内燃機関の制御装置
【課題】本発明は、吸気ポート内に燃料を噴射する内燃機関の制御装置に関し、吸気ポート内壁への燃料の付着を抑制し、且つ、噴孔へのデポジットの堆積を抑制することを目的とする。
【解決手段】本発明の内燃機関の制御装置は、内燃機関10の吸気ポート22内に燃料を噴射する噴孔の位置を移動させることによって噴孔と燃焼室20との距離を変化可能な燃料噴射装置と、燃料噴射量が所定値以下の場合(内燃機関10の停止時を含む)には、燃料噴射量が上記所定値を超える場合と比べて、噴孔と燃焼室20との距離Lを長くする噴孔位置制御手段と、を備えることを特徴とする。
【解決手段】本発明の内燃機関の制御装置は、内燃機関10の吸気ポート22内に燃料を噴射する噴孔の位置を移動させることによって噴孔と燃焼室20との距離を変化可能な燃料噴射装置と、燃料噴射量が所定値以下の場合(内燃機関10の停止時を含む)には、燃料噴射量が上記所定値を超える場合と比べて、噴孔と燃焼室20との距離Lを長くする噴孔位置制御手段と、を備えることを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
吸気ポート内に燃料を噴射する内燃機関においては、吸気ポート内壁への燃料の付着を抑制することが望ましい。燃料インジェクタの噴孔が上流側(燃焼室から遠い側)にあるほど、噴射された燃料のうち吸気ポート内壁に付着する割合が高くなる。一般的な内燃機関では、1気筒当たり吸気弁が二つあるために吸気ポートが二つに分岐しているので、吸気ポートの分岐部より上流側に燃料インジェクタを配置する必要がある。このため、分岐部が燃焼室から遠い位置にある場合には、燃料インジェクタが燃焼室から遠くなるので、吸気ポート内壁に付着する燃料の割合が高くなる。
【0003】
下記特許文献1には、上記の問題を解決するため、一つの気筒の二つの吸気ポートのそれぞれに燃料インジェクタを設けることにより、燃料インジェクタの位置を燃焼室に近づけた内燃機関が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−133360号公報
【特許文献2】特開2006−226132号公報
【特許文献3】特開2005−330961号公報
【特許文献4】特開2009−121364号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
燃料インジェクタの位置を燃焼室に近づけることにより、吸気ポート内壁への燃料の付着を抑制することができるが、次のような別の問題が発生する。燃料インジェクタが燃焼室に近い位置にあると、燃焼室からの輻射熱により、燃料インジェクタの噴孔付近の温度が高くなり易い。その結果、燃料が噴孔内で炭化し、デポジットとして堆積し易い。このため、噴孔が狭くなり、噴射量が低下するなどの問題を生ずる。噴霧の微粒化を図るために小さい噴孔径を採用している場合には、この問題がより深刻化する。
【0006】
本発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、吸気ポート内に燃料を噴射する内燃機関において、吸気ポート内壁への燃料の付着を抑制し、且つ、噴孔へのデポジットの堆積を抑制することのできる内燃機関の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明は、上記の目的を達成するため、内燃機関の制御装置であって、
内燃機関の吸気ポート内に燃料を噴射する噴孔の位置を移動させることによって前記噴孔と燃焼室との距離を変化可能な燃料噴射装置と、
燃料噴射量が所定値以下の場合(前記内燃機関の停止時を含む)には、燃料噴射量が前記所定値を超える場合と比べて、前記噴孔と前記燃焼室との距離を長くする噴孔位置制御手段と、
を備えることを特徴とする。
【0008】
また、第2の発明は、第1の発明において、
前記内燃機関は、1気筒当たり複数の前記吸気ポートを有し、該複数の吸気ポート毎に前記燃料噴射装置が設けられていることを特徴とする。
【0009】
また、第3の発明は、第2の発明において、
各気筒の複数の前記燃料噴射装置の燃料噴射量が異なる場合には、燃料噴射量が多い前記燃料噴射装置の前記噴孔と前記燃焼室との距離が、燃料噴射量が少ない前記燃料噴射装置(燃料噴射量がゼロの場合を含む)の前記噴孔と前記燃焼室との距離より短くなるようにする第2の噴孔位置制御手段を備えることを特徴とする。
【0010】
また、第4の発明は、第1乃至第3の発明の何れかにおいて、
前記内燃機関のアイドル時に前記内燃機関を自動停止する自動停止手段を備えることを特徴とする。
【0011】
また、第5の発明は、第1乃至第3の発明の何れかにおいて、
前記内燃機関と電気モータとを組み合わせて動力を発生するハイブリッド装置を備え、前記ハイブリッド装置は、前記内燃機関を停止して前記電気モータのみで動力を発生可能であることを特徴とする。
【0012】
また、第6の発明は、第1乃至第5の発明の何れかにおいて、
前記噴孔の位置に応じて燃料噴射時期を変更する燃料噴射時期制御手段を備えることを特徴とする。
【0013】
また、第7の発明は、第6の発明において、
前記燃料噴射時期制御手段は、前記噴孔と前記燃焼室との距離が所定の基準より短い場合には、吸気弁の開弁期間に同期して燃料が噴射されるように燃料噴射時期を変更することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
第1の発明によれば、通過燃料による冷却効果が少なく、噴孔付近の温度が上昇し易い場合に、噴孔を燃焼室から遠ざけることができる。このため、噴孔付近が燃焼室からの輻射熱によって高温となることを抑制することができるので、噴孔にデポジットが堆積することを確実に抑制することができる。また、燃料噴射量が比較的多い場合には、噴孔を燃焼室に近づけることができるので、吸気ポートの内壁に燃料が付着することを確実に抑制することができる。
【0015】
第2の発明によれば、一つの気筒の複数の吸気ポート毎に燃料噴射装置を設けることにより、噴孔の位置を燃焼室により近づけることができ、吸気ポートの内壁に燃料が付着することをより確実に抑制することができる。
【0016】
