説明

内燃機関の制御装置

【課題】可変ノズル型ターボ過給機を備える内燃機関において、運転環境が変化した場合であっても、ターボ過回転およびターボサージの発生を抑制することのできる内燃機関の制御装置を提供する。
【解決手段】内燃機関の複数の吸気系状態量(過給圧、EGR率)がそれぞれの目標値となるように、可変ノズルの開度指令値を計算するコントローラ501と、可変ノズルの開度検出値、空気量検出値、および大気圧検出値を入力パラメータとして、タービン回転数および圧力比P3/P1の少なくとも何れかの予測値を出力する制約モデル502と、制約モデル502から出力される予測値が所定の閾値を超えたことを判定する判定部503と、判定部503において条件成立が判定された場合に、コントローラ501によって計算される可変ノズルの開度指令値に閉限のガード値を設けるガード部504と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、内燃機関の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば特開2005−256724号公報に開示されるように、過給効率を可変制御可能な排気駆動式過給機の制御装置において、吸気通路の吸入空気が過給機側へ逆流するターボサージの発生を抑制するための技術が知られている。この装置では、内燃機関の機関回転速度が低下するときに排気駆動式過給機の過給効率が低効率側に制限される。これにより、過給機の吸入空気吸込側と吐出側との圧力差が増大する機関回転速度の低下時に当該圧力差の増大を抑えることができるので、圧力差に起因するターボサージの発生が抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−256724号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来の技術では、機関回転速度が低下するときに発生するターボサージを抑制することとしているが、サージ発生のリスクが高まる状況は他にも存在する。具体的には、低圧環境下となる高地を運転している場合においては、空気密度が低いことにより、等過給圧を得るためのターボ回転数が通常気圧時に比して上昇してしまう。このため、例えば、目標過給圧、目標EGR率等を実現するためのアクチュエータの操作量として、可変ノズル開度、EGRバルブ開度、スロットル開度等を計算するモデルベース制御においては、高地運転時の可変ノズル開度が通常気圧時よりも閉方向に操作され、タービン回転数が過回転となることやターボサージの発生が懸念される。この点、上記従来の技術では、このような環境変化に伴うターボ過回転或いはターボサージ発生のリスクについては何ら考慮されておらず、未だ改善の余地を残すものであった。
【0005】
この発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、可変ノズル型ターボ過給機を備える内燃機関において、運転環境が変化した場合であっても、ターボ過回転およびターボサージの発生を抑制することのできる内燃機関の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明は、上記の目的を達成するため、可変ノズルを備えるターボ過給機を含む複数のアクチュエータを操作して、内燃機関の運転を操作する内燃機関の制御装置であって、
前記内燃機関の複数の吸気系状態量がそれぞれの目標値となるように、前記可変ノズルの開度指令値を含む前記アクチュエータの操作量を計算するコントローラと、
前記可変ノズルの開度検出値、前記内燃機関へ取り込まれた空気量検出値、および大気圧検出値を入力パラメータとして、前記ターボ過給機のタービン回転数および前記ターボ過給機のコンプレッサ下流の上流に対する圧力比の少なくとも何れかの予測値を出力するモデルと、
前記モデルから出力される予測値が所定の閾値を超えたことを判定する判定部と、
前記判定部において条件成立が判定された場合に、前記コントローラによって計算される前記可変ノズルの開度指令値に閉限のガード値を設けるガード部と、
を備えることを特徴としている。
【0007】
第2の発明は、第1の発明において、
前記ガード部は、前記可変ノズルの前回の開度指令値を前記閉限のガード値として設定することを特徴としている。
【0008】
第3の発明は、第1の発明において、
前記ガード部は、前記予測値が所定の閾値に達した時点での前記可変ノズル開度の開度指令値を前記閉限のガード値として設定することを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
