説明

内燃機関の制御装置

【目的】ステッピングモータの初期化処理の実行中に内燃機関が始動される場合において、排気系の部品の劣化などを招くことなく、内燃機関の回転数の不要な上昇を防止するようにした内燃機関の制御装置を提供する。
【解決手段】ステッピングモータの初期化処理においてアイドル回転数制御バルブ(ISCバルブ)が全開位置に到達する前に内燃機関の回転数NEが所定回転数(完爆回転数)NEref以上となると共に、スロットルバルブがアイドル開度にあるとき、初期化処理を中止させると共に(S18,S26〜S36)、初期化処理が中止されるとき、内燃機関の回転数NEが目標アイドル回転数NEaに一致するように、ステッピングモータを介してアイドル回転数制御バルブの開度をフィードバック制御する(S28,S46)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は内燃機関の制御装置に関し、より詳しくは吸気路のスロットルバルブをバイパスするバイパス路に設けられるアイドル回転数制御バルブを備えた内燃機関の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、吸気路のスロットルバルブが全閉位置付近にあるとき(即ち、機関始動時やアイドル運転時)、スロットルバルブの上流側と下流側とを連通するバイパス路に配置されたアイドル回転数制御バルブをステッピングモータで駆動(開閉)することで、内燃機関のアイドル回転数を調整するようにした内燃機関の制御装置は広く知られている。
【0003】
上記の如く、アイドル回転数制御バルブをステッピングモータで駆動する場合、例えばバイパス路の負圧や内燃機関の振動、バッテリ電圧低下などに起因してステッピングモータに脱調が発生し、アイドル回転数制御バルブの制御精度が低下することがある。そこで下記の特許文献1記載の技術にあっては、イグニッションスイッチがオンされたとき、アイドル回転数制御バルブを全開位置まで駆動すると共に、全開位置に到達したときのステッピングモータの位置を全開ステップ位置として設定する初期化処理を実行するようにしている。
【0004】
ところで、初期化処理においてアイドル回転数制御バルブが全開位置に到達する前に、内燃機関が始動される、即ち、イグニッションスイッチのオンに続いてクランキングが開始される場合(スタータスイッチがオンされるまたはイグニッションスイッチのスタートポジションが選択される場合)、アイドル回転数制御バルブは全開位置付近にあることから、内燃機関の回転数が不要に上昇し(吹き上がり)、運転者に違和感を与える恐れがあった。そのような機関回転数の不要な上昇を防止するため、特許文献1記載の技術にあっては初期化処理の実行中に点火時期の遅角や燃料カットなどを行うように構成している。
【特許文献1】特開2008−144700号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記のように初期化処理の実行中に点火時期を遅角させると、排ガスの温度が上昇すると共に、燃焼悪化によって未燃ガスが発生し、結果として排気系の部品、特に触媒装置の劣化や破損を招く恐れがあった。また、燃料カットを行う場合は、機関回転数のハンチングなどが発生して運転者に違和感を与えるという不具合が生じていた。
【0006】
従って、この発明の目的は上記した課題を解決し、ステッピングモータの初期化処理の実行中に内燃機関が始動される場合において、排気系の部品の劣化などを招くことなく、内燃機関の回転数の不要な上昇を防止するようにした内燃機関の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、請求項1にあっては、内燃機関の吸気路に配置されるスロットルバルブと、前記吸気路に接続されて前記スロットルバルブをバイパスするバイパス路と、前記バイパス路の空気量を調整して前記内燃機関のアイドル回転数を調整するアイドル回転数制御バルブと、前記アイドル回転数制御バルブを駆動するステッピングモータとを備えた内燃機関の制御装置において、イグニッションスイッチがオンされたとき、前記ステッピングモータによって前記アイドル回転数制御バルブを全開位置まで駆動すると共に、前記全開位置に到達したときの前記ステッピングモータの位置を全開ステップ位置として設定する初期化処理を実行する初期化処理実行手段と、前記初期化処理において前記アイドル回転数制御バルブが前記全開位置に到達する前に前記内燃機関の回転数が所定回転数以上となると共に、前記スロットルバルブがアイドル開度にあるとき、前記初期化処理を中止させる初期化処理中止手段と、前記初期化処理が中止されるとき、前記内燃機関の回転数が目標アイドル回転数に一致するように、前記ステッピングモータを介して前記アイドル回転数制御バルブの開度をフィードバック制御するフィードバック制御手段とを備える如く構成した。
【0008】
請求項2に係る内燃機関の制御装置にあっては、前記内燃機関の温度を検出する温度検出手段と、前記検出された内燃機関の温度に基づいて前記ステッピングモータの目標ステップ位置を算出する目標ステップ位置算出手段と、前記検出された内燃機関の温度に基づき、前記フィードバック制御の実行中に、前記内燃機関の回転数と前記目標アイドル回転数の差が既定値以下となるときの前記ステッピングモータの位置を前記目標ステップ位置のステップ値に置き換える置き換え手段とを備える如く構成した。
【0009】
請求項3に係る内燃機関の制御装置にあっては、前記フィードバック制御手段は、前記フィードバック制御の実行中に、前記アイドル回転数制御バルブが開方向または閉方向に連続して所定ステップ数駆動されると共に、前記内燃機関の回転数の変化量が所定値未満のとき、前記フィードバック制御を中止する如く構成した。
【0010】
請求項4に係る内燃機関の制御装置にあっては、前記フィードバック制御手段は、前記フィードバック制御を中止してから所定時間経過した後、前記フィードバック制御を再開する如く構成した。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に係る内燃機関の制御装置にあっては、ステッピングモータの初期化処理においてアイドル回転数制御バルブが全開位置に到達する前に内燃機関の回転数が所定回転数以上となると共に、スロットルバルブがアイドル開度にあるとき、初期化処理を中止させると共に、初期化処理が中止されるとき、内燃機関の回転数が目標アイドル回転数に一致するように、ステッピングモータを介してアイドル回転数制御バルブの開度をフィードバック制御するように構成、即ち、初期化処理の実行中に内燃機関が始動されて所定回転数になり、スロットルバルブがアイドル開度にあるとき、アイドル回転数制御バルブを全開位置まで駆動する動作を中止すると共に、内燃機関の回転数が目標アイドル回転数に一致するようにアイドル回転数制御バルブの開度をフィードバック制御するように構成したので、ステッピングモータの初期化処理の実行中に内燃機関が始動される場合において、内燃機関の回転数の不要な上昇(吹き上がり)を防止することができる。また、従来技術のように点火時期の遅角や燃料カットなどを行わず、アイドル回転数制御バルブの開度を調整して吸入空気量を調整することで、機関回転数の不要な上昇を防止するように構成したので、排気系の部品(例えば触媒装置)の劣化や破損、または機関回転数のハンチングなどによって運転者に違和感を与えるなどの不具合を生じることもない。
