説明

内燃機関のウォータポンプ

【課題】ポンプハウジングの温度変化によらず遮蔽部材の内周側からの水分等の侵入を抑制し得る内燃機関のウォータポンプを提供する。
【解決手段】アルミニウム系金属材によって形成されたポンプハウジング2の外周部に構成された段部11dと、該段部11dを介して縮径状に形成されたポンプハウジング2の小径部11c外周に嵌着される、鉄系金属材により形成された軸受6の内輪16と、の間に遮蔽部材であるスリンガ7を挟持固定してなる内燃機関のウォータポンプ1において、スリンガ7の一方側の被挟持面であるスリンガ本体21の内周部21aの内側面に、例えば合成ゴム等の弾性材からなる端面シール構成部24を設けることとした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車等に適用される内燃機関のウォータポンプのうち、とりわけポンプハウジングの外周部にてプーリを直接的に支持する軸受の防水構造に関する。
【背景技術】
【0002】
ここで、ポンプハウジングの外周部にて軸受を介してプーリを直接的に支持するウォータポンプでは、軸受の一端側(ポンプハウジング側)が外部へ直接臨む構成となっていることから、雨水等が侵入しやすく、当該軸受の耐久性が懸念されていた。
【0003】
そこで、かかる課題の解決に供する従来のウォータポンプにおける軸受防水構造としては、例えば以下の特許文献1に記載されたようなものが提案されており、当該ウォータポンプでは、ポンプハウジング外周部に形成された段部と軸受の内輪との間に挟持固定される薄板状の遮蔽部材が設けられていて、この遮蔽部材によって外部からの雨水等の侵入を抑制するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
特開2011−127539号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、内燃機関を冷却するウォータポンプは、内燃機関内部を通流する冷却水を送水するものであることから、内燃機関の低温始動時と暖機後とでは、ポンプハウジングの温度が大きく異なることとなる。
【0006】
しかしながら、前記従来のウォータポンプでは、軽量化の目的等からポンプハウジングがアルミニウム系金属材料により形成される一方、当該ポンプハウジングに接する軸受の内輪はポンプハウジングとは異なる線膨張係数を有する鉄系金属材料により形成されているため、内燃機関の熱によって膨張・収縮を経たポンプハウジングでは、低温時において遮蔽部材を適切に挟持することができず、当該遮蔽部材の内周側から雨水等が侵入してしまうおそれがあった。
【0007】
本発明は、前記従来の内燃機関のウォータポンプの実情に鑑みて案出されたものであって、ポンプハウジングの温度変化によらず遮蔽部材の内周側からの水分等の侵入を抑制し得る内燃機関のウォータポンプを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、アルミニウム系金属材により形成されたポンプハウジングの外周部に構成された段部と、該段部を介して縮径状に形成されたポンプハウジングの筒状部外周に嵌着される、鉄系金属材により形成された軸受の内輪と、の間に挟持固定される遮蔽部材を備えた内燃機関のウォータポンプであって、とりわけ、遮蔽部材の少なくとも一方側の被挟持面に、弾性材からなる端面シール構成部を設けたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、端面シール構成部が圧縮(弾性)変形するように遮蔽部材を挟持固定させることによって、ポンプハウジングと軸受(内輪)との線膨張係数の相違に基づいて当該遮蔽部材の挟持部の間隔が拡大することになっても、当該挟持部間隔の拡大を、前記端面シール構成部の弾性(復元変形)をもって吸収することができる。これにより、前記線膨張係数の相違に基づく前記挟持部間隔の拡大が発生しても、遮蔽部材の両側部を前記段部と軸受の内輪とに密着させたまま保持することが可能となり、当該遮蔽部材の内周側からの水分等の侵入を抑制することに供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明に係るウォータポンプの分解斜視図である。
【図2】図1に示すウォータポンプの正面図である。
【図3】本発明の第1実施形態を示す図2のA−A線断面図である。
【図4】同実施形態に係る図2の要部拡大図である。
【図5】本発明の第2実施形態に係るスリンガ単体の縦断面図である。
