説明

内燃機関の冷却用電動ポンプ及びこれを用いた冷却装置

【課題】内燃機関の冷機始動時における暖気性能を充分に向上し得る内燃機関の冷却用電動ポンプ等を提供する。
【解決手段】回転方向に応じて双方向に吸入、吐出が可能な電動ポンプ11によって、内燃機関であるエンジン1が冷機状態にあるときには、該エンジン1内の冷却水を強制的に排出させる一方、エンジン1が暖機状態となったときには、該エンジン1内に冷却水を再度供給させると共にエンジン1内に冷却水を循環させるようにした。これによって、特にエンジン1が冷機状態にあるときには、このエンジン1内に滞留する冷却水を効率よく排出させることが可能となり、該エンジン1の暖気性能を確実かつ充分に向上させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば水冷方式の内燃機関に適用されるウォーターポンプのうち、とりわけ、電動モータによって駆動される内燃機関の冷却用電動ポンプ及びこれを用いた冷却装置に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、例えば水冷方式の内燃機関には、かかる内燃機関を冷却するための冷却水が貯留されたリザーバタンクから該冷却水を内燃機関に圧送するいわゆるウォーターポンプが設けられており、該ウォーターポンプには、主として内燃機関の駆動力によって駆動されるものが採用されている。
【0003】
近時、内燃機関の冷機始動時において内部の摺動部品のフリクションの増大によって燃費が悪化してしまうなどの技術的課題に基づき、該内燃機関の冷機運転時間を極力短縮させるべく、前記ウォーターポンプを用いた種々の冷却装置が提供されており、その一つとして、以下の特許文献1に記載されたものが知られている。
【0004】
概略を説明すれば、この冷却装置は、冷却水を貯留するリザーバタンクと、該リザーバタンクから内燃機関側に延びるメイン通路と、該メイン通路の途中に設けられ、前記リザーバタンク内の冷却水を内燃機関側へ圧送するウォーターポンプと、該ウォーターポンプ以降、前記メイン通路から分岐してウォーターポンプと内燃機関の高温部及び低温部にそれぞれ連通する第1、第2冷却水通路と、前記高温部及び低温部と前記メイン通路とをそれぞれ連通する第1、第2リターン通路と、一方側が前記低温部に第3冷却水通路を介して連通する一方、他方側が第4冷却水通路を介して前記両リターン通路と共に前記メイン通路に連通し、前記低温部内の冷却水を一時的に貯留するコレクタータンクと、前記第2〜第4冷却水通路にそれぞれ配設され、該各冷却水通路内を通流する冷却水の流れを制御する第1〜第3バルブと、を備えている。
【0005】
そして、内燃機関が冷機状態にあるときは、前記第1バルブを閉弁して前記低温部への冷却水の供給を遮断すると同時に、前記第2バルブを開弁し、かつ、前記第3バルブを閉弁して前記低温部内の冷却水を前記コレクタータンクに排出させて一時的に貯留することにより、前記高温部のみに冷却水を循環させるようにして、内燃機関の暖気性能の向上を図っている。
【特許文献1】特開平6−101476号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の内燃機関の冷却装置にあっては、単に前記第1バルブを閉弁させつつ前記第2バルブを開弁させて前記低温部内の冷却水をその自重によって自然排出させるようになっていることから、該冷却水を効率よく排出させることができず、前記低温部内に冷却水が残留してしまうおそれがあり、これによって、内燃機関の暖気性能が充分に向上し得ないという技術的課題を招来していた。
【0007】
本発明は、このような技術的課題に着目して案出されたものであって、内燃機関内の冷却水の排出を強制的に行うことによって該機関の暖気性能を充分に向上し得る内燃機関の冷却用電動ポンプ及びこれを用いた冷却装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、電動モータによって駆動される正逆回転可能な内燃機関の冷却用電動ポンプ及びこれを用いた冷却装置であって、内燃機関の作動状態に応じて、正回転させることによって冷却水を内燃機関へ供給し、逆回転させることによって内燃機関内の冷却水を排出させることを特徴としている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明に係る内燃機関の冷却用電動ポンプ及びこれを用いた冷却装置の各実施の形態を図面に基づいて詳述する。なお、本実施の形態では、かかる内燃機関の冷却用電動ポンプ等を、従来と同様に車両の水冷方式の内燃機関に適用したものを示している。
【0010】
概略を説明すれば、この内燃機関であるエンジン1は、図1に示すように、複数のシリンダを有する低温部であるシリンダブロック1aと、このシリンダブロック1aの上部に載置固定され、該シリンダブロック1aよりも高温となり易い高温部であるシリンダヘッド1bと、を備えている。そして、車両には、エンジン1が過熱するのを抑制するため、循環される冷却液によってエンジン1を冷却させる冷却装置10が設けられている。
【0011】
この冷却装置10は、前記冷却水を加圧して循環させる電動ポンプ11と、循環する冷却水の温度変化に伴う容積変化を吸収すべく、該冷却水を一時的に貯留するリザーバタンク3と、前記シリンダブロック1a及びシリンダヘッド1bの内部にそれぞれ形成され、前記冷却水を通流させる水路となる第1ウォータージャケット2a及び第2ウォータージャケット2bと、該各ウォータージャケット2a,2b内を通流して加熱された冷却水を冷却するラジエータ4と、から主として構成されている。
【0012】
前記第1ウォータージャケット2aは、図1中に破線で示すように、前記各シリンダを囲繞するように構成され、上流端部側からそれぞれ分岐して各シリンダを隔成する隔壁に沿って前記シリンダヘッド1b側に向かって形成されている。そして、該第1ウォータージャケット2aは、上流側が第1ウォータージャケット2aの入口に接続された冷却水通路5を介して前記リザーバタンク3に連通している一方、下流側が第1ウォータージャケット2aの出口に開口形成された前記第2ウォータージャケット2bに連通している。
【0013】
一方、前記第2ウォータージャケット2bは、図1中に破線で示すように、前記シリンダブロック1a内で複数に分岐した冷却水の流路が下流端において合流するように構成され、該第2ウォータージャケット2bの出口に接続されたリターン通路6を介して前記リザーバタンク3に連通するようになっている。
【0014】
このようにして、前記冷却装置10では、前記各ウォータージャケット2a,2b、前記冷却水通路5及びリターン通路6によって冷却水の流路が閉回路状に構成され、これによって冷却水が密封された状態で加圧されながら循環するようになっている。
【0015】