【0012】
請求項2に係る内燃機関の制御装置にあっては、内燃機関の温度に基づいてステッピングモータの目標ステップ位置を算出すると共に、内燃機関の温度に基づき、フィードバック制御の実行中に、内燃機関の回転数と目標アイドル回転数の差が既定値以下となるとき(換言すれば、機関回転数が目標アイドル回転数に収束するとき)のステッピングモータの位置を目標ステップ位置のステップ値に置き換えるように構成したので、上記した効果に加え、初期化処理の中止によって全開位置に到達したときのステッピングモータの位置を全開ステップ位置とする設定が行われない場合であっても、内燃機関の回転数が目標アイドル回転数に収束するときのステッピングモータの位置を目標ステップ位置のステップ値に置き換えることで、ステッピングモータの脱調によって生じた制御装置の認識するステップ位置とステッピングモータの実際のステップ位置との間のズレを修正でき、ステッピングモータによるアイドル回転数制御バルブの制御精度を確保することができる。
【0013】
請求項3に係る内燃機関の制御装置にあっては、フィードバック制御の実行中に、アイドル回転数制御バルブが開方向または閉方向に連続して所定ステップ数駆動されると共に、内燃機関の回転数の変化量が所定値未満のとき、フィードバック制御を中止するように構成したので、上記した効果に加え、フィードバック制御を実行する必要がない運転状態のときにフィードバック制御を中止でき、よって内燃機関のストールを防止することができる。
【0014】
請求項4に係る内燃機関の制御装置にあっては、フィードバック制御を中止してから所定時間経過した後、フィードバック制御を再開するように構成したので、請求項3で述べた効果に加え、中止していたフィードバック制御を効果的なタイミングで再開させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、添付図面に即してこの発明に係る内燃機関の制御装置を実施するための最良の形態について説明する。
【実施例】
【0016】
図1はこの発明の実施例に係る内燃機関の制御装置を模式的に示す概略図である。
【0017】
図1において符号10は、図示しない車両(例えば自動二輪車)に搭載された内燃機関(以下「エンジン」という)を示す。エンジン10は4サイクル単気筒の水冷式で、排気量250cc程度のガソリン・エンジンからなる。尚、符号10aはエンジン10のクランクケースを示す。
【0018】
エンジン10の吸気路12にはスロットルバルブ14が配置される。スロットルバルブ14は、車両に手動操作自在に設けられたアクセラレータ(スロットルグリップ)にスロットルワイヤ(共に図示せず)を介して機械的に接続され、アクセラレータの操作量に応じて開閉されてエンジン10の吸気を調量、具体的にはエアクリーナ16から吸入され、吸気路12を通って流れる空気の量を調整する。尚、スロットルバルブ14は、アクセラレータが操作されないとき、アイドル開度となるように設定される。
【0019】
吸気路12には、スロットルバルブ14の上流側と下流側とを連通してスロットルバルブ14をバイパスするバイパス路20が接続される。バイパス路20の途中にはバイパス路20の空気量を調整してエンジン10のアイドル回転数を調整するアイドル回転数制御バルブ(アイドルスピードコントロールバルブ。以下「ISCバルブ」という)22が設けられ、ステッピングモータ(電動モータ。アクチュエータ)24によって駆動される。
【0020】
図2は、図1に示すISCバルブ22とステッピングモータ24付近を拡大して示す拡大模式断面図である。
【0021】
図2に示す如く、ステッピングモータ24は、第1、第2のコイル(A相、B相コイル)24a,24bと、マグネットロータ24cと、マグネットロータ24cの下端部に同軸に接続されると共に、外周面に雄ネジが螺刻される送りネジ24dと、第1、第2のコイル24a,24bなどを収容するケース24eとからなる、バイポーラ2相励磁式のステッピングモータである。
【0022】
ISCバルブ22は、バイパス路20を開閉するバルブ体(プランジャバルブ)22aと、バルブ体22aの内部空間に配置されると共に、前記送りネジ24dの雄ネジに対応する雌ネジが形成されるスライドピース22bと、バルブ体22aとスライドピース22bの間に介挿されるスプリング22cとが一体的に取り付けられてなる。ステッピングモータ24とISCバルブ22は、図示のように、送りネジ24dの雄ネジとスライドピース22bの雌ネジを螺合させることで接続されると共に、接続されたときのバルブ体22aはケース24eからバイパス路20に向けて突出するように位置される。
【0023】
従って、ステッピングモータ24にあっては、第1、第2のコイル24a,24bに流れる電流の向きを交互に切り換えることでマグネットロータ24cと送りネジ24dが回転させられると共に、送りネジ24dの回転方向に応じてISCバルブ22は、ガイド24fによって回転方向への動きを規制されつつ図2において上下方向に変位させられ、それによってバイパス路20を開閉し、バイパス路20を流れる空気量を調整する。
【0024】
図1の説明に戻ると、吸気路12においてスロットルバルブ14の下流側の吸気ポート付近にはインジェクタ26が配置され、スロットルバルブ14およびISCバルブ22で調整された吸入空気にガソリン燃料を噴射する。噴射された燃料は吸入空気と混合して混合気を形成し、混合気は、吸気バルブ30が開弁するとき、燃焼室32に流入する。
【0025】
燃焼室32に流入した混合気は、点火コイル34から供給された高電圧で点火プラグ36から火花放電により点火されて燃焼し、ピストン40を図1において下方に駆動してクランクシャフト42を回転させる。燃焼によって生じた排ガスは、排気バルブ44が開弁するとき、排気管46を流れる。排気管46には触媒装置50が配置され、排ガス中の有害成分を除去する。触媒装置50で浄化された排ガスはさらに下流に流れ、エンジン10の外部に排出される。また、クランクシャフト42には、エンジン10を始動させるためのスタータモータ52が接続される。