第3の発明によれば、燃料噴射量が多い方の燃料噴射装置では噴孔と燃焼室との距離を短くすることによって吸気ポートの内壁への燃料の付着を抑制し、且つ、燃料噴射量が少なく、通過燃料による冷却効果の小さい方の燃料噴射装置では噴孔と燃焼室との距離を長くすることによって噴孔付近の温度上昇を抑制してデポジットの堆積を抑制することができる。
【0017】
第4の発明によれば、内燃機関のアイドル時に内燃機関を自動停止する自動停止手段を備え、内燃機関の停止と始動が頻繁に繰り返されるシステムにおいても、噴孔へのデポジットの堆積を確実に抑制することができる。
【0018】
第5の発明によれば、内燃機関と電気モータとを組み合わせて動力を発生するハイブリッド装置を備え、内燃機関の停止と始動が頻繁に繰り返されるシステムにおいても、噴孔へのデポジットの堆積を確実に抑制することができる。
【0019】
第6の発明によれば、噴孔の位置に応じて燃料噴射時期を変更することにより、吸気ポート内壁への燃料付着の抑制と、噴孔へのデポジット堆積の抑制とをより確実に両立することができる。
【0020】
第7の発明によれば、噴孔と燃焼室との距離が短い場合には、吸気弁の開弁期間に同期して燃料を噴射することができる。これにより、燃料噴霧が新気の気流に乗って筒内に流入するので、吸気ポート内壁への燃料付着を更に抑制することができ、燃料噴霧を筒内により多く導入することができる。このため、燃料量の実燃焼割合(燃焼寄与率)が向上し、より安定した燃焼や、未燃燃料の減少といった効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施の形態1のシステム構成を説明するための図である。
【図2】内燃機関の気筒を上方から見た状態を示す模式図である。
【図3】内燃機関の気筒を上方から見た状態を示す模式図である。
【図4】内燃機関の気筒を上方から見た状態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。なお、各図において共通する要素には、同一の符号を付して、重複する説明を省略する。
【0023】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1のシステム構成を示す図である。図1に示すように、本実施形態のシステムは、車両等に搭載される内燃機関10を備えている。図1では、内燃機関10が備える複数の気筒12のうちの一つの断面が示されているが、本発明において気筒数および気筒配置は特に限定されるものではない。各気筒12には、吸気弁14と、排気弁16と、点火プラグ18とが設けられている。また、各気筒12の燃焼室20には、吸気ポート22と、排気ポート24とが連通している。
【0024】
また、各気筒12には、吸気ポート22内に燃料を噴射する燃料インジェクタ(燃料噴射弁)26と、この燃料インジェクタ26の位置を変更可能な移動機構とが設けられている。本実施形態における移動機構は、燃料インジェクタ26をその軸線方向に移動可能に案内するガイド部28と、燃料インジェクタ26を移動させるアクチュエータ30とを有している。アクチュエータ30の構造はいかなる構造であってもよいが、例えば、燃料インジェクタ26側に設けられたラックに噛み合うピニオンギアを回転させることによって燃料インジェクタ26をガイド部28に沿って移動させる構造を採用することができる。内燃機関10では、このような移動機構によって燃料インジェクタ26を移動させることにより、燃料インジェクタ26を、燃焼室20に近づけたり、燃焼室20から遠ざけたりすることができる。すなわち、燃料インジェクタ26の先端に形成されている噴孔と、燃焼室20との距離L(以下、「噴孔−燃焼室間距離」と称する)を変化させることができる。図1に示すように、本実施形態では、燃料インジェクタ26の先端と、吸気弁14のバルブシートとの距離を噴孔−燃焼室間距離Lと定義する。
【0025】
本実施形態のシステムは、更に、制御装置としてのECU(Electronic Control Unit)50を備えている。ECU50には、前述した点火プラグ18、燃料インジェクタ26およびアクチュエータ30を含む各種のアクチュエータと、クランク角センサ32、エアフローメータ34およびアクセル開度センサ36を含む各種のセンサとがそれぞれ電気的に接続されている。クランク角センサ32は、内燃機関10のクランク軸の回転に同期した信号を出力する。エアフローメータ34は、内燃機関10に吸入される空気の量を検出する。アクセル開度センサ36は、車両の運転者によるアクセルペダルの操作量(アクセル開度)を検出する。ECU50は、各センサによりエンジン運転情報を検出し、その検出結果に基いて各アクチュエータを駆動することにより、運転制御を行う。例えば、クランク角センサ32の出力に基いて機関回転速度とクランク角とを検出し、エアフローメータ34により吸入空気量を検出する。また、吸入空気量、機関回転速度等に基いて燃料噴射量を算出し、クランク角に基いて燃料噴射時期、点火時期等を決定した後に、燃料噴射制御および点火制御を実行する。
【0026】
図2は、内燃機関10の気筒12を上方から見た状態を示す模式図である。図2に示すように、本実施形態の内燃機関10では、1気筒当たりに二つの吸気弁14および吸気ポート22が設けられている。そして、各気筒の二つの吸気ポート22にそれぞれ燃料インジェクタ26およびその移動機構が設けられている。図2中、左側の気筒12は噴孔−燃焼室間距離Lを長くして噴孔を燃焼室20から遠ざけた状態を示しており、右側の気筒12は噴孔−燃焼室間距離Lを短くして噴孔を燃焼室20に近づけた状態を示している。
【0027】
噴孔−燃焼室間距離Lを短くすると、燃料インジェクタ26から噴射された燃料が吸気ポート22の内壁に付着することを抑制することができる。吸気ポート22の内壁に付着した燃料は徐々に気化するので、遅れて筒内に流入する。このため、燃料インジェクタ26から噴射された燃料のうちで吸気ポート22の内壁に付着する割合が高いと、特に過渡運転時などにおいて、筒内の空燃比を正確に制御することが難しくなる。これに対し、噴孔−燃焼室間距離Lを短くすることにより、吸気ポート22の内壁への燃料の付着を抑制することができるので、筒内の空燃比をより正確に制御することができる。また、噴孔−燃焼室間距離Lを短くすることにより、燃料インジェクタ26から噴射された燃料のうち、吸気ポート22の内壁に付着せずに筒内に直接に流入して気化する割合が高くなるので、気化潜熱効果により筒内温度を低下させることができる。この筒内温度低下により、ノックを改善することができる。