第1の発明によれば、モデルは、可変ノズルの開度検出値、空気量検出値、および大気圧検出値を入力パラメータとして、タービン回転数およびコンプレッサ下流の上流に対する圧力比の少なくとも何れかの予測値を出力する。そして、当該予測値が所定の閾値を超えた場合に、コントローラによって計算される可変ノズルの開度指令値に閉限のガード値が設けられる。このため、本発明によれば、高地等の低圧環境下であっても、ターボ過回転およびターボサージの発生を有効に抑制することができる。
【0010】
第2の発明によれば、モデルによって計算された予測値が所定の閾値を超えている期間において、可変ノズルの開度指令値の前回値が閉限のガード値として設定される、このため、本発明によれば、予測値が所定の閾値を超えている期間は可変ノズル開度が閉方向に操作されることはないので、タービン過回転およびコンプレッサへの吸気逆流(ターボサージ)の発生を有効に抑制することができる。
【0011】
第2の発明によれば、モデルによって計算された予測値が所定の閾値を超えている期間において、予測値が所定の閾値となった時点での可変ノズルの開度指令値が閉限のガード値として設定される。このため、本発明によれば、予測値が所定の閾値を超えている期間は、可変ノズル開度が閉方向に操作されることはないので、ターボ過回転およびターボサージの発生を有効に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施の形態1としての内燃機関システムの概略構成を説明するための図である。
【図2】一般的なモデルベース制御システムの概要を示す図である。
【図3】一般的なモデルベース制御システムを搭載した車両に加速要求が出された場合の、車速、目標過給圧、可変ノズル開度、およびターボ回転数をそれぞれ示すタイミングチャートである。
【図4】ターボサージの発生原理について説明するための図である。
【図5】本発明の実施の形態1のモデルベース制御システムの概要を示す図である。
【図6】本発明の実施の形態1のモデルベース制御システムを搭載した車両に加速要求が出された場合の、車速、目標過給圧、可変ノズル開度、およびターボ回転数をそれぞれ示すタイミングチャートである。
【図7】本発明の実施の形態1において実行されるルーチンのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面に基づいてこの発明の実施の形態について説明する。尚、各図において共通する要素には、同一の符号を付して重複する説明を省略する。また、以下の実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0014】
実施の形態1.
[実施の形態1の構成]
図1は、本発明の実施の形態としての内燃機関システムの概略構成を説明するための図である。図1に示すとおり、本実施の形態のシステムは、複数気筒(図1では4気筒)を有する4サイクルのディーゼル機関10を備えている。ディーゼル機関10は車両に搭載され、その動力源とされているものとする。
【0015】
以下、本実施形態では、本発明をディーゼル機関(圧縮着火内燃機関)の制御に適用した場合について説明するが、本発明はディーゼル機関に限定されるものではなく、ガソリン機関(火花点火内燃機関)、その他の各種の内燃機関の制御に適用することが可能である。
【0016】
ディーゼル機関10の各気筒には、燃料を筒内に直接噴射するためのインジェクタ12が設置されている。各気筒のインジェクタ12は、共通のコモンレール14に接続されている。図示しない燃料タンク内の燃料は、サプライポンプ16によって所定の燃圧まで加圧されて、コモンレール14内に蓄えられ、コモンレール14から各インジェクタ12に供給される。また、ディーゼル機関10の排気通路18は、排気マニホールド20により枝分かれして、各気筒の排気ポート(図示せず)に接続されている。
【0017】
ディーゼル機関10は、可変ノズル型のターボ過給機24を備えている。ターボ過給機24は、排気ガスの排気エネルギによって作動するタービン24aと、タービン24aと一体的に連結され、タービン24aに入力される排気ガスの排気エネルギによって回転駆動されるコンプレッサ24bとを有している。更に、ターボ過給機24は、タービン24aに供給される排気ガスの流量を調整するための可変ノズル24cを有している。
【0018】
可変ノズル24cは、図示省略するアクチュエータ(例えば、電動モータ)によって開閉動作可能になっている。可変ノズル24cの開度を小さくすると、タービン24aの入口面積が小さくなり、タービン24aに吹き付けられる排気ガスの流速を速くすることができる。その結果、コンプレッサ24bおよびタービン24aの回転数(以下、「ターボ回転数」と称する)が上昇するので、過給圧を上昇させることができる。逆に、VN開度を大きくすると、タービン24aの入口面積が大きくなり、タービン24aに吹き付けられる排気ガスの流速が遅くなる。その結果、ターボ回転数が降下するので、過給圧を低下させることができる。
【0019】