【0026】
スロットルバルブ14の付近にはポテンショメータからなるスロットル開度センサ54が設けられ、スロットルバルブ14の開度θTHを示す出力を生じる。吸気路12のスロットルバルブ14の上流側には吸気温センサ56が設けられて吸入空気の温度TAを示す出力を生じると共に、下流側には絶対圧センサ60が設けられ、吸気路内絶対圧(エンジン負荷)PBAを示す出力を生じる。
【0027】
エンジン10のシリンダブロックの冷却水通路10bには水温センサ(温度検出手段)62が取り付けられ、エンジン10の温度(エンジン冷却水温)TWに応じた出力を生じる。エンジン10のクランクシャフト42の付近にはクランク角センサ64が取り付けられて所定クランク角度位置でクランク角度信号を出力する。
【0028】
また、車両の適宜位置にはイグニッションスイッチ66とスタータスイッチ70が設置される。イグニッションスイッチ66は、図示は省略するが、順にロック、オフおよびオンの公知の3つのポジションを有し、運転者によって選択されたポジションに応じて各電気機器への電力の供給および遮断を行う。具体的には、イグニッションスイッチ66においてロックまたはオフポジションが選択されると、各センサやステッピングモータ24などへの一切の電力供給が遮断されると共に、オンポジションが選択されると、車両に搭載されたバッテリ72と接続され、スタータモータ52を除く各センサやステッピングモータ24などへの電力供給が開始される。尚、ロックポジションが選択されるときは図示しないハンドルが固定(ロック)される。
【0029】
スタータスイッチ70は、運転者によって操作されるときにバッテリ72に接続されてスタータモータ52を駆動し、それによってクランキングが開始されてエンジン10を始動させる。
【0030】
また、上記したスロットル開度センサ54などの各センサの出力は電子制御ユニット(Electronic Control Unit。以下「ECU」という)74に入力される。
【0031】
図3は、そのECU74の構成を全体的に示すブロック図である。
【0032】
ECU74はマイクロコンピュータからなり、図3に示すように、クランク角センサ64の出力が入力される波形整形回路74aと、回転数カウンタ74bと、水温センサ62などの出力が入力されるA/D変換回路74cと、CPU74dとを備える。ECU74はさらに、CPU74dからの制御信号に応じ、点火コイル34を通電する点火回路74eと、インジェクタ26、ステッピングモータ24を駆動する2個の駆動回路74f,74gと、ROM74hと、RAM74iおよびタイマ74jを備える。
【0033】
波形整形回路74aは、クランク角センサ64の出力(信号波形)をパルス信号に波形整形し、回転数カウンタ74bに出力する。回転数カウンタ74bは入力されたパルス信号をカウントしてエンジン回転数NEを検出(算出)し、エンジン回転数NEを示す信号をCPU74dへ出力する。A/D変換回路74cは、スロットル開度センサ54などの各センサの出力が入力され、アナログ信号値をデジタル信号値に変換してCPU74dに出力する。
【0034】
CPU74dは、変換されたデジタル信号などに基づき、ROM74hに格納されているプログラムに従って演算を実行し、駆動回路74gに制御信号を送出してステッピングモータ24への通電を制御し、ISCバルブ22の開度を調整してバイパス路20の空気量を調整する。また、CPU74dは、デジタル信号などに基づき、同様にROM74hに格納されているプログラムに従って演算を実行し、点火回路74eあるいは各駆動回路74f,74gに制御信号を送り、点火コイル16やインジェクタ26を駆動する。
【0035】
RAM74iは、後述するプログラムにおいて行われるエンジン回転数NEのバッファリングなどに利用されると共に、タイマ74jもプログラム中の時間計測処理に利用される。
【0036】
図4はこの実施例に係る内燃機関の制御装置の動作を示すフロー・チャートである。図示のプログラムは、イグニッションスイッチ66がオンされたとき、ECU74において所定時間間隔、例えば20msecごとに実行(ループ)される。
【0037】
以下説明すると、先ずS10においてイグニッションスイッチ66がオンされるのが初回か否か判断、換言すれば、今回のプログラムループがイグニッションスイッチ66のオン後の初回(最初)のプログラムループか否か判断する。初回のプログラムループでは当然肯定されてS12に進み、初期化処理実行フラグF_ISCINRQ(後述)を1にセットする。尚、2回目以降のプログラムループでは、S10において否定されてS12をスキップする。
【0038】
次いでS14に進み、クランク角センサ64の出力に基づいてエンジン回転NEを検出(算出)し、S16に進んでスロットル開度センサ54の出力に基づいてスロットルバルブ14の開度θTHを検出(算出)する。次いでS18に進み、エンジン回転数NEが完爆回転数NEref(所定回転数。例えば750rpm)以上か否か判断する。
【0039】
イグニッションスイッチ66がオンされた直後のプログラムループでは通常、エンジン回転数NEは完爆回転数NEref未満であるため、S18で否定されてS20に進み、初期化処理実行フラグF_ISCINRQのビットが1か否か判断する。このフラグはS12の処理で1にセットされるため、S20で肯定されてS22に進み、ステッピングモータ24の初期化処理を実行する。
【0040】
初期化処理とはバイパス路20の負圧やエンジン10の振動などによってステッピングモータ24に脱調が発生し、ECU74が認識するステッピングモータ24のステップ位置とステッピングモータ24の実際のステップ位置(以下「実ステップ位置」ともいう)との間にズレが生じることがあるが、そのズレを修正して初期化する処理のことである。
【0041】
図5は、図4のS22のステッピングモータ24の初期化処理のサブ・ルーチン・フロー・チャートである。
【0042】
先ずS100において初期化処理を前回のプログラムループで実行したか否か判断する。今回のプログラムループは初回であるため、否定されてS102に進み、ECU74が認識するステッピングモータ24のステップ位置を示すISCステップ位置ISCSTEPに始動時初期値(具体的には0ステップ)をセットする共に、全開突き当て処理完了フラグF_ISCINOPN(後述)のビットを0にリセットする。尚、前回のプログラムループで初期化処理を行っているときはS100で肯定されてS102をスキップする。
【0043】