前記リザーバタンク3は、断面がほぼ矩形状となる容器であって、前記冷却装置10内を循環する冷却水の全て貯留可能な容積を有し、一側壁の下端位置近傍には前記冷却水通路5の上流端が接続されていると共に、上壁部には前記リターン通路6の下流端が接続されている。このように、該リザーバタンク3は、循環する冷却水が常時通過するように配置されており、該冷却水の流路内において余剰となる冷却水を一時的に貯留すると共に、循環する冷却水に含有された空気を分離して除去する役割を果たしている。
【0016】
前記ラジエータ4は、前記冷却水通路5の途中に設けられ、自然通風や伝導ファンによって送風された空気との熱交換によって内部を通過する流体を冷却するようになっている。すなわち、前記冷却水は前記各ウォータージャケット2a,2b内を通流した後に前記リターン通路5を介してリザーバタンク4へと戻されるが、この冷却水はエンジン1の熱を吸収して昇温されることから、かかる昇温された冷却水をラジエータ6によって冷却し、該冷却された冷却水をエンジン1へ再度供給するようになっている。
【0017】
前記電動ポンプ11は、正逆回転可能なクローティースモータによって駆動され、一方向に回転した場合には一方側から他方側へ流体を圧送し、他方向に回転した場合には他方側から一方側へ流体を圧送するような特性を有するいわゆる軸流ポンプであって、前記冷却水通路5の下流端と第1ウォータージャケット2aの入口(上流端)との接続部に配設されている。
【0018】
そして、本実施の形態では、かかる電動ポンプ11は、正回転時には、前記リザーバタンク3側からエンジン1側へと冷却水を圧送し、逆回転時には、正回転時とは反対にエンジン1側からリザーバタンク3側へと冷却水を圧送するようになっている。なお、この電動ポンプ11の具体的な構成については後に詳述する。
【0019】
また、前記エンジン1内部には、前記各ウォータージャケット2a,2b内を通流する冷却水の各温度をそれぞれ検知する図外の水温センサ、並びに前記シリンダブロック1a及びシリンダヘッド1bの各壁面温度を検知する図外の温度センサがそれぞれ配設されており、該各センサによって冷却水の温度及びエンジン1の壁面温度が常時監視されている。そして、この温度情報については、車載された図外の電子コントローラへ随時伝達されるようになっていて、この電子コントローラからの電気信号に基づいて前記電動ポンプ11が所定の回転方向へと回転駆動されるようになっている。
【0020】
また、前記リザーバタンク3には、前記冷却水通路5と並行して設けられて、前記ラジエータ6を通さずに該リザーバタンク4と第1ウォータージャケット2aとを連通させるバイパス通路7が接続されている。このバイパス通路7は、上流端がリザーバタンク3に直接接続されている一方、下流端が冷却水通路5においてラジエータ5と電動ポンプ11との間に設けられた感温制御弁であるいわゆるサーモスタット8に接続され、このサーモスタット8を介して冷却水通路5に連通するようになっている。
【0021】
前記サーモスタット8は、通流する冷却水の温度に応じて、前記冷却水通路5又はバイパス通路7のうち所定の通路を遮断し、これによって循環する冷却水の流路を選択的に切り換えるようになっている。また、前記サーモスタット8と前記電動ポンプ11との間となる前記冷却水通路5の下流側端部には、該通路内を通流する冷却水の流量を制御する流量制御弁9が設けられている。
【0022】
以下に、前記電動ポンプ11の具体的な構成について、図2に基づいて説明する。
【0023】
この電動ポンプ11は、シリンダブロック1aの前端部に取り付けられたほぼ円筒状のポンプハウジング12と、該ポンプハウジング12の内部に一体に設けられて、このポンプハウジング12の内部を外側のポンプ室12aと内側のモータ室12bとに隔成するほぼ円筒状の隔壁部13と、前記ポンプハウジング12の内部ほぼ中央位置に軸方向に沿って設けられた駆動軸14と、前記ポンプ室12a内に軸方向の前端部15aが前記駆動軸14を介して回転自在に収容支持された筒状のポンプロータ15と、該ポンプロータ15の内周側に固定された円筒状の永久磁石16と、前記モータ室12b内に収容固定され、前記永久磁石16に径方向から対向するように前記隔壁部13を挟んで配置されたステータ17と、前記ポンプロータ15の内外周面とポンプハウジング12の内周面及び隔壁部13の外周面との間に形成され、冷却水を通流させる水路18と、から主として構成されている。
【0024】
前記ポンプハウジング12は、非磁性材である合成樹脂材によって形成され、有底円筒状に形成されたハウジング本体21と、該ハウジング本体21の前端部にボルトなどによって結合された筒状コネクタ22と、を備えている。
【0025】
前記筒状コネクタ22は、前端部から軸方向へ突出形成されて、前記冷却水通路5の下流端に接続されるニップル状の吸入接続部22aと、下端部からほぼ垂直下方へ突出形成されて、前記第1ウォータージャケット2aの上流端に接続されるニップル状の吐出接続部22bと、を有し、内部中央には作動室22cが形成されている。
【0026】
前記隔壁部13は、ポンプハウジング12と同じ非磁性材である合成樹脂材によって縦断面ほぼ有底円筒状に形成され、内部中央に軸方向に沿って駆動軸14を挿通保持する円柱状の支持軸13aを一体に有していると共に、後端側に形成されたフランジ部13bの外周縁がハウジング本体21の内周面21aに一体に結合されている。
【0027】
前記駆動軸14は、金属材によって形成され、前記ポンプロータ15の後述する支持部26の軸受孔26bを貫通して前記支持軸13a内にモールディングによって一体に固定されていると共に、先端部の外周に円筒状の軸受部23が軸方向から螺着したビス24によって固定されている。
【0028】
前記ポンプロータ15は、前記ハウジング本体21と隔壁部13との間に配置された筒状本体25と、該筒状本体25の前端側に有する円盤状の支持部26と、該支持部26の前端面に一体に固定された羽根部27と、を備えている。
【0029】
前記筒状本体25は、前記ハウジング本体21と隔壁部13との間に軸方向に沿って延設されていると共に、内周側に形成された円筒状溝内に前記永久磁石16が一体的に固定されている。
【0030】
前記支持部26は、ほぼ円錐台状に形成された内周部26aの内部中央に貫通形成された軸受孔26bを介して前記軸受部23の外周に回転自在に支持されている。
【0031】
前記羽根部27は、ポンプ室12aの前端側に配置されて、ポンプロータ15と共に回転して前記吸入接続部22a内に流入した冷却水を吐出接続部22b側に吐出するようになっている。すなわち、この羽根部27が正回転した場合には、前記リザーバタンク3側から前記吸入接続部22aを介して流入した冷却水を、前記吐出接続部22bを介して前記第1ウォータージャケット2aへ吐出するようになっている。一方、前記羽根部27が逆回転した場合には、前記第1ウォータージャケット2aから前記吐出接続部22bを介して流入した冷却水を、前記吸入接続部22aを介してリザーバタンク3側へ吐出するようになっている。
