説明

内燃機関の動弁制御装置

【課題】 機関弁を閉弁終期のみにダンピングでき、且つ構造が簡単な内燃機関の動弁制御装置を提供する。
【解決手段】 内燃機関の機関弁2の閉弁時期を制御することで圧縮比を変化させる動弁制御装置1であって、内燃機関の回転に同期して回転されるカム3と、該カム3により駆動され上記機関弁2を弁バネ4に抗して開弁するロッカーアーム5と、該ロッカーアーム5を押さえて上記機関弁2を開弁状態に保持すると共にこの押力を消勢して上記機関弁2の閉弁時期を制御するアクチュエータ6とを備え、該アクチュエータ6は、上記機関弁2の閉弁前期には上記ロッカーアーム5の速やかな回動を許容すると共に、上記機関弁2の閉弁終期には上記ロッカーアーム5の回動をダンピングするものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の機関弁の閉弁時期を制御することで圧縮比を変化させる動弁制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ディーゼルエンジンの排気ガス中の有害成分の低減に関する要求が高まって来ており、上記排気ガス中のNOx及びスモークを同時に低減することが可能な均一予混合燃焼が研究されている。均一予混合燃焼とは、通常よりも早いタイミング(ピストン上死点よりも所定時期以上早いタイミング)で燃料をシリンダ内に噴射し、シリンダ内にて均一な混合気を生成して同時多発的に燃焼を生じさせるものである。これを実現するためには着火時期のコントロールが重要であり、圧縮比を通常燃焼(拡散燃焼)の場合よりも大幅に低めることが可能なシステムが必要である。
【0003】
すなわち、均一予混合燃焼においては、早期に噴射された燃料及び空気からなるシリンダ内の混合気がピストンの上昇に伴って次第に圧縮されるが、このとき圧縮比が通常燃焼の場合と同じであると、ピストンが上死点に至る前に着火が発生してしまい、クランク軸にマイナス仕事がなされてしまう事態が考えられる。これを回避するためには、通常燃焼から均一予混合燃焼に切り替えるときには圧縮比を下げ、ピストンが上死点に至る前に上記混合気に着火が生じないようにし、着火時期を上記上死点近傍とすることが必要である。
【0004】
圧縮比を低める方向に変化させるシステムとして、図8に示すものが知られている(特許文献1参照)。このシステムは、内燃機関の回転に同期して駆動されるカムaによって機関弁bを開閉駆動するカム式動弁機構cと、開弁した機関弁bに係止することによって機関弁bを開弁状態に保持するためのアクチュエータdと、アクチュエータdの動作を制御することによって機関弁bの閉弁タイミングを制御する制御手段(図示せず)とを備えている。
【0005】
このシステムによれば、アクチュエータdによって上記動弁機構cのロッカーアームeを押し下げた状態に保持することで機関弁bをカムaの位相とは無関係に開弁状態に保持でき、その後アクチュエータdの駆動力をカットすることで機関弁bの閉弁時期をカムaによる通常の閉弁時期よりも遅らせることができるので、実質的に内燃機関の圧縮比を低めることができる。
【0006】
【特許文献1】特開2003−106179号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上記システムにおいては、アクチュエータdによってロッカーアームeを押し下げて機関弁bを開弁保持している状態では、カムaの回転に伴ってカムaとロッカーローラfとの間に隙間が形成されるため、この状態からアクチュエータdの駆動力をカットすると、弁バネgの力によって機関弁bが勢いよく弁シートhに着座し、その衝撃が問題となる。
【0008】
そこで、上記衝撃を緩和するための油圧緩衝機構iが設けられている。この油圧緩衝機構iによれば、機関弁bが最大リフトしている状態から閉弁動作してロッカーアームeが反時計方向に回動するときには、弁室j及びピストンk内の油によってロッカーアームeの回動が制動されることで、機関弁bの閉弁速度が減速されて上記衝撃が緩和され、他方、機関弁bが閉弁している状態から開弁動作してロッカーアームeが時計方向に回動するときには、ロッカーアームeには上述のような制動が生じないため、速やかな開弁動作がなされる。
【0009】