【0028】
しかしながら、噴孔−燃焼室間距離Lを短くすると、上記のような優れた効果が得られる一方で、次のような問題がある。噴孔が燃焼室20に近いと、燃焼室20からの輻射熱を受けて噴孔付近が高温となり易い。このため、吸気ポート22内の燃料やEGRガスに含まれる成分などが噴孔内で炭化し、デポジットとして堆積し易い。デポジットによって噴孔が狭くなると、噴射量が低下するなどの問題を生ずる。特に、噴霧の微粒化を図るために小さい噴孔径を採用している場合には、この問題がより深刻化する。
【0029】
上記デポジットが堆積し易い時期は、内燃機関10が停止された後である。内燃機関10の運転中(燃料噴射量がある程度大きい場合)は、燃料インジェクタ26内を通過していく燃料によって燃料インジェクタ26の先端部も冷却されるので、噴孔付近の高温化が抑制され、デポジットは堆積しにくい。これに対し、内燃機関10が停止し、燃料インジェクタ26内の燃料の流れが停止した後は、上記通過燃料による冷却効果がなくなる一方、燃焼室20はまだ高温であるので、燃焼室20からの輻射熱を受けて噴孔付近の温度が上昇し、デポジットが堆積し易くなる。また、内燃機関10のアイドル運転時のように、燃料噴射量が小さく、燃料インジェクタ26内の燃料の流量が少ない場合にも、通過燃料による冷却効果が小さいため、同様の理由により、デポジットが堆積し易い。
【0030】
本実施形態では、上述した事項に鑑みて、次のような制御を行うこととした。ECU50には、燃料インジェクタ26の噴孔にデポジットが堆積し易いか否かの境界となる燃料噴射量の所定値が記憶されている。ECU50は、燃料噴射量がその所定値を超えている場合には、デポジットは堆積しにくいと判断し、噴孔−燃焼室間距離Lが比較的小さい値となるように制御する。これにより、噴孔−燃焼室間距離Lを短くして吸気ポート22内壁への燃料付着を抑制することによる上述した効果を十分に享受することができる。一方、ECU50は、燃料噴射量が上記所定値以下である場合(内燃機関10の停止時を含む)には、デポジットが堆積し易いと判断し、燃料噴射量が上記所定値を超える場合と比べて、噴孔−燃焼室間距離Lが大きい値となるように制御する。これにより、噴孔が燃焼室20から遠くなり、燃焼室20からの輻射熱を受けにくくなるので、噴孔付近の温度上昇が抑制される。このため、噴孔へのデポジットの堆積を確実に抑制することができる。
【0031】
内燃機関10の停止と始動が頻繁に行われるシステムでは、一般に、噴孔にデポジットがより堆積し易い。このため、本発明は、そのようなシステムにおいて特に有効である。内燃機関10の停止と始動が頻繁に行われるシステムとしては、燃料を節減するために車両停止中に内燃機関10を自動停止する自動停止手段を備えた車両が挙げられる。そのような車両において、自動停止手段は、アクセルペダル、ブレーキペダル、シフトレバーなどの位置や車速などの情報に基づいて、車両停止中のアイドル時に内燃機関10を自動停止するとともに、車両が再発進する直前に内燃機関10を自動で再始動する。
【0032】
そのほか、内燃機関10の停止と始動が頻繁に行われるシステムとしては、内燃機関10と電気モータとを組み合わせて動力を発生するハイブリッド装置を備えたハイブリッド車両、特に内燃機関10を停止して電気モータのみで走行可能なハイブリッド車両が挙げられる。このようなハイブリッド車両としては、例えば、シリーズハイブリッド方式のもの、シリーズパラレルハイブリッド方式のものなどが挙げられる。
【0033】
また、本発明は、吸気弁14の遅閉じによるアトキンソンサイクルを採用した内燃機関10にも好ましく適用することができる。一般に、吸気弁14の遅閉じによるアトキンソンサイクルでは、筒内に一旦吸入された混合気が吸気ポート22内に吹き返すので、吹き返した混合気に含まれる燃料によって燃料インジェクタ26の噴孔にデポジットが堆積し易い傾向がある。これに対し、本発明を適用することにより、噴孔へのデポジットの堆積を確実に抑制することができる。
【0034】
また、本発明では、以下のような制御を付加的に行ってもよい。図3は、内燃機関10の気筒12を上方から見た状態を示す模式図である。図3に示す内燃機関10は、各気筒12の二つの吸気弁14のうちの一方を閉弁状態で停止させる弁停止機構を備えている。この内燃機関10では、例えば筒内にスワールを形成する必要がある場合などには、弁停止機構によって各気筒12の二つの吸気弁14のうちの一方を閉弁状態で停止させ、一方の吸気ポート22のみから吸気することにより、筒内に強いスワールを形成することができる。図3では、左側の吸気弁14のみを動作させ、右側の吸気弁14を停止させた運転状態を示している。このように一方の吸気ポート22のみから吸気する場合には、その吸気ポート22の燃料インジェクタ26のみから燃料を噴射し、吸気しない吸気ポート22の燃料インジェクタ26からの燃料噴射は停止する。このような運転状態においては、図3に示すように、噴射している方の燃料インジェクタ26の噴孔−燃焼室間距離Lを、噴射停止中の燃料インジェクタ26の噴孔−燃焼室間距離Lより短くすることが好ましい。このように、両燃料インジェクタ26の噴孔−燃焼室間距離Lを異ならせることにより、次のような効果が得られる。すなわち、噴射停止中の燃料インジェクタ26では、通過燃料による冷却効果がないので、デポジットが堆積し易いが、噴孔−燃焼室間距離Lを長くして噴孔を燃焼室20から遠ざけることにより、噴孔の温度上昇を抑制し、デポジットの堆積を抑制することができる。一方、噴射している方の燃料インジェクタ26では、噴孔−燃焼室間距離Lを短くして吸気ポート22内壁への燃料付着を抑制することによる上述した効果を十分に享受することができる。
【0035】
