説明

内燃機関の制御装置及び方法

【課題】EGR弁が開弁状態で固着した場合に、燃焼を行う気筒内に供給される新気量が過多になることに起因する燃焼悪化を早期に抑制する技術を提供する。
【解決手段】気筒群2a,2bに接続された吸気通路4と、気筒群毎に独立して接続された個別排気通路6a,6bと、一方の個別排気通路6aから吸気通路4にEGRガスを還流させるEGR通路9と、EGR通路9に配置されたEGR弁10と、他方の個別排気通路6bに配置されたA/Fセンサ7と、を備え、A/Fセンサ7が検知する排気の空燃比に基づいて空燃比が目標空燃比となるよう燃料噴射弁3を制御して燃料供給量を調節するフィードバック制御を行うものであって、EGR弁10が開弁状態で固着したことが検知された場合に、気筒群2aについてフューエルカット制御を行うと共に、内燃機関1の動作点を等出力ライン上で高回転側に変更する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の制御装置及び内燃機関の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
EGR弁が開弁状態で固着した場合に、一部の気筒の燃料噴射を停止(フューエルカット制御)することで、一気筒当たりの吸気量を増加させEGR率を低減させることにより、燃焼悪化を抑制する技術が開示されている(例えば、特許文献1(段落44)参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−207285号公報
【特許文献2】特開2007−076551号公報
【特許文献3】特開平11−022561号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、V型内燃機関等の複数の気筒群を有する内燃機関では、一部の特定の気筒群から排出される排気の一部をEGRガスとして取り出し、当該EGRガスを全気筒群に還流させるEGRシステムが主流である。このようなEGRシステムにおいて、EGR弁が開弁状態で固着した場合に、内燃機関への過剰なEGRガスの導入を防止するために、EGRガスを取り出す気筒群についてフューエルカット制御を行い燃焼停止させることが考えられている。しかし、EGRガスを取り出す気筒群についてフューエルカット制御を行うと、EGR通路から燃焼に用いられていない新気が還流してしまう。このため、フューエルカット制御後の過渡時に、エアフローメータで測定する新気量と燃焼を行う気筒内に実際に供給される新気量との間にずれが生じる。そして、フューエルカット制御しない気筒群の燃焼を行う気筒内に供給される新気量が過多になることに起因する燃焼悪化が生じてしまう。
【0005】
本発明は上記問題点に鑑みたものであり、その目的は、EGR弁が開弁状態で固着した場合に、燃焼を行う気筒内に供給される新気量が過多になることに起因する燃焼悪化を早期に抑制する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明にあっては、以下の構成を採用する。すなわち、本発明は、
複数の気筒群と、
前記複数の気筒群に接続された吸気通路と、
気筒群毎に独立して接続された複数の個別排気通路と、
特定の個別排気通路から排気の一部をEGRガスとして取り込み、前記吸気通路へ当該EGRガスを還流させるEGR通路と、
前記EGR通路に配置され、EGRガス量を制御するEGR弁と、
前記特定の個別排気通路以外の個別排気通路に配置され、当該個別排気通路に接続された気筒群から排出される排気の空燃比を検知する空燃比検知手段と、
前記空燃比検知手段が検知する排気の空燃比に基づいて空燃比が目標空燃比となるよう空燃比に影響を及ぼす物理量を調節するフィードバック制御を行う空燃比フィードバック制御手段と、
前記EGR弁が開弁状態で固着したことを検知する開固着検知手段と、
前記開固着検知手段によって前記EGR弁が開弁状態で固着したことが検知された場合
に、前記特定の個別排気通路に接続された気筒群についてフューエルカット制御を行うと共に、内燃機関の動作点を高回転側に変更する開固着時制御手段と、
を備えたことを特徴とする内燃機関の制御装置である。
【0007】