しかし、上記油圧緩衝機構iにおいては、ロッカーアームeが反時計方向に回動するときにはロッカーアームeの回動が常にダンピングされるため、最大リフトした機関弁bが閉弁する際に機関弁bの閉弁速度が閉弁始まりから閉弁完了に至るまでの全期間に亘って遅くなってしまう。このため、閉弁期間の長期化を招き、圧縮比の細かな調節が困難となる。すなわち、上記衝撃を緩和するには、機関弁bの閉弁終期の閉弁速度のみを遅くすれば足りるのであるが、上記油圧緩衝機構iにおいては、これは不可能である。
【0010】
また、上記油圧緩衝機構iをカム式動弁機構cとは別途設けることは、システム全体の構造の複雑化を招く。
【0011】
以上の事情を考慮して創案された本発明の目的は、機関弁を閉弁終期のみにダンピングでき、且つ構造が簡単な内燃機関の動弁制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために本発明は、内燃機関の機関弁の閉弁時期を制御することで圧縮比を変化させる動弁制御装置であって、内燃機関の回転に同期して回転されるカムと、該カムにより駆動され上記機関弁を弁バネに抗して開弁するロッカーアームと、該ロッカーアームを押さえて上記機関弁を開弁状態に保持すると共にこの押力を消勢して上記機関弁の閉弁時期を制御するアクチュエータとを備え、該アクチュエータは、上記機関弁の閉弁前期には上記ロッカーアームの速やかな回動を許容すると共に、上記機関弁の閉弁終期には上記ロッカーアームの回動をダンピングするものである。
【0013】
上記アクチュエータは、上記ロッカーアームに当接しその回動位置を上記機関弁が開弁する位置に保持するためのメインピストンと、該メインピストンの頂面を利用して区画された圧力室と、該圧力室内に流体を供給しその流体圧を保持することで上記メインピストンを上記弁バネの力に抗して押し下げると共に、上記流体圧を解放することで上記メインピストンを上昇させる圧力制御手段と、上記メインピストンの上昇途中にこれと係合して一体となり、上記圧力室の流体に対する受圧面積を上記メインピストンの頂面よりも増大させて上記メインピストンの上昇速度を減速させるサブピストンとを備えたものであってもよい。
【0014】
上記メインピストン及び上記サブピストンが一体となったときのピストン全体が上記圧力室内の流体に対して作用する受圧面積は、上記メインピストンが上記圧力室内の流体に対して作用する受圧面積よりも大きいものであってもよい。
【0015】
上記圧力制御手段は、上記圧力室内に作動流体を供給するための逆止弁機能付きの流体導入器と、上記圧力室内の流体の圧力を解放するためのリリーフ弁と、該リリーフ弁の作動時期を制御する制御部とを備えたものであってもよい。
【0016】
上記内燃機関は、均一予混合燃焼を行うモードを有するディーゼルエンジンであり、上記機関弁の内の吸気弁の閉弁時期を遅らせて圧縮比を下げるようにしたものであってもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る内燃機関の動弁制御装置によれば、機関弁を閉弁終期のみにダンピングできると共に、構造が簡単となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の好適実施形態を添付図面を用いて説明する。
【0019】
図1は、本実施形態に係る内燃機関の動弁制御装置1を、通常燃焼(拡散燃焼)モードと均一予混合燃焼モードとが切り替えられるディーゼルエンジンの吸気弁2に適用した例を示す。かかるディーゼルエンジンにおいて、通常燃焼モードから均一予混合燃焼モードに切り替えるときには、既述のように圧縮比を大幅に低くする必要があり、これを達成するために上記動弁制御装置1では、カム3によって開弁された吸気弁2をカム3の位相とは無関係に所望の期間開弁状態に保持し、シリンダ内の混合気の一部を吸気ポートに逆流させることで実質的に圧縮比を低下させている。かかる動弁制御装置1を図1を用いて説明する。
【0020】
上記動弁制御装置1は、ディーゼルエンジン(請求の範囲の内燃機関に相当)の回転に同期して回転されるカム3と、カム3により駆動され上記ディーゼルエンジンの吸気弁2(請求の範囲の機関弁に相当)を弁バネ4に抗して開弁するロッカーアーム5と、ロッカーアーム5を押さえて吸気弁2を開弁状態に保持すると共にこの押力を消勢して吸気弁2の閉弁時期を制御するアクチュエータ6とを備えている。
【0021】