ターボ過給機24のタービン24aは、排気通路18の途中に配置されている。タービン24aよりも下流側の排気通路18には、排気ガスを浄化するための後処理装置26が設けられている。後処理装置26としては、例えば、酸化触媒、NOx触媒、DPF(Diesel Particulate Filter)、DPNR(Diesel Particulate-NOx-Reduction system)等を用いることができる。
【0020】
ディーゼル機関10の吸気通路28の入口付近には、エアクリーナ30が設けられている。エアクリーナ30を通って吸入された空気は、ターボ過給機24のコンプレッサ24bで圧縮された後、インタークーラ32で冷却される。インタークーラ32を通過した吸入空気は、吸気マニホールド34により各気筒の吸気ポート(図示せず)に分配される。
【0021】
吸気通路28におけるインタークーラ32と吸気マニホールド34との間には、吸気絞り弁(ディーゼルスロットル)36が設置されている。吸気絞り弁36は、図示省略するアクチュエータによって電気的に開閉自在に構成されている。また、吸気通路28におけるエアクリーナ30の下流近傍には、吸入空気量を検出するためのエアフローメータ52が設置されている。
【0022】
吸気通路28における吸気マニホールド34近傍には、EGR(Exhaust Gas Recirculation)通路40の一端が接続されている。EGR通路40の他端は、排気通路18における排気マニホールド20近傍に接続されている。本システムでは、このEGR通路40を通して、排気ガス(既燃ガス)の一部を吸気通路28へ還流させること、つまり外部EGRを行うことができる。
【0023】
EGR通路40の途中には、EGRガスを冷却するためのEGRクーラ42が設けられている。EGR通路40におけるEGRクーラ42下流には、EGRバルブ44が設けられている。このEGRバルブ44の開度を変化させることにより、EGR通路40を通る排気ガス量、すなわちEGR量を調整することができる。
【0024】
本実施の形態のシステムは、図1に示すとおり、ECU(Electronic Control Unit)50を備えている。ECU50の入力部には、上述したエアフローメータ52の他、大気圧を検出するための大気圧センサ54、アクセルペダルの踏み込み量(アクセル開度)を検出するためのアクセルポジションセンサ(図示せず)、ディーゼル機関10のクランク角度を検出するためのクランク角センサ(図示せず)等、ディーゼル機関10を制御するための各種センサが接続されている。また、ECU50の出力部には、上述したインジェクタ12、吸気絞り弁36、EGRバルブ44、ターボ過給機24の他、ディーゼル機関10を制御するための各種アクチュエータが接続されている。ECU50は、入力された各種の情報に基づいて、所定のプログラムに従って各機器を駆動する。
【0025】
[実施の形態の1動作]
次に、本実施の形態1の動作について説明する。上述したとおり、本実施の形態にかかる内燃機関10は、その動作を制御するためのアクチュエータとして、インジェクタ12、吸気絞り弁36、EGRバルブ44、可変ノズル24cの他、内燃機関10を制御するための各種アクチュエータを備えている。本実施の形態の制御装置は、いわゆるモデルベース制御によって内燃機関を制御するものであり、プラントモデルによる予測を多用して制御状態を推定し、上述した種々のアクチュエータの操作量を決定する。
【0026】
図2は、一般的なモデルベース制御システムの概要を示す図である。尚、図2に示すモデルベース制御システムは、例えば、図1に示すECU50の機能の一部として実現される。モデルベース制御システムは、内燃機関10が備えるEGRバルブ44、吸気絞り弁36、および可変ノズル24c等の複数のアクチュエータの操作量を計算するコントローラ501を含んでいる。コントローラ501には、目標過給圧、および目標EGR率を含む各種状態量の目標値情報が取り込まれる。コントローラ501は、取り込んだ情報に基づき、上記目標値を実現するために最適なアクチュエータ操作量として、EGRバルブ44の操作量であるEGRバルブ開度、吸気絞り弁36の操作量であるスロットル開度、および可変ノズル24cの操作量である可変ノズル開度をそれぞれ計算し、内燃機関10に出力する。
【0027】
このようなコントローラ501を用いると、内燃機関10は、例えば図3のように動作される。図3は、一般的なモデルベース制御システムを搭載した車両に加速要求が出された場合の、(a)車速、(b)目標過給圧、(c)可変ノズル開度、および(d)ターボ回転数をそれぞれ示すタイミングチャートである。尚、この図において、実線は通常環境下(低地)におけるタイミングチャートを、破線は低圧環境下(高地)におけるタイミングチャートを、それぞれ示している。
【0028】