一方の吸気ポート22のみから吸気する運転は、次のような構成によっても実現することができる。図4は、内燃機関10の気筒12を上方から見た状態を示す模式図である。図4に示す内燃機関10では、一つの気筒12の二つの吸気ポート22が隔壁38によって隔てられている。一方の吸気ポート22に配置された燃料インジェクタ26の上流側には、この吸気ポート22の入口を遮断可能な遮断弁40が設けられている。この遮断弁40を閉じることにより、吸気弁14を停止させることなく、他方の吸気ポート22のみから吸気する運転を行うことができる。この図4の場合においても、図3の例と同様の理由により、吸気する方の吸気ポート22の燃料インジェクタ26、すなわち噴射する方の燃料インジェクタ26の噴孔−燃焼室間距離Lを、吸気しない方の吸気ポート22の燃料インジェクタ26、すなわち噴射停止中の燃料インジェクタ26の噴孔−燃焼室間距離Lより短くすることが好ましい。
【0036】
なお、図3および図4では、一方の吸気ポート22の吸気量をゼロとするものとして説明したが、一つの気筒12の二つの吸気ポート22の吸気量に差をつけ、吸気量が多い方の吸気ポート22の燃料インジェクタ26からの燃料噴射量を、吸気量が少ない方の吸気ポート22の燃料インジェクタ26からの燃料噴射量より多くなるようにしてもよい。この場合、上記と同様の理由により、燃料噴射量が多い方の燃料インジェクタ26の噴孔−燃焼室間距離Lを、燃料噴射量が少ない方の燃料インジェクタ26の噴孔−燃焼室間距離Lより短くすることが好ましい。
【0037】
また、本発明では、燃料インジェクタ26の噴孔の位置に応じて燃料噴射時期を変更するように制御してもよい。具体的には、噴孔−燃焼室間距離Lを所定の基準より短くし、噴孔を燃焼室20に近づけたときには、吸気弁14の開弁期間に同期して燃料を噴射するように燃料噴射時期を制御することが望ましい。前述したように、噴孔−燃焼室間距離Lを短くした場合には、吸気ポート22の内壁への燃料の付着を抑制することができるが、吸気弁14の開弁期間に同期して燃料を噴射することにより、噴霧が新気の気流に乗って筒内に流入するので、吸気ポート22の内壁への燃料の付着を更に抑制することができ、燃料噴霧を筒内により多く導入することができる。このため、燃料量の実燃焼割合(燃焼寄与率)が向上し、より安定した燃焼や、未燃燃料の減少といった効果が得られる。
【0038】
また、理論空燃比運転と、リーンバーン運転(またはEGRバーン運転)とを切り替え可能な内燃機関10に本発明を適用する場合においては、リーンバーン運転(またはEGRバーン運転)時には、理論空燃比運転時と比べて、噴孔−燃焼室間距離Lを長くするように制御することが好ましい。リーンバーン運転時は、空気量に対して燃料噴射量が少ないため、通過燃料による燃料インジェクタ26先端の冷却効果が少なく、噴孔付近が高温となってデポジットが堆積し易い傾向がある。そこで、リーンバーン運転時に噴孔−燃焼室間距離Lを長くして噴孔を燃焼室20から遠ざけることにより、噴孔付近の温度上昇を抑制し、デポジットの堆積を確実に抑制することができる。また、EGRバーン運転時は、燃料インジェクタ26先端にEGRガスが接触する機会が多いため、噴孔付近にデポジットが堆積し易い傾向がある。そこで、EGRバーン運転時に噴孔−燃焼室間距離Lを長くして噴孔を燃焼室20から遠ざけ、噴孔付近の温度上昇を抑制することにより、デポジットの堆積を確実に抑制することができる。
【0039】
以上説明した実施の形態では、1気筒当たり二つの吸気ポート22を備えた内燃機関10を例に説明したが、本発明では、1気筒当たりの吸気ポートの数は一つでもよく、また三つ以上であってもよい。
【0040】
上述した実施の形態では、燃料インジェクタ26、ガイド部28およびアクチュエータ30が前記第1の発明における「燃料噴射装置」に相当している。また、ECU50がアクチュエータ30を駆動して噴孔−燃焼室間距離Lを上述したように制御することにより、前記第1の発明における「噴孔位置制御手段」および前記第2の発明における「第2の噴孔位置制御手段」が実現されている。
【符号の説明】
【0041】
10 内燃機関
12 気筒
14 吸気弁
16 排気弁
18 点火プラグ
20 燃焼室
22 吸気ポート
24 排気ポート
26 燃料インジェクタ
28 ガイド部
30 アクチュエータ
38 隔壁
40 遮断弁
50 ECU
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
吸気ポート内に燃料を噴射する内燃機関においては、吸気ポート内壁への燃料の付着を抑制することが望ましい。燃料インジェクタの噴孔が上流側(燃焼室から遠い側)にあるほど、噴射された燃料のうち吸気ポート内壁に付着する割合が高くなる。一般的な内燃機関では、1気筒当たり吸気弁が二つあるために吸気ポートが二つに分岐しているので、吸気ポートの分岐部より上流側に燃料インジェクタを配置する必要がある。このため、分岐部が燃焼室から遠い位置にある場合には、燃料インジェクタが燃焼室から遠くなるので、吸気ポート内壁に付着する燃料の割合が高くなる。
【0003】
下記特許文献1には、上記の問題を解決するため、一つの気筒の二つの吸気ポートのそれぞれに燃料インジェクタを設けることにより、燃料インジェクタの位置を燃焼室に近づけた内燃機関が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−133360号公報
【特許文献2】特開2006−226132号公報
【特許文献3】特開2005−330961号公報
【特許文献4】特開2009−121364号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
燃料インジェクタの位置を燃焼室に近づけることにより、吸気ポート内壁への燃料の付着を抑制することができるが、次のような別の問題が発生する。燃料インジェクタが燃焼室に近い位置にあると、燃焼室からの輻射熱により、燃料インジェクタの噴孔付近の温度が高くなり易い。その結果、燃料が噴孔内で炭化し、デポジットとして堆積し易い。このため、噴孔が狭くなり、噴射量が低下するなどの問題を生ずる。噴霧の微粒化を図るために小さい噴孔径を採用している場合には、この問題がより深刻化する。
【0006】
本発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、吸気ポート内に燃料を噴射する内燃機関において、吸気ポート内壁への燃料の付着を抑制し、且つ、噴孔へのデポジットの堆積を抑制することのできる内燃機関の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明は、上記の目的を達成するため、内燃機関の制御装置であって、