【図6】同実施形態に係るスリンガの他のバリエーションを現したもので、(a)はスリンガ単体の縦断面図、(b)は(a)に示す芯材の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係る内燃機関のウォータポンプの各実施形態を、図面に基づいて説明する。なお、下記の実施形態では、本発明に係る内燃機関のウォータポンプを従来と同様の自動車用エンジンの冷却装置に適用したものであって、このウォータポンプは、エンジンブロックの側面に配置され、エンジンのクランクシャフトの回転駆動力を動力源として、冷却水をエンジンブロック内にて循環させるものである。
【0012】
すなわち、このウォータポンプ1は、図1〜図3に示すように、その軸方向一端側に段差縮径状に形成された筒状部11を有し、その他端側に設けられるフランジ部2a(本発明に係るポンプ室構成部に相当)を介して図示外のエンジンブロックの側面に固定されることで当該エンジンブロックとの間にポンプ室Pを画成するポンプハウジング2と、該ポンプハウジング2(筒状部11)の内周側において軸線方向に沿って挿通配置される駆動軸3と、ポンプハウジング2の一端側から外部へと臨む駆動軸3の一端部外周に固定され、図示外のベルトを介してクランクシャフトの回転駆動力を駆動軸3へ伝達するプーリ4と、該プーリ4の外側端部に固定配置され、このプーリ4の外側面のほぼ全体を覆うカバー部材5と、ポンプハウジング2の一端部とプーリ4との間に介装され、プーリ4を回転自在に支持する軸受6と、この外部に露出する軸受6の内側面と対向するように隣接配置され、当該軸受6の内部への水分等の異物の侵入を抑制するスリンガ7(本発明に係る遮蔽部材に相当)と、ポンプハウジング2の他端側からポンプ室P内へと臨む駆動軸3の他端側外周に固定され、ポンプ室P内において回転自在に収容されるインペラ8と、を備えている。
【0013】
前記ポンプハウジング2は、アルミニウム合金材料による鋳造(アルミダイキャスト)によって一体に形成されており、前記円筒部11は、前記フランジ部2aに隣設された大径部11aと、該大径部11aに接続され、円筒部11の軸方向中間部に形成された中径部11bと、該中径部11bに段部11dを介して段差縮径状に設けられた小径部11cと、を有し、中径部11bの下部には、その下端が栓部材9により封止されることで画成され後述するドレン孔13を介して当該中径部11b内と連通するドレン室12が設けられている。
【0014】
そして、前記中径部11bには、大径部11a側の端部内周面とこれに対向する駆動軸3の外周面との間に、周知のメカニカルシール10が介装され、該メカニカルシール10によって、ポンプ室P側からの冷却水の侵入が抑制されている。しかしながら、このメカニカルシール10のみではポンプ室P側からの冷却水の侵入を完全には抑止できないことから、中径部11bの周壁の鉛直最下方となる位置には、当該中径部11bの内部空間とドレン室12とを連通するドレン孔13が図3中のY軸方向に沿って貫通形成されていて、該ドレン孔13によって、前記メカニカルシール10では抑止できずに中径部11b内へと流入してしまった冷却水をドレン室12へと排出し、当該冷却水を小径部11c側へ流出させないようになっている。さらに、この中径部11bの周壁には、前記ドレン孔13と対向する位置に、当該中径部11b(ポンプハウジング2)の内外を連通する連通孔14が、鉛直方向上側に向かって開口するように図3中のY軸方向に沿って貫通形成されていて、該連通孔14によって、ドレン室12内で蒸発した冷却水が外部へと効率よく排出されるようになっている。
【0015】
前記駆動軸3は、鋼材によって形成されるもので、その一端部がポンプハウジング2の一端から外部へと臨むと共に、その他端部がポンプハウジング2の他端から外部へと臨むように構成されている。また、この駆動軸3には、メカニカルシール10の嵌着位置よりも一端側であって前記ドレン孔13や連通孔14に対応する軸方向位置に、所定の軸方向幅を有する環状の切欠溝3aが周方向に沿って設けられている。このような切欠溝3aを設けることによって、前記メカニカルシール10を超えて中径部11b内へと流入した冷却水のうち駆動軸3の外周面を伝い流れるものについては、当該切欠溝3aによってその流れを堰き止めることが可能となっている。すなわち、ポンプ室P側から駆動軸3の外周面を伝い流れてきた冷却水が切欠溝3aに流れ込むと、この冷却水は当該切欠溝3aにおけるプーリ4側の段部によって堰き止められ、当該切欠溝3aよりプーリ4側への流動が抑制される。