本発明では、EGR弁が開弁状態で固着したことが検知された場合に、特定の個別排気通路に接続された気筒群についてフューエルカット制御を行う。これにより、特定の個別排気通路に接続された気筒群は燃焼せずに吸排気だけを行うので、燃焼に用いられていない吸気である新気がそのまま排気として特定の個別排気通路へ排出される。すると、特定の個別排気通路からEGR通路を経て新気が吸気通路へ還流してしまう。還流した新気は、特定の個別排気通路に接続された気筒群以外のフューエルカット制御しない気筒群にも供給される。このため、フューエルカット制御しない気筒群では、還流した新気が余剰に供給されるので、燃焼を行う気筒内に供給される新気量が過多になり、燃焼悪化が生じてしまうおそれがある。これに対し、フューエルカット制御しない気筒群から排出される排気の空燃比を検知する空燃比検知手段で、フューエルカット制御の影響により還流した新気が余剰に供給され排気の空燃比が変化したことを検知し、空燃比フィードバック制御手段によるフィードバック制御が行われると、この燃焼悪化を改善することができる。しかし、空燃比検知手段でフューエルカット制御の影響により還流した新気が余剰に供給され排気の空燃比が変化したことを検知するまでに時間がかかる。そして、空燃比フィードバック制御手段によるフィードバック制御が行われて空燃比に影響を及ぼす物理量を調節して空燃比を目標空燃比にし、燃焼悪化を改善するまでに時間がかかってしまう。よって、フューエルカット制御後の過渡時に、比較的長く燃焼悪化が生じてしまうおそれがある。
【0008】
そこで、本発明では、EGR弁が開弁状態で固着したことが検知された場合に、内燃機関の動作点を高回転側に変更する。これにより、フューエルカット制御しない気筒群から排気流がより連続的に早く変動無く流れる。すると、空燃比検知手段は、フューエルカット制御の影響により還流した新気が余剰に供給され排気の空燃比が変化したことをより早く検知できる。よって、空燃比フィードバック制御手段によるフィードバック制御がより早く行え、空燃比に影響を及ぼす物理量を調節して空燃比をより早く目標空燃比にすることができる。したがって、フューエルカット制御しない気筒群の燃焼を行う気筒内に供給される新気量が過多になることを早期に抑制でき、燃焼悪化を早期に抑制することができる。
【0009】
なおここで、「空燃比に影響を及ぼす物理量」とは、気筒内へ供給される新気量や燃料供給量である。新気量はスロットル弁を制御することで調節され、燃料供給量は燃料噴射弁を制御することで調節される。すなわち、空燃比フィードバック制御手段は、スロットル弁や燃料噴射弁を制御し新気量や燃料供給量を調節することで、空燃比を目標空燃比に追随させる。
【0010】
前記開固着時制御手段は、前記開固着検知手段によって前記EGR弁が開弁状態で固着したことが検知された場合に、前記特定の個別排気通路に接続された気筒群以外の気筒群の各気筒に対する燃料供給量を増量するとよい。
【0011】
本発明では、EGR弁が開弁状態で固着したことが検知された場合に、特定の個別排気通路に接続された気筒群以外の気筒群の各気筒に対する燃料供給量を増量する。これにより、フューエルカット制御しない気筒群では、還流した新気が余剰に供給されても、それに合わせて燃料供給量が増量される。よって、空燃比フィードバック制御手段によるフィードバック制御にかかわらず、フューエルカット制御しない気筒群の気筒内の空燃比を目標空燃比に近づけることができる。したがって、フューエルカット制御しない気筒群の燃焼を行う気筒内に供給される新気量が過多になることをより早期に抑制でき、燃焼悪化をより早期に抑制することができる。
【0012】
なおここで、燃料供給量の増量は、予め実験や検証等によって求められた、EGR弁が開弁状態で固着した場合にフューエルカット制御しない気筒群の気筒内に供給される新気量が過多になることが抑制できる所定量だけ増量される。
【0013】
本発明にあっては、以下の構成を採用する。すなわち、本発明は、
複数の気筒群と、
前記複数の気筒群に接続された吸気通路と、
気筒群毎に独立して接続された複数の個別排気通路と、
特定の個別排気通路から排気の一部をEGRガスとして取り込み、前記吸気通路へ当該EGRガスを還流させるEGR通路と、
前記EGR通路に配置され、EGRガス量を制御するEGR弁と、
前記特定の個別排気通路以外の個別排気通路に配置され、当該個別排気通路に接続された気筒群から排出される排気の空燃比を検知する空燃比検知手段と、