【0032】
前記ステータ17は、外周面が前記隔壁部13の内周面に固定されていると共に、外周に電磁コイル28が巻回されている。この電磁コイル28は、前記モータ室12bの後端部に配置固定された制御装置29に有する駆動回路29aに接続されている。なお、前記制御装置29は、前記電子コントローラに接続されていて、該電子コントローラとの通信が常時行われている。
【0033】
前記水路18は、前記羽根部27の回転に伴って吐出された冷却水の一部が図2に矢印で示すように、前記隔壁部13の外周側に回り込むように案内して、前記ステータ17や電磁コイル28を冷却するようになっている。
【0034】
以上のような構成から、前記電動ポンプ11は、前記電子コントローラからの電気信号を受けて駆動回路29aから電磁コイル28に通電されると、前記ステータ17が励磁されて、前記永久磁石16を介して前記軸受部23を中心にポンプロータ15が所定の回転方向へ回転駆動するようになっていて、その回転方向に応じて前記吸入接続部22a側の冷却水が前記吐出接続部22b側へ圧送される、或いは前記吐出接続部22b側の冷却水が前記吸入接続部22a側へ圧送されることとなる。
【0035】
以下に、本発明に係る内燃機関の冷却装置の作動状態(作用)について、図3〜図8に基づいて説明する。なお、図8は、本装置の制御内容を示すフローチャートである。
【0036】
まず、エンジン1のイグニッションがONにされると、エンジン1内に設けられた前記各水温センサによって前記各ウォータージャケット2a,2b内の冷却水の温度が検知される(図8のステップS1参照)。
【0037】
そして、前記各水温センサによって検知されたエンジン1の水温情報が前記電子コントローラへと伝達され、該電子コントローラによってかかる冷却水の温度が所定の設定温度(本実施の形態では50℃とする。)以下であるかが判断される(図8のステップS2参照)。
【0038】
このとき、かかる冷却水の温度が前記設定温度以下となっている場合には、前記電動ポンプ11の制御装置29に対して前記電子コントローラから逆回転の信号が与えられる(図8のステップS3参照)。そうすると、電動ポンプ11が逆回転することにより、図3に示すように、前記第1ウォータージャケット2aを介して前記両ウォータージャケット2a,2b及びリターン通路6内に滞留する冷却水をリザーバタンク3側へと排出し始める。
【0039】
さらに、本実施の形態では、前記サーモスタット8の開弁温度が、前記設定温度よりも高く設定された第2の設定温度(本実施の形態では82℃とする。)となっており、冷却水の温度が前記設定温度を下回る状態ではサーモスタット8は閉弁状態を維持する、すなわち前記冷却水通路5が遮断されることになるため、前記電動ポンプ11によってエンジン1内から排出される冷却水は前記バイパス通路7を介して前記リザーバタンク3へと回収される。
【0040】
なお、この際、前記リザーバタンク3にあっては、図4に示すように、前記各水路を含めた冷却装置10内の冷却水を全て回収可能な容積を有し、かつ、前記リターン通路6との接続部が上壁部に設けられていることから、リザーバタンク3に回収された前記冷却水がリターン通路6によってエンジン1内へ流入してしまうおそれがない。特に、前記リザーバタンク3とリターン通路6との接続部をリザーバタンク3の上壁部に設ける構造としたことにより、簡素な構造で、かつ、確実にエンジン1側への冷却水の流入を防止することができる。
【0041】
このように、エンジン1が冷機状態にあるときには、前記電動ポンプ11を逆回転させることによってエンジン1の内部に滞留した冷却水を強制的に排出させるようにしたことから、冷媒である冷却水によってエンジン1の暖機性能が阻害されるおそれがなく、この結果、エンジン1の暖機が促進される。
【0042】
その後、前記電子コントローラにおいては、前記各温度センサを介してシリンダブロック1a及びシリンダヘッド1bの各壁面温度が監視されていると共に(図8のステップS4参照)、この温度情報に基づき前記電子コントローラにおいて前記各壁面温度と前記設定温度とが常時比較され、前記シリンダヘッド1bの壁面温度が前記設定温度を超えるまで前記電動ポンプ11は逆回転状態が維持される(図8のステップS5参照)。
【0043】
そして、前記電子コントローラによってエンジン1が暖機状態と判断された場合、つまり前記温度センサの温度情報に基づいて前記シリンダヘッド1bの壁面温度が前記設定温度を超えたと判断された場合には、前記電動ポンプ11の制御装置29に対して前記電子コントローラから正回転の信号が与えられる(図8のステップS6参照)。そうすると、電動ポンプ11が正回転することによって、図5及び図6に示すように、前記リザーバタンク3内に貯留されている冷却水をエンジン1側へ供給し始める。なお、始動時において既にエンジン1が暖機状態にある場合、つまりエンジン1始動時の冷却水の温度が既に前記設定温度を超えていると前記電子コントローラにより判断された場合は、前記エンジン1の暖機が完了したところから、すなわち前記ステップS6の制御から始まることになる。
【0044】
ここで、前記冷却水の温度が前記第2の設定温度よりも低い場合には、前記サーモスタット8の閉弁状態が維持されて、前記冷却水は前記バイパス通路7を介してエンジン1内に導入されることとなる。
【0045】
また、この際には、かかる冷却水は前記流量制御弁9によってエンジン1側への供給量が制限されており、エンジン1の温度状態に応じて冷却水の供給量を漸次増加させるように制御されることとなる。このため、暖機終了直後のエンジン1を多量の冷却水によって急冷してしまうおそれがなく、これによって、エンジン1の急激な温度変化による不具合を防止することができる。
【0046】
さらに、エンジン1内部に冷却水を循環させていても、暖機状態にあるエンジン1は徐々に昇温していくことから、該エンジン1の暖機が完了しても冷却水の温度を監視して(図8のステップS7参照)、この水温情報に基づいて前記電子コントローラによってエンジン1内の冷却水の温度が前記第2の設定温度を超えているかが判断される(図8のステップS8参照)。
【0047】
このとき、かかるエンジン1の昇温に伴って前記電子コントローラによって冷却水の温度が前記第2の設定温度を超えたと判断された場合は、前記サーモスタット8が開弁して前記冷却水通路5が解放され(図8のステップS9参照)、図7に示すように、前記ラジエータ4により冷却された冷却水がエンジン1内に供給されることとなる。これによって、エンジン1の温度状態に応じた適切な冷却を行うことができる。なお、エンジン1の始動時において冷却水の温度が既に前記第2の設定温度を超えていた場合には、前記暖機完了後に冷却水の温度が前記第2の設定温度に到達したところから、すなわち前記ステップS9の制御から始まることになる。
