説明

内燃機関における排気ガス還流装置

【課題】シリンダヘッドの排気側面に設けた排気ガス還流通路用蓋板からの騒音低減を図る。
【解決手段】シリンダヘッド1の排気側面5に,クランク軸線の方向に延びる凹み溝15を凹み形成し,この凹み溝の一端を排気ポート8に,他端を吸気系への排気ガス還流通路に各々連通し,この凹み溝を,前記排気側面に接合した蓋板16にて塞ぐ構成にし、前記凹み溝15内の部分に,当該凹み溝内を流れる排気ガスが前記蓋板16に接触するのを防止するようにした接触防止手段19を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,内燃機関において,その排気ガスのクリーン化等を図るために,排気ガスの一部を吸気系に還流する装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
先行技術としての特許文献1及び2には,
「シリンダヘッドのうち排気ガスポートが開口する排気側面に,凹み溝をクランク軸の方向に延びるように凹み形成して,この凹み溝の一端を前記排気ポートに,他端を前記シリンダの内部に設けた排気ガス還流通路に各々連通する一方,前記排気側面に,前記凹み溝を塞ぐ蓋板を,その間にシール用ガスケットを挟んで接合して成る排気ガス還流装置。」が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−342907号公報
【特許文献2】特開2002−106420号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
これらの先行技術によると,排気系から吸気系に至る排気ガス還流経路の一部を,シリンダヘッドにおける排気側面に凹み形成した凹み溝にて構成することができるから,部品点数の低減,スペースの縮小化及び軽量化等を図ることができる。
【0005】
しかし,その反面,前記蓋板のうち前記凹み溝内の部分には,排気ガスがこれに沿って流れることにより,前記蓋板と排気ガスとの間に激しい擦り音が発生し,この擦り音が蓋板を透して外側に漏れ出すことになるから,前記擦り音に起因しての騒音が増大するという問題があった。
【0006】
これに加えて,前記凹み溝を塞ぐ蓋板は,排気ガスに存在する脈動及び排気ガスが衝突すること等に起因して膜振動するので,前記蓋板から発生する騒音は増大することになる。
【0007】
特に,この問題,つまり,蓋板から発生する騒音の増大は,前記排気マニホールドの接合用フランジ板及びこれに一体の前記蓋板を,比較的薄い金属板製(板金製)にした場合において,一層,顕著になるのであった。
【0008】
本発明は,この問題を解消することを技術的課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この技術的課題を達成するため請求項1は,
「シリンダヘッドのうち排気ポートが開口する排気側面に,凹み溝をクランク軸の方向に延びるように凹み形成して,この凹み溝の一端を前記排気ポートに,他端を前記シリンダの内部に設けた排気ガス還流通路に各々連通する一方,前記排気側面に,前記凹み溝を塞ぐ蓋板を,その間にシール用ガスケットを挟んで接合して成る排気ガス還流装置において,
前記凹み溝内の部分には,当該凹み溝内を流れる排気ガスが前記蓋板に接触するのを防止するようにした接触防止手段が設けられている。」
ことを特徴としている。
【0010】
請求項2は,
「前記請求項1の記載において,前記接触防止手段は,吸音部材に構成されている。」
ことを特徴としている。
【0011】
次に,請求項3は,
「前記請求項1の記載において,前記接触防止手段は,前記蓋板と前記排気側面との間におけるガスケットのうち前記凹み溝内の部分に,前記凹み溝内への凹み変形部を設けて成る構成であり,この凹み変形部と前記蓋板との間に空間部が形成されている。」
ことを特徴としている。
【0012】
請求項4は,
「前記請求項3の記載において,前記蓋板と前記排気側面との間におけるガスケットは,複数重ねの構成であり,前記凹み変形部は,前記複数重ねのガスケットのうち少なくとも前記排気側面に密接する一つのガスケットに設けられ,前記空間部は,前記一つのガスケットと当該一つのガスケットに隣接する他のガスケットとの間に設けられている。」
ことを特徴としている。
【0013】
請求項5は,
「前記請求項3又は4の記載において,前記凹み変形部には,前記凹み溝と前記空間部とを連通する複数個の連通孔が設けられている。」