次いでS104に進み、全開突き当て処理完了フラグF_ISCINOPNのビットが1か否か判断する。フラグF_ISCINOPNは、S102で0にセットされるため、S104で否定されてS106に進み、ISCステップ位置ISCSTEPが第1の所定ステップ数ISCSTEPref1以上か否か判断する。第1の所定ステップ数ISCSTEPref1は、具体的には、ステッピングモータ24においてISCバルブ22を全閉位置から全開位置まで駆動したときのステップ数に設定され、例えば200ステップとされる。従って、S106は、ステッピングモータ24においてISCバルブ22を全開位置まで到達させる駆動が行われたか否か判断する処理である。
【0044】
今回のプログラムループではISCステップ位置ISCSTEPは0ステップであるため、S106で否定されてS108に進み、ISCステップ位置ISCSTEPの値を1つインクリメントし、S110に進んでステッピングモータ24を介してISCバルブ22を1ステップ分だけ開方向に駆動する。
【0045】
次回以降のプログラムループにおいてS108,S110の処理が繰り返され、ISCステップ位置ISCSTEPが第1の所定ステップ数ISCSTEPref1以上になると、S106で肯定されてS112に進み、ISCステップ位置ISCSTEPに全開ステップ値(具体的には200ステップ。全開ステップ位置)をセットすると共に、全開突き当て処理完了フラグF_ISCINOPNのビットを1にセットする。従って、このフラグF_ISCINOPNが1にセットされることは、ステッピングモータ24によってISCバルブ22を全開位置まで駆動してストッパに突き当てる処理が完了したことを、0にセットされることは突き当てる処理が完了していないことを意味する。
【0046】
このように、イグニッションスイッチ66がオンされたとき、ステッピングモータ24によってISCバルブ22を全開位置まで駆動すると共に、全開位置に到達したときのステッピングモータ24の位置(ISCSTEP)を全開ステップ値(200ステップ(全開ステップ位置))として設定する。これにより、ECU74が認識するステッピングモータ24のステップ位置とステッピングモータ24の実ステップ位置とを一致させることができ、ステッピングモータ24によるISCバルブ22の制御精度を向上させることができる。
【0047】
S112において全開突き当て処理完了フラグF_ISCINOPNのビットが1にセットされると、次回以降のプログラムループではS104で肯定されてS114に進み、ISCステップ位置ISCSTEPがISC目標ステップ位置(目標ステップ位置)に一致しているか否か判断する。
【0048】
ここで、上記したISC目標ステップ位置について説明する。
【0049】
図6はISC目標ステップ位置および後述する目標アイドル回転数の算出処理を示すフロー・チャートである。図示のプログラムは、ECU74において図4,5の処理と平行して、所定の周期(例えば100msec)ごとに実行される。
【0050】
先ずS200において水温センサ62の出力に基づいてエンジン温度TWを検出(算出)する。次いでS202に進み、検出されたエンジン温度TWに基づいてステッピングモータ24のISC目標ステップ位置を算出する。ISC目標ステップ位置とは、エンジン10をアイドル回転数で運転するときのISCバルブ22の開度に対応する、ステッピングモータ24のステップ位置を意味し、エンジン温度TWに応じてその値が設定される。具体的には、ISC目標ステップ位置は図7にその特性を示すテーブルを検索することによって求められる。
【0051】
図7に示す如く、ISC目標ステップ位置は、エンジン温度TWが比較的低いときは大きいステップ数、即ち、ISCバルブ22が高開度となるように設定され、エンジン温度TWが上昇するに連れてステップ数は減少する(ISCバルブ22が低開度となる)ように設定される。
【0052】
次いでS204に進み、エンジン温度TWに基づいて目標アイドル回転数NEaを算出する。目標アイドル回転数NEaの算出は、図8にその特性を示すテーブルを検出されたエンジン温度TWから検索することで行う。
【0053】
目標アイドル回転数NEaは、図8に示すように、エンジン温度TWが比較的低いときは高回転に設定される一方、エンジン温度TWが上昇するに連れて低回転となるように設定される。S204で算出された目標アイドル回転数NEaは、後述するフィードバック制御などを実行する際に利用される。尚、図7および図8に示すテーブルは予め実験により求められてROM74hに格納される。
【0054】
図5の説明に戻ると、S114にあっては、ISCステップ位置ISCSTEPが、上記の処理によって算出されたISC目標ステップ位置に一致しているか否か判断する。ISCステップ位置ISCSTEPは、S112においてISCバルブ22が全開位置に到達したときのステップ位置(全開ステップ値。200ステップ)であるため、通例否定されてS116に進み、ISCステップ位置ISCSTEPの値を1つデクリメントし、S118に進んでステッピングモータ24を介してISCバルブ22を1ステップ分だけ閉方向に駆動する。
【0055】
次回以降のプログラムループにおいてS116,S118の処理が繰り返され、ISCステップ位置ISCSTEPがISC目標ステップ位置に一致する(等しくなる)と、S114で肯定されてS120に進み、初期化処理実行フラグF_ISCINRQのビットを0にセットして初期化処理を終了する。従って、フラグF_ISCINRQのビットが1にセットされることは、図5に示す初期化処理の実行中であることを、0にセットされることは初期化処理が完了したことを意味する。
【0056】
S120で初期化処理実行フラグF_ISCINRQのビットが0にセットされると、次回以降のプログラムループではS20で否定されてS24に進み、ステッピングモータ24をオープンループ制御する。S24においては、具体的には、ステッピングモータ24のステップ位置が図6のS202で算出されるISC目標ステップ位置となるようにし、ISCバルブ22をエンジン温度TWに即した適切な開度にする制御を行う。
【0057】
ところで、上記した初期化処理においてISCバルブ22が全開位置に到達する前に、エンジン10が始動される、即ち、イグニッションスイッチ66のオンに続いてクランキングが開始される場合(スタータスイッチ70がオンされる場合)、ISCバルブ22は全開位置付近にあることから、エンジン回転数NEが不要に上昇する(吹き上がる)という不具合が生じることは、背景技術でも述べた通りである。
【0058】
そこで、この発明に係る内燃機関の制御装置あっては、エンジン回転数NEが完爆回転数(所定回転数)NEref以上となると共に、スロットルバルブ14がアイドル開度にあるとき、初期化処理を中止させると共に、エンジン回転数NEが目標アイドル回転数NEaに一致するように、ステッピングモータ24を介してISCバルブ22の開度をフィードバック制御するようにした。