【0048】
したがって、この実施の形態によれば、双方向に吸入及び吐出が可能な電動ポンプ11を利用することにより、エンジン1が冷機状態にあるときには、該エンジン1内の冷却水を強制的に排出させるようにしたことから、エンジン1内に滞留する冷却水を効率よく排出させることが可能となる。この結果、エンジン1の暖気性能を確実かつ充分に向上させることができる。
【0049】
しかも、この実施の形態の場合には、エンジン1の前記暖機促進作用を得るにあたり、前記電動ポンプ11の回転方向を制御するのみの極めてシンプルな制御構造によって達成することができる。このため、多数の制御弁を使用して複雑な制御を行う必要がなく、これによって装置を構成する部品点数の増加や制御回路の複雑化を伴うことがないことから、装置に係る製造コストの高騰化を最小限に抑えることができる。
【0050】
さらに、本実施の形態に係る冷却装置10にあっては、冷却水を循環させる冷却回路を大気解放としていないことから、現在主流となっているプレッシャタイプの冷却回路にも利用することができる。
【0051】
なお、本実施の形態では、エンジン1のイグニッションをONにしたときに、該エンジン1内の冷却水の温度が前記設定温度以下である場合において冷却水をリザーバタンク3に戻すこととしているが、エンジン1が停止した後に、該エンジン1内の冷却水の温度が前記設定温度以下となった時点において、前記電動ポンプ11を逆回転させて冷却水をリザーバタンク3に戻すようにしてもよい。この場合、次回エンジン1のイグニッションをONにしたときには、該エンジン1内から既に冷却水が抜けている状態となるため、エンジン1の暖機をさらに促進させることが可能となる。
【0052】
図9及び図10は前記第1の実施の形態に係る冷却装置において、前記リザーバタンク3に回収した冷却水が前記リターン通路6を介してエンジン1側へと流出してしまうことを防止する冷却水の流出防止構造についての第1の他例を示す。
【0053】
すなわち、この他例に係るリザーバタンク3は、基本的な構成は前記第1の実施の形態と同様であり、異なるところは、前記リザーバタンク3とリターン通路6との接続部が、リザーバタンク3の上壁部ではなく、前記冷却水通路5が接続されたリザーバタンク3の一側壁と対向する他側壁の下端位置近傍に、冷却水通路5と対向するように接続されていて、かかる接続部には、リザーバタンク3からリターン通路6内への冷却水の流出を抑止する逆止弁31が設けられている。
【0054】
この逆止弁31は、前記リザーバタンク3の他側壁の内側に配設され、このリザーバタンク3とリターン通路6との接続部開口を閉塞可能な面積を有するほぼ矩形板状に形成されたフラップ32によって構成されている。そして、このフラップ32は、前記接続部の開口縁に支持された一辺部を支点として回動自在に設けられていて、各辺部の長さが前記接続部の開口径よりも大きく設定されていることから、リザーバタンク3外側への回動が規制され、該リザーバタンク3内側へのみ回動することが許容されている。
【0055】
したがって、この他例によれば、前記電動ポンプ11が逆回転してエンジン1内の冷却水をリザーバタンク3へと回収する場合には、図9に示すように、該電動ポンプ11によって圧送される冷却水の水圧に基づき前記逆止弁31のフラップ32が前記接続部開口の外周縁に圧接することとなる。これによって、前記接続部開口が閉塞されることとなるため、リザーバタンク3内の冷却水が前記リターン通路6内に流入してしまうことはない。
【0056】
一方、前記電動ポンプ11が正回転して冷却水が前記冷却装置10内を循環している状態において、エンジン1の前記各ウォータージャケット2a,2bから前記リターン通路6を介してリザーバタンク3へ冷却水を還流する場合には、図10に示すように、電動ポンプ11によって加圧された冷却水の水圧に基づき前記フラップ32がリザーバタンク3内に貯留されている冷却水の水圧に抗して内方へ押し開かれることとなる。これにより、前記接続部が開口状態となるため、リターン通路6からリザーバタンク3内への冷却水の導入は許容される。
【0057】
よって、かかる簡素な構成を有する前記逆止弁31を前記リザーバタンク3設けることによっても、該リザーバタンク3からリターン通路6側への冷却水の流出を確実に防止することができる。特に、この場合には、前記逆止弁31の構成が極めて簡素であることから、該逆止弁31を設けることに伴う装置の製造コストの高騰化を極力抑制することができる。
【0058】
図11及び図12は前記第1の実施の形態に係る冷却水の流出防止構造についての第2の他例を示しており、この他例に係る逆止弁31は、前記リザーバタンク3の他側壁に対して垂直方向へと進退自在に設けられた弁部材33と、前記リターン通路6の下流端部に配設されて、前記弁部材33の前記進退動を支持する支持部材34と、を備えている。
【0059】
前記弁部材33は、該弁部材33の中間部に形成されて所定の軸方向長さを有し、前記支持部材34によって弁部材33の軸方向に沿って摺動可能に支持された棒状の小径部33aと、該弁部材33の先端部に前記小径部33aから段差拡径状に形成され、前記接続部開口を閉塞する大径部33bと、を有している。
【0060】
前記大径部33bは、前記小径部33aとの接続部に、該小径部33aから先端側へ向かって漸次拡径するように形成されたほぼ円錐状のテーパ部33cが設けられていると共に、先端がほぼ球面状に形成されている。そして、この大径部33bは、図11に示すように、前記リザーバタンク3内の冷却水の水圧によって弁部材33が前記リターン通路6側へ押圧されて前記テーパ部33cが前記接続部の開口縁に圧接することにより、該接続部開口を閉塞するようになっている。
【0061】
前記支持部材34は、内部中央位置に前記弁部材33の小径部33aの外径よりも若干大きい内径を有し、該小径部33aを囲繞するように設けられた円環状の環状支持部34aと、該環状支持部34aの外周部にほぼ90°間隔で四箇所に突起状に設けられ、この環状支持部34aを、前記リターン通路6を構成する配管の内壁に支持固定する固定部34bと、から構成されている。
【0062】
また、前記弁部材33の後端部には、前記小径部33aから段差拡径状に形成され、前記支持部材34の環状支持部34aの内径よりも若干大きい外径に設定された中径部33dが設けられている。これによって、前記弁部材33がリザーバタンク3内方へ進出移動して前記接続部を開口させる際に、該弁部材33が前記支持部材34から脱落してしまうことが防止されている。
【0063】
したがって、この他例によれば、前記電動ポンプ11が逆回転してエンジン1内の冷却水をリザーバタンク3に回収する場合には、図11に示すように、電動ポンプ11によって圧送される冷却水の水圧に基づいて前記逆止弁31の弁部材33がリターン通路6側へと押圧され、該弁部材33における前記大径部33bのテーパ部33cが前記接続部の開口縁に圧接することとなる。これにより、前記接続部開口が閉塞されることとなるため、リザーバタンク3内の冷却水がリターン通路6内に流入してしまうことはない。