ことを特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
請求項1によると,蓋板にて塞がれている凹み溝内を流れる排気ガスは接触防止手段にて前記蓋板に対して接触することを防止されていることにより,この排気ガスと前記蓋板との間に発生する擦り音を低減することができるから,前記擦り音に起因しての騒音を確実に低減できる。
【0015】
また,請求項2によると,前記凹み溝内を流れる排気ガスが蓋板に接触することを吸音部材にて防止できることに加えて,前記凹み溝内で発生する音は吸音部材にて吸音されるので,前記騒音の低減を一層に助長できる。
【0016】
次に,請求項3及び4によると,前記凹み溝内を流れる排気ガスと蓋板との間に擦り音が発生することを,前記接触防止手段を構成する凹み変形部にて確実に低減できる一方,排気ガスに存在する脈動及び排気ガスの衝突が,前記蓋板に伝播することを,前記凹み変形部にて形成される空間部にて阻止できる。
【0017】
これにより,前記蓋板から発生する騒音を大幅に低減することができる。
【0018】
この場合,請求項5の記載にすることにより,前記凹み溝内を流れる排気ガスは,前記凹み溝内と前記空間部との間を出入りして,前記蓋板への排気ガスの脈動及び衝突を更に緩衝するから,前記した効果を更に助長できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】第1の実施の形態における要部を示す一部切欠平面図である。
【図2】図1のII−II視側面図である。
【図3】図1のIII −III 視拡大断面図である。
【図4】図1における分解図である。
【図5】第2の実施の形態における要部を示す平断面図である。
【図6】図5のVI−VI視拡大断面図である。
【図7】図5における分解図である。
【図8】第3の実施の形態における要部を示す平断面図である。
【図9】図8のIX−IX視拡大断面図である。
【図10】図8における分解図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下,本発明の実施の形態を図面について説明する。
【0021】
図1〜図4は,第1の実施の形態を示す。
【0022】
これらの図において,符号1は,クランク軸線2に沿って並べた複数の気筒3を有する内燃機関におけるシリンダヘッドを示す。
【0023】
このシリンダヘッド1には,前記各気筒3からの排気ポート4が,当該シリンダヘッド1における左右両側面5,6のうち一方の側面5,つまり,排気側面5に開口するように設けられている。
【0024】
更に,前記シリンダヘッド1には,前記各気筒3への吸気ポート7が,左右両側面5,6のうち他方の側面6,つまり,吸気側面6に開口するように設けられている。
【0025】
前記シリンダヘッド1における排気側面5には,前記各気筒3の排気ポート4に対する排気マニホールド8が,その間に薄金属板等の耐熱材料によるシール用ガスケット9を挟んだ状態で着脱可能に接合されている。
【0026】
この排気マニホールド8は,前記排気側面5に対して複数本のボルト11にて締結される接合用フランジ板10と,この接合用フランジ板10に接合した排気管12とによって構成されている。
【0027】
なお,前記シリンダヘッド1における吸気側面6には,前記各気筒3への吸気マニホールド(図示せず)が接合されている。
【0028】
また,前記シリンダヘッド1における内部には,冷却水ジャケット13が形成されている。
【0029】
更にまた,前記シリンダヘッド1のうちクランク軸線2の方向の一端の部分には,前記排気側面5から前記吸気側面6に向かって延びるように構成した排気ガス還流通路14が形成されている。
【0030】
この排気ガス還流通路14のうち前記吸気側面6側の部分は,前記吸気側面6における吸気マニホールドに連通していて,この排気ガス還流通路14内を前記吸気側面6の方向に流れる排気ガスは,前記吸気マニホールドを介して各気筒3に分配するように還流される。
【0031】
前記シリンダヘッド1における排気側面5のうち,前記排気ポート4と,前記排気ガス還流通路14との間の部分には,凹み溝15が,前記クランク軸線2の方向に延びるように凹み形成されている。
【0032】