この図中の(a)および(b)に示すとおり、車両に加速して車速が上昇すると、これに伴い目標過給圧が上昇する。上述したとおり、コントローラ501は、目標過給圧を実現するための可変ノズル開度を計算する。このため、図中(c)および(d)に示す例では、目標過給圧の上昇に伴い可変ノズルの開度が閉側の限界(閉限)まで操作され、これによりターボ回転数が上昇している。
【0029】
ここで、高地等の低圧環境下においては、低地等の通常環境下と比べて空気密度が相対的に低い。このため、図中(c)に示すとおり、低圧環境下(高地)での可変ノズル開度は、通常環境下(低地)よりも閉じ側の開度に操作され、これにより、ターボ回転数が通常環境下よりも上昇してしまう。したがって、このような低圧環境下(高地)においては、図中(d)に示すように、ターボ回転数がシステム上の限界を超える所謂ターボ過回転が発生するおそれがある。
【0030】
同様のことがターボサージの発生にもいえる。図4は、ターボサージの発生原理について説明するための図である。この図に示すとおり、コンプレッサ24bの吸気上流側(吸気吸入側)の圧力(≒大気圧)をP1、コンプレッサ24bの吸気下流側(吸気吐出側)の圧力をP3とした場合、圧力P1は低圧環境下(高地)となるほど低下する。このため、ターボ回転数が上昇して圧力P3の圧力P1に対する圧力比(P3/P1)が大きくなり過ぎると、吸入空気が逆流することによりコンプレッサ24bが空回り状態となる所謂ターボサージが発生するおそれがある。
【0031】
そこで、本実施の形態のシステムでは、図5に示すモデルベース制御システムを利用して、ターボ過回転やターボサージが発生することを予測し、これに先立ってコントローラ501によって計算される可変ノズルの開度指令値に所定の制限を設けることとする。図5は、本発明の実施の形態1のモデルベース制御システムの概要を示す図である。尚、図5に示すシステムにおいて、上述した図2に示すシステムと共通する要素については、共通の符号を付してその詳細な説明を省略ないし簡略化する。
【0032】
図5に示すモデルベース制御システムは、図1に示すECU50の機能の一部として実現されるものであり、具体的には、コントローラ501と、制約モデル502と、判定部503と、ガード部504と、を含んでいる。コントローラ501は、内燃機関10の状態量の目標値である目標過給圧と目標EGR率を入力パラメータとして、これらの目標値を実現するための各アクチュエータの操作量を計算する。制約モデル502は、可変ノズルの開度検出値、内燃機関10に取り込まれる空気量検出値、および大気圧検出値を入力パラメータとして、現在のターボ回転数および圧力比P3/P1の予測値を計算する。尚、これらの入力パラメータは、例えば、可変ノズルの開度検出値であれば可変ノズル24cを操作するアクチュエータの操作量から、空気量検出値であればエアフローメータ52の検出値から、また大気圧検出値であれば大気圧センサ54の検出値から、それぞれ算出することができる。
【0033】
ここで、ターボ過回転やターボサージは、加速時等の過渡運転時に発生し易い。このため、制約モデル502での計算は、過渡的な変化を考慮する必要がある。具体的には、制約モデル502への入力パラメータのうち、大気圧検出値は過渡的に変化しないが、可変ノズルの開度検出値および空気量検出値は過渡的に変化する。このため、モデル出力である圧力比P3/P1およびターボ回転数についても過渡的に変化する項目となる。そこで、本実施の形態の制約モデル502では、以下の式(1)に示すように、圧力比P3/P1、ターボ回転数、可変ノズル開度、および空気量の過渡の遅れを考慮して、これらの過去の履歴を用いて現在の圧力比P3/P1、ターボ回転数を計算することが可能なモデル構成とした。
【0034】
【数1】

【0035】
尚、上式(1)において、“u”は可変ノズルの開度検出値であり、“u”は空気量検出値であり、“u”は大気圧検出値であり、“θ1〜8”はモデル係数であり、“y”はモデル出力としての圧力比P3/P1またはターボ回転数である。上述したとおり、上式(1)では、可変ノズル開度検出値“u” 、空気量検出値“u”およびモデル出力“y”について、過去の履歴を用いることとしている。尚、上式(1)は制約モデル502のモデル構成の一例であって、モデル精度や同定工数によっては、更に過去の履歴まで遡ったモデル構成としてもよい。
【0036】
判定部503は、上述した制約モデル502から出力されたターボ回転数または圧力比P3/P1と所定の閾値とを比較し、これらのモデル出力値が所定の閾値を超えた時点でガードフラグをONとする。尚、閾値は、内燃機関10にターボ過回転またはターボサージが発生するターボ回転数または圧力比P3/P1として、予め設定された値が使用される。
【0037】
ガード部504は、可変ノズルの開度指令値が前回の開度指令値よりも閉方向に推移したか否か、および判定部503においてガードフラグがONとされているか否かを判定する。そして、可変ノズルの開度指令値が前回の開度指令値よりも閉方向に推移し、かつ、ガードフラグがONとされている場合に、前回の開度指令値を閉限のガード値として設定し、可変ノズル24cの閉方向への開度操作を制限する。