内燃機関の吸気ポート内に燃料を噴射する噴孔の位置を移動させることによって前記噴孔と燃焼室との距離を変化可能な燃料噴射装置と、
燃料噴射量が所定値以下の場合(前記内燃機関の停止時を含む)には、燃料噴射量が前記所定値を超える場合と比べて、前記噴孔と前記燃焼室との距離を長くする噴孔位置制御手段と、
を備えることを特徴とする。
【0008】
また、第2の発明は、第1の発明において、
前記内燃機関は、1気筒当たり複数の前記吸気ポートを有し、該複数の吸気ポート毎に前記燃料噴射装置が設けられていることを特徴とする。
【0009】
また、第3の発明は、第2の発明において、
各気筒の複数の前記燃料噴射装置の燃料噴射量が異なる場合には、燃料噴射量が多い前記燃料噴射装置の前記噴孔と前記燃焼室との距離が、燃料噴射量が少ない前記燃料噴射装置(燃料噴射量がゼロの場合を含む)の前記噴孔と前記燃焼室との距離より短くなるようにする第2の噴孔位置制御手段を備えることを特徴とする。
【0010】
また、第4の発明は、第1乃至第3の発明の何れかにおいて、
前記内燃機関のアイドル時に前記内燃機関を自動停止する自動停止手段を備えることを特徴とする。
【0011】
また、第5の発明は、第1乃至第3の発明の何れかにおいて、
前記内燃機関と電気モータとを組み合わせて動力を発生するハイブリッド装置を備え、前記ハイブリッド装置は、前記内燃機関を停止して前記電気モータのみで動力を発生可能であることを特徴とする。
【0012】
また、第6の発明は、第1乃至第5の発明の何れかにおいて、
前記噴孔の位置に応じて燃料噴射時期を変更する燃料噴射時期制御手段を備えることを特徴とする。
【0013】
また、第7の発明は、第6の発明において、
前記燃料噴射時期制御手段は、前記噴孔と前記燃焼室との距離が所定の基準より短い場合には、吸気弁の開弁期間に同期して燃料が噴射されるように燃料噴射時期を変更することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
第1の発明によれば、通過燃料による冷却効果が少なく、噴孔付近の温度が上昇し易い場合に、噴孔を燃焼室から遠ざけることができる。このため、噴孔付近が燃焼室からの輻射熱によって高温となることを抑制することができるので、噴孔にデポジットが堆積することを確実に抑制することができる。また、燃料噴射量が比較的多い場合には、噴孔を燃焼室に近づけることができるので、吸気ポートの内壁に燃料が付着することを確実に抑制することができる。
【0015】
第2の発明によれば、一つの気筒の複数の吸気ポート毎に燃料噴射装置を設けることにより、噴孔の位置を燃焼室により近づけることができ、吸気ポートの内壁に燃料が付着することをより確実に抑制することができる。
【0016】
第3の発明によれば、燃料噴射量が多い方の燃料噴射装置では噴孔と燃焼室との距離を短くすることによって吸気ポートの内壁への燃料の付着を抑制し、且つ、燃料噴射量が少なく、通過燃料による冷却効果の小さい方の燃料噴射装置では噴孔と燃焼室との距離を長くすることによって噴孔付近の温度上昇を抑制してデポジットの堆積を抑制することができる。
【0017】
第4の発明によれば、内燃機関のアイドル時に内燃機関を自動停止する自動停止手段を備え、内燃機関の停止と始動が頻繁に繰り返されるシステムにおいても、噴孔へのデポジットの堆積を確実に抑制することができる。
【0018】
第5の発明によれば、内燃機関と電気モータとを組み合わせて動力を発生するハイブリッド装置を備え、内燃機関の停止と始動が頻繁に繰り返されるシステムにおいても、噴孔へのデポジットの堆積を確実に抑制することができる。
【0019】
第6の発明によれば、噴孔の位置に応じて燃料噴射時期を変更することにより、吸気ポート内壁への燃料付着の抑制と、噴孔へのデポジット堆積の抑制とをより確実に両立することができる。
【0020】
第7の発明によれば、噴孔と燃焼室との距離が短い場合には、吸気弁の開弁期間に同期して燃料を噴射することができる。これにより、燃料噴霧が新気の気流に乗って筒内に流入するので、吸気ポート内壁への燃料付着を更に抑制することができ、燃料噴霧を筒内により多く導入することができる。このため、燃料量の実燃焼割合(燃焼寄与率)が向上し、より安定した燃焼や、未燃燃料の減少といった効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施の形態1のシステム構成を説明するための図である。
【図2】内燃機関の気筒を上方から見た状態を示す模式図である。
【図3】内燃機関の気筒を上方から見た状態を示す模式図である。
【図4】内燃機関の気筒を上方から見た状態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。なお、各図において共通する要素には、同一の符号を付して、重複する説明を省略する。
【0023】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1のシステム構成を示す図である。図1に示すように、本実施形態のシステムは、車両等に搭載される内燃機関10を備えている。図1では、内燃機関10が備える複数の気筒12のうちの一つの断面が示されているが、本発明において気筒数および気筒配置は特に限定されるものではない。各気筒12には、吸気弁14と、排気弁16と、点火プラグ18とが設けられている。また、各気筒12の燃焼室20には、吸気ポート22と、排気ポート24とが連通している。
【0024】