【0016】
前記プーリ4は、鋼板をプレス加工することによりほぼ円筒状に一体に成型されており、ポンプハウジング2の小径部11cを囲繞するように有底円筒状に構成された第1円筒部である筒状基部4aと、該筒状基部4aの外周側に延設され、その外周に前記ベルトが巻回されることで前記クランクシャフトとの連係に供する第2円筒部であるベルト巻回部4bと、前記筒状基部4aの中心部にポンプハウジング2側から外方へと軸線方向に沿って窪み形成され、駆動軸3との固定に供する軸固定部4cとを有し、前記軸固定部4cが駆動軸3の一端部外周に圧入されることによって、当該駆動軸3に固定されている。ここで、前記筒状基部4aは、軸受6の外周に嵌挿され当該軸受6による回転支持に供する軸受支持部4dと、該軸受支持部4dの外端縁から径方向内側に向かって延設されることによって軸受6の外側面と対向配置され、この軸受支持部4dと軸固定部4cとを連結する端壁部4eと、から構成され、前記軸受支持部4dの内周に軸受6(外輪17)を圧入した後に、当該軸受6(内輪16)がポンプハウジング2の小径部11cの外周に圧入されることにより、ポンプハウジング2に組み付けられることとなる。
【0017】
また、前記プーリ4の端壁部4eには、前述のようなポンプ室P側からメカニカルシール10を超えて小径部11c内へと流入した冷却水の排出に供する複数の排出孔15が、周方向ほぼ等間隔に図3中のX軸方向に沿って貫通形成されている。この各排出孔15は、少なくとも一部が軸受6に設けられる第1軸受シール19と内輪16との接触部よりも外周側において開口するように構成されることにより、前記小径部11c内に流入した冷却水が、水蒸気として、第1軸受シール19に及ぶ前に当該各排出孔15を通じて外部へと排出されるようになっている。さらには、当該各排出孔15は、軸受6の内輪16と対向する径方向位置に設けられることにより、当該各排出孔15を介して図示外の治工具を挿入することができ、小径部11cに対する内輪16の圧入作業にも供されている。
【0018】
前記カバー部材5は、アルミニウムやステンレスなど耐食性を有する所定の金属材によってほぼ筒状にプレス成型されてなるもので、プーリ4の筒状基部4aを外側から覆う被覆部5aと、該被覆部5aの中心部に軸線方向へ沿って円筒状に突設され、プーリ4との固定に供する固定部5bと、から構成され、前記固定部5bがプーリ4の軸固定部4c外周に圧入されることによって当該プーリ4に固定されている。そして、このカバー部材5は、前述のようにその内周縁がプーリ4の軸固定部4cに当接する一方、外周縁がプーリ4のベルト巻回部4bの内周面に近接する位置まで延出し、当該プーリ4の外側面のほぼ全体を覆うように構成されることで、前記各排出孔15を通じて外部から雨水等の異物が軸受6へと直接及んでしまう不都合を回避することが可能となっている。
【0019】
前記軸受6は、いわゆるシール付きの単列ボールベアリングであって、小径部11cの外周面と軸受支持部4dの内周面との間に介装されていて、小径部11cの外周面に圧入固定される内輪16と、軸受支持部4dの内周面に圧入固定される外輪17と、内外輪16,17間に相互に対向して設けられる一対の保持溝にて保持される複数の転動体であるボール18と、外輪17の両端部内周縁にそれぞれカシメ固定され、内外輪16,17の径方向間に画成される筒状空間部と外部との連通を遮断する環状の第1、第2軸受シール21,22と、から構成され、その内部には潤滑油である図示外のグリースが充填されることによって潤滑や防錆等が図られている。そして、かかる軸受6では、その軸方向一端部に配設された第1軸受シール19によって中径部11bから小径部11c内に流入した水分の当該軸受6内部への侵入が抑制されている一方、その他端側では、第2軸受シール20とこれに隣接配置されたスリンガ7とによって外部等からの当該軸受6内部への前記水分等の異物の侵入が抑制されている。
【0020】
ここで、前記第1、第2軸受シール19,20は、共に同一の構造をもって構成されているため、詳細な構成については、便宜上、第2軸受シール20についてのみ説明すると、この第2軸受シール20は、特に図4に示すように、その外周端部(基端部)においてゴム材料の内部に埋設された芯金20aと、その内周端部(先端部)に弾性変形可能に設けられたシールリップ20bと、から主として構成され、シールリップ20bが内輪16の他端部(スリンガ7との対向端部)の内周側端縁に弾接(摺接)することによって構成される第1シール部S1をもって、軸受6内部への異物の侵入が抑制されている。