【0038】
図6は、このような本発明の実施の形態のモデルベース制御システムを搭載した車両に加速要求が出された場合の(a)車速、(b)目標過給圧、(c)可変ノズル開度、および(d)ターボ回転数をそれぞれ示すタイミングチャートである。尚、図6において、実線は通常環境下(低地)におけるタイミングチャートを、破線は低圧環境下(高地)におけるタイミングチャートを、それぞれ示している。
【0039】
この図に示すとおり、車両が加速して目標過給圧が上昇すると、可変ノズル開度は閉方向に操作され、これによりターボ回転数が上昇する。そして、図中(d)に示すとおり、低圧環境下においてターボ回転数または圧力比P3/P1が所定の閾値に達した場合に、過給ノズル開度の閉方向の操作が制限される。このため、高地等の低圧環境下であっても、タービン回転数または圧力比P3/P1が閾値を超えて上昇する事態を抑制することができるので、ターボ過回転またはターボサージの発生を有効に抑止することが可能となる。
【0040】
[実施の形態の1具体的処理]
次に、図7を参照して、本実施の形態1の具体的処理について説明する。図7は、本発明の実施の形態1において実行されるルーチンのフローチャートである。図7に示すルーチンでは、先ず、内燃機関10のイグニションスイッチ(IG)がONとされたか否かが判定される(ステップ100)。その結果、IGがONとされていない場合には、本ルーチンの最初に戻り、本ステップ100の処理が再度実行される。一方、本ステップ100においてIGがONとされていると判定された場合には、次のステップに移行し、モデルベース制御が実行可能か否かが判定される(ステップ102)。その結果、モデルベース制御が実行可能な状態にないと判定された場合には上記ステップ100に戻る。
【0041】
一方、本ステップ102において、モデルベース制御が実行可能な状態にあると判定された場合には、当該モデルベース制御が速やかに開始される。具体的には、先ず、制約モデル502では、圧力比P3/P1およびターボ回転数が計算される(ステップ200)。次に、判定部503では、上記ステップ200において計算された圧力比P3/P1およびターボ回転数を受けて、これらのモデル出力値が所定の閾値を超えたか否かが判定される(ステップ202)。その結果、制約モデル502のモデル出力値が所定の閾値を超えていない場合には、ターボ過回転やターボサージが発生するおそれはないと判断されて、上記ステップ200に戻り、制約モデル502でのモデル出力値の計算が再び実行される。
【0042】
一方、上記ステップ202において、制約モデル502のモデル出力値が所定の閾値を超えた場合には、ターボ過回転やターボサージが発生するおそれがあると判断されて、次のステップに移行し、ガードフラグがONとされる(ステップ204)。
【0043】
上記ステップ200〜204の処理と並行して、コントローラ501では、目標過給圧となるための可変ノズルの開度指令値が算出される(ステップ104)。次に、コントローラ501によって計算された可変ノズルの開度指令値がガード部504へ送られる(ステップ106)。次に、ガード部504では、今回の可変ノズルの開度指令値が前回の開度指令値よりも閉方向の開度であるか否かが判定される(ステップ108)。その結果、今回の可変ノズル開度指令値が前回の指令値よりも閉方向の開度であると判定された場合には、次のステップに移行し、ガードフラグがONか否かが判定される(ステップ110)。その結果、ガードフラグがONであると判定された場合には、次のステップに移行し、可変ノズル開度の閉方向への操作が制限される(ステップ112)。ここでは、具体的には、ガード部504において、前回の開度指令値が閉限のガード値として設定される。これにより、コントローラ501によって計算された可変ノズル開度は、ガード部504において閉限のガードが施された上で、最終的な開度指令値として出力される。上記ステップ112の処理の後は、上記ステップ104以降の処理が繰り返し実行される。
【0044】
一方、上記ステップ108において、算出された今回の可変ノズルの開度指令値が前回の開度指令値よりも閉方向の開度ではないと判定された場合、または、上記ステップ110において、ガードフラグがONでないと判定された場合には、ターボ過回転やターボサージが発生するおそれがないと判断されて、コントローラ501において計算された可変ノズル開度がそのまま開度指令値として使用され、可変ノズル24cが操作される。次に、内燃機関10の過給圧が目標過給圧に到達したか否かが判定される(ステップ114)。その結果、過給圧が未だ目標過給圧に到達していない場合には、上記ステップ104以降の処理が再度実行され、過給圧が目標過給圧に到達した場合には、本ルーチンは速やかに終了される。
