバランス軸ハウジングを経てオイルパンへの潤滑油のオイル落とし妨げることになる。
【0007】
従って,前記バランス軸ハウジング内に対する各オイル落とし通路としては,これらの妨げを考慮して,大きな断面積を有するものに構成しなければならないから,シリンダブロックの大型化,ひいては,内燃機関の大型化及び重量のアップを招来するという問題がある。
【0008】
しかも,オイルパンに戻る潤滑油は,前記バランス軸ハウジング内に溜まった状態のままで,前記バランス軸の回転にて激しく攪拌されるので,その劣化が早められるという問題があった。
【0009】
本発明は,これらの問題を解消することを技術的課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この技術的課題を達成するため請求項1は,
「クランク軸と同期回転するバランス軸をシリンダブロックに形成したバランス軸ハウジング内に設けて軸支する一方,シリンダヘッドにおける動弁機構室から前記バランス軸ハウジングへの第1オイル落とし通路,及び,前記バランス軸ハウジングからオイルパンへの第2オイル落とし通路を備えて成る内燃機関において,
前記バランス軸のうち前記第1オイル落とし通路及び第2オイル落とし通路が前記バランス軸ハウジング内に開口する部分には,当該バランス軸の回転によって,前記第1オイル落とし通路からの潤滑油を前記第2オイル落とし通路に送り出すようにしたポンプ体が設けられている。」
ことを特徴としている。
【0011】
また,請求項2は,
「前記請求項1の記載において,前記バランス軸ハウジングにおける内周面には,前記ポンプ部の部分に前記第1オイル落とし通路を第2オイル落とし通路に連通するオイル送り溝が,前記バランス軸の軸線方向から見て前記バランス軸の回転方向に沿って円周方向に延びるように設けられており,このオイル送り溝の深さは,前記第1オイル落とし通路から第2オイル落とし通路に向かって深くなる構成である。」
ことを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
請求項1によると,リンダヘッド上面の動弁機構室内から第1オイル落とし通路を介してバランス軸ハウジング内に導入される潤滑油は,前記バランス軸ハウジング内におけるバランス軸の回転に伴いそのポンプ体により,前記バランス軸ハウジング内に吸い込まれたのち,当該バランス軸ハウジング内から第2オイル落とし通路に押し出されることになる。
【0013】
これにより,前記動弁機構室からバランス軸ハウジングを経てオイルパンに至る潤滑油のオイル落としを,前記バランス軸ハウジング内におけるバランス軸の回転を利用して積極的に行なうことができるから,前記先行技術のように,バランス軸の回転による妨げの影響及びクランクケース内の脈動による妨げの影響を受けることを確実に低減でき,前記各オイル落とし通路における断面積を小さくできて,シリンダブロックの小型化,ひいては,内燃機関の小型化及び軽量化を図ることができる。
【0014】
しかも,前記動弁機構室からバランス軸ハウジングを経てオイルパンに至る潤滑油は,先行技術のように,前記バランス軸ハウジング内に溜まった状態のままでバランス軸の回転にて激しく攪拌されることはないので,その劣化を低減できる。
【0015】
また,請求項2によると,前記動弁機構室からバランス軸ハウジングを経てオイルパンへの潤滑油のオイル落としを,更に積極的に行なうことができるから,前記した効果を助長できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】内燃機関の縦断正面図である。
【図2】図1のII−II視拡大断面図である。
【図3】図2のIII −III 視断面図である。
【図4】別の実施の形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下,本発明の実施の形態を,図1〜図3の図面について説明する。
【0018】
これらの図において,符号1は,シリンダ2を備えて成るシリンダブロックを,符号3は,前記シリンダブロック1の上面に前記シリンダ2の頂部を塞ぐように締結したシリンダヘッドを各々示す。
【0019】
前記シリンダブロック1の下部には,クランクケース4が一体に設けられ,このクランクケース4の内部には,クランク軸5が前記シリンダ2内におけるピストン6の往復動にて回転するように軸支されている一方,前記クランクケース4の下面には,オイルパン7が取付けられている。
【0020】
前記シリンダブロック1におけるクランクケース4の内部には,内径D1の円筒形にしたバランス軸ハウジング8が,前記クランク軸5と平行に延びるように形成されており,このバランス軸ハウジング8の内部には,前記ピストン6に釣り合う偏心バランスウエイト10を備えて成るバランス軸9が配設され,このバランス軸9の両端は,転がり軸受け部11にて回転自在に軸支されている。
【0021】
前記バランス軸9のうち前記シリンダブロック1における一方の側面12から外向きに突出する軸端部13には,従動歯車14が,前記クランク軸5上に固着した主動歯車15に噛合するように固着されており,前記バランス軸9は,これらの歯車14,15により,前記ピストン6が上死点及び下死点に向かうとき,その偏心バランスウエイト10が下死点及び上死点に向かうように,前記クランク軸5に同期して同じ回転数で回転される構成になっている。
【0022】