【0021】
前記スリンガ7は、所定の金属材料をもって円環状に、かつ、弾性変形可能な薄板状に形成されたスリンガ本体21と、該スリンガ本体21の内側部及び内外周部を被覆するかたちでスリンガ本体21と一体成形され、ポンプハウジング2や軸受6と密着することで当該両部材2,6との間を液密にシールするシール構成部22と、から構成され、その内周部は後述する内周面シール構成部25を介して小径部11cの外周面に所定の締め代をもって嵌着固定されている一方、その外周部は後述する外周面シール構成部25が軸受支持部4dの内周面に近接する位置まで延設されることによってその両者4d,7間に形成される径方向隙間C1が極力小さくなるように設定されている。このように、当該スリンガ7を、外部から直接流入する雨水等や、前記連通孔14を介して排出された冷却水の侵入経路となる軸受6の露出開口部を閉塞するように配置することにより、前記雨水等の水分が軸受6に直接及んでしまう不具合が抑制されるようになっている。
【0022】
前記スリンガ本体21は、薄板状の金属板を段差状に曲折してなるもので、ポンプハウジング2の段部11dと軸受6の内輪16との間に挟持固定されるほぼ平坦状の内周部21aと、該内周部21aの外周側にて横断面がクランク状となるような段差状に曲折されてなる曲折部21bと、該曲折部21bの外周側にほぼ平坦状に構成され、この曲折部21bによって軸受6の内側面から離間するようなオフセット状に設けられた外周部21cと、で構成されている。そして、前記内周部21aについては、その内側面が後述する端面シール構成部24を介し段部11dに圧接すると共に、その外側面が内輪16に直に圧接することで、前記両者11d,16間に挟持される。
【0023】
前記シール構成部22は、例えば合成ゴム等の弾性材からなるもので、スリンガ本体21の内側面全体を覆うように設けられ、該スリンガ本体21(スリンガ7)の内側面と段部11dの端面との間を液密にシールする第2シール部S2を構成する端面シール構成部24と、スリンガ本体21の内周面に沿って設けられ、該スリンガ本体21(スリンガ7)の内周面と小径部11cの外周面との間を液密にシールする第3シール部S3を構成する内周面シール構成部25と、スリンガ本体21の外周面に沿って当該スリンガ本体21の外周部近傍を覆うように設けられ、特にその外側部に延設されたシールリップ23を介してスリンガ本体21(スリンガ7)の外側面と外輪17の内端面との間を液密にシールする第4シール部S4を構成する外周面シール構成部25と、から構成され、これら各シール構成部24〜26が連続するように一体に成形されている。
【0024】
より詳しくは、前記端面シール構成部24は、内輪16からの押圧力により段部11dとスリンガ本体21との間において十分に圧縮変形(弾性変形)した状態で介在するようになっている。換言すれば、この端面シール構成部24は、内輪16とポンプハウジング2(段部11d)との線膨張係数差に基づく収縮量の差分よりも大きく弾性変形するように設計(例えば材質や厚さ幅等)されていて、ポンプハウジング2が熱膨張・収縮を経ても段部11dとの間に軸方向隙間を生じさせない構成となっている。
【0025】
さらに、前記端面シール構成部24には、前記曲折部21bの径方向位置の近傍となる中径部11bの外周面に近接する部位に、中径部11bの外周面に沿って延びる環状突起27が設けられている。すなわち、この環状突起27により、スリンガ7と中径部11bの外周面との間に形成される径方向隙間C2内への雨水等の侵入を抑制することが可能となり、これによって、第2、第3シール部S2,S3へと作用する雨水等が制限され、当該第2、第3シール部S2,S3による防水性の向上に供される。また、この環状突起27は、その外周面が、先端側へと向かって漸次縮径するような円錐テーパ状に形成されていて、かかるテーパ部27aをもって、外部からスリンガ7の内側面へと作用した雨水等が連通孔14側へ導かれるようになっている。これにより、前記径方向隙間C2内への雨水等の侵入の効果的な抑制が図れることとなる。
【0026】
また、前記内周面シール構成部25についても同様、十分な締め代をもって小径部11cとの間に介在して、ポンプハウジング2が熱膨張・収縮を経ても小径部11cの外周面に密着した状態が維持されてスリンガ7の径方向移動を生じさせない構成となっている。さらに、前記外周面シール構成部25については、前記径方向隙間C1が極小となるように、かつ、前記シールリップ23の先端部が外輪17の内端面に常に弾接(摺接)する構成となっている。