【0059】
これについて以下説明すると、ステッピングモータ24の初期化処理の実行中に、エンジン回転数NEが完爆回転数NErefになると、S18において肯定されてS26に進み、スロットルバルブ14がアイドル開度にあるか否か判断する。
【0060】
S26で否定されるとき、即ち、アクセラレータが運転者によって操作されてスロットルバルブ14がアイドル開度にないときはS20,S24に進んで前述した処理を行う一方、肯定されるときはS28に進み、初期化処理実行フラグF_ISCINRQのビットが1か否か判断する。ここでは初期化処理を行っているため、肯定されてS30に進み、全開突き当て処理完了フラグF_ISCINOPNのビットが1か否か判断する。
【0061】
S30で否定、即ち、初期化処理においてISCバルブ22が全開位置に到達する前の状態であると判断されるときはS32に進み、初期化処理実行フラグF_ISCINRQのビットを0にセットする。
【0062】
次いでS34に進み、ISCステップ位置ISCSTEPに初期値(具体的には200ステップ)をセットする。即ち、S34では、ISCバルブ22が全開位置に到達したときのステッピングモータ24の位置を全開ステップ位置として設定する処理が完了していない状態、換言すれば、ECU74においてステッピングモータ24の正確な位置を認識する前の状態であると共に、後にISCバルブ22を閉方向に駆動するフィードバック制御に備えるため、ISCステップ位置ISCSTEPにISCバルブ22の全開位置を示す初期値を一時的にセットするようにした。
【0063】
次いでS36に進み、ステッピングモータ24の駆動を停止させ、ISCバルブ22の開方向への駆動を停止させてプログラムを終了する。このように、初期化処理においてISCバルブ22が全開位置に到達する前にエンジン回転数NEが完爆回転数(所定回転数)NEref以上となると共に、スロットルバルブ14がアイドル開度にあるとき、初期化処理を中止させる。
【0064】
初期化処理を中止させた後のプログラムループにあっては、S32で初期化処理実行フラグF_ISCINRQのビットが0にセットされるため、S28で否定されてS38に進み、フィードバック再開ディレイタイマ(後述)の値が0か否か判断する。尚、S30で肯定されるときもS38に進む。フィードバック再開ディレイタイマは初期値が0であるため、S38の処理を最初に実行するときは肯定されてS40に進み、フィードバック制御中止判断処理を実行する。
【0065】
図9はS40のフィードバック制御中止判断処理のサブ・ルーチン・フロー・チャートである。
【0066】
先ずS300において、前回のプログラムループでフィードバック制御を実行したか否か判断する。S300の処理を最初に行うときは未だフィードバック制御を実行していないため、否定されてS302に進み、エンジン回転数NEを値NEBUFとしてRAM74iにバッファリングし、S304に進んでISCステップ位置ISCSTEPも値ISCSTEPBUFとして同様にRAM74iにバッファリングする。次いでS306に進み、ISCステップ駆動所要時間計測タイマTMFBCHK(アップカウンタ)に0をセットし、タイマTMFBCHKをスタートさせる。図9におけるその他の処理については後に説明する。
【0067】
図4の説明に戻ると、次いでS42に進み、フィードバック制御中止フラグF_ISCFBNG(後述)のビットが1か否か判断する。フラグF_ISCFBNGは初期値が0とされるため、S42の処理を最初に実行するときは否定されてS44に進み、エンジン回転数NEとアイドル回転数NEaの差が絶対値において既定値(例えば20rpm)以下の状態が所定時間(例えば3sec)継続しているか否か、別言すれば、エンジン回転数NEがアイドル回転数NEaの近傍にある状態が所定時間継続しているか否か判断する。
【0068】
S44の処理を最初に実行するときは通常、エンジン回転数NEはアイドル回転数NEaの近傍にないため、否定されてS46に進み、フィードバック制御を実行する。S46においては、具体的には、エンジン回転数NEがアイドル回転数NEa(正確には、図6のS204で算出されたアイドル回転数NEa)に一致するように、ステッピングモータ24を介してISCバルブ22の開度をフィードバック制御する(PID制御)。より具体的には、エンジン回転数NEがアイドル回転数NEaを超えるときはISCバルブ22を閉方向に駆動する一方、エンジン回転数NEがアイドル回転数NEa未満のときはISCバルブ22を開方向に駆動するように、ステッピングモータ24の動作を制御する。
【0069】
フィードバック制御を実行することにより、エンジン回転数NEとアイドル回転数NEaの差が絶対値において既定値以下、即ち、エンジン回転数NEが目標アイドル回転数NEaに収束すると、S44で肯定されてS48に進み、ISCステップ位置ISCSTEPを図6のS202で算出されるISC目標ステップ位置のステップ値に置き換える。
【0070】
即ち、初期化処理を中止した状態(詳しくは、ISCバルブ22が全開位置に到達したときのステッピングモータ24の位置を全開ステップ位置として設定する処理が完了していない状態)であったため、S34でISCステップ位置ISCSTEPに初期値(200ステップ)を一時的にセットしたが、フィードバック制御によってエンジン回転数NEが目標アイドル回転数NEaに収束するときは、ステッピングモータ24のステップ位置が図7に示されるISC目標ステップ位置にあると推定することができるため、S48では、ISCステップ位置ISCSTEPを、エンジン温度TWに基づいて算出されるISC目標ステップ位置のステップ値に置き換えるようにした。
【0071】
これにより、初期化処理の中止によって全開位置に到達したときのステッピングモータ24の位置を全開ステップ位置とする設定が行われない場合であっても、ステッピングモータ24の脱調によって生じたECU74の認識するステップ位置とステッピングモータの実ステップ位置との間のズレを修正でき、ステッピングモータ24によるISCバルブ22の制御精度を確保することが可能となる。尚、S48の処理後、S36に進んでステッピングモータ24の駆動を停止させてプログラムを終了する。
【0072】
図10は上記した処理を説明するタイム・チャートである。図10においては、上から順にイグニッションスイッチ66のポジション、スタータスイッチ70の出力、ステッピングモータ24の実際のステップ位置(実ステップ位置)、エンジン回転数NEおよびISCステップ位置ISCSTEPを示す。