上記カム3は、図示しないシリンダヘッド等に軸支され、上記ディーゼルエンジンのクランク軸の回転がチェーン、ベルト又はギヤ等を介して伝達されるようになっている。このカム3は、上記吸気弁2を開閉弁させるために所定形状に形成されたカム山3aを備えている。
【0022】
上記ロッカーアーム5は、シリンダヘッド等に取り付けられた支持軸5aを中心として揺動可能となっており、上記支持軸5aから左方に延出された一端部がローラ7を介して上記カム3に当接され、上記支持軸5aから右方に延出された他端部が調整部材8を介して吸気弁2の頂部に装着されたブリッジ9に当接されている。調整部材8は、ロッカーアーム5に形成されたネジ穴に上方からねじ込まれ、ナット8aによって固定される。なお、上記ローラ7をスリッパに代えてもよい。
【0023】
上記ブリッジ9は、二本の吸気弁2の頂部に装着されており、これら二本の吸気弁2を纏めて動作させるためのものである。各吸気弁2は、弁バネ4によって閉弁方向(図中、上方向)に付勢されており、シリンダ内に突出する弁傘部分が図示しない弁シートに着座するようになっている。そして、上記ブリッジ9が上記弁バネ4に抗して下方に押し下げられると、上記弁傘部分が弁シートから下方に離間して開弁されるようになっている。上記ブリッジ9には、上記吸気弁2の上下動をガイドするためのガイド穴9aが形成されており、このガイド穴9aにはシリンダヘッド等に取り付けられたガイドロッド10が挿入されている。
【0024】
以上の構成により、カム3の回転に伴ってローラ7がカム山3aのアップスロープに乗り上がると、ロッカーアーム5が弁バネ4の力に抗して時計方向に回動され始め、ブリッジ9が弁バネ4の力に抗して押し下げられて各吸気弁2が開弁される。そして、ローラ7にカム山3aの頂点が乗り上がったとき、吸気弁2が最大リフト状態(全開)となり、その後、更にカム3が回転してローラ7がカム山3aの頂点を乗り越えてダウンスロープに差し掛かると、各吸気弁2が弁バネ4の力によって上昇され、最終的には各吸気弁2が弁シートに着座して閉弁(全閉)される。
【0025】
さて、上記アクチュエータ6は、本実施形態の特徴となる構成要素であり、図2にも示すように、ロッカーアーム5に当接しその回動位置を吸気弁2の最大リフト位置に保持するためのメインピストン11と、メインピストン11の頂面11xを利用して区画された圧力室12と、圧力室12内に流体を供給しその流体圧を維持することでメインピストン11を弁バネ4の力に抗して押し下げた状態に保持すると共に、上記流体圧を解放することでメインピストン11を上昇させる圧力制御手段13と、メインピストン11の上昇途中にこれと係合して一体となり、圧力室12の流体に対する受圧面積をメインピストン11の頂面11xよりも増大させてメインピストン11の上昇速度を減速させるサブピストン(外側ピストン)14とを備えている。
【0026】
上記サブピストン14は、ロッカーアーム5の上方に配置されたハウジング15内に、所定範囲(図例では1mm程度:例示であってこの数値に限定されない)でスライド可能に収容されている。詳しくは、サブピストン14は、円筒の頂部に小穴付きの蓋を装着した形状のサブピストン本体14aと、サブピストン本体14aの側面に設けられたフランジ14bとを有する。他方、上記ハウジング15には、上記サブピストン本体14aをその軸方向にスライド可能に収容するシリンダ室16と、上記フランジ14bを上下から挟むように配置されフランジ14bの厚さより上記所定範囲だけ広い間隔が隔てられた上部ストッパ17及び下部ストッパ18とが設けられている。
【0027】
図例では、ハウジング15の下面にサブピストン本体14aがスライド可能に挿入される内径の円穴を形成してこれをシリンダ室16とし、ハウジング15の下面にネジ部を介して装着されるキャップ30の上面に、フランジ14bがスライド可能に挿入される内径の円穴を「フランジ14bの厚さ+上記所定範囲」に相当する深さ形成し、これをハウジング15のネジ部15aに螺合して固定することで上部ストッパ17及び下部ストッパ18を設けている。
【0028】