また、各気筒12には、吸気ポート22内に燃料を噴射する燃料インジェクタ(燃料噴射弁)26と、この燃料インジェクタ26の位置を変更可能な移動機構とが設けられている。本実施形態における移動機構は、燃料インジェクタ26をその軸線方向に移動可能に案内するガイド部28と、燃料インジェクタ26を移動させるアクチュエータ30とを有している。アクチュエータ30の構造はいかなる構造であってもよいが、例えば、燃料インジェクタ26側に設けられたラックに噛み合うピニオンギアを回転させることによって燃料インジェクタ26をガイド部28に沿って移動させる構造を採用することができる。内燃機関10では、このような移動機構によって燃料インジェクタ26を移動させることにより、燃料インジェクタ26を、燃焼室20に近づけたり、燃焼室20から遠ざけたりすることができる。すなわち、燃料インジェクタ26の先端に形成されている噴孔と、燃焼室20との距離L(以下、「噴孔−燃焼室間距離」と称する)を変化させることができる。図1に示すように、本実施形態では、燃料インジェクタ26の先端と、吸気弁14のバルブシートとの距離を噴孔−燃焼室間距離Lと定義する。
【0025】
本実施形態のシステムは、更に、制御装置としてのECU(Electronic Control Unit)50を備えている。ECU50には、前述した点火プラグ18、燃料インジェクタ26およびアクチュエータ30を含む各種のアクチュエータと、クランク角センサ32、エアフローメータ34およびアクセル開度センサ36を含む各種のセンサとがそれぞれ電気的に接続されている。クランク角センサ32は、内燃機関10のクランク軸の回転に同期した信号を出力する。エアフローメータ34は、内燃機関10に吸入される空気の量を検出する。アクセル開度センサ36は、車両の運転者によるアクセルペダルの操作量(アクセル開度)を検出する。ECU50は、各センサによりエンジン運転情報を検出し、その検出結果に基いて各アクチュエータを駆動することにより、運転制御を行う。例えば、クランク角センサ32の出力に基いて機関回転速度とクランク角とを検出し、エアフローメータ34により吸入空気量を検出する。また、吸入空気量、機関回転速度等に基いて燃料噴射量を算出し、クランク角に基いて燃料噴射時期、点火時期等を決定した後に、燃料噴射制御および点火制御を実行する。
【0026】
図2は、内燃機関10の気筒12を上方から見た状態を示す模式図である。図2に示すように、本実施形態の内燃機関10では、1気筒当たりに二つの吸気弁14および吸気ポート22が設けられている。そして、各気筒の二つの吸気ポート22にそれぞれ燃料インジェクタ26およびその移動機構が設けられている。図2中、左側の気筒12は噴孔−燃焼室間距離Lを長くして噴孔を燃焼室20から遠ざけた状態を示しており、右側の気筒12は噴孔−燃焼室間距離Lを短くして噴孔を燃焼室20に近づけた状態を示している。
【0027】
噴孔−燃焼室間距離Lを短くすると、燃料インジェクタ26から噴射された燃料が吸気ポート22の内壁に付着することを抑制することができる。吸気ポート22の内壁に付着した燃料は徐々に気化するので、遅れて筒内に流入する。このため、燃料インジェクタ26から噴射された燃料のうちで吸気ポート22の内壁に付着する割合が高いと、特に過渡運転時などにおいて、筒内の空燃比を正確に制御することが難しくなる。これに対し、噴孔−燃焼室間距離Lを短くすることにより、吸気ポート22の内壁への燃料の付着を抑制することができるので、筒内の空燃比をより正確に制御することができる。また、噴孔−燃焼室間距離Lを短くすることにより、燃料インジェクタ26から噴射された燃料のうち、吸気ポート22の内壁に付着せずに筒内に直接に流入して気化する割合が高くなるので、気化潜熱効果により筒内温度を低下させることができる。この筒内温度低下により、ノックを改善することができる。
【0028】
しかしながら、噴孔−燃焼室間距離Lを短くすると、上記のような優れた効果が得られる一方で、次のような問題がある。噴孔が燃焼室20に近いと、燃焼室20からの輻射熱を受けて噴孔付近が高温となり易い。このため、吸気ポート22内の燃料やEGRガスに含まれる成分などが噴孔内で炭化し、デポジットとして堆積し易い。デポジットによって噴孔が狭くなると、噴射量が低下するなどの問題を生ずる。特に、噴霧の微粒化を図るために小さい噴孔径を採用している場合には、この問題がより深刻化する。
【0029】
上記デポジットが堆積し易い時期は、内燃機関10が停止された後である。内燃機関10の運転中(燃料噴射量がある程度大きい場合)は、燃料インジェクタ26内を通過していく燃料によって燃料インジェクタ26の先端部も冷却されるので、噴孔付近の高温化が抑制され、デポジットは堆積しにくい。これに対し、内燃機関10が停止し、燃料インジェクタ26内の燃料の流れが停止した後は、上記通過燃料による冷却効果がなくなる一方、燃焼室20はまだ高温であるので、燃焼室20からの輻射熱を受けて噴孔付近の温度が上昇し、デポジットが堆積し易くなる。また、内燃機関10のアイドル運転時のように、燃料噴射量が小さく、燃料インジェクタ26内の燃料の流量が少ない場合にも、通過燃料による冷却効果が小さいため、同様の理由により、デポジットが堆積し易い。
【0030】
本実施形態では、上述した事項に鑑みて、次のような制御を行うこととした。ECU50には、燃料インジェクタ26の噴孔にデポジットが堆積し易いか否かの境界となる燃料噴射量の所定値が記憶されている。ECU50は、燃料噴射量がその所定値を超えている場合には、デポジットは堆積しにくいと判断し、噴孔−燃焼室間距離Lが比較的小さい値となるように制御する。これにより、噴孔−燃焼室間距離Lを短くして吸気ポート22内壁への燃料付着を抑制することによる上述した効果を十分に享受することができる。一方、ECU50は、燃料噴射量が上記所定値以下である場合(内燃機関10の停止時を含む)には、デポジットが堆積し易いと判断し、燃料噴射量が上記所定値を超える場合と比べて、噴孔−燃焼室間距離Lが大きい値となるように制御する。これにより、噴孔が燃焼室20から遠くなり、燃焼室20からの輻射熱を受けにくくなるので、噴孔付近の温度上昇が抑制される。このため、噴孔へのデポジットの堆積を確実に抑制することができる。
【0031】
内燃機関10の停止と始動が頻繁に行われるシステムでは、一般に、噴孔にデポジットがより堆積し易い。このため、本発明は、そのようなシステムにおいて特に有効である。内燃機関10の停止と始動が頻繁に行われるシステムとしては、燃料を節減するために車両停止中に内燃機関10を自動停止する自動停止手段を備えた車両が挙げられる。そのような車両において、自動停止手段は、アクセルペダル、ブレーキペダル、シフトレバーなどの位置や車速などの情報に基づいて、車両停止中のアイドル時に内燃機関10を自動停止するとともに、車両が再発進する直前に内燃機関10を自動で再始動する。