【0064】
一方、前記電動ポンプ11が正回転して冷却水が前記冷却装置10内を循環している状態において、エンジン1の前記各ウォータージャケット2a,2bから前記リターン通路6を介してリザーバタンク3へと冷却水を還流する場合には、図12に示すように、前記冷却水がリターン通路6の内壁面と前記環状支持部34aの外周面との間を通流してリターン通路6の下流端まで流れ込み、電動ポンプ11によって加圧された冷却水の水圧に基づき、前記弁部材33がリザーバタンク3内に貯留されている冷却水の水圧に抗して内方へ押し出されることとなる。これにより、前記接続部が開口状態となるため、リターン通路6からリザーバタンク3内への冷却水の導入は許容される。
【0065】
よって、かかる弁構造を有する前記逆止弁31にあっては、前記弁部材33のテーパ部33cが前記接続部の開口縁に圧接することによって該接続部開口を閉塞する構造としたため、前記リザーバタンク3内の密閉性を高めることができ、該リザーバタンク3からリターン通路6側への冷却水の流出をより確実に防止することができる。
【0066】
また、前記弁部材33において、前記接続部開口に対向する前記大径部33bの後端部をテーパ状に形成したことから、冷却水が前記リターン通路6からリザーバタンク3内に流入する際には、この冷却水は弁部材33の前記テーパ部33cに沿って導入されることとなる。これによって、リターン通路6からリザーバタンク3内へと流入する冷却水の流動抵抗が低減されることから、該冷却水の導入を円滑に行うことができる。
【0067】
図13は本発明の第2の実施の形態を示し、前記第1の実施の形態において、前記電動ポンプ11の制御方法を変更したものであって、具体的には、冷却水などの温度ではなく、エンジン1のイグニッションをON時からの経過時間に基づいて制御する、いわゆるタイマー制御としたものである。
【0068】
以下では、かかる電動ポンプ11のタイマー制御について具体的に説明するが、前記リザーバタンク3や流量制御弁9など、その他の機器の構成及び作用については前記第1の実施の形態と同様であるため、説明は省略する。
【0069】
すなわち、本実施の形態に係る冷却装置10にあっては、まず、エンジン1のイグニッションがONにされると、該エンジン1内に設けられた前記各水温センサにより、前記各ウォータージャケット2a,2b内の冷却水の温度が検知される(ステップS11参照)。
【0070】
続いて、前記各水温センサによって検知されたエンジン1の水温情報が前記電子コントローラへと伝達され、該電子コントローラによってかかる冷却水の温度が前記設定温度(50℃)以下であるか判断される(ステップS12参照)。
【0071】
このとき、かかる冷却水の温度が前記設定温度以下となっている場合には、前記電動ポンプ11の制御装置29に対して前記電子コントローラから逆回転の信号が与えられて(ステップS13参照)、エンジン1内の冷却水をリザーバタンク3に回収し始めると同時に、経過時間のカウントを開始する(ステップS14参照)。
【0072】
その後、前記電子コントローラでは、エンジン1の暖機時間に相当する所定の設定時間とカウント開始時からの経過時間とが常時比較され(ステップS15参照)、前記設定時間が経過するまで前記電動ポンプ11は逆回転し続けてエンジン1内の冷却水が前記リザーバタンク3に回収される。
【0073】
そして、前記電子コントローラにおいて前記設定時間のカウントが終了したと判断された場合には、前記電動ポンプ11の制御装置29に対して前記電子コントローラから正回転の信号が与えられる(ステップS16参照)。よって、前記電動ポンプ11は正回転することとなり、前記リザーバタンク3内に貯留されている冷却水をエンジン1側へと供給することによって、該エンジン1の冷却が始まる。なお、始動時において既にエンジン1内の冷却水の温度が既に前記設定温度を超えていると前記電子コントローラによって判断された場合は、前記エンジン1の暖機が完了したところから、すなわち前記ステップS16の制御から始まることになる。
【0074】
さらに、エンジン1内部に冷却水を循環させていても、暖機状態にあるエンジン1は徐々に昇温していくことから、該エンジン1の暖機が完了しても冷却水の温度を監視し続けて(ステップS17参照)、この水温情報に基づいて前記電子コントローラによってエンジン1内の冷却水の温度が前記第2の設定温度を超えているかが判断される(ステップS18参照)。
【0075】
このとき、前記電子コントローラにより冷却水の温度が前記第2の設定温度を超えたと判断された場合には、前記サーモスタット8を開弁させて前記冷却水通路5を解放し(ステップS19参照)、前記ラジエータ4により冷却された冷却水がエンジン1内に供給されることとなる。これによって、エンジン1の温度状態に応じた適切な冷却を行うことができる。なお、エンジン1の始動時において冷却水の温度が既に前記第2の設定温度を超えていた場合には、前記暖機完了後に冷却水の温度が前記第2の設定温度に到達したところから、すなわち前記ステップS19の制御から始まることになる。
【0076】
したがって、この実施の形態によれば、エンジン1の暖機完了時をタイマー制御によって判断する制御方法を採用したことから、より簡素な制御によってエンジン1の暖機性能を向上させることが可能となり、装置の製造コストの高騰化のさらなる抑制が図れる。
【0077】
なお、本実施の形態では、前記ステップ11及びステップ12により、エンジン1内の冷却水の温度に応じて電動ポンプ11の回転方向を選択することとしているが、前記ステップ13〜ステップ19のみの制御によって電動ポンプ11の回転方向を制御することも可能である。つまり、イグニッションがONされた時点で自動的に電動ポンプ11を逆回転させて、イグニッションがONされた時点からの経過時間のみによって電動ポンプ11の回転方向を制御してもよい。この場合には、極めて簡素な制御によりエンジン1の暖機性能を向上させることが可能となり、装置の製造コストの高騰化がより一層抑制される。
【0078】
図14及び図15は本発明の第3の実施の形態を示し、基本的な構成は前記第1の実施の形態と同様であり、異なるところは、低温部である前記シリンダブロック1aの第1ウォータージャケット2aを通じて冷却水が循環する通路と、高温部である前記シリンダヘッド1bの第2ウォータージャケット2bを通じて冷却水が循環する通路と、が別々に構成されていると共に、これに伴いシリンダブロック1aとシリンダヘッド1bのそれぞれの温度に応じて冷却水の流路を可変とするように構成されている。
【0079】