を備え、前記空燃比検知手段が検知する排気の空燃比に基づいて空燃比が目標空燃比となるよう空燃比に影響を及ぼす物理量を調節するフィードバック制御を行う内燃機関の制御方法であって、
前記EGR弁が開弁状態で固着したことが検知された場合に、前記特定の個別排気通路に接続された気筒群についてフューエルカット制御を行うと共に、内燃機関の動作点を高回転側に変更することを特徴とする内燃機関の制御方法である。
【0014】
本発明では、EGR弁が開弁状態で固着したことが検知された場合に、特定の個別排気通路に接続された気筒群についてフューエルカット制御を行う。これにより、特定の個別排気通路に接続された気筒群は燃焼せずに吸排気だけを行うので、燃焼に用いられていない吸気である新気がそのまま排気として特定の個別排気通路へ排出される。すると、特定の個別排気通路からEGR通路を経て新気が吸気通路へ還流してしまう。還流した新気は、特定の個別排気通路に接続された気筒群以外のフューエルカット制御しない気筒群にも供給される。このため、フューエルカット制御しない気筒群では、還流した新気が余剰に供給されるので、燃焼を行う気筒内に供給される新気量が過多になり、燃焼悪化が生じてしまうおそれがある。これに対し、フューエルカット制御しない気筒群から排出される排気の空燃比を検知する空燃比検知手段で、フューエルカット制御の影響により還流した新気が余剰に供給され排気の空燃比が変化したことを検知し、空燃比フィードバック制御手段によるフィードバック制御が行われると、この燃焼悪化を改善することができる。しかし、空燃比検知手段でフューエルカット制御の影響により還流した新気が余剰に供給され排気の空燃比が変化したことを検知するまでに時間がかかる。そして、空燃比フィードバック制御手段によるフィードバック制御が行われて空燃比に影響を及ぼす物理量を調節して空燃比を目標空燃比にし、燃焼悪化を改善するまでに時間がかかってしまう。よって、フューエルカット制御後の過渡時に、比較的長く燃焼悪化が生じてしまうおそれがある。
【0015】
そこで、本発明では、EGR弁が開弁状態で固着したことが検知された場合に、内燃機関の動作点を高回転側に変更する。これにより、フューエルカット制御しない気筒群から排気流がより連続的に早く変動無く流れる。すると、空燃比検知手段は、フューエルカット制御の影響により還流した新気が余剰に供給され排気の空燃比が変化したことをより早く検知できる。よって、空燃比フィードバック制御手段によるフィードバック制御がより早く行え、空燃比に影響を及ぼす物理量を調節して空燃比をより早く目標空燃比にすることができる。したがって、フューエルカット制御しない気筒群の燃焼を行う気筒内に供給される新気量が過多になることを早期に抑制でき、燃焼悪化を早期に抑制することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によると、EGR弁が開弁状態で固着した場合に、燃焼を行う気筒内に供給される新気量が過多になることに起因する燃焼悪化を早期に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施例1に係る内燃機関の概略構成を示す図である。
【図2】実施例1に係る内燃機関の動作点を等出力ライン上で高回転側へ変更する様子を示す図である。
【図3】実施例1に係る開固着時制御ルーチンを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に本発明の具体的な実施例を説明する。
【0019】
<実施例1>
図1は、本実施例に係る内燃機関の制御装置を適用する内燃機関及びその吸気系・排気系の概略構成を示す図である。図1に示す内燃機関1は、夫々4気筒からなる2つの気筒群2a,2bを有するV型8気筒の水冷式の4ストロークサイクル・ガソリンエンジンである。内燃機関1は車両に搭載されている。なお、本実施例では、気筒群を2つ有する場合を例示するが、気筒群を3つ以上有する複数の気筒群からなる場合であっても本発明を適用できる。内燃機関1の各気筒群2a,2bには、夫々の気筒群2a,2bの各気筒内に燃料を供給する燃料噴射弁3が設けられている。本実施例では、燃料噴射弁3は、各気筒に設けられ筒内に燃料噴射する。しかしこれに限られず、燃料噴射弁3は、各気筒の吸気ポートに設けられるものでもよい。
【0020】