【0032】
そのほか、内燃機関10の停止と始動が頻繁に行われるシステムとしては、内燃機関10と電気モータとを組み合わせて動力を発生するハイブリッド装置を備えたハイブリッド車両、特に内燃機関10を停止して電気モータのみで走行可能なハイブリッド車両が挙げられる。このようなハイブリッド車両としては、例えば、シリーズハイブリッド方式のもの、シリーズパラレルハイブリッド方式のものなどが挙げられる。
【0033】
また、本発明は、吸気弁14の遅閉じによるアトキンソンサイクルを採用した内燃機関10にも好ましく適用することができる。一般に、吸気弁14の遅閉じによるアトキンソンサイクルでは、筒内に一旦吸入された混合気が吸気ポート22内に吹き返すので、吹き返した混合気に含まれる燃料によって燃料インジェクタ26の噴孔にデポジットが堆積し易い傾向がある。これに対し、本発明を適用することにより、噴孔へのデポジットの堆積を確実に抑制することができる。
【0034】
また、本発明では、以下のような制御を付加的に行ってもよい。図3は、内燃機関10の気筒12を上方から見た状態を示す模式図である。図3に示す内燃機関10は、各気筒12の二つの吸気弁14のうちの一方を閉弁状態で停止させる弁停止機構を備えている。この内燃機関10では、例えば筒内にスワールを形成する必要がある場合などには、弁停止機構によって各気筒12の二つの吸気弁14のうちの一方を閉弁状態で停止させ、一方の吸気ポート22のみから吸気することにより、筒内に強いスワールを形成することができる。図3では、左側の吸気弁14のみを動作させ、右側の吸気弁14を停止させた運転状態を示している。このように一方の吸気ポート22のみから吸気する場合には、その吸気ポート22の燃料インジェクタ26のみから燃料を噴射し、吸気しない吸気ポート22の燃料インジェクタ26からの燃料噴射は停止する。このような運転状態においては、図3に示すように、噴射している方の燃料インジェクタ26の噴孔−燃焼室間距離Lを、噴射停止中の燃料インジェクタ26の噴孔−燃焼室間距離Lより短くすることが好ましい。このように、両燃料インジェクタ26の噴孔−燃焼室間距離Lを異ならせることにより、次のような効果が得られる。すなわち、噴射停止中の燃料インジェクタ26では、通過燃料による冷却効果がないので、デポジットが堆積し易いが、噴孔−燃焼室間距離Lを長くして噴孔を燃焼室20から遠ざけることにより、噴孔の温度上昇を抑制し、デポジットの堆積を抑制することができる。一方、噴射している方の燃料インジェクタ26では、噴孔−燃焼室間距離Lを短くして吸気ポート22内壁への燃料付着を抑制することによる上述した効果を十分に享受することができる。
【0035】
一方の吸気ポート22のみから吸気する運転は、次のような構成によっても実現することができる。図4は、内燃機関10の気筒12を上方から見た状態を示す模式図である。図4に示す内燃機関10では、一つの気筒12の二つの吸気ポート22が隔壁38によって隔てられている。一方の吸気ポート22に配置された燃料インジェクタ26の上流側には、この吸気ポート22の入口を遮断可能な遮断弁40が設けられている。この遮断弁40を閉じることにより、吸気弁14を停止させることなく、他方の吸気ポート22のみから吸気する運転を行うことができる。この図4の場合においても、図3の例と同様の理由により、吸気する方の吸気ポート22の燃料インジェクタ26、すなわち噴射する方の燃料インジェクタ26の噴孔−燃焼室間距離Lを、吸気しない方の吸気ポート22の燃料インジェクタ26、すなわち噴射停止中の燃料インジェクタ26の噴孔−燃焼室間距離Lより短くすることが好ましい。
【0036】
なお、図3および図4では、一方の吸気ポート22の吸気量をゼロとするものとして説明したが、一つの気筒12の二つの吸気ポート22の吸気量に差をつけ、吸気量が多い方の吸気ポート22の燃料インジェクタ26からの燃料噴射量を、吸気量が少ない方の吸気ポート22の燃料インジェクタ26からの燃料噴射量より多くなるようにしてもよい。この場合、上記と同様の理由により、燃料噴射量が多い方の燃料インジェクタ26の噴孔−燃焼室間距離Lを、燃料噴射量が少ない方の燃料インジェクタ26の噴孔−燃焼室間距離Lより短くすることが好ましい。
【0037】
また、本発明では、燃料インジェクタ26の噴孔の位置に応じて燃料噴射時期を変更するように制御してもよい。具体的には、噴孔−燃焼室間距離Lを所定の基準より短くし、噴孔を燃焼室20に近づけたときには、吸気弁14の開弁期間に同期して燃料を噴射するように燃料噴射時期を制御することが望ましい。前述したように、噴孔−燃焼室間距離Lを短くした場合には、吸気ポート22の内壁への燃料の付着を抑制することができるが、吸気弁14の開弁期間に同期して燃料を噴射することにより、噴霧が新気の気流に乗って筒内に流入するので、吸気ポート22の内壁への燃料の付着を更に抑制することができ、燃料噴霧を筒内により多く導入することができる。このため、燃料量の実燃焼割合(燃焼寄与率)が向上し、より安定した燃焼や、未燃燃料の減少といった効果が得られる。
【0038】
また、理論空燃比運転と、リーンバーン運転(またはEGRバーン運転)とを切り替え可能な内燃機関10に本発明を適用する場合においては、リーンバーン運転(またはEGRバーン運転)時には、理論空燃比運転時と比べて、噴孔−燃焼室間距離Lを長くするように制御することが好ましい。リーンバーン運転時は、空気量に対して燃料噴射量が少ないため、通過燃料による燃料インジェクタ26先端の冷却効果が少なく、噴孔付近が高温となってデポジットが堆積し易い傾向がある。そこで、リーンバーン運転時に噴孔−燃焼室間距離Lを長くして噴孔を燃焼室20から遠ざけることにより、噴孔付近の温度上昇を抑制し、デポジットの堆積を確実に抑制することができる。また、EGRバーン運転時は、燃料インジェクタ26先端にEGRガスが接触する機会が多いため、噴孔付近にデポジットが堆積し易い傾向がある。そこで、EGRバーン運転時に噴孔−燃焼室間距離Lを長くして噴孔を燃焼室20から遠ざけ、噴孔付近の温度上昇を抑制することにより、デポジットの堆積を確実に抑制することができる。
【0039】