以下、本実施の形態に係る冷却装置10について具体的に説明するが、便宜上、前記第1の実施の形態と異なる部分についてのみ説明することとし、重複する部分については説明を省略する。
【0080】
すなわち、本実施の形態に係る冷却装置10にあっては、図14に示すように、前記電動ポンプ11がシリンダブロック1a前端部に直接固定されているのではなく、該シリンダブロック1aとサーモスタット8との間を繋ぐ冷却水通路5の中間に配設されていると共に、シリンダブロック1aと電動ポンプ11との間を繋ぐ冷却水通路5の途中には、前記第1ウォータージャケット2aに接続する第1導入通路35と、前記第2ウォータージャケット2bに接続する第2導入通路36と、が流路切換弁37を介して分岐構成されており、該流路切換弁37により、前記第1、第2導入通路35,36の各通路に対し任意の配分によって冷却水を分流して供給することが可能となっている。
【0081】
これに伴い、前記第1ウォータージャケット2aの下流端には第1還流通路38が接続されている一方、前記第2ウォータージャケット2bの下流端には第2還流通路39が接続され、該第2還流通路39と前記第1還流通路38とはその延長上において一体化されることによって一つの前記リターン通路6が構成されている。さらに、前記第2還流通路39の上流端側には流量制御弁40が設けられており、該流量制御弁40によって第2ウォータージャケット2bから前記リザーバタンク3に還流される冷却水の流量を制御することが可能となっている。
【0082】
かかる構成から、本実施の形態に係る冷却装置10にあっては、まず、エンジン1のイグニッションがONにされると、エンジン1内に設けられた前記各水温センサによって前記各ウォータージャケット2a,2b内の冷却水の温度が検知される(図15のステップS21参照)。
【0083】
続いて、前記各水温センサによって検知されたエンジン1の水温情報が前記電子コントローラへと伝達され、該電子コントローラによってかかる冷却水の温度が前記設定温度(50℃)以下であるかが判断される(図15のステップS22参照)。
【0084】
このとき、かかる冷却水の温度が前記設定温度以下となっている場合には、前記電動ポンプ11の制御装置29に対して前記電子コントローラから逆回転の信号が与えられる(図15のステップS23参照)。そうすると、電動ポンプ11が逆回転することから、前記第1ウォータージャケット2a内の冷却水及びリターン通路6内の冷却水の一部がそれぞれ前記第1導入通路35を介して前記リザーバタンク3側へ排出されると共に、前記第2ウォータージャケット2b内の冷却水及びリターン通路6内の冷却水の残部が前記第2導入通路36を介してそれぞれリザーバタンク3側へ排出される。
【0085】
なお、この際には、本実施の形態においても、前記第1の実施の形態と同様に、前記サーモスタット8の開弁温度が前記第2の設定温度(82℃)に設定されていることから、前記電動ポンプ11によりエンジン1内から排出された冷却水は、前記バイパス通路7を介して前記リザーバタンク3へと回収される。
【0086】
続いて、前記シリンダブロック1a及びシリンダヘッド1bの各壁面温度についても前記各温度センサによって検知され(図15のステップS24参照)、その温度情報が前記電子コントローラに常時伝達されているが、前記シリンダブロック1aとシリンダヘッド1bとでは、高温部であるシリンダヘッド1bの方がより早く昇温するため、前記電子コントローラによっては、両者の壁面温度のうち、まず、シリンダヘッド1bの壁面温度が前記設定温度以下であるかが判断される(図15のステップS25参照)。
【0087】
ここで、前記電子コントローラによって前記シリンダヘッド1bの壁面温度が前記設定温度を超えたと判断された場合には、前記シリンダブロック1aの壁面温度は前記設定温度を下回っている状態であっても、該電子コントローラにより前記第1導入通路35を遮断するように前記流路切換弁37が制御されると共に(図15のステップS26参照)、前記電動ポンプ11の制御装置29に対してポンプ正回転の信号が与えられる(図15のステップS27参照)。
【0088】
そうすると、前記電動ポンプ11は、正回転して前記リザーバタンク3内に貯留されている冷却水をエンジン1側へと供給し始めるが、前記流路切換弁37によって前記第1導入通路35は遮断されていることから、この冷却水は、前記第2ウォータージャケット2bのみに供給されることとなる。なお、この際、冷却水の温度が前記第2の設定温度よりも低い場合には、該冷却水は、前記第1の実施の形態と同様に、前記バイパス通路7を介して第2導入通路36内に導入されることとなる。
【0089】
具体的には、かかる制御により、前記リザーバタンク3内の冷却水は、前記冷却水通路5から前記第2導入通路36を介して第2ウォータージャケット2bに導入された後、該第2ウォータージャケット2b内を通って前記第2還流通路39を介して前記リターン通路6へと流入し、該リターン通路6を通じてリザーバタンク3へと還流される。すなわち、前記シリンダヘッド1bの壁面温度のみが前記設定温度を超えた場合には、該シリンダヘッド1bにのみ冷却水が循環されることとなる。
【0090】
さらに、前記電動ポンプ11は、前記シリンダヘッド1bの温度状態に適した量の冷却水を供給するように前記電子コントローラによって制御され、このシリンダヘッド1bの昇温に伴いその供給量が漸次増加される。これにより、シリンダヘッド1bの急冷が防止されて、該シリンダヘッド1bの急激な温度変化によるエンジン1の不具合を防止することができる。
【0091】
このようにしてエンジン1の暖機を行いつつ、続いては、前記温度センサによって前記シリンダブロック1aの壁面温度が検知され(図15のステップS28)、該温度情報に基づき前記電子コントローラによってシリンダブロック1aの壁面温度が前記設定温度以下であるかが判断される(図15のステップS29参照)。
【0092】
ここで、前記シリンダブロック1aについてもその壁面温度が前記設定温度を超えたと前記電子コントローラによって判断された場合には、該電子コントローラによって前記第1導入通路35にも冷却水の導入を許容するように前記流路切換弁37が制御され(図15のステップS30参照)、前記第1ウォータージャケット2a内にも冷却水が供給されることとなる。なお、この場合にも、第1ウォータージャケット2a内に冷却水が徐々に導入されるように流路切換弁37が制御されていて、シリンダブロック1aの急冷防止が図られている。また、始動時において既にエンジン1が暖機状態にある場合、つまり前記電子コントローラによってエンジン1始動時の冷却水の温度が既に前記設定温度を超えていると判断された場合は、前記エンジン1の暖機が完了したところから、すなわち後述するステップS31の制御から始まることになる。
【0093】