内燃機関1の各気筒群2a,2bには、各気筒群2a,2bへ吸気を供給する吸気通路4が接続されている。吸気通路4は、各気筒群2a,2bの直前のインテークマニホールドで分岐するが、その分岐位置よりも上流側はひとつにまとまって1本となっている。インテークマニホールドの分岐位置よりも上流側の1本の吸気通路4の途中には、エアフローメータ5が配置されている。エアフローメータ5は、吸気通路4内を流通する新気量に応じた信号を出力する。エアフローメータ5により、内燃機関1の新気量が測定される。吸気通路4及び吸気通路4に配置される上記機器が内燃機関1の吸気系を構成している。
【0021】
一方、内燃機関1の各気筒群2a,2bには、気筒群毎に独立した個別排気通路6a,6bが接続されている。気筒群2a,2bと個別排気通路6a,6bとは、同数設けられる。片方の個別排気通路6bの途中には、A/Fセンサ7が配置されている。A/Fセンサ7は、個別排気通路6bに接続された気筒群2bから排出される排気の空燃比(A/F)を検知する。A/Fセンサ7が本発明の空燃比検知手段に相当する。個別排気通路6a,6bの下流側には、個別排気通路6a,6bが合流してひとまとめになる合流排気通路8が接続されている。各排気通路及び個別排気通路6bに配置される上記機器が内燃機関1の排気系を構成している。なお、個別排気通路6aが本発明の特定の個別排気通路に相当し、個別排気通路6bが本発明の特定の個別排気通路以外の個別排気通路に相当する。また、気筒群2aが本発明の特定の個別排気通路に接続された気筒群に相当し、気筒群2bが本発明の特定の個別排気通路に接続された気筒群以外の気筒群に相当する。
【0022】
そして、内燃機関1には、個別排気通路6a内を流通する排気の一部を、インテークマニホールドの分岐位置よりも上流側且つエアフローメータ5よりも下流側の1本の吸気通路4へ還流(再循環)させるEGR(Exhaust Gas Recirculation)通路9が備えられて
いる。EGR通路9によって還流される排気をEGRガスという。EGR通路9は、個別排気通路6aと吸気通路4とを1本の配管で接続している。このEGR通路9を通って、片方の気筒群2aから排出される排気の一部がEGRガスとして内燃機関1の両気筒群2a,2bへ送り込まれる。EGR通路9には、EGR通路9の通路断面積を調整すること
により、EGR通路9を流通するEGRガス量を制御するEGR弁10が配置される。EGR弁10は、電動アクチュエータにより開閉される。なお、本実施例では、EGR通路9は、インテークマニホールドよりも上流側の吸気通路4に接続されている。しかしこれに限られず、インテークマニホールド自体に接続されるものであってもよい。
【0023】
以上述べたように構成された内燃機関1には、内燃機関1を制御するための電子制御ユニットであるECU11が併設されている。ECU11は、内燃機関1の運転条件や運転者の要求に応じて内燃機関1の運転状態を制御するユニットである。ECU11には、エアフローメータ5、及びA/Fセンサ7、並びにアクセルペダルの踏み込み量に応じた電気信号を出力するアクセル開度センサ12、及び内燃機関1の機関回転数を検知するクランクポジションセンサ13が電気配線を介して接続され、これら各種センサの出力信号がECU11に入力される。一方、ECU11には、燃料噴射弁3、及びEGR弁10の電動アクチュエータが電気配線を介して接続されており、ECU11によりこれらの機器が制御される。そして、ECU11は、各種センサの出力信号から導出される内燃機関1の運転状態に応じて、EGR通路9に設けられたEGR弁10の開度を変化させることで、各気筒群2a,2bの各気筒に供給されるEGRガス量を最適な量となるように制御する。また、ECU11は、A/Fセンサ7の出力信号から検知される個別排気通路6bにおける排気の空燃比に基づいて、各気筒群2a,2bの各気筒内の空燃比が目標空燃比であるストイキとなるよう燃料噴射弁3を制御して各気筒内へ噴射する燃料供給量を調節するフィードバック制御を行う。このフィードバック制御を行うECU11が本発明の空燃比フィードバック制御手段に相当する。なお、本実施例でのA/Fセンサ7を用いたフィードバック制御では、燃料噴射弁3を制御して燃料供給量を調節するが、吸気通路4に配置されるスロットル弁を制御して新気量を調節してもよいし、燃料供給量及び新気量の両者の物理量を調節してもよい。
【0024】