以上説明した実施の形態では、1気筒当たり二つの吸気ポート22を備えた内燃機関10を例に説明したが、本発明では、1気筒当たりの吸気ポートの数は一つでもよく、また三つ以上であってもよい。
【0040】
上述した実施の形態では、燃料インジェクタ26、ガイド部28およびアクチュエータ30が前記第1の発明における「燃料噴射装置」に相当している。また、ECU50がアクチュエータ30を駆動して噴孔−燃焼室間距離Lを上述したように制御することにより、前記第1の発明における「噴孔位置制御手段」および前記第2の発明における「第2の噴孔位置制御手段」が実現されている。
【符号の説明】
【0041】
10 内燃機関
12 気筒
14 吸気弁
16 排気弁
18 点火プラグ
20 燃焼室
22 吸気ポート
24 排気ポート
26 燃料インジェクタ
28 ガイド部
30 アクチュエータ
38 隔壁
40 遮断弁
50 ECU
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の吸気ポート内に燃料を噴射する噴孔の位置を移動させることによって前記噴孔と燃焼室との距離を変化可能な燃料噴射装置と、
燃料噴射量が所定値以下の場合(前記内燃機関の停止時を含む)には、燃料噴射量が前記所定値を超える場合と比べて、前記噴孔と前記燃焼室との距離を長くする噴孔位置制御手段と、
を備えることを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項2】
前記内燃機関は、1気筒当たり複数の前記吸気ポートを有し、該複数の吸気ポート毎に前記燃料噴射装置が設けられていることを特徴とする請求項1記載の内燃機関の制御装置。
【請求項3】
各気筒の複数の前記燃料噴射装置の燃料噴射量が異なる場合には、燃料噴射量が多い前記燃料噴射装置の前記噴孔と前記燃焼室との距離が、燃料噴射量が少ない前記燃料噴射装置(燃料噴射量がゼロの場合を含む)の前記噴孔と前記燃焼室との距離より短くなるようにする第2の噴孔位置制御手段を備えることを特徴とする請求項2記載の内燃機関の制御装置。
【請求項4】
前記内燃機関のアイドル時に前記内燃機関を自動停止する自動停止手段を備えることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項記載の内燃機関の制御装置。
【請求項5】
前記内燃機関と電気モータとを組み合わせて動力を発生するハイブリッド装置を備え、前記ハイブリッド装置は、前記内燃機関を停止して前記電気モータのみで動力を発生可能であることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項記載の内燃機関の制御装置。
【請求項6】
前記噴孔の位置に応じて燃料噴射時期を変更する燃料噴射時期制御手段を備えることを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項記載の内燃機関の制御装置。
【請求項7】
前記燃料噴射時期制御手段は、前記噴孔と前記燃焼室との距離が所定の基準より短い場合には、吸気弁の開弁期間に同期して燃料が噴射されるように燃料噴射時期を変更することを特徴とする請求項6記載の内燃機関の制御装置。
【請求項1】
内燃機関の吸気ポート内に燃料を噴射する噴孔の位置を移動させることによって前記噴孔と燃焼室との距離を変化可能な燃料噴射装置と、
燃料噴射量が所定値以下の場合(前記内燃機関の停止時を含む)には、燃料噴射量が前記所定値を超える場合と比べて、前記噴孔と前記燃焼室との距離を長くする噴孔位置制御手段と、
を備えることを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項2】
前記内燃機関は、1気筒当たり複数の前記吸気ポートを有し、該複数の吸気ポート毎に前記燃料噴射装置が設けられていることを特徴とする請求項1記載の内燃機関の制御装置。
【請求項3】
各気筒の複数の前記燃料噴射装置の燃料噴射量が異なる場合には、燃料噴射量が多い前記燃料噴射装置の前記噴孔と前記燃焼室との距離が、燃料噴射量が少ない前記燃料噴射装置(燃料噴射量がゼロの場合を含む)の前記噴孔と前記燃焼室との距離より短くなるようにする第2の噴孔位置制御手段を備えることを特徴とする請求項2記載の内燃機関の制御装置。
【請求項4】
前記内燃機関のアイドル時に前記内燃機関を自動停止する自動停止手段を備えることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項記載の内燃機関の制御装置。
【請求項5】
前記内燃機関と電気モータとを組み合わせて動力を発生するハイブリッド装置を備え、前記ハイブリッド装置は、前記内燃機関を停止して前記電気モータのみで動力を発生可能であることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項記載の内燃機関の制御装置。
【請求項6】
前記噴孔の位置に応じて燃料噴射時期を変更する燃料噴射時期制御手段を備えることを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項記載の内燃機関の制御装置。
【請求項7】
前記燃料噴射時期制御手段は、前記噴孔と前記燃焼室との距離が所定の基準より短い場合には、吸気弁の開弁期間に同期して燃料が噴射されるように燃料噴射時期を変更することを特徴とする請求項6記載の内燃機関の制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図2】
【図3】
【図4】
【公開番号】特開2012−132353(P2012−132353A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−284498(P2010−284498)
【出願日】平成22年12月21日(2010.12.21)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年12月21日(2010.12.21)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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