【0045】
以上説明したとおり、本実施の形態1のシステムによれば、制約モデル502によって計算された圧力比P3/P1またはターボ回転数に基づいて、ターボ過回転またはターボサージの発生が予測される。そして、これらの発生が予測された場合に、可変ノズル開度に閉限のガードが設けられる。これにより、ターボ回転数の上昇を抑制することができるので、ターボ過回転またはターボサージの発生を有効に抑止することが可能となる。
【0046】
ところで、上述した実施の形態1のシステムでは、閉限のガード値を設けるか否かの判定において、制約モデル502において計算されたターボ回転数および圧縮比P3/P1の両方を用いているが、何れか一方のモデル出力値のみを用いて判定することとしてもよい。
【0047】
また、上述した実施の形態1のシステムでは、コントローラ501において、上式(1)に示すモデル構成を採用することとしているが、コントローラ501に採用可能なモデル構成はこれに限られない。すなわち、内燃機関10の状態量の目標値を実現するための最適なアクチュエータの操作量として、少なくとも可変ノズルの開度を計算するモデル構成であれば、他の公知のモデル構成を利用することとしてもよい。
【0048】
また、上述した実施の形態1のシステムでは、可変ノズルの前回の開度指令値をガード値として設定しているが、設定するガード値はこれに限られず、ガードフラグがONとされた時点での可変ノズルの開度指令値をガード値として設定してもよいし、より安全を見越してさらに開側の開度をガード値に設定することとしてもよい。
【0049】
尚、上述した実施の形態1においては、コントローラ501が前記第1の発明における「コントローラ」に、制約モデル502が前記第1の発明における「モデル」に、判定部503が前記第1の発明における「判定部」に、ガード部504が前記第1の発明における「ガード部」に、それぞれ相当している。また、ECU50が、上記ステップ200の処理を実行することにより、前記第1の発明における「コントローラ」が行う計算が、上記ステップ102の処理を実行することにより、前記第1の発明における「モデル」が行う計算が、上記ステップ202の処理を実行することにより、前記第1の発明における「判定部」が行う判定が、上記ステップ112の処理を実行することにより、前記第1の発明における「ガード部」が行う計算が、それぞれ実現されている。
【符号の説明】
【0050】
10 ディーゼル機関(エンジン)
18 排気通路
24 可変ノズル型ターボ過給機
24a タービン
24b コンプレッサ
24c 可変ノズル
28 吸気通路
36 吸気絞り弁
40 EGR通路
44 EGRバルブ
50 ECU(Electronic Control Unit)
54 大気圧センサ
501 コントローラ
502 制約モデル
503 判定部
504 ガード部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可変ノズルを備えるターボ過給機を含む複数のアクチュエータを操作して、内燃機関の運転を操作する内燃機関の制御装置であって、
前記内燃機関の複数の吸気系状態量がそれぞれの目標値となるように、前記可変ノズルの開度指令値を含む前記アクチュエータの操作量を計算するコントローラと、
前記可変ノズルの開度検出値、前記内燃機関へ取り込まれた空気量検出値、および大気圧検出値を入力パラメータとして、前記ターボ過給機のタービン回転数および前記ターボ過給機のコンプレッサ下流の上流に対する圧力比の少なくとも何れかの予測値を出力するモデルと、
前記モデルから出力される予測値が所定の閾値を超えたことを判定する判定部と、
前記判定部において条件成立が判定された場合に、前記コントローラによって計算される前記可変ノズルの開度指令値に閉限のガード値を設けるガード部と、
を備えることを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項2】
前記ガード部は、前記可変ノズルの前回の開度指令値を前記閉限のガード値として設定することを特徴とする請求項1記載の内燃機関の制御装置。
【請求項3】
前記ガード部は、前記予測値が所定の閾値に達した時点での前記可変ノズル開度の開度指令値を前記閉限のガード値として設定することを特徴とする請求項1記載の内燃機関の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−60914(P2013−60914A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−200580(P2011−200580)
【出願日】平成23年9月14日(2011.9.14)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】