そして、エンジン1内部に冷却水を循環させていても、暖機状態にあるエンジン1は徐々に昇温していくことから、該エンジン1の暖機が完了しても冷却水の温度を監視して(図15のステップS31参照)、この水温情報に基づいて前記電子コントローラによってエンジン1内の冷却水の温度が前記第2の設定温度を超えているかが判断される(図15のステップS32参照)。
【0094】
このとき、前記電子コントローラにより冷却水の温度が前記第2の設定温度を超えたと判断された場合には、前記サーモスタット8を開弁させて前記冷却水通路5を解放し(図15のステップS33参照)、前記ラジエータ4によって冷却された冷却水がエンジン1内に供給されることとなる。これにより、エンジン1の温度状態に応じた適切な冷却を行うことができる。なお、エンジン1の始動時において冷却水の温度が既に前記第2の設定温度を超えていた場合は、前記暖機完了後に冷却水の温度が前記第2の設定温度に到達したところから、すなわち前記ステップS33の制御から始まることになる。
【0095】
したがって、この実施の形態によれば、前記第1の実施の形態と同様の作用効果を奏することができるのは勿論のこと、昇温度合の相異する前記シリンダブロック1aとシリンダヘッド1bに対し、それぞれを冷却するための冷却水通路を別々に構成したことにより、双方に同時に冷却水を導入するのではなく、暖機が完了した部位についてはその完了時点で冷却水の導入を行い、冷機状態にある部位については冷却水を導入せずに待機状態とすることが可能となる。これによって、暖機が終了した部位の過熱を防止でき、また、冷機状態にある部位の暖機性能を低下させるおそれもないことから、エンジン1のより効果的な暖機性能の向上が図れる。
【0096】
なお、本実施の形態では、前記シリンダブロック1aの第1ウォータージャケット2aと、前記シリンダヘッド1bの第2ウォータージャケット2bと、をエンジン1内部において相互に連通させることなく独立した構成としているが、前記第1の実施の形態のようにエンジン1内部において前記各ウォータージャケット2a,2b同士が相互に連通する構成であっても、該各ウォータージャケット2a,2bに対する冷却水の導入通路及び各ウォータージャケット2a,2bからリザーバタンク3への還流通路をそれぞれ別々に設け、さらに両ウォータージャケット2a,2b間に仕切板を設けて相互の連通を遮断することにより、本実施の形態と同様の作用効果が得られる。
【0097】
本発明は、前述の実施の形態の構成に限定されるものではなく、例えば前記各ウォータージャケット2a,2bのレイアウトや、冷却水通路としての冷却回路の配管(冷却水の流路)のレイアウトついては、車両の仕様に応じて自由に変更することができる。
【0098】
また、前記第3の実施の形態に対しても、前記第2の実施の形態のいわゆるタイマー制御を適用することが可能であり、例えば前記シリンダブロック1a内に冷却水を供給するタイミングと前記シリンダヘッド1b内に冷却水を供給するタイミングとを、イグニッションをONした時点からの経過時間によって制御することで、簡素な制御構造によるエンジン1の効果的な暖機性能の向上が図れる。
【0099】
また、前記各実施の形態においては、エンジン1の暖機完了後、前記流量制御弁9を用いてエンジン1内部への冷却水の供給量を制限しているが、該流量制御弁9を用いずに、前記電動モータ11の吐出量を制御することによって、エンジン1の暖機直後の前記冷却水の供給量を調整してもよい。
【0100】
さらに、前記各実施の形態においては、エンジン1内の冷却水の水温を基準として電動ポンプ11の回転方向を選択的に制御しているが、かかる基準は、エンジン1の壁面温度のみとしてもよく、また、冷却水の温度の代わりに前記サーモスタット8の温度を基準とすることも可能である。特に、エンジン1の壁面温度のみを基準とした場合には、前記各水温センサからの温度情報を必要としないことから、さらに簡素な制御によって前記電動ポンプ11の回転方向を制御することが可能となり、装置の製造コストの高騰化抑制に供される。
【0101】
また、前記第1、第3の各実施の形態においては、エンジン1の暖機完了の基準として該エンジン1の壁面温度を採用しているが、エンジン1内に残留した冷却水の水温によって該エンジン1の暖機完了を判断することも可能である。この場合には、前記各温度センサを要しないことから、装置がより簡素化され、一層簡素な制御によって前記電動ポンプ11の回転方向を制御することが可能となるため、装置の製造コストの高騰化をさらに抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0102】
【図1】本発明に係る内燃機関の冷却用電動ポンプ等の第1の実施の形態を示し、かかるポンプを用いた冷却装置全体を説明する概略図である。
【図2】同実施の形態に係る電動ポンプの縦断面図である。
【図3】電動ポンプが逆回転したときの冷却装置の状態を説明する概略図である。
【図4】電動ポンプが逆回転したときのリザーバタンクの状態を説明する概略図である。
【図5】電動ポンプが正回転したときの冷却装置の状態を説明する概略図である。
【図6】電動ポンプが正回転したときのリザーバタンクの状態を説明する概略図である。
【図7】電動ポンプの正回転時において冷却水がラジエータを介して循環する場合の冷却装置の状態を説明する概略図である。
【図8】同実施の形態に係る冷却装置の制御内容を示すフローチャートである。
【図9】同実施の形態におけるリザーバタンクの第1の他例を示し、電動ポンプが逆回転したときのリザーバタンクの状態を説明する概略図である。
【図10】同実施の形態におけるリザーバタンクの第1の他例を示し、電動ポンプが正回転したときのリザーバタンクの状態を説明する概略図である。
【図11】同実施の形態におけるリザーバタンクの第2の他例を示し、電動ポンプが逆回転したときのリザーバタンクの状態を説明する概略図である。
【図12】同実施の形態におけるリザーバタンクの第2の他例を示し、電動ポンプが正回転したときのリザーバタンクの状態を説明する概略図である。
【図13】本発明の第2実施の形態に係る冷却装置の制御内容を示すフローチャートである。
【図14】本発明の第3の実施の形態に係る冷却装置の全体を説明する概略図である。
【図15】本発明の第3実施の形態に係る冷却装置の制御内容を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0103】
1…エンジン(内燃機関)
3…リザーバタンク
4…ラジエータ
5…冷却水通路
6…リターン通路
7…バイパス通路
8…サーモスタット
9…流量制御弁
10…冷却装置
11…電動ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動モータによって駆動される正逆回転可能な内燃機関の冷却用電動ポンプであって、
内燃機関の作動状態に応じて、正回転させることによって冷却水を内燃機関へ供給し、逆回転させることによって内燃機関内の冷却水を排出させることを特徴とする内燃機関の冷却用電動ポンプ。