サブピストン14には、その中心沿って上下方向に貫通形成された収容穴19が設けられており、収容穴19には、メインピストン11がスライド可能に収容されている。メインピストン11は、円柱状のメインピストン本体11aと、メインピストン本体11aの頂面に設けられメインピストン本体11aよりも小さな横断面積の円柱状の頂部11bとから成る。他方、上記収容穴19は、上記メインピストン本体11aがその軸方向にスライド可能に収容される大穴19aと、大穴19aの上部に繋げて設けられ上記頂部11bが挿抜される小穴19bとから成る。この構成により、図4に示すようにメインピストン11及びサブピストン14が一体となったときのピストン20全体が圧力室12内の流体に対して作用する受圧面積Xは、図3に示すようにサブピストン14から離脱したメインピストン11が圧力室12内の流体に対して作用する受圧面積Yよりも大きくなる。
【0029】
圧力室12は、シリンダ室16の上部に形成されることになるが、この圧力室12には、図1に示すように、逆止弁機能付きの流体導入器21から作動流体(図例では潤滑油)が供給され、圧力室12内の潤滑油がリリーフ弁22によって解放されるようになっている。詳しくは、圧力室12には、第1圧力路23が接続されており、第1圧力路23には、第2圧力路24を介して作動流体の溜め部25が接続されていると共に、上記流体導入器21の導入路26が接続されている。流体導入器21には、図示しないオイルポンプで加圧された潤滑油がエンジンの運転中常時供給される。また、第1圧力路23の上部は、上記リリーフ弁22としての電磁弁22aによって塞がれている。電磁弁22aは、電子制御ユニット等の制御部27からの開指令によって第1圧力路23と排出路28とを連通し、制御部27からの閉指令によって第1圧力路23と排出路28とを遮断する。
【0030】
以下、上記動弁制御装置1を用いてディーゼルエンジンを通常燃焼運転させる場合、すなわち通常の圧縮比でエンジンを運転させる場合を説明する。
【0031】
図1において、カム3の回転に伴ってロッカーアーム5のローラ7がカム山3aのアップスロープに乗り上げると、ロッカアーム5が時計方向に回動して吸気弁2を弁バネ4の力に抗して押し下げる。ここで、圧力室12には常に潤滑油が供給されており、このとき電磁弁22aは制御部27からの指令によって図5(a)に示すように閉じられているので、ロッカーアーム5が上述のように時計方向に回動するのに応じてメインピストン11及びサブピストン14が圧力室12内の潤滑油の圧力によって下がる。
【0032】
その後、カム3の回転が進んでロッカーアーム5のローラ7がカム山3aの頂点を乗り越えダウンスロープに差し掛かるとき又は差し掛かる直前に、制御部27によって電磁弁22aを開き、圧力室12と排出路28とを連通させ、圧力室12内の潤滑油の圧力を解放する。すると、メインピストン11及びサブピストン14を押し下げる力が消勢するので、カム3の回転に伴ってロッカーアーム5のローラ7がカム山3aのダウンスロープを下るに応じて、吸気弁2が弁バネ4の力によって閉弁方向(上方)に移動し、ロッカーアーム5が反時計方向に回動し、メインピストン11及びサブピストン14が押し上げられ、圧力室12内の潤滑油が排出路28から排出される。
【0033】
メインピストン11及びサブピストン14が上昇しきったとき、すなわちロッカーアーム5のローラ7がカム山3aのダウンスロープを下りきって吸気弁2が完全に閉弁されたとき、制御部27により電磁弁22aが閉じられる。これにより、圧力室12内の潤滑油の圧力が次第に高まってメインピストン11及びサブピストン14を押し下げる方向の力が生じるのであるが、この力は、このとき反時計方向に回動して閉弁姿勢となっているロッカーアーム5を弁バネ4の力に逆らって時計方向に回動させる程大きくはない。よって、上述のようにして閉弁された吸気弁2が開弁されることにはならない。
【0034】
以上説明したような図5(a)に示すタイミングで電磁弁22aの開閉制御を繰り返すことで、通常の圧縮比での運転すなわち通常燃焼による運転が可能となる。ここで、制御部27から電磁弁22aへ送信される電磁弁22aの開/閉指令のタイミングは、クランク軸やカム3の角度に基づいて定められる。すなわち、クランク軸及び/又はカム3の角度を常時検出しておき、その検出値を制御部27に予め記憶されたマップ等に当てはめることで、電磁弁22aの開/閉指令のタイミングが定められる。
【0035】
なお、通常燃焼の運転時には、エンジンのピストンの上死点近傍で燃料が燃焼室内に噴射され、上死点近傍で着火されることは勿論である。
【0036】
次に、ディーゼルエンジンを均一予混合燃焼運転させる場合、すなわち通常燃焼させるときよりも低い圧縮比でエンジンを運転させる場合を説明する。