【0073】
図10に示す如く、時点t1においてイグニッションスイッチ66がオンされると、ステッピングモータ24の初期化処理を開始する。具体的には、ステッピングモータ24の動作を制御してISCバルブ22を全開位置に向けて駆動する。
【0074】
ISCバルブ22が全開位置に到達する前の時点t2においてスタータスイッチ70がオンされると、エンジン10は始動し、その後エンジン回転数NEが完爆回転数NEref以上となる(時点t3)。その場合、初期化処理を中止、具体的にはステッピングモータ24の駆動を停止してISCバルブ22の開方向への駆動を停止すると共に、ISCステップ位置ISCSTEPにISCバルブ22の全開位置を示す初期値(200ステップ)を一時的にセットする。
【0075】
そして、エンジン回転数NEがアイドル回転数NEaに一致するように、ステッピングモータ24を介してISCバルブ22の開度をフィードバック制御する。フィードバック制御によってISCバルブ22は閉方向に駆動され、エンジン回転数NEは目標アイドル回転数NEaに収束、即ち、エンジン回転数NEと目標アイドル回転数NEaの差が既定値以下となるとき(時点t4)、ISCステップ位置ISCSTEPを、エンジン温度TWに基づいて算出されるISC目標ステップ位置のステップ値に置き換え、ECU74の認識するステップ位置とステッピングモータ24の実ステップ位置との間のズレを修正する。
【0076】
尚、エンジン回転数NEが完爆回転数NEref以上となった時点t3後も初期化処理を継続、即ち、ISCバルブ22を全開位置まで駆動すると、エンジン回転数NEは、図10に破線で示す如く、不要に上昇して吹き上がる。
【0077】
図4フロー・チャートの説明に戻り、前記したフィードバック制御中止判断処理について説明する。
【0078】
フィードバック制御は、前述したように、エンジン回転数NEをアイドル回転数NEaに一致させるようにステッピングモータ24の動作を制御してISCバルブ22を駆動する。そのようなフィードバック制御を実行しているとき、車両の運転状態によっては吸入空気量が不足し、エンジン10がストールする恐れがある。
【0079】
即ち、例えばエンジン10の出力が変速機とクラッチを介して後輪(駆動輪)に伝達される状態で降坂路を走行する場合、路面から作用する外力によってエンジン10のクランクシャフト42は回転させられ、エンジン回転数NEは一定に保持される(あるいは上昇する)。そのような状態でエンジン回転数NEが目標アイドル回転数NEaを超えると、ISCバルブ22はフィードバック制御によって吸入空気量を減ずる閉方向へ駆動されることとなる。そのとき、エンジン10と後輪との動力伝達がクラッチによって断たれると共に、ISCバルブ22が全閉位置付近にあると、吸入空気量が不足してエンジン回転数NEが低下し、エンジン10がストールする恐れがある。
【0080】
そこで、この発明に係る内燃機関の制御装置あっては、フィードバック制御の実行中に、ISCバルブ22の駆動とISCバルブ22の駆動によって変動するエンジン回転数NEの相関を監視し、フィードバック制御を実行する必要がない運転状態にあると判断できるときはフィードバック制御を中止するようにした。
【0081】
以下具体的に説明すると、図4フロー・チャートにおいてフィードバック制御の実行中に、S40の処理が実行されると、図9に示すフィードバック制御中止(停止)判断処理が行われる。
【0082】
図9に示すように、先ずS300において、前述した如く、前回のプログラムループでフィードバック制御を実行したか否か判断する。今回のプログラムループはフィードバック制御の実行中であるため、S300で肯定されてS308に進み、ステッピングモータ24によってISCバルブ22が連続して第2の所定ステップ数ISCSTEPref2(例えば20ステップ)駆動されたか否か判断する。これは、ISCステップ位置ISCSTEPとS304でバッファリングした値ISCSTEPBUFとの差が絶対値において第2の所定ステップ数ISCSTEPref2以上か否かで判断する。
【0083】
S308で否定されるときは以降の処理をスキップする一方、肯定されるときはS310に進み、ISCステップ位置ISCSTEPが値ISCSTEPBUF以上か否か判断する。S310で肯定、即ち、ISCバルブ22が開方向に駆動したときはS312に進み、開方向駆動フラグF_DSTEPFBのビットを1にセットする。他方、S310で否定、即ち、ISCバルブ22が閉方向に駆動したときはS314に進み、開方向駆動フラグF_DSTEPFBのビットを0にセットする。
【0084】
次いでS316に進み、エンジン回転数NEの変化量DNEFBを算出する。変化量DNEFBは、具体的にはエンジン回転数NEからS302でバッファリングした値NEBUFを減算して得た差の絶対値である。
【0085】
次いでS318に進み、エンジン回転数NEがS302でバッファリングした値NEBUF以上か否か判断する。S318で肯定されるときはS320に進み、回転数上昇フラグF_DNEFBのビットを1にセットする一方、否定されるときはS322に進んでフラグF_DNEFBのビットを0にセットする。従って、回転数上昇フラグF_DNEFBのビットが1にセットされることは、エンジン回転数NEが上昇(増加)していることを、0にセットされることはエンジン回転数NEが下降(減少)していることを意味する。
【0086】
次いでS324に進み、前述したS306でスタートさせたタイマTMFBCHKの値が所定タイマ値以上か否か判断する。所定タイマ値としては、ISCバルブ22において開方向または閉方向に所定ステップ数駆動する動作が連続して行われたと判断できるような値に設定され、例えば200msecとされる。
【0087】
具体的に説明すると、ステッピングモータ24は駆動周波数200pps(即ち、1ステップ駆動するのに5msecを要する)で駆動される。第2の所定ステップ数ISCSTEPref2を例えば20ステップと設定する場合、連続して駆動すると100msecの時間を要することとなる。よって所定タイマ値を200msecとすることで、タイマTMFBCHKの値が所定タイマ値未満であれば、ISCバルブ22が連続して駆動されたと判断できる一方、所定タイマ値以上であれば比較的長い時間をかけて駆動された、換言すれば、連続して駆動されていないと判断することができる。
【0088】
S324で否定されるときはS326に進み、ISCバルブ22の開閉方向に対してエンジン回転NEの変化方向が一致しているか否か判断する。これは、開方向駆動フラグF_DSTEPFBと回転数上昇フラグF_DNEFBのビットが一致しているか否かで判断する。
【0089】