ところで、EGR弁10が開弁状態で固着する異常が生じた場合、内燃機関1の各気筒群2a,2bに流入するEGRガス量を所望の量に制御することが困難となる。その結果、気筒群2a,2bに流入するEGRガス量が内燃機関1の運転状態に対して過剰に多い状態となると、各気筒群2a,2bの各気筒内での燃焼状態が悪化する場合がある。このように、EGRガス量が過剰に多くなることによって各気筒の燃焼状態が悪化すると、サイクル変動増大や失火によるドライバビリティの悪化や、エンジンストールが生じるおそれがある。
【0025】
そこで、本実施例では、EGR弁10が開弁状態で固着したことが検知された場合に、個別排気通路6aに接続された気筒群2aについてフューエルカット制御を行うと共に、内燃機関1の動作点を等出力ライン上で高回転側に変更するようにした。
【0026】
まず、本実施例では、EGR弁10が開弁状態で固着したことが検知された場合に、個別排気通路6aに接続された気筒群2aについてフューエルカット制御を行う。フューエルカット制御とは、気筒群2aの各気筒に対する燃料噴射弁3から燃料を噴射させない制御である。これにより、個別排気通路6aに接続された気筒群2aは燃焼せずに吸排気だけを行うので、燃焼に用いられていない吸気である新気がそのまま排気として個別排気通路6aへ排出される。すると、個別排気通路6aからEGR通路9を経て新気が吸気通路4へ還流してしまう。還流した新気は、個別排気通路6aに接続された気筒群2a以外のフューエルカット制御しない気筒群2bにも供給される。エアフローメータ5はEGRガスの取り出し口よりも上流側に配置されているため、フューエルカット制御しない気筒群2bでは、エアフローメータ5で測定する新気量に対して、還流した新気が余剰に供給される。これにより、気筒群2bの燃焼を行う気筒内に供給される新気量が過多になり、気筒内の空燃比がリーンとなり燃焼悪化が生じてしまうおそれがある。
【0027】
これに対し、フューエルカット制御しない気筒群2bから排出される排気の空燃比を検知するA/Fセンサ7で、フューエルカット制御の影響により還流した新気が余剰に供給され排気の空燃比が変化したことを検知し、A/Fセンサ7を用いたフィードバック制御が行われると、この燃焼悪化を改善することができる。しかし、A/Fセンサ7でフューエルカット制御の影響により還流した新気が余剰に供給され排気の空燃比が変化したことを検知するまでに時間がかかる。そして、A/Fセンサ7を用いたフィードバック制御が行われて燃料噴射弁3を制御して燃料供給量を調節して空燃比を目標空燃比であるストイキにし、燃焼悪化を改善するまでに時間がかかってしまう。よって、フューエルカット制御後の過渡時に、比較的長く燃焼悪化が生じてしまうおそれがある。
【0028】
そこでさらに、本実施例では、EGR弁10が開弁状態で固着したことが検知された場合に、内燃機関1の動作点を等出力ライン上で高回転側に変更する。これは、CVT等を用いて内燃機関1のギア比を変更し、図2に示すように機関回転数とトルクから生じる出力を等出力ライン上に維持しつつ、低トルク高回転側に内燃機関1の運転状態を変更するものである。これにより、フューエルカット制御しない気筒群2bから排気流がより連続的に早く変動無く流れる。すると、A/Fセンサ7では、フューエルカット制御の影響により還流した新気が余剰に供給され排気の空燃比が変化したことをより早く検知できる。よって、A/Fセンサ7を用いたフィードバック制御がより早く行え、燃料噴射弁3を制御して燃料供給量を調節して空燃比をより早く目標空燃比であるストイキにすることができる。したがって、内燃機関1の動作点を等出力ライン上で高回転側に変更することで、フューエルカット制御しない気筒群2bの燃焼を行う気筒内に供給される新気量が過多になることを早期に抑制でき、燃焼悪化を早期に抑制することができる。
【0029】
しかしさらに、本実施例では、EGR弁10が開弁状態で固着したことが検知された場合に、フューエルカット制御しない気筒群2bの各気筒に対する燃料噴射弁3からの燃料供給量を増量するようにした。
【0030】