【0037】
この場合も、カム3の回転に伴って、ロッカーアーム5のローラ7がカム山3aのアップスロープに乗り上がると、ロッカアーム5が時計方向に回動され、吸気弁2が弁バネ4の力に抗して押し下げられ、最終的にはカム山3aの頂部で吸気弁2が最大リフト位置まで押し下げられることになる。かかる動作までは上述した通常運転時と同様であるが、その後、図5(b)に示すように、吸気弁2が最大リフト位置まで押し下げられた以降も、電磁弁22aを制御部27によって閉じておく。
【0038】
これにより、圧力室12内の潤滑油が排出路28から排出されることが引き続き禁止されるため、ロッカーアーム5のローラ7がカム山3aの頂点を超えてダウンスロープに差し掛かっても、メインピストン11及びサブピストン14が下方に押し下げられた状態に保持される。すなわち、このとき圧力室12内の潤滑油の圧力によってメインピストン11及びサブピストン14を下方に押し下げる力は、時計方向に回動して開弁姿勢となっているロッカーアーム5を、弁バネ4の力に対抗してその姿勢に保持できる力となっている。
【0039】
この結果、カム3の位相とは無関係にロッカーアーム5が時計方向に回動した開弁姿勢に保持され、吸気弁2が最大リフト位置に押し下げられた状態に保持される。これにより、エンジンのシリンダ内の混合気の一部が吸気ポートに逆流し、実質的な圧縮比が低下する。
【0040】
その後、目標の圧縮比に低下するまで吸気弁2を最大リフト状態に保持したなら、電磁弁22aを制御部27によって開き、圧力室12内の潤滑油の圧力を排出路28にリリーフする。これにより、圧力室12内の潤滑油の圧力が低下し、メインピストン11及びサブピストン14を押し下げる力が、時計方向に回動した開弁姿勢のロッカーアーム5を反時計方向に回動させる弁バネ4の力より小さくなり、吸気弁2が上昇して閉弁され、上記逆流が終了する。すなわち、図5(b)に示す期間Aを任意に調節することで、圧縮比を連続的に可変できる。
【0041】
電磁弁22aの開弁時期は、均一予混合燃焼時の圧縮比を通常燃焼時の圧縮比に対してどの程度低下させるかによって変わる。すなわち、クランク軸及び/又はカム3の角度を常時検出しておき、その検出値を制御部27に予め記憶されたマップ等に当てはめることで、電磁弁22aの開弁時期が定められる。
【0042】
なお、均一予混合燃焼時には、通常燃焼時よりも早いタイミングで燃料がエンジンのシリンダ内に噴射され、シリンダ内にて吸入空気と混じり合うことで生成された均一な混合気がピストンの上死点近傍にて着火されることになる。
【0043】
ところで、図3に示すように、吸気弁2を最大リフト位置に保持するために下方に移動されたメインピストン11及びサブピストン14は、電磁弁22aを開いて圧力室12内の潤滑油の圧力を排出路28にリリーフすることで、弁バネ4の力によって上昇されるが、ここで、電磁弁22aを開いた直後すなわち吸気弁2の閉弁前期から閉弁中期にかけては、サブピストン14が下がった状態のままでメインピストン11のみが上昇する。
【0044】
何故なら、サブピストン14のサブピストン本体14aの上面の面積がその下面の面積よりも大きいので、圧力室12内の潤滑油の圧力によってサブピストン14を押し下げる力の方が、サブピストン14内部の潤滑油の圧力によってサブピストン14を押し上げる力よりも大きいからである。よって、サブピストン14が下がった状態のままでメインピストン11のみが上昇し、メインピストン11の受圧面積Y(頂部11bの上面及びメインピストン本体11aの上面の頂部11bを除いた部分の面積)に応じた流量Y’の潤滑油が排出路28から放出される(図6参照)。
【0045】
その後、メインピストン11が上昇し、図4に示すようにサブピストン14と一体となると、以降、かかる一体となったピストン20全体が弁バネ4の力によって上昇される。ここで、図例では、サブピストン14の上下移動可能範囲を既述のように約1mmに設定しているので、吸気弁2が完全に閉弁する直前(約1mm前)である閉弁終期にメインピストン11がサブピストン14と一体となり、かかるピストン20全体が上昇して最終的に吸気弁2が完全に閉弁することになる。このように一体となったピストン20全体が上昇するとき、かかるピストン20全体の受圧面積Xは、図3に示すメインピストン11のみが上昇するときの受圧面積Yよりも大きく、このピストン20全体の受圧面積Xに応じた流量X’(流量X’>流量Y’)の潤滑油が排出路28から放出されることになる(図6参照)。