S326は、具体的には、ISCバルブ22が開方向へ駆動されている(即ち、吸入空気量が増加している)にも関わらずエンジン回転数NEが下降する、逆に、ISCバルブ22が閉方向へ駆動されている(即ち、吸入空気量が減少している)にも関わらずエンジン回転数NEが上昇するという、ISCバルブ22による吸入空気量の増減とエンジン回転数NEの上昇・下降が一致していない運転状態の場合、フィードバック制御を実行する必要がないと判断するようにした処理である。
【0090】
S326で肯定されるときはS328に進み、エンジン回転数の変化量DNEFBが所定値DNEFBref未満か否か判断する。S328で肯定またはS326で否定されるときは、上記したようなエンジン10がストールする恐れがあり、フィードバック制御を実行する必要がない運転状態にあると判断し、S330に進んでフィードバック制御中止フラグF_ISCFBNGのビットを1にセットする。
【0091】
他方、S324で肯定あるいはS328で否定されるときは、フィードバック制御を実行しても良い運転状態にあると判断し、S332に進んでフィードバック制御中止フラグF_ISCFBNGのビットを0にセットする。S330またはS332の処理後、前記したS302からS306の処理を実行し、図4フロー・チャートへ戻る。
【0092】
S332においてフラグF_ISCFBNGのビットが0にセットされるときはS42で否定されてS44以降の処理に進み、フィードバック制御を継続して実行する。一方、S330においてフラグF_ISCFBNGのビットが1にセットされると、S42で肯定されてS50に進み、フィードバック再開ディレイタイマ(ダウンカウンタ)の値に所定ディレイタイマ値(所定時間)をセットする。このフィードバック再開ディレイタイマは、フィードバック制御が長時間に亘って中止されるのを回避(防止)するタイマであるため、所定ディレイタイマ値は適宜な時間(例えば5sec)とされる。
【0093】
次いでS24に進み、フィードバック制御を中止し(フィードバック制御に代え)、ステッピングモータ24を前記したオープンループ制御する。このように、フィードバック制御の実行中に、ISCバルブ22が開方向または閉方向に連続して所定ステップ数(第2の所定ステップ数ISCSTEPref2)駆動されると共に、エンジンの回転数の変化量DNEFBが所定値DNEFBref未満のとき、フィードバック制御を中止する。
【0094】
次回以降のプログラムループにおいては、フィードバック再開ディレイタイマの値が0になるまではS38で否定され、オープンループ制御を継続する。そして、フィードバック再開ディレイタイマの値が0になるとき(換言すれば、フィードバック制御を中止してから所定時間経過した後)、オープンループ制御からフィードバック制御に切り換える、即ち、フィードバック制御を再開する。
【0095】
以上の如く、この発明の実施例にあっては、内燃機関(エンジン)10の吸気路12に配置されるスロットルバルブ14と、前記吸気路に接続されて前記スロットルバルブをバイパスするバイパス路20と、前記バイパス路の空気量を調整して前記内燃機関のアイドル回転数NEaを調整するアイドル回転数制御バルブ(ISCバルブ)22と、前記アイドル回転数制御バルブを駆動するステッピングモータ24とを備えた内燃機関の制御装置において、イグニッションスイッチ66がオンされたとき、前記ステッピングモータ24によって前記アイドル回転数制御バルブ22を全開位置まで駆動すると共に、前記全開位置に到達したときの前記ステッピングモータ24の位置を全開ステップ位置(全開ステップ値)として設定する初期化処理を実行する初期化処理実行手段と(ECU74。S22,S100〜S112)、前記初期化処理において前記アイドル回転数制御バルブ22が前記全開位置に到達する前に前記内燃機関の回転数NEが所定回転数(完爆回転数)NEref以上となると共に、前記スロットルバルブ14がアイドル開度にあるとき、前記初期化処理を中止させる初期化処理中止手段と(ECU74。S18,S26〜S36)、前記初期化処理が中止されるとき、前記内燃機関の回転数NEが目標アイドル回転数NEaに一致するように、前記ステッピングモータ24を介して前記アイドル回転数制御バルブ22の開度をフィードバック制御するフィードバック制御手段とを備える如く構成した(ECU74。S28,S46)。
【0096】
このように、初期化処理の実行中にエンジン10が始動されて所定回転数(完爆回転数)NErefになり、スロットルバルブ14がアイドル開度にあるとき、ISCバルブ22を全開位置まで駆動する動作を中止すると共に、エンジン回転数NEが目標アイドル回転数NEaに一致するようにISCバルブ22の開度をフィードバック制御するように構成したので、ステッピングモータ24の初期化処理の実行中にエンジン10が始動される場合において、エンジン回転数NEの不要な上昇(図10に破線で示すような吹き上がり)を防止することができる。
【0097】
また、従来技術のように点火時期の遅角や燃料カットなどを行わず、ISCバルブ22の開度を調整して吸入空気量を調整することで、エンジン回転数NEの不要な上昇を防止するように構成したので、排気系の部品(例えば触媒装置50)の劣化や破損、またはエンジン回転数NEのハンチングなどによって運転者に違和感を与えるなどの不具合を生じることもない。また、内燃機関の制御装置においては、温度によるエンジンオイルの粘性変化などを考慮して、点火時期や燃料噴射量をエンジン温度TWに応じて補正(エンジン温度補正)するのが一般的であるが、従来技術のような点火時期の遅角や燃料カットではなく、上記のように構成してエンジン回転数NEの吹き上がりを防止するように構成したので、前記エンジン温度補正への影響を小さくすることができる。
【0098】
また、前記内燃機関の温度(エンジン温度)TWを検出する温度検出手段と(水温センサ62。ECU74。S200)、前記検出された内燃機関の温度TWに基づいて前記ステッピングモータ24の目標ステップ位置(ISC目標ステップ位置)を算出する目標ステップ位置算出手段と(ECU74。S202)、前記検出された内燃機関の温度TWに基づき、前記フィードバック制御の実行中に、前記内燃機関の回転数NEと前記目標アイドル回転数NEaの差が既定値以下となるときの前記ステッピングモータ24の位置を前記目標ステップ位置のステップ値に置き換える置き換え手段とを備える如く構成した(ECU74。S44,S48)。
【0099】