この凹み溝15は,前記シリンダヘッド1の鋳造の際に,鋳物型によって同時に形成されるか,或いは,前記シリンダヘッド1を鋳造したあとにおける機械加工によって形成されるもので,その一端15aは,前記排気ポート4に連通している一方,他端15bは,前記排気ガス還流通路14に連通している。
【0033】
一方,前記排気マニホールド8における接合用フランジ板10には,前記凹み溝15を塞ぐようにした蓋板16が,前記排気側面5に沿って延びるように延長して一体に設けられており,この蓋板16は,前記排気側面5に対して,その間に薄金属板等の耐熱材料によるシール用ガスケット17を挟んだ状態で,複数本のボルト18による締結にて着脱可能に接合されている。
【0034】
これにより,前記凹み溝15を密閉した流れ通路に構成しており,この流れ通路により,前記排気ポート4を前記排気ガス還流通路14に連通するという構成になっている。
【0035】
なお,前記図示の実施の形態においては,前記凹み溝15を塞ぐ蓋板16を,前記排気マニホールド8における接合用フランジ板10と一体に構成し,更に,前記蓋板16に対するシール用ガスケット17を,前記接合用フランジ板10に対するシール用ガスケット9と一体に構成しているが,前記蓋板16を,前記排気マニホールド8における接合用フランジ板10と別体に構成し,且つ,前記蓋板16に対するシール用ガスケット17を,前記接合用フランジ板10に対するシール用ガスケット9と別体に構成することができる。
【0036】
そして,前記凹み溝15内の部分には,当該凹み溝15内を流れる排気ガスが前記蓋板16に接触するのを防止するようにした接触防止手段19が設けられている。
【0037】
この接触防止手段19は,前記ガスケット17のうち前記凹み溝15内の部分に抜き孔を設けることなくガスケット17の一部を残したままにすることによって構成するか,或いは,図示のように,前記ガスケット17のうち前記凹み溝15内に残した部分に,耐熱板20を重ね合わせることによって,前記ガスケット17に固着した構成にしている。
【0038】
この構成によると,排気ポート4からの排気ガスが,蓋板16にて塞がれている凹み溝15内を流れるときにおいて,前記蓋板16に接触することが防止されるから,この排気ガスと前記蓋板16との間に発生する擦り音を確実に低減できる。
【0039】
なお,前記した第1の実施の形態においては,前記接触防止手段19を前記ガスケット17に設けていることにより,この接触防止手段19の組み付けが,前記ガスケット17と一緒にできて,その組み立て性を向上できる。
【0040】
また,前記した第1の実施の形態においては,前記接触防止手段19として,スチールウール等のような吸音部材を使用することができ,これによると,前記凹み溝15内の排気ガスが前記蓋板16に接触することを吸音部材にて防止できることに加えて,前記凹み溝15内で発生する音を前記吸音部材にて吸音することができる。
【0041】
この吸音部材を使用する場合には,図1,図3及び図4に図示したように,前記ガスケット17のうち前記凹み溝15内に残した部分に重ね合わせた耐熱板20を,吸音部材に置換するという構成にすることができる。
【0042】
次に,図5〜図7は,第2の実施の形態を示している。
【0043】
この第2の実施の形態は,前記蓋板16と排気側面5との間におけるガスケット17のうち前記凹み溝15内に残した部分に,前記凹み溝15内への凹み変形部21を設けて,この凹み変形部21を接触防止手段19′に構成する一方,前記凹み変形部21と,前記蓋板16との間に空間部22を形成したものである。
【0044】
この構成によると,前記凹み溝15内を流れる排気ガスと蓋板16との間に擦り音が発生することを,前記接触防止手段19′を構成する凹み変形部21にて確実に低減できる一方,排気ガスに存在する脈動及び排気ガスの衝突が,前記蓋板16に伝播することを,前記凹み変形部21にて形成される空間部22にて阻止できる。
【0045】
また,この第2の実施の形態においては,図示したように,前記凹み変形部21に,前記凹み溝15と前記空間部22とを連通する複数個の連通孔23を設けることにより,前記凹み溝15内を流れる排気ガスは,前記凹み溝15内と前記空間部22との間を出入りして,前記蓋板16への排ガスの脈動及び衝突を緩衝するから,前記した効果を助長できる。
【0046】
そして,図8〜図10は,第3の実施の形態を示している。
【0047】