【0027】
このような構成とすることにより、ポンプ駆動時においても、前記各シール構成部24〜26により構成される第2〜第4シール部S2〜S4による防水等作用を常時安定して発揮させることが可能となっている。そして、この第2〜第4シール部S2〜S4と第1シール部S1とで構成される2重ないし3重のシール構造(第1シール部S1と第4シール部S4とによって外周側は2重構造、第1〜第3シール部S1〜S3によって内周側は3重構造)をもって、軸受6内部への雨水等の侵入が極力抑制されている。
【0028】
前記インペラ8は、図1〜図3に示すように、鋼板をプレス加工することによって一体に成形されており、ほぼ円板状に形成された基部8aと、該基部8aの周方向の所定箇所において外周側がそれぞれ切り起こされて軸方向へと曲折された複数の羽根部8bと、前記基部8aの中心部にポンプハウジング2側から前記エンジンブロック側へと軸線方向に沿って窪み形成された筒状の軸部8cと、を有し、前記軸部8cが駆動軸3の他端部外周に圧入されることで、当該駆動軸3に固定されている。
【0029】
以上のような構成から、本実施形態に係る前記内燃機関のウォータポンプ1によれば、前記端面シール構成部24が十分に圧縮変形するかたちでスリンガ7を挟持固定させたことによって、ポンプハウジング2と軸受6(内輪16)との線膨張係数の相違に基づいて当該スリンガ7の挟持部である段部11dと内輪16との軸方向間隔C3が拡大することになっても、当該軸方向間隔C3の拡大を、前記端面シール構成部24の弾性(復元変形)をもって吸収することができる。これにより、前記線膨張係数差に基づく挟持部の軸方向間隔C3の拡大が生じても、スリンガ7の各側部を段部11dの端面及び内輪16の内端面へとそれぞれ密着させたまま保持することが可能となり、当該スリンガ7の内周側からの水分侵入の抑制に供される。
【0030】
しかも、本実施形態では、前記端面シール構成部24に加えて、これに隣接する内周面シール構成部25を設けたことから、万が一前記雨水等が第2シール部S2を通過してしまったとしても、当該内周面シール構成部25によって構成される第3シール部S3により前記第2シール部S2を通過した雨水等の侵入を抑制することができる。
【0031】
さらには、かかる2重のシール作用に加え、前記内周面シール構成部25の弾性によってスリンガ7が小径部11cの外周面に密着することになるため、該スリンガ7の移動(特に径方向移動)を抑制することもできる。これにより、前記径方向隙間C1が所定の極小隙間に維持されることとなって、当該径方向隙間C1を含めたスリンガ7によるラビリンス効果の向上が図れる。
【0032】
そのうえ、前記内周面シール構成部25は、スリンガ7におけるポンプハウジング2側の端部において端面シール構成部24と連続して一体に設けられていることから、スリンガ7の成形性が良好となって製造コストの低減化に供されるほか、段部11dの端面から小径部11cの外周面にかけてシール構成部22によるシール面積を稼ぐことが可能となって、当該シール構成部22よるシール効果をより高めることができる。
【0033】
また、本実施形態の場合、前記スリンガ7のシールリップ23によって前記径方向隙間C1から侵入した雨水等の水分の軸受6側への流動を抑制することが可能になると共に、ポンプ駆動に伴い回転する外輪17にシールリップ23が摺接することによって発生する摩擦熱で第4シール部S4近傍の水分を蒸発させ除去することが可能となる。この結果、前記水分が軸受6内部に侵入することにより生じ得る当該軸受6の破損等の不具合を極力抑制することができる。
【0034】
しかも、このシールリップ23は、スリンガ7におけるポンプハウジング2側の端部において前記端面シール構成部24と連続して一体に設けられていることから、前記内周面シール構成部25の場合と同様、スリンガ7の成形性向上による当該スリンガ7の製造コストの低減化にも供される。
【0035】
また、前記ウォータポンプ1では、前記小径部11cと段部11dとの間に形成される角部について、小径部11cの外周面と段部11dの端面とが連続した断面円弧状となる曲面により繋がれる構成となっていることから、小径部11cの外周面から段部11dの端面にかけて前記シール構成部22(内周面シール構成部25及び端面シール構成部24)が当該円弧状角部へと密着することとなって、当該シール構成部22によるシール効果のさらなる向上を図ることができる。