これにより、初期化処理の中止によって全開位置に到達したときのステッピングモータ24の位置を全開ステップ位置とする設定が行われない場合であっても、エンジン回転数NEが目標アイドル回転数NEaに収束するときのステッピングモータ24の位置を目標ステップ位置のステップ値に置き換えることで、ステッピングモータ24の脱調によって生じたECU74の認識するステップ位置(ISCステップ位置ISCSTEP)とステッピングモータ24の実際のステップ位置(実ステップ位置)との間のズレを修正でき、ステッピングモータ24によるISCバルブ22の制御精度を確保することができる。
【0100】
また、前記フィードバック制御手段は、前記フィードバック制御の実行中に、前記アイドル回転数制御バルブ22が開方向または閉方向に連続して所定ステップ数(第2の所定ステップ数)ISCSTEPref2駆動されると共に、前記内燃機関の回転数の変化量DNEFBが所定値DNEFBref未満のとき、前記フィードバック制御を中止する如く構成したので(ECU74。S24,S40,S42,S300〜S332)、フィードバック制御を実行する必要がない運転状態のときにフィードバック制御を中止でき、よってエンジン10のストールを防止することができる。
【0101】
また、前記フィードバック制御手段は、前記フィードバック制御を中止してから所定時間経過した後(フィードバック再開ディレイタイマの値が0になるとき)、前記フィードバック制御を再開する如く構成したので(ECU74。S50,S38)、中止していたフィードバック制御を効果的なタイミングで再開させることが可能となる。
【0102】
尚、上記において、ISC目標ステップ位置と目標アイドル回転数NEaをエンジン温度TWに基づいて算出するように構成したが、それに限られるものではなく、エンジン温度TWに加えて例えば吸入空気の温度TAや吸気路内絶対圧PBA、図示しないエアコンやラジエータファンなどの電気負荷の変化量などを考慮して算出するようにしても良い。
【0103】
また、所定回転数(完爆回転数)NEref、所定値DNEFBref、所定ディレイタイマ値やエンジン10の排気量などを具体的な値で示したが、それらは例示であって限定されるものではない。
【0104】
また、車両の例として二輪自動車を挙げたが、それに限られるものではなく、例えばスクータやATV(All Terrain Vehicle)など、運転者がシート(サドル)に跨って乗る型の、いわゆる鞍乗り型車両であれば良く、さらには他の車両(例えば四輪自動車)であっても良い。
【図面の簡単な説明】
【0105】
【図1】この発明の実施例に係る内燃機関の制御装置を模式的に示す概略図である。
【図2】図1に示すISCバルブとステッピングモータ付近を拡大して示す拡大模式断面図である。
【図3】図1に示すECUの構成を全体的に示すブロック図である。
【図4】図1に示す内燃機関の制御装置の動作を示すフロー・チャートである。
【図5】図4のステッピングモータの初期化処理のサブ・ルーチン・フロー・チャートである。
【図6】図4の処理で利用されるISC目標ステップ位置と目標アイドル回転数の算出処理を示すフロー・チャートである。
【図7】図6フロー・チャートの処理で算出するISC目標ステップ位置に対するエンジン温度の特性を示すグラフである。
【図8】図6フロー・チャートの処理で算出する目標アイドル回転数に対するエンジン温度の特性を示すグラフである。
【図9】図4のフィードバック制御中止判断処理のサブ・ルーチン・フロー・チャートである。
【図10】図1に示す内燃機関の制御装置の動作を示すタイム・チャートである。
【符号の説明】
【0106】
10 エンジン(内燃機関)、12 吸気路、14 スロットルバルブ、20 バイパス路、22 ISCバルブ(アイドル回転数制御バルブ)、24 ステッピングモータ、62 水温センサ、70 イグニッションスイッチ、74 ECU(電子制御ユニット)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の吸気路に配置されるスロットルバルブと、前記吸気路に接続されて前記スロットルバルブをバイパスするバイパス路と、前記バイパス路の空気量を調整して前記内燃機関のアイドル回転数を調整するアイドル回転数制御バルブと、前記アイドル回転数制御バルブを駆動するステッピングモータとを備えた内燃機関の制御装置において、イグニッションスイッチがオンされたとき、前記ステッピングモータによって前記アイドル回転数制御バルブを全開位置まで駆動すると共に、前記全開位置に到達したときの前記ステッピングモータの位置を全開ステップ位置として設定する初期化処理を実行する初期化処理実行手段と、前記初期化処理において前記アイドル回転数制御バルブが前記全開位置に到達する前に前記内燃機関の回転数が所定回転数以上となると共に、前記スロットルバルブがアイドル開度にあるとき、前記初期化処理を中止させる初期化処理中止手段と、前記初期化処理が中止されるとき、前記内燃機関の回転数が目標アイドル回転数に一致するように、前記ステッピングモータを介して前記アイドル回転数制御バルブの開度をフィードバック制御するフィードバック制御手段とを備えることを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項2】
前記内燃機関の温度を検出する温度検出手段と、前記検出された内燃機関の温度に基づいて前記ステッピングモータの目標ステップ位置を算出する目標ステップ位置算出手段と、前記検出された内燃機関の温度に基づき、前記フィードバック制御の実行中に、前記内燃機関の回転数と前記目標アイドル回転数の差が既定値以下となるときの前記ステッピングモータの位置を前記目標ステップ位置のステップ値に置き換える置き換え手段とを備えることを特徴とする請求項1記載の内燃機関の制御装置。
【請求項3】
前記フィードバック制御手段は、前記フィードバック制御の実行中に、前記アイドル回転数制御バルブが開方向または閉方向に連続して所定ステップ数駆動されると共に、前記内燃機関の回転数の変化量が所定値未満のとき、前記フィードバック制御を中止することを特徴とする請求項1または2記載の内燃機関の制御装置。
【請求項4】
前記フィードバック制御手段は、前記フィードバック制御を中止してから所定時間経過した後、前記フィードバック制御を再開することを特徴とする請求項3記載の内燃機関の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−156269(P2010−156269A)
【公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−334996(P2008−334996)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【出願人】(000141901)株式会社ケーヒン (1,140)
【Fターム(参考)】