【0046】
ここで、メインピストン11のみが上昇するときも、メインピストン11がサブピストン14と一体となったピストン20全体が上昇するときも、圧力室12内の潤滑油を放出する排出路28の通路最小面積は変化せずに一定なので、メインピストン11のみが上昇するときに排出路28から放出される潤滑油の流量Y’はスムーズに排出路28から放出されるものの、ピストン20全体が上昇するときに排出路28から放出される潤滑油の流量X’は流量Y’よりも多いため、排出路28が絞りとして機能してしまい、所定の抵抗を伴って排出路28から放出される。
【0047】
この結果、メインピストン11のみが上昇する吸気弁2の閉弁前期から中期にかけては、圧力室12内の潤滑油の圧力が速やかに解放されることになって、吸気弁2が弁バネ4の力によって素早く閉弁されるが、メインピストン11がサブピストン14と一体となったピストン20全体が上昇する閉弁終期には、圧力室12内の潤滑油の圧力が徐々に解放されることになるので、ダンピング効果が生じて吸気弁2の閉弁速度がそれ以前よりも遅くなる。
【0048】
すなわち、閉弁終期には、圧力室12内の潤滑油の残存油圧によって油圧ダンパが構成され、吸気弁2を閉弁させるように作用する弁バネ4の力の一部が圧力室12内の潤滑油の圧力によって打ち消されるので、閉弁速度がそれ以前(閉弁前期から中期)よりも遅くなる。よって、吸気弁2が減速されて弁シートに着座することになり、衝撃が緩和される。
【0049】
図7に、吸気弁2の閉弁時期をカム3による通常の閉弁時期よりも遅らせたときの低圧縮比時の弁開閉行程図を示す。通常運転時には、電磁弁22aの開弁時期を図5(a)に示すように制御することで、吸気弁2はカム3のカム山3aに基づいたベースリフトカーブに従って開閉される。他方、均一予混合運転時には、電磁弁22aの開弁時期を図5(b)に示すように遅らせることで、その遅らせ時間Aに応じて吸気弁2の閉弁開始時期を通常運転時よりも遅らせることができる。
【0050】
この場合、吸気弁2の閉弁前期から中期には、上述のようにロッカーアーム5の速やかな回動が許容されるので、弁バネ4の力によって吸気弁2は速い速度で閉弁される。そして、吸気弁2が完全に閉弁される直前(約1mm前)の閉弁終期には、メインピストン11がサブピストン14と合体して受圧面積Xがそれ以前の受圧面積Yよりも増大するので、ロッカーアーム5の回動がダンピングされ、閉弁速度がそれ以前よりも低下する。これにより、吸気弁2が減速されて弁シートに着座し、衝撃が緩和されるのである。
【0051】
上記動弁制御装置1によれば、吸気弁2の閉弁前期から中期にかけての閉弁速度に影響を与えることなく閉弁終期の吸気弁2の移動にのみダンピングを与えることができる。よって、吸気弁2の閉弁始まりから閉弁完了に至るまでの閉弁期間を図8の従来タイプよりも短くでき、圧縮比の細かな調節が可能となる。また、吸気弁2の閉弁時期をコントロールするアクチュエータ6に二重ピストン構造を設けることでアクチュエータ6自体にダンピング機能を持たせているので、図8の従来タイプと比べると構造が簡単となる。
【0052】
本発明の実施形態は上述のものに限定されない。
【0053】
例えば、圧縮比を変化させない通常運転時には、電磁弁22aを常に開いておき、メインピストン11及びサブピストン14を常にスライドフリーとしてもよい。この場合、吸気弁2は、カム3やロッカーアーム5等からなるカム式動弁機構によって通常のエンジンと同様に開閉されることになる。
【0054】
また、圧縮比を低下させる均一予混合燃焼運転時には、吸気弁2が最大リフト位置までカム3によって押し下げられるときより第1所定時間前に電磁弁22aを閉じておき、カム山3aの頂点をローラ7が乗り越えてから第2所定時間経過後に電磁弁22aを開くようにしてもよい。上記第1所定時間は、電磁弁22aを閉じた後に圧力室12内に常時供給される潤滑油によって次第に高められる圧力室12内の圧力が、カム3によって最大リフト位置まで押し下げられた吸気弁2を弁バネ4の力に抗してその最大リフト位置に保持するために必要な圧まで高まる時間に設定される。第2所定時間は、吸気弁2の遅閉により低められる圧縮比を通常の圧縮比よりもどの程度低くするかに応じて設定される。
【0055】