したがって、本実施例では、EGR弁10が開弁状態で固着したことが検知された場合に、上記の制御に加えさらに、フューエルカット制御しない気筒群2bの各気筒に対する燃料供給量を増量する。これにより、フューエルカット制御しない気筒群2bでは、還流した新気が余剰に供給されても、それに合わせて燃料供給量が増量される。よって、A/Fセンサ7を用いたフィードバック制御にかかわらず、フューエルカット制御しない気筒群2bの気筒内の空燃比を目標空燃比であるストイキに近づけることができる。そして、A/Fセンサ7を用いたフィードバック制御は、この増量された燃料供給量を基本に燃料供給量を調節することになる。これにより、A/Fセンサ7を用いたフィードバック制御では、気筒群2bの気筒内の空燃比がストイキに近づいているので、気筒群2bの気筒内の空燃比をストイキにするまでに、燃料供給量の変更も少なくて済み、それほど時間もかからなくなる。したがって、フューエルカット制御しない気筒群2bの燃焼を行う気筒内に供給される新気量が過多になることをより早期に抑制でき、燃焼悪化をより早期に抑制することができ、NOx排出を抑制できる。
【0031】
なおここで、燃料供給量の増量は、予め実験や検証等によって求められた、EGR弁10が開弁状態で固着した場合にフューエルカット制御しない気筒群2bの気筒内に供給される新気量が過多になることが抑制できる所定量だけ増量される。
【0032】
次に、EGR弁10が開弁状態で固着した場合に行う開固着時制御ルーチンについて、図3に示すフローチャートに基づいて説明する。図3は、開固着時制御ルーチンを示すフローチャートである。本ルーチンは、所定の時間毎に繰り返しECU11によって実行される。本ルーチンを実行するECU11が本発明の開固着時制御手段に相当する。
【0033】
ステップS101では、EGR弁10が開弁状態で固着したか否かを判別する。例えばEGRガス量が過剰に多くなり吸気通路4に配置された圧力センサの検知値が所望の値よりも大きくなる場合や、EGR弁10に設けられたEGR弁開度センサの検出値が所望の値と乖離したり一定のまま動かなくなったりする場合や、EGRガスの量が過剰に多くなり吸気通路4に配置された温度センサの検出値が所望の値よりも高くなる場合に、EGR弁10が開弁状態で固着したと判断できる。本ステップを実行するECU11が本発明の開固着検知手段に相当する。ステップS101において、EGR弁10が開弁状態で固着したと肯定判定された場合には、ステップS102へ移行する。ステップS101において、EGR弁10が開弁状態で固着していないと否定判定された場合には、本ルーチンを一旦終了する。
【0034】
ステップS102では、フェイルモード移行が必要か否かを判別する。フェイルモードとは、このまま通常運転を継続してしまうと、ドライバビリティの悪化や、エンジンストールが生じるおそれがある場合に移行するモードである。例えば、EGR弁10が開弁状態で固着した際のEGR弁10の開度が基準開度よりも大きく、EGRガスが多量に還流されてしまう場合等に、フェイルモード移行が必要と判断する。ステップS102において、フェイルモード移行が必要と肯定判定された場合には、ステップS103へ移行する。ステップS102において、フェイルモード移行が必要ないと否定判定された場合には、本ルーチンを一旦終了する。
【0035】
ステップS103では、個別排気通路6aに接続された気筒群2aについてフューエルカット制御を行う。これにより、気筒群2aは燃焼せずに吸排気だけを行うので、燃焼に用いられていない吸気である新気がそのまま吸気通路4へ還流することになる。そして、気筒群2bの各気筒だけで燃焼を行い、機関運転を行う。
【0036】
ステップS104では、内燃機関1の動作点を等出力ライン上で高回転側に変更する。すなわち、CVT等を用いて内燃機関1のギア比を変更し、図2に示すように出力を等出力ライン上に維持しつつ、低負荷高回転側に内燃機関1の運転状態を変更する。これにより、気筒群2bから排気流がより連続的に早く変動無く流れるようになる。ここでの内燃機関1の動作点の変更は、あくまで気筒群2bだけで機関運転するフェイルモードにおける場合での変更である。なお、本実施例では、内燃機関1の動作点を等出力ライン上で高回転側に変更することを、フェイルモードで継続的に実施するものとする。しかしこれに限られず、A/Fセンサ7を用いたフィードバック制御が落ち着くフューエルカット制御後の過渡時が経過した後は、当該動作点の変更を止めるものでもよい。
【0037】