この第3の実施の形態は,前記蓋板16と排気側面5との間におけるガスケット17を,シリンダヘッド1側の第1ガスケット17aと,前記蓋板16側の第2ガスケット17bとの二枚重ねに構成して,前記第1ガスケット17aのうち前記凹み溝15内に残した部分に,前記凹み溝15内への凹み変形部21aを設けて,この凹み変形部21aを接触防止手段19″に構成する一方,前記凹み変形部21aと,前記第1ガスケット17aに隣接する前記第2ガスケット17bとの間に空間部22aを形成したものである。
【0048】
この構成によると,前記第2の実施の形態と同様に,前記凹み溝15内を流れる排気ガスと蓋板16との間に擦り音が発生することを,前記接触防止手段19″を構成する凹み変形部21aにて確実に低減できる一方,排気ガスに存在する脈動及び排気ガスの衝突が,前記蓋板16に伝播することを,前記凹み変形部21aにて形成される空間部22aにて阻止できる。
【0049】
また,この第3の実施の形態においては,図示したように,前記第1ガスケット17aにおける凹み変形部21aに,前記凹み溝15と前記空間部22aとを連通する複数個の連通孔23aを設けることにより,前記凹み溝15内を流れる排気ガスは,前記凹み溝15内と前記空間部22aとの間を出入りして,前記蓋板16への排ガスの脈動及び衝突を緩衝するから,前記した効果を助長できる。
【0050】
なお,この第3の実施の形態においては,前記第2ガスケット17bのうち凹み変形部21aに該当する部分に,複数個の連通孔23bを,前記凹み変形部21aにおける連通孔23aとずらせて設けるという構成にすることができるほか,前記第2ガスケット17bのうち凹み変形部21aに該当する部分に,図10に二点鎖線で示すように,前記凹み変形部21aとは逆向きの凹み変形部21bを設ける構成にすることができる。
【符号の説明】
【0051】
1 シリンダヘッド
2 クランク軸線
3 気筒
4 排気ポート
5 シリンダヘッドの排気側面
8 排気マニホールド
10 排気マニホールドの接合用フランジ板
14 排気ガス還流通路
15 凹み溝
16 蓋板
17,17a,17b シール用ガスケット
19,19′,19″ 接触防止手段
21,21a,21b 凹み変形部
22,22a 空間部
23,23a 連通孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダヘッドのうち排気ポートが開口する排気側面に,凹み溝をクランク軸の方向に延びるように凹み形成して,この凹み溝の一端を前記排気ポートに,他端を前記シリンダの内部に設けた排気ガス還流通路に各々連通する一方,前記排気側面に,前記凹み溝を塞ぐ蓋板を,その間にシール用ガスケットを挟んで接合して成る排気ガス還流装置において,
前記凹み溝内の部分には,当該凹み溝内を流れる排気ガスが前記蓋板に接触するのを防止するようにした接触防止手段が設けられていることを特徴とする内燃機関における排気ガス還流装置。
【請求項2】
前記請求項1の記載において,前記接触防止手段は,吸音部材に構成されていることを特徴とする内燃機関における排気ガス還流装置。
【請求項3】
前記請求項1の記載において,前記接触防止手段は,前記蓋板と前記排気側面との間におけるガスケットのうち前記凹み溝内の部分に,前記凹み溝内への凹み変形部を設けて成る構成であり,この凹み変形部と前記蓋板との間に空間部が形成されていることを特徴とする内燃機関における排気ガス還流装置。
【請求項4】
前記請求項3の記載において,前記蓋板と前記排気側面との間におけるガスケットは,複数重ねの構成であり,前記凹み変形部は,前記複数重ねのガスケットのうち少なくとも前記排気側面に密接する一つのガスケットに設けられ,前記空間部は,前記一つのガスケットと当該一つのガスケットに隣接する他のガスケットとの間に設けられていることを特徴とする内燃機関における排気ガス還流装置。
【請求項5】
前記請求項3又は4の記載において,前記凹み変形部には,前記凹み溝と前記空間部とを連通する複数個の連通孔が設けられていることを特徴とする内燃機関における排気ガス還流装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−106283(P2011−106283A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−259045(P2009−259045)
【出願日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】