【0036】
さらに、本実施形態では、前記スリンガ7の外側面において、シールリップ23よりも内周側には端面シール構成部24が設けられていない構成となっているため、金属材からなる内輪16に対し同様に金属材からなるスリンガ本体21を密着させることが可能となる。この結果、当該シールリップ23内周側部分にも端面シール構成部24を設ける場合に比べて、スリンガ7の取付剛性を高めることができる。この結果、スリンガ7の内側面に係る端面シール構成部24の十分な圧縮(弾性)変形及びこれに基づく当該端面シール構成部24による前記軸方向間隔C3の拡大の良好な吸収に供される。
【0037】
図5は本発明に係る内燃機関のウォータポンプの第2実施形態を現したものであり、前記第1実施形態の構成を基本として、前記シールリップ23の内周側部分にも前記端面シール構成部24と同様の端面シール構成部28を設けることとし、前記スリンガ本体21の外面全体を前記シール構成部22によって被覆するように構成したものである。
【0038】
したがって、本実施形態の場合には、金属製のスリンガ本体21が露出することがないため、当該スリンガ本体21における錆の発生を防止することが可能となり、これによって、スリンガ7耐久性(耐食性)の向上に寄与することができる。
【0039】
図6は前記第2実施形態に係る内燃機関のウォータポンプの変形例を現したものであり、前記スリンガ本体21に対する前記シール構成部22の結合態様を変更したものである。
【0040】
すなわち、本変形例では、スリンガ本体21の外周縁部に複数の取付孔21dが貫通形成されていて、該各取付孔21dを介して前記両端面シール構成部24,28が連結される構成となっている。
【0041】
これにより、本変形例の場合には、スリンガ本体21に対してシール構成部22をより強固に固定することが可能となり、当該シール構成部22の劣化による剥離等の不具合の抑制に供される。
【0042】
本発明は前記各実施形態の構成に限定されるものではなく、例えばスリンガ7におけるスリンガ本体21の形状や、シール構成部22の取付手段及び範囲、並びにシールリップ23の形状等は、ポンプやこれを搭載する車両の仕様等に応じて自由に変更することができる。
【0043】
また、前記シール構成部22については、本発明の趣旨からして、前記スリンガ本体と段部11dとの間に介在していればよく、前記各実施形態のようにスリンガ本体21に接着する態様に限定されるものではない。すなわち、例えばスリンガ本体21の外面を所定の弾性材によってコーティングする態様や、スリンガ本体21とは結合させず単に当該スリンガ本体21と段部11dの間に前記シール構成部22に相当する弾性体を介装する態様等、あらゆる態様を採用することが可能であり、いずれの場合でも前記各実施形態と同様のシール効果を得ることができる。
【0044】
また、前記各実施形態のシールリップ23内周側に形成される空間部SP内には所定量のグリースを充填してもよく、この場合は、当該グリースによって前記雨水等の第4シール部S4の通過抑制を補助できると共に、当該グリースによってシールリップ23の摩擦耐久性(耐摩耗性)の向上にも供される。
【0045】
以下、前記実施形態から把握される特許請求の範囲に記載した以外の技術的思想について説明する。
【0046】
(a)請求項1に記載の内燃機関のウォータポンプにおいて、
前記遮蔽部材の内周側に、前記筒状部の外周面と弾接するように構成された弾性材からなる内周面シール構成部が設けられていることを特徴とする内燃機関のウォータポンプ。
【0047】
かかる構成とすることで、遮蔽部材を、内周面シール構成部を介して筒状部の外周面に密着させることができるため、ポンプハウジングと軸受(内輪)の線膨張係数の相違から筒状部の外径が縮小することになっても、当該遮蔽部材の内周側からの雨水等の侵入をより確実に抑制することができる。
【0048】
また、内周面シール構成部の弾性によって遮蔽部材の移動(特に径方向移動)を規制することも可能となるため、当該遮蔽部材の取付位置が適切に維持され、その結果、遮蔽部材による雨水等の遮蔽効果を十分に発揮させることができる。
【0049】
(b)前記(a)に記載の内燃機関のウォータポンプにおいて、
前記段部の角部は、2つの面を連続した曲面で繋ぐことによって断面円弧状となるように構成されていることを特徴とする内燃機関のウォータポンプ。
【0050】