【請求項2】
内燃機関の始動時における内燃機関内の冷却水の温度が任意に設定された設定温度以下では、逆回転させて内燃機関内の冷却水を排出させ、
内燃機関の温度が前記設定温度を超えると、正回転させて内燃機関に冷却水を供給することを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の冷却用電動ポンプ。
【請求項3】
内燃機関の始動時から所定時間が経過するまでは、逆回転させて内燃機関内の冷却水を排出させ、
前記所定時間が経過した後は、正回転させて内燃機関に冷却水を供給することを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の冷却用電動ポンプ。
【請求項4】
内燃機関の始動時における該内燃機関内の冷却水の温度が任意に設定された設定温度以下となっている場合には、逆回転させて内燃機関内の冷却水を排出させ、内燃機関の始動時から所定時間が経過した後に、正回転させて内燃機関に冷却水を供給する一方、
内燃機関の始動時における冷却水の水温が前記設定温度を超えている場合には、正回転させて内燃機関に冷却水を供給することを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の冷却用電動ポンプ。
【請求項5】
内燃機関が停止状態にあっても、該内燃機関内の冷却水の温度が前記設定温度以下となった際には、逆回転させて内燃機関内の冷却水を排出させることを特徴とする請求項2〜4に記載の内燃機関の冷却用電動ポンプ。
【請求項6】
内燃機関を冷却するための冷却水を貯留するタンクと、
電動モータを正回転させて前記タンク内に貯留された冷却水を内燃機関へ供給し、又は前記電動モータを逆回転させて内燃機関内の冷却水を前記タンク内に回収する電動ポンプと、を備えたことを特徴とする内燃機関の冷却装置。
【請求項7】
内燃機関の始動時における内燃機関内の冷却水の温度が任意に設定された設定温度以下となっている場合には、前記電動ポンプを逆回転させて内燃機関内の冷却水を前記タンクに回収し、
内燃機関の温度が前記設定温度を超えた場合には、前記電動ポンプを正回転させて前記タンク内に貯留されている冷却水を内燃機関に供給することを特徴とする請求項6に記載の内燃機関の冷却装置。
【請求項8】
内燃機関の始動時から所定時間が経過するまでは、前記電動ポンプを逆回転させて内燃機関内の冷却水を前記タンクに回収し、
前記所定時間が経過した後は、前記電動ポンプを正回転させて前記タンク内に貯留されている冷却水を内燃機関に供給することを特徴とする請求項6に記載の内燃機関の冷却装置。
【請求項9】
内燃機関を冷却するための冷却水を貯留するタンクと、
電動モータを正回転させて前記タンク内に貯留された冷却水を内燃機関へ供給し、又は前記電動モータを逆回転させて内燃機関内の冷却水を前記タンク内に回収する電動ポンプと、
内燃機関内を流動して昇温した冷却水を冷却するラジエータと、
該ラジエータを介して前記タンクと電動ポンプとを連通させる冷却水通路と、
一端が前記タンクに接続される一方、他端が前記冷却水通路のラジエータよりも下流側に接続され、該ラジエータを介せずに前記タンクと電動ポンプとを連通させるバイパス通路と、
前記冷却水通路とバイパス通路の接続部に配設され、冷却水の温度に基づき該冷却水の流路を前記冷却水通路又はバイパス通路に切り換え制御する感温切換弁と、を備え、
内燃機関の始動時における内燃機関内の冷却水の温度が任意に設定された設定温度以下となっている場合には、前記感温切換弁を前記冷却水通路との連通を遮断するように切り換え制御すると共に、前記電動ポンプを逆回転させて内燃機関内の冷却水を前記バイパス通路を介して前記タンクに回収し、
内燃機関の温度が前記設定温度を超えた場合には、前記電動ポンプを正回転させて前記タンク内に貯留されている冷却水を前記バイパス通路を介して内燃機関に供給することを特徴とする内燃機関の冷却装置。
【請求項10】
内燃機関内の冷却水の温度が前記設定温度よりも高い第2設定温度を超えた場合には、前記バイパス通路と電動ポンプとの連通を遮断するように前記感温切換弁を切り換えて、前記冷却水通路を介して前記ラジエータを通過した冷却水のみを内燃機関へ供給することを特徴とする請求項9に記載の内燃機関の冷却装置。
【請求項11】
前記タンクと内燃機関とを連通し、前記電動ポンプの正回転時に内燃機関内を循環した冷却水を前記タンクに戻すリターン通路をさらに備え、
前記リターン通路とタンクとを連通する第1連通口を前記冷却通路とタンクとを連通する第2連通口よりも高い位置に設けると共に、前記バイパス通路とタンクとを連通する第3連通口を前記第2連通口とほぼ同じ高さ位置か、或いは該高さ位置よりも低い位置に設けたことを特徴とする請求項9に記載の内燃機関の冷却装置。
【請求項12】
前記タンクと内燃機関とを連通し、前記電動ポンプの正回転時に内燃機関内を循環した冷却水を前記タンクに戻すリターン通路をさらに備え、
前記リターン通路とタンクとを連通する第1連通口に、冷却水の前記リターン通路側からタンク内への流入のみを許容する逆止弁を設けたことを特徴とする請求項9に記載の内燃機関の冷却装置。
【請求項13】
前記電動ポンプと感温切換弁との間に、冷却水の通流量を制御する流量制御弁を設けたことを特徴とする請求項9に記載の内燃機関の冷却装置。
【請求項14】
内燃機関と前記電動ポンプとの間に両者を連通する連通水路をさらに備え、
前記連通水路を、内燃機関の高温部と低温部とにそれぞれ連通する高温部側水路と低温部側水路とに分岐させると共に、該連通水路の分岐点に、内燃機関の作動状態に応じて冷却水の流路を切り換え制御する流路切換弁を設けたことを特徴とする請求項9に記載の内燃機関の冷却装置。
【請求項15】
内燃機関の始動時における前記高温部又は低温部内の冷却水の温度が任意に設定された設定温度以下となっている場合には、前記流路切換弁を切り換え制御して前記電動ポンプを逆回転させることにより、前記高温部又は低温部のうち、前記設定温度以下となっている部位内の冷却水のみを前記タンクに回収し、
前記高温部又は低温部の温度が前記設定温度を超えた場合には、前記流路切換弁を切り換え制御して前記電動ポンプを正回転させることにより、前記高温部又は低温部のうち、前記設定温度を超えている部位内のみに前記タンク内に貯留されている冷却水を供給することを特徴とする請求項14に記載の内燃機関の冷却装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2009−41450(P2009−41450A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−207349(P2007−207349)
【出願日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】