また、圧力室12に供給される流体は、本実施形態のように潤滑油に限られず、燃料でもよく、特にコモンレール式のディーゼルエンジンでは非常に高い圧力の燃料を圧力室12内に導くことができるので、弁バネ4に対抗する圧力を容易に得ることができる。
【0056】
また、吸気弁2と同様にして排気弁を制御するようにしてもよい。
【0057】
また、上記動弁制御装置1は、通常運転と均一予混合燃焼運転とを切り替えるディーゼルエンジンへの適用に限られるものではなく、通常のディーゼルエンジンやガソリンエンジン、更にはターボチャージャやスーパーチャージャで過給されたこれらのエンジンに適用することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の好適実施形態に係る内燃機関の動弁機構の概略図である。
【図2】図1の要部であるアクチュエータの拡大図である。
【図3】上記アクチュエータの作動説明図である(閉弁前期〜中期)。
【図4】上記アクチュエータの作動説明図である(閉弁終期)。
【図5】上記アクチュエータの電磁弁の作動説明図である。
【図6】上記アクチュエータのメインピストン、サブピストンによって排油される油排出量を示す説明図である。
【図7】吸気弁の開閉行程図を示す。
【図8】従来例を示す内燃機関の動弁機構の概略図である。
【符号の説明】
【0059】
1 動弁制御装置
2 機関弁としての吸気弁
3 カム
4 弁バネ
5 ロッカーアーム
6 アクチュエータ
11 メインピストン
11x 頂面
12 圧力室
13 圧力制御手段
22 リリーフ弁
22a 電磁弁
27 制御部
X 受圧面積
Y 受圧面積

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の機関弁の閉弁時期を制御することで圧縮比を変化させる動弁制御装置であって、
内燃機関の回転に同期して回転されるカムと、該カムにより駆動され上記機関弁を弁バネに抗して開弁するロッカーアームと、該ロッカーアームを押さえて上記機関弁を開弁状態に保持すると共にこの押力を消勢して上記機関弁の閉弁時期を制御するアクチュエータとを備え、
該アクチュエータは、上記機関弁の閉弁前期には上記ロッカーアームの速やかな回動を許容すると共に、上記機関弁の閉弁終期には上記ロッカーアームの回動をダンピングするものであることを特徴とする内燃機関の動弁制御装置。
【請求項2】
上記アクチュエータは、上記ロッカーアームに当接しその回動位置を上記機関弁が開弁する位置に保持するためのメインピストンと、該メインピストンの頂面を利用して区画された圧力室と、該圧力室内に流体を供給しその流体圧を保持することで上記メインピストンを上記弁バネの力に抗して押し下げると共に、上記流体圧を解放することで上記メインピストンを上昇させる圧力制御手段と、上記メインピストンの上昇途中にこれと係合して一体となり、上記圧力室の流体に対する受圧面積を上記メインピストンの頂面よりも増大させて上記メインピストンの上昇速度を減速させるサブピストンとを備えた請求項1記載の内燃機関の動弁制御装置。
【請求項3】
上記メインピストン及び上記サブピストンが一体となったときのピストン全体が上記圧力室内の流体に対して作用する受圧面積は、上記メインピストンが上記圧力室内の流体に対して作用する受圧面積よりも大きい請求項2記載の内燃機関の動弁制御装置。
【請求項4】
上記圧力制御手段は、上記圧力室内に作動流体を供給するための逆止弁機能付きの流体導入器と、上記圧力室内の流体の圧力を解放するためのリリーフ弁と、該リリーフ弁の作動時期を制御する制御部とを備えた請求項2又は3記載の内燃機関の動弁制御装置。
【請求項5】
上記内燃機関は、均一予混合燃焼を行うモードを有するディーゼルエンジンであり、上記機関弁の内の吸気弁の閉弁時期を遅らせて圧縮比を下げるようにした請求項1〜4いずれかに記載の内燃機関の動弁制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−152943(P2006−152943A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−345580(P2004−345580)
【出願日】平成16年11月30日(2004.11.30)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)
【Fターム(参考)】