かかる構成とすることで、内周面シール構成部が当該円弧状角部に密着することとなり、これによって、当該内周面シール構成部によるシール効果の向上に供される。
【0051】
(c)前記(a)に記載の内燃機関のウォータポンプにおいて、
前記端面シール構成部と前記内周面シール構成部とは、一体に連続して設けられていることを特徴とする内燃機関のウォータポンプ。
【0052】
このように、両シール構成部を連続一体に成形することによって遮蔽部材の良好な成形性が得られ、生産性の向上を図ることができる。
【0053】
(d)前記(c)に記載の内燃機関のウォータポンプにおいて、
前記端面シール構成部と前記内周面シール構成部とは、前記ポンプハウジング側の端部において一体に連続して設けられていることを特徴とする内燃機関のウォータポンプ。
【0054】
かかる構成とすることで、シール面積を稼ぐことが可能となって、当該遮蔽部材による雨水等の遮蔽効果をより高めることができる。
【0055】
(e)前記(c)に記載の内燃機関のウォータポンプにおいて、
前記遮蔽部材における前記外輪との対向面にシールリップを備えると共に、
前記シールリップと前記端面シール構成部とは、一体に連続して設けられていることを特徴とする内燃機関のウォータポンプ。
【0056】
かかる構成とすることで、遮蔽部材の良好な成形性を得ることが可能となり、生産性の向上に供される。
【0057】
(f)前記(e)に記載の内燃機関のウォータポンプにおいて、
前記端面シール構成部と前記シールリップとは、前記ポンプハウジング側の端部において一体に連続して設けられていることを特徴とする内燃機関のウォータポンプ。
【0058】
(g)前記(f)に記載の内燃機関のウォータポンプにおいて、
前記遮蔽部材における前記シールリップ側の端面であって前記シールリップより内周側には、前記端面シール構成部が設けられていないことを特徴とする内燃機関のウォータポンプ。
【0059】
かかる構成とすることで、遮蔽部材の一端を金属製の内輪によって直接支持させることができるため、当該遮蔽部材の取付剛性を高めることが可能になり、これによって、端面シール構成部の十分な圧縮(弾性)変形及びこれに基づく当該端面シール構成部による前記挟持部間隔の拡大の良好な吸収に供される。
【0060】
(h)前記(f)に記載の内燃機関のウォータポンプにおいて、
前記遮蔽部材は、前記被挟持部よりも外周側に、当該外周側部分を前記軸受に対し軸方向へと離間させる段部を有し、
前記段部の反軸受側には、前記筒状部の軸方向に沿って突出する突起が設けられていることを特徴とする内燃機関のウォータポンプ。
【0061】
かかる構成とすることで、当該突起によって、遮蔽部材に作用した雨水等の侵入抑制効果をさらに向上させることができる。
【0062】
(i)請求項1に記載の内燃機関のウォータポンプにおいて、前記弾性材はゴム材料であることを特徴とする内燃機関のウォータポンプ。
【0063】
(j)請求項1に記載の内燃機関のウォータポンプにおいて、
前記内輪側に固定され、かつ、前記外輪と摺動する環状のシール部を有する軸受シールが設けられていることを特徴とする内燃機関のウォータポンプ。
【0064】
かかる構成とすることで、雨水等の軸受内部への侵入をより適切に抑制することができ、当該軸受についての最も直接的な防水に供される。
【0065】
(k)前記(j)に記載の内燃機関のウォータポンプにおいて、
前記遮蔽部材における前記外輪との対向面にシールリップを備えると共に、
前記シールリップと前記軸受シールとの間に形成される空間部に潤滑油が封入されていることを特徴とする内燃機関のウォータポンプ。
【0066】
かかる構成とすることで、とりわけ、シールリップの耐久性の向上が図れる。
【0067】
(l)前記(k)に記載の内燃機関のウォータポンプにおいて、
前記内輪と前記外輪との間に潤滑油が封入されていることを特徴とする内燃機関のウォータポンプ。
【0068】
かかる構成とすることで、軸受内の潤滑及び防錆に供される。
【0069】
(m)請求項1に記載の内燃機関のウォータポンプにおいて、
前記筒状部における前記段部より前記ポンプ室構成部側の内周面と前記駆動軸の外周面との間に、前記ポンプ室からの冷却水の漏出を抑制するメカニカルシールを備えると共に、
前記筒状部における前記メカニカルシールより前記段部側に、その内外周を連通する貫通孔が設けられていることを特徴とする内燃機関のウォータポンプ。
【0070】