なお,前記シリンダブロック1における一方の側面12に取付けたチエンケース16には,トロコイド型の潤滑油ポンプ17が,前記バランス軸9にて回転駆動するように設けられている。
【0023】
そして,前記バランス軸9のうちその一端に対する軸受け部11に隣接する部分には,前記バランス軸ハウジング8の内径D1に近似する直径D2にした太軸部18が一体に設けられている。
【0024】
前記シリンダブロック1の側面には,前記シリンダヘッド3の上面における動弁機構室(図示せず)から前記バランス軸ハウジング8への第1オイル落とし通路19と,前記バランス軸ハウジング8から前記オイルパン7への第2オイル落とし通路20とが形成されている。
【0025】
前記第1オイル落とし通路19の下端における出口19aは,前記バランス軸ハウジング8における天井面のうち前記バランス軸9における太軸部18の個所に開口している一方,前記第2オイル落とし通路20の上端における入口20aは,前記バランス軸ハウジング8における内底面のうち前記バランス軸9における太軸部18の個所で,且つ,前記第1オイル落とし通路19の出口19aから軸線方向にずれた個所に開口している。
【0026】
前記バランス軸9のうち前記太軸部18は,その外周面に螺旋溝21を設けることによってポンプ体22に構成されている。
【0027】
一方,前記バランス軸ハウジング8の内周面には,前記太軸部18の個所に前記第1オイル落とし通路19を前記第2オイル落とし通路20に連通するオイル送り溝23が,略半円周にわたって延びるように設けられており,このオイル送り溝23は,前記バランス軸9の軸線方向から見て当該バランス軸9における矢印Aで示す回転方向に沿って円周方向に延びるように設けられており,このオイル送り溝23の深さは,前記第1オイル落とし通路19から第2オイル落とし通路20に向かって次第に深くなるという構成にされている。
【0028】
この構成において,シリンダヘッド3の上面における動弁機構室から第1オイル落とし通路19を介してバランス軸ハウジング8内に導入される潤滑油は,前記バランス軸ハウジング8内におけるバランス軸9の回転に伴い,そのポンプ体22における螺旋溝21により,前記バランス軸ハウジング8内に吸い込まれたのち,当該バランス軸ハウジング8内から第2オイル落とし通路20に押し出されて,前記オイルパン7に戻ることになる。
【0029】
これにより,前記動弁機構室からバランス軸ハウジング8を経てオイルパン7に至る潤滑油のオイル落としを,前記バランス軸ハウジング8内におけるバランス軸9の回転を利用したポンプ体22によって積極的に行なうことができる。
【0030】
また,前記バランス軸ハウジング8における内周面には,オイル送り溝23が設けられていることにより,前記ポンプ体22における螺旋溝21によるポンプ作用を一層に促進することができる。
【0031】
なお,前記実施の形態は,ポンプ体22を,前記バランス軸9における太軸部18に螺旋溝21を設けることによって,ねじ式のポンプ体に構成した場合であったが,本発明におけるポンプ体は,これに限らず,図4に示す別の実施の形態のように,前記バランス軸9における太軸部18に,複数枚のインペラー21′を設けることによって,回転羽根式のポンプ体22′に構成することができる。勿論,その他の形式によるポンプ体に構成できることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0032】
1 シリンダブロック
2 シリンダ
3 シリンダヘッド
4 クランクケース
5 クランク軸
7 オイルパン
8 バランス軸ハウジング
9 バランス軸
10 偏心バランスウエイト
11 軸受け部
18 太軸部
19 第1オイル落とし通路
20 第2オイル落とし通路
21 螺旋溝
22,22′ ポンプ体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クランク軸と同期回転するバランス軸をシリンダブロックに形成したバランス軸ハウジング内に設けて軸支する一方,シリンダヘッドにおける動弁機構室から前記バランス軸ハウジングへの第1オイル落とし通路,及び,前記バランス軸ハウジングからオイルパンへの第2オイル落とし通路を備えて成る内燃機関において,
前記バランス軸のうち前記第1オイル落とし通路及び第2オイル落とし通路が前記バランス軸ハウジング内に開口する部分には,当該バランス軸の回転によって,前記第1オイル落とし通路からの潤滑油を前記第2オイル落とし通路に送り出すようにしたポンプ体が設けられていることを特徴とする内燃機関におけるバランス装置。
【請求項2】
前記請求項1の記載において,前記バランス軸ハウジングにおける内周面には,前記ポンプ部の部分に前記第1オイル落とし通路を第2オイル落とし通路に連通するオイル送り溝が,前記バランス軸の軸線方向から見て前記バランス軸の回転方向に沿って円周方向に延びるように設けられており,このオイル送り溝の深さは,前記第1オイル落とし通路から第2オイル落とし通路に向かって深くなる構成であることを特徴とする内燃機関におけるバランス装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−47284(P2011−47284A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−193993(P2009−193993)
【出願日】平成21年8月25日(2009.8.25)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】