ステップS105では、気筒群2bの各気筒に対する燃料噴射弁3からの燃料供給量を所定量だけ増量する。これにより、気筒群2bでは、気筒群2aに対するフューエルカット制御により新気が還流して余剰に供給されても、それに合わせて燃料供給量が所定量だけ増量される。なおここで、気筒群2bの各気筒に対する燃料噴射弁3からの燃料供給量を増量すると、トルク増大を招く。このため、目標トルクに一致させるため、燃料供給量の増量によるトルク増大を相殺するトルクダウンを行わせるよう、気筒群2bの各気筒において点火遅角を同時に行う。これにより、燃料供給量の増量によるトルク増大を回避することができる。
【0038】
本実施例によると、EGR弁10が開弁状態で固着した場合に、気筒群2bの燃焼を行う気筒内に供給される新気量が過多になることに起因する燃焼悪化を早期に抑制することができる。
【0039】
本発明に係る内燃機関の制御装置は、上述の実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変更を加えてもよい。また、上述の実施例にて
実現される制御方法が、本発明に係る内燃機関の制御方法でもある。
【符号の説明】
【0040】
1 内燃機関
2a,2b 気筒群
3 燃料噴射弁
4 吸気通路
5 エアフローメータ
6a,6b 個別排気通路
7 A/Fセンサ
8 合流排気通路
9 EGR通路
10 EGR弁
11 ECU
12 アクセル開度センサ
13 クランクポジションセンサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の気筒群と、
前記複数の気筒群に接続された吸気通路と、
気筒群毎に独立して接続された複数の個別排気通路と、
特定の個別排気通路から排気の一部をEGRガスとして取り込み、前記吸気通路へ当該EGRガスを還流させるEGR通路と、
前記EGR通路に配置され、EGRガス量を制御するEGR弁と、
前記特定の個別排気通路以外の個別排気通路に配置され、当該個別排気通路に接続された気筒群から排出される排気の空燃比を検知する空燃比検知手段と、
前記空燃比検知手段が検知する排気の空燃比に基づいて空燃比が目標空燃比となるよう空燃比に影響を及ぼす物理量を調節するフィードバック制御を行う空燃比フィードバック制御手段と、
前記EGR弁が開弁状態で固着したことを検知する開固着検知手段と、
前記開固着検知手段によって前記EGR弁が開弁状態で固着したことが検知された場合に、前記特定の個別排気通路に接続された気筒群についてフューエルカット制御を行うと共に、内燃機関の動作点を高回転側に変更する開固着時制御手段と、
を備えたことを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項2】
前記開固着時制御手段は、前記開固着検知手段によって前記EGR弁が開弁状態で固着したことが検知された場合に、前記特定の個別排気通路に接続された気筒群以外の気筒群の各気筒に対する燃料供給量を増量することを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項3】
複数の気筒群と、
前記複数の気筒群に接続された吸気通路と、
気筒群毎に独立して接続された複数の個別排気通路と、
特定の個別排気通路から排気の一部をEGRガスとして取り込み、前記吸気通路へ当該EGRガスを還流させるEGR通路と、
前記EGR通路に配置され、EGRガス量を制御するEGR弁と、
前記特定の個別排気通路以外の個別排気通路に配置され、当該個別排気通路に接続された気筒群から排出される排気の空燃比を検知する空燃比検知手段と、
を備え、前記空燃比検知手段が検知する排気の空燃比に基づいて空燃比が目標空燃比となるよう空燃比に影響を及ぼす物理量を調節するフィードバック制御を行う内燃機関の制御方法であって、
前記EGR弁が開弁状態で固着したことが検知された場合に、前記特定の個別排気通路に接続された気筒群についてフューエルカット制御を行うと共に、内燃機関の動作点を高回転側に変更することを特徴とする内燃機関の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−52593(P2011−52593A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−202316(P2009−202316)
【出願日】平成21年9月2日(2009.9.2)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】