かかる構成とすることで、メカニカルシールによりポンプ室からの冷却水の漏出を抑制できることは勿論、メカニカルシールでは抑制しきれなかった冷却水についても貫通孔を介して外部へと排出させることが可能となり、当該漏出に係る冷却水がポンプハウジング内部を通じて軸受へと作用してしまう不都合を回避することができる。
【0071】
(n)前記(m)に記載の内燃機関のウォータポンプにおいて、
前記貫通孔は鉛直方向上側へと向かって開口形成されていることを特徴する内燃機関のウォータポンプ。
【0072】
かかる構成とすることで、メカニカルシールを超えてポンプハウジング内に侵入した冷却水(水蒸気)を、外部へ効率よく排出させることができる。
【0073】
(o)請求項1に記載の内燃機関のウォータポンプにおいて、
前記内輪及び外輪はそれぞれ圧入によって固定されていることを特徴とする内燃機関のウォータポンプ。
【符号の説明】
【0074】
1…ウォータポンプ
2…ポンプハウジング
3…駆動軸
4…プーリ
6…軸受
7…スリンガ(遮蔽部材)
8…インペラ
16…内輪
17…外輪
18…ボール(転動体)
24…端面シール構成部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源から動力が伝達されることにより回転するプーリと、該プーリと一体に回転する駆動軸と、該駆動軸と一体に回転するように前記駆動軸に設けられたインペラとによって構成される駆動部材と、
前記インペラが配置されるポンプ室の少なくとも一部を構成するポンプ室構成部と、前記駆動軸の外周側を包囲するように構成された筒状部とがアルミニウム系金属材をもって一体に形成され、前記筒状部の外周側に段部が設けられたポンプハウジングと、
前記プーリに固定される外輪と、前記筒状部の外周に固定される鉄系金属材からなる内輪と、該内輪と前記外輪との間に介在する転動体とによって構成される軸受と、
その内周側が前記内輪と前記段部との間に挟持固定され、かつ、その外周側が前記外輪側まで延出するような板状に形成され、少なくとも一方側の被挟持面に弾性材により形成された端面シール構成部を有する遮蔽部材と、を備えたことを特徴とする内燃機関のウォータポンプ。
【請求項2】
駆動源から動力が伝達されることにより回転するプーリと、該プーリと一体に回転する駆動軸と、該駆動軸と一体に回転するように前記駆動軸に設けられたインペラとによって構成される駆動部材と、
前記インペラが配置されるポンプ室の少なくとも一部を構成するポンプ室構成部と、前記駆動軸の外周側を包囲するように構成された筒状部とが一体に形成され、前記筒状部の外周側に段部が設けられたポンプハウジングと、
前記プーリに固定される外輪と、前記筒状部の外周に固定されて前記ポンプハウジングよりも線膨張係数の小さい材料からなる内輪と、該内輪と前記外輪との間に介在する転動体とによって構成される軸受と、
その内周側が前記内輪と前記段部との間に挟持固定されると共に、その外周側が前記外輪側まで延出するような板状に構成され、少なくとも一方側の被挟持面が弾性材によってコーティングされている遮蔽部材と、を備えたことを特徴とする内燃機関のウォータポンプ。
【請求項3】
駆動源から動力が伝達されることにより回転するプーリと、該プーリと一体に回転する駆動軸と、該駆動軸と一体に回転するように前記駆動軸に設けられたインペラとによって構成される駆動部材と、
前記インペラが配置されるポンプ室の少なくとも一部を構成するポンプ室構成部と、前記駆動軸の外周側を包囲するように構成された筒状部とがアルミニウム系金属材をもって一体に形成され、前記筒状部の外周側に段部が設けられたポンプハウジングと、
前記プーリに固定される外輪と、前記筒状部の外周に固定される鉄系金属材からなる内輪と、該内輪と前記外輪との間に介在する転動体とによって構成される軸受と、
その内周側が前記内輪と前記段部との間に挟持固定されると共に、その外周側が前記外輪側まで延出するような板状に構成された遮蔽部材と、を備え、
前記ポンプハウジングの少なくとも一方側の被挟持面と前記挟持部材との間には弾性体が介在していることを特徴とする内燃機関のウォータポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−87855(P2013−87855A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−228445(P2011−228445)
【出願日】平成23年10月18日(2011.10.18)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】